井口健二のOn the Production
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2022年04月24日(日) 劇場版おいしい給食🌸卒業🌸、映画はアリスから始まった(モガディシュ、シェイン、私のはなし、オフィサー、わたし達は)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『劇場版おいしい給食🌸卒業🌸』
2019年にテレビ神奈川その他で全10話がシリーズ放送され、
その結末としての2019年12月29日題名紹介『Final Battle』
が2020年に公開。さらに2021年に同じ体裁で 『Season2』が
放送されての完結篇。
前任校の給食廃止に伴い転任した給食好きの教師と、親の都
合で同じ学校に転校してきた生徒とのバトルが再開され、生
徒の卒業によって最後の対決の時を迎える。しかしその最後
の1週間に大事件が勃発する。

出演はテレビ、劇場版を通して市原隼人と佐藤大志、それに
いとうまい子。さらに前作劇場版に引き続きの直江喜一。そ
して本作では 『Season2』の土村芳、酒井敏也、木野花、勇
翔(BOYS AND MEN)。これに登坂淳一と、田村侑久(BOYS AND
MEN)が加わる。因にボイメンは前作とで4人が登場した。
物語は、教師が語る給食への蘊蓄と、それを生徒が如何に工
夫して豪華に食すかの戦いを描くが、ここに劇場版では前作
と同様に教師+生徒と給食センター=教育委員会との確執が
影を落とす。さらに本作では教師間の恋話も色を添える。
そして本作では、進路指導を巡って生徒の大いなる野望が明
らかにされる。それにしても生徒・神野ゴウ役の佐藤大志が
大きくなったこと。最初のシリーズではまだ子供っぽかった
が、立派な若者になっているのには嬉しくなった。
ただテレビからずっと観て来た身からすると、給食の部分が
ちょっと物足りないかな。とは言え劇場版にはいろいろ人間
模様もあるし、これは仕方ない面もある。でもそれなら野良
犬との別れはこちらに入れて欲しかった気もするが…。

企画・脚本は前作と同じく永森裕二。監督も前作と同じ綾部
真弥が担当した。
公開は5月13日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国ロー
ドショウされる。

『映画はアリスから始まった』
 “Be Natural: The Untold Story of Alice Guy-Blaché”
1896年に史上初の劇映画“La Fée aux choux”(キャベツ畑
の妖精)を制作したとされるフランス人女性監督アリス・ギ
イの生涯を描いた2018年米国製作のドキュメンタリー。
1873年にパリ郊外で資産家の家庭に生まれたアリスは、父親
を亡くして21歳の時に後のゴーモン社となる写真機材商社に
秘書として就職。そして1895年3月に行われたリュミエール
兄弟による史上初の映画の上映に立ち会う。
ここで上映された作品は単純に事物の動きを記録しただけの
ものだったが、それを観たアリスは物語を描けると直感、上
司に掛け合って業務に支障が出ない範囲という条件付きで映
画の製作を認められる。
こうしてアリスは映画制作を開始、フランスとアメリカを股
に掛けて、生涯で1000本以上とも云われる作品を制作した。
その中には、手書き彩色によるカラー作品や、蝋管蓄音機と
同期させたサウンド映画。後者はそのメカニズムを記録した
映像も登場する。
さらにはオール黒人キャストの作品や、男女の役割が入れ替
わった世界を描く社会派的な作品など、映画の技術の進歩や
文化性の発展にも寄与する多彩な作品を残している。しかし
時の流れの中でその業績は忘れられ、フィルムの多くも失わ
れて歴史の闇に沈んでいった。

