井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2019年09月29日(日) その瞬間:僕は泣きたくなった、KIN(いのちのスケッチ、犬鳴村、再会の夏、最初の晩餐、ゾンビ、IT イット THE END、*東京国際映画祭)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『その瞬間、僕は泣きたくなった』
2018年5月13日題名紹介『ウタモノガタリ』に続く、EXILE
HIROと短編映画祭主宰の俳優別所哲也、それにEXILE の楽曲
を手掛ける作詞家小竹正人のコラボレーションによる短編集
の第3弾。
今回はその企画に三池崇史、行定勲、松永大司、洞内広樹、
井上博貴の新鋭&ベテラン監督が結集した。
「Beautiful」はクリスタル・ケイの同名楽曲に基づく三池
監督作品。大災害の後で助け合った2人は、実はその直前に
自殺を試みていたもの同士だった。しみじみとした作品で、
エンディングロールの監督の名前を観てびっくりした。

出演はEXILE AKIRAと蓮佛美沙子
「魔女に焦がれて」は琉衣の‘ライラック’という楽曲に基
づく井上監督作品。霊感の働く同級生を想う幼馴染の少年の
物語。霊感ゆえの生き辛さと学園での浮き沈みが、今の社会
の状況を巧みに描き出す。

出演は、2019年2月17日題名紹介『4月の君、スピカ。』な
どの佐藤大樹と2013年12月紹介『僕は友達が少ない』などの
久保田紗友。それに2016年『仮面ライダーエグゼイド』など
の松田るか。
「On The Way」は今市隆二の‘Church by the sea’という
楽曲に基づく松永監督作品。中米の移民ロードを背景に、母
親の代わりに厭々NPOのボランティアにやってきた若者が
非情な現実に直面する。

出演は今市本人と、JICAの現地職員として働くパコ・ニ
コラス、メキシコ人俳優のマヌエル・ヒメネス。
「GHOSTING」はLISAの‘ラストラブ’という楽曲に基づく洞
内監督作品。人は死の瞬間に一人だけ会いたい人に会いに行
ける…という設定の許で、ファンタスティックな物語が展開
される。
このテーマはいろいろ難しいところがあるが、本作の場合は
前半の話は見事に嵌ったものの、後半に関してはいろいろ悩
ましかった。まあ辻褄を合わせられなくはないが、その説明
がもう少し欲しい。

出演は、2018年9月30日題名紹介『ハナレイ・ベイ』などの
佐野玲於と、子役から多くテレビ出演している畑芽育。他に
2017年11月26日題名紹介『blank13』などの大西利空。タレ
ントの結城アンナらが脇を固めている。
「海風」はLeolaの同名楽曲に基づく行定監督作品。横浜の
風俗街を舞台に、街を仕切るやくざの男と中年娼婦の悲しい
人生の物語が綴られて行く。こちらは正に行定ワールドと言
う感じの作品かな。

出演は、劇団EXILE で『HiGH&LOW』シリーズなどの小林直己
と、舞台女優で2019年8月4日題名紹介『108』などの秋
山菜津子。他に2013年12月紹介『神奈川芸術大学映像科研究
室』などの嶺豪一らが脇を固めている。
それぞれの作品は上映時間23分という限定で作られているよ
うだが、この監督の顔ぶれだとさすがにきっちりとした作品
を観せてくれる。三池監督の新境地もあるし、ファンタシー
として楽しめる作品もあり、短編映画の世界を堪能できた。

公開は11月8日より、東京はTOHOシネマズ日本橋他にて全国
ロードショウとなる。

『KIN/キン』“Kin”
2018年12月16日題名紹介『クリード炎の宿敵』などのマイク
ル・B・ジョーダンの製作総指揮・出演で、人類の未来に係
るSF作品。なおジョーダンは本作前に“Fahrenheit 451”
の製作総指揮・主演も務めている。
本作の主人公は社会の底辺に生きているような黒人の少年。
父子家庭で建設会社に勤めているらしい白人の父親は厳しく
指導しているが、今は学校から停学処分を食らっているよう
な状況だ。
そんな少年は立ち入り禁止の廃ビルに侵入し、電線やくず鉄
などを回収して小遣いを稼いでいたが、それは当然、窃盗を
働いていることになるもの。そして父親からはこっぴどく怒
られたりもしていた。
そして刑務所に入っていた白人の兄が帰ってきた日。少年は
その日も侵入した廃ビルで異様な体験をする。未来風な甲冑
を着て頭部の破壊された人物のそばに落ちていた黒い箱に触
ると、それが突然起動したのだ。
一方、白人の兄は良からぬ連中と揉めた末に、父親の勤務先
に強盗に入ることになるが、それは最悪の結果をもたらす。
そのため連中に追われる兄は、少年には嘘をついて一緒に逃
走を図り、そこで黒い箱が威力を発揮する。
そこにさらに別の存在も現れる。

出演は、オーディションで選ばれた長編映画初主演のマイル
ズ・トゥルイット、2017年2月12日題名紹介『フリー・ファ
イヤー』や2014年7月紹介『トランスフォーマー/ロストエ
イジ』などのジャック・レイナー。
他に、2017年5月紹介『ダイバージェント』などのゾーイ・
クラヴィッツ。さらにデニス・クエイド、ジェームズ・フラ
ンコらが脇を固めている。
監督は、オーストラリア出身で世界的ブランドのCMディレ
クターなどを務める双子のジョナサン&ジョシュ・ベイカー
兄弟による長編デビュー作。
脚本は、兄弟が2014年に発表した15分の短編“Bag Man”か
ら、本作後に『ワイルドスピード9』に抜擢されたダニエル
・ケイシーが執筆している。
最初に廃ビルで倒れていた存在は後で少年を抹殺しに来てい
たとされ、少年は未来の命運を担うとも説明されるもので、
これは『ターミネーター』のジョン・コナーのような立場の
ようだ。
ただし少年の手の甲に浮き出る紋章の意味や、また少年自身
が未来から来たのかどうかなどは曖昧で、この辺は続編狙い
なのかな。黒い箱の威力は強烈なものだし映像も見事だが、
アクションとSFのバランスが少し違う感じもした。
でもまあSF映画の未来を担うかもしれない新たな才能が登
場してきたことは確かなようだ。

公開は11月29日より、東京は新宿バルト9他にて全国順次ロ
ードショウとなる。

この週は他に
『いのちスケッチ』
(動物福祉に特化した動物園として世界的に知られる福岡県
大牟田市動物園を舞台に、漫画家を目指し上京したが挫折し
故郷に戻った青年が、自らの画才に新たな活路を見出す話。
そこにアメリカ帰りの女性獣医師などが絡む。出演は2018年
10月7日題名紹介『家族のはなし』などの佐藤寛太、2017年
3月26日題名紹介『猫忍』などの藤本泉。他に風間トオル、
高杢禎彦、浅田美代子、渡辺美佐子、武田鉄矢らが脇を固め
ている。脚本は2018年1月21日題名紹介『神さまの轍』など
の作道雄。監督は2018年『恋のしずく』などの瀬木直貴。漫
画家でも漫才師でも何でもいいのだけれど、上京したものの
目標を見失って挫折・帰郷した若者が、地元で特技を活かし
て再起する。そんな話ってどんだけあるだろう。そんな中で
本作には「延命動物園」という格好の題材があるのだが…。
延命の実践などもっと現実の情報が欲しかった。公開は11月
8日から福岡県先行、15日より全国ロードショウ。)

『犬鳴村』
(2017年4月紹介『こどもつかい』などの清水崇監督による
ホラー作品。地図にない村を巡って、都市伝説やPOVなど
様々な要素が交錯する。出演は2013年2月紹介『旅立ちの島
唄〜十五の春〜』などの三吉彩花。他に坂東龍汰、古川毅、
宮野陽名、大谷凜香。さらに寺田農、石橋蓮司、高嶋政伸、
高島礼子、奥菜恵らが脇を固めている。内容としては社会的
な問題が描かれているし、その怨讐みたいなものも描かれて
はいるが、全体的にはその恨みが曖昧かな。脚本は清水監督
の原案から盟友保坂大輔との共作だが、タイムパラドックス
のようなSF的解釈が前面に出ているのも、ホラーを見たい
気分に反したかもしれない。ホラー映画というのは基本コケ
脅かしでいいと思うが、『リング』がSF的な解釈に進むの
に対して、清水監督の『呪怨』は理不尽さが強かったもの。
その点では少しはぐらかされた感じもした。充分怖い作品だ
が…。公開は2020年2月7日より、全国ロードショウ。)

