井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2025年12月21日(日) おさるのベン、マーティ・シュプリーム、水の中で息をする-彼女でも彼でもなく-、ウィキッド永遠の約束、ランニング・マン、ヒグマ!!

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『おさるのベン』“Primate”
2017年10月1日付題名紹介『IT/イット “それ”が見えた
ら、終わり。』の製作総指揮者とパラマウント・ピクチャー
ズが手を組んで、日常生活で起こりうる恐怖を背景に描いた
ホラー作品。
映画の始まりは檻の中の獣の診察に来た獣医。彼は檻に入っ
て診察を始めようとするが、突然狂暴になった獣に襲われ、
惨殺される。しかしその状況は周囲には不知のままになって
しまう。
そして主人公は久しぶりにハワイの実家に帰ってきた若い女
性。その崖に面したプールのある邸宅とも呼べる実家には聾
者の父親と妹、それに手話や読み上げ機能付きタブレットで
会話も可能なチンパンジーがいた。
ところがそのチンパンジーが突然狂いだす。その腕力は人間
をはるかに上回り、主人公らはプールに追い詰められる。そ
こは狂犬病に罹り水を怖がるチンパンジーからは安全地帯だ
ったが…。絶体絶命の恐怖が彼女らを襲う。

脚本と監督は、2017年公開『海底47m』などのヨハネス・ロ
バーツ。シチュエーション・ホラーが得意の監督の新境地の
ようだ。なお脚本は『海底47m』にも協力したアーネスト・
リエラとの共同になっている。
出演はジョニー・セコイヤ、ギア・ハンター、ビクトリア・
ワイアント、ジェシカ・アレクサンダー、ベンジャミン・チ
ェン、チャーリー・マン、ティエン・シモン。それに2021年
『コーダ あいのうた』で聾者男優初のアカデミー賞®助演
賞に輝いたトロイ・コッツァー。
実は試写の前に宣伝担当者から洋画興業の窮状が訴えられ、
本作では「狂犬病」をキーワードに何とかムーヴメントを起
こしたいということだった。「狂犬病」と言うとスティーヴ
ン・キング原作で1984年映画化『クジョー』を思い出すが、
確かに恐怖心を煽るには良さそうだ。
実際に僕自身が10年程前にタイ・バンコクに行ったときに、
当時は狂犬病汚染地帯だった市内で夜間に前後を犬に囲まれ
て怖い思いをした経験があり、それがペットの発病では怖さ
も大きい。現実感もあるし、これは上手く行って欲しいと思
うものだ。
それともう一つ、1979年にジョージ・A・ロメロ監督の『ゾ
ンビ』を地方の映画館で観た際に女子高生のグループと一緒
になり、彼女らがキャーキャー言いながら映画を観ていた記
憶がある。
SNSもなかった時代にどういう状況で観に来たのか判らな
いが、案外女子高生とホラーは相性が良いのかもしれない。
こんなことも考えて上手くターゲットを絞ったキャンペーン
をして貰いたいものだ。

公開は2026年2月20日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東和ピクチャーズの招待で試写
を観て投稿するものです。

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
                   “Marty Supreme”
2014年の東京国際映画祭でグランプリを受賞したジョシュ・
サフディ監督が2018年1月28日付題名紹介『君の名前で僕を
呼んで』などのティモシー・シャラメを主演に迎え、1952年
の時代背景で卓球の腕を武器に世界に羽ばたこうとする若者
の姿を描いた作品。
主人公はニューヨークの小さな靴屋で働く若者。口が巧みで
社長からは店を任せるとまで言われるが、彼には別の目標が
あった。それは腕を磨いた卓球で世界に羽ばたくこと。そこ
で店の金をくすねてロンドンの世界大会に出向くが…。
そんな彼の前に強敵が立ちはだかる。それは敗戦後の渡航禁
止が解けたばかりの日本からやってきたエンドウと言う寡黙
な選手だった。そして勝負に屈して失意で帰国した彼を待っ
ていたのは、強盗の容疑と恋人の妊娠。
この事態に主人公はロンドンで知り合った富豪の夫妻に取り
入り、次の世界大会が開かれるトウキョウに向かおうとする
が。彼の前にはさらに様々な難題が立ち塞がる。果たして彼
は日本で雪辱を果たせるか?

