井口健二のOn the Production
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2017年06月25日(日) エレファントカシマシ/REBECCA 渋谷公会堂、スターシップ9、ウインター・ドリーム 氷の黙示録

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『エレファントカシマシ〜1988/09/10 渋谷公会堂〜』
『REBECCA〜1985.12.25 渋谷公会堂〜』
およそ30年前に渋谷公会堂(ネーミングライツが設定される
前の正に渋公)で行われたコンサートの記録映像がDVD化
されることになり、試写が行われた。
「エレファントカシマシ」の映像は、撮影の状況が良く判ら
ないのだが、ホリゾントの幕も揚げられ、後ろの機材もむき
出しという状況で、登場したヴォーカルも「何だこれ」とい
うような舞台だが…。
そこに舞台の上(移動)、下手舞台袖、舞台下、さらに1階
観客席の中央、左、右というカメラ配置で、しかもそれぞれ
に2台ずつという布陣で、正に舞台での演奏を多角的に記録
しようという意気込みが感じられた。
因に、それぞれ2台というの撮影がフィルムで行われている
ためで、舞台上のカメラでは頻繁に交換をしている様子も観
られるもの。そのために客席の灯りも点いたままという、普
通では考えられない状況での撮影が行われている。
しかしお蔭で客席の様子も明瞭に見られるもので、すでに取
り壊されて更地になった渋公の在りし日の様子には懐かしさ
も込上げた。なお観客は歓声は挙げるが着席のままというの
は、そういう指示があってのものなのだろう。
そしてその舞台ではアンコールも含めて14曲が歌われるが、
ヴォーカルはほぼ70分間を歌いっぱなしで、しかもその声量
の大きさには、しみじみと若さの素晴らしさを見せつけられ
る感じがした。
そして映像はフィルム撮影の真価を目の当たりにする、見事
な記録になっているものだ。

なおBlu-ray、DVDの発売は7月26日だが、その前の7月
11日には東京のZepp Tokyoと大阪のZepp Nambaで一夜限りの
プレミア上映も行われるとのことで、そこでは会場のPAを
フル活用した爆音上映となるようだ。
「REBECCA」の映像はWORLD CONCERT TOURの一環として行わ
れたもので、こちらは所謂ライヴの記録という感じの観客席
も総立ちというコンサートの模様が記録されている。
そしてこちらは女性ヴォーカルのMCも交えてのコンサート
の様子だが、ヴィデオ撮影での画質は多少落ちるものの、そ
の歌声にはやはり圧倒される。しかもそれが後半にどんどん
盛り上がる様は、正に当時の熱気を感じさせてくれた。
そしてこちらでは、アンコールにとんでもないサプライズが
あって本当にアンコールかと思わせるが、さらにその後で当
時のヒット曲を歌う際には、ヴォーカルの疲労も考えたのか
観客席が唱和する声も聞こえ、それは感動的だった。

こちらのDVDの発売も7月26日だが、実はこの記事の更新
日の6月25日に、東京は新宿バルト9ほか、全国15都道府県
19劇場で一夜だけのプレミヤ上映が行われる。紹介はぎりぎ
りになったが情報はお伝えするものだ。
因に本作の上映時間は、事前の紹介では95分だったが、完成
品は110分程度になったようだ。

『スターシップ9』“Orbiter 9”
アメリカの配信会社ネットフリックスの制作スタッフがスペ
インの新進監督と組んで産み出したオリジナルのSF作品。
物語の始りは若い女性1人だけが乗り組む宇宙船。恒星間を
航行しているらしいが、酸素の備蓄が乏しく酸素濃度は1%
に抑えられている。しかし彼女の発した救難信号でようやく
救援のエンジニアがシステムの修理に訪れる。
ところがそれは彼女にとって両親の遺言ヴィデオ以外で初め
て出会う人間であり、初めて見る男性であった。そしてぎこ
ちない雰囲気で修理を見守り、修理を終えたエンジニアは帰
還の準備を始めるが…。

出演は、2002年『キャロルの初恋』でゴヤ賞新進俳優賞受賞
のクララ・ラゴと、2011年『X-MEN:ファースト・ジェネレ
ーション』でハリウッド進出を果たしたアレックス・ゴンザ
レス。
他に、2008年9月紹介『永遠のこどもたち』などのベレン・
ルエダ、同年5月紹介『コレラの時代の愛』などのアンドレ
ス・パラらが脇を固めている。
脚本と監督は、短編作品で多数の受賞に輝いているアテム・
クライチェ。2012年のVariety紙で「注目すべき若手スペイ
ン映画製作者」の1人に選ばれたという俊英の長編デビュー
作だ。
上記以降の物語の展開は、エンジニアの不自然な登場の仕方
などからSF映画を観馴れている人には大方見当がついてし
まうと思うが、本作ではそこから先がちょっとSFの常識を
超えるものになっている。
それはテーマが人道を超えた危険な秘密研究だということを
考慮しても、軍隊がそこまでやれるのかという範疇なのだ。
具体的には無警告での非武装民間人の射殺なのだが、それが
許可される程の秘密なのかという点に疑問が生じる。
一方、実は映画の初めの方でちょっと引っ掛るニュースらし
きものが描かれていて、その点が以後は全く触れられないの
だが、もしかするとここにはもっと巨大な秘密が隠されてい
るのではないかという考えが浮かんできた。
そうなると、後半に登場するペルソナを使った映像システム
がひょっとしてアーサー・C・クラークの『幼年期の終り』
へのオマージュのようにも見えて、これはとんでもない発想
の基に作られた物語のようにも思えてきた。
実は、プレス資料に掲載された監督のインタヴューにはその
ような言及は全くないので、単なるこちらの思い込みかもし
れないが、いろいろ考えるとSF的には面白いものが見つか
るかもしれない。そんなことを感じさせる作品だ。

公開は8月5日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で、全国順次ロードショウとなる。

『ウインター・ドリーム 氷の黙示録』
               “2307: Winter's Dream”
上記の『スターシップ9』とセットで宣伝されている24世紀
の終末世界を背景にしたSF作品。
それが自然現象か核戦争によるものは良く判らなかったが、
地球が冷え切った未来世界。人類は地中に残った僅かな地熱
を頼りに生き延びているが、あまり危機感もなくドラッグな
どに溺れている。
というのも実際の労役は寒さに順応するように作られた人造
人間に拠っているためで、そのため人類の末裔たちは働くこ
とも必要なくなっているのだ。ところがそこに人造人間たち
の反乱がおきる。
そんな状況で主人公は最初の反乱で妻を殺された警備隊長。
その後はドラッグに溺れていたが、反乱の主謀者の足跡が見
つかりその後を追うべく任務に復帰することになる。そこに
はそれなりにアクティヴな隊員も揃っていたが…。

