| 2016年07月31日(日) |
ミスワイフ、チリの闘い第1部〜第3部、湯を沸かすほどの熱い愛、PK |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ミスワイフ』“미쓰 와이프” 2011年2月紹介『ミス・ギャングスター』などのカン・ヒョ ジンの監督、2010年5月紹介『仁寺洞スキャンダル』などの オム・ジョンファの主演で、独身敏腕女性弁護士が突然平凡 な主婦の生活に追い込まれるというコメディドラマ。 主人公は幼い頃に父親を亡くし、その父親の悪口を言い続け た母親も他界して独力で今の地位を築き上げた女性弁護士。 少しブラックな外国企業に勤めているが、その危ない訴訟も 勝訴率100%の敏腕ぶりで、遂にニューヨーク本社への栄転 が決まっている。 そんな女性が自分の運転する車で事故に巻き込まれ、ふと気 が付くと、そこは天国への中継地だった。しかし彼女の死亡 は手違いで彼女は戻されることになるのだが、その手続きが 済むまでの1か月、こちらも手違いで1か月早く死亡して既 に魂が天国へ行ってしまった女性の身代わりを頼まれる。 それを現世に戻るための取引条件とされて彼女はその役を引 き受けるが…。それは公務員の夫と2人の子持ちの専業主婦 という、今までの彼女の暮らしとは真逆の生活環境だった。 果たして彼女はその境遇を受け入れ、無事に1か月間を過ご すことができるのか? 共演は、2010年10月紹介『ゴースト/もういちど抱きしめた い』などのソン・スンホン。さらに2010年10月紹介『黒く濁 る村』などのキム・サンホ、『ミス・ギャングスター』など のラ・ミラン、韓国のダコタ・ファニングと言われる子役の ソ・シネらが脇を固めている。 タイトルを見てコメディと聞いた時には、これは有り勝ちな ラヴコメを想像した。ただヒョウジン監督の以前に紹介した 作品でも、社会性など巧みに取り入れていたから、その辺で いろいろ捻りは利かせてくるだろうという期待は持って作品 を鑑賞した。その結果は期待以上だった。 発端から本筋に至るまでの導入部は既にあるかなとも思える し、そこからの生活環境のギャップによって生じる笑いなど もありそうな感じなのだが、その全体の描き方が上手いとい うか、何となく嵌ってしまう感じがして、観ていて心地の良 さを感じる作品だ。 しかも最初から提示されている結末が徐々に迫ってくる展開 はそれ自体も上手いと言えるのだが、そこにさらに2重3重 に仕掛けが施されていて、これは思わず唸ってしまう見事な エンディングになっている。巧みなファンタシーで、こうい うのが本当に自分の観たかった作品だ。 公開は8月13日より東京シネマート新宿、以後8月20日より イオンシネマ名古屋茶屋、9月3日より大阪シネマート心斎 橋と、全国順次ロードショウとなる。
『チリの闘い第1部:ブルジョワジーの反乱』 “La batalla de Chile: La lucha de un pueblo sin armas - Primera parte: La insurreción de la burguesía” 『チリの闘い第2部:クーデター』 “La batalla de Chile: La lucha de un pueblo sin armas - Tercera parte: El poder popular” 『チリの闘い第3部:民衆の力』 “La batalla de Chile: La lucha de un pueblo sin armas - Segunda parte: El golpe de estado” 昨年日本公開された『光のノスタルジア』『真珠のボタン』 のパトリシオ・グスマン監督が1973年のチリの国情を描き、 1975年、1976年、1979年に発表したドキュメンタリー。 チリでは1970年にチリ社会党のサルバドール・アジェンデが 大統領となり、世界で初めて自由選挙によって合法的に選出 された社会主義政権が成立した。しかしアメリカ=ニクソン 政権は、お膝元の南米での政変を良しとしなかった。 そこでアメリカは経済制裁を発動し、さらにチリの富裕層に 資金を投入して企業家主導によるストを続発させる。これに 対しチリ国民は、労働組合や地方委員会を作って抵抗して行 くのだが…。 遂に1973年9月11日、CIAとアメリカ海軍の支援を受けた 軍部がクーデターを起こし、首都サンチアゴにある大統領府 を空爆。アジェンデ大統領を死に追いやり、後に悪名を轟か すピノチェト政権を誕生させる。 本作の第1部、第2部では1973年3月の議会総選挙の模様か ら取材が開始され、その選挙結果が反大統領派の思惑に反し たことから起こる6月のクーデター未遂(後にNYタイムズ がCIAの資金提供を報道)、さらに9月へと進む。 因に第1部の巻頭には、黒無地のタイトルバックに重ねた攻 撃の音響と9月のクーデターでの大統領府空爆の映像が配置 されており、そこへ至る道筋が描かれることが暗示されてい る。そして第2部はクーデターの模様で終えられる。 斯くしてアジェンデからピノチェトへの政変を描く本作は、 第3部では一転して経済制裁や企業家主導のストライキに挑 む民衆の姿を描き出す。正直に言って僕には前2部は既知の 内容で、第3部からが注目だった。 そこでは交通のストに対して個人のトラックなどを動員して 凌ぐ姿や、新たな物流のルートを開発して物不足に対処する 姿などが描かれる。それは正に民衆主導の革命であり、ソ連 とは異なる社会主義運動の発展が描かれる。 実際にここに描かれる民衆の様子は、社会主義への移行を目 指す大いなる実験とも取れるし、軍部のクーデターという暴 力によるその挫折が、後のソ連崩壊などへの引き鉄になった とも見えるものだ。 そしてこの軍事クーデターが、2016年6月紹介『コロニア』 に始まり、2012年10月28日付の「第25回東京国際映画祭」で 紹介した『NO』で終るチリの独裁政権を誕生させるのだ。 なお本作には一将校だったピノチェトの姿も登場する。 公開は9月10日より、東京は渋谷ユーロスペース他で、全国 順次ロードショウとなる。
