井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2023年10月29日(日) パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー、エクソシスト信じる者、最悪な子どもたち、フジヤマコットントン

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』
           “PAW Patrol: The Mighty Movie”
2013年に本国のカナダで放送開始、現在では全世界 160カ国
以上で放送されているという幼児向けテレビアニメーション
の劇場版。因に日本では2019年からテレビ東京系列にて放送
されているようだ。
物語はリーダー格の人間の少年と、様々なアイテムを活用し
て活動する6匹の子犬が活躍し、人間社会のいろいろな危機
を解決する「レスキュー・アクション・アドヴェンチャー」
と称されている。
そして本作では、最初にスクラップ置き場を襲う危機に立ち
向かうパウパトの活躍が描かれる。しかしそれはある陰謀の
始まりだった。その犯人は現場から強奪した巨大磁石で隕石
を誘導し、ある物質を手に入れようとしていたのだ。
ところが街に落下した隕石からその物質を先に手にしたのは
パウパト。その物質はパウパトの能力を拡大する作用を発揮
する。こうして新たな能力を手に入れたパウパトは活動の幅
を広げるが…。
陰謀の犯人は、かつてパウパトと対立した街の元市長らとも
共謀し、パウパトに最大の危機が訪れる。

試写会は日本語吹き替え版で行われたが、その声優陣は潘め
ぐみ、石上静香、小市眞琴、井澤詩織、松田颯水、小堀幸、
矢作紗友里のレギュラーに加えて、安倍なつみ、さらに仲間
由紀恵らが担当している。
映画では太陽系外の彗星の巣のようなものも描写され、それ
なりに科学的なところもある。その一方で、あのサイズの隕
石が激突したら、この程度の災害では済まないよな…とか。
いろいろ突っ込みどころは満載の作品。
とは言うものの、描いているのはパウパト同士の友情や能力
の優劣に対する感情などそれなりに考えられて作られていた
ものだ。それはお子様向けのレヴェルではあるけれど、大人
の目で見てもそれなりに納得できる話にはなっていた。
まあこれはこれでいいだろう…と思える程度には完成されて
いたものだ。小さい子供を連れて観に行けば、親もそれなり
には楽しめる作品だ。

公開は12月15日より全国ロードショウとなる。
なお本作の一般公開では「ドーラとまぼろしの生き物」とい
う短編アニメーションが同時上映されることになっており、
2本併せての上映時間が82分となっている。

『エクソシスト信じる者』“The Exorcist: Believer”
1973年公開で同年度の全米No.1興行記録に輝いたホラー映画
の、ある意味正当な続編と言える作品。
その物語は13年前にカメラマンの夫と身重の妻を襲った地震
から始まる。その災害で妻は瓦礫に埋まり、命を救えるのは
母体か胎児かの一方のみという究極の選択が夫に迫られる。
そこで妻は夫に子供だけは守ってと懇願するが…。
それから13年後、男手一つで娘を育て上げた主人公は、娘が
友だちと共に行方不明になるという事態に遭遇する。そして
3日後に帰ってきた娘には3日間の記憶がなく、それに続い
て不可解な出来事が周囲を襲い始める。
やがてその出来事には悪魔の存在が関っているとの推論がな
され、一緒に行方不明になった友人の家族や地元の教会と共
に悪魔払いの儀式が準備される。しかしそれはキリスト教会
だけの問題に留まらなかった。

脚本と監督は2023年3月紹介『ハロウィン THE END』などリ
ブート3部作を手掛けたデヴィッド・ゴードン・グリーン。
製作も同作や2015年6月紹介『パージ』なども手掛けたジェ
イソン・ブラムが担当している。
出演はトニー賞受賞者で、2020年2月23日付題名紹介『ハリ
エット』などのレスリー・オドム Jr.、2013年5月紹介『コ
ンプライアンス−服従の心理−』などのアン・ダウト。他に
ジェニファー・ネトルズ、ノーバート・レオ・バッツ。
さらにリディア・ジュエット、オリヴィア・オニール。そし
てエレン・バースティンが1973年作でオスカー候補になった
のと同じ役柄で再登場する。
物語は娘に悪魔が憑いて、そこから如何にして我が子を取り
返すかという点に尽きるが、その同じ話をオリジナルでは悪
魔祓い師の側から描いたのに対して今回は家族の側から描い
たという感じかな。
それがバースティンの再登場にも繋がる訳で、その辺は現代
の潮流というような感じもする。それにオリジナルではキリ
スト教に特化されていたが、今回はその他の宗教への言及も
あって、共通の敵になっている点も納得できた。
と言いながら監督らのオリジナルへの想いも相当なもので、
随所にオマージュというより正しくリスペクトという感じの
シーンが登場する。それが怒涛の如く襲い掛かるのは、オリ
ジナルを知る者には最高のプレゼントだった。

