井口健二のOn the Production
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2014年01月26日(日) 魔女の宅急便、サンブンノイチ、愛の渦

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『魔女の宅急便』
スタジオ・ジブリのアニメーションでも知られる角野栄子の
名作ファンタシーを、『呪怨』シリーズの清水崇監督・脚本
(脚本は2009年7月紹介『サマーウォーズ』などの奥寺佐渡
子と共同)で実写映画化した作品。
物語は、普通のお父さんと魔女のお母さんの間に生まれて、
魔女の素質を引き継いだ少女キキが、13歳の誕生日を迎えた
日から始まる。魔女には13歳になると家を出て、魔女の居な
い町で1年間修行するという決まりがあるのだ。
その決まりに従ってキキは魔法のほうきに乗って故郷を出発
する。その旅には意思の通じ合える黒猫のジジも付いて来て
いた。そしてたどり着いたのはコリコという湊町。その町は
沢山の島の浮かぶ海に面していた。
そこでパン屋さんに間借りしたキキは早速、以前から考えて
いた魔法のほうきを使っての運び屋さんを開業する。それは
連絡船を待たなければ行けない島への荷物を迅速に運べると
いうものだったが…。お客はなかなか来なかった。
そんな環境の中で周囲とはちょっと違う1人の少女が、周囲
との軋轢なども経験しつつ徐々に成長し、自分がいる意味を
見つけて行く姿が描かれる。それは魔女に限らない普遍的な
物語として描かれる。
ジブリのアニメーション作品はかなりロマンティックなお話
で、その実写版を『呪怨』の清水監督が手掛けたということ
では、試写を観るまでは両方の意味で怖いもの見たさという
感じが付きまとった。でも心配は杞憂だったようだ。
作品はプロローグからファンタシーの香り一杯に展開され、
原作の第1巻、第2巻に基づくお話は冒険やほのかな恋も織
り交ぜて青春映画のように展開されて行く。そこには現代的
な要素もあって、巧みな脚本と言えるものだ。
しかも、ジブリ作品のような後半に唖然とするアクションを
持ってきたりもせず、原作に忠実にある意味素朴とも言える
佇まいの物語が展開されて行く。清水監督がここまで真摯な
物語を描けたということも驚きだった。

出演は、キキ役に500人のオーディションで選ばれたという
小芝風花。テレビドラマやCM出演はあるが映画は初とのこ
とで瑞々しい演技を見せている。因に原作者の角野は自分の
イメージに最も合っていると語ったそうだ。
他に、2008年2月紹介『あの空をおぼえている』などの広田
亮平、2012年9月紹介『大奥〜永遠〜』などの尾野真千子、
2009年6月紹介『童貞放浪記』などの山本浩司、2012年8月
紹介『莫逆家族』などの新井浩文、昨年11月紹介『赤々煉
恋』に出ていたという吉田羊。
さらにジャズヴォーカリストのYURI、浅野忠信、筒井道隆、
宮沢りえらが脇を固めている。
公開は3月1日から、全国一斉ロードショウとなる。
ジブリ作品みたいな派手なスペクタクルはないけれど、こち
らが本物だなと思わせる、そんな素敵なキキの世界が展開さ
れていた。


