日々雑感
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2003年03月21日(金) おでん屋のセンセイ

友人とおでん屋。時間が早いせいもあって、お客はカウンター席に座るおじいさん一人きりである。

その隣り、大鍋の真ん前の席に着く。とりあえず瓶ビール。今月いっぱいで終わりだという大根や焼豆腐、玉子、練り物などひとしきり食べ、熱燗に移る頃には、外は暗く、店内は満員。

熱燗専用の銅鍋を見ながら「うちに欲しい」と話していると、「これ使うと味が全然違うんだよね」と、隣りのおじいさん。その後、美味い燗のつけ方やおすすめの地酒など教えてくれたのだが、しずかな声で訥々と話しつつ、どこか可笑しみもあるその語り口がいい。「徳川時代」(「江戸時代」ではなく、そう言った)からこのあたりに住んでいる家の出で生粋の江戸っ子だといい、背筋はぴんと伸びている。

ときどき、一人でふらりとこの店にやってきては、いくつかのおでん種を肴にぬる燗をちびちびやるのだという。お酌までしてもらいながら、川上弘美の『センセイの鞄』の「センセイ」がもうちょっと年をとると、こんな感じかもしれないと考える。

帰りがけ、先に席を立ったこちら二人に軽く手をふり、おじいさんはまた一人に戻る。店内の薄明かりの中に溶け込んで、湯気の向こう、おちょこを手にする姿が見えた。


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