| 2025年06月29日(日) |
愛はステロイド、ROPE、男神、キャンドルスティック、ディア・ストレンジャー、ラスト・ブレス、バレリーナ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『愛はステロイド』“Love Lies Bleeding” 2011年12月などで紹介『トワイライト・サーガ』などのクリ ステン・スチュアート主演で、ニューメキシコの荒野を舞台 にしたヒューマンサスペンス。 スチュアートが演じる主人公は荒野の町でトレーニングジム を経営している。そこに1人の若い女性がやってくる。彼女 はオクラホマから来てラス・ヴェガスで開かれるボディビル 大会に出場するのだという。 そんな女性がジム内でトラブルを起こし、男に殴られた彼女 を介抱した主人公は彼女に惹かれ始め、ジムでまとめ買いし ていたステロイドを彼女にプレゼント。それは彼女を理想の 肉体美に仕上げて行くが…。 一方、主人公の父親は射撃場を経営しているが、その裏では かなり危ない橋を渡っているようだ。そして主人公の姉には DVの夫がいるがそんな夫を姉はどんなに暴力を振るわれて も溺愛していた。 そんな中で、オクラホマからきた女が事件を起こす。 共演は、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコ ニング』にも出ているケイティ・オブライアン。2008年5月 紹介『イントゥ・ザ・ワイルド』などのジェナ・マローン。 さらにアンナ・バリシニコフ、デイヴ・フランコ、エド・ハ リスらが脇を固めている。 脚本と監督は本作が長編2作目のローズ・グラス。共同脚本 にヴェロニカ・トフィウスカ。また音楽を、2011年1月紹介 『ブラック・スワン』などのクリント・マンセルが担当して いる。 男性の目で見るといやはや何とも…という感じだが、強烈な 内容の作品であることは間違いない。しかもその展開がとて も冷静に考えられているとは思えないようなもので、男性の 脚本家にこれは太刀打ちできないなという感じだ。 女性による女性のための作品で、それにスチュアートが共鳴 したというところかもしれない。ご時世柄、これからこうい う作品が増えて行くのかな。映画界が男性だけのモノではな くなっていることを明確に示す作品だ。 そんな中でエド・ハリスが孤軍奮闘という感じなのも面白か った。女性から男性への宣戦布告という感じもする作品だ。 男性は心して観るべき作品だろう。ニューメキシコとされる 異様な景観も楽しめた。 公開は8月29日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ オの招待で試写を観て投稿するものです。
『ROPE/ロープ』 1999年生まれの俳優樹と、1998年生まれで日本大学芸術学部 出身のフリー助監督八木伶音による、共に初主演、初監督と なる作品。 主人公は何をしても続かないと自称する男。そんな男が街中 に貼られた人探しのビラに目を向ける。そこには見覚えのあ る女性の写真があり、有力な情報への報酬は10万円と記載さ れていた。 そこでその女性を捜し始めた主人公は程なく彼女を発見する が…。依頼主に連絡しつつも彼女と話をして行く中で、彼女 が人探しの対象となった理由などが判明して行く。それは彼 自身のトラウマにも繋がるものだった。 共演は2023年12月紹介『青春ジャック 止められるか、俺た ちを2』などの芋生悠。他に藤江琢磨、中尾有伽、倉悠貴、 安野澄、村田凪、小川未祐、小川李奈。さらに前田旺志郎、 大東駿介、荻野友里、水澤紳吾らが脇を固めている。 タイトルのロープは劇中にも何度か登場するが、それが意味 するところは明確ではない。ただし首に巻き付く様子などか らは母胎内のへその緒なのかな。そんなところから主人公の トラウマ的なものも感じたものだ。 とは言え映画には主人公の母親が登場するものではなく、さ らには年配者がほとんど出てこないのは、映画全体を象徴す る思想があるようにも感じられる。でもそれらもほとんど明 確ではない。 さらには人探しのビラの張り紙というのは、最近ではほとん ど見かけなくなったものだし、個人的な手段としてはSNS の方が有効なものだろう。そこに敢えてビラというところに も何らかの思いが感じられた。 そして全体的には背景世界はデストピアと主張されているよ うで、それも明確な表現がある訳ではないが、全体の雰囲気 ではそんなイメージも湧いてくるところかな。そんな曖昧模 糊とした感覚の作品だった。 でも多分そんなところを面白いと感じてくれるファン層はい そうな感じで、それなりのカルト的な評価を生みそうな作品 ではある。それが若い人にはアピールする所なのだろうし、 それを支えるだけの力量は感じられる作品ではあった。 公開は7月25日より、東京地区は新宿武蔵野館他にて全国順 次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社S・D・Pの招待で試写を観て 投稿するものです。
『男神』 2020年「日本(美濃、飛騨等)から世界へ!映像企画」に入選 し、YouTube での朗読が評判を呼んだという八木商店の原作 を基に、2018年12月23日付題名紹介『ソローキンの見た桜』 などの井上雅貴脚本・監督で描いた作品。 主人公は建設会社に勤める男性。数年前に妻が失踪し、男手 一つで息子を育てている。そんな主人公が担当する新興住宅 地の工事現場に謎の深い穴が出現、時を同じくして彼の息子 が行方不明になる。 この状況で穴に疑いを持った主人公は危険を顧みず穴に入っ て行くが…。その奥には深い森が広がり、そこでは巫女たち が息子を生贄として捧げる謎の儀式を行っていた。果たして その危機から息子を救い出すことができるのか? 出演は2024年12月紹介『室町無頼』などの遠藤雄弥、元宝塚 雪組の彩凪翔、元King&Princeの岩橋玄樹、元SKE48の須 田亜香里。さらにカトウシンスケ、沢田亜矢子、加藤雅也ら が脇を固めている。 仏教伝来以前の日本の古代信仰では深い洞穴は主には黄泉の 国への伝達路として数多く登場しているようだ。またそれは 異次元への通路であったり、タイムトンネルのように時間を 超える存在であったりもする。 そんな古代信仰に基づく伝承を踏まえた物語で、そこには生 贄が関ることも多いとされ、そこからの発展形として本作が 形作られているとは言える。そこに新興住宅地が絡むのは時 代の成り行きとしては有り勝ちだろう。 ただそこからの物語の展開が多少平板かな。現代の巫女や山 伏の登場は、彼らがどちらの側に付くか判らないだけにこの 辺はもっと丁寧に描いて欲しかった感じもする。本来なら穴 底の巫女たちに敵対するものではないだろう。 もし敵対するならその経緯や来歴もあったはずで、その辺の 曖昧さが個人的には少し物語に乗り切れない感じがした。そ こらをしっかり描けばもっと面白くできたと思えるし、物語 全体が崇高になったかな。そんな感じのする作品だった。 まあ最後の一発撮りのアクションシーンはそれなりに面白い ものにはなってはいたが…。 公開は9月19日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 渋谷他にて全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社平成プロダクションの招待で試 写を観て投稿するものです。
