井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2014年12月28日(日) クレヴァニ愛のトンネル、余命90分の男

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『クレヴァニ、愛のトンネル』
2011年9月に『カリーナの林檎〜チェルノブイリの森〜』を
紹介した今関あきよし監督の新作。
物語の始まりは20年前、新任の高校教師だった主人公は教え
子との禁断の恋に陥る。しかしその恋は報われず、教師の道
も外れた主人公は、今では町の工場でひとり働いていた。
そんな主人公は、教え子が伝えた「愛のトンネル」のことを
思い続けていた。ウクライナにあるそのトンネルは、一日に
一本だけ通るという列車に遭遇すると、愛の奇跡が起きると
信じられていたが…
お話は有りがちなものだが、現地ロケされたトンネルの風景
が美しく、また随所にSFやファンタシーに理解のある監督
の「らしさ」もあって、観ている間は存分に楽しめた。
ただSF/ファンタシーに拘っている分、多少説明的な描写
が多くなってるかな。それは僕らには納得できて満足だが、
一般の観客には却って判り難くしてしまう面もあるようだ。
これがSF映画のディレンマだと僕は思っているところだ。

出演は2013年11月紹介『赤々煉恋』に出ていた小山田将と、
今年8月公開『思春期ごっこ』などの未来穂香。実は未来の
作品は6月に試写を観たが、僕が紹介する類の作品ではない
と思い割愛していた。
他に、板尾創路らが脇を固めている。
前作は、ウクライナの北部地域を舞台にした作品だったが、
本作の舞台はウクライナの西部。Google地図で確認すると、
首都キエフの真北に位置する原発事故現場に対して、本作の
舞台は首都から真西に約350�劼竜�離のようだ。
そこでどのような経緯からこの作品のアイデアが生まれたの
かは不明だが、正に10年前の置き土産がここに開花したよう
な作品だ。10年掛かった『カリーナの林檎』の公開の後で、
重荷を降ろしたような作品かも知れない。

公開は2015年2月21日から、東京は新宿K's cinemaでレイト
ロードショウが予定されている。
なお今回の記事を書くに当って『カリーナの林檎』のことを
調べていたら、今関監督とイラストレーター水野歌の共同監
督による『SACRIFICE〜水の中のカリーナ〜』という11分の
アニメーション作品に行きついた。
作品はチェルノブイリで撮影された無人の街の風景に人物を
アニメーションで合成したもので、正に『カリーナの林檎』
の続編になっている。作品はYoutubeにもアップされている
ので、興味のある方はご覧になってください。

『余命90分の男』“The Angriest Man in Brooklyn”
8月に亡くなったオスカー俳優ロビン・ウィリアムスの最後
の主演作とされる2014年の作品。なお出演はこの後に、3作
に亙ってセオドア・ルーズベルト大統領を演じた“Night at
the Museum: Secret of the Tomb”が控えているようだ。
元々は1997年に発表された“The 92 Minutes of Mr. Baum”
というイスラエル映画があるようで、本作はそのハリウッド
リメイクとなる。その物語の主人公はニューヨークに暮らす
1人の男性。そこそこの地位にあるようだが、頭に血が昇り
やすい性格で周囲からは疎まれているようだ。
そんな男が人生最悪の日を迎える。病院で自分が不治の病と
知らされたのだ。その宣告に男の怒りは爆発し診断した女医
に食って掛かる。ところがその女医も苛々の最中で、思わず
「余命は90分」と告げてしまうのだが…
怒り心頭のまま街に飛び出した男は「怒りは余命を縮める」
という女医の最後の言葉にふと我に返り、今まで怒りをぶつ
けてきた家族や関ってきた人々に償いをしようと思い立つ。
しかしそれは簡単には受け入れて貰えないことだった。
その頃、冷静に戻った女医は自分の発言の重大さに気付き、
男性を保護しようと奔走し始める。そこに思い掛けない様々
な出来事が絡まり合い、正しくハートフルな物語が展開され
て行く。

