diary/column “mayuge の視点
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富士山単独登頂記 PART2「只管」

【4:20】 狂気

 いつしか森林限界に達し、あたりは樹林帯から砂れき地に変わる。でも相変わらずの急斜面。横を見ると稜線が視界に入るが、結構な角度。富士山ってもっとなだらかな山っていうイメージだったんだけど……。

 そしてさっきより強くなった雨(おーい、なんかホントに大丈夫なのか?)。サイバーショットも出せないな、これじゃ。それにこのぶんじゃ、御来光どころじゃないな……。

 でもこの頃になると、もう自分のやっていることがおかしくてしょうがない。やや明るくなり始めたがまだまだ薄暗い山道を、ハァハァ言いつつ笑顔で登っていく一人の男。どう考えても、気が狂っているとしか言いようがない。

 スタートからもうすぐ2時間。るるぶによれば、もうそろそろ六合目に着いてもいい頃。俺、ペース遅いのかなー?

【4:25】山小屋到着

 ちょっと不安になりつつも、なんとか灯りのついた(人のいそうな)山小屋が見えた。よっしゃー。ちょうど風が最高潮に強い。霧(雲?)がものすごいスピードで流れていく。ここらでひと休みしたいよー。小屋を覗くとガラス戸に案内がはってある。

 「休憩は、御宿泊と同料金の5,000円をいただきます」

 コラ。

 そりゃないだろ? 薄くなった酸素の中、雨風に耐えてここまで辿り着いた旅人を迎える言葉か、それが? もう怒った、入ってやんない。気持ちがないね、ったく。何とか風をしのげる小屋の蔭(気の利いた「のき」なんてない)に身を潜り込ませて、とりあえず荷物をおろす。

 だいぶ汗が冷えてきた。気温11度。ここで上半身裸になりTシャツを着替える。ベストも着込み、レインウェアのパンツも重ね履き。よしよし、だいぶあったかい。

 そういえばこの小屋の名前、「太陽館」って書いてあったな。晴れてれば御来光きれいなんだろーな。るるぶを見ると、あれっ?ここ七合目じゃん。なーんだ、結構来てるんじゃない。ってことは、もうここは標高ほぼ3,000m? しかも2時間50分のところを2時間弱で来たんだ。どうりで息きれる訳だ。

 太陽館の仕打ちも忘れて、素直にうれしい。充実感を味わいつつ、ウィダーinゼリーを飲み干す。こうなれば一服でしょ。でもzippoがなかなか点かない。何度もこすってやっと火が点いたが、おっ、炎が青い。寒さ? 酸素の量? ネタ帳にメモする手もかじかむほど寒い。風で砂が舞ってネタ帳がざらざらする。

 太陽館の宿泊客がトイレのために出てきた。寝ぼけまなこだ。風除けのために、うずくまるように身を潜めるマユゲを見つけてビックリした顔。たいていの人は前日明るいうちに七〜八合目まで登って山小屋に宿泊し、翌朝、御来光を拝んで山頂を目指すらしい。

 しかし、うずくまっている間にも下山していくパーティーがいたりもする。この先大丈夫かなー? さぁーて、どーしよ。

 しばし迷うも、また元気をとり戻す。とりあえず八合目までいこうよ。せっかく来たんだしね。もう「でこランプ」も必要ないくらい明るくなったし。素人判断でこうやって甘く見て遭難するだろうなと思いつつも、冷静に考えて、行けない条件じゃないな、と判断した。

 携帯酸素ボンベを三口吸い込み、4時55分、再び立ち上がる。

【5:40】 本七合目

 七合目を出ると、一歩一歩がだいぶきつくなってきた。酸素も薄いんだろう。一歩が20cm程度しか進めない。でもチョコチョコと足をすすめ、ひたすらに登っていく。苦しくなって立ち止まり振り返ると、たかだか数分で、しかもこのスピードでも結構進むもんだね、と感じる。

 七合目を出て約45分で、本七合目に到着。「本」ってなんだよ、さっきの七合目は「ニセ」っちゅーんか? まあそういうもんなんだと納得し、山小屋「見晴屋」に入る。ここは入っただけでお金をとられそうなこともない。しかも「トン汁」「おしるこ」「コーヒー」など魅力的なメニューが並ぶ。オアシスやのー。しかしここでは「ポカリ」と「軍手」のみ(各300円)ゲットにとどめ、息を整え、先を急ぐことにした。雨と風もだいぶ弱まり、いいコンディションだしね。

 雨も気にならなくなったので、サイバーショット復活。


ふもとには山中湖が見える。

 ここらでマウウテンパーカのフードとはおさらばし、モジモジクン状態を卒業(しかし相変わらずの洟垂れ状態)。この頃から下山する集団とすれ違うようになる。



 「八合目前泊→山頂で御来光」パターンの皆さんだろう。外人の集団がやけに多い。やっぱ「フジヤマ」は彼等にとっても見所なのね。


明るくなると、雲が下にあるのが見えていい気分。

【6:20】 本八合目

 本八合目「江戸屋」にて休憩。


標高にして3,400mくらいか。

 ここは吉田口ルートとの合流地点だけに、こいつらどっから湧いてきたんだ?っていうくらい、下山客ラッシュ。「江戸屋」も大忙し。ここでさっきより気になっていた「しるこ」を注文。「ちょー、たぁーのぉーしぃーみぃー」なんてギャルのようにワクワクしてたんだが、出てきたのはインスタントのカップしるこ。ありゃりゃ。それでもあったかくて、生き返る思い。

 ここのトイレ待ちでふと横を見ると、そこには雪が。



 トイレは各自任意で100円を箱に入れることになっている(処理が大変な場所だからね)。出てきたオヤジは100円入れるどころか、スタスタ去りつつ、途中、親指で片方の鼻の穴を押さえて「ふん」と洟水を出して行きやがった。でも出した洟水を風に乗せて自分にかからないようにするセンスは、なかなかのもの。先ほどから洟垂れ小僧状態のマユゲ、「やるじゃない、オヤジ」と感心。

 さて6時35分、再度出発。

【7:15】 胸突八丁

 さらに強さを増す風のなか、九合目を過ぎ、最後の難所に差し掛かる。胸突八丁とはよく言ったもので、酸素も薄く、勾配も急、とにかく息がきつい。足元の溶岩石に悩まされながらも、よじ登っては休み、の繰り返し。



 上を見れば、もう先がなさそうな感じ。

 もう少しだ。

(登頂なるか!? 次回へつづく)

2000年07月17日(月)

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