井口健二のOn the Production
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2019年10月27日(日) JAPAN CONTENT SHOWCASE[烈火英雄、ひとくず、恋の豚、星屑の町、白蛇・縁起]+(太陽の家、デニス・ホッパー/狂気の旅路、ラストムービー)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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<JAPAN CONTENT SHOWCASE 2019>
今回は東京国際映画祭に先立って開催された映画の見本市に
おいて上映された作品から紹介します。
“烈火英雄”
港湾地区の石油タンクと化学物質の貯蔵タンク群で起きた大
規模火災を巡って、自らの命を賭してそれに対処した消防隊
員たちの活躍を描いた実話に基づくとされる中国作品。
実は日本語字幕なしで、中文字幕と英語字幕を何とか読んで
鑑賞した。
プロローグは古い商家の火災。店主から上階にいる娘を助け
てくれと言われた消防隊長の主人公は、果敢に火中に飛び込
み娘を救い出す。ところが鎮火したはず店内に検分に行った
新人が突然のガス爆発で殉職。責任を問われた主人公は隊長
職を解かれてしまう。
こうして世間からも非難の視線を浴びることになってしまっ
た主人公だったが…。そこに港湾地区の倉庫街からの出火の
報が入り、その規模から消防隊を2班に分けることになった
消火活動では、火災の際まで突入する班の指揮が主人公に任
される。しかしそれは予想もつかない事態となる。
これに結婚式場から駆け付ける新婚消防士カップルの姿や、
海水を汲み上げて消火するためのポンプの操作。さらに指令
本部の人間模様など。また消防士らの家族も含む市民の緊急
事態に直面した様々な行動の様子が描かれて行く。

出演は、2019年5月19日題名紹介『CROSSING』などの黄暁明
(ホアン・シャオミン)、他に杜江、譚卓、楊紫、欧豪らが脇
を固めている。監督は香港映画でラヴコメの名手と言われた
陳国輝(トニー・チャン)が担当した。
物語は、内モンゴル出身の公安作家バルジ原野の長編ノンフ
ィクション「最深的水是涙水」を原作とするもので、これは
2011年7月16日に大連で起きた大規模火災事故を取材したも
ののようだ。しかし日本人には2015年に起きた天津浜海新区
倉庫爆発事故も思い出される。
日本企業も多大な被害を受けた2015年の火災は、周辺住民を
含む死者165人、行方不明者8人、負傷者798人の惨事となっ
たものだ。その火災では化学物質の誘爆で被害を広げたもの
だが、本作によるとその前に起きた大連の火災ではそれが食
い止められていたというのは意外だった。
それはともかく映画は上映時間約2時間のほぼ全編に亙って
火災シーンが連続するもので、正に中国映画界のCGI=VFXの
実力が試されるような作品。様々な形態の火災シーンやそれ
に絡む人間たちの手を変え品を変えてのアクションは、この
手の作品の集大成といった感じもする作品だ。

本国では8月1日に公開された作品で、日本公開は決まって
いないようだ。

『ひとくず』
関西でテンアンツという劇団を主宰する上西雄大の脚本、監
督、主演で、児童虐待の現実を描いた作品。
映画の開幕は薄暗いマンションの一室。ドアの外側にもカギ
が付けられ脱出不能の部屋に、幼女が1人で母親を待ってい
る。しかし何日も留守らしく食べるものもなく、裂き開いた
ケチャップのチューブも舐め切ったような状態だ。
そこに突然窓ガラスが破られ男が入ってくる。男は室内を物
色して去ろうとするが、幼女の手の甲や体に残る火傷跡から
自らも体験した児童虐待の記憶が甦り、幼女を放っておけな
くなる。そこで食べ物を持ってきたりし始めるが…。
やがて母親が愛人と共に帰宅し男は彼らと対峙するが、それ
がとんでもない事態を招くことになってしまう。

出演は上西の他に、小南希良梨、古川藍、徳竹未夏。さらに
田中要次、木下ほうか、菅田俊、工藤俊作、谷しげる、堀田
眞三、城明男ら、錚々たるメムバーが脇を固めている。
児童虐待を受けて育った子供が粗暴性を持つというのは追跡
研究によって明らかになっていることのようだが、本作の主
人公にも多分にそのような表現が描かれている。そして幼女
の母親も愛を知らずに育った存在だ。そんな現実にも多々あ
りそうな物語が描かれる。
そして後半には少し意外な展開も用意されて映画を引っ張る
が、全体としてはそんな中にも微かかも知れないが希望が描
かれた作品で、結末はありきたりかも知れないがホッとする
気持ちで観終えられる作品だった。

因に本作は、2019年5月開催のニース国際映画祭で上西雄大
が主演男優賞と古川藍が助演女優賞を受賞。6月末に開催さ
れた熱海国際映画祭で最優秀監督賞と子役の小南希良梨が最
優秀俳優賞を受賞。
さらに8月開催のマドリード国際映画祭にて古川藍と徳竹未
夏が最優秀助演女優賞を受賞している。海外での上映題名は
“KANEMASA”。しかしながら日本公開はまだ決まっていない
ようだ。
確かに題材として観客の嗜好に沿わせるのが難しいかも知れ
ないし、僕自身も概要を読んだだけでは観るかどうか迷った
作品でもある。しかし現実を直視する意味でも観るべき作品
だし、マドリードで上映後にスタンディングオベーションが
起きたというのも頷ける作品だ。
日本公開が実現したらぜひとも応援したい。

『恋の豚』
1962年に日本で初のピンク映画を配給したという大蔵映画。
現在も「OP PICTURES」の名称で年間36作品をコンスタント
に製作している同社が、成人向ピンク映画の枠を超える目的
で2015年からR18+作品とは別にR15+のバージョンを製作して
いるプロジェクト「OP PICTURES+」の1作品。
因に本作は2018年8月25日〜9月14日に東京はテアトル新宿
で開催の「OP PICTURES+ フェス」で上映され、2019年2月
に単独劇場公開もされているそうだ。
従って本ページで扱う主旨とは異なるものだが。一応作品は
鑑賞したので物語を簡単に紹介しておくと、俗に「デブ専」
と呼ばれる肥満型のデリヘル嬢を主人公に、彼女と関係する
男性たちが描かれる。そこにピンク映画らしいベッドシーン
が何度も登場するものだ。
ただまあ物語では後半に少し捻りはあるが、特に「デブ専」
に拘るような展開があるものではなく、また取り立てて言う
ほどの男女の絡みに面白さがあるものでもないから、何とい
うか普通の作品かな。
何かもう少し主人公の体形だけでない独自性みたいなものが
欲しいという感じはしたものだ。

