井口健二のOn the Production
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2020年03月29日(日) アンナ・カリーナ(いつくしみ、グッド・B、さらばわが愛、ひまわり、許された子ども、今宵、鵞鳥湖、ランブル、バナナP、燕)pandemic映画

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』
             “Anna Karina, souviens-toi”
ヌーヴェルヴァーグの申し子とも言われ、2019年12月14日に
他界した女優の生前に制作されたドキュメンタリー。
映画が始って直のアーカイヴのモノクロ映像で、「どこから
来たんだ?」という男に問いに「アルファヴィル」と答える
シーンが登場して心を鷲掴みにされた。勿論これは1965年の
ジャン=リュック・ゴダール監督作品の1シーンだが、実は
デンマーク出身の女優にこれは見事なプロローグだ。
1940年生まれの女優は、幼い頃の家庭環境はあまり恵まれて
いなかったようだが、船乗りの夫と別れて再婚した母親の連
れ合いがジャズを好んで、コンサートに連れて行って貰った
思い出話などを語る女優の姿は微笑ましかった。

本作は女優の生前パートナーだったデニス・ベリー脚本、監
督によるもので、女優がアーカイヴの映像を見ながら自身を
語る構成。2004年5月紹介『ぼくセザール10歳半1m39�僉戮�
も出ていた女優の正に宝箱という感じの作品だ。
それにしても故郷を飛び出してパリにやってきた女性がモン
マルトルのカフェでモデルにスカウトされる下りは、状況は
違うが2020年3月1日題名紹介『ANNAアナ』に似ている感じ
がして、ひょっとしてリュック・ベッソンはオマージュを捧
げたのか、とも思えてきた。
それくらいにフランス映画界にとって愛されてきた女優なの
だろう。
その一方でナチス占領下での戦争の記憶や、パリ・カルチェ
ラタンの闘争の思い出、そして映画撮影で訪れていたチェコ
で遭遇した「プラハの春」の弾圧の模様などは、いずれも市
街戦という状況でその恐怖も伝わってきた。
正に20世紀を生き抜いてきたという感じもしてきたもので、
それが1949年生まれの自分にとっても、特に後半の2つの状
況から同時代を生きたという感覚が生じたものだ。
個人的には彼女を観たのは1967年の『気狂いピエロ』からだ
と思うが、その中で上半身裸の彼女が窓を通して監視されて
いることに気付き、あるものを使ってそれを誤魔化すシーン
は鮮烈な印象を残してくれた。
残念ながらそのシーンは本作には登場しなかったが、
本作に
引用された作品の中には著作権などの関係で日本では上映で
きない作品/シーンもあり、今回はプロヂューサーの尽力に
より今年限りの限定での上映が許可されたものだそうだ。
今観るしかないという作品だ。
公開は6月13日より、東京は新宿K's cinema他にて全国順次
ロードショウとなる。
なお同じく著作権の関係で来年以降日本での公開が困難にな
る『気狂いピエロ』もディジタルリマスター版により同劇場
にて上映される。

この週は他に
『いつくしみふかき』
(劇団チキンハート主宰の遠山雄企画、出演で、ベテラン俳
優の渡辺いっけいが映画初主演を果たした作品。山間の村に
死ぬためにやってきたという男は、村の娘と結婚し妊娠させ
るが、出産当日に実家で空き巣を働き、村を追い出される。
それから30年が経ち、成長した子供はぐうたらで、ダメ男に
なっていた。そこに父親が戻ってくる。しかしともにダメな
親子は村を追われ、反発しながらも叔父が神父を務める教会
に身を寄せる。そして一つ屋根の下で暮らし始めるが…。脚
本と監督は遠山の盟友で舞台演出家の大山晃一郎。共演は平
栗あつみ、榎本桜。他に黒田勇樹、三浦浩一、眞島秀和、塚
本高史、金田明夫らが脇を固めている。渡辺と遠山がダメな
父子を演じて展開などは面白いのだが、何というか2人の関
係のバランスが悪くて、結局どちらを見れば良いか判らず、
僕は消化不良のまま終ってしまった。公開は4月17日より、
東京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)

『グッド・ボーイズ』“Good Boys”
(2018年3月紹介『ワンダー 君は太陽』などのジェイコブ
・トレンブレイの主演で、2016年10月16日題名紹介『ソーセ
ージ・パーティー』などのセス・ローゲンが製作を務め、初
キスに憧れる小学生を描いた作品。12歳の主人公は憧れの同
級生も参加する初キス・パーティに誘われるが、キスの仕方
がよく判らない。そこで父親のドローンを無断で借用してキ
スの実態を探ろうとするが…。脚本と監督は2012年4月紹介
『バッド・ティーチャー』の脚本を手掛けたジーン・スタブ
ニツキーの監督デビュー作。日米共にPG12の指定だが、以前
だったら恐らくR18指定は免れなかっただろうと思われる台
詞や小道具が満載の作品。これが時代の流れなのだろうとは
思うが、やはり子供を育てた親としては眉を顰めたくなる。
とは言うものの面白いことは間違いなく、大人は苦笑いしな
がら子供は大笑いして観るのだろう。公開は5月22日より、
東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『さらばわが愛、北朝鮮』
          “굿바이 마이 러브 NK: 붉은 청춘”
(1956年「8月宗派事件」を切っ掛けにソ連に亡命した北朝
鮮からの留学生8人の消息を追ったドキュメンタリー。元は
10人の若者がモスクワ国立映画大学に留学していた。しかし
祖国で金日成の個人崇拝を確定する政変が起きた時、その内
の8人が亡命を決意する。ところが個人崇拝は批判しても国
家間の友好は損なえないソ連政府は、彼らが一か所に留まる
ことを認めず、遠隔地への移住を強制する。こうして各地に
散らばった8人の中には映像制作や作家として名を成した人
もいるが、全員が成功者ではないようだ。そんな歴史に翻弄
された人たちの姿が、制作時には2人だけだった生存者と、
1人の未亡人へのインタビューで描かれる。監督は「女性史
三部作」や「亡命三部作」の連作ドキュメンタリーで知られ
る韓国のキム・ソヨン。本作は後者の掉尾となるものだが、
まだ語り足りないものがある感じの作品だ。公開は5月2日
より、東京は新宿K's cinemaにてロードショウ。)

『ひまわり』“I girasoli”
(ヴィットリオ・デ・シーカ監督、ソフィア・ローレン、マ
ルチェロ・マストロヤンニの共演で、第2次大戦のロシア戦
線に赴いたイタリア兵の悲劇を描いた1970年の名作がディジ
タルリマスターにより再公開される。映画はイタリアの名優
2人の共演だが、実は1970年当時に僕が見たかったのは彼ら
ではなかった。その数年前に2部作で公開されたモスフィル
ム版『戦争と平和』で鮮烈な印象を残した女優リュドミラ・
サヴェーリエワが、当時のソ連政府から唯一国外出演を許可
されたのが本作だったのだ。しかし今回のプレス資料には彼
女の紹介文はなく、その点では多少ショックを受けることに
なってしまった。そこで調べてみたら、1942年生まれの彼女
は2009年放送のテレビ版『アンナ・カレーニナ』に登場人物
の親の役で出演、また70歳の誕生日にはパーティも催されて
健在とのことだった。再公開は5月1日より、東京はヒュー
マントラストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『許された子どもたち』
(2012年3月紹介『先生を流産させる会』の内藤瑛亮監督が
再び青少年が犯した犯罪をテーマにした作品。内藤監督はこ
の間に『ドロメ』や『ミスミソウ』などの作品も撮っている
が、本作では自主制作映画のスタンスに立ち返って作り上げ
ているものだ。物語は少年が故意か事故か微妙な状況で同級
生を殺してしまうというもの。ところが愛情過多の母親や自
信過剰の弁護士が自らの目的のために少年の気持ちを覆し、
無罪に相当する不処分を獲得してしまう。しかしそれは少年
を地獄に落として行くことになるが…。出演はテレビ番組で
サッカー大久保嘉人選手の幼少期を演じたことがあるという
上村侑。他に黒岩よし、名倉雪乃、阿部匠晟らが脇を固めて
いる。内容的には2012年作と似通っているが、さらに深みを
もって厚く描き込んでいると感じる作品だ。監督には生涯離
れられないテーマになるのかな。公開は5月9日より、東京
は渋谷のユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『今宵、212号室で』“Chambre 212”
(2013年5月紹介『愛のあしあと』などのクリストフ・オノ
レ脚本、監督で、恋する女の不思議な体験を描いたファンタ
シー要素の強い作品。主人公は法律が専門の女性大学教授。
20年間連れ添った夫はいるが関係は“家族”で、彼女はアヴ
ァンチュールに明け暮れている。ところがそれが夫にばれ、
怒る夫から逃げるようにアパートを飛び出した彼女は、向い
のホテルの212号室に宿を取って夫の行動を観察するが…。
そこに20年前の夫が現れ、さらに夫の初恋の女性や彼女の過
去の恋人らが次々に昔のままの姿で現れる。出演は13年作に
も出ていたキアラ・マストロヤンニと、2018年東京国際映画
祭でグランプリ受賞『アマンダと僕』などのヴァンサン・ラ
コスト。他にカミーユ・コッタン、バンジャマン・ビオレら
が脇を固めている。辻褄は合わないところだらけだが、女性
の気持ちは判るような作品だ。公開は6月12日より、東京は
Bunkamura ル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)

