井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2024年03月31日(日) フィリップ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『フィリップ』“Filip”
1920年生まれで1985年に没したポーランド人作家が、1961年
に発表した自伝的とされる小説の映画化(2022年製作)。なお
原作は共産党政権下の検閲の許で発表されたが直後に発行禁
止処分となり、61年後にようやく正規版が出版された。
物語の始りは1941年。主人公はポーランド・ワルシャワのユ
ダヤ人居住区(ゲットー)で生まれ育ったユダヤ人の若者。彼
は恋人とのコンビでプロのダンサーとしての道を歩みだそう
としていた。
ところがそのダンス会場をナチスが襲い、恋人も家族も惨殺
されてしまう。それから2年後、襲撃を偶然逃れた主人公は
フランクフルトの高級ホテルでボウルルームのウェイターと
して働いていた。
それはフランス人に成りすましてユダヤ人の出自を隠すとい
う危険な暮らしぶりだったが、彼にはある手段でナチスに復
讐するという目的もあった。そんな中で主人公は自分を無と
して人に恋することも無かったが…。
1人のドイツ人女性が彼の心に迷い込んで来てしまう。

出演は、監督に彼しかいないと言わしめたポーランド北部ポ
モージェ県出身のエリック・クルム・ジュニア。相手役にド
イツ出身でロサンゼルスで演技を学んだというカロリーネ・
ハルティヒ。
他にフランス生まれで多くのテレビシリーズに出演のヴィク
トール・ムーテレ。オーストリア出身で歌手でもあるゾーイ
・シュトラウプ。ポーランド出身で2023年2月紹介『EOイ
ーオー』などのサンドラ・ドジマルスカ。
さらに2013年『ワレサ連帯の男』などのロベルト・ヴィエツ
キーヴィッチ。イタリア出身で本作映画デビューのジョゼフ
・アルタムーラらが脇を固めている。
脚本と監督はワルシャワ国立高等演劇学校演出演劇科卒業で
ポーランド文化功労章受章者のミハウ・クフィェチンスキ。
本作では配役がヨーロッパ各地から集まったため、撮影現場
はバベルの塔のようだったとのことだ。
僕は原作本の検閲版も正規版も読んでいないし、作者の意図
がどこにあったかも判らないが、映画はR15+指定になるよ
うな描写の作品になっている。ただそれが狙いでないことも
明らかな作品だ。
とは言うものの、後半はかなりメロドラマチックな展開で、
これが原作者の意図通りかは多少疑問には感じた。まあ映画
的にはこれで正解なのだろうが。原作者はもっとナチスへの
抵抗が描きたかったのではないのかな。
特に最後の主人公の行動には違和感を持ったところだ。

公開は6月21日より、東京地区は新宿武蔵野館、シネスイッ
チ銀座、UPLINK吉祥寺、キノシネマ立川高島屋S.C.館他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社彩プロの招待で試写を観て投稿
するものです。



2024年03月24日(日) 革命する大地、東京カウボーイ、劇場版おいしい給食 Road to イカメシ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
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『革命する大地』“La revolución y la tierra”
1982年ペルー・リマ生まれのゴンサロ・ベナベンテ・セコ監
督が、1969年にファン・ベラスコ・アルバラード軍事政権が
行った農地改革を含む様々な改革について検証したドキュメ
ンタリー。
南米のペルーは元々はインカ帝国の中心地だった。ところが
16世紀にスペインが侵略。侵略者は先住民を奴隷化して大農
園経営を開始する。そこでは先住民には僅かな土地を与えて
賃金は支払わず、先住民には教育もなされなかった。
そんな時代が約3世紀続いた19世紀初頭。ペルーでも独立闘
争が起き、国家は独立して共和国となるも先住民の環境は変
わらなかった。そしてこの間に最盛期には1600万人いたとさ
れる先住民の人口は 108万人に激減していたという。
そんな状況は20世紀中葉まで続いていたが、遂に1968年に軍
によるクーデターが勃発。国権を掌握した軍事政権は圧倒的
な国民の支持の許に農地改革を断行。さらには先住民の参政
権制限の撤廃など、様々な民主化の施策を実行する。
ところが同時に行った米国資本に支配されていた石油産業の
国有化やメディアへの統制が国家の国際的な信用を失わせ、
さらに経済情勢が悪化。政権内部のクーデターによって改革
を指導してきたベラスコ大統領は失脚することになる。

