| 2023年12月24日(日) |
梟−フクロウ−、水平線、PLAY!、ボーはおそれている |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『梟−フクロウ−』“올빼미” 1392年から1910年までの 519年に及ぶ朝鮮王朝の歴史を記し た「朝鮮王朝実録」において、毒殺されたとの記述が残る昭 顕世子(ソヒョンセジャ)の史実に基づくフィクション作品。 物語の主人公は盲目の鍼師ギョンス。彼は目が見えない中で 知識と技術を高め、脈を診ることもなく病名を言い当てるな ど才能を発揮して見事に宮廷での職を得ている。そんな彼に は守らなければならない病弱の弟がいたが…。 そんなある日、1637年の丙子の乱以来、人質として瀋陽に囚 われていた世子の帰国が実現する。しかし人質先の清で勉学 を積んだ世子と父王仁祖との間には確執が生じており、宮廷 には只ならぬ雰囲気が漂い始める。 それでも宮廷の健康維持に奮闘し、特に世子が祖国に残した 息子の健康を診ていたギョンスには世子も称賛の目を向ける ようになり、夜間は僅かな視力が生じる彼に特別なレンズが 下賜されるなど親交も生じていた。 ところがそんな世子が突然病に倒れ、駆け付けたギョンスは その病状に只ならぬものを感じる。そしてギョンスは暗闇の 中で世子が謀殺されたことを知ってしまう。しかもその首謀 者を示す証拠も存在した。 脚本と監督は2005年『王の男』で助監督を務めていたという アン・テジンのデビュー作。2005年作もフィクション化され た歴史劇だったものだが、本作ではさらにフィクションの部 分で見事な展開が描かれている。 出演は2019年11月紹介『スピード・スクワッドひき逃げ専門 捜査班』などのリュ・ジョンヨル。国王役には『王の男』や 2018年3月11日付題名紹介『タクシー運転手約束は海を越え て』などのユ・ヘジン。 他にチェ・ムソン、チョ・ソンハ、パク・ミョンフン、キム ・ソンチョル、テレビシリーズで人気を得て本作でスクリー ンデビューのアン・ウンジン、2023年2月紹介『不思議の国 の数学者』などのチョ・ユンソらが脇を固めている。 正直に言って朝鮮王朝の歴史などはたまに映画で見知る程度 で、ほとんど理解の外にあるものだが、それでもそこに盛り 込まれたフィクションの面白さが本作を際立たせている感じ がする。 暗視の目という設定は2004年7月紹介『リディック』などの 先例はあるが、本作ではそれをしっかりと描き切っており、 ドラマや物語の展開も見事な作品と言える。これぞ歴史フィ クションという感じの作品だ。 公開は2024年2月9日より、東京地区はヒューマントラスト シネマ有楽町、新宿武蔵野館他で全国ロードショウとなる。
『水平線』 2008年5月紹介『ビルと動物園』などの俳優小林且弥が、同 作の監督齋藤孝の脚本を基に、2023年10月紹介『マリの話』 などのピエール瀧の主演で映画化した監督デビュー作。 主人公は福島県の港町で海洋散骨事業を営む男性。それは委 託された遺骨を細かく砕き、水溶紙に包んで船上から海に流 すというものだ。そしてその海は、津波で行方不明のままの 人々が眠る鎮魂の海でもある。 そんな男性の許に骨壺を持った1人の男が現れ、散骨を依頼 する。しかし必要な書類が揃っておらず、主人公は一時遺骨 を預かることにするが、その遺骨には曰くがあり、主人公は トラブルに巻き込まれて行くことになる。 そしてそのトラブルは、周囲の人々や唯一人の家族である娘 との確執も生むことになり…。 共演は2019年8月4日付題名紹介『左様なら』などの栗林藍 希、2022年6月紹介『激怒』などの足立智充、2012年7月紹 介『鍵泥棒のメソッド』などの内田滋、2019年7月紹介『超 ・少年探偵団NEO Beginning』などの押田岳。 さらに円井わん、高橋良輔、清水優、遊屋慎太郎、大方斐紗 子、大堀こういち、渡辺哲らが脇を固めている。 物語の背景には3・11の震災があり、主人公には津波で行方 不明のままの家族がいるといった設定もある。