| 2018年11月25日(日) |
牧師といのちの崖、デッドエンドの思い出(半世界、アイ・フィール、ちいさな独裁者、ナポリの隣人、ライ麦畑の反逆児、宵闇真珠、雪の華) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『牧師といのちの崖』 2018年7月15日題名紹介『いのちの深呼吸』に続いて自殺と 宗教の関りについて考えるドキュメンタリー。 本作の舞台は和歌山県の観光名所・三段壁。その崖の前には 自殺志願者に向けて相談の電話を促す「いのちの電話」の看 板が立てられている。そして電話の先には牧師の藤藪庸一が 待ち、電話を受けると直ちに車を飛ばして駆け付ける。 そこで話を聞き、帰る場所のない人には教会を開放し、共に 暮らしながら生きる道を探って行く。さらに生活の場だけで なく、自らが運営している食堂で人生を取り戻そうとする人 たちと共に働き、時には厳しく現実と向き合うことも求めて 行く。 しかし現実はその思いを飲み込むようにさらに厳しいものに なって行く。本作のエピローグは耐えられないものだし、正 直、観ているときには2012年10月紹介『カミハテ商店』のよ うに虚構に逃れたい気持ちにもなった。あまりに痛々しい現 実が描かれる。 仏教とキリスト教、宗派は違うが今や自殺大国とさえ言える 日本でこのような話は各地にあるのかも知れない。そしてそ の現実が、相談を受ける側も苦しめている状況も変らないよ うだ。7月紹介作の住職はストレスが疾患となっていたが、 本作の牧師にもその重圧は痛いほど理解できる。 それならもっとこのような人たちを横に繋いで苦しみを分か つことはできないものか。多分すでに行われてはいるのだろ うが、そのような情報も欲しくなる。これだけを観ていると 全く居たたまれない。 できたらそのような横の繋がりについてのドキュメンタリー も見せて貰いたい。勿論それがあればの話だが、無いのなら このような作品に関った人たちが声掛けをしてでもそのよう な運動を起こして欲しいものだ。 今のままでは遠からぬ先に重大な事態が待ち受けているよう な気もしてならない。これは看過できる問題ではないように も感じた。 本来の僕は、自死=自殺に関しては容認しない主義だし、そ のような内容の作品には嫌悪感を持つ。しかし本作に関して は現実として受け取らなけらばならないものだし、考えなけ ればならないものだと思わされた。 監督は、2001年に『あおぞら』という作品のある加瀬澤充。 その後に製作会社に所属し、現在はBSテレビ向けにドキュ メンタリーを制作している人のようだ。 公開は2019年1月より、東京はポレポレ東中野他で全国順次 ロードショウとなる。
『デッドエンドの思い出』“막다른 골목의 추억” 2003年によしもとばななが発表した短編集の表題作を、韓国 の映画人が映画化した作品。 原作は国内での遠距離恋愛のようだが、映画化では日韓両国 に跨るものとされ、韓国人の女性が日本に行ったまま音信不 通となった恋人を追って来日する。と言っても物語では早々 に恋人の心変りが判明し、そこから彼女自身が心の痛手を克 服して行く過程が描かれる。 End Point と名付けられたカフェとゲストハウスを兼ねた場 所が主な舞台となり、その場所に集う近所の人々や異国の人 たちとの交流が彼女の心を癒して行く。しかもそこにかなり 壮絶な物語が隠されているのも味噌と言えそうだ。そして彼 女の心にもちょっとした秘密がある。 出演は、K-POP 少女時代のメムバーだったチェ・スヨン。近 年は女優業にも力を入れている彼女の映画初主演作となる。 共演は、名古屋のローカルアイドルグループ「ボイメン」の 田中俊介。 他に韓国からペ・ヌリ、ドン・ヒョンベ、アン・ボヒョン、 イ・ジョンミン。いずれも韓国テレビで活躍中の俳優のよう だ。 これに対し日本からは、2005年『魔法戦隊マジレンジャー』 などの平田薫、2017年11月5日「第30回東京国際映画祭」で 紹介『アイスと雨音』に出演の若杉凩(当時の名前は若杉実 森)らが脇を固めている。 脚本と監督は、2009年の短編映画「The after…」が広島の 映画祭でグランプリを受賞。その後にあいち国際女性映画祭 に招待され、名古屋で日韓合作の短編作品も手掛けたという チェ・ヒョンヨン。 その後は韓国で、外国映画の買い付け配給や映画スタッフの 環境改善にも尽力しているという才媛が、長編監督デビュー を飾っている。 正直に言ってこの手の作品を自分が紹介するとは考えていな かった。しかし本作に関しては何処か自分の感覚に触れると ころがあり、書くべきところはあまり無かったのだけれど紹 介することにした。 それは何か人の痛みが判っているような作品であり、いろい ろな面で巧みに作られている作品だ。原作の良さもあるのだ ろうが、それを設定を変えてさらに巧みに引き出した作品と も言えそうだ。 公開は2019年2月2日から名古屋のシネマスコーレにて先行 上映の後、東京は2月16日より、新宿武蔵野館他で全国順次 ロードショウとなる。
この週は他に 『半世界』 (2016年4月紹介『団地』などの阪本順治監督と、元ジャニ ーズの稲垣吾郎の主演で、今年の東京国際映画祭コンペティ ション部門に出品されて観客賞を受賞した作品。父親の後を 継いで炭焼き職人となった男の前に、自衛隊を除隊してきた 幼馴染が現れる。そして親が営む中古車屋の息子と3人で、 40歳目前のひと時を過ごすことになるが…。共演は長谷川博 己、池脇千鶴、渋川清彦。他に竹内都子、堀部圭亮、石橋蓮 司らが脇を固めている。地方の過疎化から自衛隊の海外派遣 まで、今の日本を象徴する様々な事象が語られるが、それら が主人公の生き様に上手く絡まってこない。実際に映画祭の 審査委員長を務めたフィリピン人監督からは批判的な意見が 出されたようだが、阪本監督の割には映画としての骨格が定 まっていない感じがした。主演俳優のファンにはこれでOK だったようだが…。公開は2019年2月15日より、東京はTOHO シネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)
『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』 “I Feel Pretty” (2017年1月15日題名紹介『エイミー、エイミー、エイミー !』などのエイミー・シューマー製作、主演で、容姿に自信 のない女性がほんの少しの切っ掛けで自分の道を切り開いて しまうコメディ作品。主人公はかなり太めの体形で、容姿に も全く自信のない女性。そんな女性がジムのエアロバイクか ら転落し、意識不明から目覚めた時、彼女は魔法の力で自分 の見た目が絶世の美女になったと思い込む。そのため超ポジ ティヴになった彼女は仕事に恋に邁進し、全てに良い結果を 産み出すが…。共演はミシェル・ウィリアムズと、昨年73歳 でVOGUE 誌の表紙を飾り話題になったローレン・ハットン。 脚本と監督は、2012年4月紹介『君への誓い』などの脚本家 コンビ=アビー・コーン&マーク・シルヴァースタインが監 督デビューも飾っている。物語は願望充足型だが、落としど ころが上手くて嫌味に感じさせない。巧みな作品だ。公開は 12月28日より、全国ロードショウ。)
『ちいさな独裁者』“Der Hauptmann” (ドイツ出身で2017年5月紹介『ダイバージェント FINAL』 などのロベルト・シュヴェンケ監督が16年振り母国に戻り、 脚本と共に手掛けた実話に基づくとされる作品。第2次世界 大戦末期の北部戦線で、ふとしたことから将校の軍服を手に 入れた脱走兵が、その将校になりすまして脱走兵の収容所を 訪れ、権威を振りかざして暴虐の限りを繰り広げる。それは 正に戦争の狂気とも呼べるものだが、結末にはかなり呆然と するシーンも用意されていた。出演は2017年『まともな男』 などのマックス・フーバッヒャー。他に、2017年1月29日題 名紹介『僕とカミンスキーの旅』などのミラン・ペシェル、 2009年3月紹介『伯爵夫人』(公開題名『血の伯爵夫人』) などのフレデリック・ラウらが脇を固めている。結末をどう 捉えるかがポイントになると思うが、僕はかなりきな臭さも 感じてしまった。公開は2019年2月8日より、東京はヒュー マントラストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)