そんなペルー共和国の民主化の歴史が、様々なアーカイヴの
映像や音声、社会学者や政治学者、運動のリーダー、さらに
は元ペルー共和国大統領など30人を超える各界の証言者への
インタヴュー。そして2022年6月紹介『アンデス、ふたりぼ
っち』など新旧37本の映画の映像と共に綴られる。
正直に言ってペルーの歴史など知らなかったから、ペルー革
命とまで呼ばれるこの時代の改革のことも知らなかった。そ
れは企業の国有化など共産主義に近い感じもするが、本来軍
事政権は右派的な要素が強いから、それらが巧みに融合して
いたとも言えそうだ。
しかしそんなある種の真っ当とも言える民主化の施策が、紆
余曲折によって頓挫してしまう。軍事政権を指揮したベラス
コにとっては健康上の問題などがあったとは言え正に道半ば
にした失脚だったのであろう。

そんな事実関係が語られるが、作品は現政権から公開自粛の
要請があったものの、ペルー本国では2019年の公開で9万人
を動員。ドキュメンタリーではペルー映画史上最大のヒット
を記録したというものだ。
公開は4月27日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ブエナワイカの招待で試写を観
て投稿するものです。

『東京カウボーイ』“Tokyo Cowboy”
2023年12月紹介『青春ジャック止められるか、俺たちを2』
などの井浦新が、アメリカ映画デビュー&初主演を果たした
作品。
井浦が扮するのは食品関連の商社の営業マン。ブランド農家
の出身を自称して農業や畜産業の改革を勧めているが、その
一方では効率化や不採算部門の切り捨てなども進めているよ
うだ。
そんな主人公は社内結婚も考えているが、その相手は自分の
上司。それは上昇志向もある主人公にはなかなか越えられな
い壁にもなっている。そんな主人公は彼女が開発中止を提案
した案件に、果敢に挑むことを逆提案する。
そこはアメリカモンタナ州にある家族経営の牧場。その牧場
を含む畜産企業を買収した彼の会社は不採算部門のその牧場
を再開発業者に転売する提案だったが、彼はそこに和牛ブラ
ンドを立ち上げる画策をする。
こうして和牛飼育の名人をリクルートしてその地に乗り込ん
だ主人公だったが、さっそくアクシデントに見舞われ、さら
に牧場で働くカウボーイたちの反感も買ってしまう。しかし
その牧場にはある秘密があった。

共演は本作の脚本にも名を連ねるアメリカ在住の藤谷文子。
主にインディペンデンス映画で活躍するラテン系のゴヤ・ロ
ブレス。2009年8月紹介『脳内ニューヨーク』などのロビン
・ワイガート。それに國村隼らが脇を固めている。
監督と原案はUCLAで映画監督の修士号を取得し、一時期
日本に滞在して山田洋次監督の『寅次郎心の旅路』で撮影現
場に参加したこともあるというマーク・マリオット。普段は
ドキュメンタリーを手掛ける監督の初の長編劇映画だ。
それにプロデューサーと原案で、ウォルト・ディズニー・ス
タジオ所属で実写作品の製作総指揮などに名を連ねるブリガ
ム・テイラー。本作は彼にとって初のインディペンデンス映
画と位置付けられている。
そして脚本は、 Netflix作品『忍びの家 House of Ninjas』
の脚本・監督などを務めたデイヴ・ボイルが藤谷と共に手掛
けている。因に藤谷にも短編映画の脚本・監督などで実績が
あるものだ。
台詞には日本語と英語、それにスペイン語が入り混じって、
かなりの文化の輻輳が表現されている作品。そんな中である
シーンのスペイン語の長台詞が字幕なしで提示される。それ
が何とも心に突き刺さって、これは見事だった。
その他にもテキーラの現地風の飲み方や謎の穀物など、いろ
いろ知らなかった文化にも触れられる作品だ。

公開は6月7日より、東京地区はYEBISU GARDEN CINEMA、ヒ
ューマントラストシネマ有楽町他にて全国順次ロードショウ
となる。
なおこの紹介文は、配給会社マジックアワーの招待で試写を
観て投稿するものです。

