井口健二のOn the Production
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2017年08月27日(日) トモダチゲーム−劇場版FINAL−、じんじん〜其の二〜、シンクロナイズド・モンスター、セブン・シスターズ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『トモダチゲーム−劇場版FINAL−』
山口ミコト原作、佐藤友生作画によるコミックスの映画化で
2017年4月紹介『トモダチゲーム・劇場版』の続き。
前回も書いたが、『劇場版』に先立つ『テレビ版』でテーマ
とされたゲームはコックリサン、前作『劇場版』はスゴロク
だったが、今回はカクレンボ。いずれも子供の遊戯が恐怖の
推理ゲームに結び付けられる。
しかも最初のコックリサンはそれなりにホラーのテーマとも
言えるが、続くスゴロクとカクレンボはいずれも正しく子供
の遊戯で、この展開は中々考えられている。その上で、前回
のスゴロクではCGIが使われたが、今回は実写が中心とい
うのも洒落た展開だ。
そしてそのカクレンボを、チーム対抗のゲームとするための
本作特有のルールがかなり巧みに考えられていて、さらに謎
解きやどんでん返しなど、それなりに納得の行く心理劇とし
て描かれているのも見事だった。
なお前の紹介では『劇場版2』と書いたが、本作でシリーズ
は完結のようだ。

出演は、前作と同じ吉沢亮、内田理央、山田裕貴と、さらに
大倉士門、根本凪らで、脚本と監督も永江二朗が担当した。
正直なところ、コミックスの映画化では設定が穴だらけだっ
たり、展開に矛盾があったり、ここで紹介するときにかなり
悩んでしまう作品も多くて、これが最近の若者の好みか…?
と逃げることもあったが、本作に関してそれは無かった。
それに上記のように若者向けの題材からスタートして、そこ
からCGIアクションに展開し、最後をこの様な心理劇で締
めくくるというのは、ある種の確信犯的な構成ではないかと
も思ってしまうところだ。
これで今後にこういう作品が増えてきたら、それこそが本作
の狙いなのではないか、とも思ってしまう。とまあここまで
書くのは考え過ぎかな…。でもそれくらいには楽しめる作品
だった。
ただ、前回も展開されたCGIを使った演出や、本作でも登
場するワープのような展開は、本作の背景となる世界の意味
が明白ではないもので、その点に関してはまだ疑問の残る作
品になっている。
本作では一応の完結編となっているが、原作のコミックスは
まだ連載中のようだし、本作の最後に示唆されるところも期
待したいものだ。

公開は9月2日より、東京はシネリーブル池袋他で全国順次
ロードショウとなる。

『じんじん〜其の二〜』
俳優大地康雄の企画主演で、2013年に第1作が公開された大
道芸人を主人公にした人情喜劇シリーズの第2弾。
前作の試写も観ているが、その時は紙面の容量が足りなくて
紹介を割愛したようだ。ただ当時の感覚としては、作品自体
が『男はつらいよ』の亜流のようにも感じられたし、テーマ
的に次は無いように感じたことも事実だ。しかし今回は独自
性を持って第2弾が登場した。
その舞台は、前作の北海道上川郡剣淵町から一気に南下した
神奈川県秦野市。その祭りに招かれ大道芸を披露した主人公
は、そのまま近くの家に間借りして居残っている。そしてそ
の町で、都会を逃れてやってきた若者や、心を閉ざした少女
との交流が描かれる。
因に前作の剣淵町は「絵本の里」として知られており、作品
のテーマも絵本に纏わるものだったが、それに対して今回の
秦野市は林業と「名水の里」だそうで、その特性を活かした
物語が展開されている。

共演は福士誠治、鶴田真由、菅野莉央、岡安泰樹。他に永島
敏行、苅谷俊介、津田寛治らが脇を固めている。また、佐藤
B作と中井貴惠が前作に引き続き登場している。監督も前作
に続いての山田大樹が担当した。
僕自身が近隣平塚の出身なもので、本作はいろいろ興味深く
鑑賞した。ただ自分の印象として平塚の北側で厚木と伊勢原
にはイメージが湧くが、秦野というとあまり記憶するものが
ない。しかし本作を見ていて想像以上に緑が豊かで、水も豊
かなのに認識を新たにした。
前作も北海道の大草原が背景だったが、そんな緑溢れる大自
然を背景にするところが本作の特徴と言えるかもしれない。
そして前作に続いて絵本が登場するが、本作ではちょっとそ
の顛末が弱いかな? ここをもっと描き込めば、シリーズの
テーマとしても生きてくるように感じられた。
それと最初に描かれる祭りのシーンで主人公の後ろに置かれ
たテントにはニヤリとした。実はそこに自分が応援している
湘南ベルマーレのロゴが見えたもので、確かにこの祭りには
出店のインフォメーションもされていたものだ。
しかも映画のエンドロールでは制作協力としてクレジットも
されていた。これは映画の宣伝にも一役買わねばと思ったも
のだ。

公開は9月2日より、東京での上映は発表されていないが、
秦野市の近隣ではイオンシネマ新百合ヶ丘、イオンシネマ海
老名、イオンシネマ茅ヶ崎などで上映され、以後、全国順次
ロードショウとなる。

『シンクロナイズド・モンスター』“Colossal”
2012年12月紹介『レ・ミゼラブル』でオスカーを受賞した、
2014年11月紹介『インターステラー』などの女優アン・ハサ
ウェイが製作総指揮と主演を務め、2016年のオースティン・
ファンタスティック映画祭で最優秀賞に輝いた怪獣映画。
主人公はニューヨークで失職中の女性。夜な夜な泥酔して、
遂に同棲相手から部屋を追い出される。そして失意で故郷に
舞い戻った日、遠く離れた韓国のソウルで怪獣が暴れ出す。
その実況を見ていた主人公はある事実に気付く、それは怪獣
の動きが彼女の動作にシンクロしていることだった。
それに気付いた彼女は、最初こそ舞い上がって韓国を混乱に
陥れるが、徐々に世界を救う使命に目覚めて行く。ところが
そこにとんでもない事態が巻き起こる。果たして彼女は世界
を救えるのか?