そんな状況で の散骨業ということになるが、さらにそこからの屈折もなま じではないという感じになる。 それは主人公の問題だけではない様々な要素が絡み合ったも ので、その展開にも強く心を惹かれるものがあった。実際に 本作に描かれたドラマは、単に震災の後遺症を描いただけに は留まらないものだ。 因に本作は、2018年に小林が初めての舞台演出を依頼された 際に齋藤孝監督と共に企画したものだったそうだ。ところが その企画はCOVID-19の影響などで頓挫し、舞台演出デビュー は他の作品で行ったとのこと。 しかし福島での取材活動などが心に残る小林は新たに映画監 督デビュー作品の題材として本作を再考、最初から主演に希 望していたというピエール瀧を迎えて実現に漕ぎ着けたもの だそうだ。 従って本作に描かれた屈折は、恐らくは福島での取材の中で 感じ取られたものであったのだろうし、そんな外部の人間に は窺い知れない苦しみが描かれた作品とも言えそうだ。 公開は2023年12月にフォーラム福島で先行上映の後、東京地 区は2024年3月1日よりテアトル新宿他にて全国ロードショ ウとなる。
『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』 特定非営利活動法人北米教育eスポーツ連盟日本本部調べで 【eスポーツ】を題材にした日本初の劇映画と称する作品。 主人公は徳島の高等専門学校に通う生徒3人。1人目は学力 優秀だが怪我で挫折し人間関係が上手くできない。2人目は 学内の人気者だが家庭に問題を抱えている。そして3人目は Vtuberに嵌ってリアルな友人関係が持てない。 そんな3人がひょんなことからチームを組み、全国高校eス ポーツ選手権に挑むことになる。とは言うものの競技ゲーム で全国有数の腕前を持つ1人以外は全くの初心者、それでも 巧みな駆け引きで全国大会出場を勝ち取るが…。 物語はそんな全国大会出場までのチームの進捗と共に、個々 の家庭内での問題なども描いて行く。それはまあ青春映画の 定番というような感じの展開の作品だ。そこにゲームの映像 などが挿入される。 出演は、2023年3月紹介『Village/ヴィレッジ』などの奥平 大兼、MEN'S NON-NOモデルオーディショングランプリ受賞者 で2019年10月6日付題名紹介『決算!忠臣蔵』などに出演の 鈴鹿央士。他に山下リオ、小倉史也。 また花瀬琴音、斉藤陽一郎、冨樫真、山田キヌヲ、薬丸翔、 夏生大湖、岩本晟夢、徳留歌織、杉山ひこひこ、村上航、胡 桃のあ、西間木冠、味元耀大、和田聰宏、古舘佑太郎、三浦 誠己らが脇を固めている。 企画・プロデュースは「天外魔境シリーズ」などを手掛ける クリエーターの広井王子、脚本はテレビ小説『ブギウギ』な どの櫻井剛、監督は2020年3月22日付題名紹介『のぼる小寺 さん』などの古厩智之が担当した。 物語の背景は2018年に第1回大会が開催された全国高校eス ポーツ選手権。この大会では実際に徳島の阿南工業高等専門 学校が全国大会に出場しているものだが、そこに盛り込まれ た青春ドラマの展開はあまりに定番過ぎるかな。 今更こんな青春模様は恥ずかしくもなるが、でもまあ挫折や はぐれものの中で育まれる友情の尊さみたいなものは、ど定 番の展開の中でこそ発揮されているもの。これは永遠に不滅 なものなのかもしれない。 ただゲームの映像にはもう少し工夫が欲しかったかな。特に 決め技で同じ映像が繰り返されるのは興ざめ。因にこの映像 は大会の公式ページの動画にも登場するもので、実際にこの 通りだったのだろうが、映画的には工夫が欲しかった。 とは言え、eスポーツでも友情や絆が育まれるというのは、 企画者の言いたいところではあるのだろうし、それを定番の 青春ドラマで描くのは常套ではある。その意味では巧みに作 られた作品なのだろう。 公開は2024年3月8日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷 他にて全国ロードショウとなる。
