井口健二のOn the Production
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2022年11月27日(日) 生きててごめんなさい、いちばん逢いたいひと、恋のいばら

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『生きててごめんなさい』
社会現象とまでされる「刀剣乱舞」や2019年7月紹介『いな
くなれ、群青』などに出演の黒羽麻璃央と、2020年2月23日
題名紹介『街の上で』などの穂志もえかの共演で、出版文化
を背景にした青春映画。
主人公は出版社の編集部に勤めながら文学賞の応募を狙って
いる男性。そんな男性が居酒屋で客への応対に苦労している
女性を助け、2人はそのまま同棲関係になる。しかし女性は
ある種の適応障害で、家にいることが多かった。
そんな男性は、勤務先ではパワハラに近い上司の攻撃を受け
ており、さらに担当する執筆者からも無理難題を押し付けら
れて応募のための執筆もままならなくなる。そんな時に高校
の文芸部の先輩だった女性編集者と再会し…。
出版も配信が主流になりつつある時代に、紙の出版を背景に
してくれるのは、そういう時代を生きてきた者としては嬉し
くもなる作品だ。そこにまあ、何というかライトノヴェルの
ようなノリの物語が展開される。

企画・製作は、2018年9月紹介『青の帰り道』や2017年12月
紹介<TANIZAKI TRIBUTE>の一編『悪魔』などの藤井直人。
その『悪魔』で脚本を務めた山口健人が、本作を脚本・監督
した。
共演者では、2022年8月紹介『よだかの片想い』などの松井
玲奈、2017年10月1日題名紹介『こいのわ 婚活クルージン
グ』などの安井順平らが脇を固めている。
タイトルが何とも重くて、正直には試写を観るのを躊躇した
ところもある。でも実際の作品は軽いノリと言うか、一時期
流行ったカルチャースクールの文芸教室にはこんな人も居た
んだろうなあ、という感じの主人公だ。
そんな目で見ているとライトノヴェルと言うジャンルが頭に
浮かんでしまうのだが、はっきり言って男女の主人公のキャ
ラクターの掘り下げも浅いし、これで物語のどこに共感すれ
ばよいのかも判らなくなる。
特に結末は、逆の方がもっと真剣な物語になったと思うが、
でもこういう展開が今の観客には受けるのだろうし、そこに
今が旬の俳優の共演なら、これはこれで認めるべき作品なの
だろう。
とは言うものの、やはりタイトルは重過ぎるように感じてし
まう。それを払拭する宣伝は大変だ。「#イキゴメ」で良い
キャンペーンが張れるといいが。

公開は2023年2月3日より、東京ではシネ・リーブル池袋、
ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺他にて
全国順次ロードショウとなる。

『いちばん逢いたいひと』
AKB48倉野尾成美の主演で、急性骨髄性白血病の少女とその
骨髄ドナーとなった男性を巡る実話に基づくとされる物語。
主人公は11歳で白血病と診断されて入院し、ドナーを待つ間
は過酷とされる抗がん剤の治療を受けることになる。しかし
そこには隣のベッドで同じ病を闘う少年との淡い恋心なども
芽生えていた。
一方、IT企業を経営する男性の娘が白血病となり、ドナーを
待つも甲斐なく死去してしまう。そして男性は妻から「何も
してくれなかった」と詰られて家庭は崩壊。そんな時、男性
はふと骨髄ドナーに登録する。
その登録が、少女と男性の未来を奇跡のように結びつけるこ
とになる。

