井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2016年02月28日(日) スキャナー、すれ違いのダイアリーズ、追憶の森、SUNSET STRIP

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『スキャナー』
『ALWAYS三丁目の夕日』シリーズやテレビの『相棒』なども
手掛ける古沢良太のオリジナル脚本で、人が触った物や居た
場所に残った思念を捉える特殊能力(スキャニング)を持つ
人物を主人公にした多分SFの範疇に入ると思われる作品。
物語の始まりはピアノ教師の失踪。しかし大人の失踪は警察
も取り合ってはくれない。そんな事件が芸能プロダクション
に持ち込まれる。というのも、その事務所に所属するお笑い
コンビがスキャニングを売り物にしていたからだ。
ところがその芸人は何度か飛んでもない真実を言い当てたた
めに芸が続けられなくなり、さらに極度の人間不信に陥って
いた。それでも教師の教え子だった少女の真剣な眼差しに、
遂には現場に向かってしまうのだが…。
その捜査は恐ろしい連続殺人事件へと繋がって行った。

出演は、2012年8月紹介『のぼうの城』などの狂言師の野村
萬斎と、2011年10月紹介『月光ノ仮面』などの宮迫博之。そ
れに2014年『イン・ザ・ヒーロー』などの杉咲花。
さらにジャニーズ・関ジャニ∞の安田章大、2013年12月紹介
『小さいおうち』などの木村文乃。ちすん、梶原善、風間杜
夫、高畑淳子らが脇を固めている。監督は、2011年3月紹介
『ポールダンシングボーイ★ず』などの金子修介。
野村は初めての現代劇への出演だそうだが、かなりエキセン
トリックな役柄を嫌味なく、それなりの雰囲気を醸しながら
演じている。しかも宮迫とのコンビネーションも中々に良い
感じだった。
そしてお話では、このスキャニングという能力が単純に残留
思念を読み取るだけでなく、能力を持つ者への負担やさらに
様々なトリックを絡めるなど、SFファンとして納得できる
描き方になっていた。
実際、この特殊能力にどれほどのポピュラリティがあるのか
判らないが、本作ではそのSF的な説明も巧みで、さらにこ
こからの発展形も期待できる展開になっていた。正直、続編
も期待したくなる作品だ。

公開は4月29日より、全国ロードショウとなる。
金子修介監督の作品と言うことでは、観る前には一抹の不安
もあったが、本作に関しては全く問題を感じなかった。それ
は多分脚本の良さにもあるのだろうが、それをストレートに
演出している点も好感だった。

それにしても今年は、日本映画のSF作品に次々秀作が登場
して嬉しい限りだ。

『すれ違いのダイアリーズ』“คิดถึงวิทยา”
タイの辺境で水上に建てられた小学校を舞台に、その小学校
で学ぶ生徒たちとそれぞれ曰くのある男女の教師を巡って、
極めて巧みに描かれたドラマ作品。
1人目は優秀な理系の女教師だが、信念を曲げることが嫌い
で腕に入れたタトゥーを消すことを拒否し、都会の小学校か
ら水上の分校に転勤させられる。そしてここでも貧しい家庭
の父兄と対立もするが、生徒の成績は向上させる。
2人目はあまり優秀とは言えない体育系の男教師。彼は生徒
たちの教育の方針も立てられずに初日から立ち往生するが、
そんな彼が女教師の残した日記帳を見つける。そこには彼女
が迷いながら進めた教育の記録が残されていた。
そして彼はその日記帳を手掛かりに生徒たちの教育を進めて
行くことになり、いつしかその日記を通じて彼女の存在を身
近に感じるようになって行くが…。水死体の漂着や嵐の来襲
など様々な出来事が学校を脅かす。

主演は、オーディション番組の出身でタイでトップクラスの
人気を誇り本作で映画デビューを果たしたスクリット・ウィ
セートケーオと、30作以上のテレビドラマ及び20作以上の映
画に出演し、2003年の『地球で最後のふたり』では浅野忠信
と共演したこともあるチューマーン・ブンヤサック。
監督は、2003年に大学時代の映画仲間たちと作った『フェー
ンチャンぼくの恋人』が大ヒットを記録し、タイの映画を変
えたとも言われるニティワット・タラトーン。タイ映画の今
を代表する監督の最新作だ。
水辺の建物と、異なる時間に生きる男女、そしてその2人を
繫ぐ日記帳。この流れには2006年7月にハリウッドリメイク
を紹介した『イルマーレ』を想起したが、本作は見事にファ
ンタシーではなく、ストレートなドラマが展開される。
しかしそれが時間の流れを巧みに交錯させて、これもある種
のファンタシーと言いたくなる作品に構築されていた。しか
もそこに思いもよらぬ事物が侵入してくる。その展開の見事
さは、久し振りに映画の醍醐味と言いたくなる作品だ。
それに背景となる大自然の素晴らしさ。さらに子供たちのい
たいけな姿。水上に建つ建物には2004年8月紹介『春夏秋冬
そして春』なども思い出すが、本作もまたそこでの素晴らし
いドラマが展開されていた。

