| 2025年11月30日(日) |
ぼくの名前はラワン、モディリアーニ!、センチメンタル・バリュー |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ぼくの名前はラワン』“Name Me Lawand” イラク出身のろう(聾)者の少年が家族と共に難民としてイギ リスに渡り、イギリス手話(BSL)を学んで成長して行く姿 を描いたドキュメンタリー。 主人公のラワンはイラク・クルディスタンの生まれ。生まれ つき耳の聞こえないラワンは他人とのコミュニケーションが できず、常に家族の介助の許で成長してきた。しかしイスラ ムの国家では未来は閉ざされている。 そこでラワンの一家は西欧に渡ることを決意し、難民キャン プなどでの苦しい生活の末に支援者を得、危険なボートでの 航海などを経てイギリスに渡ることに成功する。そしてラワ ンは初めて手話を学ぶ。 それは最初はコミュニケーションの不慣れなどからなかなか 上手く行かなかったが、同じくろう(聾)者の指導者などにも 恵まれ、徐々に心が開かれて行く。ところがそこに一家の難 民申請を見直す通達が届き、国外退去の可能性も出る。 この時ラワンが取った手段は…。 監督は、2010年に北米のオオカミ生息地を巡るドキュメンタ リーで監督デビューし、2014年にはインディーズのミュージ シャンにスポットを当てた作品がロンドン映画祭などにも出 品されたというエドワード・ラブレース。 ラブレース監督はイギリスに到着した直後に撮られた1枚の 写真でラワン一家のことを知り、2019年からラワンが通って いたダービー王立聾学校の協力の許で彼の姿を撮り始めたと いうものだ。 折しもイギリスでは手話を言語として認めることを定めた法 律の制定(2022年に成立)などが絡み、正にろう(聾)者の権利 の獲得などの流れの中で映画は語られている。それは当然の 権利として認められるべきものだ。 ただラワンがクルド人であったことが様々な動きの中でどう 影響したのか。特に後半語られる国外退去の問題がどう絡ん でいるのかが少し曖昧に感じられた。もちろん本作のメイン はろう(聾)者の少年の話で、そこはそれでいいのだが。 日本では社会問題化しているクルド人の立場がイギリスでは どのように対処されているのか、本作とは別にその辺りが気 になってしまった。本作の結末がそれに絡んでもいるので、 余計に気になってしまったものだ。 公開は2026年1月9日より、東京地区は新宿武蔵野館、シネ スイッチ銀座他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社スターキャットアルバトロス・ フィルムの招待で試写を観て投稿するものです。
『モディリアーニ!』 “Modi:Three Days on the Wing of Madness” 1916年のパリ・モンマルトルを舞台に画家モディリアーニの 運命を変えた3日間を、1997年製作『ブレイブ』以来となる ジョニー・デップの監督で描いた作品。 第一次世界大戦下、時折遠くからの爆音も聞こえるパリ市街 だが、そこに暮らす若き芸術家たちはそれぞれの目標に向か って切磋琢磨していた。そんな中にモリディアーニは同じく 画家のモーリス・ユトリロらと共にいた。 ところがちょっとしたトラブルからモリディアーニは警察に 追われる身となり、一方のユトリロは軍隊に志願して生活の 安定を得ようとする。そんな中でモリディアーニはアメリカ 人コレクター来訪の情報を得る。 そこでモリディアーニはそのコレクターに面会して自らを認 めて貰おうと画策するが…。その3日間で画家の運命が回転 して行く。 出演は2019年11月紹介『9人の翻訳家』などのリッカルド・ スカマルチョ。他にアントニア・デスプラ、ブリュノ・グエ リ、ライアン・マクパーランド。 さらに2012年2月紹介『裏切りのサーカス』などのスティー ブン・グレアム、2005年『マリア・カラス』などのルイーザ ・ラニエリ。そしてアル・パチーノらが脇を固めている。 元々はアクターズ・スタジオで作られた舞台劇があり、その 主演にはパチーノが想定されていたそうだがそれは実現しな かった。その後1997年にデップと共演した際にパチーノは自 らの監督でデップに主演を打診したが、これも頓挫。 そんな計画が2017年に今度はパチーノからデップに監督して 貰いたいと話が持ち掛けられた。それはデップの芸術家とし ての才能を見込んでの打診だったとされる。そこからさらに COVID-19禍などを経て映画は完成されたものだ。 