井口健二のOn the Production
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2019年03月31日(日) シャザム!(柄本家のゴドー、鷺娘、旅の終わり、小さな恋、兄消え、ばあばは、主戦場、あの日々の話、武蔵、スケート・K、誰もがそれを)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『シャザム!』“Shazam!”
以前の映画情報の記事では2003年1月1日付の第30回から、
2006年4月15日付第109回、2008年12月1日付第172回などで
紹介してきたDCコミックスの映画化が遂に登場した。
オリジナルは、1940年2月、Fawcett Comicsという出版社が
発行していたWhiz Comics第2号に Captain Marvelの名前で
登場したもの。シリーズのコンセプトは「思春期の幻想」と
いうものだったが、盗作問題などもあって1950年代に売り上
げが落ち、廃刊の憂き目にあう。
その版権を1970年代にDC社が獲得するが、この時にはマー
ヴェル社が社名などの商標登録をしていたために改題され、
さらに2011年に始まったリブートではヒーロー名も変更され
たとのことだ。そんな経緯も考慮したのか、今回の映画化で
は最終的に主人公は名告っていなかったようだ。
物語の始まりは20世紀。少年が父親の運転する車の後部座席
で占い玩具を手にしている。そんな少年は父親に疎まれ、父
の隣に座る兄から馬鹿にされていたが、突然父親と兄の姿が
消え、暴走する車は異世界に紛れ込む。
そこには「七つの大罪」を封じているという巨大な石像の置
かれた神殿があり、世界の平和を守ってきたという魔術師の
最後の1人がいた。そして心身共に疲れ切った魔術師は純な
心を持つ後継者を求めていたが…。
時は下って現代のフィラデルフィア。1人の少年がパトカー
を盗んで女性の家を訪れる。しかしその女性は彼の求める人
物ではなく、警察に捕まった少年は身寄りのない子供たちを
保護する夫妻に預けられる。
そこでも生活に馴染めない少年は、あれこれ口煩いヒーロー
おたくの少年と同室にされ、彼と共に通学を始める。ところ
が脚の不自由な彼をからかった年長2人組に抵抗し、逃げる
途中に飛び乗った地下鉄で少年は異世界に紛れ込む。
斯くして少年は、「シャザム!」と叫ぶことでS=ソロモン
の叡智、H=ヘラクラスの剛力、A=アトラスの体力、Z=
ゼウスの全能、A=アキレスの勇気、M=マーキューリーの
神速を併せ持つ中年ヒーローに変身できるようになる。
とは言うものの心は少年のままのヒーローは、勝手気ままに
能力を浪費してしまうのだが。そこに「七つの大罪」の力を
獲得した敵が現れ、シャザムはフィラデルフィアの人々を守
るため立ち上がることになる。

出演は、2019年2月紹介『シー・ラヴズ・ミー』などのザカ
リー・リーヴァイ、2015年8月紹介『キングスマン』などの
マーク・ストロング、2017年5月28日題名紹介『キング・ア
ーサー』などのジャイモン・フンスー。
またテレビシリーズ“Andi Mack”で高い評価を受けている
アッシャー・エンジェル、2017年10月1日題名紹介『IT/イ
ット “それ”が見えたら、終わり。』などのジャック・デ
ィラン・グレイザー。
さらにグレイス・フルトン、フェイス・ハーマン、ジョバン
・アルマンド、クーパー・アンドリュース、マルタ・ミラン
スらの若手が脇を固めている。
原案と脚本は2015年9月紹介『アース・トゥ・エコー』など
のヘンリー・ゲイデン、監督は2016年7月10日題名紹介『ラ
イト/オフ』や2017年8月13日題名紹介『アナベル 死霊人
形の誕生』のデビッド・F・サンドバーグが担当した。
アメリカンコミックスの映画化も、最近では北欧神まで巻き
込むなどやたらと話が大きくなって、あまり観る気も起きな
くなっていたが、本作は舞台もフィラデルフィアが中心で、
原点に戻っている感じかな。
「思春期の幻想」という原作のコンセプトも生かしており、
観ていて気持ちよく楽しめた。また敵が繰り出す怪物の造形
にはハリーハウゼン的な趣もあって、これも好ましく感じら
れたものだ。
DCユニヴァースの一員という立場は採っているようだが、
出来たらこのままの愛らしさで続編も期待したい。

公開は4月19日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『柄本家のゴドー』
(柄本佑、時生の兄弟が、父・柄本明の演出でサミュエル・
ベケットの不条理劇に挑む様子を描いたドキュメンタリー。
兄の佑は13歳の時に父親と石橋蓮司が演じた『ゴドーを待ち
ながら』を観て演劇を志したそうだ。その芝居に2014年から
弟の時生と2人で挑戦。そして2017年の再演の演出に父親を
招く。その稽古場では、初日の立ち稽古から父親の笑い声が
響く。それには怪訝な表情を見せる佑だったが…。3人それ
ぞれの演劇に対する想いが語られる。それは特に劇団・東京
乾電池の代表を務める父親から、この舞台の座長である佑へ
の演技指導に表れるが、そこには禅問答のような特異な雰囲
気も漂う。それが不条理劇という特別な演劇空間も描いてい
るようで興味深かった。さらに父親と石橋による『ゴドー』
の記録映像も挿入され、上映時間は64分だが、いろいろな要
素がぎっしり詰まった作品だ。公開は4月20日より、東京は
渋谷ユーロスペースでロードショウ。)

『シネマ歌舞伎・鷺娘/日高川入相花王』
(2006年、シネマ歌舞伎の第2弾として上映された作品が、
サウンドリマスターにより再公開される。舞踊の2本立ては
前半が『日高川』。『道成寺』でお馴染みの安珍清姫の物語
で、僧侶の後を追い寺に向かう途中の川の渡し場の場面が、
人形振りで舞われる。そして後半は、1984年メトロポリタン
歌劇場100周年記念ガラで世界を魅了した坂東玉三郎の舞。
重い鬘や早変わりのために重ねた衣装の重さで、2009年の公
演を最後に玉三郎自身が体力的に全編を舞うのは無理とする
伝説の舞台が、2005年の歌舞伎座公演から登場する。それに
しても引き抜きで行われる早変わり見事さや玉三郎の舞いも
美しいが、特に後半の深々と降り続く雪の様子はこれはもう
ため息が出るほど素晴らしい。その中で舞う玉三郎に姿には
正に魅了されるという言葉しかなかった。公開は6月20日か
ら7月4日まで、東京は築地東劇他の全国の映画館で2週間
限定ロードショウ。)

『旅の終わり世界のはじまり』
(2017年7月23日題名紹介『散歩する侵略者』などの黒沢清
監督が、文化庁の平成30年度「国際共同製作映画支援事業」
から2605万円の助成を受けウズベキスタン共和国と共同製作
した作品。旅番組の女性レポーターを主人公に異文化の交流
を描く。主演は前田敦子。その脇を染谷将太、加瀬亮、柄本
時生らが固めている。国交樹立25周年と、劇中にも登場する
オペラハウス・ナヴォイ劇場の完成70周年記念映画とされて
いるもので、その劇場の完成には第2次大戦後にソ連に抑留
されていた多くの日本人が動員されたのだそうだ。そんな素
晴らしい劇場も登場する作品だが、残念なことにその情報が
紹介されるのは主人公がそこを訪れるシーンが終った後で、
事前に知っていたらじっくりその映像を楽しみたかった、と
いう気分にはなった。もう一度観ろということなのかもしれ
ないが…。公開は6月14日より、東京はテアトル新宿、渋谷
ユーロスペース他で全国ロードショウ。)

