井口健二のOn the Production
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2020年02月23日(日) 水曜日が消えた(ポルトガル、街の上で、ソニックTM、ハリエット、あなたの顔、ドヴラートフ、最高の花婿2、凱里、グランド・ジャーニー)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
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『水曜日が消えた』
2020年2月紹介『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』で
2014年度に選出された吉野耕平の脚本、監督、VFXによる
長編デビュー作。各曜日ごとに入れ替わる7つの人格が同居
する多重人格を描いたオリジナル脚本の映画化。
主人公は火曜日の人格。几帳面な性格で読書好きだが、火曜
日は図書館が休館日だ。しかも月曜日の性格がだらしなくて
朝起きるとベッド回りが大変だったりする。そして大学病院
に通院するのも彼の役目だ。
こんな彼の症状は幼い頃に遭った交通事故が原因で、そのた
め脳が多重になったようなのだが、その日の状況を彼自身は
全く記憶していなかった。それでも大学の研究者の許でいろ
いろな治療は行われていた。
そんな彼の家には小学校で同級生だったという女性が毎日の
ように現れる。出版社に勤める彼女は、近くの作家の自宅に
原稿の催促に来たついでに寄るというのだが、多重人格の彼
のことを理解する数少ない人物だ。
その多重人格は毎夜深夜に入れ替わるもので、その間の6日
間のことは全く感知できない。そのため連絡ノートで互いの
状況を報せ合うことになっているが、特にアウトドア派の日
曜日の行動は羨望の的になっていた。
ところがある日、朝の定刻に目覚めた主人公は周囲の微妙な
違いに気付く。実はその日は水曜日で、彼は2日間続けて人
格を保っていたのだ。この状況に主人公は、取り敢えずその
事実を隠してしまうのだが…。
初めて過ごす水曜日には、図書館が開館しているなど様々な
変化が彼にもたらされる。そこには図書館の司書との淡い恋
心も生じるが、その一方で彼をこのようにした事故の状況が
徐々に思い出され始める。

出演は2019年8月11日題名紹介『台風家族』などの中村倫也
と、2019年12月8日題名紹介『架空OL日記』などの石橋菜
津美。他に中島歩、休日課長、深川麻衣、きたろうらが脇を
固めている。
多重人格というと最近ではSF作家ダニエル・キイスの諸作
が有名になってしまったが、映画では1957年度のアカデミー
賞でジョアン・ウッドワードが主演女優賞を獲得した“The
Three Faces of Eve”が記憶される。
この映画は日本未公開のようだが、実は原作となった実話に
基づくハーヴェイ・M・クレックリーの著作は、中学生の頃
に当時日本でも刊行されていたReader's Digestで読んで衝
撃を受けたものだった。
従ってこのテーマに関しては多少思い入れがあるが、そんな
目で本作を観ていると、医学的な見地はともかく物語として
はそれなりに上手く出来ていると感じた。特に人格間の対立
や主人公が損な役回りなのも面白く観られたものだ。
また、きたろうが演じた研究者の思いなども、なかなか良い
感じに描けていたし、難しい演じ分けをしっかりと表現した
中村にも感心した。そして多重人格とは別に生じるドラマに
も違和感なく良い感じを持てた。
VFXの表現もドラマにマッチしており、監督の思い入れも
心地よく感じられたものだ。

公開は5月15日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『ポルトガル、夏の終わり』“Frankie”
(ユネスコ世界遺産にも登録されているポルトガルの古都シ
ントラを背景に、2018年5月13日題名紹介『エヴァ』などの
イザベル・ユペールが少し我儘なスター女優を演じるドラマ
作品。その年の夏を避暑地でもある当地のホテルで過ごす女
優は、ある目的から家族を呼び寄せる。そこには現在の夫と
その連れ子の娘と義理の孫。また元夫と実子の息子などが集
まり、さらに親友の女性メイクアップアーティストも招かれ
ている。そして彼らの間で様々な群像劇が展開されて行く。
共演には2018年2月25日題名紹介『ロンドン、人生はじめま
す』などのブレンダン・グリースンと、2019年3月17日題名
紹介『パージ:エクスペリメント』などのマリサ・トメイ。
他にジェレミー・レニエ、パスカル・グレゴリー、ヴィネッ
ト・ロビンスン、グレッグ・キニアらが脇を固めている。ド
ラマと共に美しい風景も楽しめる作品だ。公開は4月24日よ
り、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『街の上で』
(2018年11月3日付「東京国際映画祭」にて紹介『愛がなん
だ』などの今泉力哉監督、脚本で下北沢界隈を舞台にした青
春ドラマ。脚本は漫画家の大橋裕之との共同になっている。
主人公は古着屋の店員。恋人に浮気を告白されて別れを告げ
られるが、彼自身は納得できず彼女の影を追っている。そん
な主人公は店に来た美大生から卒業制作映画への出演を依頼
されるが…。出演は『愛がなんだ』にも出ていた若葉竜也と
穂志もえか。他に2018年12月紹介『チワワちゃん』などの古
川琴音、2019年12月紹介『37セカンズ』などの萩原みのり、
2019年12月29日題名紹介『もみの家』などの中田青渚。そし
て成田凌が友情出演している。前回紹介『劇場』に続いて下
北沢の話だが、今回は演劇ではなく映画が主題。そこに若い
男性の様々な葛藤が巧みに描かれた作品だ。それに下北沢の
町が丁寧に撮られている。公開は5月1日より、東京は新宿
シネマカリテ他で全国ロードショウ。)

『ソニック・ザ・ムービー』“Sonic the Hedgehog”
(1991年にセガのメガドライブ用に発売されたゲームのキャ
ラクターを主人公にした実写+CGI作品。本作の始まりで
音速で走り回るスーパーパワーの青いハリネズミは、宇宙の
果ての母星を追われ、時空を超える金色のリングの力で地球
へとやってくる。そして孤独なままに秘かに人間社会を観察
しながら暮らしていた。ところが悪の天才科学者がその存在
を察知し、その力の悪用を企む。そこでソニックは、人間の
力を借りてそれを阻止しようとするが…。出演は2018年12月
16日題名紹介『記者たち 衝撃と畏怖の真実』などのジェー
ムズ・マースデン、2019年5月19日題名紹介『さらば愛しき
アウトロー』などのティカ・サンプター。そしてジム・キャ
リー。さらにソニックの声を脚本家・コメディアンのベン・
シュワルツが担当している。監督は短編アニメーションで実
績を持つジェフ・ファウラーが長編デビューを飾った。公開
は3月27日より、全国ロードショウ。)