『ボーはおそれている』“Beau Is Afraid” 2018年10月紹介『ヘレディタリー/継承』、2019年12月2日 付題名紹介『ミッドサマー』に続くアリ・アスター脚本、監 督による上映時間 179分の第3作。 主人公のボーが暮らすのは終末を思わせる荒んだ都会にある アパートの一室。極度の心配性のボーは医師から飲み薬を処 方されるが、それは水無しで飲むと死ぬかもしれないという 劇薬だった。 そして夜になり、翌日母親を訪ねるため早朝の飛行機便を予 約したボーは早く寝ようとするのだが、突然ドアが叩かれ、 ドアの下から「静かにしろ」という手紙が差し込まれる。そ れは全く身に覚えのないことだった。 ところがその抗議は夜中じゅう繰り返され、ようやく寝つい たボーが起きたのは飛行機の出発にぎりぎりの時間。しかも パニックになったボーが処方された薬を飲むと水道が断水に なっており、慌てて水を求めたボーは…。 まず不穏な雰囲気の中で物語がスタートし、そこからとんで もないドタバタ劇が繰り広げられて行く。 主演は2019年4月21日付題名紹介『ゴールデン・リバー』な どのホアキン・フェニックス。共演には2012年6月紹介『白 雪姫と鏡の女王』などのネイサン・レーン、2022年12月紹介 『WORTH 命の値段』などのエイミー・ライアン。 他にスティーヴン・マッキンリー・ヘンダースン、ヘイリー ・スクワイアーズ、ドゥニ・メノーシェ、カイリー・ロジャ ーズ、パーカー・ポージー、パティ・ルポーンらが脇を固め ている。 心配性の裏に潜むトラウマなど、現代人が陥りそうな恐怖が 次々に提示され、それが無声映画時代のスラップスティック を髣髴とさせるドタバタやアクションの連続の中で展開され て行く。 しかも上映時間は約3時間の長尺。それをしっかりと描き切 るのだから、これは鬼才というよりもはや怪物としか言いよ うのない監督の作品だ。それにしてもトラウマの正体がこれ とは…、監督は小松左京の読者なのかな? 兎にも角にもすさまじいエネルギーで、いやはや参りました としか言いようのない作品だった。 公開は2024年2月16日より、東京地区はヒューマントラスト シネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン池袋、TOHOシネマ ズ日比谷他にて全国ロードショウとなる。 * * 以上で今年の更新は終了。2023年は試写会で 181本を鑑賞 させていただきました。とは言えこの本数でベスト10の選定 などはおこがましいので、そのようなことは控えさせていた だきます。 なお 181本の内で先週鑑賞した1本は情報開示の規制のた め保留となっており、その作品の紹介は2月第1週にさせて いただきます。また年末年始は試写鑑賞の予定を入れていま せんので、次回の更新は1月第2週となります。
それでは良い年をお迎えください。
| 2023年12月17日(日) |
雨降ってジ・エンド、フィリピンパブ嬢の社会学、コヴェナント約束の救出 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『雨降って、ジ・エンド。』 2016年4月紹介『秘密 THE TOP SECRET』などの脚本を手掛 ける高橋泉と、高橋脚本の2013年『凶悪』などに出演の廣末 哲万による映像ユニット「群青いろ」製作で、2007年に公開 された前作以来17年ぶり劇場公開という作品。 主人公はフォトグラファーを目指している若い女性。しかし 自分が何を撮るべきなのか迷っている。そんな女性が雨宿り で飛び込んだ空店舗で、ピエロの扮装の男性に遭遇。咄嗟に 撮った写真がSNSでバズることになる。 そこでそのピエロの男性を追い始めた女性は、本人の許可を 得てピエロの生活ぶりを撮り始めるが…。バズりを狙うばか りの彼女の写真はプロの眼からは酷評されてしまう。そして 落ち込む彼女をピエロは優しく受け止めてくれた。 