『鵞鳥湖の夜』“南方車站的聚會”
(2014年『薄氷の殺人』でベルリン国際映画祭金熊賞に輝い
たディアオ・イーナン脚本/監督による2019年カンヌ国際映
画祭コンペティション部門選出作品。中国南部の湖の畔で、
再開発から取り残されたような街を舞台に、対立する2つの
犯罪グループと警察の三つ巴の抗争が描かれる。主人公は刑
期を終えて街に帰ってきた古参。ところがバイク窃盗団の縄
張りで若い兄弟が率いるグループと対立し、その抗争の中で
誤って警備の警官を殺してしまう。このため警察は懸賞金を
掛けて主人公を追うが、今度はその金を巡って新たな動きが
発生し…。出演はジャッキー・チェンの愛弟子で2011年10月
紹介『1911』などのフー・ゴーと、『薄氷の殺人』にも主演
した2002年10月31日付「東京国際映画祭」で紹介の『藍色大
門』(公開名:藍色夏恋)などのグイ・ルンメイ。展開はかな
り判り難いが、結末は明快なお話だ。公開は5月29日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)

『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』
     “Rumble: The Indians Who Rocked the World”
(1952年に発表されて歌詞がないのに放送禁止になった楽曲
を基に、その作曲・演奏者がインディアンだったという点を
踏まえて制作されたドキュメンタリー。もちろん中心テーマ
は音楽だが、この作品ではそれに併せて黒人問題に隠れがち
なネイティヴアメリカンの迫害の歴史が紐解かれる。それは
先住民として土地の権利を主張されることへの恐れから、そ
の民族・文化を抹殺しようとした白人たちの企みの告発だ。
そして居留地を逃げ出したインディアンが黒人の居住区に隠
れたり、逆に逃亡奴隷の黒人が居留地に逃げ込むなどで両者
の混交が進み、その中から新たな音楽が誕生し、それが標記
の楽曲を生み、ロック、フォーク、ブルースからジャズ、ヘ
ヴィメタル、ヒップホップを生み出した。これは今まで僕が
考えたこともなかった新たなアメリカ音楽史の提示だった。
正に眼を開かせてくれる作品。呆気に取られるほど面白い。
公開は5月26日より、東京都写真美術館ホールにて上映。)

『バナナパラダイス』“香蕉天堂”
(2019年金馬奨で名誉賞の終身成就奨を受賞した台湾映画界
のレジェンド、ワン・トン監督が1989年に発表した148分の
大作。映画の始まりは1949年中国華北。国共内戦中に国民党
軍に潜り込んだ主人公は、敗残軍と共にバナナが実る台湾に
やってくる。そこで故郷に帰る道も失ったまま名前を変え、
学歴を詐称して生き続けたが…。ふんだんに実るバナナだけ
が心の慰みと言える悲しい人生の物語だ。日本軍兵士は敗戦
しても故郷が残ったが、国民党の兵士には故郷に帰る術も奪
われた。況してや身分を偽る主人公には故郷を求めることも
できなくなる。僕には今まで想像もしたこともない物語だっ
た。これをじっくりとした演出で克明に描いて行く。出演は
後に2010年11月紹介『モンガに散る』などの監督になるニウ
・チェンザーと、1997年の三池崇史監督『極道黒社会』に出
ていたというチャン・シー。4月18日−6月12日に新宿K's
cinemaで開催「台湾巨匠傑作選」の中心作として上映。)

『燕Yan』
(タレント本などの編集ライター鷲頭紀子の脚本を、2019年
12月22日題名紹介『サヨナラまでの30分』などの撮影を手掛
けた今村圭佑の監督デビューで映画化した作品。日本と台湾
を舞台に、幼い頃に日本に置き去りにされた若者と台湾人の
母親の確執が描かれる。母親は日本に居場所がなくて兄だけ
を連れて台湾に帰ったというのだが、その経緯がどうも判ら
ない。主人公の若者には日本人の実父とその妻の継母がいる
のだが、この実父と台湾人の母親の関係は妾だったのかな。
それにしても幼い次男だけを置き去りにするという理由付は
ちゃんとして貰わないと、主人公の怒りは理解を通り越して
母親の所業に呆れるしかなくなる。目先の流れだけを追って
本来の物語が見失われてしまったような感じの作品だ。出演
は水間ロン、山中崇、テイ龍進。他に田中要次、平田満、一
青窈らが脇を固めている。公開は6月5日より、東京は新宿
シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
        *         *
 全世界的にCOVID-19(新型コロナウイルス)が蔓延する中、
Netflix ではパンデミック映画の特集配信も始まったようだ
が、アメリカのサイトでは‘7 best and 7 worst pandemic
movies’という記事も紹介されていた。
 そこでまず‘7 best’に挙げられていたのは
『コンテイジョン』(2011年10月紹介)
『アウトブレイク』(1995年)
『28日後...』(2003年6月紹介)
『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017年7月紹介)
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)
『ゾンビランド』(2010年5月紹介)
『12モンキーズ』(1996年)
 この内の1番目と2番目の作品は間違いなくウイルスの蔓
延が描かれたものだが、それ以下の6番目まではどちらかと
いうとゾンビ物のイメージが強い。そして7番目はタイムト
ラヴェルが主題でこれも何かなあという感じがした。
 因に‘7 worst’は
“Resident Evil: Apocalypse”
“Cabin Fever”
“Survival of the Dead”
“Carriers”
“Nightmare City”
“Zombi 2”
“Pride and Prejudice and Zombies”
だそうで、日本未公開の作品もあるので原題のみにするが、
こちらも何か本質からずれている感じがしたものだ。
 一方、アメリカの映画データベース(IMDb)の投票サイトに
は‘Most Dangerous Virus’というテーマで35作品が候補と
して挙げられており、今日現在では
『コンテイジョン』(2011年10月紹介)
『28日後...』(2003年6月紹介)
『バイオハザード』(2002年)
『アイ・アム・レジェンド』(2007年12月紹介)
『ワールド・ウォーZ』(2013年7月紹介)
『12モンキーズ』(1996年)
『アウトブレイク』(1995年)
が上位になっているものだが、この35本の中に何と小松左京
原作の『復活の日』がノミネートされていた。
 深作欣二監督、草刈正雄主演によるこの作品は、海外では
“Virus”“Day of Resurrection”などの題名で上映された
ものだが、実は原作初版の発行日が1964年。つまり前回東京
オリンピックの年で何となく因縁を感じる。
 さらに映画化の公開は1980年。この年にはモスクワオリン
ピックが行われたが、ソ連のアフガニスタン侵攻に反対した
アメリカ、日本が大会をボイコット。そして今回はドーピン
グ問題でロシア代表の出場が拒否されているものだ。
 この巡り会わせには不安も感じてしまうところだが、今日
現在の投票サイトでは35作品中28位となっており、もう少し
順位は上げたいかな?
 投票はこちらへ
https://www.imdb.com/poll/hQ3f0xVT-Q8/?ref_=po_ti

 次回はコロナ禍で試写に行けないため休載とします。



2020年03月22日(日) デッド・ドント・ダイ、君の誕生日(はるヲうるひと、薬の神じゃない!、サイコマジック、のぼる小寺さん、裏アカ、ハニーランド永遠の谷)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『デッド・ドント・ダイ』“The Dead Don't Die”
2017年7月9日題名紹介『パターソン』などのジム・ジャー
ムッシュ監督が、2013年10月紹介『オンリー・ラヴァーズ・
レフト・アライヴ』に続いて挑んだジャンル・ムーヴィ。今
回はカンヌ国際映画祭のオープニングを飾った作品だ。
そのジャンルは、前作では吸血鬼だったが、本作はゾンビ。
そして描き方は、前回は耽美主義的だったが、今回はホラー
コメディ調とジャンル映画のファンも納得させる作品になっ
ていた。
物語の舞台はアメリカの田舎町。その町で深夜勤務を終えた
ダイナーのウエイトレス2人が腹を食いちぎられて殺される
という事件が発生。その現場には町に3人しかいない警官が
駆け付け、1人がゾンビの仕業と見破る。
そして“Kill the Head”(頭を殺れ)を合言葉にゾンビとの
対決が始まるが…。そこに合気道の道着で鍔無しの日本刀を
振り回す葬儀社の女化粧師も参戦して、壮絶な戦いが繰り広
げられる。
さらに映画には様々な作品へのオマージュや、とんでもない
ギミックなども登場してファンを喜ばせ、最後には監督から
の辛辣なメッセージが語られる作品だ。

