井口健二のOn the Production
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2014年02月23日(日) クジラのいた夏、ギャロウ・ウォーカー 煉獄の処刑人、そこのみにて光輝く

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『クジラのいた夏』
2007年1月紹介『キトキト!』、昨年2月紹介『旅立ちの島
唄〜十五の春〜』などの吉田康弘監督による地方に住む若者
を主役にした青春ドラマ。
吉田監督の作品ではもう1本、昨年公開『江ノ島プリズム』
もあって、その作品の試写は観られなかったが、共同脚本が
1985年『星空のむこうの国』などの小林弘利によるファンタ
シー作品ということだったので、映画館に観に行った。
従って、僕は吉田監督の作品を全て観ていることになるが、
いずれも都会でない場所に暮す若者たちの姿を優しいタッチ
で描いた作品と言えそうだ。そんな吉田監督が、デビュー作
以来となる富山県を舞台にした作品。
主人公は都会の生活に憧れている若者。仲間は住職の息子や
町工場の社長の息子など、地元にそのまま居着いてしまうこ
とが決まっているような連中で、その中で取り敢えず大学に
行ったものの挫折した主人公はちょっと浮いている。
しかしその町で生まれ育った主人公には、初恋や片思いの思
い出など柵も多い。そして彼には両想いだったが都会に旅立
つ時に引き止められなかった彼女への思いもあり、都会への
憧れにはその彼女との再会の夢もあるようだ。
そんな彼のために仲間たちは「大送別会」を開いてくれるの
だが…。それは彼の故郷への思いを断ち切らせて、首尾よく
彼を都会に送り出すことができるのか?

出演は、2012年5月紹介『スープ』などの野村周平、2010年
3月紹介『ソフトボーイ』などの松島庄汰、さらに昨年9月
紹介『僕たちの高原ホテル』などの浜尾京介、ボーカルユニ
ット「サーターアンダギー」の松岡卓弥。
他に、テレビ『梅ちゃん先生』などの土井玲奈、CM「麒麟
ZERO」などの気谷ゆみか、2010年7月紹介『nudo』
と『神様ヘルプ!』などの佐津川愛美らが脇を固めている。
僕自身は神奈川県平塚市の生まれで、約60km離れた東京には
中学生の頃から1人でロードショウ映画を観に通っていた。
それは当時は洋画は全国一斉ロードショウもなくて地元での
上映は数ヶ月遅れだったから仕方なかったものだ。
従って本作の主人公たちの持つ東京への憧れというのには、
今一つピンと来ないのだが、最近北関東を題材にしたテレビ
番組でその地域の若者が東京デビューの前に柏や大宮で慣す
という話を聞いてそんなものかとも思っていた。
しかしそういう気分からすると、富山から東京に来るという
のは一大決心なのだろうし、そんな主人公の背を押すかそれ
とも引き止めるのかという仲間たちの心情にもかなり熱いも
のを感じてしまう作品だった。
ただしそれを決して重くなく、はっきり言ってかなり呆気に
取られるような展開も含めて、優しい眼差しで描いているの
も本作のポイントと言えそうだ。

公開は5月3日より、シネマート新宿・心斎橋ほかで、全国
順次ロードショウとなる。

『ギャロウ・ウォーカー 煉獄の処刑人』“Gallowwalkers”
2005年2月紹介『ブレイド3』などのウェズリー・スナイプ
スの主演で地獄から蘇った亡者と戦う男を描いたアクション
・ファンタシー作品。
物語の舞台はアメリカ西部開拓時代の荒野。スナイプスが演
じるのは孤高のガンマン。彼は最愛の恋人を悪党一味に殺さ
れ、その復讐を果たすが自らの命も絶たれる。ところが彼の
母親がそれを悲しみ、神と契約を結んで彼を復活させる。し
かしそれは彼に殺された相手も復活させるものだった。
こうして主人公には殺した相手が復活するという呪いが掛け
られ、その復活した奴らは彼への復讐の念に燃えている…と
いう悪循環で、主人公と悪党どもの果てしない戦いが続くこ
とになる。そのガンアクションと、蘇った悪党どもの奇妙な
生態が繰り広げられる作品だ。
因に本作は2006年にナミビアで撮影が行われたが、その直後
にスナイプスが脱税容疑で拘束され、2010年にはその罪で禁
固3年の実刑が言い渡されて完成が延び延びになっていたと
いうもの。ただしスナイプスの仮釈放は昨年4月だが、映画
は2012年10月にイギリスの映画祭で初公開されたようだ。
なお本作に関しては、昨年2月16日付の第187回でも情報を
紹介しているので、興味のある方は参照してください。