『ナポリの隣人』“La tenerezza” (2012年9月紹介『最初の人間』などのジャンニ・アメリオ 監督がナポリ出身の作家ロレンツォ・マローネの原作を脚色 ・映画化した作品。高齢の元弁護士は妻の死後、子供たちと の関係を断っていた。その彼の住むアパートの隣家に2人の 子供を持つ若い夫妻が引っ越してくる。その一家と親しくな った主人公は、新たな家族のように付き合いを深めるが、そ こに重大な事件が起きてしまう。映画の中にも「ナポリは新 参者には住みにくい街」というような台詞が出てくるが、何 ともやるせない展開の物語ではある。でもそんな中で家族の あり方を問いかけるような作品になっている。出演は本作で イタリアのアカデミー賞とされるダビッド・デ・ドナテッロ 賞の主演男優賞を受賞したレナート・カルペンティエーリ。 他に2011年3月紹介『愛の勝利を』などのジョヴァンナ・メ ッツォジョルノらが脇を固めている。公開は2019年2月9日 より、東京は岩波ホール他で全国順次ロードショウ。)
『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』 “Rebel in the Rye” (2018年8月26日題名紹介『ライ麦畑で出会ったら』に続い て、2010年に亡くなったアメリカの人気作家J・D・サリン ジャーを描いた作品。先の作品は周囲からのものだったが、 本作では作家本人が描かれている。それはユダヤ系の裕福な 家庭に育ち、作家を目指してコロムビア大学に学び、そこで 講師だった人物の手で作品が世に出される。しかし高級紙に 掲載予定だった作品は戦時下で無期延期となり、本人も従軍 してノルマンディー上陸作戦に参加。その間にも書き続けた のが『ライ麦畑でつかまえて』だった。そして出版された作 品はベストセラーとなり、青春のバイブルとまで言われるよ うになるが…。出演はニコラス・ホルト、ケヴィン・スペイ シー、ゾーイ・ドゥイッチ。脚本と監督はダニー・ストロン グ。2015年『ハンガーゲーム FINAL』などの脚本家の監督デ ビュー作となっている。公開は2019年1月18日より、東京は TOHOシネマズシャンテ他で全国順次ロードショウ。)
『宵闇真珠』“白色女孩” (2015年にカメラマンのクリストファー・ドイルが監督した “Hong Kong Trilogy”の製作を担当したジェニー・シュン がドイルと共同で監督デビューを果たしたメルヘンと言える 作品。主人公は香港の漁村で暮らす少女。父親から太陽光に 当っては駄目と教えられ、夜間にだけ出歩いている。そこに 裏山の廃墟に住む男性が話し掛け、交流が始まるが…。出演 は初主演のアンジェラ・ユンとオダギリ・ジョー。背景とな る漁村は、多分2018年11月3日付「第31回東京国際映画祭」 で紹介『三人の夫』と同じ場所と思えるが、内容的には本作 の方が真面かな。少なくとも開発で消滅し掛っている漁村の 問題は描かれている感じがした。しかし廃墟の中の仕掛けな ど面白いものはいろいろ描かれているが、物語の中にそれが 活かされていないのは残念。まあドイルの監督作品は大体が そんなものだが。公開は12月15日より、東京は渋谷シアター ・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
『雪の華』 (中島美嘉のヒット曲をモチーフにした物語を、2018年8月 5日題名紹介『3D彼女』などの中条あやみと、EXILE「三 代目 J Soul Brothers」登坂広臣の共演で映画化した作品。 主人公は難病で余命宣告された女性。その女性がある切っ掛 けで男性を好きになり、病気は伏せたまま期間限定の恋人関 係を依頼する。そして両親の思い出の地フィンランドで赤い オーロラを観ることを夢見るが…。共演は高岡早紀、浜野謙 太、田辺誠一。脚本は、2017年10月29日題名紹介『8年越し の花嫁』などの岡田惠和。監督は、2018年『羊と鋼の森』な どの橋本光二郎が担当した。女性が罹った正確な病名が提示 されないなど、お話としてはかなり無理はあるが、フィンラ ンドロケも充分に活かされているし、試写会では隣りにいた 男性が目頭を押さえるなど、それなりの感動は呼んでいたよ うだ。公開は2019年2月1日より、東京は丸の内ピカデリー 他で全国ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2018年11月18日(日) |
描きたい、が止まらない(トラさん、revisions、マイ・ジェネ、赤い雪、サイバー、あの日のオルガン、jam、喜望峰、マチルド、家へ帰ろう) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『描きたい、が止まらない』 滋賀県東近江市在住で高機能自閉症と診断されている画家・ 古久保憲満さんを追ったドキュメンタリー。 古久保さんは1995年生まれで、3歳ごろから絵を描き始める が、小学校1年生の終わりに発達障害と診断され、2007年に 養護学校に入学。そこでも模造紙やカレンダーの裏などに絵 を描き続け、用紙が足りなくなるとセロハンテープでつぎ足 すなどしていた。 そに対して2010年、美術の教師から大きな紙に描くことを勧 められ、縦1.6m×横10m のロール紙に絵を描き始める。それ から7年が経ち、その絵が完成する少し前から本作の撮影は 開始されている。そしてスイスの美術館での作品の展示や、 シンガポールの画家を訪ねる話などが綴られる。 監督は、2004年に独立系メディアOurPlanet-TVで『ぼくらの 学校なくなるの?〜立ち退き問題に揺れる朝鮮学校〜』とい う作品などを取材・制作している近藤剛。1973年生まれで、 一貫してマイノリティの立場に立った作品を発表している人 のようだ。 という監督の作品だが、監督自身はアート中心の作品にする つもりはなかったそうで、その意味では確かに古久保さん自 身の考え方や生き方などが丁寧に描かれているとは言える。 しかし古久保さんは画家であり、彼自身を表現するのに絵画 が大きな部分を占めていることに変わりはない。 そこでその絵画の魅力が充分に伝わっているかというと、正 直に言って僕には物足りなかった。実際に試写会場では何点 かの実物を観させて貰ったが、その超細密画とも呼べる細か さには圧倒された。それが縦1.6m×横10m の全面に繰り広げ られているとすると、それは驚異的なものだ。 しかし映画ではそれが見えてこない。ここは例えば全体を写 している映像からカメラがどんどん寄って行って細密な部分 に至るとか、その逆でもいいが、何しろこの驚異的な絵の全 貌は示して欲しかった。それはもちろん外連ではあるが、古 久保さん自身を表現する上で欲しかったものだ。 また絵の題材はインターネットなどで見つけているとのこと だが、その辺の繋がりについても知りたかった。その一方で シンガポールのシーンでは、建物に興味があるはずの彼が背 景に写っている「マリーナ・ベイ・サンズ」に全く関心を示 さない。その理由も知りたかった。 これらには彼なりの意見もあったはずで、そういった点が彼 自身を理解する上でもっといろいろあっても良かったのでは ないかと考える。もちろん本作でも彼の信念などは見えてく るが、彼が監督に心を開いているのなら、もっと深く彼を知 りたいとも思えたものだ。 苦言が多くなってしまったが、興味を惹かれる題材だけに、 もっといろいろなことが知りたくなった。 公開は2019年早春、東京はポレポレ東中野にてロードショウ となる。
この週は他に 『トラさん 僕が猫になったワケ』 (2014年に『ソフテン!』という作品の映画化もある板羽皆 の原作コミックスを、2008年1月紹介『死神の精度』などの 筧昌也監督が「Kis-My-Ft2」の北山宏光を主演に迎えて映画 化。猫漫画がヒットしたものの、連載の打ち切りでやる気を 失くした漫画家が不慮の事故で命を落とす。しかし次の命を 決める関所で自分自身を見つめ直す機会を与えられた漫画家 は家族の許に戻されるが…、それは猫の姿だった。北山がア イドルとは思えないダメ親父を演じる。共演は多部未華子、 平澤宏々路。他に飯豊まりえ、富山えり子、要潤、バカリズ ムらが脇を固めている。お話的には上記の監督作品に通じる ところもあって悪くはないが、最後の作品を家族に渡す展開 には何か捻りが欲しかったかな。ただ朝起きたら原稿が有り ましたでは、話に無理があるように感じる。ここには何らか の経緯が欲しいところだ。公開は2019年2月15日より、東京 はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)