『湯を沸かすほどの熱い愛』 2012年12月紹介『チチを撮りに』の中野量太監督による商業 映画デビュー作で、宮沢りえが2014年『紙の月』以来の主演 を務める作品。 宮沢が扮するのは休業中の風呂屋の女主人。1年前に夫が蒸 発して女手だけでは湯沸しもままならず、止む無く休業状態 になっている。そして彼女には一人娘がいるが、少し優柔不 断な性格で、学校ではいじめに遭っているようだ。 そんな主人公が突然ガンで余命数ヶ月を宣告されてしまう。 そこで主人公は、まず夫の居所を興信所に探させて家に引き 戻し、夫と連れていた幼女を家族にしてしまう。さらに娘に は独立心を持たせる予習を開始する。 そんな一家にはいくつかルールがあり、それは家族の誕生日 には朝からしゃぶしゃぶだったり、毎年特定の日に届くアシ ダカガニの礼状は娘が書くことになっていた。そして主人公 は、娘と幼女を連れて静岡に出かけることにするが…。 共演は2016年2月紹介『スキャナー』などの杉咲花。他に、 オダギリジョー、松坂桃李、子役の伊東蒼、2016年5月29日 題名紹介『夢二〜愛のとばしり〜』などの駿河太郎、2015年 4月紹介『Zアイランド』に出演の篠原ゆき子らが脇を固め ている。 脚本も手掛けた中野監督の作品は、前作もそうだったが少し 捻ったシチュエーションで展開される。しかしそこに描かれ る内容は普遍的というか誰にでも理解できる物語で、見事に 感動させられるものだ。 特に伏線の敷き方が巧みで、それこそ普通なら見逃してしま いそうな描写が最後に感動となって甦る。勿論もっと明確に 提示されて感動の引き金になるようなシーンも用意されてい るが、その他にもいろいろな伏線が活かされていた。 それにしても、題名の最後の文字は、普通こういう流れだと 「恋」かな? でも本作は、宮沢りえが正しく壮絶な「愛」 を家族や周囲に振りまく作品で、その内容には圧倒された。 これこそが愛と言えるものなのだろう。 ただ最後はちょっとやり過ぎかな? 実は宣伝担当者からは 「結末には賛否両論がある」と聞かされたものだが、でも本 作はフィクションなのだからこれもありだろう。映画全体の 良さが、そんな気持ちにもさせてくれる作品だった。 公開は10月29日より、東京は新宿バルト9他で、全国ロード ショウとなる。
『PK』“पीके” 2013年3月紹介『きっと、うまくいく』のラージクマール・ ヒラニ監督による2014年の作品で、インドでは歴代第1位、 全世界興収で1億ドルを突破したという大ヒット作。 英語版のウィキペディアによるとscience fiction comedyと なっていて、映画の開幕では巨大なUFOから主人公が降り てくる…。これは確かにscience fictionかな。そしてその 主人公が帰る術を無くして地上に取り残されるというのは、 『E.T.』と同じ展開だ。 ただし本作の主人公は地球人の男性と同じ姿で、最初は少し 問題ありだが、その後は地球人に紛れて暮らすことになる。 しかし根っから正直な主人公は世間に蔓延る「神様」の存在 を信じ、その力でUFOを呼び戻そうとするのだが…。因に 彼には相手の手を握るとその心が判る能力があるようだ。 一方、インドを離れたベルギーでは1人の女性が「神様」の 力で恋人との仲を裂かれようとしていた。そして「神様」の 予言の通りに恋人に裏切られた彼女は、傷心のまま帰国して テレビ局で報道ディレクターを務めていた。その女性が街で 不思議な行動をする主人公=PKを目撃する。 その時、PKは「神様が行方不明」という人探しのチラシを 街人に配っていた。その姿に興味を惹かれた彼女はPKの取 材を始めるが、それは社会を動かす大事件になって行く。果 たしてPKは「神様」を制してUFOを呼び戻し、自分の星 に帰ることができるのか… 主演は、『きっと、うまくいく』と同じアーミル・カーン。 相手役に2013年3月紹介『命ある限り』などのアヌシュカ・ シャルマ。モデル出身の女優は『命ある限り』で助演女優賞 を受賞、本作の大ヒットで人気を不動にしたそうだ。 ウィキペディアでscience fictionとされている本作だが、 純粋に工学部出身者の目で観ると、科学的な興味では『きっ と、うまくいく』の方が理解できるところは多かったかな。 その点では本作は、SFと言うよりはもっと精神的な分野に 根差した作品だ。 そしてその精神(宗教)に関しては、前半では少し自分の感 覚と合わない感じもしていた。しかし映画の後半で敵が明確 にされてからの展開は理解し易く、特にクライマックスへの 畳み込み方は、見事なエンターテインメントになっている。 その辺が宗教で混沌としている現代社会に適切なメッセージ にもなっている作品だ。 とは言うものの、上映中は僕自身が何度も涙腺を刺激され、 そんな感動作と言える作品でもあった。 公開は10月29日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シ ネマカリテ他で、全国ロードショウとなる。
この週は他に 『仮面ライダーゴースト 100の眼魂とゴースト運命の瞬間』 『動物戦隊ジュウオウジャードキドキサーカスパニック!』 (先月記者会見の模様をお伝えした仮面ライダー生誕45周年 /スーパー戦隊シリーズ40作目の記念作品。どちらも公開時 放送中のキャラクターが登場するが、放送シリーズとの兼ね 合いで番外編のような作品になっている。ただしそれなりに 豪華な作りで物語も納得だし、ゲスト出演も楽しめた。) 『ぼくのおじさん』 (北杜夫の原作を2012年4月紹介『苦役列車』などの山下敦 弘監督が松田龍平の主演で映画化。大学で哲学の臨時講師を しているおじさんを、小学生の甥が宿題の作文で描写する。 山下監督は先々週に題名紹介の『オーバー・フェンス』に続 いての作品で、精力的な活動ぶりに感服した。) 『われらが背きし者』“Our Kind of Traitor” (2012年2月紹介『裏切りのサーカス』などのジョン・ル・ カレ原作、製作総指揮による英国MI6を題材にしたスパイ 映画。ユアン・マクレガー演じる大学教授が国家を揺るがす 機密に関る…いわゆる巻き込まれ形だが、途中から積極的に ならざるを得なくなる展開が面白い。) 『聖なる呼吸』“Breath of the Gods” (現代ヨガの創始者とされるインド人の足跡を、ドイツ人の 映画監督が辿るドキュメンタリー。かなり古い映像から監督 自身が高度なヨガに挑戦する姿まで、ヨガの全般が良く理解 できる構成になっている。特にヨガを学んでいる人には、格 好の教材と言えそうだ。) 『KARATE KILL カラテ・キル』 (ロサンゼルス在住の日本人監督が、空手家のハヤテを主演 に迎えて、主にアメリカを舞台に制作したアクション作品。 空手の達人が妹を拉致したカルト集団に挑む。敵役の1人と して2015年11月紹介『リザとキツネと恋する死者たち』のデ ヴィッド・サクライが登場。) 『高慢と偏見とゾンビ』 “Pride and Prejudice and Zombies” (何度も映画化されたジェーン・オースティンの原作に、終 末ゾンビのストーリーをマッシュアップした作品。原作で有 名なダーシー卿ら隣家の人々を迎える姉妹の会話が、舞踏で はなく武闘の練習と共に行われるなど、パロディ精神も満載 で、原作を覚えているとニヤニヤできる。) 『闇金ウシジマくんPart3』 (2012年6月に第1作を紹介したシリーズの第3作。第2作 の試写は観たが紹介は割愛した。しかし物語は1話完結だか ら問題はない。そして今回の内容はネットを使った儲け話を 背景にしたもので、カリスマ投資家に関った連中が丑島の餌 食になる。なお第4作を近日紹介の予定だ。) を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2016年07月24日(日) |
