井口健二のOn the Production
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2023年09月24日(日) ロスト・フライト、リアリティ、他人と一緒に住むということ、隣人X疑惑の彼女

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ロスト・フライト』“Plane”
8月紹介『カンダハル−突破せよ−』に続いて登場するジェ
ラルド・バトラー主演のサヴァイヴァル・アクション作品。
舞台となるのはシンガポール発東京経由ホノルル行きLCC
旅客機。機長はベテランで新年初飛行となる機はホノルルに
暮らす愛娘に会いに行くフライトでもあった。そして乗客は
14人、ただしそこには護送中の殺人犯も含まれていた。
そんな旅客機がフィリピン上空で激しい嵐に遭遇。迂回を提
案する機長に本社の指示は燃料節約のため上空を直進せよと
いうもの。その指示に従った機体は落雷を受けて通信機が故
障、計器にも変調をきたしてしまう。
こうしてフィリピン南部の離島に不時着を止むなくされた機
体だったが…。何とか無事不時着したその島は反政府勢力の
過激派が支配する超危険な場所だった。

共演は、2020年3月紹介『SKIN』などのマイク・コルター、
2019年2月紹介『移動都市』などのヨソン・アン、2018年の
『ジュラシック・ワールド/炎の王国』以降のシリーズに出
演のダニエラ・ピネダ、監督でもあり、2003年11月紹介『ラ
ストサムライ』などにも出演のトニー・ゴールドウィン。
監督は、フランス出身で2009年10月紹介『ジャック・メスリ
ーヌ』などのジャン=フランソワ・リシェ。脚本はスコット
ランドの人気作家でスパイ小説を多く出版しているチャール
ズ・カミング。本作は作家初の長編映画脚本だそうだ。
巻頭の空港のシーンで、娘に電話した機長の台詞に「おばさ
んの手作りハギスは美味しい」という下りがあり、乗り込ん
だ機長は副操縦士から「イギリス人ですか」と訊かれ「スコ
ットランド人だ」という答えにニヤリとした。
「ハギス」はスコットランドの民族料理で、確か1986年の映
画『ハイランダー』でショーン・コネリー扮する騎士がこれ
に言及していた記憶がある。コネリー、バトラー、それに脚
本のカミングもスコットランド人でその心意気のようだ。
因にこの「ハギス」はアメリカには持ち込み禁止だそうで、
「おばさんの手作り」という台詞にも納得した。なお日本も
持ち込み禁止で、以前にイギリス帰りの知人が持ち込もうと
して検疫で没収されたという話も聞いたことがある。
まあそんな蘊蓄も話したくなるような、気軽に楽しめる作品
だった。

公開は11月23日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。

『リアリティ』“Reality”
2017年に起きた実際の事件を、その捜査の際にFBIが記録
した録音に基づいて詳細に再現した実録ドラマ。
登場するのは郊外の一戸建てに住む若い女性。彼女が買い物
から帰って来た時、男性2人が彼女の車に近付き、話を訊き
たいと申し出る。そして2人はFBIの捜査官だと名告り、
家に入る前に屋内をチェックしたいとも告げる。
こうして保護犬と保護ネコを飼っている女性は、2匹を屋外
のケージに入れたり、リードを付けるなどして捜査に協力す
ることになるが…。奥の空き部屋で尋問を受け始めた彼女は
徐々に捜査員の術に嵌って行く。

脚本と監督はニューヨーク演劇界で“超新星”とも評される
新進気鋭の劇作家ティナ・サッター。
出演は、ドラマ『HEROES/ヒーローズ』などのシドニー・ス
ウィーニー。2011年12月紹介『J・エドガー』などのジョッ
シュ・ハミルトン。さらに舞台出身のマーチャント・デイヴ
ィスらが脇を固めている。
本作で映画デビューを飾ったサッター監督はFBIの音声記
録(固有名詞などは消されていたようだ)をそのまま書き起こ
し、その言葉は一言一句変えずに脚本を書いたとしている。
それはFBIの巧みな誘導も如実に描かれたものだ。
事実として主人公のリアリティ・ウィナーは有罪となり刑に
服したものだが、監督は彼女の家族や本人にも取材して、そ
の了解及び支援の許にシナリオを執筆しており、それはリア
リティ自身の尊厳の尊重でもある。
それにしてもFBIの誘導の巧みさは見事で、それはFBI
の手口を晒すものにもなっているが、それも本作の目的なの
かな? 勿論FBIだってそれを判って録音を公表している
ものだが、いろいろ微妙な勘繰りもしてしまう。
ただ中国やロシアの当局などには絶好の教科書になってしま
うかな。その辺はちょっと心配にもなってしまった。それく
らいのリアルさに溢れた見事な作品になっている。日本も例
外ではないし、恐ろしい作品だ。
なお劇中では主人公の飼っている犬と猫が絶妙の演技を見せ
ており、刑期の間の2匹が心配になったが、その点もちゃん
と映画の中でフォローされているのは嬉しかった。

公開は11月18日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム、シネ・リーブル池袋他にて全国順次ロードショ
ウとなる。

『他人と一緒に住むということ』
元俳優で2013年に劇団を立ち上げ、2022年の公演で劇作家協
会新人戯曲賞で最終候補に残ったという八木橋努監督の長編
映画デビュー作。
登場するのは二組のカップル。一組目は見習い美容師と売れ
てない役者のカップルで、それぞれの家には居候がいて中々
一緒になれない2人は遂に居候を追い出し、同棲を開始する
ことになるが…。
そしてもう一組はソーラーパネル事業を展開している実業家
と年の離れた年下の女性。結婚はしているが別居生活で、家
に呼び寄せても女性はそれに応じない。そんな中で事業にも
トラブルが発生し…。
そんな二組のカップルとその周囲の人々の群像劇が展開され
て行く。