出演は、2004年12月紹介『コーヒー&シガレッツ』以降の監
督とは4度目のタッグのビル・マーレイ。『パターソン』に
続いて2度目のアダム・ドライヴァ。『オンリー・ラヴァー
ズ…』に続き4度目のティルダ・スウィントン。
他に3作目のクロエ・セヴィニー。4作目のスティーヴ・ブ
シェミらのファミリーが結集し、ダニー・グローヴァー、イ
ギー・ポップ。そして『コーヒー&シガレッツ』以来久々の
トム・ウェイツらが脇を固めている。
さらにオースティン・バトラー、ルカ・サバト、セレーナ・
ゴメスらの若手の起用も注目の作品だ。
それにしてもマーレイ、ドライヴァ、ブシェミの男優3名の
役名がクリフ・ロバートスン(俳優)、ロニー・ピータースン
(F1ドライヴァー)、フランク・ミラー(アメコミ作家)とい
うのも面白い。
ゾンビのスタイルとしては、2019年9月29日題名紹介ジョー
ジ・A・ロメロ監督の1978年作品をしっかりと踏襲したもの
だが、ゾンビの嗜好が本来の生きた人間の肉だけでなく様々
に展開されていて、そこに監督の主張が込められている。
それが少し生硬に語られる感じなのは多少気になったが、こ
れくらいにしないと今の観客には理解されないという感覚な
のかな。ただしそれをギャグにしているのはさすがという感
じもしたものだ。
ファンも満足の作品になっていた。
公開は4月3日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『君の誕生日』“생일”
2018年7月紹介『1987、ある闘いの真実』などのソル・ギョ
ングと、2017年11月19日題名紹介『スキャンダル』などのチ
ョン・ドヨンの共演で、韓国で起きた現実の出来事にインス
パイアされたドラマ作品。
映画の始まりは大きな荷物を抱えて妻と幼い娘がいるはずの
アパートを訪れる男性の姿。しかし呼び鈴に反応はなく、男
性は別の親族の許へ身を寄せる。その後に男性は妻子と会う
ことが出来るが、妻の態度は頑なだった。
そんな妻の許へは遺族を支援する団体と称する人物が、息子
の誕生日会の準備をするとして訪れる。しかし妻はその誘い
も断り続ける。その態度には異常性も感じさせる。そして妻
は息子の写る集合写真を手に入れるが…。
そんな妻の態度に振り回される夫と幼い娘。それでも夫と娘
は打ち解け始め、娘の遠足には父親が同行するのだが…。潮
干狩りの海辺で娘は水に入ることに異常な拒否反応を示し、
それを妻は夫の無理解と叱責した。
そして妻子が転居したことには、夫の裁判費用を工面するた
めだったという理由も語られる。

共演者には見事な演技を見せる子役のキム・ボミン、2008年
『チェイサー』などの製作者で脚本家としても知られるキム
・スジン。さらにユン・チャニョン、イ・ボンリョンらの若
手が脇を固めている。
例によって事前の情報を入れないで観ていた僕には上記の展
開は謎だらけだった。しかしその後の妻がスマホのlineを見
るシーンで謎は一気に解けた。本作は、2014年4月16日のセ
ウォル号沈没事故を背景としたものだったのだ。
修学旅行の高校生を含む300人以上が犠牲となったこの事故
では、脱出不能となった船内から送られたメールやSNSが
さらにその悲劇性を高め、韓国の人たちにはその後の政府の
対応なども含めて生涯忘れえぬ記憶となった。
本作はその事故の話を初めて映画化したものだ。従って本作
では、韓国の人たちは当然物語の背景を知った上で鑑賞した
もので、その点では僕の鑑賞は間違ったものになる。しかし
それでも本作は充分に高く評価できる作品だ。
しかも上記の状況を理解した上でも夫=父親の経緯には謎が
残り、それが物語に深みを与える。そしてその謎が全て明ら
かになった後に描かれる最後のシーン。それは30分のドラマ
を3台のカメラで一気に捉えたという究極の映像だ。

脚本と監督は、チョン・ドヨン主演2008年4月紹介『シーク
レット・サンシャイン』などのイ・チャンドン監督の許で研
鑽したというイ・ジョンオンの長編デビュー作。監督自身が
2015年ヴォランティアでの体験を基に描いた作品だ。
内容は全く異なるが、映画としては前回題名紹介の河瀬直美
作品にも通じるところを感じるもので、これこそが映画の力
を体現している作品と言える。セウォル号被害者の遺族への
上映会でも大きな賛辞を得たそうだ。

公開は6月5日より、東京はシネマート新宿他で全国ロード
ショウとなる。

この週は他に
『はるヲうるひと』
(最近はクイズ番組のMCでも注目の俳優佐藤二朗の原作に
より、自ら主宰の劇団で2009年に初演、14年に再演した舞台
を佐藤の脚本、監督、出演で映画化した作品。そこは本土か
ら1日2便の連絡船が往来するという架空の離島。至る所に
置屋が点在する正に売春島だ。その1軒の置屋には父親の跡
を継いだ兄弟と妹が4人の娼婦と共に暮らしていた。しかし
弟妹と腹違い兄はトラウマからか凶暴・凶悪に店を支配し、
弟妹はその陰で必死に生きていたが、病弱で客を取らない妹
には娼婦の嫉妬も湧いている。共演は山田孝之と仲里依紗。
他に坂井真紀とオーディションで素人から大抜擢された駒林
怜。また舞台にも出演の今藤洋子、笹野鈴々音、兎本有紀、
大高洋夫、太田善也。さらに向井理らが脇を固めている。か
なり壮絶な展開で、佐藤に鬼才の二文字が冠されるのも頷け
る作品。そこに山田がさらに上積みをしている。公開は5月
15日より、東京はテアトル新宿他で全国ロードショウ。)

『薬の神じゃない!』“我不是药神”
(中国の薬事法に関り、最終的にその改正を促したとされる
実話に基づく作品。主人公はインドから強壮剤の輸入をして
いた漢方薬店の店主。商売は低迷して店も追い出されそうに
なった主人公にインド製のジェネリック薬の買い付けが依頼
される。その薬は正規のスイス製のみが承認されていたが、
その価格は庶民には手の届かないものだった。そこで主人公
は人助けでインド薬の密輸を始めるが…。出演は2019年6月
30日題名紹介『帰れない二人』などのシュー・ジェン。脚本
と監督は新人のウェン・ムーイエが手掛けた。背後には汚職
の匂いもするが今の中国映画ではそこは追及せず、美談で描
かれる。因に映画の後半に鉄道の切符が出てくるが、その行
き先が「凱里」。そこで中国の時刻表を調べてみたら「南上
海―凱里」間の旅程は普通列車で24時間50分。高速鉄道もあ
るが、切符は普通列車のようだった。公開は5月1日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『ホドロフスキーのサイコマジック』
          “Psychomagie, un art pour guérir”
(2017年8月20日題名紹介『エンドレス・ポエトリー』など
のアレハンドロ・ホドロフスキー監督が考案し、実践してき
た心理療法について描いたドキュメンタリー。元々心理分析
に興味のあった監督は、当初はフロイト的な心理療法を研究
したようだが、人間を精神的に開放するに当って言葉だけで
は足りないと判断し、自らが芸術を体現する立場から、より
行動的な心理療法を開始する。それは本作を観る限りにおい
ては共に触れ合い、共に行動することで精神的な障壁を取り
除こうとしているようで、密接に身体を触れ合わせることで
信頼関係を築き、精神的な開放を実現しているようだ。それ
は作品を見る限りにおいて納得のできるものではあった。た
だしこのやり方は、一部の宗教においても行われているもの
であるし、それを科学ではなく芸術で実現するという言い方
には多少の危惧は感じるものだった。公開は4月24日より、
東京はアップリンク渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『のぼる小寺さん』
(元モーニング娘。で、2018−19年『快盗戦隊ルパンレンジ
ャー』のイエローを演じた工藤遥が、初単独主演でタイトル
ロールを演じる作品。ボルダリングに夢中な女子高生の主人
公は、進路調査票にもクライマーと書いてしまうほどの天然
だったが、他にも進路を決められない級友たちの中で徐々に
その存在が輝いて行く。共演は、2019年7月7日題名紹介『惡
の華』などの伊藤健太郎。他に鈴木仁、吉川愛、小野花梨ら
が脇を固めている。監督は2008年1月紹介『奈緒子』などの
古厩智之。珈琲原作同名青春漫画からの脚本は、2016年8月
28日題名紹介『聲の形』などの吉田玲子が担当した。同競技
がテーマの作品では2018年3月11日題名紹介『ラスト・ホー
ルド!』などもあったが、今大会からオリンピックの正式種
目(競技名はスポーツクライミング)ということで、これから
はルールも判るようになるのかな? 公開は6月5日より、
東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『裏アカ』
(2019年10月紹介『GHOST MASTER』や2020年3月8日題名紹
介『水上のフライト』などを輩出のTCPで2015年・第1回
の準グランプリを受賞した加藤卓哉脚本、監督による作品。
社会生活に行き詰った30代の女性が、ふと始めたSNSの裏
アカウントで新たな自分を見つけるが…。出演は2019年6月
紹介『火口のふたり』などの瀧内公美と2019年12月2日題名
紹介『転がるビー玉』などの神尾楓珠。他に市川知宏、神戸
浩、SUMIRE、松浦祐也、仁科貴、ふせえり、田中要次らが脇
を固めている。男性の作り手がその目線から都合の良い女性
を描いたような作品で、前回題名紹介『恋する男』に通じる
匂いも感じた。共同脚本には2017年4月2日題名紹介『武曲
MUKOKU』などの高田亮が名前を連ねており、もっと男らしい
作品も期待したが、R15+指定で、何というか目先に流され
たかな? 公開は6月12日より、東京は新宿武蔵野館他で全
国ロードショウ。)