『小さな恋のうた』
(沖縄出身のバンド「MONGOL800」の楽曲を主題に描く青春
ドラマ。物語の中心は沖縄の高校の学内ロックバンド。学園
祭でのライヴが当面の目標だが、ライヴハウスでの練習姿が
ネットに上って注目を集めた矢先、ギター担当で作曲も手掛
けていたメムバーが米兵による轢き逃げで死亡。夢は潰え、
同時に反基地運動の熱も上がる。しかし彼は基地に暮らす少
女とフェンス越しの交流も深めていた。そして彼の妹が兄の
遺した曲を見付けるが…。出演は佐野勇斗、森永悠希、山田
杏奈、眞栄田郷敦。他に中島ひろ子、清水美沙、世良公則ら
が脇を固めている。音楽に励む若者たちは最近多く見る題材
だが、本作は沖縄が舞台ということで微妙な問題にもなる。
しかしその結末は、これが理想と言える風景を描いていた。
脚本は2017年4月2日題名紹介『22年目の告白』などの平田
研也、監督は2018年11月25日題名紹介『雪の華』などの橋本
光二郎。公開は5月24日より、全国ロードショウ。)

『兄消える』
(僕の世代だとヴォードヴィリアン、声優かな。元はジャズ
シンガーの柳澤愼一が、60年ぶりの映画主演を果たしたとい
う作品。高齢の父親が亡くなり、生涯をその世話に捧げてき
た次男の家に、40年前に勘当された長男が女連れで帰ってく
る。しかもその女にはいろいろ曰くがありそうで…。自分の
近親者にも似たような状況があって、それなりに納得しなが
ら見てしまう作品だった。共演は高橋長英、土屋貴子。他に
江守徹、雪村いづみらが脇を固めている。監督は劇団文学座
の西川信廣。多くの舞台を手掛けてきた演出家だが、映画は
デビュー作のようだ。劇中では柳澤が“My Blue Heaven”な
ど様々な名曲を口ずさむシーンがあり、そのセットリストを
知りたかった。ハリウッド映画だと事細かに記載されるが、
日本映画では残念ながらその習慣は無かったようだ。それと
題名は『父帰る』のもじりなのかな。公開は5月25日より、
東京は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『ばあばは、だいじょうぶ』
(2017年『キセキの葉書』などのジャッキー・ウー監督が、
楠章子による2017年「児童ペン賞」童話賞受賞の絵本を映画
化した作品。前作と同様に認知症をテーマとした作品で、本
作では徐々に病状の進行する祖母の様子が幼い孫の目から描
かれる。出演は寺田心(ミラノ国際映画祭主演男優賞)と冨士
眞奈美。他に平泉成、松田陽子、内田裕也、土屋貴子らが脇
を固めている。認知症も近年多い題材だが、患者が女性の場
合は自分の体験に照らしても比較的納得して観ていられる。
ところが男性患者を描いた作品では、そんなに甘くないと思
ってしまうところが多い。これは僕の偏見かもしれないが、
男性患者の例ではきれいごと過ぎて現実的ではない感じがす
る。その点が女性患者の作品ではかなり際どい線まで描かれ
ており、僕にはその方が正しいと思えるものだ。本作もそん
な正しく描かれた作品になっている。公開は5月10日より、
全国のイオンシネマにてロードショウ。)

『主戦場』
“Shusenjo:
  The Main Battleground of the Comfort Women Issue”
(日系アメリカ人でYouTuberのミキ・テザキが、2013年カリ
フォルニア州グレンデール市の慰安婦像設置から、2015年サ
ンフランシスコ市の同像設置までの期間に、日米韓の関係者
に取材したドキュメンタリー。戦時中に起きた慰安婦問題や
南京大虐殺は、日韓、日中で歴史認識の対立する問題だが、
シベリア抑留経験もある僕の父親は生前に、「人数など規模
はどうであれ、あったことは間違いない」と明言していた。
しかし今の日本の文化人と称する連中が、端から無かったこ
とにしているのが解せなかったが、本作を観るとその辺の事
情も含めてかなり広範な知識を得ることのできた。ただ途中
で論理のすり替えが見えてしまうことも事実で、その辺の甘
さというか、見え見えな感じはちょっと疑問に感じた。とは
言え全体的には両者の主張を的確に並列させ判り易く描いた
点には好感した。公開は4月20日より、東京は渋谷イメージ
フォーラムにてロードショウ。)

『あの日々の話』
(平田オリザの「青年団」に所属しながら自らも劇団「玉田
企画」を主宰する玉田真也が2016年に初演し、2018年に再演
された舞台劇を、自らのメガホンで映画化した作品。大学の
サークル活動で代表選出の行われた日。その打ち上げのカラ
オケオールに集まったOB、OGも含む男女の面々が痴話騒
動を巻き起こす。全体的には会話劇という展開の作品だが、
会話自体が普通で、そこに機知に富んだと言えるようなもの
がない。勿論一般の会話ならそれでも良いし、生の舞台なら
それなりの共感みたいなものも生まれるのかもしれないが、
いざ映画となったら何か捻りの効いたというか、観客が引き
込まれるような仕掛けが欲しくなる。撮影用に特殊なセット
を組んだり、装置の仕掛けはあったようだが、それが生きて
いないのが残念かな。舞台のパッケージ化ならそのままを撮
影したものが観てみたい。公開は4月27日より、東京は渋谷
ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『武蔵−むさし−』
(2013年9月紹介『蠢動』の三上康雄監督が、1977年、78年
の2部作で描いた宮本武蔵に再び挑戦した作品。幼い頃から
父親に鍛えられた武蔵は21歳で京に上り、一条寺下がり松で
の吉岡家との死闘に勝利するなど剣豪の名を挙げて行く。し
かし剣は人を殺すだけのものかと自問を繰り返す。その一方
で武蔵の命を狙うものは絶えず、それに勝利し続けるも周囲
の者たちが巻き込まれてしまう。そんな物語が幕藩政治の情
勢など共に描かれ、そして遂に佐々木小次郎との決戦の時が
訪れる。主演は2018年12月紹介『ジャンクション29』などの
細田善彦。その脇を松平健、目黒祐樹、水野真紀、若林豪、
中原丈雄、清水紘治、原田龍二、遠藤久美子、武智健二、半
田健人、木之元亮らが固めている。脚本も手掛けた三上監督
は史実を詳細に調べたというが、その物語は外連もなく寧ろ
明快で、剣豪の生涯が巧みに描かれていた。公開は5月25日
より、東京は有楽町スバル座他で全国ロードショウ。)

『スケート・キッチン』“The Skate Kitchen”
(ニューヨークに実在する女性スケートチームのメムバーが
主演も務める青春映画。主人公は郊外に住むスケボー少女。
しかし滑走中に負った怪我で母親から禁止を言い渡される。
ところがネットでチームの存在を知った彼女は、母親に内緒
で出掛けてしまう。そして彼女の行動が母親に知れてしまう
が…。ドキュメンタリー出身のクリスタル・モーゼル監督が
ファッションブランド「Miu Miu」による映像プロジェクト
の1本として製作した短編作品“That One Day”を長編化し
たもので、スケボーに熱中しながらも恋や友情など現代っ子
の姿が描かれる。因にエピソードの多くは彼女らの実話に基
づくそうだ。出演はチームのメムバーの他に、2013年『アフ
ター・アース』などのジェイデン・スミス、2013年7月紹介
『サイド・エフェクト』などのエリザベス・ロドリゲスらが
脇を固めている。公開は5月10日より、東京は渋谷シネクイ
ント他でロードショウ。)

