日記

2004年05月24日(月) 『ショコラーデメカニカルクロニクル』



えらく久し振りの日記になってしまいましたが生きています。
なんとか落ち着いてきた感じです。ええ、元気です。


こんばんわ、ダメ管理人で申し訳ありません。もえぎです。
前置きもなにもなくいきなりぷっつり日記を途絶えやがりまして。
いや、ご覧になってらっしゃる方がそうおられるとは思えませんけれど。
それでも自分の管理能力のなさにうんざりします。おのれ。
実家にちょっと帰っていたり、実家パソが使いたくても使えなかったり。
そんなこんなですっかり久し振りになってしまいました。
で、まったく脈絡もなくお題です。本日はケーキです。
んー…かなり書きたかった割にはどうも消化不良ですね。
BGMが塊フォルテッシモ魂だからいけないんでしょうか(笑)
王子大好きだー!亜土さん最高ー!!
ともあれやる気のないお題のケーキ。これでお題は残り六つ。
ちょっと呪文みたいなタイトルになりました。



『ショコラーデメカニカルクロニクル』

 陶器のバターケースがやわらかい音を立てて置かれる。ことり、というそれに続くは、かたん、と響くまっしろたまご。小麦粉はどすりと力強く、お砂糖もまたどかりと威厳たっぷりいかめしく。次々と色んな音楽をつむぎだすのは彼女の細い指。
 ことかたとたん、どすぽすからん。薄い微笑は曇ることもなく、ただうきうきと指を動かしたくさんのものをいっぱいいっぱい並べてゆく。やわくゆるめられた柳眉の向こう、聡明な脳裏には、今からなすべきわくわくの計画がめまぐるしくシミュレートされているのだろう。
 三角巾もエプロンも装備完了、臨戦態勢!ぴかぴか誇らしげにかがやく銀色の器具たちは、その瞬間をいまかいまかと待ち望んでいるよう。やる気はまんまん、いそいそ腕まくりしたら。そしたら。
 さて、本日のご予定は?

「何のケーキを作ろうかしら?」
「ガトーショコラ!!」

 零れた彼女の呟きに対し、待ってましたとばかりに答えたのはもちろん彼。キッチンに立つエリィのすぐ側にある椅子に、うしろまえに腰掛けて。力いっぱい、身を乗り出して、言いたくて言いたくてたまらなかったのか、片手を限界まで伸ばしてびしりと挙手までして。勢いあまってそのまま椅子を倒してしまいそうな態勢で。めずらしく、彼女を早く早くと急かすようにその応えを待っている。それだけ彼の口にしたそのあまい名前は、フェイにとってかなり待望の燦然たるものなのかもしれない。穏やかな漆黒からすぐさまわくわくがあふれだしてしまいそうで、まるで、こどもそのもの。
 なのに。
「……何でまたガトーショコラなの」
「……何だよその見るからに嫌そうな顔は」
 ぎ、ぎ、ぎぃ、と油のきれたブリキのおもちゃみたいな動きで振り返った彼女の表情は、果てしなく限りなく大変に分かりやすく明らかにイヤそうだった。せっかくの微笑もすっかりなりをひそめてどこへやら、眉間にしわ寄せて、今にもぷぅとほっぺふくらませて、目に見えて不平の意を表しそう。それくらいイヤそう。
 けれど当然のことながら、この反応に彼が賛成を表明するわけもない。こちらもむ、と軽くむくれた様子で反論を示す。せっかく楽しみにしていたのに、さらりとマタドールめいてかわされてしまったのだから。しかも反撃つき。ブーイングのように恨みがましげな視線を送ってみても、ちっとも彼女はこたえた風ではない。

「他のケーキはどうなの?『ケーキ』って一口に言ったってたくさんあるのに」
「ガトーショコラがいい」
「だから、他にも種類いっぱいあるでしょ!ロールケーキに、パウンドケーキに」
「ベイクドチーズ、レアチーズ。ホットケーキもあるし、バターケーキもあるな」
「そうそう。いちごのショートケーキ、キャロットケーキもフルーツケーキも」
「ローズマリーのパンプキンケーキ、アップルソース・パンケーキ」
「バウムクーヘンも忘れないでね。ええと、それから―」
「ティラミス、ブラウニー、ブッシュ・ド・ノエル、シフォン・ニサーナ!」
「そうっ。ケーキはたくさんあるのよ、さあ、何がいい?」
「ガトーショコラ。」
「どうしてそう頑ななのー!」
「そっちこそ何でそんなに嫌がるんだ!」