『ハリエット』“Harriet”
(2016年に、2020年発行の新20ドル紙幣の肖像画に決定され
るも、トランプ政権下ではその発行が延期されている19世紀
後半の黒人女性活動家を描いたドラマ作品。主人公は1822年
にメリーランド州の農場で奴隷の両親の許に生まれ、1849年
に農場から逃亡し単身フィラデルフィアに到達する。そして
1850年の逃亡奴隷法の成立を機に逃亡者を北部まで先導する
「地下鉄道(Underground Railroad)」に参加、以後の約10年
間に19回の救出活動を行い両親を含む300人以上を解放した
ということだ。その後は女性参政権運動などにも参画、その
功績が紙幣の肖像画へと繋がったものだ。本作はその「地下
鉄道」時代の波乱万丈を描く。出演は2016年ミュージカル版
『カラー・パープル』でトニー賞などを総なめにしたシンシ
ア・エリヴォ。本作でも素晴らしい歌声を聴かせてくれる。
監督は女性のケイシー・シモンズ。公開は3月27日より、東
京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『あなたの顔』“你的臉”
(1994年『愛情萬歳』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受
賞し、2013年『郊遊<ピクニック>』で同映画祭審査員大賞を
受賞して商業映画からの引退を表明していた台湾の蔡明亮監
督が、2018年に発表したドキュメンタリー。日本統治時代に
台北市に建てられた旧公会堂の中山堂で、撮影に集められた
男女13人の顔だけを写した作品。出演は監督の盟友とされる
リー・カンション以外は市井の12人。中にはただ黙ったまま
の人もいるが、饒舌に話したり楽器を演奏したり、さらには
居眠りをし始める人までいる。しかしその顔には長い年月を
生きてきた証が刻まれ、その言葉に苦難の道のりが想像され
る。海外ではこの構成が衝撃だったようで、確かにネットを
検索しても該当する作品は出てこない。でも僕自身は1970年
代に同様のポスターに参加した経験があり、衝撃はさほどで
はなかったかな。公開は4月から、東京は渋谷のシアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』
                 “Довлатов”
(1941年、旧ソ連の生まれ、ジャーナリストをしながら創作
活動をするもKGBに目を付けられ、地下出版での発表が西
欧でも紹介されるようになって1978年に亡命。ニューヨーク
に居住して大手雑誌などにも作品を発表。1990年に48歳で死
去した後に本国でも出版が認められて「20世紀後半で最も愛
されたロシア人作家」と呼ばれる人物の若き日の6日間を描
いた作品。背景は1971年ということで、僕は前年に開かれた
国際SFシンポジウムでソ連の体制側作家を見ているが、当
時も陰で苦しんでいる人たちが居るのだろうとは思っていた
ものだ。そんな若き作家たちの群像劇が、綿密な時代考証で
再現された旧レニングラードの風物の中で演じられる。監督
は2015年2月紹介『神々のたそがれ』を父監督の死後に完成
させたアレクセイ・ゲルマン・ジュニア。本作ではベルリン
国際映画祭の芸術貢献賞を受賞した。公開は4月25日より、
東京は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『最高の花婿 アンコール』
    “Qu'est-ce qu'on a encore fait au bon Dieu?”
(2015年6月14日付「フランス映画祭2015」で紹介『ヴェル
ヌイユ家の結婚狂騒曲』(日本公開題名:最高の花婿)の4年
後を描いた続編。4人の娘に4カ国から来た宗教も違う4人
の婿という究極のグローバル化を描いた前作だが、いざ暮し
が始まるとそれぞれの婿には社会との軋轢が生じていた。そ
れはちょうど現代の社会が抱える問題でもある訳だが、そん
な中でそれぞれが海外への移住を考え始める。一方、娘たち
の両親は各国の実家に招待された世界一周の旅から帰ってく
るが…。出演は両親役のクリスチャン・クラヴィエとシャン
タル・ロビー以下、一家10人のキャストが再現され、さらに
パスカル・ンゾンジらの一家も引き続き登場する。脚本と監
督も前作に続いてのフィリップ・ドゥ・ショーヴロン。前作
は宗教と人種の問題だったが、本作はさらに多様性が増した
感じだ。公開は3月27日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA
他で全国順次ロードショウ。)

『凱里ブルース』“路邊野餐”
(2019年12月8日題名紹介『ロングデイズ・ジャーニー こ
の夜の涯てへ』のビー・ガン監督による2015年に発表された
長編デビュー作。先の紹介作と同じく本作でも後半に長いワ
ンシークエンスショットが用意されている。そして物語も、
紹介作と同様にこの長回しの中で過去と現在が混在する摩訶
不思議な展開だ。とは言うものの観客としては、取り敢えず
この41分に及ぶという長回しに目を奪われてしまうのだが、
本作ではオートバイでの移動などの時間が多く、先の紹介作
ほど凝っていないのは習作というところかな。それに途中の
演技でちょっとしたミスがあって、それがなかなか修復でき
ないのはご愛嬌という感じもした。それにしても長回しでは
『1917』が話題になっているところだが、本作が嘘偽りのな
い本物のワンシークエンスショットだということは強調して
おきたい。公開は4月18日より、東京は渋谷のシアター・イ
メージフォーラムでロードショウ。)

『グランド・ジャーニー』“Donne moi des ailes”
(工業地帯など渡りに障害の多いヨーロッパで行われている
安全な飛行ルートを渡り鳥に教える活動。その実践者が自ら
脚本を務めた作品。同旨の作品ではカナダ―アメリカを舞台
にした1996年公開『グース』“Fly Away Home”があるが、
いずれも実話に基づくとはされているものだ。ただしどちら
も子供を主人公にしているのは少しあざといかな。とは言え
子供を主人公にすることで若年層にも興味を持って貰えると
いうことでは、意味はあるとは言えるだろう。それに本作で
は、越冬地から主人公らの本拠地に向かうという展開も工夫
があるように感じた。監督は2015年公開『ベル&セバスチャ
ン』などのニコラ・ヴァニエ。なお脚本を手掛けたクリスチ
ャン・ムレクの本業は気象学者だが、2003年『WATARIDORI』
の制作などにも関っている。出演は2018年3月4日題名紹介
『ダリダ』などのジャン=ポール・ルーヴと新人のルイ・ヴ
ァスケス。公開は5月15日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2020年02月16日(日) ナイチンゲール、三島由紀夫VS東大全共闘(モルエラニ、ハーレイ・クィン、仮面病棟、ペトルーニャ、ケアニン、サーホー、新喜劇王、劇場)

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『ナイチンゲール』“The Nightingale”
2018年の第75回ヴェネツィア国際映画祭にて、本作の脚本・
監督を手掛けたジェニファー・ケントに新人監督賞と審査員
特別賞の2冠が贈られた19世紀オーストラリアのタスマニア
島が舞台の強烈な復讐劇。
時代はオーストラリアがイギリスの植民地だった頃。本国か
ら多くの流刑者が送られて来る中で、本土の南方に位置する
タスマニア島(旧名:ヴァン・ディーメンズ・ランド)には、
1803年、シドニーに続く第2の刑務所が設置された。
その刑務所に主人公のアイルランド人女性は些細な罪を問わ
れ、一定期間の契約奴隷として送られていた。ところが期間
が過ぎても刑を解かれない。実は彼女は美声の歌手で、将校
の慰み者でもあったのだ。
そんな状況に彼女の夫は、妻の刑の終了を認める書類の作成
を将校に訴えたが…。言葉を左右する将校の仕打ちに食って
掛かった夫は彼女の目の前で射殺され、さらに最愛の赤ん坊
まで殺されてしまう。
そして将校は自らの出世と本土への復帰を求めて、島の玄関
口である港町へと出発する。しかも時間を急ぐ将校は危険な
山道の行軍を選択し、原住民の老アボリジニを案内人に山に
分け入っていた。
そこで後を追う主人公も若いアボリジニを雇うが、イギリス
人とアイルランド人の対立以上に、両者が未開人と見下すア
ボリジニとの関係も複雑なものだった。