主演は本作で芸能界を引退したという百合華。脚本と監督は
2011年8月紹介『タナトス』などの城定秀夫。因に監督は、
ピンク映画界では名手と言われているようだ。

『星屑の町』
演劇集団「星屑の会」が1994年から公演を続けて、2016年に
第7話で完結したという舞台シリーズの映画版。
地方回りの売れないムード歌謡コーラスグループ「山田修と
ハローナイツ」を中心に、訪れた土地で起きるドタバタが涙
と笑いで綴られる。そして今回彼らが訪れたのはリーダーの
故郷の東北の田舎町。そこには兄弟も暮らしていたが…。
グループの中ではリードヴォーカルがソロ活動を目指す動き
があったり、一方、町でスナックを営む女将の娘が歌手を目
指すなど、いろいろな動きがグループの周囲で巻き起こる。

出演は、舞台キャストそのままの大平サブロー、ラサール石
井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記のメムバーと、
菅原大吉、戸田恵子。
そして今回のヒロイン役は、2014年『海月姫』以来約6年ぶ
りの実写映画出演となるのん。また2019年7月28日題名紹介
『向こうの家』などの小日向星一。さらに相築あきこ、柄本
明らが脇を固めている。
舞台からの水谷龍二が原作と脚本を手掛け、監督は、2017年
3月12日題名紹介『トモシビ-銚子電鉄6.4kmの軌跡-』など
の杉山泰一が担当した。
なお本作は2020年春の公開が予定されているもので、今回は
マスコミ資料の配布もなかったので、公開時に再度鑑賞の機
会があれば改めて紹介する。

“白蛇・縁起”
NHK朝の連続テレビ小説でも描かれた日本初のカラー長編
アニメーション『白蛇伝』の基になった中国の民話を、新た
にCGIアニメーションで制作した作品。
物語は中国奥地の蛇採りを生業とする村を舞台に、なかなか
蛇を採れない若者と白蛇の精との交流が描かれる。そこに村
の征服を狙う朝廷の権力者らが絡んで展開されて行く。
実はこの作品も日本語字幕なしの、中文字幕と英語字幕だけ
で鑑賞したもので、物語の細かいところがあまり把握できな
かった。しかし映画の後半は妖術を駆使する闘いの連続で、
そのアクションは楽しめたかな。
とは言うものの東映版で描かれた若者と妖魔の切ない恋物語
はあまり活かされておらず、大人の観客としては多少物足り
ない感じだったが、eゲーム世代の若者にはこの方が良いの
かな?

本国では2019年1月11日に公開された作品で、日本公開はま
だ決まっていないようだ。

この週は他に
『太陽の家』
(2019年にデビュー40年を迎えた歌手の長渕剛が、1999年の
『英二』以来となる20年ぶりの映画出演を果たした作品。長
渕が演じるのは大工の棟梁。性格は生真面目だが女に弱く、
しかし女房には頭が上がらない。そんな主人公が保険の外交
ウーマンに目を留める。そして何かと気に掛け始めるが、彼
女はシングルマザーで1人息子が父親を知らずに育っている
ことを気にしていた。そこで主人公はその子を男にしてやる
と張り切るが…。長渕が20年間映画に出なかった理由は知ら
ないが、まあはまり役とも言える役柄をうまく演じて見せて
いる。共演は飯島直子、山口まゆ、瑛太、広末涼子。それに
オーディションで選ばれた子役の潤浩。さらに上田晋也、柄
本明らが脇を固めている。脚本は2010年8月紹介『桜田門外
ノ変』などの江良至。監督は2015年『TRASH トラッシュ』な
どの権野元が担当した。公開は2020年1月17日より、東京は
TOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『デニス・ホッパー/狂気の旅路』“Along for the Ride”
『ラストムービー』“The Last Movie”
(1970年『イージー・ライダー』で一躍時代の寵児となった
監督が、最終編集権を保持するという最大限の自由度で制作
し、映画祭では好評を博したものの芸術ゆえの難解さで長期
に亙りお蔵入りとなっていた1971年の作品が4Kリマスター
により公開される。その物語はアンデスの山中の村に西部劇
の撮影隊が赴き、そこでの行為が純朴だった村人に様々な影
響を及ぼして行くというものだが…。正直に言って今観ても
支離滅裂で理解に苦しむもの。そして今回は同時上映される
ドキュメンタリーでは、その混乱した製作過程を中心に監督
の半生が描かれる。これを観ると当時のドラッグ文化の狂乱
ぶりが手に取るように判るというものだ。とは言うものの、
『イージー・ライダー』に熱狂してアメリカン・ニューシネ
マに狂喜した世代としては、何ともやりきれない思いもして
しまった。公開は12月20日より、東京は新宿シネマカリテ他
で2作品同時に全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。

なお次回は東京国際映画祭の期間中のため休載します。



2019年10月20日(日) GHOST MASTER(CLIMAX、バウハウス…、淪落の人、ひつじのショーン、テルアビブ・オン・F、だってしょうがない、家族を想う、THE UPSIDE)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
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『GHOST MASTER/ゴーストマスター』
黒沢清監督に師事したという父親はアメリカ人で母親が日本
人のヤング・ポール監督が、「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM
FILM 2016」にて準グランプリを獲得した長編デビュー作。
物語の背景は、とある学校の教室で行われている「壁ドン」
青春映画の撮影現場。そこには若い主演者の男女優と共に、
監督、プロデューサー、助監督らの撮影スタッフ。さらに共
演女優やベテランの男優とその付き人らも揃っていた。
ところがクランクアップ寸前になって主演男優が自分の役柄
に疑問を呈し始める。そのため撮影は中断、現場を飛び出し
た主演男優が姿をくらます。そこで監督に命じられた助監督
が後を追って探しに行くが…。
実はその助監督は自らが執筆したホラー映画の脚本で監督を
目指しており、先に共演女優に出演依頼して断られていた。
そんなもやもやした気持ちで校舎裏にいた主演男優を見付け
た助監督は思わず自筆の脚本を突き付ける。
ところがそこで脚本の怨念が具現化し、さらに主演男優に取
り憑いた怨念は主演男優を変貌させて暴走を始める。