出演は、本作の原案も提供しているポール・シドゥと、イギ
リス出身のブランデン・コールス、それに2014年の東京国際
映画祭受賞作に主演していたアリエル・ホームズ。
脚本と監督は、2011年1月紹介『ブルー・バレンタイン』の
共同脚本で知られるジョーイ・カーティス。本作はシドゥが
カーティスにアイデアを話して実現したものだそうだ。
宣伝資料には『猿の惑星』や『宇宙戦争』といった題名が並
んでいるが、本作のテーマはどちらかというと今年続編が公
開される『ブレード・ランナー』に近いものだろう。あるい
は2015年12月紹介『オートマタ』も挙げられる。
つまり人類自らが生み出したものが、人類自身の生存競争を
脅かす。その意味では『オートマタ』の時にも書いたように
『2001年宇宙の旅』からの系譜に乗った作品だ。最近この種
の作品が散見されるのは時代の流れなのかな?
なお撮影は極寒のバッファロー平原や、今まで撮影許可が下
りたことのなかったキングス・キャニオン国立公園の洞窟な
どで行われ、VFXなどではない本物の過酷な条件の中での
撮影だったようだ。
そして本作は、プレミア上映されたLAインディー映画祭で
最優秀監督賞を受賞したのを皮切りに、バッファロー国際映
画祭、ボストン・サイエンスフィクション映画祭、ハリウッ
ド・リール・インディペンデント映画祭などで作品賞に輝い
ているそうだ。

公開は、東京では7月15日より開催の「カリテ・ファンタス
ティック!シネマ・コレクション」の1本として上映され、
以降、全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『ベイビー・ドライバー』“Baby Driver”
(2008年5月紹介『ホット・ファズ』などのエドガー・ライ
トが、脚本、製作総指揮も兼ねた監督最新作。ヘッドフォン
から流れる音楽に載せて超絶のドライヴィングテクニックを
魅せる主人公と、そのテクニックを利用して銀行強盗を計画
する犯罪組織のボス。見事なカースタントを絡めて、ライト
監督特有の毒に満ちたコメディが展開される。主演は2017年
5月紹介『ダイバージェント』シリーズに出ていたアンセル
・エルゴート。その脇をケビン・スペイシー、ジェイミー・
フォックス、2016年7月31日『高慢と偏見とゾンビ』などの
リリー・ジェームズらが固めている。主人公が犯罪に巻き込
まれる経緯なども納得できる巧みな作品。これなら文句なし
だ。公開は8月19日より、全国ロードショウ。)
『山村浩二 右目と左目で観る夢』
(2002年に『頭山』でアメリカ・アカデミー賞短編アニメー
ション部門に日本人では初めて正式ノミネートされた作家の
最新作を集めた作品集。上映されるのは『怪物学抄』(2016)
『Fig(無花果)』(2006)『鶴下絵和歌巻』(2011)『古事記 日
向篇』(2013)『干支 1/3』(2016)『five fire fish』(2013)
『鐘声色彩幻想』(2014)『水の夢』(2017)『サティの「パラ
ード」』(2016)の9作で、全体の上映時間は54分となってい
る。作品はかなりシュールなものからそれなりにリアルなも
のまで様々で、内容も飛んだものから教訓がありそうなもの
までヴァラエティに富んでいる。観ているだけで楽しい作品
集だ。公開は8月5日より、東京は渋谷のユーロスペース他
で全国順次ロードショウ。)
『銀魂』
(「週刊少年ジャンプ」連載のコミックスを、小栗旬主演で
実写映画化した作品。幕末に黒船ではなく宇宙人が来襲し、
一気に科学文化が進んでしまった日本=江戸を舞台にした侍
アクション…? 共演は菅田将暉、橋本環奈、長澤まさみ、
岡田将生、中村勘九郎、堂本剛と若手では中々の顔触れが揃
っている。ただ上記の設定からの現実の歴史とのすり合わせ
みたいなものがあまり描かれず、SFとしては物足りない感
じがした。もっとも脚本監督の福田雄一は元々そんなものに
は興味はないらしく、その既存の設定の中だけで物語を構築
しようとしているようだ。多分そういったものが現代の若い
観客には受けるのだろう。SF的にもう一捻りあれば…とは
思うが。公開は7月14日より、全国ロードショウ。)
『ロスト・イン・パリ』“Paris pieds nus”
(カナダの極北部の村で暮していた女性が、ひょんなことか
らパリにやって来た顛末を描いたコメディ。2010年5月紹介
『アイスバーグ』と『ルンバ』のドミニク・アベル、フィオ
ナ・ゴードン夫妻の製作、脚本、監督、主演による作品。プ
レス資料には、「ジャック・タチの再来」などとあったが、
アベル(ドム)の登場シーンなどは、タチなら決してやらな
かったものだろう。作品は基本的に夫妻の本業である道化師
の技に拠っているもので、2人のダンスシーンなどには、タ
チよりチャップリンを思い出した。いずれにしてもノスタル
ジックな作品だ。共演に今年逝去した名女優エマニュエル・
リバが登場する。公開は8月5日より、東京は渋谷のユーロ
スペース他で全国順次ロードショウ。)
『きっと、いい日が待っている』“Der kommer en dag”
(1960年代後半の時代背景でデンマーク・コペンハーゲンの
養護施設を舞台にした実話に基づくとされる作品。貧しい家
庭の兄弟が、病弱な母親と別れて施設に収容される。しかし
そこはしつけとは名ばかりの体罰が横行する場所だった。そ
んな環境で兄弟は空気のような存在であれと言われるが…。
日本でもまたぞろ戸塚ヨットスクールが頭をもたげているよ
うだが、子供に対して常にそのような環境はあるようだ。そ
れを告発するのは正義ではあるが、そこにノスタルジーが絡
まると危うさが生じる。本作はデンマークのアカデミー賞で
6冠を達成し興行も大ヒットしたそうだが、そんな危険も感
じる問題作だ。公開は8月5日より、東京はYEBISU GARDEN
CINEMA他で全国順次ロードショウ。)
『リベリアの白い血』“Out of My Hand”
(ニューヨークを拠点に活動している福永壮志が、撮影監督
村上涼のアイデアを基に脚本、監督、編集を手掛けた作品。
リベリアのゴム農園で働いていた男が労働環境の改善を目指
して立ち上がるが弾圧される。その後、単身ニューヨークに
来てタクシー運転手となった男は、移民の現実に直面して行
く。村上はアフリカでの撮影中にマラリアに罹りアメリカに
帰国後に死去。アメリカシーンは別の撮影監督が引き継いで
完成されている。そんな様々な想いの籠った作品だが、日本
人にはちょっと判り難いところもあるかな? リベリアの現
実などはもう少し説明が欲しい感じもした。でも世界の現実
が垣間見られる作品にはなっている。公開は8月5日より、
東京はアップリンク渋谷他で全国順次ロードショウ。)
『カーズ クロスロード』“Cars 3”
(2006年6月紹介の第1作、2011年7月紹介の第2作に続く
シリーズ第3話。第1作の公開の時は子供の頃に憧れだった
アメリカテレビドラマの舞台「ルート66」の現在の姿を見せ
られて衝撃だったが、そこから新たな道が開けることに嬉し
さも感じた。それが第2作では完全にモーターレースの話に
なって、それはそれで面白くはあったが、第1作の思いとは
ちょっと違った感じにもなっていた。そして第3作は、さら
にモーターレースの世界を描き尽そうという感じで、この点
に関心のある観客にはこれでいいかな? 大体「ルート66」
に関心のある世代の方が稀有だからこれも仕方ないだろう。
ただ主人公の身の処し方には、もう少し何か欲しかった感じ
もしたが。公開は7月15日より、全国ロードショウ。)
『海底47m』“47 Meters Down”
(2011年1月紹介『塔の上のラプンツェル』で主人公の声を
担当したマンディ・モーアと、テレビシリーズ『ヴァンパイ
ア・ダイアリーズ』などで知られクレア・ホルトが姉妹役で
共演する海底パニック作品。人食いザメが遊弋する海域に檻
に入って潜水するツアーに参加した姉妹が、吊り具の故障で
檻のまま47mの海底に沈下。徐々にボンベの酸素が尽きてい
く中での決死の脱出劇が描かれる。かなり凝ったシチュエー
ションだが意外と説得力があって、さらに途中の展開にも上
手い捻りが随所に織り込まれていた。僕はダイヴィングはし
ないので、知っている人が見たらどうかは判らないが、素人
目にはこれは怖いと思わせる作品だ。公開は8月12日より、
東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2017年06月18日(日) 二度めの夏二度と会えない君、Heart and Hearts Korean Film Week、ワンダーウーマン

