井口健二のOn the Production
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2017年05月28日(日) 宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち 第二章「発進篇」、君はひとりじゃない

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち 第二章「発進篇」』
2016年9月に製作発表記者会見の報告をした作品の試写が行
われた。
実は先の報告で紹介したように、本作の第一章は2月25日に
劇場公開された。しかし完成がぎりぎりだったせいか、マス
コミ向けの試写は行われなかった。そこで今回は第二章から
観ることになったが、一応、第一章も宣伝会社にお願いして
DVDを借りて観ることができた。
今回はそこから紹介させて貰う。
2012年3月及び2014年12月紹介の『宇宙戦艦ヤマト2199』で
ヤマトが持ち帰ったコスモリバースシステムにより地球は復
活。さらにガミラスとの和平も成立し、両軍は共同戦線を張
るまでになっていた。そこに、2014年12月紹介作に登場した
新たな敵ガトランティスが出現する。
斯くして太陽系外の宇宙域において、侵攻するガトランティ
ス前衛部隊と、地球=ガミラス連合軍との戦端が開かれる。
そこで敵の圧倒的な兵力に連合軍の敗色が濃厚となった時、
突如現れた地球軍の最新鋭艦が波動砲を発射。その一撃はガ
トランティス軍を蹴散らしてしまう。
しかしその波動砲はコスモリバースシステムを受け取る際、
イスカンダルのスターシャに2度と使用しないと誓ったもの
だった。その誓いも反故にされ、地球政府は最強の兵器を要
とする軍備拡大に突き進んでいたのだ。
一方、旧ヤマトの乗組員たちは様々な幻影に遭遇していた。
その幻影は彼らにヤマトに乗ることを要請。それと同時に彼
らは、惑星テレザードからの救援の要請も受け取る。しかし
地球政府はその要請に応えようとしなかった。それでも旧乗
組員らはドックに収容されたヤマトに向かうが…。

脚本は2013年7月紹介『人類資金』などの福井晴敏、監督は
『2199』の一部絵コンテを担当していた羽原信義が手掛けて
いる。声優は『2199』の声優の小野大輔、桑島法子らが引き
続き担当している。
1978年のオリジナルは上映時間151分の作品だったが、今回
は第一章が約50分、第二章が約100分で、この時点ですでに
オリジナルに近いものになっている。しかもこの後に第七章
まで約500分が続くのだ。
従って物語はかなり詳細に語られているものだが、何と言う
かそのほとんどが戦闘場面で、これは観続けるにはかなり体
力がいるとも感じられた。それは多分作っている方も同じだ
ろうが、これは大変な作品だ。
そして物語の全体の流れは、オリジナルと同じになっている
ように思われるが。ただし上記の記者会見で福井は「結末は
同じにはしない」と断言していたもので、その結末に向かう
残り500分が期待される。
因に第一章には、ガトランティス側の攻撃で特攻に近い表現
がされていたようで、この辺がオリジナルへのリスペクトと
言うか、それをアンチテーゼとする決意のようなものにも感
じられた。
また波動砲の是非については、最近の憲法九条を巡る論議に
重なるような部分もあり、元々波動砲が究極の兵器で原爆の
置き換えであったことからも、その言わんとする所にはいろ
いろ考えるところもあった。
これらが今後にどのように展開されるのかも興味深く観たい
ところだ。ただ、実は『2199』のときは、2012年3月紹介の
第一章の後は試写が行われず、今回もそうなってしまう恐れ
はあるが、今後も試写を観せて貰える限りはフォローするつ
もりでいる。

「第二章」の公開は6月24日より、東京は新宿ピカデリー他
の全国20館にて期間限定上映となる。

『君はひとりじゃない』“Cialo”
本作は、2015年の東京国際映画祭ワールドフォーカス部門で
上映され、その際にも鑑賞していたが、この年は諸般の事情
でコンペティション部門以外の作品紹介を割愛した。でもそ
の時にも気になった作品の1本で、その作品の日本公開が決
まったので改めて試写を観に行った。
内容は拒食症の少女とその父親を巡るもの。検察官でもある
父親と娘との関係はあまり芳しくない。その原因は妻であり
母親の不慮の死にあるようだ。そんな2人の関係が、1人の
女性の働きでスピリチュアルな世界に迷い込んでしまう。
その女性は娘のセラピストだったが、死者との交信ができる
と称して父親にも近づいてくるのだ。そして降霊の儀式のよ
うなものが始まるが…。

脚本と監督は、今、最も輝いているポーランド人監督とされ
るマウゴジャタ・シュモフスカ。2013年の“W imie...”と
いう作品でも多くの受賞歴のある女性監督だ。
出演は、父親役に1994年『トリコロール 白の愛』などのヤ
ヌシュ・ガヨス、娘役に新人のユスティナ・スワラ、そして
セラピスト役に2009年『カティンの森』などのマヤ・オスタ
シェフスカ。
実は結末が微妙で、映画祭で観た時には評価を出しかねた。
しかし今回観直すことで納得ができた。それは愛情に溢れた
父親と娘の物語であり、スピリチュアルなテーマとしても巧
みに描かれているものだ。
この種の作品では、降霊師を本物と取るか否かが作品の評価
として微妙になるものだが、その点でもこの作品は様々なエ
ピソードを織り込むことで巧みに描いている。そして物語で
は、特に女性監督の目が見事なドラマを生み出している。