公開は12月1日より、全国ロードショウとなる。
なお消費者庁の要請で本作の紹介記事には、「東宝東和から
試写会に招待された」こと及び#エクソシスト信じる者とい
う2点を特記する必要があるようだ。

『最悪な子どもたち』“Les pires”
2022年第75回カンヌ国際映画祭<ある視点部門>で、日本映
画 『PLAN 75』、2023年3月紹介『Rodeo/ロデオ』、4月紹
介『青いカフタンの仕立て屋』などを抑えてグランプリに輝
いた作品。
映画の舞台は、フランス北部の裕福とは言えない層の人々が
暮らす地域。そこで1本の映画の撮影が準備されている。そ
の映画の監督は、登場人物となる子供たちを現地で行うオー
ディションで決めることにしている。
そこでオーディションが始まるが、集まった子供たちの中に
はスターを夢見る子もいる一方で、お金のためだけに来た子
や行動に問題のある子どもも混じっていた。それでも4人が
選ばれ撮影は開始されるが…。

脚本と監督は、ソルボンヌ大学で映画を学び助監督など映画
スタッフとして業界に入ったというロマーヌ・ゲレと、大学
で心理学、演劇スタジオで演技を学んでキャスティングと演
劇コーチをしてきたというリーズ・アコア。
2人はオーディションの現場で出会い、その体験から共同監
督した短編映画によりカンヌ国際映画祭・監督週間で受賞。
さらに数本の短編や配信シリーズを共同で手掛けた後に本作
で長編デビューを飾っている。
主役には現地のオーディションで選ばれた子供たちが起用さ
れ、その内のティメオ・マオーとロイック・ペッシュは児童
養護施設で、マロリー・ワネックとメリーナ・ファンデルブ
ランケは2人が通う学校の校門で見出されたそうだ。
その他には、2017年『ユダヤ人を救った動物園アントニーナ
が愛した命』などのヨハン・ヘルデンベルグ、2010年『あの
夏の子供たち』などのドミニク・フロらが脇を固めている。
脚本となる物語やエピソードは監督らが3年間かけてインタ
ヴューなどで集めたものを再構築しているが、時間を掛け過
ぎたために最初に集まった子供たちは成長してしまったとの
こと。従って本作はその脚本に併せて演技されたものだ。
つまりオーディションで集められた素人の子供たちが演技し
ているということで、それはそれで凄いと言える。もちろん
演技し易いように本人に合わせた擦り合わせのようなことは
行われたのだろうが。
それにしても見事な作品だった。

公開は12月9日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。

『フジヤマコットントン』
2017年7月9日付題名紹介『ひいくんのあるく町』の青柳拓
監督による第3作。因に監督はこの間に『東京自転車節』と
いう作品を撮っているそうだ。
作品の舞台は山梨県、甲府盆地のちょうど真ん中の中巨摩郡
にある通所の障碍者施設・みらいファーム。そこでは障碍を
持つ人たちが花作りや稲作、綿花の栽培から機織りなど様々
な作業に従事している。
そんなみらいファームの日常を1年を掛けて記録したドキュ
メンタリー。そこには現代人が忘れてしまった本来の人間の
生き方がある様にも感じるし、この生き方を何とか現代社会
の中に活かしたいという気持ちにもさせられる。
それはもちろん理想論でしかないのだし、これを維持するた
めの運営側の困難などは多数あるのだろうけど、何か目標と
してこんなものがあってもいいのかなあと思えるほどの素敵
な映像が繰り出されていた。

構成・プロデューサーは2022年5月紹介『ゆめパのじかん』
などの大澤一生、編集も『ゆめパのじかん』などの辻井潔。
撮影には『ひいくんのあるく町』も担当した山野目光政と、
NHKの番組などを担当し劇場作品は初めての野村真衣菜が
加わっている。
監督の前作では、自らが Uber Eatsの配達員となって東京中
を走り回る中での対人関係の闇のようなものが描かれたそう
だが、本作はある意味その対極の作品と言える。監督自身が
それを欲したのかな。
実は先週の『マイ・ファミリー自閉症の僕のひとり立ち』の
記事を書いているときにはすでに本作を観ていたのだが、何
かいろいろな意味で先週の作品が出した問題の回答がここに
あるようにも感じてしまった。
もちろん国情の違いなどはあるのだが、これが日本の回答と
言えるのなら、それは素晴らしいとも思えたものだ。正直に
言って日本も捨てたものではないとも思えてきた。ただし本
作でも言及される植松死刑囚の問題などはあるのだが。
それにしても素敵な笑顔が満載の作品で、この笑顔がいつま
でも続くものであって欲しい。そんなことも考えてしまう作
品だった。