『劇場版おいしい給食 Road to イカメシ』
過去には2019年12月29日付題名紹介『劇場版 おいしい給食
Final Battle』と、2022年4月紹介『劇場版おいしい給食🌸
卒業🌸』を掲載してきたシリーズのseason3の完結編。
season1、2は共に北関東と思しき田園地帯に建つ中学校が
舞台だったが、season3の舞台は北海道函館市。その港町に
建つ中学校で物語は繰り広げられる。その経緯はseason2及
びその劇行版で描かれているが、特に問題はない。
ただし、甘利田先生にとって本来はその転勤の目的であった
はずのイカメシは、何故か給食に出ていなかったようだ。そ
んな訳で今回の劇場版はそのイカメシに辿り着くまでが描か
れる。そしてもちろんその食べ方もだ。
その一方で、劇場版には必ず絡んでくる校外の動きは、今回
は選挙出馬の政治家が給食の在り方に絡んでくるところから
問題が発生する。それを甘利田先生が論破するところが見ど
ころになるものだ。
その他にも甘利田先生脚本・演出によるクラス演劇なども挿
入され、いろいろ盛り沢山の作品に仕上がっていた。

出演はseason1から連続出演の市原隼人、いとうまい子に加
えて大原優乃、田澤泰粋、栄信、六平直政、高畑淳子、小堺
一機らのシリーズのレギュラー陣。それに劇場版では石黒賢
が新登場している。
企画・脚本の永森裕二、監督の綾部真弥も3シリーズ通して
登板の作品だ。
ただ、前2作の劇場版ではいずれも甘利田先生の任地が替わ
ることがテーマになっていたが、今回はそのような問題には
発展していない。それは次のseason4も函館が舞台というこ
となのかな。
話の途中では沖縄の食材の話なども出ていたが、そちらに行
くという話はないのかな。そんなことが少し気になった。い
ずれにしても人気シリーズのようで、今後も続くことは期待
したい。
それにしても教室の窓の外には雪が舞っているシーンも多く
あり、さすが北海道という感じの作品でもあった。

公開は5月24日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社AMGエンタテインメントの招
待で試写を観て投稿するものです。



2024年03月17日(日) 胸騒ぎ、人間の境界

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
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『胸騒ぎ』“Gæsterne/Speak No Evil”
2007年8月紹介『アフター・ウェディング』に出ていたとい
う俳優のクリスチャン・タフドルップが脚本と監督も務め、
すでに米ブラムハウス社でのリメイクも進行中という2022年
製作のデンマーク映画。
始まりはイタリアの保養地。そこで娘を連れてデンマークか
ら来た3人家族と、息子を連れてオランダから来た3人家族
が出会う。互いに母国語では通じ合わない2家族だったが、
何となく意気投合して再会を誓いあった。
それから数か月後、デンマークの一家の許にオランダの一家
から、無沙汰への詫びと共に田園にあるという自宅への招待
状が届く。その招待に二つ返事で応じることにしたデンマー
クの一家だったが…。
再会した2家族の間で少しずつ行き違いが生じ始め、それは
やがて想像を超えた恐怖へと繋がって行く。

出演は共にデンマーク出身のモルテン・ブリアンとスィセル
・スィーム・コク、それにオランダ出身のフェジャ・ファン
・フェットとカリーナ・スムルダース。いずれも舞台を中心
に活動する俳優で、オランダ人の2人は実の夫婦だそうだ。
作品は、2022年のサンダンス映画祭Midnight部門でワールド
プレミアされて評判になったようだが、海外の論評を観ると
2008年9月にリメイク版を紹介したミヒャエル・ハネケ監督
の『ファニー・ゲーム』と比べているものが多いようだ。
それはまあ後味の悪さという点に関しては比肩するものでは
あるが、ハネケ監督作品のスタイリッシュさというか芸術性
に比べるといかがなものかな。正直に言って泥臭さというか
稚拙さは感じてしまった。
でもまあ最近流行りのYouTuber的なノリで言えばこんなもの
かなあという感じもするし、それが多分若い人に受ける要素
にはなっているのだろう。でも全体的に底の浅さは感じてし
まう作品だった。
もっとも『ファニー・ゲーム』にしても今思うとYouTuber的
なノリではあったのだが、それが1997年に描かれたという先
見性はあった訳だし、何より実行者たちに目的が全く感じら
れないことも驚きだった。
それに比べると本作では、何となく結末では実行者たちの目
的が見えてくるようで、その辺が不満にもなった。とは言え
リメイクはジェームズ・マカヴォイの主演で行われるとのこ
と、それは観てみたいものだ。