共演は、2011年9月紹介『モンスター上司』などのジェイス
ン・サダイキス、2014年公開『ザ・ゲスト』などのダン・ス
ティーブンス。脚本と監督は、スペイン出身で、2014年10月
紹介『ブラック・ハッカー』などのナチョ・ヴィガロンドが
手掛けている。
試写会には、上映ぎりぎりに来て、上映が始まっても世間話
を続けて注意を受けるようなご婦人方も来場していて、どう
いう関係者なのか気になったが、多分その人たちには理解を
超える作品だったのだろう。
そこで試写後には「これは酔っ払いの幻想だ」とか、「アル
コール依存症への警鐘」などという発言も聞かれたが、この
監督にそのような考えがあるとは到底思えない。この映画は
単なる馬鹿話、法螺噺なのだ。
とは言えアメリカの片田舎にある公園の砂場とソウルのビジ
ネス街が次元を超えて繋がっているのかな。そんな解釈は出
来るが、映画の中での説明は一切なし。監督はそんなことは
関係なく、とにかく楽しんでもらおうとしているのだ。
ただこういう作品は、監督に力量がないとなかなかうまくい
かないものだが、それを強引に映画にしてしまう手腕は称賛
されるべきものだろう。その辺が理解されての上記の受賞だ
と思えるものだ。
ただし映画では後半に別の巨大物も出てくるのだが、怪獣と
その巨大物は本来なら日本映画のお家芸のはずのもの。とこ
ろが本作の舞台が韓国というのは解せないところで、これは
本当は日本で撮りたかったが、叶わなかったのかな?
そんな勘繰りもしてしまう作品だった。それにしても天下の
オスカー女優が良くやったものだ。

公開は11月3日より、東京は新宿バルト9、ヒューマントラ
ストシネマ渋谷他で、全国順次ロードショウとなる。

『セブン・シスターズ』“What Happened to Monday?”
2017年4月紹介『ラプチャー 破裂』などのノオミ・ラパス
主演による近未来SF作品。
物語の背景は、殆んどの子供が双子や三つ子以上で誕生して
人口が過剰になってしまった世界。そこで政府は一人以上の
子供を制限し、残る子供は冷凍睡眠にしていつか子供が減り
始めた時の備えにするとの法律を発令する。
そんな中で主人公は、何と七つ子で生まれた女性。しかし父
親は法律に従わず、七人姉妹をそのまま育てようとする。そ
の方法は、娘たちに曜日を振り分け、その曜日の一人だけが
外に出て、他は家の中に隠れているというものだった。
そして年月が過ぎ、娘たちが年ごろに育った時、事件が起き
る。果たして彼女たちの運命は? そして政府が掲げる政策
の裏に潜む真実とは…。

共演は、2017年4月紹介『ディストピア パンドラの少女』
などのグレン・クローズ、同年2月紹介『グレート・ウォー
ル』などのウィレム・デフォー、それに同年7月紹介『ザ・
マミー 呪われた砂漠の王女』などのマーワン・ケンザリら
が脇を固めている。
脚本は、2013年公開『バーニング・クロス』などのケリー・
ウィリアムソンと、テレビアニメ版の“Wolverine and the
X-Men”などを手掛けたマックス・ボトキン。監督は、ノル
ウェー出身で2009年12月紹介『処刑山』などのトミー・ウィ
ルコラがハリウッドデビューを飾っている。
人口過多の時代が背景のSFでは、ハリー・ハリスンの原作
“Make Room! Make Room!”を映画化した1973年公開『ソイ
レント・グリーン』が知られるし、それが曜日に振り分けら
れている物語にはフィリップ・ホセ・ファーマーが1985年に
発表した小説“Dayworld”もある。
そんな点を踏まえて本作を見ると、全体的に詰めが甘いと言
えるかな。人口過多なのに空き部屋があるとか、街中も左程
人間が多いようには見えない。この辺は政府の政策が功を奏
しているのかもしれないが、それにしても長年に亙って父親
が7人分の食料をどう工面したのかも疑問に感じる。
とは言うものの、女優にとって7人の人格を同時に演じられ
るのが魅力なのは間違いない。ラパスはそれを楽しんでいる
ように見えるし、それで本作の製作の意味はあったと言える
だろう。
ただし、映画中の人死にの多さは多少辟易もしたところで、
監督の以前の作品から仕方がないとは言え、もう少し何とか
ならなかったか、とは思えたところだ。

