| 2019年08月25日(日) |
アップグレード、国家が破産する日(宮本から君、ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・W、幽玄、ドリーミング村上春樹、サラブレッド) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『アップグレード』“Upgrade” 2019年6月紹介『アス』などを手掛けるジェイスン・ブラム が製作を担当し、2004年9月紹介『ソウ』に始まるシリーズ の脚本、製作や、2016年『インシディアス:序章』で監督に も進出したリー・ワネルの脚本、監督による近未来SFサス ペンス。 物語の背景は、A.I.の発達で乗用車も目的地を告げるだけで 自動操縦が行われる時代。主人公はそんな時代でもガソリン エンジンのマニュアル操縦車に拘り、そのメンテナンスを続 けているような男。 ところがメンテナンスの完了した車をA.I.産業の大物の自宅 に届け、妻と共に妻所有の自動運転車での帰路。突然暴走を 始めた車はスラム街に突入。そこで横転した車は暴徒に襲わ れ、妻は殺されて主人公も全身麻痺の重傷を負う。 しかしそんな主人公の病室をA.I.産業の大物が訪れ、ある提 案が行われる。それは新開発のチップを脊髄に埋め込み、四 肢の動きを取り戻すというものだったが…。倫理に反するそ の手術は主人公に超人的な行動力をもたらす。 マーヴェルコミックスの映画化にでもありそうな展開だが、 本作ではそれを真面なSFに仕上げている。 出演は、2012年7月紹介『プロメテウス』などローガン・マ ーシャル=グリーン、テレビシリーズ『パワーレンジャー』 などのメラニー・ヴァレイヨ、2019年2月紹介『アンフレン デッド:ダークウェブ』などのベティ・ガブリエル。 他に2014年『ニード・フォー・スピード』などのハリスン・ ギルバートソン、2017年11月紹介『エターナル』などのベネ ディクト・ハーディ、オーストラリア出身のサイモン・メイ デン(声優)らが脇を固めている。 脚本、監督のリー・ワネルに関しては、『ソウ』の紹介文で も書いたように、当時の会見ですごく優秀な人のように感じ たし、『ソウ』のシリーズ化やその他のヒットシリーズでも 彼の脚本の良さが光っていると思えたものだ。 そのワネルの監督デビュー作は見逃したが、本作でも緻密な 脚本と巧みな演出は見事。特に四肢の動きの微妙な変化や、 その制御が利き難くなってからのアクションなどは、正に自 分がその状態に陥っているような感覚も与えてくれた。 しかも敢えて幻想的なシーンなどを挟むこともなく、現実の 映像だけで押し切っているところも、最後の衝撃に巧みに繋 げられている。さらにこのシーンを描いたら、次は復活篇だ な…という期待も抱かせたものだ。 本作中では主人公の妻がやってきたことへの示唆はあるが、 その追及はなされておらず、これはぜひとも続編を期待した い作品だ。 公開は10月11日より、東京は渋谷シネクイント、新宿シネマ カリテ他にて全国ロードショウとなる。
『国家が破産する日』“국가부도의 날” 1997年に韓国を襲った経済危機、その裏側を描いた事実に基 づくとされるドラマ作品。 1988年のソウルオリンピックから、1996年のOECD加盟へと続 き好調かに見えた韓国経済。しかしその背後では放漫な経済 政策による危機が迫っていた。それはその事実に気付いた海 外投資家の動きに始まり、外貨準備高の急激な減少から破綻 のタイムリミットが7日後に迫っていると判断される。 そこで韓国政府は秘密裏に対策チームを立ち上げ、IMF(国際 通貨基金)への支援要請を検討するが、それは韓国経済を外 部に明け渡すことを意味し、国民生活に大打撃を与えること 必至なものだった。それに対して韓国銀行の通貨対策担当者 は代案を立てるが…。 その危機を巡る政府内の動きを中心に、事態を素早く察知し て自らの利益誘導に動く経済アナリスト、そして危機のあお りをもろに受ける町工場の経営者など、物語は多角的に展開 される。 出演は2013年『観相師』などのキム・ヘス、2019年1月13日 題名紹介『バーニング』などのユ・アイン、2010年10月紹介 『黒く濁る村』などのホ・ジュノ。他に2019年8月紹介『王 宮の夜鬼』などのチョ・ウジン、さらにヴァンサン・カッセ ルらが脇を固めている。 監督は本作がデビュー2作目のチェ・グクヒ。脚本も新鋭の オム・ソンミンが執筆している。 脚本は、1997年当時に非公開だった対策チームの存在が近年 明らかにされ、その事実に基づいて描かれているものだが、 内部での会話などの記録は残されておらず、そこは全て脚本 家の創作とのことだ。しかしそこにはそうあって欲しかった という希望も込められているとのこと。 その中には日本への支援要請の検討が言下に否定されるシー ンなどもあり、日本人としてはその真偽も知りたいところだ が、同時に韓国人の複雑な気持ちも描かれているようだ。 それにしても、2018年3月11日題名紹介『タクシー運転手』 から2018年7月紹介『1987、ある闘いの真実』、2019年5月 紹介『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』 など、近年の韓国社会派映画には見応えの感じられる作品が 多くある。 それは2008年3月紹介『光州5・18』辺りから続いている ものでもあるが、そこには映画人の信念も感じ取ることがで きるものだ。そしてこの映画の結末では、2018年平昌オリン ピックを終えた現在にも警鐘を鳴らしている。 公開は11月8日より、東京はシネマート新宿、大阪はシネマ ート心斎橋他にて全国順次ロードショウとなる。
