交換から
「お客様からで、婦人靴担当の方、と言うことです」
担当者はユタカ君だが、あいにく本日はお休み。電話に出てしまった時点で話は聞かなくてはならない。
厄介なクレームでなければ良いのだけど、と恐る恐る電話を換わる。
「もしもし、お電話換わりました」
「女の人はお墓参りにどんな靴を履いて行けばいいですかね?」
「黒の喪服のようなものを着ていかれるのでしたら、黒のパンプスを履いていかれるのがいいかと思いますが?」
商品の問い合わせでもなく、クレームでもないらしい。
ただ、男性からの問い合わせって言うのがちょっと気にかかった。
「パンプスって言うとヒールの高さはどれくらい?」
「そうですねぇ・・・あまり高すぎないものがよいかと・・・。5センチくらいまでなら大丈夫じゃないでしょうか?」
当り障りのないところを答えておく。
「例えば、その靴で運転することはできる?」
「ハイ?運転ですか?ええ、できると思いますけど・・・」
「おねえさんはそう言うパンプス履いて実際に運転したりするんですか?」
頭の中は、「?」でいっぱいである。
「まあ、私自身はあまりそう言った靴での運転はしないですけども、5センチくらいまでなら充分運転はできると思いますよ」
この話はいったい、どこへ行き付くのであろう?
「じゃあ、車をとめるとき、サイドミラーはどうしてる?」
・・・ハイ??????
ここまで来るともう通常の会話ではないことに気が付く。これがもし、自宅の電話であれば、
「何のことでしょう?ガチャン」
で済むのだけど、一応仕事の範疇にあって、対応しなければならないと思い、話を続ける。
「サイドミラーは停めたら倒しますが?」
「どんなときでも?必ず?すぐに戻るときでも?」
「すぐに運転する状況であればそのままかもしれませんけども、通常はきちんと倒しますよ」
「倒し忘れたら?どうするの?」
「倒し忘れることはほとんどないので、分かりませんが?」
「バックで停める時は?どうするの?自分の駐車場停めるときは?」
「車を動かす限りは起こしておきますよ?」
そのあと、なにやらもごもごと話し、いい加減めんどくさくなったのと、本当に聞き取り辛かったのとで、
「申し訳ありません、お電話遠いんですが?」
と強めの口調で言うと、電話は切れてしまった。
そばで聞いていたK嬢が
「何?セクハラ電話?」
と聞くので、
「さあ・・・?セクハラとは微妙に違うと思うのですけど・・・」
と話の内容をかいつまんで話す。
よく、お客を装って、
「ナプキン何使ってるの?」
というような電話がかかることがあるらしい。
むしろそう言ったはっきりと意図を持った質問があるのであれば、あたしとしても対処のしようもあったであろうが、この電話は、あたしの過去の職歴を知っているかのような、終始車の運転にこだわった質問が続き、そのことの方がかえって気持ち悪かったくらいで、いったい彼は何をしたかったのか、謎のまま、あたしの頭の中は「?」でいっぱいになった。
あたしのマイは非通知です。