井口健二のOn the Production
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2019年11月24日(日) ドクター・S(時の行路、廓文章、盗まれたC、ロマンスD、プリズン・C、みぽりん、愛国者に、インディペンデント・L、スウィング・K、his)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ドクター・スリープ』“Doctor Sleep”
スティーヴン・キングが1977年に発表したデビュー第3作の
『シャイニング』。1980年のスタンリー・クーブリック監督
映画でも著名なこの物語の、40年後を描いた続編。
主人公は、前作の雪に閉ざされたホテルの中で父親に殺され
かけた少年。彼は死者の霊が見える能力「シャイニング」を
持つが、前作の事件のトラウマでその能力をひた隠しにして
生きてきた。
しかし世界には様々な「シャイニング」を持つ者がおり、一
方でその霊気を吸い取って命を永らえている連中も存在して
いた。そんなグループの一つで「帽子の女」をリーダーとす
る連中がある少女に注目する。
その少女には他人の記憶に入り込み、それを別の相手に投影
する能力があった。そんな少女が、「シャイニング」を持ち
ながら「帽子の女」のグループに拉致され、霊気を吸い取ら
れて殺害された少年の姿を「目撃」する。
そこで少女は精神感応を使って主人公に助けを求めるが…。
父親の影響でアルコール依存症だった主人公がついに立ち上
がり、その道は雪に閉ざされたあのホテルへと通じていた。
そのホテルに「帽子の女」も辿り着く。

出演は、ユアン・マクレガーと、2017年4月紹介『ライフ』
などのレベッカ・ファーガスン。それに子役のカイリー・カ
ラン。
他に、2018年7月8日題名紹介『MEGザ・モンスター』な
どのクリフ・カーティス、2019年3月紹介『レプリカズ』な
どのエミリー・アリン・リンドらが脇を固めている。
脚本と監督は多くのホラー作品を手掛け、2017年Netflixで
キング原作“Gerald's Game”も担当した新鋭マイク・フラ
ナガン。製作総指揮には2017年11月紹介『ダークタワー』な
どのアキヴァ・ゴールズマンが名を連ねている。
キングは以前には自作の続編は執筆しないと宣言していたそ
うだが、本作の原作はその自身の禁を破って2013年に発表さ
れたものだ。
その理由は定かではないが、1980年の映画化に関して不満を
持っていた事実はあるようで、その理由はキングが考案した
「シャイニング」が映画化の中では充分に描き尽くされてい
なかった点にあるとされる。

(★以下には重大なネタバレがあります。ご注意★)
そこで本作では、まず「シャイニング」が前面に登場する。
それは超能力者同士の戦いの様相も呈するが、そこはアメコ
ミ原作スーパーヒーローもののような戦いではなく、もっと
現実(?)に則した戦いとして描かれるものだ。
とは言うものの1980年の作品は、1968年『2001年宇宙の旅』
がSF映画を名画の域に高めたと言われたのと同様、ホラー
映画で名画の誉れも高いもの。そこでフラナガン監督はその
作品に対するリスペクトも忘れてはいない。
本作では後半の雪に閉ざされたホテルに辿り着いてからが、
これは見事に1980年の映画化へのオマージュになっている。
そこでは1980年作のシーンが次々に再現され、それらが主人
公を妨害し、また助ける展開となっているのだ。
この言うなれば原作と映画へのリスペクトの折衷案が、それ
ぞれのファンの目にどう映るかは判らないが、正直に言って
そのどちらにも然程の思い入れのない僕には、実に巧みに作
られた作品に思えた。
そして結末には、本作自身を起源とする大団円が設けられて
いる。これはもう僕にとっては最高と言える展開だった。

(★以下にはさらに重大なネタバレがあります。★)
それにしても本作のユアン・マクレガーにはオビ=ワン・ケ
ノービの雰囲気も漂ってしまうもので、そこで結末にはマク
レガーと黒人男性2人が並ぶ映像も思いついたが、フラナガ
ン監督はそこまでの悪乗りは控えたようだ。

公開は11月29日より、2019年9月29日題名紹介『IT イット
THE END』に続いての全国ロードショウとなる。

この週は他に
『時の行路』
(2008年に起きたリーマン・ショックでの派遣切りを争点と
する労働争議の実話に基づく田島一著による小説の映画化。
2010年12月紹介『学校をつくろう』などの神山征二郎監督の
第30回作品。青森出身で長年大手自動車メーカーに派遣工員
として働いていた主人公が、息子の大学進学が決まった矢先
に会社の業績不振を理由とした解雇を言い渡され、その不当
性を追求するため労働組合に加入、さらに裁判を戦って行く
姿が描かれる。出演は石黒賢、中山忍。他に新人の松尾潤、
村田さくら。また川上麻衣子、綿引勝彦、渡辺大、安藤一夫
らが脇を固め、日色ともゑがナレーションを担当している。
これが現実(実話)だから仕方ないが、何ともやるせない物語
が繰り広げられる。企業と結託する日本の司法の姿には観終
えて胸に滾るものもあったが、「もっと怒れ」というのが制
作者の直なメッセージだろう。公開は一般映画館ではなく、
上映有限責任事業組合により全国各地で行われるようだ。)

『シネマ歌舞伎・廓文章 𠮷田屋』
(2019年9月1日題名紹介『女殺油地獄』に続くシネマ歌舞
伎の第35弾。上方歌舞伎の代表作ともされる演目を十五代目
片岡仁左衛門と五代目坂東玉三郎共演により、平成21年4月
「歌舞伎座さよなら公演」にて収録。傾城夕霧に入れあげて
勘当された大店の若旦那と、茶屋の主夫妻、それに夕霧との
やり取りが上方の「和事」で演じられる。巻頭には仁左衛門
の解説が付けられ、江戸歌舞伎の「荒事」との差異なども説
明される。また仁左衛門と玉三郎との50年余の交流なども語
られ、ファンにはたまらない特典映像と言えそうだ。なお題
名は映像中のタイトルも「吉」になっているものだが、僕は
劇中の暖簾の表記に合わせて標記の文字を使わせてもらう。
なお本作の収録は4月の公演からのものだが、内容では店先
に門松があるなど正しく正月の話で、今回はぴったりの時期
での公開と言える。その公開は2020年1月3日より、東京は
築地の東劇他で全国ロードショウ。)

『盗まれたカラヴァッジョ』“Una storia senza nome”
(紙幣の肖像画にもなっているイタリア人の画家が1609年に
描き、1969年に盗まれたまま行方不明になっている名画を巡
るミステリー。先に登場するのは男性の脚本家。しかし彼の
才能は枯渇しており、実際に執筆しているのは彼の愛人の女
性だった。そんな彼女もアイデアは尽きかけていたのだが、
新作の要望に思いあぐねている時に町で遭った老人からアイ
デアを貰う。それは盗まれた名画の変遷を辿るものだった。
ところが脚本の一部が流出し、その内容を巡ってマフィアが
動き出す…。この名画の盗難を巡ってはいろいろな怪情報も
あるようで、物語はそれらを織り込みながら巧みに展開され
て行く。まあ当事国民でない我々には多少判り難い面もある
が、全体は歴史を背景にした謎解きとして面白く描かれてい
た。監督は2017年12月31日題名紹介『修道士は沈黙する』な
どのロベルト・アンドー。公開は2020年1月17日より、東京
はYEBISU GARDEN CINEMA他で全国順次ロードショウ。)