出演は、2016年―17年『ゲーム・オブ・スローンズ』などの
アイスリン・フランシオン。アイルランド出身で『トスカ』
などにも出演のオペラ歌手でもある女優にとっては、最高の
嵌り役と言える作品だ。
他に、2011年5月紹介『パイレーツ・オブ・カリビアン/生
命(いのち)の泉』や2013年12月紹介『ハンガーゲーム2』な
どのサム・フランクリンと、オーストラリア・エルコ島出身
のアボリジニでダンスパフォーマーのバイガル・ガナンバル
(映画初出演)らが脇を固めている。
映画の中では英語とアイルランド語、それにアボリジニの言
語が飛び交うが、実はタスマニア島のアボリジニは植民者に
よってほぼ絶滅されており、その言葉も消滅している。その
ため今回は本土からアボリジニの演技者が招かれ、また言語
にはPalawa kaniと呼ばれる構造言語が使われている。
この言語は、かつて東部アボリジニ・タスマニア人によって
話されていたとされるものだが、実は限られた記録文献の中
から再構成された語彙に基づき、タスマニア・アボリジニ・
センターでの推論により作成されたもの。
この状況からも判るように映画は明らかにオーストラリアの
負の歴史を描くもので、しかもそれが女性監督とは思えない
R15+指定となる激しい描写で再現される。そこには様々な
思いも込められているのだろうが、正しく受賞に相応しい作
品だった。
公開は3月20日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で全国順次ロードショウとなる。

『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』
1969年5月13日、東大駒場の 900番教室で行われた討論会の
模様を、当時の報道機関で唯一取材を許されたTBSに残さ
れていた映像を基に、当事者たちへの現在のインタヴューを
交えて構成したドキュメンタリー。
「政治の季節」とも呼ばれた当時は、同年1月の東大本郷安
田講堂攻防戦や沖縄反戦デー、長崎佐世保港に入港した空母
エンタープライズを巡る反対闘争など、日本中、いや世界中
に権力に対する闘争が渦巻いていた。
そんな中で行われた作家・三島由紀夫と東大の全学共闘会議
との討論会は、片や天皇主義を唱えて自ら私兵「盾の会」を
創設した「右翼」と、権威主義の大学解体を叫ぶ「左翼」と
の対決かに見えた。しかしその実態は…?
実は僕自身がこの年に一浪で私学に入学した大学生であり、
当時のことは鮮明に記憶している。この時代は誰もが討論に
明け暮れ、それは今の2ch.のような匿名で揚げ足取りに終始
するものではなく、正に対峙しての真剣なものだった。
その討論は飲み屋などでも行って、時には居合わせた年配の
酔客から「若い人が真剣に討論しているのは素晴らしい」と
ビールの差し入れを貰ったりもしたものだ。そんな時代の経
験者の僕には、本作の討論の様子が懐かしかった。
それは今の人には熱く激しい討論に見えるかもしれないが、
それが当時の日常だったのだ。そして互いに意見を戦わせる
ことで友情も生まれたし、その後も信頼し合える仲間を作る
ことができたのだと思う。
そんな思いで本作を観ていると、両者が実は対立ではなく、
共闘を探り合っていたことにも気付かされる。そこに対する
東大側の認識が何処かは不明だが、翌年の三島の自決の後に
東大全共闘はいち早く追悼を表明したものだ。
ただ今にして改めて考えるのは、三島は翌年の行動をしては
いけなかったのではないかという思いだ。本作の中でも「反
米、愛国」の思いは両者に共通していたと語られるが、その
目標のため両者が歩み寄ることはできなかったのか?
もしこの時に歩み寄れていたら、現在の沖縄が米軍に蹂躙さ
れ、政府が「アメリカお追従」を繰り返すような時代は来な
かったと思うし、それを考えると悲しくもなってくる。そん
な歴史の一幕が甦る。
今の時期にこの映像が甦ったことは正しく天啓と思えるもの
だし、三島がこの討論で学生らに本当に伝えたかったことを
改めて考えなくてはいけないとも思った。

公開は3月20日より、東京は日比谷のTOHOシネマズシャンテ
他で全国ロードショウとなる。

この週は他に
『モルエラニの霧の中』
(2014年10月紹介『ハーメルン』などの坪川拓史製作・脚本
・監督・編集・音楽により、監督が現住する北海道室蘭市で
のささやかな物語を7話連作形式で描いた作品。題名はアイ
ヌの言葉で「小さな坂道をおりた所」という意味、室蘭の語
源のひとつだそうだ。そして物語はそんな街で監督が聞き書
きした実話に基づく。そこには少しファンタスティックな話
もあるし、リアルな話も混在する。出演は2つの話に登場す
る大杉漣を始め、大塚寧々、水橋研二、菜葉菜。さらに菅田
俊、草野康太、久保田紗友、小松政夫、坂本長利、香川京子
らが脇を固めている。全体で214分という長尺だが、各話は
長くて40分なので締まってはいる。ただ大杉の演じる写真館
の店主は使っている写真機が古めかしかったり時代設定が不
明で、さらに香川が演じる老婦人と桜の古木や樹木医など、
裏に流れる物語にも興味が湧いた。公開は3月21日より、東
京は岩波ホール他で全国順次ロードショウ。)

『ハーレイ・クィンの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
“Birds of Prey:
And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn”
(2016年8月14日題名紹介『スーサイド・スクワッド』に登
場のヴィラネスを主人公にしたアクション作品。本編の説明
によると元々はバットマンの敵役ジョーカーの恋人だったそ
うだが、その関係が切れて晴れて悪女として覚醒したという
設定。そんな女が悪事を続けて行く中で、ある秘密を持った
少女を本作の敵役ブラックマスクから守るべく、新たな女性
チームが結成される。出演は、製作も手掛ける前作に続いて
のマーゴ・ロビー(この読みが正しい)。相手役にはユアン・
マクレガー。他に2012年8月紹介『リンカーン/秘密の書』
などのメアリー・エリザベス・ウィンステッド、テレビ中心
に活躍するジャーニー・スモレット=ベル、子役のエラ・ジ
ェイ・バスコらが脇を固めている。脚本は2019年『バンブル
ビー』を手掛けたクリスティーナ・ホドスン。監督は2018年
“Dead Pigs”で注目されたキャシー・ヤンが担当した。公
開は3月20日より、全国ロードショウ。)

『仮面病棟』
(現役の医師でもある作家の知念実希人が2014年に発表した
小説を原作者自らの脚色で映画化した作品。監督と共同脚本
を2019年7月7日題名紹介『任侠学園』などの木村ひさしが
担当した。主人公はある過去を背負う医師。そんな主人公が
先輩医師の口添えでとある病院の夜間の当直にやってくる。
ところがその夜、近所のコンビニを拳銃で襲ったピエロのマ
スクの強盗が誤って銃創を負わせたという若い女性を連れて
病院に押し入り、主人公と院長、それに看護師を人質にして
立て籠りを始めるが…。その病院には大きな秘密があるよう
だった。出演は本作が初単独主演の2019年9月22日題名紹介
『そして、生きる』などの坂口健太郎。他に永野芽郁、内田
理央、江口のりこ、高嶋政伸。さらに永井大、佐野岳、藤本
泉、小野武彦、鈴木浩介、大谷亮平らが脇を固めている。原
作者自らの脚色はテーマ性もしっかりして観ていて気持ちが
良かった。公開は3月6日より、全国ロードショウ。)