共演は、2014年3月紹介『サード・パーソン』などのミラ・
クニス。女優は本作の製作総指揮も務めている。
他に、2001年11月4日付の「特集:東京国際映画祭」で紹介
した『ヒューマンネイチュア』に出ていたというピーター・
ディンクレイジ、2013年4月紹介『オブリビオン』などのメ
リッサ・レオ。さらにジェームズ・アール・ジョーンズらが
脇を固めている。
監督は、2002年6月紹介『トータル・フィアーズ』や1989年
『フィールド・オブ・ドリームス』などのフィル・アルデン
・ロビンスンが担当した。
ウィリアムスの死は鬱病を患っていたとの情報もあり、自死
という報道もあったようだが、本作はそんな状況を予感させ
る題名というのも悲しいところだ。しかし映画は名優の見事
な演技に支えられたもので、クニスが製作総指揮で共演を望
んだのも判り気のする作品だった。

2015年1月〜2月にヒューマントラストシネマ渋谷で開催の
「未体験ゾーンの映画たち2015」にて上映予定の作品。この
映画祭では、今回も49本の観たこともない映画が上映される
ようだ。



2014年12月21日(日) 女神は二度微笑む

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『女神は二度微笑む』“कहानी”
2012年9月に『カハーニー/物語』という原題のまま紹介し
たインド映画の一般公開が決定、上記の邦題が決まった。
実は試写状には2012年に上映されたことの案内がなく、僕は
同じ映画と気付かずに2度観をしてしまった。しかも冒頭の
1シーンでそれに気が付いたもので、そのくらいに印象の深
い作品だ。ところが2度観するといろいろ細かいところにも
鑑賞が深まり、これは2度観する価値のある作品だった。
その冒頭のシーンは、1995年の「地下鉄サリン事件」を思わ
せるコルカタの地下鉄を襲う毒ガステロ。その多数の死者を
出した事件の2年後から本編の物語は始まる。
英国発の航空機で臨月間近と思わせる1人の女性がコルカタ
の空港に降り立つ。そこでタクシーに乗り込んだ女性が指示
した行先は、観光スポットでもなく、ホテルでもなく、下町
の警察署だった。そして女性は1か月前から行方不明の夫の
捜索を依頼する。
IT技術者の夫は1か月前にロンドンから短期出張で当地を
訪れたはずなのだが、突然その音信が途絶えたのだという。
そして、彼女が臨月間近で行き渋る夫を無理やり渡航させた
事実を告げ、理由もなく音信が途絶えるはずがなく、事件に
巻き込まれた可能性を示唆する。
しかし彼女の訴えにも事件性を確認できない警察は、若い警
官を1人付けて彼女を宿に送らせるのだが、そこで夫が宿泊
していたはずの安宿にも、夫が勤務したはずの会社にもその
痕跡がなく、しかも夫が残したスナップ写真の顔が2年前の
テロ事件の首謀者に似ていることが判明する。
果たして夫はその首謀者と間違われて消されたのか、さらに
夫の跡を追う彼女と接触した人物が次々に殺され始める。
インド映画ではあるけれど歌も踊りもない作品。しかし2時
間3分の上映時間では、たっぷりとしたミステリーとサスペ
ンスが描かれる。しかも構成が緻密で、最後に全ての謎がぴ
たりと収まる展開には、久々に物語の醍醐味も感じられた。

主演は、本作でインドのアカデミー賞とも呼ばれるフィルム
フェア賞の主演女優部門に輝いたヴィディヤー・バーラン。
その脇を東京国際映画祭で上映された『オプーのうた』など
のパラムプラト・チャテルジー、日本公開された『めぐり逢
わせのお弁当』などのナワーズッディーン・シッダルディー
キーらが固めている。
物語の原案・脚本と監督は、本作でフィルムフェア賞の監督
部門を受賞したスジョイ・ゴーシュ。因に監督の次回作は、
日本映画『容疑者Xの献身』のインド版リメイクだそうだ。
一方、本作にはハリウッドリメイクも計画されている。
映画鑑賞において結末を知ってみることの是非はいろいろと
言われているが、本作の場合は結末を知っていたら面白さは
半減するだろう。しかしその結末を知った上で観かえすと、
その面白さが倍加することも事実と言える。
特に回想シーンと現在との綾なす巧みさは、主人公の女性の
ここに至るまでの心情を浮き彫りにし、彼女のそれまでの思
いを考えると、これは堪らなくいとおしい作品にも思えてく
る。そんな感想は1度観ただけでは浮かばなかったものだ。