淵に立つ、世界一キライなあなたに、バニラボーイ トゥモロー・イズ・アナザー・デイ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『淵に立つ』 2015年10月紹介『さようなら』などの深田晃司監督による新 作で、今年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞 を受賞した作品。 下町の町工場にワイシャツに黒ズボン姿の男が訪ねてくる。 その男は工場主の古い知り合いらしく、工場主は彼の行き場 が決まるまで工場で雇うことにする。しかし工場主の妻はそ の男のことは何も知らなかったようだ。そして工場主の夫妻 にはオルガンを練習する幼い娘がいた。 そんなちょっとギクシャクした男の登場だったが、男はオル ガンを巧みに演奏して娘の関心を呼び、徐々に一家の中に溶 け込んで行く。こうして男は、一家の休日には娘の要望で川 遊びに同行するまでになって行くが…。そこで男は工場主に 荒々しい本性を垣間見せたりもする。 そしてこの男の存在が、平和だった家族を徐々に崩壊させて 行く。 出演は、浅野忠信、古舘寛治、筒井真理子、篠川桃音と真広 佳奈。他に、太賀、三浦貴大らが脇を固めている。 深田監督の作品では、2010年11月02日付「第23回東京国際映 画祭」で『歓待』という作品を紹介しているが、本作はその 元になったアイデアだそうで、確かに下町の印刷工場に謎の 男が現れる2010年作とシチュエーションやその後の展開など も似ているものだ。 ただし『歓待』はかなり大人数の集団劇だったのに対して、 本作は夫婦と娘の3人家族に男が入ってくる。従って人数が 少ない分、その物語の密度はかなり高い。しかもそこからの 終盤の展開は正に衝撃的なものになっていた。 因に監督の描きたかったテーマは、安定した集団への異分子 の混入だそうで、そのテーマは2本の作品に共通して強烈な 衝撃を与えるものになっている。特に本作では、そのテーマ 性は明確だろう。 実は、僕自身には『歓待』を観た時に超自然的な匂いも感じ られて、侵入者である人物には悪魔的なものも感じていた。 そのためそこにはファンタシーの解釈も成り立つとも思って いたのだが…、本作ではそれは払拭されていた。 従って本作では、『歓待』以上に人間の業のようなものが描 かれ、それは悪魔以上に恐ろしいものであるという現実が突 きつけられる。ただし本作では、それが明確な事実としては 描かれず、あくまで観客の解釈というのも恐ろしい。 そう思って観ている観客こそが、物語の異分子なのだ。 公開は10月上旬より、東京は有楽町スバル座他で、全国ロー ドショウとなる。
『世界一キライなあなたに』“Me Before You” 2015年7月紹介『ターミネーター:ジェニシス』でサラ・コ ナーを演じたエミリア・クラークの主演で、困難に立ち向か う若い女性を描いた作品。 主人公は、山の上にお城の見えるイギリスの田舎町に暮らす 26歳の女性。6年間勤めていたカフェが閉店して収入が無く なり、両親との暮らしが窮地に陥る。そこで紹介されたのは お城のそばの邸宅に住む男性の介護だった。 それはベテランの介護士との共同作業で、肉体的な困難など はさほどなかったが、突然の事故で身体の自由を奪われた元 スポーツマン男性の気性は気まぐれで、彼女の善意の行為も 誤解されぶつかってしまうことが度々だった。 それでもめげることのない主人公は、徐々に男性の心を開い て行くが…。 共演は、2012年6月紹介『スノーホワイト』などのサム・フ ランクリン。他に、2012年12月紹介『アルバート氏の人生』 などのジャネット・マクティア、前回題名紹介『ゴーストバ スターズ』にも出演のチャールズ・ダンスらが脇を固めてい る。 脚本は、日本を含む世界40か国以上に翻訳されているという 小説から原作者のジョジョ・モイーズ自身が脚色。監督は、 舞台演出家として著名で本作が映画デビューとなるシーア・ シェアイックが担当した。 映画の結末は僕が最も嫌うテーマのもので、実はこの前にも 同旨のドイツ映画があったが僕は紹介を回避したものだ。し かし本作では、これはもう仕方がないかな、と思わざるを得 ないものだった。 もちろんドイツの作品でも、肉体の状況は本人以外には理解 のしようがないが、本作ではその点の説得力がドイツの作品 より勝っていたのかもしれない。それに具体的なシーンを描 いていないのも良かったのかもしれない。 さらに本作では、そこに至るまでの描き方が巧みなもので、 特に主人公の女性の健気さが心を打つ。そしてそれに対する 男性の態度も立派で、それは慈愛に満ちた素晴らしい時間が 描かれる。 作り物のお話ということを踏まえた上でも、近年の同種の作 品の中では上位に入る作品だ。 公開は10月より、全国ロードショウとなる。
『バニラボーイ トゥモロー・イズ・アナザー・デイ』 ジャニーズJr.内ユニットSixTONESのジェシー、松村北斗、 田中樹が主演するSF的要素もある青春ドラマ。 主人公は1999年7月生まれの高校生1年生。傍にはそれぞれ が学力優秀と運動能力抜群の2人の友達がいて、自分自身は 何の能力もないと思っている。ところが、実は彼は「ノスト ラダムスの大予言」の申し子で、彼の身に降り掛った災難は 数倍化して日本国民に降り掛るのだ。 このため日本政府は密かに彼の身を守ると共に、彼に対する 事象の影響を予測するプログラムも開発していた。こうして 彼には、道で転んでも怪我が生じないようにする特別な体制 が採られていた。そして日々そのような事態が起こらないよ うに監視もされていたのだが…。 そんな彼の前に1人の女子転校生が現れたことから事態が急 変し始める。 共演は、2014年『空と海のあいだ』などの竹富聖花、2010年 9月紹介『大奥』などの小西成弥、2011年3月紹介『奇跡』 などの前田航基。他に要潤、ブラザートム、西村和彦、船越 英一郎らが脇を固めている。 