井口健二のOn the Production
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2024年01月28日(日) ロッタちゃん、アイアンクロー、ブルックリンでオペラを、辰巳、追悼:南部虎弾氏

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』
             “Lotta på Bråkmakargatan”
『ロッタちゃん はじめてのおつかい』
         “Lotta 2 - Lotta flyttar hemifrån”
『長くつ下のピッピ』などでも知られるスウェーデンの作家
アストラッド・リンドグレーンが1950年代の後期に発表した
5歳の少女が主人公のシリーズを基に、1990年代に2部作で
映画化された作品が2Kリマスターにより再公開される。
その1作目では、5歳の誕生日を控えたロッタは兄と姉が乗
る自転車に憧れているが、彼女自身には三輪車が宛がわれた
ままだった。そんなロッタは隣の家の納屋にあった大人用の
自転車を引きずり出し…。
その2作目ではクリスマスの前々日にお父さんがツリーを買
い損ね、その年の一家はツリーを飾れないままクリスマスを
迎えることになってしまう。そんな中、ツリーを求めて家を
抜け出したロッタは…。
こんなロッタの生活ぶりが、1作目では春から秋、2作目で
はクリスマスから復活祭に掛けて描かれる。つまり2作を併
せて1年間が描かれるものだ。そしてその中にはいつも不満
だらけのロッタのちょっとした成長も描かれている。
因にロッタがしかめっ面で述べる不満は相手をする人間には
かなりウザいものだが、観客としては自分もそんな不満を持
ったことがあったかな? そんな共感も生じるところがこの
物語のうまさなのかもしれない。

出演はロッタ役に 500人の候補者から選ばれたという撮影時
5歳のグレテ・ハヴネショルド。2007年6月紹介『フロスト
バイト』では成長した姿を見せていた女優のデビュー作だ。
他に母親役のベアトリス・イェールオース、父親役のクラー
ス・マルムベリィ、隣人役のマルグレット・ヴェイヴェルス
はそれぞれ役者だが、姉兄役のリン・グロッペ・スタードと
ムルティン・アンデションは俳優業は続けなかったようだ。
脚本と監督は本作が長編デビューだったヨハンナ・ハルド。
1976年『刑事マルティン・ベック』のスチルカメラマンなど
も務めていたという監督は、後にリンドグレーン原作『カッ
レくんの冒険』(1996年)の脚本なども手掛けている。
なお映画化は原題からも判る通り上の作品が1992年、下の作
品は1993年の順で製作されたものだが、2000年の日本初公開
では1月に下の作品、6月に上の作品と逆順で行われ、今回
もその逆順での再公開となる。
僕も今回は下の作品を先に試写会で観て、その後に上の作品
をオンライン試写で観ることになったが、物語の流れとして
はどうなのかな。気にするほどの問題はなかったと思うが、
少しモヤっとはしてしまった。
内容的には独立したエピソードの積み重ねだから矛盾などは
生じないものだが。ロッタの歯の生え変わりは少し気になっ
たかな?

公開は下の作品が3月1日、上の作品が3月22日より、それ
ぞれ東京地区はYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、
ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国ロードショウと
なる。
なおこの紹介文は、配給会社エデンの招待で試写を観て投稿
するものです。

『アイアンクロー』“The Iron Claw”
2012年11月紹介『マーサ、あるいはマーシー・メイ』でカル
ト集団の恐怖を描いたショーン・ダーキン監督が、1980年代
に一世を風靡したプロレスラー一家=フォン・エリック・フ
ァミリーの栄光と悲劇を描いた実話に基づく作品。
父親のフリッツは必殺技の「アイアンクロー」を武器に悪役
レスラーとして名を成した人物。しかしテキサスを本拠にし
ていた彼の団体は全国的にはマイナーな存在だった。そこで
フリッツは我が子に世界チャンピオンの夢を託す。
そんな一家に次男として生まれたケビンは鍛錬を重ねて見事
テキサス州チャンピオンの座に就くが父親の満足は得られな
い。そして三男デビッド、四男ケリーも参戦し、父親は後続
の2人に期待を寄せ始める。
それでも懸命に兄弟を支援して行くケビンだったが、デビッ
ドが世界チャンピオンへの挑戦を間近にした時、悲劇が一家
を襲う。そしてその後を継いだケリー、さらに五男のマイク
にも連鎖のように悲劇が見舞って行く。
「呪われた一家」という悪名、それは元はと言えばフリッツ
が本名を捨て祖母方の姓フォン・エリックを名乗った時から
始まったとされるものだったが…。

