| 2023年07月30日(日) |
兎たちの暴走、BAD LANDS バッド・ランズ、ジャン=リュック・ゴダール反逆の映画作家、ダンサー イン Paris、こいびとのみつけかた |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『兎たちの暴走』“兔子暴力” 2020年の東京国際映画祭でプレミア上映された中国女性監督 シェン・ユーによる長編第1作となるドラマ作品。 物語の舞台は四川省攀枝花市。重工業が盛んなこの町の高校 に通う女子学生が主人公。実母は彼女が生まれてすぐに町を 出て行き、後妻の継母からは少し疎まれているが、学校には 仲間もいてそれなりの青春を過ごしている。 ところがそこに実母が帰ってくる。ダンサーでもある実母は 閉館した劇場に居を構え、何やら始めようとしているが…。 そんな母親に主人公は接近して行く。それに対して実母も、 最初は少し疎んじていたが徐々に心を開き始める。 こうして学校での仲間2人も加えた4人の女性たちで騒がし くも楽しい時間が過ぎて行くが。実母を追ってきたらしい男 の出現が暗い影を落とし始める。 脚本と監督のシェン・ユーは1977年の上海生まれ。北京電影 学院を卒業し、過去にはNHK製作のドキュメンタリー番組 にも関ったという監督の2016年に応募した脚本が、支援プロ グラムに入選。中国監督協会の助成で製作された。 出演は、2000年生まれで15歳でデビュー、多くのドラマ作品 に出演しているリー・ゲンシーと、1982年生まれ、2014年に 出演の作品で第51回金馬奨の助演女優賞を受賞しているワン ・チェン。 他に多くのドラマに出演のシー・アン、本作がデビュー作の ヂォゥ・ズーユェとチャイ・イェ。さらにホァン・ジュエ、 パン・ビンロン、元アイドルグループのリーダーというユウ ・ガンインらが脇を固めている。 物語は2011年に起きた実際の事件に基づいているということ で、従って骨子などは変えられないのだろうが、正直に言っ て結末には別の手を加えて欲しかったかな。どうせなら劇中 話される都市伝説に沿ったファンタシーでも良かった。 でもまあこの残酷さがリアルなのだし、これを描き切ること が映画の役割と言われればその通りなのだが…。ここまでの 過程で物語として描くべきものは充分に描かれていると思え るし、映画としての役割は果たしていると思える。 本作は飽くまでもフィクションであってドキュメンタリーで はない。国家犯罪でもなく、彼女らにも酌量の余地も多い。 F・W・ムルナウ監督の『最後の人』のように、無理矢理の 結末でも真意は伝わる。それも映画の描き方だと思う。 公開は8月25日より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺 同26日より新宿K'cinemaにて、以降、全国順次ロードショウ となる。
『BAD LANDS バッド・ランズ』 2014年上半期の直木三十五賞を受賞した黒川博行が2015年に 発表した小説『勁草』を、2011年12月紹介『わが母の記』な どの原田眞人が脚色監督、2012年7月紹介『かぞくのくに』 などの安藤サクラを主演に招いて映画化した作品。 主人公は左耳に障碍を持ちながら社会の底辺で生きる女性。 過去には様々な法に触れる仕事もしてきており、現在は特殊 サギ集団で三塁コーチと呼ばれ、警察の動きなどを察知して 最後に実行の判断を下す重要な役割を担っている。 一方、そんな特殊サギ集団を追う警察はいくつかの現場の映 像から1人の女性の関与を判断する。その決め手は女性が左 耳に障碍を持つらしい行動だった。そしてもう1組、左耳に 障碍を持つ女性を探す組織がいた。 こんな三つ巴の状況の中で、主人公は少し異常な粗暴性を持 つ義理の弟と共に集団が集めた金の在りかを探す。しかしそ の先には警察や彼女を追う組織などの障壁が立ちはだかる。 果たして彼女らの運命は…。 安藤の役柄には義賊的な趣もあり、そんな彼女がかなり小気 味よく障壁を潜り抜けて行く、そんなところも見ものな作品 だ。 共演は、2017年7月紹介『ナミヤ雑貨店の奇跡』などのHey! Say!JUMP山田涼介、2023年4月紹介『水は海に向かって流れ る』などの生瀬勝久、黒川博行の直木賞受賞作で2016年12月 11日題名紹介『破門』に出演の宇崎竜童。 他に2022年6月紹介『川っぺりムコリッタ』などの江口のり こ、舞台出身で原田監督の前2作にも出演の吉原光夫、大阪 出身で劇団「突劇金魚」主宰のサリngROCK、2023年3月紹介 『忌怪島/きかいじま』などの大場泰正。 さらに淵上泰史、天童よしみ。他にも重要な出演者はいるが 情報解禁前となっているものだ。 実は原作では安藤と江口の役柄は男性。しかし脚本も執筆の 原田監督は原作を読みながら女性にすることを考えていたと のこと。しかも原田監督作品で女性の主人公はほぼ初めてだ そうだが、そんな逆転の発想が見事な作品を作っている。 そしてそれを演じ切った安藤サクラの演技も、見事に作り上 げられたものになっている。安藤と原田監督は初顔合わせの はずだが、何か特別な化学反応が生じたようだ。とにかく小 気味よく面白く作られた作品になっていた。 公開は9月29日より、全国ロードショウとなる。
