井口健二のOn the Production
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2023年08月27日(日) 二十歳に還りたい。、さよならほやマン、北極百貨店のコンシェルジュさん、鯨の骨、カンダハル−突破せよ−

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『二十歳に還りたい。』
大川隆法製作総指揮・原作、幸福の科学出版製作によるファ
ンタシー要素の強い作品。
登場するのは功成り名を遂げた老人。しかし苦労の末の成功
では家族関係に恵まれず、介護老人ホームに入居した今では
面会者もほとんどいない。そんな彼の許にはヴォランティア
の女子大生が話し相手に訪れていたが…。
ある日、近くの高台に車椅子を押して登ってきた彼女は「日
没のときに祈ると一つだけ願いが叶う」と彼を促す。そして
彼が願ったのは二十歳に還ること。こうして大学生の身体に
宿った彼は大人の知恵で難題を解決して行く。
しかし彼の願いを叶えた神は、ある試練も彼に課していた。

出演は大川映画で出演や主題歌の歌唱も手掛ける田中宏明、
2012年7月紹介『かぞくのくに』などの津嘉山正種。それに
オーディションで選ばれた三浦理香子。さらに伊良子未來、
永嶋柊吾、上杉祥三らが脇を固めている。
監督は、2022年9月紹介『呪い返し師−塩子誕生』などの赤
羽博が担当した。
まあこの手の転生ものは過去作もいろいろあったと思うが、
ここまで明確に神の介在を謳うのはさすがに宗教団体製作の
映画というところかな。その分余計な説明がないのも良かっ
たところだ。
ただ主人公が転生前の自分に出会わないのは最後に納得でき
たが、ヒロインが同姓同名に気づかないというのはどうなの
かな。この辺はもう少し説明が欲しかった。パラレルワール
ドなのか、それともヒロイン=神なのか。
それに神が課した試練というのが、正直に言って陳腐という
か軽薄かな。それが不可侵なのは宗教としては致し方ないの
だろうが、神の試練というのは本来それを克服することが神
への報恩で、そこを逃げるは冒涜にも思える。
いずれにしても神を道具として使うのではなく、もっと真摯
に向き合った作品を作ってもらいたかったものだ。それが宗
教家としてあるべき姿ではないのかな。思い切り重厚な作品
が観てみたいものだ。
因に製作総指揮・原作の大川隆法師は2023年3月2日に死去
したはずだが、今回試写会で配布されたプレス資料にはその
ことは一切触れられていなかった。ひょっとして今後も作品
が続くことはあるのかな。

公開は9月29日より、全国ロードショウとなる。

『さよならほやマン』
CMディレクターの庄司輝秋監督が、自らの故郷である宮城
県石巻市の離島を舞台に描く長編映画デビュー作。
登場するのは、「東北のハワイ」とも称される島で素潜りに
よる「ほや」漁をする青年。少し障害のある弟と2人暮らし
の青年は、食事は1日1個のカップ麺しか口にしない。そし
て大切な船を借金の担保で取られそうになっている。
そんな2人の暮らす家に髪を青く染めた女性が転がり込んで
くる。実は彼女は弟が好きな漫画の作者で、ある事情で東京
を離れ、その島にやってきたのだが。電波が良いという理由
で上がり込んできた彼女と奇妙な3人生活が始まる。
一方その島での生活に行き詰まりを感じていた青年は、ふと
亡父がやっていた島興しのキャラクター=ほやマンを復活さ
せ、動画のSNSを始めてみるが…。

出演は、2019年8月25日付題名紹介『宮本から君へ』などに
楽曲提供をしているバンド「MOROHA」のMCアフロ。2017年
11月5日付「東京国際映画祭」で紹介『アイスと雨音』では
本人として登場しているが、本格的な主演は初めて。
共演は、NHK朝ドラに主人公の親友役で多く出演している
呉城久美と、2023年後期の朝ドラ『ブギウギ』に主人公の弟
として出演の黒崎煌代。他に津田寛治、松金よね子らが脇を
固めている。
主演のアフロは本格的な演技は初めてのようだが、監督が執
筆した脚本が当て書きだったらしく、正にらしくこの役を演
じている。因にアフロは出演のために小型船舶の免許も取得
し、ロープの結び方もしっかりと学んだそうだ。
物語は3・11を背景にしたものだが、それ以上に行き詰りを
感じる現代の若者に届く話だろう。目標を定めにくい時代、
自分が何をすれば判らない若者たちにそのヒントを与えてく
れるかもしれない作品だ。
最初は単純なご当地ものかなと思いながら観始めたが、予想
以上に奥が深く単なる復興ものでもない感動を与えられた。
主演の3人のバランスも良いし、ユーモアの描き方も適切に
感じられた。ベストな作品と言えるだろう。
それにしても劇中の新鮮なホヤの美味しそうなこと。東京だ
となかなかお目に掛れないし、あっても生臭さが先に立って
しまうが、現地で食べると本当に美味しいのだろうな、そん
な羨望も感じてしまう作品だった。