共演は三浦浩一、不破万作、田中真弓、大森ヒロシ、それに
監督も務める丈、そして崔哲浩。さらに子役の田中千空、海
津陽。また中村玉緒(特別出演)、高島礼子らが脇を固めてい
る。
本作のプロデューサーのお子さんが同様の白血病なのだそう
で、この作品にはその思いが込められているようだ。実際に
映画では骨髄移植に向かうまでの手順なども丁寧に描かれて
おり、その啓蒙という点では申し分のない作品と言える。
そしてそこにある意味で波乱万丈のドラマが盛り込まれてい
るものだが、どこまでが実話かは知らないが、脚本も手掛け
た丈監督は、深刻であったりユーモラスな部分もあったりの
ヴァラエティに富んだ構成で巧みに描いている。
因に丈監督は大衆演劇の梅沢武生劇団の出身だそうで、人情
劇にコメディを織り込む手法はそこで培われたものかもしれ
ない。いずれにしても深刻さの中に緩急を付けるドラマ作り
は正しく王道と言える感覚だった。
特にドナーと警察とのくだりは、巧みな幕間劇という感じに
もなっているものだ。ただ骨髄移植に関しては、近年は臍帯
血の適用なども進んでおり、その辺の情報も少しは入れて欲
しかったかな。主旨とは離れてしまうかもしれないが。

とは言え、ドナー登録の意義を伝える映画としては良くでき
た作品であり、広く一般に観て貰いたい作品だ。
公開は、2023年2月17日よりロケ地の広島県と栃木県で先行
上映の後、東京はシネ・リーブル池袋他にて全国順次ロード
ショウとなる。

『恋のいばら』
2004年11月6日第17回東京国際映画祭(アジアの風)で紹介
の黄詠詩(パン・ホーチョン)監督、香港映画『ビヨンド・ア
ワ・ケン』を、2022年5月紹介『ビリーバーズ』などの城定
秀夫監督でリメイクした作品。因に城定監督がリメイクを手
掛けるのは初めてのことだそうだ。
主人公は図書館に司書として勤める24歳少し地味目な女性。
最近彼氏にフラれたが、その理由が判らず悶々としている。
そんな女性が SNSで彼氏の今カノを発見。その今カノが彼女
とは正反対の華麗なダンサーだったことに驚く。
そこで元カノは今カノの行動を調べ上げ、今カノの行く先に
現れて接近して行く。そしてついに接触に成功した元カノは
今カノにある作戦への協力を求める。それは彼氏のPCに保存
された自分の写真を消去したいというもの。
それは彼氏が元カノの画像を SNSなどに公開する「リベンジ
・ポルノ」を阻止したいという申し出だった。そして今カノ
もその不安に駆られ、2人は共同作戦を開始。しかもそこで
彼氏のルーズな女性関係も明らかになって…。

出演は2019年12月22日題名紹介『酔うと化け物になる父がつ
らい』などの松本穂香と、2022年7月紹介『窓辺にて』など
の玉城ティナ。他に渡邊圭祐、中島歩。さらに不破万作、片
岡礼子、白川和子らが脇を固めている。
脚本は2020年1月19日題名紹介『影裏』などの澤井香織と共
同で書かれており、女性の視点が作品にも表れている感じか
な。また音楽を1997年黒沢清監督の『CURE−キュア−』や清
水崇監督『呪怨(ビデオ版)』などのゲイリー芦屋が担当して
いる。
オリジナルは、当時の紹介を読み直すとどちらかと言うと物
語を今カノの側から描いていたようで、リメイクではそれを
逆転させている感じかな。ただしそれは少し危険も伴うが、
その辺は城定監督が巧みに回避している感じでもある。
そしてそれが結末をより明確にしている感じもして、このリ
メイクは巧みな計算の結果とも思えるものだ。特に元カノの
視点で今カノを観ている感じが2人の女優のキャラクターと
も相まって、いい雰囲気にも感じられた。
それに男性の視点が完全に排除されているのも、物語として
面白く感じられたものだ。なおオリジナルの主演はジリアン
・チョンだが、彼女は2008年のエディソン・チャン写真流出
事件に巻き込まれたもので、2004年作は予言だったかな?