そんな映画の先駆者の業績を再検証する作品だ。
僕が知識として持っていた史上初の劇映画は、1898年ジョル
ジュ・メリエス監督の“La lune à un mètre”。この作品は
現在 web上でも観られるが、それなりの起承転結もあって劇
映画として認識できる。
これに対して本編にも引用されている上記のギイの作品は、
ゴーモンのカタログでは1900年製作とされているもので、内
容も物語の一部を切り取ったようなもの。これを劇映画とす
るには少し覚束ないものだった。
実際にこのような物語の断片程度の作品は、メリエス監督の
1896年のフィルモグラフィにも散見される。
ところが上記の作品を web上で観ていたら、続けて“La fée
aux choux Sage femme de première classe”という作品が
出てきて、これには1896-ALICE GUYと銘打たれている。しか
もこの作品では、登場したカップルがキャベツ畑の赤ちゃん
を手にするまでの物語が描かれていた。
従ってこの作品を以ってアリス・ギイを史上初の劇映画監督
と認定することは可能だが、この辺の経緯が本作の中では少
し曖昧なのは気になった。というか本作の全体が監督の生涯
より、その証拠を発見する旅を描くのに注力されているよう
で、その点も気になったものだ。
勿論それは新たな発見の度に感動があったりもして、それが
観客の興味を引っ張るように作られてはいるが、僕はもっと
資料を整理して、アリス・ギイ本人の業績を明確にする作品
が観たかった。
とは言え、本作の中でもセルゲイ・エイゼンシュテインから
アルフレッド・ヒッチコック、マーティン・スコセッシに至
る映画人がアリス・ギイの影響を受けたとする文献や証言も
登場して彼女の偉大さが証明される。その点は納得した。

監督はパメラ・B・グリーン。ニューヨーク出身で映像会社
を創設し、長編映画のタイトルやミュージック・ヴィデオ、
コマーシャルなどを手掛けて来ての長編デビュー作だ。
ナレーションをジョディ・フォスターが担当。他にもアニエ
ス・ヴァルダ、ピーター・ボグダノヴィッチ、ジュリー・デ
ルピー、ジーナ・デイヴィス、ベン・キングズレーら錚々た
る顔ぶれが登場して彼女の偉大さを語っている。
公開は7月22日より、東京はUPLINK吉祥寺他で全国順次公開
となる。


この週は他に
『モガディシュ 脱出までの14日間』“모가디슈”
(1990年、ソマリアでの内乱に巻き込まれた外交官を描き、
2021年度韓国映画�癸吋劵奪箸魑�録したという作品。1988年
ソウル五輪の成功で勢いに乗る韓国政府は国連加盟を目指し
てアフリカでロビー活動を進めていた。そのさ中に内乱が勃
発、首都モガディシュも民衆の蜂起に見舞われ、外交特権も
無視する暴徒が各国の大使館にも襲い掛かる。そして大韓民
国大使館には、朝鮮人民共和国の大使館員らが逃げ込んでく
る。物語は事実に基づくとあるが…、いやはや。本作が文在
寅政権の意向に沿うものであったことは間違いないところだ
ろう。そういう作品が�癸韻離劵奪箸砲覆襪箸いΔ里眄┐い�
とだ。
監督は2011年2月紹介『生き残るための3つの取引』
などのリュ・スンワン。出演者には2018年7月紹介『1987、
ある闘いの真実』などのキム・ユンソクや、2010年10月紹介
『黒く濁る村』などのホ・ジュノらが名を連ねている。公開
は7月1日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショ
ウ。)

『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』
  “Crock of Gold: A Few Rounds with Shane MacGowan”
(アイルランド伝統のケルト音楽にパンクロックを組み合わ
せたアイリッシュ・パンクを創造し、1987年にイギリスで最
も愛されたクリスマスソングとされる『ニューヨークの夢』
を発表したバンド、ザ・ポーグスのフロントマンで、作詞・
作曲も手掛けるシェイン・マガウアンに焦点を当てた2020年
本国公開のドキュメンタリー。彼と30年来の付き合いという
ジョニー・デップが製作とインタヴュアーも務め、イギリス
でミュージックヴィデオや数多くの音楽ドキュメンタリーを
発表しているジュリアン・テンプルが脚本監督を担当した。
5歳の時から飲酒と喫煙を始め、学生時代からはドラッグに
溺れたというシェインは、60歳の誕生日をダブリンのホール
でデップを含む数多くのミュージシャンに祝われるが、その
舞台には車椅子での登場だった。そしてインタヴューもグラ
ス片手の泥酔状態で行われており、正に破滅型のアーチスト
という感じの描き方だ。でもそこに愛情がたっぷり込められ
ているのは、製作者の意図がはっきり表れた作品と言える。

公開は6月3日より、東京は渋谷 CINE QUINTO他で全国順次
公開。)