この作品が、2015年のベルリン国際映画祭で監督賞となる銀
熊賞を受賞したのも納得のできるものだった。
公開は7月22日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA、シネマ
ート新宿他で、全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『兄に愛されすぎて困ってます』
(前回題名紹介『トリガール!』に続けて土屋太鳳主演によ
る若年向けドラマ。前回の土屋は大学の新入生だったが、本
作では高校の1年生かな。前作と同様学バスでの通学風景か
ら始まり、その横を自転車に乗った若者が追い抜いて行く。
ただし今回の若者は彼女の兄で、その兄との微妙な関係が描
かれて行く。ただこのテーマは多少難しいところがあるもの
だが、原作は人気漫画だそうで、何となく若者の願望充足の
ような感じでそれなりの解決策は示している。共演はEXILの
片寄涼太、千葉雄大。他に大野いと、YOUらが脇を固めて
いる。監督は『チア☆ダン』などの河合勇人。なお土屋は前
作に続いて自転車で疾走するシーンがあり、それもデジャヴ
だった。公開は6月30日より、全国ロードショウとなる。)
『甘き人生』“Fai bei sogni”
(2013年9月紹介『眠れる美女』などのマルコ・ベロッキオ
監督による2016年の作品。1969年のトリノ、それに1990年代
のローマとサラエヴォを背景として青年の心の迷いが描かれ
る。1990年代のサラエヴォは紛争の渦中であり、若者はそこ
で運命的な出会いをする。出演は2017年1月紹介『おとなの
事情』などのヴァレリオ・マスタンドレアと、2016年9月紹
介『シークレット・オブ・モンスター』などのベレニス・ベ
ジョ。それに2005年7月紹介『真夜中のピアニスト』などの
フランス人女優エマニュエル・ドゥヴォス。2つの時代と悲
惨な戦争。様々な要素が母親の死という究極の出来事を軸に
見事に語られて行く。公開は7月15日より、東京は渋谷ユー
ロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『ハロー・グッバイ』
(高校のクラスで徒党を組む中の1人と、クラスメートとは
距離を置いている優等生。そんな2人が認知症の老婆が口ず
さむメロディを介して話をするようになる。しかし2人には
それぞれ他の友達には話せない秘密があった。そんな青春の
中であるかもしれない物語が展開される。出演は2017年2月
5日題名紹介『ブルーハーツが聴こえる』などの萩原みのり
と、2016年8月14日題名紹介『疾風ロンド』などの久保田沙
友。それにもたいまさこ。他に木野花、渡辺眞起子、演奏家
の渡辺シュンスケらが脇を固めている。脚本はアニメ版『ち
はやふる』などの加藤綾子、監督は2015年『ディアーディア
ー』などの菊地健雄が担当した。公開は7月15日より、東京
は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』
              “A Street Cat Named Bob”
(ホームレスのストリートミュージシャンが、ヴォランティ
アに斡旋された住居に現れた野良猫の世話をし、その猫のお
蔭で更生したという実話に基づく作品。主人公はドラッグの
依存症にもなっている。その状況について日本の実態がどう
かは知らないが、ヨーロッパでは日常なのかな? ただ本作
の中では悪として明瞭な扱いだった。出演は2010年4月紹介
『タイタンの戦い』などのルーク・トレッダウェイ。猫のボ
ブ役には本人?も登場しているそうだ。監督は1998年『007
トゥモロー・ネバー・ダイ』などのヴェテラン、ロジャー・
スポティスウッズ。公開は8月26日より、東京は新宿ピカデ
リー、シネスイッチ銀座他で全国ロードショウ。猫好きには
間違いなく愛される作品だ。)
『世界は今日から君のもの』
(2016年1月紹介『太陽』などの門脇麦の単独主演で、人付
き合いに不器用で引き籠り気味の少女が社会に巣立って行く
までを描いた青春ドラマ。脚本と監督は、テレビ『梅ちゃん
先生』などの脚本家の尾崎将也で、映画監督は2作目。本作
は自作のドラマに出演した門脇に惚れ込んで当て書きしたと
いうことで、門脇を口説き落としての作品のようだ。ただこ
の作品で門脇の新しい魅力が出ているかというとちょっと物
足りないかな。内容的にはゲーム業界などを背景にしてそれ
なりに考えられた作品だが…。僕は門脇はもっとできる女優
だと思っているので、何かその辺の新しいものが欲しかった
ところだ。公開は7月15日より、東京は渋谷シネパレス他で
全国順次ロードショウ。)
『クロス』
(「集団リンチ殺人事件の加害者の現在」そんな週刊誌の記
事を切っ掛けに様々な人間模様が描かれる作品。脚本は登竜
門とされる城戸賞の受賞作だが、内容的に映画化は困難とさ
れていたもの。それを執筆者の宍戸英紀がプロデューサーの
奥山和由に手紙と脚本を手渡して、実現に漕ぎ付けたという
ことだ。そして奥山は、撮影監督で本作が初監督となる釘宮
慎治が共に監督も手掛けている。出演は紺野千春、山中聡、
Sharo。他に、斎藤工、ちすんらが脇を固めている。過去の
犯罪を蒸し返すという人間性としてはかなり微妙な部分を突
いてくる作品だが、その裏に潜むものなどを巧みに描いたド
ラマになっている。公開は7月1日より、東京は渋谷ユーロ
スペース他で全国順次ロードショウ。)
『キング・アーサー』
          “King Arthur: Legend of the Sword”
(2015年8月紹介『コードネームU.N.C.L.E.』などのガイ・
リッチー脚本、監督によるイギリス中世伝説の3D映画化。
アーサー王と言えば円卓の騎士とキャメロットで有名だが、
本作はまだそこに至るまでの物語。王の血を引く身でありな
がらスラム街の貧しい家庭に育った主人公は、やがて伝説の
剣エクスカリバーを手にし、民衆の力を背景に王の座へと昇
って行く。その物語が魔法や巨大生物などのVFXに彩られ
て描かれる。出演は2013年7月紹介『パシフィック・リム』
などのチャーリー・ハナム、2011年5月紹介『POTC生命
の泉』などのアストリッド・ベルジェ=フリスペ。他にジャ
イモン・フンスー、ジュード・ローらが脇を固めている。公
開は6月17日より、全国ロードショウ。)
『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』
                     “Anthropoid”
(ナチスドイツ支配下のチェコスロヴァキアで。ナチス要人
の暗殺計画を実施した若者たちの姿を描いた作品。主人公は
ロンドンに置かれたチェコ亡命政府の指令を受けて落下傘で
潜入した2人の兵士。彼らにはレジスタンス組織と連携して
チェコを支配するラインハルト・ハイドリヒを暗殺する指令
が与えられていた。しかしそれが実行されたらチェコ市民へ
の報復が計り知れなかった。出演はキリアン・マーフィ、ジ
ェイミー・ドーナン。他にトビー・ジョーンズ、2016年1月
紹介『ザ・ウォーク』などのシャルロット・ルポンらが脇を
固めている。脚本と監督は2008年7月紹介『ブロークン』な
どのショーン・エリス。監督渾身の作品だ。公開は8月12日
より、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なお、この週はさらにHeart and Hearts Korean Film Week
と題された特集上映4作品の内の3本の試写も行われたが、
それらは残り1本を観た後で纏めて紹介する。