公開は2024年初春、東京地区はポレポレ東中野他にて全国順
次ロードショウとなる。



2023年10月22日(日) ツィゴイネルワイゼン/陽炎座/夢二、映画(窒息)、マイ・ファミリー自閉症の僕のひとり立ち、アダミアニ祈りの谷

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ツィゴイネルワイゼン』
『陽炎座』
『夢二』
1923年生誕、2017年に他界した鈴木清順監督が1980年〜91年
に発表した「浪漫三部作」と称される3作品が、監督の生誕
100周年を記念して“SEIJUN RETURNS in 4K”として再上映
される。
この三部作に関しては、実は2011年11月の本ページでも紹介
しているが、この時にはBlu-ray+DVDの発売記念ということ
で恐らくは2Kでのディジタル化だったのかな。それを今回は
当時の撮影担当者も交えての本格的な4Kリマスタリングが行
われたものだ。
1作目は、内田百�慮矯遒痢屮汽薀機璽討糧廖彗省�数の短編
を基に、士官学校の教授とその無頼の友人、さらに2人が旅
先で出会った芸者やそれぞれの妻らの怪しげな交流が描かれ
る。
実は2011年の紹介では話が良く判らないと書いたが、今観直
してみるとそれなりに納得できる物語だった。これは自分の
理解力が上がったというより、最近の映画の傾向がそれに近
付いたという感じかな。つまり本作はそれを約半世紀も前に
先取りしていたということだ。
それは脚本家の田中陽造の凄さでもあるのだろうが、それを
目くるめくような映像も交えて描き切った清順監督の見事な
演出力でもあるのだろう。正に時代が追いついたという感じ
もしたものだ。
そして2作目では、泉鏡花の同名原作を基にこちらは劇作家
とそのパトロン、そして謎めいた女性との、こちらも妖しげ
な交流が描かれる。さらに本作では壮大な屋台崩しなど、映
像も豪華さを増しているものだ。
これに対して3作目は、2作目から10年を置いて製作された
ものだが、竹久夢二の実話を基に、男女の儚くも怪しい物語
が展開される。とは言うものの前2作ほどのインパクトは薄
れたかな。まあ俳優の物足りなさも感じてしまったが。

出演は3作通しての原田芳雄、大楠道代、麿赤児に加えて、
1作目では大谷直子、藤田敏八、樹木希林、真喜志きさ子。
第2作は松田優作、中村嘉葎雄、加賀まりこ、楠田枝里子、
大友柳太朗。
そして3作目には沢田研二、毬谷友子、宮崎萬純、広田玲央
名、長谷川和彦、坂東玉三郎らが登場する。
公開は11月11日より、東京地区は渋谷ユーロスペース他にて
全国順次ロードショウとなる。

『映画(窒息)』
助監督出身で2019年8月11日付題名紹介『いつかのふたり』
がデビュー作の長尾元脚本・監督による長編第2作。なお監
督はその間に撮った短編作品でジェーン・オースティン国際
映画祭2022にて最優秀監督賞を受賞したそうだ。
背景は近未来か遠未来かは不明だが、雑木林の中に建造物の
廃墟が残っているような世界。主人公はそんな世界の廃墟に
1人で暮らす女性。罠や先を尖らせた木の槍で小動物を捕え
て食料を得ているようだ。
そんな彼女の許には時折行商の老人が現れ、言語が失われた
らしい世界では、物々交換を身振り手振りで行っている。そ
してその日は、太陽光を集めて火種を得る凸レンズを干し肉
と交換で手に入れた。
それは彼女なりに充実した暮らしだったが…。ある日、白い
衣装の男に率いられた盗賊団が現れ、彼女のなけなしの財産
を奪って行く。その一方で彼女の前に若い男が現れ、彼女は
彼と共同生活を始める。
そんな暮らしが紆余曲折を経ながらで繰り広げられて行く。

出演は、2020年2月2日付題名紹介『パラダイス・ロスト』
などの和田光沙。相手役には2020年にオーディション番組で
最終2位になったという飛葉大樹。さらに仁科貴、寺田農ら
が脇を固めている。
台詞無し、モノクロの画面というのはそれなりに話題性はあ
りそうだが、それ以上の何かを引き出すというのには展開が
少し弱いかな。
実は主人公が就寝中に黒ずくめの人物に襲われるという悪夢
があって、その辺で少し捻りがあるかなと思わせたが、単な
る予知夢という解釈だったのかな。これらをもう少し掘り下
げても良かったような気もした。
結局、そういった現代に何かを反映させる仕掛けがないと、
ハイそうですかで終わってしまう感じがして、全体として観
客に訴え掛けるものが少ない感じになる。逆に単純な娯楽と
するには、インパクトに欠けるかな。
タイトルもクレジットもなしという構成には何か意図がある
のかとも思ったが、それも意味が見当たらなかった。文字が
ない世界ということなのかもしれないけど、それも底が浅い
感じを否めなかった。

