| 2019年05月26日(日) |
アラジン、荒野の誓い(ザ・ファブル、耳を腐らせる、カーライル、サマーフィーリング、誰ガ為のアルケミス、メランコリック、ヒョンジェ) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『アラジン』“Aladdin” 1992年製作の同名アニメーション作品(本作のクレジットで は“Disney's Aladdin”と記載されていたようだ)の実写化 リメイク。 アラビアンライトの世界。主人公のアラジンはサルタンが治 める王国で暮らす若者。身寄りのない彼は猿のアブーと共に コソ泥稼業で何とか生活している。そんな彼が町で若い女性 を助ける。その女性は王女の侍女だと名乗るが…。 その王国はサルタンの意向で、周囲の国とも友好的に平和な 日々が続いていた。ところが側近の中には平和を嫌って王座 を狙う輩もいた。そんな悪漢ジャフーの狙いは、魔法の洞窟 に眠るランプを手に入れること。 そのランプを手に入れれば何でも望みが叶う。しかし洞窟に 入れるのは、ダイヤモンドの原石のような清らかな心を持つ 者だけ。その試練に何人もが失敗していた。そんなジャフー の前に、「侍女」のことを一途に思うアラジンが現れる。 そこでジャフーは、言葉巧みにアラジンを魔法の洞窟へと送 り込む。そしてアラジンは洞窟に閉じ込められていた空飛ぶ 絨毯やランプの精ジーニーと巡り合う。 出演は人気TVシリーズ“Jack Ryan”でブレイクし、本作 には世界的なオーディションを勝ち抜いて選ばれたメナ・マ スード、2017年5月紹介『パワーレンジャー』などのナオミ ・スコット、それにウィル・スミス。 他に、2017年7月紹介『ザ・マミー』に出ていたマーワン・ ケンザリ、2015年12月紹介『ゾンビスクール!』などのナシ ム・ペドラド、2018年3月25日紹介『ホース・ソルジャー』 などのナヴィド・ネガーバンらが脇を固めている。 監督は、2015年8月紹介『コードネームU.N.C.L.E.』などの ガイ・リッチー。脚本は、2005年7月紹介『チャーリーとチ ョコレート工場』などのジョン・オーガストと監督の共同と されている。 ディズニーのアニメーション作品の実写化では、先に2017年 3月19日題名紹介『美女と野獣』や、今年公開されたティム ・バートン監督の『ダンボ』もあったが、実は試写状を貰え なかった『ダンボ』は劇場に観に行った。 そちらの感想は、オリジナルは63分しかなかったアニメーシ ョンをバートン監督が実に巧みに家族のドラマに作り替えた ものだったが。オリジナルの素朴なテイストと異なることは 気になったものだ。 それに対して本作のリッチー監督は、実に見事に原作を実写 化している。それは物語をほぼ踏襲した上で巧みに人間ドラ マを膨らましており、さらにアニメでしか表現できないと思 われたシーンも見事に再現して見せている。 これには全く脱帽としか言い表せない作品になっていた。も ちろんここにはブロードウェイでのミュージカル化なども踏 まえられているのだろうが、何しろ人間ドラマの構築が見事 で、大人の目でも観るべき作品と言える。 それにアクションも、狭い街路を使ったパルクールばりの動 きから、魔法の洞窟でのVFXを駆使したものなど。こちら も生身の人間がやっている体を生かして、ハラハラドキドキ に巧みに演出されていた。 ただ観ていて僕が悔しかったのは、本作のジーニー役がロビ ン・ウィリアムスでないことだ。それは代役のウィル・スミ スが悪いのではない。寧ろプロローグの船上のシーンなどは スミスならではのウィリアムスには望めないものだ。 でも本編のジーニーとしての登場シーンには、ウィリアムス が1993年ゴールデン・グローブ特別賞(声の演技に対して) を受けたパフォーマンスを思い出す。スミスもそれを踏まえ てと思われるところがさらに悔しい。 もしウィアムスが生きていたら、当然この実写版も彼自身が 演じたと思われるが、スミスは2014年に他界した偉大な先輩 へのリスペクトを込めてこの演技をしているものとも思え、 その気持ちにも感動してしまう作品だった。 スミスの来日記者会見には呼ばれなかったが、誰かそのこと は訊いてくれたのかな? 公開は6月7日より、東京はTOHOシネマズ日本橋、日比谷、 六本木ヒルズ他で全国ロードショウとなる。