共演は、2009年“Burlesque Fairytales”や2003年『ラスト
・ホラー・ムービー』などに出演のケヴィン・ハワースと、
2002年10月紹介『スパイダー・パニック』に出ていたという
ライリー・スミス。
それに2005年12月紹介『ロード・オブ・ウォー』などに出演
し、ナミビアの隣国・南アフリカで発行されたの男性雑誌で
「最もセクシーな女性100人」に選ばれたというモデル出身
のタニット・フェニックスらが脇を固めている。
脚本と監督は、日本でも1999年に公開された『エヴリバディ
・ラブズ・サンシャイン』などのアンドリュー・ゴス。共同
脚本にファンタシー作家でもあるジョアン・リエイ(と読む
ようだ)。また音楽を、1999年の『恋におちたシェイクスピ
ア』でオスカーを受賞したスティーヴン・ウォーベックが担
当している。
『ブレイド』もそうだが、スナイプスはスタイルにこだわる
のかな。本作もスタイリッシュと言えば間違いなくその通り
の作品だ。ただ、その分のストーリーが弱いというか、設定
などが多少ないがしろにされている面はある。
それは例えば復活した悪党どもが太陽光に弱くてそのために
いろいろやっているらしいのだが、その辺の説明が明確では
ない。また物語の根幹のはずの母親の存在も、なんとなくう
やむやな感じがした。
でも最近の若い観客はストーリーよりアクションやスタイル
で観ているようだから、これはこれでいいのかな。まあそう
いう種類の作品ということだろう。なおスナイプスにはアク
ションシリーズ『エクスペンダブルズ3』への出演の情報も
あるようだ。

公開は3月15日から、東京はシネマート六本木ほかでロード
ショウされる。

『そこのみにて光輝く』
2010年9月紹介『海炭市叙景』の原作者佐藤泰志が、1990年
自らの命を絶つ前年に発表した唯一の長編小説の映画化。
物語の舞台は『海炭市』のモデルとされる函館。主人公は、
その町で暮らす無職の男。本当は発破士として優れた技術を
持つが、現場での事故を切っ掛けにその職を離れたようだ。
しかし以前の職場からは常に誘いを受けている。
そんな主人公がパチンコ屋でタバコの火を求められたことで
若い男との交流が始まる。その男は浜辺に建つ粗末な家に家
族と暮らしているが、実は仮釈放中の身で、その条件となる
就職先は彼の姉を愛人にする男性から得ていた。
そのため姉は愛人関係を解消することもできず、がんじがら
めの生活だった。そんな中に主人公が現れたことから、運命
の歯車が回り始める。それは老父母も抱える一家に一条の光
を見せることにもなりそうだったが…。
原作者の佐藤に関しては先にドキュメンタリー映画も公開さ
れて、20世紀に亡くなった作家が21世紀になって俄然注目を
浴び始めたようだが、その作品は21世紀の今にこそ真の理解
を得られる物語だったようだ。
実際にこの映画を観ながら僕は、昨年7月に紹介した青山真
治監督の『共喰い』を思い出していた。田中慎弥の同名小説
を原作とする作品は下関を舞台にしたものだったが、描かれ
る背景や家族関係は正に同類と言っていいものだ。
その『共喰い』の原作は2011年に発表され、同年下期の芥川
賞を受賞している。この賞は佐藤が5回の候補になりながら
遂にその手が届かなかったもの。これが時代の皮肉というも
のなのだろう。

出演は、2003年『仮面ライダー555』でデビューし、今旬
な俳優の一人と言われる昨年5月紹介『シャニダールの花』
などの綾野剛。昨年12月紹介『ハロー!純一』などの池脇千
鶴。『共喰い』で日本アカデミー賞新人賞受賞の菅田将暉。
さらに高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子、2008年10月紹介
『クローンは故郷をめざす』に出ていたという田村泰二郎ら
が脇を固めている。
監督は、2006年11月紹介『酒井家のしあわせ』の呉美保、脚
本は、2011年1月紹介『婚前特急』の高田亮、男性の脚本家
と女性の監督が相乗効果をもたらしたという評価もされてい
るようだ。
また撮影は『海炭市叙景』も手掛けた近藤龍人が担当。他に
も『海炭市』のスタッフが多数参加している。熊切和嘉監督
作品のイメージも色濃く残る作品だ。