公開は11月11日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。

『マイ・ファミリー自閉症の僕のひとり立ち』
                 “Kees vliegt uit”
1998年発表の“Trainman”以来、自閉症患者ケース・モンマ
の生活ぶりを四半世紀に亙って撮り続け、2014年発表の前作
ではオランダで 450万人を動員したというモニーク・ノルテ
監督による2023年本国公開のドキュメンタリー。
本作の始まりは自閉症患者のケースが42歳の時。両親の老い
を感じ取ったケースは自立することを考え始め、実家の近所
に一軒家を建ててその壁の色や内装なども自らの意思で決め
て行くが…。
その他には両親との連絡役に雇われた女性とのトラブルや、
健常者である兄夫妻との話し合いなど、様々なケースを取り
巻く状況が描かれて行く。その中にはノルテ監督に信頼を寄
せている様子も伺える。
さらにその間にはケースの創作活動や、鉄道模型に熱狂する
姿なども描かれる。そしてそんな状況が続き、ケースが50歳
になり、両親が80代を迎えた現在、果たしてケースは自立す
ることができたのか?
正直に言って一家には相当の財力もあるのだろうけど、家も
建てて貰ってまあ安定した暮らしにみえる。しかしそんな中
にも将来の不安を感じるというのは、ケースの知能の在り方
にも興味が湧いた。
北欧に近いオランダならそれなりの福祉の充実とかもあるの
だろうけど、本作がその辺を描かないのはそれが当然だから
なのかな。それに対して日本の状況はどうなのだろう。そん
なことも考えてしまった。
なお本作のオリジナルは、EUフィルムデーズ2023にて『ケ
ースがはばたく日』の題名で上映されたものだが、その際の
上映時間は 105分。しかしそれはかなり冗長だったようで、
今回は監督との協議の末に82分の編集版での公開となる。
僕はオリジナルを観ていないので比較はできないが、実は本
作を観ていて、特に後半の展開がかなり緊張感のあるものに
なっていた。それが監督の意図かどうかは判らないが、状況
の抱える問題は明瞭化されているようにも感じられた。
世界の片隅の話ではあるけれど、全ての人間が考えなくては
いけない問題が描かれている作品でもある。特に日本の状況
も知りたくなった。

公開は11月25日〜12月8日、東京地区は新宿K's cinemaにて
ロードショウとなる。

『アダミアニ祈りの谷』
東ジョージア・コーカサス山脈の南麓に位置するパンキシ渓
谷、かつて「テロリストの巣窟」と呼ばれたその土地に暮ら
す人々の今を日本人の監督が追ったドキュメンタリー。
宗教は2つ。ジョージア正教とイスラム教。この内でイスラ
ム教徒の多くは19世紀に隣国のチェチェンから移住してきた
キストと呼ばれる人たちで、この人たちは戦士の血を引く民
族とも呼ばれ、勇猛果敢で知られていた。
とは言え正教徒が多数を占めるジョージアでは宗教間の融和
で社会は収まっていたのだが、1999年に始まった第2次チェ
チェン紛争で国を追われたキスト人がパンキシ渓谷に流入、
彼らはイスラムの教えに従った行動を始める。
そして2011年に始まったシリア内戦では多くのキストの若者
が戦場に赴くことになる。こうしてアルカイダとの関係も疑
われ、キスト人にテロリスト集団のレッテルが貼られること
になった。
こんな歴史を踏まえながら、中東問題は解決しないものの、
それなりに平穏な中で、女性たちがパンキシ渓谷の状況を世
界に発信する行動を開始する。それは主にはヨーロッパの観
光客を受け入れるというものだったが…。
盛大な祭りに準備などを進める中で、思いもかけぬ問題が生
じてしまう。
登場するのはパンキシ渓谷の生まれだがチェチェンに嫁ぎ、
紛争によって舞い戻ってきたキスト人の女性。彼女は2人の
息子をもうけ、その2人はヨーロッパの親戚に預けたが、何
時しかシリアで戦いに巻き込まれていた。
もう1人はキスト人の元戦士。現状の中東問題は彼の戦士魂
を揺さぶるが、そこにポーランド人の女性が現れ、共同でツ
アー会社を設立。最初は撮影隊も拒否していたという彼の心
が徐々に開かれて行く。

監督は1984年大阪生まれの竹岡寛俊。2010年に現地を訪れて
キスト人の暮らしに魅了されたという監督が、2014年に発表
した作品でATP賞最優秀監督賞を受賞、さらに2019年発表
の作品ではATP賞ドキュメンタリー部門最優秀賞を受賞。
そして本作で長編映画デビューを成し遂げたものだ。
平穏に見える風景の中で進む過酷な現実。その現実が観客の
胸に迫ってくる。だからといって何もできない自分がもどか
しくもあるが、願えることはこの現実(映画)をより多くの人
に観て貰うことだろう。