『ジャン=リュック・ゴダール反逆の映画作家』 “Godard, seul le cinéma” 2022年9月13日に91歳で他界したフランスの映画監督の生涯 を 105分に纏め、2022年9月10日まで開催のヴェネチア国際 映画祭にて上映されたフランス10.7 Production 製作による テレビドキュメンタリー。 僕ら団塊の世代の人間にとって、ゴダールの名前はちょっと 特別かな。多分僕が最初に観た作品は1965年製作の『気狂い ピエロ』で、最後は2014年10月紹介『さらば、愛の言葉よ』 だと思うが、その間に実に様々な映画を観させてくれた。 そんな監督は生涯で 140本の作品を発表しているそうで、当 然本作ではその全てが網羅されているものではないが、長編 デビュー作の『勝手にしやがれ』に始まる多くの作品が、出 演者や評論家らの発言を含めて紹介される。 その中には当時のヌーヴェルヴァーグが、時流に載せた流行 作品だと看破する発言もあり、当時は「新しい波」として信 奉していた身としては心が騒ぐところでもあった。それはま あ後の本人の発言を見れば明らかでもあったが。 その他にも1968年のカルチェラタン闘争での街頭デモにアン ナ・カリーナと共に参加している様子や、同年のカンヌ国際 映画祭を開催不能にした演説なども、当時のニュース映像を 使って紹介されている。この辺は懐かしくもあった。 本作は、そんなこんなを実に手際よく纏めたものであって、 逝去によって回顧上映なども展開されている状況の中では、 ゴダールに新たに触れる人たちにとって格好の入門編と言え る作品になっている。 ただそれなりに同時代を生きてきた人間としては、かなり寂 しさも湧いてくるかな。特に逝去が自ら選んだ安楽死と知っ た後では、本当の理由は別にあるとしても、悲しく冥福を祈 りたくなる作品だった。 脚本・監督・編集は、シャンソン歌手のバルバラやジャン= ピエール・メルヴィル監督、歌手・俳優のモーリス・シュヴ ァリエのドキュメンタリーなども手掛けるシリル・ルティ。 本作はゴダール監督の全承認を得た作品だ。 公開は9月22日より、東京地区は新宿シネマカリテ、シネス イッチ銀座、渋谷のユーロスペース、アップリンク吉祥寺他 にて全国順次ロードショウとなる。
『ダンサー イン Paris』“En corps” 2006年4月紹介『ロシアン・ドールズ』などのセドリック・ クラピッシュ監督が、パリ・オペラ座とブルターニュのシャ トーを舞台に若きダンサーの成長を描いたドラマ作品。 主人公はオペラ座でエトワールを目指す若い女性。ところが 主演の舞台で出番の合間に目撃したのは、恋人が別の女性と キスを交わしている姿だった。それに動揺した彼女は次のダ ンスでミスをし負傷してしまう。 そんな彼女に下された診断は、無理をしたら踊れなくなると いう過酷なもの。そこで彼女は同様の過去を持つ昔の仲間に 相談するが、その女性はダンスは諦めて別の道を目指すと語 り、さらに料理人の恋人と行く料理の旅に彼女を誘う。 こうして訪れたブルターニュの古いシャトーには、新たな出 会いが彼女を待ち受けていた。 出演は幼少期からパリ・オペラ座のダンス教室で学び正式団 員になったマリオン・バルボー。監督は「ダンスをする俳優 ではなく、演技をするダンサーを選ぶ」という観点で、プル ミエール・ダンスーズ所属のバルボーを抜擢、彼女は本作で セザール賞の有望若手女優賞にもノミネートされた。 他に著名な振付師であるホッフェシュ・シェクターが本人役 で出演、彼は本作の振付けだけでなく音楽も担当している。 さらに2006年6月紹介『隠された記憶』などのドゥニ・ポダ リエス、監督の前2作にも出演のフランソワ・シヴィルらが 脇を固めている。 クラシックバレエのダンサーが傷害を経てコンテンポラリー ダンスに目覚めるという展開は過去作品にもあるような気が するが、本作ではそこにブルターニュの風景や様々な料理な ども取り入れて、シンプルかつ魅力的に若い女性の再生を描 いている。 それはその物語自体が深く感動を呼べるようなものではない が、特に若い観客には共感を呼び起こすかな。クラピッシュ 監督の狙いもその辺にあるのだろうし、シンプルな描き方だ からこそそれが生きているようにも感じた。まあ万人に愛さ れるような作品ということだ。 そしてそんな物語が、パリ・オペラ座の現役のダンサーたち や、振付師シェクターのカンパニーの団員達の見事なダンス に彩られ、その中では振付師の振り付けの妙味なども紹介さ れる。これはダンスファンには垂涎の作品と言えそうだ。 公開は9月15日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 有楽町、澁谷Bunkamura ル・シネマ、シネ・リーブル池袋他 にて全国ロードショウとなる。
『こいびとのみつけかた』 2011年1月紹介『婚前特急』で共にデビューした前田弘二監 督と脚本家の高田亮が、2021年に再タッグを組んでで発表し たちょっと不思議なラヴストーリー『まともじゃないのは君 も一緒』に続く、第2弾と称される作品。 主人公は植木職人の見習いのような仕事をしている若者。そ んな若者がコンビニで働く女性を好きになる。しかし内気な のか何なのか、中々彼女に話し掛けることができない。それ でもある手段で彼女と付き合うことになるが…。 こうして付き合い始めた2人だが、若者が話す話題はポケッ トに詰め込まれた新聞や雑誌の記事の情報ばかり、しかもそ れに意見を加えるでもなく、記事を読み上げるだけ。従って 会話などは成立しないが、2人はそれで満足なようだ。 そんな傍からは謎に包まれたような2人の関係だったが、実 は彼女には若者には告げられない秘密があった。 出演は、2022年7月紹介『窓辺にて』などに出演の倉悠貴と 2020年3月8日付題名紹介 『HOKUSAI』などの芋生悠。他に 成田凌、宇野祥平、川瀬陽太、奥野瑛太、高田里穂、松井愛 莉らが脇を固めている。 また音楽を、CM楽曲などを数多く手掛けるモリコネンが担 当していることも話題のようだ。 主人公はある種のアスペルガー症候群なのかな。そんな障碍 を持つ人に寄り添うような作品にも見える。でもまあ、全体 的にはほんわりとした独特の雰囲気の中で綴られている作品 でもある。 脚本家の高田は、2014年2月紹介『そこのみにて光輝く』や 2017年4月2日付題名紹介『武曲MUKOKU』などでも知られる 俊英だが、それらの作品とは対極と見えるものの、その根底 は同じなのかな。優れた人間味のある作品だ。 とはいうものの観る者としては、2006年1月紹介『かもめ食 堂』に始る荻上直子監督の一連の作品や、高田がテレビ版を 手掛けたという2008年5月紹介『グーグーだって猫である』 に連なるような心が休まる作品と言えそうだ。 結末も素敵だし、昨今の殺伐とした現実世界にあっては毒に も薬にもならないとも言われそうだが、一服の清涼剤になる とは言えそうな作品だ。 公開は10月27日より、東京地区は新宿シネマカリテ他にて全 国ロードショウとなる。