『キャンドルスティック』 テレビ・映画で大活躍の阿部寛を主演に迎えて、FXとAI の危うさを描いた日本台湾合作の経済アクションドラマ。 時代背景は2019年5月。平成から令和の改元に併せてネット ワークの脆弱になるタイミングを狙って大掛かりな経済詐欺 が計画される。その主役は5年前に株価操作で検挙された元 は天才ホワイトハッカーと呼ばれた男。 彼は以前の仲間を再招集して5年前に彼を陥れた女性企業家 への復讐を目論む。そこに難民で無国籍の子供たちを支援す る中東出身の女性や、イランの首都テヘランに暮らす凄腕の ハッカーらが絡んで未曽有の詐欺が進められる。 共演は菜々緒、サヘル・ローズ、津田健次郎、YOUNG DAIS、 デビッド・リッジズ。そこにイランからマフティ・ホセイン ・シルディ。さらに台湾からタン・ヨンシュー、リン・ボー ホン、アリッサ・チアらが脇を固めている。 川村徹彦の原作『損切り:FXシミュレーション・サクセス ストーリー』から脚本はプロデューサーも務める2007年1月 紹介『蟲師』などの小倉悟。監督はモデル出身で映像クリエ ーターに転身した米倉強太が長編デビューを飾っている。 近年はAI万能論みたいなものが蔓延していて、正直にはこ の風潮に危惧を感じていたものだが、本作ではその危険性を 見事に描いていて、それは胸のすくような感覚だった。この 描き方には共感する。 ただ物語では菜々緒が演じる女性の共感覚などの設定が生か し切れておらず、折角の面白さがちょっと物足りなかったか な。上映時間が93分というのも海外ロケも敢行された作品に しては短いもので、何となくもやもやした。 それでもそんな中に難民の子供の無国籍問題などもしっかり と盛り込んだのは、その辺への問題意識も高い作品と感じら れてそれは好感だった。しかもその役柄がサヘル・ローズと いうのも良い見識と思われる。 出来たら本作に盛り込まれたいろいろな問題をもっと整理し 直して、再度挑戦して欲しいと思う作品だった。全体にもう 一歩の踏み込みが物足りなく、勿体なくも感じたものだ。 それと一点だけ、映画の後半でキャンドルスティックが描か れるシーンに誤解があるように感じられた。為替の表現は面 倒くさいし殆んどの人は気にしないと思うが…。 公開は7月4日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ ードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社ティ・ジョイの招待で試写を観 て投稿するものです。
『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』 2021年『ドライブ・マイ・カー』などの西島秀俊と、2020年 3月29日付題名紹介『鵞鳥湖の夜』などのグイ・ルンメイの 共演で、2019年8月25日付題名紹介『宮本から君へ』などの 真利子哲也監督がニューヨークを舞台に描いた作品。 登場するのはニューヨークで暮らす日本人と台湾系アメリカ 人の夫婦。夫は大学で講師をしながら研究職を目指し、妻は 人形劇の公演を目指して頑張っている。そんな夫婦には幼い 一人息子がいたが…。 妻は実父が開業した雑貨店も切り盛りしており、そんな店が 強盗に襲われる。その現場には息子もいて怪我などはなかっ たが、不穏な気持ちに襲われる。一方、夫の自動車に落書き がされ、年式も古い車には買い替えも勧められる。 そんなニューヨークの現実が描かれる中で、夫婦の息子が誘 拐される。それは直ちに警察に届けられるが、凶悪犯罪の多 い街では警察の動きも遅い。それでも息子は発見されるが、 それは新たな犯罪に繋がっていた。 そんないろいろな事態が錯綜する中で、夫婦の関係が試され て行く。夫は夫婦間では英語で会話し、妻の両親には片言の 中国語で話す。さらにスペイン語や手話も使われる。そして 夫が日本語で悪態をつく瞬間が訪れる。 共演者は、Fiona Fu、Christopher Mann、Everest Talde。 さらにJames Chu、Lanett Tachel、Michael Krysiewiczらが 脇を固めている。 なおポスターのデザインにも使われている劇中の人形劇は、 シカゴ出身でメリーランド大学にてジム・ヘンスンの名前を 冠したアーティスト・イン・レジデンスを務めたこともある ブレア・トーマスが手掛けている。 異文化の坩堝のようなニューヨークで異なるルーツの夫婦が そのアイデンティティを試される。それはある程度ストレー トな話なのかなと思わせて、映画の後半ではとんでもない事 態に繋がって行く。 その辺の面白さが満載という感じの作品だ。ただ結末の解釈 がかなり難しくて、正直にはその解釈が纏まり切れていない 感覚だ。特には真犯人は誰なのか? 映画ではある1人に結 論付けられているが、果たしてそうなのかも判らない。 出来たらもう1回観たいとも思っているところだ。 公開は9月より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷シャンテ他 にて全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す るものです。