『revisions』 (2018年9月紹介『INGRESS THE ANIMATION』に続き2019年 1月よりフジテレビの深夜に放送される「+Ultra」の第2弾 作品。今回もエピソード1〜4を見せて貰った。物語は東京 渋谷駅を中心にした半径1�劼糧楼呂�未来に飛ばされ、その 行き着いた先の世界では人類の多くが死滅した状況で2つの 勢力が闘いを繰り広げていた、というもの。そこで予め啓示 を受けていた高校生5人の男女が闘いに巻き込まれるが…。 アイデアとしては映画化もされた楳図かずお原作の『漂流教 室』が思い浮かぶものだが、本作では未来人同士の戦いがあ ったり、未来人と現代人との政治的な話もあるなど、物語に は変化が付けられている。それにバトルスーツのようなもの も登場して、全体はアクション志向の作品になっているよう だ。でもまあそれが現在の日本アニメに求められているもの なら仕方ない。ただし人類の選別などの捻りはあるのかな? 放送は上記の前作紹介に記したのと同様の体制で実施。)
『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』 “My Generation” (2016年7月紹介『グランド・イリュージョン』などの英国 俳優マイクル・ケインが、1933年生まれの自らの世代が体験 した1960年代カルチャー「スウィンギング・ロンドン」を語 るドキュメンタリー。製作をケイン自身が手掛け、50以上の インタビューを敢行したという本作では、ポール・マッカー トニーを始め、ザ・フーのロジャー・ダルトリー(ピーター ・バラカン監修の字幕ではドールトリーと記されていた)、 女優のマリアンヌ・フェイスフル、モデルのツイッギー、フ ァッションデザイナーのメアリー・クワントなど、様々な分 野の同世代人が発言し、さらにジョン・レノンやデビッド・ ボウイらのアーカイブ映像も登場する。まあ内容としては正 に懐かしものという感じだが、1970年以降のドラッグに関し ては、ほぼ全員が実体験を踏まえて否定しているのは興味深 かった。公開は2019年1月5日より、東京は渋谷Bunkamura ル・シネマ他で全国順次ロードショウ。)
『赤い雪 Red Snow』 (『オンディーヌの呪い』という30分の作品が2015年「SKIP シティ国際Dシネマ映画祭」にて奨励賞を受賞している甲斐 さやか脚本・監督による長編デビュー作。雪が降り続く小さ な村で1人の少年が姿を消す。それは吹雪の中を見え隠れす る弟の後を追った兄が、アパートの角を曲がったところで見 失ったものだった。その後、住宅火災の現場から弟の遺体ら しきものが発見され、アパートの住人でもあった女性に嫌疑 が掛かるが、女性は黙秘のまま釈放される。そして30年が経 ち、漆器職人となった兄の許に1人の男が現れる。男は女性 の娘で事件を目撃していたはずの女の居所を突き止めたと語 り、被害者の兄と容疑者の娘が30年を経て向き合うことにな るが…。出演は永瀬正敏、菜葉菜、井浦新。他に夏川結衣、 佐藤浩市らが脇を固めている。映像の感覚は凄いが、物語は 少し言い切れていない感じがした。公開は2019年2月1日よ り、東京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)
『サイバー・ミッション』“Reborn 解码游戏” (「NEWS」の山下智久が海外進出を果たした香港作品。主人 公は韓流アイドルグループ「SUPER JUNIOR」の元メンバー= ハンギョンが扮するオタク系プログラマー。彼はハッキング を武器に世の悪に対抗するホワイトハッカーだった。そんな 彼にかつてハッキング対決で負かした相手が接触してくる。 それは新OSを巡る大仕事への誘いだった。そんな主人公に は警察も接触し、彼は覆面捜査官となってその仕事に関るこ とにするが…。共演は、2010年11月紹介『モンガに散る』な どのリディアン・ヴォーンと、雑誌モデルのリー・ユエン。 監督はリー・ハイロン。アクション監督を、2002年11月紹介 『ボーン・アイデンティティー』などのニコラス・パウエル が担当している。巻頭のハッキングシーンは面白いが、後半 はちょっと魔法の杖になったかな。その分のアクションシー ンは見ものにはなっていたが。公開は2019年1月25日より、 東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)
『あの日のオルガン』 (第2次世界大戦末期の1944年、東京品川の戸越保育所では 園児の安全を確保するための疎開を模索していた。当時、小 学生の学童疎開は実施されていたが、園児は対象外で、また 親の中にも反対者はいた。そんな折、埼玉の農村から受け入 れの表明が届く。しかし用意されていたのは全くの荒れ寺。 それでも何とか疎開は行われるが…。不安を抱える園児には おねしょが頻発するなど、様々な問題が起きる。その一方で 東京は大空襲によって園児の一家が全滅したり、また赤紙が 来て最後の面会を求める父親も現れる。こんな全くの弱者た ちの戦争体験が描かれる。実話に基づく脚本と監督は2012年 12月紹介『ひまわりと子犬の7日間』などの平松恵美子。山 田洋次監督の右腕ともされる女性監督が師匠譲りの反戦映画 を作り上げた。出演は戸田恵梨香、大原櫻子。他に橋爪功、 田中直樹、田畑智子、林家正蔵、夏川結衣らが脇を固めてい る。公開は2019年2月22日より全国ロードショウ。)
『jam』 (2017年11月19日題名紹介『Mr.Long/ミスター・ロン』など のSABU監督が、「劇団EXILE」と組んだ疾走感あふれるアク ション作品。物語は3つのドラマが絡み合うもので、1つ目 は大舞台を翌日に控えた演歌歌手が熱狂的なファンに拉致さ れ、彼女を主題にした新曲を強要される。2つ目では恋人が 銃撃戦に巻き込まれて意識不明となり、その回復を祈る若者 が啓示を受けて日々善行を続ける。そして3つ目は刑期を終 えた男が自分を陥れたヤクザに復讐する。これらが同じ時間 軸で展開される。出演は青柳翔、町田啓太、鈴木伸之を主演 に劇団のメンバーが総動員。他に筒井真理子が怪演を繰り広 げ、特に結末はこのために全てが作られている感じすらする ものだ。監督の作品では2003年11月9日付「第16回東京国際 映画祭」で紹介『ハードラックヒーロー』を思い出したが、 V6と同様、誰と組んでも見事なSABU節だ。公開は12月1日 より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)
『喜望峰の風に乗せて』“The Mercy” (2009年4月紹介『マン・オン・ワイヤー』などのジェーム ズ・マーシュ監督が、2011年1月紹介『英国王のスピーチ』 などのコリン・ファースを主演に迎え、1968年行われた単独 無寄港世界一周レースの参加者を描いた実話に基づく作品。 このレースには華々しい経歴を持つヨットマンたちが参加す る中、航海計器の会社を経営する1人のビジネスマンが出場 を表明する。彼はマスコミを巻き込み、スポンサーも得て出 航に漕ぎ付けるが…。共演は2017年2月12日題名紹介『光を くれた人』などのレイチェル・ワイズと、2018年7月15日題 名紹介『リグレッション』などのデヴィッド・シューリス。 実は映画が始まって直にこの人物のことを数年前にテレビ放 送で見たことを思い出した。ちょっとしたことが人を奈落に 突き落とす。一応マスコミを自称する人間としては、心して 観るべき作品だ。公開は2019年1月11日より、東京はTOHOシ ネマズシャンテ他で全国順次ロードショウ。)
『マチルド、翼を広げ』 “Demain et tous les autres jours” (2018年4月29日題名紹介『告白小説、その結末』などの女 優で、2015年『カミーユ、恋はふたたび』を監督したノエミ ・ルボフスキーが、自らの子供時代を描いたとする作品。主 人公は離婚した母親の許で暮らしているが、その母親はかな り奇矯な人物で少女はいつもその言動に振り回されている。 そこに小さなフクロウが現れ、人間の言葉を話すフクロウは 彼女のアドヴァイザーになってくれるが…。主演は本作がデ ビュー作のリュス・ロドリゲス。母親役を監督が演じ、父親 役には2018年8月26日題名紹介『バルバラ』などのマチュー ・アルマリックが扮している。母親の病状は若年性の痴呆を 疑わせ、近年は痴呆症の映画も多く観ている者としては辛い 気持ちにもなった。でも本作では主人公の健気さが全てを救 っており、監督自身が体験を乗り越えて今に至っていること にも感動した。公開は2019年1月12日より、東京は新宿シネ マカリテ他で全国順次ロードショウ。)
『家へ帰ろう』“El último traje” (21世紀のアルゼンチンで多数の映画に関っている脚本家の パブロ・ソラルスが、自らの脚本を映画化した監督第2作。 ホロコーストを生き延び、アルゼンチンに移住したユダヤ人 の仕立て屋が、友との約束を果たすため故郷のポーランドを 目指すロードムーヴィ。高齢になった主人公は家族に施設に 入れられそうになり、旅立ちを思いつく。しかしその道には 様々な障害があった。ポーランドという国名を口にしないと か、ドイツには足を踏み入れたくないなど、ユダヤ人の頑な な心情を描くシーンが続出する。出演は、1998年『タンゴ』 などのミゲル・アンヘル・ソラ。第2次大戦時に青年なら既 に90歳を超えているはずで、さらに途中には娘の腕に収容所 の刺青があったりもする。しかし物語の背景は現代。この時 間を超越した描き方が、逆にユダヤ人の思いを表現している ようにも感じた。公開は12月22日より、東京はシネスイッチ 銀座他で全国順次ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2018年11月11日(日) |
