井口健二のOn the Production
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2023年06月25日(日) イビルアイ、マルセル・マルソー沈黙のアート、ジョン・ウィック:コンセクエンス

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『イビルアイ』“Mal de ojo”
2014年製作『パラドクス』と、2015年製作『ダークレイン』
という作品がいずれも「未体験ゾーンの映画たち」の特集で
上映されたメキシコの俊英イサーク・エスバン脚本・監督に
よる2022年製作のメキシカンホラー作品。
都会暮らしだった少女の妹が不治の病となり、彼女らの一家
が住むアパートにも原因不明の病気が蔓延し始めて、母親は
意を決したように家族を引き連れて実家のある田舎町に戻っ
てくる。そこには母親とは疎遠で、姉妹や父親も初めて会う
大邸宅に暮らす祖母がいたが…。
両親が治療法を求めて出掛けることになり、姉妹と祖母、そ
れに使用人の若い男女が邸宅で過ごす内、邸宅内には不穏な
空気が流れだす。果たしてそれは、映画のプロローグに登場
し、使用人の女性が寝物語で姉妹に語った魔女の物語の再来
なのか?

出演は、2012年6月紹介『コロンビアーナ』にも出ていたと
いう1950年生まれのオフェリア・メディーナと、2007年生ま
れで現地のテレビシリーズで頭角を現したパオラ・ミゲル。
他にイヴァーナ・ソフィア・フェロ、サマンサ・カスティー
ヨ、アラップ・ベスキーらが脇を固めている。
脚本・監督の前記の2作品は、時空のループやパンデミック
などSF的な要素も感じられる作品だったようだが、本作は
魔女ものでどちらかと言うとオーソドックスなホラー。コケ
脅かし的な演出も散見されて、ある意味原点に戻った作品と
も言えそうだ。
監督自身は本作の前には演出オンリーでSF作品を手掛けた
ということで、そんな感覚をリセットする意味もあったのか
もしれない。いずれにしてもオーソドックスなホラーを撮る
ことが次回作(SFであるにせよ、ホラーであるにせよ)への
飛躍につながりそうだ。
そんな訳で、本作だけで監督の技量などを計れるものではな
いが、オーソドックスなホラーをきっちりと撮れているとい
うことは、間違いなく力量はある監督と思える。監督の履歴
などを抜きにすれば、それくらいにしっかりとしたホラー作
品といえるものだ。

公開は7月28日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
渋谷他にて全国順次ロードショウとなる。
なお本作はオンライン試写で鑑賞したもので、僕自身が鑑賞
中に映画に集中できなかったきらいはある。

『マルセル・マルソー沈黙のアート』“L'art du silence”
ドイツ・ケルン生まれで、チューリッヒ藝術大学の映画監督
学科を卒業、現在は同大学で映像と音についての講師を務め
るというマウリツィウス・シュテルクレ・ドルクス監督が、
フランス出身で「パントマイムの神様」と称えられるマレセ
ル・マルソーについて描いたドキュメンタリー。
実は監督の実父が聾者のパントマイマーなのだそうで、そん
な興味から本作はスタートしたのかな。そんな動機があるだ
けでも本作への取り組み方に深みが生じているようにも感じ
られる。
そして監督はマルソーのアーカイヴを紐解き、未亡人や2人
の娘、さらに孫までもがパフォーマンスの道に進んでいると
いう事実を紹介する。またマルソーが戦時中にレジスタンス
として活動していたという事実なども語られる。
その一方で、マルソーの直弟子のロブ・メルミンがパーキン
ソン病を罹患した中で、パントマイムを応用した療法を編み
出した話や、監督の父親が聾者によるパントマイムの可能性
を描くなど、多岐に渉る話が展開される。
ただこの多元性が観ていて集中を削がれるかな。特にレジス
タンスとして活動していたという話は、その活動で救出され
た人物なども登場してもっと突っ込んでもいいかなとも思え
たが、実は既に映画化もある有名な話だったようだ。
そんなこんなで何となく取り留めもない作品だが、マルソー
の業績やその偉大さなどが明確に判る作品にはなっている。
偉大さの点はまあ先刻判っている話でもあるのだが、そんな
ことをバランスを取りながら描いた作品だ。
とは言うものの映画ファンとしては映画との関りはもう少し
描いて欲しかったかな。テレビはいろいろアーカイヴも登場
するが、映画のシーンなどももう少し登場したら、僕の関心
の度合いも変わったかもしれない。
特にアレハンドロ・ホドロフスキーとの関係は、ホドロフス
キー側からの証言は聞いていたので、マルソー側のエピソー
ドも知りたかったが、本作の体制ではそこには至らなかった
ようだ。
でもまあ、マルセル・マルソーを知らない人にはその偉大さ
を知らしめる作品にはなっている。それが本作の目的と言え
ばそうなのだろうが。