こうしてピエロに信頼を寄せるようになった女性は、ピエロ のために何でも希望する写真を撮ってくると提案するが、そ こでピエロが求めた写真には彼女の恋心を拒絶するある秘密 が隠されていた。 出演は、2020年2月23日付題名紹介『街の上で』などの古川 琴音。その相手役に廣末哲万。他に「群青いろ」常連の大下 美歩、新恵みどり。それにアメリカ生まれでMEN's NON-NOの 専属モデルでもあった若林拓也らが脇を固めている。 脚本と監督は高橋泉。本作はゆうばりファンタスティック映 画祭2022にてワールドプレミアされ、なら国際映画祭2022、 第15回下北沢映画祭などでも上映されたものだ。 本作のタイトルを入力して行くと予測変換で「雨降って地固 まる」が出てくる。上記の題名とは正反対の意味合いだが、 正にそこが狙いなのだろう。実際に映画の内容はかなりの賛 否両論を呼びそうなものだ。 それはこのピエロの位置に立った時に、そこには単なる差別 以上の苦難を感じさせる。実際にこれはある種のLGBTと 同様の障害であるはずなのだ。しかしこれには犯罪の要素も 強く指摘され、LGBT以上の差別感が生じる。 この映画はそんな究極の問題に足を踏み入れている。そこに は映画に新たな地平を切り開こうとする、そんな意識も感じ られた。これからの時代、社会を考える上で深く考察すべき 作品とも感じた。 コメディと呼ぶのは内容的にはかなりきついが、しっかりと したコメディ作品ではある。 公開は2024年2月より、東京地区はポレポレ東中野他にて全 国順次ロードショウとなる。
『フィリピンパブ嬢の社会学』 ジャッピーノを描いた2022年12月紹介『世界は僕らに気づか ない』で脚本監修を務めた中島弘象氏の同名著作(新潮社刊) を基に、2008年6月紹介『能登の花ヨメ』などの白羽弥仁監 督が描いた日本に暮らすフィリピン人女性を巡る物語。 主人公は愛知県春日井市で「就職には新卒が有利」という周 囲の声を振り切って地元大学の大学院に進んだ学生。そこで 国際関係学を専攻する彼は研究テーマとしてフィリピンパブ に勤める女性たちの実態の調査を始める。 そのためフィリピンパブに入店した彼は1人の女性と付き合 い始めるが…。そこには偽装結婚やヤクザの後ろ盾など様々 な闇が広がっていた。そんなフィリピンパブ嬢の実態が描か れて行く。 出演は、主演は2011年3月紹介『奇跡』以来で単独主演は初 という前田航基。相手役にオーディションで選出されたフィ リピン生まれで12歳の時に来日したという一宮レイゼル。 他に2022年『PLAN75』などのステファニー・アリアン、4歳 からモデル活動をしているという浦浜アリサ。さらに近藤芳 正、勝野洋、田中美里、仁科貴、津田寛治、2019年12月22日 付題名紹介『東京不穏詩』などの飯島珠奈らが脇を固めてい る。 正直に言ってフィリピンパブの実態などは良く知らなかった が、以前はタレントヴィザなどで比較的容易に入国できたも のが近年は厳しくなったのだそうだ。そこで偽装結婚という 手段が登場し、そこには裏社会の暗躍があるという。 そんな訳で彼女たちには相当な搾取があると考えられるが、 それでも母国への仕送りで大家族の生活が賄え、比較的大き な家も持てるというのだから、これをもっと健全に行えるよ うにするのが日本という国家の責任のようにも感じる。 タイトルに「社会学」とあるのは、そういう意味にも捉えら れると思ったものだ。とは言うものの、映画化がどこまで実 話に則しているかは知らないが、一大学院生が良くここまで やったとも思える作品だった。 なお映画はコメディタッチで描かれており、気楽に楽しむこ とができる。そこに前田航基のキャラクターが良くマッチし ているとも言える作品だ。 春日井市市制80周年と銘打たれた作品で、公開は2023年11月 から愛知県内各地で先行上映の後、東京では2024年2月17日 より新宿K's cinema他にて全国ロードショウとなる。