出演は三浦貴大、成海璃子。さらに2019年9月8日題名紹介
『初恋ロスタイム』などの板垣瑞生、2017年6月4日題名紹
介『便利屋エレジー』などの永尾まりや。他に手塚とおる、
麿赤兒、篠原信一、川瀬陽太、柴本幸、森下能幸らが脇を固
めている。
監督との共同脚本は『東京喰種 トーキョーグール』などの
楠野一郎。特殊スタイリストとして同じく『東京喰種』など
の百武朋が参加している。
撮影のバックステージということでは、2018年4月22日題名
紹介『カメラを止めるな』も思い出すが、本作の企画提出は
上記の2016年だから影響を受けている訳ではない。とは言え
タイミング的にはその流れで行ければ良いかな?
もっとも『カメ止め』の出演者がほとんど知らない人ばかり
だったのに対して、こちらの出演者には有名な俳優が揃って
いる。それにしても成海がホラー映画(?)と思ったが、元々
彼女の映画デビュー作は『まだらの少女』だった。
その成海の役柄は有名アクション俳優を父親に持つ2世女優
というものだが、その相手役に三浦というのもなかなか気の
利いたキャスティングだ。撮影中に役作りなどの意見交換は
したのだろうか。
その2人にはかなりヘヴィなメイクアップも施され、その他
の特殊造型にもいろいろ見どころのある作品になっている。
また劇中にはいろいろな過去作へのオマージュも鏤められ、
観ながら心地よく楽しめる。映画愛に溢れた作品だった。

公開は12月6日より、東京は新宿シネマカリテ、アップリン
ク吉祥寺他にて全国ロードショウとなる。

この週は他に
『CLIMAX クライマックス』“Climax”
(2010年3月紹介『エンター・ザ・ボイド』などの鬼才ギャ
スパー・ノエ監督が、2018年カンヌ国際映画祭の監督週間に
出品して物議を醸したという作品。1996年の雪に閉ざされた
郊外の体育館で、激しいリハーサルを打ち上げたダンサーた
ちがパーティを開く。しかしそこで供されたサングリアには
LSDが混入されていた。そしてハイになった彼らの狂乱が
始まる。先の紹介作品もそうだったがノエ監督にはドラッグ
に対する憧憬が深いのかな。その割には歪んだ結末が何とも
言えなくなってしまう作品だ。単純にドラッグ批判と取って
も良いが、そうではないひねくれた感情も隠されているかも
しれない。出演は、2017年8月27日題名紹介『アトミック・
ブロンド』などのソフィア・ブテラの他は、プロのダンサー
たちがキャスティングされているようだ。公開はR18+指定で
11月1日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷他にて
全国順次ロードショウ。)

『バウハウス・スピリット』
     “Vom Bauen der Zukunft - 100 Jahre Bauhaus”
『バウハウスの女性たち』“Bauhausfrauen”
(「バウハウス100年映画祭」として公開される6作品4番
組のドキュメンタリーの中から番組Dの2作品を鑑賞した。
第1次−第2次世界大戦間の1919年から14年間、ドイツに開
設された芸術学校に関してはその名称を知っている程度だっ
たが、今回紹介されるその教育方針などは現代の教育におい
ても大いに参考にすべきものだろう。その1本目では理論的
な教育の在り方と共に、その精神を受け継いで現代に活かそ
うとする人たちや、南米のスラム街で住環境の改革を進める
人たちが描かれる。しかし2本目では、校是では男女同権を
謳いながらも実際は差別があったという現実が示され、その
中でも見事な仕事を遺した女性たちの姿が描かれる。そして
両作を通じてバウハウスが遺した数々の作品が紹介され、そ
れらは100年の時を経ても今なお燦然と輝き、実生活にも通
用するものだった。映画祭は11月23日より、東京は渋谷ユー
ロスペース他で全国順次開催。)

『淪落の人』“淪落人”
(2018年2月4日題名紹介『香港製造』などの監督フルーツ
・チャンが製作を手掛け、新人監督のオリヴァー・チャンが
自らの脚本に、2017年「劇映画初作品プロジェクト」の資金
援助を受けて制作した長編デビュー作。不慮の事故で首から
下が不随になった男性と、彼の介護に雇われたフィリピン女
性との交流が描かれる。男性は別れた妻と共にアメリカに渡
った息子の成功を傍から見守るだけで、女性は写真家になる
希望を失いかけていたが…。出演は脚本に惚れて無償でOK
したというアンソニー・ウォンと、香港在住10年というフィ
リピン出身の舞台女優クリセル・コンサンジ。他に『香港製
造』がデビュー作のサム・リー、さらにセシリア・イップら
が脇を固めている。同様の作品を後でもう1本紹介するが、
それぞれのシチュエーションで見事なドラマが展開される。
公開は2020年2月1日より、東京は新宿武蔵野館他で全国順
次ロードショウ。)

『ひつじのショーン UFOフィーバー!』
       “A Shaun the Sheep Movie: Farmageddon”
(『ウォレスとグルミット』からのスピンオフで誕生したア
ードマンの人気キャラクターの劇場版で、2015年公開作品に
続く第2作。主人公らの羊の群れと牧羊犬との攻防戦を中心
に、本作ではUFOで不時着した宇宙人の子供が騒動を引き
起こす。そこには『未知との遭遇』から『E.T.』に掛けて
のブームを思い出させるノスタルジーもあり、一方でブーム
に乗じて一儲け企む人物が登場するなど、現代を風刺するよ
うな展開も描かれている。もちろん基本はお子様向けの作品
ではあるけれど、大人の目で見るといろいろ見えてくるよう
にも作られている。そして上記2作も含めた様々なSF映画
へのオマージュも満載の作品だ。脚本は前作の監督を務めた
マーク・バートン。そして本作の監督は前作のストーリー・
ヘッドを務めたリチャード・フェランと、2018年5月20日題
名紹介『アーリーマン』も手掛けたウィル・ベチャーが担当
した。公開は12月13日より、全国ロードショウ。)

『テルアビブ・オン・ファイア』“תל אביב על האש”
(2018年11月3日付「東京国際映画祭」で紹介コメディ作品
の日本公開が決まり、改めて試写を鑑賞した。物語は前回に
書いた通りだが、さすがに2度見ると状況などもよく理解で
きて面白さも倍加した感じがする。複雑な両国関係のすった
もんだが巧みに取り入れられて、見事にコメディにした作品
とも言える。正に現実はコメディと言いたい感じなのかな?
出演は、2007年1月紹介『パラダイス・ナウ』でも共演のカ
イス・ナシェフとルブナ・アザバル。さらに2008年東京国際
映画祭で上映『時の彼方へ』などのヤニブ・ビトン、2018年
3月18日題名紹介『ガザの美容室』などのマイサ・アブドゥ
ル・エルハディ。ほとんどの出演者はイスラエル/パレスチ
ナ人で、脚本と監督もパレスチナ人のサメフ・ゾアビだが、
主な撮影はルクセンブルグで行われており、本作の国籍も同
国になるようだ。公開は11月22日より、東京は新宿シネマカ
リテ他で全国順次ロードショウ。)