この週は他に 『宮本から君へ』 (1992年に小学館漫画賞青年一般部門を受賞した新井英樹の 原作から2018年に連続ドラマ化された作品を、監督、脚本の 真利子哲也、主演の池松壮亮、蒼井優もそのままに映画化。 文房具メーカーの営業マンの男性が同じ職場の年上の女性と 結ばれるが、女性の元カレや営業先の社長の息子らに振り回 される。それでも必死に彼女を守って行くさまが描かれる。 共演は井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生。他に星田英利、古 舘寛治、ピエール瀧、佐藤二朗、松山ケンイチらが脇を固め ている。そんなに酒が弱いのならいっそ飲むなと言いたくも なるが、そんな失敗に上乗せして非力な主人公が暴力上等の ラガーマンに立ち向かって行く姿が面白いのかな。それにし ても、今の時期にこれを公開してしまうのもいろいろな意味 で凄いことだ。因に題名はダニエル・キース原作映画の邦題 『まごころを君に』から採っているそうだ。公開は9月27日 より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』 “C'era una volta il West” (1969年に『ウエスタン』の邦題で短縮版が公開されたマカ ロニ・ウエスタンの巨匠セルジオ・レオーネの集大成とも言 える作品が、邦題も変えて2時間45分のオリジナル版で再上 映される。大陸横断鉄道が西へ西へと延伸されている時代。 谷間に建つ一軒家で一家が惨殺される。それは父親と長男、 長女、それに幼い末弟も皆殺しという残忍なものだ。しかも その日は父親が新たな妻を迎える婚礼の日だった。こうして 遅れてきた新妻は一家の葬儀が最初の仕事となるが…。1人 残された彼女の耳にハーモニカの音色が聞こえ、現れた男は 殺人者の後を追い始める。出演は、クラウディア・カルディ ナーレ、ヘンリー・フォンダ、ジェイスン・ロバーズ、チャ ールズ・ブロンスン。原案をレオーネとダリオ・アルジェン ト、それにベルナルド・ベルトルッチが手掛け、西部開拓の 終わりを告げる物語が描かれる。公開は9月27日より、東京 は新宿ピカデリー他で全国順次ロードショウ。)
『シネマ歌舞伎・幽玄』 (最近では2019年3月31日題名紹介『鷺娘』を紹介したシネ マ歌舞伎の特別編。佐渡の鬼太鼓座を基に1981年にベルリン でデビューした和太鼓集団・鼓童と、21世紀に入ってその演 出指導を行ってきた坂東玉三郎が直接コラボレーションした 作品。その来歴と共に「羽衣」「道成寺」「石橋」の3演目 が収録されている。それぞれは物語紹介のテロップに続けて 玉三郎と鼓童によるパフォーマンスが行われるもの。ただし 「羽衣」に関しては優美な舞に鼓童は合わせ難かったかな。 他の石見神楽の大蛇が登場する「道成寺」と、連獅子登場の 「石橋」は舞踊と鼓童のパフォーマンスとの融合に見応えが あったが…。因に舞踊の振り付けは花柳寿輔で、歌舞伎舞踊 の主流である藤間流の踊りとは一味違う感じになっている。 それも見どころと言えそうだ。とは言え「羽衣」で漁師が艪 を漕ぐ手振りは少し気になった。公開は9月27日より、東京 は築地東劇他で全国ロードショウ。)
『ドリーミング村上春樹』“Dreaming Murakami” (2010年に制定されて隔年に贈賞されるデンマークのハンス ・クリスチャン・アンデルセン文学賞を、2016年に受賞した 村上春樹。その作品を20年以上に亙って同国に紹介し続けて いる翻訳家メッテ・ホルムの姿を追ったドキュメンタリー。 デンマーク生まれの女性翻訳家はゴブラン織に憧れてフラン スに留学、そこで川端康成の作品に出会い1983年に初来日。 日本語を学ぶと共に、日本を心の故郷のように過ごしてきた という。そして1995年の来日時に『ノルウェイの森』を読ん だことから村上春樹の翻訳を手掛けることになる。そんな彼 女が多元的な意味を持つ日本語の翻訳に腐心する姿と共に、 村上原作の「かえるくん、東京を救う」の主人公をVFXで 画面に登場させて、翻訳家が村上ワールドを掘り下げて行く 過程に、かえるくんとみみずくんの戦いがオーヴァーラップ される。この構成も見事だった。公開は10月19日より、東京 は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『サラブレッド』“Thoroughbreds” (幼馴染みだが少し疎遠だった2人の少女が再会し、それが 恐ろしい犯罪に繋がって行くサスペンス作品。主人公は周囲 との人間関係をうまく保てない少女。そんな少女が、大きな 屋敷に住む少女の許に学びの一環としてやってくる。そして 2人は、互いに反発したりもしながら一緒の時間を過ごすよ うになるが…。屋敷に住む少女が抑圧的な継父を嫌っている ことが判った辺りから、2人の間に恐ろしい計画が芽生え始 める。出演は2018年『レディ・プレイヤー1』などのオリビ ア・クックと、2017年5月紹介『ウィッチ』などのアニヤ・ テイラー=ジョイ。それに本作が遺作となったアントン・イ ェルチン。脚本と監督はニューヨークを拠点に舞台脚本家、 演出家として活動しているコリー・フィンリー。本作の脚本 も元々は舞台用に執筆したが、魅力的な出演者を得て映画監 督デビューを果たしている。公開は9月27日より、東京は渋 谷シネクイント他で全国ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2019年08月18日(日) |