公開は9月16日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラムにてロードショウされる。

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』
               “John Wick: Chapter 4”
2019年7月21日付題名紹介『ジョン・ウィック3』などキア
ヌ・リーヴス主演、アクションシリーズの第4作。
第1作で愛犬を殺された復讐でロシア人組織を壊滅させ、第
2作では家を破壊された仕返しにイタリアン・マフィアを殲
滅させた伝説の殺し屋が、前作では裏社会の掟を破ったこと
から逃亡者となり、本作では自由を求めて裏社会の本丸との
対決に挑む。
そんな物語はヨルダンの砂漠地帯で始まり、ニューヨークの
本拠地であるコンチネンタルホテルに飛び、さらに大阪梅田
のコンチネンタルホテルに来襲する。そしてそれぞれで銃撃
戦や大爆破、大立ち回りや格闘技など凄まじいアクションが
繰り広げられるというものだ。
さらに映画の後半にはベルリンの旧国立美術館、パリのエッ
フェル塔を臨むトロカデロ広場、凱旋門、サクレ・クール寺
院などでも手を変え品を変えてのアクションが展開される。
なおサクレ・クール寺院(モンマルトルの丘)のシーンでは、
史上最長 222段の階段落ちまで登場する。
因にそれらシーンの撮影には日本、フランス、ブルガリア、
ドイツ、アメリカなどから5人のスタントコーディネーター
とそのチームが招集されており、とにかく2時間49分の上映
時間に、のべつ幕なしのアクションが満載された作品だ。
もちろんそこには互いの信頼や血縁など様々な主人公を巡る
人間模様も絡んでくるが、正直に言ってそんなことより壮絶
且つ華麗なアクションに目を見張る作品と言える。

共演はローレンス・フィッシュバーン、イアン・マクシェー
ン、ランス・レディックのレギュラー陣に加えて、ドニー・
イェン、ビル・スカルスガルド、真田広之、シャミア・アン
ダースン、スコット・アドキンスらが新規に登場。
そしてヒロインには、ロンドンを拠点に活動する新潟出身の
ミュージシャン=リナ・サワヤマが、見事なアクションを含
めた鮮烈な映画デビューを飾っている。因にサワヤマは、米
NYタイムズ紙や英ガーディアン紙などでも紹介され、レデ
ィー・ガガやエルトン・ジョンにも認められたという逸材。
本作ではエンディングテーマも手掛けている。
監督は4作通してのチャド・スタエルスキ。スタントのプロ
で『マトリックス』シリーズにも参加していた監督がリーヴ
スとの最高のコラボレーションを繰り広げたものだ。
ドニー・イェンの役柄は盲目の戦士。『スターウォーズ』に
もそんな役柄で出ていたものだが、リスペクトというところ
かな。でも名前がケインというのは…。他にもサワヤマが演
じる役名はアキラ。いろいろと日本へのリスペクトがありそ
うだ。