| 2023年07月23日(日) |
クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル、おしょりん |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド』 “Travelin' Band: Creedence Clearwater Revival at the Royal Albert Hall” 1959年−72年に活動したアメリカのロックバンドが1970年に 行った唯一のヨーロッパツアーで、その最終日のロンドン・ ロイヤル・アルバート・ホールでの演奏をフルヴァージョン で収め、その他の映像と共に構成したドキュメンタリー。 何時も書いているように僕は音楽には全く疎くて、もちろん バンドの名前ぐらいは知っていたが、彼らの音楽性などは頭 の中になかった。従ってProud Maryが流れた時には、これが 彼らのオリジナル曲だったと再認識したものだ。 そんな状態で観た作品だったが、終盤のロンドン公演のシー ンでは図らずも目頭が熱くなり、思わず落涙してしまうほど の感動を覚えた。そんな見事に構成されたドキュメンタリー と言える。 その映画では、高校の同級生だったというバンドの来歴から 解き明かされる。さらにバンドの活動時に収録されたインタ ヴューなども登場するが、これが意外と優等生。メムバーは 兵役にもついていたという。 それが後年にはアメリカ一政治意識の高いバンドとまで言わ れるのだからその変遷も知りたくなるが、その政治意識は本 人たちが否定しているもののようだ。でもそんなこんなが本 作では要領よく纏められている。 そしてそれに並行してヨーロッパツアーの様子が挿入され、 各国での演奏の模様やプライヴェートの姿が描かれ、その結 末としてのロイヤル・アルバート・ホールのコンサートへと 繋がって行く。 ところがここではとんでもない事態が彼らを待ち受ける。そ れによって彼らは凄まじいプレッシャーを受けることになる のだが…。1曲ごとに会場が盛り上がり、最後はそれまで冷 静だったカメラまでもが舞い上がるのだ。 しかも(これは日本版だけのことになってしまうのだが)この ロンドンのシーンでは歌詞の翻訳字幕が付く。実はその前の シーンでは「英語判るのかな?」という台詞もあって、それ がここでは理解できる仕組みにもなっているのだ。 こんな配慮も感動の要因かも知れない。そんな全てが完璧に 配慮された作品と言えるだろう。 監督は、過去にはザ・ビートルズやジミ・ヘンドリックスの ドキュメンタリーでグラミー賞を受賞しているボブ・スミー トン。またナレーションを自らがCCRの大ファンだという ジェフ・ブリッジスが担当しており、これも素晴らしい。 公開は9月22日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 渋谷、角川シネマ有楽町他で全国順次ロードショウとなる。
『おしょりん』 題名は福井県地方の古い方言で、春先に積もった雪が晴れの 日に少し溶けて、翌朝再び凍結した状態。子供ならその上を 歩ける程度に固くなっているものを指すようだ。そんな福井 の地場産業の黎明期を描いた作品。 プロローグは「福井県ニュース」。北陸新幹線の延伸に向け て福井県の様々な魅力が紹介される。その最後に全国シェア が90%を超えるという鯖江の眼鏡産業が紹介される。 そして物語は明治時代に戻り、映画の主人公は代々続く庄屋 の娘。隣村から嫁入りの話があり、折しも在宅中の彼女の家 に隣村の若者が贈答品を持って訪ねてくる。その若者に彼女 は好意を寄せるが…。 6年後、隣村に嫁いだ主人公は子宝にも恵まれるが、村の有 力者でもある夫は、農業だけで他に仕事のない冬場の村から の若者の流出に頭を悩ませている。そんな時、大阪に出てい た夫の弟が新たな産業の見込みを持ってくる。 それは当時はまだ需要の広がっていない眼鏡の製造。しかし 初めて見る眼鏡に集まった村の有力者たちは懐疑的だった。 それでもある切っ掛けで、眼鏡製造の準備が始まるが、そこ にはいろいろな困難が待ち受けていた。 そんな困難に打ち勝ち、眼鏡産業を勃興させた先人たちの努 力が描かれる。 出演は2008年11月紹介『ハルフウェイ』などの北乃きい。相 手役に2018年5月紹介『クジラの島の忘れもの』などの森崎 ウイン。他に駿河太郎、高橋愛、秋田汐梨、磯野貴理子、津 田寛治、榎木孝明、東てる美、佐野史郎、かたせ梨乃、小泉 孝太郎らが脇を固めている。 原作は藤岡陽子(ポプラ社刊)、脚本は2008年8月紹介『櫻の 園』などの関えり香。製作は河合広栄、監督と共同脚本には 児玉宜久。なお河合と児玉は2018年に福井県が舞台の『えち てつ物語』という作品も手掛けている。 まあいわゆるご当地ものだから悪い話は聞こえてこないが、 現代の目で見ると、何となく自信を無くしているような日本 人に対して喝を入れるというか、先人の努力を見て勇気を与 えられる、そんな感じの作品にはなっている。 これも今の時代を反映している作品と言えるのだろう。 福井県各地で撮影された地元の魅力も満載の作品だ。 公開は10月20日より福井県で先行上映の後、11月3日からは 全国ロードショウとなる。
| 2023年07月16日(日) |