公開は2015年2月21日より東京渋谷のユーロスペースにて、
以後全国順次ロードショウとなる。



2014年12月14日(日) [●REC]⁴ ワールドエンド

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『[●REC]⁴ ワールドエンド』“[●REC]⁴:Apocalipsis”
2008年3月、2009年10月、2012年3月と紹介してきたスペイ
ン製ホラーシリーズの最新作。
登場するのは第1作、第2作で唯一の生き残りとされる女性
レポーターと2人の救命隊員。汚染されたアパートから辛く
も脱出した3人は、謎の組織がチャーターした洋上の客船に
隔離されていた。
さらにその船にはもう1人、第3作の結婚式場から救出され
た老女もいて、彼らは組織が派遣した研究者によって徹底的
の調査されているようだ。その結果は全員が事件を引き起こ
したウィルスに対して陰性とされたが…。
一方、その船には引退間近の船長と真面目な操舵士、それに
電子機器オタクの通信士、さらに機関士とコックが乗り組ん
でいたが、外部との通信はチャーターした連中に規制され、
さらに救命艇の使用も禁止されていた。
果たして研究者たちが追及しているウィルスの正体とは…? 
謎は女性レポーターが写したヴィデオカメラの映像に隠され
ていた。そして3度目のウィルスの脅威が脱出不能の船内に
襲い掛かる。

監督は第1作、第2作で共同監督の片割れだったジャウマ・
バラゲロ。パラゲロは脚本も第2作のマヌー・ディアスと共
に手掛けている。そして前作の監督パコ・プラサが本作では
クリエイティヴ・プロデューサーになっている。
また、ストーリーボードは本作もJun Matsuuraが担当してい
たようだ
出演は、第1作、第2作にも登場のマヌエラ・ヴェラスコ。
それに全4作に出ている?というハヴィエル・ボテト。他に
2007年2月紹介『ボルベール<帰郷>』に出ていたというマリ
ア・アルフォンサ・ロッソらが脇を固めている。
因に最初の2人以外で前作からの継続とされるキャラクター
は同じではないようだ。
第1作と第2作はソリッドシチュエーション&POVの傑作
として僕は高く評価している。それが第3作では、舞台も形
態も変えておやおや?と思わせたが、その訳が本作で成程と
思わせる。これはかなり周到に練られた作戦だったようだ。
ただ本作は最終話とされているものだが、これで本当に物語
は終りなのかな? 何となく次があってもおかしくない結末
で、数年後にまた続きが作られるような感じもした。因に監
督は新企画の準備に入っているそうだが。