ふたつの昨日、世界一/映画館、メアリーの(ポリスS、ジュリアン、春待つ、ファースト、めんたい、輪違屋、LOVEHO、かぞくいろ、バハール) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ふたつの昨日と僕の未来』 愛媛県新居浜市市制80周年記念事業として、同市でロケ撮影 が行われたSF要素の強い作品。 主人公は市役所の観光課に勤める若者。地元テレビ局勤めの 恋人がいるが、何となく覇気がない。実は彼はオリンピック で金メダルが狙えるほどのマラソンランナーだったが、怪我 で選手生命を絶たれたのと、マラソン大会に絡んだ父親の不 慮の死で全てが投げやりになっていたのだ。そして彼は恋人 から破局も言い渡されてしまう。 そんな主人公が地元の史跡である別子銅山を紹介するテレビ 番組の取材のため、大学教授や恋人を含むテレビ局員らと共 に山に入るが…。そこで突然の雨で一行からはぐれた主人公 は雨宿りのため封鎖された洞窟に入ろうとし、入ると同時に 洞窟の口に立って雨も上がっているという体験をする。しか もその時、彼の脳裡には過去の異なる記憶が生じていた。 その記憶では、彼はオリンピックで金メダルを獲得して地元 の英雄となり、父親も健在で…、半信半疑のまま山を降りた 彼の前には、正にその通りの世界が待ち受けていた。つまり 彼はパラレルワールドに紛れ込んでおり、彼は洞窟を介して 2つの世界を行き来することができ、さらに自分が生きる世 界を選ぶこともできるのだった。 ところがそこで彼は新たな事件を予見してしまう。果たして 彼が選ぶ未来は…。 出演は2018年1月28日題名紹介『honey』などの佐野岳と、 2014年11月紹介『横たわる彼女』などの相楽樹。他に久保田 悠来、宮地真緒、榎木孝明、神保悟志らが脇を固めている。 脚本と監督は、2016年5月22日題名紹介『海すずめ』などの 大森研一。なお脚本は2016年7月31日題名紹介『仮面ライダ ーゴースト』などの福田卓郎と連名になっているが、2人は 愛媛県の出身のようだ。 単純に過去に戻るのではないパラレルワールドというのは、 SF小説では名作とされる作品も有るが、映画ではあまりな いのではないかな? 僕としてはそんな新たな分野への挑戦 をそれなりに認めたいと思うものだ。 ただし本作の設定では、両世界の主人公はすれ違わなくては ならないのだが、この時に相手側の彼はどういう気持ちなの だろう。その辺を考えるといろいろ悩むところが生じる作品 ではある。SFファンはこの辺がうるさい。 でもまあ本作だけで考えれば話は成立している訳だし、相手 側の気持ちもいろいろ推察できるところはあるもので…。僕 は、それはそれとして評価したいと考える。どう考えれば辻 褄が合うか、それを考察するのも一興だろう。 因に、彼が未来を予見することに関しては問題はない。 公開は11月9日から愛媛県で先行上映の後、東京は12月22日 より、シネマート新宿他で全国順次ロードショウとなる。
『世界一と言われた映画館』 1976年10月29日まで山形県酒田市に実在した映画館グリーン ・ハウスを主題にしたドキュメンタリー。 その映画館は大通りから小路を入った先に在り、洋画専門の 上映館で、回転扉を押して入ると館内にはコーヒーの香りが 漂う。1階ロビーにはバーテンダーのいる喫茶スペースがあ り、スクリーン前の舞台の縁には生花が飾られていた。 そして上映前には開始ベルの代わりに「ムーンライト・セレ ナーデ」が流される。また2階には20席程度のシネサロンも 設けられ、そんな映画館は、同館を訪れた故淀川長治氏から 「世界一の映画館」と呼ばれた。 ところがその映画館は、1976年に発生した戦後4番目ともさ れる酒田大火の火元とされ、火災後には映画館が再建される こともなく、関係者の口から語られることも無くなってしま う。 この心情を語るかのように本作では、まず先に酒田大火の惨 状が描かれ、当時のニュース映像など、海からの強風にあお られた火災の恐ろしさが克明に伝えられる。それは火元であ る映画館を罰するかのような描き方だ。 しかしそれでも在りし日の映画館を思う人たちがいて、その 人たちと映画館との関わりが綴られて行く。それは今まで語 ることを憚っていた人たちが、この作品に思いの丈をぶつけ るかのような愛情に満ち溢れたものだ。 その中には、20歳で映画館の経営を任されて「グリーン・ハ ウス」のスタイルを築いた故佐藤久一氏の所縁の人や、元映 画館の従業員。その一方で同館で『タワリング・インフェル ノ』を2回観て大火の消火に当った消防士など…。 僕自身、山形市には何度か行って、そこにあるフォーラム山 形は好きな映画館だ。それは大手のシネコンではなく地元の 映画愛好家が立ち上げた映画館と言われ、それが今では東北 各地に展開するチェーンにまで広がっている。 自分は東京にいて映画は何でも観られる環境だが、地方の映 画愛好家が丹精込めて映画を観る環境を作り上げている。そ んな気持ちがフォーラム山形に行くと感じられるし、そんな 人たちの原点がここにあるような感じもする作品だった。 山形国際ドキュメンタリー映画祭の企画・制作で、監督・構 成・撮影は、1977年生まれ山形県出身の佐藤広一。ナレーシ ョンを、2018年2月に急逝した2018年7月紹介『教誨師』な どの大杉漣が担当している。 公開は2019年1月5日より、東京は有楽町スバル座他で全国 順次ロードショウとなる。 映画館を愛する人、必見の作品だ。
『メアリーの総て』“Mary Shelley” 『フランケンシュタイン』の作者として知られるメアリー・ シェリーの姿をエル・ファニングが演じるドラマ作品。 メアリーは1797年8月30日、女権運動家の母親メアリー・ウ ルストンクラフトと、急進的な政治学者の父親ウィリアム・ ゴドウィンとの間に誕生した。しかし母親は産褥熱で他界。 偉大な人を自分の誕生で失ったという思いが彼女に残る。 やがて父親は再婚し、再婚相手の連れ子で歳の近い義妹とは 仲良くなるが、義母とは折り合いが悪く、そのため父親はメ アリーを知人の家に預ける。ところがそこで開かれた読書会 で、メアリーは詩人のシェリーと巡り会う。 その詩人とメアリーは恋に落ちるが、詩人には妻子があり、 父親には家名に泥を塗ったと勘当されてしまう。それでも駆 け落ちして第1子を生むが、詩人が借金取りに追われる日々 の中で子供は死去。これも彼女の心に傷を残す。 そんな中でメアリーは、詩人と共にルイージ・ガルヴァーニ の研究に基づく「死者を甦らせる」生体電気の実験ショウを 見学。死んだカエルの足が電気を流すとピクピクと動く様子 に感銘を受ける。 一方、義妹は放蕩者のバイロン卿と付き合っており、彼女の 誘いでスイスの別荘に招かれたメアリーと詩人は、酒を飲み 芸術論などを戦わせる中で、ある嵐の夜、バイロン卿から各 自で怖い話を作ろうと提案されるが…。 脚本と監督は、2012年に長編デビュー作の『少女は自転車に のって』が数多くの賞に輝いたサウジアラビア出身のハイフ ァ・アル=マンスール。イスラム圏初の女性映画監督と言わ れる俊英の長編第2作だ。 なお脚本は、オーストラリア出身の脚本家エマ・ジェンセン のオリジナルに基づいている。 共演は、2015年3月紹介『ジュピター』などのダグラス・ブ ースと、2008年2月紹介『美しすぎる母』などのスティーヴ ン・ディレイン。さらに2016年英国アカデミー賞ライジング ・スター賞受賞のベル・パウリー。 また、2018年10月28日題名紹介『ボヘミアン・ラプソディ』 でロジャー・テイラー役のベン・ハーディが、本作では『吸 血鬼』の作者ポリドリを演じている。 メアリー・シェリーが『フランケンシュタイン』の原作者で あることは知っているが、その実像はあまり詳しくはなかっ た。それが本作では余すところなく描かれている。特にその 創作に至る過程は正に心を揺さぶられる。 そしてそのメアリーの姿を、エル・ファニングが見事に演じ 切っている。今までにもファンタシー系の作品に多く出演し ている若き女優が、SFの母とも言える作家を演じるのは、 ファンには最高の贈り物だ。 公開12月15日より、東京は新宿シネマカリテ、シネスイッチ 銀座他で全国順次ロードショウとなる。 因にガルヴァーニは1798年に死去しているので、メアリーが 直接その実験を見たはずはないが、劇中に再現された実験の 様子を見ると、2018年9月2日題名紹介『人魚の眠る家』で 書いた想いをますます強くした。
