井口健二のOn the Production
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2022年12月25日(日) WORTH命の値段、うつろいの時をまとう、Single8

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『WORTH命の値段』“What Is Life Worth”
2016年公開『スポットライト』でカトリック教会の闇に挑む
ジャーナリストの姿を描いた製作陣が、同作にも出演してい
た2017年4月30日題名紹介『ファウンダー』などのマイクル
・キートンを主演に迎えて、9・11直後の米合衆国で遺族らの
救済に尽力した人たちを描いた実話に基づく2020年本国公開
のドラマ作品。
2001年9月11日、弁護士のケン・ファインバーグはワシント
ンD.C.にある事務所に出勤途中の車窓から惨事によって立ち
上る黒煙を目撃する。
それから10日後、司法省の委員会に召喚された弁護士は惨事
に巻き込まれた被害者やその遺族に対して補償を行う基金へ
の協力を要請される。それは膨大な訴訟によって国家経済を
揺るがしかねない事態を回避するための政治的な思惑も関る
「汚れ仕事」だった。
そんな仕事を弁護士は無償で引き受ける。そこには先にアス
ベスト被害の補償基金にも関った実績に基づく確固たる自信
があったのだが…。自らが確立した収入金額に基き補償額を
算定する公式は、7000人にも及ぶ対象者の前に脆くも崩れ去
る。しかも各自の状況がことを複雑にしていった。
そんな中で弁護士は如何にして対象者の90%を超える人々の
信頼と納得を勝ち取ったのか。そんな弁護士とそのスタッフ
たちの奮闘が描かれる。

共演は2012年7月紹介『ハンガーゲーム』などのスタンリー
・トゥッチと、2010年2月紹介『グリーン・ゾーン』などの
エイミー・ライアン。他に2018年2月18日題名紹介『さよな
ら僕のマンハッタン』などのテイト・ドノバン、2019年6月
紹介『ジョナサン』に出演のシュノリ・ラーマナータンらが
脇を固めている。
監督はニューヨーク大学大学院映画学科出身のサラ・コラン
ジェロ、弁護士ケネス・R・ファインバーグの著作に基づく
脚本は2017年2月紹介『キングコング髑髏島の巨神』などの
マックス・ボレンスタインが手掛けている。
先週に3・11に関る『生きる』を観たばかりで本作を観ている
と、日米の被災した国民に対する補償の在り方の違いを突き
付けられる感じがしてくる。もちろん被害の原因や対象者も
異なり、一概に比較できるものではないが、適当なバラマキ
行政ではない、被災との向き合い方が異なる感じがしてくる
ものだ。
とは言っても、日本では先週の作品以外では原発の補償問題
ぐらいしか訴訟には至らないのだが、その辺の国民性の違い
も含めて、日本人がもっと考えなければいけないことを教え
られているような気のする作品だった。

公開は2023年2月23日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他
にて全国ロードショウとなる。

『うつろいの時をまとう』
服飾ブランド「matohu」を展開するデザイナーの堀畑裕之と
関口真希子を追ったドキュメンタリー。
大学で哲学を学んだという堀畑と法律を学んだという関口。
そんな2人が文化服装学院で出会い、それぞれが企業のパタ
ンナーとしてパリコレなどにも関った後にブランドを設立。
そこでは単なるデザインだけではない衣装が作られる。
映画は、matohuが8年間に亙って展開してきた「日本の眼」
と称するコレクションと、その集大成とも呼ぶべき2020年に
開催された展覧会を中心に、2人のデザイナーの思想やそこ
に纏わる人々の思いなどが語られる構成となっている。
そこには各コレクションに付された「かさね」「無地の美」
「ふきよせ」「ほのか」「かざり」「なごり」などの言葉と
共に、服飾の原点にも迫るような、深い思想なども語られる
ものだ。
僕自身は正直に言ってファッションには全く興味がないもの
で、以前にもファッションに関るドキュメンタリーを観ては
いるが、それを評価する自信は持てなかった。しかし本作に
関しては、ファッションだけでない何かを感じた。
それは上記のコレクションに付された言葉にも表される日本
文化の本質に係るような気がして、観ていていろいろと考え
てしまうところもあったものだ。そしてそれが2人のデザイ
ナーの思想にも繋がっている。
正に理想的なドキュメンタリーのようにも感じられた。