メドゥーサ・デラックス、熊はいない、ハント、6月0日アイヒマンが処刑された日 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『メドゥーサ・デラックス』“Medusa Deluxe” 2023年6月紹介『インスペクション』など近年多くの話題作 を製作・提供するA24が北米配給権を獲得したという英国の 若手監督による作品。 物語の背景は年に一度のヘアデザイン・コンテストの会場。 ファイナリスト4人が競う最終コンテストの開幕直前に事件 が起きる。それはデザイナーの1人が猟奇的な手口で殺され たのだ。 このため警察が出入り禁止とした会場を舞台に、残った3人 のデザイナーと4人のモデル、さらに警備員やコンテストの 主催者も入り混じって、犯人捜しのドラマがワンショット風 の映像で展開される。 脚本と監督は、映画やテレビでアートディレクターやライン プロデューサーを務めてきたというトーマス・ハーディマン の長編デビュー作。母親が美容師だったという思い出から作 られた作品だそうだ。 出演はテレビシリーズ『ヴァンパイア・アカデミー』などの アニタ=ジョイ・ウワジェ。1994年ケン・ローチ監督の『レ ディバード・レディバード』などのクレア・パーキンス。テ レビシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』などのダレル・ ドゥシルヴァ。 他に本作で映画デビューのデブリス・スティーヴンスン、神 戸生まれのカエ・アレキサンダー、舞台俳優のニコラス・カ ミリ、2013年11月紹介『スノーピアサー』などのルーク・パ スカリーノらが脇を固めている。 映像は敢えてワンショット風と書いたが、編集点は何か所か 見受けられる。そしてそこまでしてする意味があったのかに は疑問も生じる。特にステージの裏を延々と移動するシーン などにはもっと工夫が欲しかったかな。 この辺は同じワンショット風なら2023年4月紹介『ソフト/ クワイエット』の方に軍配を上げる。少なくとも移動シーン にはいろいろと仕掛けが施されていた。 それと殺人の手口にも少し違和感があったもので、それはヘ アデザインというテーマとの絡みのつもりかもしれないが、 本来ならもっと呪術的な意味を持つものが少し安易に使われ ている感じもした。その辺はイギリス人だからなのかな。 公開は10月14日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
『熊は、いない』“خرس نیست/Khers nist/No Bears” 2007年5月紹介『オフサイド・ガールズ』や2019年10月13日 付題名紹介『ある女優の不在』などのジャファル・パナヒ製 作、脚本、監督、主演による2022年ヴェネチア国際映画祭・ 審査員特別賞受賞の作品。 2019年の記事でも書いた通り、パナヒ監督は2010年から20年 間映画制作禁止とされているものだが。その間に5本の長編 作品を発表、それらは全て母国のイラン国内では上映禁止と され、本作の発表後には再び収監されたということだ。 そんな作品はかなりトリッキーな構成で、監督は国境近くの 辺境の村におり、そこからリモートでトルコで撮影されてい る映画を演出しているというもの。そして映画の撮影現場で トラブルが発生し、それに呼応するように監督の居る村でも 問題が起きる。しかもそれらには共通項がある。 異なる場所で進行する物語が一点に収斂するという構成は、 2007年1月紹介『バベル』などのアレハンドロ・コンザレス ・イニャリトウ監督が得意とするところだが、本作はそれと は全く別の次元で、本作の制作意図をより鮮烈且つ明確に描 くために採用されているものだ。 従って本作では、感動よりも衝撃が優先される。その衝撃は 映画の終了後にすぐには席から立ち上がれないくらいのもの だった。監督の思想は明らかで、2019年紹介作の時はそれな りにオブラートに包まれている感じもしたが、今の監督には そんなことは言ってられない心境なのかな。 監督以外の出演者はイラン出身だが国外追放の目に遭ってい る女優のミナ・カヴァニ。『ある女優の不在』の続編的作品 でパナヒが共同脚本を務めた“Namo”に出演のバクティアー ル・パンジェイ。映画の録音スタッフでもある『ある女優の 不在』に出演のレザ・ヘイダリ。 さらに“Namo”に出演のナセル・ハシェミ、『ある女優の不 在』に出演のナルジェス・デララム、『ある女優の不在』で 共同脚本を務めたヴァヒド・モバセリらが脇を固めている。 正直に言って本作に描かれている状況の切実さは日本人には 判り難い。しかしそれがこの映画の結末を招くほどの重大事 であることは理解できる。そんなイラン社会が抱える問題を 巧みに海外に知らしめる、その目的は見事に果たす作品と言 えそうだ。 公開は9月15日より、東京地区は新宿武蔵野館他にて全国順 次ロードショウとなる。
『ハント』“헌트(HUNT)” 2019年4月紹介『神と共に』や2021年放送の『イカゲーム』 などの俳優イ・ジョンジェが初監督に挑戦し、2022年のカン ヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門など各地の 映画祭で上映、多数の受賞も果たした1980年代の韓国情報部 が舞台のアクション作品。 物語の背景は1979年の朴正煕暗殺事件から4年後、1980年の 光州事件から3年後の1983年。米国訪問中の全斗煥大統領に 暗殺未遂事件が発生し、韓国の安全企画部(旧KCIA)内部では 北朝鮮へ情報漏洩の疑念が高まる。 そこで安全企画部の部長は海外次長のパクと国内次長のキム に直々の調査指令を下すが…。2人の間には朴正煕暗殺事件 の捜査での因縁があった。それでも互いに競い合いながらの 調査が開始される。 しかしそこには、独裁色を強めて強硬路線に走る全斗煥への 反発や北朝鮮からの巧みな接触など様々な思惑が絡み付く。 そして物語は、韓国部隊の北への侵攻やラングーン事件など 虚実を織り交ぜて壮大なスケールで展開される。 イ・ジョンジェは監督と共にパク次長を演じ、キム次長には 2005年7月紹介『私の頭の中の消しゴム』などのチョン・ウ ソンが扮している。24年ぶりの共演という2人の対決はなか なかの見ものだ。 他に2019年11月紹介『スピード・スクワッド』などのチョン ・ヘジン、『イカゲーム』などのホ・ソンテ、モデル出身で 本作で新人賞受賞コ・ユンジョン、2018年7月紹介『1987』 などのキム・ジョンス、2022年4月24日付題名紹介『モガデ ィシュ』などのチョン・マンシクらが脇を固めている。 映画の中では1980年代の東京での銃撃戦なんてのも登場し、 これは凄いと思わせるが、その再現性はまずまずかな。歩行 者用信号機も当時の感じだし、良くやっているものだ。まあ 台詞は少し覚束ないけど。 それにしても初監督の俳優によくぞここまでやらせたという のも凄いところで、これができるのが韓国映画の底力と言え るのかな。銃撃戦にカーアクション、CGIを駆使した大爆 発まで、かなりのベテラン監督でも大変そうな展開だ。 それをイ・ジョンジェ監督はしっかりとものにしたという感 じの作品だ。 公開は9月29日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ ードショウとなる。