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『二度めの夏、二度と会えない君』
2008年10月紹介『青い鳥』、2013年2月紹介『恋する歯車』
などの中西健二監督によるSF的な要素を持つ作品。原作は
ライトノベル大賞・優秀賞受賞者赤城大空の同名小説。
それは夏の初め、転校してきた女子生徒が川辺で弾いていた
主人公のギターを聞き、「一緒にバンドやろうよ」と誘うこ
とから物語は始まる。2人の通う高校はあるバンドの出身校
であり、そのバンドは学園祭の演奏で注目された。
そこで彼女も学園祭でのバンドデビューを夢見て転校してき
たのだが…。そのバンドの人気ゆえのトラブルで、学校では
以来、生徒のバンド活動は禁止となっていた。しかし彼女は
めげずにバンド仲間を集め続ける。
そんな彼女には哀しい運命が待ち受けているのだが、主人公
はその全てを知っていた。なぜなら彼は半年後の未来から時
間を超えて戻って来たのだ。そして半年前からやり直すこと
ができる主人公は…。
前と同じ行動を続けながら、あることだけはしないことを心
に決めていた。

出演は、2015年10月紹介『さようなら』などの村上虹郎と、
小学6年でバンドを結成して「いま最も勢いのあるガールズ
バンド」と言われる「たんこぶちん」のVo.&Gt.で、演技は
初挑戦の吉田円佳。劇中の歌は本物だ。
他にAKB48の加藤玲奈、モデル出身の金城茉奈、2017年
4月紹介『トモダチゲーム』などの山田裕貴。さらに本上ま
なみ、菊池亜希子らが脇を固めている。
時間を超える方法が…正にタイムスリップで、前々回に紹介
したこともあったのでニヤリとしてしまった。
内容的にはタイムスリップ物の傑作と言える2005年3月紹介
『バタフライ・エフェクト』の裏返しのような感じで、前と
同じにしたいのに少しずつずれて行くというのは面白い発想
に思えた。
それでも主人公は何とか同じ結末に持って行く訳だが、そこ
での最後の変更点がいろいろと考えさせられた。もしかして
時間を超えたのは彼だけではないかもしれない。それが彼の
運命に作用する。そのためにもう1人がする行動…。
そんなことを考えると物語の別の面が見えてきて、案外深い
作品のようにも思えてきた。上に書いた中西監督の2作もそ
れぞれ気に入った作品だが、2008年2月紹介『山桜』などの
長谷川康夫の脚本も注目してよさそうだ。

公開は9月1日より、東京は新宿バルト9他にて全国ロード
ショウとなる。

続いては以前予告したHeart and Hearts Korean Film Week
と題された特集上映4作品を紹介する。
『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯」“동주”
韓国で国民的詩人とされる人物の若き日を描いた作品。最初
の舞台は第2次大戦中の韓国。共に勉学に励むいとこ同士の
2人の少年は日本への留学を決意する。それは情勢からみて
も安全とは言えない決意だった。そして日本に来た2人は、
迫害に遭いながら徐々に抗日の運動に巻き込まれて行く。そ
んな中で主人公は詩作を続け、それを支援する日本人も現れ
るが…。出演はカン・ハヌルとパク・チョンミン。監督は、
2016年公開『王の運命』などのイ・ジュニク。日本軍人の描
き方がステレオタイプのようにも思えるが、最近の日本映画
ではこの手の描写が少ないから、案外判り易く観られるかも
しれない。

『あの人に逢えるまで』“민우씨 오는 날”
2012年1月紹介『マイウェイ』などのカン・ジェギュ監督に
よる上映時間28分の作品。主人公は毎夕食時になると食卓に
愛する人の好物を並べ彼の帰りを待っている。しかし何時に
なっても彼は帰ってこない。そんなある日、役所の人が来て
彼に会いに行こうと言われる。そして乗ったバスには老人が
大勢同乗していた。出演はムン・チェウォンと2012年8月紹
介『高地戦』などのコ・ス。南北朝鮮の離散家族の問題に現
代のもう一つのテーマを絡めて、見事に描き上げた珠玉とい
う言葉もぴったりと言える作品だ。特に結末のシーンには目
を見張らされた。VFXがこれほどの効果を上げる作品も珍
しいだろう。