脚本は、舞台演出家でヴァラエティの構成作家なども務める 保木本真也、監督はテレビ『アンフェア』などの根本和政。 脚本家、監督共に劇場用の映画作品は初めてなのかな? 普通に生活してきた主人公が実は重要人物で…、という作品 は今までに何本観てきているのかな? そんな1本と言える 作品だが、作品の乗りは如何にもテレビのヴァラエティ番組 で、主人公の演技もそれに準じている。 とは言えジャニーズ系の作品なら、それで充分観客は呼べる という計算なのだろうし、そういうファンを喜ばせるような 仕掛けは随所にちりばめられている。そういう目で観れば、 別段問題にするような作品ではない。 ただ結末の持って行き方は、設定は逆の方が面白かったので はないのかな。結果的には同じ展開になるにしても、逆の方 が話も判り易かったと思うのだが、今のままだと何か主人公 の格好良さが出てない感じだが、それもファンサーヴィスな のかな? そこまでの計算は僕には判らなかった。 公開は9月3日より、東京はTOHOシネマズ新宿ほかで、全国 ロードショウとなる。
この週は他に 『Yesterday』“Beatles” (2016年6月19日付で題名紹介の『シング・ストリート』と 似た1960年代の北欧が舞台の青春ドラマ。ビートルズに憧れ る少年たちが、夢を目指して悪戦苦闘する。6月の作品ほど 洗練されてはいないが、その分、若い人には共感が大きいか な。でも未成年の飲酒や喫煙はお国柄なのだろう。) 『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』“Genius” (F・スコット・フィッツジェラルド、アーネスト・ヘミン グウェイ、トマス・ウルフらの才能を見出し、彼らを育て上 げた編集者の実話に基づく物語。その業績をコリン・ファー ス、ジュード・ロウ、ガイ・ピアース、ニコール・キッドマ ンらの共演で描く。作家との交流の様子が素晴らしい。) 『イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優』 “Jag är Ingrid” (スウェーデン出身でハリウッドで成功した女優の生涯を描 くドキュメンタリー。女優本人が撮影した16�丱侫�ルムと日 記、さらに遺児や周囲の人々ちの証言などで綴られる。副題 の通り愛に生きた女優は3度の結婚をしているが、本人は常 に幸せだったようで、観ていてほっとする作品だった。) 『ペット』“The Secret Life of Pets”吹替版 (先月紹介した作品の日本語吹き替え版を改めて鑑賞した。 内容的には以前の紹介の通りだが、吹替えに関しては主役の バナナマンの2人と、佐藤栞里、永作博美の吹替えはさほど 違和感も無かったかな。他はベテランの声優たちが当ててい る。ただ今回も2Dで1度は3Dで観たかったものだ。) 『いきなり先生になったボクが彼女に恋をした』 (沖縄出張中に務めていた日本の会社が倒産した韓国人青年 が韓国語教室の先生になり、Kポップが好きで少し韓国語を 口にしたために韓国要員として雇われた日本人女性の窮地を 救うことになるラヴコメディ。2人の人物紹介からの流れが 巧みで、他にも脚本の良さが随所に見られた。) を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2016年07月17日(日) |
西遊記 孫悟空 vs 白骨夫人、ミリキタニの猫/ミリキタニの記憶、GANTZ:O、東京タワーお化け屋敷第2弾「怪奇感視カメラ」 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『西遊記 孫悟空 vs 白骨夫人』 “西遊記之孫悟空三打白骨精” 2015年公開、ドニー・イェン主演の『モンキー・マジック 孫悟空誕生』“西遊記之大鬧天宮”の続編。 前作も試写は観せて貰ったが、描かれていたのは孫悟空が天 界で大暴れをして五行山に封じ込められるまでの話で、その 話は知ってはいたけれど、そこはやはり三蔵法師に猪八戒、 沙悟浄との旅の話でないとちょっと親しみが湧いてこない感 じで、ここでの紹介は割愛した。 そこで今回は、いよいよその五行山に三蔵法師が立ち寄り、 孫悟空を開放しての旅の始まりが描かれる。そこに猪八戒、 沙悟浄も加わって、彼らが訪れたのは西域の町。その町では 白骨夫人と呼ばれる妖怪によって子供が誘拐され、親たちの 悲しみに溢れていた。 その妖怪退治を三蔵法師らは頼まれるのだが、白骨夫人の真 の狙いは食べれば永遠の命が得られるという高僧=三蔵法師 そのものにあった。しかも妖怪の手下を倒した悟空は、人間 を殺したとして三蔵法師から疎まれ、その隙を狙った白骨夫 人に三蔵法師が拉致されてしまう。 出演は、前作の後で続編には出演しないと宣言したドニーに 代って、前作では妖怪役に扮していたアーロン・クォック。 また相手役には新登場で2011年6月紹介『シャンハイ』など のコン・リー。 他に、2013年公開『妖魔伝 レザレクション』などのウィリ アム・フォン。さらに2009年2月紹介『エンプレス』などの ケリー・チャンは前作と同じ役で出ていたようだ。 監督は前作に引き続き2011年8月紹介『アクシデント』など のソイ・チェン。アクション監督は、前作のドニーに代って 2012年4月紹介『王朝の陰謀』などの大ベテラン、サモ・ハ ン・キンポーが担当している。 出演者などの前作を上回る顔触れは、本作が前作の大ヒット を受けての作品であることの証だろう。とは言えそれは中国 でのお話、実は本作の原版は3Dで、前作もそうだったが本 作でも随所に3Dの効果を狙ったシーンが登場する。 ところがそれが日本では2Dでしか観られないようで、この 損失感はかなり大きなものだ。それはハリウッドの3D映画 でも、シミュレーションによる後付けの3D作品の中には追 加料金が無駄と感じる場合もありはする。 しかし、前回紹介した『京劇〜覇王別姫〜』などのような、 それだけの価値のある作品もあるもので、それが日本で2D 公開となるのは真に残念に思うものだ。 公開は8月6日より、東京ではシネマート新宿、大阪はシネ マート心斎橋他で、全国順次ロードショウとなる。 なお本作の公開は、6月19日に題名紹介の『ドラゴン・クロ ニクル 妖魔塔の伝説』“九層妖塔”と、さらにもう1本の 『モンスター・ハント』“捉妖記”(VFXにILMが参加 したアクション作品)と共に、中国ファンタシー映画の上映 が3本同時に行われるものだ。