 この後もしばらく、ふたりでやいのやいのと繰り広げて、結局フェイがものすごくお手伝いをするということで渋々彼女が折れた。少しふくれたエレハイムが嫌々ながらもしっかりチョコレートとバターを湯せんにかけている後ろで、希望の通った彼が満面の笑みでにこにこしている。が、ここで彼女はほんのりいじわるっぽい星をきらりと一筋瞳に流すと、唇をにまりとこどものようにゆるめた。
 しかえししかえし。策謀発動。
「はい、フェイ。これお願いね」
「卵白?ああ、メレンゲか」
 とん、と渡されたボウルの中にはとろとろ卵白。いっしょに泡だて器もそえられているものだから、何をせよというのかは、言われなくても見るだけで予想はつく。とてもご機嫌な彼はそのお手伝い要請を断るわけもなく、快く引き受けると、はなうたまじりにかき混ぜ始める。こしゃかしゃゆう小気味良い音を感じながら彼女は彼にくるりと背を向け、別の作業に取り掛かる。口元に咲く、くすくす零れる笑みに気付かれないよう、きちんと背中を向けたまま。

 数十分後。

「え、エリィ…あの……」
「なあに、フェイ?」
「メレンゲ、まだ泡立てるのか……?」
「ええ。まだまだね。」
「手、痛くなってきた……」
「でも、まだまだよ。」
「ハンドミキサーは……?」
「こないだね、壊れたの。しばらくエメラダが代わりしてくれてたんだけれど、今留守だし」
「……エリィ」
「なあに?」
「……俺が悪かったです」
「よろしい」
 へろへろになりながらぽつりと呟く彼に向けて、体中から太陽の残滓が零れ落ちるような非の打ち所のない大輪の笑顔を咲かせて、彼女はにっこり泡だて器をバトンタッチした。

 いくら体力のある彼でも、長時間の慣れない動きで、すっかり手首の感覚がなくなってしまった。してやったりとくすくす笑う彼女のつむぎだす音を浴びながら、ようやく自由の身となった手首をぶんぶか振り、疲れきった溜め息ひとつ。やたらと重々しいそれがおかしくってならないらしく、また彼女が笑う。彼のほうはこうなるともはや乾いた笑いしか出ないが。
 結局メレンゲは彼女の繊細な指先によって、見事につん、ときれいなツノを立てた。心の底から感心しつつ残りの作業を見守っていた彼の視線が、型に納まった生地がばたんとオーブンに吸い込まれた瞬間、エリィはくるんと振り返りにっこり微笑む。がしゃこんと銀色の器具を彼に手渡しつつ。
「はい、飾り付けの生クリーム泡立てるの、お願いね」

 念願のガトーショコラは見事な焼き上がりで、はちみつ入りの絶妙な甘さで、待望な上に疲労もあったのだから、そりゃもうひたすらにおいしかった。でもあんだけ苦労してつくったにもかかわらず、消えうせてしまうまでは、本当にあっというま。おやつの時間に精も魂も使い果たして世の無常を感じてしまったらしいフェイは、どうにも物足りなげだった。お行儀悪く、口にフォークくわえたまんまぷらぷらさせている彼に、彼女はまたくすくすと笑う。けれど今度はからかいやいじわるを含んだものではなくて、たまらないくらいの愛しさを含んだものだった。
 ゆるく微笑んだ彼女は、自分のぶんのガトーショコラをひときれ、彼の口にいれてあげた。


 数日後、先生が小型のモーターを手に入れたとふたりに声をかけた。小さすぎて何の動力に用いるべきか悩んでしまい、何を作ろうかと悩んでいると打ち明けると、ふたりは顔を見合わせることさえなく、同時に身を乗り出して同時に顔を突き出した。
「「ハンドミキサー!!」」


 更に数日後。その日のおやつは手首の痛くならなかったガトーショコラでしたとさ。



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