公開は5月。東京はシネスイッチ銀座他で、全国順次ロード
ショウとなる。

『追憶の森』“The Sea of Trees”
2010年9月紹介『リミット』などのクリス・スパーリングの
脚本を、2011年10月紹介『永遠の僕たち』などのガス・ヴァ
ン・サント監督が、2014年11月紹介『インターステラー』な
どのマシュー・マコノヒーと、渡辺謙を主演に迎えて映画化
した人間ドラマ。
マコノヒーが演じるのは、手荷物も持たず日本にやってきた
アメリカ人の男性。何かを思い詰めたようなその男性は、そ
のまま富士山麓へと向かい青木ヶ原樹海に足を踏み入れる。
そう彼は自殺するためにこの場所にやってきたのだ。
そして自殺を思い止めさせようとする看板や、立ち入り禁止
の標識も無視して樹海の奥に歩を進めて行く。そこには樹か
らぶら下がったままの遺体や白骨化した遺体も散在し、正に
彼が求める「完全な死に場所」だった。
ところが彼が持参の薬を服用しようとした時、木々の間に日
本人の男性を発見する。そして道に迷ったというその男性に
何とか帰り道を教えようとする主人公だったが、樹海の奥深
くからは容易にその道を探すことができなかった。
こうして主人公は男性と共に樹海を彷徨うことになり、そこ
に様々な試練が襲い掛かる。さらにその間に、彼が死を思い
詰めるまでの経緯が描かれて行く。それは哀しくも美しい夫
婦愛の物語だった。

共演は、2012年9月紹介『ドリームハウス』などのナオミ・
ワッツ。物語は事実上この3人だけで進められて行く。
物語はクリス・スパーリングのオリジナルのものだが、題材
からは2005年4月紹介『樹の海』を思い出さずにはいられな
い。本作の原題も正にその通りのものだ。もちろん展開など
は異なるが、結論はある意味同じともとれる。
でもこの題材はこの結末でなければ困る訳で、この結末に至
るまでの物語の進め方が見どころと言える作品なのかもしれ
ない。その点で言えば本作の進め方は極めて納得できるもの
であった。
それにしても青木ヶ原樹海が全世界的にこれほど知れ渡って
いるとは…。因に当地での映画撮影は現在は禁止されている
はずで、そのため本作の撮影はアメリカのマサチューセッツ
で行われたようだ。

公開は4月29日より、東京はTOHOシネマズ新宿ほかで、全国
ロードショウとなる。

『SUNSET STRIPロックンロールの生誕地』“Sunset Strip”
僕の世代には、往年のテレビシリーズ『サンセット77』が
懐かしいロサンゼルスの一角を描いたドキュメンタリー。
STRIPは「脱衣が売りのショウではなくて、細い道のこと」
というのは本作の中でも解説されているから、アメリカ人に
もそんな誤解はあるのだろう。とは言うものの本作の中でも
ストリップショウの映像はふんだんに出てくるから、その誤
解も仕方ないのかもしれない。
そんなハリウッドとビバリーヒルズの間に位置する2�劼曚�
の道の歴史が描かれる。そこにはWhisky a Go Goなどの店が
立ち並び、かつてはラスヴェガスより華やかなショウタウン
としても栄えていた。
僕自身が以前は毎年夏休みにはアメリカ西海岸に行っていた
時期もあり、大抵はチャイニーズシアターの辺りの宿だった
から、そこからほど近いサンセットストリップにはよく足を
運んでいた。
もちろんエコノミー旅行者だし、夜間は危ないと言われた時
期だったから、豪華なショウスポットなどには入れなかった
が、上記のテレビシリーズの思い出の場所だけはしっかりと
観に行ったものだ。
そして本作の中では、テレビシリーズの人気者だったエド・
“クーキー”・バーンズが登場してくれたのも嬉しかった。
さらに往時の髪形を真似た出演者がトレードマークの櫛まで
取り出してくれるのだが…。
その一方で、ジョン・ベルーシやリヴァー・フェニックスの
ことなどにも言及され、それらは負の歴史としても避けては
通れないもののようだ。しかもそれがダン・エイクロイドや
ジョニー・デップらの口から聞かされるのだ。
また一方でサンセットの動乱事件なども紹介され、そこでは
ピーター・フォンダが逮捕された模様なども本人の口から語
られる。日本でも学生運動が華やかだった時代の話だが、こ
れも貴重な歴史の証言と言えるものだ。
そんなことがある種のごったまぜで綴られている作品。実は
僕は音楽には明るくないので、その方面の話題はよくは判ら
なかったが、本作のタイトルに掲げられた通りのことも歴史
的に検証されているようだ。