『私のはなし 部落のはなし』
(2007年、大阪芸術大学の在学中に撮った『にくのひと』と
いう作品が各地での自主上映会を経て劇場公開が決まったも
のの、解放同盟の反対運動で公開断念をせざるを得なかった
という過去を持つ満若勇咲監督が、2020年2月9日題名紹介
『ムヒカ世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』などの
製作者大島新の許で再度被差別部落の問題に挑んだ上映時間
205分のドキュメンタリー。僕自身は、大正生まれの両親が
共に滋賀県生まれだったりした関係で、以前から部落問題に
はそれなりに関心があった。そんな眼で本作を観ていると、
こういう差別は実際に有ったのだろうなあと如実に感じさせ
てくれる作品だった。ただそれが僕より若い、そして関心も
薄い人たちにはっきりと伝わるかどうか。特に本作でも取り
上げられる鳥取ループ問題に関しては、なぜそれが問題なの
かという本質の部分が曖昧にされている感じで、監督の意図
が掴み切れなかった。正直に言ってしまえば、この本質を描
くと差別を助長することになりかねない。そんな思いが描く
ことを躊躇させた、そんなことも考えてしまった。本当に難
しい問題だ。ただ作品中に登場する『東九条』という映画に
関しては是非とも全編が観たいという気持ちになった。本作
の
公開は5月21日より、東京はユーロスペース、大阪は第七
藝術劇場他で全国順次公開。)

『オフィサー・アンド・スパイ』“J'accuse”
(2011年7月紹介『ゴーストライター』などのロマン・ポラ
ンスキー監督が、2019年第76回ベネツィア国際映画祭で銀獅
子賞を受賞。翌年のセザール賞では監督、脚色、衣裳の3部
門に輝いたフランス史に残る冤罪事件を描いた作品。時代は
1894年。ユダヤ系のドレフュス陸軍大尉はドイツに軍事機密
を流した疑いで軍法会議に掛けられ、反逆罪で終身刑となっ
て仏領ギアナの悪魔島に送られる。ところが大尉の元教官で
もあったピカール中佐が防諜のトップに就任。中佐は有罪の
決め手となった証拠が偽造であったことに気づく。そこで軍
法会議の再審査を要求するが、国家的なスキャンダルとなる
ことを怖れる上層部と、反ユダヤ勢力がその妨害を始める。
この事態に中佐は当時の人気作家のエミール・ゾラも巻き込
むキャンペーンを繰り広げるが…。原作と脚本は『ゴースト
ライター』でも組んだロバート・ハリス。同作の完成直後か
ら監督と共に企画を進めたがなかなか実現せず。先に小説と
して発表後に映画化に漕ぎ着けたということだ。なお大尉が
収監される悪魔島は、1973年と2017年にリメイクもされた映
画『パピヨン』の舞台でもある。
出演はジャン・デュジャル
ダンとルイ・ガレル。他にエマニュエル・セニエ、マチュー
・アルマリックらが脇を固めている。公開は6月3日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『わたし達はおとな』
(18歳でイタリアに渡って映画と演劇を学び、帰国後23歳で
三越劇場作演出家の最年少記録を樹立。その後はテレビでい
くつもの話題作を演出し、2021年には市川森一脚本賞を20代
で初受賞した加藤拓也の映画デビュー作。主人公は大学でデ
ザインを学ぶ女子学生。彼女は演劇サークルに所属する恋人
とメゾネット型のマンションで同棲中だが、妊娠が判明した
とき彼女はその父親が恋人と決め切れなかった。しかも事実
を告げられた恋人は…。まあ今の時代にはやたらとありそう
なお話かな。そんなあまり新鮮味は感じられない展開だが、
それを若者らしいリアリティで描いている点が評価の対象と
いう感じの作品だ。ただこのリアリティが、演技者が若いと
稚拙感にも見えてしまって、題名の「おとな」とは裏腹な感
じになってしまった。それに物語の展開によって画面のサイ
ズを変えるというテクニックも小賢しくて、却って作品を損
ねている感じがした。画面サイズの変更では、2015年3月紹
介グザヴィエ・ドラン監督の『Mommy マミー』が感動だった
が、本作にはそれ程の意味合いが感じられなかった。
出演は
木竜麻生、藤原季節。他に菅野莉央、清水くるみ、森田想、
桜田通ら期待の若手が勢ぞろい。さらに石田ひかり、佐戸井
けん太らが脇を固めている。公開は6月10日より、東京は新
宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2022年04月17日(日) 歩いて見た世界、マイスモールランド、ゴースト・フリート、ツユクサ、FLEE、エリザベス