公開は12月1日より、東京地区はYEBISU GARDEN CINEMA他で
全国ロードショウとなる。



2023年10月08日(日) JFK/新証言 知られざる陰謀【劇場版】、翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『JFK/新証言 知られざる陰謀【劇場版】』
     “JFK Revisited: Through the Looking Glass”
1991年にドラマ作品『JFK』で第35代アメリカ大統領暗殺
事件に纏わる謎を世に問うたオリヴァー・ストーン監督が、
その後に公開された機密文書を基に新たにその真相に挑んだ
ドキュメンタリー作品。
映画はケネディ大統領が平和を希求する歴史的な演説の映像
から始まる。それはこの暗殺事件がなぜ起きたのかを明白に
語るものだ。そんな映像を巻頭に置いた本作は、正しく現代
の闇を白日の下に曝け出す。
そこにはCIA、FBIがいかなる目的で運用されている組
織なのか。そしてそれに反抗する人物が自国家の最高権力者
であるはずの大統領であろうとも排除する、そんな恐ろしい
組織の実態が炙り出された作品でもある。
そしてその実態を炙り出すまでの過程が見事に描き出された
作品でもある。そこには暗殺が実行された銃弾の射入、射出
の角度や特には検視写真での射入孔、射出孔の形状などが、
従来の報告とは矛盾する点を明らかする。
最早この作品の後ではリー・ハーヴェイ・オズワルドによる
単独犯行説を信じる者はいないだろう。それくらいに明白な
証拠が提示される作品だ。とは言うもののこの作品が2021年
全米公開された後でも真実は闇に閉ざされている。

映画のナレーションを、活動家でもあるウーピー・ゴールド
バーグと、『JFK』にも出演のドナルド・サザーランドが
勤め、映画にはストーン監督や大統領の甥で次期大統領選に
出馬が噂されるロバート・ケネディJr.も登場する。
他にも研究者や法医学者なども多数証言しているものだ。
作品は公開された数百万ページに及ぶ旧機密文書を調査して
描かれているものだが、未だその全文が精査されたものでは
なく、見出された証拠の中から都合の良いものだけが採用さ
れていることは明らかだろう。
とは言うものの致命傷となった銃弾が、オズワルドがいたと
される後方ではなく前方からのものであったことは、大統領
夫人のしぐさや映像からも明らかであり、こういったことが
議論の対象にもならなかったことも疑問に思う。
そこには本当に大きな力が働いているのだろう。そう言えば
日本の首相暗殺にも第2の銃弾の噂はあったよな。

公開は11月17日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
有楽町、新宿武蔵野館他にて全国ロードショウとなる。

『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』
2019年1月20日付題名紹介『翔んで埼玉』の第2弾。主要な
スタッフ・キャストが再結集し、東国の出来事が西国に飛び
火する。
物語の設定は埼玉を東京の支配から解放した前作の出来事か
ら3ヶ月後。日本埼玉化計画を進める解放戦線のリーダーは
埼玉の心を一つにまとめるため、越谷に海を作ることを立案
する。そのための白砂を和歌山の白浜に求めるが…。
恋人の元東京都知事の息子を埼玉に残したリーダーは、解放
戦線の仲間と共に千葉の港から出港。ところが嵐が来襲し、
遭難したリーダーは仲間とはぐれ、和歌山に潜入していた滋
賀解放戦線のリーダーと宿命の出会いを果たす。
こうして関西で虐げられる滋賀の実情を知り、同時に大阪が
進める恐怖の日本大阪化計画の実態を知った2人のリーダー
は大阪との決戦に打って出ることになる。そしてそれは謎だ
った埼玉のリーダーの出自を明らかにする。

出演は GACKT、二階堂ふみ、加藤諒、益若つばさらの埼玉解
放戦線のメムバーが再結集。
これに対して杏、片岡愛之助、藤原紀香、川崎麻世。さらに
堀田真由、くっきー(野性爆弾)、高橋メアリージュン、天童
よしみ、山村紅葉、モモコ(ハイヒール)らの関西勢が参戦。
さらに現代パートでは、和久井映見、アキラ100%、朝日
奈央らが登場。そして様々なサプライズ出演もある。
監督は前作で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した武内
英樹、脚本も同最優秀脚本賞授賞の徳永友一が担当。音楽の
Face 2 fAKE 、主題歌のはなわも前作に引き続いて担当して
いるものだ。
正直に言って前作が繰り広げためちゃくちゃなインパクトに
は少し欠けるかな。でもまあVFXなどは間違いなく向上し
ているし、特に和歌山に向かう船団を襲う嵐のシーンの迫力
は見事なものだった。
ただ問題点を挙げるなら、前作では埼玉 vs.東京の傍らあっ
た埼玉 vs.千葉及び北関東の第2軸が足りないことで、互い
ディスり方もちょっと物足りない感じがした。特に滋賀ディ
スの文言が今ひとつピンとこないのも残念だった。
とは言えこれは関東在住者の意見で、地元では違うのかな。
後は劇中での言及はないが、 GACKTの出自の問題に関しては
偶然なのだろうか?