出演はイヴェントショウの演出家でもある森田コウ、音楽活
動と並行して女優も務める芦那すみれ、ミュージシャンで映
画初主演の山下剛史、沖縄県立芸術大学で油絵を学んだとい
う若松朋茂、松江市でカフェギャラリーを営んでいるという
裕紀yuki、 100本以上の舞台に出ているという橋本敏明。
監督は元々舞台の群像劇で評価されているようだが、本作は
何というかエピソードがバラバラな感じで、1本の映画とし
ての纏まりに欠ける感じがした。実際にこのような作品を最
近見る機会が多いのだが、これは風潮なのかな。
それにそれぞれのエピソードも何か在りものの羅列のような
感じもして、それは多分リアルさというか、社会的な問題意
識が生み出す現実感なのかもしれないが、何となく聞いたよ
うな話が話ばかりで、新規性に乏しい感じもした。
まあその現実感が狙いなのだろうし、それを提示するために
作られた作品なのだろうとは思うが、観ていて既視感が強い
のは、狙いとは裏腹に作品を詰らなくしている感じもした。
しかも問題が解決されないのも苛立ちだった。
狙いは悪くないと思うだけに、何か新鮮味のあるエピソード
が一つ二つで良いから提示されて欲しかった。何となく全体
が何度も観てきた話のように感じられるのは、ちょっと気を
削がれる感じになってしまったものだ。
演出とか映像は手馴れている感じなだけに、勿体なくも感じ
てしまった。脚本をもっと練れば良い作品になったと思える
ところが残念だった。

公開は12月2日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。

『隣人X疑惑の彼女』
2019年の第14回小説現代長編新人賞を受賞したフランス在住
パリュスあや子の原作を、2017年9月17日題名紹介『ユリゴ
コロ』などの熊澤尚人の脚本・監督・編集、林遣都、上野樹
里の共演で映画化したSF風味のある作品。
物語の背景は、母星での戦いによる惑星難民と称する異星人
が現れ、海外では受け入れる国も出てきたものの、その異星
人が最初に触れたものに擬態する能力を持つことから、日本
では未だにその賛否が分かれているという状況。
そんな状況の中で週刊誌記者の主人公は、擬態した異星人と
疑われる人物のリストを入手、その実態を調べる取材を開始
する。しかしある女性に接近した記者は彼女に恋心を抱いて
しまう。そして彼が掴み取った真実とは…。

他の出演者は台湾で金鍾賞受賞の黃姵嘉。さらに野村周平、
川瀬陽太、嶋田久作、原日出子、バカリズム、洒向芳。また
主題歌を2022年11月紹介『恋のいばら』の主題歌も手掛けた
childspotが担当している。
物語の概要を読むと、SF好きとしてはジャック・フィニイ
が1954年に発表した小説『盗まれた街』を思い出さずにいら
れない。1956年ドン・シーゲル監督の映画化でも知られるこ
の作品では、正に人間に擬態する異星人が描かれていた。
ただしその作品が人類に取って代わろうとする敵対的な侵略
を描いていたのに対して、本作は必ずしもそのようなものを
描いているのではない。とは言うもののそれに恐怖心を抱く
人間を描いているのは共通するテーマではある。
そんなことを考えながら映画を観ていたが、実は映画ではそ
れらの点が必ずしも明確に描かれていないような気がした。
それが原作ではどうなのか、そこで原作本を入手して読むま
で紹介を保留したものだ。
それで原作を読むと、原作者がその点をテーマとしては捉え
ていないことに気づいた。実際この原作は、フランス在住の
原作者が社会における異邦人やマイノリティが抱く圧迫感を
描いたもので、立場が逆の作品なのだ。
つまりこの原作では、惑星難民という状況は単にSFテーマ
を借用しただけであって、本来描かれているのは現実的な社
会現象の問題だった。このことは原作者自身の言葉の中にも
明確に表されている。
まあはっきり言ってしまえば、自らの言いたいテーマのため
にSFのシチュエーションを利用したものであって、惑星難
民に関してもさらにそこにSF的な考察をすることもなく、
単純に文章で解説してしまっている。
でもそれは作品の意図としては間違いではないし、SF好き
としても却って潔くて良いとも感じられた。しかも深く突っ
込んではいないが、それなりにSF的な発展性も考慮されて
いるのは、好ましくも思えたものだ。
それに対して映画化では、ある意味、物語をSFに近づけよ
うとする意図が感じられた。それはテーマの一部を隠してミ
ステリーにしようという意図でもあったと思われるのだが、
それが少し物語を判り難くしてしまったかな。
実際、物語では惑星難民は擬態するので同じ人物が2人存在
することになり、その点は原作では最初に明確に示される。
ところが映画化ではその点が隠されてしまっている。それは
SF好きなら判るような示唆はあるのだが…。
この作り方が良かったのか否か。正直に言ってSFを理解し
ない人には、単に難解な作品となってしまうようで、その辺
がSF好きとしては心配になってしまう作品だった。理解で
きれば面白い作品ではあるのだが。

公開は12月1日より、全国ロードショウとなる。



2023年09月17日(日) モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン、理想郷、シェアの法則、サタデー・フィクション、二人静か、きのう生まれたわけじゃない

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』
           “Mona Lisa and the Blood Moon”
2019年1月13日付題名紹介『バーニング「劇場版」』のヒロ
インにオーディションで大抜擢されたチョン・ジョンソと、
2004年4月紹介『あなたにも書ける恋愛小説』などのケイト
・ハドスンの共演で、2015年『ザ・ヴァンパイア〜残酷な牙
を持つ少女〜』などのアナ・リリ・アミールポアー脚本・監
督によるかなりミステリアスな展開の作品。
映画の開幕は拘束衣を着せられ、壁には緩衝材が貼られた独
房に閉じ込められた若い女性の姿。しかし彼女はある手段で
監視人らを制圧、拘束衣のまま逃亡して街を彷徨い始める。
そんな彼女には屯する若者たちが援助もしてくれる。
一方、彼女の逃亡を通告された警察は町中の警官に発見の要
請を行うが、運悪く遭遇した警官が重傷を負う羽目になる。
そしてストリッパーと知り合いになった彼女は、特殊な能力
で男たちの金銭を奪い始める。
ところが徐々に犯行がエスカレートし、それにつれて警察の
包囲網も狭まってくる。それでもストリッパーの息子や麻薬
の売人など様々な手引きで警官たちの捜索を掻い潜るが…。
果たして彼女の運命は?