公開は9月22日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。



2023年06月18日(日) ザ・フラッシュ(追記有り)、ほつれる、草原に抱かれて

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ザ・フラッシュ』“The Flash”
マーヴェル=アベンジャーズに対抗するDC=ジャスティス
リーグの一翼を担うヒーローの単独主演作。実は本作の試写
は約1カ月前に行われたものだが、全世界一斉公開というこ
とで情報解禁が封切り直前とされ、紹介ができなかった。
という訳で封切り後の紹介になってしまったが、既に観た人
は判るようにかなりマニアックな作品だ。
物語の骨子は、幼い頃に母親を亡くしたザ・フラッシュこと
バリー・アレンが自らの能力を最大限に活用して過去世界に
戻り、母親の救命を図るが…。それによって改変された歴史
の現代ではスーパーマンが現れず、地球はゾッド将軍の襲来
によって壊滅の危機に瀕していた。
そこで主人公はその世界にいた今の自分より少し若い自分と
共に、ヒーローの中で唯一存在していたバットマンを探し出
し、さらに現れたスーパーガールも加わってゾッド将軍の繰
り出す軍勢に戦いを挑むことになる。しかしその究極の結末
はそこにはなかった。
ということでこの登場するバットマンを、1989年、1992年の
シリーズで同役に扮したマイクル・キートンが演じ、さらに
スーパーマンにはTVシリーズ時のジョージ・リーヴスから
歴代の俳優がCGIで出現。その中にはもちろんファンには
涙の姿もあるし、ニヤリとする幻の姿もある。
その一方でバットマンにはベン・アフレックも登場し、つま
りこれはそれぞれの映画がパラレルワールドとして存在して
いるという設定になっているものだ。日本公開キャッチには
「世界を、この映画が変える。」とあるが、正にその通りの
映画が作られている。

出演はエズラ・ミラー、本作には 400人の候補の中から抜擢
されたというサッシャ・カジェ。他にマイクル・シャノン、
ロン・リヴィングストン、マリベル・ヴェルドゥ、カーシー
・クレモンズ、アンチュ・トラウェらが脇を固めている。
脚本は2020年2月16日付題名紹介『ハーレイ・クィンの華麗
なる覚醒』などのクリスティーナ・ホドスン。監督は2017年
10月1日付け、及び2019年9月29日付題名紹介『IT イット
“それ”が見えたら、終わり。』の2部作を大ヒットに導い
たアンディ・ムスキエティが担当。
SF的な考証はそれなりに考えられているようで、特にパラ
レルワールドの節という考え方には、それなりに納得ができ
たものだ。

公開は6月16日より、全国ロードショウとなっている。
(追記)歴代スーパーマンの登場するシーンで続報があり、何
とニコラス・ケイジの映像はCGIではなく本人が再演して
いるそうだ。1996年に計画された本編の製作は頓挫したもの
だが、思いの籠った映像が本作で実現しているとのことだ。
(再追記)よくよく考えたら、俳優を通常シーンにCGIで登
場させることはアメリカ俳優組合が厳に禁じているもので、
ケイジが了解してもできることではなかった。従ってこのシ
ーンが実写であることは当然のものだ。


『ほつれる』
第67回(2023年)岸田國士戯曲賞受賞の演出家・加藤拓也が、
自らの書き下ろし脚本で、門脇麦を主演に迎えて描いた監督
第2作。
最初に登場するのはW不倫のカップル。2人はロマンスカー
でグランピングに行き、1夜を共にして互いの右手の薬指に
指輪を交わす。そして絵画館前の銀杏並木のカフェで食事を
して別れるが…、そこで事件が起きる。
それを観て観ぬふりをして帰宅した主人公は、待っていた夫
から話があると言われるがうわの空で聴き流し、疲れたから
と言って寝室にこもってしまう。そして翌日、彼氏の事故死
の報が届く。
そんな状況から始まって紆余曲折が描かれて行くが、夫には
前の妻との関係が断ち切れていない疑いが生じ、死んだ彼氏
も本妻との関係は必ずしも主人公の考えているような状況で
はなかったようだ。
そして物語は、特に修羅場が描かれるものでもなく、静かに
進められてゆく。

共演は、監督の舞台作品にも出演し2022年4月紹介『マイス
モールランド』に出ていたという田村健太郎、2019年3月紹
介『パラレルワールド・ラブストーリー』などの染谷将太、
そして2023年3月紹介『ヴィレッジ』などの黒木華。
他に古館寛治、安藤聖、佐藤ケイ、秋元龍太朗、金子岳憲、
安川まりらが脇を固めている。因に田村、黒木を始め多くの
出演者は加藤監督の舞台にも出演の顔ぶれのようだ。
自分が70歳を超えた身からすると、今さらこのような状況に
なるとは思わないが、そんな眼からすると男の身勝手さが気
になるかな。そこで逆に女性の主人公が気になる訳で、それ
は感情移入ではないが共感するところはあった。
そんなかなり複雑な気分にさせてくれる作品だ。まあ女性が
見たらどういう感想になるのかは判らないが、僕自身は彼女
の決断を支持するし、彼女の先の人生はきっと開けて行くと
思えたものだ。
映画のプロローグで互いの右手に嵌めた指輪をスマホで撮影
しようとする下りには笑ったが、それが最後まで続くドラマ
の始まりとは気が付かなかった。その辺の作劇も巧みな作品
だ。まあスマホのシャッターは音声でも切れるけどね。