『サンブンノイチ』
お笑いコンビ「品川庄司」のボケ役でもある品川ヒロシ監督
による第3作。2009年7月紹介『悪夢のエレベーター』など
の木下半太原作に基づく作品で、品川監督は今回初めて他者
原作の脚色・映画化に挑戦している。
品川監督の2009年『ドロップ』と2011年『漫才ギャング』は
いずれも試写は観たが、紹介をサイトにアップしなかった。
それは両作共に暴力描写があまりに酷く、個人的な感覚とし
て紹介に耐えなかったものだ。
因に前の2作は、監督の自伝とされる原作小説を映画化した
ものだが、それは監督本人が格闘技マニアとかで、その個人
の趣味が高じた結果と理解された。その趣味に僕が付き合い
切れなかったというところだ。
しかし第2作では、主人公たちの演じる漫才のシーンに流石
に本業の技が見えた感じで、それは作品の方向性として期待
も感じていた。でもその方向から外れる暴力描写が過多で、
結局サイトでの紹介はしなかった。
そんな品川監督の新作だが、今回は他者の原作ということで
物語の展開などにはそれなりに尊重しているところが感じら
れ、そのためアクションの挿入や描写も適度に抑えられて、
全体にバランスの良い作品になっていた。
その物語の主な舞台は集合ビルの中にあるキャバクラ。その
雇われ店長とボーイ、それに常連客の3人が切羽詰って実行
した銀行強盗に成功。1億6000万円の現金が詰まったバッグ
を開店前の店に運び込むところから始まる。
そこで3人は金を3分の1づつ分ける計画だったが、実行犯
の店長と常連客が運転手役のボーイも同じ取り分なのはおか
しいと主張して揉め事が始まる。そして時間は7日前にさか
のぼり、ここに至った経緯が描かれる。
その物語を映画では、フラッシュバックを多用して経緯とそ
の裏に隠された真実を徐々に明らかにし、人間の本性に潜む
醜い姿を暴いて行く。そこに監督が漫才師らしい軽妙な台詞
のやり取りなどが挿入される。
その台詞の中には外国映画に関する例えも多用されていて、
それは多少ウザったいところもあるが、多分そこは若い映画
ファンには受ける要素にもなると計算されているのだろう。
そんな展開で映画は進行されている。
しかもそれがかなりのどんでん返しの繰り返しになるという
作品だ。

出演は、藤原竜也、2012年9月紹介『大奥〜永遠〜』に出て
いたという田中聖、お笑いコンビ「ブラックマヨネーズ」の
小杉竜一。さらに2012年9月紹介『バイオハザードVリトリ
ビューション』などの中島美嘉、窪塚洋介、池畑慎之介。
また、2012年5月紹介『バルーンリレー』に出ていたという
木村了、哀川翔、壇蜜。そして吉本興業のお笑い芸人たちが
脇を固めている。
公開は4月1日から、角川文庫の創刊65周年記念作品として
全国ロードショウされる。

『愛の渦』
演劇ユニット「ポツドール」主宰三浦大輔の脚本監督による
2006年第50回岸田國史戯曲賞受賞作の映画化。
三浦戯曲の映画化では昨年『恋の渦』という作品もあって、
それも試写を観たがサイトでの紹介には至らなかった。本作
はその同じ作家の作品であり題名も似ているので、観るまで
はどうなのかなあ…という感じだったが、流石に自ら監督も
手掛けるとなると、その仕上がりも違っていた。
物語の舞台はメゾネット型マンションの一室。そこは参加費
が男性は2万円、女性千円、カップル5千円の乱交パーティ
の会場だ。その日の夜もそこには男女4人ずつの参加者が集
まってきた。
参加者は当然Hがしたいだけの連中。しかしバスタオルを巻
いただけでソファーに座っても、最初は会話もぎこちない。
それでも徐々に会話は進み、女子大生やフリーター、保母に
OL、妻子持ちのサラリーマンなどの身分も明らかになる。
そしてある切っ掛けから本性が剥き出しになる。
公開はR18+指定で、それはかなり際どい描写も登場する作
品だが、そこに描かれるのは人間の本能であり、大人にはク
スリと笑える巧みな会話劇が展開される。この辺が前に観た
『恋の渦』ではどこか幼稚だったが、本作では見事に脱皮し
ている感じもした。

出演は、昨年12月紹介『大人ドロップ』などの池松壮亮、同
8月紹介『スクールガール・コンプレックス−放送部篇−』
などの門脇麦。さらに11月紹介『バイロケーション』などの
滝藤賢一、2010年1月紹介『カケラ』などの中村映里子。
また『魔女の宅急便』にも出演の新井浩文、2008年4月紹介
『サンシャイン・デイズ』などの三津谷葉子、2012年3月紹
介『サイタマノラッパー』などの駒根木隆介、2012年4月紹
介『彼女について知ることのすべて』などの赤澤セリ。
他に柄本時生、信江勇。そして2012年8月紹介『アウトレイ
ジビヨンド』などの田中哲司と、『サンブンノイチ』にも出
演の窪塚洋介が主催者側の役で登場する。
事実上の密室劇なので出演者はこれが全てだが、主な登場人
物は上映時間123分中、着衣は18分半だけという過激な内容
の割には見事な俳優陣が揃っている。さすが受賞作の映画化
というところかな。
しかも本作では作者自身が監督しているものだ。因に三浦の
映像作品は4作目だが、自作の舞台劇を自らの監督で映画化
するのは初めてとのこと。その演出にも誘われてこれだけの
演技陣が集まったのだろう。そんな演技のぶつかり合いも楽
しめる作品だ。