『だってしょうがないじゃない』
(2009年4月紹介『美代子阿佐ヶ谷気分』などの坪田義史監
督が、発達障害で障害者年金二級を受給している親戚の男性
を撮影したドキュメンタリー。元はと言えば監督自身が精神
に不調を感じたことからこの親戚の存在を知り、急遽取材に
向かったということで、その時の心境はどのようなものだっ
たのかな? いずれにしても好奇の目ではない、真剣なまな
ざしで状況が捉えられている。それは数年前にそれまで40年
間男性の面倒を見てきた母親が他界し、その後を引き継いだ
叔母の手続きで障害者の認定を獲得。そのお陰で公的な支援
が得られているというものだが。その叔母も近くにいる訳で
はなく、また高齢で先行きには大きな不安が存在している。
映画には庭の大きな桜の樹を落ち葉が処理できないという理
由で切り倒す話などもあって、日本の福祉の根幹が描かれて
いる感じもした。公開は11月2日より、東京はポレポレ東中
野他で全国順次ロードショウ。)

『家族を想うとき』“Sorry We Missed You”
(前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』で2度目のパルム
ドールに輝き、引退宣言をしていたイギリスのケン・ローチ
監督が再びメガホンを持った作品。優秀な介護士の妻と多感
な息子、それに幼いが聡明な娘と共に暮らす主人公は、フラ
ンチャイズ制の運送業に職を得るが…。様々な状況が一家を
追い詰めて行く。それは現代社会が直面するグローバル化な
どの弊害が、庶民の目線から鋭く描かれたものだ。出演はい
ずれもオーディションで選ばれた映画初出演のクリス・ヒッ
チェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ
・ブロクスター。無名の俳優たちが正に隣人のような現実感
を生み出している。実は原題にはネガティヴなイメージを持
っていたが、調べるとポジティヴな意味合いが強いようで、
それを知って最後に希望を持たされた感じもした。とは言え
現実の厳しさが真っ向から描かれた作品だ。公開は12月13日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『THE UPSIDE−最強のふたり−』“The Upside”
(2011年10月30日付「東京国際映画祭」で紹介しグランプリ
を受賞した作品のハリウッドリメイク版。オリジナル版に関
して、僕は紹介の翌日記した講評で最高賞に選ばなかった。
その理由は描かれた主人公らの行動がかなり嫌味に感じられ
て納得できなかった点による。その点がリメイクではそれな
りに洗練されて、俗物的な面はありはするものの、観ていて
嫌味には感じ取れないものになっていた。しかもその俗物性
からの脱却みたいなものも心地よく描かれていたものだ。出
演は、2017年10月8日題名紹介『セントラル・インテリジェ
ンス』などのケヴィン・ハートと、2018年4月22日題名紹介
『30年後の同窓会』などのブライアン・クランストン。さら
に2018年11月11日題名紹介『バハールの涙』などのゴルシフ
テ・ファラハニ。そしてオスカー女優のニコール・キッドマ
ン。監督は2011年8月紹介『リミットレス』などのニール・
バーガー。公開は12月20日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2019年10月13日(日) 虹色の朝、シライサン(オルジャス、シュヴァルの理想宮、シティーH、エンド・オブ・S、アニエス/ヴァルダ、ある女優の、ドルフィン・M)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『虹色の朝が来るまで』
自らが聾者である今井ミカ監督が同じ障碍を持つ女性たちを
描いたドラマ作品。
主人公は群馬県前橋市に暮らす聾者の女性。美容室で働いて
いるが、そこには聾者の客もいて彼女は生き甲斐を感じて働
いているようだ。そんな彼女が婚前旅行の計画を進めていた
ボーイフレンドに別れを告げる。
それは彼女自身の心情の変化にもよっていたが、実はルーム
シェアの同じ障碍を持つ女性に新たな感情を持ち始めていた
のだ。そしてそのことを家族に打ち明けると、今までは理解
者だった母親から激しい非難を浴びてしまう。
そんな主人公にルームシェアの女性は東京の渋谷に行くこと
を誘う。そこである人たちと会うために。

出演はいずれも聾者である長井恵里と小林遥。他に玉田宙、
菊川れん、ノゾム、竹村祐樹。さらに佐藤有菜、太田辰郎と
いう人たちが脇を固めている。
題名の「虹色」がLGBTのシンボルを意味していることは事前
に理解していた。従ってこの作品では2重の迫害に会ってい
る人たちを描いているものだが、実は障碍に対する迫害は多
少は描かれるが主ではない。
むしろLGBTへの迫害を際立たせる意味合いが持たされている
ようにも感じる。そしてそこには未来に対する希望も描かれ
ていることが、本作の特徴とも言えるところだろう。それが
全ての迫害への回答の様にも感じられた。
聾者を描いた作品では、今までに2010年5月紹介『アイ・コ
ンタクト』、2016年3月紹介『LISTEN リッスン』、2016年
8月紹介『スタートライン』なども観てきたが、それらはい
ずれもドキュメンタリーだった。
そこには障碍を持つことの苦労(勿論それは重要だが)などは
描かれるものの、結論として何らかの達成感が得られること
には、自分の中に予定調和的な違和感が生じたことも否めな
かった。
その点が本作ではドラマとすることで、より明確に問題点が
描かれると共に、より主人公らの心情に沿ってその未来が展
望されているようにも感じられた。そしてそれが明るいもの
であって欲しいと願うものだ。
聾者を描いたドラマの作品では、1961年の『名もなく貧しく
美しく』が印象深いが、その中での名シーンとされる満員の
列車の車両連結部を挟んだ手話による対話が、本作では渋谷
の雑踏の中で再現されているのには感動した。
このシーンでは通常の会話を妨げる騒音がキーとなるが、実
は今井ミカ監督の過去の作品はいずれも無音で制作されてい
たのだそうだ。それが今回の作品では音響を施すことにも挑
戦している。
それは僕らには少し過剰に聞こえたりもするものだったが、
それが逆説的にこの物語の世界を語っているようにも感じら
れた。実はこの音響が彼女たちには聞こえていないのだとい
うことも、心して観るべき作品だろう。