『誰もがそれを知っている』“Todos lo saben”
(2017年4月30日題名紹介『セールスマン』などのイランの
名匠アスガー・ファルハディ監督が、ペネロペ・クルスとハ
ビエル・バルデムの夫妻を主演に招いて、全編をスペイン語
且つ撮影もスペインで行った作品。アルゼンチンで家族と共
に暮らしていた女性が、妹の結婚式に出席のため2人の子供
を連れて故郷に帰ってくる。そこには幼馴染のワイン農園主
などもいたが…。結婚式の会場から主人公の娘が姿を消し、
状況から誘拐と判断される。しかし警察には通報せず、事件
解決のために各自が奔走する中で、長年隠されていた家族の
秘密が徐々に暴露されて行く。脚本も監督が執筆したもので
ジャンルはミステリーだが、内容は複雑で奥深い物語が展開
される。それにしても犯人の目的がかなり根深くて、うっか
り見逃すと訳が判らなくなりそうだ。公開は6月1日より、
東京はヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シ
ネマ他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2019年03月24日(日) がんと生きる 言葉の処方箋(エリカ38、最果てリストランテ、僕たちのラストS、ギターはもう聞こえない/救いの接吻、スノー・ロワイヤル)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『がんと生きる 言葉の処方箋』
順天堂大学医学部・樋野興夫教授が提唱する「がん哲学外来
(Cancer Philosophy Clinic)」と、それに呼応して全国で開
催されている「メディカル・カフェ(Medical Cafe)」につい
て描いたドキュメンタリー。
人の病気である「がん」と「哲学」がどう繋がるのか、映画
の観始めでは少し戸惑いを感じたが、結局「哲学とは人の生
き方を考える」ものであり、「がんになった自分がどう生き
るか」を考えることだと理解した。
そこで樋野教授の「がん哲学外来」では、「言葉の処方箋」
と称する様々な言葉の中から、患者の悩みに沿うような言葉
を投げかけ、それによって患者自らが生きる道を見出すよう
な導きを行う。
それはある種の宗教のようにも見えるが、そこに神の介在は
なく、全てが人間の行動として成されるものになっている。
つまりこれは科学であり、技術として語ることのできるもの
だ。そんな「がん哲学外来」の実像が描かれる。
そしてそんな「がん哲学外来」によって生きる道を見出した
患者が、今度はその考えを広める「メディカル・カフェ」を
開催する。そこでは患者同士が語り合うことで、それぞれの
患者が生きる道を見出す仕組みが出来上がっている。
実際にこの仕組みによって、余命を告げられた患者がそれ以
上に生き長らえてもいるようだが、そこでは「余命というの
は確率だから、それ以上に生きても不思議はない」ともされ
ているものだ。
すなわち一方では余命通りに死ぬ患者もいるが、その中で生
きる道を見出すことで、患者自らの努力も含めて生き長らえ
る道が開かれる。そんな「がんと共に生きる」道筋の描かれ
た作品になっている。
同種の作品では、先に2018年12月23日題名紹介『がんになる
前に知っておくこと』を掲載しているが、その作品では病気
を商売にしているあざとさのようなものも感じられ、病気に
対する思いが感じられなかった。
それに対して本作では「がん」に対峙する本気が感じられ、
それは登場する「カフェ」を運営する患者の思いとも重なっ
て、すがすがしくも感じられた。それが「がんも病気も単な
る個性である」とする樋野教授の言葉に繋がる。
なお映画の中では、さらに多くの「言葉の処方箋」も紹介さ
れている。それらの中には患者だけでなく、患者の遺族に向
けられた言葉も含まれる。それによって遺族も前向きに生き
て行けるものだ。
ただ僕は映画を観ていて、この理論が「がん」だけでなく、
他の難病にも通じるのではないかとも考えた。「がん」以外
にも様々な症状に苦しむ難病患者は存在しており、そんな患
者にもこの理論を広めて欲しいとも思ったものだ。

監督は2008年『マリアのへそ』などの野澤和之。自ら大腸が
んを克服しての渾身の作品だそうだ。
公開は5月3日より、東京では新宿武蔵野館にてモーニング
ショウ。上映期間中は樋野教授や監督、出演者によるトーク
ショウなどいろいろなイヴェントも予定されている。
より多くの人に観て貰いたい作品だ。

この週は他に
『エリカ38』
(2018年9月に他界した樹木希林が生前、自身初となる企画
を手掛けた作品。共に芸能界を歩んできた浅田美代子を主演
に迎え、60歳を過ぎても38歳と見紛う色香で男を騙し、最後
は異国の地で逮捕された女詐欺師の姿を、実話を基に描く。
エリカと名告るその女は、自称外交官という男の指示の許、
支援事業説明会と称して人を募り、架空の投資話で大金を集
めていた。ところが男に別の女が発覚、男と別れた彼女は自
ら詐欺を画策するが…。共演は平岳大、窪塚俊介。他に山崎
静代、小籔千豊、菜葉菜。さらに小松政夫、古谷一行、木内
みどり。そして樹木希林らが脇を固めている。脚本と監督は
2016年7月10日題名紹介『健さん』などの日比遊一が担当し
た。樹木は以前から女詐欺師的な事件がある度に、浅田には
このような役をやればいいと話していたそうだ。そんな樹木
からの最後の贈り物と言える作品だ。公開は6月7日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『最果てリストランテ』
(2018年4月に初演されたフォトシネマ朗読劇と称される舞
台劇を映画化した作品。そこはこの世からあの世に向かう死
者が立ち寄るレストラン。そこでは食事のメニューは選べな
いが、食事の相手として先に死んだ人を1人だけ呼ぶことが
できる。そして思い出話に花を咲かせ、満足した気持ちであ
の世に旅立つのだが…。その店を仕切るギャルソンとシェフ
の2人には現世の記憶がなく、2人は永久にそこを離れられ
ないのかもしれなかった。そんな2人と客たちとの交流が描
かれる。出演は2010年8月紹介『アブラクサスの祭』などの
村井良太と、K-POPグループ MYNAMEのジュンQ。さらに客役
で真宮葉月、鈴木貴之、今野杏南、芳本美代子、堀田眞三、
山口いづみらが登場する。脚本と監督は、舞台版も手掛ける
2012年9月紹介『パーティは♨銭湯からはじまる』などの松
田圭太。心温まる物語が展開される。公開は5月18日より、
東京は池袋シネマ・ロサ他で全国順次ロードショウ。)

『僕たちのラストステージ』“Stan & Ollie”
(日本では「極楽コンビ」の名称で親しまれたお笑いコンビ
の晩年を綴ったドラマ作品。チャップリンやキートンが独立
して成功を収める一方でローレルとハーディのコンビは契約
に縛られ、気に入らない作品も薄給で作り続けていた。しか
し遂に契約を解消したローレルはイギリスの映画会社で長編
を企画。その準備にコンビでイギリス巡業をスタートさせる
が…。苦難と諍いもあるが充実した最後の日々が描かれる。
出演は2018年12月2日題名紹介『ノーザン・ソウル』などの
スティーヴ・クーガンと、2017年2月紹介『キングコング』
などのジョン・C・ライリー。監督は2013年9月紹介『フィ
ルス』などのジョン・S・ベアードが担当した。コンビの映
画は僕が子供の頃にはよくテレビで放送されていた。その記
憶からも本作では主演の2人が驚くほど似せている。そこに
ステージの再現は最高のものだった。公開は4月19日より、
東京は新宿ピカデリー他で全国順次ロードショウ。)