公開は10月21日より、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『ポルト』“Porto”
(2016年に他界したアントン・イェルチンの主演で、ポルト
ガル第2の都市を舞台にしたラヴストーリー。主人公は家族
に勘当されてこの地に流れ着いたアメリカ人。町をふらつい
ていた彼が、過去に関係を結んだことのあるフランス人女性
と再会して物語が始まる。彼女は考古学者の教授と共にこの
地にやってきたのだが…。映画は3つのパートに分れて描か
れるが、その関係性は不明瞭で結局物語はプレス資料を見て
判読した。でもポルトの街が見事に美しく描写され、それを
観ているだけでも満足の行く作品と言える。共演は初主演の
ルーシー・ルーカス。監督はドキュメンタリー出身ゲイブ・
クリンガーの初劇映画となっている。公開は9月30日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『MASTER マスター』“마스터”
(イ・ビョンホンとカン・ドンウォンの共演で、詐欺師と捜
査官の攻防を描いた作品。イが扮するのは金融投資会社のカ
リスマ的トップ。派手なパフォーマンスで金を集め、その投
資先は外れがない。しかしその実態は賄賂で切り抜けている
ものだった。その尻尾をカン扮する捜査官が苦闘の末、遂に
掴むが…。舞台は国外にも広がり、大規模な金融詐欺が繰り
広げられる。脚本と監督は、2014年8月紹介『監視者たち』
などのチョ・ウィソク。詐欺事件を描くが内容は頭脳戦だけ
でなく、カーチェイスから肉体派アクションまで、正にエン
ターテインメントの塊という作品だ。公開は11月10日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)
『ミスター・ガガ 心と身体を解き放つダンス』
                     “Mr. Gaga”
(イスラエルに本拠を置く「バットシェバ舞踊団」を率いる
振付家オハッド・ナハリンを描いたドキュメンタリー。彼が
開発したGAGAと呼ばれるメソッドと、彼の振付けの舞台が紹
介される。今回は舞踊評論家の解説付き上映を観せて貰った
が、作品に出てくる舞台やリハーサルの映像は今まで門外不
出だったそうで、かなり貴重な映像が登場しているようだ。
ただしその解説は上映後に行われたものだが、僕は観ている
だけで何か心を動かされる、物凄い物を観ている感じはして
いた。監督は、イスラエルで多数のドキュメンタリーを制作
しているトメル・ハイマン。本作を含め多くの受賞にも輝く
名手の作品だ。公開は10月14日より、東京は渋谷シアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
『鉱ARAGANE』
(2009年9月紹介『倫敦から来た男』などで知られるタル・
ベーラ監督が創設した映画学校で学んだ日本人女性監督の小
田香が、ボスニア・ヘルツェゴビナの炭鉱の姿を描いたドキ
ュメンタリー。タル・ベーラが監修を務め、2015年山形国際
ドキュメンタリー映画祭でアジア千波万波部門特別賞を受賞
した。ドキュメンタリーと言っても社会派的な問題意識を持
ったものや歴史に残す記録を撮ったようなものではなく、地
中深くでの作業の様子が、ある意味の映像美的に撮られた作
品。それが採炭現場の騒音に彩られている。その映像や騒音
に圧倒され、それだけが心に残った作品と言えそうだ。公開
は10月21日〜11月3日に、東京は新宿K's cinemaにて連日
21時からのレイトロードショー。)
『月と雷』
(直木賞作家・角田光代の小説を、2016年6月5日題名紹介
『花芯』などの安藤尋監督で映画化した作品。幼い頃に母親
が家出して家族というものを知らずに大人になった女性が、
婚約者もできてようやく家族を持とうとしたその時、父親の
愛人の息子と称する若者が現れ、心が乱されて行く。主演は
2013年『ガッチャマン』などの初音映莉子。その脇を高良健
吾、村上淳、草刈民代らが固めている。安藤監督の前作もそ
うだったが、典型的な女性映画と言えるのだろう。男性とし
てはそれ以上は何も言えない。ただしR15+指定、上映時間
2時間の作品だ。公開は10月7日より、東京はテアトル新宿
他で全国ロードショー。)
『人生はシネマティック!』“Their Finest”
(2017年8月6日題名紹介『ダンケルク』と同じ第2次大戦
下のイギリスを描いた作品。しかも本作では、その撤退作戦
を映画化しようとする映画人の悪戦苦闘が描かれる。そこに
は戦意高揚のための方針や、アメリカを考慮した要請など、
様々な要因が加わる。それがイギリス映画特有のユーモアを
込めて描かれている。特にノーラン作品を見た後で鑑賞する
と背景の事情も判り易く、当時の状況の理解も深まる作品に
なっていた。出演は、2017年4月紹介『ディストピア』など
のジェマ・アータートン。他にサム・フランクリン、ビル・
ナイらが脇を固めている。監督は2010年1月紹介『17歳の肖
像』などのロネ・シェルフィグ。公開は11月11日より、東京
は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)
『アトミック・ブロンド』“Atomic Blonde”
(オスカー女優のシャーリーズ・セロンが、自らの製作主演
でMI6の女スパイに扮するアクション作品。舞台は1989年
冷戦末期のヨーロッパ。スパイ網の極秘情報を掴んだ捜査官
が殺され、その真相究明のため主人公は壁の崩壊直前のベル
リンに向う。しかしそこには各国のスパイが横行し、さらに
二重スパイの疑いも持たれていた。共演はジェームズ・マカ
ボイ、2017年7月紹介『ザ・マミー』などのソフィア・ブテ
ラ。さらにジョン・グッドマンらが脇を固めている。監督は
2010年12月紹介『トロン』などのスタントマンで、本作で長
編デビューを飾ったデヴィッド・リーチ。原作はグラフィッ
クノヴェルだそうで、それらしい強烈なアクションが展開さ
れる。公開は10月20日より全国ロードショウ。)
『氷菓』
(米澤穂信原作の学園ミステリー「古典部シリーズ」第1話
の映画化。信頼する姉の指示で廃部寸前の「古典部」に入部
した高校新入生の主人公が、先に部室に居た女子生徒と出逢
い、彼女が提示する謎を持ち前の推理力で解いて行く内に、
過去の「古典部」に起きた伝説の出来事を紐解いて行く。基
本的に殺人などの大げさな話ではないが、1970年前後の学園
紛争時代を体験している自分には懐かしさも感じられる作品
だった。出演は、山崎賢人、広瀬アリス、本郷奏多、小島藤
子、岡山天音。今旬な若手の共演になっている。脚本と監督
は、2013年11月紹介『バイロケーション』などの安里麻里。
本作もトリッキーな話だが、それを巧みに映像化している。
公開は11月3日より全国ロードショウ。)
『ALL EYEZ ON ME』“All Eyez on Me”
(1996年に路上で銃撃され、25歳で亡くなったラッパー2PAC
ことトゥパック・シャクールを描いた伝記映画。ジャクール
は元々母親が黒人過激派ブラックパンサーの一員だったそう
で、そんな家庭環境の中でラッパーを志して1991年にソロデ
ビュー。その過激な社会派の歌詞内容で一躍スターダムにの
し上がる。その後は映画にも出演するなど華々しい活躍とな
るが、レコーディング中にスタジオに押し入った強盗に5発
の銃弾を受けるなど、壮絶な人生を歩むことになる。出演は
父親が2PACのアルバムに参加したという俳優のディミートリ
アス・シップ Jr.。監督はヒップホップ系の短編などを数多
く手掛けるベニー・ブームが担当した。公開は12月より、東
京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)
『シネマ歌舞伎 四谷怪談』
(歌舞伎の舞台を映画館で手軽に楽しめる「シネマ歌舞伎」
の第28弾。「シネマ歌舞伎」は2012年2月に『高野聖』など
も紹介しているが、本作は歌舞伎座ではなく1994年から渋谷
のシアター・コクーンで上演されている「コクーン歌舞伎」
の模様が収録されている。従ってこの舞台では、かなり斬新
な演出も登場するもので、それは作品を見てのお楽しみだ。
内容は鶴屋南北原作の古典的なものだが、本来のお岩=伊右
衛門の物語ではなく、お袖=権兵衛が中心とされており、そ
の点でも目新しい感じがした。出演は、中村獅童、中村勘九
郎、中村七之助。他に笹野高史、大森博史、バレエダンサー
の首藤康之など、「コクーン歌舞伎」特有の異色キャストも
登場する。公開は9月30日より、全国ロードショウ。)
『永遠のジャンゴ』“Django”
(第2次大戦前後のヨーロッパで活躍したギタリスト、ジャ
ンゴ・ラインハルトを描いた伝記映画。ロマ(ジプシー)の
ジャンゴはナチスからの迫害を受け、その中での様々な出来
事が描かれる。ナチスの迫害というとユダヤ人に対するもの
が主だが、ロマに対する迫害も相当だったもので、本作では
その実態が明らかにされる。また劇中では、ラインハルトが
作曲した「黒い瞳」を始めとする数々の名曲も演奏され、そ
の超絶なテクニックのギター演奏を再現したシーンも含めて
素晴らしい音楽映画にもなっている。監督は2013年『大統領
の料理人』などの脚本を手掛けたエチエンヌ・コマールのデ
ビュー作。公開は11月25日より、東京はヒューマントラスト
シネマ有楽町他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2017年08月20日(日) 仁光の受難