『ラスト・ブレス』“Last Breath” 2012年9月、北海の海底に敷設されたガス・パイプラインの 点検作業中に起きた究極の海難とも呼べる実際の事故の模様 を、ほぼ実時間の再現ドラマで描いた作品。 登場するのは通信ケーブルやパイプラインの整備点検など、 通常では辿り着けない海底で作業を行う飽和潜水士。その資 格を持つクリスは婚約者との別れを惜しみつつアバディーン 港から北海へと向かう。 その船内では気圧調整のチェンバーに入り徐々に加圧しなが ら現場海上までの航海が続く。そして現場に到着するとチェ ンバーごと北海に降ろされ、そこから設定された気圧=水圧 の海中に出て作業を行うものだ。 それは経験を積んだクリスたちには定例の仕事だったが…。 クリスらが作業を始めた頃、海上では大嵐が母船を襲いコン ピュータの不調もあって船が流され始める。このため作業を 中断してチェンバーに戻る指示が出される。 ところがその途中でクリスの命綱が切れてしまう。この時ク リスに残されたのは容量10分の補助タンクのみ。ここから絶 望的な救出活動の様子がほぼ実時間で、船上での支援活動の 動きと共に描かれて行く。 出演は、2021年『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』 に出ていたというフィン・コールと、2023年『バービー』で ケン役のシム・リウ。そしてウディ・ハレルスン。 他に、Cliff Curtis、Mark Bonnar、MyAnna Buring、Bobby Rainsburyらが脇を固めている。 2019年に発表されたドキュメンタリーに基づく脚本はミッチ ェル・ラフォーチュン、アレックス・パーキンソン、デビッ ド・ブルックスが担当。監督は2019年のドキュメンタリーも 手掛けたアレックス・パーキンソンが再度挑戦している。 飽和潜水士という職業は数年前に北海道で起きた観光船沈没 事故の際に話題になったが、本作ではその実際の作業や準備 などが克明に描かれている。その過酷さも目の当たりにする ことができるものだ。 自分がかなづちで川でおぼれた経験もあるものだから、こう いう作品を観ると本当に息が詰まる思いがする。しかも本作 ではそれが実時間での再現だから、その緊迫感は予想以上の 作品だった。 因に映画の最後では科学的な根拠が不明というような記載が 出ていたが、この経緯自体はSFファンならコールドスリー プとして既知のもの。『2001年宇宙の旅』にも描かれていた が、それが実現できることの証左のようだ。 公開は9月26日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ ードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を 観て投稿するものです。
『バレリーナ The World of John Wick』 “From the World of John Wick: Ballerina” 2023年6月紹介『ジョン・ウィック:コンセクエンス』など キアヌ・リーヴス主演のアクションシリーズを基に、新たな 視線で描かれたスピンオフ・ストーリー。 登場するのはバレー団で厳しいダンスと暗殺術を学ぶ少女。 彼女は幼い頃に目の前で父親を殺され、父の友人らしい男の 手蔓でそのバレー団に入団した。そして父の復讐心に燃える 少女は着実に成長し、暗殺者としての仕事を開始する。 その仕事の中で少女は父を殺した一味と同じ印を持った男を 見付け、その印の意味を探り始める。しかしそれは彼女と同 業ながら互いは不戦協定を結んだ別の組織のものだった。こ のため彼女にはそれ以上の接近が禁じられるが…。 物語はニューヨークからプラハ、そして厳冬のオーストリア のスキーリゾートへと展開して行く。 出演は2019年12月29日付題名紹介『ナイブズ・アウト』など のアナ・デ・アルマス。他にアンジェリカ・ヒューストン、 ガブリエル・バーン。 さらに2005年7月紹介『そして、ひと粒のひかり』などのカ タリーナ・サンディノ・モレノ。2013年9月紹介『ウォーキ ング・デッド』シリーズなどのノーマン・リーダス。 そしてオリジナルシリーズからランス・レディック(遺作)、 イアン・マクシェーン、キアヌ・リーヴスらも登場する。 監督は、2003年11月紹介『アンダーワールド』でシリーズの 立ち上げを手掛け、2012年8月紹介『トータル・リコール』 も担当したレン・ワイズマン。 脚本はオリジナルシリーズの後半2作で共同脚本を務め、本 作では単独でオリジナル脚本を担当したシェイ・ハッテン。 なおオリジナルシリーズの監督を務めたチャド・スタエルス キは本作の製作を担当している。 実はオリジナルのシリーズではキアヌが所属する組織と、敵 対する組織との関係性が今一つ把握しきれていなかったのだ が、本作でその辺がかなり明確になっている感じがした。そ の辺は脚本家の手腕かな。 とは言うものの本シリーズの主眼はアクションにある訳で、 七面倒くさい関係性などはぶっ飛ばして見事なアクションが 展開される作品だ。その辺がしっかり押さえられているのも 脚本家の腕だろう。 しかも本作は主人公が女性ということで、腕力に頼らない華 麗なアクションも楽しめる。但し主眼は銃撃戦だが…。それ らがのべつ幕なしで展開されるのも見事な作品だ。 公開は8月22日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて 全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を 観て投稿するものです。
| 2025年06月22日(日) |
DROP/ドロップ、タンゴの後で、マルティネス、また逢いましょう、ミッシェル・ルグラン−世界を変えた映画音楽家 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『DROP/ドロップ』“Drop” 2019年3月17日付題名紹介『パージ:エクスペリメント』な どを製作したプラチナム・デューンズが、同作と同じくユニ ヴァーサル+ブラムハウスと組んで、ブラムハウスの2014年 公開作『パラノーマル・アクティビティ:呪いの印』などの クリストファー・ランドン監督で描いたアクション作品。 主人公は夫に先立たれたシングルマザー。夫の死からはなか なか立ち直れなかったが、妹の勧めもあってようやくマッチ ングアプリで知り合ったカメラマン男性とのディナーデート に漕ぎ着ける。 こうして高層ビル上階の豪華なレストランで初対面のデート が始まるが、そこで彼女のスマホにメッセージがドロップさ れる。それは彼女の家で妹と息子を人質にしたとし、彼女に ある指令を発するものだった。 そのメッセージのドロップが可能な範囲は15m。レストラン のフロア内に犯人はいる。この状況で犯人の要求に従いつつ 反撃を試みる彼女だったが…。犯人の要求はエスカレート。 しかもそれは彼女のトラウマにも関っていた。 