『救いの接吻』“Les baisers de secours”
『ギターはもう聞こえない』
             “J'entends plus la guitare”
(2016年11月13日題名紹介『パリ、恋人たちの影』など、今
も精力的に作品を発表しているフィリップ・ガレル監督によ
る1989年と1991年の作品。前者は当時の妻だったブリジット
・シィを主演に父親のモーリス・ガレル、息子のルイ・ガレ
ル、それに監督自身も登場する極めて私的な作品。監督が妻
を題材とする映画に別の女優の起用を決めたことから、2人
に諍いが生じる。対する後者は元妻ニコの突然の死を知った
監督が、愛おしくも残酷な2人の日々を綴る作品。ドラッグ
に溺れるカップルの暮らしと別れ、そして残酷な結末。主人
公の監督役を1993年『トリコロール/青の愛』などを遺し、
1994年に急逝したブノア・レジャンが演じる。2016年の作品
も含めていずれも自身を曝け出すような内容だが、特に後者
はその真骨頂とされる作品のようだ。公開は4月27日より、
東京は恵比寿の東京都写真美術館ホール他で全国順次ロード
ショウ。)

『スノー・ロワイヤル』“Cold Pursuit”
(ノルウェーの鬼才と呼ばれるハンス・ペテル・モランド監
督が2014年にステラン・スカルスガルド主演で発表した自作
を、リーアム・ニースンを主演に迎えてセルフリメイクした
アクション映画。主人公は豪雪に閉ざされる辺境の町で都会
との動脈となる道路の除雪を続け模範市民に選ばれた男性。
ところが息子が薬物の過剰摂取による遺体で発見され、その
死に疑問を持った男は町に蔓延る麻薬組織の1人1人を抹殺
して行く。そこに組織の大ボスや居留地に暮らす先住民、今
まで出番のなかった町の警察も加わり、てんやわんやの事件
が展開する。共演は2013年12月紹介『ダ・ヴィンチ・デーモ
ン』でメディチ家当主を演じていたトム・ベイトマン。他に
カナダの居留地生まれのトム・ジャクスン。さらにエミー・
ロッサム、ジュリア・ジョーンズ、ローラ・ダーンらが脇を
固めている。描かれる事件は陰惨だが、結構笑える映画にも
なっている。公開は6月7日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2019年03月17日(日) パラレルワールド・LS(ニューヨーク公共図書館、魂のゆくえ、うちの執事が言うことには、としまえん、氷上の王、パージEX、ハロウィン)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『パラレルワールド・ラブストーリー』
2017年7月紹介『ナミヤ雑貨店の奇跡』や、2018年9月2日
題名紹介『人魚の眠る家』など多数の映画化もあるベストセ
ラー作家東野圭吾が1995年に発表した、1996年「このミステ
リーがすごい!」で第24位の作品の映画化。
主人公は山手線で通っていた学生時代、並行して走る京浜東
北線の車中に立つ女性を目に留める。その後は同じ時間、同
じ車両の同じ位置に乗ることを続け、何度か視線が交差する
ときもあったが…。
卒業式の日、思い切って京浜東北線に乗り換えた車両に彼女
の姿はなかった。そして並行して走る山手線の車中に彼女を
見付けた主人公は次の駅で乗り換えるが、彼女に会うことは
叶わなかった。
そして数年が経った時、主人公は幼い頃からの親友で今も同
じ職場で働く男性から恋人ができたと報告される。その親友
には身体障害があり、そんな親友の報告に喜ぶ主人公だった
が、彼が連れてきたのは車中の彼女だった。
ところがその親友の研究テーマを知った日、主人公は彼女と
同棲している世界に紛れ込む。その世界で親友はアメリカの
研究所に招かれ、研究を続けているはずだった。しかし音信
が途絶え、主人公の周囲で謎めいた事象が起き始める。

出演は、ジャニーズ「Kis-My-Ft2」の玉森裕太、2018年6月
紹介『パンク侍』などの染谷将太、2018年8月26日題名紹介
『音量を上げろタコ!』などの吉岡里帆。他に筒井道隆、石
田ニコル、田口トモロヲらが脇を固めている。
監督は2012年『宇宙兄弟』などの森義隆。脚本は2017年4月
23日題名紹介『イイネ!イイネ!イイネ!』などの一雫ライ
オンが担当した。
実は、試写を観終った直後は物語の展開があり得ないのでは
ないかと考えていた。それは親友の行為があまりに無責任と
感じたからだ。しかしじっくりと考えた末に、事件の首謀者
が別にいること気付いた。
そのヒントや伏線がどれほど仕込まれていたかは、1回観た
だけでは不明だが、その展開なら辻褄が合う。とは言うもの
の、映画の中ではもう少し説明があっても良いのではないか
な? そんな風には考えてしまった。
それと事件の首謀者が主人公の2人以外にいるというのは、
少しルール違反のようにも感じる。勿論そこに伏線があった
のであればこれもOKだが。そして主人公を守るという意味
ではよくできた物語だ。
東野の原作では前に観た『人魚の眠る家』もそうだったが、
最先端技術の危険性を問うという意味では面白い作品だ。し
かもその技術を行う者の立場を守る点は理解ができた。これ
には東野自身が技術者出身という経歴もあるのだろう。
僕自身も技術系の出身者として納得のできる作品だった。

公開は5月31日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード
ショウとなる。

この週は他に
『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
        “Ex Libris: New York Public Library”
(吉田秋生原作アニメの舞台になって新たなアニメの聖地と
もされる文化施設を、2018年8月19日題名紹介『ジャクソン
ハイツヘようこそ』などのフレデリック・ワイズマン監督が
描いたドキュメンタリー。前作と同様のナレーションを排し
た映像と現場音だけで構成される作品だが、その内容には圧
倒される。1911年に設立され、市当局とカーネギー財団など
の支援により市内全域に92の施設を擁するその規模は、正に
世界の図書館の鑑と言えるもの。そしてその中では単に書籍
の収集や保存、閲覧だけでなく、文化人を招いた様々な催し
から幼児向けの算数教室まで、実に多彩なイヴェントが実施
されている。さらにバックヤードでは電子書籍に対する取り
組みからホームレス対策まで、こちらも多岐に亙る問題が登
場する。それらが巧みな編集で提示され、観客としてはその
全てに刮目し、共感する作品だ。公開は5月18日より、東京
は神田の岩波ホール他で全国順次ロードショウ。)

『魂のゆくえ』“First Reformed”
(2003年10月紹介『ボブ・クレイン』などのポール・シュレ
イダー監督が50年間温め続け、自身初のオスカー脚本賞候補
になった作品。物語の背景はアメリカで250年の歴史を持つ
キリスト教改革派の教会。そこで牧師を務める主人公は、以
前は従軍牧師で、息子を戦場で亡くす心の傷も負っていた。
そんな牧師が信者の女性に助けを求められる。それは過激な
自然保護思想を持つ夫が地球の未来に悲観して身籠った彼女
に堕胎を迫っているというのだ。そこで彼は夫と面会し話を
聞くことにするが…。教会の記念行事のスポンサーが公害企
業であるなど、彼自身にも向けられる矛先が彼の心に重く圧
し掛かってくる。出演はイーサン・ホーク、アマンダ・セイ
フライド。他に2009年6月紹介『キャデラック・レコード』
などのセドリック・ジ・エンターテイナーことセドリック・
カイルズらが脇を固めている。公開は4月12日より、東京は
シネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『うちの執事が言うことには』
(1999年メフィスト賞受賞で作家デビューした高里椎奈が、
2014年から発表している小説シリーズ第1巻の映画化。財閥
の御曹司が集う日本の社交界を背景に、英国帰りでいきなり
当主とされた主人公と朴訥な新米執事との互いに信頼を築く
までの成長が、家名を汚す事件の顛末と共に描かれる。出演
はジャニーズ「King & Prince」の永瀬廉と2017年8月20日
題名紹介『HiGH&LOW THE MOVIE』などの清原翔。他にキン・
プリの神宮寺勇太、2018年4月1日題名紹介『ママレード・
ボーイ』などの優希美青。さらに村上淳、原日出子、嶋田久
作、吹越満、奥田瑛二らが脇を固めている。脚本は、2011年
5月紹介『日輪の遺産』などの青島武。監督は2016年『白鳥
麗子でございます THE MOVIE』などの久万真路。まあアイド
ル主演ということでは、それなりに楽しめる作品にはなって
いたかな。公開は5月17日より、東京は丸の内TOEI、新宿バ
ルト9他で全国ロードショウ。)