生理ちゃん、二ノ国(東京アディオス、クロール 凶暴領域、残された者 北の極地、KUSAMA: INFINITY) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『生理ちゃん』 2019年「手塚治虫文化賞短編賞」を受賞した小山健原作 Web コミックスを、2019年7月14日題名紹介『人間失格』などの 二階堂ふみ主演で実写映画化した作品。 主人公は中堅の女性編集者。仕事も恋も充実しているつもり だが、全てが順調という訳ではない。そんな彼女が後輩の尻 拭いでデートもままならなくなった日に、生理ちゃんがやっ てくる。それは腹にパンチを食らわせたり、血を抜いたりと やりたい放題だが…。 この他、担当する雑誌の連載コラムに匿名のブロガーを起用 しようとする話や、主人公の妹とそのボーイフレンドの話。 さらに思いを寄せる男性の亡くなった前妻の忘れ形見の少女 の話など、女性の直面する様々な出来事が、そんな女性の心 にそっと寄り添う生理ちゃんと共に描かれる。 それは原作コミックスからそのまま抜け出したキャラクター や、さらに童貞くん、性欲くんといったブサカワと称される 造型が次々に登場して、登場人物を困らせたり、愚痴を聞い たり、後押ししたりなど、全体はコメディの仕様で、様々な 活躍を見せる作品だ。 共演は2018年6月3日題名紹介『榎田貿易堂』などの伊藤沙 莉、2018年4月29日題名紹介『兄友』などの松風理咲。他に 岡田義徳、須藤蓮、狩野見恭兵、豊嶋花、信太昌之、藤原光 博らが脇を固めている。 脚本は赤松新。監督は品田俊介。いずれもテレビでの実績は あるが、映画は初挑戦の俊英が担当している。 筆者は男性だから生理に関して女性の本当の悩みの部分は判 らないし、また原作コミックスの評価を観ても賛否両論ある ようだ。しかし部外者の目で本作の物語はそれなりに面白い し、悩みに関しても多少は理解できたかなあ、という気分に はさせてくれた。 それに後半の編集長が倒れるシーンは、多分尿路結石だと思 われるが、僕自身が体験者としてその猛烈な痛みは理解ので きるもの。その罹病の際にも結石は女性の生理の痛みと比較 されると言われたものだが、このシーンではその通りなのだ ろうという思いには至った。 この他にも男性の立場に立った描写もいろいろあって、僕は 男性も共感できる作品になっていると感じたものだ。まあこ の映画の場合は脚本家も監督も全員男性なのだから、それは 当然か? 女性の意見は判らないが、男性としては観ていて いろいろ考えさせてはくれる作品だ。 公開は11月8日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷 他にて全国順次ロードショウとなる。
『二ノ国』 『イナズマイレブン』などで知られるゲームソフト開発会社 レベルファイブが2010年に発表開始したRPGシリーズに基 づく物語を、自らの手で長編アニメーション化した作品。 製作総指揮・原案・脚本の日野晃博、監督の百瀬義行、音楽 の久石譲は、いずれもゲームのスタッフがそのまま担当して いる。 物語の始まりは現代の日本。主人公の高校生は幼い頃の事故 で両親を亡くし、自身も足が不自由で車椅子を使っている。 そんな主人公には幼い頃からの親友がいて、バスケットでも 活躍する活発な彼は、学内の人気者でもある。 そんな人気者には相思相愛のガールフレンドがいて、3人で 行動することも多かったが、実は主人公も秘かに彼女を思っ ていた。その彼女が通り魔に襲われ、駆け付けた主人公の前 で致命傷を負ってしまう。 ところが後から来た親友の行動は3人を危機に陥れ、その瞬 間に彼らは別の世界に飛ばされていた。そこは中世を思わせ る世界で、その街中で意識を取り戻した主人公と親友は姿の 見えない彼女を探すが…。 彼女はその世界では城に住む姫で、しかも呪術によって危篤 の状態だった。 声の出演は、山崎賢人、新田真剣佑、永野芽郁。他に2019年 8月11日題名紹介『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱 第 一章』などの宮野真守、2017年1月15日紹介『黒執事 Book of the Atlantic』などの坂本真綾。 さらに『銀河英雄伝説』などの梶裕貴、『テニスの王子様』 などの津田健次郎。また山寺宏一、伊武雅刀、ムロツヨシら が脇を固めている。 物語は、2018年に発表のゲームシリーズ最新作『二ノ国�� レヴァナントキングダム』の設定を主にしているものだが、 主人公が高校生であるなどの「一の国」の展開はオリジナル のようだ。 そこで主人公と親友の関係性などは成る程と思わせるものに なっているのだが、最後にそれが明らかになった時のカタル シスが少し弱いかな。多分それは言葉での説明が主になって いるせいで、ここにはもう一つドラマが欲しかった。 それともう1点、水彩画のような背景はゲームもそうなのか もしれないが、映画でファンタシー世界を描くのにそれが適 当かどうか。映画の背景はもっとクリアであって欲しいとは 思うものだ。 それは例えば1995年のジブリ作品『耳をすませば』の劇中劇 「バロンのくれた物語」に採用された「イバラード」のよう な存在感。ファンタシー物語の背景にはこれくらいのものが あって欲しい感じがする。 でもまあゲームのファンには本作の方が良いのかな。それを 変えてしまうのは得策ではないという考えは理解するが。 公開は8月23日より、全国ロードショウとなる。
この週は他に 『東京アディオス』 (冒頭ナレーションで、東京には2000(?)人以上の芸人がい て、それはギネス級ではないかとされる。そんな中でテレビ などで活躍しているのはほんの一握り。大半はバイト収入で 困窮した暮らしを続けながら、ギャラもほとんど出ないライ ヴ会場でネタを披露している。「地下芸人」と称される彼ら は2通りで、何時かは売れたいとする者と逆に地下でしかで きないネタを追求する者。本作は後者の代表とも言える地下 芸人・横須賀歌麻呂が自身を演じるドキュメンタリーとフィ クションが交錯する作品だ。共演は2017年2月26日題名紹介 『破裏拳ポリマー』などの柳ゆり菜、2006年12月紹介『素敵 な夜、ボクにください』などの占部房子。さらにコムアイ、 玉山鉄二、村上淳。またチャンス大城、柴田容疑者ら地下芸 人も多数登場する。脚本と監督はテレビで『女王の教室』な どを手掛けた大塚恭司の映画デビュー作。公開は10月11日よ り、東京はシネ・リーブル池袋にてロードショウ。)