この週は他に 『ポリス・ストーリーREBORN』“機器之血” (ジャッキー・チェン製作総指揮・主演によるアクションシ リーズ最新作。と言っても2014年3月紹介の前作からは設定 も主人公の名前も違うようだ。発端は2007年。危篤状態の娘 を病院に残し出動した刑事は人工遺伝子に絡む陰謀に巻き込 まれ、自らも重傷を負う。それから13年の時が経ち、陰謀の 知られざる実話を描いた小説が出版され、その本に誘われる ように事件に絡んだ人物たちが再登場してくるが…。物語は 後半がかなりSFになっていて、それは最近の映画の傾向を しっかりと押さえているという感じの作品だ。共演は2016年 11月紹介『人魚姫』などのショウ・ルオ、欧陽菲菲の姪オー ヤン・ナナ、本作がデビュー作のエリカ・シアホウ。さらに 2018年8月5日題名紹介『スカイライン』などのカラン・マ ルベイ、2017年『エイリアン』などのテス・ハウブリックら が脇を固めている。公開は11月23日より、東京はTOHOシネマ ズ日比谷他で全国ロードショウ。)
『ジュリアン』“Jusqu'à la garde” (2017年のベネチア国際映画祭で長編デビュー作でありなが ら最優秀監督賞に輝いたフランスの新鋭グザビエ・ルグラン の作品。主人公は11歳の少年。両親が離婚し、母親の許で姉 と共に暮らしているが、父親が共同親権を主張し、未成年の 彼は裁判所の裁定で隔週末を父親と過ごさなければならなく なる。そして父親は姿を隠している母親の居場所を聞き出そ うとする。その脅しに嘘をついてまで母親を守ろうとする主 人公だったが、父親の執拗な脅しと策略でついに母親の居場 所を聞き出されてしまう。そして…。脚本も監督の手になる ものだが、この種の作品を観ていて何時も気になるのが未成 年者の権利だ。この作品でも結論は変わらないのだが、本作 ではその問題点を明確に描いており、それは僕としては我が 意を得たりという感じもする作品だった。公開は2019年1月 25日より、東京は新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシ ネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)
『春待つ僕ら』 (2014年10月紹介『想いのこし』などの平川雄一郎監督が、 あなしん原作の同名コミックを映画化。平川監督の作品では 2012年の『ツナグ』、2016年の『僕だけがいない街』もファ ンタシー系だったが、本作はスポーツもので、ちょっと宗旨 替えなのかな。内容は幼い頃にバスケットボールに興じる友 人を憧れの目で観ていた女子が、高校生になってある偶然か ら通っている学校のバスケ部で人気4人組のアイドル的存在 になるが…。そこに憧れていた友人がライヴァル校の選手と して現れる、というもの。ここにはちょっと意外な捻りもあ るが、全体はラヴコメ調のお話だ。出演は土屋太鳳と北村匠 海、それに小関裕太。他にも旬な若手が揃っている。劇中の 対外試合のシーンでバラバラだった応援が途中から纏まる展 開は、自分の体験にも重なってちょっと嬉しい感じだった。 公開は12月14日より、東京は新宿バルト9、TOHOシネマズ新 宿、新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)
『ファースト・マン』“First Man” (人類初の月面に降り立ったアポロ11号船長ニール・アーム ストロングを描いた一部IMAXでのシーンも含むドラマ作品。 物語はジェミニ8号での奇跡とも言われる生還劇に始まり、 アポロ計画による月面着陸と帰還までが描かれる。それは例 えばジェミニ8号の件では、その経緯などは知っていたが、 本作ではそれが見事に映像化されており、それを大画面で観 ることができたのは正に驚異だった。そしてIMAXで撮影され た月面のシーンは、50年前に白黒のテレビ画面で観た記憶も 呼び覚ましてくれるものだった。ただし例えば1983年の映画 『ライトスタッフ』が冒険心を掻き立ててくれたのに比べる と、本作ではどこか物語を冷静に鑑賞している自分がいて、 それはニュース映像を観ている気分だったことも否めない。 これは自分が同時代人だったことのデメリットとも言えそう で、もっと新鮮な気持ちで観たかったとも思う作品だ。公開 は2019年2月9日より、全国ロードショウ。)
『めんたいぴりり』 (韓国釜山の惣菜料理だった辛子明太子を福岡に根付かせた 「ふくや」の創業者を描いた作品。戦後に韓国から引き揚げ てきた主人公は、焼け野原だった中洲に食料品店を開き、働 き者の妻の切り盛りの許、貧しいながらも従業員も抱える店 にしていた。ところが主人公の関心事は「博多祗園山笠」と 日本人の口に合う明太子の完成。そのためには家計も注ぎ込 む主人公だったが…。息子の同級生の女子が遠足に持って行 くリュックも運動靴もないと聞かされて。出演は博多華丸と 富田靖子。他に博多大吉、中澤裕子、高田延彦、柄本時生、 田中健、でんでんらが脇を固めている。元は2013年にテレビ 西日本で制作放送された連続ドラマで、2015年には続編の放 送と舞台化もされたという人気作品を、主演の2人をそのま まに全編新作で劇場版にしたもの。公開は2019年1月11日か ら九州地区先行上映の後、東京は1月18日より新宿バルト9 他で全国ロードショウ。)
『輪違屋糸里 京女たちの幕末』 (壬生浪士=新選組の裏舞台を描く浅田次郎原作の映画化。 幕末・京都の花街に身を置く女性たちを主軸に、土方歳三ら による芹沢鴨一派襲撃の顛末が描かれる。出演は2015年『ソ ロモンの偽証』でデビューの藤野涼子。他に溝端淳平、松井 玲奈、佐藤隆太、新妻聖子、石濱朗、榎木孝明、田畑智子、 塚本高史らが脇を固めている。監督はテレビ『鬼平犯科帳』 などを手掛けてきた加島幹也。花街の艶やかさなどもそれな りに描かれていた。ただし原作者は女性の目線で新選組を描 いたとしているようだが、結局のところは男性に振り回され るままの女性の姿と言えるだろう。これが現実だろうし、男 性が描くことの限界なのかも知れない。でもまあ過去の幕末 ものとは一味違う趣向の展開であることは間違いない。因に 壬生浪士には女性隊士がいたという説もあるようで、そんな 史実にも裏打ちされている。公開は12月15日より、東京は有 楽町スバル座他にて全国順次ロードショウ。)
『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』 (2018年8月紹介『あいあい傘』などの宅間孝行脚本、監督 によるラヴホテルを舞台にしたソリッドシチュエーション・ ドラマ。主人公は悪徳?刑事。その刑事がホテルの部屋に隠 しカメラを設置し、デリヘル嬢を呼び寄せる。ところが情事 に耽ろうとした時、刑事の妻の婦人警官が部屋に踏み込み、 取り乱した刑事がデリヘル嬢を撃ってしまう。そこで死体を 処理するために情報屋のヤクの売人が部屋に呼ばれるが、そ こにデリヘルのマネージャーも現れ…。弱みを握る者、握ら れた者の思惑が錯綜して事態は思わぬ方向に展開する。出演 は14年ぶりの映画主演という三上博史。他に酒井若菜、波岡 一喜、三浦萌、柴田理恵、阿部力らが脇を固めている。8月 紹介の作品は舞台で上演したものの映画化だったが、本作は どうなのかな。細かいギャグなどはそれなりに笑わせるが、 全体は少し詰めが甘い感じもした。公開は2019年1月18日よ り、東京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)
『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』 (2010年2月と2011年9月にも紹介した地方のローカル線を 舞台に鉄道にまつわる人々を描くシリーズ第3作。本作の主 人公は夫に急逝された若妻。その夫には連れ子がおり、彼女 は血の繋がらないシングルマザーだった。そんな2人が夫の 生家を訪れる。その家には定年を迎えた列車運転士の父親が 1人で暮らしており、そこで取り敢えずは安定した生活を手 に入れた母子だったが、鉄道マニアだった亡き夫の遺品に触 れる内、いつしか彼女は運転士の道に進むことを決意する。 しかしその道は容易なものではなかった。出演は有村架純、 國村隼、歸山竜成。他に桜庭ななみ、木下ほうか、筒井真理 子、板尾創路、青木崇高らが脇を固めている。脚本と監督は 2013年2月紹介『旅立ちの島唄』などの吉田康弘。お話は少 し甘い気もするが、背景となる肥薩おれんじ鉄道の魅力はし っかりと伝わっていた。公開は11月23日から九州先行上映の 後、30日より全国ロードショウ。)