『春の夢』“춘몽”
街のチンピラ、北朝鮮出身の作業員、小金持ちのボンボンの
3人の男が屯するバラック建ての飲み屋。3人の目当てはそ
の店を1人で切り盛りする女店主だ。彼女には介護が必要な
父親がいて、3人はその父親の面倒も観たりもする。そして
いつも飲んだくれているパラダイスのような場所。そこに謎
の男が現れて波風が立ち始める、監督は中国出身のチャン・
リュル。出演はハン・イェリ、ヤン・イクチュン、ユン・ジ
ョンビン、パク・チョンボム。南北問題を抱える国情などい
ろいろな側面はあるが、日本でも同じような状況にはなるこ
ともありそうだ。そんなある意味普遍的な青春ドラマが展開
される。

『バッカス・レディ』“죽여주는 여자”
2007年1月9日付「東京国際映画祭」で紹介『多細胞少女』
などのイ・ジェヨン監督による現代韓国ソウルの裏の顔を描
いた作品。主人公は高齢者を主な客にする街娼。本人も高齢
者だが「死ぬほど上手」というテクニックで彼女目当ての客
も多いようだ。そんな彼女は、街を彷徨う混血の幼い男の子
を家に連れてきたりもする。そして彼女の許には「生きるの
が辛い}と告白する客も現れる。そんな周囲の人々の希望に
応えようとする主人公だったが…。出演は、2011年5月紹介
『ハウスメイド』などのユン・ジョヨン。後半の展開にはか
なり重く感じるものもあるが、これが現代社会だろう。この
展開も韓国特有の側面もあるが、日本にも通じる作品だ。

Heart and Hearts Korean Film Weekは、東京はシネマート
新宿にて7月22日−8月11日、大阪はシネマート心斎橋にて
7月29日−8月11日に開催される。

『ワンダーウーマン』“Wonder Woman”
1970年代後半のテレビシリーズも懐かしい、DCコミックス
きってのスーパーヒロインを描いた作品。
2016年『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』
に登場したワンダーウーマンだが、今回の作品ではその起源
が描かれる。
故郷は神秘のベールに包まれたセミスキラ島。そこは女性だ
けのアマゾン族の国であり、長い年月に亙って人類の目から
は隠されていた。そして島の女王の娘ダイアナは、全ての言
語と全ての武芸に通じる女戦士として育てられていた。
ところが航空機の登場で島の海域への侵入が可能となり、図
らずも人間の男性が登場することになる。彼(スティーヴ)
はイギリス諜報部のスパイで、折しも世界大戦中のドイツに
潜入して秘密兵器の情報収集に当っていた。
しかし遂に手に入れた科学者のノートと共に単葉機で逃走中
を追ってきた戦闘機に撃墜され、島の海域に墜落したのだ。
さらに彼の後を追ってドイツ軍の艦船も侵入してきた。斯く
して戦闘となり、女戦士たちは辛くも勝利するが…。
彼の証言から世界に危機が迫っていると知ったダイアナは、
その陰に潜む人知を超えた存在を察知し、スティーヴと共に
島を出てロンドンに赴き、世界平和に貢献することを使命と
して活動を開始する。
因に背景となっている戦争が第1次大戦だと判って観ている
と、この秘密兵器には震撼する。それが第2次大戦では原子
力爆弾へと繋がって行く訳だが、それはハリウッド映画では
描けない話かな?

出演は、『ジャスティスの誕生』でも同じ役を演じたガル・
ギャドットと、『スター・トレック』シリーズなどのクリス
・パイン。他にロビン・ライト、デヴィッド・シューリス、
2016年12月紹介『汚れたミルク』などのダニー・ヒュースト
ンらが脇を固めている。
監督は、2004年8月紹介『モンスター』でシャーリズ・セロ
ンにオスカーをもたらしたパティ・ジェンキンス。6月2日
に全米公開された本作は、女性監督作品では史上最高の興行
記録を樹立している。
映画の開幕にはウェイン(バットマン)からのプレゼントが
登場して、本作が『ジャスティスの誕生』の続きであること
が明示される。そして物語はそのプレゼントによって呼び起
こされた思い出として語られるものだ。
従って本作の続きが現代の『ジャスティス・リーグ』になる
ことは明白となったもので、取り敢えずの次回作は、年末公
開の作品への登場になるようだ。その他にワンダーウーマン
単独の活躍も期待したいが…。