そんなデップに渡された脚本がどんなものかは判らないが、 完成された作品は見事に映画を反映したものになっている。 そこには正に先週紹介した『チャップリン』など20世紀初頭 の映画へのオマージュが溢れているものだ。 正直に言って先週の作品との制作の時系列は判らないが、こ のような作品を2週連続で見られたことにも喜びを感じてし まった。改めてデップが映画スターであることを再認識でき る作品だった。 公開は2026年1月16日より、東京地区はTOHOシネマズシャン テ他にて全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社ロングライド、ノッカの招待で 試写を観て投稿するものです。
『センチメンタル・バリュー』“Sentimental Value” 2016年10月紹介『母の残像』などのヨアキム・トリアー監督 の新作で2025年第78回カンヌ国際映画祭で史上最長とされる スタンディングオベーションを受け、忖度無しのグランプリ を受賞した作品。 主人公は開演前は極度に緊張しながらも、舞台に登場すれば 圧倒的な演技力を見せる舞台女優。その女優の母親が亡くな り、彼女は妹と共にお別れパーティを取り仕切る。しかし彼 女には家庭持ちの妹ほどの采配はできないようだ。 そのパーティに1人の男性が現れる。その男性は姉妹が幼い 頃に家を出て行った父親で、彼は各地で回顧上映が行われる ほどの世界的な映画監督だったが、その父親を彼女は許して いなかった。 そんな父親が彼女に出演のオファーを行う。その脚本は彼女 を想定して書いたもので、撮影は彼女らが育った家で行うと いう。その家の所有権は父親のままで、彼女は撮影を止めら れないが、出演は拒否、脚本も開くことなく突き返す。 そのためその映画は、ハリウッドから若手女優を招いて撮影 されることになるが…。回顧上映では姉妹が幼い頃に出演し たとされる映像や、一方でハリウッド女優出演の現在の撮影 風景なども織り込みながら、家族の物語が描かれる。 出演は、監督の前作『わたしは最悪。』でも主演のレナーテ ・レインスベと、2018年2月11日付題名紹介『男と女、モン トーク岬で』などのステラン・スカルスガルド。他に配信作 品に多く出演のインガ・イブスドッテル・リッレオース。そ してエル・ファニングらが脇を固めている。 監督はラース・フォン・トリアー監督の遠戚にあたるという ことで、登場する年配の監督が誰を想定しているのかは勘ぐ ってしまうところもあるが、互いにライヴァル視もありそう な親子の関係は普遍的なものでもある。 そんな共感もカンヌでのスタンディングオベーションやグラ ンプリの所以でもあるのだろう。おそらく自分もその場にい たら立っていただろうと思える作品だ。そんな巧みな物語が 展開される。 それはヨーロッパ人俳優の見事な演技力にも支えられている ものだが、そこに放り込まれたエル・ファニングも素晴らし く、特に作中での本読みのシーンでは動作を封じられた読む だけの演技には驚かされた。 ファニングは2011年6月紹介『スーパー8』のことから注目 してきた女優だが、これは本格的な大物になっていきそうな 雰囲気だ。 公開は2026年2月20日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷 他にて全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社NOROSHI ギャガの招待で試写を 観て投稿するものです。
| 2025年11月23日(日) |
ペリリュー−楽園のゲルニカ−、チャップリン、アグリーシスター可愛いあの娘は醜いわたし |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ペリリュー−楽園のゲルニカ−』 1975年生まれの漫画家武田一義が、太平洋戦争末期のパラオ 諸島ペリリュー島で起きた日米の闘いを描いた全11巻に及ぶ 戦争マンガのアニメーション映画化。 主人公は南国の島に駐屯する21歳の日本兵士。漫画家志望の 彼は戦友たちの姿を優しく描き楽しませていていたが、そん な彼にある任務が与えられる。それは戦死した兵士の最期の 勇姿を遺族に書き送る「功績係」という仕事だった。 そして昭和19年9月15日、駐屯する1万人の日本軍に対し、 4万人以上とされるアメリカ軍の猛攻が始まる。その闘いに 元々勝ち目はなかったが、軍司令部はそれまでの玉砕戦術に 替えて本土攻撃を遅らせるための持久戦を命じる。 こうして島中に張り巡らされたトンネルや地下壕を使って神 出鬼没のゲリラ戦が開始される。