『コヴェナント約束の救出』 “Guy Ritchie's the Covenant” 2023年8月紹介『オペレーション・フォーチュン』などのガ イ・リッチー監督が初めて戦争映画に挑戦し、アフガニスタ ンで現在も続いている状況を描いた作品。 物語の背景は2018年3月、アフガン駐留の米国軍はタリバン の武器や爆発物の隠し場所の捜索に明け暮れていた。そんな 中で主人公の小隊は爆弾テロで通訳を失い、その後任にやっ てきたのは他隊で問題があるとされた男だった。 しかし主人公はその男を採用し、男は期待以上の実力を発揮 する。こうして主人公の信頼を得た通訳だったが、武器庫の 掃討に向かった小隊がタリバンの反撃を受け、主人公と通訳 以外が殲滅されてしまう。 このため2人は基地までの遠路をタリバンの追跡を受けなが ら潜行することになるが…。主人公は途中で瀕死の重傷を負 い、そんな主人公を通訳の男はあらゆる手段を駆使して基地 まで連れ戻した。 その後の主人公は傷も癒えて家族の許に帰国するが、実は通 訳の家族には約束されていた米国ヴィザが発給されず、タリ バンの標的となって行方が判らなくなっていた。この事態に 主人公は国家の支援なしに救出に向かう。 出演は、2019年4月21日付題名紹介『ゴールデン・リバー』 などのジェイク・ギレンホールと、イラク出身でデンマーク で活動する2016年9月紹介『ある戦争』などに出演のダール ・サリム。 他にエミリー・ビーチャム、ジョニー・リー・ミラー、アレ クサンダー・ルドウィグ、アントニー・スター、ボビー・ス コフィールドらが脇を固めている。 映画の最後には2021年に米国軍が撤退し、タリバンの支配と なったアフガンでは多くの元通訳が処刑され、さらに多くの 通訳とその家族が逃亡生活を強いられているとのテロップが 掲示される。 実際にリッチー監督はその状況を伝えるBBCのドキュメン タリーから本作の企画を立ち上げたとも伝えられており、現 況はかなり厳しいようだ。そんなメッセージ性も強く謳われ た作品になっている。 それにしても本作全編に漂う緊張感は只ならぬもので、実際 に 123分の上映中は息継ぎもままならない感じがした。正に ここが戦場でその現場にいるという感覚にもなった。見事な 演出の作品だ。 上記の『ある戦争』の紹介記事でも書いたが、反戦を謳って 戦闘を描く作品を僕は信用していない。しかし本作は反戦を 謳っているのではなく、戦争がもたらす様々な愚かしい事象 を描いているもので、そこを高く評価するものだ。 公開は2024年2月22日より、全国ロードショウとなる。 * * なおこの週はもう1本試写を観ましたが、映画評の解禁が 2024年1月30日午前8時以降とされているため、本ページで の紹介はそれ以降とさせていただきます。
| 2023年12月10日(日) |
ピアノ 2 PIANOS 4 HANDS、かづゑ的、青春ジャック |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ピアノ 2 PIANOS 4 HANDS』“2 Pianos 4 Hands” 1996年にトロントで初演、1997年にはオフブロードウェイ、 その後は2004年東京など世界 200都市以上で公演され、カナ ダ演劇史上最も成功したと言われる舞台劇。そのオリジナル キャストによる最終公演を収録した2013年製作の作品。 開幕すると舞台の上には2台のグランドピアノが設置され、 そこに2人のピアニストが登場して演奏が始まるのだが…。 ここまでにもいろいろあって、客席は笑いの連続となる。 こうして始まった芝居は、一方が生徒となって他方の教師役 とのやり取りや、ライヴァル同士となっての争い、資格を得 るための試験官との駆け引きなど、ピアニストあるあるなの かなと思わせる様々なシチュエーションが演じられる。 それが2台のピアノとタキシードを着た2人の男性だけで演 じられるのだが、さらにそこにはそれぞれの生徒の成長や栄 光、挫折なども描かれる。そしてその芝居に併せて2人の演 者による超絶な演奏が繰り広げられる。 