公開は11月15日より、東京はシネマート新宿、大阪はシネマ
ート心斎橋で開催される「のむコレ3」の1本としての上映
となる。

『シライサン』
2007年3月紹介『きみにしか聞こえない』などの原作者とし
て知られる作家の乙一が、本名の安達寛高の名義で長編映画
監督デビューを飾った作品。
物語の発端は街なかでの怪死事件。その死因は医学的に有り
得るものとされるが、その死に様は異様だった。そして数日
後、もう一件の同様の怪死事件が起き、2人の被害者に繋が
りがあったことから物語が動き始める。
男女2人の被害者がバイト先の同僚で、事件の前にもう1人
の女性と3人で温泉宿に旅行に行っていたというのだ。そこ
で男性の兄と、女性の死の瞬間に現場に居合わせた女友達が
その温泉宿を訪ねるが…。
その宿で3人と配達に来ていた酒屋の店員が怪談話に興じて
いたことが判明し、それによって呪われた可能性が浮上して
くる。そこに事件を嗅ぎ付けた雑誌記者も現れ、呪いへの挑
戦が開始される。

出演は、2019年7月紹介『いなくなれ、群青』などの飯豊ま
りえと、2018年6月紹介『私の人生なのに』などの稲葉友。
他に忍成修吾、谷村美月、染谷将太、諏訪太朗。さらに江野
沢愛美、渡辺佑太朗、仁村紗和、大江晋平らの若手が脇を固
めている。
なお安達監督は学生時代から多くの短編映像作品を手掛けて
おり、本作は正に満を持しての長編デビュー。因に染谷将太
はその短編作品の1本に出演していたそうだ。
また本作の特殊メイク・スーパーヴァイザーとして、2018年
1月28日題名紹介『おみおくり』などのベテラン・江川悦子
が参加しているのも注目したいところだ。
脚本も手掛ける安達監督は『リング』『呪怨』との差別化に
かなり腐心したようで、登場する怨霊の「シライサン」には
いろいろなルールが設けられている。そのルールの構築はあ
る種の科学的、論理的で、乙一ワールドの感じがする。
それに対する主人公たちが、乙一の原作では上記の紹介記事
にも書いたように極めて頭が良くて、明確な対処法も見つけ
てしまうのだが…。その実行に苦慮する辺りも乙一らしさと
言うか、見事な展開になっている。
そして他方「シライサン」側も、これは巧みな手法で攻めて
きて、その対処法との攻防が見どころになると同時に感動の
シーンにもなっている。これも本作の作劇の面白さと言える
ものだろう。
そして事件の解決となる結末は、他のジャンルの作品でも観
られる結末でありながら、本作においては正に究極の解決策
と言えるもので、このシチュエーションのみで成立する秀逸
な結末になっている。
さらに様々な作品へのオマージュとも思える見事なショック
シーンも挿入され、ホラー映画をマニアックに研究し尽くし
た成果とも言える作品だ。

公開は2020年1月10日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『オルジャスの白い馬』
         “The Horse Thieves. Roads of Time”
(中央アジアの草原を舞台にした日本・カザフスタン合作映
画。ソ連崩壊後の1990年代。馬の群れを飼育していた父親が
馬を売りに出掛けたまま帰宅しない。その売り上げは一家の
独立資金になるはずだった。そして一家には少し複雑な事情
があるようだ。そんな一家の許に1人の男が現れ、一家の長
男との交流が始まる。やがて親戚の家に身を寄せるため、男
と共に移動を開始した一家は…。出演は森山未來と、カンヌ
国際映画祭で最優秀女優賞受賞のサマル・エスリャーモバ。
それに少年役のマディ・メナイダロフ。脚本と監督は、日本
の竹葉リサと、2011年10月31日付「東京国際映画祭(2)」
で紹介『春、一番最初に降る雨』のエルラン・ヌルムハンベ
トフが共同で手掛けた。因に物語は現地の実話に基づくが、
大元の企画は竹葉のもののようだ。公開は東京国際映画祭で
上映の後、2020年1月18日より、東京は新宿シネマカリテ他
で全国ロードショウ。)

『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』
      “L'incroyable histoire du facteur Cheval”
(フランス南東部オートリーヴ村に実在する手作りの宮殿。
その誕生までの秘話を描いたドラマ作品。主人公は22歳で結
婚し、最初の子は1歳で死去、第二子を授かり、郵便配達員
として働き始める。しかし妻が亡くなり、子供は親戚の許に
預けられる。その後に再婚して娘が誕生。その頃ふと手にし
た石のインスピレーションから、絵葉書の写真を基に宮殿を
作り始める。それは村人には変人扱いされるが、娘は理解者
だった。その宮殿は33年の歳月を掛けて完成し、現在ではフ
ランス政府により重要建造物にも指定されている。そんな建
設に纏わる悲しくも美しい物語だ。監督は、2014年6月15日
付「フランス映画祭2014」で紹介『グレートデイズ!』など
のニルス・タヴェルニエ。出演は同作にも主演のジャック・
ガンブランと、2019年9月15日題名紹介『パリの恋人たち』
などのレティシア・カスタ。公開は12月13日より、東京は角
川シネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』
       “Nicky Larson et le parfum de Cupidon”
(1985年に週刊誌連載を開始、2年後にはテレビアニメがス
タートして人気を博し、フランスでも放映された北条司原作
コミックスを、2013年『真夜中のパリでヒャッハー』などの
フィリップ・ラショーが脚本、監督、主演で実写映画化した
作品。物語は極秘に開発された究極の媚薬を巡って、自らそ
の媚薬に侵された主人公が悪人の手に渡った媚薬と回復薬を
取り返すため、48時間の期限の中で奮闘するというもの。そ
こには相棒女性との恋の鞘当ても描かれる。僕は原作のこと
は良く知らないが、映画は最初ちょっと下ネタがきついかな
と思いつつ、後半はかなりのアクションで面白く観られた。
元々ラショーがテレビアニメの大ファンで、本作の製作に当
たってはアニメの全144話や、コミックスの37巻も復習して
脚本を執筆、それを原作者にも提示して映画化の許諾をして
貰ったとのことで、これは本物と言えるものだ。公開は11月
29日より、全国ロードショウ。)

