| 2017年11月26日(日) |
ZEN FOR NOTHING〜何でもない禅〜、エターナル |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ZEN FOR NOTHING〜何でもない禅〜』“Zen for Nothing” 兵庫県淡路島在住のドイツ人監督が、同県の日本海側の山奥 にある禅寺での生活の様子をスイス人の女優を中心に描いた ドキュメンタリー。 舞台となるのは安泰寺という禅宗の寺。元は大正10年に宗学 研究ための学堂として京都洛北に建てられ、多くの研究者を 輩出した。その後の第2次大戦中は荒廃したが、昭和24年に 純粋に座禅を行う寺として再興。座禅と托鉢に徹した修行の 場として世間に知られ、国内だけでなく世界各国から修行者 が集まるようになった。 ところがその場所は人員の増加と周囲の宅地化とで修行には 相応しくなくなり、昭和51年に但馬の山奥に移転。自給自足 を旨とする寺として再出発。さらに現在は兵庫県日本海側の 山奥に50ヘクタールの境内地を有し、自給自足の生活を実践 しながら座禅修行に徹する場所となっている。そこにスイス 人の女優がやって来る。 彼女は長時間のフライトの後、長距離バスと鈍行列車を乗り 継ぎ、さらにリュックサックを背負って山道を徒歩で進み、 見えてきた長い石段を登った先で寺に到着する。そこで彼女 は修行僧の挨拶を受けた後、禅寺での作法が伝えられる。そ して早朝3時45分に起床し、禅堂で白壁に向って座り続ける 座禅の日々が始まる。 さらに初心者には難しい食事の作法や、作務としての掃除、 農業、林業、薪割り、建物の修復などの厳しい作業の様子が 描かれる。一方、寺の修行僧の多くが世界各地から集まった 男女の若者たちであり、彼らのコミュニケーションは身振り 手振りを交えた数か国語で行われる。そんな彼らの中心とな るのが、ドイツ生まれの禅僧で住職のネルケ無方師だ。 とまあ、かなり回りくどい紹介になってしまったけれど、何 と言うか、例えば禅宗と言えば永平寺辺りの清冽で如何にも 修行していますというのはちょっと違った感じの、身近に思 える禅修行の様子が描かれていた。どちらが良いのかは部外 者の僕には判らないけれど、観ていて自分が癒されて行く、 そんな感じがしたのは確かだ。 実はこの試写を観た日の午前中には、他社の試写会の申し込 みについてトラブルがあって、多少沈んだ気分になっていた のだが、この試写を観てその気分も晴れやかになった。映画 を観ることでいろいろな疑似体験をすることができるが、僕 にとってこの映画はそんな癒しを実体験できる作品だった。 出演は、2008年のテレビスリラー『薬禍』でスイス映画賞を 受賞しているというサビーネ・ティモテオ。監督は、昨年劇 場公開されたドキュメンタリー『幸福は日々の中に』などの ヴェルナー・ペンツェルと茂木綾子。 公開は2018年1月2日より、東京はポレポレ東中野にて、お 正月ロードショウとなる。
『エターナル』“싱글라이더” 2015年7月紹介『ターミネーター:新起動/ジェネシス』な どのイ・ビョンホンと、2008年8月紹介『ハピネス』などの コン・ヒジョン、それに2017年7月紹介『新感染 ファイナ ル・エクスプレス』のアン・ソヒの共演で、かなりファンタ シーの要素もある作品。 イが扮するのは証券会社の支店長。自分の仕事を信じ親戚や 友人、それに自分自身も多額の資金を株式投信に投入してき た。ところが会社の目論みが破綻し、投資した金はすべて消 えてしまう。その状況が大きく報道される中で、彼は資金を 集めた顧客から攻撃の矢面に立たされる立場でもあった。 そんな顧客の暴力的な追及に身も心もボロボロになった日、 彼は先に妻子を移住させたオーストラリアへと向かう。それ は息子とヴァイオリニストでもある妻の英語研修の目的でも あったのだが…。訪れた妻子の住む家で、彼は妻が隣家の男 性と大麻に耽る姿を見てしまう。 その衝撃で街を彷徨った彼は、立ち寄ったラーメン店で1人 の韓国人少女の姿を認める。彼女は若い男女の乗った乗用車 で立ち去るが、やがて街をふらつきながら歩く少女を見つけ た彼はその事情を知り、彼女を助けようと行動を開始する。 しかしそれはある事実を彼に突き付けることになる。 脚本と監督は、2008年4月紹介『シークレット・サンシャイ ン』などのイ・チャンドン監督や、2017年7月2日題名紹介 『わたしたち』などのユン・ガウン監督らが主宰する大学院 プロジェクトで学んだ女流のイ・ジュヨン。女性の柔らかい 感性が、既存のテーマに新しい風を送り込んでいる。 実際何を書いてもネタバレになってしまう作品で、実はこう 書いただけで勘の鋭い人には結末が読めてしまうかもしれな いのだが。そこにこの監督(脚本)はもう1歩踏み込んだ別 の要素を展開してみせる。それはすでに手垢が付いているか もしれないこのテーマを新たなものにしている。 従来のこのテーマの作品では殆んどが男性の主人公で、本作 でもそこは同じなのだが、その展開に女性の目が新たな要素 を付け加えている。それが恐らく今までの作品ではなかった もので、その点だけでも本作は認められるべきものだと言え る。 それにしても、後半の展開では監督の生真面目さが現れてい るようで、実に丁寧にすべての事象に説明を付けてくれる。 しかしそれが煩わしくなく、心に沁みるように撮られている のも本作の良い点と言えそうだ。 公開は2018年2月より、全国ロードショウとなる。
この週は他に 『悪と仮面のルール』 (英訳本が2013年のWall Street Journal誌で年間ベスト10 ミステリーに選ばれたという芥川賞作家中村文則原作の映画 化。財閥家に生まれ、父親から邪悪になることを強制されな がらも、心を寄せる少女のため父親を殺した少年が、成長し て風貌を変え、成長した少女の周囲に呪縛のように絡み付く 悪を倒す。しかしそれは彼自身を悪に走らせることとなる。 出演は玉木宏、新木優子、吉沢亮。他に光石研、柄本明らが 脇を固めている。監督はロサンゼルスの大学で映画の演出を 学んだという中村哲平。物語は如何にも作り物という感じが 良いのだろう。でもテロリストの存在などはもう少し明瞭に 描いて欲しかったかな。公開は2018年1月13日より、東京は 新宿バルト9他で全国ロードショウ。) 『ロング、ロングバケーション』“The Leisure Seeker” (痴呆症の夫と、見た目は元気だが病で余命幾ばくの妻が、 子供に内緒で夫の運転するキャンピングカーに乗り、若い頃 からの憧れだった観光地を目指すロードムーヴィ。この老夫 妻をドナルド・サザーランドとヘレン・ミレンが演じて、そ れは最高の夫婦愛の姿を見せてくれる。監督は2016年『歓び のトスカーナ』などのイタリアの名匠パオロ・ヴィルツィ。 自分の母親が痴呆症なもので、描かれるエピソードには共感 するものも多い。その点ではよく研究された作品だと思う。 しかし結末に関しては何か別の展開は考えられなかったか。 テーマ的に最後がこうなるのは良しとして、そこに至る手順 を何かもっと考えて欲しく感じた。公開は2018年1月より、 東京はTOHOシネマズ日本橋他で全国順次ロードショウ。) 『blank13』 (俳優の斎藤工が「齊藤工」名義で撮った長編監督デビュー 作。13年間失踪していた父親の消息が判明するが、その父親 は余命3カ月だった。そして家族との溝も埋まらぬまま死ん だ父親の葬儀に母親は来なかった。しかしその場に集まった 人々の語るエピソードが空白の13年を埋めて行く。出演は高 橋一生、松岡茉優、斎藤工。他に神野三鈴、佐藤二朗、リリ ー・フランキーらが脇を固めている。物語は、放送作家はし もとこうじによる原作から2017年10月紹介『ゆらり』などの 西条みつとしが脚色。その脚本を齊藤監督が演出した。その 演出はそつなく行われているのかな。でももう少し監督の個 性みたいなものも欲しい感じはした。公開は2018年2月3日 より、東京はシネマート新宿他でロードショウ。) 『ピンカートンに会いにいく』 (2017年9月17日題名紹介『エキストランド』の坂下雄一郎 脚本・監督による商業映画第3作。かつてブレイク寸前で突 然解散した5人組アイドルグループ。その再結成プロジェク トが始動する。主人公は元のリーダーだったが…。解散時の 経緯が彼女を躊躇させる。映画制作の舞台裏に続いての芸能 界の裏話だが、前作よりメリハリが効いている感じで嫌味も なく心地よく観られた。出演は2012年7月紹介『鍵泥棒のメ ソッド』などの内田滋と2009年3月紹介『腐女子彼女。』な どの松本若菜。他に田村健太郎、山田真歩、水野小論、岩野 未知。またアイドル時代を小川あん、岡本夏美、柴田杏花、 芋生悠、鈴木まはなが演じている。公開は2018年1月20日よ り、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。) 『長江愛の詩』“長江圖” (中国国土を東西に流れる大河揚子江。