企画、演出、出演はテッド・ダイクストラとリチャード・グ リーンブラット。2人は共にカナダ出身で受賞歴も多数ある というベテラン演技人。そんな2人が1994年にコンビを組み 本作の制作を開始。 そしてトロントの劇場で1995〜96年シーズンの演目に選出さ れて1996年4月に初演。その舞台は初日から批評家に絶賛さ れてチケットの売り切れ回が続出。同年のカナダ演劇界の各 賞を受賞したということだ。 僕自身が幼少期にピアノを習っていたことがあり、小学校の 高学年では家庭教師から音楽理論みたいなものも学んだ記憶 が甦って、特に本作の前半では生徒と教師とのやり取りなど にニヤリとしてしまった。 僕の場合は別段プロを目指すというようなレヴェルではなか ったが、転調などのテクニックは懐かしくもあったものだ。 そんなレヴェルで観ていて実に楽しめる作品だった。音楽に 親しむことの多い最近の若い人ならもっと楽しめるかな。 なお劇中ではバッハ、ベートーヴェン、モーツァルトから、 ショパン、グリーグ、シューマン、リスト、そしてビリー・ ジョエルまで、実に様々な楽曲が演奏される。それも聴きも のの作品だ。 公開は2024年3月22日より、東京は築地東劇、大阪はなんば パークスシネマ他にて、松竹ブロードウェイシネマの一環と して全国順次限定ロードショウとなる。
『かづゑ的』 2019年2月24日付題名紹介『作兵衛さんと日本を掘る』など の熊谷博子監督が、『長い道』(2011年刊、みすず書房)など の著者宮��かづゑさんに8年間、寄り添うように撮影された ドキュメンタリー。 撮影場所は岡山県にある国立ハンセン病療養所長島愛生園。 1928年生まれのかづゑさんは10歳の時に入園し、以来ずっと そこで過ごしてきた。そんなかづゑさんを描くドキュメンタ リーの撮影は2016年に開始された。 その撮影初日、かづゑさんは入浴を撮影して欲しいと言った という。その映像では片脚をひざ下から失った肢体や、指の 無い手なども克明に撮影されている。「いい格好していては 本物は出せません」。それがかづゑさんの主張だそうだ。 一方、かづゑさんは自らを「らい患者」と呼ぶ。それは「そ の病は古来からあったものだし、別段ハンセンさんが作った ものでもない」ということだ。確かに元々あった病気に細菌 を発見しただけの人の名を付けるのは変かもしれない。 そんなことを厳然と言い放つかづゑさんには、自分の人生に 誇りを持っている、そんな凛々しさも感じたものだ。そして その人生が 119分の映画の中で紐解かれて行く。それは差別 というだけでは済まされない壮絶なものだった。 実は僕自身の娘が東京都東村山市にある多磨全生園に勤務し ていて、以前からこの病の患者が受けてきた差別に関しては 其れなりの関心を持っていたが、そんな目で見ていてもこの 作品が実に丁寧に描かれていることを気付かされた。 それはかづゑさんの家族写真やアーカイヴ映像の提示だけで なく、かづゑさんを「らい患者」であることを超えて1人の 女性として観続けているからであって、その監督の寄り添う 気持ちが作品を素晴らしいものにしているとも感じた。 それにしてもこの作品では、中で語られる言葉の一つ一つに 強く且つ重大な意味を持つようにも感じられた。それは敢え ていう差別行政の問題であり、その一方で個人の中に巣くう 差別意識の問題でもある。 そんな差別意識がSNSなどでの誹謗中傷を生み出す、そん な時代に一石を投じるような作品にも思えた。らい病を超え た大きな問題がこの作品には描かれている。そんな評価も出 来る作品だ。 公開は2024年3月2日より、東京地区はポレポレ東中野他に て全国順次ロードショウとなる。