『ペトルーニャに祝福を』
        “Gospod postoi, imeto i' e Petrunija”
(旧ユーゴスラビアから分裂したバルカン半島の中央に位置
する北マケドニア共和国。その小さな村を舞台に、女人禁制
の儀式に参加して勝者になってしまった女性を主人公にした
様々な要素の含まれる作品。主人公は30過ぎ少し太めで恋人
もいない女性。大学を出たものの満足な仕事はなく、不正規
のウェイトレスでしか働けない。そんな彼女が主義を曲げて
挑んだ面接ではセクハラの上に不採用となり、塞いだ気持ち
の帰り道で司祭が投げ込んだ十字架を奪い合う伝統の儀式に
出くわす。そこで目の前に流れてきた十字架を思わず飛び込
んで奪ってしまうが…。いきり立った男たちは十字架を取り
戻そうとし、勝ち得た権利を主張する彼女は警察の保護下に
置かれる。そこに取材に来た女性のレポーターや司祭も巻き
込んだ論争が勃発する。監督は同国の出身で本作が5作目の
テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ。公開は4月25日より、
東京は岩波ホール他で全国順次ロードショウ。)

『ケアニン こころに咲く花』
(2018年9月紹介『青の帰り道』などの戸塚純貴の主演で、
様々な問題の山積する老人介護の現場を描いた作品。戸塚と
監督の鈴木浩介は2017年に『ケアニン あなたでよかった』
という作品を発表しており、そこでは戸塚が扮する新人介護
福祉士が介護の基礎となる問題に直面していたようだ。その
続編となる本作では、小規模の施設から大型の特別養護老人
ホームに転職した主人公が、大規模施設ならではの新たな問
題に直面する。ただ本作では介護の問題より、組織の大型化
に伴う弊害のような感じもして、その辺はどうなのかなとい
う感じはした。でもそれは介護だけにとどまらない普遍的な
問題提起ではある訳で、その中に介護特有の問題も描かれて
いるのだから、その点では理解のできる作品だ。共演は島か
おり、綿引勝彦。他に中島ひろ子、浜田学、小野寺昭らが脇
を固めている。公開は4月3日より、東京はヒューマントラ
ストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『SAAHO/サーホー』“సాహో”
(2017年2月紹介及び2017年12月10日題名紹介の『バーフバ
リ』で主人公を演じたプラバースの主演で近未来(?)の架空
都市が舞台のアクション作品。高層ビルが立ち並ぶその都市
では、複数の犯罪組織が覇権を競いながらも一方では協調し
て街を仕切っていた。ところが協調の中心にいたボスが交通
事故を装って暗殺され、その後目にボスの息子が名乗りを上
げるが、そこには異論も出ているようだ。そんな中で大規模
な窃盗事件が発生し、その捜査本部の指揮を組織に潜入捜査
していた刑事が取ることになる。刑事は内部情報にも精通し
て捜査を進めるが…。歌と踊りに女性刑事とのラヴアフェア
も絡めて上映時間169分の物語が展開される。共演は2013年
『愛するがゆえに』などの女優で歌手のシュラッダー・カプ
ール。監督は1990年生まれでYouTubeなどで人気を得たスジ
ートの長編第2作。前半はともかく後半のアクションの連打
はすごい。公開は3月27日より、全国ロードショウ。)

『新喜劇王』“新喜劇之王”
(2016年11月紹介『人魚姫』などのチャウ・シンチー製作、
脚本、監督で、1999年に自らの監督、主演で発表した出世作
の登場人物を女性に変えたリブート作。主人公はアルバイト
をしながら女優を目指しているが、現状はエキストラの掛け
持ちで何とか業界にいる程度。しかもスタニラフスキーの演
技論を信奉する彼女は監督からも煙たがられている。ところ
がある事情から落ちぶれた名優と共演した彼女に運命が微笑
み始める。出演はチャン・ツィイーらも学んだ中央戯劇学院
の出身で初めて主演に抜擢されたエ・ジンウェン。相手役を
2008年10月紹介『戦場のレクイエム』などのワン・バオチャ
ンが怪演している。エキストラからの出世話では2019年11月
7日付「東京国際映画祭」で紹介『リリア・カンタペイ』も
思い出したが、劇中にちょっと似たエピソードがあるのにも
嬉しくなった。公開は4月10日より、東京は新宿武蔵野館、
大阪はシネマート心斎橋にてロードショウ。)

『劇場』
(2015年『火花』で芥川龍之介賞を受賞した吉本芸人の又吉
直樹が、受賞作より前から書き続けていたという恋愛小説の
映画化。東京の下北沢界隈を舞台に若くして演劇を志した男
と、彼と偶然出会い自らを捨ててでも彼を支えようとする女
を描いた物語。男には挫折が続き、同世代にも後れを取って
いる。しかしそんな彼を彼女は信じている。汚れ切った大人
の目で見ると、何というか恥ずかしくなるような純愛が描か
れる。でもそれが評価されているのだろうな。こんな夢を自
分も観てみたいとは思わせる作品だ。出演は山崎賢人、松岡
茉優、寛一郎、伊藤沙莉。正に旬の若手が勢ぞろいといった
感じの配役だ。他に井口理、三浦誠己、浅香航大らが脇を固
めている。監督は2017年8月6日題名紹介『ナラタージュ』
などの行定勲。脚本は、行定監督の『ピンクとグレー』でも
タッグを組んだ劇団主宰の蓬莱竜太が担当。公開は4月17日
より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2020年02月09日(日) 囚われた国家、ndjc(優作について/CLUB DEJA-VU、カゾクデッサン、ポップスター、彼女は夢で、ムヒカ、白い暴、オーバー・ザ・L、悪い偶)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『囚われた国家』“Captive State”
2011年『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』の監督を務めた
ルパート・ワイアットの製作・脚本・監督で、2018年に襲来
した地球外生命体(エイリアン)により世界各国が支配された
後の未来社会を描いた作品。
その侵略は突然始まった。その混乱の中、シカゴの中心街か
ら脱出しようとした一家は攻撃を受け、前部座席にいた両親
は即死、後部座席で身を屈めていた11歳と15歳の兄弟が辛う
じて生き延びる。
それから9年後の2027年、世界の主要都市はエイリアンの支
配下に置かれていた。そして各都市の地下にはエイリアンの
居住区が設けられ、特にアメリカ政府は地下資源を搾取する
エイリアンに追従するばかりだった。
このためアメリカ社会では、エイリアンに協力する富裕層と
反抗する下層階級との格差が広がり、下層階級からはテロに
よる現状の打開が期待された。しかし圧倒的なエイリアンの
武力の前にそれは叶わぬ夢のまた夢だった。
そんな未来社会で、生き延びた兄弟の兄はテロリストのリー
ダーとして警察の追及を受ける身となり、他方の弟は父親の
元同僚だった警察特捜司令官の許で仕事も貰っていたが…。
その弟に行方不明だった兄との連絡の機会が訪れる。
そして再会した兄は、エイリアンへのテロ攻撃の最後の計画
を進めていた。