共演は、映画出演は久々のアカデミー賞®女優グウィネス・
パルトロウと、近年急速に地位を確立しつつあるとされる若
手のオデッサ・アザイオン。他に投資家としても知られるケ
ヴィン・オレアリー、ラッパーのタイラー・オコンマ。
さらに映画監督でもあるアベル・フェレーラ、ゴールデング
ローブ2度受賞のフラン・ドレシャー。そして2025デフリン
ピックで卓球男子団体戦銅メダリストの川口功人がライヴァ
ルの日本人選手として登場する。
映画の前半での主人公は正しく最低の人物で、特にアウシュ
ヴィッツのサヴァイヴァーを揶揄した後で「僕もユダヤ人だ
けどね」と言い放つ辺りは、これは反ユダヤ思想の映画かと
思うくらいのものだった。
それが徐々にスポーツの道に目覚めて行き、最後はアスリー
トとしての成長を見せる。それが上野恩賜公園に特設された
という見事に時代考証されたオープンセットで完璧に描き切
られた作品だ。
実は監督のグランプリ受賞作は、2014年11月2日付でも書い
たように僕には鑑賞に堪えられなかったもの。しかしその時
のある種の嫌味な感じが本作では活かされたのかな。特に映
画の前半では見事と言えるものだった。
正に映画の表現力を侮ってはいけないというところだろう。
それに駐留軍米人の振る小旗から日本人観客の衣装まで、時
代考証の見事さも特筆できる作品だ。そして日本人選手の名
前がエンドウと言うのも嬉しかった。

公開は2026年3月13日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷
他にて全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オの招待で試写を観て投稿するものです。

『水の中で息をする-彼女でも彼でもなく-』
                 “Holding Back Tide”
日本では秋冬の味覚として珍重される牡蠣は、最初は全てが
オスとして誕生するが、環境に応じて一部がメスに変態して
子孫を残す。そんな牡蠣の生態をクイアに擬えて描いたハイ
パードキュメンタリー。
主にニューヨーク州を流れるハドソン川が注ぐニューヨーク
湾は全長 500マイル(約 800��)に及ぶ海岸線を有し、かつて
は世界有数の牡蠣の生産地として知られていた。しかしその
牡蠣は乱獲などによって今や絶滅の危機にあるという。
そんな牡蠣は食用とされるだけでなく、水の浄化やその貝殻
の堆積により天然の防波堤が形成されて海岸線の浸食や洪水
の防止などの効果もあり、さらにその貝殻が新たな牡蠣の繁
殖の場を提供する効果もあるとされる。
そこで近年その牡蠣を復活させる運動として「2035年までに
10億個の牡蠣を海に戻す」ことを目標としたBillion Oyster
Project(BOP)が進められ、早くも水質改善の効果が報告
されているということだ。
という牡蠣を取り巻く状況が、黒人奴隷が牡蠣の殻剥きに従
事してるアーカイヴの映像や、アスリートから牡蠣の養殖師
に転身した元女子プロバスケットボールのスター選手のイン
タヴューなどと共に描かれて行く。

監督は、2016年に“La Frontierra Chingada”と言う米墨国
境に取材したドキュメンタリー作品でデビューしているエミ
リー・パッカー。以降は短編ドキュメンタリーを主に制作し
て、本作はデビュー作以来の長編作品のようだ。
出演はドキュメンタリーパートに元女子プロバスケットボー
ル選手のスー・ウィックス。フィクションパートにはパフォ
ーマーのドラゴンフライ、アーシア・テイラー・パタースン
らが登場する。
自分のニューヨークの引き出しの中にはグランドセントラル
のオイスターバーというのがあって、現地に行ったことはな
いが以前は東京にもそこが由来の生牡蠣を食べさせる店など
もあったと記憶している。
でもそれが絶滅に瀕していたようだ。しかしそこからの復活
が実現してきているようで、そんなことが知れたのも価値の
ある作品だった。今年は日本の牡蠣も大変そうだが、他山の
石にはしない方が良いのかもしれない。
ただしクイアとの関連性は良くは判らなかったかな。まあそ
ういう見方もあるのだろうけど…。特にアメリカのスポーツ
界はそれで揺れているようだし。

公開は2026年1月31日より、東京地区は渋谷のシアター・イ
メージフォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ブライトホース・フィルムの招
待で試写を観て投稿するものです。