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『仁光の受難』
2016年バンクーバー国際映画祭でプレミア上映されて大評判
となり、その後に釜山、ロッテルダムなど世界各地の映画祭
で上映された日本映画が逆輸入、凱旋公開される。
物語の背景は侍のいる時代。とある寺に仁光という名の僧侶
がいた。勤勉な性格の僧侶は寺でも一番の修行を積んでいた
が、彼には一つの悩みがあった。それはモテ過ぎること。村
に托鉢に行けば老若を問わず女に言い寄られ、男だけの寺で
も怪しい空気に取り囲まれる。
それを自らの不徳とする彼はさらに厳しい修行に励むが、そ
の悩みは中々解消されない。そして托鉢も止められて一人寺
に居た日、忍び込んだ村娘の色香が彼を襲う。そこで至らぬ
自分に気付いた僧侶は修行の旅に出ることにするが…。その
旅でさらなる試練が彼に襲い掛かる。
そこに男の生気を吸い取る妖怪・山女や、人斬りに捉われて
妖怪と化した武士などが絡み、仏道と世俗が織りなす摩訶不
思議な物語が繰り広げられる。

主演は、2015年『BLACK ROOM』などの監督としても知られ、
2002年12月紹介『六月の蛇』など塚本晋也監督作品の常連俳
優でもある辻岡正人。他に元ストリッパーの若林美保、舞台
俳優の岩橋ヒデタカらが脇を固めている。
脚本と監督は、学生映画の出身でCFなども手掛けるフリー
ランスディレクターの庭月野議啓。自身の長編デビュー作と
なる本作は、製作も務める庭月野がクラウドファンディング
を活用して完成させたそうだ。
さらに劇中曲では、世界的に活躍する尺八奏者の神永大輔が
独特の雰囲気を醸し出している。
作品には女声ナレーションが添えられて「日本昔ばなし」の
ような趣だが、その実写の映像はR−12指定を受けるほどの
もの。さらにそこに浮世絵や曼荼羅を模したアニメーション
などが加味されて、摩訶不思議な作品に仕上げられている。
しかも侍なども登場する内容だから、これは海外の映画祭で
は大受けすること間違いなしの作品だ。そしてそれは海外で
は爆笑も呼んだそうだが、日本人の目で観ても愉快この上な
い作品になっている。
R指定の描写もそれなりに濃厚で、他の宗教でここまでやっ
たら問題にもなりそうだが、仏教のおおらかさも感じる作品
だ。そのバランス感覚も含めまた1人、日本映画の枠を超え
た新たな才能の開花が観られるものだ。