公開は5月10日より、東京地区は新宿シネマカリテ他にて全
国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社シンカの招待で試写を観て投稿
するものです。

『人間の境界』“Zielona Granica/Green Border”
1990年『ヨーロッパ、ヨーロッパ〜僕を愛した二つの国〜』
などで3度の米ア賞ノミネートを誇るポーランドの名匠アグ
ニエシュカ・ホランド監督が、ベラルーシ/ポーランド国境
を成す森林地帯で、今起きていることを描いたドラマ作品。
物語の始りはベラルーシに向かう旅客機の機内。そこには乳
飲み児に子供、老人も含めてシリアからスウェーデンを目指
す難民一族や、アフガニスタンを脱出して知人のいるポーラ
ンドでの亡命を願う女性教師らの姿があった。
そんな人々を載せた旅客機はベラルーシの空港に到着。そこ
からポーランド国境に向かう車に乗り換える。ところが国境
を目前にした車は国境警備隊に止められて金銭を要求され、
そこは女性教師が持っていたユーロで何とかするが…。
やがて国境に辿り着いた人々は鉄条網を潜り抜けてEU加盟
国であるポーランドに入国。しかしすでに難民問題が政治化
しているポーランド側は彼らをロシアが送り込んだ人間ミサ
イルと称してベラルーシに押し戻す策に出る。
こうして国境の森林地帯で行き場を失った人々の姿を、当事
者である難民たちと、難民の支援活動を行っている活動家や
地元の人々、それに国境警備隊の若い隊員らの行動を通して
描いて行く。

出演は、シリア生まれの俳優で2011年のシリア革命で逮捕・
投獄・拷問を経験して西側に亡命したというジャラル・アル
タウィル。ポーランド生まれで2017年5月紹介『君はひとり
じゃない』などのマヤ・オスタシェフスカ。
さらにイラン生まれで2018年11月11日付題名紹介『バハール
の涙』などのベヒ・ジャナティ・アタイ、シリア生まれで現
在はダマスカス国立劇場の舞台俳優としても活動しているモ
ハマド・アル・ラシ。
他にダンサー・振付師としても活動するフランス系レバノン
人のダリア・ナウス、2016年アンジェイ・ワイダ監督の遺作
『残像』に出ていたというトマシュ・ヴウォソクらが出演し
ている。
映画の中にも中東やアフリカから西欧を目指した難民の内で
3万人が目的地までたどり着かずに亡くなったという台詞が
出てくるが、国境線に設置された難民キャンプなどの惨状は
既にドキュメンタリーなどで知られていたものだ。
しかし本作はメディアも入れない立ち入り禁止区域での話。
その区域は真実を知られたくない執政者が定めたものなのだ
が、監督らはその規制を掻い潜って証言を集め、闇の中の真
実を暴き出した。
いやはや、正しく人間性を疑う悪夢のような所業が展開され
る。その中には必死に善を行おうとする人たちもいるが、こ
れが今の現実だということも我々は知らなくてはいけない。
正しく人間の境界の彼我の問題だ。

公開は5月3日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に
て全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社トランスフォーマーの招待で試
写を観て投稿するものです。



2024年03月10日(日) ゴッドランド、プロミスト・ランド、#つぶやき市長と議会のオキテ【劇場版】、デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション前章

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ゴッドランド/GODLAND』“Vanskabte land/Volaða Land”
アイスランドの俊英フリーヌル・パルマソン脚本・監督で、
2022年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された作
品。同年度の米ア賞に向けたアイスランド代表にも選出され
ている。
背景は、1944年に独立するアイスランドがまだデンマークの
植民地だった19世紀後半の時代。若い宣教師が司教の指示で
布教ため僻地の村に向かうところから物語は始まる。それは
冬が来るまでに教会の建設を終わらせるという期限付きの活
動だった。
それと同時に司教からは「地元に順応しないと、任務は失敗
する」とも諭される。こうして出発した旅だったが、その行
く手には火山の噴火や雪解けの川の増水など幾多の困難が待
ち受けていた。そんな中をデンマーク語の通じないガイドと
共に旅は進むが…。
事故も起き、仲間を失いながらもそれでも何とか村に辿り着
いた宣教師だったが、教会の建設と共に進める村人との交流
や、彼自身の趣味である写真撮影での気遣いなどが、徐々に
彼の精神を蝕んで行く。そして事件が起き、破綻が始まる。
そんな物語が、アイスランドの大自然と四季の移ろいと共に
描かれて行く。