『ウィキッド永遠の約束』“Wicked: For Good”
2024年12月紹介『ウィキッドふたりの魔女』の後編。前編の
最後で袂を分かったふたりの魔女の関係が、ドロシーの到着
によって新たな展開を迎える。
悪い魔女(ウィキッド)エルファバは人々の前から姿を消し、
森の中でひっそりと暮らしていたが、その力を怖れるオズの
魔法使いたちは彼女を追い立てるためマンチキンや動物たち
に迫害を加え始める。
一方、オズの国の新たな顔となった良き魔女グリンダには王
子との婚礼が決まり、壮麗な結婚式が準備されていたが、悪
い魔女を怖れるマダム・モリブは嵐を引き起こしてエルファ
バを亡き者にしようと企んでいた。
そして嵐の中を飛んできた家が悪い魔女を押しつぶす。しか
しそこにはオズの国を司るある秘密が隠されていた。果たし
てグリンダとエルファバはその秘密を暴いて、オズの国に平
穏を取り戻すことがことができるのか…。
L・フランク・ボームの原作を表裏にした物語が展開されて
行く。

出演は、前作に引き続いてのシンシア・エリヴォとアリアナ
・グランデ。他にジョナサン・ベイリー、イーサン・スレイ
ター、マリッサ・ボーディ。
さらにボーウェン・ヤン、ブロンウィン・ジェームズ、キア
ラ・セトル、アンヂ・ナイマン、コートニー・メイ・ブリッ
グス。そしてミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールドブラムらが
脇を固めている。
監督も前作に続けてジョン・M・チュウが担当した。
前作では最初にドロシーの到着が描かれていたが、本作では
中盤でそのシーンが再登場して作品が2部作になっている理
由が明確になっているかな。そこからは正に原作の裏話で、
その点の面白さも味わえる作品だ。
ただ原作の悪い魔女が本当はどうだったのかという展開は、
描きたい主旨は理解するけどなかなか表現は難しい。特に死
んだ魔女の復活は、この展開ではちょっと安易だったかな。
結末ももっと違うものであって欲しかった気もした。
とは言え小説の原作があって舞台版があっての本作の成立と
いうことではこれが精一杯っだたのかもしれない。でも何か
物足りなさが残る感じもした。

公開は2026年3月6日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東宝東和の招待で試写を観て投
稿するものです。

『ランニング・マン』“The Running Man”
2017年10月1日付題名紹介『IT/イット “それ”が見えた
ら、終わり。』などの原作者スティーヴン・キングが1982年
にリチャード・バックマンの名義で発表した小説を、キング
の製作総指揮、2014年2月紹介『ワールズ・エンド』などの
エドガー・ライト脚本、監督で映画化した作品。
物語の背景は貧富の差が限りなく開いた近未来のアメリカ。
その世界で主人公は下層階級に属する男性。彼は実直に生き
てきたが、同僚を助けようとして執った行動で勤務先の不興
を買い職場を追われてしまう。
一方その世界では、命懸けで一攫千金を狙えるテレビのリア
リティショウが人気を博していた。それは30日間逃げ続けれ
ば大富豪をも超える賞金が得られるというものだが、失敗す
れば即死。しかも今まで成功者は出ていなかった。
そんな危険な賭けに今までは目を呉れない主人公だったが、
子供の病が悪化し、遂に決断を下さなくてはならなくなる。
そしてオーディションを突破した主人公は街に放たれ、その
後をハンターたちが追い始めるが…。