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』
     “Nomad: In the Footsteps of Bruce Chatwin”
2017年8月紹介『問いかける焦土』などのヴェルナー・ヘル
ツォーク監督が、1989年に亡くなった旅する作家について描
いた2019年本国公開の作品。
ドイツ出身の監督とイギリス生まれの作家は1983年にオース
トラリアで出会い、共にアボリジニの文化に惹かれた2人は
親交を結ぶ。そして1987年には原作の映画化も行うが…。
本作は作家の生涯を追ったものではあるが、伝記映画ではな
いと監督自身も発言している。それは作家の幼少期の思い出
から作家の道を歩む姿も描くが、それよりも中心に置かれる
のは、監督の作家に対する想いであり、それが本作の制作を
作家の没後30年まで躊躇させた理由だろう。そして描かれた
作品には、作家への愛情がたっぷりと込められていた。
そのことは、全8章に章立てされた映画の第6章「リュック
サック」に端的に表れている。ここでは作家の遺品そのもの
よりも、没後にオマージュとして制作された映画『彼方へ』
の撮影中に監督の命が救われたエピソードが語られ、それは
監督の作家への想いに他ならないのだ。それが微笑ましくも
あり、そんな監督の想いの詰まった作品になっている。

僕は作家についてはあまり知らなかったが、監督の作品はい
ろいろ観てきた中で、本作は監督の本心を知ることのできる
貴重な作品にも思えた。そしてそれは観る者の心をも温める
愛情に溢れた作品だった。作者のファンも監督のファンも、
その想いに共感できる作品だ。
ただし、実はこの試写を観ていて少し気になる点があった。
それは移動の映像などで画面にピクピクと揺れが生じていた
のだ。これはセミプロの作品では時たま見掛ける現象だが、
ディジタルで撮影時と上映時のフレーム数が不一致だと生じ
る。つまり劇場用の毎秒24フレームとテレビ用の30フレーム
との不一致で生じてしまうものなのだ。
そこで本作の来歴を調べると、製作はイギリスのBBC、欧
州での公開はBBCに次いでフランス、ドイツはアルテとい
うテレビ局中心で行われている。従って本来はテレビ用の作
品と言える。それが試写会では劇場用の設定で上映されてし
まったのか。あるいはその逆か。いずれにしても一般公開で
これは解消して欲しいと願うものだ。

公開は6月4日から7月29日まで、最終日を以って閉館する
東京神保町の岩波ホールにてロードショウされる。
実は同ホールも僕には思い出深い場所なので、出来たらこの
ラストショウも観に行きたいものだ。

『マイスモールランド』
是枝裕和監督主宰の映像制作者集団「分福」に所属する川和
田恵真監督が、在日クルド難民の少女を描いた映画デビュー
作。本作は2022年2月に開催の第72回ベルリン国際映画祭で
ジェネレーション部門に選出され、アムネスティ国際映画賞
スペシャルメンションに輝いた。
在日クルド難民の問題は他のドキュメンタリー映画などでも
見聞しているが、その実態はトルコ政府との友好を保ちたい
日本外務省と経済界の意向がクルド民族の難民認定すら阻害
しているものだ。そこには人権より経済優先の日本政府のや
り口が見えてくる。
しかし映画はそんなことは特記せず、あくまで少女の目線で
難民というか在留特別許可者の不安と現状をリアルに描いて
行く。そこには日本人の若者との恋話などもあるが、本質は
日本国憲法が謳う移動の自由も認められない、安寧に暮らす
僕らには考えも及ばない過酷な現実を描いている。
全くもって恐ろしい現実。クルド難民を苦しめる出入国管理
及び難民認定法にはさらに過酷な改訂が進められているとの
ことで、この映画を観て1人でもこの問題に関心を持つ人が
増えてくれたら…、そんなことも考えてしまう作品だった。