出演は、監督の前々作『ウィンター・ブラザース』に出演の
エリオット・クロセット・ホーヴとヴィクトリア・カルメン
・ゾンネ、2013年10月26日付東京国際映画祭《コンペティシ
ョン部門》で紹介『馬々と人間たち』に出演のイングヴァー
ル・E・シーグルズソン。
他に監督の前作『ホワイト、ホワイト・デイ』に出演のイー
ダ・メッキン・フリンスドッティル。2018年12月16日付題名
紹介『THE GUILTY/ギルティ』などのヤコブ・ローマン。さ
らにそれぞれ舞台で活動しているデンマークのワーゲ・サン
ドとアイスランドのヒルマル・グズヨウンソンらが脇を固め
ている。
撮影はコダックの35�丱侫�ルムで行われており、その画角は
1.33:1。しかもその四隅が丸くカットされているという、
監督のこだわりの映像が展開されている。これは多分主人公
が行う写真撮影への思いも込められているのだろう。
ただし映画の巻頭のテロップにある「7枚の写真からインス
パイアされた」というのは史実ではなく創作だそうだ。とは
言え如何にも有りそうな物語の展開にはなっている。そして
その写真撮影の下りが重要なポイントにもなっている。
そんな過酷な自然の中に生きる人間の葛藤が見事に描かれた
作品と言うところだろう。この種の宗教家の話はいろいろあ
るが、大自然との対比がアイスランドという風土の中で最大
限に発揮された作品とも言えそうだ。

公開は3月30日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社セテラ・インターナショナルの
招待で試写を観て投稿するものです。

『プロミスト・ランド』
東北地方の猟師マタギの姿を描いて1983年小説現代新人賞を
受賞した飯嶋和一の原作を、2023年にドキュメンタリー映画
『MATAGI』を発表した飯島将史監督が劇映画デビュー作とし
て映画化した作品。
物語の始りは深夜に車を運転する若者の姿。やがて小屋に着
いた若者も加えて集まった5人のマタギ衆は、会長から「今
年の熊猟は中止になった」と告げられる。しかし主人公とも
う1人の若者は納得できなかった。
主人公は生業として山形県庄内で養鶏業を営んでいるが、祖
先はマタギだったという家系に誇りを持っている。しかし自
然保護や鳥獣保護などの風潮がその古来からの職業を蝕んで
いる。そんな風潮に反発する主人公たちだったが…。
やがて集会にいたもう1人の若者が「熊撃ちに行く」と言い
出し、その勢子として主人公に同行を求める。それは猟に成
功しても犯罪者として扱われることを意味していた。しかし
彼らの手には元締めから渡された銃弾も握られていた。

出演は、2023年12月紹介『青春ジャック 止められるか、俺
たちを2』などの杉田雷麟と、2022年9月紹介『月の満ち欠
け』などの寛一郎。他に三浦誠己、占部房子、渋川清彦、小
林薫らが脇を固めている。
製作は美術監督の原田滿生を発起人とするYOIHI PROJECT 。
すでに2023年1月紹介『せかいのおきく』でキネマ旬報ベス
トテン日本映画第1位などの成果を生んでいる製作チームの
第2弾となる作品だ。
昨今は人畜への被害も拡大して熊の駆除への理解は進んでい
る感じだが、この原作の書かれた時代では非科学的で感情的
な環境保護運動なども盛んで、正にこんな状況だったのだろ
う。それは今もあまり変わっていないのかもしれない。
そんな失われつつある古来からの文化に対する想いの籠った
作品だ。それは熊の駆除への理解の高まる今にこそ、適切な
作品になっているとも言える。そしてその思いを監督がしっ
かりと受け止めて描いた作品とも言えそうだ。
厳冬期の庄内地方の風景がしっかりと納められた作品とも言
える。その風景が久々のワイド画面にしっかりと捉えられた
作品でもある。日本の山の風景はワイド画面に良く似合う。