出演は、2016年11月20日付題名紹介『ダーティ・グランパ』
などのザック・エフロンが驚異の肉体改造で主演の他、ドラ
マ『ER』で看護師アビー役のモーラ・ティアニー、2019年
8月紹介『イエスタデイ』などのリリー・ジェームズ。
さらにジェレミー・アレン・ホワイト、ハリス・ディキンス
ン、スタンリー・シモンズ、ホルト・マッキャラニーらが脇
を固めている。
僕自身のプロレスの記憶は1960年代の力道山で途切れている
ものだが、それでも「アイアンクロー」という技の名前は聞
き覚えがあったから、それほど有名だったのだろう。とは言
えその一家の悲劇などは知らなかった。
それはこれでもかと言うほどの悲劇の連続だが、そんな中で
も必死に生きて兄弟を支え続けたケビンの姿には、正しく家
族の絆というものを教えてくれた。今や家族という概念も希
薄になりつつある現代に、一石を投じるとも言える作品だ。
因に劇中の主人公らの行く先々でローンスター旗が振られて
いるのは納得できる風景だった。それにチャンピオンベルト
に日の丸が描かれているのも成る程と思わせた。そんな日本
にも所縁の深い作品だ。
それにしてもエンディングが心に沁みる作品だった。

公開は4月5日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を
観て投稿するものです。

『ブルックリンでオペラを』“She Came to Me”
アメリカを代表する劇作家アーサー・ミラーを父に持つ監督
レベッカ・ミラーが脚本を執筆、その脚本にほれ込んだアン
・ハサウェイが出演とプロデューサーも買って出たちょっと
捻りのあるラヴコメディ?
主人公は新作を期待されながらも5年間スランプ中のオペラ
作曲家。そのパートナーは患者の途絶えない人気の精神科医
だが極度の潔癖症。それでも彼女の連れ子の息子と3人の生
活は円満だった。
ところが彼女の勧めで犬を連れた当て途の無い散歩に出かけ
た主人公は、ふと立ち寄ったバーでタグボートの女船長と巡
り合う。そしてその船に招かれた主人公に怒涛のような展開
が襲い掛かる。それは新作オペラのヒントにもなるが…。

主演はドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』でエミー賞4度
受賞のピーター・ディンクレイジ。共演には2008年8月紹介
『その土曜日、7時58分』などのマリサ・トメイ。さらに
ブライアン・ダーシー・ジェームズ、ヨアンナ・クーリクら
が脇を固めている。
また劇中披露される2曲の現代オペラを、クラシック作曲家
であり、ロックバンドの創設メンバーでもあってその両方で
グラミー賞を受賞というブライス・デスナーが担当。さらに
主題歌はブルース・スプリングスティーンが手掛けている。
映画の前半では現代社会の病巣とも言えるいろいろな事象が
次々に開示され、かなり厳しい物語になるのかなとも思わせ
るが、途中からは正に怒涛の展開。特に結末にはニヤリとさ
せられた。
それにしても前半の展開には、昨年最後に紹介した作品ほど
ではないにしてもかなりアメリカの闇が見える感じで、これ
は日本にも通じるものだが、本作はそれらを一気に笑い飛ば
している感じなのかな。
ただし一部の登場人物に関してはおちょくったままなのは、
監督らの思想的背景がそうなのだろうし、それは小気味よい
感じでもあった。まあ観終わればハッピーという感じの作品
ではある。
なお主人公が作曲するオペラの1曲はエイリアンもののSF
となっており、これは全曲を聞きたくなった。