公開は3月1日から、東京はテアトル新宿他で上映される。



2014年01月19日(日) アナと雪の女王、福島 六ケ所村 未来への伝言、マチェーテ・キルズ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
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『アナと雪の女王』“Frozen”
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの名作「雪の女王」か
ら想を得て創作された魔法に彩られたディズニー・アニメー
ションの最新作。本作はすでにゴールデン・グローヴの長編
アニメーション賞に輝いている。
物語の舞台は、北欧のフィヨルドに面した街に立つ城。そこ
には仲良しの姉妹が、両親と共に暮らしていた。しかしその
姉には魔法の力があり、ある日の出来事からその魔法を封じ
なければならなくなる。
そのため姉は部屋に幽閉されることになり、妹の記憶から姉
の魔法に関ることは消され、姉と一緒に遊ぶこともできなく
なった。しかも両親が旅先で亡くなり、城の城門は閉ざされ
たまま歳月が流れる。
ところが姉が成人の日を迎え、女王となるための戴冠式が挙
行されることになる。こうして城門が開かれ、街には隣国か
らの使者も来訪して活況を呈するが、姉は戴冠式の間に魔法
を封じていられるか不安だった。
とは言え、姉の魔法のことは記憶にない妹は楽しくその日を
迎えるが…。ある出来事から姉の不安が的中し、街は雪に閉
ざされてしまう。そして姉との楽しかった日々を思い出した
妹は、姉を取り戻すため苦境に立ち向かうことになる。

脚本は、2013年2月紹介『シュガー・ラッシュ』も担当した
ジェニファー・リー。監督は、2007年9月紹介『サーフズ・
アップ』のクリス・パックと、脚本家のリーがディズニー・
アニメーションでは初の女性監督となっている。
オリジナルの声優は、姉役を2008年1月紹介『魔法にかけら
れて』に出演のイディナ・メンデルと、妹役はテレビ『ヴェ
ロニカ・マーズ』でブレイクしたクリステン・ベル。いずれ
もブロードウェイ・ミュージカルの実績があり、その他の脇
役陣もブロードウェイの精鋭で固められている。
僕は字幕版の試写を観たのでこのオリジナル版の声優たちの
圧倒的な歌唱を楽しんだが、特に雪の女王になる運命を受け
入れた姉がその決意を歌いその居城を作って行くシーンは、
映像のスペクタクルと共に見事に描かれていた。
因に、僕はアンデルセン原作の「雪の女王」が大好きな作品
の一つだが、自分が何故その物語を知っているのか覚えてい
なかった。しかし今回資料を読んでいる内に、1957年ソ連版
のアニメーションを子供の頃に観ていたことを思い出した。
その観点で言うと本作の物語は、原作とは全く異なっている
ものだ。しかし実に巧みに原作の要素が織り込まれており、
その原作に寄せる思いも感じられる作品だった。しかもそこ
に見事な映像のスペクタクルも描かれている。
原作を知っている人も知らない人も、これは楽しめる作品だ
ろう。

公開は3月14日から、全国一斉2D/3Dロードショウとなる。
なお併映の短編は、初期のミッキーマウスを再現した『ミッ
キーのミニー救出大作戦』“Get a Horse!”。今回の試写は
2Dだったが、3Dが面白そうな作品だ。