出演は、2003年9月紹介『スパイキッズ3−D:ゲームオー
バー』が映画デビュー作というグレン・パウエルと、2012年
5月紹介『リンカーン弁護士』などのウィリアム・H・メイ
シー。
さらに2008年5月紹介『落下の王国』などのリー・ペイス、
2011年4月紹介『スコット・ピルグリム』などのマイケル・
セラ、2021年『コーダ あいのうた』などのエミリア・ジョ
ーンズ。
他にダニエル・エズラ、ジェイミー・ローソン、ショーン・
ヘイ、ケイティ・オブライアン、コールマン・ドミンゴ。そ
して2016年1月紹介『ボーダーライン』などのジョシュ・ブ
ローリンらが脇を固めている。
殺人ゲームをテレビで実況中継するという話では、アメリカ
のSF作家ロバート・シェクリーが1953年に発表した小説を
1965年にマルチェロ・マストロヤンニ主演で映画化した『華
麗なる殺人』“La decima vittima”が知られるが。
さらにシェクリーが1958年発表して1983年にフランスで映画
化“Le Prix du Danger”された小説「危険の報酬」では、
正しく生死を掛けた逃亡ゲームが描かれているそうだ。
そして本作の原作も1987年にアーノルド・シュワルツェネッ
ガー主演で一度映画化『バトルランナー』されており、本作
はそのリメイクでもある。
そんな定番とも言える物語だが、今回の映画化では民衆の熱
狂ぶりが特に強調して描かれており、それはSNS時代の何
にでも構わず尻馬に乗る現代の風潮を表現しているようで、
今、正にそんな時代が追いついた作品とも言えそうだ。

公開は2026年1月30日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東和ピクチャーズの招待で試写
を観て投稿するものです。
       *         *
 最後に速報で、10月12日に紹介し11月9日に公開延期を報
告した内藤瑛亮脚本・監督、鈴木福主演の映画『ヒグマ!!』
が、2026年1月23日から一般公開されることになった。
 この作品は以前にも書いたように決しておちゃらけたもの
ではなく、社会性を持って真面に制作された映画だが。時勢
柄というか、SNS界隈では不謹慎な投稿で映画を観てもい
ない連中からバッシングを浴びていた。
 しかし情勢から考えてそのバッシングには当らないという
判断が出されたのか、ようやく公開ができる運びとなったよ
うだ。僕自身は映画を観て、出演者の頑張りも伝わってくる
作品だったので、公開決定を嬉しく思うものだ。
 ただこの作品は殊更ヒグマを悪く描いているものなので、
公開後はおバカな動物愛護派から文句が出るかもしれない。
しかしその辺は頑張って映画を守って欲しいものだ。
 とにかく映画が公開されることにはほっとした。来年はい
い年になりそうだ。



2025年12月14日(日) たしかにあった幻、在日ミャンマー人−わたしたちの自由−、ブゴニア、木挽町のあだ討ち

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『たしかにあった幻』
カンヌなど国内外の映画祭で多数の受賞に輝き、関西万博で
はシニアアドバイザーなども務めた河�鹹照�が、自身による
オリジナル脚本では8年ぶりに監督した生と死を見詰めるド
ラマ作品。
主人公は神戸にある病院の小児科で移植コーディネーターの
サポートスタッフとして働くフランス人女性。西欧では通常
の医療として普及する臓器移植だが、日本では様々な障壁が
ありジレンマにも陥っている。
その彼女は1年前に屋久島・屋久杉の前で1人の日本人男性
と出会っており、その男性が突然訪ねて来て神戸の住まいで
同棲生活が始まる。その一方で病院ではドナーを待ち切れな
かった小児患者の死などにも立ち会うことになる。
そんな出来事が続く中で男性が姿を消してしまう。それから
1年後、彼女が依頼した調査で男性は7年前に家族から失踪
届けが出されており、そのままでは法律上の死亡が確定して
しまう状況にあることが判明する。
そして病院では1人の患者にドナーが現れ、手術の準備が開
始される。そこではドナーの家族や患者本人の意思確認など
の手続きがコーディネーターらによって粛々と進められ…。
生と死の物語が刻まれて行く。

出演は2023年6月紹介『アウシュヴィッツの生還者』などの
ヴィッキー・クリープスと、2025年9月紹介『そこにきみは
いて』などの寛一郎。他に尾野真千子、北村一輝、永瀬正敏
と子役の中野翠咲、中村旺士郎。
さらに土屋陽翔、吉年羽響、山村憲之介、亀田佳明、光祈、
林泰文。また中川龍太郎、岡本玲、松尾翠、早織、小島聖、
平原テツ、利重剛、中嶋朋子らが脇を固めている。
作中では実に様々な生と死の形が描かれている。それは生き
ることを渇望しながらの死であったり、その死によって残さ
れた心臓が移植によって生命を引き継いでゆく話だったり。
そこでは日本での移植医療の在り方も問われる。
それに対する失踪者への死亡の宣言、そこには全く別のドラ
マも隠されている。実はタイトルなどからはちょっとファン
タスティックな展開も期待したが、そんな気分は吹っ飛ぶほ
どの重大なテーマが描かれていた。