『ハニーランド 永遠の谷』“Honeyland”
(バルカン半島北マケドニア共和国の山間部で、天然のはち
みつ採りを生業とする女性の姿を追ったドキュメンタリー。
後半の劇的な展開には真実なのか疑問も生じたが、ほぼ廃村
状態の人里離れた場所で石垣の室に出来る蜂の巣を半分だけ
採取し、後は蜂たちのために残しておくという暮し振りは、
正に持続可能な生き方が体現されていた。そしてそこに現れ
るトルコ人(ロマ?)のやり方が持続を妨害する文明の象徴に
もなっている。監督は首都スコピエ出身で長年環境問題を扱
った作品を手掛けてきたリューボ・ステファノスと、同国南
部の出身で前作でも共同監督を務めたタマラ・コテフスカ。
採取した蜂の巣の半分を蜂のために残すというやり方は、テ
レビの取材番組か何かで観た記憶もあるが、後から来た一家
の杜撰さには怒りも感じ、厳しい環境の中で健気に生きる女
性に引き込まれる作品だった。公開は5月1日より、東京は
アップリンク渋谷他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2020年03月15日(日) 小説の神様、ミセス・ノイズィ(トキワ荘、島にて、海辺の映画館、恋する男、ジャズ喫茶、ルース・エドガー、朝が来る、タゴールS、追龍)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『小説の神様 君としか描けない物語』
『ミセス・ノイズィ』
今週は小説作家を主人公にした映画の試写を2本観たので、
纏めて紹介する。
1本目は2009年の鮎川哲也賞受賞でデビューした推理作家の
相沢沙呼が2016年に文庫書下ろしで発表したライトノベルの
映画化。
主人公は2人。その1人目は中学生の時に応募した作品が受
賞して作家デビューしたという男子高校生。しかしその後に
発表した作品では評価が下がり続け、SNSでも酷評が続い
て作家としての自信を完全に失っている。
そしてもう1人は彼の居るクラスに転入してきた女子高生。
実は彼女も華々しくデビューした作家だったが、最近は少し
スランプ気味だった。そんな彼女を部長から命を受けた主人
公が文芸部に勧誘する。
斯くして2人のプロ作家が揃った文芸部だったが、2人の意
見は小説の在り方を巡って対立。そんな2人に出版社からあ
る提案がされる。それは構成力に長ける彼女のプロットで、
文章力のある彼が共作しないかというものだった。
その提案に渋々応じた彼だったが、2人の共同作業が進む内
に、彼は彼女の意外な秘密を知ることになる。

出演はEXILE TRIBEの所属で2019年2月17日題名紹介『4月
の君、スピカ。』などの佐藤大樹と、2019年11月17日題名紹
介『シグナル100』などの橋本環奈。
他に佐藤流司、柴田杏花。さらに莉子、坂口涼太郎、山本未
來、片岡愛之助、和久井映見らが脇を固めている。
脚本は2015年公開の歴史映画『杉原千畝 スギハラチウネ』
の鎌田哲郎。監督は2016年からの『HiGH&LOW』シリーズで
そのほとんどを手掛ける久保茂昭が担当した。
典型的なライトノベルという感じの作品だが、主演の2人の
雰囲気にはマッチしている感じかな。それに2人がそれぞれ
抱える作家としての使命感みたいなものも、それなりに理解
できる感じがした。
活字離れというか、書籍離れが進む時代には、こんな物語が
あってもいいかなあと思える作品だ。

公開は5月22日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード
ショウとなる。
2本目は、2012年1月紹介『桃まつり〜すき〜』の中で『フ
ィガロの告白』という作品を発表していた天野千尋監督の、
オリジナル脚本による長編デビュー作。
主人公は主婦でもある兼業の作家。そんな作家が夫と幼い娘
と共に郊外の集合住宅に引っ越してくる。ところが締め切り
に追われ荷解きも疎かに徹夜した彼女は、早朝から始まった
隣部屋からの布団叩きの騒音に苛立ちを募らせる。
その上、編集部に持ち込んだ原稿がダメ出しされて落ち込ん
だ彼女は、ベランダ越しに文句を言ってしまうが…。彼女が
執筆にかまけている間に幼い娘が部屋から出てしまい。隣部
屋の住人と一緒にいたことが判明する。
この状況にさらに怒りを募らせた彼女はそれを小説に書いて
しまう。しかしそれが好評を呼び、さらにある出来事が起き
て…。

出演は2019年2月24日題名紹介『さよならくちびる』などの
篠原ゆき子と、2017年9月24日題名紹介『レミングスの夏』
などの大高洋子(共に初主演?)。それに2019年7月28日題名
紹介『駅までの道をおしえて』などの新津ちせ。
他に長尾卓磨、宮崎太一、米本来輝。さらに洞口依子、和田
雅成、田中要次、風祭ゆきらが脇を固めている。
実は映画の中でも主人公の作品には登場人物に深みがないと
言われるのだが、その点が本作にも呼応してしまっている。
それは特に主人公が作家のステレオタイプに描かれ過ぎてい
る点が気になった。
これに対して隣部屋の住人に関してはそれなりに描かれてい
るから、観客としては何とも居心地が悪くなる。恐らく監督
はこれで主人公に普遍性を持たせたかったのだろうが、これ
では映画としてのバランスが覚束ない。
やはり映画ではそれなりの感情移入のできるキャラクターが
欲しいものだ。それと新津ちせが何となく活かされていない
感じなのも気になった。以前の短編の時には子役が良いと書
いたが、これもキャラクターが立っていないせいかな?
いずれにしても何かもったいない感じがした。もしかすると
小説家という設定にはしない方が良かったのかもしれない。
でもまあそんなことを気にしなければ、SNSの現状など、
それなりに面白く観られる作品ではあった。

公開は5月から、東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロード
ショウとなる。

この週は他に
『トキワ荘の青春』
(東京都豊島区椎名町五丁目にかつて在った木造アパート。
そこには『スポーツマン金太郎』などの寺田ヒロオを中心に
手塚治虫、藤子不二雄、石森章太郎、赤塚不二夫、水野英子
らが居住し、共に研鑽していた。この物語をすべて実名にて
市川準の脚本、監督で映画化した1996年の作品。登場人物も
凄いが、出演者にも寺田役の本木雅弘を始め、阿部サダヲ、
古田新太、生瀬勝久。さらにきたろう、原一男、内田春菊、
時任三郎、桃井かおりらの面々が並ぶ。この内、本木は先に
日本アカデミー賞を取っていたが、阿部は映画デビュー作、
古田は2作目、生瀬もデビュー作という公開当時の新進気鋭
のメムバーだ。僕は個人的には日本SF作家クラブ会員だっ
た手塚さんとしか面識はないが、劇作家の北村想が演じたそ
の姿はよく似ている感じがした。それに石森が「イシモリ」
と呼ばれていたのにもニヤリとしたものだ。公開は5月29日
より、東京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)

『島にて』
(2017年8月6日題名紹介『夜間もやってる保育園』などの
大宮浩一監督と同作で監督補を務めた田中圭の共同監督で、
山形県酒田市から連絡船で75分、日本海に浮かぶ県内唯一の
有人離島・飛島に取材した平成最後の1年間。かつては海上
交通の要衝として交易や漁業で栄えた島だが、現状は過疎化
が進み人口140人の大半は後期高齢者という状況だ。そんな
島に9年前に移住してきた夫妻はデイサービスなどで理想の
老人介護事業を目指す。そして夫妻の3人の子供の末っ子が
中学3年になった春から卒業の冬までを軸に島での暮しが描
かれる。そこには島内の3つの神社に宮司は1人で、神社ご
とに異なる獅子舞や神楽などの神事が行われる様子や、それ
でも無くなった行事の思い出なども語られる。その一方で島
に若者を呼び戻すための事業計画など未来の展望も描かれ、
正しく離島や過疎の縮図と言える作品だ。公開は5月16日よ
り、東京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『海辺の映画館―キネマの玉手箱』
(2019年11月7日付「第32回東京国際映画祭」でも紹介した
大林宣彦監督作品。物語については前回紹介したのと変わり
ないので、ここではメインキャスト以外の出演者を記録して
おこう。一応登場順ということで、高橋幸宏、小林稔侍、中
野章三、ヤニック、武田鉄矢、村田雄浩、稲垣吾郎、浅野忠
信、渡辺裕之、片岡鶴太郎、南原清隆、品川徹、入江若葉、
伊藤歩、寺島咲、尾美としのり、柄本時生、蛭子能収、根岸
季衣、渡辺えり、有坂来瞳、ミッキー・カーチス、手塚眞、
犬童一心、星豪毅、金井浩人、本郷壮二郎、川上麻衣子、大
森嘉之、大場泰正、長塚圭史、満島真之介、窪塚俊介、中江
有里、白石加代子、笹野高史、犬塚弘。大林監督の遺作にな
るという話もあったから、これはもう凄い顔ぶれだが。実は
プレス資料に寄せた監督のコメントには「今日も映画作りに
励んでおります。」の一文もあり、これは…と思わせてもく
れるところだ。公開は4月10日より、全国ロードショウ。)

『恋する男』
(2018年9月紹介『BD−明智探偵事務所−』などの小木茂
光と、2019年9月1日題名紹介『爆裂魔神少女』などの佐々
木心音共演で、配給会社マーメイドフィルム代表の村田信男
による初監督作品。脚本は村田と2018年7月紹介『教誨師』
などの佐向大が共同執筆している。妻子に逃げられ、勤務先
をリストラされた男性が一念発起で会社を設立。事業は成功
するが…。男性の心は2人の女性で揺れ動き、それが失敗を
招く。共演はグラビアアイドルの出口亜梨沙。何と言うか、
男の妄想をそのまま映画にしたような作品で自分が男性とし
ては正直恥ずかしくなった。こんな妄想は男なら誰でも持つ
のだろうが、それは公にしてはいけないのではないかな。女
性の観客には馬鹿にされそうで、観ていて居た堪れなくもな
った。物語としては主人公の失敗が戒めなのだろうが。これ
を喜ぶ男もいるのだろうか? 公開は4月25日より、東京都
写真美術館ホールにて、特集上映の1本として公開。)