脚本と監督は、MOOGのハンス・フェルスタッド、製作者には
Guns N' Rosesのマット・ソーラムらが名を連ねている。
公開は4月23日より、東京は新宿シネマカリテにてモーニン
グ&レイトショウの他、全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『下衆の愛』
『君がくれたグッドライフ』“Hin und weg”
『ひそひそ星』(次回紹介の予定)
『殿、利息でござる』
『花、香る歌』“도리화가 桃李花歌”
『獣は月夜に夢を見る』“Når dyrene drømmer”
『ふきげんな過去』
『きかんしゃトーマス 探せ!!謎の海賊船と失われた宝物』
“Thomas & Friends:
         Sodor's Legend of the Lost Treasure”
『グランドフィナーレ』“Youth”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2016年02月21日(日) ドロメ、見えない目撃者、ヒメアノ〜ル、シェーン

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ドロメ 女子篇』
『ドロメ 男子篇』
『女子篇』は前々週に観たものだが、ペアで評価しなければ
いけない作品なので、今回まとめて紹介する。
物語の舞台は統合による廃校が決まった山腹に建つ男子校。
そこに春からは一緒に学ぶことになる女子高の演劇部の4人
と付き添いの女教師が合同合宿にやってくる。校舎で待つの
は3人の男子生徒と男性の顧問、それに先輩。それは統合記
念に演じられる芝居を練習するためだった。
ところが女子高生らは登り道で首無しで泥にまみれた観音像
を目にし、異様な雰囲気を感じていた。それでも一足先の共
学体験に互に興味津々のメムバーたちだったが…。やがて彼
らに様々な怪異現象が襲い掛かり、観音像や学校に隠された
謎が明らかになって行く。
というお話が『女子篇』は女子生徒の目線、『男子篇』は男
子生徒の目線で描かれ、それぞれ男女の本音も交えた物語と
なっている。

出演は、「テニスの王子様」出身で2014年公開『ぶどうのな
みだ』などの小関裕太と2015年公開『おんなのこきらい』な
どの森川葵。他に中山龍也、三浦透子、大和田健介。さらに
2012年4月紹介『『彼女について知ることのすべて』などの
長宗我部陽子、2013年7月紹介『共喰い』などの木下美咲、
『海猿』に出演の東根作寿英らが脇を固めている。
脚本と監督は、2012年3月紹介『先生を流産させる会』など
の内藤瑛亮が担当した。
最初に書いたように、この2作品は独立して試写が行われた
ものだが、実は『女子篇』を観ただけでは話が成立しない。
というか話は判るのだが、作品としては極めて物足りないも
のになっている。
それは物語のキーパースンが実は男子側の主人公であって、
彼の行動を抜きにして語られる『女子篇』ではほとんどその
状況が把握できないのだ。このため最初の試写を観た直後は
あっけに取れられたような感じだった。
しかし『男子篇』を観るとその疑問も解消し、ようやく納得
できることになった。でもそれが正しい方法かどうか、実際
に最初の試写を観た人の中には『男子篇』は観なくても良い
と判断した人も多かったようだ。
内藤瑛亮監督のホラー演出は、『男子篇』に関しては2012年
作品のときにも書いたようにそれなりに良いと思えるし、こ
れを観ないで本作は語れない。公開時にはその点での周知を
徹底する必要がありそうだ。
アイデアは面白いと思うが、『女子篇』にはもう2つ、3つ
の工夫が必要だったのではないかな?

本作は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて『女子
篇』が2月26日、『男子篇』が27日にワールドプレミアされ
た後、3月26日より東京はシネマート新宿ほかで、全国順次
ロードショウとなる。

『見えない目撃者』“我是证人”
2014年に日本公開された韓国映画『ブラインド』を、オリジ
ナルを手掛けたアン・サンフン監督が自らの手で中国を舞台
にリメイクした作品。
主人公は元婦人警官、しかし数年前の事故で失明し、その道
は閉ざされている。しかもその失明の原因が彼女自身の行動
にあって、同時に弟も失った彼女はそのトラウマにも苦しめ
られている。
そんな彼女がタクシーと思って乗り込んだのは、何か不穏な
感じもする車だった。そしてその車が事故を起こす。しかし
それを誤魔化そうとする運転手は、彼女を道端に置いたまま
走り去ってしまう。
その状況を主人公は警察に通報するが、盲目の彼女の説明は
事態の把握にはもどかしく真剣には受け止めて貰えない。と
ころがそこに目撃者と称する若者が現れ、事件は思わぬ方向
に進展するのだが…。