公開は9月8日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国
ロードショウとなる。

『草原に抱かれて』“脐带”
中国・内モンゴル自治区ダグール族出身の女性監督チャオ・
スーシュエによる長編デビュー作。
主人公は音楽の素養に恵まれ、電子楽器や伝統的な馬頭琴な
ども操る新進のミュージシャン。そんな彼のスマホにライヴ
中に届いたのは母親からの着信だった。そしてライヴ後に折
り返した主人公は、受け答えする母親の異変に気付く。そこ
で故郷の街に帰ってくるが…。
母親は兄夫婦の暮らすアパートで鉄格子の嵌った部屋に閉じ
込められ、兄は徘徊で目が離せないと言い放つ。そんな母親
を主人公は草原に建つ廃屋と化した実家へと連れ戻し、近隣
の住人の助けも借りて暮らし始める。それは母親が自分を取
り戻すような日々だった。
もちろんそこでの暮らしは文明から切り離された過酷なもの
でもあったが、周囲の協力で何とか危機は脱して行く。そん
な中で母親は、生前の両親の共に撮られた写真に写る風景を
もう一度見たいと言い出す。

出演は、内モンゴル出身で北京の音楽院を卒業し電子楽器や
馬頭琴も演奏するシンガーソングライターのイデル。本作の
脚本は当て書きで書かれたものだそうだ。そして1991年度の
ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞の『ウルガ』にも主演
のバドマ。歌手でもあるベテラン女優が作品を支えている。
故郷に向かう高速道路の反対車線に馬が走っていたり、何と
なく牧歌的な雰囲気も物語に彩りを添える。そして物語は痴
呆が始った母親と忘れかけられている息子、それに母親の父
(主人公の祖父)への想いという、正に究極の展開になる。
この物語自体には先例はありそうだが、そこに馬頭琴をはじ
めとする民族音楽や伝承(?)の舞踏などが絡められて、正に
映画という感じの作品になっている。それらを主演の2人が
自ら演じて見せているのも見事な作品だ。
ただ結末に関しては、かなりファンタスティックな映像での
締め括りとなっているのだが、それ自体は理解はできるもの
の、やはりここはもっと明確な開示が欲しかったかな。曖昧
にしたかった気持ちは理解するが、そうでなくても充分に感
動的な物語が、却ってはぐらかされた感じもした。
ここはファンタスティックな映像の後に、現実的な締めの映
像が欲しかったものだ。まあ、そんなことは言わなくても素
敵な作品ではあるが。

公開は9月23日より、東京地区は新宿K'cinema他にて全国順
次ロードショウとなる。



2023年06月11日(日) アウシュヴィッツの生還者、たまつきの夢、あしたの少女、ジェーンとシャルロット

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※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
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『アウシュヴィッツの生還者』“The Survivor”
ポーランド出身で第2次大戦後にアメリカに渡り、タイトル
にもなっている異名で活躍したプロボクサーの実話を、オス
カー受賞の1988年『レインマン』や2010年6月紹介『トラブ
ル・イン・ハリウッド』などのバリー・レヴィンスン監督が
映画化した作品。
舞台は1949年のニューヨーク。主人公は戦歴13勝で将来を嘱
望されるプロ・ボクサー。ところがその頃から戦時下での体
験がフラッシュバックし始め、そのため極度の不振に陥って
しまう。
そんな彼が次のチャンピオンと目されるボクサーとの戦いを
希望する。それはポーランドで生き別れた恋人の消息を知る
ため、名声を得て恋人に自分の生存を知らせたいという目論
見だった。
そんな彼に1人の新聞記者が接近する。その記者は彼の生き
様に興味があり、それを記事にしたいと提案する。それは新
聞で名を売り、次期チャンピオンとの一戦に近付く手段にも
なるものだったが…。
トレーナーでもある兄の忠告も振り切って彼が語ったのは、
彼がナチスの将校の庇護の下、将校たちの慰みだったユダヤ
人同士の賭け試合で勝ち続け、敗者はその場で銃殺されたと
いう衝撃の事実だった。
その記事は世間の注目を浴び、彼は次期チャンピオンとの一
戦を勝ち取るが、同時にユダヤ人社会からの猛烈な非難も受
けることになってしまう。そしてそれは彼に別の想いももた
らすことになる。