『ロマンスドール』
(2016年9月11日題名紹介『お父さんと伊藤さん』などのタ
ナダユキ監督が2008年に発表した自作小説を映画化。美大を
出たもののフリーターだった主人公が先輩の紹介でアダルト
向けの造形師として働きだす。そこで究極のラヴドールの開
発に関るが、実際の女性から型取りをするため、医療用と称
して美術モデルを斡旋して貰う。ところがその女性を好きに
なった主人公は、嘘を隠したまま交際を始め、結婚に漕ぎ着
けるが…。互に秘密を持ったまま続けた夫婦生活にある衝撃
が訪れる。出演は高橋一生と、タナダ作品には2度目の蒼井
優。他に浜野謙太、三浦透子、大倉孝二、ピエール瀧、渡辺
えり、きたろうらが脇を固めている。ラヴドールと言われる
と2009年6月紹介『空気人形』を思い出すが、最近の製品は
長足の進歩を遂げているようだ。そんな業界の裏話も織り込
んで、夫婦愛の素敵な物語が展開される。公開は2020年1月
24日より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)

『プリズン・サークル』
(官民協働の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」。
そこで行われているTC(Therapeutic Community=回復共同
体)。それは受刑者同士の対話によって犯罪の原因を探り、
再犯を防止するという。その様子を日本で初めて刑務所内に
カメラを入れて記録したドキュメンタリー。坂上香監督は、
2004年発表の『ライファーズ 終身刑を超えて』というアメ
リカにおける同様の施策を記録したドキュメンタリーで受賞
を果たしており、その映画が切っ掛けで日本でも採用された
TCの取材を試みる。しかし取材許可までに6年、さらに撮
影に2年が費やされて本作は完成された。それは初犯であっ
たり、年齢が若いなど更生の確度の高い受刑者に行われてい
るようだが、全国4万人の受刑者の内の40人。その中の4人
を中心に描かれる。上映時間2時間16分、正に圧巻という作
品だ。公開は2020年1月25日より、東京は渋谷のシアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『みぽりん』
(神戸出身、在住の映像作家・松本大樹が、『カメ止め』に
感激して自主制作した初監督作品。人気投票でセンターに抜
擢された地下アイドルがソロデビュー。しかし彼女は音痴。
そこで伝説のヴォイストレーナーが紹介され、六甲山中の別
荘で合宿訓練が始まるが…。『カメ止め』に関しては以前に
書いた通りだが、それでもその作品には二重構造などでリピ
ートを誘う仕掛けがあった。それに比べると本作はストレー
ト過ぎて、その点の物足りなさは感じる。因に題名は中山美
穂ではなく、キング原作『ミザリー』に由来とのことだが、
その点の狂気性もこれでは不足に感じるかな、主人公が女子
では致し方ないが、何かひねりは欲しい。出演の垣尾麻美、
津田晴香、井上裕基、近藤知史、合田温子、mayuらはいずれ
も関西で活動するタレントで所属会社のユニット出演のよう
だ。公開は関西先行で好評とのこと。東京は12月21日より、
池袋シネマ・ロサにて3週間ロードショウ。)

『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』
(1972年に森田必勝の遺志を継ぐべく右翼団体一水会を設立
して初代代表を務めた鈴木邦男を追ったドキュメンタリー。
鈴木はまた安倍政権を支える日本会議の母体の一つとされる
全国学生自治体連絡協議会を1969年に立ち上げた人物でもあ
るが、現在の鈴木は安倍政権に反対し、自ら右翼活動家の名
を取り下げている。そんな鈴木の信念は幼い頃に両親が帰依
した生長の家に由来すると言い、そこでは愛国の先に自然を
愛することを学んだという。そのため鈴木は再軍備のための
安倍政権による憲法改正に反対し、脱原発を目指して左翼の
陣営とも対話を続けている。映画の中では2009年10月20日付
「東京国際映画祭」で紹介『ザ・コーヴ』の一般公開に反対
する右翼集団と対決する姿なども紹介され、その論調は鋭く
正しい。正しく今の日本の言論が陥っている危険に対峙して
いる人物と受け止めた。監督は中村真夕。公開は2020年2月
初旬より、東京はポレポレ東中野にてロードショウ。)

『インディペンデント・リビング』
(日常的に介助を必要とする障碍者が、家族の許や施設では
なく1人で暮らせるよう支援を行う自立生活センターの活動
を描いたドキュメンタリー。取材されているのは大阪にある
センター、そこでは障碍当事者が運営も手掛けている。寝た
切りや食事にも介助が必要な人たち、そんな彼らが自立生活
を求める。そこには介助に当たる人たちも存在はするが、そ
の介助者は給与で雇われた人たちだ。同旨の映画では2018年
12月2日題名紹介『こんな夜更けにバナナかよ』もあるが、
成功者の自慢話のようなドラマ作品と現実とでは厳しさも異
なる。しかしそんな中で各自が常に前向きに物事に当たって
行く姿は素晴らしかった。監督は自らが介助者として現場に
立ち、その現場で3年に亙ってカメラを回した田中悠輝。現
場だけが知り得る現実が描かれる。公開は2020年1月11日よ
り、大阪・第七芸術劇場にて先行上映の後、東京では春から
渋谷のユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『スウィング・キッズ』“스윙키즈”
(1951年、朝鮮戦争の最中。一度は北側に押し込まれた韓国
軍は米軍などの支援を受けて盛り返し、戦線を38度線まで押
し返す。その戦闘で南側では多数の北の兵士が捕虜となって
いた。その捕虜を収容する施設は南部の各所に作られたが、
その一つ米軍が管理した巨済島の捕虜収容所で、ある事件が
起きた。本作はその実話に基づき、南北朝鮮の複雑な状況の
中でタップダンスに未来を夢見た若者たちの姿が描かれる。
正直に言って実話にもかなり不可解な面はあるようだが、本
作ではその謎を判り易く解き明かす。まあ部外者の日本人に
は判り難い話だが、映画では人種差別の問題なども織り込ん
で現代に通じる物語にしている。脚本と監督は2012年5月紹
介『サニー 永遠の仲間たち』などのカン・ヒョンチョル。
出演は2019年4月紹介『神と共に』などのディオと、ダンサ
ーのジャレット・グライムス。公開は2020年2月21日より、
東京はシネマート新宿他で全国ロードショウ。)