それは夜陰に乗じて米軍の 糧食を盗み出すなど、戦闘とはかけ離れた戦いだったが…。 戦況的には殆んど無意味な作戦が続けられて行く。 脚本は1985年『プロゴルファー猿』や1989年からの『らんま 1/2 熱闘篇』などの監督を手掛ける西村ジュンジと原作者が 共同で執筆し、本作の監督は2017年『妖怪ウォッチ』シリー ズなどの久慈悟郎が長編デビューを飾っている。 声優は板垣李光人と中村倫也。他に天野宏郷、藤井雄太、茂 木たかまさ、三上瑛士。またキヨサク作詞、Kazuyo Suzuki 作曲による主題歌「奇跡のようなこと」を上白石萌音が歌唱 している。 キャラクターは原作の漫画に倣って3頭身にデフォルメされ ており、現実の戦闘シーンは想起されないように描かれてい る。従って戦争マニアが喜ぶような闘いのかっこよさなどは 皆無と言える作品だ。 これによって全く無意味だった闘いの中でただ疲弊するだけ の兵士の姿が印象的に描かれているとも言える。それは戦争 を反省してその無意味さを伝える意味では正しい描き方と言 えるものだろう。 その一方で襲来するアメリカ軍の掲げる星条旗の星が整列し たものであることには感心した。星条旗の星は合衆国の州の 数を表しており、現行のものはアラスカとハワイが州になっ た1960年代以降のもの。太平洋戦争当時とは違っている。 それがしっかり描かれているのは、戦争を正しく理解してい る証しとも言えそうだ。 公開は12月5日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す るものです。
『チャップリン』“Chaplin: Spirit of the Tramp” 20世紀最高の映画スターと呼べるチャーリー・チャップリン の姿を、その息子であるマイケル・チャップリンの目を通し てさらに孫娘であるカルメン・チャップリンの監督で描いた チャップリン家初の公認ドキュメンタリー。 チャーリーは1889年の生まれ、マイケルは1943年に再婚した ウーナとの間の第2子(第1子はジェラルディン)ということ でチャーリーが60歳近くなっての子供のようだ。従って父親 はすでに世界的な名優だった。 そんな訳でマイケルには常に父親の影が覆いかぶさることに なるが、そんな息子の目を通して名優の姿が描かれる。そこ には多分年を取っての子供であることの負い目もあったのだ ろうが、それをカヴァーしようとする思いも感じられる。 その一方で、チャーリーには 1/8のロマの血が流れていたと いう事実も紹介され、それはチャーリーが36歳の時に伝えら れたとされるが、それ以前から気付いていた節も観られる。 そんな名優の出自も含めた生涯が描かれる。 出演はマイケル、ジェラルディンに加えて第4子のヴィクト リア、第6子のジェーン、第8子のクリストファーらが父親 の思い出を語る。 さらにロマ関係で俳優のジョニー・デップ、監督エミール・ クリストリッツァ、トニー・ガトリフ、ダンサーのファルキ ートら。他に俳優のクレア・ブルーム、伝記作家デヴィッド ・ロビンソンらも登場して名優の姿が描かれる。 そして『ニューヨークの王様』や『キッド』『街の灯』『ラ イムライト』『独裁者』『黄金狂時代』などの名場面も挿入 される作品だ。 それにしても挿入されたそれぞれの作品を観ると、それは本 作の監督の意図も反映されているとは思うが、かなり政治的 な側面も持つことが判る。それはアメリカへの再入国禁止の 処置にも象徴されるが、その意志は明確なものだ。 因に本作の副題は「Tramp の精神」だが、チャーリーは今の アメリカ大統領をどんな目で見ているのかな? そんなこと も考えてしまった。まあTramp には浮浪者以外の意味合いも あるようだが。 公開は12月19日より、東京地区は角川シネマ有楽町他にて全 国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社アンプラグドの招待で試写を観 て投稿するものです。