出演は、2016年10月紹介『インフェルノ』などのベン・フォ
スターと、2016年6月紹介『コロニア』などのヴィッキー・
クリープス。他に2019年5月紹介『アラジン』に出ていたと
いうビリー・マグヌッセン、2004年8月紹介『ニュースの天
才』などのピーター・サースガード。
さらにイスラエル出身で現地のテレビシリーズなどで人気の
ダル・ズーゾフスキー、2017年4月9日題名紹介『ジョン・
ウィック』シリーズなどのジョン・レグイザモ、2004年1月
紹介『ビッグ・フィッシュ』などのダニー・デ・ヴィートら
が脇を固めている。
自分の父親がシベリア抑留者だったこともあって興味を惹か
れた。もちろん戦時捕虜とユダヤ人では状況は異なるが、昭
和23年まで帰国できなかった父は生前、「転んだ連中は早く
帰国できた」とも話していた。父はそれを良し悪しでは話さ
なかったが、そういうことだったのだろう。
この主人公の立場も一概に批判できるものではないし、逆に
それを非難したくなる気持ちも理解できる。そんな極限の状
況が語られているとも言える。そしてそれが別の悲劇も生み
だす。それら諸悪の根源が戦争にあることも明白に描かれた
作品だ。

公開は8月11日より、東京地区は新宿武蔵野館他にて全国ロ
ードショウとなる。

『たまつきの夢』
2012年に始まった気鋭のミュージシャンと新進監督のコラボ
レーションによる音楽×映画プロジェクト=MOOSIC LABで、
2019年度に出品された上映時間30分の作品が、61分の完全版
で一般公開される。
時代は第2次大戦前の昭和期、南京事変が起きて軍靴の響き
が着実に近付いている社会情勢の中で、戦地からの手紙で弟
の死を知った女性と、結核で兵役免除となり撞球場で暮らす
若者が互いの夢を語り合う。
タイトルの「たまつき」はビリヤードのことだが、ここでは
そのプレーヤーのことを指すのかな。実際に明治時代から広
まった日本のビリヤードは、昭和初期には世界チャンピオン
を生み出すほどの隆盛だったようだ。
しかしそんな時代に撞球場は、長引く戦禍の許では風紀を乱
すとして取り締まりの対象にもなっていた。

脚本と監督は2019年7月紹介『かぞくあわせ』でオムニバス
の一編を担当していた田口敬太。2017年に長編デビューの監
督は2019年度の本作が第2作となるものだが、その後も公開
作はあるようだ。
出演はインディーズ映画に多く出ている辻千恵、2018年6月
10日付題名紹介『きらきら眼鏡』などの金井浩人。他に佐藤
睦、山口大地、木原勝利、桜まゆみ、木田友和らが脇を固め
ている。
閉塞感が漂う時代背景の中で、若者が夢を語る。ある意味、
今の社会にも通じるところがあるのかな。昭和レトロが見事
に再現された作品ではあるが、COVID-19禍や身近にも感じる
戦争の雰囲気の中で、そんな現代性も考えてしまった。
映画の舞台となっている撞球場は群馬県下仁田町にある実在
の場所で撮影されたものだが、築 100年を超えるという既に
廃屋と化していた建物を美術スタッフなどが丁寧に再生した
ものだそうだ。
実際その風情だけでも充分に昭和レトロが再現されており、
ここで勝負あったという感じもした。1961年の『ハスラー』
などで戦後にも一時期ブームもあったから、その時代も含め
て残されていたのかな。
ただ映画の中でヒロインの台詞が一か所「ら抜き」だったの
は引っ掛かった。若い女優さんでは仕方がないが、監督はそ
の辺も注意するべきだったのではないかな。