監督は2018年12月23日題名紹介『がんになる前に知っておく
こと』などの三宅流。前作はインタヴューで綴るという構成
に少し物足りなさを感じたが、本作では各自がしっかりと語
ってくれるので納得できた。
そのインタヴューではデザイナー2人の他に、輪島塗塗師の
赤木明登、能楽師の津村禮次郎、俳人の大高翔がそれぞれ本
作のテーマに沿った発言をしている。それらもなかなか聞き
応えのあるものだった。
近年のグローバル化という言葉によって日本人が見失ってし
まったもの。そこには先人の作り上げてきたものや、日本の
自然風土に則してきたものがあった。そんなことも考えさせ
られる作品だった。

公開は2023年3月25日より、東京は渋谷のシアター・イメー
ジフォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。

『Single8』
2013年11月紹介『赤々煉恋』などの小中和哉監督が、自らの
原点でもある高校時代の8�弍撚萓�作を再現した青春ドラマ
作品。
1978年夏、世界中を熱狂させた『スター・ウォーズ』が1年
遅れで日本でも公開され、映画制作に興味を持つ高校生の主
人公は早速雑誌の記事を頼りに8�丱�メラで宇宙船の撮影に
挑戦する。
そんな主人公はホームルームで文化祭でのクラスの企画とし
て映画制作を提案するのだが、対抗馬のお化け屋敷に反対す
る女子の支援で企画が通ってしまう。しかもヒロイン役には
クラスのマドンナが出てくれることになり…。
大学の映画研究会に所属する写真屋の店員のアドヴァイスな
ども受けながら、高校生最後の夏休みの映画製作がスタート
する。そこには様々なトラブルも待ち受けていたが、いろい
ろなテクニックも駆使して映画制作が進められる。

出演は、2020年3月29日題名紹介『許された子どもたち』な
どの上村侑と、2021年『ベイビーわるきゅーれ』などの�眄�
あかり。他にホリプロ所属の男性ダンス&ボーカルユニット
WATWING の福澤希空と桑山隆太。
さらに小中監督ゆかりの川久保拓司、北岡龍貴、佐藤友祐、
1986年『星空のむこうの国』などの有森也実らが脇を固めて
いる。因に有森の出演シーンの撮影は、『星空』の時と同じ
監督の実家だそうだ。
上映後の挨拶でも監督は、2011年6月紹介『スーパー8』に
触発されたと語っていたが、本作ではSingle8 の特徴である
巻き戻しによるカメラ内合成なども再現されて、正に1978年
の日本の映画少年が描かれている。それはまだ家庭用ヴィデ
オカメラも普及する前の話だ。
そして劇中で撮影されている作品も、実は監督が高校時代に
撮った作品に沿ったものだそうで、元々は宇宙船のシーンだ
けを再現したいと思っていた少年が、ストーリー作りなどの
映画制作に目覚めて行く展開も実話に則しているようだ。
そんな訳で正に監督の自己オマージュという感じなのだが、
どうせならさらにそこから本編部分をファンタシーにもして
欲しかったかな。2011年作をまるで真似するのも気にしたの
かもしれないが、小中流のファンタシーも観たかった。