出演はメーガン・フェイヒー、ブランドン・スクレナー、バ イオレット・ビーン、ジェイコブ・ロビンソン、リード・ダ イアモンド、ガブリエル・ライアン、ディサラ・マコーマッ ク、ジェフリー・セルフ、エド・ウィークス、トラビス・ネ ルソン。 あまり馴染みのない俳優名が並ぶが、主にテレビや配信系の 作品に出ている人たちのようだ。 また脚本は、ブラムハウスの2020年作『ファンタジー・アイ ランド』などのジリアン・ジェイコブスとクリス・ローチが 担当している。 主なシーンは高層階のレストランフロアだけという、2010年 10月紹介『ソウ』などのソリッド・シチュエーションに近い 作品になるが、そこにSNSを介して外部との繋がりを生じ させるのは、現代化というところだろう。 ただ後半はそのシチュエーションを抜け出しての展開となる が、そこがほぼアクション一辺倒となるのは少し残念かな。 まあその方が最近の「映画」ファンには解り易いのかもしれ ないが、古い映画ファンには物足りなくはあった。 とは言えそのアクション自体はかなり強烈だから、それは古 いファンにもアピールはするものだ。まあこれが現代の映画 という作品になっている。 公開は7月11日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社東宝東和の招待で試写を観て投 稿するものです。
『タンゴの後で』“Maria” 1973年に日本公開されたベルナルド・ベルトルッチ監督の問 題作『ラストタンゴ・イン・パリ』。その作品に主演して時 代の寵児になったマリア・シュナイダー。その状況と出演作 公開後の彼女が辿った道程を描いたドラマ作品。 マリアは1952年パリ生まれ。父親は名優とされるダニエル・ ジェランだが、母親の許にはあまり寄り付かず母子家庭のよ うに育ったようだ。そんなマリアが19歳の時、新進気鋭の監 督ベルトルッチに見出される。 その作品はかなり過激な内容で男優もなかなか契約に至らな かったが、その役にマーロン・ブランドが決まり、その相手 役としてマリアが抜擢される。その役柄にはヌードシーンも あると知らされてはいたが…。 そして撮影は順調に進んで行き、そんな中でベルトルッチは アドリブの演技を要求し始める。それはある種の緊張状態の 演技を引き出す目的だったが。それが脚本では「暴力的」と いう一言から、あるシーンを生み出すことになる。 こうして完成された作品は予想以上の評判を呼び、マリアは 一躍時代の寵児となって行くが、彼女自身は撮影時のトラウ マに悩まされ続けていた。そんな中で彼女はある若い女性と 出会う。そして撮影時の出来事を訴え始める。 しかし彼女の声はなかなか世間には届かなかった。 脚本と監督はベルトルッチの許でインターンをしたこともあ るというジェシカ・パルー。監督に対しての想いもあるとい う女性監督が、マリアの従姉妹ヴァネッサ・シュナイダーが 発表した原作と出会ったことから誕生した作品だ。 出演は2021年の主演作でリュミエール賞を受賞したというア ナマリア・ヴァルトロメイ。相手役にジョゼッペ・マッジョ とマット・ディロン。他にセレスト・ブランケル、イヴァン ・アタル、マリー・ジランらが脇を固めている。 男性にとってかなり手厳しい作品であることは間違いない。 しかも元の作品の公開当時を知る者としては、こんなことが あったのかという思いもするが、正直に当時を思い出すとか なり複雑な思いにもなる。 しかも彼女の主張が認められなかったという現実は忸怩たる 思いにもなる。そんな弱かった女性の立場を改めて描くこと が歴史を見据える意味でも大切な作品と言える。まあ昨今は こんなにも無視されることはなくなったと思いたいが。 ここから未来に向かっての警鐘とも言える作品だ。 公開は9月5日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷シャン テ他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社トランスフォーマーの招待で試 写を観て投稿するものです。
『マルティネス』“Martínez” 本作で長編デビューの女性監督が描く、異国の町で老境を迎 えることになった男性が、ふとした切っ掛けで人生を見つめ 直すことになるヒューマン・ラヴストーリー。 主人公はチリからメキシコにやってきて事務職で勤務する男 性。一人住まいのアパートでは階下から四六時中響くテレビ の音に悩まされ、勤務先では引退を促されて後任らしい男も 入ってくる。 そんな彼の住むアパートで、階下の女性がテレビをつけたま まの孤独死で発見される。そして遺品を整理していた大家か ら、彼宛てに残されていたプレゼントの包みを手渡された主 人公は…。 脚本と監督は、1978年グアダラハラ生まれで地元の大学で映 像を学んだ後に奨学生でニューヨークの大学で学び、さらに バルセロナの大学に留学するなど、15年間に5カ国で暮らし たというロレーナ・パディージャ。 すでに短編作品で受賞歴などもある才媛が母国で発表した長 編デビュー作だ。 出演は2017年製作でアカデミー賞® 国際映画賞を受賞したチ リ映画『ナチュラルウーマン』に主演のフランシスコ・レジ ェス。他にウンベルト・ブスト、マルタ・クラウディア、メ リー・マンソ、マリア・ルイーサらが脇を固めている。 因に元の脚本では主人公はメキシコ人だったが、主演が決ま らない中でレジェスの演技を見てオファーしたとのこと。そ のためにキャラクターも変化したが、異国で暮らす主人公の 孤独感には監督自身の体験も反映されているのかな 一方、俳優は主人公のモデルが監督の父親だと聞いて即決し たそうだ。そんな思惑のコラボレーションが見事に作品に昇 華している。まあ主人公の変化の切っ掛けの部分には少し悩 むところはあったが…。 いずれにしても主人公に限らず現代人の抱える孤独感みたい なものが、見事に表現されている作品だ。そしてそこに未来 への希望みたいなものが見えてくるのも素晴らしい。いろい ろな小道具も素敵な作品だった。 自分も老境を迎えた身としては、何かを始めようという勇気 も貰える作品だ。 公開は8月22日より、東京地区は新宿シネマカリテ、ヒュー マントラストシネマ有楽町、UPLINK吉祥寺他にて全国順次ロ ードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社カルチュアルライフの招待で試 写を観て投稿するものです。