公開は7月15日より、東京地区は渋谷のユーロスペースにて
ロードショウとなる。

『あしたの少女』“다음 소희”
2015年に日本公開された『私の少女』のチョン・ジュリ監督
による第2作。2006年7月紹介『グエムル−漢江の怪物−』
などのペ・ドゥナが前作に続いて主演を務める。
物語の前半は女子高校生キム・ソヒの話。学校の斡旋でとあ
る企業に実習生として働き始めた彼女は過酷な労働環境の中
でも成績を上げて行くが、執拗な業務の達成主義や実習生へ
の搾取などを目の当たりにし、徐々に失望して行く。
そんな中で勤務先のセンター長が自殺し、その事実を隠蔽し
ようとする上層部との対立が起きる。そして禁じられた葬儀
に出席した彼女にはさらなる圧力が掛かるが、その状況を学
校側は関知せず、両親にも取り合って貰えなかった。
そんな少女の事件を1人の女性刑事が追い始めるが…。

共演は2001年生まれのキム・シウン。大学に進学してから演
技の勉強を始めたという新進女優は、映画には2本の出演歴
があるが、本作にはオーディションで出演を勝ち取ったもの
だそうだ。
他にチョン・フェリン、カン・ヒョンオ、パク・ウヨン、チ
ョン・スハ、シム・ヒソブ、チェ・ヒジンらが脇を固めてい
る。
物語の前半は2017年に起きた実際の事件に基づくものだそう
で、本作と同様にコールセンターで実習生として働いていた
女子高校生が事件に巻き込まれている。そして実際の事件で
は企業側が改善を約束したとされるが…。
原題は直訳すると「次のソヒ」だそうで、若者が同様の事件
に巻き込まれることの繰り返しが否定できないという意味合
いの題名になっている。実際に韓国では若者の命を軽視する
風潮があるとの指摘もされていた。
それに比べて日本では少しはましかなとも思われるが、国民
総貧困化の時代では、何時こんな社会になってしまうかも…
とも思わされる作品だった。
因にペ・ドゥナの役柄は監督の創作となっているものだが、
前作と同様の女性刑事。ただし両者は直接繋がりのある役柄
ではない。そんな中で最後に判明するソヒとの関係はかなり
衝撃的だった。
そんな作劇のうまさも感じる作品だ。

公開は8月25日より、東京地区はシネマート新宿、大阪地区
はシネマート心斎橋他にて全国ロードショウとなる。

『ジェーンとシャルロット』“Jane par Charlotte”
フレンチ・ポップスのレジェンド=セルジュ・ゲンズブール
と、イギリス出身の歌手・女優・モデル=ジェーン・バーキ
ンとの間に生まれた女優=シャルロット・ゲンズブールが、
監督デビュー作として母親を撮ったドキュメンタリー。
映画は2018年、バーキンの来日公演の舞台袖から始まるが、
そこで一旦途切れて、再開は数年後のニューヨーク。そこに
は様々な葛藤が伺えるが、そんなこともひっくるめてジェー
ンとシャルロットの母子の姿が記録されている。
そこには3度結婚してそれぞれのパートナーと儲けた3人の
娘への想いや、そんな母親に対するシャルロットの想い。さ
らには母子が昔住んでいた家を訪ねるシーンなど、他家の話
ではあるけれど、何となく身に染みる話が描かれる。
僕自身は取り立てて2人のファンではないが、最初のパート
ナーが007シリーズなどの作曲家のジョン・バリーであっ
たり、3番目のパートナーが映画監督のジャック・ドワイヨ
ンであったり、登場する名前にも興味が湧く。
そしてそんな生涯が正々堂々と語られる。そんなことも素晴
らしいと思える。そこに至るまでにはいろいろな葛藤もあっ
たのだろうが、それをしっかりと映像に残したことも称賛に
値する。そんな母子の愛情も感じられる作品だった。
なお巻頭の日本のシーンでは、小津安二郎ゆかりの茅ヶ崎館
なども登場し、日本映画のファンにも興味津々の作品だ。

公開は8月4日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
有楽町、渋谷シネクイント他にて全国ロードショウとなる。