公開は2023年3月18日より、東京は渋谷のユーロスペース他
にて全国順次ロードショウとなる。



2022年12月18日(日) 生きる、二十歳の息子

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『生きる』
2011年3月11日発生の東日本大震災で被災した宮城県石巻市
立大川小学校。その被災児童の遺族が起こした裁判を巡り、
その結審と現在までを追ったドキュメンタリー。
教育機関では唯一と言われる多数(児童74名、教職員10名)の
被災者を出した大川小学校。しかし地震の発生から津波到達
まで51分間、なぜ彼らは安全な場所に避難しなかったのか。
その疑問が遺族たちを突き動かす。
そして幾度か開かれた行政による説明会。そこでも言が左右
されて肝心の疑問を解消するには至らない。こうして疑問を
究明するための最後の手段として裁判が始められる。そこに
は当然のように誹謗中傷も生じてくるが…。
我が子はなぜ津波に巻き込まれなければならなかったのか。
その思いだけが支えとなって、行政を訴えるという無謀かも
知れない裁判が続けられる。そこには我が子の死に値段を付
けるという過酷な現実も待っていた。

製作は、2018年11月紹介『描きたい、が止まらない』の松本
裕子、本編は製作者の第2作。監督は元テレビ朝日ディレク
ターで、2006年『シリーズ言論は大丈夫か〜ビラ配り逮捕と
公安〜』にてJCJ賞受賞の寺田和弘(初監督)。
東日本大震災関連のドキュメンタリーでは、震災後の半年も
経たないうちからかなりの本数を観た気がするが、その当時
からこれがいつまで語り継がれるのだろうか、という思いは
続いていた。
それがこんな形でここまで続いてしまうとは。正直に言って
もっと早くに検証はされるべきものだったと思うし、こんな
裁判になってしまうのは、遺族にとっても無念だったろう。
そんな思いは如実に伝わってきた。
思えば比較的早期に観たドキュメンタリーで、タイトルは忘
れたが数人のドキュメンタリストが取り敢えずカメラを持っ
て被災地に向かうというのがあって、最初は福島の原発被災
地を記録していたが、最後は大川小だった。
その時は前半は悪い意味で物見遊山的な作品だったものが、
最後に突然現実を突き付けられるような気分がしたものだ。
その現実が再び突き付けられた。そんな気持ちにもさせられ
てしまう作品だった。

公開は2023年2月18日より、東京は新宿K's cinema他で全国
順次ロードショウとなる。
追記:本稿で言及した先の作品は2012年1月紹介『311』
それから11年を経て、ようやく結論に達したものだった。


『二十歳の息子』
2020年1月26日題名紹介『春を告げる町』などの島田隆一監
督が、児童養護施設等から社会に巣立つ若者らが抱える問題
などを描いたドキュメンタリー。
中心で描かれるのは彼らを支援するための NPO法人に勤める
男性。その男性が罪を犯した1人の若者を支援するため、彼
と養子縁組をして一緒に暮らすことを考える。そして準備を
して出所する若者を迎えに行くが…。
実は中心で描かれる人物はトランスジェンダーで、若者はそ
うではない。そんなこともあって単純な同居ではない、養子
縁組という手段を取ったのかもしれない。だがその辺から曖
昧で何か観ていて引っ掛かるところが多かった。
それでもまあ、男性は2人の関係を自分の両親に紹介したり
して行くのだが、元々息子のカミングアウトも認めている親
だからその辺はすんなりと受け入れられたのかな? でも妹
の発言などが、やはり少し引っ掛かってしまった。
つまり全体として描き切れていない感じで、描くべきことは
多々あるのにその辺が歯痒いというか、理解に苦しむ感じの
作品だった。もちろん男性がやっていることは素晴らしいも
のだし、それを描くだけで良いことではあるのだが。
しかも結末が、何というか全く結論になっていないもので、
観客は何を訴えられたのかも理解に苦しむ。実は映像がノー
マスクで、つまりコロナ以前に撮影されたもののようだが、
それから3年近く経つのに結論が得られていない。
つくづく難しい問題なのだろうという実感は残るが、一過性
の観客にも理解できるような、何らかの問題提起的なものは
欲しい感じがした。取り敢えず彼らの苦しみは理解したいと
思うが、問題の本質は何処なのか。
上映時間86分で描くには、あまりに大き過ぎるテーマだった
のかもしれない。この結末で終わらせず、もっとその後も追
いかけて描き尽くすべきものだったのだろう。改めて監督に
はそこを期待したい。

