お茶の間 de 映画
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2004年07月15日(木) 「人生は、時々晴れ」 とことん丹念で緻密な人間描写に唸る。人生って、完成しないクロスワードを解いてゆくようなものかも。

人生は、時々晴れ【ALL OR NOTHING】2002年英=仏
★2003年ロンドン批評家協会賞 主演女優賞 作品賞
監督・脚本:マイク・リー 
撮影:ディック・ポープ 
編集:レスリー・ウォーカー
音楽:アンドリュー・ディクソン
 
俳優:ティモシー・スポール(タクシー運転手、フィル)
  レスリー・マンヴィル(スーパー店員、フィルの内縁の妻、ペニー)
  アリソン・ガーランド(フィルの娘、老人ホーム清掃員、レイチェル)
  ジェームズ・コーデン(フィルの息子、無職、ローリー)
  ルース・シーン(ペニーの同僚、シングルマザー、モーリーン)
  ヘレン・コーカー(モーリーンの娘、カフェ店員、ドナ)
  ポール・ジェッソン(フィルの同僚、ロン)
  マリオン・ベイリー(ロンの妻、アル中のキャロル)
  サリー・ホーキンス(ロンの娘、無職、サマンサ)
  ダニエル・メイズ(ドナの彼氏、ジェイソン)
  ベン・クロンプトン(サマンサをストーキングする青年、クレイグ)
  キャサリン・ハンター(フランス人の女性客)

ストーリー用ライン



サウス・ロンドン。中流家庭の集合住宅に住む、互いに親しい3つの家族の物語・・・・。

物語の核になるのは、タクシー運転手のフィルの家庭だ。
籍を入れていないが“妻”のペニーは働き者。
スーパーで朝から夕方まで働き、家事を丁寧にこなすが、
精気のない表情。困った亭主と息子にうんざりしている。

娘のレイチェルはややふくよかすぎる容姿にコンプレックスがあるのか、無口で笑顔も見せないが、老人ホームで誠実に清掃の仕事を
こなす、母親似の働き者。同僚の初老の清掃員がしつこくて、少々
滅入っている。
家でも家族に心を閉ざし、自室で読書にふける・・・。

息子(レイチェルの弟)のローリーは、母親の料理をマズいとけなしながらガツガツ食い、1日中、あの巨体で家でゴロゴロしているプー太郎。両親に悪態をつき、手に負えないが、家族の誰も
叱れない・・・。

一家の大黒柱のフィルはというと、勤勉からはほど遠い・・・。
ギャンブルにも女にも無縁で酒もたしなむ程度で出費もないが、
朝は寝たいだけ寝てのんびり出勤し、夕飯時には戻ってくるので、1日の稼ぎも当然微々たるもので、無線のレンタル代も妻や娘に借りる始末。ガソリン代を払うと稼ぎとどっちが多いやら・・・。


フィルの同僚、ロンもしょっちゅう車をぶつけ、年がら年中ブツクサ。妻はアル中でひねもす酒をあおり家で寝転がっている。
娘のサマンサはそんな両親に呆れているが、かといって反面教師にするでもなく、職もなくブラブラ敷地内の手すりにもたれて男の物色・・・・。最近、夜になると彼女を待ち伏せする妙な青年がいる。からかってやろうと思うが、相手が真剣すぎて怖い・・・。

ペニーと一緒にスーパーで働くシングルマザーのモーリーンも働き者だ。スーパーのレジ係とアイロンがけの内職で、女手ひとつで娘を年頃にまで育てあげたというのに、娘のドナは反抗的。
暴力をふるうボーイフレンドに溺れているドナを母は心配するが・・・。

狭い家の中、どんよりと漂う閉塞感・・・。
冷え切った家族が奏でる不協和音・・・・・・・。

そんなある日。
フィルはフランス人の上品なマダムを遠距離で乗せた。
長い道中、ぽつりぽつりと家族のことを話し、マダムを劇場で下ろすと、フィルは無線も携帯電話も電源を切ってしまい、ある場所を
目指した・・・。
まさか、音信不通になっている間に、家族に大変なことが起きているとも知らずに・・・!!



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コメント用ライン


人生を撮る監督、巨匠マイク・リー。
今回は惜しくもカンヌはノミネートにとどまったが、代表作「秘密と嘘」よりもさらに家族、人生の意味に踏み込んだ本作、かなり
見応えのある作品に仕上がっている。

いつもの如く、脚本あれど台本はなし。
半年の期間をかけ、俳優たちの即興を撮り重ね、編集する方法だ。

本作も、二時間を超える長さで、アクションも刺激的な官能シーンも衝撃的な大事件もなく、淡々と丹念に粒立てて人間を描いてゆくので、ドキドキする展開をお好みの方にはオススメできない。

締めくくりの美意識も、英国映画らしさとフランス資本らしさ(≒ハリウッド的白黒バッチリハッピーエンドではない)が滲み出ている。

人はみな孤独だ。
明日死んでしまうかもしれないし、何もないかもしれない。
だが、孤独なのは事実でも、それを否定して家族愛や友愛に生きるか、孤独だと思い自らをよりいっそう深く暗い孤独の淵へと
追いやって寂しく生きるかは、選べる。

ペニーがクロスワードを薄暗がりで1人で解いている。
レイチェルも1人で本を読んでいる。

家族は、結末のわからない物語を毎日皆で綴ってゆく長大な本のようだし、人生は、謎だらけで役に立たないヒントに困り果てる、完成も正解も用意されていないクロスワードパズルのようかもしれない。
でも、対話を重ねて一文字ずつ埋めてゆけば、ぴったりはまり、
気持ちよくクロスする瞬間を幾たびも味わえるのじゃないだろうか・・・。


フィルはぽつりぽつりと、初対面の客に話す。
こんなに、家族にも最近話してない・・・。
否、家族には言えないから・・・。

“愛はまるで蛇口から漏れる水の雫だ
バケツに雫がたまっても
独りでは愛のバケツは満たせない
もし心が離れたら・・・・”


フィルのバケツには、今、愛は入っていない。
不安と渇望と不満が底のほうでよどんでいる。

海にそれを流しにいく。

きれいになったバケツは、まだ穴だらけ。
これじゃ愛も入らない。
家族というのは、互いのバケツの穴をふさぎあって、
愛を溢れるほど注ぎあえたらいい。

フィルの家庭も、モーリーンの家庭も、穴をふさぎはじめたところで、まだまだ、これから大変だし時間がかかる。
新しい穴だって開くかもしれない。
時間はかかるだろう。
でも、諦めたらザルのように穴だらけの心を抱えて生きねばならない。
きっと彼らは諦めない。
そう思う。

ロンの家庭はもっと深刻だ。
マイク・リー監督は甘くない。
タイトルの「ALL OR NOTHING」はそれも意味しているのだろう。

フィルがぶらさげてくる、鮮やかに黄色い、バナナの房。
太いの、小さいの、少しいたんでるの。
根本で繋がっているバナナが、病室で朝の光をうけて微笑んでいる。





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