2人以外の共演者は、多くのテレビシリーズなどに出演し、
2020年本国公開の本作でブレイクしたエヴァン・ウィッテン
と、2019年1月13日付題名紹介『ビール・ストリートの恋人
たち』などに出演のエド・スクライン、それに2022年8月紹
介『ソングバード』などのクレイグ・ロビンスン。
撮影監督は2018年10月紹介『ヘレディタリー 継承』などの
パヴェウ・ポゴジェルスキ。15ミリの広角レンズを多用した
見事な映像を、アメリカ南部ニューオーリンズの歓楽街バー
ボンストリートなどでカメラに収めている。
前回紹介の『ドミノ』に少し被るテーマの作品だが、先の作
品がSFとして描かれているのに対して、本作はホラー/フ
ァンタシーかな。タイトルにもある満月を随所に配して夜の
街の物語が展開されている。
また本作は、女優2人と女性監督の見事なコラボレーション
で作られた作品とも言えそうだ。

公開は11月17日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国ロードショウとなる。
因に本作の本国版ポスターには「NUR IM KINO」 と書かれて
いるが、これは「Only in cinema」という意味のものだ。

『理想郷』“As bestas”
2022年の第35回東京国際映画祭にて最優秀作品賞、最優秀監
督賞、最優秀主演男優賞の3冠に輝いたスペイン、フランス
合作作品。
舞台はスペインの山岳部に位置する寒村。そこにフランスの
都市部から引っ越して来た初老の夫妻が暮らしていた。夫妻
の理想は山間の村で慎ましく作物を作りながら暮らすスロー
ライフ。それだけが望みだった。
そんな夫妻の隣地に老いた母親と暮らす兄弟は粗野で妻や恋
人もなく、正に田舎者を絵にかいたような連中だった。そし
て夫妻との間にトラブルが発生する。それは村で進められる
風力発電に夫妻が反対したことが切っ掛けだったが…。
徐々に嫌がらせがエスカレートし、遂には農作物にも被害が
出始める。そんな被害は警察に訴えてもなかなか真剣には取
り扱って貰えない。それでも我慢強く暮しを続ける夫妻に、
究極の試練が訪れる。

脚本と監督は、マドリード映画撮影・視聴覚学校の出身で、
2011年に自ら制作会社を設立してすでに多数の映画賞の受賞
歴を持つというロドリゴ・ソロゴイェン。共同脚本を同校出
身のイザベル・ペーニャ。
出演は、2018年11月11日付題名紹介『ジュリアン』で父親役
のドゥニ・メノーシェと2023年8月紹介『私はモーリーン・
カーニー』などのマリナ・フォイス。さらに2015年9月紹介
『暴走車 ランナウェイ・カー』などのルイス・サエラ。
またディエゴ・アニード、マリー・コロンらが脇を固めてい
る。
都会者が田舎町に来て暴力的な排他主義に遭遇するという展
開では、僕の年代だと1971年ダスティン・ホフマン、スーザ
ン・ジョージ主演、サム・ペキンパー監督の『わらの犬』が
思い浮かぶ。
お陰でいつ奥さんが襲われるかとひやひやしたが、時代が変
わると女性も強くなったことよ。そんな強い女性をフォイス
が丁寧に演じているのも見どころと言ってよい作品だ。特に
結末は素晴らしかった。
それにしても、スペイン人の監督がここまで自国が抱える問
題を衝いてみせるとは…。その点も素晴らしいと言える作品
だった。

公開は11月3日より、東京地区は新宿シネマート、澁谷宮下
のBunkamura ル・シネマ他にて全国ロードショウとなる。

『シェアの法則』
2019年04月21日付題名紹介『二宮金次郎』などに出演の女優
で劇団の主宰者でもある岩瀬顕子が執筆し、2021年に劇団青
年座によって上演された舞台劇を、2019年3月17日付題名紹
介『うちの執事が言うことには』などの久万真路監督、脇役
俳優・小野武彦の初主演で映画化した作品。
主人公はちょっと堅物の税理士。事務所は自宅の近くだが、
昼食は妻に手作り弁当を運ばせて事務所で食べるほどの仕事
人間だ。実は妻は自宅を改造してシェアハウスを運営してお
り、居住者も一緒の家では食事をし辛い理由もある。
そんな妻が運営するシェアハウスには、いろいろ訳ありの住
人も暮らしていたが、妻は無頓着にそんな人々を受け入れて
いた。そしてシェアハウスには特有のトラブルも生じるが、
それも難なくクリアしていたようだ。
ところがそんな妻が事故に遭って倒れ、シェハウスの管理を
主人公がしなければならなくなる。こうして主人公は今まで
の生活では考えられなかったようなトラブルに巻き込まれる
ことになるが…。

共演は、2023年4月紹介『オレンジ・ランプ』などの貫地谷
しほり、2023年3月紹介『サイド バイ サイド隣にいる人』
などの浅香航大、2022年11月紹介『仕掛人・藤枝梅安』など
の鷲尾真知子。
さらに岩瀬顕子、大塚ヒロタ、山口森広、小山萌子、岩本晟
夢、上原奈美、内浦純一、久保酎吉、そして宮崎美子らが脇
を固めている。
表面的にはシェアハウスあるあるを面白おかしく描いた作品
だが、描かれるエピソードには不法滞在者や家庭内暴力、闇
金債務、LGBTなど現代日本社会が抱える様々な問題が背景と
して存在している。
それは日本社会の縮図のような作品だった。でもそんな話題
を、一面では痛快に描き切っているとも言える作品で、現代
日本人の多くに勇気を与えてくれる、そんな感じの作品にも
なっている。
関係者が多く来場したらしい試写会では涙を流している人も
多く見受けられた感じで、監督の演出の巧みさも観ることの
できる作品だった。なお岩瀬が引き続き執筆した映画版の脚
本は、舞台版からかなり改編されているようだ。