公開は9月23日より、東京は角川シネマ新宿にてロードショ
ウとなる。

この週は他に
『問いかける焦土』“Lektionen in Finsternis”
(2012年1月紹介『忘れられた夢の記憶』などのヴェルナー
・ヘルツォーク監督で、1992年に発表された湾岸戦争が背景
のドキュメンタリー。基は前年の戦争で破壊放火された油井
の消火活動を記録するものだったようだが、そこに監督は人
類によって破壊される地球の未来を見つめる。人類が創造し
た都市と、業火の燃え盛るまるで異惑星のような風景とが、
監督本人がSFのようだと語る摩訶不思議な映像を作り上げ
ている。以前にNHKで放送されたこともあるようだが、そ
の際には肝心のシーンがカットされていたとのこと。今回は
初めてその全貌が一般公開される。東京では10月7日〜27日
に新宿K's cinemaで開催「ヘルツォーク特集2017」の中で
上映され、以降全国順次ロードショウ。)
『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』
(EXILE HIROの企画プロデュースで2016年公開された作品の
続き。前作は観ていないが、若者たちが取り仕切る暴力に満
ちた街区を舞台に、内での抗争と外からの敵には団結して対
抗する姿が描かれる。街区の名前は構想するグループの頭文
字からSWORDと名付けられているが、それが「スウォード」
と発音されているのは洒落のつもりなのかな? そこにはそ
れなりのルールもあって、そこから逸脱すると官憲が乗り込
んでくるようだ。そんな中での物語が展開される。EXILEの
メムバーが主要な役を演じる他に、窪田正孝、林遣都、中村
蒼、斎藤工らの若手俳優が脇を固め、さらに津川雅彦、岸谷
五郎らのベテランも登場する。台詞のある役が100人を超え
るそうだ。公開は8月19日より、全国ロードショウ。)
『エンドレス・ポエトリー』“Poesia Sin Fin”
(2016年9月紹介『虹泥棒』などのアレハンドロ・ホドロフ
スキー監督による2014年『リアリティのダンス』に続く自伝
シリーズの新作。前作では故郷トコピージャの漁村に暮らす
幼少時代が描かれたが、本作では首都サンティアゴでの青年
時代が描かれる。とは言うものの作品は、監督らしい摩訶不
思議な雰囲気に彩られたものだ。そしてその撮影を、2016年
11月27日題名紹介『壊れた心』などのクリストファー・ドイ
ルが担当、こちらもその雰囲気を倍加させている。なお本作
の流れで次回作があるとすればヨーロッパ編となるようで、
いろいろな人との交流も始まるその作品を是非ともみたいも
のだ。本作の公開は11月18日より、東京は新宿シネマカリテ
他で全国順次ロードショウ。)
『リミット・オブ・スリーピング・ビューティ』
(インディーズ映画で注目を集めてきた二宮健監督が、ゆう
ばり国際ファンタスティック映画祭2015で審査員特別賞を受
賞した作品を、商業映画デビュー作としてセルフリメイク。
小さなサーカス小屋でマジシャンのアシスタントをしている
女性が、催眠術にかかる演技をしている内に幻想と現実の狭
間の世界に紛れ込む。出演は2016年9月18日題名紹介『ひか
りをあててしぼる』などの桜井ユキと、2017年1月紹介『3
月のライオン』などの高橋一生。他に山谷初男、満島真之介
らが脇を固めている。内容は原案、脚本も務める監督の心象
世界だから周りはそれに従えばよい。繰り広げられる映像の
氾濫に身をゆだねて楽しむ作品だ。公開は10月21日より、東
京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『南瓜とマヨネーズ』
(2006年『ストロベリーショートケイクス』などの原作で知
られる漫画家・魚喃キリコの代表作とされる作品の映画化。
ミュージシャンを目指す恋人のため内緒で風俗に勤め始めた
女性。その現実を知った恋人は真面目に働き始めるが…。彼
女は過去の男と再会し、ダメと知りつつその優しさにのめり
込んで行く。出演は臼田あさ美、太賀。その脇をオダギリジ
ョー、清水くるみ、光石研らが固めている。脚本と監督は、
2012年9月紹介『BUNGO ささやかな欲望』の中の「注文の多
い料理店」を担当した冨永昌敬。原作は1990年代の作品のよ
うだが、都会の片隅では今でもこんなことってあるのだろう
なあ、と思わせる物語が展開される。公開は11月11日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)
『先生! 、、、好きになってもいいですか?』
(2011年2月紹介『高校デビュー』などの河原和音原作少女
コミックスからの映画化。女子生徒がクールで生真面目な教
師に恋をし、その気持ちを素直にぶつけるが…。出演は広瀬
すず、生田斗真。他に竜星涼、森川葵、健太郎、比嘉愛未ら
が脇を固めている。監督は、2013年8月紹介『陽だまりの彼
女』などの三木孝浩。脚本は2015年『心が叫びたがってるん
だ。』などの岡田麿里が担当した。前々回『ナラタージュ』
に続いてジャニーズ主演のよく似た感じの話だが、行定作品
は小説の映画化で本作はコミックス。その辺の違いが映画化
に現れているのも面白く感じられた。なお題名は当初原作の
ままだったが変更されたようだ。公開は10月28日より、東京
は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)
『泥棒役者』
(2011年12月紹介『ワイルド7』などの関ジャニ∞丸山隆平
初単独主演という作品。天才的な開錠の腕を持つが真っ当に
生きようとしていた若者が、昔の仲間に脅されて最後の仕事
として絵本作家の家に忍び込む。ところがそこで新米編集者
に作家本人と間違われ、何とか取り繕おうとしてすったもん
だが始まる。共演は市村正親、石橋杏奈、宮川大輔、ユース
ケ・サンタマリア、片桐仁、高畑充希、峯村リエ。脚本と監
督は、2012年9月紹介『Tiger & Bunny: The Beginning』の
脚本を担当した西田征史。舞台劇のような作品だが、脚本は
オリジナルのようだ。ただもう一捻り欲しいかな。出来たら
舞台に掛けて練り込んでみたい。公開は11月18日より、東京
はTOHOシネマズ新宿他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2017年08月13日(日) ホリデイ・イン、恋と嘘