『また逢いましょう』 2019年2月24日付題名紹介『嵐電』でプロデューサーを務め た西田宣善による第1回監督作品で、京都市右京区でデイケ ア施設を運営する伊藤芳宏氏の著書を基に描いたヒューマン ドラマ。 東京で暮らしていた漫画家の女性が京都で一人暮らしの父親 が事故に遭ったとの知らせで京都に帰ってくる。その父親は 幸い一命を取り留めるが、頑固な性格の父親を介護施設に馴 染ませるためのすったもんだが始まる。 そこでケアマネージャーに紹介されたのは、少し変わった所 長が運営する施設。そこでは所長の聞き取りにより入居者の 人生を振り返るイヴェントが行われていた。そんな中でさら にそれを発展させるアイデアが出され…。 出演は『嵐電』にも出ていた2022年7月紹介『夜明けまでバ ス停で』や2025年1月紹介『初級演技レッスン』などの大西 礼芳。他に中島ひろ子、カトウシンスケ。 さらに伊藤洋三郎、加茂美穂子、田川恵美子、神村美月、梅 沢昌代、田中要次、田山涼成、筒井真理子らが脇を固めてい る。 また脚本を『夜明けまでバス停で』などの梶原阿貴が担当し ている。 人生を振り返るという設定で特に本作の後半の展開では、是 枝裕和監督の1999年作品『ワンダフルライフ』を思い出した が、僕が是枝監督の最高作と考えている同作の域には達して いなかったかな。 ただし本作の目的はそこではなくて、介護の現状を訴えたか ったということのようだが、その部分が何ともステレオタイ プなのは興を削ぐというか問題の本質を見失わさせてしまう 感じもした。 正直に言ってこの描き方では原作者の意図にも沿わない感じ で、果たしてこれでいいのかという感じもしてしまったもの だ。もっとストレートに原作本来の味わいを描いて欲しかっ た感じかな。 まあそれだと是枝作品にに過ぎてしまう心配もあったのかも しれないが…。いずれにしてもいろいろな要素を盛り込み過 ぎた感じはする作品だった。言っていることが正しいだけに 勿体なくも感じたところだ。 公開は7月19日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国 順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社渋谷プロダクションの招待で試 写を観て投稿するものです。
『ミッシェル・ルグラン−世界を変えた映画音楽家』 “Il était une fois Michel Legrand” 1964年『シェルブールの雨傘』や1967年『ロシュホールの恋 人たち』などの音楽家の生涯を、多数のフィルムクリップや アーカイヴ映像、関係者へのインタヴュー、生前の密着取材 などを交えて描いたドキュメンタリー。 ルグランは1932年生まれ。11歳でパリ高等音楽院に入学し、 20歳で卒業するまで音楽の基礎をみっちりと叩き込まれた。 そして卒業後はフィリップスのレコード会社で編曲家として 音楽活動をスタート。22歳で最初のアルバムを発表する。 さらに1954年にアンリ・ベルヌイユ監督の作品で映画音楽家 のキャリアを開始。その後はヌーヴェル・ヴァーグの監督た ちと交流し、ジャック・ドゥミ監督と巡り合って数々の名作 を生み出す。 また1967年から1969年まではロサンゼルスにも居住してノー マン・ジュイスン監督の作品などでアカデミー賞🄬 は3度の 受賞に輝いている。そんな音楽家の生涯が描き、語り尽くさ れている。 脚本と監督はデヴィッド・ヘルツォーク・デシテス。カンヌ 市役所の職員ながら就業後には国際映画祭の上映会に潜り込 む程の映画マニアで1999年『ファントム・メナス』に触発さ れてそのファンを描いたドキュメンタリーを制作。 その後は映画のメイキングや予告編の製作会社などを立ち上 げて映画界に入り、2017年からルグランの密着取材を開始。 幼少期からの憧れだった音楽家の最後を描くことになったも のだ。 映画は巻頭からルグランの映画音楽が流れて、正にその時代 に映画を観始めた自分としては懐かしにいきなり引き込まれ てしまった。そこから本作はルグランの生涯やその音楽性の 根源を紐解いて行く。 個人的には『シェルブール』と『ロシュホール』には自分の 映画音楽の原点みたいなところがあって、もちろんそれ以前 のハリウッドミュージカルも観てはいるが、舞台の焼き直し ではない音楽と映画が一体になった作品に引き込まれた。 そんなルブランへの想いもあって本作は本当に楽しませて貰 えた。そしてそこにルグランの親族やクロード・ルルーシュ らの映画関係者、スティングらの音楽関係者がルグランの真 価を語り尽くしてくれる。これは本当に素晴らしい。 さらに日本人の観客にはルグランの親日家の面も強調され、 特に逝去の前年に行われた日本公演の模様や、それ以前の日 本公演ではシャンソン歌手・俳優の高英雄さんとの共演シー ンなどもあって、正に僕のようなファンへの贈り物のように も感じられる作品だった。 この映像を見せてくれたことに感謝したい。 公開は9月19日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 有楽町他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社アンプラグドの招待で試写を観 て投稿するものです。
| 2025年06月15日(日) |
こんな事があった、わたしは異邦人、原爆スパイ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『こんな事があった』 1979年にデビュー作を発表して以来、監督作は5本のみとい う寡作の松井良彦監督が、前作から18年を経て発表した渾身 の最新作。 時代背景は2021年夏。舞台は福島県の帰宅困難地区。そんな 立ち入りも制限されている場所を若者が徘徊している。その 若者の自宅は立ち入り禁止のロープで仕切られていたが、若 者は頓着しない。 そんな若者が警察に職質された時、近くにいた同級生が彼を 救う。そんな2人には様々な絡みがあるようだが…。やがて 若者は海岸で出会った男が営むサーフショップを訪ね、そこ で暮らすようになる。しかし若者の苦悩は終わらない。 出演はお笑いコンビ「まえだまえだ」の弟で2025年4月紹介 『リライト』などの前田旺志郎と、2024年10月紹介『大きな 玉ねぎの下で』などの窪塚愛流。他に柏原収史、八杉泰雅、 金定和沙、里内伽奈、大島葉子、山本宗介。 さらに波岡一喜、近藤芳正、井浦新らが脇を固めている。 前回最後に紹介した『この夏の星を見る』が2020年の話で、 本作の時代背景はその翌年。どちらも主人公は高校生で、未 曾有の災害に翻弄された若者を描いている。しかし前回紹介 の作品が多少の闇はあっても未来への希望を描いていたのに 対して、本作はどうだろう。 