公開は2023年1月6日より、東京はTOHOシネマズ各館や渋谷
シネクイント、イオンシネマ板橋、アップリンク吉祥寺他に
て全国ロードショウとなる。



2022年11月20日(日) シャドウプレイ、とべない風船、母の聖戦

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『シャドウプレイ』“风中有朵雨做的云”
2008年5月紹介『天安門、恋人たち』などで中国映画第6世
代の旗手とも言われるロウ・イエ監督による2018年の作品。
なお本作は2019年第20回東京フィルメックスのオープニング
でも上映されているが、今回はその際の上映時間より約5分
長い【完全版】となっている。
物語の発端は2006年、水辺の草むらで身体を重ねていた若い
カップルが腐乱しかけた遺体を発見する。
それから7年後の2013年4月14日、広州市の「都会の村」と
呼ばれるビジネス街の中の開発から取り残された地区で、立
ち退きを迫る開発業者とそれに反対する住民との間で大規模
な騒乱事件が起きる。
その現場を訪れた市当局の開発担当は住民の説得に奔走する
が、ふと関係者が目をくらませた隙に、その担当者が近くの
ビルの屋上から転落。果たしてその転落は事故か他殺か。そ
の解明はやがて思いもよらぬ事件に発展する。

出演は、中国のオーディション番組での優勝者というジン・
ボーラン、2008年8月紹介『レッド・クリフ』に出演のソン
・ジア、2010年7月紹介『スプリング・フィーバー』などイ
エ監督作品の常連チン・ハオ。
さらにマー・スーチュン、チャン・ソンウェン、ミシェル・
チェン、エディソン・チャンらが脇を固めている。因にエデ
ィソン・チャンの出演シーンはフィルメックス時の公開版で
はカットされていたそうだ。
劇中描かれる2013年の騒乱事件は実話だそうで、この辺も検
閲の対象だったのかな。そんな実在の事件を背景に様々な要
素の絡まるクライム・サスペンスが展開される。
その物語にはいくつもの時間軸があってかなり複雑。しかも
2つの時間軸が交錯するシーンがあるなど、トリッキーな演
出も施されている。しかし事件の顛末に関しては明快で、そ
れは判り易く作られていた。
でもそこに盛り込まれた人間模様は複雑かつ深刻で、この巧
みさはイエ監督の真骨頂という感じかな。とにかく見ごたえ
のある、これぞ映画という感じの作品で、久しぶりに映画を
堪能した気分になれた。

公開は2023年1月20日より、東京は新宿K's cinema、池袋シ
ネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺他にて全国順次ロードショ
ウとなる。

『とべない風船』
広島を拠点にCMや短編作品の制作で受賞歴もある宮川博至
監督が、多島美に彩られる瀬戸内の島を舞台に平成30年7月
の豪雨災害の傷跡を描いた作品。
主人公の女性は、都会の生活に疲れてその島に住む父親の許
を訪れるが、数年前にその島で亡くなった母親の死の状況を
巡って父親と確執があるようだ。しかし元教師でもある父親
は島では先生と呼ばれて、静かな暮らしぶりだった。
そんな父親の許には毎日近所の漁師が釣果を持ってくるが、
脚に傷を負い寡黙なその男性には記憶から消すことのできな
い過酷な過去があった。そんな男性が気になる主人公は、少
しずつ彼に近付いて行くが…。

出演は、2019年11月24日題名紹介『ロマンスドール』などの
三浦透子と2018年8月26日題名紹介『ビブリア古書堂の事件
手帖』などの東出昌大。さらに小林薫、浅田美代子。さらに
原日出子、堀部圭亮、笠原秀幸、子役の有香らが脇を固めて
いる。
題名の中にある「風船」はスクリーンでは風の字が逆さまに
なっているが、劇中では糸に繋がれたままの風船が風に翻弄
されて、悶えているようにも見える感じなのかな。それが結
末のシーンにも繋がるようになっているものだ。
2018年の豪雨災害に関しては、その少し後に行った広島遠征
で山陽本線の車窓から見えたそこここにある山崩れの爪痕が
衝撃だったものだが、実際に 100人以上が亡くなった出来事
の記憶が部外者の僕にも鮮明に甦ってきたものだ。
それを思い出させるのも本作の目的の一つだろうし、その意
味では充分にその力を発揮した作品だったと言える。1980年
生まれの監督が長編デビュー作として、正しく満を持した感
じも伝わってくる作品だ。
ただ一点、劇中で奇異に感じたところがあって、それは浅田
が演じる居酒屋のシーンでカウンターに置かれるビールの瓶
が全て後ろ向きだったことだ。まあ酒飲みであればそれでも
銘柄は判るものだが、これはスポンサーの意向なのかな。
主演男優のトラブルのことも考えると、何となく勘ぐってし
まうところだった。