『再会の夏』“Le collier rouge”
(1933年生まれのジャン・ベッケル監督が、ゴンクール賞受
賞の作家ジャン=クリストフ・リュファンによる史実に基づ
くとされる小説を脚色、映画化した作品。拘置所の前で盛ん
に吠える犬の描写に始まり、収監されている飼い主との第1
次世界大戦を背景にした困難な日々が描かれる。真面目な農
夫は、山羊飼いの女性と愛し合っていたが、命じられるまま
に戦場に征き偶然挙げた武勲でレジオンドヌール勲章に叙せ
られる。しかしそれが収監の原因となる。そんな男の姿が、
調査に来た検察官の目を通して語られる。最も悲惨とされる
大戦を映した反戦色の濃い作品だ。出演は2011年10月30日付
「東京国際映画祭」で紹介『最強のふたり』などのフランソ
ワ・クリュゼと、2018年3月4日題名紹介『ダリダ〜あまい
囁き〜』などのニコラ・デュヴォシェル、2016年『消えたア
イリス』などのソフィー・ヴェルベーク。公開は12月13日よ
り、東京はシネスイッチ銀座他で全国ロードショウ。)

『最初の晩餐』
(短編映画やCM、MTVなどを数多く手掛け、本作が長編
デビューとなる常盤司郎脚本、監督によるかなり複雑な背景
を持つ家族の物語。駆け出しカメラマンの主人公は、仕事も
うまくいかない中、父親の葬儀で故郷に帰ってくる。そこに
は母親や姉もいるが、実は姉弟と母親には血の繋がりがない
ようだ。そして母親が通夜のふるまいを勝手にキャンセルし
て自分で作ると言い出したことから、その食事を巡って一家
の歴史が振り返られる。出演は染谷将太、戸田恵梨香、窪塚
洋介。それに斉藤由貴、永瀬正敏。また森七菜、楽駆、牧純
矢、外川燎らがそれぞれの子供時代を演じ、他に菅原大吉、
玄理、山本浩司らが脇を固めている。案外ありそうな家族だ
が、実は長男の立場が良く判らず、他にも実母が居ない理由
も不明瞭。この辺はもう少し欲しかった。いろいろ出てくる
山男の料理みたいなものは面白かったが…。公開は11月1日
より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『ゾンビ』“Dawn of the Dead”
(今も続くゾンビ映画ブームの嚆矢となったジョージ・A・
ロメロ監督の1978年作品が、当時の日本初公開版の復元とい
う形で再公開される。実は当時の公開では配給の日本ヘラル
ドが日本人の嗜好に合うようにいろいろ細工していたのだそ
うで、日本版独自の演出が施されたものだ。その日本版を僕
は試写では見ておらず、ロードショウも見逃して地方公開で
観たものだが、その際の後ろの座席で女子高校生のグループ
がハンバーガーを食べながら観ていて、途中で「もう食べら
れない」と言っていたのを思い出す。今にしてみればそれほ
どでもないが、40年前だとJKも初心だったということだろ
う。因に途中でストップモーションになったり、色が無くな
ったりするのは映倫審査の結果で、当時は他の作品でも観ら
れた「演出」だ。ただ巻頭のシーンがオリジナルにはなかっ
たというのは凄い。公開は11月29日より、東京はヒューマン
トラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
                 “It: Chapter Two”
(2017年10月1日付で題名紹介したスティーヴン・キング原
作作品の第2章。前作から27年後。再び襲う“それ”の恐怖
に、前作を生き延びた落ち毀れグループが再挑戦する。出演
はジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・チャステイン、ビル
・ヘイダー、イザイア・ムスタファ、ジェイ・ライアン、ジ
ェームズ・ランソン、アンディ・ビーン、ビル・スカルスガ
ルド。前作のシーンも挿入されるが、子役と似ていたり似て
いなかったりも面白い。そして物語はホラーというよりSF
的な展開になって行き、それが2時間49分たっぷりに楽しま
せてくれる。監督は前作と同じくアンディ・ムスキエティ。
脚本も前作と同じ2019年8月4日題名紹介『アナベル 死霊
博物館』などのゲイリー・ドーベルマンが担当。成長して故
郷を離れた連中が事件を忘れていて、それがある切っ掛けか
ら徐々に思い出して行く。その展開も見事で恐怖がじわじわ
と再現された。公開は11月1日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
        *         *
「東京国際映画祭・記者会見」
 本年も10月28日から11月5日まで開催される映画祭で上映
される作品の紹介が行われた。
 これによるとメインのコンペティション部門には、今年は
115の国と地域から1804本の応募があり、その中から14本が
選出された。その中には日本映画も2作品選ばれたが、何故
か例年選出されるSF・ファンタシー系の作品では、今年は
2025年が舞台というウクライナ映画『アトランティス』があ
り、期待したい。
 またアジアの未来部門には8本が選ばれ、その中では多国
籍のスタッフによるホラー作品『モーテル・アカシア』と、
イラン映画の『死神の来ない村』が面白そうだ。
 一方、CROSSCUT ASIA 部門には8作品と1シリーズが選ば
れているが、今年はそのほとんどがホラー作品とのこと。こ
れにワールド・フォーカス部門に選ばれた11作品と1シリー
ズを加えたものを鑑賞の対象とする予定だが、果たしてどれ
だけ観ることができるか。結果は後日報告したい。 



2019年09月22日(日) RUN、銀河英雄伝説(サイゴンC、オーバー・エベレスト、ブルーアワー、盲目のM、MANRIKI、そして、ベル・カント、この星は、夕陽のあと)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『RUN!-3films-』
2008年6月紹介『愛流通センター』などの土屋哲彦監督と、
土屋監督の許で編集などを担当していた畑井雄介監督による
各地の映画祭で受賞の短編を集めた作品。
1本目は「山形国際ムービーフェスティバル2017」で準グラ
ンプリと観客賞をW受賞した「追憶ダンス」。
コンビニのアルバイト店員とコンビニ強盗。2人の関係がコ
メディタッチで描かれる。しかもかなり過激なアクションも
添えられ、全体はこれぞ短編映画、と言う感じに見事に纏め
られた作品になっている。

土屋監督の作品で、出演は2015年5月紹介『お化け屋敷列伝
/戦慄迷宮MAX』に出ていたという篠田諒と、2017年4月紹介
『桃とキジ』に出ていたという木ノ本嶺浩。
他に2017年12月紹介『牙狼 GARO 神ノ牙 KAMINOKIBA』など
の青木玄徳。それに津田寛治らが脇を固めている。
2本目は「しがショートムービーフェス2015」でグランプリ
受賞の「VANISH」。
先に「2本目はSFです」と言われて期待半ばで鑑賞した作
品。年間失踪者数が10万人という現実を踏まえて、その裏で
暗躍する男たちを描く。アイデアは面白いし、表現力も確か
だが、物語はちょっと中途半端かな。聞けば長編映画を目指
すパイロットフィルムとのことで、本編に期待したい。

畑井監督の作品で、出演は2018年4月紹介『名前』に出てい
たという松林慎司と、同作でも共演の津田寛治。
3本目は「杉並ヒーロー映画祭2017」で観客賞とベストヒー
ロー賞をW受賞した「ACTOR」。
売れない役者でアルバイト先でも馬鹿にされ続けている主人
公。しかしようやく貰った仕事で共演女優に励まされ、気分
を良くしていると、それ自体が撮影現場の演出だった。そし
て戻ってきたバイト先に待っていたものは…。
メタフィクションと言う感じかな。アイデアは悪くないが、
その設定自体が消化し切れておらず、結果として「ああそう
ですか」で終ってしまった。

土屋監督の作品で、出演は2005年4月紹介『魁!!クロマティ
高校』など山口雄大監督作品に常連の黒岩司と、同作の主演
で2002年『仮面ライダー龍騎』の須賀貴匡。他に2018年11月
紹介『ふたつの昨日と僕の未来』などの菅野莉央。それに津
田寛治らが脇を固めている。
ベテラン俳優が続けて出ているのはちょっと意外だったが、
他にも重複している出演者はいるようで、それなりのグルー
プの作品と言うことなのだろう。
1本目と3本目の土屋監督は長編作品の実績もある人だが、
2作ともに短編映画としてしっかりと作られたもので、長編
の切れ端のような作品も見掛ける日本の短編映画の中では、
気持ち良く観られる作品だった。
これに対して畑井監督の2本目は、上でも書いたようにパイ
ロットフィルムということで、これは本編を観なければ正当
な評価はできない。早くその日が来ることを楽しみに待ちた
いものだ。