公開は4月5日より、東京地区は新宿ピカデリー、ヒューマ
ントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋他にて全国ロー
ドショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社松竹株式会社の招待で試写を観
て投稿するものです。

『辰巳』
2015年、第28回東京国際映画祭<日本映画スプラッシュ部門>
にて上映され、同部門の作品賞を受賞した『ケンとカズ』の
小路紘史監督が、同作以来8年ぶりに発表した第2作。本作
は昨年の第36回東京国際映画祭<アジアの未来部門>に正式出
品された。
主人公は違法な死体の処理で裏社会に名前が知られているら
しい男。そんな男が組織の内部抗争に巻き込まれ、若い女性
を連れた逃亡を余儀なくされる。その女性は主人公の元カノ
の妹で、姉を殺した組織への復讐を狙っていた。
そして元カノに数少ない信頼を寄せていた主人公もまたその
想いに駆られて行くが…。

出演は、2021年の話題作『ONODA 一万夜を越えて』にも主演
の遠藤雄弥と、2017年11月5日付第30回東京国際映画祭<コ
ンペティション以外>で紹介『アイスと雨音』で主演の森田
想。
その脇を2019年9月22日付題名紹介『ブルーアワーにぶっ飛
ばす』などに出演の後藤剛範、2023年10月紹介『笑いのカイ
ブツ』などに出演の佐藤五郎。さらに倉本朋幸、松本亮、渡
部龍平、亀田七海、足立智充、藤原季節らが固めている。
実は監督の前作は映画祭で観ていたがその際には諸般の事情
で紹介はしなかった。ただ印象的には暴力シーンが過多で自
分の嗜好には合わなかったかなという感じだ。その点は本作
も同じと言える。
これをフィルムノアールと評価するには、ちょっと美的感覚
が違うようにも思えるし、単に裏組織を描いているというだ
けでは物足りないだろう。それに裏組織の描き方も、こんな
ものでいいのかなあ?
ただその甘さみたいなものが、逆にフィルムノアール的と言
われれば、それはそうなのかなあとも思ってしまうところで
はあった。監督自身のインタヴューではファンタシーと捉え
ているということなので、それで良いとも言えそうだ。

公開は4月20日より、東京地区は渋谷のユーロスペース他に
て全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社インターフィルムの招待で試写
を観て投稿するものです。
        *         *
追悼:南部虎弾氏
南部虎弾氏の訃報に接した。
僕は特に故人と知り合いだった訳ではないが、実は一度だけ
故人と酒を酌み交わしたことがある。
それは1987年か88年の頃で、確か東宝の試写室で『となりの
トトロ』を鑑賞したときのことだ。偶然居合わせた知り合い
の広告代理店の社員が南部氏を連れてきていた。
その試写会は昼間だったもので、その後に時間があった我々
は一杯飲もうということになり、日比谷界隈の居酒屋に席を
取った。
そこで何を話したかは記憶が定かでないが、当時はまだダチ
ョウ倶楽部だった南部氏は途中で携帯電話を掛け、「今日は
行かねえから適当にやっててくれ」というようなことを話し
ていたのは記憶している。
それは当時のダチョウ倶楽部が夕方帯の生番組で「プロレス
天気予報」というコーナーに出演していて、そのコーナーは
プロレスの技を一本決めてから天気予報をするというもの。
いつもは2:2のタッグマッチだったものだが、その日はど
うなったのか。
今回南部氏の履歴を調べていたら、ダチョウ倶楽部からの離
脱は1987年頃とあったから、これは本当に末期の頃だったの
だろう。電話の相手は上島竜兵さんだったのかな。今頃天国
でそんな思い出話をしているのかな。
僕の記憶では、最初に試写室から出て来た時にボロボロに泣
いていた印象があり、その後も少しシャイな感じがあって、
後の電撃ネットワークの芸風からは想像もできないが、そん
な真面目で好印象の持てる人物だった。
今回は調べていて自分より2歳年下だったことも知ったが、
同年代でましてや年下が先に逝ってしまうのは、本当につら
いものだ。
ご冥福をお祈りします。



2024年01月21日(日) FLY!/フライ、湖の女たち、彼女はなぜ猿を逃がしたか?