公開は12月より広島県で先行上映の後、東京は2023年1月か
ら新宿ピカデリー他にて全国順次ロードショウとなる。

『母の聖戦』“La civil”
ベルギー、ルーマニア、メキシコの合作で、メキシコで横行
する誘拐ビジネスの恐怖を描き、2021年の東京国際映画祭で
審査員特別賞を受賞した作品。
主人公はメキシコ北部の町に暮らすシングルマザーの女性。
10代で少し反抗期の娘との2人暮らしだったが、ある日その
娘が犯罪組織に誘拐される。そして要求された身代金は彼女
には払いきれない額だった。
そこで彼女は娘の父親にも頼み込み、それなりの金品を用意
して組織の手先の男に手渡すが娘は解放されず、さらに過大
な要求が突き付けられる事態となる。そこでやむなく母親は
警察に訴え出るのだが…。
その訴えは直ちに組織に内通され、さらなる要求が突き付け
られる。この事態に彼女が取った手段は…?

脚本と監督はルーマニア出身でチャウセスク政権下の圧制を
逃れてベルギーに渡り、さらにアメリカで学んだというテオ
ドラ・アナ・ミハイ。元々ドキュメンタリーの制作者だった
女流監督は当初は本作もその手法の予定だったという。
ところが本作のモデルとなった女性の取材を続ける内に、そ
の取材に大きな危険が伴うことを感じ取り、その危険を回避
するためにドラマにすることを決意したというものだ。しか
し危険は回避しきれなかったようだ。

共同脚本は、監督の学生時代からの友人というメキシコ人の
アバクク・アントニオ・デ・ロザリオ。以前から麻薬戦争と
それが市民に与える影響をテーマとした執筆活動で受賞歴も
あるという作家の協力が迫真のドラマを作り上げている。
出演は、母親役をNetflixなどで100本以上の映画、テレビに
出演しているベテランのアルセリア・ラミレス。他にメキシ
コを代表する俳優と言われるアルバロ・レゲロ、さらにホル
ヘ・A・ヒメネスらが脇を固めている。
映画の後半では軍隊まで登場して麻薬組織との対決が描かれ
る。それがどこまで実話に則したものかは判らないが、実は
取材に応じて物語のモデルとなった女性は、その後に組織の
報復で惨殺されたそうだ。
プレス資料には誘拐は割に合わないと書かれているが、実際
には今も誘拐ビジネスは横行しているされる。麻薬組織との
闘いの難しさが如実に描かれた作品とも言える。

公開は2023年1月20日より、東京はヒューマントラストシネ
マ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA他にて
全国順次ロードショウとなる。



2022年11月13日(日) 百年の夢、戦慄のリンク、ピエール・エテックス レトロスペクティブ 、餓鬼が笑う

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『百年の夢』“Obrazy starého sveta”
1972年に製作されたものの、共産党政権下では輸出が禁止さ
れ、16年後にようやくその禁が解かれて1992年には日本でも
公開されたというドキュメンタリー。その作品がディジタル
リマスターにより再公開されることになった。
取材の対象はスロヴァキア共和国、カルパチア山脈の東側に
位置するファトラ山地。そこには瘦せた土地にしがみ付くよ
うに暮らすいずれも高齢な人々がいた。そんな人々の暮らし
振りがモノクロの映像で綴られて行く。