『6月0日 アイヒマンが処刑された日』“June Zero” 元ナチスの戦犯で、戦後逃亡の末に1960年にモサドによって 確保、イスラエルに連行されて翌年裁判、死刑の判決が下り 処刑されたアドルフ・アイヒマンの死に纏わる秘話を描いた 作品。 アイヒマンは絞首刑の末に火葬され、その遺灰は墓が聖地と なることを怖れた当局の判断でイスラエル領海外の地中海に 撒かれたが、そもそもイスラエルでは死刑はまれであり、さ らに宗教的に火葬もありえなかったという。 そんな状況の下で死刑の準備が進められ、その一方でとある 町工場に遺体を焼却するための炉の製作が依頼される。そん な作業の様子が、リビアから移住してきたアラブ人の少年の 眼を通して描かれる。 つまり少年はユダヤ人ではなくユダヤ教徒でもない。従って ユダヤ人のアイヒマンに対する想いも理解できないし、ただ 冷静かつ誠実に出来事を見ているものだ。日本人には今さら の感もするが、焼却炉製作の顛末などは面白かった。 撮影はイスラエルと、一部はウクライナ・キーウの近郊でも 行われており、恐らくはロシアの侵攻で破壊されたであろう 強制収容所跡地の映像は、今や貴重な時代の証言にもなって いるようだ。 脚本と監督は、オスカー女優グウィネス・パルトロウの弟の ジェイク・パルトロウ。共同脚本にイスラエル出身で受賞歴 を持つ監督でもあるトム・ショヴァルが参加している。因に 言語はヘブライ語で撮られた作品だ。 また出演者にはイスラエル人の俳優が起用され、キーとなる 少年の役には11歳で演技未経験のノアム・オヴァディアが抜 擢されている。撮影はスーパー16mmフィルムで行われた。 まあユダヤ人によるユダヤ人のための映画という感じの作品 だが、ユダヤ人以外に対してナチスが行った行為を伝えると いう目的も理解できる。そのための仕掛けも巧みに配されて いる作品だ。 公開は9月8日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に て全国ロードショウとなる。
| 2023年07月09日(日) |
トランスフォーマー/ビースト覚醒、まなみ100%、Jean Paul Gaultier: Freak and Chic(原題)、ウェルカム・トゥ・ダリ、復讐の記憶 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『トランスフォーマー/ビースト覚醒』 “Transformers: Rise of the Beasts” 2007年にスタートした日本製玩具を基にした実写アクション シリーズの第7作。なおこのページでは、2011年7月17日付 『ダークサイド・ムーン』と、2014年7月27日付『ロストエ イジ』の2作を紹介しているが、本作はそれらの話より時が 遡ってのリブート版となっているものだ。 物語の背景は1994年。登場する人間のキャラクターはヒスパ ニック系の若者とアフリカ系の若い女性。若者は元軍隊の通 信兵で電子工学に長けている。女性は博物館で考古学を学ぶ インターンという設定。 そんな若者が金に困って高級車の強奪に手を出すが、盗もう とした車は突然勝手に動き出し、パトカーも振り切って辿り 着いた倉庫には、ロボットに変形する大型トラックやバイク などが集っていた。 一方、女性が通う博物館に謎めいた石像が搬入され、調査し た女性は像の出自に係る刻印を見つけるが、その手柄は上司 に奪われてしまう。それでもめげずに調査を続けた女性は、 偶然にも像の封印を解いてしまう。 ところがそれは惑星を貪り食うという宇宙最恐の敵に地球の 存在を知らせることになり、それに反応したトランスフォー マーたちは新たに登場するビーストと共に像の謎を追いつつ 地球を守る闘いを繰り広げることになる。 出演は、グラミー賞受賞者で2018年10月21日付題名紹介『ア リー/スター誕生』などにも出演のアンソニー・ラモスと、 オスカー作品賞候補になった『ユダ&ブラック・メシア』な どに出演する女優で詩人、作家としても注目されているドミ ニク・フィッシュバック。 他にルナ・ローレンス・ヴェレス、ディーン・スコット・バ スケルらが脇を固め、さらにライザ・コーシー、ミシェル・ ヨー、ピート・デヴィッドソン、ピーター・カレンらが声優 を務めている。 監督は2018年12月16日題名紹介『クリード炎の宿敵』などの スティーヴン・ケイプル Jr.。脚本は2010年12月及び2013年 9月紹介『RED』シリーズなどのジョン・&エリック・ホ ーバーと、6月紹介『ザ・フラッシュ』などを手掛けたジョ ビー・ハロルド。 なお新登場のビーストは、トランスフォーマーの派生として アメリカでは1996年〜97年に放送されたシリーズに基づくも ので、ここから新たなフランチャイズが始まるようだ。 公開は8月4日より、3D上映をメインとしての全国ロード ショウとなる。
『まなみ100%』 2018年に監督した作品がMOOSIC LABで特別賞を受賞したとい う川北ゆめきの原案、監督で、2012年4月紹介『苦役列車』 などのいまおかしんじが脚本を担当した青春ドラマ。 映画は一人称で語られる主人公が恋人の部屋からパンツ一丁 で追い出されるところから始まる。そしてちょうど彼を迎え に来た旧友2人と何かのセレモニーに向かう車中から、10年 前の過去へと遡る。 そこは新入生だった高校の体育館で、3人は体操部の練習を 見詰めている。その視線の先には3年生の瀬尾先輩と同級生 まなみの女性2人の姿があった。そこから10年に亙る主人公 の恋愛の遍歴が描かれて行く。 それは決して主人公が不真面目という訳ではないが、ちょっ と優柔不断なのかな…? 何とも言えないもどかしさも感じ る中で、本当に好きな女性に真剣な思いを伝えられない哀し い青春の物語だ。 