『エンド・オブ・ステイツ』“Angel Has Fallen”
(2013年4月紹介『エンド・オブ・ホワイトハウス』に始ま
るジェラルド・バトラー主演、モーガン・フリーマン共演で
大統領警護官が主人公のアクションシリーズ第3作。フリー
マンの役柄は第1作が下院議長で第2作が副大統領、そして
本作では大統領になっている。一方のバトラーの役柄はテロ
を未然に防いだことで国家英雄になっていたが…。原題にあ
る Angelは守護天使の意味で使われているものだ。それにし
ても第1作の舞台は大統領府の内部で、第2作ではロンドン
の市街地だったものが、本作ではどこが舞台になるかも注目
したところ。それは巻頭の予想もつかない襲撃から主人公の
心の中まで見事に展開されているものだった。脚本はリュッ
ク・ベッソンの許で『96時間』シリーズなどを手掛けてきた
ロバート・マーク・ケイメン。監督は2017年『ブラッド・ス
ローン』などのリック・ローマン・ウォーが担当した。公開
は11月15日より、全国ロードショウ。)

『HUMAN LOST 人間失格』
(2019年7月14日題名紹介の映画作品も公開された太宰治の
小説から発想されたという 昭和111年=西暦2036年の近未来
を時代背景とするディストピア物語。医療革命により人間の
寿命が飛躍的に伸びた世界。しかしその一方で体内物質の暴
走により異形化=HUMAN LOSTを生じる現象も発生していた。
さらに環状道路16号線の内と外では貧富の差が拡大し、外側
の住居ではスラム化も進んでいる。そんな中で外側の社会に
暮らしていた主人公は、誘われるままに環状7号線の内側へ
の突入作戦に参加するが…。そこでLOST体に襲われた主人公
は対LOST体機関に所属する少女に救われ、自分が新な能力を
持った人間であることを教えられる。自分は人間失格か、そ
れとも合格か? 作中には太宰の原作からの言葉もちりばめ
られ、まさかこんな話になろうとは、原作者も驚くような物
語が展開される。。公開は東京国際映画祭で上映の後、11月
29日より、全国ロードショウ。)

『アニエスによるヴァルダ』“Varda par Agnès”
『ラ・ポワント・クールト』“La Pointe-Courte”
『ダゲール街の人々』“Daguerréotypes”
(2019年3月に他界した2018年7月15日題名紹介『顔たち、
ところどころ』などのフランス人女性監督の最終作の公開に
併せて、その中にも引用されている監督デビュー作と最初の
長編ドキュメンタリーの旧作2本がディジタルリマスターに
より上映される。まず最終作は監督が自作を回顧する形式で
行った講演の模様を収めたもので、1954年の監督デビュー作
から2017年製作の前作までの63年にも及ぶ監督の業績が凝縮
されているものだ。その中ではいろいろな撮影のエピソード
も語られるが、中でもジャック・ドゥミについて語る時のき
らきらする表情が微笑ましかった。後の2本については、監
督デビュー作は不思議なムードもあるラヴストーリーだが、
ドキュメンタリーな部分もある。そして最初のドキュメンタ
リーは、最近の観察映画に通じるもので、その嚆矢とも言え
る作品だった。公開は12月21日より、東京は渋谷のシアター
・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『ある女優の不在』“3 Faces/Se rokh – سه رخ”
(2012年6月紹介『これは映画ではない』などのジャファル
・パナヒ製作、脚本、監督で、2018年カンヌ国際映画祭コン
ペティション部門にて脚本賞を受賞した作品。始まりは少女
の自撮り映像。それはロープを首に巻き、落下するところで
途切れる。その映像が人気女優の許に届けられ、女優を目指
して大学にも合格したが、家族に反対された、と言う少女の
証言に動転した女優はパナヒ監督運転の車で少女の村に向か
うが…。そこでは裏表の激しい村人の応対に戸惑い、少女が
3日間行方不明と判る。さらに村では革命前の人気女優が村
八分に遭っていた。そんな3世代の女優の明暗が描かれる。
出演はいずれも本人役で登場のベーナーズ・ジャファリ、パ
ナヒ監督とマルズィエ・レザイ。いろいろトリッキーな作品
だが、最大は2010年から20年間映画制作禁止中の監督の作品
ということだ。公開は12月13日より、東京はヒューマントラ
ストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『ドルフィン・マン
  ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』“Dolphin Man”
(2010年5月紹介『グラン・ブルー』の基となったフランス
人ダイヴァーの生涯を追ったドキュメンタリー。1927年に中
国上海で生まれたマイヨールは佐賀県唐津で海女の仕事を見
て海に興味を持つ。その後の戦時中は帰国し海を離れるが、
戦後にアメリカに渡り、マイアミの水族館でイルカの調教を
開始、イルカと共に深く長く潜ることを学び始める。そして
ダイヴィング記録に挑み、そのためヨガや禅なども学んで、
遂に1976年に人類史上初めて素潜りで水深100mの記録を達成
する。そこまでの物語がリュック・ベッソンの映画で描かれ
るが、その世界的な大ヒットがモデルであったマイヨール自
身を苦しめる。本作では日本人も含む親交を深めた人たちや
家族へのインタヴューと共に、当時の記録映像もふんだんに
映し出される。そこには悲しい面もあるが…、これが偉業を
成し遂げた男の真の姿だ。公開は11月29日より、東京は新宿
ピカデリー他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2019年10月06日(日) 風の電話(IDOL-あゝ無情-、決算!忠臣蔵、カツベン、積むさおり、だれもが愛しいC、スーパーT、EXIT、ジョン・D、ひとよ、男はつらいよ50)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『風の電話』
2009年11月紹介『ユキとニナ』などの諏訪敦彦監督が2016年
放送のテレビドキュメンタリーから発想して描いた東日本大
震災を背景とする物語。
主人公は震災による津波で家族や級友を失った少女。震災後
に広島に住む叔母の家に預けられた少女は、その日から8年
が経って今は高校3年生となっている。しかし心に残る傷跡
が消えることはない。
そんな少女がある切っ掛けから故郷の岩手県大槌町に帰ろう
とするが…。ヒッチハイクで向かう彼女の周囲て様々な出来
事が起き、行く先々でそれぞれの困難に立ち向かう家族の姿
を見ることになる。