出演は、雑誌ViViの専属モデルも務める嵐莉菜。イラン、イ
ラク、ドイツなど多国籍にルーツを持ち、クルド人ではない
がその心情は理解できるという2004年生まれが、正に等身大
で映画初出演、初主演を果たしている。
共演は、2020年の大森立嗣監督作品『MOTHERマザー』で新人
賞を総なめにした奥平大兼の映画出演第2作。他にアラシ・
カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィ
ザデー。さらに平泉成、池脇千鶴、藤井隆、韓英恵、サヘル
・ローズ、小倉一郎らが脇を固めている。
公開は5月6日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード
ショウとなる。

『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』
                    “Ghost Fleet”
世界有数の水産国の一つとされるタイ王国での漁業の実態に
迫るドキュメンタリー。
その実態は、無法・無規制の乱獲によって沿岸の水産資源が
減少し、漁獲は遠洋漁業に頼らざるを得ない。しかしタイの
漁師の多くは遠洋航海を嫌い、そのため遠洋に出る人員の確
保に問題が生じた。そこで行われているのが、街で若者を拉
致し、そのまま遠洋漁船に乗せて奴隷のごとくに使役すると
いうものだった。
いやはや、奴隷なんて言葉が21世紀になって使われるという
のは…。確かに2012年6月紹介などの『闇金ウシジマくん』
にも借金の清算に遠洋漁船で働かせるなんて話はあったが、
こんなことが現実に、しかもかなり大規模に行われていると
いうのだ。
そして洋上では、船団を組んで常に陸地の見えない海域で漁
を続け、漁獲は全て運搬船で積み出し、食料や船の燃料はそ
の運搬船が運んでくるという。さらに病気や怪我をしたり反
抗を試みたら、そのまま海に放り込まれて海の藻屑とされて
しまう。そんな正に奴隷の扱いなのだ。
それでもまれに船が沿岸に近付いたときに、決死の覚悟で海
に飛び込み陸地に逃れる者はいる。本作はそんな逃亡者の救
助のためにインドネシアに向かう労働者権利ネットワークの
活動家の姿を追って行くものだ。なお映画に登場する人物は
すでに2000人以上を救出し、2017年度のノーベル平和賞にも
ノミネートされたという。

それにしても、こんなことが実際に行われているとは、僕は
この映画を観るまで想像もしていなかった。こういうことを
知るのも映画の大きな価値だと思えるものだ。その意味でも
価値ある作品と言える。因に日本が輸入する水産物の30%前
後は違法漁業によるものという統計もあるようだ。
監督は、ニューヨークタイムズやBBCにも作品を提供して
いるシャノン・サーヴィスと、南カリフォルニア大学で映画
制作課程を卒業のジェフリー・ウォルドロン。
本作は2018年のトロント国際映画祭など、世界10箇所以上の
映画祭でも上映されたものだ。
公開は5月28日より、東京はシアター・イメージフォーラム
他にて全国順次ロードショウとなる。

『ツユクサ』
2019年8月4日題名紹介『閉鎖病棟−それぞれの朝−』など
の平山秀幸監督が、同作に出演の小林聡美を主演に迎えて、
2007年の『やじきた道中 てれすこ』でも組んだ安倍照雄の
オリジナル脚本を映画化した作品。
小林が演じるのは、ナイロンタオルの工場で働くアラフィフ
の女性。彼女は帰宅中に乗っていた車が衝撃でひっくり返る
事故に遭遇する。その車のボンネットには、熱く熱せられた
穴が開いていた。しかし大した怪我はなく、事故処理を終え
た彼女は同僚の女性に電話して迎えに来てもらうが…。
その女性の息子は天文マニアで、直前に流星の落下を目撃し
ていたことから車に隕石が当たったと推察する。ただし隕石
が人に危害を及ぼす可能性は1億分の1だという。そして翌
日には海岸で隕石を発見。奇跡のような出来事は幸運を齎す
と彼女にその欠片を手渡す。
その日から彼女の周囲でいろいろな事が少しずつ動き出す。