『クロール 凶暴領域』“Crawl” (アメリカ・フロリダの低海抜地帯を舞台に、最大級のハリ ケーンが接近する中、連絡の取れない父親を捜しに主人公が 空き家になった実家を訪れると、そこは巨大な人食いワニの 巣窟になっていた…、というワニワニパニック・ムーヴィ。 製作は2016年11月紹介『ドント・ブリーズ』などのサム・ラ イミ。脚本は2011年6月紹介『ザ・ウォード』などのマイク ル&ショーン・ラスムッセン。監督は2011年7月紹介『ピラ ニア3D』などのアレクサンドル・アジャ。出演は、2013年 3月紹介『17歳のエンディングノート』などのカヤ・スコデ ラリオと、2012年5月紹介『プリンセス・カイウラニ』など のバリー・ペッパー。主人公は競泳の選手という設定だが、 それでも人間が泳ぎでワニに勝てる可能性はほとんどないと 思う。でもそんなことは別にしてハラハラドキドキの映画に はなっている。ただし主人公が自分の家のことを知らなすぎ とは思ったが。公開は10月11日よりロードショウ。)
『残された者 北の極地』“Arctic” (2019年7月28日題名紹介『アダムズ・アップル』などのマ ッツ・ミケルセン主演で、小型機の事故により北極の地に取 り残された男性を描いた作品。主人公は雪原に大きくSOS の文字を描き、1日1回の無線による救難信号の発信や、魚 を獲ったり、獲った魚を調理するなどの仕事をルーティーン にして過ごしている。それは生き延びて行くための確実な方 策だった。ところが飛来したヘリコプターが着陸に失敗して 大破し、中から瀕死の女性を救出する。そこで主人公は、彼 女の命を救うために行動を始めなくてはならなくなるが…。 白夜らしく陽の沈まない中で腕時計のタイマーに合わせた生 活や長く伸びた影など、正に現地ロケでしか描けない風景の 中でドラマが展開される。脚本と監督は、テレビ俳優の傍ら 短編やテレビシリーズの演出を手掛けてきたジョー・ペナの 長編デビュー作のようだ。公開は11月8日より、東京は新宿 バルト9他で全国ロードショウ。)
『KUSAMA: INFINITY(原題)』“Kusama: Infinity” (1929年生まれで、今も旺盛な創作活動を続ける女性芸術家 の半生を、多数の関係者や評論家、画商、芸術家仲間、さら に美術館の学芸員などへのインタヴューを基に描いたドキュ メンタリー。草間の作品は水玉のアートやカボチャの造形な ど目にしたことは多かったが、ここに描かれたのは半生その ものが波乱万丈で、全くもってスクリーンから目が離せなく なる作品だった。しかも現在もなお創作を続けている様子や その間に発する言葉なども収録されており、そこにインタヴ ューや過去の活動の様子、トラブルのアーカイヴ映像なども 挿入され、これはファンにはたまらない作品と言えそうだ。 この手の芸術家のドキュメンタリーでは、2018年7月15日題 名紹介『太陽の塔』もあったが、本作で感じるのは制作者ら の草間に対する愛情だ。それも心地よい作品になっている。 脚本と監督はヘザー・レンズ。公開は11月下旬より、東京は CINE QUINTO SHIBUYA PARCO(仮称)他で全国ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2019年08月11日(日) |
イエスタデイ、ロボット2.0(人生をしまう、つつんでひらいて、銀河英雄伝説第一章、毒戦BELIEVER、3人の信長、台風家族、いつかのふたり) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『イエスタデイ』“Yesterday” 2003年12月紹介『ラブ・アクチュアリー』などを手掛けたリ チャード・カーティスの脚本を、2009年1月紹介『スラムド ッグ$ミリオネア』などのダニー・ボイル監督で映画化した ファンタシー要素の強い音楽作品。 主人公は地元のパブなどで営業しているセミプロのミュージ シャン。幼馴染みの女性が学校教師の傍らでマネージャーを 務め、地元では幼馴染みが中心のファンもいる。しかし漸く 射止めたロックフェス出演で自らの限界を感じた主人公は、 音楽活動の終了を決意する。 そんなことでの帰路、マネージャーとは気まずい別れをして 自転車で帰宅の途中。突如全世界を襲った12秒間の停電の中 で、信号の消えた交差点に侵入した主人公はトラックに跳ね 飛ばされてしまう。とは言え悲惨な怪我の割には生命に別状 はなかったが…。 そんな怪我も癒えた快気祝いの席でアコースティックギター を贈られた主人公は、ふとビートルズの「イエスタデイ」を 弾き語る。しかしそれがとんでもない事態を引き起こす。そ こに居合わせた誰もその名曲を知らなかったのだ。何と12秒 間の停電は主人公を並行世界に送り込んでいた。 斯くしてビートルズの名曲を次々披露した主人公は、瞬く内 に音楽界のヒーローになってしまう。 出演は、BBCで1985年に放送開始のシリーズ“EastEnders” に2007年から16年まで登場し、スピンオフの短編シリーズま で製作されたタムワー・マスード役でブレイクのヒメーシュ ・パテル。 他に2017年6月25日題名紹介『ベイビー・ドライバー』など のリリー・ジェームズ、2016年7月17日題名紹介『ゴースト バスターズ』などのケイト・マッキノン。さらに2013年12月 紹介『ホビット・竜に奪われた王国』のエンディング曲で知 られるエド・シーランが本人役で登場して脇を固める。 著名な音楽グループの楽曲を使用した作品では、最近続編も 作られた2008年『マンマ・ミーア』などもあったが、ほとん ど無関係な物語が展開される同作に比べると、本作では正に ビートルズへの愛が感じられるものだ。 またビートルズの楽曲に限って言えば、2008年5月紹介『ア クロス・ザ・ユニバース』も思い出されるが、本作では楽曲 そのものにフォーカスされて、これもイギリスが生んだ偉大 なグループへの愛に溢れている。 そして全体がパラレルワールドものというのも、僕にとって は極めて大きな魅力になっているもので、さらに後半には、 SFファンの心を掴む展開と、正しく現代を反映した仕掛け も施されている。 本当に見事と言えるファンタシー作品だった。 公開は10月11日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国 ロードショウとなる。 考えてみれば、リチャード・カーティスには2014年6月紹介 『アバウト・タイム愛おしい時間について』があり、ダニー ・ボイルには2003年6月紹介『28日後...』や2013年『トラ ンス』などがある訳で、2人ともSFの造詣は深い。 そんな2人がSFの特質を最大限に活かして作り上げた作品 とも言えそうだ。