本作の日本公開は8月25日より、2D/3D/IMAXでの全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』
(第2次大戦後のアメリカ統治下における沖縄で、立法院議
員や那覇市長を歴任し、沖縄返還以前の国政参加選挙から衆
議院議員としても活動した政治家の姿を追ったドキュメンタ
リー。2017年1月紹介『標的の島』など米軍支配下の沖縄の
現状を伝えるドキュメンタリーは何本か観ているが、その根
底にある沖縄返還時のことはあまり明白ではなかった。本作
はそこにいた瀬長亀次郎という人物を中心に、その事実関係
を描いた作品にもなっている。そこでは本土の日本人が昭和
天皇を筆頭に、沖縄を米軍に売り飛ばした経緯が語られる。
この事実を日本人は深く受け止めなくてはいけない。公開は
8月26日より、東京は渋谷のユーロスペース他にて全国順次
ロードショウ。)
『逆光の頃』
(マンガ家タナカカツキが1988年に発表したデビュー作を、
2012年11月紹介『ももいろそらを』などの小林啓一監督が映
像化した作品。京都の町並みなどを背景に高校2年生の主人
公の仲間との別れや喧嘩、それに淡い初恋などが描かれる。
原作は叙情派とも呼ばれる作品だそうで、吹き出しなども最
小限に描かれているようだが、本作でそれがどこまで伝えら
れているか…。ただ京都の風物の描写は目を見張るほどに美
しく、それを観るだけでも充分の満足できる作品になってい
る。出演は2017年05月21日題名紹介『トリガール!』などの
高杉真宙。他に葵わかな、清水尋也、金子大地、佐津川愛美
らが脇を固めている。公開は7月8日より、東京は新宿シネ
マカリテ他で全国順次ロードショウ。)
『俺たちポップスター』
        “Popstar: Never Stop Never Stopping”
(2008年11月紹介『無ケーカクの命中男』などのジャド・ア
パトーが製作を務め、Saturday Night Liveのレギュラーだ
ったコミックトリオTHE LONELY ISLANDのアンディ・サムバ
ーグ、ヨーマ・タコンヌ、アキヴァ・シェイファーが製作、
脚本、音楽、出演(後2人は監督も)を務める音楽が題材の
フェイク・ドキュメンタリー。幼馴染3人のバンドから1人
がソロデビューするが…。ポップスターの栄光と挫折が描か
れる。物語自体は有り勝ちかなとも思えるが、さすがSNL
絡みという豪華なゲストが様々なコメントで観客を楽しませ
る。と言っても音楽に疎いと半分も判らないが、判る範囲だ
けでも相当の顔触れが登場している。公開は8月5日より、
東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)
『怪盗グルーとミニオン大脱走』“Despicable Me 3”
(情報解禁前のため割愛)
『三里塚のイカロス』
(1966年6月の佐藤首相の発表に始まる現成田国際空港を巡
る三里塚闘争で、1970年以降に農民支援の目的でその土地に
入った新左翼系学生たちの現在を追ったドキュメンタリー。
そこにはそのまま農家に嫁いだ女子学生たちや、開港直前の
1978年3月に管制塔に突入して開港を延期させた闘士らへの
インタヴューなど、正に歴史を生きた人々の生の声が記録さ
れている。実を言うとこの出来事は僕自身の学生時代とも重
なるもので、学友の中にも支援で現地に入った者もおり、他
人事では見られない作品だった。その一方で当時の航空公団
側の人物も登場して当時の苦しさを語る姿には、双方に残し
た傷の大きさも感じさせた。公開は9月上旬に、東京は渋谷
のシアター・イメージフォーラム他で予定されている。)
『幼な子われらに生まれ』
(2008年10月紹介『青い鳥』などの重松清が1996年に発表し
た原作の映画化。バツイチ同士の結婚で、妻の連れ子2人の
他に新たな命が誕生するとき、父親と連れ子との間に確執が
生じる。現代にかなりある得ると思える物語を、浅野忠信、
田中麗奈、宮藤官九郎、寺島しのぶらの出演と、2009年5月
紹介『刺青/匂ひ月のごとく』などの三島有紀子監督で描い
ている。映画的には上記の出演者に子役も含めて見事に表現
されている。ただ、映画の物語は浅野の側から描くが、これ
を寺島の側から考えた時に納得できない部分があり、さらに
子供の年齢などの辻褄があっているかどうか、内容は良いと
思えるだけにその辺が引っ掛ってしまった。公開は8月26日
より、東京はテアトル新宿他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2017年06月11日(日) 仮面ライダー/スーパー戦隊・記者会見、第25回フランス映画祭

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『仮面ライダー/スーパー戦隊』記者会見
去年の今頃にも報告したが、今年も夏休みの公開に向けての
会見が行われた。しかも今回はその会見の会場が西東京市の
多摩六都科学館にあるプラネタリウムということで、その演
出にも興味津々で見に行った。
その会場は1億4000万個の星を投影するプラネタリウムと、
4Kプロジェクター4台が連動する半球ドーム状の映像設備
で、ギネスブックに「最も先進的なプラネタリウム」という
認定も受けているものだそうだ。
そして会見では、まずプラネタリウムで満天の星空が投影さ
れ、そこに敵の宇宙船が出現するという演出で、『宇宙戦隊
キューレンジャー THE MOVIE グース・インダベーの逆襲』
と題された劇場版が紹介された。
その後に監督及び出演者のトークも行われたが、それは時期
的に内容には触れられないということで、その報告は本編の
試写が行われてからにするが、かなりのエキストラを動員し
たシーンもあるようだ。
そして続いては、『劇場版仮面ライダー・エグゼイド/トゥ
ルー・エンディング』と題された作品の紹介となったが、こ
の作品はヴァーチャル・リアリティがテーマということで、
脳内映像という設定の演出が行われた。
そこでは仮面ライダーと敵の戦闘シーンが半球ドームのスク
リーンに写し出されたもので、正面に立つライダーと左隅の
敵との戦いは首を振らなければ見切れないもの。特に両者が
打ち出す気のようなイメージは見事な迫力だった。
さらにライダーが右に回り込んだ時は、正にのけぞるような
感じで動きを追ったもの。これは見事な演出と言えるものだ
った。ただしこれが上映できるのは今回この会場だけという
ことで、それは勿体なくも感じた。
因に今回の会場は4Kプロジェクター4台の連動ということ
で、画質は8K。それに対して上映された映像はテレビ放送
用の2Kのカメラで撮影されたものと思われ、画質的には満
足できるものではなかったが、迫力は満点だった。
これを観られたのは僕たちだけというのは本当に残念なこと
だが、これは今後に新たな映像体験を指向できるものにも思
えた。数年前にSF作家クラブの記念事業としてプラネタリ
ウム上映作品の製作に参加したが、今後に期待したい。

続いては、6月22日〜25日に有楽町朝日ホール/TOHOシネマ
ズ日劇で開催される第25回フランス映画祭で上映される作品
の中から、最後の3本を紹介する。
『Raw〜少女のめざめ』“Grave”
一応、ホラーという触れ込みだったので、その気分で試写に
臨んだが、僕の感覚で言うとこれはホラーではない。ホラー
には不可欠な超常的な要素もないし、むしろ現実に有り得る
状況を描いた作品と言えるものだ。とは言えかなり強烈な作
品で、最近の映画はこんなものも描いてしまうんだ…、とい
う気分にもなった。ただし巻頭に置かれたシーンの意味が結
局不明だし、途中に出てくる女医はもっと活躍するのかと思
いきやそのままで、さらに姉がいつ発症したのかも説明不足
ように感じられた。僕としてはもう少し描き込めば、ホラー
として面白い作品になったと思えるのが残念なところだ。し
かしまあ、この手の作品が好きな人にはこれで良いのかもし
れない。その点はしっかりと描き込んでいるとは言える作品
だった。映画祭では6月25日に上映、一般公開は来年になる
ようだ。

『ルージュの手紙The Midwife(英題)』“Sage femme”
主人公はかなり生真面目な感じの中年の助産婦。こんな彼女
の許に何10年も音信不通だった女性から電話が架かる。その
女性は主人公の実父の愛人だったが、実母の亡き後は主人公
とも仲が良かったようだ。しかし突然姿を消していた。そん
な彼女との再会を快く思えない主人公だったが…。主演は、
2003年9月紹介『女はみんな生きている』などのカトリーヌ
・フロと、今回の来日団長を務めるカトリーヌ・ドヌーヴ。
監督は2010年6月紹介『セラフィーヌの庭』などのマルタン
・プロヴォスト。血の繋がりはないから友達同士のような感
じでもあるのだろうが、それ以上のいろいろな確執などが物
語を彩る。でも全体はコメディとして温かく包まれた作品に
なっている。こんな感じのフランスコメディは良いものだ。
映画祭では6月22日にオープニングで上映、一般公開は12月
に予定されている。

