| 2025年07月20日(日) |
レッド・ツェッペリン:ビカミング、富士山と、コーヒーと、しあわせの数式 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『レッド・ツェッペリン:ビカミング』 “Becoming Led Zeppelin” 1968年から1980年までを主に活動した英国出身ロックバンド の軌跡を描いた2025年製作の音楽ドキュメンタリー。 映画は1980年9月に他界したドラムス=ジョン・ボーナムを 除く3人のメムバーで新たに収録されたインタヴューとボー ナムの生前の音声を中心に構成され、そこではメムバーそれ ぞれの生い立ちやバンドに参加する経緯なども語られる。 その中ではバンド名が結成前の仮のメムバーで後の The Who のドラムス=キース・ムーンの言葉で決まったという事実も 語られていた。僕は偶然前々週に The Whoの映像を観ていた ものだが、両ドラムスの境遇にも驚いたものだ。 そんなインタヴューに挟まれて彼らのデビュー前からの映像 などが次々に登場する。そこにはシャーリー・バッシーやル ルなど意外な共演者もいて映画ファンとしては親近感も湧く ものになっていた。 そして彼ら自身の演奏では、サイケデリックやプログレッシ ブなどジャンルを超えたパフォーマンスが展開され、しかも 演奏のいくつかはフルの楽曲が登場するので、これはファン には垂涎の作品と言えるものだ。 さらにそこには彼ら自身の解説も付加される。それも演奏の 後に別枠で付けられるもので、そこにも彼らの音楽を大切に したいという意思が反映されている想いがした。いずれにし てもファンにはまたとない体験が出来る作品だ。 脚本と監督はサンダンス・アカデミーの出身で2017年の監督 デビュー作 “American Epic”が高く評価されたというバー ナード・マクマホン。デビュー作も音楽ドキュメンタリーで これは新たな才能の誕生と言えるようだ。 映画の構成はインタヴューとアーカイブ映像の巧みな融合と いう感じで、これはバンドのファンや研究者にはまたとない 作品と言えるものだ。ただ全体の印象はNHKのドキュメン タリーのようで、学術的な面が先行しているかな。 その点で言うと前々回紹介した『ザ・フー:キッズ・アー・ オールライト』は邪気に溢れているというか、正に新鮮な時 期に作られているという臨場感はあった気がする。でもまあ その分の客観性の点は本作の方が評価はできる。 いずれにしてもファンには宝物の作品だろう。 公開は9月26日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて 全国ロードショウとなる。なお公開はIMAXでも同時上映され るが、本作は1:1.76ビスタなので親和性は高いものだ。 なおこの紹介文は、配給会社ポニーキャニオンの招待で試写 を観て投稿するものです。
『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』 東京本郷に所在の学校法人文教学院を1924年に創設した島田 衣史子が掲げた教育理念を基に、JO1豆原一成と市毛良枝 のW主演で描かれたファミリーストーリー。 豆原が演じるのは文京学院大学に通う大学生。キャリアウー マンのシングルマザーと暮らしていたが母親が長期の海外出 張となり、その間を最近夫を亡くした祖母の家で過ごすこと になる。その祖母は中卒で夫に頼り切りの人生だった。 そんな祖母の家で亡き祖父の書斎に入ることになった主人公 はそこで自分が通う大学から届いた書類を見付ける。それは 祖母を学習に誘う祖父からのサプライズプレゼントだった。 その贈り物に最初は尻込みする祖母だったが…。 ある状況から学習意欲に目覚めた祖母は生涯教育のクラスに 通うことになり、時には主人公と机を並べることに。そして 学園生活を謳歌し始める。一方、そんな祖母の横で主人公は 将来の道を決めかねていた。その祖母を市毛が演じる。 共演は酒井美紀、八木莉可子、市川笑三郎、福田歩汰、藤田 玲、星田英利。それに長塚京三らが脇を固めている。 脚本は2017年7月2日付題名紹介実写版『心が叫びたがって るんだ』を手掛けたまなべゆきこ。その紹介でアニメ版の違 和感が解消されたと書いた脚本家は函館港イルミナシオン映 画祭シナリオ部門の入選者だそうだ。 監督は2008年10月紹介『青い鳥』や2017年6月紹介『二度め の夏、二度と会えない君』などの中西健二が担当。比較的理 詰めで、教育問題も扱ったことのある監督には好適の題材だ ったようだ。 ただまあ全体としては少し平板だったかな。祖母と母親と主 人公の関係などはもっといろいろな問題を描き込めたかもし れないが、上映時間との兼ね合いなのか描き方が少し淡泊な 感じもした。 それに題名にもある数式は脳トレの影響で興味を持ったが、 その解にはもう一、二段階の捻りが欲しかった感じもする。 特に主人公だけで解けてしまうのも物足りないかな。そんな 注文をつけたくなる作品でもあった。 とは言え生涯教育などの教育理念はしっかりと描かれた作品 ではあった。 公開は10月24日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国 ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社GAGAの招待で試写を観て投稿す るものです。
| 2025年07月13日(日) |