脚本と監督は、1938年スロヴァキア生まれのドゥシャン・ハ
ナーク。プラハ芸術アカデミーで映画演出を学び、20作以上
の短編ドキュメンタリーを制作した後、1969年に発表した初
の長編作品 “322”がマンハイム国際映画祭でグランプリを
受賞。
しかしその後は、本作を含む多くの作品が当局によって上映
禁止とされた。だが解禁後にはそれらの作品が各国で上映さ
れ、本作は1988年ニヨン国際映画祭でグランプリを受賞する
など、数多くの賞に輝いている。そして現在はアカデミーで
教鞭をとるなど、活躍中のようだ。
内容は正直に言って重苦しいなど、国の体面を気にする共産
党政権下では都合の悪い真実が描かれたものと言える。でも
そこで老人たちが語る言葉には、哲学的なものもあり、示唆
に富んだものでもあって、現代の我々も耳を傾けるべきもの
のようにも聞こえるものだ。
とは言うものの、厳しい環境に暮らす割にはあっけらかんと
した感じのものもあって、その辺はバランスも考えて作られ
た作品のようにも見える。そして最後にはちょっと希望も見
えるような部分もあって、それは優れたドキュメンタリーと
いう感じの作品だった。

公開は12月3日より、東京は渋谷のシアター・イメージフォ
ーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
なお本編の上映時間が1992年の日本公開時と異なっているよ
うで、その点についてマスコミ資料にリマスター時のコマ数
変換によるものとあったが、その経緯の説明には少し疑問に
感じるところがある。
でもまあ内容に変更は生じないものなので、了解としたい。

『戦慄のリンク』“网络凶铃/網路凶鈴”
2007年3月紹介『ドリーム・クルーズ』などのJホラー監督
鶴田法男が中国に招かれ、10数年前にネットで話題になった
というマ・ボヨン原作のホラー小説を映画化した2020年本国
公開の作品。
女子大生の主人公は就寝直前に同級生でもある従姉から「ネ
ットで読んでいるホラー小説が怖い」という電話を受ける。
そして翌日大学の講義に現れない従姉を心配して下宿を訪ね
ると、そこには血まみれの遺体が転がっていた。
という導入部で始まる物語だが、背景にはネットで進行する
リレー小説があり、従姉もそのライターの1人だったがある
事情で中断していたという。ところがそれが突然再開され、
最終章でそっくりの事件が描かれていた。
しかし警察は自殺として事件を終わらせようとし、その対応
に疑問を持つ主人公は独自の捜査を開始する。そこにネット
で評判の犯罪心理学に詳しい大学の先輩なども絡み、主人公
らは事件の真相に迫って行くが…。

出演は、2016年7月紹介『西遊記』のさらに続編に出ていた
という女優/モデルのスン・イハンと、台湾出身で2017年の
金馬奨最優秀新人賞にノミネートされたフー・モンボー。他
にジョウ・ハオトン、シャオ・ハンらが脇を固めている。
また監督以外のスタッフでは、撮影を『曇天に笑う』などの
神田創、照明を『夜明けまでバス停で』などの丸山和志、音
響効果を『川っぺりムコリッタ』などの大河原将、編集を
『クライマーズ・ハイ』などの須永弘志、音楽をTVアニメ
「約束のネバーランド」などの小畑貴裕が担当している。
プレス資料の監督による製作日記にもあったが、試写の際の
監督の挨拶によると、中国では幽霊の出る映画はご法度との
こと。また事件は必ず警察が解決しなければならず、さらに
同性愛的な表現も禁止なのだそうだ。
そんなかなり制約の中での映画制作だったようだが、本編を
観ていると、その産みの苦しみみたいなものは良く判る作品
だった。ただしそんな中にJホラーへのオマージュみたいな
ところもあり、それなりには楽しめた。
でもまあ、監督には制約なしでのリメイクに挑戦してもらい
たい、そんな思いもしてくる作品だった。