公開は10月14日より、東京地区は新宿K'cinema他にて全国順
次ロードショウとなる。

『サタデー・フィクション』“蘭心大劇院/兰心大剧院”
2022年11月紹介『シャドウプレイ』などのロウ・イエ監督が
コン・リー、オダギリジョーらを主演に迎えて、1941年12月
1日〜7日の上海租界を舞台に描いたドラマ作品。
太平洋戦争の開戦前夜。日本軍の上海占領の際に英仏が設定
した上海租界では、各国の諜報機関が情報の収集にしのぎを
削っていた。そして現在の注目は日本軍が次はどこを攻める
かだったが…。
そんな最中、1人の人気女優が租界に建つ劇場の舞台に立つ
ために当地にやってくる。それは舞台の演出家の招請による
ものだったが、彼女の真の目的は他にあるとも伝えられてい
た。
一方、上海の軍令部に本国から1人の日本人がやってくる。
それは軍部が行う通信の暗号を改訂するためだったが、その
情報を得るために各国の諜報部が動き出す。そして女優が上
海にやってきた真の目的とは。

上記の他の出演者は、2010年11月紹介『モンガに散る』など
のマーク・チャオ、2020年2月紹介『水曜日が消えた』など
の中島歩、2020年2月23日付題名紹介『ポルトガル、夏の終
わり』などのパスカル・グレゴリー。
さらに東ドイツ出身で2014年1月紹介『ラッシュ/プライド
と友情』などのトム・ヴラシア、舞台俳優で映画初出演のホ
ァン・シャンリー、2020年3月22日付題名紹介『薬の神じゃ
ない!』などのワン・チュアンジュン。
そして2022年11月紹介『シャドウプレイ』などロウ・イエ作
品に常連のチャン・ソンウェンら、国際的な配役が作品に彩
を添えている。
原作は、ロウ・イエ監督の友人でもあるホン・インが2013年
に発表した小説『上海之死』。また劇中の舞台で演じられる
演劇『礼拝六小説(サタデー・フィクション)』は横光利一の
小説『上海』の舞台化とされている。
映画に登場する劇場やホテルなどは往時のものが保存された
上海現地での撮影ということで、登場する銃器やクラシック
カーなどと共に映画の見どころと言えそうだ。ただし尋問の
シーンで登場するオープンリールは?
テープレコーダー自体は当時すでにドイツでは軍事目的など
で実用化されているようだが、映画に登場するようなリール
の配置が縦型のものはどうか? 僕の記憶では市販品が登場
した戦後の製品のような気もするが。

公開は11月3日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋、アップリンク
吉祥寺他にて全国順次ロードショウとなる。

『二人静か』
前回紹介『花腐し』に出演していた坂本礼監督が文化庁主幹
によるAFF2(コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業)
の助成を受けて製作した作品。因に助成の条件には「映倫番
号を取得して有料一般公開されること」とあり、本作は映倫
審査のR18+指定にて一般公開される。
登場するのは中年の夫婦。夫婦は5年前に行方不明となった
娘の消息を訪ねる看板を立てて、チラシ配りを駅前で実行し
ていた。そんな夫婦の許には「むすめはしんでいる」と書か
れた中傷の手紙も届いていたが…。
そんなる日、妻がチラシを渡した若い妊婦が突然手伝いたい
と申し出る。その好意を受けて3人でのチラシ配りを続けた
夫婦は、次第に妊婦と親しくなり、家にも招くようになって
行く。そんな妊婦にはある秘密があった。

出演は、2008年12月紹介『へばの』などの西山真来、2012年
9月紹介『黄金を抱いて翔べ』などの水澤紳吾。他に2019年
の朝ドラ『まんぷく』に出演のぎぃ子。
さらに新鋭の裕菜。個性派俳優の伊藤清美、佐野和宏、川瀬
陽太、小林リュージュらが脇を固めている。
脚本は『花腐し』も手掛けた中野太が担当した。
幼女の行方不明というのは、誘拐・監禁など性的な問題も含
めていろいろと映画になったこともあるが、それを親の側か
ら描くのは北朝鮮拉致問題などもあって少し描き辛いところ
もあるのかな。
でも自分も女児を育てた親の目で見ると、この両親の辛さや
葛藤は実に良く判るし、現代に起こりうる状況として多くの
問題提起を孕んでいるようにも感じられる。そんな現代社会
が抱える問題を巧みに描いた作品とも言えそうだ。
であれば、ぎぃ子が演じた役柄も含めてもっとストレートに
描き切っても良かったのではないかと思うのだが。監督の習
い性なのかR18+指定の作品にしてしまっている。それも少し
取って付けたような感じなのは…。
これがないと坂本礼作品ではないということになってしまう
のかな。僕にはその辺の解釈は判らなかった。

公開は11月4日より、東京地区は新宿K'cinema他にて全国順
次ロードショウとなる。
因にAFF2の規定では「完成(初号試写)日から1年以内に、
有料一般公開(概ね7日間以上かつ14回以上)されない場合
は、交付決定取消となりますので、補助金の返還が必要とな
ります。」そうだ。

『きのう生まれたわけじゃない』
2020年2月2日付題名紹介『パラダイス・ロスト』などの福
間健二原案、脚本、監督、主演で、今年4月26日に他界した
福間監督の最後となった作品。
1人目の主人公は中学2年生の女子。母子家庭で父親は彼女
が幼い頃に家を出たらしい。そんな彼女は学校へは行かず。
立ち寄った河原で「夫を亡くしたばかりの人」と出会い心を
通わせる。
もう1人の主人公は元船乗りの老人。若い頃に妻を失って以
来1人暮らしだったが、最近老人たちが集まる「憩いのベン
チ」に参加した。そこに中2の女子が現れ、老人たちの言葉
に反発した彼女は…。
そして中2の女子と元船乗りの老人は「憩いのベンチ」を離
れて一緒に過ごすようになる。そこに家出を繰り返す高校生
の男子や元船乗りの唯一の親戚という若者も加わって、疑似
家族のような生活が始まる。

共演は演出家の父親の舞台には出ているが、映画出演は初め
てというくるみ。他に、2011年9月紹介『UNDERWATER LOVE
−女の河童−』などの正木佐和、2008年12月紹介『ラーメン
ガール』などの安倍智凛。
さらに映画監督でもある守屋文雄、蕪木虎太郎、住本尚子、
谷川俊之、今泉浩一、福間監督のミューズとも言える小原早
織らが脇を固めている。
詩人として多くの書籍があり、映画評論家としても多数の著
作を遺した福間監督は本作の企画書で「いままでの殻を破る
ような映画表現」としているものだが、最近何作かで指摘し
たような、スケッチ集のような作品になっている。
ただし、全体としてそれなりのストーリー展開があるのはさ
すがと思わせるが、やはりそれぞれのドラマをもっと追及し
て欲しかったかな。それぞれのエピソードにはもっと何かが
ある。そんな感じになったものだ。
それとテレパシーやゴーストらしき存在など、気になる素材
がいろいろ提示されるのも、一応その方面をテリトリーとす
る者としては、ちょっと言い足りない部分が多いのではない
かとも思ってしまった。
まあ監督が亡くなってしまっているので、これ以上は何も訊
くことはできないものだが。