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ホリデイ・イン』
 “Holiday Inn, the New Irving Berlin Musical: Live”
アーヴィング・バーリンの作詞作曲、フレッド・アステア、
ビング・クロスビー主演により1942年製作されたハリウッド
ミュージカルがブロードウェイで舞台化され、その舞台面を
撮影した作品が映画館に登場する。
物語の背景は1940年代のアメリカ東部。主人公は作詞作曲の
才能に恵まれた男性、彼はダンスの上手い親友と組み、さら
に女性を加えた3人組でニューヨークのナイトクラブに出演
していた。しかしその生活に見切りをつけコネチカット州に
農場を買って引退を決意する。
斯くして希望の農園経営を始めた主人公だったが、成果はな
かなか上らず、失意にも似た日々が続いていた。そんな主人
公の許に活発な女性教師が現れ、彼女の協力で農園をホテル
に改築、さらにそこで祝日ごとのショウの上演を始めると、
それが成功して盛況となる。
一方、ダンサーの親友はハリウッド進出を目論んでいたが、
ニューヨーク時代の女性には去られていた。そこで主人公の
噂を聞きつけたダンサーはホテルを訪れ、女性教師とダンス
の相性が良いことに気付く。そして女性教師にハリウッド進
出の話を持ち掛けるが…。
こんな物語に、1942年のオリジナルで発表され、後に題名に
冠された映画作品で一世風靡し、今ではクリスマスソングの
定番とまで言われる「ホワイト・クリスマス」。さらには、
こちらも後に映画の題名になる「イースター・パレード」な
どの楽曲が挿入されて、華やかな物語が展開される。
さらに本作の舞台化では、1942年のオリジナルには無いが、
同じくバーリンの作詞作曲により1935年製作の映画『トップ
・ハット』で歌われた「チーク・トゥ・チーク」なども歌と
ダンスで披露され、正に作曲家の全てが見られる作品になっ
ている。
1942年作はバーリンのオリジナルアイデアに基づくとされて
おり、物語は正直に言ってベタなものだけれど、古き良き時
代というのか、ハリウッドが夢工場と呼ばれるのにピッタリ
という感じの素敵な作品になっている。ド派手なアクション
ではないが、見事な歌とダンスが堪能できる作品だ。

出演は、ブライス・ピンカム、コービン・ブルー、ローラ・
リー・ゲイヤー、ミーガン・ローレンス。他にミーガン・シ
コラ、モーガン・ガオらが脇を固めている。
キャストのほとんどは映画では馴染みがないが、親友のダン
サー役を演じたコービンは2008年11月紹介『ハイスクール・
ミュージカル/ザ・ムービー』にも出ていた。
公開は11月10日より、東京は築地東劇にて5日間限定で上映
される。
なお本作の公開では「松竹ブロードウェイシネマ」と称され
ており、今後もこの様な作品の公開が期待できそうだ。

『恋と嘘』
スマホのマンガアプリで連載され、2017年夏にはテレビアニ
メ化もされたというムサオ原作マンガの実写映画化。
超少子化時代を迎えて政府が結婚相手の斡旋を始めたという
社会が背景の、これも近未来SFと言えるのかな…?
主人公は16歳の誕生日を間近にした女子高生。その誕生日に
は、政府から結婚相手が通知される。それは罰則規定などが
あるものではないが、相性なども加味された理想の相手のは
ず。だから多くの国民はその斡旋を尊重していた。
そんな彼女には何でも話せる幼馴染みの男子がいて、誕生日
の前日、その幼馴染みと斡旋相手との出会いのリハーサルを
していた時、午前0時を過ぎて彼女の前に現れたのは大病院
の跡取り息子だった。
その息子は彼女を豪華なデートに誘い、高価なプレゼントも
贈ってくる。しかしその態度はどこか淡泊だった。それでも
大金持ちの相手に舞い上がったりもする主人公だったが…。
やがて幼馴染みにも通知の日が来る。

出演は、2016年11月27日題名紹介『A.I. love you』などの
森川葵、同年2月紹介『あやしい彼女』などの北村匠海、同
年8月21日題名紹介『イタズラなKiss』などの佐藤寛太。他
に温水洋一、中島ひろ子、三浦理恵子、木下ほうからが脇を
固めている。
監督は、2013年9月紹介『ルームメイト』などの古澤健。脚
本は2015年『ヒロイン失格』などの吉田恵里香が担当してい
る。
後半にはかなりの捻りもあって、映画としてはそれなりの作
品になっていると思う。原作とは登場人物の配置なども変え
ているということなので、脚本にはかなり手が入れられたも
ののようだ。
とは言うものの本作の設定にはかなり無理があって、実は辻
褄の合わない点が生じている。しかもそれが根幹の設定だか
ら、これは脚本家も手を出せなかったのかな。そのための言
い訳的な台詞も有ったりはするが…。
いや普通に考えてこれは変だと思えるのだが、最近の読者は
この程度の矛盾にも気付かないのだろうか。そこに脚本家の
努力が見えるのも痛々しいところだ。映画ファンならこの辺
は見抜けるよね…?
問題は病院の御曹司が何時通知を受け取ったかのなのだが。
幼馴染が受け取るのは16歳の誕生日のようだし…。

公開は10月14日より、東京はTOHOシネマズ新宿他で全国ロー
ドショウとなる。

この週は他に
『ナインイレヴン』“9/11”
(情報解禁前のため割愛)
『望郷』
(2012年10月紹介『北のカナリアたち』などの湊かなえ原作
短編集からの映画化。元は6編からなる作品の中から子供の
頃の遊園地への憧れを綴る「夢の国」と、家庭を顧みなかっ
た父親の真意を描く「光の航路」の2編が、貫地谷しほりと
大東駿介の主演で映像化されている。原作者の湊はイヤミス
の旗手のように言われているが、今回の映画化された一方に
はミステリーの趣もあり、他方はある秘密の謎解きを描いた
もの。それが現在に反映されているのが湊の真骨頂だろう。
両作共にイヤミスではない。監督は2017年5月28日題名紹介
『ハロー・グッバイ』などの菊地健雄。脚本は2011年4月紹
介『アベック・パンチ』などの杉原憲明。公開は9月16日よ
り、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『アメイジング・ジャーニー 神の小屋より』
                    “The Shack”
(キャンプ場の湖でボートが転覆。乗っていた長男長女は無
事だったが、それで目を離した隙に末娘が行方不明になる。
やがて付近の山小屋で末娘のドレスが発見され、警察は連続
誘拐殺人犯の犯行と断定するが、遺体は発見されなかった。
そして年月を経ても癒えない傷を負った一家の父親に「あの
山小屋へ来い」という謎の招待状が届く。そしてその山小屋
に向った父親は…。主演はサム・ワーシントン、オクタビア
・スペンサー、ラダ・ミッチェル。ファミリードラマの体裁
だが、内容的には最近時々見るキリスト教の教義に従った作
品と言える。ただし以前の作品ではここで奇跡が起きたが、
そこまでは描かない節度はあったようだ。公開は9月9日よ
り、東京は新宿バルト9他で全国順次ロードショウ。)
『アナベル 死霊人形の誕生』“Annabelle: Creation”
(2013年9月及び2016年6月紹介の『死霊館』では、除霊師
夫妻が管理する死霊館の中央に置かれ、2015年『アナベル
死霊館の人形』でもその恐怖が描かれた史上最恐と言われる
悪魔人形アナベルの、その誕生の経緯を描いた作品。描かれ
る因縁話は誤解や行き違いが重なって行くものだが、それな
りの道理はあってジャパニーズホラーのように理不尽でない
のは救いかな。でも恐ろしさは抜群のものだ。因に人形は実
在するとされている。監督は2016年7月10日題名紹介『ライ
ト/オフ』などのデビッド・F・サンドバーグ。前作と同様
『ソウ』シリーズや『死霊館』などのジェームズ・ワンが製
作を担当している。公開は10月13日より、東京は新宿ピカデ
リー他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2017年08月06日(日) ゲット・アウト