『荒野の誓い』“Hostiles”(情報追加) 本作は今秋に公開予定の作品で邦題も未定だが、内覧試写を 見せて貰ったので、その報告をする。 作品は、2015年『ブラック・スキャンダル』などのスコット ・クーパーが、1982年『ミッシング』でオスカーを受賞し、 1999年に他界したドナルド・E・スチュワートの原作に基づ いて製作、脚本、監督を手掛けた2時間15分の西部劇。 年代は1892年、西部開拓の時代は終焉を迎えていたが、映画 の開幕はコマンチ族に襲われる開拓者の一家を描く。顔を赤 と黒に塗った一団が草原に建つ一軒家を襲い、一家を虐殺、 家に放火して馬を奪って去って行く。 一方、ウンデッド・ニーなどのインディアン討伐で名を挙げ た騎兵隊将校の主人公も退役の時を迎える。そんな主人公の 最後の任務は、捕えられていたシャイアン族の族長と一家を 大統領令により設置された居留地に護送すること。 ところが出発した一行は程なくして襲われた家屋に遭遇。家 族を失って1人生き延びた女性が一行に加わる。さらに主人 公と共にインディアン討伐を行い、そのまま虐殺を続けて犯 罪者となった男も押送することになる。 そしてそこにはコマンチ族の襲撃の恐れもあった。こんな究 極の旅が描かれる。アメリカのレイティングではR指定を受 けた厳しい内容の作品だ。 出演は2019年2月17日題名紹介『バイス』などのクリスチャ ン・ベールと、2014年2月紹介『ワールズ・エンド』などの ロザムンド・パイク。2014年9月紹介『荒野はつらいよ〜ア リゾナより愛をこめて〜』などのウェス・ステューディ。 他に『ブラック・スキャンダル』などのジェシー・プレモン ス、2016年8月14日題名紹介『スーサイド・スクワッド』な どのアダム・ビーチ、2016年10月紹介『インフェルノ』など のベン・フォスター、『ブラック・スキャンダル』などのロ リー・コクレインらが脇を固めている。 台詞のかなりの部分がシャイアン族の言語で、その言語に堪 能という設定の主人公を演じるベールにはそれを喋り続ける シーンも登場する。 R指定に相当する場面もいろいろ登場するが、全体は異民族 間の融和を謳い上げるもので、異民族の排除を目論む現アメ リカ政権やそれに追随する社会の状況に一石を投じる意味も 込められた作品に感じる。 因に英語の題名は「仇敵」という意味だが、その仇敵と融和 して行く様子をテーマに描かれた作品だ。そんな希望が最後 に微笑ましく描かれているのも素敵な作品だった。 公開は9月6日より、東京は新宿バルト9他にて全国ロード ショウが決定した。
この週は他に 『ザ・ファブル』 (2017年度講談社漫画賞受賞、南勝久原作のコミックスを、 2017年7月2日題名紹介『関ケ原』などの岡田准一の主演で 映画化。天才的な殺し屋とされる主人公が、育ての親である ボスから1年間の休業を命じられ、その間に1人でも殺した ら抹殺すると宣告される。しかし身を寄せた暴力団の内部抗 争に巻き込まれ…。共演は、2016年2月紹介『スキャナー』 などの木村文乃。他に山本美月、福士蒼汰、柳楽優弥、向井 理。さらに佐藤二朗、光石研、安田顕、佐藤浩市らが脇を固 めている。脚本は2013年3月紹介『DRAGON BALL Z 神と神』 などの渡辺雄介、監督は2018年11月11日題名紹介『めんたい ぴりり』などの江口カンが担当した。岡田はファイトコレオ グラファーとしてもクレジットされており、かなり熱の入っ たアクションも見せてくれる。コミックス原作だが、ツボは しっかり押さえている感じの作品だ。公開は6月21日より、 全国ロードショウ。)
『耳を腐らせるほどの愛』 (お笑いコンビ「NON STYLE」石田明の脚本で、相方の井上 裕介が映画初主演を務めたコメディ作品。孤島に建つホテル のロビーで男性が死体で発見される。そして外部との通信が 途絶した中で、偶然泊まり合わせていた私立探偵が捜査を開 始。その過程で死体の男性を巡るいろいろな状況が明らかに される。さらにその状況説明を死体である男性が行うという 趣向になっている。共演は森川葵、八嶋智人、黒羽麻璃央。 他に山谷花純、石田明、MEGUMI、小木茂光らが脇を固めてい る。監督は2010年8月紹介『裁判長!ここは懲役4年でどう すか』などの豊島圭介。脚本は基本的にコントの乗りで井上 のキャラクターを活かしたつもりなのだろうが、そのキャラ クターも上滑りで何か全体にぎくしゃくして、映画としては 消化不良な感じかな。特に落ちが最初から見え見えなのは困 ってしまうところだった。公開は6月14日より、東京はシネ ・リーブル池袋他で全国ロードショウ。)
『カーライル ニューヨークが恋したホテル』 “Always at The Carlyle” (ニューヨークに建つ五つ星の老舗ホテルを描いたドキュメ ンタリー。そのホテルは英国王室御用達であり、同時プライ バシーが完璧に守られることから、ハリウッドセレブ達の御 用達にもなっている。そんなホテルの全貌が内部の見事な装 飾やスタッフへのインタヴュー。さらにチャールズ皇太子の 訪問の様子や、ジョージ・クルーニー、ウェス・アンダース ン、ソフィア・コッポラ、トミー・リー・ジョーンズ、ジェ フ・ゴールドブラム、ナオミ・キャンベル、アンジェリカ・ ヒューストン、アラン・カミング、ジャック・ニコルスン、 ウッディ・アレン、ハリスン・フォード、ビル・マーレイら の口によって語られる。それは惚れ惚れするほど素晴らしい ものだ。監督は、2016年9月18日題名紹介『ティファニー』 などのマシュー・ミーレー。最後にはホテルのURLも表示さ れる。そういう感じの作品だ。公開は8月9日より、東京は 渋谷Bunkamura ル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)