出演は2019年6月9日付題名紹介『暁闇』などの青木柚と、 2020年『アルプススタンドのはしの方』などの中村守里、そ れに乃木坂46一期生メムバーの伊藤万理華。他に宮��優、 新谷姫奈、下川恭平、藤枝喜輝、諏訪珠理、日下玉巳、濱正 悟、お笑い芸人のオラキオらが脇を固めている。 なお音楽は、上記のMOOSIC LAB作品で特別賞を受賞したシン ガーソングライターの大槻美奈が担当している。 エンディングロールのテロップによると物語の一部は監督自 身の思い出に基づくようで、そんな甘酸っぱいというか悔恨 の物語でもあるようだ。その他の部分では僕自身にもこんな 青春はあった訳で、それを丁寧に描いてくれた感じかな。 そんな愛おしさも感じる作品になっている。この辺は脚本家 の手腕とも言えるのかな。とにかく見れば誰しもが思い当た る節のあるそんな感じの作品と言える。まあ思い当たる節の ない幸せな人も居るかも知れないが。 先週紹介したインドネシアの作品とは真逆かもしれないが、 これも青春だ。 公開は9月29日より、東京地区は新宿シネマカリテ、渋谷シ ネクイント他にて全国順次ロードショウとなる。
“Jean Paul Gaultier: Freak and Chic”(原題) 2023年5月〜6月に来日公演も行われたミュージカルショウ 『FASHION FREAK SHOW』の2018年パリでの初演までの舞台裏 を描いたドキュメンタリー。なお試写は一応邦題の付いた形 で行われたが、情報は未公開のようだ。 ショウの内容は、ファッションデザイナー=ジャンポール・ ゴルチエの企画演出により、彼自身の半生を描いたもので、 幼少期に偏愛したテディベアやエイズで死去したパートナー との交流なども織り込みながら、作り上げたファッションの 数々が紹介される。 そしてショウの演出ではゴルチエ自身の友人であるミュージ シャンや振付師が起用され、正に思うが儘のショウを作り上 げて行くのだが…。肝心の演出の指示はゴルチエが描いたス ケッチだけが拠り所で、後は各自の裁量に任される。 そうなるとアーチスト同士の対立みたいなものが描かれるの かと思いきや、ゴルチエからは「ちょっと自分のイメージと 違う」などの発言も飛び出すが、「でもこれも良さそうだ」 と容認してしまう。そんな様子が一度ならず描かれる。 いやはやその柔軟性というか包容力みたいなものがゴルチエ の魅力なのかな。僕自身はファッションには全く疎い俗物だ が、こんな魅力に溢れたデザイナーには少し興味が湧いてく る…そんな感じの作品だった。 なお本作には、マドンナ、カトリーヌ・ドヌーヴ、、ロッシ ・デ・パルマ、マリオン・コティアールなどのゴルチエ所縁 の女優たちがゲストあるいは出演者として登場するのも見ど ころだ。 監督はCanal+などで多くの番組を手掛けてきたヤン・レル。 監督自身は「僕はジャーナリストではなく、撮影対象の人物 をリアルに見せる」ことを目標としているそうで、そんな監 督の真骨頂とも言える作品のようだ。 つまり上記したアーチスト同士の対立みたいなものは、編集 でカットしたのではなく、本当になかったのかな? そんな ことも感動する作品だった。 なお本作の映像はアスペクトレシオ2.35:1のワイド画面で描 かれたものだが、実は本国では2018年にCanal+の番組として 放送されている。一応4Kの番組のようだが、上下黒味での 放送だったのかな。 なお本作は6月4日に原題のままでの先行上映が行われたも のだが、一般公開は9月29日より、東京地区はヒューマント ラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ ・リーブル池袋、新宿シネマカリテ他にて全国ロードショウ となる。 因に原題には日本人だと少しネガティヴな印象を持つ単語が 含まれるが、試写の邦題はそこも踏まえての適切なもので、 ぜひこの邦題で公開して貰いたいものだ。
『ウェルカム・トゥ・ダリ』“Daliland” 1982年『ガンジー』でオスカー受賞のベン・キングズレーが 20世紀を代表する天才画家サルバドール・ダリを演じるドラ マ作品。 物語の開幕は1974年のニューヨーク。語り手となるのは当地 の画廊に勤めたばかりの若者で、ある日彼は画廊のオーナー に封筒をホテルで暮らす画家の許に届けるよう命じられる。 そしてホテルのスウィートルームに向かった若者は、“ダリ ランド”に足を踏み入れることになる。 当時のダリはヨーロッパでは遅れてきたシュールレアリスム などと評価は芳しくなかったが、アメリカでは持て囃され、 ニューヨークでは盛大な個展の準備が進められていた。そし てニューヨークでの滞在の経費は個展を開く約束の画廊によ って賄われていた。 しかしダリは、毎日をパーティ三昧で一向に作品を描こうと はせず、画家の妻でありマネージャーでもあるガラは若手の 俳優に熱を上げて、正しく目くるめくような生活の真っ最中 だった。それでも何とか制作意欲を導き出し、作品の制作は 始められたが…。 監督は1996年『アンディ・ウォーホルを撃った女』や2013年 5月紹介『モスダイアリー』などのメアリー・ハロン。脚本 は監督の夫で、コロムビア大学フィルム・プログラムの助教 授でアルマーニやプラダのプロモーションフィルムの脚本も 手掛けるジョン・C・ウォルシュが担当した。 共演は2013年9月紹介『ハンナ・アーレント』でヨーロッパ 映画賞受賞のバルバラ・スコヴァと、本作が長編デビューの クリストファー・ブライニー。他にアンドレア・ペジック、 ルパート・グレイヴス、スキ・ウォーターハウスらが脇を固 めている。 そして若き日のダリを、6月紹介『ザ・フラッシュ』などの エズラ・ミラーが演じている。 ウォーホルとダリ。それぞれコマーシャリズムに載せられ、 互いに交流があったともされる2人の天才アーチストには共 通点も多い。そんな2人を同じ監督が描いて見せたという点 にも興味を惹かれる。そして本作ではより人間的というか、 苦しみを抱えた姿で描いたところは、時代の反映かな。 ただダリに関しては、1966年『ミクロの決死圏』のプロモー ションなどハリウッドとの関りもいろいろあったはずだが、 その辺が台詞だけでほぼ外されたのは、SF映画ファンとし ては少し残念な心地ではあった。 公開は9月1日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA他にて、全国 ロードショウとなる。