公開は、4月12日から函館シネマアイリスで先行上映された
後、4月19日から東京はテアトル新宿、ヒューマントラスト
シネマ有楽町ほかで全国ロードショウとなる。



2014年02月16日(日) 夢は牛のお医者さん、LEGOムービー+VES賞

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
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『夢は牛のお医者さん』
新潟県の山間で、今は廃校となった分校に学んだ女性の26年
間を追ったヒューマンドキュメンタリー。
昭和62年、その分校には新入生がいなかった。そこで先生た
ちは3頭の仔牛を新入生として迎え入れ、9人の在校生たち
に育てさせようと考える。そして3人ずつ3班に分かれた内
の一つに本編の主人公の少女はいた。
ところがその少女が担当した仔牛はお腹を壊しやすく、少女
は「大きくなったら牛のお医者さんになる」と将来の夢を決
める。そして育った牛は子供たちの発案による卒業式を経て
牧場に引き取られて行くが…
その卒業式のシーンで流された少女の涙の美しさは、単なる
ローカルニュースの取材だけだったはずのテレビ局スタッフ
に、そこから26年間にも及ぶ長期取材のスタートを切らせる
ことになる。
大抵の卒業式に涙は付きものだが、ここで在校生が歌う3頭
への送別の歌や送辞、答辞などは別れの辛さを見事に演出し
ていた。これはほんのプロローグのシーンだが、ここだけで
観客の心はがっしり掴まれてしまう感じだ。
そしてこの少女が、女性では体力的に難しいとされる畜産獣
医を目指して難関校を受験し、国家試験に挑んで行く姿が描
かれるのだが。何しろこの女性が一途で全くブレずに夢を実
現して行く。その姿は正に清々しいものだった。
作品の中には中越地震の際に山古志村に入り牛の救出に奮闘
する姿なども挿入される。それは3・11と福島原発の被災と
も重なるが、重くなりがちな作品が多い中で本作はあくまで
前向きに勇気を与えられる作品に構成されている。
しかしそれは決して能天気なものではなく、正に今の日本に
必要とされる前向きさであり、未来に向けての希望を感じさ
せる作品だった。この作品を東北の被災地で観せたいという
製作者の心も伝わる作品だ。

監督は、TeNYテレビ新潟の時田美昭。ナレーションをAKB48
の横山由依が担当している。
題名だけ見たときには、数年前に人気漫画の影響で急増した
というペット獣医のイメージが漠然とあった。しかし映画の
後半で描かれる畜産獣医の実態にはかなり認識を改めさせら
れる思いがした。
因に主人公の女性の家は、元々父親が出稼ぎを嫌って畜産を
行っていたとのことで、獣医に関するイメージは持っていた
と思われる。それにもかかわらずその道を選んだ彼女の決意
も相当のものだったことが後から判ってくる。
そんないろいろな認識も新たにしてくれる作品。そして獣医
になって最初の検診では白衣まで糞まみれだったのが、後半
ではしっかりそれを防ぐ手立てを講じている辺に、プロとし
ての成長ぶりも微笑ましく見える作品だった。

公開は3月29日から、東京はポレポレ東中野と、新潟県では
シネウインド新潟、十日町シネマパラダイス、高田世界館に
て同時上映される。この上映を成功させて全国で希望を与え
るロードショウをすることが製作者の夢だそうだ。

『LEGOムービー』“The Lego Movie”
欧米なら、どの家庭にあると言える玩具のLEGOを題材にした
ファンタシー作品。
かなり以前からYouTubeなどの動画サイトには多数のLEGOを
使ったアニメーション作品がアップされている。その多くは
名作映画のパロディだが出来栄えも良く、僕も何本かをお気
に入りに入れているくらいのものだ。そんなLEGOを使った長
編作品がついに登場した。
物語の舞台はLEGOで作られた大都市。主人公はミニフィギア
のエメット。彼のキャラクターは建設現場の組立作業員だ。
ところがある日、彼は廃材置き場で怪しい人影を目にし、追
い掛けた彼は廃材の中にあった赤い物体を発見する。それは
伝説のヒーローの証だった。
その伝説は、最近世界の支配者になった「おしごと大王」が
世界の自由を奪う兵器の投入を計画し、伝説のヒーローはそ
の赤い物体でそれを阻止するというのだ。そしてバットマン
やワイルドガールらがそのヒーローを目指していたのだが、
その役に選ばれたのはエメットだった。
しかしエメットは元々が平凡なキャラクター。でもそんな彼
が自らの使命に目覚め、強大な「おしごと大王」に立ち向っ
て行く姿が描かれる。それは映画の前半では多少たるい感じ
もあったたが、後半にはなるほどと思わせる捻りもあって、
大人でも結構楽しめる作品になっていた。