因にどちらも実話に基づくものではなく、飽く迄創作された 物語だが、ほんの5日開けて観た両作の落差には唖然として しまった。これはもちろん両作の優劣を語るものではなく、 どちらも真摯に描かれた作品だが。こんなにも違う2つの世 界が存在していることに驚愕したものだ。 そこは当然ながらネガティヴな世界を描いた本作の方がずし りと胸に来てしまうが、こんな両極端な世界を続けて観られ たことには感謝もしたくなってしまった。 それにしても本作に描かれた世界はフィクションとして凝縮 されているとはいえ、正しく日本の歪みが描かれているよう で、ちょうど「東電経営者に責任はない」とする逆転判決が 出た直後の鑑賞には一層重くも感じられた。 この被害者たちへの責任は何処にあるのか、そこを深く考え させられる作品だった。 公開は9月13日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国 順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社イーチタイムの招待で試写を観 て投稿するものです。
『わたしは異邦人』“Gündüz Apollon Gece Athena” 2024年東京国際映画祭<アジアの未来>部門で横浜聡子監督 らの審査員により作品賞に選ばれたトルコの俊英エミネ・ユ ルドゥム脚本・監督による作品。なお映画祭時の上映邦題は 『昼のアポロン 夜のアテネ』というものだ。 主人公はイスタンブールで暮らす女性プログラマー。そんな 彼女が母親の姿を追って古代遺跡が残る地中海沿岸の都市シ デを訪れる。そんな彼女にはフセインという若い男性が付き 添っていたが…。 実は彼女には幽霊と会話する能力があり、フセインも実際は 幽霊。そして彼の幽霊仲間の情報で彼女の母親の姿がシデに あると伝わってきたのだ。そしてこの町で様々な幽霊と交流 する中で彼女は徐々に母親の足跡に近付いていく。 そんな母親は彼女が生まれて間もない頃に行方不明になって おり、残された手掛かりはシデの町で写されたはずの古びた 写真のみ。しかしそこに隠された真実が驚愕の事態を生じさ せることになる。 出演はエズキ・チェリキ、バルシュ・ギョネネン、セレン・ ウチェル、デニズ・デュルカリ。馴染みのない名前ばかりだ が、新鮮な物語を鑑賞するにはそれも有り難い。 因に脚本・監督のユルドゥムは女流で、脚本家・プロデュー サーとしても活躍。過去には短編を複数本発表しており、本 作が長編デビューとなっている。 幽霊が見える設定というと『シックス・センス』などが思い 浮かぶが、そこからこのような進化が行われたという感じの 作品でもある。しかもそこにいろいろ現代的な視点が加わっ ているのも見どころになっている。 そこには家父長制度のようなトルコ=イスラム国に特徴的な ものも含まれるが、全体的には女性の立場の弱さのような普 遍的な部分もあって、日本人にも理解はしやすいものに表現 されている。 そしてもう一つの見どころは異国情緒あふれるシデの風景。 そこには古代遺跡を含めて邦題の「異邦人」も納得の見知ら ぬ風景が登場する。しかも僕はこのシデを含むアンタルヤと いう地名に聞き覚えがあって気になってしまった。 それで頭を捻って調べたら、その地は自分が応援しているJ リーグのチームがCOVID-19禍以前に3度ほどキャンプを張っ ていた場所だった。個人的にはそんなことでの親しみも湧い て楽しめる作品だった。 公開は8月23日より、東京地区は渋谷ユーロスペース他にて 全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社パンドラの招待で試写を観て投 稿するものです。
『原爆スパイ』“A Compassionate Spy” 1997年にソ連のスパイと認定されるも生涯訴追されることの なかった物理学者セオドア・ホールの姿を、1994年『フープ ・ドリームス』などのスティーヴ・ジェームズ監督が再現ド ラマも交えて描いたドキュメンタリー。 セオドア“テッド”ホールは1925年のニューヨーク生まれ、 14歳でクイーンズカレッジに入学。1942年にハーバード大学 に編入して18歳で物理学の学位を取得。その前年からロスア ラモスに最年少科学者として勤務を始めていた。 しかし開発された核兵器の威力にその技術を一国が独占する ことの危険に気付いたホールは、1944年に休暇でニューヨー クを訪れた際にソ連の情報部と接触、以後その研究の成果を ソ連側に流すことになる。 そんなホールは、終戦後の1946年ににシカゴ大学に再入学。 そこで1944年に15歳でシカゴ大学に飛び級入学していた後の 妻ジョーンと出会う。そしてホールがジョーンにプロポーズ と共に告げたのは、ソ連への情報提供の告白だった。 その後は1953年に同じくソ連のスパイとされたローゼンバー グ夫妻の死刑執行を機にイギリスに移住。ケンブリッジ大学 に研究者として勤務して1999年に死去。その前にスパイと認 定されるも裁判には至らなかった。 そんなテッドとジョーンのホール夫妻の姿が、テッド本人の アーカイヴ映像やジョーンへのインタヴューと再現ドラマ。 さらに家族や関係者へのインタヴューと共に描かれる。 なおこの作品はヴェネツィア国際映画祭、アムステルダム国 際ドキュメンタリー映画祭などで公式上映されている。 アメリカは核兵器を戦争で使用した唯一の国であり、日本は 唯一の被爆国とされる。しかし終戦の直前ですでに日本に戦 意の無いことが判明しているにも拘らずなぜアメリカは原爆 を投下したのか。そこがテッドの最大の危惧だった。 そのためテッドはソ連に情報を流したのであり、アメリカだ けが強大化することへの危険を察知していたものだ。因に原 題の‘Compassionate ’は「慈悲深い」という意味。それが この作品の主張だろう。 今や原爆がアメリカ、ロシアの2国というより、2人の大統 領の玩具とされている時代に、この作品は最大の警鐘として 公開されるものだ。 公開は8月1日より広島市八丁座にて先行上映の後、東京地 区は8月2日から渋谷ユーロスペース他にて全国順次ロード ショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社パンドラの招待で試写を観て投 稿するものです。
| 2025年06月08日(日) |