公開は11月2日より、東京は池袋シネマ・ロサ他で全国順次
ロードショウとなる。

『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱 第三章』
田中芳樹原作によるSF戦記シリーズのアニメ化で、2019年
8月11日及び9月1日にそれぞれ第一章と第二章を題名紹介
した第2シーズンの全12話、各章4話からなる第三章。なお
今回は第2シーズンの全体について記すことにする。
第一章の開幕は熾烈な宇宙戦闘シーン。この戦いで自由惑星
同盟の艦隊司令ヤン・ウェンリーは絶対不利の状況を勝ち抜
いてみせる。それは見事な戦略だったが、この当時の彼には
すでに不敗伝説があったようだ。
因にこの開幕では、第13話と出た直後のこの展開にかなり面
食らったが、ネット検索によると、2018年に放送された第1
シーズンではほぼ全編が戦闘シーンで、その内の2話を割い
てヤンと敵将ラインハルトの生い立ちも語られたとある。
つまり、映画館で初めて見る観客にはその辺の事情が不明に
なってしまうものだが、原作の読者には不要であろうし、取
り敢えず第2シーズンの間ではそれは深く関わる様な展開に
はなっていない。
そしてこの戦況で銀河帝国内の政情が揺らぐ中、帝国の皇帝
が世継ぎを指名することなく急死。このため帝国内では貴族
たちによる覇権争いが勃発する。一方、同盟側でも軍事クー
デターが発生。
これらの出来事はヤンとラインハルトの命運を左右して行く
ことになるが…。大銀河の広大な宇宙空間を背景に、政治的
な駆け引きや、個人的な人間模様など、様々なドラマが展開
されて行く。

主役の声優は宮野真守と鈴村健一。他に梅原裕一郎、諏訪部
順一、梶裕貴、小野大輔、中村悠一、川島得愛、遠藤綾、三
木眞一郎、鈴木達央、石川界人、花澤香菜、古谷徹、二又一
成らが脇を固めている。
監督は多田俊介、シリーズ構成を高木登が担当。
1982年に第1巻出版の原作が『スターウォーズ』の影響をも
ろに受けていることは間違いないが、善悪の線引きが明確な
アメリカ映画に比べると、両陣営にそれぞれの主人公が置か
れるなど、単純な善悪では割り切れない人間の姿が描かれた
作品とは言えるだろう。
とは言うものの、共にエリートの戦いというのは釈然としな
いが、それも人類の歴史を考えれば仕方のないところではあ
る。
それに加えて、本作のエンディングには第3シーズンの予告
のようなものが付いていて、そこでは今後の展開として第3
勢力の台頭もあるようだ。公式発表は未だのようだが、そこ
には期待したい。

公開は第一章が9月27日、第二章が10月25日、第三章が11月
29日より、それぞれ東京は新宿ピカデリーの他、全国35館に
て3週間ずつの限定ロードショウとなる。
なお試写会では、各話ごと30分枠の放送番組の形態で上映さ
れたが、限定ロードショウ以降の放送のスケジュールなどは
未定とのことだ。

この週は他に
『サイゴン・クチュール』“Cô Ba Sài Gòn”
(9代続いたアオザイ仕立て屋の跡取り娘が、1969年から現
代にタイムスリップする2017年製作のヴェトナム映画。主人
公はミス・サイゴンに選ばれるほどの美貌で、ファッション
リーダー的な存在。そんな彼女の実家は代々続く仕立て屋だ
ったが、彼女自身は古臭い民族衣装のアオザイには興味がな
かった。そして新たに洋装店を開店しようとしていたが…。
現代にやってきた彼女が目撃したのは、事業に失敗して実家
も手放す寸前の彼女自身。彼女は自分の未来を変えられるの
か? 出演はヴェトナムの歴代興行ベスト10に主演作が並ぶ
というニン・ズーン・ラン・ゴック。脚本と監督は、日本で
は2019年5月に Netflixで配信の『ハイ・フォン』が2月の
本国公開で歴代興行記録を塗り替えたというケイ・グエン。
タイムパラドックスは悩ましいが、過去と現代で画質を変え
るなど細かい配慮はなされた作品だ。公開は12月21日より、
東京は新宿K's cinema他で全国順次ロードショウ。)

『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』“氷峰暴”
(2013年2月紹介『セデック・バレ』などのテレンス・チャ
ン製作で、役所広司がヒマラヤで活動する救助隊の隊長に扮
する山岳アクション作品。カトマンズが拠点の救助隊は、隊
長以下抜群の実績を持つが、民間組織で資金難に苦しんでい
た。そんな救助隊にインド軍の特別捜査官を名告る男からエ
ベレスト山頂付近に墜落した軍用機から機密文書を回収する
依頼が持ち込まれる。折しも近隣国の和平会議が開催され、
文書はその成否に関るとされた。こうして危険な登攀が開始
されるが…。共演は2018年11月4日付「東京国際映画祭」で
紹介『プロジェクト・グーテンベルク』などのチャン・ジン
チュー。2014年のドラマ『金田一少年の事件簿 獄門塾殺人
事件』などのリン・ボーホン。脚本と監督は元ゲーム会社の
副総裁というユー・フェイのデビュー作。内容では1975年の
『アイガー・サンクション』や1993年の『クリフハンガー』
も思い出した。公開は11月15日より、全国ロードショウ。)

『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
(「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2016」にて審査員特
別賞を受賞した企画の映画化で、CMディレクター箱田優子
の脚本監督による作品。2018年8月26日題名紹介『ビブリア
古書堂の事件手帖』などの夏帆と、2019年4月28日題名紹介
『新聞記者』などのシム・ウンギョン共演で、アラサー女性
の生き方を描く。仕事は順調だが心に荒みを感じる主人公は
病気の祖母の見舞いで帰郷する。その旅には親友も同行する
が…。直感的に親友の存在が剣呑だったが、帰宅直後の母親
の発言で状況が判らなくなった。結局その存在には別の解釈
を思い付いたが釈然とはしない。でもまあそんなことは横に
置いといて、女性の共感は得られるのかな。上記の他に渡辺
大知、黒田大輔、嶋田久作、ユースケ・サンタマリア、でん
でん、南果歩らが脇を固めている。それにしても2007年4月
紹介『天然コケッコー』の夏帆がアラサーか! 公開は10月
11日より、東京はテアトル新宿他で全国ロードショウ。)

『盲目のメロディ インド式殺人狂騒曲』“अंधाधुन”
(芸術性の追求のため盲目を装っていたピアニストが、サプ
ライズで訪れたマンションの部屋で殺人を「目撃」してしま
う。しかしその証言を出来ない主人公にはさらなる追い打ち
が掛り、事態は益々深みに嵌ってしまう。果たして主人公は
周囲を傷つけずに事件を解決できるか…。出演は見事な演奏
を実演するアーユシュマーン・クラーナー。他に2012年12月
紹介『ライフ・オブ・パイ』などのタブー、2018年の話題作
『パッドマン』などのラーディカー・アープテーらが脇を固
めている。脚本と監督は、2014年1月紹介『エージェント・
ヴィノッド』などのシュリラーム・ラガヴァン。踊りはない
が多彩な音楽の聴ける作品で、物語は正に怒涛のように展開
される。少し人死にはあるが、それは仕方ないかな。最初に
「これはフィクションです。」と出て、文字通りそこを堪能
する作品だ。公開は11月15日より、東京は新宿ピカデリー、
アップリンク渋谷/吉祥寺他で全国順次ロードショウ。)

『MANRIKI』
(「ラッセンが好き」などのピン芸人・永野の原案脚本で、
「嵐」のMTVなどを手掛ける清水康彦が脚本監督、斎藤工
の製作出演で作られた、かなり過激な演出も含むブラックコ
メディ。原案は永野がファッションイヴェントに出演したと
きに思い付いたとのことで、日本人女性の小顔信仰を揶揄す
るような作品。それにしても万力何て高校の職業の授業以来
か、大学の卒論研究で工学部の作業所を使わせてもらった時
に観た程度だが、それで指を潰しそうになる恐怖は消えない
ものだ。そんな恐怖心を遺す男性には中々に思える作品だろ
う。共演は永野と音楽監督も務める金子ノブアキ。他に劇団
EXILEのラッパーSWAY、2017年11月26日題名紹介『blank13』
などの神野三鈴、2018年2月4日題名紹介『Sea Opening』
などの小池樹里杏らが脇を固めている。判り難い作品ではあ
るが、これも映画というところかな。公開は11月29日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『そして、生きる』
(東日本大震災を背景に、救援ボランティアで出会った若い
男女の数奇な運命を、有村架純、坂口健太郎のW主演で描い
た作品。8月4日から全6話で放送されたドラマが未公開映
像も加えて2時間15分に凝縮され、映画版として劇場公開さ
れる。幼い頃に両親を亡くし、盛岡で理髪店を営む叔父の許
で育った主人公はいつしか女優を夢見ていた。そして運命の
2011年3月11日は、翌日東京で行われるオーディションに向
けて出発準備をしていたが…。この開幕には有村も出ていた
2013年朝ドラも思い出したが、当然そこから後の展開は異な
るものだし、どうという問題ではない。それより件の朝ドラ
ではほとんど描かれなかったと記憶する救援ボランティアの
活動がかなり詳細に描かれ、そこに見事な感動も生じていた
ものだ。共演は知英、岡山天音。他に萩原聖人、光石研、南
果歩らが脇を固めている。劇場公開は9月27日より、東京は
イオンシネマ板橋他で全国順次ロードショウ。)