『ミリキタニの猫』“The Cats of Mirikitani” 『ミリキタニの記憶』 2007年7月10日付で紹介した作品が、短編を追加した特別篇 と称して再公開されることになり、改めて試写が行われた。 実は今回、以前に書いた自分の文章を読み返してみて、自分 の感想の本質的な部分は変わっていなかった。ただ思い返し て当時の感覚としては、もっと9・11に引っ張られていたか なという思いがあったのだが、今回作品を見直すとさほど大 きくは描かれていなかったものだ。 それほどに当時はまだ僕の方が冷静ではなかったのかも知れ ない。その点では現地に住む女性監督の方がよほど冷静だっ たようだ。そんな冷静な目で、ジミー・ツトム・ミリキタニ の人生を的確に綴っていたのが、『ミリキタニの猫』という 作品だった。 ただしそれはアメリカ側での話、当時に観ていた時も対する 日本側のことが気になったが、それをアメリカ人の監督に要 求するのは筋違いだろう。そこを補完しているのが、今回の 上映に追加された『ミリキタニの記憶』、それは正に本編の アペンディクスのような作品だ。 この短編では、判明した三力谷家の家系や、2007年の公開に 併せて行われた画家の再来日の様子などが綴られ、親族との 再会などが心地良く描かれている。それは決して新たな感動 などを求めるものではなく、極めて丁寧に基の作品の隙間を 埋めているものだ。 監督は、『ミリキタニの猫』の製作と撮影も務めたマサ・ヨ シカワ(クレジットはmasa)。これでようやく安心できる。 そんな感じのする作品だった。 なお、本編『ミリキタニの猫』に関しては2007年7月10日付 の紹介文も併読していただきたいが、当時の紹介文には伏字 の処理がされていないのでご注意ください。
『GANTZ:O』 2011年に2部作で実写製作された奥浩哉原作のベストセラー コミックスを、新たな視点で描いたフルCGアニメーション 作品。 不慮の死を遂げた主人公が目覚めると、そこはマンションの 一室で部屋の隅には大きな黒い球体が置かれている。さらに 部屋には先行のメムバーがいて、球体が発する命令に従って 特殊スーツに身を固め、異星人と闘う羽目に陥る。 そして闘いが終了すると各人ごとの採点が球体に表示され、 その得点に従って現世への帰還や、強力な武器の支給などが 行われる。また戦闘中の死は現実的なものだが、得点達成者 にはその復帰を希望することもできる。 そんなルールの許で、様々な異星人との果てしのない戦いが 繰り広げられて行く。正しくゲーム感覚という感じのストー リー展開だが、今回はその中でも原作での人気が高いという 大阪篇が映画化されている。 そこに登場する敵は、ぬらりひょんを総大将とする正に百鬼 夜行の魑魅魍魎たちで、先の異星人という設定はどうなった のかということは考えるが、まあそんなことは別にして妖怪 変化との闘いは面白く描かれていた。 脚本は2013年12月紹介『黒執事』などの黒岩勉。総監督とし て『黒執事』などのさとうけいいちが名を連ねている。また 声優では、主人公のみ2015年12月紹介『新劇場版 頭文字D Legend 3−夢現−』などの小野大輔と発表されているが、他 は情報解禁前となっているものだ。 実は実写版は劇場公開を観ているが、現世との関わりなどが 今一つ理解できなくてちょっと困惑したものだ。その点では 本作はそれなりに説明はされていたもので、原作の読者では なくても納得は出来た。 ただまあウィキペディアなどを見ると、物語にはいろいろな 背景があるようで、その辺の大元の設定が映画だけではまだ 判らない。とは言え、その辺をちゃんとSFとして描くのは かなり面倒そうで、このままいくのが正解なのかな。 公開は10月14日より、全国ロードショウが予定されている。
『東京タワーお化け屋敷第2弾「怪奇感視カメラ」』 映画会社の松竹が日本電波墱=東京タワーの地下一階で開催 するお化け屋敷。7月15日から9月4にまで開催されている その会場を一般公開の前日に体験させて貰った。 松竹と東京タワーでは、実は昨年も「東京タワーに住み憑く あの子」と題されたお化け屋敷を手掛けたそうで、その時は 体験会の案内を貰わなかったが、今回は案内のメールが届い て一足先に体験することができた。 その今回の設定は、東京タワーの地下一階に設置された監視 カメラに様々な怪奇現象が映り、さらにカメラに映った人た ちには不可解な詩が訪れた。そのため地下一階は封印され、 立ち入り禁止とされたが…。 2016年夏、真相を探るべく、地下一階の封印が解かれた…、 というもの。 会場の入り口にはその説明の映像が上映され、その上映時間 の間隔で会場内に入場者が導かれるという仕組みになってい る。そのため前後には少し距離が開いて、暗がりの中を少人 数ごとに歩くことになる。 というところを僕は1人で歩いたが、まず会場を進む迷路が 上手く作られていて、何カ所かでは進む方向が見つからず、 それだけでも楽しめた。しかもそこに脅かしが加わる訳で、 これは連れと来たら楽しめそうだ。 実はその迷路で手こずっている内に後ろのグループが接近し てきて、それは男性2人組だったようだが、かなり野太い声 が挙がっていた。僕自身何カ所かは息を飲んだりもしたもの で、楽しめたことは間違いない。 この手のお化け屋敷では、富士急ハイランドの「戦慄迷宮」 が映画にもなって有名だが、都心では東京タワーの下という ロケーションも良いし、大人入場料800円というのも手ごろ で、手軽に楽しめるお化け屋敷というところだ。
この週は他に 『函館珈琲』 (2002年4月紹介『パコダテ人』を生んだ函館港イルミナシ オン映画祭のシナリオ部門で、2013年の大賞・函館市長賞を 受賞した作品。未来を夢見る人々の集う貸店舗に入居した新 人作家のお話。5月22日付で題名紹介の『海すずめ』に似て いるが…。図書館に代る古本屋は審査員の好みかな?) 『クワイ河に虹をかけた男』 (泰緬鉄道建設に関った元日本軍通訳が、タイ国の民間支援 を戦後一貫して独力で続けた姿を描いたドキュメンタリー。 政府がすべき謝罪を個人で続ける姿に頭が下がる。なお中で 紹介の“The Railway Man”は、2014年公開『レイルウェイ 運命の旅路』の原作だ。) 『オーバー・フェンス』 (2010年9月紹介『海炭市叙景』、2014年2月紹介『そこの みにて光輝く』に続く佐藤泰志原作による映画化の第3弾。 いずれも人生をやりそこなった人々を描いているが、最終章 となる本作が、中では一番未来に希望を持てるようで、少し 心がほっとした。) 『ゴーストバスターズ』“Ghostbusters” (1984年公開の大ヒット作のリメイク。物語はほぼ同じで、 ゴースト捕獲という異端の研究を続けてきた科学者たちが、 ニューヨークに蔓延るゴーストを駆逐し、街を救うまでが描 かれる。