公開は11月11日より、東京地区はポレポレ東中野他にて全国
順次ロードショウとなる。



2023年09月10日(日) 花腐し、春画先生、QUALIAクオリア、コーポ・ア・コーポ、SISU/シス 不死身の男

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『花腐し HANAKUTASHI』
東京大学名誉教授で詩人、作家の松浦寿輝が2000年上半期の
芥川賞を受賞した小説を、2019年6月紹介『火口のふたり』
などの荒井晴彦脚本・監督で映画化した作品。
物語の開幕は海岸に打ち上げられた心中死体。それはピンク
映画の監督と女優のものだったが…。
主人公はその女優とマジの同棲中だったピンク映画の監督。
彼は女優の実家に弔問に行くが、事情も話せないまま素気無
く追い返される。そして監督を偲ぶ酒の席では、仕事がない
ことへの不満などを爆発させてしまう。
そんな主人公は住まいもなく製作会社の事務所で寝泊まりし
ていたが、その事務所の賃料の交渉で大家の許に行った時、
ある提案を受ける。それは再開発の迫るアパートに居座る住
人への立ち退き交渉だった。
こうしてアパートの一室に向かった主人公は、以前はピンク
映画の脚本を書いていたという男と向き合い最初は諍いも生
じるが、やがて打ち解けて話し出した男の思い出話の中で、
1人の女優との関係が語られる。
その女優とは…。そんな思い出話と現在のドラマがカラーと
モノクロの画面で交互に描き出されて行く。

出演は2018年6月紹介『パンク侍、斬られて候』などの綾野
剛、『火口のふたり』などの柄本佑、バンド「ゲスの極み乙
女」のドラマーほな・いこかで=2020年3月8日付題名紹介
『窮鼠はチーズの夢を見る』などに出演のさとうほなみ。
他に吉岡睦雄、川瀬陽太、マキタスポーツ、山崎ハコ、赤座
美代子、奥田瑛二、AV女優のMINAMO、Nia 。さらにサトウ
トシキ、いまおかしんじ、女池充、坂本礼らのピンク映画出
身の監督たちが脇を固めている。
自分が映画を観はじめたのはテレビの台頭で映画産業が斜陽
と呼ばれていた頃だが、当時のピンク映画はその影響は受け
ていなかった。しかしその後のヴィデオの普及ではピンク産
業はもろにその波をかぶったようだ。
今や一般の映画界も配信の普及で才能はそっちに流れつつあ
るし、試写もon line が通常になりそうな勢い。そんな過去
の産業になりつつある映画業界への、これはある種の惜別の
辞なのかもしれない。
でも監督たちは映画を愛しているんだよね。そんなことも感
じさせる作品だった。

公開は11月10日より、東京地区はテアトル新宿他で全国ロー
ドショウとなる。

『春画先生』
2019年2月24日付題名紹介『さよならくちびる』などの塩田
明彦脚本・監督で、禁断の絵画=春画を巡る人間模様を描い
たコメディ作品。
主人公は人生に目的もなく、喫茶店でウェイトレスをしてい
た女性。
ある日その店を地震が襲い、立ち竦んだ彼女はすぐ横の席で
紳士がテーブルに広げていた春画に眼が釘付けとなる。そし
て地震が収まった時、紳士は名刺を取り出し「気になったら
訪ねて来なさい」と語りかける。
そんな紳士を同僚のウェイトレスたちは「春画先生」と綽名
し、彼女も一旦は名刺を捨てようとするが、後日彼女は名刺
の住所を訪ねて行く。そこには大学を追われた春画の研究者
がおり、彼女に春画の歴史を語り始める。
こうして彼女は高齢のお手伝いさんの補助としてその家に通
うようになり、「春画先生」の講釈を聞き春画の世界に没入
して行く。さらに出入りの編集者とも付き合い始めるが、そ
れは「春画先生」の秘めた来歴にも関ることになる。

出演は2019年12月8日付題名紹介『初恋』などの内野聖陽、
2020年2月紹介『なんのちゃんの第二次世界大戦』などの北
香那、そして『花腐し』などの柄本佑。さらに白川和子、安
達祐実らが脇を固めている。
公開はR15+指定となっているが、これは春画が無修正で画面
に登場するため。実は春画が一般映画でこのように描かれる
のは初めてのことだそうだ。そんなことに挑戦している映画
ということもできる。
でもまあ内容的には実にあっけらかんとしたコメディで面白
く、また時に真剣にこのテーマが描かれている。それは江戸
時代には開放的だった春画を含む文化が、明治以降の西洋化
で弾圧されたという文明批評にもなっている。
それに併せて現実の性愛行動も巧みに描写されており、それ
らを出演者たちが体を張って演じているのも見どころと言え
そうだ。特に柄本佑は2作続けてその肉体美?を見ることに
なってしまった。
いずれにしても春画という文化を真正面から捉えたという点
で好感を持てる作品だし、そこに託された主人公らの悲しみ
なども見事にドラマに結実させた作品と言える。特に写真か
ら登場の安達祐実は出色だ。

公開は10月13日より、全国ロードショウとなる。

『QUALIAクオリア』
劇作家越智良知による「劇団うつろろ」が2021年に上演した
舞台劇を、2022年11月紹介『餓鬼が笑う』などに出演の俳優
牛丸亮が初監督で映画化した作品。
主人公は養鶏場に嫁いだ女性。家族は夫と、障碍者だが猟師
でもある義姉。それに従業員の若者がいて主人公は鶏の世話
など懸命に行っている。しかし夫婦に子供はなく、義姉には
こき使われている。それでも和やかに暮しは続いていた。
そんな一家の許に突然若い女性が現れ、アルバイトの募集に
応募したいと言い出す。その言葉に主人公は了承して女性は
一緒に暮らし始める。そして義姉に取り入るかのように世話
を始め、さらに猟にも同行するようになる。
こうして主人公の仕事は少し楽になるのだが、数日後、女性
は突然、主人公の夫の子供を宿していると主張し始める。し
かし主人公はそれにも動じず、和やかな日々を継続するのだ
が…。一家の暮らしが徐々に破綻し始める。