公開は11月3日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国
ロードショウとなる。

『北極百貨店のコンシェルジュさん』
2015年公開『百日紅Miss HOKUSAI』でキャラクターデザイン
を務めた板津匡覧監督が、文化庁メディア芸術祭マンガ部門
で優秀賞を受賞した西村ツチカの原作をアニメーション映画
化した長編デビュー作。
従業員は人間だが、顧客は動物たちという「北極百貨店」。
その店でコンシェルジュとして働き始めた主人公は、先輩や
厳格な主任が見守る中で、様々な要求をしてくる顧客たちを
相手にその願いを叶えるべく奮闘する。
この作品も物語の展開は予想外だったかな。特にすでに絶滅
してしまった動物の扱いが、何というかすごく素敵に感じら
れる作品だった。しかもその描き方が理に適っているという
か納得できる。
これは原作がそういう作品なのだろうけど、主人公に与えら
れる問題とその解決策が、それに関連するギャグも含めてほ
のぼのというか、実に心が温まる展開なのだ。その描き方も
気に入ってしまった。
因に劇中での絶滅種はV.I.A(Very Important Animal)と呼ば
れているが、登場するのはワライフクロウ、ウミベミンク、
ニホンオオカミ。なるほどと思わせる選択で、それぞれが特
有の問題を抱えているのも上手くできたお話だ。
そしてその問題が主人公の大奮闘の末に解決される。それは
動物たちの問題でありながら、実は現代の人間たちの抱える
問題にも反映される。その辺の構成も巧みに感じられる作品
だった。

脚本はテレビドラマ『凪のお暇』などの大島里美。アニメー
ション制作は、2019年8月11日付題名紹介『銀河英雄伝説』
などのProduction I.G。また音楽を2018年6月24日付題名紹
介『寝ても覚めても』などのtofubeatsが担当している。
声優は川井田夏海、大塚剛央、飛田展男、藤原夏海、吉富英
治、福山潤、中村悠一。さらに立川談春、島本須美、寿美菜
子、家中宏、入野自由、花澤香菜、村瀬歩、陶山恵実里、氷
上恭子、清水理沙、諸星すみれ、七海ひろき、花乃まりあ、
津田健次郎らが個性的なキャラクターを演じている。
可愛い動物のキャラクターはお子様向けには絶好だが、大人
にも充分に楽しめる内容だ。それにしても、店のオーナーら
しきキャラクターと店の名前の関係は…。そこにもなかなか
深いものがありそうだ。

公開は2023年秋、全国ロードショウとなる。

『鯨の骨』
米アカデミー賞脚色賞にノミネートされた『ドライブ・マイ
・カー』の脚本を濱口竜介監督と共同で手掛けた大江崇允が
自らの監督作として公開するSF色も強い作品。
登場するのは婚約破棄された男性。不眠症になり落ち込んだ
彼は同僚の勧めでマッチングアプリに登録。返事をくれた若
い女性と喫茶店で待ち合わせて自室に誘うが…。シャワーを
浴びている間に彼女が自死、しかも遺体が消えてしまう。
そんなミステリアスな出来事の後、ARアプリ「ミミ」に参
加した彼は、街中に出現するアバターの中で消えてしまった
彼女に遭遇する。そして彼女がアバターを埋め込んだ彼の部
屋で、彼女は自死の理由を語っていた。

出演は2018年6月紹介『私の人生なのに』などの落合モトキ
と、ミュージシャン/タレントで2016年12月18日付題名紹介
『咲-saki-』などにも出演のあの。あのは本作の主題歌も作
詞・作曲・歌唱している。
他に2020年1月26日付題名紹介『踊ってミタ』などに出演の
横田真悠、2022年7月紹介『夜明けまでバス停で』などの大
西礼芳、さらに前回紹介『市子』などの宇野祥平らが脇を固
めている。
リアルとヴァーチャルの境が曖昧になった世界という触れ込
みの作品だが、僕自身はAR=拡張現実に関しては知識とし
て持っていたものの、「ミミ」に関しては殆んど知らなかっ
た。ただ作中での扱いは少し批判的かな。
そんなこともあるせいか、ARアプリに群がる人々の描き方
には多少悪意も感じられたが、こういう群集心理的なものは
ARアプリに限らないし、そんな全般的な社会現象への批判
もあるのかもしれない。
ただし物語の結末に関しては少しリアルに寄せ過ぎな感じも
して、ここはもっとオープンな結末でもよかったかなという
感じはした。多分監督が真面目なところもあるのだろうが、
折角の設定が勿体ない感じもしたものだ。
とは言えこの説明をしないと意味不明と言い出す連中も出て
くるのだろうが…。出来ればもっとヴァーチャル側に寄せた
結末になれば、それは新機軸の展開として記憶に残る作品に
なったとも思えたものだ。その辺は次回作に期待かな。