公開は12月23日より、東京は新宿シネマカリテ他にて全国順
次ロードショウとなる。

ピエール・エテックス レトロスペクティブ
❶『恋する男』“Le Soupirant”+『破局』“Rupture”
❷『ヨーヨー』“Yoyo”
❸『健康でさえあれば』“Tant qu'on a la santé”
+『絶好調』“En pleine forme”
❹『大恋愛』“Le Grand Amour”
+『幸福な結婚記念日』“Heureux Anniversaire”
1953年『ぼくの伯父さんの休暇』などで知られるジャック・
タチ監督の盟友ともされるピエール・エテックスが1961年頃
から発表した長編4作品と短編3作品が特集上映される。
エテックスは1928年11月23日生まれ。幼い頃からチャップリ
ンやキートンなどの無声映画に夢中となり、サーカスやキャ
バレーの芸人として活動していたが、1953年のタチ監督作品
を観て感激、自らの芸への助言を求めて監督に会いに行き、
映画界に誘われたとのことだ。
そして1958年タチ監督の『ぼくの伯父さん』で映画界入り。
1961年にタチ監督の縁で脚本家ジャン=クロード・カリエー
ルと組んで短編『破局』を発表。1962年発表の初長編『恋す
る男』では、1953年のタチ作品以来となる喜劇映画でのルイ
・デリュック賞に輝いている。
という監督の特集上映だが、実は今回はスケジュールの都合
で❶の2作品を見逃してしまっており、その辺は少し申し訳
ないのだが、❷〜❹の作品で言うと、それは無声映画へのオ
マージュとサーカス芸への憧れに溢れていた。特に❷の作品
では、手袋をはめる逆転映写にニヤリとさせられた。
この他にも❸の『健康でさえあれば』はコント集のような感
じの作品だが、ドラキュラをモティーフにした夢と現実が入
り乱れた作品や、かなりシュールなタッチの作品も観られる
ものだ。実際には公開当時は好評ではなかったようだが、今
観ると理解の進む作品になっている。
さらに❹では、これはシュールと言うよりはファンタシーを
映像化しているもので、ある種の映画の本領とも言える作品
になっていた。無声映画へのオマージュであると同時に、後
の作品への影響も大きく感じられるものだ。正にレトロスペ
クティブという感じの作品かもしれない。

なおこれらの作品は、一時期は権利の関係で上映が全く不能
だったものだそうで、それをジャン=リュック・ゴダールや
デヴィッド・リンチ、ウディ・アレン、テリー・ギリアム、
ミシェル・ゴンドリーらの尽力によりエテックスの権利を回
復。監督の許での修復がなされたものだ。
公開は12月24日より、東京渋谷のシアター・イメージフォー
ラムにて、4週間限定の上映となる。

『餓鬼が笑う』
古美術商であり本作の製作も手掛ける大江戸康のオリジナル
脚本に基づき、2018年9月紹介『十年 Ten Years Japan』の
一編『PLAN75』の早川千絵監督などを輩出するENBUゼミナー
ル出身で、PFF アワード入選者でもある平波亘が脚本・監督
した作品。
本作は2022年8月開催の第44回モスクワ国際映画祭アウト・
オブ・コンペティション部門でも上映された。
主人公はフリーマーケットで骨董品を売る若者。そんな若者
が古本屋で1人の女性と出会い、彼女との関りの中で摩訶不
思議な物語が展開される。それは主人公を地獄にも誘い、さ
らにそこからの再生も描かれる。
ただし物語は比較的ストレートに進むのだが、それぞれのエ
ピソードの関連性が唐突で観ていて混乱が生じてしまう。ま
あ多分もっと壮大な物語のエッセンスという感じなのだが、
出来ればもう少し工夫が欲しかった感じかな。
でもそれがアヴァンギャルドと言うか、60年代のヌーヴェル
ヴァーグのような趣もあって、案外これが若い人に受けたら
良いなあという感じもしてしまう作品だった。いずれにして
も若さに溢れる作品ではあった。

出演は『鎌倉殿の13人』にも出ている田中俊介と山谷花純。
他に片岡礼子、柳絵理沙、川瀬陽太、川上なな実、田中泯、
萩原聖人らが脇を固めている。また劇中の骨董市に出てく
るバイヤーは製作者が呼んだ本物の人たちだそうだ。
公開は12月24日より、東京は新宿のK's cinema他にて全国順
次ロードショウとなる。
なおプレス資料の表紙で、タイトルは左からの横書きだが、
下段の惹句が右からの縦書きで、「幻想奇譚」の四文字熟語
もそれに倣っているのは気に入った。