その河口から源流ま でを遡る貨物船の船長とその父が遺した大河の詩。そして船 が向う先々で出会う女性。船長と女性は身体も交わすが、や がて彼女の存在は人智を超えたものになって行く。監督は、 2004年の長編第1作がカンヌ映画祭のカメラドールに輝いた 俊英ヤン・チャオ。受賞以来14年の歳月を掛けた第2作だ。 そして本作では、撮影監督に2009年6月紹介『空気人形』な どのリー・ピンビンを迎えて、35�丱侫�ルム撮影による素晴 らしい揚子江の景観がスクリーンに甦る。それは物語も超越 したもので、その映像は、ただスクリーンに対峙するだけで 悠久の時を感じさせる。公開は2018年2月17日より、東京は YEBISU GARDEN CINEMA他で全国順次ロードショウ。) 『アウトサイダーズ』“Trespass Against Us” (テレビの『ドクター・フー』やロックバンド=ケミカル・ ブラザースのコンサート映像などで知られるイギリスの監督 アダム・スミスが初の長編映画として手掛けたドラマ作品。 登場するのはトレーラーハウスに暮らす一族。家長の唱える 怪しげな教義の許に集う彼らは犯罪を生業とし、子供を学校 にも行かせず社会の外側で生きていた。そんな中で主人公は そこからの脱却を模索していたが…。出演は2012年7月紹介 『プロメテウス』などのマイクル・ファスベンダー、2013年 8月紹介『ランナウェイ』などのブレンダン・グリースン。 観ている時はただの犯罪集団かと思ったが、実はジプシーへ の差別と知って認識を改めた。公開は2018年2月10日より、 東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。) 『THE PROMISE 君への誓い』“The Promise” (20世紀初頭のオスマン帝国で起きたとされるアルメニア人 の大量虐殺事件。その被害者数150万人とも言われる事件の 全貌を、2005年11月紹介『ホテル・ルワンダ』などのテリー ・ジョージ監督が描いた作品。主人公は薬剤師一家に育った アルメニア人の青年。彼は近代医学を学ぶためイスタンブー ルの大学にやって来るが、そこでトルコ人によるアルメニア 人の迫害が勃発する。出演は、2015年8月紹介『アメリカン ・ドリーマー』などのオスカー・アイザックと、2016年1月 紹介『ザ・ウォーク』などのシャルロット・ルボン。他にク リスチャン・ベイル、アンジェラ・サラフィアン、ジェーム ズ・クロムウェル、ジャン・レノらが脇を固めている。公開 は2018年2月3日より、全国ロードショウ。) 『オレの獲物はビンラディン』“Army of One” (2011年5月に米軍がビンラディンを殺害する前年の6月に パキスタンで逮捕されたアメリカ人ゲイリー・フォークナー の物語。彼は2004年に神の啓示を受け、以来7度にわたって パキスタンを訪れ、独力でテロリストを追い続けた。この映 画は、逮捕当時に米国のみならず世界に配信されたニュース に基づき、2016年ケヴィン・コスナー主演映画化『ドラフト ・デイ』などのラジヴ・ジョセフとスコット・ロスマンが脚 本を執筆。2007年4月紹介『ボラット』などのラリー・チャ ールズの監督、主演ニコラス・ケイジで映画化されている。 いやはや観ていてばかばかしい限りの作品だが、これが実話 に基づくというのだから…。公開は12月16日より、東京はシ ネマート新宿他で全国順次ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2017年11月19日(日) |
霊的ボリシェヴィキ、フラットライナーズ、ダークタワー、星くず兄弟の新たな伝説 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『霊的ボリシェヴィキ』 1996年『女優霊』や『リング』シリーズの脚本家=高橋洋に よる2012年4月紹介『コラボ・モンスターズ!!』の一編『旧 支配者のキャロル』以来となる脚本・監督作品。 題名の「ボリシェヴィキ」は、旧ソ連時代のレーニン政権下 における過激派集団を指す言葉のようだが。それに「霊的」 と付くのは1970年代にオカルト研究家の武田崇元氏が造語し たものだそうだ。 ところがこの言葉が後のオウム真理教事件の際に援用され、 高橋監督はその頃からこれを題名にした映画を考えていたと のこと。そして「今回は造語した武田氏の了解も得て実現に 漕ぎ着けた」とは、試写前の挨拶での監督の発言だ。 そんな訳で本作の物語では、かなり過激なオカルト実験の模 様が描かれる。そこに集められたのは人の死に立ち会ったこ とがあるとされる7人の男女。会場にはテープレコーダーが 設置され、マイクに向って各々がその状況を語り始める。 その会場は町工場のようだが、何か特別な場所なのか? 話 が進むうちに様々な現象が起こり始める。そしてついに実験 の意味の問われる時が来るが…。 出演は、2017年3月紹介『いぬむこいり』などの韓英恵と、 2015年『おんなのこきらい』などの巴山祐樹。2016年2月紹 介『ドロメ』などの長宗我部陽子。他に2017年5月14日題名 紹介『ぼくらの亡命』などの高木公佑、2017年8月20日題名 紹介『南瓜とマヨネーズ』などの近藤笑菜。 さらに2016年11月27日題名紹介『変魚路』などの河野知美、 2014年『ホットロード』などの子役の本間菜穂、映画『赤い 橋の下のぬるい水』などの南谷朝子、2013年4月紹介『フィ ギュアなあなた』などの伊藤洋三郎らが脇を固めている。 ジャパニーズホラーの根幹を支えてきた高橋監督だが、本作 ではあまり恐怖感を煽る演出はせず、むしろ純粋にオカルト 的な興味を前面に出した作品になっている。その辺がマニア ックには面白いが、一般向きかどうか。 その一方で結末の過激さは、多少のマニアでも退いてしまう 感じで、この辺はジャンル映画としてもどうなのかな? ス プラッターならそれでも良いのだけれど、ちょっと思想的な 過激さなのは気になったところだ。 でもまあそれが監督の個性なのだし、そこに外部がとやかく 言うところではないだろう。ただもう少し穏便に終らして欲 しかったという感じは持った。 いずれにしてもオカルトファンは必見の作品と言えるかな。 公開は2018年2月10日より、東京は渋谷ユーロスペース他で 全国順次ロードショウとなる。
『フラットライナーズ』“Flatliners” 1990年にジョエル・シュマッカー監督、キーファー・サザー ランド、ジュリア・ロバーツら若手スターの共演により映画 化された臨死体験を描くサスペンスホラーのリメイク。 今回の主人公は先進的な大学病院に勤務する女性の研修医。 新たな研究課題を模索する彼女は旧病棟の地下に災害時用に 設けられた医療設備に目を付け、仲間を誘って密かにある実 験を実行する。それは人工的に心停止を行い、死後の世界を 探求するというものだった。 そして彼女は自らに処置を施し、1分間の心停止の後に蘇生 が行われるが…。その臨死状態でも脳内には活動が見られ、 それは彼女にある体験を齎していた。しかも彼女は蘇生後に も活発な脳活動を披露し、立ち会った仲間はこぞって被験者 になることを志願する…。それが悲劇を生み出す。 出演は、2010年7月紹介『インセプション』などのエレン・ ペイジ、2013年8月紹介『エリジウム』などのディエゴ・ル ナ、2017年2月5日題名紹介『トリプルX:再起動』などの ニーナ・ドブレフ。 さらに2016年6月19日題名紹介『DOPE ドープ!!』などのカ ーシー・クレモンズ、2014年『ターナー』などのジェームズ ・ノートン。そしてサザーランドが大学教授の役で顔を出し ている。 脚本は、2011年8月紹介『ミッション:8ミニッツ』などの ベン・リプリー。監督は、2009年10月紹介『ミレニアム/ド ラゴン・タトゥーの女』などのニールス・アルデン・オプレ ヴが担当した。 1990年のオリジナル版は、確か銀座のヤマハホールで行われ た完成披露試写会で観たはずだが。正直に言って当時の僕の 感覚では、話は判るが物語の本質のようなものが全く理解で きなかった印象がある。 それを今回のリメイク版で観直していて、作者の言わんとす るところは理解できたかな? サイトでオリジナル版の概要 を読むと話はほとんど変わっていないはずだが、細かい描写 の違いなどが、僕の理解力を高めてくれたようだ。 実際当時の演出では、現実と幻影の区別があまり付いておら ず混乱した記憶があったが、今回はその辺も明確だったよう に感じる。それはこちらの理解力が上ったせいもあるかもし れないが。 いずれにしても、禁断の実験が引き起こす恐怖は極めて明確 に理解できたもの。これならSF映画としても秀作と呼べる 作品だ。 公開は12月22日より、全国ロードショウとなる。