『アグリーシスター可愛いあの娘は醜いわたし』 “Den stygge stesøsteren” ディズニーアニメでも知られる童話「シンデレラ」を敵役の 義姉妹の視線から描いた映倫R15+指定の作品。因に本作はベ ルリン国際映画祭パノラマ部門に出品され、サンダンス映画 祭でも上映された。 主人公は落ちぶれた貴族の娘。彼女は妹と共に母親の再婚相 手の館のある王国にやってくる。そこは彼女の憧れ的である 王子が暮らす国でもあった。そして母親の再婚相手には美貌 の娘もいた。 ところが継父が急死、しかも遺産がほとんどないことが判明 する。従って一家には王子の目に留まって妃となることしか 道はなくなるが、そこに折よく舞踏会の案内が届き、その舞 踏会には主人公と義姉が招待されることになる。 そこで主人公は隆鼻術やまつ毛の植毛など過激な美容整形に 耐え、元々ダンスは才能があったらしく舞踏会で披露される 群舞のセンターに選ばれる。こうして義姉のドレスを引き裂 くなどの策謀を経て舞踏会に臨むことになるが…。 出演は子役出身でモデルとしても活動しているリア・マレイ ンと、2014年11月2日付「第27回東京国際映画祭《コンペテ ィション部門》」で紹介『1001グラム』に主演していたアー ネ・ダール・トルプ。 他にテア・ソフィー・ロック・ネス、フロー・ファゲーリ、 イサーク・カムロート、マルテ・ゴーティンゲルらが脇を固 めている。 脚本と監督は、1991年生まれで2018年にノルウェー映画学校 での卒業制作だった短編作品が各国の映画祭に招待されるな ど評価されたエミリア・ブリックフェルト。短編は大胆で挑 戦的な作品と言う女性監督の長編デビュー作だ。 映画では義姉の方にはちゃんと魔法使いが現れており、正に 視点を変えた作品ということになるが、本来は悪役の義姉妹 にしっかりとキャラクターを与えているところは見事な作品 だ。しかもかなりえぐい。 特に主人公が靴のサイズに足を合わせる下りは、僕の記憶で 原作は確か踵を削るということで、以前にそういう描写の作 品も観ているが、本作ではそこの改変が正にえぐいという感 じの映像になっていた。 ただしシンデレラのドレスを修復するシーンの描写では生物 学的に蚕の糸はそこからは出ない。ここは監督が『モスラ』 を観ていなかったようで、その点は少し残念だったかな。で も今後も楽しみな監督が出てきたようだ。 公開は2026年1月16日より、東京地区は新宿ピカデリー他に て全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社スターキャットアルバトロス・ フィルムの招待で試写を観て投稿するものです。
| 2025年11月16日(日) |
架空の犬と嘘をつく猫、役者になったスパイ、Good Luck |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『架空の犬と嘘をつく猫』 2014年「ピオレタ」でポプラ社小説新人賞を受賞などの寺地 はるなによる原作を、2011年5月紹介『乱反射』などの菅野 友恵が脚色、CM出身で各国映画祭での受賞歴のある森ガキ 侑大監督が映画化した作品。 登場するのは母親が心に疾患を負っている一家。その原因は 幼い子供の死にあるようで、そんな母親の心を亡くなった子 の兄である主人公が健気に支えている。しかし彼の姉はその 環境に耐え切れず家を出て行ってしまう。 そんな主人公は年上の女性に恋心を持つが彼女に受け入れて はもらえない。そして幼馴染みの女性の愛を受け入れ、結婚 も考えるようになるが、そこにも年上の女性の影が落ちてく る。それらは全て彼の優しさに起因するものだった。 そしてある事情から一家が顔を揃えることになった日、そこ には不倫で家を出て行った父親や姉も帰ってくる。そんな一 同が会した場所で彼が執った行為とは…。物語は20年の年月 に亙って描かれる。 出演は高杉真宙、伊藤万理華、深川麻衣、安藤裕子、向里祐 香、ヒコロヒー。他に鈴木砂羽、松岡依郁美、森田想、高尾 悠希、後藤剛範、長友郁真。そしてはなわ、安田顕、余貴美 子、柄本明らが脇を固めている。 物語は普遍的なものではないが、誰にでも降りかかってくる かもしれない状況が描かれる。そして登場する人物たちはご く普通に自分たちであるかもしれないように描かれており、 それが深みになっている。 僕自身は同じ男性として主人公に感情移入したが、観る人に よっては他の人物に感情移入することもできるようだ。集団 劇ではないが、そんな幅広い観客に受け入れられる作品にも なっている。 それにしても感情移入した目で見ていて主人公の優しさが心 に沁み渡る作品だ。実は主人公には隠された一面もあるのだ が、それも彼の優しさゆえであり、その辺の描き方も見事な 作品だった。 そして映画の結末では全ての人に優しさが溢れだす、そんな 描き方も素晴らしい。今年一番の優しい映画に出会えた感じ がした。 公開はロケ地の佐賀県唐津で先行上映の後、2026年1月9日 から東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて全国ロードショウ となる。 なおこの紹介文は、配給会社ポニーキャニオンの招待で試写 を観て投稿するものです。