2017年05月21日(日) 第25回フランス映画祭、十年 Ten Years、ダイバージェントFINAL

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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今回も、6月22日〜25日に有楽町朝日ホール/TOHOシネマズ
日劇で開催される第25回フランス映画祭で上映される作品の
中から3本を紹介する。

『パリは今夜も開演中』“Ouvert la nuit”
『エタニティ…』のオドレイ・トトゥが主演するパリの劇場
を舞台にした作品。トトゥが演じるのは劇場支配人の右腕的
立場にいる女性。劇場の次の演目は日本から招いた演出家に
よる作品だが、初日の前日になるも給料の未払いなどで混乱
が続いている。しかも肝心の支配人が小切手帳を持ったまま
姿を現さない。そこにようやく支配人が現れるが…。支配人
は再び夜のパリの街に彷徨い出てしまう。共演は、本作の監
督も務める2011年10月31日付「東京国際映画祭」で紹介『チ
キンとプラム』などのエドゥアール・ベアと、2013年2月紹
介『アンタッチャブルズ』などのサブリナ・ウアザニ。物語
はかなりのドタバタ調とロマンティックが交錯して多少混乱
気味かな。全体的には軽い作品として了解は出来るのだが。
なお本作は映画祭では6月24日に上映されるが、一般公開は
未定となっている。

『夜明けの祈り』“Les Innocentes”
第2次大戦終戦直後のポーランドで起きた、実話に基づくと
される作品。幕開けは修道院。敬虔な夜明けの祈りが続く中
でけたたましい叫び声が聞こえてくる。その声に1人の修道
女が雪道に飛び出し、かなり先のフランス赤十字の野戦病院
を訪ねる。そこでポーランド人は診ないという言葉にめげず
懇願する修道女に、1人の看護婦が密かに同行を決意する。
そして彼女が修道院で観たものは…。ソ連崩壊後、赤軍によ
る非人道的行為が次々に明るみに出されるが、中でもこれは
極め付きという言葉に値する。それはフランス人看護婦によ
る英雄的な行いとして描いてはいるが、過去のソ連を非難す
る舌鋒も鋭い作品だ。監督は2009年7月紹介『ココ・アヴァ
ン・シャネル』などのアンヌ・フォンテーヌ。出演は後日紹
介予定『世界にひとつの金メダル』などのルー・ドゥ・ラー
ジュ。映画祭では6月24日に上映、一般公開は8月5日より
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウとなる。

『愛を綴る女』“Mal de pierres”
日本語にも翻訳されているミレーナ・アグスの原作(邦訳題
祖母の手帳)を、アラン・レネ監督『アメリカの伯父さん』
などのベテラン女優で、本作でセザール賞監督賞にノミネー
トされたニコール・ガルシアが、2007年『エディット・ピア
フ』でオスカー受賞の国際女優マリオン・コティアールを主
演に迎えて映画化した作品。今なら“境界性人格障害”と診
断されるのかな。そんな女性を主人公に、人妻でありながら
入院先の療養施設でインドシナ戦争の傷病兵に惹かれてしま
う女性の姿が描かれる。しかしその顛末は予想外の展開とな
る。途中ではかなりファンタスティックな様相にも描かれて
おり、後半の展開には緊張と共に感動も訪れた。映画祭では
6月24日に上映、一般公開は10月7日より東京は新宿武蔵野
館他で全国順次ロードショウとなる。

以下は通常の試写作品。
『十年』“十年 Ten Years”
2015年に香港返還20周年を期して製作された5つの短編から
なるオムニバス。
本作は、香港の中規模映画祭でプレミア上映され、その後に
単館で上映が始まるも、口コミで徐々に観客動員を伸ばし、
遂には同日封切りの『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
を週間興行成績で撃破したという。
それぞれの物語は映画製作時から10年後の2025年を想定し、
起こり得る話が描かれている。
その1本目は「エキストラ」。テロ対策法を何としても成立
させようと偽物のテロ攻撃を仕掛ける政治団体の話。2本目
は「冬のセミ」。街で集めたいろいろなものを標本にしてい
る男女の話。それらが消されてしまう現実があるようだ。
3本目は「方言」。香港の公用語だった広東語が禁止され、
その中での普通語(北京語?)が話せないタクシー運転手の
話。そんな彼にはその他にもいろいろな規制の網がかけられ
て行く。
4本目は「焼身自殺者」。早朝のイギリス領事館の前で起き
た事件。目撃者はおらず、身元も不明だったが…。5本目は
「地元産の卵」。香港で最後の養鶏場が閉鎖され、少年団は
書店で地元という言葉の入った書籍を摘発する。
中国映画を観続けて来ていると、何となくこれらの作品の背
景にあるものは理解できるような気がする。それは紅衛兵で
あったり、文化大革命であったり…。それがまた繰り返され
ようとしているのかな。
現実がどうであれ、香港の人々にそれに対する危機感のある
ことは、明確に理解できる物語たちだ。その危機感はこの作
品が本国で上映禁止になったことでも裏付けられる。現実に
言葉狩りは起きているのだから。
その言葉狩りを描いた5本目で、その結末に登場する書籍に
は日本人として「オォ!」という気分にもなった。その本に
「地元」という言葉があったとは思えないが、禁書にされる
理由は沢山ありそうだ。

監督は、1本目がクォック・ジョン、2本目がウォン・フェ
イハン、3本目はジェヴォンズ・アウ、4本目がキウィ・チ
ョウ、5本目はン・ガーリョン。アウが2010年3月紹介『冷
たい雨に撃て、約束の銃弾を』の脚本で知られる他は、ほぼ
無名の人たちのようだ。
また出演者も、5本目に2013年12月紹介『大捜査の女』など
のリウ・カイチーが出ている他は、ノースターの配役となっ
ている。その作品が大ヒットを記録したのだ。正にネガティ
ヴキャンペーンが裏目に出たという作品だ。
公開は7月22日より、東京は新宿K's cimema他にて、全国
順次ロードショウとなる。
香港の近未来の話ではあるが、アメリカや日本もこうならな
いとは限らない。そんな危機感も覚える作品だ。