『ダークタワー』“The Dark Tower” スティーヴン・キングが学生時代から半生を掛けて創作した 全7部(邦訳の文庫本では16冊)に及ぶ大河小説の映画化。 映画の主人公はニューヨークに暮らす少年。少年は夜毎に悪 夢を見ており、そこには暗黒の塔が聳え、その塔を護る者と 破壊しようとする者との闘いが続いていた。そして少年は、 その塔の破損が現実世界に災厄を齎していると信じ、絵に描 いて周囲に訴えていたが、信じる者はいなかった。 しかも少年が「妄想」の治療と称して施設に収容されそうに なった時、少年は啓示を受けて中間世界へと旅立つ。その中 間世界には塔を護るガンスリンガーがいて、その拳銃使いと 行動を共にすることになった少年は、異世界とニューヨーク を行き来する壮大な闘いと冒険に巻き込まれる。 出演は、少年ジェイク役に新人のトム・タイラー、ガンスリ ンガー役には2016年9月紹介『スター・トレック BEYOND』 などのイドリス・エルバ、それに黒衣の男役に2016年11月紹 介『ニュートン・ナイト』などのマシュー・マコノヒー。 さらに、2014年3月紹介『ロボコップ』などのジャッキー・ アール・ヘイリー、2015年『アベンジャーズ』などのクラウ ディア・キムらが脇を固めている。 監督は、子供の頃からのキングのファンで、翻訳を待ちかね て原書を読むために英語を独学したというデンマーク出身の ニコライ・アーセル。 脚本は2016年3月紹介『フィフス・ウェイブ』などのアキヴ ァ・ゴールズマン&ジョン・ピンクナーのオリジナルから、 2007年9月紹介『ある愛の風景』などのアナス・トーマス・ イェンセンと監督のアーセルが執筆している。 原作は最初に書いたように長大なものだが、本作ではそれを 何と1時間35分で描いている。 というのも原作は、キングの著作の集大成とも言われ、様々 な作品の登場人物やその舞台が関ってくるものだが、映画化 ではその中の少年ジェイクの物語だけに絞り、その他の部分 は全て排除しているものだ。 従って原作の読者にはあっけなさ過ぎるものになっているか もしれないが、実は僕自身が映画化の企画発表の直後に原作 を読み始めて、第1部の途中で投げ出してしまったもので、 その評価は僕にはできない。 しかしキング自身がこの映画化を称賛したという話もあり、 これはこれで有りだということのようだ。 というもの原作を読んでいた時にはその世界観みたいなもの がなかなか把握できなかったが、この映画化を見るとその点 がかなり丁寧に描かれていて、それを踏まえて改めて原作に 挑戦したくもなった。 その意味ではこの映画化は、原作を妨害せずに読書意欲を掻 き立てる作品になっているのかもしれない。因にサイトで主 演のエルバの項を見ると、この後にテレビシリーズ版の計画 も予告されているようだ。 公開は2018年1月27日より、全国ロードショウとなる。
『星くず兄弟の新たな伝説』 1985年に公開された映画『星くず兄弟の伝説』から、オリジ ナルを手掛けた手塚眞監督が、2009年『罪とか罰とか』など のケラリーノ・サンドロヴィッチと共に執筆した新たな脚本 で描いた続編。 物語はオリジナルのデュオを演じた2人が再び顔を合わせ、 若返りマシンで若者となって、再度ロック界の頂点を目指す というもの。そこに芸能界のドンと呼ばれる芸能プロの社長 や、最初は売れていないが立場が逆転して行く女性タレント などが絡むのは、ほぼ前作と同じ展開だ。 ただし本作の舞台は月面。そこでロックの魂と呼ばれる石を 探す旅が新たな要素?として加わっている。さらにその物語 の端々にミュージシャンや漫画家など、様々な分野からのゲ スト出演が観られるのはオリジナルと同じコンセプトだ。 出演は、2014年『るろうに剣心』などの三浦涼介と、2017年 9月紹介『リンキング・ラブ』などの武田航平、2009年9月 紹介『戦慄迷宮3D』などの荒川ちか。そこにオリジナルか ら高木完と久保田慎吾とISSAY。 さらに元グラビアアイドルで歌手の谷村奈南、アニメ声優の 田野アサミ。そしてラサール石井、浅野忠信、夏木マリ、井 上順、内田裕也、元AKB48の板野友美らが脇を固めてい る。 本作は2016年に製作されたもので、昨年の東京国際映画祭に Out of Competitionとして上映された。その作品がようやく 公開される。 その本作はSF映画と称しているようだが、僕はSFファン として本作を観ていて、なぜ舞台を月面にしたのかが理解で きなかった、この内容なら地球上のアメリカ西部辺りを舞台 にしても支障ないと思うのだが…。 しかもそこで、大気の問題や重力の問題は、劇中で「些細な ことを言うな」と開き直られてしまい。そこは逆に人工重力 などを設定すればSF的に問題の生じないのだが。月面に於 いて「地球が沈む」というのは看過できない。 元来、月は常に同じ面を地球に向けていることから、月面で 見る地球は常に同じ位置にあって沈むことはない。実は最初 の台詞は「地球が沈む場所」と言っていて、月面を移動して そのように見える地点を探すのかと思いきや、後半で「地球 が沈む時」という台詞が出てしまった。 他にも日没のシーンが出てくるが、月の昼夜は満ち欠けと一 緒で約29日掛るもので、映画に出てくるような速度で日没す ることはない。恐らく主人公らの行動時間で考えると昼夜が 変ることもないはずだ。 これらは、上述の大気や重力の問題とは違って明らかに科学 的な常識のなさを露呈しているもので、SF作家クラブの主 要なメムバーであった監督のお父さんにも申し訳なく思って しまうものだった。 公開は2018年1月20日より、東京はテアトル新宿他で、全国 順次ロードショウとなる。
この週は他に 『女の一生』“Une vie” (2013年6月20日「フランス映画祭」で紹介『母の身終い』 などのステファヌ・ブリゼ監督が、フランスの文豪ギイ・ド ・モーパッサンの名作に挑戦した作品。そこそこの格式の家 に生まれた女性が、親や夫、親友、最期は子供にまで裏切ら れながらも健気に生きて行く姿が描かれる。本作も原作を見 事にダイジェストしたと言える作品で、特に各エピソードの 終りを省略したり、逆にシーンの終りの台詞を次に被せるな ど、極めて映画的な処理で映画がダイジェストであることを 印象付けると共に、映画としての見応えを確かなものにして いる。正しく名人技と言え、これが映画の醍醐味だとも言え る作品だ。公開は12月9日より、東京は神田の岩波ホール他 で全国順次ロードショウ。) 『サファリ』“Safari” (2001年『ドッグ・デイズ』でヴェネチア国際映画祭審査員 特別大賞受賞などのウルリッヒ・ザイドル監督がアフリカ・ ナミビアでのトロフィー・ハンティングと呼ばれる遊興狩猟 を密着取材したドキュメンタリー。実は2016年東京国際映画 祭ワールド・フォーカス部門で上映されたが、当時は紹介文 を読んで鑑賞を止めた。それは紹介文に射殺した動物と共に 記念撮影をするシーンや動物の皮を剥ぐシーンが登場すると あったもので、自分には耐えられないと思われからだ。しか し今回は試写状も届いたので観に行った。その感想は、映画 としては極めて冷静な目で撮られたもので、状況を正確に把 握できる優れた作品だった。公開は1月下旬より、東京は渋 谷イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。) 『Mr.Long/ミスター・ロン』 (2013年8月紹介『Miss ZOMBIE』などのSABU監督が、 台湾の人気スター、チャン・チェンを主役に招いた殺し屋が 主人公の作品。辣腕のナイフ使いが来日するが仕事に失敗。 軽トラックに潜り込んで着いたのは北関東の寒村だった。そ こで台湾から来たシングルマザーと出会い…。実はど真ん中 にとんでもない偶然があるのだが、その偶然を本編に全く絡 ませないことで物語を成立させる。この離れ業というか、力 技に心酔してしまった。これが映画だと言える作品だ。共演 は台湾のオーディションで選ばれたイレブン・ヤオとパイ・ ルンイン(子役)。さらに劇団EXILE青柳翔。他に諏訪太郎、 千葉哲也らが脇を固めている。公開は12月16日より、東京は 新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。) 『坂本龍一‐PERFORMANCE in NEW YORK: async』 (2017年10月1日題名紹介『Ryuichi Sakamoto: CODA』で言 及されたアンドレイ・タルコフスキー監督の1972年『惑星ソ ラリス』に触発されて独自に創作したという楽曲。そのNY で行われたコンサートの模様を撮影した作品。会場の中央に は1台のグランドピアノが置かれ、その周囲にギターから打 楽器、電子装置までの様々な楽器が配置されている。そして 演奏はピアノから始まり、周囲の楽器に展開されて行く。因 に題名のasyncとは「非同期」という意味で、その言葉通り の演奏が行われる。その何カ所かには映画のシーンが思い浮 ぶ瞬間もあり、成る程これが坂本版『ソラリス』などだと思 える作品だった。