| 2004年05月11日(火) |
『レイニーキャンディードロップス』 |
どうしたことか。むちゃくちゃ筆ノリが良いのです。久方ぶりです。 こんなにもだかだか書けるのなんて、本当、久し振りでびっくり……。
こんばんわ、まずはひとつめ。もえぎです。 早速ですが昨夜ほざいていた10のお題、一個目です。 見直しもなにもしていない上一時間で仕上げるという極悪っぷりです。 けれど予定通り、三千字以内でおさまって、ほっとしていたり。 ともあれひとつめ。お題は『キャンディ』。残るお題は九つです。
……の前に、ひとつだけ。昨日の日記を訂正。 『罵られるのも慣れました』 ごめんなさい、嘘です。まだ、いまだ、慣れません。 それでは突発殴り書き企画へゴー(最低)
『レイニーキャンディードロップス』
がらがらがら。ざらざらざら。 大粒の宝石のようにして、けれども玉にはけして似つかわしくない音をがなりたてて零れ落ちるそれらを、彼女は興味深げにしげしげと眺めていた。ぱちくりとした紫苑の水面は、さもおもしろげに笑っていて。カラフルな滝を操る彼もまた同じような眼差しをしている。 「これが、飴なの?」 「ああ。ミドリが分けてくれたんだけど―…結構な量だな。今更気付いた」 ごがん。最後の一粒が袋から脱出して、用意していたおおぶりの白い皿に、随分と元気な音を響かせた。小さな卓を挟んで向かい合うふたりの間に、どっかと鎮座したあまい岩山はかなり峻厳で、なかなかの威容をもって佇んでいる。その名はおそらくどんぐりやま。 初めて見るらしい様子で、一番手近にあった巨大な飴玉をひとつ、つまんでみる。くるみよりもまだふたまわりは大きなあめだまおばけは、エレハイムが今まで全く見知ったことのない物体だった。だからゆっくりと、彼女は観察してみる。
いかにも体に悪そうな、過激な彩りは、思わず笑ってしまうくらいアナーキーなカラーリング。表面にびっしりと霜のようにまとわりついているのは、一粒一粒が判別のつくくらい目の荒い砂糖の塊。 それになにより、この大きさときたら!ぽん、と気軽に口へ放り込もうもなら、半刻は解放してくれないのではなかろうか。ごろごろ舌の上を転がそうにも、余りにおっきなものだから、あるだけで口の中がいっぱいになってしまう。片側のほっぺに寄せようものなら、すぐさまちょっとした子リス体験が出来てしまう。 まったく、こんな飴玉なんて聞いたことがないわ!だから彼女はついつい笑い出してしまった。
「すごいあめだまね!ふたりでやっつけるには、かなりの強敵だわ」 「全くだ。日持ちがするもので良かったよ」 くすくす言いながら漏らすエリィに、彼は困ったような、嬉しいような、笑みを浮かべる。そしてその弱り顔がまた、とても似合ってしまっているものだから、また彼女はくすくすゆってしまう。けれど、ふと。冗談みたいな霊峰を構成する巌の中にある何かに気付き、白い指を伸ばすと、きれいに整えられた爪が砂糖にまみれるのもいとわず、えい、と一粒引っ張り出した。その所為で、お山の一角にがらりと小規模な雪崩が発生した。 その音に、どうしたのかと目をやってくるフェイに向き合うでなく、彼女はそれをつまんだまま顔を上げ、窓から差し込む光に透かしてみる。 「ねえ、フェイ。これ、エメラダみたい」 にこりと微笑み、くすぐったげな微笑を、いたずらっこのように斜めに投げかけてくる。 その指先にあるのは、あまったるいメロンのエメラルド色。 彼も、心得たとばかりに微笑み返した。
「じゃあ、このほんのり赤味を帯びたあんずはマルーだな」 「あえかなピンクのももはマリアね」 「バルトは…果てしなく真っ赤なりんごか?」 「ううん、バルトにはこの明るすぎるカナリアイエローのレモンを推したいわ」 「ビリーは冷たくはじける水縹のサイダーで」 「天真爛漫にはなやかな紅のいちごはセラフィータかしらね」 「シグルドはどれだろう…銀色が一番似合うんだけど、無いしな」 「これはどう?いっとうあまい魔法みたいなチョコレート」 「うん、あたりだ。同じ系統だけど、これは誰になる?」 「なめらかな絹めいたココアね。穏やかでレトロでふるいかおり…ゼファー様だわ!」 「深海の群青なソーダはケルビナか」 「それじゃあカナリアイエローのレモンはトロネ?」 「レモンはバルトで使っちゃっただろ」 「む。ならバルト取り消し。バルトりんごでいいわ、レモンはトロネよ」 「照れくさそうに頬を桜色にするさくらんぼはドミニアかな」 「しゅわしゅわ策謀めいてたゆたうコーラは先生ね」 「上品な紫水晶のぶどうはメイソン卿で決まりだ」 「渋くて一筋縄でいかない苔色お抹茶はリコでお願い」 「これは」
山積みあめだま、お行儀悪くちょっとおもちゃにして。いきなり言葉をひたりと止めて、彼が彼女の前に突き出したものは。やんちゃな漆黒が静かに奉げ、紫苑の瞳に映りこむものは。 「エリィだな」 太陽の祝福浴びてさんさんと輝く花嫁の果実。暁の紅にして日輪の化身ともなるそれを、彼はそっと、ぽかんとした彼女のくちびるに転がしこんだ。つい口にしてしまい、おおきなそれを受け取った瞬間、ぱ、と鮮やかなものがエリィを彩った。 あまずっぱいオレンジと、その花を咲かせた彼女の微笑と。 「じゃあフェイはこれ」 舌の上を巨大あめだまころころ中なので、ややろれつが回らないまま。彼女はお返しとばかりに、彼にあめだまをおみまいした。かなりの早業だったので、それがどのような彩りを宿しているのか、すぐさま彼はわからなかった。ただ、なんだか白っぽいように感じたので、フェイは壮絶に嫌な予感がした。 あめだまで白色といえば薄荷である。でも、彼はあのすうすうする感覚がどうにも好きではなくて、いくら微量であっても含まれていようものならチョコレートケーキだろうがクッキーだろうが手を出さない。なのに今、彼女が笑顔で文字通りくらわせてきたあめだまは彩度を持たない。ならば――
が。
「……カルピス?」 ぐるごる口の中を転がしてみる。ほっぺはとっくにげっ歯類。おそるおそる味わう彼に、彼女はしてやったりと鮮やかに笑う。 「フェイ、薄荷嫌いだものね」 とっくに心得ていますとも、とまた笑う。してやられた彼もつられて笑う。そうして、ふたりで声を合わせて高らかに笑いあった。 まだまだそびえるマウント・どんぐりを前に、ふたりはずっところころとあめだまを転がし続ける。たいした会話も交わさず、時折くすくすと声を零しあうだけ。昼下がりの陽光の中、のんびりとしたあまい静寂だけが漂って、かき乱すものなど何一つ存在しなかった。 と。ふと、彼が思い出したように呟いた。ころころ。ころころ。転がしながら。 それに。彼女はなんでもないように囁いた。ころころ。ころころ。転がしながら。
「そういえば、キャンディとドロップって、どう違うんだろうな」 「別に構わないのじゃない?あまくておいしいのだから」
それもそうだと、ふたりがまた笑いあったのも。またころころ。転がしながら。
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