『ダイバージェントFINAL』“Allegiant”
ヴェロニカ・ロス原作、ヤングアダルト小説シリーズの映画
化で、2014年、2015年公開作に続く第3作。
実は前2作も試写は観ているがここでの紹介はしなかった。
それは第1作では、アクション映画としては面白かったが、
SF映画として物語の世界観が曖昧で、全体像を掴みかねた
もの。その世界観が第2作ではさらに曖昧な感じだった。そ
れが第3作にしてようやく明らかになった。
物語の舞台は世界崩壊後のシカゴ・シティ。高い壁に囲われ
たその街はいくつかの派閥に分けられた住民によって管理さ
れ、子供はある年齢になるとその派閥に分類される。そして
生涯をその派閥のために生きることになっていた。
そんな中で主人公はどの派閥にも属さない異端者と分類され
てしまう。そこから主人公による街の成立の意味を探る旅が
始まるのだが…、というのが第1作の大体の物語。第2作で
はその旅で新たな派閥が見つかるが…。
この種のディストピア物では、基本的にその世界の成立に至
る謎解きがテーマになるが、第1作、第2作では、主人公た
ちの周囲の話ばかりで、基本のテーマに立ち入ることがなか
った。それが僕には不満だった。
でも考えてみれば、現実の世界はそんなもので、僕らはこの
世界の成り立ちなど気にもせず暮らしている訳で、さらには
最近の若者の政治への無関心などが、この作品には反映され
ていたのかもしれない。
それが第3作では一気にディストピアの背後にあったものが
明らかにされる。それで僕としてはようやくほっとできたも
ので、そこに至る冒険や、そこでの主人公たちの立ち振る舞
いにはやっとSFを感じることもできた。
そのSF感自体は悪いものではないし、壮大な映像も含めて
ようやく観たいものを観ることができた感じもした。出来る
ことならこの部分の伏線を散りばめた第1作、第2作を改め
て観てみたいとも思ったものだ。
正直、前2作を観ていなくても、シリーズの全体像は本作だ
けでも大よそ想像がついてしまうもので、前2作を観逃した
人も本作だけで充分SF感は楽しむことができる。そしてそ
れなりの結末は描かれているものだ。

出演は3作通じてのシャイリーン・ウッドリー、テオ・ジェ
ームズ、マイルズ・テラー、アンセル・エルゴート、ゾーイ
・クラヴィッツ。第2作からのナオミ・ワッツ、オクタヴィ
ア・スペンサー。それに本作でジェフ・ダニエルズが加わっ
ている。
監督は、ドイツ出身で2010年12月紹介『RED/レッド』、
2013年8月紹介『ゴースト・エージェント』などのロベルト
・シュヴェンケが担当した。
なお本作で映画シリーズは完結だが、この後にナオミ・ワッ
ツらの出演によるテレビシリーズが続くようだ。


この週は他に
『トリガール!』
(2017年には第40回が開催される読売テレビ主催「鳥人間コ
ンテスト」に参加する大学サークルを描いた青春ドラマ。原
作は芝浦工業大学がモティーフだそうで、実は僕自身がその
大学のOBなもので興味津々で観に行った。そんな目で観て
いると開幕からニヤニヤし通しで、学バスの様子や、学校名
は変えられているのに、駐車している車のナンバープレート
まで気を使っているのには嬉しくもなったところだ。物語の
展開はまあまあ有り体という感じだが、こんなザ・青春とい
う感じのドラマをたまに観るのも良い。出演は、土屋太鳳、
間宮祥太朗、高杉真宙、池田エライザ。監督は2008年8月紹
介『ハンサム★スーツ』などの英勉。公開は9月1日より、
東京はTOHOシネマズ新宿他で全国ロードショウ。)
『パイレーツ・オブ・カリビアン最後の海賊』
 “Pirates of the Caribbean: Dead Men Tell No Tales”
(情報解禁前のため割愛)
『ブレンダンとケルズの秘密』“The Secret of Kells”
(2016年6月26日題名紹介『ソング・オブ・ザ・シー 海の
うた』のトム・モーア監督による2009年製作の長編第1作。
9世紀に完成されたというケルズの書。キリスト教で典礼用
の四福音書が収められた世界で最も美しい装飾写本とされる
書物の成立を巡る物語が素晴らしいアニメーションで語られ
る。8世紀初頭にスコットランドのアイオナ島で制作が始ま
ったとされる書物はヴァイキングの脅威に曝された修道士と
共にアイルランドのケルズにやってくる。しかしその土地も
ヴァイキングに襲来の怯える中、1人の少年が書物の完成の
ために奔走する。それは危険や脅威に満ち、出会いも訪れる
冒険だった。公開は7月下旬、YEBISU GARDEN CINEMA他で
全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2017年05月14日(日) 第25回フランス映画祭、パワーレンジャー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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6月22日〜25日に、東京・有楽町朝日ホール/TOHOシネマズ
日劇で開催される第25回フランス映画祭で上映される作品の
試写が開始されたので、今回はその中から4本を紹介する。

『エタニティ 永遠の花たちへ』“Éternité”
2009年7月紹介『ココ・アヴァン・シャネル』などのオドレ
イ・トトゥ、2012年2月紹介『アーティスト』などのベレニ
ス・ベジョ、2010年2月紹介『オーケストラ!』などのメラ
ニー・ロラン共演で、三代100年に亙る悲哀に満ちた一族の
歴史を描いた作品。フランスの作家アリス・フェネル原作の
映画化で、監督は1993年『青いパパイヤの香り』でアメリカ
アカデミー賞外国語映画部門にノミネートされたフランス在
住のヴェトナム人監督トラン・アン・ユン。一見幸せそうな
一家だが、その歴史は多数の死に彩られている。それは病や
事故など様々な原因で次々に一族を襲う。豪華女優陣の共演
で画面は泰西名画のように華やかだが、その現実との落差が
強烈に感じられた。男女で評価の異なる作品かも知れない。
映画祭では6月25日に上映、一般公開は今秋に東京はシネス
イッチ銀座他でロードショウとなる。