公開は2018年1月27日より、東京は角川シ ネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。) 『ちょっとまて野球部!』 (新潮社発行の隔月刊漫画雑誌「ゴーゴーバンチ」に連載中 のゆくえ高那原作漫画からの実写映画化。主人公は子供の頃 に父親から甲子園を目指せと言われたのを信じて野球一筋で 来た高校1年生。そして高校の野球部が夏の大会の敗退して 3年生が引退し…。ネットの試し読みを見たら原作の始まり もほぼ同じで、忠実な映画化なのかな。それにしてもこれが 今でも通用するのかと思うような古典的ギャグの連続で、そ れが凄いと思える作品だった。出演は2017年4月23日題名紹 介『獣道』などの須賀健太と2017年9月3日題名紹介『覆面 系ノイズ』などの小関裕太、2016年7月31日題名紹介『仮面 ライダーゴースト』などの山本涼介。公開は2018年1月27日 より、東京は池袋HUMAXシネマズ他で全国ロードショウ。) 『スキャンダル』“스캔들 - 조선남녀상열지사” (2004年「ヨン様」人気絶頂期に日本公開された韓国映画が ディジタルリマスターされ再公開される。原作は2012年にも 中国と合作で再映画化されたフランス文学『危険な関係』。 ただし原作では合作版でチャン・ツィイーの演じた女主人が 主人公だが、本作ではペ・ヨンジュン扮する甥を中心に描か れる。そのためラヴゲームのお話が男の生き様みたいな物語 になっているのは、本作の味噌と言えそうだ。共演は2002年 6月紹介『燃ゆる月』などのイ・ミスクと、2011年5月紹介 『ハウスメイド』などのチョン・ドヨン。脚本監督は2007年 1月9日付「東京国際映画祭2006」で紹介『多細胞少女』な どのイ・ジェヨン。公開は2018年1月20日より、東京は渋谷 BUNKAMURAル・シネマ他で全国順次ロードショウ。) 『孤狼の血』 (2018年5月12日に全国公開される作品の試写会が早くも行 われた。この作品に関しては4月3日に製作発表記者会見が 行われて、作品に賭ける思いがひしひしと伝わってきたが、 作品の出来もそれに相応するものだった。物語は柚月裕子の 小説を原作とするが、昭和末期の広島を舞台に暴力団同士の 抗争と、警察との攻防が描かれる。出演は役所広司、松坂桃 李、真木よう子。他に滝藤賢一、中村獅童、田口トモロヲ、 ピエール瀧、石橋蓮司、江口洋介、嶋田久作らが脇を固めて いる。脚本と監督は、2016年『日本で一番悪い奴ら』の池上 純哉と白石和彌のコンビ。今、最も骨太な映画を作れる2人 が昭和の日本映画界を牽引した東映任侠映画の血を復活させ た。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2017年11月12日(日) |
ガーディアンズ、シェイプ・オブ・ウォーター |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ガーディアンズ』“Защитники” 2016年8月に予告編が動画サイトに投稿されて話題を呼び、 本国では2017年2月に劇場公開されたロシア版スーパーヒー ロー作品。 物語の起源は冷戦時代。旧ソ連では、遺伝子操作による超人 の誕生と、完全自動化による無人兵器の開発が並行して進め られていた。ところがそれらの主導権争いから対立が生じ、 抗争の挙句に研究は頓挫、歴史の闇に葬られてしまう。 それから数10年が経った今日、ロシア軍の新兵器実験場で突 然暴走が起き、それはソ連時代に無人兵器を開発していた科 学者の復讐と判明する。しかもその科学者は、自らも肉体改 造して世界征服を目論んでいた。 この事態にロシア軍部は、かつての超人研究の記録を再調査 し、当時遺伝子操作で生み出されながら姿を消し、その後は 世を捨てて隠れて暮らす超人たちの再結集を目指す。彼らは 人類にとっての最後の希望だった。 出演は、主にロシアテレビで活躍するアントン・パプシニ、 2015年9月紹介『ザ・ファントム』などのサンザール・マデ ィエフ(マディ)、2015年『FOUJITA』に出ていたセバスチ ャン・シサク。 原案と監督は、2015年にヘイデン・クリステンセン、エイド リアン・ブロディが共演した『クライム・スピード』などの サリク・アンドレアシアン、脚本は、監督の前作『キル・オ ア・ダイ 究極のデス・ゲーム』にも協力したアンドレイ・ ガヴリロフ。 海外の評価では「まさにロシア版『X-MEN』!」というのも あるようだが、超人メムバーの風体や能力から見ると同じマ ーヴェルでも『ファンタスティック・フォー』の方だろう。 人数が4人というのもそれに合致する。 ただ、劇中でその超能力が存分に発揮されているかというと そうでもなくて、対決シーンはもっぱら格闘技戦になってし まうのは勿体ないところ。とは言えそれを補うのがVFXに よる大破壊で、それは豪華に都市を破壊してくれる。 ロシアのVFX事情では、2012年8月紹介『リンカーン/秘 密の書』などのティムール・ベクマンベトフが支援して一気 に向上したという話も聞くが、本作では以前に気になった場 面間の変動も少なく、かなりの水準に達したと言えそうだ。 この勢いで同様の作品がどしどし作られるのかな? それにしても本作では、展開の都合で主人公たちを不老とし ているのだが。これは生身の俳優には酷な話で、本作の続編 を作るときはどうするか。その辺が多少気になる所だ。 公開は2018年1月20日より、東京は新宿ピカデリー他で全国 ロードショウとなる。
『シェイプ・オブ・ウォーター』“The Shape of Water” 2012年12月〜2014年12月紹介『ホビット』シリーズの脚本も 担当したギレルモ・デル・トロの製作/原案/脚本/監督に よるファンタシー映画。 物語の時代背景は1962年。主人公は耳は聞こえるが喉の障害 で喋ることのできない女性。彼女は政府機関の研究所に清掃 員として勤務しているが、ある日その研究所に水槽に厳重に 閉じ込められた謎の生物が到着する。 それを管理しているのは軍の将軍に直属の男性。彼は牧童が 牛追いに使う電撃棒を持って生物をコントロールしようとし ていたが、反撃に遭い指を2本食いちぎられてしまう。そし てその掃除で部屋に入った主人公は…。 謎の生物は水棲人で、軍は宇宙旅行のためにその身体の構造 を調べていた。そして最初は外見からの研究だったが、意思 疎通のできない水棲人に対して、ついに知能を持たない動物 と見做して生体解剖が提案される。 しかしその間に、主人公は水棲人と密かな愛を育んでいた。 そこに主人公の同居人や同僚の黒人女性。さらに水棲人を手 に入れようとするソビエト連邦のスパイなども絡んで、事態 は思わぬ方向へと進展して行く。 主演は2010年12月紹介『わたしを離さないで』などのサリー ・ホーキンス。他に2012年2月紹介『テイク・シェルター』 などのマイクル・シャノン、2013年8月紹介『ランナウェイ /逃亡者』などのリチャード・ジェンキンス。 さらにダグ・ジョーンズ、マイクル・スタールバーグ、オク タビア・スペンサーらが脇を固めている。デル・トロは製作 面では上記の4役だが、エンド・クレジットによると他に声 優も務めていたようだ。 M・ナイト・シャマランも2006年に『レディ・イン・ザ・ウ ォーター』を撮ったが、ファンタシー系の監督はこういう作 品を撮りたくなるものなのかな? ただし本作で水の中に居 るのはレディではなくAmphibian Manだが…。 主人公の女性が喋れないのは人魚姫からの発想と思えるが、 他にもいろいろ描かれる示唆は、結末にも別の意味が生じて 中々興味深いものになっている。レジー賞のシャマランに対 して、本作がベネチア金獅子賞なのはその違いだろう。 それにしても本作の水棲人が正にGill-manなのにも驚かされ たところで、2017年7月紹介『ザ・マミー 呪われた砂漠の 王女』では、後続作品の中に『大アマゾンの半魚人』が明白 に示唆されていたが、これはどうなるのだろうか。 公開は2018年3月1日より、全国ロードショウとなる。