『ロボット2.0』“2.0” 2012年3月紹介『ロボット』の続編。2010年製作の作品が、 主演のラジニカーント(2役)、脚本・監督のシャンカール、 音楽のA・R・ラフマーンもそのままに復活した。 映画はかなり衝撃のシーンから始まる。しかしそのシーンと 本編との繋がりも定かでないままに、事件が勃発する。それ は街中のスマートフォンが消えるというもの。しかも新に搬 入されたスマホで人が殺される事態も発生する。 この事態に天才科学者バシー博士は、助手ロボットのニラー と共に事件の調査に乗り出す。その一方で消えた無数のスマ ホが合体し、巨大な怪鳥となって人々を襲い始める。それは 軍隊でも抑えられないパワーを持っていた。 これに対してバシー博士は、前作での暴走により解体された チッティの復活を提案。そして怪鳥に襲われた多数の人々を 復活したチッティが危機一髪で救出するが…。事件は新たな 局面を迎えようとしていた。 共演は、2014年1月紹介『デリーに行こう!』などのアクシ ャイ・クマールと、イギリス・マン島の出身で2010年頃から ボリウッドでキャリアを積み、DCコミックスのTVシリー ズ“Supergirl”にも出演のエイミー・ジャクスン。 映画は冒頭のシーンがかなり衝撃で、その背景が徐々に明ら かになると共に、それは社会問題の提起にも繋がっている。 それがコメディが基調の映画の割には予想以上に重いテーマ だった。 そこにはインド特有の事情もあるようだが、全体的には日本 人にも理解できる社会問題と言える。それは利便性だけを追 い求める現代人への警鐘とも取れるもので、こういう社会批 判的な作品がヒットするのも見事なことだ。 この他、映画の中には過去の作品に対するオマージュのよう なものも点々と描かれるが、その中で2002年8月紹介『オー スティン・パワーズ』への絡みでは、昨年4月に亡くなった 俳優ヴァーン・トロイヤーへの思いもあったのかな。 今回日本で公開される上映時間147分は、オリジナルとほぼ 同じのようだが、正直に言っていろいろな要素が詰め込まれ すぎて、観終わっても整理がなかなかつかない感じもした。 でもそれくらいにサーヴィス精神旺盛な作品でもある。 それにしても主演のラジニカーントは1950年の生まれだそう で、それが前作と変わらない風貌なのも恐れ入ったが。さす がに踊りのシーンは…なものの、正にスーパースターの貫禄 だった。 公開は10月25日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード ショウとなる。
この週は他に 『人生をしまう時間(とき)』 (2018年6月にNHK BSで放送され、日本医学ジャーナリスト 協会賞大賞を受賞したドキュメンタリー番組に、新たなシー ンも追加した決定版。埼玉県新座市の堀ノ内病院に勤務する 小堀鴎一郎医師を中心に、自宅で末期を迎えようとする人々 と、その患者に付き添う訪問診療医との姿が描かれる。小堀 医師は東大病院で外科の名医と謳われた人。そんな医師が定 年退職後に赴任した病院では、在宅患者を巡回してその最期 を看取り続ける。そしてもう1人、堀越洋一医師は国立国際 医療センターからアジア、アフリカ、南米に派遣されて、医 療関係の技術協力などに携わってきた。その医師が在宅での 看取りを見据えた訪問診療を続けている。そこには様々な家 族の事情などもあり、それは現代日本のいろいろな側面が見 て取れるような作品にもなっている。監督と撮影はNHKエ ンタープライズ所属の下村幸子。公開は9月21日より、東京 は渋谷のシアター・イメージフォーラムでロードショウ。)
『つつんで、ひらいて』 (2018年10月7日題名紹介『夜明け』で監督デビューを果た した是枝裕和、西川美和主宰「分福」所属の広瀬奈々子が、 今までに1万5000冊以上を手掛けたという装幀者・菊地信義 の仕事ぶりを3年間に亙って追ったドキュメンタリー。その 基本は自己模倣をしないということで、常に新しいことを考 えながら仕事が続けられる。その中には営業上実現しなかっ たものもあるようだが、丁寧な仕事ぶりは印刷所や製本所へ 出向いての対応にも表れている。ということで装幀者の業績 は良く伝わってくる作品だ。しかし装幀者本人に関してはそ の人間性みたいなものがあまり伝わってこなかったかな。そ こには旧知の編集者との酒宴なども紹介されるが、家族や家 庭なども描かれず、全体としては装幀者の業績カタログのよ うな感じで、勿論それも価値のある作品ではあるのだが…。 公開は今秋、東京は渋谷のシアター・イメージフォーラム他 で全国順次ロードショウ。)
『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱 第一章』 (田中芳樹が1982年から87年までに発表した全10巻からなる SFシリーズのアニメ化。すでに1988年から2000年にかけて OVAシリーズなどで映像化されていた作品が、2018年から テレビシリーズとして新規製作され、第1シーズン全12話に 続く第2シーズンが4話ずつ3章に分けて劇場公開される。 という経緯の作品だが、第一章とされた映画の始まりがいき なり第13話というのはかなり面食らった。しかも物語は戦闘 シーンの途中からで、第1シーズンを観ていない者にはハー ドルが高い。でもまあ原作やアニメのファン向けということ ではこれでOKなのだろうな。しかも本章の物語は、帝国の 皇帝が急死して内紛が始まる辺りからだから、ここから後の 展開は面白そうだ。製作は2012年2月紹介『ももへの手紙』 などのProduction I.G. なお残る2章も後日紹介できる予定 だ。劇場公開は9月27日より、東京は新宿ピカデリーの他、 全国35館にて3週間限定ロードショウ。)