『ポリーナ、私を踊る』“Polina, danser sa vie”
ボリショイバレーで学ぶ若き女性ダンサーが自らの理想を求
め彷徨い成長して行く姿を描いた作品。バスティアン・ヴィ
ヴェス原作の映画化で、監督にはドキュメンタリーも手掛け
るヴァレリー・ミュラーと、コンテンポラリーのコレオグラ
ファーで多数の受賞に輝くアンジュラン・プレオカージュが
共同で当っている。主演は本作でデビューを飾ったアナスタ
シア・シェフツォア。その脇を2013年2月紹介『コズモポリ
ス』などのジュリエット・ビノシェらが固めている。2017年
4月30日題名紹介『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン』と内
容が符合することに驚いた。特にロシアにおけるバレリーナ
の状況などは、先にドキュメンタリーを観ていたお蔭で充分
に理解ができた。これは併せて観ることをお勧めしたい。映
画祭では6月25日に上映、一般公開は10月28日より、東京は
ヒューマントラストシネマ有楽町他でロードショウとなる。

『あさがくるまえに』“Réparer les vivants”
1人の若者の死から始まるヒューマンドラマ。その若者は夜
明け前に恋人のベッドを抜け出し、友人と共に浜に向かう。
そしてサーフィンに興じた若者を悲劇が襲う。斯くして脳死
状態になった若者に回復の見込みはなく、病院は両親に移植
のための臓器の提供を依頼する。という物語が、医師や移植
コーディネーター、さらには移植を待つ患者など多角的な視
点で描かれる。こう書くとかなり事務的な展開のように感じ
られるかもしれないが、作品は実にヒューマニズムに溢れた
素晴らしい作品になっている。実際に僕は観終えて臓器提供
の意思表示をする気にもなったものだ。文学賞にも輝いたメ
イリス・ド・ケランガル原作の映画化で、監督は注目の女性
監督カレル・キレヴェレが担当した。映像も素晴らしい。映
画祭では6月23日に上映、一般公開は9月16日より、東京は
ヒューマントラストシネマ渋谷他でロードショウとなる。

『セザンヌと過ごした時』“Cézanne et moi”
サント=ヴィクトワール山の連作などで知られるポスト印象
派の画家ポール・セザンヌと、映画ファンには1952年『嘆き
のテレーズ』や1956年『居酒屋』の原作者として知られる文
豪エミール・ゾラの交流を描いた作品。富豪の息子セザンヌ
とイタリア人移民の息子ゾラは幼い頃からの親友だったが、
セザンヌ画家の道を進むために親に勘当され、ゾラはいち早
く文才を認められる。斯くして境遇の逆転した2人だがその
友情は続いていた。2012年12月紹介『よりよき人生』などの
ギョーム・カネと、2014年『イブ・サンローラン』などのギ
ョーム・ガリエンヌ。2人のギョームが芸術家の苦悩を名演
で表現する。監督は、2003年6月紹介『シェフと素顔と、お
いしい時間』などのダニエル・トンプソン。映画祭では6月
24日に上映、一般公開は9月、東京はBunkamura ル・シネマ
他で全国順次ロードショウとなる。

以下は通常の試写作品。
『パワーレンジャー』“Power Rangers”
1993年に放送開始されたというアメリカ版『スーパー戦隊』
シリーズの劇場版。同系統の作品は1995年、97年にも製作が
あるようだが、今回は完全新作として登場するものだ。
物語の発端は太古の地球。そこでは惑星の命運を巡る戦いが
繰り広げられていた。しかし星を守っていた5人の戦士たち
が倒され、最早という時に司令官が悪の戦士の封印に成功。
そのまま時は現代へと移って行った。
そして登場するのは、田舎町の高校の通う少し落ちこぼれの
若者5人。その内の1人が別の1人を助けたことから事態が
動き始める。そして2人が向った先は立ち入り禁止の鉱山の
一角、そこには偶然他の3人も居合わせる。
そして掘り出された5色のメダルを手にした若者たちは新た
なパワーレンジャーとして敵に立ち向かうことになる。しか
し同時に悪の戦士も甦っていた。その戦いを前にパワーレン
ジャーになるための訓練が始まるのだが…。

出演は、オーストラリア出身&本作でハリウッドデビューの
デイカー・モンゴメリー、2016年『オデッセイ』などのナオ
ミ・スコット、2015年映画デビューのR・J・サイラー、ビ
ルボード誌ラテンチャート1位に輝いたこともあるベッキー
・G、中国出身で2016年7月17日題名紹介『モンスター・ハ
ント』などのルディ・リン。
これに『ハンガーゲーム』シリーズなどのエリザベス・バン
クス、2016年4月紹介『トランボ』などのブライアン・クラ
ンストンらが脇を固めている。またロボットの声優を『スタ
ー・ウォーズ/フォースの覚醒』でBB−8を担当したビル
・ヘイダーが務めている。
脚本は2017年2月紹介『キングコング髑髏島の巨神』などの
ジョン・ゲイティンズ、監督は2014年のデビュー作以来2作
目というディーン・イズラライトが担当した。
アメリカ版のテレビシリーズは、1992年日本放映の『恐竜戦
隊ジュウレンジャー』に基づいているのだそうで、本作でも
そのメカが登場する。その辺は懐かしく感じる人もいるのか
もしれない。
ただ、基本的にテレビシリーズだと30分枠のものを2時間越
えの作品にしているもので、展開のテンポなどはかなり違っ
ている。しかしその分のドラマはじっくりと描かれており、
観客層は日本のテレビより少し高めかな。
寧ろ1993年のアメリカでの放送開始当時に熱狂したファンが
成長して子供と一緒に観に来ることを想定しているようにも
思える作品だ。その大人の鑑賞の目にも充分応えられる作品
になっている。
それと、日本のテレビシリーズだとクライマックスの戦いが
ビル街で、何となく腰まで埋もれている感じが定番だが、本
作は田舎町が背景で、見るからに巨大な戦いが迫力満点に繰
り広げられる。それも魅力的だ。
この戦いで街の大半が破壊されるが、考えてみると倒れた敵
の身体は黄金の塊だから、事後の復興は贅沢に行えそうだ。