この週は他に 『はじまりのボーイミーツガール』 “Le coeur en braille” (秀才で音楽の才能もあるが病で視力を失って行く少女と、 頭は悪いが彼女を護ろうと奮闘する少年を描いた青春映画。 どちらが見初めたのかは判らないが、先に声を掛けたのは少 女。そして少女は少年に勉強を教え始めるが、彼女自身が抱 える問題はなかなか話せなかった。しかし彼女には42日後の 音楽院の試験の日まで周囲にそれを隠す必要があった。出演 は新人のアリックス・ヴァイロと、2015年『ミモザの島に消 えた母』で主人公の幼少期を演じたジャン=スタン・デュ・ パック。他に2017年『ELLE』などのシャルル・ベルリング、 2012年10月28日「東京国際映画祭」で紹介『もうひとりの息 子』などのパスカル・エルベ。公開は12月16日より、東京は 新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。) 『ジャコメッティ 最後の肖像』“Final Portrait” (1966年に他界したフランスの芸術家が、その2年前に制作 した肖像画の顛末を、そのモデルとなったアメリカ人美術評 論家の著作を基に映像化した作品。脚本と監督は2014年8月 紹介『ザ・マペッツ2』などの俳優スタンリー・トゥッチ。 出演者にジェフリー・ラッシュ、アーミー・ハマー、トニー ・シャループ、シルヴィー・テステュー、クレマンス・ポエ ジーらを迎えて、ストイックで気まぐれ、ユーモアもあるが 癇癪持ちという芸術家の晩年を情感豊かに描き上げている。 「伝記映画には興味がない」という監督が、芸術家の人間性 を見事に映し出した作品とも言えそうだ。しかもエンターテ インメントとしても面白い。公開は2018年1月5日より全国 ロードショウ。) 『ダンシング・ベートーヴェン』“Beethoven par Bejart” (1964年に天才振付師モーリス・ベジャールによって初演さ れ、世界的なセンセーションを巻き起こしたものの1978年に 封印。1999年以降は上演も途絶え、2007年のベジャール死去 以降は再演不可能とされていた「第九交響曲」に基づくバレ エの舞台を、2014年に東京バレエ団が創立50周年記念として 再演するまでのリハーサルなどの様子を描いたドキュメンタ リー。という状況を知って観ていれば成程なあと思える作品 なのだろうが、予備知識がないと多少戸惑う作品だった。と は言え一つの作品を作り上げて行く過程は興味深く描かれて いた。ただ最後はもう少し本舞台の様子が見たかったかな。 それには別の問題が絡むのだろうが。公開は12月23日より、 東京は新宿武蔵野館他でロードショウ。) 『スリー・ビルボード』 “Three Billboards Outside Ebbing, Missouri” (片田舎の交通量もまばらな道沿いに立つ3枚の広告看板。 そこに突然、7か月前に少女が殺された事件に対する警察の 姿勢を問う文言が掲出される。広告主は被害者の母親。しか し警察はその広告自体に反応し、母親との諍いが勃発する。 主演はフランシス・マクドーマンド。共演にウッディ・ハレ ルスン、サム・ロックウェルを迎えた、2013年7月紹介『セ ブン・サイコパス』などのマーティン・マクドナー脚本監督 による作品。マクドーマンドで田舎警察というと、女優がオ スカーに輝いた1996年『ファーゴ』を思い出すが、人間不信 のコーエン兄弟に比べると本作の監督は少し信用しているの かな? それが心地よさでもあり、物足りなさでもあった。 公開は2018年2月1日より、全国ロードショウ。) 『インフォ・メン 獣の笑み、ゲスの涙』 (読者モデル出身鈴木勤の主演で、大阪ミナミの風俗街を舞 台にした作品。主人公は記憶にない彼女の妊娠で300万円が 必要になった若者。闇金で借りるもその金も紛失し、ふと見 つけた無料案内所の店員に応募し働くことになる。そこは夜 の街の様々な顔が現れては消える場所だった。そんな中で女 性たちに振り回される主人公だったが…。共演は、本作の主 題歌も歌っている2014年『ハニー・フラッパーズ』などの岸 明日香と、2017年『...and LOVE』で鈴木勤と共演の逢澤み ちる、2017年8月紹介『トモダチゲーム』に出ていたという 加藤明子。脚本と監督は、2013年『蒼き天狗の夜に。』など の金子智明。公開は12月9日より、東京は池袋シネマ・ロサ 他で全国順次ロードショウ。) 『52Hzのラヴソング』“52赫茲我愛你” (2013年2月紹介『セデック・バレ』2部作などのウェイ・ ダーション監督が自らの脚本で、バレンタインデイの台北を 舞台に様々な恋愛事情を描いた作品。主人公の1人目は叔母 に頼まれた花屋を切り盛りする30代半ばの女性。2人目は修 行中の30代のパティシエ。この2人を中心に女性同士の結婚 を認めて貰いたいカップルや、合同結婚式を企画した市職員 の女性らが絡み、17曲ものオリジナルラヴソングと共に物語 が展開される。物語自体は他愛ないが、ほとんどが人気アイ ドルやベテラン歌手という配役で、見事な楽曲が作品の全て という感じだ。因に受賞歴多数の監督だが、本作はそういう 作品ではないと宣言しているそうだ。公開は12月16日より、 東京は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。) 『わたしは、幸福(フェリシテ)』“Félicité” (日本のフジロックでも公演したことのあるカサイ・オール スターズの楽曲をフィーチャーした作品。主人公は「幸福」 という名を持つ酒場の女性歌手。シングルマザーで思春期の 息子を育てている。その息子が交通事故で重傷を負い、手術 のための大金が必要になる。そこで町中を駆けずり回って金 を集める彼女だったが…。今年の東京国際映画祭で観た『マ カラ』にも似た熱気の籠るアフリカの庶民の生活が繰り広げ られる。医療保険制度のない場所では起こりうる社会問題が 描かれるが、その一方であまりに頑なな主人公の生活ぶりも 問題だ。その主人公が何処に向っているのか、それが見えな いのも辛い作品だった。公開は12月16日より、東京はヒュー マントラストシネマ渋谷他にて全国順次ロードショウ。) を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2017年11月05日(日) |
第30回東京国際映画祭<コンペティション以外> |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は、10月25日から11月3日まで行われていた第30回※ ※東京国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。な※ ※お、紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は※ ※最少限に留めたつもりですが、多少は書いている場合も※ ※ありますので、読まれる方はご注意下さい。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <アジアの未来部門> 『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』“阿莉芙” 2012年2月紹介『父の初七日』などのワン・ユーリン監督の 新作。主人公は台湾原住民の族長の息子だが、以前から自分 の性の同一性に疑問を持ち、女性になることを願っていた。 そのため都会に出て美容師として働きながらその資金を貯め ていたが…。同様のテーマの作品は西欧や日本でも散見され るが、本作の背景はかなり特殊といえる。でも物語は巧みに 作られており、特に結末が素敵だった。
『現れた男』“Ma Na Thee Nee” タイ文学界のカリスマと称される作家プラープダー・ユンが 描くミステリアスな作品。都会の高層マンションに住む女の 部屋に謎めいた男が転がり込む。ところがその男は、部屋を 自分のものと主張し、女の知らなかった細かな傷や不具合、 壁に掛けられた絵の説明などを始める。果たしてその男の正 体は…。ヒントはいろいろあって、馴れた観客なら先に読め てしまうが、2作目の監督は手馴れて面白かった。
『ソウル・イン』“花花世界灵魂客” 父親の死後に実家を改装し、遺骨を一時預かる「魂の宿」を 始めた主人公。そこには父親の遺骨も安置され、宿にはいろ いろな人が遺骨を預けに来る。そして主人公には恋人も出来 るが…。そんな中で主人公は自分を置いて出て行った母親の ことを思う。監督のチョン・イーは、中国出身で熊本の大学 とフランスで映画を学んだとのことで、欧州映画風のアーテ ィスティックな作品に仕上げられている。
『殺人の権利』“Tu Pug Imatuy” ミンダナオの奥地で狩猟と物々交換で暮らしていた夫婦が、 反政府ゲリラを追う軍隊によってその生活を奪われて行く。 実話に基づく作品とのことだが、フィクションで付け加えら れたと思しき部分が如何にもという感じで、特に何かを感じ させるようなものではなかった。フィリピンの映画祭では主 要な賞を総なめにしたそうだが。内容的には題名の存する場 所をもっと明確にするべきだろう。
『老いた野獣』“老兽” 内モンゴルを舞台に事業に失敗し、ギャンブルなどに明け暮 れる不良親父と、それぞれは真っ当な暮らしで父親とも距離 を置く3人の息子との葛藤を描く。現地の事情なども絡むよ うだが、物語自体はよくある感じかな。中で駐輪場にバイク とラクダが並んでいる風景はニヤリとさせられたが、内モン ゴルの映画も何本か観ている中で、もっと独自のものが欲し かった感じがする。
今年の「アジアの未来部門」は全10作品で、その内の5本 鑑賞した。この部門では作品賞、スペシャルメンション、特 別賞が選ばれるが、残念ながら観た中で受賞したのはスペシ ャルメンションの『老いた野獣』だけだった。この作品も僕 自身は、あまり評価しなかったので何とも言えないが。