公開は10月13日より、東京地区は渋谷シネクイント、シネマ
ート新宿他にて全国順次ロードショウとなる。

『カンダハル−突破せよ−』“Kandahar”
2019年10月13日付題名紹介『エンド・オブ・ステイツ』など
のジェラルド・バトラー主演、リック・ローマン・ウォー監
督で、潜入工作による作戦は成功したものの、機密漏洩で面
が割れた工作員が敵地からの脱出を図るアクション作品。
バトラーが演じるのは、MI6からの出向でCIAの作戦に
従事する潜入工作員。今回はイランの原子力施設の周辺で通
信回線に侵入路を工作し、CIAはその進入路を使って施設
のメルトダウンを引き起こす。
こうして世界をイランの核脅威から守ることに成功した主人
公だったが…。その直後、あろうことかCIAの内部告発に
よる機密漏洩で彼の存在が報道機関を通じて顔写真を含めて
公になってしまう。
このため帰路の飛行便への搭乗が不可能になった主人公は砂
漠を超えてアフガニスタン南部にあるCIAの基地を目指す
ことになる。その距離 400マイル、しかも救援機の離陸まで
30時間しか残されていなかった。
そしてその後を、国家の威信に掛けたイスラム革命防衛隊、
彼の身柄を金づると踏んだパキスタン軍統合情報局、さらに
タリバンの息が掛かったゲリラ、武器商人が率いる武装集団
などが追い始める。

共演は、イラン出身で2019年5月紹介『アラジン』などのナ
ヴィド・ネガーバン、インド出身で2015年『ワイルド・スピ
ード SKY MISSION』などに出演のアリ・ファザール、イラン
出身でスウェーデンで活動するバハドール・フォラディ。
さらにオーストラリア出身のトラヴィス・フィメル、イギリ
ス出身のニーナ・トゥーサント=ホワイトらが脇を固めてい
る。
脚本は、元アメリカ国防情報局の職員でアフガニスタンにも
何度も派遣されたことがあるというミッチェル・ラフォーチ
ュン。2013年のスノーデン事件の頃に職員だったという作者
の実体験の基づくとされる作品だ。
何と言ってもバトラーの主演だから劇中ハラハラドキドキは
たっぷりあるものの、観客は安心して観ていられる作品だ。
その分アクションはしっかりと観られるし、本作では脇を固
める若い俳優の活躍も楽しめる。
その顔触れが国際的なのも嬉しい作品だ。

公開は10月20日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ
ードショウとなる。



2023年08月20日(日) コカイン・ベア、うかうかと終焉、市子

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
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『コカイン・ベア』“Cocaine Bear”
密輸犯が投下したコカインを野生のクマが食べてしまったと
いう1985年に起きた実話に基づくとされる作品。
開幕は、森林地帯を飛ぶ小型機から男が麻薬の詰まった多数
のカバンを機外に投げ落とす姿。やがて男はパラシュートを
身に着けカバンの後を追おうとするのだが、投降口に頭をぶ
つけ気を失ったまま墜死してしまう。
一方地上では、麻薬組織のボスが投下されたカバンを回収す
るべく待機していたが、投下した男が墜死したためにその位
置が判らなくなる。それでもボスは配下に森に入って回収す
ることを命じるが…。
その他にもその森には、森林警備隊や麻薬組織の壊滅に執念
を燃やす刑事、さらに幻の滝の写生に向かった小学生とその
後を追う母親など様々な人間が立ち入っていた。そしてその
人々を麻薬を食べてハイになったクマが襲い始める。

出演は、2016年11月紹介『ニュートン・ナイト自由の旗をか
かげた男』などのケリー・ラッセル。2014年10月紹介『天国
は、ほんとうにある』などのマーゴ・マーティンデイル。そ
れに2022年5月26日に他界したレイ・リオッタ。
他にオールデン・エアエンライク、オシェア・ジャクソン・
Jr. 、クリストファー・ヒビュ、ブルックリン・プリンス、
イザイア・ウィットロック・Jr. 、アヨーラ・スマートらが
脇を固めている。
脚本は2020年にマックG監督『ザ・ベビーシッター キラー
クイーン』という作品も手掛けているジミー・ウォーデン。
監督は2018年9月9日付題名紹介『ピッチ・パーフェクト』
の第2作を手掛け、2019年『チャーリーズ・エンジェル』の
リブートも手掛けたエリザベス・バンクスが担当した。
上映はR15+指定になるようで、いやはやかなり強烈な作品。
実話では薬物の過剰摂取で死亡したクマが発見されたという
程度で、人的な被害は報告されていない(巻頭の墜死は実話)
ようだが、事件から40年近くを経てかなり大胆な脚色が行わ
れたものだ。
そしてそれを『LOTR』などのニュージーランドWETA
のCGIで見事に再現している。このリアルさによって本作
がただのパニック映画ではなく、寓意に満ちた作品に昇華し
ていることは確かだろう。

公開は9月29日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷、渋谷
シネクイント他にて全国ロードショウとなる。

『うかうかと終焉』
京都大学卒業でNHKエンタープライズに所属する太田雄史
監督が、社会人演劇ユニットを結成してその第1回公演で上
演、第23回日本劇作家協会新人賞を受賞した戯曲の映画版。
物語の舞台は、東京本郷界隈と思われる場所に建つ学生寮。
その入り口には「退去期限まであと…」と書かれたカウント
ダウンを告げる看板が置かれている。そして残り日数が6日
となった日から物語は始まる。
築100年とされるその寮には自治会もあって、大学側との
交渉も続いているようだが、入居10年という先代自治会長と
男女数人の友人たちは、徐々に引っ越しの準備も進めている
ようだ。しかし先代自治会長にはある思いがあった。
そんな中、退寮者は最後に一言書き残すというルールに従っ
て引っ越して行く学生らが様々な文言を壁に書いて行く。そ
の書き残された言葉を見ながら、残っている学生たちの様々
な思いが交錯する。