2022年11月06日(日) 若者は山里をめざす、スクロール、仕掛人・藤枝梅安

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『若者は山里をめざす』
2016年2月紹介『無音の叫び声』などの原村政樹監督が、埼
玉県で消滅可能性都市No.1とされる東秩父村に近年移住した
若者たちを取材したドキュメンタリー。
所在地は名前の通り秩父の東側。地図で観ると埼玉県のほぼ
中央だが、深い山懐に抱かれ、正に自然の真っただ中という
感じの場所だ。東京の都心から60kmということだが、アクセ
スは電車とバスで80分だという。
60kmと言うと自分が生まれ育った平塚市がほぼ同じ距離だと
思うが、東京駅からJRで50分足らずだから、不便と言えば
不便なのだろう。特に鉄道1本で行けないというのは大きい
かもしれない。
そんな村に移住した若者で最初に登場するのは31歳の女性。
元々東秩父村の出身だった彼女は10代の頃には都会に憧れた
が、東京の大学では同級生に羨ましがられ、さらに消滅可能
性都市No.1とされたことに反発して村にUターンした。
そんな彼女は村の老人たちと積極的に話し合い、新たな村の
魅力を発見して村を再生させようと頑張っている。特に不便
かも知れないが豊かな暮らしぶりと、老人たちが孤独ではな
いということに惹かれるのだという。
次に登場するのは25歳の男性。元々旅好きだった彼は農村の
暮らしにも憧れていたが、勤め先でのパワハラなどから退職
を決意、東秩父村の地域おこし協力隊に応募して村にやって
きた。そんな彼は村の特産品に着目する。
他にユネスコの無形文化財にも指定されている村の伝統工芸
和紙作りを継承するため、職人の募集に応募して移住してき
た26歳の男性や、京都の芸術系の大学で和紙の技術を学んで
移住してきた23歳の女性など、様々な若者が描かれる。
題名からは五木寛之の小説、若しくはザ・フォーク・クルセ
ダーズの楽曲「青年は荒野をめざす」を思い出したが、監督
はその世代なのかな? いずれにしても都会生活に違和感を
持った若者が目指した先に山里があったという作品だ。
ただ展開としては理想論かな。もちろんここではこれが現実
なのだろうけど、別の場所でも同じに行くのかどうか。とは
いうものの、実は上映後に監督の挨拶があって、そこでは若
者にもっと村に来てもらいたいという言葉もあった。
つまりそのためのPR映画という側面もあるようが、それは
同時に村に住む老人たちにも、若者との付き合い方を教える
ノウハウ映画というような感じもしてきた。それらが上手く
行けば、きっとより良い村生活が実現するものだ。
それにしても村の特産品のノゴンボウ餅というのは一度食べ
てみたくなったものだ。

公開は2023年1月14日より、東京は新宿K's cinema、続いて
1月21日より埼玉県川越スカラ座他で全国順次ロードショウ
となる。

『スクロール』
1991年生まれで若者に強い影響力を持つという作家、橋爪駿
輝のデビュー作を、2019年9月22日題名紹介『MANRIKI』な
どの清水康彦の脚本監督、北村匠海、中川大志、松岡茉優、
古川琴音の共演で描いた作品。
いつも「死にたい、死んでしまいたい」とスマホのメモ帳に
書き込んでいる若者と、仕事も恋もいつも刹那的に生きてい
る若者。そんな2人が学生時代の同級生が自死したことで、
人生の新たな局面に向き合うことになる。
そんな若者に付き合いことになった2人の女性も、男性たち
の運命に巻き込まれて行く。物語の背景にはパワハラやセク
ハラなど、正しく現代社会の様々な側面が見え隠れする作品
だ。