出演は、2017年2月5日題名紹介『ムーンライト』で10代の
主人公を演じたアシュトン・サンダースと、2019年5月紹介
『荒野の誓い』などのジョナサン・メジャース。他にジョン
・グッドマン、ベラ・ファーミガらが主要な役で登場する。
プレス資料によると監督は、脚本を書くに当ってはジャン=
ピエール・メルヴィル監督の1969年『影の軍隊』と、ジッロ
・コンテコルヴォ監督の1966年『アルジェの戦い』を参考に
したそうで、その点では本作はSFというよりレジスタンス
映画の雰囲気を捉えている。
その一方で監督は、歴代最高のSF作家として1982年『ブレ
ードランナー』の原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか
?』の著者フィリップ・K・ディックの名前を挙げており、
確かにそのイメージはあると言える。
とは言え本作ではレジスタンス映画の色彩は濃いもので、そ
の点では特に前半はSFの目で見るのは辛いかもしれない。
しかし後半に入ってテロの計画が進み始めると、警察との攻
防などが巧みにSFになって行く。それはSF映画ファンの
目にも好ましいものだった。
なお本作ではシカゴでの攻防戦が描かれるが、エイリアンの
支配は東京を含む世界各地で行われているもので、これは場
所を変えての別の攻防戦も描けそうだ。そんなシリーズ化も
期待したくなった。

公開は4月3日より、東京は池袋シネマ・ロサの他、全国の
イオンシネマでロードショウとなる。

『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2019・合評上映会』
2019年2月にも紹介した文化庁事業の2019年度版。事業の主
旨は昨年の記事にも書いた通りで、本年度も各映画団体から
推薦された若手監督による35�丱侫�ルムを使った各々30分の
作品が3本制作され、会場で上映された。
「あなたみたいに、なりたくない」
シナリオ・センター推薦。1986年生まれの川崎僚監督作品。
主人公は28歳の地味なOL。地味ゆえに土曜出勤なども頼ま
れやすいが、その場を救ってくれるやはり未婚の地味な先輩
もいる。そんな先輩を尊敬しながらも、ああはなりたくない
と思っている主人公だったが…。
主人公はその手の会社に登録して婚活を始め、様々な男性が
彼女の前に現れる。しかし彼女自身は何か違うものを感じて
いた。出演は阿部純子、小島聖、鳥谷宏之、吉倉あおい、藤
田真澄。
上映後のQ&Aによると監督自身も婚活経験ありようだが、
実体験に基づいている所為か、それなりに地に足の着いた安
定の作品にはなっていた。物語の展開も悪くはないが、そこ
までかな。もう一投何か変化球が欲しい感じがした。
「Le Cerveau - セルヴォ -」
デジタルハリウッド大学推薦。1986年生まれの島田欣征監督
作品。
主人公は女手一つで必死に息子を育ててきた母親。しかし息
子が病魔に侵され、救う手立ては彼女からの生体移植に限ら
れる。そんな時に交通事故に遭ってしまった主人公が目覚め
ると、彼女の精神は別の身体に宿っていたが…。
彼女を瀕死の状態から救ったという少年科学者の制止を振り
切り、彼女の元の身体と息子のいる病室に向った主人公は、
徐々に事件の真相に近付いて行く。出演は田中沙依、藤崎絢
己、南岐佐、八田浩司、上瀧昇一郎。
CGデザイナーでもある監督はVFXも手掛けたようで、そ
れらはそれなりに観られた。ただ物語はいろいろな要素を盛
り込み過ぎて30分には収まり切れなかったかな。少年科学者
など奇を衒った設定も物語に活きていなかった。
「魚座どうし」
PFF推薦。1997年生まれの山中瑶子監督作品。
主人公は小学4年生の女子。家庭は父親が長期の海外赴任中
で、母親の心にはぽっかり穴が開いているようだ。それを埋
める術がないことも幼いながらに判っている。そして同級生
の男子の家も父親不在で…。
その男子の母親が宗教に凝っていたり、彼の姉が反抗期にな
るなど、主人公の周囲で起きる出来事が描かれる。それでも
少女は明日を信じて生きて行く。出演は根本真陽、外川燎、
山田キヌヲ、伊東沙保、カトウシンスケ。 
上映後のQ&Aによると監督は10代半ばにこの物語を書き始
めたそうで、長編映画のダイジェストという感じなのかな。
全体的に物語が言い切れていない気がして、もやもやしたも
のが残った。
全体的に、今回の3作品はいずれも何か中途半端な感じで、
昨年の5作品に比べると物足りない思いがした。ただ通常の
試写で観る作品も近年そんな思いのすることが多いから、こ
れが時流なのかな。
なお例年5本程度作られてきたこのプロジェクトでは、今回
の3本は最少だが、実はこのプロジェクトの一環として別途
に長編の制作が進められたのだそうで、その作品は秋以降に
一般公開の予定とのこと。それも期待したい。

この週は他に
『優作について私が知っている二、三の事柄』
『CLUB DEJA-VU ONE NIGHT SHOW
            松田優作・メモリアル・ライブ』
(1989年11月6日に40歳で他界した松田優作。その翌年12月
3日に原田芳雄の呼び掛けにより池袋サンシャイン劇場にて
行われた追悼コンサートを写したヴィデオテープの復刻。同
コンサートを演出した崔洋一監督が再編集し、新たに制作さ
れたコンサートの出演者らへのインタヴューと共にDVD化
された。出演者の顔ぶれも見事だが、インタヴューで語る水
谷豊、桃井かおりらの発言や表情も堪らない。呼び掛け人の
原田も既に亡く、本編はプロデューサーの黒澤満が亡くなっ
てその遺品から発見されたとのこと。僕自身は同世代の人間
だから松田の偉大さは判っているし、そんな目で見ていると
残された者の無念や切なさも胸に迫ってくる。僕には1973年
『狼の紋章』の試写で松田が演じた羽黒獰を観た原作者・故
平井和正氏の感心振りも思い出された。なお本作のDVDは
2月5日に既に発売されたものだが、崔監督は劇場公開も希
望しているとのことなので、その支援のためここに記す。)

『カゾクデッサン』
(CMなどのスタジオマン出身で、2004年にnet配信の短編
を初監督したという今井文寛監督が脚本・製作も務める長編
デビュー作。ヒモ暮しをしている男の働くバーに場違いな少
年が現れる。少年は男の元恋人が母親だと言い、その母親が
交通事故で意識不明となり目を覚まさせる方法を探している
と告げる。その言葉に男は病室を訪れるが…。出演は2019年
6月9日題名紹介『暁闇』などの水橋研二、2019年6月紹介
『火口のふたり』などの瀧内公美、2018年2月25日題名紹介
『ミスミソウ』などの大友一生。他に中村映里子、大西信満
らが脇を固めている。ドラマとしてはありそうな展開だが、
細かい部分が色々と工夫されている感じの作品だった。皆が
事実を知っていながら、お互いを思ってそれを口にしない、
そんな家族の機微も良く描けていた。それに試される療法も
理に適っていてそれも心地よかった。公開は3月21日より、
東京は新宿K's cinema他で全国順次ロードショウ。)