公開は6月29日より、東京地区は渋谷ユーロスペース他にて
全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社マジックアワー/リトルモアの
招待で試写を観て投稿するものです。

『#つぶやき市長と議会のオキテ【劇場版】』
2019年に起きた大規模買収事件で揺れる広島県で、2020年に
急遽実施された安芸高田市市長選挙。その選挙で初当選した
37歳の市長を巡るドキュメンタリー。
安芸高田市は三本の矢の逸話でも知られる毛利元就の居城が
あったということで、昔は広島県の中心であった場所でもあ
るが、現在は農業中心の産業で過疎化が進んでいるといった
状況のようだ。
そんな地方都市で先代の市長が買収事件に関って辞任。その
選挙で政治経験の全くない新人が大差で選ばれる。しかし市
議会には前市長に関連する議員がはびこり、市政は新市長の
思い通りには動かない。
そんな状況に市長はSNSを使って情報発信を開始し、地方
行政の見える化を進めて行くが…。やがて市議会議員の改選
も行われ、市長を支持する新人の当選も果たすが、因習に囚
われた市議会の体制は揺るがない。
そんな地方政治の実態が描かれて行く。

製作は広島ホームテレビ。監督は2022年製作のオリジナルの
番組で「PROGRESS賞」奨励賞を受賞した岡森吉宏。本作はそ
の30分ヴァージョン、50分ヴァージョンを経ての満を持した
劇場版となっている。
最近では2022年8月に紹介した石川テレビ製作『裸のムラ』
など地方のテレビ局が地元の問題を描いたドキュメンタリー
が増えているが、地元密着だからこその問題点の抉り出しと
も言えそうだ。
それは単純には新しい考え方の新市長と旧態依然とした市会
議員との対立にも見えるが、本作では一方的に市長側に偏る
のではなく、市長側の問題点にも言及しており、その辺は公
正な報道姿勢とも言えそうだ。
その中にいろいろな地方政治が抱える問題点が描かれている
のも、普遍的な要素を持った作品と言えるだろう。まあどち
らの側も単純には批判できないもので、その辺を両方の側に
ちゃんと取材しているのも好感の作品だ。
なお映画の前半の選挙戦では登場する議員の多くが真っ赤な
ネクタイをしているのはさすがカープの地元と思わせるが、
それが途中から紫が増えてきて、ユニフォームやサイン球ま
で置かれているのにはニヤリとした。
因に安芸高田市には平成10年からサンフレッチェの練習場が
置かれており、クラブハウスとスタジアムの距離がいろいろ
話題になったりもしているものだ。新市長になってから関係
も深まったのかな。

公開は5月より、東京地区はポレポレ東中野他にて全国順次
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社きろくびとの招待で試写を観て
投稿するものです。

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション前章』
2014年から2022年まで連載された浅野いにお原作コミックス
のアニメーション映画化。2部作で公開される作品の前章。
物語の背景は3年前から東京上空に巨大な宇宙船が浮遊して
いるという状況。しかしその宇宙船とのコミュニケーション
は取れておらず、時折そこから小型の飛行物体が飛立つが、
その小型艇の目的も把握されていない。
そんな状況下で人々は暮らしているが、3年も経つとその状
態は常態となり人々は以前と変わらぬ暮らしを取り戻してい
るように見えたのだが…。その裏側では事態は着実に破滅へ
と突き進んでいた。

アニメーションディレクターは2022年『ぼくらのよあけ』で
監督を務めた黒川智之。キャラクターデザイン・総作画監督
は2017年3月紹介『夜は短し歩けよ乙女』『夜明けを告げる
ルーのうた』などの伊東伸高。
シリーズ構成及び脚本は『夜明けを告げるルーのうた』や、
2018年8月8日付題名紹介『若おかみは小学生!』などの吉
田玲子が担当している。
声優は、主人公の2人には共にミュージシャンでもある幾田
りらとあのが起用されている。因に幾田は細田守監督作品で
声優の経験があるが、あのは初めてのようだ。但しあのには
2023年8月紹介『鯨の骨』などの演技の評価はある。
他に種崎敦美、島袋美由利、大木咲絵子、和氣あず未、白石
涼子、入野自由、内山昂輝、坂泰斗、諏訪部順一、津田健次
郎、杉田智和、TARAKOらが脇を固めている。
かなり圧倒的な世界観を持つ作品だが、そんな中でもある種
の普遍的な物語が展開されるという、その描かれる内容にも
注目できる作品だ。それは3・11以後の日本社会が反映され
ているものでもあるようだ。
とは言うもののそこからの外挿は、巨大宇宙船という特別な
シチュエーションの許で繰り広げられる訳で、それは中々興
味を惹かれるものになりそうだ。しかしそれが本作「前章」
ではまだ始まらない。
但し、いろいろな事象が徐々に開示されて行く展開は観客を
引っ張り続けるものにはなっており、否応なく「後章」を待
ち遠しくなる作品にもなっていた。その「後章」の試写はま
だだが、試写が行われ次第に紹介したいものだ。