共演は、劇団大人計画の平岩紙と東京乾電池の江口のりこ。
それに子役の斎藤汰鷹。そして松重豊。他に渋川清彦、泉谷
しげる、ベンガルらが脇を固めている。
小林聡美というと2006年1月紹介『かもめ食堂』から2010年
8月紹介『マザーウォーター』などスローライフ的な感覚の
作品が印象に残るが、本作は製作体制は異なるけれどもその
系譜と言えるかな。
ただし平山監督は、小林には1982年『転校生』のイメージを
持ち続けているそうで、本作での松重とのシーンには漫画の
「チッチとサリー」のようなイメージが求められたというこ
とだ。
そして途中でもちょっと流れるけれど、エンディングテーマ
には1969年、中山千夏の「あなたの心に」が聞けて、何気な
いけど何か心を掴まれるような、そんな素敵な感覚の作品が
繰り広げられた。

公開は4月29日より、東京はシネスイッチ銀座、テアトル新
宿、シネリーブル池袋他で全国ロードショウとなる。

『FLEEフリー』“Flugt”
欧州で暮らすアフガニスタン難民の姿をアニメーションで描
き、2022年の米国アカデミー賞では国際長編映画賞、長編ア
ニメーション賞、そして長編ドキュメンタリー賞の3部門に
ノミネートされた作品。
主人公はアフガニスタンに生まれ、幼い頃から姉の衣服を好
んで着用するなどゲイの嗜好が見られる子供だった。ところ
が共産主義政権が成立し、それに対抗するムジャヒディンが
蜂起を始めた頃、パイロットだった父親が連行されたまま行
方不明となる。
この事態に危険を感じた家族は祖国からの脱出を決意。主人
公も先に北欧に脱出した母親と姉たちを追って密出国業者の
手引きに乗るが…。その旅路は希望とは異なる方向へ向かう
ものだった。そしてその後は彼の出自も性癖も絶対に口外し
てはならないことになる。
物語は全て事実に基づいているが、背景等が明白になると、
現在は研究者として成功を収めているという彼自身や家族の
存在がムジャヒディンの標的とされる恐れがあり、作品では
風貌等を隠すためにアニメーションが採用されたというもの
だ。
とは言うものの情報社会の現代では、これだけの開示があれ
ば人物の特定は容易ではないかな、そんな心配も生じてしま
う作品だった。それに先に紹介したクルド難民の状況に比べ
ると、命の危険を除けば事態は甘く見える。実際に上の作品
でも顔出しを嫌って難民本人の出演が叶わなかったそうだ。

それにしても世界の難民問題は、政治やその他の状況に翻弄
され続けている。そんなことを如実に感じさせてくれる作品
だった。
公開は6月10日より、東京は新宿バルト9、グランドシネマ
サンシャイン池袋他で全国ロードショウとなる。

『エリザベス 女王陛下の微笑』
         “Elizabeth: A Portrait in Part(s)”
1952年に即位し、2022年2月6日には在位70周年を迎えた英
国女王の姿を、数多のアーカイブ及びその他の映像で綴った
ドキュメンタリー。
本作を監督したのは、1999年『ノッティングヒルの恋人』な
どのロジャー・ミッシェル。COVID-19の蔓延で外出が厳しく
なった中でアーカイブを多用したドキュメンタリーなら出来
ると考えた監督だったが、本作の完成を見た後の2021年9月
22日にCOVID-19感染症により急逝してしまった。
そんな監督の遺作である本作は、先に紹介したヘルツォーク
監督の作品以上に、被写体である女王陛下への敬愛に溢れた
作品だった。そしてその展開も先の作品と同様にテーマごと
に章立てされ、それぞれのテーマを実に判り易く説明してく
れている。
その具体的な内容に関しては、これはもう本編を観て貰わな
いと簡単には紹介し切れないが、中には『ローマの休日』や
『クレオパトラ』など王室を描いた劇映画のクリップなども
挿入され、映画ファンには特に親しみ易く観られるようにも
なっている。
ただしそんな中に『宇宙大作戦=スタートレック』の一場面
が登場したのには、SFファンとして嬉しいと同時に唖然と
もしたものだが。
その他にもビートルズからワレサ委員長まで多岐に渉る登場
人物が作品を飾り立て、一方で競馬に興じる姿など、女王へ
の親しみがいや増す作品に作られていた。