原案・脚本・監督は、昨年12月紹介『くもりときどきミート
ボール2』の2009年のオリジナルを手掛け、『2』の脚本も
担当したフィル・ロードとクリストファー・ミラー。さらに
原案には2012年9月紹介『モンスター・ホテル』のダン&ケ
ヴィン・ヘイグマンの兄弟も参加している。
また共同監督と編集には、人気テレビアニメーションシリー
ズ“Robot Chicken”などのクリス・マッケイも名を連ねて
おり、ディズニーやドリームワークス・アニメーションとは
一線を画する、新たなアニメーションの血脈が流れているよ
うだ。
なお試写はベテラン声優たちによる日本語吹替版で行われて
いるが、オリジナルの声優には、2011年9月紹介『マネーボ
ール』や2013年1月紹介『ゼロ・ダーク・サーティ』に出演
のクリス・プラット、2007年1月紹介『主人公は僕だった』
などのウィル・フェレル。
さらに『ハンガーゲーム』シリーズなどのエリザベス・バン
クス、2007年10月紹介『俺たちフィギュアスケーター』など
のウィル・アーネット、2005年7月紹介『シン・シティ』な
どのニック・オーフマン。そしてリーアム・ニースン、モー
ガン・フリーマンらが登場しているようだ。
作品にはバットマンやスーパーマン、『スター・ウォーズ』
などのパロディも満載で、それらが巧みなLEGOの造形と共に
描かれる。それはYouTubeなども髣髴とさせて、そのファン
も満足させるものになっていた。

公開は3月、東京は新宿ピカデリー他で、全国ロードショウ
となる。
        *         *
 2月12日に発表されたVES賞の結果を報告しておく。
 VFX主導映画のVFX賞は、
『ゼロ・グラビティ』(10月13日紹介)
 長編映画における助演VFX賞は、
『ローン・レンジャー』(7月20日紹介)
 長編アニメーション映画のVFX賞は、
『アナと雪の女王』(1月19日紹介)
 実写映画におけるアニメーションキャラクター賞は、
『ホビット・竜に奪われた王国』−Smaug
 長編アニメーション映画におけるアニメーションキャラク
ター賞は、
『アナと雪の女王』−Bringing the Snow Queen to Life
 実写映画における創造背景賞は、
『ゼロ・グラビティ』−Exterior
 長編アニメーション映画における創造背景賞は、
『アナと雪の女王』−Elsa's Ice Palace
 実写映画における仮想撮影賞は、
『ゼロ・グラビティ』
 実写映画における模型賞は、
『ゼロ・グラビティ』−ISS Exterior
 実写映画における特殊効果賞は、
『ゼロ・グラビティ』−Parachute and ISS Destruction
 長編アニメーション映画における特殊効果賞は、
『アナと雪の女王』−Elsa's Blizzard
 実写映画における合成賞は、
『ゼロ・グラビティ』
 以上が各部門の受賞者になった。因に実写作品では『ゼロ
・グラビティ』が6部門、アニメーション作品では『アナと
雪の女王』が4部門の受賞で、それぞれ圧勝という感じの結
果だった。この勢いはアカデミー賞にも続きそうだ。