公開は2023年2月より、東京はポレポレ東中野他で全国順次
ロードショウとなる。



2022年12月11日(日) 少女は卒業しない、有り触れた未来、彼岸のふたり

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『少女は卒業しない』
2012年『桐島、部活やめるってよ』などの朝井リョウ原作の
映画化。この前作の公開年に『何者』という作品で直木賞を
受賞した原作者は青春小説の名手とも呼ばれているそうで、
本作の原作はその年に刊行されたものだ。
実は2012年の映画に関しては試写は観たもののここでの紹介
はしなかった。その理由は多分、年代的に半世紀も離れて、
僕がその時代の高校生を理解できなかったことに起因してい
たのだと思う。
その点に関して本作は卒業がテーマであり、理解の点では問
題はなかったかな。そんな中で4つの物語が着かず離れずの
展開で並行して進行し、最後にある事象によって纏まる構成
は、それなりに巧みに感じられるものだった。
とは言うものの、最後を盛り上げるための仕掛けとは言え、
この展開はあり得るのかな。もしこれが現実に行われたら、
あまりに無神経と言わざるを得ない。この無神経さが現代的
と言われればその通りなのかもしれないが。
僕にはその点が許せない気がしたが、実際に昨今のニュース
にもこのような無神経さは多々あるような気がして…。こん
なことが SNSの暴走などにも繋がっていると思うのは、考え
過ぎなのかな。
そんな訳では僕にはちょっと過激と思う結末の作品だった。

脚本と監督は、2016年の短編作品『カランコエの花』がレイ
ンボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭のグ
ランプリを受賞したという中川駿。本作は監督の初商業映画
作品となる。
出演は、2019年デビューでキネマ旬報ベストテン新人女優賞
など新人賞を総なめにした河合優美。2017年デビューで大河
『晴天を衝け』などの小野莉奈。2020年ソフトバンクCMで
しずかちゃん役の小宮山莉渚。「ミスiD2019」グランプリ受
賞の中井友望。
その相手役を2018年『泣き虫しょったんの奇跡』などの窪塚
愛流、2020年3月1日題名紹介『#ハンド全力』などの佐藤
緋美、2022年『仮面ライダーリバイス』などの宇佐卓真、そ
れに2019年11月24日題名紹介 『his』などの藤原季節らが務
めている。
公開は2023年2月23日より、東京は新宿シネマカリテ、渋谷
シネクイント他にて全国ロードショウとなる。
いろいろあるけどこれが現代の青春ということなのだろう。

『有り、触れた、未来』
2008年8月紹介『キズモモ』などの山本透監督が、総勢22人
の若手俳優らによるプロデューサーチーム【UNCHAIN10+1】
と共に企画、資金集めから手作りで作り上げた作品で、現代
に生きることをテーマとした群像ドラマ。
1人目の主人公は交通事故でバンド仲間だった交際相手を亡
くした女性。形見分けでギターとパソコンを受け取ったが、
未だに開くこともできずにいる。そんな彼女は新たな恋人と
の結婚を進めていたが…。
2人目の主人公は10年前の自然災害で祖父と母親と兄を亡く
した女子中学生。その時から腑抜けのようになった父親との
暮らしに耐えられなくなっている。そんな彼女は祖母と親友
の女子と担任教師に支えられてきたが…。
さらに将来に不安を抱えながら「魂の物語」に挑む若い演劇
人たち。そして30歳を過ぎてもプロボクサーの道を諦めきれ
ない男性や、娘の結婚式に出ることを目標に末期癌と闘う女
性など、様々な生と向き合う人々が描かれる。