出演は1000人の応募者の中から選ばれたという西岡星汰と、
2017年12月紹介『野球部員、演劇の舞台に立つ!』などの渡
辺佑太朗。
また2019年7月紹介『いなくなれ、群青』などの松本妃代、
ドラマ『グランメゾン東京』などの三浦獠太、ドラマ『大病
院占拠』などの乃中瑞生、ドラマ『しろめし修行僧』などの
中山翔貴。
さらに中村無何有、中川可菜、大休寺一磨、コウメ太夫、後
藤剛範、森下能幸、池谷のぶえ、前野朋哉、草村礼子、平泉
成らが脇を固めている。
映画の舞台は東京大学の本郷界隈だが、監督が描いているの
はやはり京都大学吉田寮なのだろう。ただこの寮に関しては
既に2020年3月紹介『ワンダーウォール』がある訳で、現実
の問題点はそちらの方がしっかりと描けていた。
それに対して本作では、中に暮らす学生の姿をより現実的に
描いているとも言えるが、今も紛争中の出来事をうやむやに
するのも作品としては問題になるし、その辺を考慮して東京
にしたのかな。
それはまあより普遍的な青春の姿のようにも見えるが、先の
作品を観た眼からは少し斜に構えた作品のようにも見えてし
まった。先の作品がなければストレートな青春ドラマだった
のだろうが。

公開は10月13日より、東京地区はテアトル新宿他にて全国順
次ロードショウとなる。

『市子』
8月6日紹介『法廷遊戯』などの杉咲花が、現代社会の狭間
に生きる女性を強烈な印象で演じたドラマ作品。
主人公というか狂言回し的に登場するのは1人の男性。彼は
3年間同棲した女性にプロポーズするが、その翌日に彼女は
失踪してしまう。そして警察に捜索願を出すと、1人の刑事
が彼を訪ねてくる。
その刑事は彼女の写真を示し「これは誰か」と尋ねる。しか
し彼には彼女の過去を全く語ることができなかった。それは
彼女が自らの過去を全く語ってこなかったからだ。彼は本当
の彼女を知らなかった。
こうして彼は警察から得たりしたいろいろな手掛かりを基に
彼女の足跡を訪ね歩き、彼女の生涯を辿って行くが…。それ
は20代半ばにして壮絶としか表現のしようのない凄まじい生
き様だった。
もちろんそこには法律制度の歪みなど、社会問題とも言える
ものも介在するが、それ以上の想像を超える彼女の人生が、
巧みな伏線とその回収によって見事に描き出されて行く。正
にドラマツルギーの極致とも言える作品だ。

共演は2020年2月23日付題名紹介『街の上で』などの若葉竜
也と、2007年1月紹介『しゃべれども しゃべれども』など
の森永悠希。さらに『街の上で』などの中田星渚。
また2019年6月23日付題名紹介『イソップの思うツボ』など
の石川瑠華、本作のオリジナルの舞台にも出演の大浦千佳。
そして渡辺大知、宇野祥平、中村ゆりらが脇を固めている。
脚本は2018年2月11日付題名紹介『ばぁちゃんロード』など
の上村奈帆。監督は1983年生まれでチーズfilm代表取締役と
いう戸田彬弘。監督はチーズtheater という劇団も主宰して
おり、本作はその旗揚げ公演作の映画版のようだ。
2本続けて舞台からの映画化作品の紹介となったが、本作は
舞台版の題名が「川辺市子のために」ということで骨子は同
じでもかなり改編されているようだ。その舞台版のことは不
知だが、証言集のような構成だったとされる。
ということはもっと訪問先での会話が中心だったのかな。そ
れに対して映画では市子という女性の生き様が映像として丁
寧に描かれていたもので、様々な環境の中で必死に生き抜い
てきた姿がリアルに観客に迫ってくるものになっていた。
実はネタバレになるので詳しくは言えないが、今年観た映画
の中で最も重要な1本と言える感じのする作品だった。

公開は12月8日より、東京地区はテアトル新宿、TOHOシネマ
ズシャンテ他にて全国ロードショウとなる。



2023年08月13日(日) めためた、コンフィデンシャル:国際共助捜査、トンソン荘事件の記録、白鍵と黒鍵の間に、フラッシュオーバー炎の消防隊

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『めためた』
2019年9月15日付題名紹介『種をまく人』などに出演の俳優
で、他に撮影部、照明部、助監督などでも映画に関ってきた
という鈴木宏侑が、やはり俳優の新井秀幸と組んで企画し、
新井の脚本、鈴木の監督で製作した長編デビュー作。
登場するのはスランプ中の作家、そんな作家が街を彷徨しな
がら小説の断片を綴って行く。そしてそれらの断片が映像化
される。その中には、妹の就職祝いに帰省する女性とそれに
付き合う俳優志望の男性や、妊活中の夫婦に突き付けられる
現実や、さらに作家自身の話も盛り込まれる。