『サマーフィーリング』“Ce sentiment de l'été” (2018年11月3日付「第31回東京国際映画祭」で紹介『アマ ンダ』(公開題名『アマンダと僕』にて6月22日公開予定)で グランプリを受賞したミカエル・アース監督が、それ以前の 2015年に発表した作品。ベルリンで暮らしていた若い芸術家 夫婦の妻が突然死し、夫は亡妻の親族と対面するがそこには 妻の面影を持つ妹も同席していた。そんな悲しみを背負った 男女の再生がパリ、ニューヨークを舞台に描かれる。出演は 2017年4月16日題名紹介『パーソナル・ショッパー』などの アンデルシュ・ダニエルセン・リーと、2017年11月19日題名 紹介『女の一生』などのジュディット・シュムラ。本作も最 初に突然の死が登場する展開で、脚本も務める監督には何か 特別な思いがあるのかな。本作を踏まえての受賞作というの も、さらに純粋さを増している感じがした。公開は7月6日 より、東京は渋谷のシアター・イメージフォーラム他で全国 順次ロードショウ。)
『誰ガ為のアルケミスト』 (世界で800万ダウンロードを突破しているというRPGゲーム を、『マクロス』シリーズ河森正治の総監督でアニメーショ ン映画化した作品。引っ込み思案な女子高生が登校中に突然 異世界にに召喚され、そこで出会った仲間たちと共に「闇」 に支配された世界に「光」を取り戻すべく奮闘するが…。現 世では何の能力も持たない少女が、異世界で世界を救う力を 発揮する。まあ巻き込まれ形というか、願望充足というか、 こんな展開が受け入れられるのは、社会の状況が反映されて いるところもあるのかもしれない。因に主人公の少女はゲー ムにはいない映画版のオリジナルだそうで、こういう作りに するのも上手さと言えるのだろう。展開には2019年3月3日 題名紹介『バースデー・ワンダーランド』に似てしまう部分 もあるが、それぞれの監督らしさが出ているのも面白い。声 優は水瀬いのり、逢坂良太、降幡愛。公開は6月14日より、 東京はTOHOシネマズ新宿他で全国ロードショウ。)
『メランコリック』 (2018年の東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門に 出品され、初監督の田中征爾が監督賞を受賞した作品。東大 を出たもののニートの若者が、ふとしたことから銭湯で働き 始めるが、そこで突拍子もない状況に追い込まれる。出演は プロデューサーも務める皆川暢二と、アクションシーンの演 出も担当した磯崎義知。実は田中監督も含めた3人が同い年 で映画製作ユニット「One Goose」を結成、その第1弾作品 とのことだ。共演は2015年の園子温監督『リアル鬼ごっこ』 に出ていたという吉田芽吹。まあ常識では考えられないよう なお話だが、それなりのリアリティを持って描かれており、 その点では少しファンタシーも感じるかな。因に本作では、 2018年4月22日題名紹介『カメラを止めるな』に続きイタリ ア開催のウディネファーイースト映画祭にて新人監督作品賞 も受賞しており、期待が集まりそうだ。公開は8月、東京は 渋谷アップリンク他で全国順次ロードショウ。)
『ヒョンジェ〜釜山港の兄弟〜』“돌아와요 부산항애(愛)” (韓国のテレビで人気を誇るソンフンの映画デビュー作で、 釜山港を抱える街を舞台に、双子でありながら1人は警官、 1人はマフィアの幹部になった兄弟の葛藤を描く。兄弟は幼 くして警官だった両親を亡くし施設で育つ。しかし兄は両親 の遺志を継ごうとするものの、弟は両親を亡くしたことへの 歪んだ気持ちが拭えなかった。そして2人は共に施設長の娘 へのほのかな恋心を抱いていたが…。やがて2人を離別させ る決定的な出来事が起きる。こうしてマフィアになった弟は 資金源のカジノと骨董品の密輸を任されるまでになる。そん な釜山の警察署にソウル警察から兄が派遣されてくる。ソン フンが演じるのは弟の役で、兄役には2005年2月紹介『オオ カミの誘惑』などのチョ・ハンソン。さらに2005年8月紹介 『ARAHAN』などのユン・ソイらが脇を固めている。脚本と監 督はパク・ヒジョン。公開は7月26日より、東京はシネマー ト新宿他で全国順次ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2019年05月19日(日) |