公開は6月17日より、東京はBunkamura ル・シネマ、TOHOシ
ネマズ シャンテ他にて全国ロードショウとなる。



2022年04月10日(日) ワン・セカンド 永遠の24フレーム、ぼくの歌が聴こえたら

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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 ご無沙汰しました。ほぼ2年ぶりにホームページを更新し
ます。
 最初にこの2年間のことを簡単に記して置くと、毎日は朝
7時ごろに起床し、天候の良い日は午前中に近所にある少し
広めの公園を1時間半ほどウォーキング。その後は読書か、
スマホ及びPCでゲームをして時間を過ごしておりました。
 そしてこの間は、映画は1本も観ませんでした。
 実際には、一昨年の夏ごろからは試写会も再開していたの
ですが、感染防止などの意味合いで完全予約制となっている
ものが多く、事前の手続きなどが煩雑で敬遠。またオンライ
ン試写なども行われていましたが、2020年5月31日付で報告
した3本以外は観ることを止めました。
 これは映画はスクリーンで観るという固定観念に捉われた
ためでもありますが。実際にその際の記事を書きながら違和
感を拭えず。それ以降もオンライン試写の案内は多数いただ
きましたが、全て鑑賞はしませんでした。と言うより心情か
ら出来ませんでした。
 そんな訳で2年間は全く映画を観ませんでしたが、ここに
来て感染状況も下げ止まりとは言え安定してきた感があり、
自分自身も3度目のワクチン接種を完了して市中に進出する
覚悟が出来たものです。なおサッカーの応援も3月末から参
戦しました。 
 それではこの作品から映画の紹介を再開します。
        *         *
『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』 “一秒钟”
2011年5月紹介『サンザシの樹の下で』などの名匠チャン・
イーモウ監督による2020年本国公開の中国映画。
時代は1969年、文化大革命末期の西域=砂漠地帯を舞台に、
移動上映される映画に映るわが子の姿を探す男性と、映画の
フィルムに執着する孤児の少女が交錯する。

本作は2019年2月のベルリン国際映画祭コンペティション部
門に選出されたものの、開催直前に「技術的問題がある」と
されて出品がキャンセルされたといういわく付きの作品だ。
物語は男が砂漠を歩いて上映が行われる村に辿り着くところ
から始まる。男は会場にやってくるが上映は終わった後、す
でにフィルムの搬出が行われていた。そんなフィルムを愛で
るように見ていた男だったが…。
搬出していた業者が目を離した隙に建物の陰から現れた子供
がフィルムの1巻を抱えて逃走。それを目撃した男はその後
を追い、砂丘で子供からフィルムを取り返すが、戻ると業者
は出発した後だった。
そこで男は次の上映が行われる会場までフィルムを届けよう
と砂漠を歩き始めるが…。再び登場する子供=少女と、上映
会場の映写技師も絡んで、当時の中国社会で翻弄される親子
を巡る問題が浮き彫りにされて行く。