2014年02月09日(日) ゴッド オブ バイオレンス/シベリアの狼たち、ワールズ・エンド、パンドラの約束

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『ゴッド オブ バイオレンス/シベリアの狼たち』
               “Educazione siberiana”
ソビエト連邦スターリン時代に強制移住させられた少数民族
の姿を描き、イタリアでベストセラーとなって世界26ヶ国で
出版されたというニコライ・リリン原作の自叙伝的小説を映
画化した歴史ドラマ作品。
ソ連共産党書記長を1922年から1952年まで務めたスターリン
は第2次世界大戦後にナチスドイツ協力者を名目にした少数
民族の強制移住を実施。その多くはシベリアへの移住だが、
逆にシベリアから東欧への移住も行われた。
その強制移住はスターリンの死後、1956年にフルシチョフに
よって批判され無効とされたが、一部の民族が祖国へ帰還す
ることは1991年まで許されなかった。その中に本作の主人公
の祖父たちも含まれていたようだ。
そして物語は、現在はモルドバ共和国の一部と看做されてい
るが実効支配は及んでいないとされるウクライナ国境の小国
沿ドニエストル共和国の一地域リバーバンクを舞台に進めら
れる。因に本作は1980年生まれの原作者の自叙伝だ。
そこはスターリン時代に組織犯罪者の強制移住地とされてい
た場所で、そこには複数の民族の犯罪組織の構成員たちが居
住し、民族間の争いも絶えなかった。しかしその中で主人公
たちシベリアの部族は強力だった。
そして主人公は、厳格な祖父の許で部族の尊厳や掟などを厳
しく教えられて成長していた。ところがある日、主人公たち
は政府の輸送車の襲撃に失敗し、幼馴染だった仲間の1人が
主人公の身代わりとなって捕まってしまう。
それから数年後、服役していた幼馴染が帰ってくるが、過酷
な刑務所での暮らしはその人格を一変させていた。そして犯
罪組織の泥沼に沈んで行く幼馴染と主人公の間には、少しず
つ亀裂が生じて行った。
スターリンによる少数民族に対する強制移住の話は知ってい
たが、このような犯罪組織を対象にした移住が行われていた
ことは知らなかった。しかも彼らを一箇所に集めて管理しよ
うとしていたとは…。そこが温床になるのは明白だろう。
そんな極東の外れに住んでいると知らない世界の物語が展開
される。それは地名にも馴染みがないから取っ付き難いが、
描かれているのは正に人間ドラマであって、その背景に馴染
みがなくとも理解はできるものだ。
そんな民族の悲劇が見事に描かれた作品だった。

出演は、リトアニア出身の新人アーマス・フェドラヴィシウ
スと、同じく新人のヴィリウス・タマラヴィシウス。また、
ヒロイン役で2013年3月紹介『ジャックと天空の巨人』など
のエレノア・トムリンスンが出演。
さらに2013年2月紹介『ラストスタンド』などのピーター・
ストーメア。そして同年9月紹介『REDリターンズ』など
のジョン・マルコヴィッチが厳格な祖父役を演じて物語の全
体を引き締めている。
監督は、ベルリン国際映画祭の審査員も務めたイタリアの名
匠ガブリエレ・サルヴァトレスが担当。本作ではイタリアの
アカデミー賞とされるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞に作
品賞、監督賞を含む11部門のノミネートを果たした。
なお本作は日本では劇場公開はされず、3月7日にトランス
フォーマー社からDVDでリリースされる。題材的に日本人
には馴染みが薄いが、描かれている内容は人間ドラマだし、
他国の裏面史的な物語も興味を持つと面白いものだ。

この他にトランスフォーマー社からは、同日付で以下の2作
のDVDもリリースが予定されている。

『チャールズ・スワン三世の頭ン中』
   “A Glimpse Inside the Mind of Charles Swan �掘�
フランシス・フォード・コッポラの息子でソフィア・コッポ
ラの兄でもあるローマン・コッポラによる2001年“CQ”以来
となる長編監督第2作。因に彼は2012年12月紹介『ムーンラ
イズ・キングダム』の脚本も手掛けている。
出演はチャーリー・シーン、ジェイスン・シュワルツマン、
ビル・マーレイ、パトリシア・アークェット。題名の通りの
かなりアヴァンギャルドなコメディで、その手の作品が好き
だとそれなりに楽しめる作品だった。

『サイトシアーズ殺人者のための英国観光ガイド』
                    “Sightseers”
2008年5月紹介『ホット・ファズ』などのエドガー・ライト
監督が製作総指揮を務め、『ホット・ファズ』に出演のアリ
ス・ロウが共同脚本と主演を務めたロード・ムーヴィ風のブ
ラックコメディ。
この作品も題名の通りで、英国観光ガイドというにはかなり
マイナーな観光地が紹介され、その先々で殺人事件が起きて
行くというお話。ただしブラックの度合いはかなり高くて、
こちらも好きな人には勧めたいという作品だ。