工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男(アートのお値段、柴公園、トム・オブ・フィンランド、CROSSING、さらば愛しきアウトロ-) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』 “공작” 1997年の韓国大統領選挙戦を巡り、その背景に蠢く韓国国家 安全企画部(安企部=旧KCIA)の暗躍を描いた実話に基づく とされる作品。 物語の始まりは1992年。1人の韓国軍将校にある任務が打診 される。それは北朝鮮の核開発を懸念する安企部から、その 実態を探るためのスパイになれというものだった。その命を 受けた主人公は軍籍を離脱し、実業家となって北京に赴き、 そこで北朝鮮との接触を開始する。 そんなある日、北朝鮮製品の貿易に手広く商談を進める彼の 許に、北京駐在・対外経済委員会の所長から面談の申し込み が届く。それは緊急な現金調達の依頼で、その所長こそは金 正日にも単独で会えるという側近中の側近だった。 その依頼に応えた主人公は、それに続く様々な“テスト”も 掻い潜り、平壌でのCM撮影という名目を持って遂に金正日 との面会にまで漕ぎ着けるが…。一方の韓国では選挙戦での 野党候補の躍進による新たな局面が生じていた。 偽ロレックスに模造の考古品など虚々実々のやり取りの中で 北朝鮮の中枢に迫って行く様子や、CM撮影のロケハンと称 して核開発の疑われる地方で関係者との接触を目論むなど、 正にスパイ戦という物語が展開される。 主演は2016年8月21日題名紹介『華麗なるリベンジ』などの ファン・ジョンミン。他に『華麗なる…』でも共演のイ・ソ ンミン。さらに2017年2月5日題名紹介『お嬢さん』などの チョ・ジヌン、2019年4月紹介『神と共に』などのチュ・ジ フンらが脇を固めている。 脚本と監督は2007年1月紹介『許されざるもの』や、2013年 『悪いやつら』、2014年『群盗』などのユン・ジョンビン。 なお脚本は2013年『ハナ奇跡の46日間』などのクォン・ソン フィとの共同になっている。 実は上記の監督作品及び脚本作品はいずれも試写を観ている が、描かれている韓国の国内問題が自分の中で咀嚼し切れず 紹介を割愛していたものだ。特に『ハナ』に関しては当時の 日韓の政治問題も引っ掛かった。 その『ハナ』は1991年の実話に基づくもので、本作とも近い 時代背景だったが、その際に気になった政治問題的な描写が 本作にはなく、その解釈は迷うところ。まあ歴史的には本作 の方が正しいと思うが。 いずれにしても軍の内部事情や内政問題、南北問題などにも 精通した監督、脚本家による作品で、本作が事実に基づくこ とも確かだろう。近い隣国の話ではあるが、軍政国家の恐ろ しさみたいなものも見事に描かれている。 2018年3月11日題名紹介『タクシー運転手』や、2018年7月 紹介『1987、ある闘いの真実』など、近年の政治問題を描く 韓国映画はその舌鋒も鋭いが、本作もそれに続く作品と言え るものだ。 派手なアクションはないが、平壌の様子や金正日の別邸など 本来は写せるはずのない背景のVFXによる再現も巧みで、 純粋なスパイ映画として頗る面白い。エンターテインメント としても上級の作品だ。 ただし1996年4月5日の顛末に関しては事実と異なっている ようで、その点は気になった。もちろん意図的な創作だろう が、実はこの部分の真相だけが物語の中でも曖昧なもので、 そのことを敢えて強調しているようにも感じられた。 これは映画制作者たちの怒りなのかな? 公開は7月19日より、東京はシネマート新宿他にて全国順次 ロードショウとなる。
この週は他に 『アートのお値段』“The Price of Everything” (オークションで高値に取引される現代アートの実態に迫る ドキュメンタリー。それは高値を招来したオークショナーか ら美術評論家、コレクター、そしてアーティスト本人まで、 各階層の人物へのインタビューで構成された作品だ。正直に 言って希少性の高い歴史的な芸術品が高値を呼ぶのは理解す るが、作者も存命中の現代アートが斯くも高値で取引される のは謎だった。その疑問に本作は明確に答えてくれる。その 答えについては本作を見ていただきたいが、それに対する疑 問なども呈されており、極めて判り易い作品だと言える。特 に芸術品がコレクターに私蔵されることへの危惧に対して、 美術館の倉庫に死蔵されるよりはましと言う論点には納得で きるものもあった。そんな中で全編を通して繰り返し登場す る初老のコレクターの行動には共感できるものもあり、それ らが観ていて気持ち良い作品でもあった。公開は8月より、 東京は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『柴公園』 (過去にも2013年12月『猫侍』などを紹介しているローカル TVで放送されているシリーズの劇場版。下町に新築された タワーマンションに引っ越してきたいずれも柴犬を飼ってい る3人の中年男が公園で出会い、世間話を続ける内にいろい ろな事件が起きてくる。出演は渋川清彦、大西信満、ドロン ズ石本と桜井ユキ。他にBOYS AND MENの水野勝、松本若菜、 寺田農、山下真司。さらに2009年5月紹介『幼獣マメシバ』 の佐藤二朗が同じ役で登場する。監督は2018年4月22日題名 紹介『ゼニガタ』などの綾部真弥。脚本も『ゼニガタ』など の永森裕二が担当。他愛ない話ではあるが、後半のシーンに 関しては、実は僕自身が近所の人たちと一緒に工事の始まる 前の更地に潜り込んでドッグラン的に楽しんでいた経験があ り、そんなことを懐かしく思い出したりもした。案外あるあ るの詰まった作品でもあったものだ。公開は6月14日より、 全国のイオンシネマ系列でロードショウ。)