出演は、2019年6月23日題名紹介『おいしい家族』などのモ
トーラ世理奈。前作ではかなりはじけた役だったと記憶する
が、本作では悲しみをたたえた表情を変えない役。でも何か
を背負っている感じは共通かな。
他に西島秀俊、西田敏行、三浦友和、渡辺真起子、山本未來
らが脇を固めている。諏訪監督は、台本は作るものの現場で
は即興芝居を重視するということで、以前にも組んだことの
ある西島、三浦、渡辺をはじめベテランたちが支えている。
因に本作の台本は、2014年『百瀬、こっちを向いて。』や、
2017年8月27日題名紹介『AMY SAID』などの狗飼恭
子との共同作られたものだ。
映画の前半で叔母の家に帰宅した主人公が「ただいま」と言
わないことに違和感を覚えた。しかしそれが後半の重要なポ
イントで意味を持っていた。そこからなだれ込むように進む
展開に感動を深くしたものだ。
そして結末の電話に向き合うシーン。実はこのシーンにはシ
ナリオはなく、従ってここのモトローラの台詞は全て即興。
実際はテイク2が使われているそうだが、女優本人が「でき
た気がする」と言ったものが採用されている。
試写後にそのプロダクションノートを読んで、改めて涙がこ
み上げる感動のシーンだった。映画の物語は虚構だけれど、
そこに現実が折り重なる。諏訪監督の映画術が見事に決まっ
たと言えるシーンだ。
物語には震災だけでなく、現在の日本が抱えている様々な問
題も提起され、ヨーロッパでも活躍する諏訪監督の国際的な
視野も見ることのできる作品だった。多少長めの作品ではあ
るが、見る価値のある作品だ。

なお映画は、岩手県大槌町に実在する「風の電話」の設置者
である佐々木格、祐子夫妻の協力の許に製作されている。
公開は2020年1月24日より、東京は新宿ピカデリー他で全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『IDOL−あゝ無情−』
(2018年12月9日題名紹介『世界でいちばん悲しいオーディ
ション』に続く音楽会社WACK主催合宿オーディションの
本年度分。やっていることは前作と同じなのかな。早朝マラ
ソンの順位などで脱落者が決まり。最後まで残った者がいき
なりデビューとなる。ただし今回は、元からの所属グループ
BiS の生き残りを賭けた戦いも行われており、主にカメラの
焦点はそちらに向けられている。従って今回のタイトルから
は「オーディション」の文字が省かれているのだろう。それ
にしても途中でルールがコロコロ変わるなど、主催者側の考
えに一貫性がないことも前作と同じで、到底真剣なものには
見えてこない。それもまあヴァラエティということで許され
る作品なのかな。出ている彼女たちは本当に真剣なのだろう
けど…。監督は、前作に引き続いての2008年12月紹介『遭難
フリーター』などの岩淵弘樹。公開は11月1日より、東京は
テアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)

『決算!忠臣蔵』
(歌舞伎芝居でも有名な物語を、仇討に掛った経費の面から
検証した山本博文による原作の映画化。基となる大石内蔵助
が瑤泉院に提出した「決算書」は実在し、過去にも多くの研
究に引用されていたものだが、本作では決算書そのものを描
く。そこにはお軽勘平の道行きも山鹿流の陣太鼓も登場しな
いが、赤穂の塩を巡る利権争いの話や、赤穂浪士が火消とし
て活躍し、討ち入りの装束は火消の衣装だったなど、今まで
あまり知られていなかった話が数多く描かれている。これは
「忠臣蔵」に興味のなかった人にも楽しめる作品だ。出演は
堤真一、岡村隆史、濱田岳、横山裕、荒川良々、妻夫木聡。
さらに木村祐一、寺脇康文、鈴木福、千葉雄大。そして竹内
結子、石原さとみ、阿部サダヲらが脇を固めている。脚本と
監督は2015年11月1日付「東京国際映画祭」で紹介『残穢』
や、2016年『殿、利息でござる!』などの中村義洋。公開は
11月22日より、全国ロードショウ。)

『カツベン!』
(映画が活動写真と呼ばれていた時代に、スクリーンの横に
立って外国語字幕の通訳や映画の解説を行った活動弁士の姿
を描いた作品。主人公は幼い時から活動の小屋に潜り込んで
は、憧れのカツベンを見よう見まねで習得していた。そして
紛れ込んだ撮影現場で女優に憧れる少女と巡り合うが…。成
長して小屋で働くようになった主人公は、先輩弁士や花形弁
士に揉まれ、ついに一本立ちのチャンスが巡って来る。しか
し彼には人に言えない過去があった。出演は成田凌、黒島結
菜、永瀬正敏、高良健吾。他に竹中直人、渡辺えり、井上真
央、小日向文世、竹野内豊、池松壮亮。さらに酒井美紀、山
本耕史、草刈民代、城田優、シャーロット・ケイト・フォッ
クスらが脇を固めている。監督は周防正行。脚本と監督補を
2017年7月9日題名紹介『蠱毒(こどく)』などの片島章三が
務めた。無声映画時代のいろいろなエピソードも満載の作品
だ。公開は12月13日より、全国ロードショウ。)

『積むさおり』
(特殊メイクアーティストの梅沢壮一が脚本、監督、編集を
務める異色の夫婦間サスペンス。登場するのはバツイチ同士
のカップル。結婚5年目を迎えて諍いはあるが順調な生活が
続いていた。その日、妻があるものを観るまでは…。その瞬
間に激しい耳鳴りに襲われた妻は、その耳鳴りの間から聞こ
えてくる夫が立てる生活音や笑い声に苛立ちを覚え始める。
出演は、2019年9月8日題名紹介『楽園』などの黒沢あすか
と、2015年『RED COW』などの木村圭作。自分の結婚生活も
40年を超えてくると、妻がこんな風に感じているのだろうな
と思える時もある。そんな夫の立場からするとかなりシビア
な作品だ。男性の監督が良くここまで考え付いたものだとも
思える。切っ掛けとなるあるものの実体は不明だが、監督の
経歴からすると超常的なものと考えていいかな。そう考えて
納得しよう。公開は11月2日より、東京は新宿K's cinema他
で全国順次ロードショウ。)

『だれもが愛しいチャンピオン』“Campeones”
(2006年1月紹介『モルタデロとフィレモン』などのハビエ
ル・フェセル監督が、裁判所命令による社会奉仕で知的障碍
者のバスケットボールチームにやってきたプロチームのサブ
コーチの姿を描くスペインの作品。2019年8月4日にも同旨
のイタリア映画『トスカーナの幸せレシピ』を題名紹介して
いるが、ヨーロッパの南部はこういう熱血漢が多いかな?
そしてそんな熱血漢が障碍者の豊かな才能に気づいて行く展
開は、あざといと言われればそれまでだけれども、やはり感
動は呼ぶものだ。それが爽快に描かれるのも南欧映画の良さ
と言えそうだ。出演は2017年3月19日題名紹介『オリーブの
樹は呼んでいる』などのハビエル・グティエレス。またチー
ムのメムバーには、600人の応募から選ばれた実際に障碍を
持つ俳優たちが起用され、その内のヘスス・ビダルは障碍者
で初となるゴヤ賞にも輝いた。公開は12月27日より、東京は
新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)