<日本映画スプラッシュ部門> 『二十六夜待ち』 (2017年10月15日付の題名紹介を参照してください。)
『うろんなところ』 実はこの作品もSFにジャンル分けされているのだが、正に 何ともはやという感じだった。夢と現実が入り混じるという 展開だが、これがSFなら「アジアの未来部門」の『現れた 男』の方がよほどだろう。海外の映画祭で受賞歴のある監督 の作品だが、その見るからに奇を衒った演出にも辟易した。 この作品では途中に怪物が登場するのだが、それ自体が意味 不明で、SFとされるのは願い下げの作品だ。
『地球はお祭り騒ぎ』 最初に監督の友人という絵本作家の作品が朗読され、そこか らポール・マッカートニーのコンサートに向かう男2人の道 中が描かれ、監督自身が演じる助手席の男が延々とビートル ズへの思いを語り続ける。そこに2人の男の普段の生活がフ ラッシュバックされるが、途中に登場する運転者の妻と子の ことなどが、意味不明のまま残される。最初の絵本の意味も 不明だし、全体に何が言いたいのか判らない作品だった。
『アイスと雨音』 結局上演中止となる舞台劇の出演者たちの行動を、オーディ ションからワンカットムーヴィ風に描いた作品。画面のサイ ズが変化して劇中と現実を区別しているようだが、後半には オーディションに居なかった人物が劇中シーンとして登場す るなど、全く意味不明の作品だった。因に「アイス」は、映 画祭で付けた英題名ではIce Creamだが、台詞の英語字幕で はPopsicle。その不統一も気になった。
『Of Love & Law』 ゲイカップルでは日本初の里親の認可を受けた大阪の弁護士 カップルを追ったドキュメンタリー。自らがマイノリティで ある彼らの許には、「君が代斉唱不起立」や「無戸籍者」な ど様々な弱者が相談に訪れる。僕はマイノリティの問題には それなりに関心を持って観て来たつもりだが、それでも衝撃 を受けるいろいろな事件が描かれていた。正に日本の病巣の 縮図と言える作品だ。
今年の「日本映画スプラッシュ部門」は全9作品で、その 内の5本鑑賞した。この部門では作品賞が選ばれ、受賞した のは『Of Love & Law』。僕は全作品を観た訳ではないが、 この結果には納得する。
<ワールド・フォーカス部門> 『ライフ・アンド・ナッシング・モア』 “Life and Nothing More” フロリダの低所得者層の暮す街を舞台に、服役中の父を待つ 息子と、その母親と幼い妹を巡る物語。ドラッグの陰なども 見えるが、白人居住地区に入った主人公が些細なことから逮 捕されるなど弱者に対して冷たい社会も描かれる。2012年の 東京国際映画祭で上映『ヒア・アンド・ゼア』などのアント ニオ・メンデス・エスパルサ監督の新作は、サンセバスチャ ン国際映画祭のコンペティションにも選ばれた。
『アンダーグラウンド』“Pailalim” 2017年6月4日題名紹介『ローサは密告された』のメンドー サ監督が主宰するワークショップで学び、いきなり第1作で サンセバスチャン国際映画祭に入選したというダニエル・R ・パラシオ監督の作品。本作も生活苦から悪事に手を染める 庶民の姿が描かれる。元は立派な霊廟が並んでいたが、今は 集合住宅のような墓地の中で暮す墓堀職人たちが描かれる。 文化の違いを感じさせる作品でもある。
『こんなはずじゃなかった!』“喜歡‧你” 1982年生まれで、多くの名監督の作品の編集に携わってきた デレク・ホイの監督デビュー作。金城武の主演に迎えて、冷 酷なビジネスマンながら驚異の舌を持つ男と、新進女性シェ フの対決を描く。前半の見事なグルメ談議が後半ではただの ラヴコメになってしまうのは残念なところ。前半最後のトリ ュフの薀蓄が主人公に跳ね返ってしまうのは、伏線としては ちょっといただけない感じがした。
『セクシー・ドゥルガ』“Sexy Durga” 弁護士でもあるナサル・クマール・シャシダラン監督がロッ テルダム国際映画祭で最高賞を受賞した作品。女神ドゥルガ のと、女神と同じ名前を持つ女性を襲う恐怖の体験が並行し て描かれる。主人公は恋人と駆け落ちで鉄道駅に向かうが、 ヒッチハイクした自動車は怪しい男たち集団だった。キング やカーペンターのようなホラー感覚が、土着の奇祭の映像と 共に描かれる。これも文化の違いを感じさせる作品だ。
『Have a Nice Day』“好极了” 中国アニメーションで初のベルリン映画祭コンペティション 部門に出品されたリウ・ジエン監督の作品。裏組織の運転手 だった青年が、整形手術に失敗した恋人の再手術費を捻出す るため組織の金を強奪する。しかしそれは直ちに知れ、青年 は町中を追い回されることになるが…。2017年7月30日題名 紹介『我は神なり』などの韓国アニメーションも注目だが、 中国もその後を追ってきそうだ。
『サッドヒルを掘り返せ』“Sad Hill Unearthed” 2013年上映『ホドロフスキーのDUNE』に次いで映画祭で最も 興奮したドキュメンタリー。1967年のセルジ・レオーネ監督 『続・夕陽のガンマン』で最後の決闘シーンが撮られた墓地 のロケ地を探し出し、それを再現して50周年の上映会を開い た男たちの記録。そこに存命のエンニオ・モリコーネらへの インタヴューも加えて、最後の上映会のシーンは正に感涙物 の作品になっている。日本公開を期待したい。
『マカラ』“Makala” アフリカ・コンゴの荒野で家族が暮らす家を建てるために炭 を焼き、その炭を町に売りに行く男性の姿を描いたフランス 人監督エマニュエル・グラスによるドキュメンタリー。カン ヌ映画祭批評家週間作品賞の受賞作。前半の炭焼きまでは良 いが、その後の展開が如何にもやらせ臭く。特に最後のミサ のシーンが延々と続くのには、何か特別の意味があるのかと いう勘繰りもしてしまった。
『レインボウ』“Una Questione Privata” 1943年夏のイタリアを背景に、パルチザンに身を投じた青年 を描いた作品。映画の要所に映画『オズの魔法使い』の名曲 ‘Somewhere Over the Rainbow’が流れ、その意味を考え続 けた。そして最後のその回答を得た。それは1974年のジョン ・ブアマン監督作品にも繋がるものだった。原題は「個人的 な事情」というもので、原作小説の映画化のようだが、そこ にこの邦題=英題の振られた事情も知りたい。
『詩人の恋』“시인의 사랑” 短編作品に内外の数多くの賞を受賞したキム・ヤンヒ監督の 長編第1作は、韓国の全州プロジェクトマーケットで観客賞 とグランプリに輝いた。済州島で小学校の作文講師を務めな がら詩作に励む詩人が、ふと見かけたドーナッツ屋の店員の 青年に心を惹かれ、のめり込んで行く姿が描かれる。内容的 には理解するが、最後がこの結末なのはちょっと面白くない かな。少し期待外れだった。
今年の「ワールド・フォーカス部門」は、リマスター作品 を除き全19作で、その内の9本を鑑賞した。今年は『サッド ヒル…』を観られただけで満足だ。
<台湾電影ルネッサンス2017> 『大仏+』“大佛普拉斯” 題名の+は、元々の短編作品があってそれに追加して長編化 したものだそうだ。その構成は、社長の車載カメラの記録を 盗み見るというもの。それは車の前方だけを写したもので、 そこには音声だけで不倫の様子が認められるが…。やがてそ れが事件を描くことになる。その展開が巧みで思わず喝采し てしまった。カラーとモノクロの使い分けも良く。ホアン・ シンヤオ監督のデビュー作は見事な出来栄えだ。
『怪怪怪怪物!』“報告老師!怪怪怪怪物!” 台湾のカリスマ作家と言われるギデンズ・コーによる監督第 2作。第1作は自伝的青春映画だったようだが、本作は学園 ホラー。不良グループの走りだった少年が、突然現れた人食 い怪物と対決することになる。ジャパニーズホラーの影響も 感じられるが、スプラッター的な部分もあってかなり強烈な 作品になっている。なお監督の第1作は日本でのリメイクも 進んでいるようだ。
『フォーリー・アーティスト』“擬音” 擬音というと、日本では音響監督、音響効果の下に置かれて 決して高い位置ではないが、吹替えが主流の中国語映画では かなり意味合いが違うようだ。その仕事ぶりが過去の名作の 映像+擬音なども交えて丁寧に描かれる。インターナショナ ルサウンドのあるハリウッド映画などと違って、中国語の吹 替えでは擬音が演出の領域まで進出している。特に台湾語の 使い方などは納得で、その仕事が理解できた。
この部門はリマスター作品を除く全作を鑑賞した。ヴァラ エティに富んだ作品群はいずれも楽しめた。
<CROSSCUT ASIA部門> 『ヤスミンさん』“Yasmin-san” 昨年上映された『アジア三面鏡:リフレクションズ』で行定 監督のパートのメイキングでありながら、途中から2009年に 亡くなったヤスミン・アフマド監督(『タレンタイム』)の 思い出にシフトして行くという不思議な作品。監督はコンペ ティション部門の『アケラット』と同じエドモンド・ヨウだ が、両作ともいろいろな要素が上手くかみ合っていない感じ で、鑑賞しながら違和感が消えなかった。