公開は11月23日より、全国ロードショウとなる。
        *         *
 今週は鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』も観てい
ますが、『陽炎座』『夢二』と共に特集上映される作品のた
め次々週に纏めて紹介します。
 なお次週は鑑賞の予定が『陽炎座』のみのため本ページの
更新は次々週とします。



2023年10月01日(日) PERFECT DAYS、笑いのカイブツ、私がやりました、マリの話、東京遭難、彼方の閃光

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『PERFECT DAYS』“Perfect Days”
カンヌ国際映画祭で役所広司が主演男優賞を受賞したヴィム
・ヴェンダース監督作品。
役所が演じる主人公は、公園などに設置された公衆トイレの
清掃員。下町のアパートで毎朝定刻に起床し、部屋の前の駐
車場の自販機で缶コーヒーを買い、仕事道具を積んだ軽自動
車で首都高を通って山の手の仕事場に向かう。
仕事は2人一組のシフト制になっているようで、同僚の若者
の他愛ない話に応じながらも、彼自身は寡黙に仕事に勤しん
でいる。それは何年も同じことを繰り返しながら続けてきた
ことのようだ。
そして若者が連れて来た恋人と称する女性から、彼が運転中
に聞いている往年のカセットテープに実はプレミアムがつい
ていることを知ったり、隙間に挟まった紙のゲームに応答し
たらゲームが続いてしまったり…。
そんなイレギュラーはあっても普段の生活はいつも滞りなく
完璧な日々が続いているようだ。しかし長らく没交渉だった
親戚の姪が訪ねて来たことで少し物語が動き始める。

共演は田中泯、雑誌モデルで映画デビューの中野有紗、柄本
時生、東京オリンピック閉会式でパフォーマンスを披露した
アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和らが脇を固
めている。
脚本はヴェンダースと、電通のクリエイティヴディレクター
で作家、絵本作家でもある高崎卓馬が共同で手掛けている。
なおヴェンダースと高崎はプロデュースも担当している。因
に高崎は映画脚本は2作目のようだ。
映画の展開としては主人公を中心としたエピソード集のよう
な作りで、最近この手の映画を批判してきたものだが。本作
では主人公のキャラクターが明確で、エピソードというより
肉付けのような感覚で全体の物語が展開される。
この辺の作り込みが流石ヴェンダースという感じで、これは
恐らく1987年の『ベルリン・天使の詩』と変わらない、監督
の映画に対する姿勢のようにも感じるものだ。首都高を走る
車の俯瞰など『トウキョウ・天使の詩』にも見えた。
下町から山の手まで、東京が見事に美しく撮られた作品でも
ある。これがヴェンダースの観た東京なのかな。コンプライ
アンス的には気になるところもあるが、映画としては素晴ら
しい作品だ。

公開は12月22日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に
て全国ロードショウとなる。

『笑いのカイブツ』
視聴者参加番組への投稿で「伝説のハガキ職人」と呼ばれた
ツチヤタカユキの自伝的小説を、2018年12月23日付題名紹介
『こどもしょくどう』などの足立紳、山口智之の共同脚本、
吉本興業系映像専門学校NFC出身の滝本憲吾の脚本及び劇
映画監督デビューで映画化した作品。
主人公はテレビの投稿番組で連続入選して「レジェンド」の
称号を獲得。さらに芸人出演のラジオ番組でも高い評価を得
て、遂にはその芸人に請われて東京に進出。構成作家として
の道を歩み始める。
しかし元々人間関係が苦手だった主人公は、良いネタは書く
ものの周囲との軋轢に耐えられなくなり、呼んでくれた芸人
の支援はあったものの…。やがてその状況に押しつぶされて
行ってしまう。
それでも、究極の笑いを求めて藻掻き続けることを止めない
男の生き様がスクリーンに焼き付けられる。

主演は2020年3月紹介『ワンダーウォール劇場版』などの岡
山天音。共演は仲野太賀、菅田将暉。さらに2022年11月紹介
『恋のいばら』などの松本穂香、2023年5月紹介『バカ塗り
の娘』などの片岡礼子。そして前原滉、板橋駿谷らが脇を固
めている。
原作者の名前には聞き覚えがあって何となく気になっていた
が、こんな人物なのだと改めて理解できた次第。映画の主人
公はある種の適応障害なのだろうけど、自分自身も含めて現
代には多くいそうな人物だ。
そんな主人公がそれでも必死に生きようとし、挫折を繰り返
しながらも自分の生きる道を見付け出して行く。それは現代
社会に生きる若者たちへのある種のエールのような作品にも
見えた。
とは言うものの周囲にいたらウザいの一言のような人物で、
彼と付き合うのは大変だろうなあとは思わせる。でもそれは
しっかりとやっておかないと後で映画にされちゃうかもしれ
ないよ! そんなことも考えてしまう作品だった。
因に、映画に登場する漫才コンビ・ベーコンズやその他の芸
人のネタは全てツチヤタカユキが本作のために書き下ろした
ものだそうで、それを観るだけでも彼の才能が判るというも
の。正にタイトル通りの物語と言えそうだ。