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『FLY!/フライ』“Migration”
2017年1月22日付題名紹介『SING/シング』などを手掛ける
ユニバーサル・スタジオ/イルミネーションが、同作以来と
なるオリジナルキャラクターで描いたアドヴェンチャーアニ
メーション。
登場するのは合衆国北東部ニューイングランドの小さな池に
暮らすマガモの一家。その地は冬場もしのげるらしく、父鳥
はのんびりした暮しで定住を決め込んでいる。そのため寝物
語は池を飛び出した鳥を襲う怪物の話ばかりだ。
ところがある日、そんな池に北方から渡り鳥の一家が飛来。
彼らは口々に南国の楽しさを吹聴して池を飛び立って行く。
その言動に心を動かされた母鳥と兄妹の若鳥は南国の暮らし
を夢見始める。
そんな家族の声に最初は耳を貸さなかった父鳥だったが…、
遂に家族の声に押されて渡りを決意。叔父鳥も巻き込んでの
初めての渡りが決行される。しかしそこにはとんでもない冒
険が待ち構えていた。

脚本と監督は、2012年6月「フランス映画祭2012」で紹介し
た『アーネストとセレスティーヌ』などのバンジャマン・ル
ネールによるハリウッドデビュー作。脚本には、2004年2月
紹介『スクール・オブ・ロック』などのマイク・ホワイトが
参加している。
声優はパキスタン出身で2017年12月24日付題名紹介『ビッグ
・シック』などのクメイル・ナンジアニと、2023年8月紹介
『コカイン・ベア』などのエリザベス・バンクス。他にオー
クワフィナ、キーガン=マイケル・キー、デビッド・ミッチ
ェル、キャロル・ケイン、カスパー・ジェニングス、トレシ
ー・ガザル、ダニー・デビート。
日本語吹き替えは堺雅人、麻生久美子、ヒコロヒー、黒川想
矢、池村碧彩、羽佐間道夫、野沢雅子、関智一、鈴村健一、
芹澤優、谷山紀章、喜多村英梨、愛河里花子らが担当してい
る。
単純にお子様向けと言ってしまえばそれまでなのだけれど、
物語はそれなりに考えられているというか。人間の登場には
多少のいやらしさはあるけど全体的には純粋な冒険譚として
楽しめる。それは大人の眼でも楽しめるものだ。
特に冒険心を失いつつある日本の若者には心に響く作品にな
るかもしれない。こんな冒険心が若者には必要なのだ。

公開は3月15日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東宝東和の招待で試写を観て投
稿するものです。#映画フライ

『湖の女たち』
2019年9月8日付題名紹介『楽園』などの吉田修一原作を、
2019年6月23日付題名紹介『タロウのバカ』などの大森立嗣
脚本、監督で映画化した作品。なお吉田原作&大森監督では
2013年『さよなら渓谷』が作られている。
琵琶湖畔の介護療養施設で高齢の入居者が不審死。それは誤
動作はあり得ない人工呼吸器の停止によるもので、関係者が
そのアラーム音を誰も聞いていないと証言したことで事件性
を疑わせることになる。
このため地元署のベテランと若い刑事の2人が捜査を開始、
ベテラン刑事は1人の介護士を犯人と決めつけ、様々な手段
でその介護士を追い詰める。ところがそれが思わぬ展開を生
み、警察のやり方に批判が集まるが…。
そのベテラン刑事にはある事件で政治家の介入を受け、捜査
を打ち切られたという苦い過去があった。そして週刊誌の記
者がその事件を掘り返し始める。そこには戦争犯罪に絡む巨
悪が潜んでいた。
やがて第2の事件が起き、週刊誌の記者はネットに拡散され
た動画からある真実を見つけ出す。

