日記

2004年05月25日(火) 『ハピネス・アプフェル・ソーイング』



あー…どんどん文体が変わってゆきます。安定しないなあ。
しかもどんどん質も落ちてゆく。ギャアー。


こんばんわ、そんな状態でもやっぱり書いてみました。もえぎです。
まあこの突発自給自足企画は、そもそもリハビリ要素が強いですしね。
そんなもんアップすんなやとか思うのですがなにせリハビリなので(意味不明)
ああ、BGMが塊フォルテッシモ魂なのがそんなにいけないのか。
12メートルなんて無理です王様ー。ごめんね王子ー。

そんなこんなでもう適当としか思えないお題です。
本日はパイでいってみましょう。
この10のお題は、タイトル全部わざとカタカナにしてます。
軽薄な感じでいいでしょう?
でも、パラフィン紙みたいにしたいのが本当の願い。
ぱりぱりした、パラフィン紙のあの感じ……。
そしてエレハイムはお裁縫は下手説を唱えてみたりする。
料理は上手だけどお裁縫は壊滅的なのを希望。いかがでしょうー。
お題、残り五つ。折り返し地点。





『ハピネス・アプフェル・ソーイング』

 陶器のバターケースが周囲の様子をうかがうように、注意深く置かれる。そろりそろり、音も立てない動作に続くは、これまた用心しいしい、まっしろたまご。小麦粉は警戒を怠ることなく、とさりと置かれ、お砂糖もまた然り。くちびるにひとさし指を当てるようにして奏でられるひそひそ話の音楽も、つまびくのはやっぱり彼女の細い指。
 こそこそかたこん、そろそろこからん。まわりにはだあれもいない?気配だってありゃしない??次々と手を動かしながらも、意識を張り巡らせるのは忘れない。紫苑を灯すあでやかな瞳は、姿の見えないだれかさんに激しく神経をとがらせているようだった。
 きゅ、とくっきりとした意思をしめすくちびるはきつくむすばれたままで。笑みなんていったいどこへいてしまったのやら。ぴりぴり、ちりちり。ひとりでひたすら空気を張り詰めさせている間にも、たくさんのものはいっぱいいっぱい並んでゆく。そしてついにはずらりと全員整列が完了した。
 三角巾もエプロンも当然装備完了、迎撃せよ!つやつやきらめく銀色の器具たちも、今日は何やらうふふと含み笑いを浮かべて肩を揺らしているように見えてしまうのは、たちの悪い幻視か。そりゃ、やる気はまんまん、ただちょっと…なだけ。よし、いざと覚悟を決めておそるおそる腕まくりしたら。そしたら。
 さて、本日のご予定は?

「…今日は何のパイにしようかしら」
「アップルパイがいい」

 あれだけぎんぎんに警戒態勢をとっていたのに、その声はまさにふいうちで降ってきた。あわてて振り返る彼女の視線の先には、器用にも、二階へと続く階段のため、二階の床に空けられた穴からぶらりとさかさまになって挙手までしているフェイの姿があった。長い黒髪がだらりと地面に向かっているのも、いっこうに気にした様子はなく、彼はいたって平然とエリィのひとりごとめいた呟きに答えた。
 一方の彼女は、気配まで消していた彼にほんのりとあきれながらも、二階に潜むという戦法に気付かなかった自分にかなり頭を抱えていた。

「気配を消されたのはおいといても、どうして二階にいるの気付かなかったのかしら…」
「無理ないと思うぞ。俺、玄関通らずに外から上にあがったから」
「階段使いなさい階段!」
「いや、ちょっと登りたい気分で」
「どんな気分よいったい」
「それよりも、エリィどうしてそんなに俺を警戒してたんだ?」
「こないだのガトーショコラみたいにやっかいなのリクエストされちゃ困るもの」
「あれは俺だって苦労したし喧嘩両成敗だったじゃないか!」
「とにかく用心にこしたことはないでしょ!…って、フェイ?」
「……あ、頭、血、のぼってきた。お、おりる……」