公開は1月31日から。東京は新宿武蔵野館、シネマサンシャ
イン池袋他で、全国順次ロードショウとなる。



2014年12月07日(日) 宇宙戦艦ヤマト2199星巡る方舟、ホビット・決戦のゆくえ、ヴァチカン美術館4K3D天国への入口

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『宇宙戦艦ヤマト2199星巡る方舟』
2012年3月に第1章のみ紹介したアニメシリーズのリメイク
版『宇宙戦艦ヤマト2199』から派生した新作アニメ作品。
リメイク版の経緯については前回紹介しているが、その後の
公開作品については試写が行われなかったので、僕には観る
機会がなかった。ついでに言うとオリジナルのシリーズにつ
いても前回書いたようにほとんど観ていないので、本作の背
景となる展開はほとんど知らないものだ。
そういう目で観ていると、お話の一部はシリーズに基づくの
で理解しづらい部分もあるが、その辺はそれなりに劇中の説
明もあるので何とか背景は理解できているつもりだ。そして
本作ではイスカンダル星から地球への帰還航行中の出来事が
描かれる。
宿敵ガミラス軍とは休戦がなされたようだが、残党の中には
上官を戦闘で失うなどで宇宙戦艦ヤマトを仇敵と考える者も
おり、そんな連中はヤマトに一矢を報いようと考えている。
またそこにはガミラス軍に敵対する別の勢力もいて、そんな
三つ巴の中で話は進む。
目的の品〈コスモリバースシステム〉を受領し銀河への帰還
のため大マゼラン星雲外縁部を航行中のヤマトを、突如謎の
機動部隊が襲う。その部隊はガミラスとも敵対する戦闘民族
のもので、彼らはヤマトが搭載する究極の兵器〈波動砲〉を
狙っていた。
これに対してヤマトはその兵器の使用が許されず、捨て身の
ワープで異空間に迷い込む。さらに操縦を支配されたヤマト
はその空間に浮かぶ惑星に引き寄せられる。そこでヤマトは
艦体の修復を開始、同時に惑星の探索を行うことになるが…
そこには先に到着したガミラスの兵士たちもいた。
この謎の異空間というのが、SFファンなら大体想像の付く
ところで、そんな背景の中でこれもまあSFなら有り勝ちな
物語が展開して行く。それは日本アニメのファン的にはどの
ようは評価になるかは判らないが、SFファンの眼からする
とそれなりに納得もできるし悪くない物語だった。
それにシリーズを観ていないと判りにくい人物関係も、本作
では本来のものと切り離して設定されていたようで、それは
シリーズを知っていればもっと深いのかもしれないが、これ
だけ観ていてもさほど違和感もなく了解できるものになって
いた。
ただ、本当ならここから発展して新たなシリーズが始まるの
かという期待も持っていたが、地球への帰投中のエピソード
ではそれを始める訳にもいかないもので、その辺は仕方ない
のかな。出来ることならこの先で〈宇宙戦艦ヤマト〉という
設定を生かした新シリーズの展開も期待したいものだ。

公開は昨日12月6日から、全国ロードショウになっている。

『ホビット・決戦のゆくえ』
     “The Hobbit: The Battle of the Five Armies”
2013年12月紹介『ホビット・竜に奪われた王国』の続きで、
ピーター・ジャクスン監督による3部作の最終編。
物語は完全に前作の続きで、映画は炎をまき散らすスマウグ
が湖に浮かぶ島を襲っているシーンから開幕する。そしてそ
の戦いを生き延びた島民は対岸の山の砦へと向かうのだが、
そこで彼らは、竜の財宝を巡るドワーフ、エルフ、オークら
の戦いに巻き込まれることになる。
本作の上映時間は2時間24分、これはジャクスンが制作した
「中つ国」の物語6作の中では最も短いものだが、その中で
本作では実に45分の戦闘シーンが描かれているのだそうだ。
実際に映画は巻頭のスマウグとの闘いに始まり、後半では竜
の財宝を巡る戦いが執拗に描かれる。
つまりこれが現在の映画ファンに最も好まれる展開と監督ら
が判断した物語と言うことなのだろうが、2004年の米アカデ
ミー賞で11部門を独占した『LOTR:王の帰還』とはずいぶん
味わいの違う終り方になっていた。もっとも本作はこの後に
『LOTR』の3部作が続くから終わりではないのだが。
ただ個人的な意見を言わせてもらえれば、やはりサウロンの
誕生はもっと明白に描いて欲しかったかな。前作に登場した
ネクロマンサーがサウロンになることは知られており、本作
の中でもその台頭を警告するガンダルフの発言などは聞かれ
るが、何か納得させてくれるものが欠けていた気がする。
それにイアン・ホルムの登場は嬉しかったが、ヴィゴ・モー
テンセンも出てきて欲しかった感じもした。本作の終盤では
レゴラスがストライダー=アラゴルンの探索を命じられてい
るが、その間のアラゴルンの冒険も観てみたかった。それに
してもこの時点でアラゴルンて何歳なんだろう?