『毒戦 BELIEVER』“독전” (2012年にジョニー・トーが監督した香港映画『ドラッグ・ ウォー 毒戦』の韓国版リメイク。巨大麻薬組織のボスの座 に君臨する“イ先生”。警察は組織壊滅のためにそのボスを 追っていた。しかし本名も素顔も組織の上層部の人間でさえ 知る者はいなかった。そんな折、麻薬精製工場が爆破され、 そこに集まった幹部の多くが殺される中、中国との連絡役の 男が救出される。そこで警察は組織から排除されそこなった 男に協力させ、中国のバイヤー向けと韓国の組織向け、二重 の舞台を使ったトリックでボスのおびき出しを図るが…。出 演は2017年2月5日題名紹介『お嬢さん』などのチョ・ジヌン と、2018年3月紹介『タクシー運転手 約束は海を越えて』 などのリュ・ジョンヨル。脚本を『お嬢さん』などのチョン ・ソギョンが手掛け、2015年『京城学校 消えた少女たち』 などのイ・ヘヨンが監督した。公開は10月4日より、東京は シネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『台風家族』 (2013年5月紹介『箱入り息子の恋』などの市井昌秀オリジ ナル脚本、監督による作品。映画の始まりは老年カップルに よる銀行強盗。2000万円を奪い金ピカの霊柩車で逃走する。 それから10年、犯人の住まいだった家に子供たちが集まって くる。犯行後は行方不明だった両親の法的死亡が認められ、 形式的な葬儀を行って財産分与をしようというのだ。そして 葬儀も済み、現れない末弟を除く3人で話し合いが始まる。 しかし長く疎遠だった兄弟の間にはいろいろな思惑が生じて いた。疑心暗鬼が渦巻く中でそれぞれが抱える事情も明らか になって行く。出演は草��剛、MEGUMI、中村倫也、尾野真千 子。他に若葉竜也、相島一之、榊原るみ、藤竜也らが脇を固 めている。自分も両親が亡くなった時にはいろいろあったか ら、本作には正にあるあるな感じで観ながらかなり笑わせて もらった。公開は9月6日より、東京はTOHOシネマズ日比谷 他で全国ロードショウ。)
『いつかのふたり』 (2017年7月23日題名紹介の黒沢清監督『散歩する侵略者』 や瀬々敬久監督作品などで助監督を務めてきた長尾元のオリ ジナル脚本による監督デビュー作。離婚した母親と共に東京 で暮らす女子高生が、卒業を前に小説家を志して大阪に住む 作家を訪ねる。そして作家も書生として受け入れることを認 めるが…。娘は母親を1人残して行くことが心配になり、母 親も娘と一緒に大阪に行くべきか迷う。そんな親離れ子離れ の出来ない母娘の物語。出演は2019年3月31日題名紹介『小 さな恋のうた』などの中島ひろ子と、2017年『チア☆ダン』 などの南乃彩希。他に仁科貴、田中隆三、霧島れいか、岡田 義徳らが脇を固めている。監督の言いたいことは理解する。 しかしだから何なのという辺りで共感が持てない。僕自身は 男性だから母親と娘の関係などは理解し難いが、もっと普遍 的な共感できる仕掛けが欲しかった。公開は10月12日より、 東京は新宿K's cinema他で全国順次ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2019年08月04日(日) |
王宮の夜鬼、ある船頭の話(左様なら、永遠の門 ゴッホ、閉鎖病棟、アナベル 死霊博物館、108、ガリーボーイ、トスカーナの幸せレシピ) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『王宮の夜鬼』“창궐” 中国の属国だった朝鮮王朝時代を背景に、夜鬼と呼ばれるゾ ンビが登場するアクション作品。 中国に隷属して何とか国体を保っている時代。しかし王宮の 中にも中国の支配から脱却しようとする動きはあった。とこ ろがその動きの中で南蛮船から銃器と弾薬を密輸しようとし た第1皇子は、露見して王の前で自害してしまう。 一方、弟の第2皇子は武術の達人ではあったが遊び人で、長 く中国に滞在していた。そんな第2皇子が兄からの遺言状を 受け取り、兄嫁の救援のため帰国してくる。そして港に到着 した第2皇子は港町の異常な事態に遭遇する。 そこには人肉を食らい、噛まれたものはその仲間になってし まう夜鬼が跋扈していたのだ。それでも戦士の一団と出会っ た第2皇子は王宮に向かうが…。すでにその王宮には夜鬼が 侵入していた。 出演は、2018年6月3日題名紹介『スウィンダラーズ』など のヒョンビンと、2018年5月紹介『V.I.P. 修羅の獣たち』 などのチャン・ドンゴン。 他に2018年3月18日題名紹介『天命の城』などのチョ・ウジ ン、2016年12月25日題名紹介『アシュラ』などのチョン・マ ンシク。さらに2018年『ときめき プリンセス婚活記』など のイ・ソンビン、2018年12月2日題名紹介『ゴールデンスラ ンバー』などのキム・ウィソンらが脇を固めている。 脚本は2012年12月紹介『王になった男』などのファン・ジョ ユン。監督は2017年12月10日題名紹介『コンフィデンシャル 共助』などのキム・ソンフンが担当した。 2017年7月紹介『新感染 ファイナル・エクスプレス』に続 く韓国製ゾンビ映画だが、本作でもゾンビとアクションをか なり激しく融合させた作品になっている。それはまあ多少の 気になるところはあったが、全体は見事だった。 ただしアクションを突き詰めると最後は1:1の対決となる が、そこには落とし穴がある。ここで本作の場合は主人公と 仇との戦いとなるのだが、この時点で仇の側にはまだ生前の 知識があるようなのだ。 