『バハールの涙』“Les filles du soleil” (中東で取材を続ける隻眼の女性戦場カメラマンと、女性戦 闘員の交流を描いた作品。その戦闘員は弁護士だったが家族 をISに惨殺され、息子を人質に取られている。さらにカメ ラマンも同業の夫を戦場で亡くし、娘を母国に置いて戦場に 赴いていた。そして戦闘員は息子救出のため果敢な作戦に打 って出るが…。2016年10月紹介『母の残像』では戦場カメラ マンの母親に残された家族を描いていたが、本作では母親側 の状況が描かれる。そこには平時と変わらぬ母親としての家 族への思いがあった。出演は2017年1月15日題名紹介『モン ・ロア』などのエマニュエル・ベルコと、2017年7月9日題 名紹介『パターソン』などのゴルシフテ・ファラハニ。脚本 と監督は女流のエヴァ・ユッソン。本作では実際のクルド人 自治地区に入って撮影が敢行され、その惨状を余すところな く伝えている。公開は2019年1月下旬より、東京は新宿ピカ デリー、シネスイッチ銀座他にて全国ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。 なお今週はもう1本観ているが、まだプレス資料等の用意が なかったので、その作品は後日掲載とします。
| 2018年11月04日(日) |
第31回東京国際映画祭<コンペティション以外> |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は、10月25日から11月3日まで行われていた第31回※ ※東京国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。な※ ※お、紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は※ ※最少限に留めたつもりですが、多少は書いている場合も※ ※ありますので、読まれる方はご注意下さい。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <ワールド・フォーカス部門> 『家族のレシピ』“Ramen Teh” 2014年10月紹介『TATSUMI マンガに革命を起こした男』など のシンガポールの俊英エリック・クー監督が再度日本文化の 一端との関りを描いた作品。高崎で父親と共にラーメン店を 営んでいた若者が、父の死後、彼が幼い頃に亡くなった母親 のレシピを求めてシンガポールを訪れる。単民族の日本と多 民族のシンガポール。そんな国際的な視点と、何より「家族 のレシピ」が巧みに組み合わされていた。出演は斎藤工。他 に松田聖子、伊原剛志、別所哲也。シンガポール側はマーク ・リー、ジネット・アウらが脇を固めている。
『それぞれの道のり』“Lakbayan” フィリピン映画生誕100周年を記念した同国で巨匠とされる ブリランテ・メンドーサ、ラヴ・ディアス、キドラット・タ ヒミック各監督によるオムニバス作品。中ではメンドーサ監 督の作品が社会性のあるメッセージも含めて一番面白かった かな。ディアス監督の作品はファンタスティックではあった が、何が言いたいのか良く判らなかった。そしてタヒミック 監督の作品は家族旅行のドキュメンタリーだが、これではた だのファミリーヴィデオの感覚で、凡庸という感じがした。 まあメンドーサ作品を観るだけで価値はあったが。
『カーマイン・ストリート・ギター』 “Carmine Street Guitars” ニューヨークの下町で手作りのギターを商う母親と息子と、 それにその弟子を追ったドキュメンタリー。その店には著名 なギタリストも訪れ、様々な演奏も聴かせてもくれる。その 一方でギターの材料となる樹木が失われている現状や、その 補填として壊される家屋の廃材を調達する話など、中々興味 深い話題も登場する。ただし映画のテーマは純粋に音楽で、 これが映画ファンにどうアピールできるものか。まあ顧客の 中にはジム・ジャームッシュ監督がいたりして、この辺は映 画ファンとしてニヤリとしたが。
『十年』“Ten Years Thailand” 2017年5月紹介の香港版と、2018年9月紹介の日本版に続く タイ国版。本作は4作品で構成される。因に本作では個々の 題名は示されなかったが、日本版の試写会で配布された資料 に仮題が紹介されていた。 そこに記載の概要と本作とを重ね合わせると、 1本目は「夕日/SUNSET」。軍隊による検閲が横行する時代 背景で、日常を写した写真展がその査察に遭い、つまらぬ言 い掛かりから自主規制を余儀なくされる。 2本目は「キャットピア/CATOPIA」。 主人公は普通に暮ら しているように見える若者だが、彼のいる世界は猫が支配し ており、人間は排斥の対象だった。 3本目は「プラネタリウム/PLANETARIUM」。 全体主義的な 体制の世界で若者たちは規律に縛られている。しかしその世 界の真の目的は他にあるようだ。 4本目は「都市の歌/SONG OF THE CITY」。街の中の広場に 建つ軍人の銅像の周辺で公園の整備工事が進んでおり、その 周囲では日常の営みが続いている。 前半の2本にはそれなりの問題意識も感じられ、ドラマ的に も成立していたが、後の2本は何が言いたいのか理解できな かった。タイ国民が観ればいろいろ考えるところがあるのか もしれないが。 この後には台湾版もあるようだが、どうなることか。
『プロジェクト・グーテンベルク』“無雙” チョウ・ユンファとアーロン・クォックのW主演で、贋金造 りの国際犯罪組織を描いたアクション作品。贋金造りでアク ションとはいかなるものかと思ったが、これが実に巧みな物 語になっている。さらに各種の仕掛けも満載で、謎解きも見 事。さすがに娯楽映画大国の香港作品と思わされた。脚本と 監督は『インファナル・アフェア』シリーズの脚本を手掛け たフェリックス・チョン。上映時間2時間10分の大作だが、 主演2人の日本での人気もあるし、これは是非とも一般公開 して欲しい作品だ。
『ノン・フィクション』“Doubles vies” 書籍編集者と小説家の関係を描いたフランス作品。ベストセ ラー作家の新作を巡って、物語のモデルにされた人物や不倫 の恋愛関係。さらにはその出版に疑義を感じる編集者などが 入り乱れる。ジュリエット・ビノシュ、ギョーム・カネらの 共演で、監督はオリヴィエ・アサイヤス。電子出版の話や現 代の出版界を取り巻く状況なども描かれるが、全体的に何か バランスが悪く、印象に残ったのは壮大な痴話げんかという 感触だった。ヴェネチア映画祭のコンペ出品作品とのことだ が、受賞は逃したようだ。
<アジアの未来部門> 『武術の孤児』“武林孤儿” 1990年代の中国内陸部で、伝統ある武術学校に国語教師とし てやって来た主人公を巡る物語。武術の鍛錬が最優先の学校 では武術以外の科目は有名無実で、その現実には馴れた主人 公だったが、そこに武術を好まない生徒がいたことから…。 映画祭では国際交流基金特別賞を受賞した作品だが、主人公 は特に学校の歪んだ状況を正そうとするものでもなく、単純 に現状を容認してしまう結論は、僕には納得できなかった。 ブルース・リーやジャッキー・チェン、ジェット・リーらの 名前が登場するのが審査員の好みだったのかな。
『ミス・ペク』“미쓰백” 実の親による我が子の虐待問題を扱った韓国映画。主人公の 女性は自身が母親から虐待を受けた記憶を持ち、そんな女性 が虐待の現場を目撃したことから、身を挺して被害に遭って いた子供を救済しようとする。しかしそれは犯罪行為に抵触 する事態になって行くが…。そこにそれまで主人公を護って きた刑事なども絡んで、事態は大事になってしまう。物語は 実話に基づくとされるが、虐待の有無を検証する謎解きなど 実に巧みな展開の作品で、さすがに韓国映画の実力発揮とい う感じもする作品だった。
『冷たい汗』“عرق سگی” 女子フットサル・イラン代表チームの主将も務める女性が、 マレーシアで行われる決勝大会に出場するため空港に向かう が、そこで夫が妻の出国を認める書類にサインしていないと いう事態に直面する。そこから夫のサインを得るための奮闘 が始まるが…。イスラム国家の男尊女卑が克明に描かれた作 品で、このような作品の製作が認められたことにも驚くが。 逆にこれなら映画化しても良いと考える体制側にも慄然とし た。同様の男尊女卑を描いた作品では、2007年5月紹介『オ フサイド・ガールズ』も思い出した。