出演は脚本も務めた新井の他、和座彩、錫木うり、鍛代良、
久保田翔、橋本つむぎ、柳谷一成、金谷真由美、池内明世、
野呂健一ら、主に舞台やインディーズ映画に出演している俳
優たちのようだ。
タイトルの「めた」はメタフィクションを標榜しているよう
で、確かに作家が登場して自作について悩むというのはその
範疇にあるようだ。ただそれぞれのエピソードは、俳優たち
に設定だけ渡して演じられた即興劇(エチュード)のようで、
互いの展開などが考慮されたものではない。
そうなると映画全体の物語も統一性のないもので、しかもそ
れぞれのエピソードに完結性というか、物語の成立も怪しい
ものになるから、全体として何かを達成した感にも乏しいも
のになってしまう。単純にスケッチの羅列という感じの作品
だ。
メタフィクションというのは、それ自体はいい加減に作られ
ているようにも見えるが、実際には周到に構築された物語世
界の中で展開されるもので、その形式だけを踏襲しても面白
くなるものではなく、却っていい加減さが目立つようにも感
じられた。
ただ本作が先に上映された映画祭TAMA NEW WAVE ではかなり
観客は湧いたそうで、そういう人たちには受け入れられたの
だろう。とは言えこれを映画として評価するのはかなり抵抗
感のある作品だった。まあ僕の方が古い価値観に囚われてい
るだけなのだろうが。

公開は11月より、東京地区は渋谷のユーロスペース他で全国
順次ロードショウとなる。
上映時間は72分で、若い才能を発見するにはお手ごろな作品
と言えそうだ。

『コンフィデンシャル:国際共助捜査』“공조2: 인터내셔날”
ヒョンビン、ユ・ヘジン、元「少女時代」のイム・ユナら主
要なキャストが再結集した2017年12月10日付題名紹介『コン
フィデンシャル/共助』の続編。
プロローグはニューヨーク。FBI捜査官ジャックは北朝鮮
に起源を持つ国際的麻薬組織のリーダーの逮捕に成功する。
しかしその身柄は米朝間の取り決めにより、北の捜査官リム
・チョルリョンに奪取されてしまう。
ところがその護送部隊が麻薬組織のメムバーに襲われ、激し
い銃撃戦の末にリーダーは奪還されてしまう。斯くして任務
に失敗したチョルリョンだったが、帰国した彼を待っていた
のはリーダーらが韓国に潜入したという情報だった。
そこで以前の共助で成功を収めたチョルリョンに再び韓国で
の共助捜査が命じられるが…。以前の共助で酷い目に遭った
韓国側は協力的でなく。一方、冷や飯を食わされていた以前
の捜査官カン・ジンテは再浮上のチャンスと捉える。
しかしそこには、以前の共助でとんでもない目に遭わされた
家族の厚い壁が待ち構えていた。さらにそこにジャックも参
戦してくる。

新たな出演者は、米韓両国で活動するダニエル・ヘニーと、
2019年11月紹介『エクストリーム・ジョブ』などのチン・ソ
ンギュ。また監督は、2016年5月1日付で題名のみ紹介『ヒ
マラヤ 地上8,000メートルの絆』などのイ・ソクフンが担当
した。
前作は米ドル紙幣の偽造原版で、今回は麻薬というか覚醒剤
(ヒロポンという台詞が聞き取れた)、どちらも北朝鮮がやり
そうな国家犯罪だ。しかもそれを隠しながらの共助捜査とい
う展開だが、日本人には少し判り難いかな。でもそんなこと
はほっといても存分に楽しめるアクションムーヴィだ。
特に巻頭で描かれたニューヨークでの銃撃戦は、7月紹介の
『ハント』でも東京舞台のド派手なシーンを見せられたが、
今回はそれを倍加するような強烈なシーンに仕上げられてい
た。因に撮影は全長100mの巨大セットで行われたそうで、そ
の物量にも圧倒されるものだ。
それに加えて前作から引き続いての3人の見事なアンサンブ
ル。シリアスからコメディ、アクションまで巧みに演じられ
ているのも見事な作品になっている。

公開は9月22日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。

『トンソン荘事件の記録』“마루이 비디오”
1992年に起きた殺人事件に纏わる取材映像が2019年に発見さ
れたと称するホラー作品。
元となる事件は釜山の旅館の一室で起きた殺人事件。アルバ
イトの男性が女性を連れ込み、その様子をヴィデオで記録し
ていたが、男は女性を殺してしまう。しかし逮捕された男は
取り調べで心神耗弱による無罪を主張したというもの。
ところがその後、証拠品のヴィデオにあり得ないものが写っ
ていたという噂が広まり、その真相を追ったディレクターが
遂にそのヴィデオを入手する。そこには確かに現場には居な
い筈の人影が映っていたが…。