『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』 2018年7月29日付で題名紹介した白石和彌監督作品の続編。 前作の1970年代から時代は流れ、ヴィデオの普及が始まった 1980年代に若松孝二監督が名古屋に開館したミニシアター、 シネマスコーレの黎明期が描かれる。 物語の始まりは1982年。主人公の木全純治は故郷の名古屋で 流行り始めた家庭用ヴィデオカメラの営業に勤しんでいた。 そんな木全に1人の男性が声を掛ける。その主は若松孝二、 若松は名古屋で映画館を開館しようとしていた。 実は木全は、東京の文芸坐で上映作品の選定などを行ってい たが結婚を機に職を辞して名古屋に戻っていた人物だった。 そんな人物を若松は口説き落とし、彼の妻の理解もあって開 館する映画館の支配人に抜擢する。 それはヴィデオの普及で、世間的には映画館の行く末に暗雲 が立ち込めていると思われている時代だったが…。そんな映 画館シネマスコーレには若い世代の映画人が集まってくる。 その中に18歳の井上淳一もいた。 企画・脚本・監督は前作の脚本を手掛けた井上淳一。企画と プロヂューサーにはシネマスコーレ支配人の木全純治も名を 連ねている。 実は井上には前作の続編を要望する声が多く届いていたとい う。そんな中でシネマスコーレのドキュメンタリー映画が公 開され、そのパンフレットに寄稿した井上は本作の企画を口 走り、それに木全支配人が呼応した。 そんなことでスタートした企画だが、いざ脚本を書き始める とドラマが足りない。そこでふとト書きに「井上淳一(18)が 歩いてくる」と書いた時には、冷や汗が出たと本人がプレス 資料に書いているものだ。 出演は若松孝二役に前作に引き続いての井浦新、木全純治役 には東出昌大、そして井上淳一役に2018年11月25日付題名紹 介『半世界』で主人公の息子役を演じていた杉田雷麟、それ に芋生悠。 他にコムアイ、田中俊介、向里祐香、成田浬、吉岡睦雄、大 西信満、タモト清嵐、山崎竜太郎、田中偉登、高橋雄祐、碧 木愛莉、笹岡ひなり、有森也実、田中要次、田口トモロヲ、 門脇麦、田中麗奈、竹中直人らが脇を固めている。 結果的に物語は若い映画人の成長を描くことになっており、 それは前作の門脇麦の役柄とも重なる。しかし彼らを取り巻 く環境の違いが時代を反映しており、それは両作を見比べる と面白さにもなる。 そんな何時の時代にもいて、現代にも通じる映画ファンの姿 を描いた作品とも言えそうだ。 公開は2024年3月15日より、東京地区はテアトル新宿他にて 全国順次ロードショウとなる。
| 2023年12月03日(日) |
犯罪都市 NO WAY OUT、ダム・マネー ウォール街を狙え! |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『犯罪都市 NO WAY OUT』“범죄도시3” 2017年7月紹介『新感染ファイナル・エクスプレス』などの マ・ドンソクの主演で2018年2月11日付題名紹介作品からの 第3弾。因に前作の後には『犯罪都市 THE ROUNDUP』という 第2弾があったようだが、ヴィエトナムが舞台だったという その作品はCOVID-19の影響で見逃したものだ。 本作の時代背景は2015年。前作からは7年後となっている。 そして主人公はソウル広域捜査隊に転属となっていた。そん な主人公は繁華街で起きた転落死事件を捜査していたが、そ の裏に違法薬物が絡んでいることを突き止め、さらに日本の 暴力団(ヤクザ)の関与も判明してくる。 一方、仁川南港を仕切る裏組織の中では日本から送られた大 量の違法薬物が行方不明になっていた。その事態に日本から は「解決屋」と呼ばれる男が来韓し、さらに地元警察の悪徳 刑事も違法薬物の行方を追い始める。そこに主人公らの広域 捜査隊も加わって三つ巴の戦いが始まるが…。 共演は2019年4月紹介『神と共に』でもマ・ドンソクと共演 のイ・ジョニョク。それに日本から2012年6月紹介『るろう に剣心』などの青木崇高。さらに2017年1月15日付題名紹介 『哭声<コクソン>』で韓国青龍賞受賞の國村隼がカメオ出演 している。 監督は第1作の助監督で、第2作から監督に抜擢されたイ・ サンヨン。美術監督、武術監督、衣裳監督らにもオリジナル からのメムバーが結集しているようだ。 