『his』
(ゲイであることを隠すために山間の村で一人暮らしていた
主人公の前に、学生時代を一緒に過ごした相手が幼い娘を連
れて現れる。その相手は主人公と別れた後に結婚し娘もでき
たが、ゲイであることが知られて離婚裁判の係争中だった。
その裁判では男性側には不利とされる娘の親権を求めていた
が…。出演は、モデル出身で2019年2月24日題名紹介『賭ケ
グルイ』の宮沢氷魚と、2019年『長いお別れ』などの藤原季
節。他に松本若菜、松本穂香、子役の外村紗玖良。さらに中
村久美、鈴木慶一、根岸季衣、堀部圭亮、戸田恵子らが脇を
固めている。監督は2017年1月29日題名紹介『退屈な日々に
さよならを』などの今泉力哉。脚本は2012年7月紹介『ペン
ギン夫婦のつくり方』などのアサダアツシだが、劇中に繰り
返し登場する卵調理のシーンは1979年『クレイマー、クレイ
マー』へのリスペクトかな? 公開は2020年1月24日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なお次回は都合により12月2日(月)に更新します。



2019年11月17日(日) ロング・S、スピード・S/エクスト・J(テッド・B、ナイト・OS、コンプリシティ、花と雨、ファンシ、シグナル、ペット・S、ダウントン・A)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
                     “Long Shot”
2016年10月16日題名紹介『ソーセージ・パーティー』などの
セス・ローゲンと、2017年8月27日題名紹介『アトミック・
ブロンド』などのオスカー女優のシャーリーズ・セロンが、
共同製作とW主演を務めるアメリカ政界を舞台にしたラヴ・
コメディ。
ローゲンが演じるのはリベラル派のジャーナリスト。東海岸
でネオナチ白人集団に潜入取材し命からがら脱出するなど、
突撃タイプで敏腕な彼だったが、所属会社が右翼系の巨大メ
ディアに買収されると判り、席を蹴って辞職してしまう。
一方、セロンが演じるのは好感度抜群の国務長官。地球全体
の環境保全を主な政治理念として全世界的な環境政策の取り
纏めに世界中を飛び回っている。その彼女が現職大統領から
次期大統領候補に推薦するとの話を貰う。
そんな一見掛け離れた立場の2人だが、実は彼らには重大な
接点があった。彼女は彼が幼い頃のベビーシッターで、その
当時に生徒会長に立候補していた彼女を、彼は憧れの眼差し
で見詰めていたのだ。
斯くして2人は、彼がBoyz �� Men を聴けるという目的で潜
り込んだ政治家のパーティで再会。そこで彼女は演説の原稿
にユーモアを入れたいという理由で彼を雇い入れるが…。大
統領候補に登って行く中で2人の関係が振り回される。

共演は、アイス・キューブの息子で2018年9月9日題名紹介
『ザ・アウトロー』などのオシェア・ジャクソン・Jr.と、
ジェーン・フォンダの娘で2010年8月紹介『遠距離恋愛/彼
女の決断』などのジューン・ダイアン・ラファエル。
さらにアンディ・サーキス、ボブ・オデンカーク、アレクサ
ンダー・スカルスガルド、ラヴィ・パテルらが脇を固めてい
る。
脚本は、ローゲンの盟友とも言える製作総指揮も務めるダン
・スターリングの原案から、2018年2月4日題名紹介『ペン
タゴン・ペーパーズ 最高機密文書』のリズ・ハナとスター
リングが共同で執筆。
監督もローゲンの盟友で、2011年9月紹介『50/50 フィフテ
ィー・フィフティー』や、2013年6月紹介『ウォーム・ボデ
ィーズ』などのジョナサン・レヴィンが担当した。
現職の大統領がロナルド・レーガンを彷彿させる元俳優で、
その支援者の風貌がトランプを思わせ、さらに地球環境問題
が政策に登場するなど、現アメリカ共和党政権に対する揶揄
も満載の作品で、それは観ていて胸がすく。
恐らくこれが民主党支持者のアメリカ国民の夢なのだろうな
とも思える作品だ。特にマスコミに対する圧力などは、実話
に基づく女性脚本家の前作にも通じるもの。そんなハリウッ
ドの思いが込められた作品とも言える。
ローゲンを始めとするアメリカのコメディはなかなか日本人
には馴染み難いが、本作は政治絡みでさらに難しいかと思い
きや、ラヴコメと政治劇を巧みに掛け合わせて、政治音痴の
日本人にも判り易い作品になっていた。

公開は2020年1月3日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他で
全国ロードショウとなる。

『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』“뺑반”
『エクストリーム・ジョブ』“극한직업/極限職業”
韓国警察が巨悪相手にとんでもない捜査を仕掛けるアクショ
ン作品が2本連続して公開される。
1本目は、元F1レーサーで大企業の会長に成り上がった男
と警察長官の癒着を巡って、本庁内部調査課の女刑事が活躍
するというもの。しかし刑事は長官の圧力で交通課ひき逃げ
専門捜査班に転属となるが…。
その捜査班には妊婦の係長と頼りなさげな巡査がいるだけ。
ところがその巡査が現場で意外な洞察力を発揮。しかも彼ら
は会長が建設中のレースサーキットの周辺で起きた未解決の
ひき逃げ事件を追っていた。
斯くして内部調査課との繋がりを見出した女性刑事は未解決
事件を追って動き出すが、そこには巨大な罠が仕掛けられて
いた。

出演は、2010年2月紹介『今、このままがいい』などのコン
・ヒョジンと、2019年8月11日題名紹介『毒戦 BELIEVER』
などのリュ・ジョンヨル。他にチョ・ジョンソク、ヨム・ジ
ョンア、チョン・ヘジン、ソン・ソック、キム・キボム、イ
・ソンミンらが脇を固めている。
監督は、2013年7月紹介『サイコメトリー〜残留思念〜』の
脚本を手掛けたハン・ジュニ。武術監督として、2019年5月
12日題名紹介『無双の鉄拳』などのホ・ミョンヘンが参加し
ている。
2本目は、麻薬組織の壊滅を狙って張り込みをしていた落ち
こぼれ気味の捜査班が、組織の拠点の向かいに建つフライド
チキン屋を隠れ蓑に、店を経営しながら捜査を続けるという
奇想天外な作品。
しかもその店が大繁盛して、捜査どころではなくなってしま
うのだが…。これに警察内部の確執なども絡まってとんでも
ない顛末となって行く。

出演は2012年8月紹介『高地戦』などのリュ・スンリョン。
他にイ・ハニ、チン・ソンギュ、イ・ドンフィ、コンミョン
らが脇を固めている。監督は2012年5月紹介『サニー 永遠
の仲間たち』の脚本を手掛けたイ・ビョンホン。
どちらもアクション中心の作品だが、前者はそれなりの推理
などもあってその点は面白い。対する後者はコメディの要素
も強く、あれよあれよという間に事件は勝手に解決してしま
うという感じかな。
それと後者では、撮影中に463羽が調理されたというフライ
ドチキンの描写も見事で、久し振りに丸亀の「骨付き鳥」が
食べたくなるという思いもした作品だった。

公開は『スピード・スクワッド』が12月13日より、『エクス
トリーム・ジョブ』が2020年1月3日より、いずれも東京は
シネマート新宿、大阪はシネマート心斎橋他で全国ロードシ
ョウとなる。