炎はつなぐ、ハオト、この夏の星を見る |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『炎はつなぐ』 2007年『水になった村』などの大西暢夫監督が15年に亙って 日本の伝統技術を守る全国の職人を取材した中から、14人の 職人技を厳選して描いた日本の技の集大成とでも呼べそうな 長編ドキュメンタリー。 映画の始まりは愛媛県大洲市の養蚕農家。日本の産業の根幹 とも呼べる養蚕がやはり最初に紹介される。そこでは年4回 2家族で40万頭もの蚕を育てるという昼夜を分かたぬ不断の 技が紹介される。 続いては長崎県島原市の木蝋。ここでは原料となるハゼの実 を摘むちぎりこと呼ばれる職人や、収穫されたハゼの実を蒸 して木蝋を搾り取る工程などが紹介される。そしてその搾り 残りの用途として福岡県の絣工房が紹介される。 さらに徳島県の製藍所、岡山県のミツマタ農家、岡山県の和 紙職人、金箔職人、塗師屋、漆掻き、灯芯引き、墨職人、真 綿職人、和蠟燭職人など、様々な伝統工芸を支える職人の姿 が描かれる。 出演はそれぞれの職人たちだが、そこには取材に15年を費や して信頼を勝ち得たという大西監督の姿も自然と登場する。 さらには撮影、スチール、ナレーションも監督が担当という ワンマン作品だ。 作品のジャンルとしてはドキュメンタリーとなっているが、 上記のように出演やナレーションも監督自らが担当している こともあって、どちらかというとフィルムセエッセーと言っ た感じの作品だ。 その良し悪しは、例えばそれぞれの伝統工芸の工程などをも う少し詳細に描いて欲しかったかな…という思いはするが、 観易さという点では本作の手法は正しい。特に次々に匠の技 が紹介されるから、それは息をのむような迫力だった。 正直に言って僕自身が技術系の出身なもので、それぞれの技 の巧みさは理解もしやすかった面はあるが。それを立て続け に出されると目くるめくような面白さになっていた。その描 き方にも感動した。 そして言葉は悪いかもしれないが正しく芋づる式とでも言え そうな展開も、実に面白く観させて貰えたものだ。久しぶり に技術が持つ面白さを堪能させて貰えた。 公開は7月19日より、東京地区はポレポレ東中野他にて全国 順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社シグロの招待で試写を観て投稿 するものです。
『ハオト』 1997−98年放送の『ウルトラマンダイナ』などに出演の俳優 丈(小野寺丈)が脚本監督を手掛けた「戦後80周年記念作品」 と銘打たれたかなり捻りのある戦争映画。 時代背景は昭和20年の春から初夏。舞台は山間に建つ精神病 院(?)。そこには戦争に従事したために精神に異常をきたし た患者たちが収容されている。しかしその実態は軍の機密施 設でもあるようだ。 というのもそこには原子爆弾の完成間際に障碍となった博士 や、戦況を予言して虚言症と診断されたがその予言が尽く的 中している「閣下」と呼ばれる男性患者、それに伝書鳩で何 処かと交信している女性患者などがいて…。 そこにさらにハワイ生まれの日系人で二重スパイになるとい う若者が現れて事態が動き始める。一方、軍の上層部ではソ 連を仲介とする和平の道も模索されて、病院でその交渉も始 まるが。 出演は原田龍二、長谷川朝晴、木之元亮、AKB48の倉野尾 成美と村山彩希。さらにマイケル富岡、三浦浩一、片岡鶴太 郎(特別出演)、高島礼子らが脇を固めている。因に丈監督も 出演している。 精神病院を舞台に戦争を戯画化するという作品は他にもいろ いろあったと思うが、さらにそこに未来との交信というアイ デアを盛り込んだのは新趣向かな。昭和 100年という節目の 年の作品とも言える。 ただそのアイデアが生かし切れたかというと少し物足りない 感じもする。どうせならもっと明確にその辺を描いても良か ったのではないかな。せっかくのアイデアが少し埋もれてし まったようにも感じられた。 特にソ連との交渉はソ連の再参戦という歴史上の事実もある 訳だから、もっといろいろな捻りがあっても良かった感じも した。それに第2のアメリカ兵の登場やそれに伴うアクショ ンなどはテーマを損なう気もした。 未来との交信があるのなら、歴史改変とまでは行かないにし てももう少し何かが描けたようにも感じられたものだ。でも まあこういう話が増えているのは、自分としては嬉しいとこ ろではある。 公開は8月8日より、東京地区は池袋シネマ・ロサ他にて全 国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社渋谷プロダクションの招待で試 写を観て投稿するものです。
『この夏の星を見る』 直木賞作家の辻村深月が2021−22年に新聞連載でもって発表 した文庫本で上下巻という長編青春小説の映画化。 時代背景は2020年。COVID-19禍に見舞われた茨城、東京、長 崎県五島の高等学校を巡って物語は展開される。それは疾病 の影響で部活動もままならなくなった校内では、その影響で の苛めなども始まっていた。 そんな中で県外の旅行客を受け入れたことで級友から疎まれ るようになった五島列島の旅館の生徒が、友達から山頂にあ る天文台の見学に誘われる。そこでは見学会そのものは規制 されていたが、ある提案がされる。 一方、茨城県の学校では天文部が毎年の夏合宿で行っていた 手作り望遠鏡によるスターキャッチのイヴェントが出来なく なり失望感が募っていたが、そこに五島の高校から問い合わ せのメールが届く。 こうしてネットを通じてのスターキャッチの構想が高まり、 それに東京に帰省中に島に戻れなくなった転校生も加わって 全国規模でのイヴェントがスタートする。そんな高校生たち の活動が描かれて行く。 出演は、2024年10月紹介『大きな玉ねぎの下で』などの桜田 ひよりと、モデル出身でドラマ出演もしている水沢林太郎。 さらに黒川想矢、中野有紗、早瀬憩、星乃あんな、和田庵、 萩原護、秋谷郁甫、増井湖々、安達木乃、蒼井旬。 また松井彩葉、中原果南、工藤遥、小林涼子、上川周作、河 村花、朝倉あき、清水ミチコ、堀田茜、近藤芳正、岡部たか しらが脇を固めている。 脚本は東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域修了 の森野マッシュ。監督は大阪芸術大学映像学科卒業で話題の ドラマなども手掛ける山元環。共に映画デビューの気鋭が若 さ溢れる作品を作り上げている。 ようやくCOVID-19関連の作品が登場し始めてきたという感じ の中で、本作は正面切って危機管理などを描くような大げさ な作品ではないけれど、市井にあって本当に苦しんだ高校生 たちの姿をリアルに描いた作品と言える。 そしてそこに希望を描けたことも本作のあるべき姿という作 品だろう。しかもそこに天文学という科学がバックボーンと して存在することにも、未来への夢が描ける作品だ。若い俳 優たちがしっかりと演じていることも素晴らしかった。 公開は7月4日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す るものです。