公開は2024年1月5日より、東京地区はテアトル新宿他にて
全国ロードショウとなる。

『私がやりました』“Mon crime”
2002年9月紹介『8人の女たち』などのフランソワ・オゾン
監督が、同作と2010年『しあわせの雨傘』に続き女性の生き
方を魅惑的に描いた3部作の最終章と称する作品。
時は1935年、所はパリ、その郊外に建つ邸宅から女性が急ぎ
足で出てくる。その女性は駆け出しの女優で、やはり駆け出
しの女性弁護士とパリのアパルトマンで共同生活をしていた
が、家賃の払えないほどの金欠状態だった。
そんな時、彼女が出てきた邸宅で映画プロデューサーが殺さ
れたとの報が入り、警察は彼女に「パリを離れないように」
という命令を告げる。この状況に証人になれば日当が貰える
とのルームメイトの言葉に乗った彼女だったが…。
判事の許に向かった彼女は自分が容疑者にされていることを
知り、殺人犯として裁判が始まった彼女に思わぬ展開が幸運
をもたらすことになる。ところがそこに「私が真犯人」と名
告る無声映画時代の大女優が現れる。

出演は2019年11月6日付「東京国際映画祭」で紹介『動物だ
けが知っている』(公開題名:悪なき殺人)にて最優秀女優賞
授賞のナディア・テレスキウィッツ。2011年3月紹介『黄色
い星の子供たち』などのレベッカ・マンデール。
そして2023年8月紹介『私はモーリーン・カーニー』などの
大ベテラン=イザベル・ユペール。さらにファブリス・ルキ
ーニ、ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエらが脇を固め
ている。
オゾン監督は2010年9月紹介『Ricky』のような作品も
発表しているが、本作は『8人の女たち』にも通じる舞台劇
のような作品で、それも日本で言えば浅草軽演劇のような人
間味と皮肉が入り混じったような展開になっている。
それは特段現代に通じるようなものでもないが、女性の生き
方という点では、正に女性目線で描かれた作品とは言えそう
だ。そしてそれに男たちがいい様に引き回されて行く様子も
小気味よく描かれている。
まあそれを男性の自分が観ても面白く観られるのだから、こ
れこそがフェミニズムの極致なのだろう。そんなオゾン映画
の魅力が最大限に引き出されている作品とも言えそうだ。若
手女優2人も魅力的だし、ユペールの怪演も見どころだ。
なお本作はコメディだが、あえて笑いを取りに行っているよ
うなシーンはオゾン監督の意向で編集段階でカットされてい
るそうだ。でも何となく爆笑ヴァージョンも観てみたい気持
ちにもなってきた。

公開は11月3日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に
て全国順次ロードショウとなる。

『マリの話』
2015年に公開された上映時間5時間17分の超大作『ハッピー
アワー』(濱口竜介監督)で助監督を務めたという高野徹監督
による長編デビュー作。
物語は4つの章に分けられ、「夢の中の人」と題された第1
章では脚本執筆中の映画監督が夢の中に出てくる女性に偶然
出会い、女性に映画への出演を要望して関係を深めて行く様
子が描かれる。
「女優を辞める日」と題された第2章では、アフレコのため
スタジオにやってきた女性が監督不在の中で台本を読む内に
監督との交流を思い出す。その結果として女優を辞めるのだ
ろうが、具体的な理由は示されない。
「猫のダンス」と題された第3章は女性と愛猫家の老女との
交流を描くもので、監督への想いに悩む女性が老女と共に失
踪したネコを探すうちに、老女との会話の中で監督への想い
を語り始める。
そして第4章は「マリの映画」と題され、フランスに渡って
映画の勉強を始めた女性が短編を作り上げ、監督への手紙と
共にその映画が紹介される。作品はフランス人の出演により
パリで撮影されたもののようだ。

出演は、フランスで俳優として活動し、リメイク版の『キャ
メラを止めるな!』にも出演の成田結美、ピエール瀧、劇団
・青年団所属の松田弘子、演劇集団円会員の戎哲史、それに
フランス俳優のパスカル・ヴォリマーチとデルフィーヌ・ラ
ニエル。
監督は短編映画では受賞歴もあるようで、本作も最初は第4
章に当る部分が短編として作られたもののようだ。しかし作
品の編集中に女性のキャラクターを明確にしたいと考え、初
の長編化に踏み切ったとのことだ。
とは言うものの長編というよりは短編集の感じは否めないか
な。確かに主人公が共通の連作ではあるのだけれど、各章の
エピソードの脈絡などが主人公の思いだけで、その思いが男
性の僕にはストレートには入ってこなかった。
まあ最近この種の映画を批判してきた中では、物語に一貫性
を持たせようとする気持ちは理解するが、1本の作品を通し
た物語をもっとしっかりと構築して欲しかったところだ。そ
れに個々の短編としての物語も少し物足りなかったかな。