出演は2013年4月紹介『フィギュアなあなた』などの佐々木
心音、2023年8月紹介『市子』などの石川瑠華、2022年6月
紹介『激怒』などの木口健太、本作のエグゼクティヴプロデ
ューサーも務める久田松真耶、劇団「愚者愚者」の藤主税。
さらに芦原健介、木村知貴、川瀬陽太らが脇を固めている。
監督はオリジナルの舞台に感激して映画化を申し出たそうだ
が、物語は実に面白い。成程これなら普通にも起こり得る話
だし、多少突飛なところはあっても全体の流れの中で納得で
きてしまう。中々の秀作に思えた。
そしてそんな物語を出演者たちが実に普通に演じている。特
に佐々木はいつも微笑みを絶やさないという役柄を自分のも
ののように演じており、エンディングの展開からは続編も期
待したくなるものになっていた。
久しぶりに日本映画を観た、という感じにもさせてくれる作
品だった。日本映画の現状を知るには好適な1本と言うこと
もできそうだ。

公開は11月18日より、東京地区は新宿のK's cinema他にて全
国順次ロードショウとなる。
因にタイトルは英語で「感覚質」と訳され、『広辞苑』によ
ると「感覚的体験に伴う独特で鮮明な質感」であり、「脳科
学で注目される」概念だそうだ。これに対し哲学者からは、
「クオリアという概念に意味があるかどうかですら、意見が
分かれている」とされている。(出典:ウィキペディア)

『コーポ・ア・コーポ』
日雇労務者の岩波れんじが2019年に初連載で発表したコミッ
クスを、2019年『燃えよ!失敗少女』などの仁同正明監督が
映画化した2000年代の大阪が背景の群像劇。
舞台は昭和レトロの雰囲気漂う木造の安アパート。そこには
それぞれ少し訳ありの住人たちが、家賃の取り立てが来ると
互いに声を掛けて部屋から姿をくらます程度のゆる〜い連帯
で暮らしていた。
しかしその日は声を掛けても応答のない部屋のドアを開ける
と、その部屋の住人が首を吊って自死していた。そんな住人
を皆で引き下ろし警察も呼ぶ面々だったが、その部屋に積ま
れた拾ってきた家電の品定めは怠らない。
そしてその日は外のベンチでタバコを吸いながら、「金を借
りに来たが貸さなかった」などの思い出話で悲嘆にくれる。
そんな住人たちの日々の出来事が各人ごとのエピソード的に
綴られて行く。

出演は2014年3月紹介『パズル』がデビュー作という2015年
『仮面ライダードライブ』などの馬場ふみか、2023年1月紹
介『Winny』 などの東出昌大、2023年8月紹介『市子』など
の倉悠貴、2022年6月紹介『川っぺりムコリッタ』などの笹
野高史。
さらに前田旺志郎、北村優衣、藤原しおり、片岡礼子、大谷
麻衣、山本浩司、白川和子、岩松了らが脇を固めている。
原作は連載コミックスだから、それぞれの登場人物の1話完
結で描かれているのかな。それを映画では住人4人の役名を
冠しながら独立の話として描いて行く。それはやり方として
間違ってはいないが、やはり食い足りないかな。
しかもそれぞれのエピソードの舞台がアパートを離れてしま
うから、一層その感じが増幅されてしまう感じもした。これ
はこの前に他の作品でも同じ指摘をしたと思うが、映画では
それなりにしっかりしたドラマを見たいと思うものだ。
ただし本作では最初と最後に連続するエピソードを配して全
体の纏まりは付く工夫はされているが、やはり各エピソード
が短いのは勿体ない感じもしてしまう。原作ではもっと深い
話があったのではないかとも思ってしまうのだ。
これは勝手な妄想かも知れないが。

公開は11月17日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。

『SISU/シス 不死身の男』“Sisu”
第2次大戦末期のフィンランド北部ラップランドを舞台に、
焦土化作戦を展開するナチスをたった1人で蹴散らして行く
兵士を描いた痛快アクション作品。
主人公は元はロシア軍に怖れられた伝説の兵士だった。しか
し戦いに疲れ、ラップランドでツルハシ1本を携えて砂金を
採っていた。ところが金塊を携えて町に向かう途中でナチス
に遭遇してしまう。
そこで砲撃に遭い金塊をぶちまけてしまった主人公は、それ
を拾い集めているところのナチスに目撃され、執拗な追撃を
受けることになる。しかしそれはナチスを殲滅する最高の結
末に繋がっていた。
そしてそこにナチスに拉致された女性たちの運命も重なり、
とんでもない事態が展開されて行くことになる。

脚本と監督は、CM業界の出身で2015年にサミュエル・L・
ジャクスン主演の『ビッグ・ゲーム大統領と少年ハンター』
が話題になったフィンランド出身のヤルマリ・ヘランダー。
主演は同作にも出演のヨルマ・トンミラが務める。
他にノルウェー出身でハリウッドに進出し、紀里谷和明監督
の『ラスト・ナイツ』などにも出演のアクセル・ヘニー、イ
ギリス出身で配信ドラマに出演のジャック・ドゥーラン、フ
ィンランドのアカデミー賞を受賞しているミモサ・ヴィッラ
モ、主演のヨルマの息子で『ビッグ・ゲーム』にも出演のオ
ンニ・トンミラらが脇を固めている。
タイトルには不死身とあるが、実際の設定では怪我もするし
巧みに攻撃を回避しているという感じかな。もちろんかなり
無茶苦茶な攻撃を回避しているが、あくまでも人間の所業の
範囲という感じで、これはスーパーマンの話ではない。
つまり007やイーサン・ハント、ドミニク・トレドらと同
列で、生身の人間が能力を最大限に発揮して闘うという類の
ものだ。もちろんその闘いぶりは尋常ではないが、超人同士
の戦いよりは観ていて気持ちが良い。
それにしてもカバンに詰めた金塊はかなりの重量で、これを
軽々と運べるのはかなりの力持ちかな。そしてそれを紙幣に
換えるのはつまり国庫に納めるということで、これは理に適
った行動だ。ただ最後に犬との再会は欲しかったかな。
文句はそんなところだ。