この週は他に
『テッド・バンディ』
    “Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile”
(ザック・エフロンが稀代の連続殺人鬼とされた男を演じる
実録ドラマ。先に登場はリリー・コリンズが扮するシングル
マザー。幼い娘をベビーシッターに預け外出したバーで2人
は出会う。そしてジュークボックスの音楽に誘われた2人は
彼女の家で一夜を過ごすが…。一緒に暮らし始めた2人は、
彼が他州で起きた連続殺人の容疑で指名手配されていること
を知る。さらに死刑を認める州の一つフロリダで逮捕された
彼は、テレビの全国中継という異例の裁判に向かうことにな
り、そこにはグルーピーも集まり始める。共演は2019年8月
18日題名紹介『クロール 凶暴領域』などのカヤ・スコデラ
リオ。他にジョン・マルコビッチ、ハーレイ・ジョエル・オ
スメントらが脇を固めている。作品は妻が発表した手記に基
づき、監督は2004年にメタリカのドキュメンタリーなどを手
掛けたジョー・バリンジャーが担当した。公開は12月20日よ
り、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『ナイト・オブ・シャドー-魔法拳-』“神探蒲松龄”
(ジャッキー・チェンが中国・清代の作者・蒲松齢に扮する
VFX満載のアクションファンタシー。作家は怪異短編集の
「聊斎志異」で知られ、映画ではその作家が「陰陽の筆」の
力を使って邪悪な妖怪たちを書物の中に封印して行くもの。
そして本作では、作家とその弟子が連続少女誘拐事件の謎を
追って2人の美女妖怪と対決する。しかしそこには蛇の妖怪
だった男の哀しい恋物語が隠されていた。中国の妖怪譚には
男女の悲恋を背景とするものが多いが、本作でもそれは踏襲
される。そしてそれを如何に解決するかが焦点となるが…。
共演は2010年11月紹介『モンガに散る』などのイーサン・ル
アン、2019年1月20日題名紹介『芳華 Youth』などのエレイ
ン・チョン。他にリン・ボーホン、リン・ポンらが脇を固め
ている。監督は中国第七世代と呼ばれるヴァッシュ・ヤン。
CG処理で若返ったジャッキーも見どころとされる作品だ。
公開は2020年1月より全国ロードショウ。)

『コンプリシティ 優しい共犯』
(藤竜也と2006年12月紹介『孔雀』がデビュー作という中国
俳優ルー・ユーライ共演で、技能実習生として来日し違法滞
在する人たちの実情を描いた作品。主人公は技能を学べると
信じ来日するが、夢破れ他人の在留カードを買って別人とし
て働き始める。そこは中国生まれの日本人男性が帰国して開
いた日本蕎麦の店だったが…。蕎麦打ちの修行を続ける中で
穏やかな師弟関係が築かれて行く。共演はファッションモデ
ルの赤坂沙世、舞台女優の松本紀保。脚本と監督は、藤主演
の短編作品で各国映画祭の受賞に輝いている近浦啓の長編デ
ビュー作となる。本作も東京フィルメックスでの観客賞など
受賞しているようだが、根本的に主人公2人は犯罪者なので
あって、その点をうやむやにした結末はいかがなものか。こ
こは字幕で説明するか、思い切って数年後に北京で開店して
いるような結末が欲しかった。公開は2020年1月17日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『花と雨』
(東京都出身だが幼少期ロンドンで過ごしたという伝説(?)
のラッパー SEEDAのリリックを基に、同じ経緯で社会から疎
外された若者の彷徨が描かれる。それは大麻草の栽培など麻
薬に彩られたものになるが…。出演は2019年9月紹介『羊と
オオカミの恋と殺人』などの笠松将。2012年10月紹介『カミ
ハテ商店』などの大西礼芳、2018年11月25日題名紹介『半世
界』などの岡本智礼。他につみきみほ、松尾貴史らが脇を固
めている。本作の主人公も上記と同様に犯罪者だが、本作で
は一度逮捕される描写はあるもののその後も再び売りに走る
など、犯罪に対する認識が少し甘いようにも感じる。マスコ
ミ資料に掲載されたリリックに直接的な表現は見当たらない
が、隠語があるのかな。脚本と監督はインスタレーションや
MVを多く手掛ける土屋貴史の長編デビュー作。社会的には
少し心配もある作品だ。公開は2020年1月17日より、東京は
ヒューマントラストシネマ渋谷他で全国ロードショウ。)

『ファンシー』
(2007年4月紹介『テレビばかり見てると馬鹿になる』など
の山本直樹原作を、テレビシリーズの脚本や2008年10月紹介
『ノン子36歳』のメイキングなどを手掛けてきた廣田正興の
脚本、初監督で映画化した作品。本業は彫師だが局員らが皆
副業を持つ郵便局の配達員の男性と、彼が毎日ファンレター
を配達するペンギンと自称する詩人。さらに詩人の許に押し
掛けてきたファンの女性がちょっと不思議な世界観の物語を
展開する。出演は永瀬正敏、窪田正孝、小西桜子。他に深水
元基、尚玄、榊英雄、佐藤江梨子、宇崎竜童、田口トモロヲ
らが脇を固めている。物語の舞台となる温泉街ではヤクザが
抗争を繰り広げていたり、かなり殺伐としているはずなのだ
が、映画はふわふわしたムードの中で、それなりにHシーン
なども織り込んで展開される。因にヤクザの話は原作にはな
いそうでその発想にも驚いた。公開は2020年2月7日より、
東京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)

『シグナル100』
(2017年9月紹介『不能犯』の宮月新原作によるコミックの
映画化。教師によって自殺催眠を掛けられた1クラス36人の
生徒が、最後の1人になれば催眠は解けるという条件の下、
引き金となる100個のシグナルを解明し、あるいは級友を自
殺に追い込んで自分は助かろうとするサヴァイヴァル劇。と
言うよりは自殺する生徒の死に様を描く究極の殺戮劇。同様
の生徒同士の殺し合いでは、2000年公開の『バトル・ロワイ
アル』が、その原作では顰蹙を買ったものの、映画化は同年
のキネ旬ベスト10で第5位に選ばれるなど高評価で、続編が
作られるほどのヒットとなった。本作も同じ道を歩めるのか
な? 出演は橋本環奈、中村獅童。他に小関裕太、瀬戸利樹
らが脇を固めている。脚本は2019年5月26日題名紹介『ザ・
ファブル』などの渡辺雄介。監督は2019年10月13日題名紹介
『オルジャスの白い馬』などの竹葉リサが担当した。公開は
2020年1月24日より、全国ロードショウ。)

『ペット・セメタリー』“Pet Sematary”
(2019年9月29日題名紹介『IT イット THE END』に続くス
ティーヴン・キング原作の映画化で、1989年公開作品のリメ
イク。原作はキング自身が出版を躊躇ったというほどのもの
だが、映画化は原作なしの続編は作られたものの、それほど
のものではなかった印象を持つ。それはキングの原作自体に
も問題があったと感じるが。今回のリメイクではその問題点
が解消され、観ていて納得のできる作品になっていた。その
改変は原作のファンにはどう映るか判らないが、子育てをし
た自分には理解できる気もしたものだ。出演はジェイスン・
クラークと、2017年『エイリアン:コヴェナント』などのエ
イミー・サイメッツ。それにジョン・リスゴーと子役のジュ
テ・ローレンス。脚本は2003年3月紹介『サラマンダー』な
どのマット・グリーンバーグの原案を基に執筆され、監督は
ケヴィン・コルシュ&デニス・ウィドマイヤーが務めた。公
開は2020年1月17日より、全国ロードショウ。)