『ロダン カミーユとの永遠のアトリエ』“Rodin”
「地獄の門」や「考える人」などで知られる彫刻家ロダンの
没後100周年に因んで製作された作品。物語は彫刻家が40代
にして初めて大きな仕事を依頼されるところから始まる。そ
れは「地獄…」の制作で、彼が公から認められた証だった。
そして彼の許に愛弟子で愛人でもあるカミーユが現れる。斯
くして映画はドロドロとした愛憎劇なども絡めながら、ロダ
ンの業績を描いて行く。内容的には過去にも映画化されてい
るが、今回はパリ・ロダン美術館の後援も得て正確に描かれ
たようだ。出演は、2010年11月紹介『君を想って海をゆく』
などのヴァンサン・ランドンと、ジャニス・ジョプリンの再
来と称される歌手のイジア・イジュラン。監督は2013年6月
20日付「フランス映画祭」で紹介した『アナタの子供』など
のジャック・ドワイヨン。後半はバルザック像制作の話にな
るが、その結末は面白かった。映画祭では6月23日に上映、
一般公開は11月11日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロ
ードショウされる。

この週は他に
『海辺の生と死』
(島尾ミホ・敏雄夫妻のそれぞれの著作を基に、2人の出会
いを描いた作品。背景は第2次大戦末期の奄美の小島。その
島の小学校教師の前に、秘密作戦で赴任した海軍将校が現れ
る。最初は通学路を遮られることへの抗議だったが、やがて
激しい恋が燃え上がる。しかし彼に与えられた任務は、爆弾
を抱えた小型艇で米軍艦の体当たりする特攻だった。そして
出撃命令が伝えられる。主演は自ら奄美出身の満島ひかり。
共演に永山絢斗、川瀬陽太、井之脇海、嘉津山正種。奄美の
島唄もふんだんに登場し、155分の上映時間に2人の逢瀬が
しっかりと演出されている。ただ将校が机に向かうシーンで
卓上にインキ壺がないのは…。公開は7月29日より、東京は
テアトル新宿他、全国順次ロードショウ。)
『狂覗』
(宮沢章夫が1998年に発表した戯曲からの映画化。同じ戯曲
は2002年にテレビドラマ化もされているようだ。舞台はとあ
る中学校の教室。生徒が体育でいない間に教師たちによる荷
物検査が行われる。それはもちろん違法なことだが、校内の
平安のためにはやむを得ないと言い聞かせながらの行為だ。
しかしその中でとんでもないものが発見される。しかも生徒
の1人が苛めにあっているようなのだ。その状況が徐々にエ
スカレートし、教師たち自身が追い詰められて行く。多少え
げつない描写も登場するが、それなりに巧みな構成で、心理
サスペンスとしても面白かった。脚本と監督は、米監督のロ
イド・カウフマンに絶賛されたという藤井秀剛。公開は7月
22日より、東京は渋谷UPLINK他で全国順次ロードショウ。)
『草原に黄色い花を見つける』
          “Tôi thấy hoa vàng trên cỏ xanh”
(ベトナムの人気作家グエン・ニャット・アインの原作を、
アメリカ育ちのヴィクター・ヴーが脚色、監督。2016年のト
ロント国際児童映画祭で審査員賞を受賞し、ベトナム映画界
の最高賞とされる金の蓮賞で監督、作品のW受賞に輝いたと
いう作品。1980年代のベトナムの農村地帯を背景に子供たち
の成長が描かれる。主演のティン・ヴィン、チョン・カン、
タイン・ミーが幼いながらも芸歴もあるベトナムで人気の子
役たちということで、そのしっかりとした表現力が映画に深
みを与えている。自然の描写も美しく、懐かしさも込上げて
くる作品だ。公開は8月19日より、東京は新宿武蔵野館他で
全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2017年06月04日(日) time slipという言葉について、丸

 今回は少し違う話題から。
 先日テレビのクイズ番組を見ていてちょっと気になる問題
があった。それは複数の英単語らしきものが並ぶ中で、和製
英語を引いたら負けという設問だった。そして単語群の中に
は3つの和製英語が含まれているという。そこでナイターと
バックミラーはすぐに判ったが、もう1つが判らなかった。
 ところが回答者がタイムスリップを引いた時に負けの表示
が出て、これは和製英語で正しくはタイムトラベルだと解説
された。しかし僕はtime travel と time slipは概念が異な
るし、そもそもtime slipが和製英語か疑問に感じた。
 そこでSF仲間の集会でその話をしたら、すでに僕が行く
前にその話題になっていたようで、すぐに以前に翻訳された
P・K・ディックの『火星のタイムスリップ』の原題は何だ
ろうという話になった。
 その原題は“Martian Time Slip”。原書が出版されたの
は1964年だとのことで、その時代に日本でtime slipという
言葉が使用されていたとは考えられない。従ってこの言葉は
正式に英語であり、設問は誤りだという結論になった。
 さらに後日この件を調べてくれた人がいて、「広辞苑」や
「新明解国語辞典」、「岩波国語辞典」、「大辞林」などに
タイムスリップという項目が立てられていていずれも和製英
語と認定されているとのことだ。
 その中で、「広辞苑」では1998年刊行の第5版からこの項
目があるそうで、この辺が元凶のように思える。
 一方、海外の文献では、翻訳もされているピーター・ニコ
ルズ編の『SF百科事典』には「TIMESLIP」の項目があり、
そこには1956年のイギリス映画が上っているとのこと。因に
その作品は、1968年『チキ・チキ・バン・バン』などのケン
・ヒューズ監督によるものだそうだ。
 また『SF百科事典』の「TIMESLIP」の項目には、1979年
の角川映画『戦国自衛隊』のアメリカ公開題名としても上っ
ているそうで、日本でもこの映画の宣伝にタイムスリップと
いう言葉が使われたのが、一般に知られた始りのようだ。
 いずれにしてもクイズ番組の問題は誤りで、タイムスリッ
プと答えた人は負けではなかった訳だが、最近「広辞苑」に
項目のあるなしだけで正答/誤答を決めるクイズ番組も観た
りして、その権威付に多少の危惧も感じるところだ。
 なお、僕が考えるtime travelの概念は、『バック・トゥ
・ザ・フューチャー』などのように装置を使って意図的に行
う時間旅行。それに対してtime slipは、自然現象などで起
きるもので、正に『戦国自衛隊』は典型と言えるものだ。
 ここで1つ思い出したのだが、多分その公開当時に渋谷で
開かれていた一の日会で、スリップを女性の下着に引っ掛け
て、それを着ると時間旅行ができるという冗談を言っていた
気がする。
 でもその場合は装置を使って意図的に行うのだから、time
slipではなくて、time travelに当るものだ。
 以上、こんなことを書いていて更新が遅れてしまった申し
訳ない。