『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』
(昭和初期に始まり、現在でも全国に600軒は下らないとさ
れるレコード演奏を主体としたジャズ喫茶。その中でも世界
一と言われる岩手県一関市に50年続く店とそのマスターを中
心に、奥深いジャズ/オーディオの世界を写したドキュメン
タリー。マスターの名前は菅原正二。早稲田大学を卒業後に
故郷に戻って店を開いた。そこには名機とされる拘りのオー
ディオ機器が鎮座し、一緒にライヴ演奏のスペースも設けら
れる。そこで名盤が再生されると共に、世界中のアーティス
トが訪れて名演奏が披露された。それらのアーカイヴ映像や
マスターの含蓄ある解説。そして渡辺貞夫や小澤征爾、坂田
明から鈴木京香まで様々な所縁の人たちへのインタヴューが
綴られる。その内容も聞き応えがある。もちろん限られた時
間の中ではもっと聞きたいと思うものもあるが、そこが節度
という感じに見事に描かれた作品だ。公開は5月29日より、
東京はアップリンク渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『ルース・エドガー』“Luce”
(ナイジェリア出身でニューヨーク大学に学んだジュリアス
・オナー監督が、テレビ脚本家のJ.C.リーが2013年に発表
した戯曲を基に共同脚本で描いたアメリカに暮らす黒人の物
語。主人公は紛争国から養子縁組でやってきた少年。それか
ら10年が経ち、高校生の彼は文武両道で将来を嘱望されてい
る。しかし提出した課題のレポートが波紋を呼ぶ。そこには
過激な思想家の発言が活写されていたのだ。果たして彼はそ
の思想を実践するのか? それとも単に思想を準っただけな
のか? 様々な思惑が校内を、家庭を、そして社会を揺り動
かす。差別の問題は色々と考えてきたが、この作品はそんな
目にも新たな視点を与えてくれた。出演は2018年9月9日題
名紹介『IT COMES AT NIGHT』などのケルビン・ハリスンJr.
と、ナオミ・ワッツ、オクタビア・スペンサー、ティム・ロ
ス。他国に居ては判らないアメリカの現実が炙り出される。
公開は5月15日より、全国ロードショウ。)

『朝が来る』
(直木賞受賞(2012年)作家の辻村深月が2015年刊行した小説
を、2017年4月23日題名紹介『光』などの河瀬直美脚本、監
督で映画化した作品。子供に恵まれず「特別養子縁組」を選
んだ夫婦。それから数年が経って掛かってきた1本の電話。
その声の主は「自分が産みの母で、子供を還して欲しい」と
告げた。果たしてその真意は…。そして物語は声の主の数奇
な運命も描いて行く。出演は永作博美、井浦新、蒔田彩珠、
浅田美代子、佐藤令旺。他に田中偉登、中島ひろ子、平原テ
ツ、駒井蓮、山下リオ。さらに山本浩司、三浦誠己らが脇を
固めている。直上の作品も養子の話だったが、こちらは正に
日本社会を背景にした作品だ。しかも巧みな展開で最後の瞬
間に全ての駒がピタリと収まる、そんな極上のミステリーに
なっていた。カンヌの申し子ともされる河瀬監督が今回はパ
ルムドールも狙える作品と思うが、果たして…。公開は6月
5日より、全国ロードショウ。)

『タゴール・ソングス』
(東京外国語大学でヒンディ語とベンガル文学を専攻した女
性監督が初めて挑んだ映像作品。凡そ1世紀前の1861年から
1941年まで80年の生涯を送ったインドの詩人の業績を追った
ドキュメンタリー。その足跡を辿ってインドのコルカタやバ
ングラディシュのダッカにも取材し、戦前の日本を訪れたこ
ともある詩人の思いを検証する。物凄く気持ちの籠った作品
であることは理解する。しかしこの作品では詩人本人の人物
像が見えてこない。監督には自明のことなので省いてしまっ
たのかも知れないが、まず本作ではそれを知らしめることが
重要なのではないかな。僕はノーベル文学賞を西欧人以外で
初めて受賞したとか、インドとバングラディシュ両国の国歌
を作ったこと以外の詩人の生い立ちや、生涯などをもっと知
りたかった。そういった点で不満に感じる作品だった。公開
は4月18日より、東京はポレポレ東中野他で全国順次ロード
ショウ。)

『追龍』“追龙”
(前回題名紹介『イップ・マン完結』などのドニー・イェン
と、2018年6月24日題名紹介『SHOCK WAVE 爆弾処理班』な
どのアンディ・ラウ共同製作・初共演で、1970年代の香港を
舞台に黒社会と警察の癒着を描いた実話に基づく作品。ラウ
が扮するのは彼自身が1991年の映画『リー・ロック伝』でも
演じた香港警察の捜査主任。イェンが演じるのは満州からの
不法移民ながら黒社会でのし上がった麻薬王。そんな2人が
結託し、絶対権力を握るイギリス人警司の眼を掠めて巨大な
富を築いて行く。それはもちろん不正ではあるが、見方を変
えれば絶対権力への反抗を描いた作品とも言える。それらが
2人の友情や信頼と共に描かれて行く。脚本・監督・製作は
1993年『シティハンター』(北条司原作)などのバリー・ウォ
ン。公開は6月26日より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次
ロードショウ。なお本作は2017年の作品で、2019年には同じ
く実話に基づく『追龙�供戮睨楾颪埜�開されたようだ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2020年03月08日(日) SKIN、ワンダーウォール(精神0、はちどり、色男ホ、イップ・マン4、アドリフト、水上のF、吉開菜央、心霊喫茶、HOKUSAI、窮鼠はチーズ)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『短編版』“Skin”
『SKIN/スキン』“Skin”
2019年6月30日題名紹介『ロケットマン』などのジェイミー
・ベル主演で、全身が白人至上主義を掲げるタトゥーに覆わ
れたスキンヘッドの差別主義者の男性を描いた実話に基づく
とされる作品。
映画の始まりは反ファシストの抗議デモに襲い掛かるスキン
ヘッドの集団。その先鋒に立つのが主人公のブライオンだ。
幼い頃に親に捨てられた彼は、白人至上主義者の夫婦に育て
られ、その教えを守って集団の幹部にもなっている。
そんな男たちは、黒人と見れば見境なく襲って打ちのめし、
モスクは焼き討ちして中にいた違法入国者を焼き殺すことも
厭わない。しかしそんな折、ブライオンの心にふと何かが芽
生え始める。
そしてコーラス営業する3人の娘を育てるシングルマザーに
出会ったブライオンは、彼女たちとの平穏な生活を夢見始め
るが…。白人至上主義集団からの離脱は認められず、その嫌
がらせは壮絶な戦いへとエスカレートする。
それでもブライオンにはある救援の手が差し伸べられ…。

共演は2017年4月紹介『ゴースト・イン・ザ・シェル』など
のダニエル・ヘンショール、2013年5月紹介『コンプライア
ンス』などのビル・キャンプ、2013年1月紹介『ゼロ・ダー
ク・サーティ』などのマイク・コルター。
そして養母役で2020年2月紹介『囚われた国家』などのヴェ
ラ・ファーミガと、短編版にも出演のダニエル・マクドナル
ドがシングルマザーを演じる。
脚本と監督は、短編版で2019年アカデミー賞・短編映画賞を
受賞したガイ・ナティーヴ。本作でも2018年のトロント国際
映画祭にて国際映画批評家連盟賞を受賞している。
映画の最後には本物のブライオンの姿も登場して、その壮絶
な実態も目の当たりにされる。そこには25回、16カ月に及ん
だとされるタトゥー除去の様子も描かれ、心身共に更生して
行く姿が提示される。
白人至上主義、若しくは人種差別主義は、今現在のアメリカ
合衆国が抱える最大の社会問題だと思われるが、本作の物語
の元となった実話は2005年のことだそうで、それから14年が
経っても状況はあまり変わっていないのかもしれない。
はっきり言って合衆国は、先住民を駆逐し、奴隷制度で国を
成してきた訳で、そんな国が簡単に差別主義を捨てられない
のは明らかだが。それが現状では経済の行き詰まりなどで助
長されていることも確かだろう。
本作はそんな状況下で生み出されたアメリカの良心とも言え
るものだ。しかし本作の完成までには7年の歳月が費やされ
たというのだから、その良心も国民からの満帆の支持がある
訳ではないのだろう。
そんな中で本作の監督らは、まず短編作品を制作してその道
を探って行くが、試写会ではその短編も観ることができた。
それは主張するところは本編と同じなのだが、描写は皮肉に
満ちたブラックコメディとも言える作品だった。
その笑いも誘う作風は本編の深刻さとは裏腹なもので、これ
を以って本編の資金集めをしたということには、ある種の確
信犯的な爽快感も得られたものだ。自らの信念のためにこれ
を出来た監督らの頭の良さも感じられた。
もっとも試写会場では、監督の意図も理解せずに「短編の方
がおもしれえ」などと言っている人もいたが…。これを他山
の石としないようにはしたいものだ。

公開は5月9日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次
ロードショウとなる。

『ワンダーウォール 劇場版』
2003年10月紹介『ジョゼと虎と魚たち』でデビューした脚本
家の渡辺あやが、京都府に建つ国立大学の学生寮で現在進行
中の出来事をモティーフに執筆し、2018年にNHK京都から
放送されたドラマの劇場版。
映画の中では偽名になっているが、実際は京都大学吉田寮。
因に所在地は京都府京都市左京区吉田近衛町。
1913年に建てられた木造2階建ての寮舎は、2009年に京都府
教育庁指導部文化財保護課が「(保護すべき)京都府の近代和
風建築」にリストアップし、2015年には日本建築学会近畿支
部が「保存活用に関する要望書」を提出した由緒ある建造物
だが、大学当局は一貫して立て直しを主張している。
物語はそんな背景の学生寮を舞台に展開される。そこで主人
公はインターネットで見つけた学生寮に憧れて難関大学入学
を目指した新入生。その寮は学生による自治会が運営して、
寮内では先輩に対しても敬語が禁止されるなど、自由な気風
に溢れていた。
ところが合格して入寮するなり、寮舎が存続の危機にあるこ
とを知らされる。それは大学側が耐震性に問題があると主張
しているものだが、その裏には別の事情もあるようだ。そし
てその是非を巡る交渉を行おうとする学生自治会と大学当局
の学生課との間に「壁」が作られる。
それでも交渉の継続を求めて壁の前に押し掛ける主人公たち
だったが…。その壁に新たな障害物が現れる。