出演は2018年9月9日付題名紹介『旅猫リポート』などの福
士蒼汰と、2022年9月紹介『夜、鳥たちが啼く』などの松本
まりか。そして2018年12月9日付題名紹介『あまのがわ』な
どの福地桃子。さらに財前直見、三田佳子、浅野忠信。
他に近藤芳正、平田満、根岸季衣、菅原大吉、土屋希乃、北
香那、大後寿々花、川面千晶、呉城久美、穂志もえか、奥野
瑛太、吉岡睦雄、信太昌之、鈴木晋介、長尾卓磨、泉拓磨、
伊藤佳範、岡本智礼、荒巻全紀らが脇を固めている。
物語は実に多岐に渉るもので、上に書いたストーリーはその
一面しか紹介していないし、恐らくは監督の意図とは異なる
部分かも知れない。従ってネタバレはしていないと開き直り
たくもなるが、この複雑な展開は魅力的だ。
一般的に物語の作り方として「起承転結」という言葉がある
が、起から承への広がり方が尋常ではなく、さらに転の部分
も意表を突く、しかも結の部分の納め方が賛否を生むかもし
れないのも見事なものだった。
こういうザ・物語という感じ作り方は映画の醍醐味と言える
ものだろう。原作小説がどのようなものかは知らないが、正
に映画という感じのする作品だ。これなら原作も読みたくな
る。

公開は5月より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東京テアトル、ヨアケの招待で
試写を観て投稿するものです。

『彼女はなぜ、猿を逃がしたか?』
2023年12月紹介『雨降って、ジ・エンド。』の「群青いろ」
製作で、同作の高橋泉脚本・監督による2022年の最新作。
実際の出来事にインスパイアされたとする作品。その出来事
とは少女が動物園の檻を破り猿を逃がして逮捕されたという
もの。そんな少女の真意を探るため女性記者が取材を開始す
る。しかし少女は話をはぐらかし真意には辿り着けない。
一方、別の男性記者が当日少女と一緒にいた少年の存在を突
き止め、少年が撮影したフィルムを入手。その一コマから捏
造された記事が少女を追い詰める。このため女性記者は少女
を救うための行動に出るが…。
その行動は女性記者自身を窮地に陥れることになる。

出演は「群青いろ」共同主宰の廣末哲万。他に「群青いろ」
常連の新恵みどり、結。さらに藤嶋花音、萩原護、高根沢光
らが出演している。
正直に言ってかなり入り組んだ構成の作品で、物語としての
結末はそれなりに理解はしたのだが、何となくもやもやした
感じは残る。ただまあ高橋監督としては個人的な作品を狙っ
ているようで、その辺の思惑は了解できるかな。
でも不思議な感覚の作品でその辺が嵌ればそれなりに面白く
は感じられるだろう。あくまでも商業ベースの作品ではない
ということのようだ。

公開は2月10日から公開の『雨降って、ジ・エンド。』に引
き続き2月24日より、東京地区はポレポレ東中野他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社カズモの招待で試写を観て投稿
するものです。



2024年01月14日(日) ペナルティループ、DOGMANドッグマン、身代わり忠臣蔵

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ペナルティループ』
2020年発表のデビュー作『人数の町』が話題になったという
荒木伸二脚本・監督による第2作。前作はCOVID-19の影響で
見逃したが、2作ともにSF要素の強い作品のようだ。
物語のプロローグでは、アーティスティックな仕事をしてい
るらしい主人公の部屋から出て行く女性の姿が描かれ、次い
で同じ部屋で朝6時に起床してからの主人公の1日の行動が
描かれる。
そこで主人公は水耕野菜の工場でライン管理の仕事をしてお
り、そこにやってくる電気関係の業者らしき男性に薬物を盛
り、体調を崩した男性を襲って殺害、さらに男性の遺体を川
まで運んで流し去る。
ところが午前0時になった瞬間、主人公は再び朝6時に自分
の部屋で起床し、ライン管理の仕事からやってきた男性を殺
害、その遺体を川に流す行為が繰り返される。それは時間ル
ープに巻き込まれた主人公の姿のようにも見えるが…。