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『丸』
「ぴあフィルムフェスティバル2014」に選出され、その後に
バンクーバー国際映画祭やロッテルダム国際映画祭、さらに
MoMA主催で新人監督の登竜門とされる「New Directors/New
Films 2015」でも上映されたという鈴木洋平監督作品。
登場するのは、親の家の2階の自室に引き籠っているニート
の男。そこに女が訪ねてきて布団に引き込む。そしてことが
終って起き上がった女が、1点を指さしたまま硬直する。さ
らに振り返った男も硬直する。
やがて帰ってきて2階に上がった父親も同じになり、異常を
感じた母親は警察を呼ぶが、部屋に入った警官も次々同じ状
態になる。そして発砲が起き、父親が死亡する。その状況を
警察は父親が拳銃を奪って自殺したと発表するが…。
実は立て籠もりの状況から近くで取材していた記者がいて、
彼は決定的な証拠写真を撮っていた。

出演は、2013年12月紹介『神奈川芸術大学映像科研究室』な
どの飯田芳、2016年1月紹介『太陽』に出ていたという木原
勝利。さらに本作のプロデューサーも務める池田将らが脇を
固めている。
海外や地方の映画祭での上映はあったようだが、今回の試写
は都内ではPFF以来の上映だったようだ。そういう作品だ
が、内容的に商業レヴェルに達しているかというと面はゆい
ところで、PFFの作品にはそういうのが多い。
でもまあ見所があるから海外にも紹介されている訳で、その
辺の期待値は高いと言える。
それで本作では「丸」と称されるのかな、その部屋に浮かぶ
球体が際立っているもので、それを巡る展開が物語の肝とな
る。その存在はまあSF的とも言えるもので、僕としてはそ
の辺から評価を考えてみたい。
その存在自体は、2014年4月紹介『黒四角』などにも通じる
もので、案外有り勝ちなものだ。しかしそこに『黒四角』の
ような政治思想は持ち込まずに、社会状況で描いている点は
オリジナリティと言える。
ただ僕としてはこの「丸」の存在をもう少し丁寧に描いて欲
しかった。映画の中の説明では空から降りてきたらしいが、
その辺の経緯をもう少し描き込んで欲しかった。さらにこれ
は地球の中心に向かって降りているようなのだが。
それなら例えば地球を突き抜けてリオデジャネイロ辺りに出
現するとか、それは制作費の関係で無理だったかもしれない
が、何かその辺の一工夫も欲しかった感じだ。そんなものが
あったら、もっと評価しやすい作品になったと思われる。
でもまあこの作品は監督の長編第1作な訳だし、『太陽』の
入江悠だって最初の長編はSFでよく判らなかったし、この
監督もこれからに期待したいものだ。