『ベル・カント とらわれのアリア』“Bel Canto”
(1996年に発生した在ペルーの日本大使公邸占拠事件に想を
得て2001年に出版されたアメリカの作家アン・パチェット原
作小説の映画化。日系人が大統領を務める南米国の公官邸を
舞台に、日本企業の工場誘致を目論む政権担当者が企業の重
鎮を招待。さらに彼が好きだという女性オペラ歌手を招いて
サロンコンサートを催すが…。そこに武装ゲリラが突入し、
各国外交官を含む多数が人質となってしまう。そこで武装ゲ
リラの要求は捕らえられている政治犯全員の釈放だったが、
赤十字の交渉人が仲介するも要求はなかなか通らない。そん
な交渉が長引く中で人質とゲリラとの間には交流が生まれ始
める。出演はジュリアン・モーア、渡辺謙、セバスチャン・
コッホ、クリストファー・ランバート、加瀬亮、エルザ・ジ
ルベルスタイン。脚本と監督は2002年7月紹介『アバウト・
ア・ボーイ』などのポール・ワイツ。公開は11月15日より、
東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『この星は、私の星じゃない』
(1943年生まれ、1970年に発表した「便所からの解放」とい
う文章で日本におけるウーマンリブ運動の先駆者ともされる
田中美津女史。その半生を描いたドキュメンタリー。現在も
現役の鍼灸師として施術を行う傍ら、時には沖縄で基地反対
闘争のピケットラインにも身を投じる。今週は様々な女性の
生き方を描いた作品を観てきた気がするが、本作はその指針
の一つになろうかという作品だ。挿入される1970年代の映像
には、僕自身も観てきた風景の中に懐かしさも感じたが、そ
の時代から意思を貫き通した女史の生き様には正に敬服のい
たりという感じもした。その一方で、タイトルの文言は女史
が幼い頃から感じてきたことだというが、そこには一抹の寂
しさも感じてしまう。国連調査による「幸福度ランキング」
では日本はその順位を年々下げているそうだが、そんな虚し
さも漂う作品だ。公開は10月26日より、東京は渋谷のユーロ
スペース他で全国順次ロードショウ。)

『夕陽のあと』
(鹿児島県北部の漁師町を舞台に、貫地谷しほりと山田真歩
が、それぞれの母性を演じるヒューマンドラマ。貫地谷が扮
する茜は港の食堂で働く女性。都会からやってきていつしか
働くようになり、接客や子供たちにも優しいことで人気者に
もなっている。一方の山田が演じる五月は鰤の養殖に挑む夫
と義母、それに幼い子供と暮らしているが、実は子供は実子
ではなく、児童相談所から生後の間もない子を預かったもの
だ。そして夫の事業も軌道に乗り、特別養子縁組の申請に漕
ぎ着けるが…。共演は永井大、川口覚、木内みどりと、撮影
現地でのオーディションで選ばれた子役の松原豊和。監督は
2017年10月15日題名紹介『二十六夜待ち』などの越川道夫。
脚本は2018年5月紹介『クジラの島の忘れもの』などの嶋田
うれ葉が担当。見事なフィクションと言える作品で、そこに
様々な社会問題が盛り込まれている。公開は11月8日より、
東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2019年09月15日(日) 羊とオオカミ(King and I、INFORMER、ファイティングF、世界から、エッシャー、種をまく、パリの恋人、読まれなかった、人生、喝風太郎)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『羊とオオカミの恋と殺人』
漫画アプリに連載の裸村(ラーソン)原作スプラッターコミッ
クス『穴殺人』を、2018年8月19日題名紹介『ごっこ』など
の高橋泉脚本、2013年5月紹介『クソすばらしいこの世界』
などの朝倉加葉子監督で映画化した作品。
受験に失敗して自暴自棄になった若者が下宿で壁のフックに
ロープを掛けて首を吊ろうとすると、フックが外れて隣室を
覗ける穴が開いてしまう。その隣室には妙齢の女性がいて、
彼は覗きを繰り返してしまう。
そんなある日、覗きを続けていた彼は、部屋に男を連れ込ん
だ女性が、その男の首を掻き切る現場を目撃してしまう。し
かも覗きが発覚し、女性に詰め寄られた彼は、思わず恋心を
告白するが…。
デートを重ねる間にも女性は衝動的に殺人を繰り返し、彼の
「止めてくれ」という意見も聞き届けられない。そして彼女
の背景には大きな組織もあるようだ。その組織の活動ぶりも
うまく描かれている。

出演は2019年1月20日題名紹介『L♡DK ひとつ屋根の下、
「スキ」がふたつ。』などの杉野遥亮と、2019年2月17日題
名紹介『4月の君、スピカ。』などの福原遥。他に江野沢愛
美、笠松将、清水尚弥、一ノ瀬ワタル、江口のりこらが脇を
固めている。
シチュエーションは2008年7月紹介『真木栗の穴』を髣髴さ
せる隣室との間の壁に開いた穴に始まる物語。でも官能描写
で大人向きだった08年作に比べると、本作は若年向きという
感じかな。
殺人というテーマが若年向きかどうかというのは論点になる
が、この程度はゲーム感覚ということで了解される範疇だろ
う。もちろん大人的には眉を顰める人もいるだろうが、元来
が作り話なものだ。
ただし、13年作でスラッシャーと称した朝倉監督の感覚は本
作でも健在で、さらにスタイリッシュに惨劇を描いている。
しかもVFXでその描写も進化している。とは言え元々が若
年向きのお話だから多少ソフトではあるが。
朝倉監督は、2010年1月紹介『桃まつり−うそ』の「きみを
よんでるよ」から観てきたが、特異なシチュエーションでの
演出の感覚には特別なものが感じられた。そんな監督が本作
のような演出を追求してくれることには頼もしさも感じる。
出来ることなら次回作では、女性感覚でもっと過激に進化し
たところも観せて欲しいものだ。それと三角関係が気になる
本作の続きも観てみたい。

公開は11月29日より、東京はTOHOシネマズ日比谷、池袋シネ
マ・ロサ、渋谷HUMAXシネマ他で全国ロードショウとなる。

この週は他に
『ロンドン版「The King and I 王様と私」』
                  “The King And I”
(1951年にブロードウェイで初演され、1956年に映画化もさ
れた舞台ミュージカルで、2015年の再演ではトニー賞4部門
の受賞に輝いたスタッフ・キャストによるロンドン公演を撮
影した作品。時代背景はイギリス女王がヴィクトリアで、ア
メリカ大統領がリンカーンの頃。シャムの王宮に英語教師の
イギリス人アンナがやってくる。しかし旧態依然の王宮内で
は先進的なアンナの要求はなかなか通らない。そんな折、イ
ギリス公使の来訪が決まり、その接待の準備にアンナが一役
買うことになるが…。出演はアンナ役に本作でトニー賞に輝
いたケリー・オハラ。王様役を渡辺謙。他にルーシー・アン
・マイルズ、大沢たかおらが脇を固めている。「シャル・ウ
イ・ダンス」など楽曲の中には知っているものも多く、楽し
める作品だ。なおオハラと渡辺は先の日本公演で卒業が発表
されており、本作がその証しとなるようだ。公開は9月27日
より、東京はTOHOシネマズ日比谷他でロードショウ。)