壁の外側と内側、愚か者の身分 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『壁の外側と内側』 2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞者で中東ジャーナ リスト川上泰徳氏が、2024年7月にイスラエル・ヨルダン川 西岸のパレスチナ自治区に赴き、ペンをiPhoneに持ち替えて 記録したドキュメンタリー。 第2次世界大戦後に建国されたユダヤ人国家イスラエルの国 土には元より暮らすパレスチナ人がおり、彼らはヨルダン川 西岸とガザ地区に定められた自治区に居住している。そんな パレスチナ人とユダヤ人は以前は交流もあったとされる。 しかし2002年にイスラエル政府は西岸地区との境界に全長が 700kmに及ぶ壁を建設する。それはパレスチナ人のテロリス トの侵入を防ぐという名目だが、以来両者の交流には厳しく 制限が設けられることになる。 そんな壁の存在に関しては、今までにもドラマやドキュメン タリーなどで何度も観て来たが。2023年10月7日、ガザ地区 の壁を越えてイスラム組織ハマスが攻撃を仕掛け、それに対 する報復としてイスラエルがガザ攻撃を開始する。 そして本作では、当初はガザ地区の取材も検討されたようだ が、現状ではジャーナリストのガザ地区の取材は困難となっ ており、その代替としてヨルダン川西岸地区が取材されてい る。そこでは戦闘は行われていなかったが…。 映画は延々と続く荒野を写して行く。そこには日陰を作るテ ントのようなものがあり、そこに羊飼いと 400頭という羊が 暮らしていた。そこは彼らが先祖伝来の山羊や羊を飼って生 計を営んでいた場所だ。 そこから進んで行くと住居の残骸が登場する。それはパレス チナ人の住居だったもので、数日前にイスラエル兵士が重機 と共に現れ破壊して行ったのだという。そこは協定によって パレスチナ自治区と定められている場所だ。 さらにその界隈にはイスラエル軍が演習場としている場所も あり、砲弾の飛び交う中でパレスチナ人が暮らしている。そ こは戦場ではないが危険が伴う場所だ。そんな中でもパレス チナ人の暮らしは続けられている。 そんな壁の外側に対して内側では、イスラエル政府を支持す るデモ隊が行きかう中で、パレスチナ自治区に対する攻撃に 疑問を呈するユダヤ人の若者も存在する。しかし彼らの声は 小さい。そんな壁の外側と内側が描かれる。 川上氏は元々取材時の補助としてiPhoneでの撮影を始めたよ うだが、それが映画として上映できる時代になったというこ とだ。従って映像は正に傍観者という感じだが、その距離感 が正しく真実を伝えているという感覚になる。 それは決して迫力のある映像というものではないが、却って それが胸に突き刺さるものにもなっていた。 公開は8月30日より、東京地区は渋谷ユーロスペース他にて 全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社きろくびとの招待で試写を観て 投稿するものです。
『愚か者の身分』 2018年大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤原作小説を、2016年 10月30日付題名紹介『愚行録』などの向井康介脚本、2007年 『渋谷区円山町』などの永田琴監督で映画化した作品。 舞台は新宿歌舞伎町。若い男2人がじゃれ合うように闊歩し ている。彼らは女性を装ったSNSで標的となる男性の個人 情報を引き出し、パパ活女子を派遣して男性に戸籍の売買な どを持ちかける闇バイトの仕事人だ。 そんな彼らには当然の如く反社会勢力との関りがあり、さら には運転免許証の偽造などもっと危ない組織との繋がりも持 つようだ。しかし彼ら自身は稼いだ金で飲み歩くなど、青春 を謳歌する姿も見せている。 そんな社会の底辺に蠢く彼らだったが、何時かはその境遇を 抜け出し、真っ当に生きることも夢見ていた。それは社会の 闇を見続けての結論でもあった。しかしそんな彼らに試練の 時が訪れる。 出演はNHK連続テレビ小説『あんぱん』などの北村匠海、 同じく『虎に翼』などの林裕太、それに綾野剛。さらに山下 美月、矢本悠馬、木南晴夏。他に松浦祐也、加治将樹、田邊 和也、嶺豪一らが脇を固めている。 映画は、3人の登場人物それぞれの名前の振られた3つのパ ートで進行し、特に前半の2パートは視点を変えることでか なりの緊張感のある展開に仕上げられている。それは映画の 醍醐味とも言えるものだ。 それが第3のパートでは、映像的にはかなり強烈なものなの だが演出は少しテンポも緩めて、コメディではないけど多少 戯画化した感じになっている。この緩急がこの作品では見事 に嵌っている感じがした。 内容的には闇バイトという現代を象徴するような悪事の深刻 な現実を描いているもので、その手口などはリアルで恐怖心 すら覚えるもの。その現実味のある恐怖を映画の前半では見 事に観客に突き付けてくる。 しかしそれを後半ではある種の戯画化することで、前半の恐 怖心をさらに倍加する効果にもなり、全体として物語に潜む 悪徳を鮮明に炙り出している感じもした。それは見事でこれ を作り出した脚本家と監督には拍手を贈るものだ。 これこそが社会派エンターテインメントと呼べる作品だ。 公開は10月24日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社 THE SEVEN、ショウゲートの招 待で試写を観て投稿するものです。