因に本作はシミュレーションによる3Dだが、巻頭 の幽霊屋敷の外観などは予想以上の3D感だった。) 『ジャニス リトル・ガール・ブルー』 “Janis: Little Girl Blue” (1970年に27歳で死去した女性シンガー、ジャニス・ジョプ リンの生涯を描いたドキュメンタリー。彼女が一躍注目を浴 びたモントレー・ポップ・フェスティバルの映像からテレビ 出演の映像、さらに妹の証言などでジョプリンの実像が浮き 彫りにされる。) 『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』 (11月に豊洲への移転が決まっている築地市場の内部を1年 を掛けて撮影した最初にして最後の公式ドキュメンタリー。 築地独自の形態とされる仲卸の姿を中心に、その存在の意味 などが語られ、日本の食文化を支えてきた築地の根本が描き 出される。) 『ジェーン』“Jane Got a Gun” (前々回紹介『セルフ/レス覚醒した記憶』と同じ2011年の The Black Listで9票を得た脚本の映画化。南北戦争に出征 して別れ別れになった男女。その女性がお尋ね者でギャング 団からも命を狙われる夫を守るために、元の恋人に助けを求 める。ナタリー・ポートマンが脚本にほれ込み、自ら製作・ 主演している。) 『アイ・ソー・ザ・ライト』“I Saw the Light” (米カントリー音楽の歴史において最も重要な人物とされる ハンク・ウィリアムスの生涯を、2011年5月紹介『マイティ ・ソー』などのトム・ヒデルストン主演で映画化した作品。 ヒデルストンは劇中の全楽曲を自分で歌っている他、エンド ロールの「ジャンバラヤ」も彼の歌唱になっている。) を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2016年07月10日(日) |
中国現代映画特集2016(3Dシネマ 京劇〜覇王別姫〜、河、少年バビロン、心迷宮) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 「中国現代映画特集2016」 小映画祭とも言えそうな上映会が上海市電影発行放映行業 協会と東京国際映画祭などの共催で行われた。開会式には、 駐日中国大使館の公使やバングラディシュから帰国したばか りの外務副大臣も参列する本格的なものだったが、会場に取 材に来ていたのは中国メディアばかりで、何故か日本のマス コミには無視されたようだ。 以下に上映された4作品を紹介する。
『3Dシネマ 京劇〜覇王別姫〜』“霸王別姫 3D” チェン・カイコー監督の1993年作品でも知られる中国京劇の 芝居を3D映像+ドルビーATMOSの音響で収録した作品。 時代は今から2200年ほど昔の秦代末期。戦乱の続く中国では 漢と楚が最後の覇権を争っていた。そんな中、楚の王宮は漢 軍に攻め立てられていたが、その防備は容易く破れず、遠征 の漢軍に疲弊の色が見え始める。 そこに漢の将軍が寝返ってきたという知らせが届く。しかも その将軍は、今こそ打って出るべきと楚の大王を説得する。 それに対し以前からの将軍たちは時期尚早と諌め、王妃も大 王を説得しようとするのだが…。 奸計に嵌った大王は王妃も伴って出陣。しかし漢軍深くに攻 め入った大王は孤立し、逆に敵軍に包囲されてしまう。そし て自国からの援軍を待つ内に徐々に戦況は悪化し、周囲から 思いもよらぬ歌声が聞こえてくる。 出演は、中国一級俳優の称号を持つ京劇スターのシャン・チ ャンロン(尚長栄)と、やはり一級俳優の称号を持つ若手の シー・イーホン(史依弘)。監督は、2010年上海万博開・閉 会式の総監督も務めたトン・ジュンジェ(滕俊杰)が担当し た。 物語は京劇の芝居そのもので、出演俳優の恋物語などはない が、京劇は演者の衣装そのものが立体的で3D映像には最適 な題材と言える。しかも本作では、セットもスタジオに組ま れた奥行きのあるもので、そこに兵士らが縦に整列している 様などは、3D感も抜群だった。 それに本作では、水墨画のような背景画もコンヴァージョン 3D化されており、正しく最新技術での3D作品と言える。 つまりこれは舞台では絶対に観られない映画ならではの作品 と言えるものなのだ。 その上に本作では、音響設計がドルビーATMOSで行われたと いうことで、実は今回上映された会場はドルビー5.1の設備 だったが、本来の音響での「四面楚歌」はどんなものだった のか、それは一度聞いてみたくなる気分だった。 本作の一般公開は予定されていないようだが、会場では表紙 が3Dの日本版パンフレットも配布されていて、これは是非 とも日本公開を期待したくなった。 以前よりシネマ歌舞伎や劇団☆新感線によるゲキ×シネなど を観て、その良さは何度も紹介してきたが、そうは言っても 3Dのこの迫力にはかなわない。日本の作品でもこのような 感覚を味わいたいものだ。
『河』“河 Gtsngbo/གཙང་པོ། ” 昨年の第28回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門にも 出品されたチベット人監督による作品。 舞台はチベット高原の片隅の草原地帯。登場するのはまだい たいけない少女とその両親。母親の胎内に次の子供が宿り、 少女は乳離れを求められている。しかしまだそれを理解でき る年齢でもない。 一方、少女の祖父は村から聖人と崇められているような人物 だが、少女の父親である息子には確執があるようだ。そんな 祖父が病となり少女と父親は河を渡って見舞に行くが、すで に村人の見舞いの行列ができていた。 その様子に何もせずに帰ってしまう父親だったが…。そんな チベット高原の片隅での出来事が、淡々とした描写で綴られ て行く。 出演は、本作で上海国際映画祭アジア新人賞最優秀女優賞を 獲得したヤンチェン・ラモと同賞男優賞にノミネートされた ルンゼン・ドルマ。監督は、カメラマン出身のソンタルジャ (松太加)のデビュー作となっている。
『少年バビロン』“少年巴比伦” 昨年の第28回東京国際映画祭アジアの未来部門にも出品され た1990年前後の近過去を回想する青春映画。 近代化が進む一方で、過去の因習も根深い工業地帯の大工場 を舞台に、工業高校は出たものの実作業は何もできない若者 と、彼が憧れの目で見つめる工場の医務室に勤める女性の姿 が描かれる。 国家の体制は異なっても若者の思いや悩みは同じなのかなあ という作品だが、観ている自分も年を経てしまうと、これが 青春と言われても何とも言えない気分で、甘酸っぱいという 感じでもなくなってしまった。 出演はトン・ツージエン(董子健)、リー・モン(李夢)。 監督は、こちらもカメラマン出身で、北京電影学院撮影学科 で講師を務めるシアン・グオチアン(相国強)のデビュー作 となっている。