『ダウントン・アビー』“Downton Abbey”
(2010年から2015年まで6シーズンに亙って放送された人気
テレビシリーズの劇場版。シリーズの最終回から2年後を背
景に、英国王夫妻の来訪を迎える大邸宅の主から使用人まで
の喧騒が描かれる。実はテレビシリーズを観ていなかったの
でキャラクターの把握などを心配したが、映画は往時の英国
貴族の暮らしぶりを描いたもので、その点では難なく物語に
入って行けた。しかもその中での庶民の反撃が描かれること
は、観ていて胸のすく思いもするものだった。出演はマギー
・スミス、ヒュー・ボネビル、ジム・カーター、ミシェル・
ドッカリーらのテレビのレギュラー陣に加えて、2018年5月
27日題名紹介『輝ける人生』などのイメルダ・スタウントン
らが新登場する。脚本はシリーズに引き続いてのジュリアン
・フェローズ、監督もシリーズからのマイクル・エングラー
が担当。物語はシリーズの視聴者でなくても充分楽しめた。
公開は2020年1月10日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2019年11月10日(日) 9人の翻訳家 囚われたベストセラー(ジョジョ・ラビット、オリ・マキの人生で最も幸せな日)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』
                  “Les traducteurs”
「ダ・ヴィンチ・コード」が世界的なベストセラーになった
ダン・ブラウン原作「ロバート・ラングドン」シリーズで、
その第4作「インフェルノ」の世界同時出版の際に、各言語
の翻訳者を一堂に集め、外部に情報が漏れないようにしたと
される実話から発想したミステリー作品。
物語の始まりはドイツで開かれるブックフェア。その会場で
世界的ベストセラーとなったシリーズの第3巻にして完結編
の出版が報告される。その出版権を獲得したのは出版社社長
でビジネスマンの男性。しかも彼は世界同時出版を宣言し、
そのため翻訳家を一堂に集めてフランス語の原稿を翻訳させ
ると発表する。
そこで集められたのは、英語、ロシア語、ギリシャ語、スペ
イン語、中国語など9人の翻訳家。彼らは携帯電話や外部と
の通信の可能性のあるノートPCも取り上げられて、ロシア
人の富豪が核戦争避難のために建てたという地下深い要塞に
閉じ込められる。こうして毎日20ページずつ渡される原稿の
翻訳が始まるが…。
作業が進み、全編の半ばを過ぎたころ、事件が起きる。原稿
の冒頭10ページがネットに露出され、500万ユーロを指定の
刻限までに支払はなければ次の100ページを公開するとの脅
迫が出版社社長に届いたのだ。その脅迫を最初無視した社長
だったが、刻限を過ぎると100ページが公開され、さらに高
額の要求が届く。
果たして犯人はだれなのか、そしてその原稿を入手した方法
は?

出演は2011年1月紹介『神々と男たち』などのランベール・
ウィルソン、2018年10月紹介『ジョニー・イングリッシュ』
などのオルガ・キュリレンコ、2016年10月30日題名紹介『僕
と世界の方程式』などのアレックス・ロウザー。
さらに2018年3月4日題名紹介『ダリダ〜あまい囁き〜』など
のリッカルド・スカマルチョ、2016年11月20日題名紹介『王
様のためホログラム』などのシセ・バベット・クヌッセン。
2013年2月10日題名紹介『ラストスタンド』などのエドゥア
ルド・ノリエガらが脇を固めている。
脚本と監督は、2013年6月20日「フランス映画祭2013」で紹
介『タイピスト!』などのレジス・ロワンサル。
基となった実話があるとは言え、描かれた物語は映画的にも
なかなか面白かった。ミステリー仕立てというのも、もとも
との話と重なって興味を惹かれるものだ。脅迫の真犯人は消
去法で大体の予測はついたが、そこからの展開には意外性も
あった。
ただ後半に発生する事件に関してはもう少し詳細に描いて欲
しかったかな。警察の動きもちょっと唐突で、その辺の詰め
が多少甘いようにも感じられた。でもまあ下手にだらだらす
るよりは、この方が良いのかもしれない。
今回は1度見ただけだが、2度見すればさらに色々見えてき
そうな、そんな感じもする作品だ。

公開は2020年1月24日より、東京はヒューマントラストシネ
マ有楽町、渋谷シネクイント、新宿ピカデリー他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『ジョジョ・ラビット』“Jojo Rabbit”
(ハーヴァードで学んだ女流作家クリスティン・ルーネンス
が2008年に発表した小説“Caging Skies”から、2017年『マ
イティ・ソー バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティが
脚色、監督した作品。第2次世界大戦中のドイツを舞台に、
ヒトラーユーゲントに憧れる少年と、彼の家に匿われていた
ユダヤ人少女との交流が描かれる。少年はユーゲントの合宿
で失敗しウサギとあだ名されるが…。イマジナリーフレンド
としてアドルフ・ヒトラーも登場し、大人も社会も一方向に
向いた中で育つ少年が真実に目覚めてゆく姿をユーモアを込
めて描く。出演は新人のローマン・グリフィン・デイヴィス
と、2018年『足跡はかき消して』などのトーマシン・マッケ
ンジー。ワイティティ監督がアドルフ役を演じ、サム・ロッ
クウェル、スカーレット・ヨハンソンらが脇を固めている。
現代にも通じる全体主義国家の恐ろしさが巧みに描かれた作
品だ。公開は2020年1月17日より、全国ロードショウ。)

『オリ・マキの人生で最も幸せな日』“Hymyilevä mies”
(1962年夏に行われたフィンランド史上初の世界チャンピオ
ンを迎えてのボクシングタイトルマッチ。その戦いに挑んだ
ボクサーの姿を描く実話に基づいた作品。主人公は欧州チャ
ンピオンにも輝き、正に国民期待の星だったのだが…。ある
事情から体重を1ランク落としての挑戦を余儀なくされる。
とは言え減量も苦も無くやってのける主人公だったが、彼は
1人の女性に恋をしてしまう。そしてトレーニングの最中に
もデートを重ねて行く。スポーツドラマだと思って観ている
と後半あれあれと思うが、実は物語は微笑ましい青春ドラマ
なのだ。出演は、主人公と同郷のヤルコ・ラハティと映画初
出演のオーナ・アイロア。監督も長編デビュー作のユホ・ク
オスマネン。因に映画の終盤で主人公とすれ違う老夫婦は御
本人たちだそうだ。本作は2016年カンヌ国際映画祭・ある視
点部門グランプリを獲得した。公開は2020年1月17日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2019年11月07日(木) 第32回東京国際映画祭<コンペティション以外>