公開は12月8日より、東京地区はシモキタエキマエシネマK2
他にて全国順次ロードショウとなる。

『東京遭難』
2018年8月19日付題名紹介『いつもの月夜に米の飯』などの
加藤綾佳による劇場長編第3作。
主人公は業務の接待のキャバクラで深酒し、何処とも知れぬ
終着駅で鞄や財布も失くして目覚めたサラリーマン。そんな
主人公はポケットに残っていた小銭で、キャバクラ嬢に渡さ
れた名刺の番号に電話を掛けるが…。
そのままベンチで寝込んだらしい主人公が目を覚ますと、そ
こはホテルの一室で傍にはキャバクラ嬢と思しき若い女性の
姿があった。そして女性は「助けた代わりに、連休の3日間
を付き合ってくれ」と半ば脅迫のように申し出る。
こうして主人公は若い女性の金で借りたレンタカーでロード
ムーヴィのような旅を始めることになるが。その女性の旅に
は、彼女の過去に纏わるある秘密があった。

出演は、京都府出身で2022年公開の映画『わかりません』で
初主演、続いて主演した短編『寓』がスペイン・シッチェス
映画祭でグランプリを受賞したという木原勝利。それと神奈
川県出身で2021年『ベイビーわるきゅーれ』で敵役を演じた
秋谷百音。
他に2022年11月紹介『餓鬼が笑う』などの永井秀樹、2019年
6月23日付題名紹介『イソップの思うツボ』などの大沢真一
郎、2018年4月29日付題名紹介『ガチ星』などの船崎良。さ
らに今里真、占部房子らが脇を固めている。
加藤監督の作品は、紹介は割愛したが2015年公開の『おんな
のこきらい』も観ていて、長編は全て観ていることになる。
それで前の2作は女性が主人公だったが、今回は男性。でも
ある意味理想的に描かれているのにはほっとしたかな。
しかもいろいろコンプライアンス的に問題になりそうなとこ
ろも、ちゃんと劇中の主人公として謝罪しているのには好感
が持てた。脚本は監督の単独のようだが、この辺はかなり周
到に作られた作品とも言えそうだ。
ここ何作か観た若い監督の作品は何というか独りよがりな感
じがして、いろいろと引っ掛かるところが多いと感じるが、
本作にはそのようなこともなく、正しく安心して観ていられ
る作品と言う感じがした。
しかも女性の抱える問題には、ある種の社会的な側面も存在
してその辺もしっかりと作り込まれた作品と言えそうだ。ま
た一人気になる監督が出てきた。

公開は11月18日より、東京地区は新宿K'cinema他にて全国順
次ロードショウとなる。

『彼方の閃光』
2022年の東京国際映画祭 Nippon Cinema Now部門で上映され
て話題を呼んだ作品が一般公開されることになり、マスコミ
試写が行われた。なお本作は試写時に情報公開が制限されて
いたため、改めて紹介するものだ。(本項は11月初旬に更新)
主人公は生後すぐに視力を失った少年。そんな少年の拠り所
は音で、彼は周囲の音響や自分の想いをカセットテープに記
録していた。そんな中で彼は「空」というものを知り、高い
ところにあって青い色の「空」に憧れを持つようになる。
そんな少年が青年期になり、視力を回復する手術の機会が訪
れる。そして手術によって視力は回復するのだが、彼に見え
たのは色のないモノクロの世界。「空」の青さは判らないま
まだった。
しかし視力を回復した青年は写真に興味を持つようになり、
2012年に没した東松照明の写真に導かれるように長崎へ。そ
して現地で知り合った男性からドキュメンタリー映画の制作
に誘われ、長崎、沖縄へと戦争の痕跡を辿ることになる。
そこで改めて知る人間の生き様とは…。そんな旅の結末は、
2070年、71歳になった老境の男性へと続いて行く。

原案、脚本、監督はホウ・シャオシェン監督やジャ・ジャン
クー監督作品などの音楽を担当し、自らの監督で2016年11月
5日付第29回東京国際映画祭<コンペティション以外>で紹
介『雨にゆれる女』なども発表している半野喜弘。
出演は2019年3月31日付題名紹介『小さな恋のうた』などの
眞栄田郷敦、2017年7月紹介『アウトレイジ最終章』などの
池内博之、沖縄県出身のラッパー/アーチストのAwich。さら
に尚玄、伊藤正之、加藤雅也らが脇を固めている。
モノクロームで表現される作品はディジタル撮影の時代にも
時折目にするものだが、主人公の心象に合せて表現された本
作の映像は、1971年ダルトン・トランボ監督の『ジョニーは
戦場へ行った』にも匹敵する衝撃を与えてくれた。
正しく作為ではない本物の映像感覚がここには存在している
もの。そんな映像で正に比類のない物語が展開される。それ
は自分の感覚にも近いものがあったもので、ある意味納得の
物語とも言えた。
しかもその主張が、2時間半を超える長尺の中で全くぶれず
に最後まで貫かれるのも素晴らしいと感じられたものだ。

公開は12月8日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国順次ロードショウとなる。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二