「前章」の公開は3月22日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ギャガの招待で試写を観て投稿
するものです。



2024年03月03日(日) バカ共相手のボランティアさ、ドライブアウェイ・ドールズ、毒娘

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『バカ共相手のボランティアさ』
1980年代に福岡を中心とした音楽シーンを牽引し、全国から
海外にまでも影響を与えたとされるバンド=The Swanky'sの
軌跡を描いたドキュメンタリー。
バンドの結成は1981年、ヴォーカルWATCH、ギターLOODS、ド
ラムスBEERの3人で活動を開始。そこに1985年にベースTVが
参加するも1987年に脱退。その後の1989年にベース RADIOが
加わった。
そんなバンドの変遷が各方面への現在のインタヴューと往時
に恐らく家庭用ヴィデオカメラで撮影されたライヴの映像と
共に綴られて行く。それはまあ有り勝ちな音楽ドキュメンタ
リーと言える作品だ。
ただその現在のインタヴューというのが、「バイきんぐ」小
峠英二、「野生爆弾」くっきー!の芸人から、ファッション
業界、「氣志團」綾小路翔、さらに海外の音楽関係者まで、
とんでもない広がりを持つのが驚きだ。
そしてそこに往時のバンドのメムバーへのかなり突っ込んだ
インタヴューが挿入されるが…。それがまあアルコールも入
りながらの発言にはいろいろ確執もあったようで、往時から
のファンには聞きものにもなっていたようだ。
それにしても解散ライヴが1989年1月8日の新宿LOFTという
のはかなりドラマティックな終焉のバンドを描いた作品だ。
ただし本作では、その後の現在に至るまでのバンドの活動も
語られる。

監督は瀬下黄太。実はプレス資料に紹介がなくて、この名前
で検索を掛けたら、福岡でカフェを開くオーナーとのこと。
バンド活動もしており、カフェには音楽関係者も多く集うよ
うで、The Swanky'sの元からのファンのようだ。
そんなファンの思いの丈がたっぷりと注ぎ込まれた作品とも
言えそうだ。以前から書いているように僕は音楽には全く疎
いが、そんな僕が観ていても何となく心が温まる。そんな感
じの作品にもなっていた。
なお題名はかなり過激な雰囲気だが、実はこれは彼らの楽曲
の歌詞の一部で、本作の内容が過激というものではない。

公開は3月15日より福岡県の kino cinema天神にて先行上映
の後、3月22日から東京地区はUPLINK吉祥寺他にて全国順次
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社アイエス・フィールドの招待で
試写を観て投稿するものです。

『ドライブアウェイ・ドールズ』“Drive-Away Dolls”
従来は“コーエン兄弟”として2008年3月紹介『ノー・カン
トリー』でのオスカー受賞など実績を持つイーサン・コーエ
ンが、劇映画では初めての単独監督を務めた作品。
登場するのは共にレズビアンの女性2人。2人は別々に暮ら
していたが、それぞれの事情でフロリダに向うことになる。
そこで交通費を掛けたくない2人は、自動車屋でフロリダま
での中古車の運搬(Drive-Away)を請け負うことにする。
ところがその中古車には、秘かにあるヤバい品物が積まれて
いた。こうして何も知らずに出発した2人の後を品物の本来
の持ち主である組織の連中が追い始める。その連中は暴力的
で、かなりヤバい奴らだった。
一方、2人は行く先々でレズビアン・バーを訪ねたり、勝手
気ままな旅を進めるが…。