正に河�鹹照�の真骨頂という感じの作品だった。
公開は2026年2月6日より、東京地区はテアトル新宿他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オの招待で試写を観て投稿するものです。

『在日ミャンマー人−わたしたちの自由−』
2022年10月紹介『愛国の告白−沈黙を破る・Part 2−』など
の土井敏邦監督が、2013年に発表した『異国に生きる−日本
の中のビルマ人』の14年後を描いたドキュメンタリー。
実は2013年の作品も観ていたが紹介は割愛したものだ。その
理由は定かでないが、この頃は年間 560本程度を観ており、
軍事政権には反対の立場を執るものの当時は軟化の傾向で、
自分の中で書くものが見つからなかったのだろう。
その一方で日本との関連性が弱い印象だったこともあったと
思う。それが本作では一気に状況が変わってしまった。これ
は全くもって日本の問題であり、しかもその状況は一切改善
される目途もないどころか、さらに悪化もしそうだ。
そんな状況が3部構成、総上映時間 171分に亙って描かれて
行く。その第1部は前作と同様に日本で運動している人々が
描かれ、第2部では前作以降の民主化と、その際の一時帰国
や民主化によるミャンマーの発展などが描かれる。
それが第3部では一転して2021年2月1日の国軍によるクー
デターが描かれ、それに対する日本の関与が明白に語られる
のだ。それは第2部にも描かれた日本からの援助などによる
国内の発展の裏で進められていた。
そしてそれは日本人として看過できないものになっている。
さらにはミャンマー国軍の将校を日本に留学させ、防衛大学
校で教育したなどの事実も提示され、正に日本の意向でクー
デターが起きたかのような印象も描かれる。
因に日本ではミャンマー人の多くは難民として認められてい
るようだ。その点はクルド人問題とも異なる。それは日本が
クーデター政権を認めていないためでもあるが、その実態は
見事に隠されている。その狡猾さも恐れ入った
いやはや、昨今の台湾有事論争の裏側もこんなことに通じて
いるのかな。そんなことも目の当たりにする感じだった。こ
れは日本人の全員が観てしっかりと考えるべき作品だろう。
右傾化の中で何が起きているかが判る。

まったくもって考えさせられる。恐ろしくもあり素晴らしい
作品だった。
公開は2026年1月30日からUPLINK吉祥寺で先行上映の後、東
京地区は2月14日より新宿K's cinema他にて全国順次ロード
ショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社きろくびとの招待で試写を観て
投稿するものです。

『ブゴニア』“Bugonia”
2025年9月紹介『エディントンへようこそ』などのアリ・ア
スターと韓国CJE&Mが手を組んで、2018年12月16日付題
名紹介『女王陛下のお気に入り』などのヨルゴス・ランティ
モス監督と共に、2003年の韓国映画『地球を守れ!』を英語
版リメイクした作品。
登場するのは地元の企業で下働きをしながら従弟と共に養蜂
業を営む男。そんな従兄弟同士の2人が蜜蜂の異常行動から
ある陰謀論に憑りつかれる。それは宇宙人の指金で、人類は
滅亡に導かれているというものだ。
そんな2人はある経緯から彼が勤める会社の女社長が宇宙人
と決めつけ、彼女を誘拐して宇宙人の船に乗り込み、その首
謀者に直談判することを思いつく。そして女社長を拉致し、
通信手段とされる髪を丸刈りにして監禁するが…。
百戦錬磨の女社長と陰謀論に憑りつかれた男2人のし烈な戦
いが開幕する。