『ワールズ・エンド』“The World's End”
上に書いた『サイトシアーズ』では製作総指揮を務めていた
エドガー・ライト脚本・監督による最新作。『ミッション:
インポッシブル』や『スター・トレック』でもレギュラーを
務めるサイモン・ペッグが、『ホット・ファズ』以来となる
ライトとの共同脚本と主演を務めている。
事の起こりは1990年6月22日の夜。イギリスの田舎町ニュー
ヘヴンで、高校卒業を祝した5人の若者がゴールデンマイル
に挑戦する。それはその町の中心街にある12軒のパブを一晩
でハシゴするというものだ。しかし途中で脱落者が続出し、
挑戦は失敗する。
それから20年。5人は故郷を離れ散り散りになり、それぞれ
家庭を持ったり企業戦士として活躍していたが、当時のリー
ダーだったゲイリーには挑戦失敗の想いだけが残っていた。
そしてゲイリーは当時の仲間を呼び集め、ゴールデンマイル
への再挑戦を宣言するのだが…
そこに当時のマドンナだった仲間の妹も登場し、禁酒中の奴
も加わった泥酔の挑戦が開始される。ところが4軒目でトイ
レに寄った彼らは飛んでもない光景に遭遇する。その町では
人類の存亡に関わる謎の陰謀が進行していたのだ。果たして
彼らは酒を飲む自由を守ることができるのか。
以前にイギリスを旅した時に、パブで1パイントのビールを
飲むのが楽しかった思い出があって、それはそれなりの量で
あった記憶がある。だから本作の主人公たちのように一晩で
12パイントというのは、かなりの酒量になる。そんな思いに
も浸りながら作品を楽しんだ。
自分の立場上、SF映画であることは心得ていたので後半の
展開にも驚くことはなかったが、ただまあ映画の前半と後半
とでの落差は、さすがペッグとライトのコンビと言うか、こ
れが彼らの映画という感じの作品だった。ただし今回は発想
はペッグだが、全体はライトの色彩が強いのかな。
いずれにしてもかなりブラックヒューモアな面もあるファン
タシー・コメディという感じの作品だ。

共演は、2011年10月紹介『宇宙人ポール』ではペッグと共に
共同脚本も手掛けてい盟友のニック・フロスト。
他に『ホット・ファズ』などのパディ・コンシダイン、『ホ
ビット』のマーティン・フリーマン、昨年9月紹介『フィル
ス』などのエディ・マーサン。そしてヒロイン役を、2009年
11月紹介『サロゲート』や昨年1月紹介『アウトロー』など
のロザムンド・パイクが演じている。
『宇宙人ポール』などを観ているとペッグのSF好きは理解
できるところだが、そこにライトが加わるとかなりブラック
な方向に進んでしまうのは、上に書いた『サイトシアーズ』
でも感じられる。それがSFのファンの興味とは違う方向な
のがちょっと残念ではあるが、多分これが時流なのだろう。

公開は4月から、東京は渋谷のシネクイント他で、全国ロー
ドショウとなる。

『パンドラの約束』“Pandora's Promise”
昨年のサンダンス映画祭で上映された際に、上映前には観客
の75%が反原発派だったが、上映後には80%が原発推進派に
転じたとされるドキュメンタリー。
一応、僕は反原発の立場なので一体どのようなプロパガンダ
で観客が意見を変えたのか興味を持って試写を観に行った。
しかし観ての印象は意見を変える程のものではなく、むしろ
現在の原発の危うさが見えてくるものだった。
その映画の中では、前半では環境保護論者を槍玉に上げて、
その主張の矛盾などを突いてくる。しかし例えば福島原発を
取材して避難する程の放射能ではないと言われても、立ち入
り禁止は政府の命令で保護論者の意見ではない。
また、チェルノブイリに関しては国連の「被害はなかった」
とする報告書を根拠とするが、僕らは2011年8月紹介『チェ
ルノブイリ・ハート』や同年9月紹介『カリーナの林檎』を
観ている訳で、その取材には疑問が生じる。
さらに先月紹介『福島 六ケ所村 未来への伝言』では、子供
たちに対して行われている過酷な医療検査の様子や、放射能
が検出されて投棄される漁獲などが紹介されており、これだ
けで反原発の根拠は充分だと考えている。
さらに本作の最後には原発の利点として、原発国フランスと
反原発国ドイツとのCO2排出量の比較が出されるが、元々ア
ルプスの南側の農業国と北側の工業国とを比較すること自体
がバカバカしい理論だ。
因に僕自身はCO2による地球温暖化説は信じていないので、
その理由での原発推進論には全く根拠を感じないものだが、
映画の中で言及されているので敢えて異を唱えて置くことに
しただけのことだ。
それに本作ではフランスの原発の核廃棄物の量が他国に比べ
て少ないことが紹介されるのだが、その量を減らす方法など
には言及されておらず、一体全体どうなっているのか、これ
は全く謎の情報だった。
その一方で本作ではIFR(Integral Fast Reactor=統合
型高速炉)について言及し、この技術が完成すれば安全且つ
核廃棄物のほとんど出ない発電プラントが実現すると紹介さ
れる。これは正しく夢の発電プラントだ。
しかしその開発はアメリカ政府によって凍結され、日本でも
増殖炉「もんじゅ」の開発は中止が発表された。この他にも
第4世代の原子炉技術がいくつか紹介されるが、いずれもま
だ実用化には至っていない。
ここでもしこれらの技術が完成し、そしてその安全性が明白
に立証されたら僕はその原発に反対しないかもしれない。で
もそれは現在の話ではない。僕はあくまでも現在の原発に反
対し、その意見はこの作品を見ても変わらなかった。