『映画 としまえん』
(東京都練馬区の老舗遊園地・豊島園の全面協力で撮影され
た都市伝説に基づくホラー作品。洋館の扉を叩いてはいけな
いとか、お化け屋敷で返事をしてはいけないとか、ミラーハ
ウスの鏡を覗き込んではいけないとか。これで異世界に連れ
て行かれるなら、すでに何千人も行方不明になっていそうな
設定。でもそれが都市伝説というもの。そこそこの怖がらせ
はあるが、アイドル主演の狙いがG指定では大人の鑑賞には
限界はある。出演は2017年12月10日題名紹介『サニー/32』
の北原里英、2017年8月27日題名紹介『氷菓』の小島藤子、
2018年4月15日題名紹介『TOKYO LIVING DEAD ID♡L』の浅川
梨奈、2019年2月24日題名紹介『賭ケグルイ』の松田るか。
他に中島ひろ子、竹中直人らが脇を固めている。地元住民だ
とロケーションも判って楽しめるかな? 最後がこの乗り物
なのにはニヤリとした。公開は5月10日より、東京はユナイ
テッド・シネマとしまえん他で全国ロードショウ。)

『氷上の王、ジョン・カリー』“The Ice King”
(イギリス出身で1976年インスブルック冬季五輪フィギュア
男子シングルスの金メダルに輝いたジョン・カリーを追った
ドキュメンタリー。幼い頃に舞踊に興味を持ったカリーは、
厳格な父親から「バレエは男らしくない」と禁じられたもの
の、スポーツと認められたアイススケートに活路を見出す。
そして父親の死後はフィギュアスケートにバレエの要素を取
り入れた新たな展開に挑み、当時はコンパルソリーなど技術
重視だったフィギュアに風穴を開ける。さらに金メダル受賞
後はプロに転向し、正に芸術性満開のアイスショウを繰り広
げる。ところがメダルの受賞直後にゲイであることが暴露さ
れ、様々なカルチャーの注目を浴びてしまう。そんなカリー
の生涯が、友人に宛てた手紙と共に綴られ、そこに華麗なス
ケーティングの模様も挿入される。その中には日本での公演
の様子(笑)も含まれていた。公開は初夏に、東京は新宿ピカ
デリー、UPLINK吉祥寺他で全国ロードショウ。)

『パージ:エクスペリメント』“The First Purge”
(2015年6月と2017年4月に紹介した近未来サスペンスシリ
ーズの第4弾。ただし本作は続きではなく、パージ法を施行
する前にニューヨーク市のスタテン島で行われたとされる実
証実験の様子が描かれる。それは1人の女性学者のアイデア
から始まるが…。出演はイラン・ノエル、レックス・スコッ
ト・デイビス、ジョイバン・ウェイドらいずれも新人で前作
からの引継ぎもないようだ。そこにマリサ・トメイ、2002年
『マイノリティ・リポート』に出ていたスティーヴ・ハリス
らが脇を固めている。脚本は前作までの脚本・監督を務めた
ジェームズ・デモナコ。監督は長編2作目のジェラード・マ
クマリーが担当した。元々無理のある設定だが、その最初と
いうことでさらに混乱しているのも面白い。それを強行して
行く政治家のやり口が風刺にもなっているかな。日本も他山
の石ではない。公開は6月、東京はTOHOシネマズ日比谷他で
全国ロードショウ。)

『ハロウィン』“Halloween”
(1978年公開のオリジナルで鮮烈な映画デビューを飾った当
時20歳のジェイミー・リー・カーティスが、40年後の同じ役
に挑む最新作。因に女優は1998年の20周年作にも主演してお
り、シリーズ全作に何らかの形で関っている。そして本作の
背景は事件から40年後のハロウィン前日。過去の事件を検証
していたジャーナリストが唯一の生き残りの女性に取材を試
みる。しかし彼女には何処か秘めたものがあるようだ。そこ
に医療刑務所に収監されていた犯人の脱走が報じられ、俄か
に事態が動き始める。それは40年間待ち続けた復讐の開幕だ
った。共演は2019年2月17日題名紹介『リアム16歳』などの
ジュディ・グリア、新進のアンディ・マティチャック。脚本
と監督は2018年3月4日題名紹介『ボストン ストロング』
などのデヴィッド・ゴードン・グリーン。監督としてはジャ
ンルに初挑戦のようだ。公開は4月12日より、東京はTOHOシ
ネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
また今週も他に1本、本国公開前の作品があり、その掲載は
後日とします。



2019年03月10日(日) セブンガールズ(ある闘いの記述、ずぶぬれて犬ころ、コレット、神と共に 第一章:罪と罰、殺人鬼を飼う女、轢き逃げ、グリーンB記者会見)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『セブンガールズ』
元ジャニーズ事務所に所属のダンサーだったというデビッド
宮原が1998年に旗揚げした劇団前方公演墳で、2004年の初演
後、4度の再演も行っているという人気演劇を、宮原自身の
脚本・監督により映像化した作品。
物語の舞台は戦後間もない東京の赤線地帯。焼け跡に建つ、
嵐が来れば飛んでしまいそうなバラック小屋では、娼婦たち
が貧しいながらも心の通った共同生活を送っていた。当時も
彼女たちの仕事は周囲から蔑まれるものだったが、彼女たち
はそんな逆境の中も力強く生きていたのだ。
そんな彼女たちは客から受け取った金の一部をリーダー格の
娼婦に渡し、その金で共同生活の食料なども求めていたが、
その中から地元の暴力団へのみかじめ料なども払っていた。
ところが彼女たちの小屋に、関西系の別の暴力団の構成員が
近づいてくる。
一方、その他の常連客の中には、学生や元軍隊の上等兵や、
さらに娼婦に会いに来ても身体に触れようともせず、金だけ
を置いて帰る役人などもいたが…。彼女たちの健康を気遣う
町医者や女性運動家なども絡む中、暴力団の抗争が激しくな
り、彼女たちの生活が翻弄されて行く。

出演は舞台にもキャスティングされた、坂崎愛、堀川果奈、
安達花穂、河原幸子、藤井直子、斉藤和希、樋口真衣、広田
あきほ、斉藤みかん、上田奈々。他に小野寺隆一、中野圭、
安藤聖、織田稚成、津田恭佑、西本涼太郎、新地秀毅、仲田
敬治、勝俣美秋らが脇を固めている。
このキャスティングはほぼ演劇人で占められており、つまり
この作品は、舞台の配役もそのままに映像化されたもののよ
うだ。
映画は、その開幕から見るからに舞台演劇という感じの台詞
回しや演技が登場し、それには違和感になる部分もある。し
かしそれが、逆に本作が舞台そのままの映像化という感覚も
もたらしてくれる。ここは観る側の嗜好にもよるが、僕には
好ましく感じられた。
そして描かれる内容は、とにかく優しさに溢れたもので、涙
あり笑いありの物語が、宮原作詞、吉田トオル作曲の主題歌
「星がいっぱいでも」と共に心地よく展開されて行く。それ
は厳しい状況の中で逞しく生きて行く女性たちの姿であり、
現代の女性にも共感されるであろうものだ。
その場所はユートピアであり、ファンタシーに近い感覚もあ
るが、全体的にはリアルに彼女たちの姿が描かれている。苦
しい生活の中でも夢を失わない女性たちの力強い物語だ。