『THE INFORMER 三秒間の死角』“The Informer”
(英国推理作家協会賞やスウェーデン最優秀犯罪小説賞など
を受賞のアンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム
原作小説の映画化。減刑取引でFBIに協力する主人公が、
麻薬王を追う内にNYPDの潜入捜査官の死に関る。そして
FBIの支援も打ち切られた中で、主人公は最後の賭けに出
るが…。出演は2014年3月紹介『ロボコップ』や2016年8月
14日題名紹介『スーサイド・スクワッド』などのジョエル・
キナマンと、前回題名紹介『プライベート・ウォー』などの
ロザムンド・パイク。他にコモン、2017年10月紹介『ブレー
ドランナー 2049』などのアナ・デ・アルマス、クライヴ・
オーウェンらが脇を固めている。監督は2016年『エスコバル
楽園の掟』などのアンドレア・ディ・ステファノ。物語は受
賞作らしいしっかりとした展開のもので、劇中にはかなりの
アクションもあって中々に楽しめた。公開は11月29日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『ファイティング・ファミリー』
              “Fighting with My Family”
(プロレスラーの“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンス
ンが製作を務める、女性プロレスラーの実話に基づく作品。
主人公は家族経営の弱小団体で、兄と共にパフォーマンスを
披露していた少女。そんな彼女の夢は世界規模の大会で優勝
してスター選手になることだった。そして兄と共に挑んだ登
竜門の大会で闘った結果は、彼女だけが合格し、兄は落選。
こうして彼女にはフロリダ州の研修施設でプロになるための
鍛錬が始まるが…。チアリーダーやモデルから集められた研
修生の中では彼女だけが異質で、周囲とのギャップは明白。
しかしそんな彼女が奇跡を起こす。出演は、2018年2月4日
題名紹介『トレイン・ミッション』に出ていたというフロー
レンス・ピュー。他にレナ・ヘディ、ニック・フロスト、ジ
ャック・ロウデン、ヴィンス・ヴォーン、そしてドウェイン
・ジョンスンらが脇を固めている。公開は11月、東京はTOHO
シネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『世界から希望が消えたなら』
(幸福の科学出版製作、大川隆法原案、製作総指揮、大川咲
也加脚本による作品で、監督の赤羽博がマドリード国際映画
祭の外国語長編映画部門にて最優秀監督賞を受賞した作品。
出版社も経営するベストセラー作家が心臓病からの肺水腫で
余命宣告されるが、使命を自覚した作家は手術を断り、「心
の力で病気は治る」の信念で症状を克服。再開した執筆でベ
ストセラーを続発。ついには世界進出してロンドンでの講演
会も成功させる。その使命とは神の力でテロの背景にある対
立を克服するというものだった。出演は、映画初主演の竹内
久顕。他に千眼美子、さとう珠緒、芦川よしみ、石橋保、木
下渓。さらに小倉一郎、大浦龍宇一、河相我聞、田村亮らが
脇を固めている。大川作品は、今まで2019年2月3日題名紹
介『僕の彼女は魔法使い』や2018年9月23日題名紹介『宇宙
の法 黎明編』など、それなりにファンタシーやSFで興味
深かったが…。公開は10月18日より、全国ロードショウ。)

『エッシャー視覚の魔術師』
           “Escher: Het Oneindige Zoeken”
(数理的なトリックアートで、今も人々を魅了するオランダ
の版画家/画家マウリッツ・コルネリス・エッシャーについ
て描いたドキュメンタリー。1972年に亡くなったエッシャー
は生前に1000を超える書簡や日記などを遺していたそうで、
本作はそれらを基にした遺族やコレクター、崇拝者へのイン
タヴューなどで綴られる。その中にはロックミュージシャン
のグラハム・ナッシュが大きく取り上げられ、また書簡の中
ではミック・ジャガーからの手紙に対する皮肉で一杯の返信
があるなど、1960年代以降のヒッピーやポップカルチャーに
多大な影響を与えたことも伺える。ただこの作品では版画家
本人についての理解は深まるが、僕らが感じるエッシャーの
魅力が描かれているかと言うと少し物足りないかな。映画の
後半に登場する関連動画の数々は素晴らしかったが…。公開
は12月14日より、東京はアップリンク渋谷、アップリンク吉
祥寺他で全国順次ロードショウ。)

『種をまく人』
(2016年製作で、同年の第57回テッサロニキ国際映画祭にて
最優秀監督賞と最優秀主演女優賞のW受賞を果たしたという
作品。震災の3年後を背景に、心を病んで入院していた男性
が退院して弟一家の前に現れる。その家には小学生と3歳に
なるが乳幼児のようなダウン症の娘がいたが…。両親の多忙
で娘2人と行った遊園地で事件が起きる。脚本と監督は画家
として受賞歴もあるという竹内洋介の長編デビュー作。オリ
ジナルの脚本はファン・ゴッホをモティーフにしたというこ
とだが、精神病院にいたこととヒマワリの花がそうなのか?
ただ物語の展開自体は、精神病というテーマと併せて過去に
も多々あるものだし、主演女優賞を受けた11歳の竹中涼乃を
除けば特筆するものでもない。それにテーマ自体が海外では
いざ知らず、自分には合わないものだった。日本公開が遅れ
たのも、恐らくはその点だろう。公開は11月30日より、東京
は池袋シネマ・ロサでロードショウ。)

『パリの恋人たち』“L'homme fidèle”
(名匠フィリップ・ガレルの息子で俳優としても活躍するル
イ・ガレルが、自らの脚本、監督、主演で描くパリの街角の
物語。新進ジャーナリストの主人公は一緒に暮らしていた女
性から妊娠を知らされ喜ぶが、その父親は自分ではないと告
げられ、彼女の持ち物である部屋を追い出される。いやはや
何とも衝撃の始まりだが、そこに幼い頃から知る胎児の父親
の妹らが絡んで、三角関係という訳でもないし、何とも奇妙
な物語が展開される。共演は実生活のパートナーでモデルで
もあるレティシア・カスタと、2017年7月30日題名紹介『プ
ラネタリウム』などのリリー=ローズ・デップ。若い女性の
ファッションリーダーともされるデップの着こなしも注目の
作品のようだ。なお本作は2018年東京国際映画祭「ワールド
・フォーカス」部門において『ある誠実な男』の題名でも上
映されている。公開は12月13日より、東京は渋谷Bunkamura
ル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)

『読まれなかった小説』“Ahlat Ağacı”
(2014年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞し
た『雪の轍』などのトルコの巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
監督による2018年の作品。受賞作は196分で、本作は189分の
大作だ。トロイの遺跡も近いトルコ北西部の地方都市を舞台
に、作家志望の若者と定年間近の教師だがギャンブル狂の父
親の確執が、若者が書き上げた故郷が舞台の処女小説の出版
を巡って描かれる。若者は大学を終えて帰郷するが、以前は
付き合っていたらしい同級生の女性の結婚に衝撃を受け、家
に給料も入れず電気も止められるような父親の所業に憤る。
そんな物語がトロイの木馬のモニュメントなどの異質な風物
と、幻覚のような描写も添えて描かれる。出演は、本業はス
タンダップコメディアンでシリアスな役柄は初めてというア
イドゥン・ドウ・デミルコルと、同じくコメディアンのムラ
ト・ジェムジル。公開は11月29日より、東京は新宿武蔵野館
他で全国順次ロードショウ。)

『人生、ただいま修行中』“De chaque instant”
(2007年『かつて、ノルマンディーで』などのニコラ・フィ
リベール監督が、パリ郊外のクロワ・サンシモン看護学校を
舞台に、「誰かのために働くこと」を選んだ看護師の卵たち
の様子を追ったドキュメンタリー。映画はまず手を洗うこと
から始まり、これは基本中の基本なんだなあという感じを抱
かせる。そしてマネキンを使った心臓マッサージの訓練や出
産介助、さらに注射器の扱いから採血、ギプスの切除など、
段階を追って進んで行く学習の過程が、ナレーションなどを
一切排した「観察映画」の手法で描かれて行く。かつては白
衣の天使などとも呼ばれ、今の日本では過酷な労働の代名詞
のようでもある職業だが、フランスの現状はどうなのかな?
中には初めての採血を優しく見つめる患者の姿などもあり、
全体が希望に満ちているように感じられるのは素晴らしいも
のだ。公開は11月1日より、東京は新宿武蔵野館他で全国順
次ロードショウ。)

『喝風太郎!!』
(1977年『俺の空』や1999年『サラリーマン金太郎』などで
知られる本宮ひろ志の原作を、2019年4月14日題名紹介『あ
いが、そいで、こい』などの柴田啓佑監督、2018年8月紹介
『あいあい傘』などの市原隼人の主演で映画化した作品。寺
の門前に捨てられてから30年。修行は積んだものの規格外れ
の男が大僧正の指示で市井に降りる。しかし大酒は飲むは、
大の女好きなど破天荒で、そんな男に周囲が振り回される。
そこには霊感商法の詐欺師やえせ宗教家などもいて…。そん
な社会が男の精神に染み付いた仏陀の教えによって正されて
行く。共演は藤田富、工藤綾乃。他に鶴田真由、近藤芳正、
麿赤兒らが脇を固めている。要所要所に仏陀の教えが文章で
表示されて、いろいろ仏法が説かれて行く。それはまあ判り
易くは描かれているものだが、全てが納得できたかと言うと
そうでもないかな。映画の撮り方もちょっと凝りすぎな感じ
もした。公開は11月1日より、全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2019年09月08日(日) SPECIAL ACTORS(42ndストリート、プライベート・ウォー、楽園、初恋ロスタイム、影踏み、BLACKFOX、ラフィキ、殺さない彼と死なない彼女)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『SPECIAL ACTORS』
2018年4月22日題名紹介『カメラを止めるな』が話題になっ
た上田慎一郎の単独監督による長編第2作。監督はこの間に
2019年6月23日題名紹介『イソップの思うツボ』も共同で発
表している。
主人公は売れない俳優。今日もオーディションを受けたが、
極度に緊張すると失神する癖も出て結果は散々だった。そん
な主人公が帰宅途中の道端で弟と出くわす。その弟も芝居で
食っていると言うが、それは特殊な役者だった。
そして弟に連れて行かれたのは、「SPECIAL ACTORS」という
名称のプロダクション。そこは主催者の依頼を受けて、結婚
式場や葬儀の会場などに偽装の参列者を送り込むことを主な
仕事としているような会社だった。
ところがそこに怪しい宗教団体に老舗旅館を乗っ取られそう
になっているという若い女性の依頼者が現れ、団体に取り込
まれた女将の洗脳を解いて、乗っ取りを阻止する作戦が開始
される。その作戦に主人公も巻き込まれるが…。
まずは宗教団体の実態を探る調査から始まり、悪質な団体の
裏の貌を暴くスパイさながらの作戦が展開される。