上記以外の出演は水橋研二、莉子、三河悠冴、MEGUMI、金子
ノブアキ、忍成修吾、相田翔子らが脇を固めている。
オープニングはかなりの長回しで、横浜にある1946年開業の
ダンスホールが登場するなど、不思議な雰囲気が横溢する。
そしてラストでは大田区雪谷で1957年創業の銭湯が舞台にな
るなど、昭和レトロが満喫できる作品にもなっている。

撮影監督は宇多田ヒカルやあいみょん、米津玄師、King Gnu
などのミュージックヴィデオを手掛ける川上智之。映画の全
体がスタイリッシュとも言える見事な映像で綴りこまれてい
る。
そんな映像の中で物語は正に現代の若者が直面している現実
が描かれているのだろう。僕自身は最早そんな年代からはか
け離れた所にいるものだが、そんな僕にも共感はできる作品
には仕上げられていた。
清水監督は上記紹介作の後、昨年度には1997年『CUBE』
の公式に認められたリメイクなども手掛けており、かなり不
思議な雰囲気を描くことには長けている監督のようだ。そん
な監督がリアルに挑んだ作品とも言える。
そしてそこに川上撮影監督の映像が絡んで、正しく不思議、
且つリアルな映画が作り出された。新しい映像世界の誕生、
そんなことも予感させる作品だ。

公開は2023年2月より、ロードショウが予定されている。

『仕掛人・藤枝梅安㊀』
『仕掛人・藤枝梅安㊁』
原作者・池波正太郎の生誕 100周年を記念してその代表作と
も言えるシリーズが2部作で映画化された。実は第1作の試
写は先週観たものだが、2作纏めて紹介すべき作品と考え、
今週に先延ばしした。
江戸市中を少し離れた品川台町に居を構える鍼医者の梅安は
町人の治療も分け隔てなく、人望も厚い地元の名士だった。
しかし彼にはその表の顔とは背反する闇の仕掛人という裏の
稼業があった。
それは蔓と呼ばれる元締めからの指示を受けて、金子で人を
殺すというもの。しかも梅安の手口は本業の鍼を用いて証拠
を残さず、役人には自然死と納得させる巧妙なものだった。
そして2部作では江戸と京都での仕事が各々描かれる。
その1作目の江戸の話では、遊郭で繁盛店を切り盛りする女
将に纏わる話。第2作では、京の都を跋扈するやさぐれ集団
を相手に、梅安と相棒の彦次郎の仕事ぶりが描かれる。そし
てそれに併せて彼らの出自が語られるものだ。

出演は2作通してのレギュラー陣が豊川悦司、片岡愛之助、
菅野美穂、小野了、高畑淳子、小林薫。加えて第1作には早
乙女太一、柳葉敏郎、天海祐希。第2作には一ノ瀬颯、椎名
桔平、佐藤浩市が登場する。
監督は2006年『星になった少年』などの河毛俊作、脚本は同
作や、2009年8月紹介『風が強く吹いている』などの大森寿
美男が担当している。
原作は、映画では田宮二郎、緒形拳、萬屋錦之介、テレビで
は小林桂樹、渡辺謙、岸谷五朗など多くの映像化で知られ、
また人気シリーズ「必殺仕事人」の翻案元ともされるものだ
が、本作ではかなりダークな仕事ぶりに驚かされた。
それは原作でも、仕掛人は蔓を信頼して仕事の背景などは問
わないとされているようだが、本作の中でも梅安の殺しが必
ずしも正義に基づかないし、さらに非情さでも、いわゆる正
義のヒーローとは程遠い。
そんなダークヒーローの話ではあるが、梅安の心の底にはそ
の仕事への後悔もあるようで、そんな人間味も魅力というシ
リーズではあるのだろう。その人間味を豊川悦司は巧みに演
じている作品とも言えそうだ。
なお第1作のエンディングロール後には第2作への繋ぎの仕
掛も設けられるが、第2作のエンディングロール後は、別の
仕掛けとなっていたようだ。でも出来たら第3作も観てみた
い作品ではあった。

公開は第1作が2023年2月3日より、第2作は4月7日より
いずれも東京は新宿ピカデリーをメイン館として全国ロード
ショウとなる。


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井口健二