『役者になったスパイ』“Moskau Einfach!” 1989年、冷戦下のスイスで起きた政治スキャンダルの実話に 基づく作品。 1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊する冷戦最末期のスイ ス。永世中立国として成立するこの国では共産政権のソビエ ト連邦からの脅威に政治が揺れていた。そして国内では国民 皆兵の軍隊の廃止などが叫ばれ始める。 この事態に警察は秘密裏に国民の監視を開始。フィッシュと 呼ばれるカードに個人情報が記録されて行く。それはナチス ドイツのゲシュタポの所業にも通じる、民主主義の社会では あってはならないことだった。 そんな状況の中で主人公はとある劇団を監視する任に着いて いた警察官だったが、その主人公に劇団に潜入して内部情報 を集める指令が下される。そしてエキストラの募集に乗じて 劇団への潜入に成功するが…。 劇団の中には演出家との対立など様々な軋轢があり、その調 査の過程で主人公は主演女優に惹かれ始める。しかも主人公 には、ある事情で役者が降板した配役への抜擢も決まってし まう。選ぶべきは任務か恋か? 脚本と監督は2015年『まともな男』などのミヒャ・レビンス キー。なお脚本には監督の友人で舞台関係者というプリニオ ・バッハマンとバルバラ・ゾマーの2人が協力している。 出演は監督のデビュー作にも出ていたというフィリップ・グ ラバーと監督作に常連のミリアム・シュタイン。他にマイク ・ミュラー、ミヒャエル・マールテンス、ピーター・イェッ クリン。 さらにシュテファン・シェーンホルツァー、ゼバスティアン ・クレーヘンビュー、デニス・ビンチュ、ファビアン・クリ ューガー、エバ・バイ、オリアーナ・シュラーゲらが脇を固 めている。 演劇絡みのストーリーがどこまで実話に沿っているかは判ら ないが、日本でも演劇関係者には左翼系が多かったからこん な事もあったのだろう。現地では当時の関係者からコメディ タッチに批判もあったようだが、話はうまくできている。 しかもこれが現代社会に通じている感じがするのも見事なと ころで、特に戦時の接近が想定される社会では今でも有り得 る話として描かれている感じもした。ロマンスコメディの名 手と言われる監督の視線は鋭いものだ。 公開は2026年1月23日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA、 シネスイッチ銀座、UPLINK吉祥寺、新宿武蔵野館他にて全国 順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社カルチュアルライフの招待で試 写を観て投稿するものです。
『Good Luck』 2014年『百円の恋』や2023年のテレビ小説『ブギウギ』など の脚本家足立紳が、2023年『雑魚どもよ、大志を抱け!』に 次いで脚本監督を手掛けた作品。 主人公は30歳間際の売れない映画監督。学生時代に撮った作 品が評価されてこの世界に飛び込んだが、以後は鳴かず飛ば ずという感じのようだ。そんな監督の新作が別府映画祭の佳 作に選ばれる。 その作品は同棲相手の日常を撮っただけの映像で監督自身も 納得していなかったが、同棲相手からは取り敢えず招待され た上映会に出席するよう背中を押される。こうして別府にや ってきた監督だったが、上映後のトークは散々だった。 そんな監督はふと上映会に参加していた観客の女性と巡り合 い、一人旅の彼女とその後の行動を共にすることになる。そ して2人は大分県の観光地を巡って行くことになるが…。豊 後大野の摩訶不思議な観光地が紹介される。 出演は、2019年3月3日付『ホモソーシャルダンス』の中で 紹介『老ナルキソス』などの佐野弘樹と、演劇やテレビでも 活躍中の天野はな。 他に映画監督としても活動している加藤紗希、2025年8月紹 介『じっちゃ!』などの篠田諒。さらに剛力彩芽、板谷由夏 らが脇を固めている。 元々は「別府短編プロジェクト」の依頼で制作されたが、出 来上がったら上映時間1時間44分の長編映画になっていたそ うだ。それが監督の意図だったかどうかは知らないが作品は 内外の映画祭への招待も勝ち取っている。 作中には本作のオーディションの模様も挿入されるなどメタ フィクション的な色合いもあって、中々凝った作品になって いる。しかもそこに水中洞窟などかなり不思議な風景も登場 し、それも物語にマッチして飽きさせない。 物語自体は監督の私小説のような感じもするが、そこにご当 地映画らしい観光要素もしっかりと織り込まれて、さすがベ テラン脚本家の作品と言う感じにもなっている。しかも撮影 は現地7日と追加の1日のみ。 いやはや平伏しましたと言いたくなる作品だった。 公開は12月13日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社MAPの招待で試写を観て投稿 するものです。