しかしこの時点で仇に知識があるということは、それはその 仇がまだ完全には死に切ってはおらず、夜鬼にはなっていな いということで、それでは周囲の夜鬼に襲われる存在でもあ るはずなのだ。 つまりゾンビが仲間を襲わないのは、そいつがすでに死者で あり、生者の肉しか食べないゾンビの食物にならないからな のだ。そして死者は生前の知識を持たない。これに対して本 作の仇にはまだ知識があり、それは死者ではなくゾンビの食 物であるはずなのだ。 ここでゾンビ映画の名品とされる1978年ジョージ・A・ロメ ロ監督の『ゾンビ』では、ゾンビに噛まれてエレベーターに 逃れた男がエレベータ内でゾンビ化し、扉が開くと外にいた ゾンビたちが関心を失うというシーンと。 その後にゾンビ化した男が、本能の働くままに偽装された通 路を破って生者の隠れ場所に侵入するというシーンがあり、 これらの展開を当時の僕らは賞賛した。お話は当然作り物で はあるけれど、これくらいの辻褄合わせは欲しいと思ってし まうものだ。 まあアクションが主体の作品だから、これ位は目を瞑って楽 しめばいいものではあるが…。なおアクションの中にも気が 付くとかなり笑えるシーンも存在した。 公開は9月20日より、東京はシネマート新宿他で全国ロード ショウとなる。
『ある船頭の話』 2018年11月25日題名紹介『宵闇真珠』などの国際俳優オダギ リジョーが脚本と長編映画の初監督を務めた作品。 明治期と思われる山間の川の渡し船を背景に、近くで架橋工 事が進む中での船頭と乗客との交流が描かれる。その中には 犯罪の係るミステリーの匂いもし、ファンタスティックな描 写も含む物語が展開される。 以前は何便もあったとされる渡し船も、残るは1便だけ。そ れでも船頭は、余所者からは船賃を取るが地元の村人は無料 で渡しを続けている。そんな船頭の耳には様々な噂話も聞こ えてくる。 その一つは上の村で起きた一家の皆殺し事件で、その家の娘 は行方不明だという。そんな折に船頭は川を流れてきた若い 女を救助する。そして船頭の許に足繁く訪れる若者と共に女 を介護し、女は回復するが…。 他にも猟師の息子が亡くなった父親を山に還す話など、いろ いろな出来事が船頭の周囲で繰り広げられる。そこには便利 を追い求める人間への風刺も込められているようだ。そして 橋の建設が進められる。 出演は11年ぶりの映画主演という柄本明と、オーディション で抜擢された2019年2月3日題名紹介『笑顔の向こうに』な どの川島鈴遥、2018年12月紹介『チワワちゃん』などの村上 虹郎。 他に伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優、笹野高史、草笛 光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功、くっきー、河本準一ら が脇を固めている。それぞれ、ここにこの役者が…と思わせ る見事なキャスティングだ。 撮影監督は『宵闇真珠』の監督も務めたクリストファー・ド イル。衣装を1985年『乱』でオスカー受賞のワダエミ。音楽 にはアルメニア出身の新進作曲家ティグラン・ハマシアンが 初挑戦している。 オダギリは2008年に『さくらな人たち』という65分の作品を 脚本、監督しているが、本作の構想もその頃に始まっていた ようだ。しかしその中で監督は片手間にできるものではない との考えに至り、監督業を10年間封印していた。 それが『宵闇真珠』でドイルと会い、「お前が監督するなら カメラは任せろ」と言われ、本作に踏み切ったとされる。そ こに見事なスタッフとキャストが集まったものだ。因に河本 は監督の旧友で『さくらな人たち』に主演していた。 そんな本作のテーマは、言うまでもなく自然破壊への警告と 資本主義社会への批判だが、それを単純明快に言い切ってい ることも本作の良さと言えるだろう。最近のチャラチャラし た映画には逆行する作品だが、見る価値は最上級だ。 公開は9月13日より、東京は新宿武蔵野館他にて全国ロード ショウとなる。
この週は他に 『左様なら』 (今年6月に『暁闇』と『無限ファンデーション』を紹介し ている「MOOSIC LAB 2018」の長編部門に出品された作品。 中学校から一緒だった同級生に先立たれた女子高生が、その 死で広がる波紋の中に翻弄される。ネット上で展開するイラ ストレーターのごめんがTwitterで発表した短編漫画を原作 に、2011年からすでに10本以上の短編映画を発表して映画祭 での受賞・入賞も果たしている石橋夕帆監督が長編デビュー を飾った。思春期の女性の心理としてはかなり微妙なところ も突いているのだろうし、その点で評価されるのは納得もす る。しかし結末に近いところで主人公の死を連想されるシー ンの登場には、原作もそうなのかもしれないが、個人的に少 し迷いが生じた。その経緯も明確ではなく、ただ雰囲気的に このシーンが挿入されたのでは、少し考え方が甘いようにも 感じてしまった。出演は芋生悠と祷キララ。公開は9月6日 より、東京はUPLINK吉祥寺他で全国順次ロードショウ。)
『永遠の門 ゴッホの見た未來』“At Eternity's Gate” (主演のウィレム・デフォーがヴェネチア国際映画祭の男優 賞を受賞し、オスカー候補にもなった19世紀末に生きた画家 の伝記映画。オランダ生まれの画家がパリに移った頃から、 共同生活も送るポール・ゴーギャンとの出会いやアルル時代 などの晩年が描かれる。共演は2018年6月17日題名紹介『ス ターリンの葬送狂騒曲』などのルパート・フレンド、2018年 4月15日題名紹介『サバービコン』などのオスカー・アイザ ック。他にマッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリックら が脇を固めている。脚本と監督は2007年11月紹介『潜水服は 蝶の夢を見る』などのジュリアン・シュナーベル。脚本には 1967年『昼顔』などのジャン=クロード・カリエールも名を 連ねており、物語は2011年に発表された新説にも基づいてい る。画家に関しては1956年のカーク・ダグラス主演作が著名 だが、デフォーは風貌までよく似せていた。公開は11月8日 より、東京は新宿ピカデリー他で全国順次ロードショウ。)