『スーパーティーチャー 熱血格闘』“大師兄”
(2017年1月29日題名紹介『イップ・マン継承』や、2016年
『ローグワン』ではSWシリーズにも進出したドニー・イェ
ンが、米軍上がりの熱血教師として荒れた母校に帰ってくる
というアクション作品。その母校では長年大学進学者を出し
ておらず、行政の補助金も打ち切り寸前。それは廃校にも繋
がるが、そこには別の利権も絡んでいる。そんな母校に現れ
た主人公は落ち毀れのグループに注目し、その家族から改革
して行くが…。ここで家族を説得するドラマなどはすっ飛ば
して、それを妨害しようとする悪人たちとの対決など、正に
アクションで描き切っているのが本作の見どころとも言える
作品だ。その潔さにも感服した。そしてそのアクションのし
烈さはイェンの真骨頂と言える作品になっている。特に机を
纏めてその上で闘う展開に感心した。公開は11月15日より、
東京はシネマート新宿、大阪はシネマート心斎橋にて開催の
「のむコレ3」の1本として上映される。)

『ブライトバーン 恐怖の拡散者』“Brightburn”
(2017年5月紹介『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』
シリーズなどの監督ジェームズ・ガンが製作を務めるSF風
ホラー作品。登場するのは不妊治療でも子供に恵まれなかっ
た夫婦。そんな夫婦が激しい振動が起き近くの森が赤く燃え
た夜に子を授かる。しかしその子が成長すると周囲で異変が
起き始める。出演は2017年5月紹介『パワーレンジャー』な
どのエリザベス・バンクスと、同作で声優を務めたデヴィッ
ド・デンマン。それに2003年生まれで4歳から演技を始めた
というジャクスン・A・ダン。脚本は2012年2月紹介『セン
ター・オブ・ジ・アース2/神秘の島』などのブライアン&
マーク・ガン。監督は2015年に長編デビューのデヴィッド・
ヤロヴェスキーが担当した。超能力を持つ子を育てる話では
スティーヴン・キングの小説『ファイアスターター』が見事
だが、つくづくケント夫妻は偉かったと思える作品だ。公開
は11月15日より、全国ロードショウ。)

『EXIT』“엑시트”
(オリンピック種目にもなるスポーツ・クライミングの技を
駆使して毒ガステロに襲われた街を脱出するサヴァイヴァル
アクション作品。主人公は競技に挫折した男性。そんな彼が
父親の誕生を祝うパーティ式場を訪れる。そこには昔の競技
仲間の女性も働いていた。そこにテロが発生し、街中に撒か
れたガスの高さが徐々に主人公たちのいる階に迫ってくる。
そこでヘリ救助を待つため屋上への脱出を図るが…。出演は
2016年10月紹介『造られた殺人』などのチョ・ジョンソク、
アイドルグループ「少女時代」のユナ。他にコ・ドゥシム、
パク・インファン、キム・ジヨンらが脇を固めている。脚本
と監督は本作が長編デビューのイ・サングン。短編で多数の
受賞に輝く俊英が一気に長編でも開花した。毒ガステロには
日本人として苦い思いもあるが、それを見事にエンターテイ
ンメントにしてくれた作品だ。公開は11月22日より、東京は
新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『ジョン・デロリアン』“Driven”
(SF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』への登場で
一躍有名になった自動車の生みの親を描いた事実に基づくと
される作品。主人公は小型機のパイロット。ある日、家族と
のバカンスから舞い戻った彼は空港でFBIに拘束され、機
内に麻薬が発見される。しかしFBIは取引を持ち掛け、彼
はセレブの街に住居を移す。そこには自動車業界の革命児も
暮らしていた。そして彼はデロリアンに近づいて行くが…。
出演は2017年8月紹介『シンクロナイズド・モンスター』な
どのジェイスン・サダイキス、『ホビット』シリーズなどの
リー・ペイス。他にジュディ・グリア、コリー・ストールら
が脇を固めている。監督は2006年8月紹介『アダム』などの
ニック・ハム。この一件でデロリアンは没落してしまうが、
映画は事件をFBIのでっち上げとして描く。これが真実な
ら恐ろしい話だ。公開は12月7日より、東京は新宿武蔵野館
他で全国順次ロードショウ。)

『ひとよ』
(劇作家、演出家の桑原裕子による舞台を基に、2019年5月
紹介『麻雀放浪記』などの白石和彌監督が衝撃の過去を持つ
家族を見つめた作品。母親が夫を殺害。それは夫の暴力から
3人の子供を守るための覚悟の犯行だった。その母親は15年
経ったら戻ってくると言い残して警察に出頭した。その時が
流れ、成長した子供たちはそれぞれの暮しをしていたが、家
族の絆は失われていた。そこに母親が返ってくる。それは一
見平穏な日々を復活させるが…。覚悟の犯行がもたらした代
償は大きかった。出演は佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優。他に
音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟、
佐々木蔵之介。そして田中裕子。白石監督は2010年9月紹介
『ロストパラダイス・イン・トーキョー』から人の繋がりを
描くことを主眼としているように思うが、本作はその繋がり
の根源である家族を、新たな視点で観ている感じの作品だ。
公開は11月8日より、全国ロードショウ。)

『男はつらいよ お帰り 寅さん』
(1969年に第1作が公開され、1997年に前年の俳優の死去に
伴う特別編の第49作が公開されてから22年を経て、シリーズ
の新作が登場する。物語は前作ではまだ青年だった寅さんの
甥がベストセラー作家となり、次回作を期待される中で叔父
との関係や、叶わなかった初恋の人との思い出と新たな未来
を描くもの。社会の変化は敢えては描かないものの、人情の
普遍性みたいなものは描き込まれている。出演は吉岡秀隆、
倍賞千恵子、前田吟、後藤久美子。それに浅丘ルリ子。そし
て渥美清。他に池脇千鶴、夏木マリ、美保純、佐藤蛾次郎、
桜田ひより、カンニング竹山、小林稔侍、笹野高史、橋爪功
らが脇を固めている。脚本と監督は山田洋次。共同脚本に監
督の盟友であり、2016年7月24日題名紹介『いきなり先生に
なったボクが彼女に恋をした』などの朝原雄三が参加してい
る。懐かしさ一杯だが、最後に写される歴代マドンナには心
も打たれた。公開は12月27日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二