『トム・オブ・フィンランド』“Tom of Finland” (同時期に『指輪物語』の原作者を描く“Tolkien”も公開 されるドメ・カルコスキ監督が、ゲイアートの原点とされる フィンランド人画家の半生を描いたドラマ作品。第2次大戦 中にナチスの支援を受けたフィンランド軍に出征したトウコ ・ラークソネンは、終戦で帰還したものの自室に閉じ籠り、 戦地で出会った逞しい男たちの姿を描き続ける。実は当時の 母国では同性愛が法律で禁じられており、彼の性癖は夜の公 園で取り締まりに怯えながら相手を探すか、自室でファンタ シーを膨らませるしかなかったのだ。ところがそんな兄の様 子を見かねた妹が、彼を広告業界に推薦したことから転機が 訪れる。彼は広告アートで才能を発揮し、同時に流行りのバ イカーファッションなども取り入れて自作を進化させる。そ してアメリカの雑誌に送った絵が表紙に採用され…。文化的 に興味深い作品だ。公開は8月2日より、東京はヒューマン トラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)
『CROSSING Part�機戞搬席仁悄�亂世浮生 The Crossing” 『CROSSING Part�供戞搬席仁悄Ф筑郊�愛 The Crossing 2” (ジョン・ウーが2008年8月紹介『レッドクリフ』の後編作 (09年)以来の単独監督を務め、2014、15年に本国公開された 2部作の歴史ロマン。1949年発生の海難事故をクライマック スとして、1945年の日中戦争末期から国共内紛の中国激動の 時代を背景に、そこに関った3組の男女を描く。1組目は国 民軍将校とその妻。2組目は台湾人だが日本軍に徴用された 医師と日本人の恋人。3組目は国民軍兵士の夫を探す妻と、 彼女と偽装結婚した別の兵士。彼らの人生が中国版タイタニ ックとも呼ばれる太平輪号で絡み合う。出演はホアン・シャ オミンとソン・ヘギョ、金城武と長澤まさみ、そしてチャン ・ツィイーとトン・ダーウェイ。正に人気、実力を兼ね備え た配役が共演している。前編129分、後編126分の大作だが、 前編は戦争映画、後編はパニック映画として緊張感に溢れる 作品だった。公開は前編が6月7日、後編は6月14日より、 東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『さらば愛しきアウトロー』“The Old Man & the Gun” (1936年生まれの俳優ロバート・レッドフォードが引退作と 公言している作品。1980年代初頭のアメリカで、拳銃を見せ ながらも撃つことはせず、微笑みを浮かべて被害者からも紳 士と証言された銀行強盗フォレスト・タッカー。生涯に16回 もの脱獄を成し遂げ、銀行強盗を繰り返したという男の最後 の大仕事が描かれる。共演はケイシー・アフレック、ダニー ・グローバー、チカ・サンプター、トム・ウェイツ、シシー ・スペイセク、キース・キャラダイン。脚本と監督は2018年 9月紹介『A GHOST STORY』などのデヴィッド・ロウリー。 脚本はNEW YORKER誌に掲載された実録記事に基づくというこ とだが、原題からはヘミングウェイの『老人と海』も想起さ れ、そんな男の生き様みたいなものも描かれた作品だ。レッ ドフォードが最後の作品に選んだというのも頷ける。公開は 7月12日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロード ショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2019年05月12日(日) |
ディリリとパリの時間旅行(よこがお、無双の鉄拳、あなたの名前を呼べたなら、存在のない子供たち) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ディリリとパリの時間旅行』“Dilili à Paris” 2006年『アズールとアスマール』などのミッシェル・オスロ 監督による新作で、2018年アヌシー国際アニメーション映画 祭のオープニングを飾り、2019年セザール賞で長編アニメー ション賞を受賞した作品。 19世紀から20世紀への変り目のパリを背景に、フランス領の ニューカレドニアから現地の生活を再現する見世物の展示物 としてやってきた少女が、ベル・エポック華やかなパリの陰 に潜む巨大な陰謀に立ち向かう。 南太平洋に浮かぶフランス海外領土の島で先住民族カナック の娘として生まれたディリリは、実は流刑地だった島に居た 女性活動家ルイーズ・ミシェルの教育を受け、フランス語を 習得していた。 そして海外での生活を夢見た少女は興行師たちの乗った客船 に密航し、偶然乗船していた伯爵夫人の助けも借りてパリに やってくる。そこで昼間は見世物小屋で先住民族の暮し振り を演じていた少女だったが…。 配達人でパリの隅々までを知り尽くした三輪車乗りの若者と 出会った彼女は、折しもパリを騒がす連続少女誘拐事件の謎 に挑むことになる。