日々雑感
DiaryINDEXbacknext


2002年08月02日(金) 『月のひつじ』

午後、あたりが暗くなったかと思うと、ものすごい勢いで雨が降る。それに雷。空全体が光って、すぐにドンと音が鳴る。近いのだ。

駅のホーム、景色は薄暗く沈んでいる。線路越しに見える熱帯魚屋の水槽の蛍光灯が、稲妻と同じ青白さで浮かびあがる。信号の赤や青。ネオン。暗くなった中に、灯りの色だけ鮮やかに際立つ。

映画『月のひつじ』を観る。1969年7月、アポロ11号の月面着陸の映像を受信したのは、オーストラリアの小さな町にあるアンテナだった。そのアンテナに関わった人々の奮闘ぶりや、町に起こる騒動について描いた作品。

アンテナを守り、大仕事をなしとげようとする4人の男たち。職人気質のリーダーがいたり、メンバー同士の反目や和解があったり、何度も訪れる危機を一致団結して乗り越えたり、オーストラリア版「プロジェクトX」といった趣。それでも、肩に力入りすぎず、思わず笑ってしまう場面もいくつもあって、「よい映画だったなあ」としみじみ余韻を味わえるような作品だった。

ただ羊の群れだけが点在する、だだっ広い平原の真ん中に立つアンテナはほんとうに美しい。古い遺跡を見るときの気持ちとどこか似ている。真っ暗な夜の闇の中に、その灯りだけがぽつんと、けれどもしっかりと浮かんでいる。アンテナは宇宙を向いている。

ずっと昔から、人は夜空を見上げてきたのだ。人の眼差しもアンテナも、等しく宇宙を見つめている。彼方に何があるのか知りたい。そして宇宙空間の前に立つ自分。科学を極めようとする思いと、自然の前で佇むときの思いと、根っこは同じなのだと思う。遥かなるものに対する畏怖。

夜、雨が上がった外は嘘のように涼しい。ずっと暑い日がつづいていたので「これでよいのか」と思ってしまう。雨上がりの草の匂いがする。夏の夜、外に出て蚊にさされながら夜空を見上げていたときの匂いだ。


ブリラン |MAILHomePage