 会話の間ずっとさかさまにぶらさがり続けて、すっかりあたまがふらくらしてきたらしい彼は、ちょっとよたよたしながらも、ぱ、と宙に身をひるがえすとくるりと体勢を整え、すたりと一階の床に着地した。片膝を立てて座り込んだままの彼に、だいじょうぶ?と彼女が近づきひょいと腰をかがめる。さっきまでのうろんな眼差しは消え去って、すっかり心配そのものな様子で、まだちょっと赤みのめだつフェイの顔をそっとのぞきこむ。彼は、ああへいきへいきと軽く手を振り、相手を安心させるようやわらかく笑みを浮かべてみせた。魔法のようなその微笑に、ああへいきね、と彼女もつられてゆるやかに微笑む。
 ふたりして、よっこらせと立ち上がると、先ほど中断された会話を再開させる。

「で?俺のリクエストはまたやっかいだったのか?」
「いいえ。いっそ、あんまりにスタンダードだったから、逆にびっくりしちゃったのよ」
「……あのな、ひとをそんな奇をてらうのが趣味みたいに」
「ちがうちがう。スタンダードだけれど、ちょっと時季はずれだと思ってびっくりしたの」
「ああ。成る程」
「りんごはもうとうにおしまいよ。今なら―…チェリーパイが妥当じゃない?」
「うん、りんごは終わりだ。でも、だからなんだ」
「?どういう……」
 彼女が小首をかしげ、真意を問おうとしたやさき。彼はにっといたずらっこの笑みを浮かべ、半分ひらいたままの彼女のくちびるにそっとひとさし指を押し当てたかと思うと、疾風もかくやとばかりの速度でだあっ!と地下室へなだれこむように駆け込んでいった。その勢いがあまりにすごいものだから、まるで地面にむかって飛び込んでゆくようで。くらい地下室へ彼の姿が消えるとき、その黒髪が彗星の尾のように、流線形に闇色の軌跡を描いた。
 ぽかんとしている彼女が、ぱちり・ぱちり、ふたつみっつまばたきをしたかと思うと、地下からにゅうっと小麦色の腕が生えてきた。続いて、軽くけほこほむせている笑顔と、ちょっとほこりのついた漆黒のポニーテールも。
 その手にあるのは。

 ほんのりうっすら、二本か三本、走るしわ。つやつやとしていたはずの照りも、ややなりをひそめてしまった、ちょっぴしくたびれ気味のりんごがみっつ。このまま皮をむいて食べるに、たぶん果肉が少しすかすかしてしまっていることだろう。つまりおいしくともなんともない。渋々捨ててしまうくらいならば、季節はずれの春りんご、あまくあまく、くつくつ煮込んでしまえばおいしくなるのだ。

「これならコンポートに最適だろ?」
 くたびれりんごを掲げてみせて、いたずらっぽく笑ってみせる。だから彼女もそれにつられて。
「ええ、最適だわ」
 くすりと微笑み、桜色のくちびるはほのかにりんごを帯びたやさしい弓になる。


 パイ生地はあらかじめ、彼女が一生懸命こねておいた。型にしいて、あまいりんごを横たわらせたら、今度は、さらさら溶けないパン粉の雪。シナモンは彼が嫌いだからあえていれないようにする。そして表面の網目を作るのは、手先の器用な彼の担当で。リボンみたいな生地を使って丁寧に、きれいに、編んでゆく。エリィはどうもこの作業だけは苦手で、自分でやるとどうしてもこんぐらがってしまうのだった。ゆえに、ここだけはいつもフェイのお仕事。なんとかその業を盗めないものかしらと、目を皿にして観察する彼女の前で、彼は笑みを宿したままするすると見事にパイを編み上げてゆく。
 ほどよいおこげのパイが焼けるまで、ふたりはオーガンディのリボンを使って、アップルパイの網目シミュレート大会をくりひろげてみた。が。彼女の前に出来上がったのはなんかもうわけわからん蔦おいしげる密林だった。

 苦笑する彼の前で、ふきげんいっぱい口もめいっぱいの彼女が、ふてくされたまま乱暴にパイをほおばってみせても、誰もそれをいさめることは出来ないのに違いない。
 ま。あまいあまいパイに、垂直な機嫌にもすぐさま花が咲き零れますけれどね。



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