出演は桜庭ななみ、碧山さえ、北村有起哉、手塚理美。他に
鶴丸愛莉、舞木ひと美、高品雄基、松浦慎一郎。さらに麻生
久美子、萩原聖人、原日出子、仙道敦子、杉本哲太らが脇を
固めている。
10年前の自然災害とは東日本大震災のことだが、映画はあえ
てそれを前面に出すのではなく、しかし重要なテーマとして
巧みにそこに横たわる問題を描き出して行くものだ。それが
直接の被災者ではない我々の心にも響き渡る。
それは特に手塚理美が演じる祖母の台詞に集約して描かれる
が、それだけではないより多くの人々の心を奮い立たせる、
そんなメッセージが込められたものになっている。そしてそ
れらが重層して描かれる結末。
ここではバンドの演奏、舞台での演技者たちの台詞回し、そ
して和太鼓の響きなどが重なって、その映像効果や音響効果
が正に映画の醍醐味とも言える感動の渦に観客を引き込んで
くれる。これぞ映画という感じの感動だった。
なお本作は、齋藤幸男著「生かされて生きる―震災を語り継
ぐ」という書籍を原案としているものだ。また題名はWミー
ニングのように取れるが、検索すると「ありふれた」の漢字
表記はこれだそうで、正に「有り、触れた、」物語なのだ。

公開は2023年3月3日から宮城県で先行上映の後、3月10日
より全国ロードショウとなる。
現代に暮らす人の心に響くこの映画を、ぜひ多くの人に観て
貰いたい。

『彼岸のふたり』
大阪府出身で早稲田大学卒。在学中に映画デビューも果たし
たという俳優の北口ユースケが、大阪府堺市を舞台に室町時
代に当地に実在した遊女「地獄大夫」をモティーフに描いた
幼児虐待をテーマとした初監督作品。
大阪で幼児虐待と言うと、2019年10月27日付[JAPAN CONTENT
SHOWCASE]で紹介『ひとくず』を思い出すが、本作は虐待そ
のものではなく、その後のトラウマとも言える母子の関係が
描かれる。
そこでは毒親をようやく逃れて施設で育ち、成人した女性が
再び訪ねてきた母親の毒牙にかかる。それはおそらくこれが
毒親の現実だろうと思わせるものだ。そんな中で事態はどん
どんエスカレートして行くが…。
映画では主人公の前に現れるイマジナリーフレンドのような
存在が主人公の心象を代弁し、主人公の葛藤なども判り易く
提示される。まあここまでしなくてもいいかなとは思うが、
この辺は監督の親切心なのだろう。
ただし、映画の結末に関しては賛否の両論が分かれそうだ。
それはそこまでの流れからこれはないととも言える展開で、
これには納得できないという声も多く聞こえてきそうな感じ
もしてくる。
上記の親切心のある監督からすれば、もっと明確に結末は描
くべきようにも感じる。でもそれはどう描くべきか、テーマ
の深刻さから考えてそれがどのような結末であっても万人の
納得は得られないかもしれない。
そこで明確に描き切らないことで余韻を残す、観客の解釈に
委ねることがベストと監督は判断したのかもしれない。観客
の胸の中にもやもやを残すことが監督の狙いと考えたくなる
作品だった。

出演は、本作の企画制作も行ったOSK出身の桜あかりが主
宰するSAKURA entertainment所属の朝比奈めいりと、2008年
『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』で永田洋子役の並木
愛枝。
他に2009年2月紹介『鴨川ホルモー』などに出演のドヰタイ
ジ、関西中心で活動するダンス&ヴォーカルユニットYES!に
所属の寺浦麻貴、子役で2018年11月18日題名紹介『あの日の
オルガン』などに出演の徳網ゆうならが脇を固めている。
公開は、大阪ではすでに先行で行われており、東京は2023年
2月4日より池袋シネマ・ロサ他にて全国順次ロードショウ
となる。