2023年06月04日(日) インスペクション ここで生きる、アイスクリームフィーバー、破壊の自然史、キエフ裁判

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『インスペクション ここで生きる』“The Inspection”
2019年12月02日付題名紹介『ミッドサマー』などのA24製作
で、元海兵隊の映像記録担当という経歴を持つエレガンス・
ブラットン監督が、自らの体験を基に描いたとされる劇場映
画デビュー作。
主人公は黒人でゲイの若者。16歳の時に性癖を嫌った母親に
捨てられ、以来ストリートで一人で生きてきた。そんな主人
公が花束を持って母親を訪ねるところから物語は始まる。そ
の目的は、海兵隊に志願するため出生証明書が必要だったか
らだ。
こうして海兵隊に志願した主人公だったが、選考を突破して
やってきた基礎訓練キャンプ(ブートキャンプ)では想像を絶
する体験が彼を待ち受けていた。性癖や人種、肌の色や宗教
などありとあらゆる差別がはびこる中で、果たして主人公は
難関を突破することができるのか。
海兵隊(マリーンズ)が米軍最強の軍隊であることは知ってい
たし、それを支える訓練の厳しさも聞き及んではいたが、さ
らにそこに差別という避けて通れない問題が横たわる。それ
を目を背けることなく真摯に描き切った作品とも言えるだろ
う。「真実が宿った作品」という評価も納得できる。

出演は、本作で本年度のゴールデングローブ賞にノミネート
されたジェレミー・ホープ。他に2017年12月17日付題名紹介
『スリープレス・ナイト』などのガブリエル・ユニオン。ラ
テン系俳優のラウル・カスティーヨ。さらにマコール・ロン
バルディ、ボキーム・ウッドバインらが脇を固めている。
モスクワがキーウを攻めている今の時代に軍隊の内情を描く
のはなかなか難しいことだと思うが、本作ではそれを差別と
いう面から巧みに提示している。それは海兵隊という最も過
酷な訓練で知られる軍隊を背景にしたものでもあり、それで
も差別の現実を描き切ったことにも賞賛する。
そしてそれはほぼ全ての面で、それらを凌駕する感動で物語
を包んでいる。これは本当に見事な作品と言えるだろう。正
に人間の愛の心を描き切った作品と言えるものだ。なお映画
の中ではサム・メンデス監督の『ジャーヘッド』(2005年)が
引き合いに出されてもいた。これも…だ。

それにしても難しいテーマに果敢に挑戦する制作会社のA24
にも称賛を送りたいものだ。
公開は8月4日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ、新
宿武蔵野館他にて全国ロードショウとなる。

『アイスクリームフィーバー(ICЁ CЯEAM FEVER)』
H&Mなどの企業のブランディングや広告宣伝から桑田佳祐
のCDジャケットまで様々なデザインを手掛けるアートディ
レクターの千原徹也が、長年の夢の実現として制作した映画
監督デビュー作。
物語の中心は街角のアイスクリーム・ショップ。そこの雇わ
れ店長として働く菜摘は、元はデザイン業界にいたが軋轢か
ら仕事を止めて現職になった。しかし業界に戻ることも考え
始めている。
そんなショップに黒ずくめの衣装の女性がやってくる。その
女性が気になった主人公は言葉を交わすようになり、彼女が
デビュー作で文学賞を受賞したものの第2作の執筆ができな
いでいる作家だと判明するが…。
そしてもう1人、ショップの近所に住む一人暮らしの女性・
優の家に突然姪が訪ねてくる。その姪は生き別れの父親を捜
しに来たと言い、それは優にも関りのある話だった。そんな
優は近所の銭湯を癒しの場にしていたが…。
こんな女性たちの物語が展開されて行く。