出演は2023年8月紹介『市子』などの若葉竜也、2023年12月
紹介『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』
などの山下リオ、2019年1月20日付題名紹介『翔んで埼玉』
などの伊勢谷友介。
他にジン・デヨン、2023年8月紹介『キリエのうた』などの
松浦祐也、うらじぬの、2018年3月4日付題名紹介『蝶の眠
り』などの澁谷麻美、川村紗也、夙川アトムらが脇を固めて
いる。
主人公の陥っているのが時間ループではなくてヴァーチャル
世界。しかも犯罪被害者の遺族が復讐のために犯人を繰り返
し殺している世界だということは、かなり早い段階で観客に
説明される。
つまりこれは、犯罪被害者の遺族が「(犯人を)何度殺しても
飽き足らない」と言っていることを、字義通りに実現させて
いる世界なのだ。ただし監督はそこにある種の虚しさを同居
させて、字義通りではない状況に昇華させている。
それはテーマとしては面白いし、特に主人公と犯人との関係
の微妙な変化などは、物語の本質は正にそこを描きたかった
のではないかと思わせるほどものだ。とは言えそれが本作で
描き切れたかどうかには疑問を感じる。
それは主人公のアイデンティティがヴァーチャル世界に反映
されていることは理解されるが、それでは犯人側のアイデン
ティティは何処から来ているものなのか? まさか刑務所に
いる犯罪者が協力しているものではないだろう。
その辺の曖昧さが物語全体を薄っぺらなものにしているよう
にも感じてしまった。実際に犯人ではないものを殺しても遺
族は満足できないだろうし、その辺の辻褄をもっと突き詰め
て考えて欲しかったものだ。
その他にも、部屋を出て行く女性の存在が後からいろいろと
説明はされるのだが、こちらも本質の部分が曖昧なままで、
これももっと突き詰めればそれはそれで面白くなったのでは
ないかとも思わせる。
結局いろいろなポイントでもっと面白くなりそうな題材だけ
に、SFファンとしては少しもったいなくも感じてしまった
ものだ。

公開は3月22日より、東京地区は新宿武蔵野館、池袋シネマ
・ロサ他にて全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を
観て投稿するものです。

『DOGMANドッグマン』“DogMan”
2020年3月1日付題名紹介『ANNAアナ』などのリュック・ベ
ッソン脚本、監督で、ある意味、ベッソンが原点に戻ったと
も言える社会への復讐劇。
映画のオープニングは警察によって止められた大型車。その
運転席には女装で負傷した主人公が座り、警察が貨物室を開
けるとそこには10数頭の様々な犬種の犬たちが大人しく警官
たちを見返していた。
一方、シングルマザーの精神科医が警察からの真夜中の緊急
依頼を受け、その依頼に応えて拘置所にやって来た彼女は、
女装の主人公と面会することになる。そしてドッグマンと呼
ばれる主人公が来歴を語り始める。
それは飢餓によって闘争心を高めようとする闘犬ブリーダー
=父親の意向に反して犬たちに食べ物を与え、父親の怒りを
買って犬舎に閉じ込められることになった息子の壮絶な人生
だった。
そんな彼はある事情で救出され、長じて犬の保護センターを
開設するが、その活動も行政の無理解によって閉鎖を迫られ
る。そこで彼が執った手段とは…。社会の底辺で、僅かな支
援も閉ざされることになった主人公の復讐が始まる。