『復讐の記憶』“리멤버” 2015年のカナダ・ドイツ合作映画『手紙は憶えている』を基 に、舞台を韓国に置き換えて描いた壮大な復讐劇。 登場するのは80歳を超える高齢なのに手際よくトラブルにも 対処するファミレスの従業員。しかし寄る年波で遂に退職を 決意する。そんな老人の手には何時か会いたいと願う人たち の名前が記されていた。 そして運転免許証も返納した老人は、ファミレスでの同僚で 仲の良かった20代の若者に声を掛け、一度乗って観たかった という赤いポルシェをレンタルして、若者の運転でその最初 の人物の許を訪ねるが…。 正直に言って日本人にはちょっと耳が痛いかな。ただし復讐 の矛先はほぼ韓国側に向けられていて、戦争犯罪人でありな がら巧みに戦後を生き延びてさらには財を成した連中を告発 する仕組みになっている。 とは言うものの慰安婦問題や端島の炭鉱夫など、すでに解決 済みの問題や事実誤認に基づくものも取り上げられるのは、 韓国が前政権時代に立てられた企画ということなのかな? ちょっと時代錯誤は感じる部分もあった。 でもまあ本筋は韓国人に向けられたもので、そういった連中 がのうのうと勲章を貰ったり、英雄として祭り上げられてい る現実というのは、日本人として共感を覚える部分もある作 品だった。 まあ偶然や幸運も重なるが、巧みに復讐を成就させる主人公 はムーヴィ・ヒーロー的に面白く描かれていたものだ。 出演は2019年5月紹介『工作 黒金星と呼ばれた男』などの イ・ソンミンと、TV出身で韓国版『ジョゼと虎と魚たち』 などに主演し、2021年のフォーブス誌「アジアで影響力のあ る30歳未満の30人」に選出されたナム・ジュヒョク。 他に2022年4月24日付題名紹介『モガディシュ 脱出までの 14日間』などのチョン・マンシク、2020年3月1日付題名紹 介『マルモイ ことばあつめ』などのソン・ヨンチャンらが 脇を固めている。 脚本と監督は、助監督の出身で2016年のデビュー作『華麗な るリベンジ』が韓国内で 970万人動員を記録したというイ・ イルヒョンの第2作。 公開は9月1日より、東京はシネマート新宿、大阪はシネマ ート心斎橋他にて全国順次ロードショウとなる。
| 2023年07月02日(日) |
AALTO、燃えあがる女性記者たち、鯨のレストラン、沈黙の自叙伝 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『AALTO』“Aalto” 1898年生まれで1976年に他界した北欧フィンランドの建築家 ・デザイナー、アルヴァ・アアルトの生涯を記録映像と多く の関係者の証言で綴ったドキュメンタリー。 建築家というと世界文化遺産にも登録されたフランスのル・ コルビジェやスペインのガウディらが思い浮かぶが、それに 勝るとも劣らない巨人が北欧にいた。 アルヴァ・アアルトと彼の最初の妻のアイノは文化財として の建物と、その内に置かれる家具や食器までもデザインし、 しかもそれらは居住性と機能性とを兼ね備えたものだった。 そんな正に現代に生きる建築をデザインし、世に残した夫婦 の物語だ。 それにしても本作は実にオーソドックスな創りの人物ドキュ メンタリーと言える。そこには夫妻の業績と共に様々な関係 者の証言によって夫妻の生活ぶりまで再現される。しかも少 しドラマティックな展開もあり、それを受ける愛情に溢れた 結末まで用意されている。 最近はなぜかドキュメンタリー映画を観る機会が多いが、正 直多少トリッキーな作品が多かった中で、こんなにも純粋に 人物を描き切った作品は見事と言える。それは監督を含めた 映画の関係者全員がアアロン夫妻を自国の誇りと思っている からに他ならない。 そんな中で、フィンランドが対ソ戦略でナチスの支援を受け たために、国家として戦後の国際連合の設立に加われなかっ た影響で、アアロン自身はアメリカでの評価も高かったにも 拘らず国連ビルの設計から排除されたという下りには、同じ 敗戦国の人間として共鳴してしまうところもあった。 その一方で、次々に登場する夫妻が手掛けた建築物やその備 品の数々には、知識のない者が観ても素晴らしさを感じてし まうものばかりで、それらの存在を知り得ただけでもこの作 品の価値を見出してしまうものだ。それを描き尽くした監督 の手腕も称賛したい。 近年の日本の公共建築では、やたらと植栽を誇示することで 自然との調和などと称するものを見受けるが、ここに描かれ た建築こそが本物の自然調和と言えるもので、正に目から鱗 という感じの作品だった。 公開は10月13日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 有楽町、アップリンク吉祥寺、さらにシネ・リーブル梅田、 伏見ミリオン座他にて全国ロードショウとなる。
『燃えあがる女性記者たち』“Writing with Fire” 15世紀にポルトガル人によって構築されたとされるインドの カースト制度、その中でバラモンからスードラまでの4階級 に属さない最下層民ダリット、その女性たちが興した新聞社 を巡るドキュメンタリー。 舞台はインド北部のウッタル・ブラデーシュ州。人口2億人 を擁し、インドで最も人口が多いこの州では、ヒンドゥー教 をバックボーンにする高いレヴェルの汚職や女性に対する暴 力、さらに社会的マイノリティに対する抑圧などの不正が溢 れている。 そんな場所で2002年に創刊された新聞 Khabar Lahariyaは女 性たちによって運営され、ジェンダーや教育問題を女性目線 で伝えてきた。その新聞がさらにウェブサイトによるディジ タルメディアに変身を遂げようとしている。そんな過渡期の 女性記者たちの奮闘ぶりが描かれる。 背景とされる状況からは、当然それらと対決する女性記者た ちの姿を予想するが、もちろんそれらを描いたシーンもあり はするものの実際にはそこに深入りはせず、何というか比較 的マイルドな描き方で女性記者たちの現実的な姿が描かれて いるものだ。 