出演は大澤数人、河野宏紀、富士たくや、北浦愛ら1500人の
オーディションから選ばれたという15人。
実はオーディションの実施の段階では脚本はできておらず、
『カメラを止めるな』の時と同様に選ばれたキャストらとの
ワークショップやディスカッションの中で、上田監督の当て
書きによる脚本が作られたとのことだ。
その手法に問題はないと思うのだが、正直に言って僕は前作
をあまり評価できなかった。それは以前の紹介文でも書いた
通り、巻頭に置かれた短編映画の出来が芳しくなかったもの
で、これは多分後半の展開に引っ張られすぎたためだ。
その点が『イソップの思うツボ』では比較的スマートにでき
ていたと思うのだが、本作では結末が気に食わなくなった。
これは多分監督自身が、本作の全体のリアリティに満足でき
なかったせいと思うのだが。
この結末を置くことで、観客にはそこまで観てきたものが全
面的に否定されることになり、フラストレーションが募って
しまうことにもなる。つまり監督にはこのような言い訳では
なく、作品のリアリティの方を追及して欲しかった。
逆にそんなリアリティはなくても、本作は充分に成立してい
たと思うのだが、監督が真面目過ぎるのかな? いずれにし
ても続編は作れそうな作品ではあるので、それも期待したい
ものだ。

公開は10月18日より、東京は丸の内ピカデリー、新宿ピカデ
リー他にて全国ロードショウとなる。

この週は他に
『松竹ブロードウェイシネマ 42nd ストリート』
             “42nd Street: The Musical”
(2017年8月紹介『ホリデイ・イン』でスタートした「松竹
ブロードウェイシネマ」の第4弾で、1933年の大恐慌時代に
公開されて、不況にあえぐ人々に夢と希望を与えたとされる
伝説のミュージカル映画の舞台版。物語は、そんな時代にも
新たな舞台ミュージカルの創造を目指す演出家を中心に、出
資者との契約で主演に起用されるベテラン女優や、駆け出し
だがセンスの光る新人らが織りなしてゆく。ところがプレ公
演の直前にベテラン女優が大怪我を負ってしまい、本公演も
風前の灯火となるが…。出演は2003年から続くテレビシリー
ズ“Emmerdale Farm”で人気を得たトム・リスター。1986−
87年のテレビシリーズ『ドクター・フー』でコンパニオン役
を務めたボニー・ラングフォード。さらにロンドンで数多く
の舞台に出演のクレア・ハルス。特にハルスの見事なタップ
ダンスは最高の見せ場になっている。公開は10月18日より、
東京は築地東劇他で全国順次ロードショウ。)

『プライベート・ウォー』“A Private War”
(2012年、シリアの被圧制地ホムスからの歴史的な生中継を
敢行するなど、世界中の紛争地を追い続けた女性ジャーナリ
スト=メリー・コルヴィンの姿を、2018年3月4日題名紹介
『ラッカは静かに虐殺されている』などのドキュメンタリー
監督マシュー・ハイネマンが、2019年7月28日題名紹介『エ
ンテベ空港の7日間』などのロザムンド・パイクを主演に描
いたドラマ作品。2001年スリランカの反政府組織を取材した
コルヴィンは銃撃戦に巻き込まれて片目を失う。しかし彼女
は失った片目をアイパッチで覆って戦場に立ち向かう。そん
な彼女はリビアのカダフィ大佐にも単独インタヴュー出来る
ほどだったが…。共演はジェイミー・ドーナン、トム・ホラ
ンダー、スタンリー・トゥッチ。戦地に向かう女性ジャーナ
リストの話は2016年10月紹介『母の残像』などもあったが、
本作では戦闘のリアルさでも衝撃を受けた。公開は9月13日
より、全国ロードショウ。)

『楽園』
(2012年10月紹介『横道世之介』などの吉田修一原作短編集
から、2018年5月13日題名紹介『菊とギロチン』などの瀬々
敬久脚本・監督で映画化した作品。寒村で起きた幼女の失踪
事件と犯人に疑われた移住者の息子。さらに同じ村で都会か
ら来て村おこしを提案しながら村八分に会ってしまう男の姿
が描かれる。2つの話は別々の短編小説のようだが、如何に
も閉塞した村で起きそうな事件が絡み合って進んで行く。出
演は綾野剛、杉咲花、村上虹郎、柄本明、佐藤浩市。さらに
片岡礼子、黒沢あすか、石橋静河、根岸季衣らが脇を固めて
いる。日本の村社会では正に定番と言える話が、はまり役と
いう感じの役者たちによって演じられる。それは社会の歪み
を描く物語には最適の方法なのだろう。骨太な作品だ。ただ
途中の焼身シーンはもっと炎が広がるはずで、試写の映像で
は何か中途半端に感じた。ここにはさらにVFXでも入るの
かな。公開は10月18日より、全国ロードショウ。)

『初恋ロスタイム』
(ライトノベル作家の仁科裕貴が2016年に発表した小説を、
2015年『ストロボ・エッジ』などの桑村さや香脚本、2017年
5月28日題名紹介『兄に愛されすぎて困ってます』などの河
合勇人監督で映画化した作品。何事にもやる気のない浪人生
の若者が、ある日の12時15分、突然自分以外の周囲の事象が
静止する現象に遭遇する。それは1時間で元の時点に復帰す
るが、毎日繰り返される。そして街を彷徨った若者は、もう
1人の動ける少女と出会うが…。出演は2019年7月紹介『超
・少年探偵団NEO』などの板垣瑞生と、新人の吉柳咲良。他
に石橋杏奈、甲本雅裕、竹内涼真らが脇を固めている。シチ
ュエーションでは、1960年代に発表されてテレビ化もされた
手塚治虫の『ふしぎな少年』を思い出すが、本作の原作者も
監督もそれは知らないのだろうな。でも本作の展開にはちょ
っとうまい引っ掛けもあって、それなりに楽しめた。公開は
9月20日より、全国ロードショウ。)

『影踏み』
(2006年9月紹介『出口のない海』などの横山秀夫原作を、
2017年3月26日題名紹介『心に吹く風』などの菅野友恵の脚
本、2018年12月16日題名紹介『君から目が離せない』などの
篠原哲雄監督で映画化した作品。深夜の民家に侵入して盗み
を働く「ノビ師」と呼ばれる泥棒。その中でも警察から「ノ
ビカベ」とあだ名されるほどの凄腕の男が、未遂となる放火
殺人現場を目撃したことから過去の事件の究明に乗り出す。
それは自身の過去をも問いただすものだった。出演は主題歌
も担当の山崎まさよし。他に尾野真千子、北村匠海。さらに
藤野涼子、下條アトム、根岸季衣、大石吾朗、田中要次、滝
藤賢一、鶴見辰吾、大竹しのぶらが脇を固めている。物語の
もろにネタバレになる部分が、映画では巧みに処理されてい
て、その点は本当に面白く観られる作品だった。公開は11月
8日から群馬県で先行上映の後、11月15日より、東京はテア
トル新宿他で全国ロードショウ。)

『BLACKFOX』
(テレビアニメ『プリンセス・プリンシパル』などを手掛け
るStudio 3Hzの製作で、未来社会を背景に、伝統の忍者の技
と科学技術を駆使する少女、超能力を操る少女らが活躍する
劇場版オリジナルアニメーション。主人公は忍者一族の末裔
で、祖父から忍者の技を学んでいた。しかし本人は科学者の
父の仕事に憧れていた。そんな彼女が暮らす都会の片隅に建
つ忍者屋敷が襲われ、父と祖父も殺される。そして数年後、
少女は忍者の技で生活の糧を得ていたが…。プロローグが少
し長くて、本編が少し物足りないかな。でもまあ本作の全体
がプロローグなら、この先には繋がる作品とは言えそうだ。
なお試写では、ネット配信の実写版忍者ドラマの予告編も上
映され、そちらはアメリカ版『パワーレンジャー』を手掛け
た坂本浩一の監督、武術太極拳世界チャンピオンで、2014年
『太秦ライムライト』などの山本千尋が初主演作のようだ。
アニメの公開は10月5日より、全国ロードショウ。)