出演は、吉岡里帆、モトーラ世里奈、松本まりか、南琴奈。
それに「水曜日のカンパネラ」の二代目ヴォーカルの詩羽。
さらに安達祐実、ジャルジャルの後藤淳平、マカロニえんぴ
つのはっとり。そして片桐はいり、MEGUMI、「水曜日のカン
パネラ」の初代ヴォーカルのコムアイらが脇を固めている。
原案は芥川賞作家・川上未映子の著作『愛の夢とか』所載の
「アイスクリーム熱」とされており、脚本は2017年12月10日
付題名紹介『生きる街』などの清水匡が担当している。
映画はちょっと複雑な構成になっているが、それが何という
か、カタルシスを生み出すほどでないのは少しもったいない
かな。と言うか、出演者の顔ぶれがかなり煌びやかで、観客
としてはその方に目が行ってしまうから、それは致し方ない
ところではある。
その辺を楽しめればそれはそれで充分な作品とも言えるが、
折角ならもっと捻りまくった作品にしても良かったかもしれ
ない。その辺はこの監督なら次回作でやってくれるかな…。
そんなことも考えてしまうほどの期待を持てる作品だった。
もちろん本作も良くできた作品ではあるが。
なお WEB上には、本作を補完する短編『I SCREAM FEVER』も
公開されており、公開までにはいろいろとメディアクロス的
な展開も行われるようだ。

公開は7月14日より、東京地区は渋谷シネクイント、アップ
リンク吉祥寺、TOHOシネマズ日比谷他にて全国ロードショウ
となる。

『破壊の自然史』“The Natural History of Destruction”
『キエフ裁判』“Київський процес”
2022年8月7日紹介『バビ・ヤール』などのセルゲイ・ロズ
ニツァ監督が2022年に発表した2作品が、「戦争/正義」と
題して同時公開される。
作品はいずれもアーカイヴァル・ドキュメンタリーと称され
るもので、先の紹介作と同様のアーカイヴに所蔵された映像
を編集し、さらに効果音や音声も追加して観客が事実を理解
し易いように再構成しているものだ。
そして今回上映される1本目の『破壊の自然史』は、第2次
世界大戦で英国空軍が行ったドイツ各地の空爆攻撃の映像を
再構成したもの。
作中では1943年7月末〜8月始めに行われたドイツ北部の港
湾都市ハンブルグへの空爆の模様が、空爆前の美しい街並み
の映像から昼間及び夜間の焼夷弾攻撃を上空から撮影した映
像、そして破壊された街の姿へと綴られる。
因に題名はドイツ出身作家ヴィンフリート・ゲオルグ・ゼー
バルトが1999年に著した書籍“Luftkrieg und Literatur”
の英語版の題名が基になっているもので、書籍の中ではドイ
ツ文学における空襲への言及の欠如が論じられている。本作
はそんなタブーに挑戦した作品でもある。
このタブーは英米文学界でも同様で、僕自身はカート・ヴォ
ネガットの原作を1972年にジョージ・ロイ・ヒル監督が映画
化した『スローターハウス5』でドレスデンの空爆の事実を
知ったものだが、この原作は合衆国では現代でも多くの州で
禁書の扱いになっているとされる。
実際に焼夷弾による空爆は全く非人道的なものであり、これ
を行ったという事実だけでも非難されるべきもの。その事実
を英米軍は長きに亙ってひた隠しにしてきたものだ。その事
実がスクリーンに展開される。
中には特に夜間の映像を美しいと感じる人も居るようだが、
これが焼夷弾であり、地上では逃げ惑う一般の人々が焼き殺
されているという事実を知っていれば、僕はこれを美しいと
感じることはできない。そして映画でも美しくは描いていな
かった。あくまでも事実を描いた作品だ。
そして2本目の『キエフ裁判』は、先の『バビ・ヤール』で
も描かれたウクライナ・キーウ郊外の渓谷で、ナチスドイツ
が起こした戦争犯罪を裁く裁判を、各被告人の証言を中心に
描いたもの。因に題名が「キエフ」なのは、この裁判がモス
クワ主導で行われたことを表しているようだ。
そして本作では、この裁判がかなり恣意的に行われたこと。
さらに被告人全員が判決の罰を受けるほどの罪だったのかも
考えさせられる。これは日本でも『私は貝になりたい』のよ
うな話があったことにも通じる、戦勝国の顕示が行われてい
るようにも感じるものだ。これも事実を描いた作品だ。
ただし本作の場合は、やはり『バビ・ヤール』の印象が強烈
かな。特に最後に証言する女性は『バビ・ヤール』にも登場
した人で、そこからの流れは先の作品の同じになる。この作
品はあくまでも前作を補完する位置づけのようだ。両作とも
見るのが正しい見方だろう。

公開は8月12日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他にて2作同時ロードショウとなる。


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井口健二