| 2025年11月09日(日) |
新幹線大爆破、『ヒグマ!!』について |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今週は東京国際映画祭の期間中で、僕自身は2020年11月※ ※29日付で書いたように映画祭は卒業しているものだが、※ ※この期間は試写会も休止されているのかな。いずれにし※ ※ても僕の手元の試写状はないので、今回は劇場公開で鑑※ ※賞して気になった作品について少し書くことにします。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『新幹線大爆破』 この作品は2025年4月23日からNetflix にて配信されたもの だが、その作品が2025年10月3日からイオンシネマシアタス 調布、イオンシネマシアタス心斎橋にて2週間限定公開され た。 作品は1975年公開東映映画のリメイクとされ、その作品を当 時に見て感激した自分としてはそのリメイクがどんなものか 気にはなっていた。しかしこの監督と主演の組み合わせでの リメイクには、2006年5月31日付けの悪夢が甦るものだ。 しかも事前に流れて来た情報ではオリジナルの高倉健の役柄 がいないという。それでは当時の安保世代にとって何が描か れるのか…。そんな疑問で鑑賞には躊躇していたが、その作 品が劇場で特別公開ということで観に行ってきた。 そして鑑賞を終えた今の気持ちは、僕にとってはいろいろな 意味で納得のできる作品だった。 その納得ポイントで1番目はオリジナルに対するリスペクト だろう。それはまず本作がリメイクではなく、続編だったこ とに始まる。そこでは前作が1975年の実話として語られ、思 想的な部分は伏せられるものの思いは伝わってくる。 しかもその怒りの矛先が政府及び官憲に向けられるのは、正 に70年安保世代にも通じる思いがした。しかも建前を振りか ざして主人公らの思いを踏みにじる政府に対して、民衆がど んでん返しを打つ展開も見事なものだ。 そんな思想的な背景のリスペクトに対して納得したところか ら、さらに本作では様々なオリジナルに対してのリスペクト にも感激した。そこには見せ場であるすれ違いや受け渡しが 忠実に再現され、さらに進化している。 しかも受け渡しのシーンで登場するのがALFA-X。2019年12月 22日付題名紹介『シンカリオン』にも登場したJR東日本の実 験車両が運用車として走行する。そしてその運転士の配役に も驚愕した。 一方、すれ違いのシーンに登場する渡線は本来は事故防止の ため設けられないものだが、ここはオリジナルに敬意を表し ての再登場。さらに東京駅での渡線の設置やその運用法など も丁寧に構築されていた。 そして最大のリスペクトはオリジナルでは実現しなかった題 名シーンの登場だろう。オリジナルの公開時にはそれがない 事で文句を言う連中もいたが、本作でその溜飲が下がったも のだ。 出演は草��剛、細田佳央太、のん、要潤、尾野真千子、豊嶋 花、黒田大輔、松尾諭、大後寿々花、大原優乃、大場泰正、 岩谷健司、田村健太郎、今野浩喜、西野恵未、前田愛、中島 瑠菜、屋敷紘子、森達也、田中要次、尾上松也、六平直政、 ピエール瀧、坂東彌十郎、斎藤工。 この他にもALFA-Xの運転士を含めていろいろなカメオ出演が あったようだ。 監督は樋口真嗣、脚本は中川和博と大庭功睦。オリジナルへ のリスペクトや鉄オタの夢を盛り込んだ脚本が特に素晴らし かった。 なおこの紹介文は有料鑑賞で上映を観て投稿するものです。 * * 『ヒグマ!!』について 2025年10月12日付で紹介した映画の公開延期が発表されてし まった。状況を考えればこれは致し方のないことだが、この 状況が今後改善する見込みは殆んどないもので、これはこの ままお蔵入りになってしまう可能性もある。 作品は真面目に作られたものだし、紹介でも書いたように登 場するヒグマの造型、操演なども巧みに行われていて画期的 とも言える作品だっただけに残念と言わざるを得ない。今後 はこの技術が他の作品で活かされることを祈るのみだ。
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