出演は、中国では「ドラマの女王」と呼ばれているというヤ
ン・ミーと、男性音楽グループEXO/EXO-Mでリードヴォーカ
ルを務めるルハン。
他に、2013年10月26日付「東京国際映画祭」で紹介『オルド
ス警察日記』の演技で映画祭の最優秀男優賞を受賞したワン
・ジンチェン、2012年ロウ・イエ監督『二重生活』のチュー
・ヤーウェンらが脇を固めている。
実は韓国版のオリジナルには観ている記憶があって、今回は
手元のデータを検索したのだが、何故か記録が全く残ってい
なかった。でも何となく話がごちゃごちゃしていて、あまり
良い印象ではなかったという思いもある。
そんな印象からすると本作は、話もすっきりしていて、特に
姉弟の関係や犯人の行動が理解し易く、映画に入り易かった
という感じがした。監督も同じ題材を2度目なら、それなり
に整理もされたというところかな。
と言っても僕の印象だけなので、元々こういう脚本だったの
かもしれない。
ただ後半のシーンにはもう少し暗闇感が欲しい感じもして、
その辺ではオードリー・ヘップバーン主演、テレンス・ヤン
グ監督の『暗くなるまで待って』(1967年)を思い出したりも
していたものだ。

公開は4月1日より、東京はTOHOシネマズ新宿、日本橋他で
全国順次ロードショウとなる。

『ヒメアノ〜ル』
「行け!稲中卓球部」で1996年度の講談社漫画賞を受賞した
古谷実が2008年から発表した原作を、2010年3月紹介『さん
かく』などの𠮷田恵輔監督が、ジャニーズV6の森田剛と濱
田岳を主演に向かえて映画化した作品。
濱田が演じる主人公は清掃会社のパート社員。そんな主人公
が職場の先輩から「行きつけのカフェのウェイトレスに恋を
した」と告げられる。そしてその恋のキューピットを頼まれ
た主人公は、先輩と共にそのカフェに通い始める。
そこで主人公は同じウェイトレスを見つめる男性の姿に気付
く。それは主人公の高校での同級生だった。そしてウェイト
レスからその男性が現れてから周囲で変な事が起きていると
聞かされた主人公はその相談に乗ることになるが…。
それは驚愕の事件の始まりだった。

共演は、2014年2月紹介『クジラのいた夏』などの佐津川愛
美、2009年8月紹介『大洗にも星はふるなり』などのムロツ
ヨシ。他に、2012年3月紹介『サイタマノラッパー』などの
駒木根隆介、2013年10月紹介『楽隊のうさぎ』などの山田真
歩。さらに大竹まことらが脇を固めている。
試写の後で観ていた知り合い同士で顔を見合わせ、「これは
大丈夫なのか?」と話し合った。それほどの問題作と言って
過言ではない作品。特に森田の鬼気迫る演技は、ジャニーズ
にこれが許されるのか? というほどのものだ。
因に製作者欄には藤島ジュリーK.の名前も並んでいるから、
正にジャニーズお墨付きの作品だが、これをやらせた側の勇
気も相当のものと思える作品になってる。正しく問題作と言
えるだろう。
その一方で、本作はいじめの問題も真剣に描き切っており、
その苦しみやそれが引き起こす結末に関しても、問題意識を
持って描いているように思える。それは生半可なものではな
く、正しく真剣に捉えられている。
正直に言っていじめの問題は、今までにも数多くの映画作品
で描かれてきたが、そのほとんどが興味本位というか、真に
痛みを分かち合った作品ではなかった。それが本作では過激
に描かれた分だけ、逆に深層に迫ったようにも感じた。
しかもそれがジャニーズのアイドルによって描かれている点
にも注目するべきなのだろう。これでは無関心ではいられな
くなる。この作品を世に送り出した勇気にも賛辞を贈りたい
ものだ。

公開は5月28日より、全国ロードショウとなる。

『シェーン』“Shane”
1953年製作の西部劇の名作がディジタルリマスターされ、封
切り時さながらの画質で再公開されることになった。
物語は今更紹介するまでもないかもしれないが、元から居た
牧場主の横暴に苦しむ開拓者の家に流れ者の男が現れる。そ
の男は拳銃使いのようだが、男はその拳銃を隠して一家と共
に生活を始める。
その一家はようやく辿り着いた土地で、他の開拓者たちと共
に平和に暮らしていこうとしていたが、牧場主の横暴は留ま
るところを知らず、その嫌がらせに耐えかねて土地を離れる
者も出始める。
そして遂に挑発に乗った開拓者の1人が返り撃ちで殺され、
一家の主は牧場主との妥協も考え始める。しかしシェーンに
その考えは無かった。一方、牧場主も新たに凄腕の拳銃使い
を雇い入れていた。