公開は、東京では新宿K's cinemaなどの他、名古屋、大阪で
もすでに行われたものだが、今回はさらに5月18日より横浜
ジャックアンドベティでの1週間限定のロードショウが予定
されている。素敵な作品なので、この他の地方でも観る機会
を作って欲しいものだ。

この週は他に
『ある闘いの記述』“Description d'un combat”
(2019年2月17日題名紹介『シベリアからの手紙』などと共
に、4月6日〜19日に東京は渋谷ユーロスペースにて開催の
「クリス・マルケル特集2019<永遠の記憶>」で上映される
1960年発表のドキュメンタリー。当時は建国12周年を迎えて
いたイスラエルを題材に、これもまた映像詩のような趣もあ
る作品になっている。ただし建国の経緯などに対してはいろ
いろ語りも入るが、パレスチナの問題に関してはまだ認識が
不足かな。その一方でキブツに関してはある種の思い入れも
感じられる。その辺の錯綜した思いが、後年監督自身が一時
期本作を上映禁止にする事態にもなったようだ。その複雑さ
を現代に再検証する材料としても好適な作品かもしれない。
なお特集では『北京の日曜日』、本作及び『シベリアからの
手紙』『不思議なクミコ』『イヴ・モンタン〜ある長距離歌
手の孤独』『サン・ソレイユ』『A.K.ドキュメント黒澤明』
『レベル5』の全8作品が上映される。)

『ずぶぬれて犬ころ』
(1987年に25歳で没した自由律俳句の俳人住宅顕信の姿を、
2012年4月紹介『モバイルハウスのつくりかた』などの本田
孝義監督が初のドラマで描いた作品。ドキュメンタリーで実
績のある本田監督は俳人の生き様に興味を持ち、当初は自分
の手法で映画化を考えたそうだ。ところが実写の映像がほと
んど残っておらず、インタヴュー映像ばかりは難しい。それ
でも彼の作品に共感する監督は初の劇映画に挑戦することに
なる。それは律義に俳人の姿を追ったものであり、多少の外
連はあるが、それが彼の俳句を浮き彫りにする巧みな作品に
なっている。脚本は2012年のオムニバス『らもトリップ』内
『仔羊ドリー』などの山口文子。出演は2018年11月18日題名
紹介『赤い雪』などの木口健太、地元岡山出身の森安奏太。
他に仁科貴、2018年9月紹介『BD−明智探偵事務所−』な
どの八木景子、さらに田中美里。公開は5月下旬より、東京
は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『コレット』“Colette”
(20世紀初頭のフランスで活躍した女流作家の姿を、キーラ
・ナイトレイの主演で映画化した作品。シドニー=ガブリエ
ル・コレットはフランスの田舎町で生まれ育ったが、14歳年
上の作家と出会ったことから人生が変わり始める。やがて彼
と結婚してパリに暮らすようになったコレットは社交界にデ
ビューする一方で、夫のゴーストライターにもなる。そして
彼女の書いた半自伝の小説は夫の名義で出版され、ベストセ
ラーになるが…。その頃、パーティで男装の貴族と出会った
彼女は自己に目覚めて行く。共演はドミニク・ウェスト、デ
ニース・ゴフ。脚本と監督は2014年『アリスのままで』など
のウォッシュ・ウェストモアランド。共同脚本は彼のパート
ナーだったリチャード・グラッツァーと、2013年『イーダ』
などのレベッカ・レンキェヴィッチ。映画化までのmakingに
もドラマがある。公開は5月17日より、東京はTOHOシネマズ
シャンテ他で全国ロードショウ。)

『神と共に 第一章:罪と罰』“신과함께-죄와 벌”
(人の死後はどうなるか? その世界を描いた韓国映画。設
定によると人は死後の49日の間、冥界を彷徨いながら殺人や
怠惰、嘘など9つの罪がそれぞれの地獄で裁かれる。そして
主人公は火災現場で殉職した消防士。生前の行いから稀にみ
る「貴人」として地獄にやってきたが…。3人の弁護人と共
に、彼の生前の行いが検証されて行く。出演は、2012年3月
紹介『ハロー!?ゴースト』などのチャ・テヒョンと、2018年
7月『1987』などのハ・ジョンウ、2009年1月紹介『アンテ
ィーク』などのチュ・ジフン、2013年4月紹介『私のオオカ
ミ少年』などのキム・ヒャンギ。地獄巡りは日本の映画でも
あるが、血の池や針の山などとは様変わりのもの。でも閻魔
大王はいてかなり複雑な物語が展開される。実は本作は2部
作の第1部で、話には釈然としない部分も残る。第2部を観
てから改めて紹介することにしたい。本作の公開は5月24日
より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)

『殺人鬼を飼う女』
(2005年1月紹介『最後の晩餐』などの大石圭の原作を、J
ホラーの旗手とも呼べる中田秀夫監督で映画化した作品。主
人公は幼児期に義父から受けた性的虐待により複数の人格を
持つようになった女性。普段はビストロで働く美しいギャル
ソンだが…。そんな彼女がアパートの隣室の住人が憧れの人
気作家だと知り、彼に恋心を抱いたことから他の人格が蠢き
だす。出演は飛鳥凛、大島正華、松山愛里、中谷仁美。他に
水橋研二、根岸季衣らが脇を固めている。映画は1人の主人
公を4人の女優で演じることが味噌のようで、それはそれな
りに効果のある演出になっていた。ただし映画は映倫区分が
R18+指定となるもので、かなり濃厚な性愛シーンが演じられ
る。それは監督自身が追及したいとしているポイントでもあ
るようだが、さすがにここまで濃厚だとこれでいいのかとも
思ってしまった。公開は4月12日より、東京はテアトル新宿
他で全国順次ロードショウ。)

『轢き逃げ−最高の最悪な日−』
(2017年2月19日題名紹介『TAP THE LAST SHOW』の水谷豊
が自らの脚本を映画化した監督第2作。物語は結婚式の打ち
合わせに遅刻しそうな主人公が、選んだ抜け道で人身事故を
起こすことから始まる。しかし人気のない裏道では目撃者は
なく、思わずそこから走り去ってしまうが…。悪質な轢き逃
げ事件と報道される中でも目撃者の情報はなく、結婚式の準
備を進めていた主人公に謎の脅迫状が届く。出演はオーディ
ションで選ばれた2008年10月紹介『天使のいた屋上』などの
中山麻聖と2004年12月紹介『カナリア』などの石田法嗣。他
に小林涼子、毎熊克哉。さらに檀ふみ、岸部一徳、水谷豊。
物語はオリジナルのようだが実に巧みに創作されたもので、
少し饒舌ではあるが新鮮さは保たれていた。後半の展開は予
測はできたが、力強い演出がそれを支えている感じだ。水谷
監督が次は何を見せてくれるかも楽しみだ。公開は5月10日
より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。