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※今回は、10月28日から11月5日まで行われていた第32回※
※東京国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。な※
※お、紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は※
※最少限に留めたつもりですが、多少は書いている場合も※
※ありますので、読まれる方はご注意下さい。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<日本映画スプラッシュ部門>
『i−新聞記者ドキュメント−』
2019年4月28日題名紹介『新聞記者』の元となった女性記者
の姿を、オウム真理教を題材にした『A』などの森達也監督
が追ったドキュメンタリー。登場するのは東京新聞社会部記
者の望月衣塑子。彼女は社会部=民間の目線で沖縄辺野古や
福島、「森友学園」、「加計学園」問題などを取材し、それ
を首相官邸での記者会見で追及する。その姿は官邸からは煙
たがられ、質問には妨害も行われる。本作の題材は望月記者
だが、監督の視線はその先にある安倍政権に多く向けられて
おり、その横暴さが巧みに描かれた作品だ。映画祭の上映で
は海外記者向けに各事件の概要も配られていたようだ。なお
この作品は11月15日より、東京は丸の内ピカデリー他で全国
順次ロードショウとなる。

<Japan Now部門>
『海辺の映画館―キネマの玉手箱』
一昨年の映画祭では2017年10月紹介の『花筐』が上映された
大林宣彦監督の最新作。物語の大筋は、映画館の閉館記念で
戦争映画の特集が組まれる。そこに戦争を知らない若者たち
が集まるが、その映画館では選ばれた者が映画の世界に入り
込むことができた。前作も反戦色の強い作品だったが、本作
でも戊辰戦争から第2次世界大戦までの様々な戦争の中で翻
弄される庶民の姿が描かれる。そしてそれは広島原爆で全滅
した劇団・桜隊への思いに繋がる。そんな物語が合成も満載
の大林ワールドの中で展開される。出演は厚木拓郎、細山田
隆人、細田善彦、吉田玲。さらに前作に続いての山崎紘菜、
常盤貴子、そして初参加の成海璃子らが脇を固めている。他
にもいろいろな俳優が出ていたようだ。なお本作は2020年春
の公開が予定されており、その際に再度紹介したい。

<CROSSCUT ASIA部門>
『停止』“Ang Hupa”
昨年の映画祭で上映された『悪魔の季節』ラヴ・ディアス監
督による新作で、上映時間4時間42分の近未来映画。物語の
背景は2031年に近海の火山が大爆発し、吹き上がった火山灰
によって東南アジア全域が闇に閉ざされているという世界。
そんな地域の某国では独裁政権が厳しい圧政を敷いていた。
そしてインフルエンザの蔓延が始まり、政権は予防接種の義
務化と違反者の処罰を開始する。しかしそこには反政府勢力
を一掃する陰謀も隠されていた。さらに「黒い雨」作戦とい
う究極の粛清計画も進む。その一方で反政府勢力は政権転覆
の計画を進めていたが…。話は多岐に繰り広げられて一概に
は把握できないが、壮大なディストピアが描かれる。

『リリア・カンタペイ、神出鬼没』
   “Six Degrees of Separation from Lilia Cuntapay”
名前は知られていないが、その顔を見れば誰もが知る魔女顔
の怪女優を追ったやらせも満載のドキュメンタリー(?)。下
町のドヤ街のような町に暮らし、個人の電話も持たず、知り
合いの取次で出演依頼を受ける。でもお金があれば地元の大
会のトロフィーも寄贈する。そんな下積みの女優が権威ある
賞の助演賞にノミネートされる。こうしてテレビの取材が来
たりの騒ぎとなるが…。どこまでがフェイクか判らない作品
だが、作中で言及される映画はほとんどが実在の物で、中で
も『ブロークダウン・パレス』はアメリカのデータベースで
出演が確認できた。ただし彼女がノミネートされる賞の方は
フェイクのようだが、実は本作のおかげで、彼女が2011年の
Cinema One Originals Digital Film Festivalにおいて主演
女優賞を受賞したというのは愉快なところだ。

『永遠の散歩』“Bor Mi Vanh Chark”
二の腕にディジタル表示が浮かび上がり、金銭取引もそれで
行われている未来社会。しかし物語はそれとは関係なく、霊
魂の見える老人の50年間の人生が描かれる。しかも老人には
時間を行き来する能力もあるようだが…。老人に随行する若
い女性は、実は彼が殺した女性だった。そして老人は自らの
少年時代に立ち返り、彼が助けられなかった母親の運命を変
えようとする。いろいろなギミックは出てくるが、全体の物
語は意味がよく判らず。雰囲気では面白いと思えたが、評価
には迷う作品だった。監督のマティー・ドゥはラオス唯一の
女性監督で、プチョン国際ファンタスティック映画祭ファン
タスティック・フィルムスクールで学んだそうだ。

<アジアの未来部門>
『モーテル・アカシア』“Motel Acacia”
舞台は雪深い人里離れた場所に立つモーテル。若い男が途中
で拾った男と共にやってくる。そこで小屋に見えた建物は、
入ると広大な部屋が広がり、何やら怪しい雰囲気が漂う。そ
して同行の男には全裸でベッドに横たわることが命じられる
が…。そのベッドの表面が液状化し男が飲み込まれるなど、
いろいろと目新しい造形や演出も見られた。ただ肝心の脅威
の正体が、ジャングルから連れてこられたような描写はある
が実態は不明で、物語の全体的な流れは判るのだが、どこか
ディテールの詰めが甘いように感じられた。直上の作品もそ
うだが、雰囲気がありさえすれば良いという感じにも捉えら
れる。おそらく作者の頭の中にはすべてが構築されているの
だろうが、それが表現し切れていない感じもした。それでよ
しという風潮があるのも事実だが。

『ファストフード店の住人たち』“麥路人”
24時間営業の店で夜を過ごすホームレスの人たち。そこには
幼い子を連れた母親や、家出してきたばかりの若者もいる。
そしてスーツを着た男が彼らを取り仕切っていたが…。繁栄
する社会の陰で、その繁栄に取り残された人たち。そこには
様々な事情があり、それに絡んでいろいろな事件も起きる。
そんな本当の庶民の姿が描かれて行く。物語の流れから見て
1人ぐらいは死ぬのかなと思っていたら、その通りになった
のも衝撃だった。ただ映画の中で集合写真が撮られ、そこに
ある仕掛けが施されている。それを見ると結末にはある種の
救いも感じられるが、それとても悲しい結末に代わるもので
はなかった。アーロン・クォックとミリアム・ヨンの共演も
見どころとされる作品だ。

『夏の夜の騎士』“夏夜騎士”
1997年の夏を祖父母の一家と共に過ごした少年の成長物語。
舞台は中国の田舎町。両親が日本に行っている少年は、隠居
生活の祖父母と失業中の叔父、それに少し年長の従兄と共に
暮らしている。そんなある日、祖母の自転車が盗まれるが、
祖父は近くの盗品市場でそれを買い戻す。それを当たり前だ
とする社会に少年は反発し、従兄と2人で犯人探しを始める
が…。中国や台湾の映画でこのような成長物語は過去にも見
ている気がするが、まあ定番の作品というところかな。でも
過去に見た諸作の方がより鮮烈だった気がするし、本作はそ
んな中では特にポイントもない気もした。まあそれが現代風
ということなのかもしれないが。