出演は1500人の応募者の中からオーディションで選出された
2019年5月12日題名紹介『よこがお』などの須藤蓮。2017年
10月15日題名紹介『デメキン』などの三村和敬。2020年2月
23日題名紹介『街の上で』などの若葉竜也。
他に2019年4月28日題名紹介『新聞記者』などの岡山天音、
2015年『3泊4日、5時の鐘』などの中崎敏。さらに山村紅
葉、成海璃子らが脇を固めている。
映画の中で先に行われていたとされる交渉の経緯は事実に即
したもので、一度は「吉田寮現棟の耐震強度を十分なものと
し、寮生の生命・財産を速やかに守るために、吉田寮現棟を
補修することが有効な手段であることを認める」という確約
がなされたものの、大学側が一方的に破棄したものだ。
その再現された交渉の様子は、学生側の理路整然とした論拠
に大学側がたじたじとなるなど、1970年代の学生運動の時代
を彷彿させるものになっていた。そこでの気骨溢れる学生の
名前に三船と志村という黒澤明監督作品の名優の名前が冠さ
れているのも、その時代への憧憬なのだろう。
とは言えこの交渉が行われたのは21世紀な訳で、2020年2月
紹介『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』で時代の終
焉を感じていた僕には、今もこの熱い青春が残っていたこと
が嬉しくもなった。今後の学生寮の存続は不明だが、1970年
『いちご白書』のような結末となるのか?
映画の中でも学生の気持ちの衰えは否めないようだったが、
そこに付けられたエピローグは新たな希望も抱かせた。

監督はNHK京都放送局でドキュメンタリーの制作などを手
掛けていた前田悠希のドラマ初演出作。音楽を2012年3月紹
介『サイタマノラッパー』シリーズなどの岩崎太整が担当。
主題曲は重要な役割を担っている。音楽が持つパワーも感じ
させる作品だ。
公開は4月10日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『精神0』
(2007年5月紹介『選挙』から続く想田和弘監督<観察映画>
の最新作は、2009年4月紹介『精神』の続きだった。その前
作に登場した山本昌知医師がある事情から診療所の閉鎖を決
断し、そこからの医師の行動が<観察>される。とは言うもの
の本作が<観察映画>かどうかには疑問を呈する。それは監督
自身が提唱する十戒の第1項に抵触すると感じるからだ。そ
れは前作において本作のリサーチは行われている訳で、それ
をしないとする<観察映画>とは異なる。しかしそれによって
本作の老夫婦の深い絆が描けたものではあるが…。そこでは
<観察映画>の厳しさが抜け落ちた感じもして、特に診療所が
閉鎖されて後の患者の行く末などに<観察>が出来ていない感
じもした。ここは2011年4月紹介『Peace』と同様の番
外編としても良かったのではないかな? なお本作はベルリ
ン国際映画祭で部門賞を受賞。公開は5月上旬、東京は渋谷
のシアター・イメージフォーラムでロードショウ。)

『はちどり』“벌새”
(1994年、前年「ドーハの悲劇」で散った日本代表に代って
韓国代表がワールドカップに出場し、北朝鮮の金日成が死ん
だこの年、韓国内は好景気に沸きかえっていた。そんな時代
のノスタルジーに満ちた作品。高学歴化が進み、生徒会長を
務める長男にはソウル大学進学の夢が託され、落ちこぼれた
長女は素行が乱れている。そして次女である主人公には兄の
暴力が振るわれるが、父親に告げても取り合われない。そん
な少女の日常が描かれる。正直に言って僕には何が言いたい
のか皆目不明な作品だったが、韓国では高評価のようだ。劇
中に流れる楽曲など、当時を知る人たちには理解し易いのだ
ろう。そんなあざとさも感じるが、1981年生まれのキム・ボ
ラ監督には正に自分自身を描いているのかもしれない。通常
の鑑賞ではできるだけ作り手の気持ちに沿って観たいと思っ
ているが、これは少し度が過ぎるかな? 公開は4月25日よ
り、東京は渋谷ユーロスペースでロードショウ。)

『色男ホ・セク』“기방도령”
(K-POPアイドル『2PM』のジュノが兵役前最後の主演作で、
韓国初の男妓生の生涯を描いた作品。父親も判らず妓房で生
まれた主人公は、整った顔立ちで年上の妓生には弟のように
可愛がられ、妓房の女将を義母として育ってきた。しかし青
年になっても遊び惚ける毎日だったが、ある日、妓房の経営
が思わしくないと知った彼は、咄嗟にそこに来た客に媚を売
る。ところがその客は男装の麗人で、彼は女性客をもてなす
裏の商売を思いつくが…。これに彼が妹のように可愛がって
いた半玉の悲恋や、彼自身が思いを寄せる令嬢との恋などを
絡めて、烈女堂の場面をクライマックスとした物語が展開さ
れる。内容的には男尊女卑の差別社会などいろいろ語られる
が、そこはアイドル主演の作品、主人公が纏う華麗な衣装な
ども存分に楽しめる。脚本と監督は本作が長編2作目のナム
・デジュン。公開は5月1日より、東京はシネマート新宿他
で全国順次ロードショウ。)

『イップ・マン 完結』“葉問4完結篇”
(2010年11月紹介『イップ・マン/葉問』から続いたドニー
・イェン製作、主演によるシリーズの第4作。途中に別系統
の作品があったりもしたが、これで本家も完結のようだ。物
語の主な舞台は1964年のサンフランシスコ。愛弟子ブルース
・リーに招かれて渡米した詠春拳の達人は、リーと中華総会
との確執や、すでに極真空手を取り入れていた米国海兵隊と
の対立など様々な闘いに巻き込まれる。共演は武術家であり
中国国家話劇院メムバーのウー・ユエ、2017年1月29日題名
紹介『継承』にも出演のチャン・クォックワン。他にアイド
ルグループ『F4』のヴァネス・ウー、2013年1月紹介『ゼ
ロ・ダーク・サーティ』などのスコット・アドキンスらが脇
を固めている。監督はシリーズ全作を手掛けたウィルスン・
イップ。各派の武芸が次々披露され、中で太極拳が武術とし
て描かれているのも面白かった。公開は5月8日より、東京
は新宿武蔵野館でロードショウ。)

『アドリフト 41日間の漂流』“Adrift”
(1983年に起きた海難事故の実話に基づく作品。主人公はサ
ンディエゴ生まれで高校卒業を機に家を飛び出し、世界の海
を渡り歩いて25歳でタヒチにやって来た女性。そこで自作の
ヨットで世界を巡る男性と出逢い、2人で別の船をサンディ
エゴに回航する仕事を引き受けるが…。その航海が突如嵐に
見舞われる。出演は2017年5月紹介『ダイバージェント』な
どのシャイリーン・ウッドリーと、2020年2月紹介『ナイチ
ンゲール』などのサム・フランクリン。脚本と製作は2017年
2月22日題名紹介『モアナと伝説の海』にも携わったという
アーロン&ジョーダン・カンデル。監督は2015年『エベレス
ト3D』などのバルタザール・コルマウクル。映画は難破後
のシーンに回想で2人の楽しかった日々が挿入され、さらに
壮絶な嵐のVFXなど観客を引っ張る巧みな構成になってい
る。衝撃の結末まで、これは見事な作品だ。公開は4月10日
より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『水上のフライト』
(陸上でオリンピック出場を嘱望されながらも事故で競技を
断念したアスリートが、別の競技でパラ五輪を目指すように
なる実話にインスパイアされた作品。同旨の作品では2009年
1月紹介『パラレル』や2018年6月紹介『私の人生なのに』
などもあるが、アスリートが障碍者になるという現実は正に
究極のドラマと言える。特に前者は完全に実話に基づくもの
でかなりの重みもあった。それに比べて本作では肝心のとこ
ろがフィクションな訳で、その辺が少し気にはなったかな。
でもまあパラ五輪の年の映画ということでは話題性には事欠
かないことにはなりそうだ。出演は2017年9月3日題名紹介
『覆面系ノイズ』でも共演の中条あやみと杉野遥亮。他に大
塚寧々、小澤征悦らが脇を固めている。企画、脚本は2016年
5月29日題名紹介『超高速!参勤交代』などの土橋章宏。監
督は2016年12月11日題名紹介『キセキあの日のソビト』など
の兼重淳。公開は6月12日より、全国ロードショウ。)

『吉開菜央特集:Dancing Films 情動をおどる』
(振付師/ダンサー/映像作家である女性監督による2019年
カンヌ国際映画祭監督週間の短編部門への出品作を含む6作
品が特集上映される。その出品作の『Grand Bouquet』は、
元はNTTのイヴェント会場用に制作されたものの、2018年
の上映では一部が黒塗りされるなど規制を受けたものだそう
だ。その作品が今回は完全版で公開される。内容は黒い異様
な塊に対峙する若い女性の姿を描いており、それらが何を意
味するかは解釈次第だが、15分の映像はカラフルでホラー調
の表現も面白かった。他に果実の梨を巡る2人の女性を描い
た『梨君たまこと牙のゆくえ』が「京都国際映画祭2018」他
で一般上映もされているが、それ以外は実験的要素の強い作
品だ。でもそれぞれが映像や音響など様々な志向を持つ作品
ばかりで、いろいろな可能性も感じられた。公開は4月11日
〜17日に東京は渋谷ユーロスペースにて、いずれもカンヌ出
品作を含む3作品と4作品の2プログラムで上映される。)