日本のヤクザが絡むということで、アクションには当然日本 刀が登場する。それを青木が担ってマ・ドンソクの鉄拳と戦 うのだが、ここはやはり日本刀同士のチャンバラが見たかっ たかな。 青木は『るろうに剣心』のチームを引き連れての参戦という ことだが、最近では2023年6月紹介『ジョン・ウィック:コ ンセクエンス』の真田広之や前回紹介『シャクラ』のドニー ・イェンなど、かなり壮絶なチャンバラがスクリーンに登場 しているので、その点では少し物足りなかった。 もっとも本作はマ・ドンソクの鉄拳が見せ場の作品だから、 その点は致し方ないかな。でもその前か後にでも、何かもう 少し工夫が欲しかったとは思うところだ。 とは言うもののマ・ドンソクの鉄拳はそれだけで堪能できる から、これで良いのだろう。お話も三つ巴の割には明確で、 エンタメとして充分に楽しめる作品だ。因に第4弾の制作も 進んでいるそうだ。 公開は2024年2月23日より、東京地区は新宿ピカデリー、グ ランドシネマサンシャイン池袋他にて全国ロードショウとな る。
『ダム・マネー ウォール街を狙え!』“Dumb Money” 人の好い天才を演じさせたら右に出る者はいないと思われる ポール・ダノの主演で、2021年1月にアメリカ金融界を揺る がせた出来事の真相を描く事実に基く作品。 主人公は保険会社に金融アナリストとして勤務する男性。そ の傍らで彼は知識を活かしローリング・キティの別名で金融 情報を発信するYouTuberでもあった。そして彼は老舗ゲーム 小売店チェーンの株に全財産をつぎ込んでもいた。 ところがその株価がじりじりと下がり始める。そこで彼はそ の株価が不当に低く評価されていると判断し、自らのチャン ネルで今が買い時だとの訴えを開始するが…。実はその株価 の下落にはヘッジファンドの空売りが関与していたのだ。 こうしてアメリカ国民の1%がその富の3分の2を占めると される超富裕層 vs.ダムマネー(愚かな資金)と称される一般 投資家の戦いが開始され、ヘッジファンド側が繰り出す様々 な妨害の中で、主人公を信じる人々の奮闘がヘッジファンド を追い詰めて行く。 共演は2005年9月紹介『旅するジーンズと16歳の夏』など のアメリカ・フェレーラ、2023年5月紹介『ワイルド・スピ ード/ファイヤーブースト』などに出演のピート・デヴィッ ドソン、2018年10月21日付題名紹介『アリー/スター誕生』 などのアンソニー・ラモス、2017年5月紹介などの『ダイバ ージェント』シリーズに主演のシャイリーン・ウッドリー。 他にセス・ローゲン、セバスチャン・スタン、ニック・オフ ァーマン、ヴィンセント・ドノフリオらが脇を固めている。 原作は2010年10月紹介『ソーシャル・ネットワーク』の原作 者でもあるベン・メズリックによるノンフィクション。本作 では主人公を始めヘッジファンドの関係者らもすべて実名で 描かれているものだ。 監督は2018年3月11日付題名紹介『アイ,トーニャ 史上最 大のスキャンダル』などのクレイグ・ギレスピーが担当して いる。 超富裕層が金に任せて株価を操作し、さらにその富を倍増さ せて行くヘッジファンドの存在には以前から不快感を持って いたが、そのヘッジファンドに一杯食らわせた2021年1月の 事件にはかなり胸がすく思いがしたものだ。 とは言えそれがどう行われたかについては、当時の報道を読 んでもなかなか理解できなかった。それが本作では実に明確 にその事実関係が紹介され、改めてその出来事の見事さに感 動したものだ。 まあその後はヘッジファンド側もさらに周到に株価操作を進 めているのだろうが、一時にせよそこに風穴を開けた主人公 らの行動には敬意を表するしかない。そんな思いにも駆られ る作品だった。 公開は2024年2月2日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷 他にて全国ロードショウとなる。
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