<ワールド・フォーカス部門>
『サイエンス・オブ・フィクションズ』
              “Hiruk-Pikuk Si-Alkisah”
1970年代にニクソン大統領がマルコス大統領に「月の石」を
贈ったという事実を基に、アポロ11の月面中継が捏造でイン
ドネシアの奥地で撮影されたとする都市伝説を背景として、
その現場を目撃したために舌を抜かれた男が、それでも感化
されてスローモーションのような行動を続け、それがいつし
かパフォーマンスとして認められてしまうというお話。とは
言うものの、この作品も物語の展開がてんでんばらばらで、
正直に言って真っ当には理解できなかった。ただしこの作品
はヴェネチア映画祭2019ヴェニス・デイズ部門でスペシャル
メンションだそうだ。アポロ11の50周年ということで話題性
は確かにあったとは思えるが。

『ファイアー・ウィル・カム』“Viendra Le Feu”
山間の村を襲う山火事をクライマックスに、過去に放火の罪
で服役していた男と村人との関係が描かれる。そんな中で男
は村の女性獣医と親しくなるが、それも過去の経緯によって
ギクシャクしたものになって行く。他にも黙って彼を迎え入
れる母親の姿など、いろいろある人間模様は面白いが、それ
らは山火事の凄まじさで飛んでしまうかな。とは言えその描
写は2018年3月紹介『オンリー・ザ・ブレイブ』ほどではな
いし、迎え火を使う消火方法の説明なども前作の方が詳細で
理解し易かった感じがする。しかも本作では結末が曖昧で、
意味もよく判らなかった。因に本作はカンヌ国際映画祭「あ
る視点」部門で審査員賞だそうだ。

<特別招待作品>
『アイリッシュマン』“The Irishman”
全米トラック運転組合(チームスター)の元幹部で、2003年に
死去したフランク・シーランが生前残した告白として2004年
に公表された伝記本に基き、マフィアとケネディ家の関係な
どを描いた上映時間3時間39分のマーティン・スコセッシ監
督作品。シーランをロバート・デ・ニーロが演じ、他にアル
・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル、レイ・
ロマノ、ボビー・カナベイル、アンナ・パキンらが脇を固め
ている。当初はクロージングフィルムに予定されたが諸般の
事情で閉会式での上映は取り止めになり、代わりに特別招待
として上映された。正にアメリカ政界の裏面史といった感じ
で、特にエピソードとして描かれる大統領と司法長官のケネ
ディ兄弟の素顔は、英雄伝説をぶち破る作品とも言えるもの
だ。60年近くに亙る物語だが、主な登場人物を同じ俳優が演
じているのも驚嘆すべき作品だった。なお本作はNetflixの
作品だが、11月27日からの配信に先だつ11月15日より、一部
劇場にて公開される。
        *         *
 以上、今回のコンペティション以外の鑑賞は11本。今年は
会期も1日短かったので、ほぼ昨年と同水準で観られた感じ
かな。なお上記の内で、『i−新聞記者ドキュメント−』が
日本映画スプラッシュ部門の作品賞、『夏の夜の騎士』がア
ジアの未来部門の作品賞を受賞している。この点は効率が良
かったと言えそうだ。
 また今回は上記の作品以外にもホラー/ファンタシー系の
作品が多く、スケジュールの関係で観切れなかったのだが、
これは以前に映画祭に併催されて、今年「シン・ファンタ」
として一夜だけ復活した東京ファンタスティック映画祭の再
開に向けた布石かなとも勘ぐったところだ。
 それは夢かもしれないけれど、来年以降の映画祭には期待
したい。



2019年11月06日(水) 第32回東京国際映画祭<コンペティション部門>

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※今回は、10月28日から11月5日まで行われていた第32回※
※東京国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。な※
※お、紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は※
※最少限に留めたつもりですが、多少は書いている場合も※
※ありますので、読まれる方はご注意下さい。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<コンペティション部門>
『ネヴィア』“Nevia”
イタリア・ナポリを舞台に、恵まれない環境に暮らす少女が
上を向いて生き抜いて行く姿を描く。イタリア映画では毎年
定番のような話と言われればそれまでだが、やはりこの手の
成長物語は見ていて気持ちが良い。サーカスが背景というの
もノスタルジーが感じられてよかった。Q&Aでピエロの化
粧を聞かれた21歳の女優が「1954年『道』のジェルソミーナ
へのトリビュート」とさらりと言ってのけたのも感動した。
無冠に終わったが、僕は気に入った作品だ。

『喜劇・愛妻物語』
売れない脚本家といわゆる鬼嫁との日々を描いた家族愛(?)
の物語。審査員は脚本賞に選んだ作品だが、見ていて面白み
には欠ける作品だった。なお青春18きっぷで香川県に行くと
いう展開だが、自分の経験で夜行列車以外では富士山が見え
る界隈でボックス席の普通列車は見たことがなく、この辺は
しっかりと考証をしたのか疑問にもなった。物語全体も夫婦
を長くやっていればあり得る話で、多少の誇張はあっても、
それが映画的に面白くなっているようにも見えなかった。

『動物だけが知っている』“Seules Les Bêtes”
開幕はアフリカの大地、そこから北部フランスの雪に閉ざさ
れた高地に飛び、そこでの1人の女性の失踪から物語が始ま
る。その行方を追って様々な謎が提示され、個々の謎が解決
されて行く。何とも手の込んだ展開の物語で、その展開ごと
に時間を遡って行く構成も見事だった。僕が審査員ならこの
作品に脚本賞を贈りたいと思ったものだ。そして現代を象徴
するような事件の発端が…、これも気に入るところだった。
最優秀女優賞と観客賞を受賞した。

『アトランティス』“Atlantis”
2025年以降の近未来が背景の作品。地雷の除去など戦後処理
が続く中で、戦時中に処刑されて埋められた遺体の発掘も行
われている。発端が処刑のシーン、結末が発掘のシーンとな
るが、そこをサーモグラフィの映像で描いているのはいろい
ろ意味があるようにも感じられた。本作には審査員特別賞が
贈られたが、僕にはそれほどの意義は感じられなかった。ま
あ地雷処理に20年は掛かるなど、反戦的な意味ではかなりの
メッセージ性は感じたが…。

『ディスコ』“Disco”
始りはディスコダンスのコンテストで、そんな話かと思って
いたら本筋はキリスト教系の宗教映画だった。しかも結末は
宗教の強さみたいな描き方で、僕はQ&Aを見なかったが、
見た人によると監督は宗教に反論していたそうだ。でも映画
はそのようには見えなかったし、僕はこの手の映画は性に合
わない。ハリウッドでは毎年1本ぐらいあるし、そういう需
要もあるのだろうけど…。実際の宗教関係者はどう見るのだ
ろうか。

『ラ・ヨローナ伝説』“La Llorona”
2019年4月紹介のホラー映画と同じ伝説に基くポリティカル
・フィクション。本作では伝説は自明としてあまり語られな
いが、先の作品を見ているとその辺りは明確で、しかもその
復讐の相手が独裁権力者という、政治映画として巧みに作ら
れているのも感心した。ホラーと政治の見事なマッシュアッ
プ。僕ならこの作品にグランプリも考えるところだ。なお本
作はGAGAによる日本配給が決まったようなので、その際に機
会があったらまた紹介したい。