監督は2015年に『あいつだ』という作品を手掛けているユン
・ジュンヒョン。前作も実話に基づくとされる作品だったよ
うだが、本作もその流れということかな。
出演は多くの作品で脇役を務めてきたソ・ヒョヌと、韓国イ
ンディペンデンス映画のスターとされるチョ・ミンギョン。
まあ一般的な認知度の低い俳優を使うのはこの手の作品では
常套だ。
映画ではヴェトナム戦争に出兵した韓国兵のPTSDのよう
なものも扱われていて、それなりに社会性のある題材のよう
にも見える。しかしそれが複雑な家族関係などと一緒くたに
描かれるから、何というか話の筋が良く見えてこない。
しかも後半にはさらに呪術的な話が加わってきて、一層話を
混乱させている。だた本作は基本ホラーだからそれも狙いな
のかな。僕には折角の題材が勿体ないようにも感じたが、韓
国ではスマッシュヒットのようだ。
それにしてもそんな怨念が他人を巻き込んでしまうのは理不
尽にも感じるが、『リング』や『呪怨』以降のJホラーは大
体そんなものだから、これも仕方ないところかな。たまには
因果応報の怪談も観たくなってきた。
なお本作は on line試写で観たもので、鑑賞中の集中はあま
り保てなかった。

公開は10月27日より、東京地区はシネマート新宿、大阪地区
はシネマート心斎橋他にて全国ロードショウとなる。

『白鍵と黒鍵の間に』
現役ジャズピアニストでエッセイストでもある南博が2008年
に出版した自伝エッセイを、2017年12月17日付題名紹介『素
敵なダイナマイトスキャンダル』などの冨永昌敬と、2015年
『ハッピーアワー』などの高橋知由の共同脚本、富永の監督
で映画化した作品。
主人公は音大に学ぶ学生。ジャズピアニストが目標だが、師
事する教授の域にはなかなか達せられない。そんな教授から
は銀座の高級クラブがジャズの修行には最適な場所と教えら
れるが…。
昭和63年年の瀬、銀座もはずれのキャバレーで酔客相手のピ
アノを弾いていた博は、刑務所を出て来たばかりという男の
リクエストで「ゴッドファーザー愛のテーマ」を演奏する。
しかしそれは界隈では禁断の演奏だった。
一方、銀座の高級クラブ2軒のピアノを掛け持ちで演奏する
南は、界隈の顔役のリクエストで「愛のテーマ」を演奏でき
る唯一のピアニストだったが、彼も酔客相手の演奏に飽きて
自分を変えることを考えていた。
そしてアメリカ留学を決意した南は、願書に添付するテープ
の録音をクラブの仲間と共に行おうとするが、折悪しくそこ
に界隈の顔役の会長がやってきてしまう。果たしてテープの
録音は成功し、南は留学できるのか?

出演は池松壮亮、仲里依紗。そして森田剛、高橋和也。さら
にクリスタル・ケイ、松尾貴史、パプアニューギニア出身の
サックス奏者・松丸契、川瀬陽太。また杉山ひこひこ、中山
未来、佐野史郎、洞口依子らが脇を固めている。
原作は自伝エッセイだから現実の話だが、映画化ではかなり
トリッキーな脚色で、特に主人公を南と博の2人格に分けて
一方は駆け出し、他方はベテランとしてそれぞれのエピソー
ドを描くのは見事な作劇だった。
さらにこの2人が巧みに交錯し、後半にはファンタシーとも
取れる展開まで用意されている。これが正に映画という感じ
の作品だった。いやはやお見事。これでまたファンタシーフ
ァンには楽しみな人材が増えたようだ。
またこれは原作にも書かれていることなのだろうが、様々な
シチュエーションでのそれぞれに対するジャズの蘊蓄があっ
て、それも楽しめる作品になっていた。なかなか奥の深い作
品だ。

公開は10月6日より、全国ロードショウとなる。

『フラッシュオーバー炎の消防隊』“驚天救援”
2014年6月紹介『インフェルノ 大火災脱出』などのオキサ
イド・パン監督が、中華映画陣を結集して撮ったというディ
ザスターアクション作品。
発端は小規模の地震。しかし安全確認中に小さな見落としが
生じる。そして火災が発生、化学工場が林立する地区で爆発
や類焼が続き、さらに有毒ガスの流出や大規模爆発の恐れが
判明する。そこに余震も襲ってくる。
そんな中での消防隊の決死の消火活動や人命救助の様子。ま
た有毒ガス流出を防ぐ特殊活動などが描かれる。

出演は、2020年2月2日付題名紹介『在りし日の歌』などの
ドゥー・ジアン、2010年11月1日付「東京国際映画祭」で紹
介『鋼のピアノ』などのワン・チエンユエン、2015年『タイ
ガー・マウンテン』などのトン・リーヤー。
さらにハン・シュエ、ユー・ハオミン、2021年『鋼の第7中
隊』などのエルヴィス・ハン、2017年『カイジ』の中国版な
どのワン・ゴーらが脇を固めている。
そしてアクションのコレオグラファーは、1999年『マトリッ
クス』や2002年『インファナル・アフェア』なども手掛けた
ディオン・ラムが担当した。
パン兄弟と言えば、丁寧に演出されたホラーや大量の火薬を
駆使したド派手なアクションでも注目されたが、さらに近年
はCGIも取り入れてその領域は広げられているようだ。
ただ本作に関しては消防の現実を描くことに注心した様で、
劇中ではロボット放水銃やミサイル消火弾など最新の消防機
材が羅列される一方、何かそれらを扱う人間の描き方が物足
りなく感じられた。
同様の化学コンビナート火災を描いた作品では、2019年10月
27日付 <JAPAN CONTENT SHOWCASE 2019>で紹介した『烈火
英雄』が強い印象を残しているものだが、同作ではもっと鮮
烈な人間の生き様みたいなものまで描かれていた。
しかも同作は実際の事件に取材したノンフィクションを映画
化したものだったが、もっと自在にフィクションを描けた筈
の本作で、その辺に物足りなさを感じてしまったものだ。
もちろん本作でもそれなりの人間模様は描かれるが、何とな
くその後の展開が予測できるものばかりで、その点も不満足
に感じてしまった。『烈火英雄』の日本未公開が、本当に残
念だ。
なお本作も on line試写で鑑賞したものだ。