出演は『女王陛下…』にも出演して本作の製作も務めるエマ
・ストーンと、2024年7月紹介『シビル・ウォーアメリカ最
後の日』などのジェシー・プレモス。他にエイダン・デルビ
ス、スタブロス・ハルキアス、アリシア・シルバーストーン
らが脇を固めている。
因に撮影監督は『女王陛下…』などのロビー・ライアンで、
撮影には35�丱侫�ルムのヴィスタヴィジョンカメラが使用さ
れているそうだ。披露試写はTOHOシネマズ日本橋で行われた
が、これは大スクリーンで見たい作品だ。
反ワクチンからトランプ政権、兵庫県知事選挙まで世界中が
陰謀論に踊らされている中で、それらを見事に笑い飛ばした
快作と言える作品だろう。しかもそれをオスカー2度受賞の
エマ・ストーンが巧みに体現して見せる。
すでに発表されたゴールデングローブ賞で、いずれもミュー
ジカル/コメディ部門の最優秀作品賞、最優秀主演女優賞、
最優秀主演男優賞にノミネートされているのも理解できると
ころだ。
ただ脚本に関しては少し詰めが甘いかな。特に結末に関して
はあまり衝撃には感じなかったし、ここにもう一段のどんで
ん返しが欲しかった感じもする。映像ではデスクに置かれた
地球儀らしきものにも興味を惹かれた。
まあ最近の映画ファンならこれでも満足するのかもしれない
が、ちょっとストレート過ぎる感じで、もう一捻り、二捻り
が欲しかったものだ。

公開は2026年2月13日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷
他にて全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ギャガの招待で試写を観て投稿
するものです。

『木挽町のあだ討ち』
1977年生まれの時代小説作家・永井紗耶子が2023年に出版し
て山本周五郎賞、直木三十五賞をW受賞(史上3人目)し、同
年のミステリ・ランキングでも軒並みベスト10入りを果たし
た江戸・芝居小屋が舞台の小説の映画化。
事の発端は1年半前、江戸木挽町の芝居小屋・森田座の前で
仇討が行われる。それは「仮名手本忠臣蔵」の千穐楽が跳ね
た直後で、雪積もる中で見事成し遂げられた仇討には数百人
のやじ馬が目撃者となった。
それから1年半後、1人の田舎侍が森田座の前に現れる。そ
の侍は森田座の呼び込みをやっていた木戸芸者に話し掛け、
故あって仇討の詳細が知りたいと切り出す。その風情に木戸
芸者は森田座に招じ入れるが…。
木戸芸者や立師、元女形の衣装方、小道具方の夫婦など森田
座の裏方たちの話の中から、徐々に仇討の詳細が明らかにな
って行くが、そこには田舎侍が抱える問題も隠されていた。
果たしてあだ討ちの真相とは?

出演は柄本佑、渡辺謙、長尾謙杜、北村一輝。さらに瀬戸康
史、滝藤賢一、山口馬木也、愛希れいか、イモトアヤコ、野
村周平、高橋和也、正名僕蔵。そして石橋蓮司、沢口靖子ら
が脇を固めている。
脚本と監督は2005年8月紹介『大停電の夜に』などの源孝志
による作品だ。
物語としては謎解きミステリーなのだけれど、謎解き自体は
ほぼ予想通りに進んでしまうものの、そこにいろいろな人情
劇や江戸時代の藩政治の問題などが絡み合って、実に飽きさ
せない展開になっている。
さらに当時の芝居小屋の舞台裏のようなものも描かれていて
そこも面白く楽しめた。因に木挽町は現在の歌舞伎座の立つ
辺りの旧名。と言うことは最後に先の川までというのは現在
は首都高になっている築地川なのかな。
物語の背景になっている美濃半紙は子供時代に習字を習って
いた頃にお世話になっていたものだし。そんな身近な感覚に
も惹かれるものがあり、本当に楽しめる作品だった。登場人
物の殆んどが身分を捨てた者たちと言うのも良い。
仇討の殺陣も見事に決まっており、それを芸達者たちが巧み
に仕上げている作品だ。

公開は2026年2月27日日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。



2025年12月07日(日) ロストランズ闇を狩る者、この本を盗む者は

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ロストランズ闇を狩る者』“In the Lost Lands”
『バイオハザード』シリーズなどの監督ポール・W・S・ア
ンダースンと主演ミラ・ジョヴォヴィッチの夫婦が、ドラマ
『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作者ジョージ・R・R・
マーティンの短編小説を映画化したポストアポカリプスが背
景のダークファンタシー。
ミラが演じるのはグレイ・アリスと呼ばれる魔女。彼女には
相手の瞳を見ることでその意識を奪い取る能力があり、それ
によって幾多の危機を逃れてきた。そんな彼女には頼まれた
ことを断れないという使命も授かっている。
それにより多くの人を救ってきたが、そのため教会を中心と
する施政者には目の敵とされており、特に教会の主教らから
は執拗に追われる身となっていた。それでも危機は逃れ続け
てきたが…。
そんな彼女に施政者の頂点である王女が願い事を伝える。そ
れはロストランズと呼ばれる荒野に暮らす変化者を連れてく
るというものだった。ところが王女の警備官からはその願い
を叶えないでくれという願いも受け入れてしまう。
こうしてグレイ・アリスは案内人ボイスの手を借りてロスト
ランズへの旅を開始するが、その後を教会の主教らが鉄道を
使い軍隊を引き連れて追い始める。こうして荒廃した荒野を
巡るアドヴェンチャーが始まる。