『ポップスター』“Vox Lux”
(2016年9月紹介『シークレット・オブ・モンスター』にて
2015年ヴェネツィア映画祭の新人監督賞及びオリゾンティ部
門の脚本賞に輝いたブラディ・コーベットの監督第2作で、
ナタリー・ポートマンとジュード・ロウを製作総指揮及び主
演に招き、若くして人気の頂点に立ったスターを描く作品。
21世紀の始りの年、通っていた高校で銃乱射に巻き込まれた
主人公は負傷のリハビリで作った楽曲によりスターへの一歩
を踏み出す。それから17年後、スターの座から転落した彼女
はアルコールに溺れる日々だったが、再起を賭けたツアーの
直前に新たな乱射事件が報道される。しかもそこには彼女の
歌を想起させる仮面が使われていた。共演は2015年5月紹介
『トゥモローランド』などのラフィー・キャシディ。ポート
マン自身が過去には大ヒットシリーズに出演した際の葛藤を
語ったこともあり、そんな思いも込められた作品だ。公開は
4月3日より、全国ロードショウ。)

『彼女は夢で踊る』
(広島県出身の時川英之監督が広島市に実在したストリップ
劇場を舞台に、劇場のラストステージを迎える社長と全国か
ら集まった踊り子たち、そして劇場で繰り広げられた過去の
栄光とラヴストーリーなどが交錯する物語。その劇場は何度
も閉館が予告され、その度に復活して「閉館詐欺」などとも
呼ばれていたが…。楽屋から舞台に向かう階段の壁には無数
の口紅の跡が残され、それには舞台に立つ決意や様々な思い
が宿っていた。出演は2019年12月8日題名紹介『嘘八百』な
どの加藤雅也と、2018年8月紹介『仮面ライダービルド』の
犬飼貴丈、他に2017年9月24日題名紹介『ビジランテ』など
の岡村いずみ、現役ストリッパーとして活躍する矢沢ようこ
らが脇を固めている。舞台の劇場は2019年に遂に本当に閉館
になったようだが、映画には多少ファンタシーの要素もあっ
ていろいろ楽しめる作品だった。公開は4月10日より、東京
は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『ムヒカ世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』
(2012年にブラジル・リオデジャネイロで開催された「国連
持続可能な開発環境会議」での演説が話題になり、イギリス
・BBC放送が「世界一貧しい大統領」と紹介し、日本では
2014年に演説からの翻訳が絵本として出版されたウルグアイ
の元大統領ホセ・ムヒカを取材したドキュメンタリー。その
演説は、各国首脳がそれぞれの自国の基準で持続の可能性を
訴えたのに対して、ひと個人の幸せをそれぞれの立場から考
え直そうとするもの。その考えに共鳴したテレビの報道記者
が3年間5度にわたる渡航取材と、その間に行われた2015年
の訪日の様子を併せて本作は描かれる。実は冒頭では記者の
子供の誕生が報告され、これはやばいかなあとも思ったが、
この個人レヴェルの話題が実は大統領の演説にも呼応してこ
れはしたたかな作品に思えた。恐らくこの展開だから大統領
の訴える本質が描けたとも言えるのかな。公開は4月10日よ
り、東京はシネスイッチ銀座他で全国順次ロードショウ。)

『白い暴動』“White Riot”
(「英国病」とも呼ばれる経済破綻状態にあった1970年代の
イギリス。戦後復興のための労働力として世界中から呼び寄
せられた移民は何時しか市民の不安と不満の矛先となり、移
民=人種差別へと向って行く。それは移民排斥を掲げる政党
の台頭とそれを支持する白人社会の動向に顕著だった。そん
な中で発足された“Rock Against Racisim”略称RARは音
楽と結びつき、「Love Music, Hate Racism」のスローガン
の下で様々な活動を進めて行く。それが遂には10万人規模の
音楽フェスの実現となり時代を変革した。本作はその様子を
当事者へのインタヴューと様々なアーカイヴ映像。それに当
時の音楽と共に再現するドキュメンタリーだ。監督はオース
トラリア出身でイギリスBBCから多くのドキュメンタリー
を発表しているルビカ・シャー。これは今またEU脱退など
内に向く英国民に突き付ける作品だ。公開は4月3日より、
東京はアップリンク吉祥寺他で全国順次ロードショウ。)

『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』
                  “Over the Limit”
(2016年リオデジャネイロオリンピックの新体操ロシア代表
だったマルガリータ・マムーンの軌跡を追ったドキュメンタ
リー。その才能で彼女は栄冠を獲得できるとされていたが、
練習では完成されている技が、本番ではその実力が発揮され
ることなく、いつも2位の座に甘んじていた。そんな彼女を
指導しているのは、1994年世界選手権の個人総合で銀メダル
を獲得したウズベキスタン出身のアミーナ・ザリポアだった
が…。そんな2人の練習の場に現れたのは2008年から全ロシ
ア連邦新体操総裁を務めるイリーナ・ヴィネル。ザリポアを
見いだしたことでも知られるヴィネルは早速マムーンに激し
い言葉をぶつけ彼女を鼓舞し始める。その結果は。いやはや
日本だったらすぐさまパワハラで訴えられるところだろう。
海外では2015年の『セッション』にも比較されているが、こ
れはドキュメンタリーだ。公開は4月10日より、東京は新宿
ピカデリー他で全国順次ロードショウ。)

『悪い偶像』“우상”
(2018年7月紹介『1987、ある闘いの真実』などのソル・ギ
ョングと、2007年10月紹介『ユゴ|大統領有故』などのハン
・ソッキュのW主演で、ある交通事故が炙り出す人間の欲望
を描いた作品。一方は清廉なイメージで次期知事の座を狙う
市議会議員。他方は市井の労働者。ところが議員の息子がひ
き逃げ事件を起こし、被害者である労働者の息子が道端の遺
体で発見される。しかしその裏には政治生命を守ろうとする
政治家の画策があった。しかもそこに目撃者の存在が浮かび
上がり、その目撃者を巡って加害者の父親と被害者の父親の
攻防が始まるが…。脚本と監督はデビュー作がマーティン・
スコセッシに絶賛されたというイ・スンジンの第2作。見事
な展開というか、韓国の国情に合わせた物語の推移は正直な
ところは他国民の目には判り辛いが、じっくりと描き込まれ
た作品の見応えは充分だった。公開は4月17日より、東京は
シネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2020年02月02日(日) なんのちゃん(レ・ミゼ、在りし日の、ちむぐりさ、山の焚、衝動、子どもたちを、キスカム、馬三家、パラダイス・L、高津川、グリーン・L)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『なんのちゃんの第二次世界大戦』
幸運にもこの作品の初号試写を観させて貰った。初号試写と
いうのは本来は映画のスタッフ・キャスト向けに特別に行う
ものだが、今回は初対面の監督の厚意でその席に参加させて
貰った。まずは監督に感謝したい。
そんな訳で普段のマスコミ試写と異なり、資料の配布などは
なかったが、幸い本作に関してはすでにFacebookなども立ち
上げられて、そこに情報があったのでそれを参考に記事を書
かせてもらう。
物語の舞台はとある地方都市。すでに何年か前に「平和都市
宣言」は成されているらしく、そこに新たに現市長の肝いり
で「戦争記念館」の建設計画が持ち上がる。それは市長の再
選に向けたアピールでもあるようだ。
ところがその建設諮問会議の会場に、市長宛ての建設反対の
抗議文が、少女を模した石像の頭部と共に届けられる。しか
しその送り主は明らかで、直ちに市の職員の手で「建設趣意
書」と共に返送されるが…。
送り主の石材店の女主人は頑なにその受け取りを拒否し、そ
の家族もそれに同調する。それは現市長と石材店との代々に
亙る確執が原因だった。そんな状況下で市長選を背景に様々
な駆け引きが始まる。