それともう1件。
この週には2018年12月紹介『グリーンブック』のピーター・
ファレリー監督来日記者会見も行われた。この作品で製作も
務めたファレリーは、米アカデミー賞の作品賞と脚本賞も受
賞したものだが、会見での発言によるとコメディ志向は消え
ていないとのこと。今後も奇抜なコメディは観られそうだ。
僕はファレリー兄弟の作品では、2004年11月紹介『ふたりに
クギづけ』が一番好きだが、次にはこのような奇想天外なコ
メディも期待したい。
因にこの記者会見では、監督に向かって発してはいけないい
くつかのNGワードも事前に注意されたが、人種差別を描く
ことの難しさを改めて認識させられた。その中には意外な用
語もあって、帰宅してネットで調べて納得するなど勉強にも
なったものだ。日本映画でも最近禁止用語が指摘されて宣伝
が難しくなった作品があるようだが、言葉を発することを生
業としている者としてはいろいろと考えてしまうところでも
あった。



2019年03月03日(日) センターライン、レプリカズ、ホモソーシャルD(マルリナ、バースデー・W、レゴムービー2、山懐に抱かれて、WE ARE LITTLE Z、リトル・F)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『センターライン』
愛知県出身、1987年生まれ。大学在学中に学内での映画制作
に参加。情報系の修士課程を修了後はソフトウェア技術者と
して企業で製品開発をしながら脚本を勉強。現在は仕事の傍
らインディペンデントの映画制作をしているという下向拓生
監督が、自らの脚本を映画化したSF色の濃い作品。
主人公は新任の検察官。本当は刑事部が希望だったが、配属
されたのは窓際の交通部。実は物語の時代背景は平成39年、
AIによる自動運転が一般の交通事情では、事故などの交通
系の事件はほぼ皆無だったのだ。
一方、AIに一定の人格を認める法律が制定され、AIを法
律で裁くことも可能になっている。しかしAIに罰を与える
ことは困難であり、幾つか発生した事案でも起訴猶予として
裁判には至っていなかった。
そこで主人公は、AI関連の事案で事件性を立証できれば、
それを実績として刑事部への転属が可能になると考える。そ
して一つの交通事故を取り上げ、ナヴィゲーションのAIを
相手に尋問を開始するが…。
AIの意識を人間の裁判で裁く。近い将来に日本も直面する
かもしれない、近未来の現実(?)が描かれる。

出演は主に舞台で活動している吉見茉莉奈。2018年10月紹介
『かぞくわり』などの星能豊。その他に舞台俳優の倉橋健。
2018年6月24日題名紹介『寝ても覚めても』などの望月めい
り。下向監督の前作にも関った上山輝らが脇を固めている。
下向監督は前作『N.O.A.』もスマホの秘書機能アプリが
暴走するというSF的な話だったようで、その作品
で「福岡
インディペンデント映画祭2016」優秀作品賞など内外の映画
祭の受賞を果たしている。
そして本作では「福岡インディペンデント映画祭2018」グラ
ンプリに輝いたものだ。
自動車の自動運転システムが係るSFでは、アイザック・ア
シモフの『サリーはわが恋人』なども思い浮かぶものだが、
本作ではそこに至る謎解きなどにも巧みな展開があり、SF
と推理の両面が楽しめる作品になっている。
しかもその結末にSFならではの哀感を漂わせたのは、SF
ファンとして賞賛を贈りたいところだ。このシーンを観たこ
とで、監督はSFをちゃんと理解しているなと納得すること
もできた。
またAIの動作などには、ユーモアと過去のSF作品へのオ
マージュのようなものも感じられた。これもSFファンには
嬉しいところだった。

最近の日本映画では、SFとして納得できるものも増えてい
るが、さらに本作ではSFならではと言える展開もあって、
増々期待が盛り上がってきたものだ。
公開は4月6日から映画の舞台となった愛知県での先行上映
の後、東京では4月20日より、池袋シネマ・ロサにてロード
ショウとなる。さらに全国でも観て貰いたい作品だ。

『レプリカズ』“Replicas”
キアヌ・リーヴスが禁断の技術に挑む科学者に扮して、近未
来に起こりうるドラマを描いた作品。
物語の舞台は、米国自治連邦区プエルトリコに建つ研究所。
そこで主人公は妻と3人の子供と共に優雅に暮らしながらあ
る研究に没頭していた。それは死亡した人間の頭脳から記憶
を取り出し、それをロボットに移植するというもの。
その研究はラットや猿のレヴェルでは成功していたのだが。
人間では移植までは成功しているものの、覚醒した脳は激し
い拒否反応を示して暴走するなど、完成の目前で足踏み状態
が続いていた。
そして私企業体であるらしい研究所の所長からは、次の実験
で成功しなければ研究の資金を打ち切るという通告もされて
しまう。
そんな折、家族と共に気晴らしのクルージングに出かけよう
とした主人公らは、突然の嵐に巻き込まれて車が横転。主人
公以外の家族が死亡してしまう。そこで主人公は思わず死亡
した妻と子供たちの脳の記憶を取り出すが…。

共演は2018年6月紹介『500ページの夢の束』などのアリス
・イヴ。2019年“Godzilla: King of the Monsters”にも出
ているトーマス・ミドルディッチ。2017年2月紹介『キング
コング髑髏島の巨神』などのジョン・オーティス。
脚本は2016年『エンド・オブ・キングダム』(2013年4月紹
介『エンド・オブ・ホワイトハウス』の続編)などのチャド
・セント・ジョン。物語は、製作も務めている2017年2月紹
介『パッセンジャー』などの製作者スティーヴン・ハーメル
の原案に基づくようだ。
監督は2004年『デイ・アフター・トゥモロー』の脚本などで
知られるジェフリー・ナックマノフが担当している。
実は主人公のいる場所が軍事研究の研究所であり、並行して
別の研究も行われているのだが、突然その展開になったのに
は少し唖然とした。その辺の伏線がちょっと説明不足かな。
でも全体はしっかりと描かれたSFになっている。
その他にも細かい描写がいろいろ説明不足な感じもするが、
この辺は脚本にはあったが、上映時間との関係で切られてし
まったのかもしれない。まあSFファンなら大体判る程度の
ことではあるが…。
でもこんなことを書くと、またSFは面倒臭いということに
なるのかな? ただ最初に書いた別の研究は国際条約上でも
問題になるものだから、極秘研究になることは間違いない。
その点も含めた伏線として描いて欲しかったところだ。
因に映画の中で、頭脳への電極の差し込みを眼窩から行うの
は、2011年4月紹介『エンジェル・ウォーズ』などでも描か
れたロボトミー手術の手法に沿ったもので、これには納得で
きたものだ。
一方、映画の中では主人公の名前がウィリアムとビルとで使
い分けられていて、それに気づいていると結末の本当の意味
が判る仕組みになっている。この辺はニヤリとした。

公開は5月17日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『ホモソーシャルダンス』
2018年10月紹介『かぞくわり』のVFXなどを担当する一方
で、2017年制作『老ナルキソス』という短編作品が国内外の
映画祭などで高い評価を受けている東海林毅監督の最新作。
物語は2つの場面で構成され、その一方は高校(?)の校内。
そこでは1人の女子生徒の周囲に男子生徒によるグループが
形成されており、グループの外から女子生徒を見初めた主人
公が自分の思いを彼女に伝えようとするが…。
そしてそれと同じ展開が、床に白線で円の引かれた舞台での
コンテンポラリーダンスとしても表現される。そこでは2つ
の大きな球をぶら下げた男根を想起させる男性のダンサーた
ちが、1人の女性ダンサーを囲んで踊っており…。
このドラマ編とダンス編の場面が交互にスクリーンに登場し
て、男性社会における女性の立場や女性の存在の意味のよう
なものが問われてゆく。そしてそこにおける男性の存在の意
味なども問い返される。
上映後の監督の発言によると、作品はミソジニーという言葉
にインスパイアされたということで、過去に女性の側からは
ウーマンリブなど何度も女性の立場に関する問題提起がなさ
れたが、男性側はそれを無視し続けてきた。
それをこの作品の中で表現したかったということのようだ。
それは作品に見事に描かれたと感じられるもので、上映時間
は11分の作品だが、正しくストレートにそのメッセージは伝
わってきた。
因に題意は「ホモのソーシャルダンス」ではなく「ホモソー
シャルのダンス」。実際に踊られているのも社交ダンスでは
ない。そしてこのコンテンポラリーダンスがファンタスティ
ックかつ明確にメッセージを伝えているものだ。