『ラフィキ ふたりの夢』“Rafiki”
(2018年のカンヌ国際映画祭ある視点部門にケニア映画とし
て初めて出品されたワヌリ・カヒウ脚本、監督による作品。
地方選挙で父親が対立候補の娘同士が出会い、互いの素性を
知った上で交流を始める。それは2人にとっては未来を見据
えた行動だったが…。それが様々な波紋を広げて行く。出演
はサマンサ・ムガシアとシェイラ・ムニバという2人。男子
に混ざってサッカーに興じるような活発な少女と、カラフル
な髪飾りを付けたおしゃれな少女。特に後者のファッション
も見どころのようだ。という作品だが、実はカンヌ出品作に
も関らずケニアの本国では上映禁止の処置が執られているの
だそうで、そんな各国の考え方の違いにも思いを馳せること
になる作品だ。なお本作が米国アカデミー賞候補になる権利
を得るため監督の行った自主上映には長蛇の列ができたとも
伝えられている。公開は11月より、東京は渋谷のシアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『殺さない彼と死なない彼女』
(世紀末の作者名でTwitterに投稿された4コマ漫画から書
籍化されたという原作を、2017年6月18日題名紹介『逆光の
頃』などの小林啓一脚本、監督で映画化した作品。学園生活
に興味を失っている高校3年生の男子が、ごみ箱に捨てられ
たハチの死骸を埋めに行くという女子に興味を持つ。そして
自殺願望を持つ彼女と、「死にたいなら俺が殺す」という彼
の付き合いが始まるが…。この他にも全部で3組の物語が並
行して展開される。出演は間宮祥太朗、桜井日奈子、恒松祐
里、堀田真由、箭内夢菜、ゆうたろう。他に金子大地、中尾
暢樹、佐藤玲、佐津川愛美、森口瑤子らが脇を固めている。
実は映画の展開にはちょっと仕掛けがあって、その点は面白
かったが、後半の意外な展開はそれを認めるか否かで評価が
分かれるかもしれない。それがあってこその結末であること
は理解するが。公開は11月15日より、東京は新宿バルト9他
で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2019年09月01日(日) 地獄少女(少女は夜明、空中茶室、マイ・フーリッシュ、女殺油、ゴッホと、隠れビッチ、小さい魔女、虚空門、爆裂魔神、銀河英2、解放区)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『地獄少女』
2005年から09年に第1期〜第3期のテレビアニメシリーズが
放送され、2006年には実写のドラマシリーズも並行放送。さ
らに2017年にアニメシリーズの第4期が放送されたホラー・
オカルトシリーズの実写劇場版。
この作品に、2017年9月紹介『不能犯』などの白石晃士監督
が、2018年12月紹介『チワワちゃん』や2019年7月7日題名
紹介『惡の華』などの玉城ティナを主役に迎えて挑戦した。
物語の始まりは1960年代の後半。級友に疎まれていた少女が
閻魔あい(地獄少女)と契約し、級友を地獄送りにする。しか
しその契約は自らの死後に自身も地獄送りとなることを承諾
するものだった。
そして50年後の現代。今や老齢となった女性はジャーナリス
トの息子に全てを語り、地獄送りの恐怖と後悔の中で過ごし
た人生を他の人に繰り返させてはならないと言い残して、驚
愕の表情を顔に張り付かせ死亡する。
そんな現代には、午前0時丁度にそのサイトにアクセスし、
そこに表示される空欄に相手の名前を記入して送信すると、
地獄少女が現れて指定の相手を地獄送りにしてくれるという
都市伝説が流布されていた。
一方、学園で少し疎まれている少女がとあるパンクバンドの
ライヴ会場で行動的な少女と知り合いになる。そして2人が
カフェにいるとバンドリーダーの魔鬼が現れ、行動的な少女
を新たなバンドのオーディションに招請する。
しかしそのバンドの成立には、特別な目的が隠されていた。
こうして2人の少女は人類の存亡を賭けた巨大な戦いの渦に
巻き込まれて行くが…。

共演は、2019年『天気の子』の声優や、2019年6月2日題名
紹介『東京喰種 トーキョーグール【S】』などの森七菜、
2017年12月10日題名紹介『巫女っちゃけん。』などの仁村紗
和、元AKB48の大場美奈。
他に2018年4月22日題名紹介『仮面ライダーアマゾンズ THE
MOVIE 最後ノ審判』などの藤田富、2018年4月紹介『名前』
などの波岡一喜。さらに橋本マナミ、麿赤兒、楽駆らが脇を
固めている。
白石晃士監督の作品は、2014年3月紹介『戦慄怪奇ファイル
コワすぎ!史上最恐の劇場版』以来いろいろと観ているが、
本作で波岡一喜の役名が同シリーズの登場人物と同じ工藤な
のは少し嬉しかった。風貌も何となく似ている。
白石監督が自ら手掛けた脚本は、学園での苛めやカルト的な
パンクバンドなど現代の風俗もいろいろ取り込んでそれなり
に面白かった。しかしここまでやるなら地獄少女と魔鬼との
戦いはちょっと呆気なかったかな。
それこそ天国と地獄の戦いくらいの規模になれば、地獄少女
の存在の意味なども含めて面白くなったのではないか…とも
思えた。原作も長期に亙るものだし、この先のシリーズ化も
踏まえて考えて欲しいところだ。

公開は11月15日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『少女は夜明けに夢をみる』“رؤیاهای دم صبح”
(2016年のベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞を
受賞したイランのメヘルダード・オスコウイ監督によるドキ
ュメンタリー。強盗、殺人、薬物、売春などの罪を犯し、少
女更生施設で共同生活を送る少女たち。しかしその背景には
様々な事情がある。そんな中でも前を向こうとする少女や、
施設を出たら生活する術もないと訴える少女。それぞれの事
情も複雑だ。ただし語られる事情の多くは、僕の目にはムス
リム特有の状況のように映るが、現実にそこに生きている人
たちには違うのだろう。だからイランで発表されても問題が
ない(?)。そんな状況を考えても恐ろしくなった。とは言う
ものの、取材は相当の期間行われているようだが、その時間
軸が不自然に操作されていて、例えば祖母の迎えが来るかど
うかの少女の話は時間の流れが変に感じられた。少女たちの
思いを強調したいがためだろうが…。公開は11月2日より、
東京は岩波ホール他で全国順次ロードショウ。)

『空中茶室を夢見た男』
(2018年2月25日題名紹介『熊野から』などの田中千世子監
督が、本作では江戸初期に建てられたとされる茶室に迫る歴
史ドキュメンタリー。武家茶道の始祖・小堀遠州と、弁当に
その名を遺す僧・松花堂昭乗。江戸初期に幕府と朝廷の間を
取り持ち、以降2世紀半以上に及ぶ太平の世の基礎を築いた
ともされる2人が、京都の南西方に位置する石清水八幡宮に
作り上げた茶室・閑空軒。それは近年の遺構調査によって、
正に空中に設えられたものであったことが判明する。その模
様が『熊野から』と同様の旅人と称する案内人と共に、研究
者らの学術的な説明を交えて語られる。空中茶室と言えば、
2014年公開『父は家元』を思い出すが、同作にも出演した遠
州茶道宗家家元が語る遠州と昭乗の交流の様子など、そこに
は往時の政治の流れなども併せて、これぞ歴史ロマンという
構成にもなっている。公開は10月、東京は渋谷のシアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『マイ・フーリッシュ・ハート』“My Foolish Heart”
(1988年にアムステルダムで客死したジャズマン、チェット
・ベイカーの最期を、オランダのロルフ・バン・アイク監督
が、2016年6月紹介『とうもろこしの島』の脚本家ルロフ・
ジャン・ミンボーと共に描いた作品。彼の晩年に関しては、
2016年8月21日題名紹介『ブルーに生まれついて』もあった
が、麻薬依存症の中での悲惨なものであったことは間違いな
い。しかし死者に鞭打つことは躊躇われるのか、本作でもそ
の焦点はぼかされる。しかも本作では、窓に人影があるとい
う謎から始まるのだが、その謎解きが何とも不可解に置かれ
てしまう。いやはや正直に言ってその意味は全く理解できな
かった。本作では最初にフィクションと明言されるし、描く
ことの主旨がそこにないことも理解はするが、それにしても
この結末の意味は問い質したくなった。まあ全体の雰囲気が
あれば良いという作品ではあるが…。公開は11月8日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『シネマ歌舞伎・女殺油地獄』
(2011年6月紹介作と同じ演目を、前回は片岡仁左衛門が演
じた主役に、松本幸四郎が十代目の襲名記念として挑んだ作
品。喧嘩に明け暮れる油屋の放蕩息子が武家に粗相をしたこ
とから死罪を逃れるために勘当となり、借金の末に金の無心
に同業者の女房の許を訪れる。しかしそこには息子が来たら
渡してくれと金を預ける両親の姿があった。その様子を物陰
から見ていた息子だったが…。何とも酷い話だが、物語は江
戸時代に起きた実話に基づくそうで、そこからの近松門左衛
門の作による舞台が連綿と演じ続けられ、さらに今回はその
役では当代一とされた仁左衛門から幸四郎に引き継がれる。
これも歴史と感じさせてくれる作品だ。共演は市川猿之助。
他に中村歌六、中村又五郎、中村鴈治郎、市川中車らが脇を
固めている。なお舞台の監修は片岡仁左衛門が務めている。
公開は11月8日より、シネマ歌舞伎第34弾として東京は築地
東劇他で全国ロードショウ。)