公開は10月27日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。



2023年09月03日(日) 蔦哲一朗短編集、ドミノ、ラ・ボエーム、リバイバル69〜伝説のロックフェス〜、火の鳥エデンの花

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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蔦哲一朗短編集
『ワークショップ』
『新宿ステーション界隈の亡霊たち』
『ミカはヴィーナス』
2013年11月紹介『祖谷物語−おくのひと−』などの蔦哲一朗
監督による実験的な試みも含めた短編集。
1本目は、蔦監督自身が講師を務めて2017年10月に行われた
演技ワークショップで撮影された作品ということで、受講者
がなぜ俳優を目指すのかというテーマで独白を行い、彼らを
取り巻く様々な状況が語られる。
そこにはかなり感情の高まりを写したものもあるが、解説に
は虚実織り交ぜてという言葉もあって、シナリオに基づく演
技の部分もあるようだ。その一方では飲み会のシーンで台詞
が他と被る部分もあって、それも演出なのかな。
映画というメディアに対して、いろいろ考察を巡らしている
面もあるような作品になっている。
2本目は8�丱侫�ルムを使った正に実験的な作品。コマ撮り
で高速で動く人々の中に動かない被写体だけが浮かび上がっ
てくる。手法的には過去に作品があるようにも思われるが、
その中で演技されているものもあって面白かった。
3本目は、一時期志村けんとのスキャンダルが話題になった
モデルの奥村美香を主演に迎えた作品。YouTuberのラファエ
ル、タレントの加藤沙里らを共演に迎えてこれも虚実入り混
じった作品になっている。
ただ途中に俳優の中村ゆうじを迎えて主人公の演技力を試す
ようなシーンがあって、これが実力をさらけ出す、これは演
出なのか否か。正に芸能界の闇が写し出されたような作品に
もなっている。
因に蔦監督はフィルムに拘って制作を続けているが、画面の
微妙な残像感などにこれがフィルムの特性なのかなと感じさ
せてくれるものがあった。ヴィデオとは異なる質感は間違い
なくあるようだ。

公開は9月15日より、東京地区はシモキタエキマエシネマK2
にてロードショウとなる。
映画ファンなら、観ればそれなりの何かは得られる作品だ。
なお来場していた蔦監督によると、新作の長編作品の準備も
進行中だそうだ。

『ドミノ』“Hypnotic”
2014年1月紹介『マチェーテ・キルズ』などのロバート・ロ
ドリゲス監督が、2012年9月紹介『アルゴ』などのベン・ア
フレックを主演に迎えて作り上げた大方のSF映画ファンを
唸らせる作品。
主人公は中年の刑事。彼は娘と行った公園で一瞬の内に娘を
見失ってしまう。その誘拐犯の男は捕まるが、男には犯行時
の記憶がなく、娘は見つからなかった。そして現在は心療内
科で治療を受けながら職務に就いていたが…。
そんな彼の許に、銀行が襲撃されるとの匿名の通報があり、
張り込んだ彼は1人の男に着目、男より先に貸金庫に入った
主人公は「レヴ・デルレーンを見付けろ」と記入された娘の
写真を発見する。
そして2人の同僚と共に屋上に男を追い詰めた主人公だった
が、突然2人の同僚は暗示に掛かったように互いを撃ち、男
は屋上から飛び降りて姿をくらましてしまう。その後も次々
に謎の事態に遭遇した主人公は、ある女性占い師を訪ね…

共演は2013年8月紹介『エリジウム』などのアリシー・ブラ
ガ、2013年7月紹介『ローン・レンジャー』などのウィリア
ム・フィクナー。
さらに2020年『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』で
トレドの父親を演じたJ・D・パルド、2015年7月紹介『タ
ーミネーター:新起動/ジェニシス』などのダイオ・オケニ
イ、2012年5月紹介『ダーク・シャドウ』などのジャッキー
・アール・ヘイリーらが脇を固めている。
実はいろいろあって原題を確認しないまま観に行ってしまっ
たのだが、それが正解だったようだ。SFファンにはお馴染
みの単語だが、見事ネタバレしてしまっている。従ってでき
れば原題を見ずに観て貰いたい作品だ。その点で邦題は実に
ありがたいものになっている。
実際にこのテーマの作品は過去にもいろいろあるが、本作で
はさらにそこにヴィジュアル・インパクトも追加して、それ
は鮮烈な作品になっている。このヴィジュアルも過去にない
訳ではないが、その扱いが見事に嵌っていた。
そんなこんなで、SF映画ファンにはお楽しみが目一杯に詰
まった作品とも言える。しかもエンドロールにも仕掛けがあ
って、これは見逃せない作品だ。監督と主演の2人は本当に
SFが好きなんだなあとも思った。

公開は10月27日より、全国ロードショウとなる。

『ラ・ボエーム』“La Boheme”
ジャコモ・プッチーニの作曲により1896年にイタリアトレノ
で初演された歌劇を、2022年のニューヨークを背景に再構築
した作品。
開幕は都会の片隅で詩人と画家、哲学者、音楽家が共同で暮
らしているアパートの一室。大晦日の夜に暖炉にくべる薪も
なく、寒さに耐えかねた詩人は遂に売れない自作の原稿を燃
やし始める。
ところがそこにパトロンが付いたという音楽家がワインと食
料を持って登場。祝宴となり掛かるが、音楽家の提案で食料
は残して酒場に向かことになり、作品を書き上げるという詩
人を除いた3人は出掛けて行く。
そして詩人だけが残った部屋に1人の女性が訪れ、停電が起
き…とまあ、物語はオリジナル通りに進行して行くものだ。
それが現在のトップクラスとされるオペラ歌手たちによって
演じられる。