本作は10月6日より、全国ロードショウとなる。



2023年08月06日(日) オペレーション・フォーチュン、法廷遊戯、私はモーリーン・カーニー、キリエのうた

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『オペレーション・フォーチュン』
        “Operation Fortune: Ruse de guerre”
1998年の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレ
ルズ』で共に長編映画デビューを飾った監督ガイ・リッチー
と、俳優ジェイスン・ステイサムが以来5度目のタッグを組
んだスパイ・アクション作品。
ステイサムが演じるのは英国諜報部MI6御用達のスパイ。
ただし直属ではないようで、案件ごとにコーディネーターの
仲介で任務が依頼されるらしい。
そんな主人公に今回依頼されたのは、「ハンドル」と呼ばれ
る最終兵器の奪還。兵器はウクライナの研究施設から強奪さ
れたものだがその実態は不明。しかしすでに闇のマーケット
では100 億ドルの値が付いているという。そしてその仲介者
は国際的な武器商人とされる。
そこで主人公は、コーディネーターが用意した米国人の女性
ハッカーと主人公に心酔するオールラウンダーの黒人青年を
従え、武器業者の推しのハリウッドスターも巻き込んで、カ
ンヌ洋上での慈善パーティからトルコにある武器商人の牙城
へと乗り込むが…。
そこには本来の主人公の片腕だった男が仕切る別動隊の諜報
チームも参戦していた。

共演は、2019年6月30日付題名紹介『チャイルド・プレイ』
などのオーブリー・プラザ、英国出身ヒップホップアーチス
トのバグジー・マローン。さらにジョシュ・ハートネット、
ヒュー・グラント、ケイリー・エルウィズ、エディ・マーサ
ンらが脇を固めている。
休暇はリゾート地の高級ホテル。任務に向かうときはプライ
ヴェートジェットに指定の高級ワイン。その費用は全てクラ
イアントの経費で賄う…というかなり我儘な主人公をステイ
サムが小気味よく演じ、対する能天気なハリウッドスターを
ハートネットが正に体現して見せる。
さらにそこにグラントの怪演が被せられるという、これはか
なり贅沢な作品になっている。とは言ってもイギリス映画、
見てくればかりの荒唐無稽なド派手アクションやVFXに頼
るのではなく、正に人間が主体の作品になっているのも見ど
ころと言えそうだ。

公開は10月13日より、全国ロードショウとなる。

『法廷遊戯』
弁護士で作家の五十嵐律人がロースクールの学生だった時に
執筆し、2020年の第62回メフィスト賞を審査員の満場一致で
受賞したというデビュー作の映画化。
登場するのは男性2人、女性1人のロースクールの学生、男
性の内の1人は在学中に司法試験に合格するという秀才だっ
た。そして学内で行われる無辜ゲームと呼ばれる模擬裁判で
は、その秀才を判事として様々な審議が行われていた。
そんなある日、主人公の過去を暴く怪文書が学内に流布され
る。それは児童養護施設出身の主人公が少年時代に犯した罪
を告発するものだったが、その犯人を追及する中で、3人が
それぞれ脅迫を受けていた事実が明らかになる。
それから数年後、司法試験に合格し弁護士となった主人公は
無辜ゲームを開催するという呼び出しを受ける。そしてその
会場に来た主人公は、秀才が刺殺され、その傍にナイフを持
ち返り血を浴びた女性が立ち尽くす現場を目撃する。
果たして彼女は犯人なのか、彼女の弁護をすることになった
主人公は、過去に犯した自らの罪にも対峙することになり、
さらに事件の様相が二転、三転と覆って行く。その結果明ら
かになる事件の真相とは?

出演は King&Princeの永瀬廉、2016年7月紹介『湯を沸かす
ほどの熱い愛』などの杉咲花、2013年8月紹介『陽だまりの
彼女』などの北村匠海。他に柄本明、生瀬勝久、筒井道隆、
大森南朋らが脇を固めている。
脚本は2015年テレビドラマ『流星ワゴン』などの松田沙也。
監督は2008年7月紹介『真木栗の穴』などの深川栄洋が担当
した。
いやはや、事件の真相が二転三転、さらに四転五転して行く
展開には驚かされた。しかもそれがほんの一瞬の映像で明ら
かにされて行くのだから…。上映時間は97分の作品だが、正
にスクリーンに釘付けになるという感じだった。
そしてそれはある意味、日本の司法制度の問題点を暴き出す
ような展開なのだから、これはアイドル主演の作品とは言う
ものの、相当の問題作と呼べるかもしれない。さすが現役弁
護士の原作というところなのだろう。
とは言うもののアイドルのファンにも充分納得して観て貰え
る作品になっているところも、見事と言えるものだった。