2022年12月04日(日) 世界は僕らに気づかない、小さき麦の花、レジェンド&バタフライ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『世界は僕らに気づかない/Angry Son』
群馬県太田市を舞台にジャッピーノと呼ばれるフィリピン人
2世の暮らしぶりを描いて、2022年大阪アジアン映画祭コン
ペティション部門「来るべき才能賞」受賞を始め、ドイツ、
韓国、アメリカ、香港、オランダなど各地の映画祭での上映
も続いている作品。
主人公は日本生まれ日本育ちの高校生だが、母親はフィリピ
ンパブで働くフィリピン人で彼の国籍もフィリピンになって
いる。そして彼は父親を知らないが、彼宛てには毎月一定額
の養育費が振り込まれているようだ。
そんな主人公はトランスジェンダーで、幼い頃からの恋人に
は市の認めるパートナーシップの申請を求められているが、
自身の生い立ち考えて踏み出せずにいる。そんな時、母親が
再婚を言い出し、知らぬ男性が家に入ってくる。
この状況に主人公は家を飛び出し、本当の父親を捜し始める
が…。その探索行の中での様々な人との出会いが彼自身を見
つめ直し成長させて行く。社会的に大きなテーマの作品では
あるが、若者の成長を描く普遍的な作品でもある。

出演は、2021年『東京リベンジャーズ』などの堀家一希と、
スコットランドとフィリピンのハーフで1998年『ウルトラマ
ンガイア』などの(マリア・テレサ・)ガウ。他に篠原雅史、
村山朋果、岩谷健司らが脇を固めている。
脚本と監督は、2011年『僕らの未来』という作品がぴあフィ
ルムフェスティバルで審査員特別賞を受賞。同作がバンクー
バー国際映画祭など海外の映画祭でも上映されたという飯塚
花笑。商業映画は2作目のようだ。
本作は自身がトランスジェンダーだと言う監督の実体験にも
基づく作品だそうで、幼い頃のいじめや様々な差別の問題も
描かれている。ただしそれをことさら深刻ぶるのではなく、
ユーモアも交えて描いているのも巧みに感じられた。

近年この種の差別を描く作品が増えているようにも感じる。
その一方で SNSなどによる差別に絡む誹謗中傷も絶えない訳
で、それを訴え続けることに疲弊してしまう感じも持つが、
これを続けることしか方法はないのだろう。
その意味でも出来るだけ多くの人に観て貰いたい作品だ。こ
れが映画のあるべき姿とも言える。世界の映画祭が認める若
き才能に刮目せよ。
公開は2023年1月13日より、東京は新宿シネマカリテ、渋谷
Bunkamura ル・シネマ他にて全国ロードショウとなる。
なお劇中、主人公の部屋の壁にTHESPAの応援グッズが貼られ
ていたのも気になった。

『小さき麦の花』“隐入尘烟/隠入塵煙”
2014年11月2日東京国際映画祭《コンペティション部門》で
紹介『遥かなる家』(日本公開題名:僕たちの家に帰ろう)な
どのリー・ルイジュン監督による2022年ベルリン国際映画祭
コンペティション部門正式出品作品。因に2014年の作品は、
僕的には映画祭の芸術貢献賞を授けるべきと考えたものだ。
本作の舞台は2011年中国西北地方の農村。その村で農業を営
む主人公は4人兄弟の末弟だったが、上の兄2人は亡くなり
三男の家で暮らしている。しかし三男の子供の婚約が進み、
主人公の同居が問題となる。
そこで主人公には少し障害を持つ近所の女性があてがわれ、
本人たちの意思は斟酌されずに2人は夫婦となる。こうして
村社会のはみ出し者だった2人の夫婦生活が始まるが、主人
公には村の雑用のような仕事も押し付けられる。
そんな中で主人公の血液型が稀少なRh−と判明し、村の実力
者の健康に必需となる。とは言え2人の生活が変わるもので
もなく、そんな2人の暮らしぶりを家族同然の1頭のロバが
見つめている。