『私のヒーローたち』“Adiwiraku” 2009年10月23日「東京国際映画祭」で紹介『タレンタイム』 と比較される学校対抗行事としての音楽発表会を背景にした 青春ドラマ作品。登場するのは貧困や家庭不和などの問題を 抱える地方の学校。そこで教鞭を執る女性英語教師の葛藤が 描かれる。国や宗教の違いもあるのかもしれないが、少し日 本とは違う環境での物語は、違和感を感じながらも青春映画 としては真っ当な作品だった。
『4月の終わりに霧雨が降る』 “Sin Maysar Fon Tok Ma Proi Proi” タイ東北部の地方都市を舞台に、バンコクから帰郷した青年 の思いが綴られる。ロッテルダム国際映画祭のコンペティシ ョンに出品されたとのことだが、映画青年の監督が描く虚実 の境界が不明瞭で観ていて混乱するところが多かった。背景 を理解して観ればよいのだろうが、映画祭の立て込んだスケ ジュールではその余裕もない。僕には手に余る作品だったと いうことなのだろう。
今年の「CROSSCUT ASIA部門」は、リマスター作品を除き 全8作で、その内の3本を鑑賞した。今回は観なかった作品 の中に評判の高いものが多く、ちょっと残念だった。
<TIFFティーンズ> 『マウンテン・ミラクル』“Amelie rennt” 喘息で苦しむ少女が奇跡を起こすという山頂の火祭りを目指 してアルプスに挑む。「24時間テレビ」などになりそうな題 材だが、それをユーモアを絡めて見事な青春映画に昇華して いる。アルプスの景観も素晴らしく、その山々を彩る最後の 火祭りのシーンはVFXかもしれないが、それを上回る感動 が表現されている。さすがベルリン映画祭ジェネレーション 部門スペシャルメンションの作品だ。
『ハウス・オブ・トゥモロー』“The House of Tomorrow” 「宇宙船地球号」などの言葉でも知られる科学者バックミン スター・フラーの設計住宅に住み、彼の教えをかたくなに守 る女性と、彼女が育て教育した孫息子の物語。純粋培養され た少年がパンクロックに触れたことから騒動が巻き起こる。 この作品もいろいろな要素が巧みに織り交ぜられており、観 ているだけで楽しめた。主演はエイサ・バターフィールド。 祖母役でエレン・バースティンが登場する。
『リーナ・ラブ』“Lena Love” 都会に出ることを夢見る少女がいじめに遭い、ドラッグのフ ラッシュバックやSNSの悪用などで闇の底に沈んで行く。 現代若年層の病巣が巧みな演出で描かれる。同様な作品では ただ嫌味なだけで終る作品も多いが、本作はそれを見事な青 春ドラマに仕上げている。鍵となるトンネルのグラフィティ などがサスペンスドラマとしても成立させているのは素晴ら しかった。
この部門は上映された全作品を鑑賞したが、いずれも素晴 らしい作品で、この様な映画を見て育った子供はきっと良い 若者になると思ったものだ。
<特別招待作品> 『空海―KU-KAI―(特別映像)』 来年2月公開予定の夢枕獏原作、チェン・カイコー監督によ る原題は『妖猫伝』という作品の、10分間の特別映像が上映 された。内容は撮影の様子と監督の想いのようなものが紹介 されて、本編の物語などはさっぱりだったが、人海戦術の広 大な撮影風景には圧倒されるものがあった。本編の方の試写 は見せて貰えるかどうか判らないが、取り敢えず超大作であ ることは確かなようだ。
『ミッドナイト・バス』 この作品は試写状も届いているので後日再び紹介するかも知 れないが、上映時間157分という長尺の作品。しかし観てい る間は2時間弱位かなと思う程に長さを感じさせなかった。 それは長距離バスという僕には親しみのある題材のせいもあ るかもしれないが、直木賞候補になったという原作の巧みさ もあるのだろう。恋人と元妻の間を行き来する男という主人 公は、僕には多少理解し難い部分はあったが。
以上、今年はスケジュール管理が上手く行って、例年以上 に多数の作品を観ることができた。また会期中、舞台挨拶に 向われる途中の大林宣彦監督にお会いして、一言言葉を交わ せたのも感激で、有意義な映画祭だった。
| 2017年11月04日(土) |
第30回東京国際映画祭<コンペティション部門> |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は、10月25日から11月3日まで行われていた第30回※ ※東京国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。な※ ※お、紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は※ ※最少限に留めたつもりですが、多少は書いている場合も※ ※ありますので、読まれる方はご注意下さい。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <コンペティション部門> 『勝手にふるえてろ』 (2017年9月24日付の題名紹介を参照してください。) 『最低!』 (2017年10月15日付の題名紹介を参照してください。)
『スヴェタ』“Sveta” 映画史上で最も強烈と言えるかもしれない行いをする女性を 描いたカザフスタンの作品。主人公は縫製工場で働く聾唖の 女性。同様の障害者ばかりの職場で高学歴の彼女は指導的な 立場にいる。ところがリストラで比較的暮らしの良かった彼 女に退職の危機が迫る。しかし彼女には別の事情もあった。 そこで彼女が執った行動は…。物語が常に二者択一の状況で 展開され、それがことごとく期待と反対の方向に進行する。 それは観客にとっては実に不愉快な展開なのだが、最後の最 後に彼女の執る行動が見事に僕の心を掴んでしまった。いや はやとんでもない作品だ。女性監督ジャンナ・イサエヴァに よる脚本、演出も巧みだし、健常者でこの難役を演じ切った 主演女優ラウラ・コロリョヴァにも拍手を贈りたい。
『シップ・イン・ア・ルーム』“Korab v Staya” 撮るべきものの方向性を見失っていた元戦場カメラマンが、 一緒に住むことになった女性の弟を引き籠りから脱却させる ために、自らの仕事を活用しようとするブルガリアの作品。 言わんとするところは判るが、元々普遍性に乏しい内容で余 り共感は出来なかった。しかも本来はスチルカメラマンの男 性がディジタルカメラをムーヴィに切り替えて撮り始める。 それは弟が帆船に興味があるようで、最初は港を撮っている のだが、それが街中の風景まで撮るようになる。その動画の 羅列が何となくカメラのカタログのような雰囲気になって、 映画の展開としても不自然だった。監督のリュボミル・ムラ デノフはドキュメンタリーが多いようで、それでムーヴィな のだろうけど、展開が何処か唐突に感じられた。
『グレイン』“Buğday” 映画祭の公式カタログでSFとジャンル分けされた作品。背 景は過剰な遺伝子操作でほとんどの作物が死滅寸前になって いる未来。主人公は遺伝子操作の専門家だったが、この事態 に以前の同僚がこれを予言していたことを思い出す。そこで その同僚を探し出し、解決策を探ろうとするが…。映画の最 初には未来的な風景もあり、一般的なSFであることは間違 いない。しかしSFファンとしてこの内容をSFと呼ぶのは 少し躊躇う。荒野を彷徨いながらヒントを頼りに謎を解いて 行く展開は、むしろ『ドラゴンクエスト』のようなRPGの 世界観を想起した。脚本、監督のセミフ・カプランオールは ベルリン・金熊賞も受賞したトルコの名匠で、本作も問題意 識などアイデアは良いが、SFとは違う方向の作品だ。
『グッドランド』“Gutland” 寒村で巻き起こるかなり異常な事態を描いたルクセンブルグ の作品。主人公は何かに追われるようにその村に辿り着く。 そこでも最初はよそよそしかったが、1人の女性と知り合い になったことから事態は好転する。しかしその村には、彼自 身が抱える以上に大きな謎が隠されていた。脚本、監督のゴ ヴィンダ・ヴァン・メーレは、長く業界にいての初長編作品 のようだが、伏線や謎解きも卒なく纏められた巧みと言える 作品だった。それにしてもドイツ近隣国の音楽事情というの は、以前にも村対抗のバンド合戦で隣村のトランぺッターを 引き抜く話があったと思うが、かなり文化として定着してい るようだ。それとヨーロッパの小国と呼ばれる国の意外と広 大な田園風景にも驚いた。