『心迷宮』“心迷宮” 最初の作品と共に日本には今回初紹介となった作品。 父親の支配から抜け出そうとあがく青年。夫のDVに苦しむ 主婦。老後のための準備を怠らない村長。そんな3人を主人 公に、青年の引き起こした事件を切っ掛けに彼らの生活が混 乱して行く。 という内容説明にちょっと暗めのポスター・ヴィジュアル。 それにこのタイトルではかなり重い心理ドラマを予想した。 しかも映画が始まると、物語の時間軸や視点が次々に切り替 わるという一筋縄ではいかない展開だ。それは覚悟を決めて 映画を観始めた。 ところが観ている内にいろいろな細工が実に見事に嵌り始め る。しかも全体的には物語の流れが心地良いというか、気分 の良い作品になって行く。特に後半では嫌みのないユーモア も散りばめられ、見事なエンターテインメントなのだ。 発端には死人も出てそれはそれなりの作品ではあるのだが、 映画全体に流れる温かみのようなものが鑑賞後にも良い気分 を残してくれて、これは気持ちの良い作品だった。 但し、上手く嵌り込む分、本当にそうだったのかという疑念 は湧いてしまうもので、出来ればもう一度観て確認したくも なる作品だが、その辺は監督の術中に嵌ってしまっているの かもしれない。この監督はその辺も周到にできそうだ。 出演は、フオ・ウェイミン(霍衛民)、ワン・シャオティエ ン(王笑天)。監督は中国インディペンデント映画界の雄と されるシン・ユークン監督の長編初監督作品となっている。
『河』と『少年バビロン』は昨年の東京国際映画祭で上映さ れた作品だが、残りの2本は今年の映画祭で上映されるのか な。出来ればどちらも再見したい作品だ。特に『3Dシネマ 京劇〜覇王別姫〜』は、是非ともドルビーATMOSでの上映を 期待したい。これが実現したら、日本の3D状況も変わると 思うのだが。
この週は他に 『ロスト・バケーション』“The Shallows” (2005年9月紹介『旅するジーンズと16歳の夏』に出演後 『ゴシップガール』でブレイクしたブレイク・ライヴリーが 主演する人食いザメとの対決を描く作品。『ジョーズ』から 40周年? 小品の割にはいろいろ工夫が凝らされているが、 時間経過のサスペンスをもう少し描いて欲しかった。) 『健さん』 (一昨年亡くなった高倉健の業績を追うドキュメンタリー。 中ではマーティン・スコセッシなど海外での評価もいろいろ 語られるが、ポール・シュレイダーが語る実現しなかった企 画の話や、ジョン・ウーの演出の話は興味を惹かれた。) 『ライト/オフ』“Light Out” (明かりが消えると襲ってくる殺人鬼との対決を描くホラー 映画。殺人鬼の来歴みたいなものがいろいろあって面白い。 ただ、その設定が充分に生かし切れているか否かで、少しあ やふやな感じがした。再見して確認すべきか?) 『ONE PIECE FILM GOLD』 (原作コミックスが絶大な人気を誇る作品の、原作者自身が 総合プロデューサーを務める劇場版作品。物語は本作だけで 完結するもので、人間性を持たない悪人との対決の中で友情 などが語られる。ゲスト声優陣も豪華だ。) 『ターザン:REBORN』“The Legend of Tarzan” (6月12日付で記者会見を報告した作品の本編。エドガー・ ライス・バローズ原作の映画化だが、本作については1983年 製作、ヒュー・ハドスン監督の『グレイストーク』の続きと いう位置付が正しいと思われる。) 『蔦監督 高校野球を変えた男の真実』 (2013年11月紹介『祖谷物語』の蔦哲一郎監督が自身の祖父 である徳島池田高校野球部の蔦文也氏を取材したドキュメン タリー。親族だからこそ描ける部分も多く興味深いが、映像 の使用権の問題で一般公開は出来ないそうだ。勿体無い。) 『ダーティー・コップ』“The Trust” (ニコラス・ケイジとイライジャ・ウッドの共演による刑事 もの。偶然手に入れた情報でどんどん落ちてしまう刑事の姿 が描かれる。ケイジの役柄の描写が少し不明確な感じだが、 結局人間ってこんなものなのだろう。) を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。
| 2016年07月03日(日) |
セルフ/レス覚醒した記憶、グランド・イリュージョン 見破られたトリック |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『セルフ/レス覚醒した記憶』“Self/Less” 2012年6月紹介『白雪姫と鏡の女王』などのターセム・シン 監督が、2011年のThe Black Listで6票を得たデイヴィッド &アレックス・パスターの脚本を映画化した作品。 最初に登場するのは、事業で成功を収めた男。しかし厳格な 性格ゆえに愛する娘とは理解し合えぬままに晩年を迎え、し かも病で余命を宣告されてしまう。そんな男に1枚のメモが 届く。それは彼の精神をそのままに、健康な新たな肉体を得 られるというものだった。 その提案を受け入れた主人公は偽装された死を迎え、密かに 運ばれた研究所で新しい肉体への精神の転移が行われる。そ の肉体は試験官で作られたものと説明されていたのだが…。 主人公が与えられた薬を飲み忘れたとき、自分のものではな い記憶がよみがえり始める。 出演は、2016年1月紹介『ザ・ウォーク』などのベン・キン グスレーと、2016年3月紹介『デッドプール』などのライア ン・レイノルズ。 他に2010年7月紹介『シングルマン』などのマシュー・グー ド、2013年6月紹介『エンド・オブ・ウォッチ』などのナタ リー・マルティネス、2014年7月紹介『フライト・ゲーム』 などのミシェル・ドッカリーらが脇を固めている。 邦題の副題を観た時には、2014年3月紹介『ロボコップ』や 2012年9月紹介『ユニバーサル・ソルジャー』といった辺り を予想していた。しかし本作はどちらかというとリインカー ネイションもので、そこにこの副題はどちらかというとネタ バレになる恐れもあるものだ。 それでまあ結末もあらかた予想できてしまうのだが、本作で はそこに至る物語にいろいろ工夫があって、それは特に主人 公の心境の変化などが、巧みに描かれた作品になっている。 それもThe Black Listに選ばれた所以であろう。 また論評の中には1966年製作、1970年日本公開のジョン・フ ランケンハイマー監督作品『セコンド』のパクリと称してい るものもあったが、確かに主人公が導かれる手法などは似て いるものの、物語の本質は全く異なるものだ。そのオリジナ リティを認めないのはおかしな話だ。 レイノルズは『デッドプール』から一転の真面目な役柄で、 彼の演技も楽しめた。因にレイノルズの人格が入れ替わる作 品では、2011年に“The Change-Up”という作品があって、 さらに2016年に“Criminal”という作品が予定されていて、 3部作になるそうだ。 公開は9月1日より、TOHOシネマズシャンテ他で、全国ロー ドショウとなる。