| 2025年07月06日(日) |
ChaO、ザ・フー:キッズ・アー・オールライト |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ChaO』 2006年11月紹介『鉄コン筋クリート』や2023年9月紹介『火 の鳥エデンの花』などSTUDIO4℃のアニメーション制作で、 2025年アヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティ ション部門で準グランプリの審査員賞を受賞した作品。 物語の設定は人魚と人間が共存している世界。そんな世界で 主人公は一介のサラリーマンだったが、ある日突然、人魚の お姫様から求婚され、それは人間と人魚の関係を良好にする ものとして世間から大歓迎される。 しかし主人公にはなぜ自分が人魚姫に見初められたかも判ら ないまま…。とは言え周囲の勢いに乗せられて結婚すること になるのだが。その結婚生活は人間と人魚の文化の違いが象 徴されるようなものになってしまう。 それでも人魚姫の純粋さに惹かれて行くようになった主人公 は、人魚姫と自分2人のためのある決断を下すことになる。 監督はSTUDIO4℃の『バットマン:ゴッサムナイト』(2008) などを手掛けて本作が初長編監督となる青木康浩。 声の出演は、いずれも俳優の鈴鹿央士と山田杏奈。他に山里 亮太、シシド・カフカ、梅原裕一郎、三宅健太。さらに太田 駿静、土屋アンナ、くっきー!らが声優を務めている。 またオリジナルの主題歌を倖田來未が担当している。なお倖 田は以前に彼女の楽曲で青木監督とコラボレーションしたこ とがあり、その繋がりでの起用のようだ。 さらに劇伴音楽は村松崇継が担当してガムランなどを使った アジアンテイストの楽曲を提供している。 物語はディズニーアニメでも知られるアンデルセン童話をモ ティーフにしているが、繋がりはあるものの展開される物語 自体はほぼオリジナルと言える。そしてそれは現代にも通じ るものになっている。 特に異文化との交流という点ではかなり鋭い指摘にも感じる もので、こういうことが主張されることにも作品の価値が感 じられた。キャラクターの特異性もさることながら、この辺 が他社とは一線を画するものになっているのだろう。 また声優の中で山里は第一声で彼と判るものだが、『鉄コン 筋クリート』では蒼井優が声優を行っており、その辺の繋が りも感じさせるものになっている。 公開は8月15日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す るものです。
『ザ・フー:キッズ・アー・オールライト』 “The Who: The Kids Are Alright” 1975年の映画『トミー』でも知られるイギリスのロックバン ドの姿を1979年の時点で描いたドキュメンタリー。当時は日 本未公開だった作品が、バンドのデビュー60周年を記念して HDレストア版で本邦初公開される。 映画は彼らの代表曲とも言える「マイ・ジェネレイション」 で始まるが、その演奏中にアンプに仕掛けられた火薬が爆発 するなどかなり過激な演奏風景となる。因に映像は1967年の テレビのコメディ番組からだそうだ。 こんな始り方で1964年のバンドの創成期から映画制作時まで の様々なパフォーマンスや、インタヴューなどのアーカイヴ 映像が巧みな編集で綴られて行く。そして極め付きは1978年 5月にこの作品のために行われたスタジオライヴ。 これは1979年に他界するドラムスのキース・ムーンが最後の 死力を尽くしたもので、そのキースを囲む素晴らしい演奏が 繰り広げられている。そしてキースは映画の完成を待たずに 逝ったものだ それにしても演奏の映像は見事な過激っぷりで、アンプは火 を噴くはギターは叩きつけられるは、さらにドラムもばらば らに飛ばされる。昔の日本のロカビリーも過激と言われたが それを上回る衝撃だった。 そんな中で『トミー』からは「ピンボールの魔術師」と「シ ー・ミー、フィール・ミー」が演奏されるが、1976年の日本 公開時に観ている自分としてはその懐かしさも横溢したもの だ。そして今観るとその先見さにも感動した。 因に『トミー』を監督したケン・ラッセルも本作に登場して かなり過激なアジテーションを行っているが、これが何故か 本作の出演者クレジットには不記載。著名な映画データベー スのImdbでも別掲となっていた。(理由は不明) なお編集は時系列ではなく、バンドの歴史を描くものではな いが、彼らのパフォーマンスは存分に楽しめる作品になって いる。またすべての歌詞に日本語の字幕が付いているのも嬉 しいものだ。 出演はザ・フーのロジャー・ダルトリー、ジョン・エントウ ィッスル、キース・ムーン、ピート・タウンゼント。さらに リンゴ・スター。司会者のスティーブ・マーティン、トミー ・スマサーズらも登場する。 公開は9月26日より、東京地区は角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、池袋HUMAX シネマズ、UPLINK吉祥寺他にて 全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社オンリー・ハーツの招待で試写 を観て投稿するものです。
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