<CROSSCUT ASIA部門> 『音楽とともに生きて』“In the Life of Music” 1968年、1976年、2007年の3つの時代のカンボジアの姿を、 1つの歌で繋いで描いた作品。それぞれの時代がビスタサイ ズ、スタンダード、ワイド画面+スタンダードのホームヴィ デオといった具合に描き分けられ、民主カンプチアによる正 しく人類史上最悪と言える残虐な時代を描き切っている。実 はプレス試写の会場からは数人が途中退室したが、それくら いの残虐さが描かれていた。第27回の映画祭<アジアの未来 部門>で上映された『遺されたフィルム』も思い出すが、こ れは人類として決して忘れてはいけないものだ。
『BNK48: Girls Don't Cry』 “บีเอ็นเคโฟร์ตีเอต: เกิร์ลดอนต์คราย” 2017年にタイ・バンコクで結成されたAKB48の姉妹グル ープ。その日本人を含む第1期生30人へのインタヴューを通 じて、彼女たちの約1年半の足跡が描かれる。そこにはシン グル発表ごとに行われる「選抜」の様子などもあり、選ばれ た者、落ちた者のドラマも展開される。以前には2012年1月 紹介の作品などAKBのドキュメンタリーを観たこともある が、若い素人の女性がプロの育って行く過程が本作にも描か れていたかな? 正直にはそこまでにも至っていない感じも したが、それなりの頑張りの様子などは、彼女たちのファン には贈り物と言えそうな作品だ。
『悪魔の季節』“Ang Panahon ng Halimaw” 2017年8月6日題名紹介『立ち去った女』のラヴ・ディアス 監督による上映時間2時間56分、しかも台詞はアカペラのロ ックオペラという怪作。マルコス政権が実施した民兵組織に よる弾圧が横行した時代。南部の辺境地で診療所を開設した 女医が行方不明となる。物語は実話に基づくとされており、 これも負の遺産と言える。ただし映画の形態は、単調な音楽 と歌詞が繰り返されて悪戯に時間を延ばしているようにも感 じられたが、繰り返し聞かされた音楽が暫らく耳を離れず、 その強烈な印象は残るものだった。 * * 以上、各部門の作品では今回は12本を鑑賞した。 コンペ部門の解説でも書いたが、今年は昨年まで実施され た事前試写が行われず。例年その段階でコンペ作品の半数近 くが観られたので、会期中は他の部門を多数観ることができ たが、今回はそれが叶わなかった。 また今回は、試写上映のネットでの予約も廃止され、この ため注目作品はかなり早くから会場近くに待機せざる得ず。 これも本数が減る原因となった。しかもこの待機列の形成に 関しては、多少のトラブルも発生した。 映画祭の運営方針など、いろいろあるのだろうが、僕らは できるだけ多くの作品を鑑賞したいと思っているので、その 点の配慮はお願いしたいものだ。
| 2018年11月03日(土) |
第31回東京国際映画祭<コンペティション部門> |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は、10月25日から11月3日まで行われていた第31回※ ※東京国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。な※ ※お、紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は※ ※最少限に留めたつもりですが、多少は書いている場合も※ ※ありますので、読まれる方はご注意下さい。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <コンペティション部門> 『詩人』“诗人” 中国映画の開幕は蒸気機関車。女性が露天掘りの鉱山で働く 夫に弁当を届けに行く。その夫は詩人でもあり、投稿した詩 が雑誌に掲載されて原稿料が送られてくる。そんなこともあ り夫は有名になって行くが…。背景は1980年代、��小平政権 が経済改革を進め始めた頃。徐々に変って行く社会の中で、 夫婦の立場も微妙に変化して行く。昨年の<ワールド・フォ ーカス部門>では韓国映画の『詩人の恋』が上映されたが、 本作は時代背景も含めて少し違った物語にはなっている。た だしそれが観客の目にどう映るか、それが少しノスタルジー に偏っている点が気にはなった。しかもこのノスタルジーは 部外者には判り辛い。また結末が少し前から読めてしまうの も、多少物足りない感じがした。
『堕ちた希望』“Il vizio della speranza” イタリア映画の開幕は川面を疾走するボート。そこには若い 女性と舟を操縦する中年の男性が乗っており、彼らは多数の 男たちに追われている。そして主人公は売春組織に関ってい るらしい女性。彼女は組織の中で売春婦たちの手配をしてい る。しかもその組織では妊娠した売春婦に別の使い道もある ようだ。実はこの展開を理解するまでに多少手間取った。し かし判ってみるとその内容はかなり強烈だった。物語は最後 に救いはあるが、主人公の名前や彼女が辿る運命に宗教的な 意味合いも感じられ、その点がいろいろ悩ましくもあった。 でもまあ普段のイタリア映画からは想像もつかないような風 景の中で、骨太な物語が展開されて行く。こういう映画が観 られるのも映画祭の魅力だ。
『ホワイト・クロウ』“The White Crow” 日本では2011年12月紹介『英雄の証明』以来となるイギリス の俳優レイフ・ファインズによる監督作品。旧ソ連の出身で 史上最高のバレエダンサーと言われたルドルフ・ヌレエフの 姿を、現役ダンサーのオレグ・イヴェンコを主演に迎えて映 画化。田舎町の出身ながらトップクラスのバレエ団に上り詰 めるまでの道のりと、初のヨーロッパ公演での出来事が並行 して描かれる。映画では過去の出来事がモノクロワイドと、 1961年当時の出来事がカラービスタサイズで描かれるが、実 は1961年当時の出来事には2つの状況があって、それらが区 別されていないのが判り難い。主人公の服装や髪形など微妙 に違ってはいたようだが、主人公の決断に至る肝心の部分は もっと明確に描き分けて欲しかった。
『翳りゆく父』“A Sombra Do Pai” 母親を亡くした少女が怪しげなまじないに傾倒して行き、一 方の父親はリストラなども重なって徐々に尋常でなくなって 行く。そんな中で娘の行動は過激さを増して行き…。女性監 督の作品だが、劇中には『ペット・セメタリー』や『ナイト ・オブ・ザ・リビング・デッド』なども引用され、主人公の 少女との繋がりも巧みに表現された作品だった。正に王道の ホラーという感じの作品でもある。なお本作ではQ&Aにも 参加したが、そこでプロデューサーは本国での大統領選挙の 行方を気にしており、極右候補が当選したら今後のブラジル 映画はかなり窮屈になりそうだとのことだった。結果はそう なってしまったものだが、同国の映画では社会性のある作品 も多かったので、気掛かりなところだ。
『三人の夫』“三夫” 2018年2月4日題名紹介『メイド・イン・ホンコン』などの フルーツ・チャン監督による香港の人魚伝説に基づく作品。 映画祭のジャンル分けではSFファンタシーとなっているも のだが、期待して観に行ったらかなり頭を抱えてしまった。 特にジャンルに関してはどこがそうなのかも理解できなかっ たもので、一応そのテリトリーにいる者としては対処に困っ たものだ。内容は人魚かも知れない女性が登場し、彼女を食 い物にする3人の夫との関係を描いたものだが、自分の理解 力が乏しいのか、これがファンタシーとはどうしても思えな かった。それに風刺性も、過激と言えば過激な映像に隠れて 読み取ることができないものだった。内容に合わせた演技の 主演女優が頑張っていたことは認めるが…。
『アマンダ』“Amanda” 今ヨーロッパで起きている新たな悲劇を題材にしたフランス 映画。この題材自体は先に描かれているのかもしてないが、 その当事者をここまで描き切った作品は初めてのように思え る。特に悲劇の後で泣くことさえ忘れたような少女の姿が痛 切に心に刻まれた。また彼女を困難の中で支えようとする若 者の姿も素晴らしい。状況の異なる日本では、海外から頻繁 に報道されるこの悲劇を真に理解することは難しいと思って いたが、この作品を観ているとその心情を共有することがで きる気持ちにもなった。もちろんこれで悲劇が終る訳ではな いし、今後も繰り返されてしまうかもしれないが、この気持 ちを理解した上で今後の報道に接したいとも思ったものだ。 正に今観るべき映画と言える作品だ。
『テルアビブ・オン・ファイア』“Tel Aviv Al HaEsh” パレスチナの女スパイがイスラエルの将校との恋に落ちると いう展開の昼メロドラマの撮影現場を背景に、そのドラマで ヘブライ語の台詞の言い回しなどの監修を行うことになった プロデューサーの甥が、仕事熱心さ故にいろいろなトラブル を引き起こす。まあコメディとしては有り勝ちな展開のよう にも思えるが、何せ舞台がイスラエル/パレスチナというこ とで政治的な背景などが巧みに描かれて行く。それは部外者 には判り難いところもありはするのだが、観ていると何とな く納得できるように作られているのも見事と思える作品だ。 それに落ちの付け方が、吉本新喜劇張りに強引なものなのだ けれど、それが映画と劇中劇のドラマの両方で巧みに収まる のも感心する作品だった。