出演は新宅一平、鈴木春香。他に内田悠一、楊煉、ゼガ、ク
リス・ダーバル、皆木正純、吉澤慎吾。各人の経歴等は未詳
だが、試写会に訪れていた主演の新宅は大阪出身のコンテン
ポラリーダンサーとのことだ。
公開は3月30日より、東京は池袋のシネマ・ロサにて一週間
限定のレイトショウとなる。
なお今回の上映では、同じく東海林毅監督の作品で、上記の
『老ナルキソス』(ゲイでナルシストの老絵本画家と若い男
娼とのラヴストーリー)

『ピンぼけシティライツ』(何故か呪われているらしい落ち
ぶれたカメラマンと水着の女性幽霊の物語)

『23:60』(ゲームの中でのアバター同士の会話劇。プ
レーヤーがいなくなった世界の情景が描かれる)
の3作品が
併映される。
上映される4本はいずれもファンタスティックな雰囲気のあ
るものでそれぞれ興味深かったが、併映の3作品は少しマニ
アックかな? それに比べると今回の作品は一皮剥けている
感じもする。
特に併映で紹介した最後の作品に関しては、単なる寂寥感に
終わらせず、ログオフしたプレーヤーが再び戻ってくるとこ
ろまで描けば、よりテーマが明確になったのではないかとも
思った。


この週は他に
『マルリナの明日』
       “Marlina si Pembunuh dalam Empat Babak”
(2017年「東京フィルメックス」で最優秀作品賞を受賞した
インドネシア作品。自動車や携帯電話もあるが、西部劇を髣
髴させる背景の中で、夫の死後に強盗団に襲われた女性の壮
絶な復讐劇が展開される。主人公は一味の食事に毒を盛り、
身の潔白の証に自分を強姦した首領の首を警察に届けようと
するが…。その旅程で出会う人々や後を追う残党の様子など
も絡めて、ロードムーヴィ風の物語が展開される。監督は本
作が3作目の女性監督モーリー・スリヤ。出演は2014年『ザ
・レイドGOKUDO』などのマーシャ・ティモシーと、新人のパ
ネンドラ・ララサティ。他に2015年の東京国際映画祭で上映
『民族の師 チョクロアミノト』などのエギ・フェドリー。
部屋の隅に置かれた亡夫のミイラなどの尋常でない造形と、
歩いてきた男の首を一撃で断ち落とすなどの見事なVFXが
巧みに融合された作品だ。公開は5月中旬より、東京は渋谷
ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『バースデー・ワンダーランド』
(2013年5月紹介『はじまりのみち』では実写作品にも挑戦
したアニメーション監督の原恵一が、『千と千尋の神隠し』
の基になったとされる「霧のむこうのふしぎな町」の作者・
柏葉幸子の原作「地下室からの不思議な旅」をアニメ化した
作品。誕生日の前日、母の指示で自分へのプレゼントを取り
に叔母の家に向った主人公は、突然地下室から現れた錬金術
師を名告る男に異世界へと連れて行かれる。そこでは過去に
主人公に似た少女が世界を救ったという言い伝えが残されて
いたが…。声優は松岡茉優、杏、麻生久美子、市村正親と、
人気声優の東山奈央。他に『クレヨンしんちゃん』の藤原啓
治、矢島晶子らが脇を固めている。ジャンルは異世界ファン
タシーとなるもので、その異世界の設定などには自由度が高
いはずだが、本作の場合はユニークではあるが比較的オーソ
ドックスな背景づくりで、それには観ていて落ち着くものが
あった。公開は4月26日より、全国ロードショウ。)

『レゴ®ムービー2』
         “The Lego Movie 2: The Second Part”
(2014年2月紹介『LEGOムービー』の第2作。前作では「お
しごと大王」に立ち向かった平凡キャラのエメットが、今回
は「わがまま女王」による破滅から世界を救う。敵役の名称
から物語の展開は予想がついてしまうが、今回は前作にも増
したディザスターの様子がレゴで克明に描写される。そして
実写シーンに登場するジオラマも見事な景観を描いていた。
脚本は、前作の脚本と監督を務めたフィル・ロードとクリス
トファー・ミラー。監督には2010年『シュレック フォーエ
バー』などのマイク・ミッチェルが起用されている。声優は
前作に引き続いてのクリス・プラット、エリザベス・バンク
ス、ウィル・アーネットと、2018年9月16日題名紹介『アン
クル・ドリュー』などのティファニー・ハディッシュ。他に
マーヤ・ルドルフ、ウィル・フェレル、ブルース・ウィリス
らも登場する。公開は3月29日より、東京は新宿ピカデリー
他で全国ロードショウ。)

『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
(2017年のサンダンス映画祭(短編映画部門)で日本映画初
のグランプリに輝いた長久允監督による長編デビュー作で、
2019年同映画祭で日本人初の審査員特別賞を受賞した作品。
共に両親を不慮の死で亡くした4人の子供たちが、自分たち
はすでに死んでいるゾンビだから何をしてもかまわないとい
う発想でバンドを結成。それがネットからメジャーデビュー
までに至るが…。出演は二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中
島セナ。その脇を佐々木蔵之介、工藤夕貴、池松壮亮、初音
映莉子、村上淳、西田尚美、佐野史郎、菊地凛子、永瀬正敏
ら錚々たる顔ぶれが固めている。作品はいろいろな要素の詰
まったごった煮のような構成で、これならサンダンス映画祭
には好適と言えそうな作品だ。なお本作はベルリン国際映画
祭のジェネレーション(14plus)部門にも出品され、ティーン
の審査員団から特別表彰を受けた。公開は6月に全国ロード
ショウ。)

それと前回掲載を割愛した
『リトル・フォレスト 春夏秋冬』“리틀 포레스트”
(2014年、15年に2部作で公開された橋本愛主演作品の韓国
版リメイク。日本版では111分+120分で描かれた四季を巡る
物語が、今回は103分で表現されている。実は日本版も観て
いたが、試写も約半年の間隔で行われて、その間に物語が判
らなくなり、紹介を割愛した。従って今回初めて主人公の心
の動きなどが理解できたもので、それは若い人にはありがち
な素直な心情だった。出演は2018年7月紹介『1987』などの
キム・テリと、2018年3月11日題名紹介『タクシー運転手』
などのリュ・ジュンヨル。他に新人のチン・ギジュとベテラ
ンのムン・ソリ。監督は2010年2月紹介『飛べ、ペンギン』
などのイム・スルレが担当した。1年を掛けた撮影は日本版
も同様だが、それに加えてこの物語は様々な食材の料理が見
どころとなる。それが本作ではすべて韓国料理でその調理の
様子なども面白く、日本版も観直したくなった。公開は5月
17日より、東京はシネマート新宿他で全国ロードショウ。)

を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なお今週も諸事情により2本ほど後日の掲載とします。


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井口健二