出演は、イアン・マッケラン、マーティン・フリーマン、リ
チャード・アーミティッジ、オーランド・ブルーム。
他にケイト・ブランシェット、エヴァンジェリン・リリー、
ルーク・エヴァンス、ベネディクト・カンバーバッチ。さら
にクリストファー・リー、ヒューゴ・ウィーヴィングらが脇
を固めている。
公開は12月13日から、3D/2D、IMAX3D、HFR3Dで
全国一斉ロードショウとなる。
上記の理由で、「中つ国」の物語がこれで終わりになるとは
思えない。最後のシーンは『LOTR』に直結になってしまった
が、番外編としてアラゴルンの冒険とサウロンの誕生は改め
て描いて欲しいと思うものだ。それにレゴラスには若返りの
処理を施して欲しいかな。

いずれにしても、6部作を改めて通しで観たいという気分に
もさせられた。

『ヴァチカン美術館4K3D天国への入口』
              “The Vatican Museums 3D”
キリスト教の総本山、ローマ・ヴァチカン市国にある公式の
美術館が、自ら制作に当たった美術品鑑賞のためのドキュメ
ンタリー作品。
映画ではヴァチカン美術館館長のアントニオ・パオルッチ氏
が自ら登場し、美術館の歴史や所蔵された美術品の解説を繰
り広げる。その解説に合わせて個々の作品が3D映像で映し
出されるものだ。
それは作品が彫刻であればその立体感が最大限に発揮され、
しかも普通では観ることのできない位置にまで3Dカメラが
迫ってその迫力も再現する。そこでは例えばミケランジェロ
の「ピエタ」に作者自ら刻印した名前も読み取れる。
その他、古典彫刻の荒々しいまでの躍動感や優美さなどが、
正しく臨場感以上の感動を持って提示される。そこに作品の
来歴などの解説が加えられて、これはもう最高の条件で作品
を鑑賞できるものだ。
そしてここからが本作の本当の見せ場、実はこの映画では彫
刻だけでなく絵画(!)までもが立体で鑑賞できる。つまり
この映画では、ミケランジェロが描いたシスティーナ礼拝堂
の天井画や「最後の審判」などが立体で観られるのだ。
それは例えば天井画の中央に描かれた「アダムの創造」では
神に向かって差し伸べる手が突き出して見えるものであり、
天井画の全体では、そこかしこに飛び出して見える造形が、
ある種の妖しさも醸し出して目を引き付ける。
それは美術書に掲載される複製写真などの表現を超え、現地
に行って直接見ても味わうことのできない、美術品の新たな
鑑賞を実現している。ここには人類が初めて目にする世界が
広がっているのだ。
ここで2Dの絵画の3D化はシミュレーションによるものだ
が、その場合に生じるのは視差によって現れる前景に隠れた
部分の処理だ。その映像は誰かが作り出さなければならず、
それは著名な絵画に筆を加えることになる。
ところが本作においてはそれを見事な方法で処理していた。
それは影の部分に元に描かれたエッジを重ねてレリーフのよ
うに描く手法。こによってその部分に新たな筆を入れること
なく見事な立体感を作り出している。
この手法は、もちろん一般的なドラマ作品には採用できない
ものだが、本作においては最大の効果で3Dをシミュレート
していた。なおこの処理はDBW Communicationという会社が
担当していたものだ。
因に絵画の3D化は、当然ヴァチカン美術館の意向に沿った
ものと思うが、元より絵画は「画家が3Dで想像したものを
2Dに置き換えて表現している」という考え方に基づき、こ
れはその本来の姿を再現しているのだそうだ。
この他にもラファエロの宗教画の数々が立体で映し出され、
さらにゴッホの「ピエタ」やピカソ、ダリなどの現代絵画も
登場する。特にダリの「キリストの受難」には、ヴァチカン
の懐の深さも感じられた。

公開は2015年2月、東京はシネスイッチ銀座にて3Dロード
ショウとなる。
百聞は一見に如かず、とにかく見て体験してもらいたい作品
だ。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二