脚本と監督は、助監督出身で今回長編初挑戦という河合健。
最近は映画学校など出身の監督が多い中で、助監督からのた
たき上げは珍しい。しかしFacebookを見るとその経歴は生き
ているようだ。
出演は2019年5月12日題名紹介『よこがお』などの吹越満、
2019年12月15日題名紹介『山中静夫氏の尊厳死』などの大方
斐紗子。さらに大杉漣の遺作になった連続ドラマ『バイプレ
イヤーズ』でジャスミン役の北香那らが脇を固めている。
この他にも舞台俳優の河合透真などプロの役者も出ているよ
うだが、出演者の多くはロケ地の兵庫県淡路島でのオーディ
ションにより選ばれた地元の人たち。東京近郊だとエキスト
ラも集めやすいが遠隔地ではこうなるものだ。
それにしても新人監督にこのハードルは高いかと思いきや、
Facebookに載っているオーディションやその後のワークショ
ップの様子などを見ると、助監督の経験がここに活かされて
いるのかと思うほどの見事なやり方だった。
物語は、第二次世界大戦に出征しなかったことで平和のシン
ボルに祭り上げられている市長の祖父と、B、C級戦犯の刑
に処せられた父を持つ石材店主との確執が係るものになって
いるが、その結末にもいろいろな思いが錯綜する。
この結末に関しては、明確でないことを批判する向きもある
かもしれないが、僕は敢えて観客に委ねたことでこの作品の
意味が生じると考える。それは前回題名紹介の作品で謳われ
た「分断」の是非がここには描かれているものだ。
テーマ的にはかなり難しい内容を、かなり巧みに描き切った
と言える作品だ。Facebookを見るとそこには監督の深い思い
もあるようだが、それをユーモアのオブラートに包んで良く
頑張って描いたと思える。
今までの日本映画が描いてこなかった新たな地平線が見えて
きた感じもした。

河合監督が個人で資金を集めて作り上げた自主映画とのこと
で、未だ公開の見込みなどは立っていないようだが、英語字
幕も制作中で、英題“Headless Girl”にて取り敢えず海外
の映画祭を目指すことにはなるようだ。
今後マスコミ試写が行われる際には連絡を貰えることにした
ので、試写が始まったら改めて紹介したい。

この週は他に
『レ・ミゼラブル』“Les misérables”
(ヴィクトル・ユゴー×スパイク・リーと称されるフランス
の現状を描いたドラマ作品。舞台はユゴーの小説にも描かれ
たパリ郊外のモンフェルメイユ。下層階級が暮らし、犯罪の
温床ともされるその町の警察に地方出身の警官が赴任する。
そして犯罪防止班(BAC)に配属された彼は先任の2人と共
に昼間のパトロールに出動するが…。ロマのサーカス団から
盗まれた仔ライオンの捜索など多少はユーモラスな描写に始
まって、ムスリム同胞団と麻薬売人組織、さらにロマと警察
など三つ巴、四つ巴の抗争が、子供たちの活躍も絡めてダイ
ナミックに描かれる。脚本と監督は同地出身のラジ・リ。俳
優として活動しながら地元の現状に迫るドキュメンタリーな
どを発表し、2017年制作の同名短編を基にした本作で長編デ
ビュー。カンヌ国際映画祭の審査員賞に輝いた。多民族国家
の実像を見事に描き出した作品だ。公開は2月28日より、東
京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『在りし日の歌』“地久天长”
(人口爆発で一人っ子政策が推し進められた1980年代から、
経済改革で貧富の差が拡大する2010年代までの30年間を背景
に、時代の流れに翻弄され続ける一夫婦を描いた中国映画。
1986年、夫婦の一人息子が死亡する。それは同じ日に生まれ
た同僚の息子と水遊びに出掛けての事故だった。しかし周囲
との軋轢に疲れた夫婦は移住を決意し、離れた土地で1人の
少年を家族とする暮しを続けたが…。実子でない少年との暮
しも容易ではなかった。こんな夫婦の変遷が、時代背景と共
に描かれる。脚本と監督は中国第6世代とされる2010年6月
紹介『北京の自転車』などのワン・シャオシュアイ。本作で
は夫婦を演じたワン・ジンチュンとヨン・メイにベルリン国
際映画祭の銀熊賞(俳優賞)のW受賞をもたらした。時間や場
所の交錯する編集には2007年1月紹介『バベル』を思い出し
たが…。主任編集者はタイ人のリー・チャタメティクールが
務めている。公開は4月3日より、全国ロードショウ。)

『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』
(本土にいるとなかなか見えてこない沖縄の現状を、アルバ
イトをしながら現地のフリースクールに通った北陸出身15歳
の少女の目を通して描くドキュメンタリー。元々は北陸新聞
が沖縄に暮らす少女に連載コラムを依頼したのが始まり。そ
こで最初にヘリパッドの建設に揺れる東村高江区に向かった
彼女は、「おじぃ なぜ明るいの?」という記事を纏める。
そこには沖縄の基地を巡る様々な状況が綴られる。そして本
作では、フリースクールを卒業して故郷に戻り20歳になった
少女が再び沖縄を訪れ、辺野古で進む埋め立ての状況などを
取材する。それは反対派と容認派の意見を分け隔てなく聴い
て行くものだ。題名はウチナーグチ(沖縄言葉)で「誰かの心
の痛みを自分のものとして心痛める」という意味だそうだ。
作中に沖縄言葉で歌われる「悲しくてやりきれない」が、そ
の成立の思いも含め心に沁みた。公開は3月28日より、東京
はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『山の焚火』“Höhenfeuer”
(2007年9月紹介『僕のピアノコンチェルト』などのスイス
の監督フレディ・M・ムーラーが1985年に発表し、ロカルノ
国際映画祭でグランプリを獲得した作品。スイスアルプスの
山間でほぼ自給自足の暮しを続ける夫婦と姉弟の一家。弟は
聾唖でそれが負担ではあるが、一家は仲良く暮らしていた。
しかし些細なことで弟は家を飛び出し、さらに山を登った辺
りで1人暮し始める。そこには姉も通ってそれなりに安定し
た暮らしとなるが…。1940年生まれの監督が45歳で円熟期の
作品がディジタルリマスターにより再公開になる。上記の紹
介でも一筋縄ではいかない監督と書いたが、本作の後半の顛
末にはかなり唖然とさせられる。因に監督は『楢山節考』に
インスピレーションを受けたそうだ。なお今回は「マウンテ
ン・トリロジー」と称して1974年『我ら山人たち』、1990年
『緑の山』も同時上映される。公開は2月22日より、東京は
渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『衝動 世界で唯一のダンサオーラ』“Impulso”
(ダンサーとバイラオーラ(女性フラメンコダンサー)とを合
わせた造語ダンサオーラを自称するスペインの天才ダンサー
・振付師ロシオ・モリーナが、フランス国立シャイヨー劇場
での公演に向けたリハーサルなどの日々を追ったドキュメン
タリー。26歳で最高の栄誉と言われる「スペイン舞踏家賞」
を受賞した女性ダンサーは、情熱的な激しい踊りと、フラメ
ンコの範疇に収まり切れない独創的な振り付けで観客を魅了
する。その踊りの本編は別のコンテンツになるものだが、そ
の合間などに見せる素顔がまた素晴らしく、そして本編を想
像させるダンスの端々だけでも充分に堪能できる作品だ。ま
あこれを前回題名紹介した日本の男性の踊りなどとは比較す
るのも失礼だろう。さらに本作では2018年6月17日題名紹介
『ラ・チャナ』の出演シーンもあって、椅子に座ったまま共
演するその健在ぶりも嬉しく感じられた。公開は3月13日よ
り、東京は築地東劇他で全国順次ロードショウ。)