『心霊喫茶「エクストラ」の秘密 The Real Exorcist』
(2019年9月15日題名紹介『世界から希望が消えたなら』に
続く幸福の科学出版製作、大川隆法原案、製作総指揮、大川
咲也加脚本による作品。本作では2020年モナコ国際映画祭で
エンジェル・トロフィー賞(最優秀作品賞)を含む4冠を受賞
した。主人公は街角の喫茶店で働くアルバイトの女性。実は
彼女には霊能力があり、来店する客の様々な問題を解決して
いる。その問題は学校のトイレに隠れた過去に亡くなった生
徒の霊や、急死した病院長の霊など多岐に渉っていたが…。
出演は千眼美子。他に伊良子未來、希島凛、日向丈、長谷川
奈央。さらに大浦龍宇一、芦川よしみ、折井あゆみらが脇を
固めている。監督は以前の作品ではプロデューサーや出演者
でもあった小田正鏡が担当した。物語にあまり破綻は見られ
ず、作中には製作総指揮者の著作がいろいろと引用されて、
その思想を広める目的では充分と言える作品だ。公開は5月
15日より、全国ロードショウ。)

『HOKUSAI』
(2010年3月紹介『瞬』の原作者河原れんの企画、脚本で、
江戸末期の浮世絵師の生涯を描いた作品。河原は2015年『百
日紅』にも描かれた絵師の娘お栄の役で出演もしている。葛
飾北齋に関する映画では、1981年『北斎漫画』もあったが、
全生涯を描こうとした点では認められるかな。でも江戸幕府
による取り締まりや、後半では柳亭種彦を配して反骨の人の
ように描くのは正しいのかな。それならもっとシーボルト事
件なども絡めても良かったと思うが、その辺が少し中途半端
な感じがした。それに浪の描写に行きつくところが転機のよ
うに描かれるが、実際は『富嶽三十六景』を描くのは63歳の
時であり、それも波全体のフォルムではなく、波頭の飛沫の
描写を極めた点が凄いのだから、その辺はちゃんと描いて欲
しかった。出演は柳楽優弥、田中泯。その脇を玉木宏、瀧本
美織、津田寛治、青木崇高、芋生悠、永山瑛太、阿部寛らが
固めている。公開は5月29日より、全国ロードショウ。)

『窮鼠はチーズの夢を見る』
(水城せとな原作の同名コミックスを、2017年8月6日題名
紹介『ナラタージュ』などの堀泉杏脚本と行定勲監督、「関
ジャニ∞」の大倉忠義と、2020年2月23日題名紹介『街の上
で』などの成田凌の共演で映画化したR15+指定の作品。主人
公は中年に数歩手前のサラリーマン。優柔不断な性格で不倫
もしていたが、そんな男の前に卒業以来会っていなかった大
学の後輩が現れる。その後輩は浮気調査員で、主人公の妻の
依頼で調べたという不倫の証拠を突き付ける。しかしその後
輩は事実を隠す代わりのある条件を主人公に提案する。それ
は主人公には思いもよらないものだったが…。そんな関係が
徐々に深みにはまって行く。共演は2018年12月紹介『チワワ
ちゃん』でタイトルロールの吉田志織、2018年4月紹介『名
前』などの小原徳子。他にさとうほなみ、咲妃みゆらが脇を
固めている。これ、ジャニーズ…? 公開は6月5日より、
東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2020年03月01日(日) CURED、シラノ(僕は猟師になった、HARAJUKU、#ハンド全力、大海原のソングライン、未成年、暗数殺人、ANNA、わたしはダフネ、マルモイ)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『CURED キュアード』“The Cured”
2017年11月紹介『フラットライナーズ』などのエレン・ペイ
ジが主演と製作も務め、人間を凶暴化させるウィルスによる
パンデミックが収束した後の近未来を描いた架空設定の社会
派ドラマ。
アイルランド発祥のそのウィルスは人間を凶暴化させ、見境
なく他人を襲い、死に至らしめる場合もある。感染は主に噛
みつきで、感染者を守ろうとした者も襲われる危険がある。
ただし感染者同士は襲わない。
この設定は、2019年9月29日題名紹介の1978年版『ゾンビ』
以降のゾンビ映画にかなり共通しているが、人肉を食べるこ
とはない。つまり生きた人間の肉しか食わない設定はなく、
単に保菌者同士は襲わないという説明だ。
そんな感染症にも治療法が見つかり、回復者(キュアード)の
社会復帰が始まる。しかし回復者には罹患中の記憶が残って
おり、それがトラウマになっていた。しかも回復できたのは
患者の75%で、残りの25%は凶暴なままだった。
そんな中で警備に当っていた国連軍の撤収が決まり、警備は
アイルランド国軍に委ねられることになるが…。
物語の主人公は回復して社会復帰した男性。彼は惨禍で死亡
した兄の家に帰ってくるが、そこには未亡人となった兄嫁と
まだ幼い甥が暮らしていた。そして主人公には患者に襲われ
ない特性があり疾病の研究施設に勤めだす。
その研究施設では残る25%の患者の治療法を探していたが、
成果が上がらず、政府は残る患者の安楽死を検討し始める。
これに対して回復者たちは抗議行動を起こすが、健常者との
間で軋轢が増し、一触即発の事態へとなって行く。

脚本と監督はダブリンの大学で映画研究の修士号を取得した
デイヴィッド・フレインのデビュー作。
2008年から手掛けた短編作品の内の1本が受賞。2012年エデ
ィンバラ国際映画祭に提出した本作の脚本が評価され、アイ
ルランド映画委員会の支援で制作した7分間の前日譚“The
First Wave”が資金提供を誘い長編デビューとなった。
共演はいずれもアイルランド出身の俳優で、2015年12月紹介
『白鯨との闘い』などのサム・キーリーと、2012年7月紹介
『ハンガーゲーム』などの4部作で主人公の母親役を演じた
ポーラ・マルコムスン。
さらに『アベンジャーズ』シリーズで敵役の側近を演じてい
たトム・ヴォーン=ローラーらが脇を固めている。
回復者は罹患中の罪は問われないが、本人にも周囲にも犯行
の記憶は残っている。一方、健常者には回復者に対する偏見
と恐怖がある。このため社会復帰しても回復者には真面な職
の与えられない差別が生じる。
この展開にはいろいろなことを思わせるが、本作で兄嫁役を
演じたペイジは、2016年8月14日題名紹介『ハンズ・オブ・
ラヴ 手のひらの勇気』などを製作、主演して自らもカミン
グアウトしている人なので、その思いは受け止めたい。
そんな思いを凄絶なサヴァイヴァル劇の中で巧みに表現した
作品とも言えそうだ。

公開は3月20日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で全国順次ロードショウとなる。

『シラノ・ド・ベルジュラック』“Cyrano de Bergerac”
2019年2月に紹介『シー・ラヴズ・ミー』の後、7月7日題
名紹介『ロミオとジュリエット』、9月8日題名紹介『42nd
ストリート』と続いてきた「松竹ブロードウェイシネマ」の
第4弾。
フランスの劇作家エドモン・ロスタンにより1897年12月28日
にパリで初演され、500日間、400回に亙って上演され続けた
という名作戯曲を、『時計じかけのオレンジ』などの原作者
として知られるイギリスの作家アンソニー・バージェスが翻
訳、脚色、1973年にブロードウェイで初演された英語版。
物語は17世紀のフランスに実在した人物を主人公に、容姿ゆ
えに自らの恋愛を諦めた剣豪作家が、本当は愛する女性ロク
サーヌと同僚兵士の恋愛成就のために文才を活かして奮闘す
るというもの。そこから三十年戦争のアラス包囲戦を挟んで
15年に亙る切ない男の心情が見事に描かれた作品だ。

出演は2017年3月19日題名紹介『美女と野獣』でベルの父親
役を演じたケヴィン・クラインと、2016年10月紹介『MIC
メン・イン・キャット』などのジェニファー・ガーナー。そ
れに2013年4月紹介『ファインド・アウト』などのダニエル
・サンジャタ。
舞台の演出は2003年の“Nine”などで5度のトニー賞最優秀
演出賞にノミネートされ、日本でも多くの演劇プロジェクト
に参加しているイギリス出身のデヴィッド・ルヴォー。
本作では2007年にブロードウェイのリチャード・ロジャース
劇場で演じられた舞台が収録されており、画質などの点では
少し物足りないかな。でもお陰で主演のケヴィン・クライン
が若々しくて、特に韻を踏んでいるために一言も間違えられ
ない長台詞を見事に演じているのは素晴らしい。
また、ジェニファー・ガーナーが2005年『デアデビル/エレ
クトラ』などで見せたアクションの切れを剣戟シーンで発揮
しているのも見どころだ。

公開は3月13日より、東京は築地の東劇他で全国順次ロード
ショウとなる。
因に本ページでは2017年8月に『ホリデイ・イン』を「松竹
ブロードウェイシネマ」として紹介しているが、今回の作品
は第4弾と銘打たれており、2017年のものは現在のリストか
らは外されているようだ。

なお「松竹ブロードウェイシネマ」では2020年ラインナップ
として、夏にシンディ・ローパー作詞・作曲でトニー賞受賞
の“Kinky Boots”と、秋にはメアリー・ブリジット・デイ
ヴィス主演による“A Night with Janis Joplin”の公開も
予定されている。