出演は、2018年の主演作『オペレーション・レッド・シー』
が中国�癸吋劵奪箸魑�録したチャン・イーと、本作オーディ
ションに高校生で選出された後は北京舞踏学院で学んだとい
う新星リウ・ハオツン。それに2017年『ミスタ・ノー・プロ
ブレム』で金馬奨最優秀主演男優賞受賞のファン・ウェイ。
脚本は、イーモウ監督とは2005年『単騎、千里を走る』でも
組んだことのあるヅォウ・ジンジーが共同で執筆している。
撮影は2002年『HERO』などイーモウ監督の武侠作品に協力し
てきたチャオ・シャオティンが担当した。
物語は映画フィルムという存在をど真ん中に据えた、正しく
僕のようなフィルム世代の人間の心を鷲掴みにする作品だっ
た。それは僕より2歳年下のイーモウ監督にも共通の思いな
のだろう。
そこにはフィルムをプロジェクターに掛ける手順から、ある
事情で砂漠の砂にまみれてしまったフィルムを洗浄して復活
させる様子。さらにはトラブルで燃え上がるまで、フィルム
に対する愛情がふんだんに盛り込まれていた。
特にフィルムの洗浄はイーモウ監督の実体験にも基づいてい
るそうで、そこで洗浄に使う蒸留水の入手方法などは、思は
ず手で膝を打つような納得の展開が描かれていた。正に映画
ファンへの贈り物だろう。
さらに復活したフィルムの状態が、これも痛々しくも感動的
に再現されていた。これがディジタルだと1か0かの二択し
かないのだから、このような感動は描けないのではないか、
そんなことも考えてしまった。
そしてもう一点、映画の後半では上映中の映写室内が写され
るが、ここではフィルムが流れるように動いている様子が描
写されている。これは肉眼で見ていればこの通りなのだが、
これを撮影するとこうはいかない。
それは毎秒24コマで動くフィルムを24コマで撮影すると動き
が同期して、コマが止まっているように写ってしまうのだ。
そこで最初は撮影のコマ数が違っているのかとも考えたが、
映画のデータベースで確認したところ、使用されたのはRed
DSMC2 Monstro VVとSony CineAlta Venice。いずれも撮影は
24コマが基準のものだった。
つまりここではフィルムが流れるように描写するための工夫
が施されていたということなのだ。その工夫がどんなものな
のかにはいくつか手法は思い付くが、こんなちょっとしたこ
とにも監督の思いが伝わる作品だった。

フィルム世代の映画ファンは必見の作品。
公開は5月20日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国
ロードショウとなる。

『ぼくの歌が聴こえたら』“더 박스”
K-POPの人気グループEXOでラッパー及びサブヴォーカルを務
めるチョンヨルの主演による2021年本国公開の韓国映画。
チョンヨルが演じるのは駐車場の管理小屋で秘かにギターを
弾きながら歌っていた若者。その歌声が、過去には受賞歌手
を育てたこともある音楽プロデューサーの耳に入ったことか
ら物語が動き出す。
実はそのプロデューサーは育てた歌手には逃げられ、今や破
産寸前。そんなプロデューサーが若者の歌声にほれ込み、一
躍売り出しを夢見て無理矢理契約を結ぶが、その若者は幼い
頃のトラウマにより人前で歌うことができなかった。
それでもプロデューサーは、冷蔵庫の梱包用の段ボール箱で
隠れ場所を制作し、その中で歌う手法を編み出すが…。10曲
歌う契約で始めた売込み計画は、彼が歌う度に次々にトラブ
ルを巻き起こす。
そして物語は、仁川から全州、光州、麗水、慶州、蔚山へと
ロード・ムーヴィ風に繰り広げられて行き、徐々に2人の思
いが変化して行く。

共演は、2016年に上野樹里が共演した『ビューティー・イン
サイド』などのチョ・ダルファン。脚本と監督は、舞台出身
で2018年平昌オリンピックの開会式演出なども務めたヤン・
ジョンウンの映画デビュー作となっている。
作品はチョンヨルの歌声が満載で典型的なアイドルと言える
かな。その楽曲も、前半は“Bud Guy”“What a Wonderfull
Word”“My Funny Valentine”など英語の洋楽中心で、それ
が後半は韓国語の歌中心になるのは意図的と思える。
とは言うものの、舞台が次々替わるのをロード・ムーヴィと
するには各地域との繋がりに深みがなく、無理矢理舞台を広
げた感じが否めなかった。これは韓国文化に詳しい人が見れ
ば何かあったのかもしれないが、僕には不明。
ただ前半では、各地に行く度にその地方の料理が登場して、
それが良い感じだったりもしたのだが…。その描写が後半は
ちょっと尻すぼまりになってしまう感じなのは、少し残念な
気もした。
そんな中で後半に登場するロマの文化を継承しているような
人々の描写は、意外性もあってよい雰囲気だった。出来れば
この部分をもっと膨らませて描いて欲しかった感じもしたも
のだ。
でもまあ、チョンヨルの歌声が各地の風景を背景に聴けるの
は、ファンにとってはこの上もない贈り物だったのだろう。

公開は6月10日より、東京はシネマート新宿、ヒューマント
ラストシネマ有楽町他で全国公開となる。


 今後は、また週1回程度のペースでページを更新して行く
つもりですので、何卒よろしくお願い致します。


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井口健二