そこにオペラ座の歌手エマ・カルヴェな ど様々な人物が係る。 その顔触れは、マリ・キュリー、ルイ・パスツール、ギュス ターヴ・エッフェル。パブロ・ピカソ、アンリ・マティス、 アンリ・ルソー、エドガー・ドガ、クロード・モネ、ロート レック、ルノワール、モディリアーニ。 ロダン、カミーユ・クローデル。エドモン・ロスタン、オス カー・ワイルド、アンドレ・ジッド、メーテルリンク、コレ ット。ラヴェル、ドビュッシー、エリック・サティ。サラ・ ベルナール、イサドラ・ダンカン。 さらにジョルジュ・クレマンソー、エドワード7世など…。 この他にも当時のパリにいたとされる100人以上のいろいろ な分野の著名人たちが次々に登場し、陰謀に立ち向かうディ リリらを助けてくれる。 そこには往時のパリの風景などと共に、ベル・エポックの様 子が見事なアニメーションで再現される。それはフランス人 には懐かしさのこみ上げるものだろうが、そうではない僕た ちにも、憧れの極致という感じで描かれている作品だ。 主人公は邦題の「時間旅行」をするものではないが、観客を そういう気分にはさせてくれる。 ディリリの声を担当したのは新人のプリュネル・シャルル= アンブロン。対する若者役を担当したエンゾ・ラツィトは、 オーディション番組を勝ち抜いた歌手でもあるというプロの 声優のようだ。 そしてエマ・カルヴェ役には、フランス出身でウィーン国立 歌劇場にも招請され、さらにロンドン・コヴェントガーデン での演技に対してはローレンス・オリヴィエ賞が与えられた というソプラノ歌手ナタリー・デセイが起用されている。 登場する著名人の中にジュール・ヴェルヌがいないのは少し 残念だったが、舞台が1900年だとすると作家はすでに80歳を 超えており、さらに白内障なども患っていたそうだからこれ は仕方ないかな。 その代わりに「ヴェルヌみたい」という台詞や、ヴェルヌの 著作を髣髴とさせる造形の乗り物などが出てくるのは、脚本 も手掛ける監督のリスペクトなのだろう。この描き方には嬉 しく感じるものがあった。 一方、事件を引き起こす集団に関してはフィクションとして いるが、当時の社会にこのような風潮があったことは事実と のこと。それは今の時代にも通じるかな。子供にも判り易い 冒険ドラマだが奥は深い、そんな趣向の作品だ。 公開は8月下旬より、東京ではヒューマントラストシネマ有 楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他にて、全国順次ロードショウ となる。
この週は他に 『よこがお』 (2018年3月25日題名紹介『海を駆ける』などの深田晃司監 督が、2016年の受賞作『淵に立つ』でもタッグを組んだ筒井 真理子を再び主演に招いた作品。訪問介護士でベテランの女 性が、身内の起こした犯罪で、自分が罪を犯した訳でもない のに窮地に追い込まれて行く。そこには横暴なマスコミの姿 など、誰もが巻き込まれるやも知れぬ現代日本の病巣も描か れる。そして彼女が起こした行動は…。共演は市川実日子、 池松壮亮。他に2019年2月『ndjc』で紹介「最後の審判」の 須藤蓮、同じく「うちうちの面達は。」の小川未祐。さらに 吹越満らが脇を固めている。深田監督の作品は過去にも何本 か観ているが、比較的オーソドックスな作劇をする監督だと 思っていた。それが本作ではかなりトリッキーな展開で、し かもそれが物語に巧みに生きている。映画として素晴らしい 作品だと感じた。公開は7月26日より、東京は角川シネマ有 楽町他で全国ロードショウ。)
『無双の鉄拳』“성난황소” (2019年4月紹介『神と共に』にも出ていたマ・ドンソクの 主演で、愛する妻を奪われた男が本能を剥き出しにして暴れ まくるアクション作品。主人公は水産市場で働く労働者。体 力はありそうだが、人の話に乗せられて損ばかりしているよ うな性格だ。そんな男には天使のような妻がいたが…。ふと したことからその妻が人身売買組織に誘拐され、警察も当て にならないと知った主人公は行動を開始する。脚本と監督は マ・ドンソクも出演の2017年7月紹介『新感染』で武術監督 を務めたキム・ミンホ。脚本はマと5年を掛けて書き上げた ものだそうだ。共演は2012年10月紹介『拝啓、愛してます』 などのソン・ジヒョ。他にキム・ソンオ、キム・ミンジェ、 パク・ジファンらが脇を固めている。映画の前半は人の良い 男が騙され続ける少し苛つく展開だが、拝金主義への風刺も あり、後半は正にエンターテインメントだ。公開は6月28日 より、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『あなたの名前を呼べたなら』“Sir” (ムンバイ出身だがアメリカの大学で学んだという女性監督 ロヘナ・ゲラによる長編デビュー作。主人公は結婚4ヶ月で 夫が病死した未亡人。因習に縛られた田舎では普通の生活も ままならず、ムンバイにメイドとしてやってくる。そこは新 婚夫妻が入居する予定の豪華なマンションだった。ところが 式の直前に新婦の不倫が発覚し、結婚しないまま主人だけが 帰ってくる。そんな事情でもしっかりとご主人様に仕える主 人公だったが…。出演は、2002年6月紹介『モンスーン・ウ ェディング』などのティロタマ・ショーム、2017年4月16日 題名紹介『裁き』などのヴィヴェーク・ゴーンバル。日本の ラヴコメにでもありそうな展開だが、物語は未だにカースト などの身分格差が残るインドの現状を訴えるものだ。工事現 場のシーンでは2019年1月27日題名紹介『セメントの記憶』 も思い出した。公開は8月2日より、東京は渋谷Bunkamura ル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)