『子どもたちをよろしく』
(元文部省の官僚2人が企画したという中学生の貧困や苛め
を扱った作品。先に登場するのはデリヘル嬢。実母と義父、
それに義父の連れ子で中学生の弟と4人暮らしだが、義父は
暴力を振るい実母はそれを見ぬ振りしている。そして弟には
女子が中心のグループがあり、彼らは通学路に住む父子家庭
の同級生を苛めていた。ところがその父親がデリヘルの運転
手と判り、弟はそのデリヘル嬢が義姉であることに気付く。
出演者には鎌滝えり、杉田雷麟、椿三期らの若手が揃い、他
に川瀬陽太、村上淳、有森也実らが脇を固めている。脚本と
監督は2007年『ワルボロ』などの隅田靖。まあ所詮は役人の
妄想なのだろうけど苛めの手口なども古臭くて、2020年1月
紹介『ひとくず』などとは違うレヴェルの作品だった。とは
言え最後に義姉が採る行動には唖然としたが…。公開は2月
22日からロケ地の群馬県で先行上映の後、東京では2月29日
から渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『キスカム! COME ON, KISS ME AGAIN!』
(前回題名紹介『踊ってミタ』に続いての映像コンテンツを
題材にした作品。主人公はカリスマ女CEOのいる化粧品会社
の宣伝企画担当者。しかし新商品の宣伝企画のプレゼンに失
敗し、CEOから恋愛コンサルタントの子会社に出向を命じら
れてしまう。そこは不仲になった男女のよりを戻す仕事をし
ていたが…。恋愛に積極的でない男性が、全てに積極的な女
性との恋愛に目覚めて行く姿が描かれる。出演は2019年12月
22日題名紹介『サヨナラまでの30分』などの葉山奨之。ヒロ
イン役は「CanCan」専属モデルの堀田茜。他に「ViVi」専属
モデルの八木アリサ。さらに塚本高史、森口瑤子、徳井義実
らが脇を固めている。監督は2014年にNPO法人映画甲子園主
催eiga worldcupで最優秀作品賞を受賞した松本花奈。脚本
をテレビで企画や脚本を手掛けるリンリン、脚本監修を漫才
師の山崎ケイが担当している。公開は4月3日より、東京は
新宿バルト9他で全国順次ロードショウ。)

『馬三家からの手紙』“Letter from Masanjia”
(中国各地に所在し政府に反対する者の再教育を行う収容施
設。その一つで造られたハロウィンの飾り物がアメリカのオ
レゴン州で販売される。しかしその飾り物の裏には8000km離
れた馬三家労働教養所で書かれた人権迫害を訴える手紙が隠
されていた。その手紙を発見した主婦がそれをマスコミに公
表したことから世界の言論が動き、批判に晒された北京政府
はついに労働教養所制度の廃止を宣言するが…。製作と監督
は、2014年に中国の臓器売買を扱った“Human Harvest”を
発表しているカナダ在住のレオン・リー。中国の人権問題を
追求し続けてきたドキュメンタリー作家の渾身の作品だ。作
品では制度廃止後に釈放された手紙の主・孫穀を中心に、彼
自身の中国国内での活動の様子なども描かれる。しかし中国
の制度は名前は変わっても存続し、新たな迫害が始まる。そ
んな恐怖も描かれる。公開は3月21日より、東京は新宿K's
cinema他で全国順次ロードショウ。)

『パラダイス・ロスト』
(2016年、ボブ・ディランのノーベル賞受賞式に代役で登壇
した女性歌手のパティ・スミス。彼女が1995年に夫と弟を亡
くした失意の中でディランに請われ出演したコンサートの名
前に準え、夫を亡くした女性の再生を描いた作品。脚本と監
督は2016年9月18日題名紹介『秋の理由』などの福間健二。
出演は2018年5月13日題名紹介『菊とギロチン』などの和田
光沙と、都立総合芸術高校で映像を専攻しドキュメンタリー
映画などを製作して多摩美に入学、映画初出演の我妻天湖。
他に2018年7月29日題名紹介『止められるか、俺たちを』な
どの江藤修平、2008年12月紹介『へばの』などの監督で『秋
の理由』にも出演の中村文洋、2011年以降の福間監督作品す
べてに出ている小原早織らが脇を固めている。内容は詩人で
もある福間監督の内面に根差すものだが、表面的にはファン
タシーで判り易い物語が展開される。公開は3月20日より、
東京はアップリンク吉祥寺他で全国順次ロードショウ。)

『高津川』
(島根県出身の錦織良成監督が2002年『白い船』以来、県内
各地で撮り続けている地元愛に溢れる作品。今回の舞台は県
西部を流れる一級河川上流の過疎化の進む村。流域にダムの
ない清流日本一とされる豊かな水に恵まれる村には、2019年
8月25日題名紹介『シネマ歌舞伎・幽玄』にも登場の石見神
楽が伝えられている。そんな村で主人公は農業を続けながら
神楽を守ってきた。しかし若者の流出が止まらない中で川の
上流にリゾート開発の話が公になる。そして主人公の一人息
子が神楽の練習をさぼり始める。その一方で村の小学校が廃
校となり最後の運動会を行うことになるが…。出演は2019年
9月8日題名紹介『初恋ロスタイム』などの甲本雅裕。他に
戸田菜穂、大野いと、田口浩正、高橋長英、奈良岡朋子らが
脇を固めている。2019年12月29日題名紹介『もみの家』でも
書いたが地元人が描く風景の魅力は格別だ。公開は4月3日
より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『グリーン・ライ エコの嘘』“The Green Lie”
(「環境に優しい」が謳い文句の日用品。その中で代表格と
されるパーム油を巡って「サステナビリティ(持続可能性)」
の一単語に隠された真実を探るドキュメンタリー。2015年に
インドネシアで起きた同国史上最悪とされる熱帯雨林火災。
それはパーム油生産のための焼き畑が原因とされ、「持続可
能性」への疑問が高まる。本作はその疑問をパーム油生産企
業にぶつけるところから始まる。その戦闘的なやり方にはマ
イクル・モーアの手法が感じられて最初は辟易したが、徐々
にやり方は変化し、さらに2010年メキシコ湾原油流出事件や
ドイツの露天掘り炭鉱の取材では被害に目を向けることで、
今我々がなすべきことの本質に迫って行く。そこにノーム・
チョムスキーMIT名誉教授との至言に満ちたインタヴュー
なども挿入される。脚本と監督と出演はオーストリア出身の
ヴェルナー・ブーテ。公開は3月28日より、東京は渋谷のシ
アター・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二