それは例えば2019年11月7日付「東京国際映画祭」で紹介の 『i−新聞記者ドキュメント−』などとは異なるものだが、 これも現実であり、この状況の中で奮闘する女性記者たちの 姿にも感動を覚えるものだ。その中に透かしのように見えて くるリアルも巧みに描かれている。 とは言うものの、馴れないスマホを手に必死の映像取材をす る姿は微笑ましくもあり、一方で英語の記載にアルファベッ トから教える様子には震撼とするものもあった。これがイン ドの現実なのだろう。そんなことも巧みに描かれた作品とい うこともできる。 そんな中でのいろいろなドラマも描かれるが、その一つの顛 末が最後のテロップで明かされたのには、微笑ましさと共に 嬉しさも感じられたものだ。そんな感情にもさせてくれる作 品だった。 公開は9月中旬より、東京地区は渋谷ユーロスペース他にて 全国順次ロードショウとなる。 なお本作は、2021年の山形国際ドキュメンタリー映画祭にて 『燃え上がる記者たち』の題名で上映され、市民賞を受賞し た作品だ。
『鯨のレストラン』 2009年10月20日付「東京国際映画祭」で紹介『ザ・コーヴ』 への反証として2015年に『ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問 題の謎に迫る』を発表した八木景子監督が、再度捕鯨問題を 問うたドキュメンタリー。 監督の前作は観る機会がなかったが、元の映画祭作品に関し ては記事を読んで貰えば判るように評価はしなかった。そん な訳で前作に関しては何を今さらという思いだったが、この 作品は日本のIWC脱退の引き金にもなったそうだ。 そんな監督が再度放ったのはクジラを食料として考えること の意義。ここではいろいろな角度からクジラを食することの 有利さが論証されて行く。それは感情論を抜きにすれば当然 の結論だ。ただこの感情論を打破するのが至難かな…。 個人的に言えば小学生の時は給食でクジラの竜田揚げを食べ ていたし、大学生時代には渋谷109ができる前のくじら屋 にも行っていた。サラリーマン時代には新宿西口の鯨かつ屋 も昼食メニューの一店だった。 そんな目からは本作で紹介されるクジラ料理の数々はちょっ と豪華過ぎて、庶民の食卓ではないなという感じにもなって しまったが。こんな高級料理になってしまったのも、反捕鯨 のせいだと思えば納得できる展開だ。 もう一点言わせて貰えば、1978年にパリに行った際に現地で 上映されていたアニメ“La planète sauvage”の併映がクジ ラ漁のドキュメンタリーだった。その作品では沖合で獲った クジラを港まで曳航して解体する様子が描かれていた。 つまりクジラ漁はヨーロッパでも普通に行われており、その 文化は今どうなっているのか、その辺の検証もして欲しくな ってきた。クジラ漁の禁止が人々に何をもたらしたか、文化 を考える上で大きなテーマのようにも感じるものだ。 なお映画の中では全人類が食する魚の総量の3〜5倍をクジ ラ全体が消費しているとの論証が登場するが、2011年に他界 された作家の小松左京氏は生前、「クジラが増えすぎて南氷 洋の水産資源が危機になっている」と話されていた。 僕が会ったのは亡くなる何年も前だからかなり以前からこの 認識はあったようだ。そんなことも含めて反捕鯨団体の実態 を知りたくなった。それは感情論以上のインパクトになる気 もする。監督には今一度頑張ってもらいたいものだ。 公開は9月2日より、新宿K'cinema、9月15日からはアップ リンク吉祥寺他にてロードショウとなる。
『沈黙の自叙伝』“Autobiography” 昨年の東京フィルメックスに『自叙伝』のタイトルで出品さ れ、コンペティション部門・最優秀作品賞を受賞した2022年 製作のインドネシア映画。なお製作国にはインドネシアの他 に、ポーランド、ドイツ、シンガポール、フランス、フィリ ピン、カタールが名を連ねている。 物語の背景は1960年代から90年代後半まで続いた軍事政権下 のインドネシア。ただし主人公が暮らすのは中央からは少し 離れた地方のようだ。そんな場所で主人公は将軍と呼ばれる 退役軍人の屋敷で、一人で「将軍」の世話をしている。 そんな主人公の父親は刑務所に収監されており、兄は国外に 出稼ぎに行っている。そして主人公にも出稼ぎの話は来てい たが…。「将軍」が首長選挙に立候補し、選挙キャンペーン が繰り広げられる中で、様々な不正が明らかになる。 その状況に耐えられない主人公はついにある決意をするが、 それが彼の運命を大きく変えて行く。 脚本と監督は本作が長編デビュー作のマクバル・ムバラク。 短編映画では受賞歴もあり、その中には「最優秀アクション /スリラー/ファンタジーフィクション短編映画賞」というの もあるようだ。また作家、映画評論家としても活動し、大学 で教鞭を執っているともある。 出演はケヴィン・アルディロアとアースウェンディ・ベニン グ・サワラ。いずれも日本では馴染みがないが、現地では出 演歴の多い実力派俳優のようだ。 監督は1990年生まれ。監督の家族・親戚は殆んどが軍事政権 下での公務員の一族だったそうで、そんな監督自身の幼少期 の記憶が本作の背景にはあるようだ。ただし本作は監督自身 の自叙伝という訳ではなく、監督が知る一族の自叙伝、若し くはそんな一族が存在した国家の自叙伝とも言える。 平和に過ごしてきた日本人の感覚では、空恐ろしい感じでは あるが、軍事政権が長く続いた国家では、こんなこともあっ たんだろうなあ、という感じの物語にもなっている。まあ他 の国の作品でもこんなのはあったかな。 それにしてもほぼ2時間の上映時間が終始緊張感に包まれた 作品であり、さらにその緊張感が終盤に向かって高まって行 く演出には舌を巻いた。増してやこれが長編デビュー作。こ れからが楽しみな監督と言えそうだ。 公開は9月中旬より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
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