『シレンズ・コール』“Son Çıkış” イスタンブール市街地の再開発工事に関っていた主人公が、 以前に知り合いだった女性から南部で運営されているオーガ ニックなコミュニティを教えられ、嫌気の差していた勤務先 を退職してそこに向おうとする。ところが退職と同時に支給 されていた乗用車は返却、クレジットカードも停止され、そ れでも突き進もうとする主人公はいろいろなトラブルに巻き 込まれる。基調はコメディで主人公を襲うトラブルにはかな り強烈なものも含まれる。ここは少しスラップスティックな 感覚もあって楽しめた。ただし前半の面白さに比べると後半 が平凡かな。特に結末は主人公のそこまでの有りようからす ると、これではあまりに普通な気がして、ここにはもっと過 激な捻りの欲しい感じがした。
『ザ・リバー』“Ozen” 文明から隔絶された辺境の地に暮らす5人兄弟の日々を描い たカザフスタンの作品。両親はいるがあまり関っては来ず。 幼い末弟もいる兄弟は長男を中心に家庭内のいろいろな仕事 を分担し、また遊びも5人で一緒だった。ところがそこに都 会育ちの少年がきて、兄弟の関係性が崩れ始める。そしてあ る事件が起きる…。時代背景などが今一つ不明で、物語には 何か寓意があるようにも感じられるが、それも明確にはなら ない。ただ砂丘や岩山や急流の大河も含む風景は、何となく ファンタスティックで、その辺の描写は面白く感じられた。 風景には2014年<コンペティション部門>で上映『草原の実 験』も思い出したが、文明に対する批判もあるのかな。その 辺も理解できなかった。
『氷の季節』“Før frosten” 19世紀デンマーク、その農耕地帯を舞台にした人間ドラマ。 物語の中心は父親と娘、それに甥2人の4人暮らしの一家。 しかし凶作などで極貧の生活になっている。そこにスウェー デン人の豪農が現れ、新たな作物のために土地の買収を申し 出る。これに対して父親は、寡男の豪農に娘を嫁がせ、一つ の家族にして安泰を考えるが…。その祝いの宴の最中に事件 が起きる。物語を書くとかなりとんでもない話のようにも見 えるが、映画自体はオーソドックスで破綻もない。寧ろ上手 く行き過ぎるという感じもしてしまうものだ。でも描かれる 物語は厳しい。雰囲気には、時代背景は異なるが2002年2月 紹介『シッピング・ニュース』を思い出すかな。これが北欧 の感じなのだろう。
『ヒストリー・レッスン』“Clases de Historia” 世代の異なる女性2人の交流を描いたメキシコ映画。主人公 はベテラン教師。その教室に反攻的な転校生が入ってくる。 そして生じたトラブルから2人は共に学校へ行くことができ なくなる。ところが生徒が教師の自宅を訪ねて来て、徐々に 交流が深まって行く。そして2人は、生徒が子供の頃に父親 に連れて行かれたという伝説の山の洞窟を目指すことになる が…。映画祭のジャンル分けではただのドラマになっている が、物語には多少ファンタスティックなところもあり、特に 結末のシーンには不思議な雰囲気も漂っていた。これを無理 にファンタシーと呼ぶ気はないが、魔女伝説への言及など、 僕の心には何かが響く感じもした。もしかすると2人のどち らかが? そんなことも考えてしまった。
『大いなる闇の日々』“La Grande Noirceur” 第2次世界大戦下のアメリカで、チャップリンの物真似をす る芸人が辿る数奇な運命を描いたカナダ作品。主人公は道端 で親切そうな男に声を掛けられ、男に言われたままにとある 町に辿り着くが、そこではとんでもない事態が待ち受けてい た。大戦下ということのいろいろな事象は提示されるが、物 語自体は時代背景を超えた不条理劇のような感じで、何とも 摩訶不思議な展開になる。これが何を意味しているのかは理 解し辛いが、中で流されるアーカイヴの音声には現代に対す る批判のような感じもして、それが制作者の意図なのかとも 思わされた。不条理劇ということではファンタシーの範疇に なるかとも思わせるが、そこまでの意図はないと考える。で も不思議な感覚の作品だった。
『ヒズ・マスターズ・ヴォイス』“Az Úr hangja” スタニスワフ・レムが1968年に発表した長編小説の映画化。 ハンガリー人の若者が幼い頃に姿を消した科学者の父を探し てアメリカにやって来る。実は過去に起きた未解決事件を探 るテレビ番組に父親の足跡を見出し、その真相を探ろうとし ていたのだ。ところがその事件には米国防省が関っているよ うで、中々真相には辿り着けないが…。レムの原作は邦訳が 見つからなかったが、ウィキペディアの記事によると科学者 の父親側の話だけのようで、息子の話は映画化の創作のよう だ。それでその部分がSFかどうかが問題になるが、多少微 妙かな。それより原作のSFの部分がかなり削られているよ うで、それも問題だろう。ただしプロローグと間奏の部分が 原作にあるかどうか判らないが、これがかなり気になった。
『愛がなんだ』 2017年1月29日題名紹介『退屈な日々にさよならを』などの 今泉力哉監督が、直木賞作家・角田光代の同名恋愛小説を映 画化。1人の男性に想いを寄せるも、その想いに応えて貰え ない女性を描く。主人公は勤務中も彼氏からのメールを待ち 続け、呼び出しがあれば夜中でも彼氏の許に駆けつける。そ んな献身的な女性だが、彼氏の方は用事が済めば適当に追い 返したり、遂には別に彼女ができたと言ってその場に主人公 を呼び出したりもする。以前にも書いたように、この監督の 作風は性に合わないが、本作でもその点は同じ。ただし本作 は原作物ということで違いが出るかと思ったが、作品は原作 の台詞をそのまま朗読劇のように描いている感じで、違いは 出たものの好ましくはなかった。
『ブラ物語』“The Bra” アゼルバイジャン・バクー鉄道を背景に、住宅地の軒先すれ すれを走る列車の機関士が、その前面に貼り付いた洗濯物の ブラジャーを巡って物語を紡ぎ出す。機関士はそのブラの持 ち主を探して沿線の住宅を巡り歩くのだが、それが人々との 交流やトラブルも生じさせてしまう。何しろ軒先すれすれを 走る機関車の存在感が抜群で、それに絡むエピソードはどれ も面白い。それに比べると機関車を離れてからの主人公の行 動はちょっと変化に乏しいかな。途中では思い切ったことも してはくれるが、その後がまた単調になってしまう。ここに はもう二捻りか、三捻りくらい欲しかった。それと台詞なし というアイデアは悪くはないが、ちょっと無理が感じられる ところもあり、活かし切れてはいなかった。 * * 以上で今回はコンペティション部門の16作品中15本を会期 中に鑑賞した。実は今回は、コンペ作品を会期中に観なけれ ばならない制約があったため、すでに試写状が届いている日 本映画を後回しにしたものだ。 そこで僕が選ぶ各賞は、 東京グランプリ:ヒズ・マスターズ・ヴォイス 審査員特別賞:アマンダ 最優秀監督賞:ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ (翳りゆく父) 最優秀女優賞:イゾール・ミュルトゥリエ(アマンダ) 最優秀男優賞:イェスパー・クリステンセン(氷の季節) 最優秀芸術貢献賞:氷の季節 最優秀脚本賞:ヒストリー・レッスン 観客賞:テルアビブ・オン・ファイア
これに対して実際の受賞は 東京グランプリ:アマンダ 審査員特別賞:氷の季節 最優秀監督賞:エドアルド・デ・アンジェリス (堕ちた希望) 最優秀女優賞:ピーナ・トゥルコ(堕ちた希望) 最優秀男優賞:イェスパー・クリステンセン(氷の季節) 最優秀芸術貢献賞:ホワイト・クロウ 最優秀脚本賞:アマンダ 観客賞:半世界
グランプリに関しては、今年の僕は敢えてSF作品を推さ せて貰う。この作品は昨年度のグランプリに比べても優れて いると思うし、上ではいろいろ書いたけれど、映画用に創作 された部分は、それがレムかどうかは別としてそれなりに良 く出来てはいた。特にプロローグと間奏の部分は、物語に新 たな解釈を加えるもので、それもSF的に面白かった。 審査員特別賞は、時節的に選ばれて良い作品だし、実際の 受賞でグランプリなのも頷ける。監督賞は、実は女性の監督 だったことにも驚いたもので、ジャンルへの思い入れなどに 期待を込めて選んだ。 その他の賞では、観客賞に関しては実際に選ばれた作品を 僕はまだ見ていないので、本来は保留とするべきだろうが、 自分で選んだ作品は今回鑑賞した中では一番面白かったし、 テーマ的にも惹かれるところが多かった。
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