『わたしの叔父さん』“Onkel”
主人公はデンマークの酪農地帯に暮らす女性。獣医を目指し
ていたが、両親の他界と同時期に叔父が倒れ、道半ばで介護
と飼牛の世話に追われる日々となった。しかし近所の獣医は
何かにつけて彼女を獣医の道に戻らせようとしていたが…。
今回のグランプリ作品だが、開幕と結末の状況が変わらない
ことが僕には納得できず、不満の残る作品だった。これが現
実と言われればそれまでだが、最近の映画に未来を展望でき
ない作品が多いのは社会情勢のせいなのだろうか。

『列車旅行のすすめ』“Ventajas de viajar en tren”
精神病患者の言動を記したというファイルに踊らされる人々
を描いた作品。3章立てだが、各章の題名と内容が一致しな
いなど全体が病んだ感じの作品だった。しかも内容がグロテ
スクで見ていた辟易した。ただ以前あった同様の作品では上
映中に立つ観客が目立ったが、今回は数人の馬鹿笑いしてい
る人もいて、こういう作品が受け入れられるのかと時代の変
化も感じてしまったところだ。とは言っても僕の趣味には全
く合わない作品だった。

『戦場を探す旅』“Vers La Bataille”
1863年、フランス干渉戦争を背景にした初期の戦場カメラマ
ンを描いた作品。主人公はフランスで報道写真家だったが、
メキシコでの戦闘を撮るべくやってくる。しかし将軍の命は
受けたものの軍隊とはぐれ、そこで現地人との交流や脱走兵
に翻弄されるなど、様々な苦難を味わうことになる。一方で
当時の撮影技術の紹介や、さらにはアメリカ人カメラマンが
捏造写真を撮っているなど、現実は知らないが在りそうな話
が続く作品だった。

『ジャスト6.5』“تری شیش و نیم”
麻薬患者が100万人から650万人に急増したというイランで、
麻薬組織と対決する警察の姿を描いた作品。と言っても正義
の警察という感じではなく、さらに組織側のトップに関して
も相応の情状が語られるなど、かなりエンターテインメント
性豊かな作品になっている。しかも虚々実々の捜査の展開や
ホームレスの一斉検挙など多人数のモブシーンも繰り返し描
かれ、正に大作という感じの作品だ。映画祭では最優秀監督
賞と最優秀男優賞にも輝いた。

『マニャニータ』“Mañanita”
イランに続いてはフィリピンの警察で、こちらは麻薬組織の
検挙の現場で哀愁を込めた歌によって投降を促すという実際
に行われている作戦を背景とした作品。主人公は軍隊の女性
スナイパー。実績では勲章も貰った女性が素行の問題で任を
解かれる。そこから彼女はある男を追い始める。そんな彼女
の行動が明るい南国の景色の中でに描かれる。昨年上映『悪
魔の季節』のラヴ・ディアス監督が脚本を手掛けたもので、
フィリピンの歌謡曲もふんだんに聞ける作品だ。

『湖上のリンゴ』“Aşık”
凍結した湖の氷の上に置かれた齧り掛けのリンゴを巡って、
その来歴が描かれる作品。主人公の少年はアシュクと呼ばれ
る吟遊詩人の卵。サズという弦楽器を演奏しながら即興で事
物を歌い上げる。そんな少年が年上の女性に恋をするが、彼
が呼ばれたのは彼女の婚礼の席だった。そんな切ない初恋の
物語と、歌合戦など吟遊詩人の伝統が描かれる。それは旱魃
の続いた1960年代の夏の出来事。少年はリンゴに願いを託す
が…。雨乞いの犠牲などトルコの伝統も描かれる。

『ばるぼら』
手塚真監督が父・手塚治虫の作品に挑戦した作品。人気実力
を兼ね備えた作家が場末の地下道で酔いつぶれた女を拾う。
しかしその女は魔性だった。そんな女に作家は翻弄される。
手塚漫画の中では異質とされる原作のようだが、こんな手塚
も面白い。そんな作品を息子が巧みに描き切った。これは今
までの手塚真作品とは一線を画した何かが吹っ切れたような
作品だ。映画祭での評価には添い難いかもしれないが、僕は
この作品を支持したいと思う。

『チャクトウとサルラ』“白雲之下”
内モンゴルの草原を舞台にした若い夫婦の物語。同地出身の
作家・漠月による原作の映画化。結婚5年、心から愛し合う
2人だったが、その価値観には大きな隔たりがあった。草原
を愛する妻はその地を離れようとせず、夫は都会に出てさら
に遠くの土地にも行きたかったのだ。そんな価値観の違いが
悲劇を引き起こす。妻役の女優の歌声も美しいが、結末に伏
線がなく観客への裏切りが僕には少し解せなかった。審査員
は芸術貢献賞を贈っている。
        *         *
 以上で今回はコンペティション部門の14作品は全て会期中
に鑑賞した。今回も事前試写は実施されなかったが、他の部
門を割愛して、何とかコンペ作品だけは制覇したものだ。
 そこで僕が選ぶ各賞は、
東京グランプリ:ラ・ヨローナ伝説
審査員特別賞:ばるぼら
最優秀監督賞:ヌンツィア・デ・ステファノ(ネヴィア)
最優秀女優賞:タナ(チャクトウとサルラ)
最優秀男優賞:マリック・ジディ(戦場を探す旅)
最優秀芸術貢献賞:湖上のリンゴ
最優秀脚本賞:動物だけが知っている
観客賞:ジャスト6.5

 これに対して実際の受賞は
東京グランプリ:わたしの叔父さん
審査員特別賞:アトランティス
最優秀監督賞:サイード・ルスタイ(ジャスト6.5)
最優秀女優賞:ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ
               (動物だけが知っている)
最優秀男優賞:ナヴィド・モハマドザデー(ジャスト6.5)
最優秀芸術貢献賞:チャクトゥとサルラ
最優秀脚本賞:喜劇 愛妻物語
観客賞:動物だけが知っている

 今回は全部門で受賞作とは異なる選択となった。まあ例年
一致することは少ないが。
 グランプリに関しては、このマッシュアップはなかなか成
功するとは思えないもので、これを実現したことは今後の映
画にも良い影響を与えそうだと思えたからだ。
 審査員特別賞に関しては、上記の作品紹介の通りなので、
僕の個人的なものとしておきたい。
 監督賞は、映画としては一番好きな作品だったので、ここ
に置いた。
 女優賞は、ひょっとして審査委員長への忖度が発生したか
なとも思えたものであえて選んだ。男優賞は実際の受賞者と
同じでもよかったが、全体的に男優は低調な年に思えた。
 芸術貢献賞は、実際の受賞作が審査委員長への忖度に思え
たもので、似た雰囲気だが僕はこちらの方が好きだ。
 脚本賞は、よくこの複雑な展開を考えたものだと思えたと
ころで、実際の受賞作は僕には思いつかなかった。
 観客賞は、昨年に続いて稲垣吾郎主演作でもよかった気が
するが、今年はR15+指定なのでファンが見られなかったのか
な。僕は単純に面白かった作品を選んだものだが。


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井口健二