公開は4月19日から、東京はシネマライズ他で、全国順次上
映となる。



2014年02月02日(日) 僕がジョンと呼ばれるまで、KILLERS/キラーズ、ダーク・ブラッド

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が書きたい作品をセレクトして紹介しています。なお※
※文中の物語に関わる部分は伏せ字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『僕がジョンと呼ばれるまで』
アメリカの老人ホームでアルツハイマーの治療に挑む介護の
様子を描いたドキュメンタリー。
タイトルはちょっと奇をてらった感じもするが、作品のプロ
ローグでその意味が説明され、それは重大な事柄であること
が明らかになる。その部分から僕は一気に作品に引き摺り込
まれてしまった。
実は自分の母親が認知症で、現在は老人ホームに入所させて
いるものだが、その症状は作品の中で2番目に紹介されるお
婆さん程度かな、正にそんな実体験に照らし合わせても納得
のできる作品だった。
そして作品では、日本の大学教授の提唱による「学習療法」
が紹介されるが、この治療効果が実に目覚ましい。それは俄
かに信じられないほどのもので、例えば駒を箱に戻すことも
出来なかった女性が、毛糸のマフラーを編み始めるのだ。

因にこの「療法」は、東北大学加齢医学研究所センター長の
川島隆太教授が提唱しているものだが、日本ではいくら厚労
省に申請しても認可が得られないそうで、今は考えを変えて
アメリカでの実践を試みその様子が記録されている。
それにしてもこの「療法」は、日本でもすでに18000人に対
し実施して効果を挙げているものだが、未だにその成果に懐
疑的な医療関係者が多いのだそうで、そんな閉鎖的な日本の
医療が普及を拒んでいるようだ。
それはこの「療法」が脳科学という人間特有の研究に基づく
もので、マウスなどの動物実験が基礎に置かれる日本の医療
研究に合致しない。そのため厚労省などが医療として取り上
げる視野にも入っていないとのこと。
しかし本作を観る限りにおいてはその効果は抜群のもので、
今すぐ自分の母親にもやって欲しくなった。それは僕だけで
なく認知症の家族を抱える全ての人の願いでもある。特に家
族を思い出してくれることが最高なのだ。
とは言え、老人ホームに入所させているとそれもままならな
いもので、今はできるだけ多くの関係者がこのドキュメンタ
リーを観て、この「療法」のことを知って欲しいと痛切に思
っている。
公開は3月1日から、東京は恵比寿にある東京都写真美術館
ホールでロードショウになる。
なお作品は東北大学のお膝元である仙台放送が制作したもの
だが、アメリカでの取材は2011年5月〜11月で、その頃の仙
台の状況を考えると、取材者たちの葛藤にもドラマがあった
のでは…と思わせるものだ。
また本作はアメリカでの一般公開はされていないようだが、
もし公開されてアカデミー賞の候補になったらと思うと、映
画の内容に合わせて愉快な気分にもなる作品だった。


『KILLERS/キラーズ』“Killers”
日本とインドネシアの合作で、監督はインドネシアのモー・
ブラザース、主演は日本の北村一輝とインドネシアのオカ・
アンタラという作品。なお本作は2月1日に封切られたが、
試写が直前に1回だけという状況だったので今回紹介する。
主人公は、東京とジャカルタに住む2人のシリアルキラー。
物語の始まりは東京側の殺人者。彼は若い女性を拉致しては
自宅の地下スタジオに連れ込み、女性を撲殺してその様子を
ネットにアップしていた。
一方、ジャカルタ側は正義感に燃えるジャーナリストだった
男。しかし追求していた大物の手下に命を狙われ、反撃して
相手を殺してしまう。そして先から殺人者のサイトに感化さ
れていた彼はその様子をネットにアップしてしまう。
すると程なくして‘I Found You!’というメールが彼のPC
に届く。こうして互いの存在を認知した殺人者たちは、それ
ぞれの環境の中で相互に影響を与え合いながら凄惨な犯行を
繰り返して行く。
ところが東京の男に自らの秘密を隠さなければならない女性
が現れる。またジャカルタの男は追求していた大物の核心に
近づいて行く。そしてそれらは2人を究極の状況へと導いて
行くことになる。
実は昨年末に記者会見があって、その席で北村は「オファー
を受けた時に役柄を理解できず、監督にその点を質問した」
と語り、脚本家でもある監督の答えは「彼はGODだ」という
ものだったそうだ。
確かに北村の役柄には相手を操っているような面もあり、そ
れは神の所業とも言える。しかし今回の試写会の舞台挨拶で
監督は、「アジアの映画が世界で勝負するには、このやり方
しかない」とも語り、それは手段だったようだ。
ただし物語として北村の役柄には根拠が薄弱な面もあり、映
像だけで観せ切るにしても何か物足りない気分にはなった。
なおその映像は日本ではR18+指定、本国でも鑑賞制限とな
るものだが、監督は自国のことは気にしないとのことだ。