出演は、アラン・ラッド、ジーン・アーサー、ヴァン・ヘフ
リンと、本作で共にオスカー助演賞候補になったウォルター
・ジャック・パランスとブランドン・デ・ワイルド。製作と
監督は、1956年『ジャイアンツ』、1965年『偉大な生涯の物
語』などのジョージ・スティーヴンスが担当した。
作品は子供の頃に多分テレビで観ているが、元々ガンファイ
トの描写などが抑えられたドラマティックな作品と言う印象
だった。その印象は今回見直しても変わらなかったが、それ
以上に銃器の使用をことさら抑える展開だった。
それは論議にもなっていた主人公の行く末に関しても、見直
すと正にその場所がラストシーンだったもので、これが主人
公個人のことではなく、主人公が象徴するものに対してであ
ることも明確に理解できたものだ。
この映画が製作された当時のアメリカ国民の気持ちが、この
象徴的なラストシーンを描かせたのだとも思うが、今も日々
彼の国から届くニュースでは、未だにそれが達成されていな
いという現実にも哀しくなる思いだった。
その一方で、悪の象徴でもあった牧場主の立場に関しては、
その後に知った開拓当時の状況などを鑑みると牧場主の主張
にも多少の道理はあったもので、その辺のことが台詞として
ちゃんと描かれていることも確認できた。
それらの歴史の重みも感じることのできる作品だった。

公開は4月9日より、東京は丸の内TOEI2ほかで、全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『ヒーローマニア−生活−』
『無伴奏』
『山河ノスタルジア』“山河故人”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2016年02月14日(日) あやしい彼女、COP CAR/コップ・カー、無音の叫び声

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『あやしい彼女』
2014年に日本でも公開された韓国映画『怪しい彼女』の日本
版リメイク作品。
その写真館は商店街の一角に特別な夜だけ店を開くようだ。
飾り窓にオードリー・ヘップバーンの写真が飾られたその店
で、生活に疲れた73歳の女性がポートレートを撮影した時、
彼女は20歳の姿になる。
そして最初こそ自分の変身に気付かず頓珍漢な行動を始めた
女性は、やがてその変化を楽しみ、辛かった人生を取り戻す
べく活動を開始するが…。そこにミュージシャンを目指す孫
や音楽プロデューサーが絡んで物語が展開される。

出演は、2006年6月紹介『夜のピクニック』などの多部未華
子、2010年8月紹介『マザーウォーター』などの小林聡美、
2013年6月紹介『タイム スクープ ハンター』などの要潤。
他に倍賞美津子、金井克子、温水洋一、志賀廣太郎と2013年
8月紹介『陽だまりの彼女』で主人公の中学生時代を演じた
北村匠海らが脇を固めている。
監督は、2008年9月紹介『252生存者あり』などの水田伸
生、脚本は2013年の大河ドラマ『八重の桜』などの吉澤智子
が担当した。
主演の多部は2005年4月紹介『HINOKIO』以来注目し
ている女優だが、その後の作品では監督の力もあるのだろう
けど今一つ力量が発揮できていない感じで、観ていて歯痒い
思いがしていた。
しかし本作では、周囲に倍賞、小林といったベテランがいた
お蔭もあるのだろうが、素晴らしい演技が展開されている。
特に台詞廻しには正に73歳→20歳の雰囲気が出ており、本人
は苦手だとする歌唱シーンも併せて見事だった。
そしてその歌唱では数々の昭和歌謡が披露されるのだが、実
は韓国版のオリジナルは、試写は観たが紹介をしなかったも
ので、それは登場する歌に思い入れがなかったせいもある。
それが本作では見事に嵌ってしまった。
正直に言って僕自身の暮らしは本作の主人公ほど悲惨ではな
かったが、登場する再現シーンには思い出も重なって、見事
に涙腺を刺激されてしまったものだ。そのシーンの多部の演
技も昭和映画風で的確だったと思う。
それは若いスタッフにはパロディの気分かもしれないが、当
時を知る人間には見事な再現だった。
因に2014年の韓国映画は、すでに中国でのリメイクがされて
大ヒットを記録したとのこと、さらにタイ、インドネシア、
インド、ドイツでの製作準備も進んでいるとのことで、それ
ぞれの国で思い出が語られることになるようだ。

公開は4月1日(エイプリルフール)の日から、全国一斉の
ロードショウとなる。

『COP CAR/コップ・カー』“Cop Car”
2017年公開予定“Spider-Man”新シリーズに起用が決まって
いるというジョン・ワッツの脚本・監督で、2013年8月紹介
『ゴースト・エージェント』などのケヴィン・ベーコンが主
演と製作総指揮も買って出た警官ドラマ。
物語の始まりは2人の少年。2人は家出と称して緑の草原を
駆け抜け、雑木林の中に停車した無人のコップ・カーに遭遇
する。そして最初は恐る恐る接近した2人は遂に乗り込み、
マリオカートの要領でコップ・カーを走らせ始める。それが
とんでもない事件に繋がって行く。