公開は7月15日より、全国ロードショウとなる。
なお日本語吹き替え版は、勝地涼、広瀬アリス、古田新太、
山里亮太らが声優を務めるようだ。


この週は他に
『地獄愛』“Alleluia”
(2004年『変態村』という作品で話題になったファブリス・
ドゥ・ヴェルツ監督による2014年の作品。シングルマザーが
結婚詐欺に引っ掛るが、その正体を知った後も男に惹かれて
しまう。そして兄妹と偽って詐欺の相棒になるが、犯行中の
男の行為に嫉妬心が募り…。実話に基づくとされるもので、
同じ話は1970年に『ハネームーン・キラーズ』として映画化
され、フランソワ・トリュフォーらに絶賛された。今回はそ
の旧版も同時公開される。因に本作はオースティンファンタ
スティック映画祭で作品、監督、主演男女優の4冠に輝いて
いる。また監督は本作を3部作の第2弾と位置づけ、第3弾
も計画しているそうだ。公開は7月1日より、R15+措定で
東京は新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショウ。)
『鎌倉アカデミア 青の時代』
(敗戦後の鎌倉に4年半だけ存在した大学校のドキュメンタ
リー。そこでは林達夫、高見順、中村光夫らの学者、文化人
が教鞭を執り、その学舎からはいずみたく、山口瞳、前田武
彦、高松英郎、勝田久、川久保潔、鈴木清順らが巣立った。
この学校のことは以前から知ってはいたが、その設立の経緯
や廃校に追い込まれる事情などは詳らかではなかった。その
ようなことが描かれた作品。監督は2000年『火星のわが家』
などの大嶋拓。因に監督はアカデミアの教授の1人で、最後
まで存続に尽力した青江瞬二郎の長男。作品は10年前の記念
式典から始まるが、すでに故人も多く、もっと早く作って欲
しかった作品だ。公開は5月20日〜26日の1週間、新宿K's
cinemaにて連日12:30からの1回上映となる。)
『ボンジュール、アン』“Paris Can Wait”
(フランシス・フォード・コッポラの妻で夫や娘の作品を裏
で支えてきたエレノア・コッポラが、80歳にして劇映画監督
デビューを果たした作品。映画プロデューサーの妻がカンヌ
映画祭からパリまで、夫のビジネスパートナーの男性と車で
2人旅の顛末を描いたロードムーヴィ。カンヌを出てすぐに
サント=ヴィクトワール山が登場し、実は前日に上記の『セ
ザンヌ…』を観ていたので顔がほころんでしまった。その後
も、リヨンのリュミエール兄弟の記念館など映画ファンには
嬉しい風景が次々に登場し、主人公らに供されるワインやグ
ルメと共に旅をした気分になる作品だ。出演はダイアン・レ
イン、アルノー・ヴィアール、アレック・ボールドウィン。
公開は7月7日より、全国ロードショウ。)
『ぼくらの亡命』
(2011年6月紹介『ふゆの獣』などの内田伸輝監督による同
作以来の第3作。本作でも訳アリの男女が彼らには冷たい社
会を彷徨う。男は引きこもりが高じて郊外の川べりでテント
暮らしのホームレス。女は美人局の片棒で新宿大ガード下が
仕事場の街娼。そんな女を男が見初め現実を教えるために拉
致してしまうのだが…。どうしようもないというよりは遣る
瀬無い感じの物語だ。出演は2014年塚本信也監督の『野火』
に出ていたという須森隆文と入江庸仁、映画は2作目にして
主演の櫻井亜衣、2016年1月紹介『女が眠る時』に出ていた
松永大輔ら、主にインディペンデンス映画系の俳優で固めら
れている。公開は6月24日より、東京は渋谷ユーロスペース
他で全国順次ロードショウ。)
『ふたりの旅路』“Magic Kimon”
(2005年ロシアのアレクサンドル・ソクーロク監督『太陽』
でも共演のイッセー尾形と桃井かおりが再共演したラトビア
のマーリス・マルティンソーンス監督によるちょっとファン
タスティックな要素もある作品。神戸の街で心を閉ざしたま
ま1人暮らしを続けていた女性が着物ショウへの出演でラト
ビアの首都リガを訪れる。そこで彼女は不思議な体験に遭遇
する。それは観客が傍から見ていると早くから事実関係に気
付くが、当事者にとってはこれが現実かもしれない、そんな
2人の微妙な関係が巧みな演技で表現されて行く。共演は主
にラトビアの俳優のようだが、日本のシーンで木内みどりと
石倉三郎が顔を出している。公開は6月24日より、東京は渋
谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)
『トータスの旅』
(2017年4月2日題名紹介『ポエトリー・エンジェル』を送
り出した田辺・弁慶映画祭で昨年上映され主演の木村知貴が
男優賞を受賞した作品。亀をペットに生真面目に生きてきた
男が妻を亡くし、反抗期の息子との2人暮らしとなる。そこ
に破天荒な生活の兄が現れ、結婚するから式に参列しろと強
引に父子を旅に連れ出す。斯くして兄の婚約者と亀も一緒の
ロードムーヴィが始まるが…。最初はかなり強引だが、徐々
にドラマが展開されて行く。その脚本は意外性もあって巧み
と言える。ただ旅の目的地などが明確には提示されず、それ
は物語に関係ないと言われればそれまでだが、それでは主人
公との思いの共有が阻害されるような感じがした。公開は、
東京でのイヴェント上映は終了したが、大阪では6月10日〜
16日にシネ・リーブル梅田にてレイトショウされる。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2017年05月07日(日) ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス、ジーサンズ はじめての強盗、ウィッチ、ゴールド 金塊の行方、約束の地 メンフィス

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』
          “Guardians of the Galaxy Vol. 2”
2014年8月紹介ディズニー=マーヴェル作品の続編。前作で
図らずも大宇宙の危機を救ってしまった落ちこぼれ軍団が、
再び宇宙存亡の危機に直面する。
主人公は幼い頃に宇宙人に掠われた地球人。地球で観ていた
テレビシリーズ『ナイトライダー』の主演者デビッド・ハッ
セルホフを父と信じて苦難の宇宙暮らしを生き延びてきた。
そんな彼の前に本物の父と名告る人物が現れる。しかもその
人物は神様だった。
ところがこの神様は、宇宙中の知的生命体を殲滅し、自分だ
けの宇宙にしようと目論んでいた。しかし1人では難しいた
め、宇宙中に子種をばらまいて協力者を作ろうとした。その
1人が主人公だったというのだ。そして試練を生き抜いた主
人公を自分の協力者にするというのだが…。
これに宇宙規模の犯罪組織の内部抗争や、独自の規律を重ん
じるオタク国家の惑星なども絡んで、落ちこぼれ軍団の活躍
が描かれる。