共演は、2014年8月紹介『ガーディアンズ・オブ・ギャラク
シー』などのデイヴ・バウティスタ。他にアーリー・ジョバ
ー、アマラ・オケレケ、フレイザー・ジェームズらが脇を固
めている。
人類を襲った災厄には原子炉が絡むようで、映画の途中には
原子炉を格納するサイロなども出てくる。このサイロの風景
は日本ではあまりお目に掛れないが、海外ではこれが常識の
ようで外国映画ではよく象徴的に出てくるものだ。
この他には大規模な露天掘りの跡と思われる風景や廃線まが
いの鉄路を疾走する蒸気機関車など、マニアなら思わずニヤ
リとするような風景が惜しげもなく次々に登場する。それも
嬉しくなる作品だった。
その一方で本作はミラ・ジョヴォヴィッチのアクションも見
事な作品で、40代最後の年のアクションとは到底思えないも
の。もちろんAIなども総動員のものなのだろうが、その完
成度にも感動した。

公開は2026年1月1日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷
他にて全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オの招待で試写を観て投稿するものです。

『この本を盗む者は』
直木賞、大藪賞の候補になったこともある作家の深緑野分が
2021年に発表して本屋大賞にノミネートされた同名小説を、
監督/コンテ/演出:福岡大生、構成/脚本:中西やすひろ、
キャラクターデザイン/作画監督:黒澤桂子でアニメーショ
ン映画化した作品。
主人公は書籍の街とされる読長町に暮らす高校一年生。彼女
の曽祖父が愛書家で巨大な書庫「御倉館」を建てたことから
そこに本好きや書店が集まり、その街ができたということの
ようだ。しかし彼女自身は本が好きではなかった。
ところがある日、御倉館から本が盗まれるという事件が起き
る。そしてその結果、読長町とその住人が物語の世界に飲み
込まれてしまう。それはその本に掛けられた呪い=“ブック
カース”のせいだった。
そんな中で主人公は物語には取り込まれず、そこに現れた謎
の少女と共に本を取り返す使命を負うことになる。それは本
に書かれた物語の中から謎を解く鍵を見つけ出す冒険の旅で
もあった。

声優は片岡凜、田牧そら。他に東山奈央、諏訪部順一、伊藤
静、土屋神葉、千葉繁、鈴木崚汰、上田麗奈、関智一、高橋
李依。さらに大地葉、小市眞琴、花守ゆみり、上田瞳、石見
舞菜香、福山潤、朴璐美らが脇を固めている。
物語は複数の本の世界を縦断して行くもので、それはSF/
ファンタシーであったりハードボイルドミステリーであった
り、様々なジャンルの世界が展開されて行く。それはその手
の本好きには面白い展開だ。
その一方で本に掛けられた呪いというのは、自分が以前には
それなりの蔵書を持っていてその本を貸し出して戻ってこな
かった経験を持つ者としては、呪いを掛けたくなる気持ちも
理解できるものだ。
そんな訳で愛書家、蔵書家には興味を惹かれる話かな。でも
全体が1時間半足らずの作品と言うのはちょっと物足りなか
ったかな。特に主人公の父親の話辺りはもう少し詳しく描い
て欲しかった気はした。
つまり父親と呪いとの間には明らかに何らかの関連があった
はずで、そこに祖母の関りなどはもっとドラマがあったはず
なのだ。アクションがしっかりしていた分、そちらにも少し
時間を割いて欲しかったものだ。
とは言え映画全体の印象は可愛らしさかな。それは上映時間
の短さもそうだが、物語の詰めの甘さなどにも感じてしまっ
た。それらを加味して幼い映画ファンの入門作品として手頃
な作品のようにも感じられた。

公開は12月26日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社角川 ANIMATIONの招待で試写を
観て投稿するものです。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二