共演は、少年役に本作が映画デビューのジェームズ・フリー
ドスン=ジャクスンと、昨年“Carver”というホラー作品に
主演し本作が2作目のヘイズ・ウェルフォード。
他に、2005年のハリウッドリメイク『ダーク・ウォーター』
に出演のカムリン・マンハイム、2014年7月紹介『フライト
・ゲーム』に出演のシェー・ウィカムらが脇を固めている。
脚本・監督のワッツは2010年に“Clown”と題されたホラー
映画の模造予告編を制作、それが2011年7月紹介『ラスト・
エクソシズム』などのイーライ・ロスに注目され、その予告
編に基づく本編で2014年に監督デビュー。
そして本作が長編第2作だが、さらに本作で評価されて人気
シリーズへの抜擢だそうだ。
因に脚本は“Clown”からの盟友であるクリストファー・D
・フォードとの共同だが、そのフォードは2013年5月紹介の
ロボットテーマ作品『素敵な相棒』の共同脚本も手掛けてお
り、こちらも注目だ。
物語の展開には少年の成長の要素もあり、そこに漂う雰囲気
にはシティ―ヴン・キング原作『スタンド・バイ・ミー』の
趣もあるかな。勿論1987年の映画化ほどの大作ではないが、
目指している感覚には通じるところもありそうだ。
そんなところが人気シリーズへの抜擢の理由かな? それに
してもホラーからアクションへ、そしてアメコミへの三段跳
びは見事なものだが、実は本作の前半にはちょっとした仕掛
けがあって、僕はそれも気に入った。
それは映画ファンには常套の手法を捻ったもので、本来なら
別の展開を予想するところを見事にひっくり返されたもの。
こんな感覚がアメコミ作品に取り入れられたら、それも凄い
ことになる。
2017年の作品にも期待が集まるところだ。

公開は4月9日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で、全国順次ロードショウとなる。

『無音の叫び声』
1986年日本農民文学賞から、2003年現代詩人賞、2009年丸山
薫賞など、数多くの受賞に輝く農民詩人・木村廸夫を追った
ドキュメンタリー作品。
1935年生まれの詩人は貧しい小作農家の長男だった。そして
戦後の農地改革で自作農となるが、その耕地は6反足らずと
僅かだったために出稼ぎなどで生計を立てる。しかし我が子
に乞われて出稼ぎをやめ、地元で廃品回収などを始める。
そんな近代日本の最底辺で生き抜いてきた詩人は、60年間で
16冊に及ぶ詩集を世に出し、数々の受賞にも輝く。それらは
一貫して世の中の矛盾を突くものであり、反戦詩人とも呼ば
れるものだ。
そしてその一方で詩人は衰え行く農村を憂い、三里塚闘争の
記録などで有名な小川プロダクションを自宅に招いて村の記
録を残したり、遺骨収集団に参加して太平洋の激戦地だった
ウエーキ島に降り立ったりもする。
そんな詩人の姿を通して、戦後日本の歩みが問い直される。

監督の原村政樹は1957年生まれ、フリー助監督を経て1988年
にドキュメンタリー制作会社の桜映画社に入社。2004年制作
の『海女のリャンさん』でキネマ旬報文化映画ベストテンの
第1位に選ばれるなど、こちらも数々の受賞に輝いている。
そんな原村は多くの農村・農民を描いたドキュメンタリーも
手掛けており、その監督の目が本作では詩人を通じて農村を
描くことにも成功している。それは日本の原風景とも言える
もので、僕はその風景にも魅了される作品だった。
その他にも、どれだけ多くの素晴らしいものを戦後の日本は
失ってしまったことか、そんなことも問い掛けられているよ
うな感じもした。作品の主題は詩人であるけれど、それ以上
のものを本作は描いている。

本作は昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭にて公式上映
が行われたもので、一般公開は1月23日よりフォーラム山形
と3月5日よりフォーラム東根で山形県先行上映の後、東京
はポレポレ東中野にて4月9日から、さらに全国順次上映が
予定されている。

この週は他に
『つむぐもの』
『マジカル・ガール』“Magical Girl”
『But・オンリー・ラヴ』
『劇場版 探偵オペラ ミルキィホームズ
               逆襲のミルキィホームズ』
『エスコバル/楽園の掟』“Escobar: Paradise Lost”
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2016年02月07日(日) あやつり糸の世界、蜜のあわれ、砂上の法廷、桜の樹の下

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『あやつり糸の世界』“Welt am Draht”
1962年のHugo賞候補者であるアメリカのSF作家ダニエル・
F・ガロイが1964年に発表した“Simulacron-3”を、1978年
『マリア・ブラウンの結婚』でニュー・ジャーマン・シネマ
の旗手と呼ばれるようになるライナー・ヴェルナー・ファス
ビンダーが、それ以前の1973年に監督した作品。
物語の背景となるのは情報科学の研究所。そこでは大型のコ
ンピュータを用いたシミュレーション実験が行われていた。
それはコンピュータ内に独自に思考するようプログラムされ
た数千のキャラクターが行動する世界を構築し、そこに任意
の条件を与えることで未来予測を行う研究だった。
ところがその装置の完成間際に開発の中心にいた研究者が事
故で死亡、主人公はその後釜として開発を進めることになる
のだが…。そんな主人公に研究者の死は事故ではないとの噂
がもたらされ、さらにその情報源の人物が突然消失、しかも
その存在を誰も記憶していないという事態が生じる。
果たしてその研究の真の目的とは? そこに死亡した研究者
の娘や、政府の研究機関と私企業との癒着などの問題を錯綜
させながら物語は展開されて行く。