公開は7月8日より、東京は渋谷のシアター・イメージフォ
ーラム他で、全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『フェリシ―と夢のトゥシューズ』“Ballerina”
(2011年10月30日付「東京国際映画祭」で紹介『最強のふた
り』の製作陣が、2011年7月紹介『カンフー・パンダ』など
のアニメーターを招いて制作したパリ・オペラ座が舞台のバ
レエアニメーション。主人公は孤児院で育った少女。踊るこ
とが大好きなその少女が少年と共に脱走してオペラ座のバレ
エ学校を目指す。そこに怪我で道を閉ざされたプリマや富豪
の娘、ロシア貴族の息子などの支援者やライヴァルが絡む。
お話は有りがちだなものだが、ノスタルジックなパリの景観
など、見所は様々に用意されている。そしてバレエの振り付
けはオペラ座の振付師が担当したものだそうで、それも見事
だった。主人公の声をエル・ファニングが当てている。公開
は8月16日より全国ロードショウ。)
『ローサは密告された』“Ma' Rosa”
(2016年11月5日付「東京国際映画祭」で紹介『アジア三面
鏡:リフレクションズ』の一編を手掛けたブリランテ・メン
ドーサ監督による本年のアメリカアカデミー賞外国語映画賞
フィリピン代表に選ばれた作品。マニラのスラム街でロケが
敢行され、警察組織の腐敗などが暴かれて行く。主人公は駄
菓子屋を営む女性だが、裏の商売が密告され、逮捕を免れる
には多額の見逃し金を要求される。そして子供たちがその金
の工面に奔走する。リアルな下層階級の生活ぶりに震撼とす
るが、警察署に普通に2つ入り口があるのには、笑うという
より感心させられた。この世界の現実を僕らはもっと知らな
ければいけないのだろう。公開は7月、東京は渋谷のシアタ
ー・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
『世界にひとつの金メダル』“Jappeloup”
(ロサンゼルスとソウル、2つのオリンピックに出場した馬
場馬術フランス代表の騎手とその愛馬を巡る実話の映画化。
その馬は気性が荒く場体も小さかったが、跳躍力が素晴らし
かった。その馬を弁護士の道を捨てて幼い頃からの夢に挑む
主人公が調教する。その成果は直に表れ始めるが…。道は遥
かに遠かった。脚本と主演は2001年11月紹介『ヴィドック』
などのギョーム・カネ、監督は2009年5月紹介『ココ・シャ
ネル』などのクリスチャン・デュゲイ。監督は馬場馬術の元
カナダ代表だそうで、経験者のカネと共にその魅力を最大限
に描いている。2017年5月21日付「フランス映画祭」で紹介
『夜明けの祈り』のルー・ドゥ・ラージュらが共演。公開は
初夏、東京はシネマート新宿他で全国順次ロードショウ。)
『旅する写真家レモン・ドゥパルドンの愛したフランス』
                 “Journal de France”
(報道者として世界中の様々な出来事の現場に立ち会うと共
に、ドキュメンタリー監督としても数多くの作品を発表して
きた写真家が、倉庫に眠る膨大なフィルムを妻で録音技師の
クローディーヌ・ヌーガレと共に纏めた作品。その中には、
大統領選挙の舞台裏やパリ市の裁判所での審理の模様など、
普通ではちょっと入れない場所での記録も含まれている。そ
の一方で機材をバンに積み込んだだけの1人旅で写真家が行
う独自の思想に基づく撮影の様子なども織り込まれ、写真家
のいろいろな側面が観られる作品にもなっている。それにし
ても最近写真家の人物ドキュメンタリーが多いように感じる
が、何故なのだろう。公開は9月、東京は渋谷のシアター・
イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)
『便利屋エレジー』
(2013年から作品を発表している土田準平監督の第3作にし
て今年2本目の作品。監督は昭和時代のテレビドラマのテイ
ストを志向しているようで、本作はそんな感じで観ると理解
しやすい作品になっている。その本作に登場するのは家庭づ
くりに失敗した男性が営む便利屋。あまり仕事はなく、保育
園のイヴェントの手伝いなどもしている。そんな時、園児の
1人がお父さんに会いたいと言い出す。その仕事を受けるこ
とにした便利屋だったが…、両親の離別には深い事情があっ
た。出演は鈴木貴之、ダレノガレ明美、寺井文孝。他に風見
しんご、麻木久仁子らが脇を固めている。お話は悪くはない
が、もう一捻りくらい欲しいかな。公開は6月24日より、東
京は池袋シネマ・ロサ他で全国順次ロードショウ。)
『彼女の人生は間違いじゃない』
(2003年11月9日付「東京国際映画祭」で紹介『ヴァイブレ
ータ』などの廣木隆一監督による出身地福島県を舞台にした
作品。主人公は、原発避難の仮設住宅で父親と2人暮らしの
女性。彼女は市役所に勤務しているが、週末になると英会話
の勉強と称して夜行バスで上京し、デリヘルのアルバイトを
している。そんな主人公を中心に歪み切った福島の今が描か
れる。福島問題は関心があるし、その現実が出身者の目線で
語られる。その気持ちは理解するし、監督としてやらざるを
得ない作品だろう。それを監督の守備範囲に引き込んで描い
ている訳だが、何か監督自身も気持ちの整理がついていない
ような、そんな不安感にも襲われた。公開は7月15日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『ボン・ボヤージュ〜家族旅行は大暴走〜』“A fond”
(昨年『世界の果てまでヒャッハー!』という作品が日本公
開で話題になったニコラ・ブナム監督の最新作。父親が新車
を買ってバカンス旅行に出掛けた一家が、高速道路でとんで
もない事態に襲われる。フランス製のアクション映画は近年
目覚ましいが、コメディは昔はそうでもなかったが最近は何
かピントが合わず、観ていて苛々が先に来ることが多い。本
作もそんな感じだったが…。それが高速道路に入った辺りか
ら様相が一変した。それは見事なアクションコメディで切れ
味も良く、心の底から楽しませて貰った。シチュエーション
は現代への皮肉にも取れ、事態がエスカレートして行く様も
これは有りそうだ。公開は7月22日より、東京はヒューマン
トラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)
『関西ジャニーズJr.のお笑いスター誕生』
(2016年3月紹介『目指せ♪ドリームステージ!』に続く、
ジャニーズ関西系メンバー主演の青春ドラマ第4弾。第1作
は観ていないが大部屋俳優、第2作は時代劇の忍者、第3作
は地元アイドルと来て、第4作は関西では本命と言えるお笑
い芸人の話だ。これをやるのはそこそこ勇気が要ったと思う
が、関東の人間にはその出来は判断できない。でも素人目に
はそれなりに笑えるものになっていたと思う。出演は2016年
12月11日題名紹介『PとJK』に出ていたという西畑大吾と
前作にも出演の藤原丈一郎。他に室龍太、草間リチャード敬
太、向井康二。さらに森脇健児、森口瑤子らが脇を固める。
監督は助監督出身でテレビ版『釣りバカ日誌』なども手掛け
る石川勝己。公開は8月26日より全国ロードショウ。)
『あしたは最高のはじまり』“Demain tout commence”
(2016年10月紹介『インフェルノ』などのオマール・シー主
演によるイクメン?ドラマ。主人公は海岸リゾートで気楽に
暮すビーチボーイだったが、突然現れた女性に赤ん坊を押し
付けられる。そこで赤ん坊を抱えて女性の後を追った主人公
は空路ロンドンへ。ところが財布を失くし、困ったところに
彼の身の動きを見染めた映画関係者に声を掛けられ、一躍人
気のスタントマンになるが…。成長して通訳も務めるように
なった娘との幸福な生活。それでも娘の母親を探す彼に、残
された時間は少なかった。共演は、DJ Gloとしてアルバムも
リリースしている2004年生まれのグロリア・コルストンと、
2012年12月紹介『人生、ブラボー!』などのアントワーヌ・
ベルトラン。公開は9月9日より、全国ロードショウ。)
『レイルロード・タイガー』“鉄道飛虎”
(今年のアメリカアカデミー賞で名誉賞を授与されたジャッ
キー・チェン主演によるアクション作品。背景は1941年の中
国本土。鉄道に勤める主人公は、民衆に横暴な振る舞いをす
る日本軍の軍事物資の荷抜きなどもしていたが、抵抗はその
程度だった。ところが逃亡する八路軍の兵士を匿ったことか
ら彼とその仲間に重大な任務が与えられる。それは物資輸送
の要となる鉄道橋の爆破だったが…。その作戦は全くのノー
プラン、しかし期限だけが迫っていた。共演は人気K-POPの
元メムバーだったファン・ズータオ、チェンの息子のジェイ
シー・チャン。それに日本から池内博之が参加している。監
督は2010年9月紹介『ラスト・ソルジャー』などのディン・
シェン。公開は6月16日より、全国ロードショウ。)
『きみの声をとどけたい』
(2009年7月紹介『サマー・ウォーズ』などのマッドハウス
が制作したちょっとファンタスティックな要素もある青春ド
ラマアニメーション。舞台は鎌倉・藤沢を模した海岸の町。
主人公はその町に暮らす女子高生。彼女はある偶然からミニ
FMの存在を知り、気付かず送信してしまう。それが1人の
少女の耳に届くが…。主人公は言霊の存在を信じており、そ
れが運命を変えて行く。声優は昨年開催された新世代発掘・
育成プロジェクトで選出の片平美那、田中有紀、岩淵桃音、
飯野美沙子、神戸光歩、鈴木陽斗実。他に三森すずこ、梶裕
貴、鈴木達央、野沢雅子。物語は法律的なところなどもそれ
なりに抑えられており、観ていて違和感はなかった。脚本は
石川学、監督は2013年『プリキュア』などの伊藤尚往。公開
は8月25日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なお、この週はさらにフランス映画祭で上映される1作品の
試写も行われたが、次週あと2本観られるので、纏めて紹介
する。


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井口健二