北村は昨年12月紹介『猫侍』が3月1日公開で、両極端な役
柄の変化も面白い。インドネシア側のオカはミュージシャン
出身で多数の映画やCMにも出演歴のあるベテラン俳優のよ
うだ。
共演は、2009年『侍戦隊シンケンジャー』などの高梨臨と、
バリ島出身で多数の映画出演歴のあるルナ・マヤ。他に黒川
芽以、でんでん、2012年『ザ・レイド』などに出演のレイ・
サヘタピーらが脇を固めている。
公開は2月1日から、東京はテアトル新宿ほかで全国公開と
なっている。

『ダーク・ブラッド』“Dark Blood”
1993年に23歳で亡くなったリヴァー・フェニックスの遺作。
当時撮影半ばだった作品をジョルジュ・シュルイツァー監督
が特別の思いを込めて「完成」させた作品。
物語の舞台はユタ州の砂漠。登場するのは夫が映画俳優とい
う夫婦。実は離婚の危機にあるが、その関係を修復するため
週末の砂漠ドライブに愛車のベントレーで来ている。その道
の脇には放射能注意の道路標識が並んでいる。
ところがその車が砂漠の中で立ち往生してしまう。それでも
夫は夜が明ければ何とかなると寝てしまうが、心配な妻は深
夜に灯りを見つけ、砂漠を歩いて小屋にたどり着く。そこに
は1人の若者が住んでいた。
その若者はインディアンの血を引くと称し、夫婦を居留地の
修理工場などに案内はするが、夫婦が駅のある町まで連れて
行くように頼むと、言を左右してなかなかその依頼を聞き入
れようとしない。
そして徐々に奇妙な雰囲気が彼らの周囲に漂い始める。祭壇
のような原住民の遺跡や、今も立ち入りが制限される原爆実
験場の跡地。さらに実験のため追い出された原住民の歴史な
どを背景に物語は進められて行く。

出演は、夫婦役に1985年『未来世紀ブラジル』や『POTC』な
どのジョナサン・プライスと、2006年12月紹介『マリー・ア
ントワネット』などのジュディ・デイヴィス。そして砂漠に
暮らす若者役にフェニックス。他に、昨年他界したカレン・
ブラックが出ていた。
監督のシュルイツァーはオランダ映画の出身。1992年『マイ
セン幻影』が自身2度目のベルリン国際映画祭出品となって
ハリウッドに進出。1993年には自作をリメイクした『失踪』
の公開に続いて本作に取り掛かっていた。
しかし、ユタ州でのロケーション撮影を終えてハリウッドで
セット撮影を開始した矢先に主演者が他界。そのまま撮影は
中断されてしまった。そのため本作では、撮影未了の部分を
監督のナレーションによって補完している。
なお撮影は、1994年に“That Eye, the Sky”というファン
タシー作品も手掛けたジム・バートンの脚本によって行われ
たが、今回公開される作品では監督のシュルイツァーがリラ
イトとしてクレジットされている。
その公開作品では、「死」とか「墓場」などの台詞が出てく
るとドキッとさせられるが、砂漠で撮られた映像も美しく、
ある種の世捨て人であるフェニックスの役柄も魅力的な物語
になっていた。
しかしナレーションで繋がれる撮影未了のシーンでは、特に
終盤の模擬裁判のシーンがどのように演じられようとしてい
たのか、永久に観られないそれらのシーンが残念にも思える
作品だった。
ちょうどこの原稿を書き始めたところでフィリップ・シーモ
ア・ホフマンの麻薬死が伝えられ、いつまでも無くならない
この悲劇も痛切に感じられた。


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井口健二