主演は、後にハリウッド映画に進出してサム・ペキンパー監
督の『戦争のはらわた』や、クリント・イーストウッド監督
の『ファイヤー・フォックス』などにも出演するクラウス・
レーヴィチュ。
共演は、フォトモデル出身で現在はアメリカ在住で翻訳者を
しているというマーシャ・ラベン。1980年代にはフレディ・
マーキュリーの恋人としてクィーンのPVなどにも出演した
バーバラ・ヴァレンティン。
さらに1965年ジャン=リュック・ゴダール監督の『アルファ
ビル』で主人公のレミー・コーションを演じたエディ・コン
スタンティーヌらが出演している。
同じ原作からは1999年にローランド・エメリッヒ製作による
『13F』という作品も作られているが、エメリッヒ特有の
外連に満ちた作品に対して本作はいたってオーソドックス、
より原作に近いものと思われる。
因にガロイの原作は、『構造世界』の邦題で翻訳もあるよう
だが、今回はチェックできなかった。
その原作から本作は、1973年に当時の西ドイツのテレビ局で
番組として16�仞什遒気譴燭發里如⊇召辰禿�時も数か国で放
送されたものの劇場公開はなく、そのまま幻の作品となって
いた。
その作品がディジタルリマスターされて劇場公開されるもの
だ。なお公開は第1部1時間45分と第2部1時間47分という
2部構成、合計3時間32分の堂々たる作品になっている。
それにしても本作は、正にバーチャルリアリティの嚆矢と言
える作品で、1973年当時にこのような作品が作られたという
事実に敬意を表したい。
それは原作があるとは言え、映画内での説明も巧みで物語へ
の織り込みも見事なもの。それが『マトリックス』の25年も
前に作られていたのだ。正にSF映画史でも特筆すべき作品
だと言える。
この作品を観られることに感謝をしたい。

公開は3月より、東京は渋谷ユーロスペース他で、全国順次
ロードショウとなる。

『蜜のあわれ』
「ふるさとは遠きにありて思ふもの」などの詩句でも知られ
る作家の室生犀星が、その晩年の1959年に発表した小説『蜜
のあはれ』を、2013年5月紹介『シャニダールの花』などの
石井岳龍監督が映画化した作品。
物語の舞台は池のある庭に面した和室。そこで初老の男と赤
いドレスの若い女性が戯れている。やがて女性は外出すると
言い出し夕方になって帰ってくるが、ネコに追われて尾びれ
が裂けたと言う。その女性は作家の飼う金魚だったのだ。
そんな老作家と金魚の睦言のようなやり取りと、やがて登場
する作家に恋い焦がれた女性の幽霊。さらには金魚を老作家
に託した金魚売りなどが、少し淫靡でかなりシュールな物語
を綴って行く。

主演は、2012年6月紹介『王様とボク』などの二階堂ふみと
2013年3月紹介『モンスター』などの大杉漣。共演に2013年
12月紹介『ゲノムハザード』などの真木よう子、2010年12月
紹介『毎日かあさん』などの永瀬正敏。
また、2010年1月紹介『ソラニン』などの高良健吾が面白い
役柄で登場の他、韓英恵、上田耕一、渋川清彦、岩井堂聖子
らが脇を固めている。
原作は最終章を除いて全編会話体のみで構成されるという、
かなり前衛的な作品だそうだが、それが執筆されたのは作家
70歳の年。しかもこの内容というのは…。正に恐るべき老年
という感じのものだ。
ただし作家は、1956年に日本でも上映されたアルベール・ラ
モリス監督の抒情的な短編映画『赤い風船』を高く評価して
いたという経緯もあるそうで、そのことを併せると作品への
見方も多少変わってくることになりそうだ。
奔放に行動する金魚=赤いドレスの女性と、大空を自由に動
き回る赤い風船、そこには多くの重なり合う部分も存在して
いる。映画ファンならそんなことも考えながら見るべき作品
なのかもしれない。
そしてこの奔放に行動する若い女性を二階堂ふみが熱演して
いる。さらにそこには奇妙なダンスも織り込まれるのだが、
実は本作には振付師は付いておらず、この踊りは二階堂の即
興なのだそうだ。
因に二階堂は沖縄出身だが、2011年10月紹介『指輪をはめた
い』にもあったようにフィギュアスケートの素養もあるよう
で、足腰の強さとそれなりのセンスは備えているようだ。こ
れも本作の見ものと言える。