『閉鎖病棟−それぞれの朝−』 (山本周五郎賞を受賞した帚木蓬生の原作を、2010年9月紹 介『信さん−炭坑町のセレナーデ』などの平山秀幸の脚本・ 監督で映画化した作品。因に、監督は自ら脚本も手掛けるの は初めてだそうだ。死刑判決を受けたものの、刑の執行に失 敗し生きながらえた元死刑囚。幻聴が聴こえて粗暴になり、 妹夫婦から疎まれて強制入院させられた元サラリーマン。父 親からのDVが原因で入院することになった女子高生。そん な3人が暮らす長野県の精神科病院。しかしそこに凶暴な男 が入院してきたことで事件が起きる。出演は笑福亭鶴瓶、綾 野剛、小松菜奈。他に根岸季衣、ベンガル、高橋和也、木野 花、渋川清彦、小林聡美らが脇を固めている。精神科病院の 現状というものが良く判っていないが、こんなユルユルでい いのかなとは考えてしまった。でもまあこの辺は原作の通り なのだろう。こんな場所なら自分も入ってみたいとも思った ものだ。公開は11月1日より、全国ロードショウ。)
『アナベル 死霊博物館』“Annabelle Comes Home” (2019年4月紹介『ラ・ヨローナ』に繋がるThe Conjuring Universeの1篇。ウォーレン夫妻が保管する呪いの品の中で も最凶とされて厳重に封印されている西洋人形。しかし夫妻 が家を空けた日、ベビーシッターにやってきた少女の友達が その封印を解いてしまう。出演は、2017年9月紹介『gifted ギフテッド』などのマッケンナ・グレイスと、2018年『ジュ マンジ』などのマディスン・アイスマン。それにTVドラマ に多く出演のケイティ・サリフとマイクル・チミノ。勿論パ トリック・ウィルスンとベラ・ファーミガも出演している。 2017年10月1日題名紹介『IT イット“それ”が見えたら、 終わり。』の脚本家ゲイリー・ドーベルマンが原案、脚本と 監督デビューも果たした作品。共同原案と製作はジェームズ ・ワン。クレジットによると実在のロレイン・ウォーレンが 今年4月に亡くなられたそうだが、本作はもはやオリジナル の物語だ。公開は9月20日より、全国ロードショウ。)
『108 海馬五郎の復讐と冒険』 (劇団「大人計画」主宰の松尾スズキが、脚本、監督、主演 を務めるR18+指定の作品。脚本家の妻が自らの不倫の様子を SNSに投稿し、その写真に108もの「いいね!」が付く。 それを知った脚本家は直ちに離婚を考えるが、離婚すると財 産の半分を取られると知る。そこで脚本家は全財産を108人 の女に貢ぐことで資産を0にし、財産分与ができないように する復讐を考えるが…。それは思わぬ冒険へと彼を誘うこと になる。共演は中山美穂、大東駿介、土居志央梨、栗原類、 LiLiCo。さらに酒井若菜、坂井真紀、秋山菜津子らが脇を固 めている。まあ何ともいやはやという感じの展開だが、映画 では正に酒池肉林という感じのシーンも登場し、題名は上記 の「いいね!」の数に由来するが、これは煩悩の数だろうと 言いたくなる作品にもなっている。それにしてもこれを本当 にやってしまうとは…。公開は10月25日より、東京はTOHOシ ネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)
『ガリーボーイ』“गली बॉय” (ムンバイの貧しい家庭で生まれ育った青年がフリースタイ ルラップと出会い、人生を一変させて行く様子を描いた実話 に基づくとされる作品。主人公は貧しいながらも両親の助け で医者を目指し、大学に通っている若者。大学には裕福な家 庭の娘の恋人もいたが…。彼は両親の苦労も知らず、悪友と 車上荒らしに手を染めたりもしていた。そんな若者が学内で ラップのパフォーマンスを目撃する。出演は2019年4月14日 題名紹介『パドマーワト 女神の誕生』などのランビール・ シンと、2014年『スチューデント・オブ・ザ・イヤー狙え! No.1!!』などのアーリアー・バット。2009年10月20日「東京 国際映画祭」で紹介『チャンスをつかめ!』などのゾーヤー ・アクタルが製作、脚本と監督を務める。インド特有の身分 の違いによる貧富の様子なども描かれ、現地では僕らが感じ る以上に切実な問題と映るのだろう。公開は10月18日より、 東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)
『トスカーナの幸せレシピ』“Quanto basta” (元三ツ星料理人だが、粗暴な行動で収監された男性が、更 生のための社会奉仕としてアスペルガー症候群の自立支援施 設で若者たちに料理を教えることになる。ところがそこで絶 対味覚を持つ若者と出会い、彼はその若者を料理コンテスト に出場させようとするが…。出演は2019年1月27日題名紹介 『ザ・プレイス 運命の交差点』などのビニーチョ・マルキ オーニと、本作で「国立イタリア映画記者連盟賞」を受賞の ルイジ・フェデーレ。それに2018年2月25日題名紹介『いつ だってやめられる』シリーズなどのバレリア・ソラリーノ。 脚本と監督は、2002年のデビュー作でダヴィッド・ディ・ド ナテッロ賞の候補になったというフランチェスコ・ファラス キ。お話は有り勝ちかなとも思えるが、大自然の中で様々な 食材と共に素敵なイタリアン・コメディが展開される。公開 は10月11日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA他で全国順次 ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
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