この週は他に
『僕は猟師になった』
(2019年にNHKで放送されたノーナレーションのドキュメ
ンタリーに、約300日の追加取材と池松壮亮のナレーション
を施して作られた完全版。登場するのは京都大学在学中に猟
の免許を取ったという千松信也氏。以来19年間、京都の市街
からさほど離れない山との間の土地に暮らし、サラリーマン
の傍ら年間3〜4ヶ月の猟期は毎日山に入って罠を仕掛け猪
や鹿を獲る。そして獲物は自らの手で捌き、調理して日々こ
れを食す。映画の中には年間150億円を超えるという獣害の
話や、京都の風物なども挿入されるが、猟師本人はそんなこ
とには関知せず、妻と2人の息子との淡々とした暮しが描か
れて行く。獲物を捌くシーンなど鮮烈な映像も出てくるが、
全体としては男のロマンみたいなものかな。法令の話や罠の
仕組み、獣道の歩き方などの解説と共にしっかりと描かれ、
これはこれで良い作品になっている。公開は6月6日より、
東京は渋谷のユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『HARAJUKU 天使がくれた七日間』
(2019年3月24日題名紹介『最果てリストランテ』などの松
田圭太脚本、監督で若者の町、原宿を舞台にしたファンタス
ティックな要素もある作品。主人公は銭湯の経営者。しかし
営業前の掃除中の浴室で見知らぬ若者と出会う。その若者は
天使で、主人公の魂を奪いに来たというのだが…。実は天使
は3日も遅刻しており、その言葉を盾に主人公は7日の猶予
を貰うことに成功する。それはその間にある目的を果たすた
めだった。出演は2013年11月紹介『幕末奇譚 SHINSEN5』な
どの馬場良馬と、2019年『映画刀剣乱舞』などの椎名鯛造。
他に平野良、テジュ、坂ノ上茜、高城亜樹らが脇を固めてい
る。物語はそれなりにきっちりと作られているが、何か深み
がないというか心に残るものがない。単純には主人公の思い
通りに行き過ぎているもので、天使と悪魔の対決などがもう
少し本編に絡んで欲しかったかな? 公開は4月18日より、
東京は池袋シネマ・ロサ他で全国順次ロードショウ。)

『#ハンド全力』
(2018年5月13日題名紹介『君が君で君だ』などの松居大悟
脚本、監督で、地震から3年後の熊本を舞台にSNSに翻弄
されながらも前に進む若者たちを描く。主人公は中学時代に
ハンドボール選手だった高校生。震災で競技を断念したが、
チームメイトには県外の高校で活躍している者もいる。そん
な主人公がふとアップした昔の写真にイイネが付く。そして
調子に乗って投稿を続けた主人公は、廃部寸前だった男子部
の救世主となり、自分も大会を目指すようになるが…。出演
は加藤清史郎、醍醐虎汰朗、蒔田彩珠、芋生悠、鈴木福。他
に仲野太賀、志田未来、安達祐実、ふせえり、田口トモロヲ
らが脇を固めている。話はそれなりだが、女子チームは続い
ているのになぜ男子はだめなのかなど、肝心の部分がしっく
りと来ない。突然のSNS炎上の理由も良く判らなかった。
公開は5月15日から熊本県で先行上映の後、5月22日より、
東京はシネ・リーブル池袋他で全国ロードショウ。)

『大海原のソングライン』“Small Island Big Song”
(フィリピンからインドネシア、マレー半島を通り、イース
ター島、マダガスカルに至る太平洋南方諸島の言語が、台湾
原住民の言葉を起源にしているという学説に基づき、その地
域の伝統音楽を結び付けたアルバムを映像化した作品。一つ
のリズムで音楽が繋がって行く様は観ていて気持ちが良い。
しかもそれが各地の特徴ある風景の中で行われるのだから、
音楽ファン、旅行マニアにはたまらない作品と言えそうだ。
ただしそれが一つの曲なのかと言われると覚束ない。そこに
はもう少し学術的な論証が欲しい。実際に映画の中ではそれ
ぞれがヘッドフォンを装着して、恐らくは最初に収録された
リズムに合わせて演奏しているもので、それが一つだという
論証にはならない。むしろこの映像には通信会社のCMを思
い出した。音楽ファン、旅行マニア向けにはそれで良いのだ
ろうが。公開は4月より、東京は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『未成年』“미성년”
(2018年7月紹介『1987、ある闘いの真実』などの俳優キム
・ユンソクが長編映画監督に初挑戦した作品。登場するのは
2人の女子高生。その一方が他方の母親が切り盛りする食堂
を覗いている。それはその母親が彼女の父親の不倫相手だか
らだ。そして彼女は他方の女子に母親に不倫を止めるよう説
得を頼むが…。他方の女子の発言が新たな展開を生じさせ、
事件が起きる。出演はドラマで人気のキム・ヘジュンとオー
ディションを勝ち抜いたパク・セジン。それに2019年11月紹
介『スピード・スクワッド』などのヨム・ジョンアと2019年
5月紹介『工作』などのキム・ソジン。そしてユンソクが父
親を演じる。自分が男性で父親の立場だと何ともはやという
感覚だが、無さそで有りそな巧みな展開のお話だ。オリジナ
ルは舞台劇のようで、ユンソクは脚色も手掛けている。演出
も卒なく正に監督デビュー作という感じだ。公開は5月29日
より、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『暗数殺人』“암수살인”
(上記のキム・ユンソクが刑事役で主演する連続殺人が主題
の実話に基づくとされる作品。麻薬捜査官だった刑事は情報
提供者と密会中を殺人捜査班に踏み込まれる。それは情報提
供者が死体遺棄を行ったというものだったが…。刑事は突然
収監中の犯人に呼び出され、殺人の罪を告白される。それは
7人あるいはそれ以上の連続殺人だった。しかしなぜ犯人は
罪を告白したのか? 自白だけが頼りの捜査は天才的な犯人
の言動に翻弄される。共演は2019年4月紹介『神と共に』な
どのチュ・ジフンと2019年11月紹介『エクストリーム・ジョ
ブ』などのチン・ソンギュ。題名の「暗数」は公的な統計に
表れない実際の数との差という意味だそうで、行方不明で処
理された中から推理力で被害者を探し出す地道な捜査が描か
れる。脚本と監督は助監督出身、長編2作目の本作で青龍賞
脚本賞を受賞したキム・テギュン。公開は4月3日より、東
京はシネマート新宿他で全国ロードショウ。)

『ANNAアナ』“Anna”
(リュック・ベッソン脚本、監督で、2014年8月紹介『LUCY
/ルーシー』以来のガールズアクションに再挑戦した作品。
背景は冷戦末期の1990年代。モスクワの露店でマトリョーシ
カ人形を売っていた女性がモデルにスカウトされる。そして
パリのエージェントに所属した彼女は瞬く内にトップモデル
になって行くが…。闇の武器商人が暗殺され、彼女の存在が
KGB、CIAを巻き込む国際スパイ戦に発展する。出演はロシア
出身のスーパーモデルでベッソンの前作『ヴァレリアン』に
ちょい役で出ていたというサッシャ・ルス。本作では1年間
に及ぶ格闘技の訓練の上で華麗なアクションに挑んでいる。
そして彼女の脇をヘレン・ミレン、ルーク・エヴァンス、キ
リアン・マーフィらが固めている。ルスが魅せる5分で40人
斬りのアクションも壮絶だが、モスクワ「赤の広場」でのカ
ーチェイスなど、見どころが満載の作品だ。公開は5月8日
より、東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『わたしはダフネ』“Dafne”
(母親の死後に残された父親とダウン症の娘の絆を描いたド
ラマ作品。主人公は老齢だがしっかりした両親の許で穏やか
に暮らしていた。ところが母親が突然死。葬儀も済ませた娘
は職場に復帰して元の生活に戻るが、最愛の妻を失った父親
の落胆は大きく、あらぬ行動をとり始める。その姿に何もで
きない娘だったが…。そんな中で娘は母親の故郷まで歩いて
行こうと提案する。それは簡単な旅ではなかったが、山野を
2人で歩く内に互いの心が触れ合って行く。出演はダウン症
ながら執筆活動で成功を収めているというカロリーナ・ラス
パンティ。両親を舞台俳優で1976年『1900年』に出ていたと
いうアントニオ・ピオヴァネッリと、1977年『サスペリア』
でサラ役のステファニア・カッシーニが演じている。同様の
配役では2019年10月6日題名紹介『だれもが愛しいチャンピ
オン』もあったが、どちらも素敵な作品だ。公開は6月6日
より、東京は岩波ホール他で全国順次ロードショウ。)

『マルモイ ことばあつめ』“말모이”
(1940年代、日本統治下の韓国ソウルで、自国語を守るため
に生命を賭して辞書作りと標準語の選定を進めた朝鮮人言語
学者を描いた史実に基づく作品。日本人には随分と耳の痛い
話だが、この映画に描かれた民族同化運動は現実のもので、
朝鮮語の使用を禁じたり、姓名を日本式に改めるなど正に文
化的なジェノサイドが行われた。そんな中での物語だ。とは
言うものの最後に登場する分厚い辞書の原稿が鞄一つに収ま
るはずはなく、実際には何処かの倉庫にでも隠されていたの
だろうが、映画は象徴的に描くもの。その辺は史実に基づく
フィクションということだ。出演は2018年7月紹介『1987』
などのユ・ヘジンと、2008年8月紹介『6年目も恋愛中』な
どのユン・ゲサン。2018年3月11日題名紹介『タクシー運転
手』などの脚本家オム・ユナが、自作の脚本で監督デビュー
を果たした作品だ。公開は5月22日より、東京はシネマート
新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二