脚本はコーエンと、彼の妻でコーエン兄弟の作品の編集など
も担当してきたトリシア・クックとの共同。夫妻は数年前に
まずクックがタイトルを思いつき、そこから脚本を執筆。し
かしこれをコーエン兄弟の作品にするつもりはなかった。
ところがCOVID-19禍で脚本を練り直す内に自分たちでの映画
化を決意。こうしてイーサン・コーエンの単独監督作が実現
したということだ。なお夫妻は先にドキュメンタリー映画の
共同製作を手掛けている。
出演は、2019年『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリ
ウッド』などのマーガレット・クアリーと、オーストラリア
出身でテレビシリーズなどで活躍のジェラルディン・ヴィス
ワナサン。
さらに2018年4月22日付題名紹介『レディ・バード』などの
ビーニー・フェルドスタインと、2019年1月13日付題名紹介
『ビール・ストリートの恋人たち』などのコールマン・ドミ
ンゴ。そしてマット・デイモンらが脇を固めている。
タイトルはDの頭韻を踏んでいるが、クックが思い付いた最
初のタイトルはレズビアンを示す別のDだったそうだ。しか
しそれでは映画館の前に出すのを嫌がる館主もいると考え、
現在のものに変えたとのこと。
そんな始りの作品はとにかく下品でハチャメチャ。しかもそ
こに社会的な意義は込めたくなかったということで、何とも
強烈な作品に仕上がっている。まあ眉を顰める人も多くいる
とは思うが、それも狙いと考えられる作品だ。
因に同性愛者がニューヨークからフロリダに向かうというの
は、『ミッドナイト・カーボーイ』へのオマージュかな?

公開は6月7日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社パルコ・ユニバーサル映画の招
待で試写を観て投稿するものです。
#ドライブアウェイ・ドールズ

『毒娘』
2012年3月紹介『先生を流産させる会』で鮮烈なデビューを
放った2020年3月29日付題名紹介『許された子どもたち』な
どの内藤瑛亮監督が、2017年9月17日付題名紹介『ユリゴコ
ロ』などの佐津川愛美を主演に迎えて、どちらかというと商
業ベースで撮った作品。
プロローグに登場するのは空き家に忍び込んだカップル。そ
んなカップルが家の2階で逢瀬を楽しもうとした瞬間、彼ら
に謎の人影が襲い掛かる。
そして物語は、多分事故物件として格安だったのであろうそ
の家に夫婦と娘の一家が引っ越して来たところから始まる。
その娘は夫の連れ子で、継母のことを「ママさん」と呼んで
いる。それでも継母は健気に父子と暮らしていたが…。
その妻(継母=主人公)は衣装デザイナーで、それを聞き知っ
た近所の主婦が娘のダンスの衣装を頼みに来る。その依頼を
受けた妻は継子の娘と共同でデザインを仕上げ、2人で衣裳
を完成。それは2人の絆を深めることにもなった。
ところがその衣裳を届けた時、依頼主の主婦はその家に潜む
危険な噂を主人公に告げる。それは以前にその家に住んでい
た一家の娘が傷害事件を起こし、街に居られなくなった一家
は転居したが、娘が舞い戻っているらしいというもの。
そしてその娘の行為が一家を巻き込み始める。

共演は共に2006年生まれで9歳から芸能活動を始めたという
植原星空と4歳で女優活動を始めたという伊礼姫奈。それに
2004年『仮面ライダー剣』で俳優デビューの竹財輝之助。
さらに馬渕英里何、凛美、内田滋、クノ真季子らが脇を固め
ている。
脚本は内藤監督と監督の作品を常に支えている松久育記。
またタイトルキャラクターのヴィジュアルデザインを2019年
に映画化された『惡の華』などの原作者の押見修造が手掛け
ているのも話題になりそうだ。なお押見は本作の前日譚をオ
リジナルストーリーで漫画連載も開始している。
原案は
http://kosodatech.blog133.fc2.com/blog-entry-1344.html
に掲載されたブログだそうで、まあfc2.com というのはいろ
いろ刺激的なものだが、これはかなり強烈な物語だ。
それを本作ではさらに強烈なヴィジュアルデザインで盛り上
げているものだが、そのストーリー展開には女性の社会進出
など内藤監督らしい社会的な要素も盛り込まれて中々見ごた
えのある作品になっている。

公開は4月5日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国順
次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社クロックワークスの招待で試写
を観て投稿するものです。


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井口健二