出演は主人公を含むほとんどの配役を撮影地の村人が演じて
おり、その中には監督の家族も含まれているようだ。ただし
主人公の妻だけは、2011年11月紹介チェン・カイコー監督の
『運命の子』などに出演の俳優ハイ・チンが演じている。
物語は淡々として特にドラマティックな展開がある訳でもな
いが、監督の故郷という中国甘粛省張掖市花牆子で10ヶ月を
かけて撮影された自然と季節の移ろいは、観る者に自らの原
点に還らされるような厳粛な感覚をもたらしてくれる。
そんな映像で描かれる2人の生活は貧しいし、幸せそうでも
ないが、2人の間では満足し、充実していたのかな。それが
幸せと呼べるのかな、そんな感覚にもさせてくれる作品だっ
た。

なお本作は中国では2022年7月8日に公開されたものだが、
封切りから約2ヶ月が過ぎた9月初旬に突然日別興行成績の
トップに躍り出たそうだ。その背景には SNSなどでの高評価
があるようだが、いわゆる芸術映画では稀とのこと。
それは中国で都会に暮らす若者が大いなる関心を寄せた結果
と言われているようだ。国情は違うけれど日本の若者にも、
同じような関心は呼びそうだ。
日本での公開は2023年2月10日より、東京はYEBISU GARDEN
CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国順次
ロードショウとなる。

『レジェンド&バタフライ』
11月6日に行われた「ぎふ信長まつり」で観覧者40万人を超
えるプロモーションを行った木村拓哉が相手役に綾瀬はるか
を迎え、織田信長と濃姫の運命を描いた戦国歴史絵巻。
世は戦乱の西暦1549年、美濃の斎藤道三と尾張の織田信秀は
和議を結び、織田家の嫡男信長の許に道三の娘が正室として
嫁いでくる。しかし「大うつけ」とまで言われる信長と「マ
ムシの娘」と呼ばれる男勝りの道三の娘は最初からぶつかり
合う有り様だった。
そんな2人が少しずつ間を狭め、清州城から岐阜城、そして
上洛、さらに安土城へと昇りつめて行く。その間には桶狭間
の戦い、金ヶ崎・姉川の戦い、比叡山延暦寺の焼き討ち、長
篠・設楽原の戦いなどが繰り広げられる。その果てに本能寺
の変が待ち構える。
という歴史を準って行く物語だが、実は斎藤道三の娘濃姫に
関しては、信長の正室であることは確かだが、その他の記録
がほとんど残されていないのだそうで、そこに本作のような
フィクションを持ち込むことに制限がなかったようだ。そこ
に本作では飛び切りのロマンが盛り込まれた。
そこにはある種のファンタシーとさえも言えるような素敵な
物語が展開されている。そこではもちろん歴史上の事実は動
かせないが、その最期の瞬間に向って行く様が、見事なドラ
マに昇華されている作品でもあった。虚実の絡み合いが見事
に機能している物語だ。

脚本は『ALWAYS三丁目の夕日』などの古沢良太。監督は『る
ろうに剣心』などの大友啓史。撮影は東映京都撮影所。何で
も木村が2014年TVドラマ『宮本武蔵』を主演で撮った際に
「次は信長で、ここに戻ってきたい」と言い置いたそうで、
そんな思いのこもった撮影になっている。
共演者には伊藤英明、中谷美紀。そして宮沢氷魚、市川染五
郎、音尾琢真、斎藤工、北大路欣也。さらに尾美としのり、
本田博太郎、橋本じゅんらが脇を固めている。
公開は2023年1月27日より全国ロードショウとなる。
上映時間は2時間48分。なお本作試写会は封切りまで全13回
が予定されているが、上映は通常の試写室ではなく、すべて
丸の内TOEI�,梁腑好�リーンで行われているもので、本作は
それに耐えうる作品であり、本作に賭けるその思いも伝わっ
てくるものだった。
因に岐阜城には、長良川競技場にJリーグの応援で行った際
に何度か登っているが、本作ではその往時の姿が再現されて
いるのも興味深かった。


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井口健二