出演は、前作に引き続いてのクリス・プラット、ゾーイ・サ
ルダナ、デイヴ・バウティスタ、マイクル・ルーカー、カレ
ン・ギラン、それにヴォイスキャストのブラッドリー・クー
パーとヴィン・ディーゼル。
さらにゲスト出演は2016年1月紹介『ヘイトフル・エイト』
などのカート・ラッセル、それに韓国系のポム・クレメンテ
ィエフ、2015年8月紹介『コードネームU.N.C.L.E.』などの
エリザベス・デビッキに加えて、シルヴェスター・スタロー
ンも登場する。
脚本と監督も前作に引き続き、2007年11月紹介『スリザー』
などのジェームズ・ガンが担当した。
主人公が誘拐されたのが1980年代。少年は亡き母親がウォー
クマンに入れてくれた70年代ポップスのリミックステープを
宝物にしていた。ということで本作にも懐かしのポップスが
満載となっている。その乗りの良さはアメリカでの大ヒット
も理解できるところだ。
それに今回の半神半人という設定も、少し前に同様の設定の
作品があったばかりでこれは理解され易そうだ。ただ僕は吹
替版で観たが、台詞中の「神」という言葉で、もしかしたら
Half-Godかな?というところがあり、少し気になった。でも
まあ大した問題ではない。
なお最後に「次回に続く」と出るが、その前に『アベンジャ
ーズ』に参戦の計画もあるようで、落ちこぼれ軍団の活躍は
まだまだ続くようだ。

公開は5月12日より、全国ロードショウとなる。

『ジーサンズ はじめての強盗』“Going in Style”
いずれもオスカー受賞者のモーガン・フリーマン、マイクル
・ケイン、アラン・アーキンが顔を揃える社会派コメディ。
3人が演じるのは、アメリカの基幹産業だった工場で数10年
を務め上げた老人たち。年金生活はカツカツだが、何とか平
穏な余生を送れるはずだった。ところが社会情勢の変化で住
宅ローンの金利が跳ねあがり、さらに会社が海外企業に買収
されて年金も打ち切られることになる。
そんな折、仲間の1人が銀行での折衝中に銀行強盗に遭遇。
その手際のよいスマートな犯行に、ふと自分たちにもできる
のではないかと思いつく。しかも銀行の被害は保険で補填さ
れるというのだ。斯くして、伝手を頼って装備の調達や銃器
の訓練を始めるが…。

共演は、オスカー2度ノミネートのアン=マーグレットと、
2011年3月紹介『世界侵略:ロサンゼルス決戦』などの子役
のジョーイ・キング。他に2017年4月紹介『アイム・ノット
・シリアルキラー』などのクリストファー・ロイド、2013年
12月紹介『スティーラーズ』などのマット・ディロンらが脇
を固めている。
監督は、2015年『WISH I WAS HERE 僕らのいる場所』などの
ザック・ブラフ、脚本は、2015年『ヴィンセントが教えてく
れたこと』などのセオドア・メルフィ。両作とも試写は観て
いて、共に心温まる素敵な作品だったと記憶しているが、自
分のテリトリーではなかったので割愛したものだ。
因に脚本は、1979年にジョージ・バーンズ、アート・カーニ
ー、リー・ストラスバーグらが共演した同名の作品に基づく
とされている。
何たって名優たちの共演に、脇にも芸達者が揃っているから
安心して観ていられる作品だ。とは言うものの最後はちょっ
と驚かされたもので、この結末は日本映画ではいろいろ配慮
して採用されないのではないかな。
それにしても、犯行に使うマスクがレーガンやニクソンでな
く、この人たちというのもさすがハリウッドという感じで、
これが向こうでは受けるんだよね。因に1979年のオリジナル
ではマルクス3兄弟だったようで、その変遷も興味深い。
いずれにしても、これはハリウッドらしさが横溢した作品と
言えそうだ。もっとも銀行の横暴と不透明な年金問題、それ
に警察の無能ぶりは、世界共通のテーマかもしれないが。

公開は6月24日より、全国ロードショウとなる。

『ウィッチ』“The VVitch: A New-England Folktale”
1630年のアメリカ東部ニューイングランド州を舞台に、実際
に当時あったとされる事象に基づいて映画化された作品。
登場するのは祈りを欠かさない敬虔なクリスチャンの一家。
夫婦と年頃の娘、長男と双子、そして赤ん坊の7人家族。そ
んな一家だったが、周辺住人との宗教観の違いが原因で入植
地を追い出されてしまう。
そしてやってきたのは原野広がる土地。そこで家を立て羊を
育てながらの暮らし始まる。ところが突然一番下の子の姿が
消える。それは狼の仕業か、それとも魔女の行為か。父親は
娘を魔女と疑い、疑心暗鬼が家族をバラバラにする。
新機軸のホラーと言う触れ込みのようだが、観客を瞬間驚か
せるより、じわじわと恐怖に陥れる感覚で、確かにこの感じ
は久しくなかったかもしれない。でもこれがホラーの本来の
形とも言えるものだ。

出演は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の2014年
作に出ていたというラルフ・エイネソンと、2012年7月紹介
『プロメテウス』に出ていたというケイト・ディッキー、そ
れに2017年3月紹介『スプリット』などのアニヤ・テイラー
=ジョイ。
他に、ハービー・スクリムショウ、ルーカス・ドースン、エ
リー・グレンガーといういずれもニューイングランド地方の
訛りを話せる子役たちが一家の子供たちを演じている。因に
この子役には、物語の性質上、保護者の説得が大変だったそ
うだ。