『マリリンヌ』“Maryline” コメディ・フランセーズ所属の俳優として映画出演にも実績 のあるギヨーム・ガリエンヌによる映画監督第2作。自伝的 な第1作では主演も張ったが、本作では脚本と演出に専念し た。それでも女優を目指すヒロインの姿には自らの体験も反 映されていそうだ。その本作のヒロインは、正直に言ってか なり嫌な感じの女性で、しかもアルコール依存症から抜け出 せないでいる。それがカウンセリングにも参加してようやく 脱却できそうになるのだが…。そこからの展開が唖然とする ほど見事だった。主演のアデリーヌ・デルミーは、彼女自身 が売り出し中の新人のようだが、女性が女優になる瞬間を見 事に捉えた作品でもある。実は「日本映画スプラッシュ」の 作品に同旨のものがあったが、狙いは違ったようだ。
『ナポリ、輝きの陰で』“Il Cratere” ナポリ郊外のクレーターと呼ばれる低所得者層の暮らす町を 舞台に、実際にその町に暮らす父と娘を主演に起用し、父親 には脚本にも参加させたというセミドキュメンタリー作品。 主人公の父親は露天商を営んでいるが、娘に歌の才能を見出 し、作曲家の新作を買い取って一攫千金の芸能界を目指そう とする。しかし娘との間に確執が生じ始め…。日本でもあり そうな話だが、後半の父親の行動の意味が判らず、その辺の 判断に迷うところがあった。それにドキュメンタリー出身の 監督の発言によると「被写体に密着できた」ということのよ うだが、父親の顔のアップが多く大画面では圧倒され過ぎる 感じもした。一方、娘に関しては2度披露される歌声の微妙 なアレンジの違いなどが見事だった。
『さようなら、ニック』“Forget About Nick” 2013年9月紹介『ハンナ・アーレント』などのマルガレーテ ・フォン・トロッタ監督による新作は、ニューヨークを舞台 にした女性2人が主人公の都会派コメディ。その1人はデザ イナーに転身を図っている元ファッションモデル。その女性 が夫から突然の別れを告げられ、しかも彼女の暮らすアパー トに前妻の女性が乗り込んでくる。こうして趣味も暮らしぶ りも全く違う2人の女性の共同生活が始まるが…。さらに前 妻の娘と幼い孫、弁護士や不動産屋も加わってとんでもない 騒動が巻き起こる。2013年作とは打って変わった巧みなコメ ディだが、男性に頼らない女性が主人公と言うのは共通して いるのかな。社会派からコメディまで、幅広い監督の才能は 充分に納得できた。
『ペット安楽死請負人』“Armomurhaaja” 家で飼えなくなったペットを飼い主に代って処分することを 副業にしている機械工を主人公にした作品。現在自分がペッ トを飼っている身としては許しがたい作品だが、自分の幼い 頃の記憶に照らしてこういうことを考える人間もいるのだな とは思ってしまう。ただ物語にはその他の要素も絡まってく るが、最終的に主人公を贖罪のような形で終らせるのは、他 の社会的なテーマのようなものの意味を消してしまう感じも した。因に監督のテマール・ニッキは生家が養豚業を営んで いるそうで、その辺のことも背景にあるのかな。だとすると ちょっと違う見方にもなってしまいそうだ。主演のマッティ ・オンニスマーはフィンランドでは名脇役として知られ、本 作が初主演だそうだ。
『ザ・ホーム−父が死んだ』“Ev” 父親が死去してその弔いに帰ってきた一人娘。娘は泣きなが らも葬儀の準備を進めるが、父親は遺言状で遺体を医科大学 に献体すると記していた。そこで医大の職員が遺体の引き取 りにやって来るが…。娘は亡き父の遺体がバラバラにされる ことを認められなかった。そこで遺言の有効性と遺族の意向 を巡ってのすったもんだが巻き起こる。イランのアスガー・ ユセフィヌジャド監督の作品で、何かというとコーランやア ッラーの教えが引かれるなど宗教の違いなどいろいろなこと があるのだろうなあと思って観ていたら、後半に意外な展開 が待ち受けていた。家族関係が最初に判り難く戸惑うが、娘 役のモハデセ・ヘイラトの表情の変化など、もう一度観直し たくなる作品だった。
『泉の少女ナーメ』“Namme” 2016年6月紹介『みかんの丘』など、近年目覚ましいジョー ジアの作品。村人から癒しの水と崇められる泉を守ってきた 一家。その当主には3人の息子がいたが、それぞれ別々の道 に進み、家にいるのは娘だけ。その娘は泉の水を汲んで村を 回り、病の村人たちを癒していたが…。村の近くで工事が始 まり、川が濁り、泉の水位が下がり続ける。そして泉に住ま う魚も元気がなくなってくる。泉の上に掲げた松明を離れて 点すなど少し幻想的なシーンもあるが、全体的には父親と息 子、娘と男性の関係など人間的な物語が展開される。内容は ジョージアの伝説に基づくそうで、芸術大学で教鞭も取るザ ザ・ハルヴァシ監督は神秘性と人間性の融和を描きたかった ようだが、本作では遊離しているように感じられた。
『迫り来る嵐』“暴雪将至” 1990年代後半の中国社会が経済発展に向けて激変した時代を 背景に、ある工場の周囲で起きた連続殺人事件に挑む保安主 任の姿を描く。主人公は役職柄警察内部にも通じており、残 忍な手口の遺体発見現場にもずかずか入り証拠を集める。そ してある手掛かりを発見する。そんな彼は犯人の足跡を追う 内に1人の女性と知り合い、一緒に暮らすようになるが…。 監督は北京電影学院卒業で映画のスチールカメラマン出身、 本作が初長編のドン・ユエ。カメラマンらしい映像が特徴的 とも言える作品だ。ただし物語の結末がかなり曖昧で、夢落 ちとも取れるし、それに事件のポイントとなる片足だけ靴を 履いた男の姿が時間軸に合わない感じもした。
『アケラット−ロヒンギャの祈り』“阿奇洛” 最近国連でも問題にされたミャンマーからのロヒンギャ難民 を描いたマレーシアの作品。北部のタイ国境近くに暮らす主 人公は台湾留学を夢見る若い女性。しかしようやく貯めた資 金を親友に盗まれ、複数の言語に堪能な彼女は止む無くロヒ ンギャ難民の手引きをする組織に加わることになる。しかし それは邪魔な難民を殺すことも厭わない危険な場所だった。 ミャンマー側での虐殺も問題だが、マレーシアでもこんなこ とが行われているとは、かなり問題な作品だ。しかもその矛 先が自国民にも向いている。特に主人公に思いを寄せる若者 の末路は驚きだった。監督は、2014年11月2日「東京国際映 画祭」で紹介『爆裂するドリアンの河の記憶』などのエドモ ンド・ヨウ。問題意識は高い監督だ。
『スパーリング・パートナー』“Sparring” 2012年10月紹介『裏切りの戦場』などのマチュー・カソヴィ ッツの主演で、引退間際のボクサーを描いた作品。主人公は 49戦して13勝しかしていないミドル級のボクサー。彼は50戦 したら引退すると妻に約束していたが、その対戦がなかなか 決まらない。そんな時、地元でタイトルマッチが発表され、 元チャンピオンで今回の挑戦者がスパーリングの相手を求め ていることを知る。そして現チャンプと戦ったことのある主 人公はその相手に応募するが、スパーリングはパンチを受け 続けるために試合よりも危険が伴うものだった。脚本と監督 は新人のサミュエル・ジュイ。ボクシングに掛ける主人公の 人生観みたいなものが見事に描かれ、普段はボクシングの試 合など観ない僕にも心に残る作品だった。
以上の15作品が今年のコンペティション。 今年は全作品を紹介したが、特に首を傾げたくなるような 作品は無かった。そこで僕が選ぶ各賞は、 東京グランプリ:スヴェタ 審査員特別賞:ナポリ、輝きの陰で 最優秀監督賞:ギヨーム・ガリエンヌ(マリリンヌ) 最優秀男優賞:マチュー・カソヴィッツ(スパーリング…) 最優秀女優賞:ラウラ・コロリョヴァ(スヴェタ) 最優秀芸術貢献賞:泉の少女ナーメ 最優秀脚本賞:スヴェタ 観客賞:迫り来る嵐
これに対して実際の受賞は 東京グランプリ:グレイン 審査員特別賞:ナポリ、輝きの陰で 最優秀監督賞:エドモンド・ヨウ(アケラット…) 最優秀男優賞:ドアン・イーホン(迫り来る嵐) 最優秀女優賞:アデリーヌ・デルミー(マリリンヌ) 最優秀芸術貢献賞:迫り来る嵐 最優秀脚本賞:ペット安楽死請負人 観客賞:勝手にふるえてろ
まあグランプリに関しては、SFジャンルとされる作品が この様な賞に選ばれるのは喜ばしいことだが、上にも書いた ように映画の出来はともかく、この作品をSFと呼ぶことに は抵抗を感じる。特にRPGの手法が強く感じられるのは、 エピソードばかりでストーリーのない、最近の物語の潮流に 乗っているもので、僕は好ましく思っていないところだ。 因に公式カタログでは、『惑星ソラリス』と『2001年宇宙 の旅』の題名が記されていて、この内の『ソラリス』は多分 『ストーカー』の誤りだと思うが、いずれもが何かを探す旅 を描いている点で共通する。しかしこれらの作品ではそこに SF的なドラマが存在するもので、それが感じられない点で 本作はこれらの作品の域に達していないと思うものだ。 その他の受賞に関しては、今回の僕は『スヴェタ』が推し だったので、それを外すとこんなかなという感じだ。ただし 『マリリンヌ』に関しては演技賞より監督賞だったと思う。 それと観客賞は伝え聞く熱狂ぶりから、こちらかなと思って いたのだが。 他の上映作品に関しては後日追加します。
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