『存在のない子供たち』“Capharnaüm/ کفرناحوم” (レバノンの首都ベイルートを舞台に、シリア難民の両親に 生まれた少年やエチオピア難民の女性らを描いたレバノン人 女性監督ナディーン・ラバキーの作品。受賞歴のある監督は 本作でもカンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞を 受賞した。主人公は12歳の少年、傷害事件で収監されていた 彼が両親を訴える。その訴因は彼を生んだこと。その裁判の 証言の中で彼が歩んできた悲惨な生涯が描かれる。女優でも ある監督は自ら少年の弁護人を演じているが、その他の出演 者は正にその境遇にいる難民の人たち。特に主人公を演じた ゼイン・アル=ラフィーアは2004年シリア生まれで、両親と 共に難民となったが、一般教育を受けることもできず、10歳 の時からスーパーマーケットなどで働いていたそうだ。悲惨 な難民の暮らしは他の作品でも観てきたが、丁寧なリサーチ によって正に衝撃の物語が作られた。公開は7月より、東京 はシネスイッチ銀座他で全国順次ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2019年05月06日(月) |
ROMA ローマ、麻雀放浪記2020 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今週は10連休中で試写会が無かったので、公開に際して※ ※のマスコミ試写が行われなかった作品の中から、劇場で※ ※観て気になった2作品について少し書くことにします。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ROMA ローマ』“Roma” アルフォンソ・キュアロン監督が Netflixで制作し、2019年 のアメリカアカデミー賞で外国語映画賞、監督賞、撮影賞を 受賞した作品。 本作は昨年の東京国際映画祭でも上映されたが、その際にも マスコミ向けの試写は行われず、本上映のチケットも一瞬で 売り切れてしまった。さらに2019年3月9日からの劇場公開 に向けた試写も行われなかったものだ。 しかし重要な作品と思われるので劇場で鑑賞した。公開済み なので物語の詳細は割愛するが、語られているのはキュアロ ン監督の思い出に基づくもの。監督は1961年生まれだから、 背景が1971年のこの物語は、彼が10歳ごろのことになる。 当時のメキシコは1968年オリンピックと1970年FIFAワールド カップが開催された後で、壁には貼り残されたポスターなど も見て取れる。しかし映画の中でほとんど言及がないのは、 10歳の少年には関心が湧かなかったのかな? それに対して主人公一家が映画を見に行くエピソードでは、 その作品がジョン・スタージェス監督の1968年アメリカ映画 『宇宙からの脱出』“Marooned”であったことまでしっかり 描かれている。 実はこの作品は、キュアロン監督が1回目のアカデミー監督 賞を受賞した2013年『ゼロ・グラビティ』の元ネタとも言わ れていたもので、本作ではその作品へのリスペクトを表した と言えるのだろう。ファン的には嬉しい話だ。 それと物語の中ではもう1点、映画の後半で一家が訪れる海 も気になった。 キュアロン監督の作品で海というと2002年6月紹介『天国の 口、終りの楽園』も印象に残るが、その作品にも女性の生き 方みたいなものが描かれており、監督にとっての海と女性の 関係がこんなエピソードに基づくのかと思ったものだ。 因に本作に登場する海岸は、Tuxpanというメキシコ湾に臨む 東岸。それに対して『天国の口』で主人公たちが訪れるのは Boca del Cieloという南部の太平洋岸だそうだ。何となく同 じ場所かなとも思ったが、そうではなかった。 あとは技術的な指摘を1点。本作の撮影に用いられたカメラ はディジタルで、ARRI社製のALEXA 65というもの。このカメ ラの解像度は6.5Kで、いわゆるHiVisionの2Kや、最近話題 の4Kを超えるものだそうだ。 ここでディジタルとフィルムの比較を行っておくと、2Kの 画質はフィルムの16�仭蠹�をされており、4Kで35�仭蠹�。 従って70�个硫莠舛鯑世茲Δ箸垢襪硲牽砲�必要ということに なる。 