脚本と監督は、本作が長編デビュー作となるロバート・エガ
ースが担当した。なお次回作には『吸血鬼ノスフェラトゥ』
(1922)のリメイクへの抜擢が決まっているそうだ。
魔女というとヨーロッパを思い浮かべがちだが、最近はアメ
リカでの魔女伝説の話をやたら観るようになってきた。それ
はハリウッドがアメリカだから当然ではあるが、近年その研
究が進んでいることも理由になりそうだ。
本作も企画から完成までに5年以上が費やされたと言われ、
その間に脚本を執筆したエガースは徹底的な調査を行ったと
のこと。その成果はインディペンデンス・スピリット賞での
脚本賞・監督賞のW受賞に繋がっている。
その他にもサンダンス映画祭の監督賞など、数多くの受賞に
輝いている作品だ。

なおプレス資料に公開は7月22日よりと記載されているが、
上映館などは紹介されていなかった。

『ゴールド 金塊の行方』“Gold”
1995年に起きたカナダBre-X社による鉱山捏造事件を基に、
時代背景を1980年代に移してドラマ化した作品。
登場するのは祖父から3代続く探鉱師という家柄の男性。し
かし時代の流れは大企業有利に傾き始めている。そして親か
ら継いだ会社も倒産の危機にある。
そんな男が最後の勝負でインドネシアに向い、以前に巨大金
鉱を発見した地質学者の男を訪ねる。その男も以前手にした
金は使い果たしていたが、最近見つけた奥地の土地が有望だ
と言い切る。
そして何とか資金を調達して掘り出したサンプルは、過去の
全世界の金の総産出量に匹敵する巨大金鉱の証明だった。そ
の情報は直ちに世界を駆け巡り、主人公の会社の株価は天井
知らずで上がり続けるが…。

出演は、製作も兼ねる2014年11月紹介『インターステラー』
などのマシュー・マコノヒー、2013年1月紹介『ゼロ・ダー
ク・サーティ』などのエドガー・ラミレス、2012年1月紹介
『ヘルプ・心がつなぐストーリー』などのブライス・ダラス
・ハワード。
監督は、2005年12月紹介『シリアナ』などのスティーヴン・
ギャガン。脚本は、2001年『トゥームレイダー』以来の劇場
作品となるパトリック・マセットとジョン・ツィンマン。脚
本家2人は主にテレビの仕事をしているようだ。
基となっている事件は比較的最近のもので、主謀者にはイン
サイダー取引などの罪が課せられたようだ。そこで本作では
背景を1980年代にしているものだが、終盤のヘリコプターの
下りは実際の事件にもあったものだ。
しかしその事実関係はいまだに謎に包まれた部分のようで、
従って映画のその後の展開は創作されたものと思われる。た
だ映画の中でも主人公は善意で巻き込まれたように描かれ、
全ての仕掛けは地質学者なのかな。
一方、その地質学者はもっと早く終らせるつもりだったが、
主人公が頑固で結局ここまで行ってしまった…、という辺り
の描写が、脚本の妙のようにも感じられた。正しくあったら
痛快という感じの物語だ。
因に、監督のギャガンは2000年『トラフィック』のオスカー
脚本賞受賞者で、製作総指揮には2005年11月紹介『クラッシ
ュ』でオスカー脚本賞受賞のポール・ハギスが名を連ねてお
り、本作では2人は脚本にクレジットされていないが、この
布陣は強力なものだ。

公開は6月1日より、東京は日比谷のTOHOシネマズシャンテ
他で、全国ロードショウとなる。

『約束の地、メンフィス』“Take Me to the River”
アメリカ合衆国テネシー州メンフィス。20世紀中葉には音楽
で隆盛を誇ったこの街に、音楽を呼び戻そうと試みて行われ
たアルバム制作の模様を記録したドキュメンタリー。
メンフィスはエルヴィス・プレスリーの自宅があったことで
も知られる街だが、ここは第2次世界大戦後の一時期には白
人、黒人を区別することなく音楽を創造する街であり、数知
れないミュージシャンがここから世界に羽ばたいた。
さらにはビートルズやローリング・ストーンズ、U2、レッ
ド・ツェッペリンらがこの地でアルバムを制作し、彼ら自身
が新たな音楽性に目覚め、その豊かな音楽性を世界に広めた
場所でもある。
そんな街で過去の隆盛を取り戻すための試みが始まる。それ
はこの街を故郷とするレジェンドのミュージシャンたちと、
この街で生まれた若手のミュージシャンとを世代を越えて集
め、互いにセッションをさせようというものだ。
そこで行われるセッションは9回10曲。そこに参加するのは
ブッカー・T&MG’sや、ザ・ステイプル・シンガーズ、
それにスヌープ・ドッグなどグラミー賞に輝いたり、ロック
の殿堂入りを果たしているレジェンドたち。
そのセッションに、2011年『ハッピー・フィート2』に声優
で参加して話題になったリル・ピーナッツや、2005年『ハッ
スル&フロウ』でオスカー受賞のフレイザー・ボーイ(セド
リック・コールマン)などの若手が参加する。
そこにはレジェンドたちの歴史や思いを若手に伝え、メンフ
ィスの音楽の流れを再興しようという思いもある。そのため
セッションの合間にはインタヴューなども多彩に行われ、そ
れらも収められている。
また2008年に亡くなったアイザック・ヘイズの記念館も登場
し、そこに飾られた1972年『黒いジャガー』のオスカー像を
黒人初というのは1964年『野のユリ』シドニー・ポアチエが
いるので誤りだが、その奥のキャデラックは凄かった。
因に本作を企画したルーサー・ディキンスンが映画の最初に
「もっと早く始めるべきだった」と語っているのは、このヘ
イズのことを指したのだと思うが、この作品の収録後にも、
出演したレジェンドの何人かが亡くなっているものだ。
という貴重な映像の収められた作品だが、映画の後半ではメ
ンフィスの栄光が消えた原因というべき事件も紹介される。
それは1968年キング牧師の暗殺事件に端を発したもので、実
は邦題の『約束の地』というのは牧師の言葉に拠っている。
その暗殺によって再燃した黒人と白人の対立が、両者の融合
で始まったメンフィスの音楽を没落させてしまう。しかし時
代は再び融合の時を迎えている…というのが、作品の一番言
いたかったことかもしれない。

公開は6月17日より、東京は新宿K's cinema他で、全国順次
ロードショウとなる。


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井口健二