『ゴッホとヘレーネの森
           クレラー・ミュラー美術館の至宝』
         “Van Gogh: Tra il grano e il cielo”
(世界随一のフィンセント・ファン・ゴッホ作品の個人コレ
クターであるオランダの富豪ヘレーネ・クレラー・ミュラー
夫人が1938年に開館した美術館を主な舞台に、オランダ出身
の画家について紹介するドキュメンタリー。画家については
2019年8月4日題名紹介『永遠の門 ゴッホの見た未來』も
観たところだが、本作では先の作品にもあった弟テオらとの
書簡も、2007年3月紹介『不完全なふたり』などの女優ヴァ
レリア・ブルーニ=テデスキの朗読で紹介され、それに併せ
て画家の作風の変遷なども研究者によって解説される。それ
は画家の全貌を知るために巧みに構成された作品になってい
る。そしてその作品に魅せられ、私財をなげうって300点に
及ぶコレクションを充実させた夫人についても紹介され、全
体としては美術館の魅力を最大限に提示する作品にもなって
いるようだ。公開は10月25日より、東京は新宿武蔵野館他で
全国順次ロードショウ。)

『“隠れビッチ”やってました。』
(あらいぴろよ原作コミックエッセイを、2018年9月9日題
名紹介『旅猫リポート』などの三木康一郎脚本、監督で映画
化した作品。主人公は見た目は清楚だが思わせぶりな言動で
男を翻弄する女性。ルームメイトの親友はそんな彼女を「隠
れビッチ」と呼ぶ。ところがそんな彼女に職場で気になる男
性が現れ、親友の指摘で自らと向き合う様になるが…。出演
は、本作が映画初主演の2018年11月18日題名紹介『あの日の
オルガン』などの佐久間由衣。共演は2012年5月紹介『スー
プ』などの大後寿々花と、2019年8月紹介『ある船頭の話』
などの村上虹郎。他に小関裕太、森山未來、前野朋哉。さら
に山本浩司、渡辺真起子、光石研らが脇を固めている。古希
を迎えたおっさんには若い女性の心理などはなかなか判らな
いが、でもまあ若い女性からの男子の見方は判るかな。全体
としてはコメディとしてイヤミもなく楽しめる作品だった。
公開は2019年冬に全国ロードショウ。)

『小さい魔女とワルプルギスの夜』“Die kleine Hexe”
(『大どろぼうホッツェンプロッツ』などで知られるドイツ
の児童文学者オトフリート・プロイスラーの原作を、2017年
7月30日題名紹介『ハイジ アルプスの物語』で編集を手掛
けたマイク・シェーラーの監督で映画化。127歳だが未だに
大人の魔女と認められない小さい魔女が、大人の魔女だけが
招待される祭りに忍び込み、見つかって大目玉を食らってし
まう。しかし最長老の大きい魔女から「来年の祭りまでに試
験に合格したら許す」と言われ、猛勉強を始めるが…。出演
は2007年1月紹介『パフューム ある人殺しの物語』などの
カロリーネ・ヘルフルト。共演に1998年『ラン・ローラ・ラ
ン』などのズザンネ・フォン・ボルソディ。日本での上映は
吹替版(声優は坂本真綾、山寺宏一)のみとなるようで、基本
はお子様向けの作品ではあるが、テーマなどではそれなりに
大人でも楽しめるようになっている。公開は11月15日より、
東京はYEBISU GARDEN CINEMA他で全国ロードショウ。)

『虚空門GATE』
(UFOを呼べると主張する男とUFOの存在を信じる人び
との姿を描いたドキュメンタリー。発端は「月面異星人遺体
動画」。しかしそれは即座に否定されてしまう。そこに登場
するのが自称UFOが呼べる男。それに釣られてUFO探求
の旅は始まるが…。登場する映像はいずれも僕でも他に説明
がつくものばかりで、それこそ眉唾以前の状況。それでも警
察官の中に存在を信じる人がいるなど、それなりの興味では
引っ張る。しかし結局のところは全てインチキで、監督には
どこまでの覚悟があって取材したのか判らないが、結論では
フェイクというのもおこがましい恥ずかしいものになってし
まう。本作の取材には6年間を掛けたそうだが、本来なら途
中で諦めて没にしてしまうところだろう。それをあえて公開
する勇気に恐れ入った。否定論者には格好の餌食かな? 東
京の公開は10月中旬、渋谷のシアター・イメージフォーラム
他で全国順次ロードショウ。)

『爆裂魔神少女 バーストマシンガール』
(2018年2月紹介『ゴーストスクワッド』などの井口昇監督
が2008年にアメリカ資本で発表した『片腕マシンガール』。
そこに登場したキャラクターを基に、2017年9月3日題名紹
介『全員死刑』などの小林勇貴監督が新たに創造した作品。
舞台は怪しげな店や見世物小屋が連なるスラム街イシナリ。
その見世物小屋では幼い頃に親に売られた姉妹がアイドルの
ようにパフォーマンスを繰り広げていた。そんな姉妹の1人
には片腕がなく、彼女は臓器売買組織の元締めに恨みを抱い
ていた。そして彼女が元締めの息子を半殺しにしたことから
対立が始まり、もう1人の片腕も失われてしまうが…。失っ
た片腕にマシンガンを装着した少女たちの復讐戦が始まる。
出演は共に2018年『レッド・ブレイド』に出ていた搗宮姫奈
と花影香音。他に坂口拓、北原里英、根岸季衣、矢部太郎、
佐々木心音らが脇を固めている。公開は11月22日より、東京
はシネマート新宿他にてロードショウ。)

『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱 第二章』
(2019年8月11日題名紹介した作品の続き。前作の最後で生
じた銀河帝国側の混乱。それに呼応するように自由惑星同盟
側でも軍事クーデターが勃発し、それぞれが内憂外患を抱え
た状態での対峙が続く。そんな軍事的な駆け引きと、その裏
で行われる政治的な駆け引き、現代の国際情勢でもありそう
な複雑な物語が展開されて行く。まあ正直にはちょっと複雑
すぎて観ながら混乱するところもあったが、それは原作の読
者には問題ないのだろうし、そんなことを細かく考えなくて
も個々の展開は楽しんで観られる構成にはなっている。ただ
前作でも気になったが、戦線が地球上の海戦などと同じ2次
元なのはどうなのかな。宇宙空間ならもっと3次元に広がる
ように思えるが、それを映像で表現するのは難しいのだろう
か。局所的には立体的な機雷原(領域)なども登場はするのだ
が…。劇場公開は10月25日より、東京は新宿ピカデリー他、
全国35館にて3週間限定ロードショウ。)

『解放区』
(2014年東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門で上
映の作品が、諸般の事情によりようやく一般公開される。主
人公はドキュメンタリー作家を目指す若者。東京の映像会社
に勤めていたが、現場でのトラブルで職場を飛び出す。そこ
で数年前に大阪で出会った若者たちのことを思い出し、彼ら
のその後を取材するべく、再来阪するが…。大阪府西成区の
旧釜ヶ崎=あいりん地区で現地ロケされたセミドキュメンタ
リー調の物語が展開される。小柄な主人公と元ボクサーの青
年。その人物配置には1969年ジョン・シュレシンジャー監督
の『真夜中のカーボーイ』を思い出したかな。本作にもそん
なやるせなさが横溢している感じがした。大阪府からの助成
金の問題でトラブルがあったとも聞くが、映像には近く取り
壊されるあいりん地区の様子なども捉えられ、歴史的な価値
も見出すことのできる作品になっている。公開は10月18日よ
り、東京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二