『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』 “Now You See Me 2” イリュージョニストにして盗賊(義賊)フォー・ホースメン の活躍を描く2013年10月に紹介した作品の続編。 前作の最後で捜査陣を煙に巻いて逃走した面々は、その後は 各地に潜伏していたようだ。しかしそんな彼らに再び召集の 指令が掛かる。その標的は巨大IT企業。その新製品プレゼン テーションを乗っ取り、新製品に隠された陰謀を暴露すると いうものだ。 ところが彼らのイリュージョンが佳境になった時、さらなる 乗っ取り起き、そこにFBIも突入してホースメンは逃亡を 余儀なくされる。しかも彼らが準備した逃亡経路で辿り着い たのは、思いもよらない場所だった。それらは新たなる挑戦 者が用意したものだったのだ。 斯くして窮地に追い込まれたホースメンは、一発逆転のため のイリュージョンを仕掛けることになるが…。 出演は、前作に続いてのジェシー・アイゼンバーグ、マーク ・ラファロ、ウディ・ハレルスン、デイヴ・フランコに加え て、新たに2008年『クローバーフィールド/HAKAISHA』などの リジー・キャプランが新登場。 さらにモーガン・フリーマン、マイクル・ケインに加えて、 ダニエル・ラドクリフ、2012年11月紹介『ブラッド・ウェポ ン』などのジェイ・チョウらが脇を固めている。 製作と脚本は前作にも参加したエド・ソロモン、共同脚本で 2009年8月紹介『あなたは私の婿になる』などのピーター・ チアレッリ。また共同プロデューサーとしてイリュージョニ ストのデヴィッド・カッパーフィールドが名を連ねている。 監督は、2011年4月紹介『ジャスティン・ビーバー/ネヴァ ー・セイ・ネヴァー』などのジョン・チュウが担当した。 前回の紹介ではmagicというセリフの意味を考えたが、本作 を観ると僕の予想とは違う方向性だったようだ。でもまあ、 正直に言って前作ではちょっと退いた部分も本作で見事に解 消され、正真正銘のエンターテインメントに仕上げられてい る。さらに続編の期待ができるのも嬉しいところだ。 それにしても前作は、この続編を考慮して作られていたのか な? それくらいに見事に嵌る作品だった。しかもVFX多 用のイリュージョンは今回も華麗に決まっているが、それら が劇中で種明かしされるのも本作の見どころで、その虚構と 現実の狭間も本作の魅力と言えそうだ。 因に監修のカッパーフィールドに言わせると、本作に登場す るイリュージョンは全て現実にも実行可能とのことだが…。 いずれにしても見事なエンターテインメント作品だ。 公開は9月1日より、東京はTOHOシネマズ日本橋他で、全国 ロードショウとなる。
この週は他に 『栄光のランナー 1936ベルリン』“Race” (ナチスが主催するベルリン・オリンピックでアメリカ代表 の黒人アスリート=ジェシー・オーエンスが4冠を達成する までを描いた歴史ドラマ。ゲッペルスとブランデージの関係 なども描かれるが、映画ファン的にはレニ・リーフェンシュ タールの登場や撮影風景の再現が興味深かった。) 『大怪獣モノ』 (2013年11月紹介『地球防衛未亡人』などの河崎実監督が、 夏の怪獣映画大作に対抗して発表する新作映画。東京に突如 出現した巨大怪獣に対して巨大化された人間の若者が挑む。 僕は監督のパロディ精神が好きだが、本作はちょっと違うよ うだ。逆さまのワッペンの意味は何なのかな?) 『ゆずの葉ゆれて』 (椋鳩十児童文学賞受賞作の映画化。老いて頑なになった老 人と隣家の少年との交流が、老人の死後の出来事を織り交ぜ て描かれる。劇中「大阪万博に行こう」のポスターが時代色 を出すが、その隣にフリーダイヤルの記載はいただけない。 その辺にももう少し気を使って欲しかった。) 『グッバイ、サマー』“Microbe et Gasoil” (2007年2月紹介『恋愛睡眠のすすめ』などのミシェル・ゴ ンリー監督による自伝的青春ドラマ。落ちこぼれの少年2人 が奇抜な方法で憧れのキャンプ地を目指す。登場する移動式 の家がちょっと良いセンスで、描かれた内容のどこまで実話 かは判らないが、観ていて冒険心をくすぐられた。) 『人生は狂詩曲』“Branbanconne” (音楽大国とされるベルギーで、欧州決勝大会進出を目指す 2つのバンドの奮闘ぶりを描く。単一民族国家の日本では、 国内での民族対立などはよく判らないが。ヨーロッパの諸国 では歴史的な背景も深そうだ。でもそれを音楽に擬えて平和 的な解決を得るという展開は素晴らしい。) 『絶壁の上のトランペット』 (韓国のハン・サンヒ監督で、2010年6月紹介『最後の忠臣 蔵』などの桜庭ななみと韓国のアイドル?が共演するラブス トーリー。物語的には『ゆずの葉ゆれて』に似たところもあ るが、話しの繋がりが上手く整理されていない。ご当地もの で見せたい物が沢山あり過ぎたようだ。) 『ヤング・アダルト・ニューヨーク』“While We're Young” (2011年12月紹介『ペントハウス』などのベン・スティラー の主演で、映画製作を目指す世代の異なる2組のカップルを 描いた作品。スティラーは旧世代の代表だが、彼が例として 『グーニーズ』を挙げた際に若い世代が一斉にスマホで検索 するシーンが登場してショックを受けた。) 『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』“Un + une” (1966年『男と女』のクロード・ルルーシュ監督が、50周年 を迎えて発表した2015年の作品。オリジナルとは設定が異な るものの、思い掛けない出会いから始まる大人の恋が描かれ る。オリジナルは当時に観ているが、その時は判らなかった 部分が今回は理解できた気がした。) を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。
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