公開は4月1日より、東京は新宿バルト9ほかで全国ロード
ショウとなる。

『砂上の法廷』“The Whole Truth”
1999年にロビン・ウィリアムス主演で映画化された『アンド
リューNDR114』や2002年11月紹介『イナフ』などのニコラス
・カザンの脚本、2009年12月紹介『フローズン・リバー』の
コートニー・ハントの監督で、キアヌ・リーヴスが弁護士を
演じる法廷ドラマ。
事件は息子による父親殺し。敏腕な弁護士であった被害者は
主人公とも親交があり、被害者の妻である加害者の母親から
息子の弁護を頼まれたのだ。しかし息子は頑なに口を噤んだ
ままで、弁護する糸口も見つからない状態だった。
そこで主人公は「人間うそ発見器」の異名を持つ若い女性弁
護士を助手に起用する。彼女は相手の表情や仕草などから嘘
を見抜き、さらにその背景まで推理する能力にたけていた。
そして裁判が始まるが…。
検察側からは次々に被告人が殺したとする証拠が提出され、
一言も話さない被告人には情状酌量の余地もなく、被告人は
絶対不利なまま裁判は進行してしまう。果たして主人公には
一発逆転の手立てはあるのか?

共演は、2007年6月紹介『ミス・ポター』などのルネ・ゼル
ウィガー、2015年3月紹介『ジュピター』に出ていたという
ググ・バサ=ロー、2011年6月紹介『スーパー8』に出てい
たというガブリエル・バッソ。
脚本のカザンは『エデンの東』などの名匠エリア・カザンの
息子で、1991年の『運命の逆転』ではオスカー脚色賞の候補
にもなっている。一方、監督の2009年作も極めて過酷な状況
を描く中で、見事な人情味を感じさせてくれた作品だ。
そんな2人のコンビネーションだが、正直に言って結末には
かなりの衝撃を受けた。でもそれが嫌な感じにはならない。
その辺がこの2人の力量なのだろうし、さらにキアヌの人柄
というか、醸し出す雰囲気のような感じもした。
実際に試写室を出るとき周囲の人の多くがニコニコしていた
ことを特記しておきたい。そんな雰囲気の作品だ。

公開は3月より、東京はTOHOシネマズシャンテほかで、全国
順次ロードショウとなる。

『桜の樹の下』
川崎市宮前区にある市営野川西団地に住む人々の姿を追った
ドキュメンタリー。昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭
日本プログラムに正式出品され、多くの観客から高い評価を
受けたという作品。
団地は1973年に建設され、京浜工業地帯の真ん中に位置する
川崎市で高度成長期の日本を支える労働者が暮らしてきた。
しかしその役割はすでに終り、現在の居住者は約350世帯、
特定の条件を満たす住宅困窮者で、多くは高齢者の単身者が
市からの援助を受けて暮らしている。
そんな中に取材のカメラが入り、人々の日々の暮らしを写し
て行く。
そこには、夫を亡くして愛鳥と共に年金で暮らしていたが、
その鳥も死んで以後は近くの老人の世話を焼くようなる女性
や、ごみ屋敷のような部屋で暮らし、先の女性に世話を焼か
れながらも反発もする女性。
さらには視力の減退で障害者年金で暮らす男性や、満州から
の引揚者で企業にも務めたが身体を壊し、それでも若い頃に
関ったセミプロ劇団の仲間の励ましで再び脚本を書き始めよ
うとする男性などが登場する。

それらが1987年神奈川県出身、2013年日本映画学校(現・日
本映画大学)卒業、商業作品は本作が初めてという若い女性
監督・田中圭の目を通して綴られて行く。
試写の後で監督と少し話をしたが、本作では被写体を見つめ
る監督の目がものすごく優しくて、それは観ていても心が和
らぐというか、観ているだけでその情愛が伝わってくるよう
な作品だった。
しかしその一方で、本当にこれでいいのかという不安にも襲
われた。それは監督自身が映画製作の傍ら訪問介護の仕事も
しているという背景にも起因するのだろうが、作中で介護に
近いことをしている監督の姿に余計に心配にもなった。
試写の後の話では、取材は続けている風な口ぶりだったが、
出来れば一旦は別の題材に向って少し距離を置くことも考え
て欲しい。勿論この取材を続けることは構わないが、余りの
めり込むと自身を失ってしまいそうだ。
その意味で監督には、別の題材の次作も期待したいものだ。

公開は4月2日より、東京はポレポレ東中野ほかで全国順次
上映となる。
なおこの題名には、坂口安吾や梶井基次郎をふと思い浮かべ
たが、監督にそれは伝えなかった。今さら問題にすることで
はないだろう。


この週は他に
『人生は小説よりも奇なり』“Love Is Strange”
『僕だけがいない街』
『スポットライト 世紀のスクープ』“Spotlight”
『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』
                 “The Eichmann Show”
『スイートハート・チョコレート』“甜心巧克力”
『偉大なるマルグリット』“Marguerite”
『もしも建物が話せたら』“Cathedrals of Culture”
『ザ・ブリザード』“The Finest Hours”
『ドロメ 女子篇』
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二