これだけ書くと70mmに劣っているように見えるが、フィルム の感光材の粒子が個別のフィルムごとにランダムであるのに 対して、ディジタルの撮像素子の画素の位置は固定。これが 画面のちらつきに対しては有利に働く可能性がある。 ここで、昨年70mmフィルムでの上映が話題になった『2001年 宇宙の旅』について触れておくと。同作では「宇宙で星は瞬 かない」という原則から70mmで撮影された映像を35�个望討� 付ける際に、粒子のずれによって生じるちらつきを考慮して 小さい星をマスクで消したという話もある。 ところがこれがディジタルの場合には、画素の位置が固定で あるために、粒子のずれによって生じるちらつきの恐れはな い。つまり粒子のサイズの比較だけでない利点が生じる可能 性もあるのだ。 もちろん画素が直線に並んでいることにより、水平に近い線 がスクリーン上でちらつくなどの別の問題はあるが、解像度 の面だけから言えば6.5Kで充分に70mmのフィルムに匹敵する ことは理解できる。 なおALEXA 65という名称に関しては、70mm映画の初期に使用 されて『ベン・ハー』などに採用されたMGMカメラ65など も思い出され、映画ファン的には懐かしさがこみ上げてくる ものだ。 ついでにこのカメラの仕様を記しておくと撮像素子のサイズ は54.12×25.59mmで、これは70mmフィルムの52.5×23.0�个� り大きいものになっている。ただしこの場合の横:縦の比率 は2.11:1で、70mmフィルムの2.20:1より縦に大きい。 そこで上映用の70mmフィルムへのプリントでは上下を切って いるものだが、さらにアメリカのデータベースでは 2.39:1 という記載もあって、これがディジタル上映での比率、且つ 監督が意図した比率になっているようだ。 僕自身は特別な事情がない限り、テレビモニター上で映画を 観る趣味は持たないので、 Netflixで配信された映像がどの ようなものであったかは知らないが、本作は充分に映画館で 見る価値のある作品に思えるものだった。
『麻雀放浪記2020』 1978年度直木賞作家の色川武大が1969年に阿佐田哲也名義で 発表した小説の映画化。同作からは1984年に和田誠監督によ る映画化もあったが、同作の大ファンだという俳優の斎藤工 が熱望してリメイクが実現したとのことだ。 因にこの作品に関しては、通常は試写のスケジュールが記載 される部分が空欄になった「マスコミ試写は行わない」旨の 案内状が届いたものだ。 映画の発端は第2次大戦直後の東京の闇市。そこには1940年 に開催予定だった東京五輪が、戦争のため中止されたという 状況もある。 物語は、そんな時代に玄人雀士だった「坊や哲」が「五筒」 を握りしめたまま、突然2020年にタイムスリップするところ から始まる。そこは開催予定だった東京オリンピックが戦争 のため中止されたという世界でもあった。 そんな世界に突如放り込まれた主人公は、時代錯誤の行動も 行うが、やがてオリンピックの代替で麻雀競技会が行われる ことを知り、それに挑戦することになる。しかしその相手は AI搭載のサイボーグ雀士だった。 一方、主人公がタイムスリップした原因は、「九蓮宝燈」を 上がったことが切っ掛けと考えられ、主人公は過去に戻るた めに再びその役満を上がるべく、決勝戦の勝負に挑むことに なるが…。 出演は、坊や哲役に斎藤工。共演に姉妹音楽ユニット「チャ ラン・ポ・ランタン」のもも。さらにベッキー、的場浩司、 ピエール瀧、伊武雅刀、矢島健一、吉澤健、堀内正美、小松 政夫、竹中直人らが脇を固めている。 脚本と監督は2019年4月21日題名紹介『凪待ち』などの白石 和彌。なお脚本は2017年7月9日題名紹介『蠱毒(こどく)』 などの佐藤佐吉、2017年1月紹介『3月のライオン』などの 渡部亮平との共同になっている。 タイムスリップした主人公が過去から持ってきた「五筒」を オリンピックの「五輪」に引っ掛ける辺りはニヤリとした。 そこにAI搭載のサイボーグとくればSFファンには興味の 惹かれるところだ。 ただ「五筒」と「五輪」の関係にはもう少し何かがあっても 良かったのではないかな。将来的には競技種目の噂もある麻 雀なので、その辺の捻りも欲しかった。まあオリンピックを 前面に出すといろいろ揉めたのかもしれないが。 一方、麻雀ファンにはどうなのかな。いろいろイカサマの手 口を見せる辺りはオリジナルも同じだったと思うが、その仕 込みが、最初は符牒だったのが後半はテレパシーというのは SFファンとしても納得ができない。 ここはもっと心理戦のような、阿吽の呼吸みたいな表現も欲 しかったところだ。麻雀を今時という意見もあるが、2016年 12月18日題名紹介『咲-saki-』では麻雀の描き方もしっかり していたもので、それくらいの作品にはして欲しかった。 いろいろとトラブルの多い作品にはなってしまったが、SF テーマの部分は悪いとは思わなかったので、これからも頑張 って欲しいところだ。
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