出演は、中国人テノール歌手シャン・ズウェン、中国人ソプ
ラノ歌手ビジョー・チャン、メキシコ系アメリカ人バリトン
歌手ルイス・アレハンドロ・オロスコ、プエルトリコ人ソプ
ラノ歌手ラリサ・マルティネス。
さらに日本人バス歌手井上秀則、アフリカ系アメリカ人バリ
トン歌手マーケル・リード、アメリカ人カウンターテノール
歌手アンソニー・ロス・コスタンツォ。
監督は、ヴィジュアル・アーチストでオペラ監督のレイン・
トレマーが長編デビュー作として担当した。
オリジナルのオペラは題名の通りボヘミアンの話だが、本作
ではそれが配役でも判る通りの東洋人を中心としたマイノリ
ティに置き換えられている。そして原作で死をもたらす病が
COVID-19と思わせるのも現代化のポイントだろう。
その辺が本作の特徴かな…。とは言うものの、歌われる歌曲
がプッチーニのそのままでは大筋の物語には変化の付けよう
がないもので、オリジナルをただ背景だけ変えたものという
印象は拭えない。
敢えてミュージカル版とするには、『レント』という名作も
あるのだし、その辺はちょっと中途半端な感じもした。ここ
は無理をせずに、単に現代版ということで行った方が良いの
ではないかな。オペラの部分は間違いなく本物なのだし。

公開は10月6日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他で
全国ロードショウとなる。

『リバイバル69〜伝説のロックフェス〜』
   “Revival69: The Concert That Rocked the World”
1969年9月13日にカナダで行われたone-day, twelve-hourの
音楽フェス‘The Toronto Rock and Roll Revival’ 開催の
顛末を描いたドキュメンタリー。
フェスが行われた60年代後半は、ヒッピーやフラワーチルド
レンの台頭で旧来のロックンロールは廃れ始めていたのだそ
うだ。そんな風潮の中で、カナダの若いプロモーターがロッ
クの復権を賭けたフェスティヴァルを企画する。
そこには彼らの意気に感じたチャック・ベリーやリトル・リ
チャード、ジェリー・リー・ルイスにジーン・ヴィンセント
らが参集。ところがチケットは一向に売れない。そこで彼ら
は当時大人気のドアーズにも声を掛け、参加が決まる。
しかし開催1週間前になってもチケットの売れ行きは向上せ
ず、遂に彼らは秘策中の秘策としてジョン・レノン&オノ・
ヨーコによる新バンド「プラスティック・オノ・バンド」に
声を掛ける。そしてレノンは快諾するのだが…。
果たしてオノ・バンドは無事に出演し、フェスティヴァルは
成功するのか?

同フェスの映像では1971年に“Sweet Toronto” という作品
が公開されているが、本作は当時撮影されたフィルムと共に
新たに関係者に行ったインタヴュー、そして当時の音声の記
録などからロン・チャップマン監督が新たに再編集。
通常の演奏の映像だけでなく、そこに至る舞台裏の様子など
も網羅された作品となっている。しかもそれがかなりドタバ
タの連続で、これぞまさにフェスティヴァルの醍醐味という
感じにもなっている。
僕自身、若い頃にはフェスティヴァルに主催者側として参加
した経験もあるから、舞台裏の様子などには懐かしさという
か、今にして思えば憧れのような感じもしてしまう。そんな
わくわく感も思い出させてくれる作品だった。
目の前に想いもよらぬ大物が現れて、どうしていいか分らな
くなる。それは多分この作品に登場する人たちも同じ感じだ
ったのだろう。そんな感覚も見事に再現されている作品だ。
それにしてもジョン・レノンらの一行の護衛をバイカー集団
に任せるなんて。そんな無茶苦茶な状況もしっかりと記録さ
れ、とにかく若さの勝利という感じの作品だった。

公開は10月6日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
渋谷、角川シネマ有楽町他にて全国ロードショウとなる。

『火の鳥エデンの花』
漫画家手塚治虫のライフワークとされる『火の鳥』の中から
1976−78年に発表された『望郷篇』を初映像化した作品。
物語の背景は人類が大宇宙に進出している時代。そんな中で
人類が呼吸可能な大気を持つエデン17と名付けられた惑星に
男女のカップルが降り立つ。2人はある事情で地球を脱出、
無人のその星にやってきたのだが…。
その星には大気はあるものの水資源は枯渇しており、2人は
作物を栽培するための水の確保から始めなくてはならなくな
る。そして女性が妊娠し、男性が水脈を発見したとき、不慮
の事故で男性は死亡してしまう。
そんな女性の壮絶なサヴァイヴァル劇や異星人との交流、さ
らには文明の勃興、そして最後は原作の題名にある通りの地
球への望郷などが、1000年を超えるタイムスケールで壮大に
語られている。

監督は日仏合作の長編アニメーション『ムタフカズ』などの
西見祥示朗。キャラクターデザインは2006年11月紹介『鉄コ
ン筋クリート』などの西田達三。音楽を2017年3月紹介『夜
明けを告げるルーのうた』などの村松崇継。製作は『鉄コン
筋クリート』などのSTUDIO4℃が手掛けた。
声優は宮沢りえ、窪塚洋介、イッセー尾形、ドラマ『大病院
占拠』などの子役の吉田帆乃華らが演じている。
手塚治虫の原作は紆余曲折があって何度も書き直され、様々
なヴァージョンが存在するもののようだが、上映時間95分の
本作ではそのエッセンスが見事に凝縮された作品と言えそう
だ。
ただ原作の前半では、多少現代にそぐわないと思われる展開
もあったが、その点は巧みな改変で見事にクリアしている。
この展開は実は筒井康隆の『幻想の未来』などにもあって、
当時としてはタブーへの果敢な挑戦だったものだが、言論が
不自由な現代では描いたら炎上間違いなしだったろう。
その他にも現代の風潮に合わせたような改変はいくつか見ら
れるが、それが全体のテーマを損ねるものではないし、その
辺は原作にリスペクトした上での見事な処置と言っていい。
多分手塚さんが存命ならこうしていたと思えるものだ。
そして何より原作が描いた壮大な宇宙観、人類の未来に対す
る憂いみたいなものが、原作者の思想通りに見事に再現され
た作品と言えそうだ。

公開は11月3日より、全国ロードショウとなる。


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井口健二