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ゲット・アウト』“Get Out”
黒人コメディアンのジョーダン・ピールが製作、脚本、監督
を務めるホラー作品。
主人公は白人の恋人を持つ黒人のカメラマン。そんなカップ
ルが結婚を決め、彼女の実家に挨拶に行くことになる。その
時、主人公は肌の色の違いを危惧するが、彼女は「父は3選
のオバマにも投票したはず」と一蹴する。
しかしその実家に向かう途中で主人公は、白人警官の横柄な
対応にも遭遇する。そして到着した彼女の実家は、周りを森
に囲まれた大邸宅だが、主人公はそこに黒人の使用人がいる
ことに違和感を覚える。
それでも彼女の両親は大歓迎で、やがて近隣の人も集まった
パーティも開かれるが…。主人公はそこに招かれた少数の黒
人の姿にさらに違和感を深めていた。そしてその違和感は恐
怖へと繋がって行く。

出演は、2014年『キック・アス』続編などのダニエル・カル
ーヤと、コメディエンヌのアリソン・ウィリアムズ。他に、
2013年『キャプテン・フィリップス』などのキャサリン・キ
ーナー、2013年12月紹介『ウォルト・ディズニーの約束』な
どのブラッドリー・ウィットフォードらが脇を固めている。
物語の成り行きは、後半のアイデアを先に思いついて、そこ
から前半が作られたと思われるが、いずれにしてもアメリカ
で消えない人種差別へのメッセージを込めた作品であること
は間違いない。
しかし本作では、逆に黒人の頑健さなどが強調されて優越主
義が見え隠れするのはご愛嬌だ。しかも監督は当初、結末で
主人公が逮捕されるヴァージョンを撮影したが、公開直前に
変更したのだそうで、その辺の思惑も面白いところだ。
もっとも一緒に試写を観た知人からは、「最期に主人公が他
の黒人を勧誘していたらもっと面白い」という発言が出て、
それは本当に凄いと思わされた。でもこの監督ではそれはな
さそうだ。
因に上記の当初の結末は、DVDには収録されるとのこと。
それにしても、アメリカの人種差別の根の深さが痛いほどに
見える作品だ。
なおコメディアンの監督がデビュー作でホラーを撮ったこと
に関しては、監督自身が「コメディもホラーもいろいろな要
素が絡み合うことでは同じ」と語ったそうで、この意見には
賛同するところだ。