出演は2017年9月24日付題名紹介『バリー・シール/アメリ
カをはめた男』などのケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。
ドラマで活躍し、近日紹介予定の『パストライブス/再会』
にも出演のジョージョー・T・ギッブス。
他にクリストファー・デナム、クレーメンス・シック、ジョ
ン・チャールズ・アギュラー、グレース・パルマ、イリス・
ブリー、マリサ・ベレンスン、リンカーン・パウエル、アレ
クサンダー・セッティネリらが脇を固めている。
狼に育てられた少年という話は聞いたことがあるが、犬に育
てられるとはどういうことか。そんな掴みから物語は丁寧に
描かれて行く。そこには意外性などはあまりないが、正しく
ドラマティックに展開される物語だ。
そしてどん底に落とされて行く主人公に対して常に犬たちが
優しく寄り添っている。「(犬は)人間の美徳はすべて持って
いる。でも一つだけ欠点がある。それは人間への忠誠心」。
これは主人公の台詞だが。正にそんな感じの作品だ。
犬好きが犬好きのために作った作品。でもその陰には人間へ
の不信感が色濃く漂っている。そんな感じの作品にも見える
が、そこには万物を通じての多大な優しさが溢れた作品にも
なっている。ベッソンの真骨頂と言える作品だろう。

公開は3月8日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ
ードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社クロックワークスの招待で試写
を観て投稿するものです。

『身代わり忠臣蔵』
2014年『超高速!参勤交代』などの土橋章宏原作・脚本で、
近年テレビ・映画で活躍の目立つムロツヨシを主演に迎え、
赤穂浪士の討ち入りを背景に奇想天外な歴史フィクションが
展開される。
主人公は江戸の町で怪しげな説法を行っている生臭坊主。実
は高家旗本・吉良家の子息だが、長男のみが家督を継ぐ慣わ
しの許、屋敷を追い出されて出家はしたものの仏門での修行
も中途半端なようだ。
ところが江戸城松の廊下で刃傷発生。切り掛った浅野内匠頭
は切腹となったが、手傷を負った吉良上野介も背中の傷が逃
げ傷と疑われ、このままでは武士の恥としてお家取り潰しと
いう憂き目にもなる。
しかも上野介は申し開きをしないまま他界。この事態に家臣
の斎藤宮内は折よく無心に現れた主人公が上野介と瓜二つな
ことを利用して身代わりに仕立て、難局を切り抜けようと算
段するが…。
幕府重臣への申し開きは首尾よく行ったものの、赤穂浪士た
ちの吉良家討ち入りの機運が高まって行く。そんな折、気晴
らしに出掛けた遊郭で大石内蔵助と親交を結んだ主人公は、
己が絶体絶命の運命を知ってしまう。

共演は、2005年の自らの初主演作『サマータイムマシン・ブ
ルース』以来の再共演という永山瑛太。さらに川口春奈、林
遣都。そして尾上右近、野波麻帆、北村一輝、柄本明、橋本
マナミ、加藤小夏。
また吉良家側で寛一郎、本多力、板垣瑞生。赤穂浪士側では
森崎ウィン、星田英利、廣瀬智紀、濱津隆之、野村康太、入
江甚儀らが脇を固めている。
監督は2008年2月紹介『花影』などの河合勇人。近年は多く
のヒット作を手掛ける監督が手堅い演出を見せている。また
テーマ曲を東京スカパラダイス・オーケストラが手掛けてい
るのも話題になりそうだ。
歌舞伎狂言でもお馴染みの『忠臣蔵』は史実に基づく物語だ
が、本作の物語はそこにちょっと捻りを加えたもの。でもそ
れが却って納得できそうに感じるのは、さすが土橋章宏原作
・脚本と言う感じの作品だ。
しかもそこにハラハラドキドキ、そして巧みな人情味など、
正しくエンターテインメントと言える作品にもなっている。
さらに見事な伏線回収も思わず拍手をしたくなるほどのもの
だった。

公開が2月9日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映株式会社の招待で試写を観
て投稿するものです。


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井口健二