公開は11月10日より、全国ロードショウとなる。

『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』
                  “La syndicaliste”
フランスの国策原子力企業アレヴァの労働組合委員長だった
女性が自宅でレイプされ、しかも捜査中には自作自演として
逆に訴追されるというスキャンダラスな実話を、2023年2月
紹介『EOイーオー』などのイザベル・ユペール主演で映画
化した作品。
映画は郊外の住宅に警察隊が捜査に入るところから始まる。
そこではその家に住む女性が手足を粘着テープで椅子に拘束
され、股間にナイフの柄を突っ込まれているというおぞまし
い姿で発見されていた。
そこから話は数年前に遡る。女性の名前はモーリーン・カー
ニー、原子力企業アレヴァの労働組合委員長で海外にも展開
する会社の各国を回って、それぞれの国での特に女性の労働
環境の向上に尽力している。
そんな彼女はアレヴァの女性社長とも多くの話し合いの場を
持ち、労使の関係は良好だった。ところがその女性社長が更
迭され、後任には政府との繋がりの深い男性がやってくる。
しかしその陰には大きな陰謀が隠されていた。
そしてその陰謀を告発する手掛かりを入手したとき、彼女に
レイプ事件が降りかかる。ここから物語は後半戦となり、警
察から憲兵隊に委ねられた事件は、彼女の自作自演という意
外な展開にもつれ込む。

共演は2018年6月3日題名紹介『グッバイ・ゴダール!』な
どのグレゴリー・ガドゥボア、2010年7月紹介『プチ・ニコ
ラ』などのフランソワ=グザビエ・ドゥメゾン、2023年1月
紹介『エッフェル塔〜創造者の愛〜』などのピエール・ドゥ
ラドンシャン。
さらに2014年1月紹介『ラッシュ/プライドと友情』などの
アレクサンドラ・マリア・ララ、2014年6月15日付「フラン
ス映画祭2014」で紹介『友よ、さらばと言おう』などのジル
・コーエン、コメディ女優のマリナ・フォイス、2009年12月
紹介『ニューヨーク、アイラブユー』に監督として参加のイ
ヴァン・アタルらが脇を固めている。
映画の前半では原子力政策をめぐる国家的陰謀が描かれ、後
半ではその陰謀を暴こうとした主人公が犯罪者に仕立て上げ
られる過程が描かれる。そして結末では無罪となるが、そこ
で主人公は追及を断念する。
それは追及を続ければ自らや家族の命が危なくなるからであ
り、そんな国家規模の陰謀が描かれた作品だ。しかも全てが
実話という。正しく政治の闇が描き尽くされた作品と言えそ
うだ。

公開は10月20日より、東京地区は渋谷宮下のBunkamura ル・
シネマ他にて全国順次ロードショウとなる。

『キリエのうた』
2016年1月紹介『リップヴァンウィンクルの花嫁』などの岩
井俊二監督が、今年6月に解散したガールズグループBiSHの
元メムバー=アイナ・ジ・エンドを主演に迎えて、石巻、大
阪、帯広、東京を舞台に描く現代に生きる男女4人のヒュー
マンドラマ。
アイナが演じるのは歌っている時にしか声が出せない障碍を
持つ女性歌手キリエ。そんな歌手が路上ライヴを行っていた
時、通りかかった派手な衣装の女性イッコが声を掛ける。そ
んな2人は実は過去に交流があったのだが、それぞれ過去を
捨て名前を変えて再出発を目指していた。
こうして意気投合した2人はイッコが暮らす豪華マンション
で共同生活を始めるが…。こんな2人の他に姿を消したフィ
アンセの行方を捜す若者や、話をしない幼い女の子と交流す
る慈愛に満ちた女性教師など様々な人間模様が、やがて一つ
の物語に収斂して行く。

共演は、岩井監督の前作『ラストレター』に続いての広瀬す
ず。彼女が纏う奇抜な衣装やファッションは見ものだ。それ
にSixTONESの松村北斗。そして『リップヴァンウィンクルの
花嫁』に続いての黒木華。
他に村上虹郎、松浦祐也、笠原秀幸、粗品、矢山花、七尾旅
人、ロバート・キャンベル、大塚愛、安藤裕子、鈴木慶一、
水越けいこ、江口洋介、吉瀬美智子、樋口真嗣、奥菜恵、浅
田美代子、石井竜也、豊原功補、松本まりか、北村有起哉ら
が脇を固めている。
上記の『法廷遊戯』に負けず劣らずの複雑な人間模様だが、
先の作品がどんでん返しの連続なのに対して、本作はパズル
のように話が纏まって行く、そんな心地よさも感じられる作
品だった。そしてさらに社会情勢などもパズルのピースとし
て取り込まれている。素晴らしい作品だ。
それに加えて、唯一無二とも称されるアイナ・ジ・エンドの
歌声。本作ではシンガーソングライターの彼女が6曲の楽曲
を提供しているが、その素晴らしさにも魅了される作品だっ
た。そして映画の中では他の人の楽曲を歌うシーンにも感動
した。正に音楽映画とも言える作品だ。

公開は10月13日より、全国ロードショウとなる。


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井口健二