公開は10月27日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他にて、
全国ロードショウとなる。

この週は他に
『汚れたダイヤモンド』“Diamant noir”
(宝石の研磨で財を成した一族。しかしそこには兄弟の確執
があった。主人公の父親は研磨中の事故で指を失い、そのた
め一族を追い出される。その息子は強盗団に入り、一族への
復讐の時を伺う。ところが手引きのために一族の中に入り、
家族として迎えられた主人公に葛藤が生まれる。物語は複雑
だが、それなりに整理されて中々の復讐劇が描かれていた。
出演は今年5月14日「フランス映画祭」で紹介『ポリーナ、
私を踊る』などのニールス・シュナイダーと、2010年7月紹
介『ソルト』などのアウグスト・ディール。監督は俳優でも
あるアルチュール・アラリが務めた。公開は9月中旬、東京
は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『茅ヶ崎物語』
(加山雄三やサザン・オールスターズを誕生させた神奈川県
茅ヶ崎市の音楽事情を、大手レコード会社に勤務した同市在
住の人物が検証するドキュメンタリーと、彼が企画した桑田
佳祐初ライヴの様子を神木隆之介らの出演で再現ドラマにし
て綴った作品。ただし本作では別の学者が歴史を紐解くが、
その説は日本の海岸線の街の全てに共通するもので、それと
茅ヶ崎音楽との繋がりは意味不明。ラストの映像を見るに、
もっと桑田に沿った作品にして良かったのではないのかな?
茅ヶ崎音楽の発祥については2008年4月紹介『サンシャイン
・デイズ』が的確だったと思うが、本作でその点に全く触れ
ないのも解せなかった。公開は9月16日より、東京はTOHOシ
ネマズ六本木ヒルズ他で2週間限定ロードショウ。)
『ナラタージュ』
(行定勲監督、松本潤、有村架純の共演で、2006年版「この
恋愛小説がすごい」第1位に輝いた島本理生原作の映画化。
高校時代に危ういところを演劇部顧問の教師に救われた女性
が、大学生になって後輩の舞台の応援に呼ばれる。しかしそ
れは高校時代に秘めた感情を再燃させるものだった。恋愛ド
ラマの様相を取りながら主人公の秘めた心情を解いて行く謎
解きの要素もあり、かなり複雑な作品になっている。ただし
作品はさらに後の時代から振り返る展開になっており、そこ
までの繋がりに多少の違和感が残ってしまった。素直に物語
だけを楽しめばよいのだろうが…。公開は10月7日より、東
京はTOHOシネマズ六本木ヒルズ他で全国ロードショウ。)
『チェイサー』“Kidnap”
(2013年10月紹介『ザ・コール 緊急通報指令室』などのハ
ル・ベリー主演で、目の前から子供を誘拐された女性が単独
で犯人を追い詰めて行く姿を描いたノンストップアクション
作品。上記主演作もアメリカで横行する誘拐事件をテーマに
したものだったが、本作ではそれがすでに産業と呼べるもの
になっていることを背景にしている。そして主人公は目の前
から子供を連れ去った犯人の車を追跡し追い詰めて行くのだ
が、その展開の強烈なこと。これは日本の女優では到底かな
わない、ハリウッドのハル・ベリーだからこそ出来る作品と
言えるかもしれない。そんな「映画」を堪能させてくれる。
監督は長編2作目のルイス・プリエト。今後に期待の新鋭の
作品だ。内覧中の試写を見せて貰ったもので、公開期日は未
定だが、年内予定になっている。)
『ダンケルク』“Dunkirk”
(第2次大戦初期の1940年5月〜6月に行われたダンケルク
撤退作戦を、2014年11月紹介『インターステラー』などのク
リストファー・ノーラン監督がIMAX-3Dで映像化した作品。
実はマスコミ試写が通常版2Dのみだったので作品の全貌は
観られていない。しかし民間船も動員された撤退作戦の様子
や、スピットファイア対メッサーシュミットの空中戦など、
これをIMAX-3Dで観られたらさぞかしだろうという感覚には
なる作品だった。しかもノーラン監督は、この様子を3つの
時間軸の同時進行というトリッキーな構成で描いており、そ
のノーラン・ワールドも体感できる作品だ。公開は9月9日
より、2D/3D/IMAX-3Dで全国ロードショウ。)
『ソウル・ステーションパンデミック』“서울역”
(2017年7月紹介『新感染 ファイナル・エクスプレス』の
前日譚となるヨン・サンホ監督によるアニメーション作品。
物語は実写作品と同様の感染症に始まるパニックを描いてい
るが、実写作がほぼアクションに終始したのに対して、本作
ではその間でかなり壮絶な人間模様が展開される。これが見
事で、正直なところ監督の興味は主にそちらに向いているよ
うにも思える。でも実写作の演出は見事だったし、そこにこ
の人間模様が織り込まれたら、これは本当に凄いことになる
という思いはした。監督のアニメーション作品は前回題名紹
介『我は神なり』に続く第3作で、残る第1作も観たいもの
だ。本作の公開は9月30日より、東京は新宿ピカデリー他で
全国ロードショウ。)
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』
(1979年に放送開始されたシリーズでキャラクターデザイン
などを務めた安彦良和が自ら手掛けたマンガの映像化。因に
本作は新シリーズの第5作だが、前作までで一つの話が完結
し、本作からは新たな展開が始まるようだ。とは言え僕自身
はオリジナルシリーズを見ていた世代でもないし、本作だけ
では不明の点も多かった。でもまあオリジナルからのファン
にはこれで良いのだろうし、そこにとやかく言う資格は僕に
はない。特に本作の副題にはそれなりの意味もあるようだ。
ただ本作を観ていて時々画面がスタンダードになったり、H
Dサイズになるのは気になったもので、その理由は知りたい
と思ったところだ。公開は9月2日より、東京は新宿ピカデ
リー他、全国35館にて4週間の限定ロードショウ。)
『夜間もやってる保育園』
(以前多発した事故により法制度が定まり、公的に認められ
るようになった夜間保育園。本作は東京の繁華街に所在する
一つの保育園を主な取材先として、その現実が抱える問題な
どが描かれる。個人的には子供も成長して保育園の世話にな
る状況ではないが、いろいろ見聞きする機会はあるし関心は
寄せていた。従って内容には先に承知のものも多かったが、
これらをちゃんと伝えることに関しては今までなかった作品
のように思える。その点で実に喜ばしい作品だった。しかも
題材を暗く捉えずに、極力前向きに描いていることにも好感
が持てるもので、さらにそこに問題点はしっかりと指摘した
素晴らしい作品になっている。公開は9月30日より、東京は
ポレポレ東中野他にて全国順次ロードショウ。)
『立ち去った女』“Ang babaeng humayo”
(昨年のベネチア国際映画祭でグランプリの金獅子賞に輝い
たフィリピンの鬼才ラブ・ディアス監督による上映時間3時
間48分に及ぶ人間ドラマ。冤罪で30年間投獄されていた女性
が真犯人の告白により釈放され、女性は真の黒幕に復讐する
ため行動を開始する。そんな彼女の前に苦しみを抱える様々
な人たちが現れ、彼らの協力により彼女は一歩ずつ黒幕に近
づいて行く。かなり濃密に描かれた作品で、長い上映時間を
飽きさせなかった。主演は1970年代から映画界を中心に活躍
し、メディア局ABS-CBNの前会長も務めたチャロ・サントス
・コンシオ。女優の17年ぶりの復活も話題になっている作品
のようだ。公開は10月より、東京は渋谷シアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウ。)
『AMY SAID』
(多くの個性派俳優が所属するマネージメント会社ディケイ
ドが設立25周年を記念して製作した群像ドラマ。20年前に自
ら命を絶った女性の命日に集まった元映画研究会の面々が、
彼女が最後に残した言葉を巡って心をぶつけ合う。出演は三
浦誠己、渋川清彦、中村優子、山本浩司、松浦祐也、テイ龍
進、石橋けい、大西信満、村上淳。他に村上虹郎、渡辺真起
子らが脇を固めている。監督は数多くのCFや博覧会の映像
を手掛けてきた村本大志。劇場公開作品は1997年、2004年に
継いで3作目のようだ。スナックでの集まりを中心にした舞
台劇のような会話劇だが、そこに外部の人間も関ってそれな
り凝った人間ドラマが展開される。公開は9月30日より、東
京はテアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二