| 2025年06月01日(日) |
KNEECAP ニーキャップ、青春イノシシ ATARASHII GAKKO! THE MOVIE |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『KNEECAP ニーキャップ』“Kneecap” 2017年に結成、同年にデビューした北アイルランドのヒップ ホップトリオが自ら主演して映画化した半自伝的作品。 映画の開幕は北アイルランドと言えば誰しもが思い浮かべる であろう爆弾テロの映像。しかし「本作はそんなことを描く のではない」と宣言して物語は始まる。でも映画は最初から かなり波乱含みの展開となる。 そんな物語の始りは2017年。ドラッグディーラーの主人公が 警察に捕まり、英語での証言を頑なに拒む主人公に対し警察 はアイルランド語の通訳を用意。しかしこの通訳が主人公の 手帳を見たことから思わぬ道が開け始める。 その通訳は音楽教師でガレージにスタジオを作るほどの音楽 マニア。そして手帳に書かれたリリックに感激した通訳は、 それをヒップホップの楽曲にすることを提案。最初は及び腰 だった主人公も徐々にその熱意に動かされる。 こうして主人公の幼馴染も巻き込んでのヒップホップトリオ 「KNEECAP」が結成され、彼らは当時は北アイルランドの公 用語からも排除されて絶滅寸前だったアイルランド語の復権 に向けて動き出す。 しかしそれは政府や警察による弾圧や、さらにリパブリカン と呼ばれる反政府組織内部の急進グループとも対立を招き、 様々な妨害の中でパフォーマンスが繰り広げられてゆくこと になる。 出演は「KNEECAP」のモウグリ・バップ、モ・カラとDJプロ ヴィ。その脇を2012年2月紹介『SHAME-シェイム-』などの マイクル・ファスベンダー、アイルランド出身のシモーヌ・ カービー、ベルファスト生まれのジョシー・ウォーカーらが 固めている。 脚本と監督は北アイルランド出身のリッチ・ペピアット。元 はジャーナリストで長編監督デビューの本作では、英国アカ デミー賞で新人監督の作品としては史上最多の6部門にノミ ネートされ、新人賞に輝いている。 映画の終盤には実写のスナップ写真なども挿入されて、物語 のかなりの部分は実話に基づいていることが判るが。恐らく はフィクションであろう部分との繋がりが巧みで、見事に納 得できる作品になっていた。 ミュージシャンの実生活を基にフィクションを織り込むとい う手法は、1964年『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ! ヤァ!』などでも観られるが、それをかなりハードな描き方 で貫いているのは、彼らの政治姿勢にも合っている。 そしてその政治姿勢を示す彼らのラップの歌詞が全て字幕で 翻訳紹介されているのも嬉しくなった。以前は歌詞の字幕は 著作権協会がうるさかったものだが、本作で歌詞が不明だと 価値は半減する所だった。 さらに映画の最後には「世界中で40日間に一つの言語が失わ れている」というテロップも掲げられて、本作が単にアイル ランド語の問題に留まらないことも教えられた。それも素晴 らしいと言える作品だ。 公開は8月1日より、東京地区は新宿シネマカリテ、ヒュー マントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺他にて全国順 次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社アンプラグドの招待で試写を観 て投稿するものです。
『青春イノシシ ATARASHII GAKKO! THE MOVIE』 4人組のガールズグループ「新しい学校のリーダーズ」のコ ンサートの模様などを記録したドキュメンタリー。 2024年4月カリフォルニアで行われた世界最大の音楽フェス Coachella 2024内のGobiステージにて大トリを飾り、その後 の世界33都市の公演で合計11万人を動員したツアーの千秋楽 =代々木第1体育館でのライヴの模様を中心に、彼女たちの パフォーマンスやファンとの交流などが綴られる。 出演は「新しい学校のリーダーズ」のKANON、SUZUKA、RIN、 MIZYU。他にファンやマネージャーもちょこっと登場する。 監督は、ドキュメンタリー部分を彼女たちが出演した「THE FIRST TAKE」やNHK「おかえり音楽室」などを手掛けてき た清水恵介が担当。 また全体の製作総指揮と監督は、BTSやBLACK PINKのライヴ 映像なども手掛ける韓国CJ 4DPLEX所属のオ・ユンドンが担 当している。 正直に言って音楽には全く疎いもので、グループの名前は聞 いたことがあってもその楽曲などはほとんど聞いていなかっ た。そんな状況で本作を観ていて彼女たちのパフォーマンス には圧倒されるものはあった。 それはコンサート映像としてはしっかりと作られているし、 そこに挿入される彼女たち自身のインタヴューやファンたち の発言、さらにはそれに関連したパフォーマンスなども上手 く作られた作品と言える。 とは言うものこれは正しくファンへの贈り物であって、僕の ような通りがかりの観客には少し距離が置かれてしまう感じ はした。もちろん本作はファン向けを目的としたものである からそれでいいのだが…。 丁度直前に観た上記の『KNEECAP ニーキャップ』がファンで はない僕にも何かをアピールしてきたのに比べると、少し物 足りない気はしてきたものだ。実際彼女たちの楽曲のテーマ が強烈なだけに、その辺を少し描いても良かった気がした。 もちろん本作は彼女たちにとっては初めての作品なのだし、 それはファンオンリーで作られるのは当然のこと。ここから 第2作、第3作と進んだ時に何かが生まれてきたら面白いな とも思わせてくれた。それくらいのポテンシャルは感じた。 因に試写会は2Dだったが、制作会社がCJ 4DPLEXというこ とは4D版もあるのかな? それは試してみたいものだ。 公開は6月6日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社エイベックス・フィルムレーベ ルズの招待で試写を観て投稿するものです。
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