『福島 六ケ所村 未来への伝言』
20年間、青森県六ケ所村を撮り続けている女性フォトジャー
ナリストの島田恵が初監督したドキュメンタリー作品。
六ケ所村を含むむつ小川原開発計画は1960年代の末に開始さ
れ、当初は石油化学コンビナートや製鉄所を主体とする臨海
工業地帯の整備を目的としていた。しかし、1973年の第1次
石油ショックなどの影響で計画は頓挫。当時財閥系の不動産
会社などが取得した土地の大半は売れ残ってしまう。
実は僕の父親が当時この事業に出資していた。ただし父親は
上記の計画頓挫により出資金の回収もなく手を引き、知人の
紹介で文句は言わなかったものの、多分詐欺に遭ったという
認識だったと思う。そんなことでこの地名は僕の記憶の中に
も刻まれていた。
その六ケ所村に核施設が作られるようになるのは、1984年に
電気事業連合会が核燃料サイクル施設などの建設を要請した
のが始まりで、当然漁業・農業関係者や反核団体などによる
反対運動が巻き起こるが、翌年には県や六ケ所村も受け入れ
を表明してしまう。そして1986年チェルノブイリ。
島田恵はそんな六ケ所村を、1990年から2002年まで現地に在
住しながら撮影。その写真集「六ケ所村」には2001年第7回
平和・協同ジャーナリスト基金賞の奨励賞が贈られている。
その島田が、今回は映像ドキュメンタリーとして本作の撮影
を開始したのは2011年2月のことだった。
ところが3月11日に震災が発生。一時は制作を中断するが、
同時に起きた福島原発事故を見て、原発問題の「入り口」と
「出口」を描くことを目的として制作を再開。しかしここで
は「原発=入り口」と「核廃棄物集積場=出口」が描かれる
が、その提起する問題は同じだものだ。
その作品の中で島田は、福島県大熊町にローンで建てた当時
新築1ヶ月の家を持ちながら避難勧告で自宅を追われ、幼い
子供と共に東京に暮らす一家や、郡山に在住だが幼い子供を
抱えて今回は長野県に保養に来ている一家、そして郡山市で
有機農業を実践してきた農家などを描く。
その間には放射能が子供に与える影響のデータなども挿入さ
れ、郡山で行われている子供に対する甲状腺検査の模様や、
その一方で、農家はせっかく生産した米が検査結果は問題な
いものの、精密検査で発見された微量の放射能が販路をほと
んど無くしてしまう現実が描かれる。
特には超音波診断機を首に押し当てられ、検査の理由を理解
できない子供が泣きじゃくって抵抗する姿に、これが現実に
日本で行われていることだと理解することにも抵抗を覚え、
その現実を目の当たりにしていることには言い知れない衝撃
を受けるものだ。
その他、青森県に関しては反対派漁民の網にかかったタラか
ら福島由来と思われる放射能が検出され、陸揚げを禁じられ
て無言で投棄する姿に、無念さと虚しさを明白に感じること
ができる。これが今の日本人に明確に突きつけられている問
題だと言える。

公開は2月15日から、東京はオーディトリウム渋谷にてロー
ドショウ。都知事選挙投票日後の公開であることが残念だ。

『マチェーテ・キルズ』“Machete Kills”
ロバート・ロドリゲス監督ダニー・トレホ主演による2010年
公開作『マチェーテ』の続編。
前作はクエンティン・タランティーノとロドリゲスが、往年
の場末の映画館の雰囲気を再現しようとして企画した2007年
7月紹介『グラインド・ハウス』に添えられたフェイク予告
編に基づいて製作された作品。その前作の日本公開の際は試
写を観せてもらえず、僕はやむなく劇場で観たものだ。
その前作でトレホが演じたのは凄腕のメキシコ連邦捜査官。
しかし正義感ゆえに犯罪組織と衝突し、妻子を殺されて職を
去る。それから3年、彼は違法移民の日雇い労務者となって
テキサスにいた。そんな彼のスキルに注目した男が暗殺を依
頼。しかしそこには違法移民に絡む陰謀が潜んでいた。
これに移民を弾圧する上院議員や移民狩りの自警団、入国管
理局の女捜査官、移民のために戦う女革命戦士らが絡んで、
向かうところ敵なし不死身のマチェーテが獅子奮迅の大活躍
を繰り広げるというものだった。そしてその結末には本作の
タイトルが記されていたのだ。
そんな前作の続編だが、まず巻頭に“Machete Kills Again
in Space”という予告編が上映される。これは『グラインド
・ハウス』からの流れのものだ。
そして本編ではマチェーテにアメリカ大統領から直々に依頼
が届く。それはメキシコにいるイカレたボスを抹殺せよとい
うもの。そこでマチェーテはメキシコに潜入するが、その男
は多重人格者で、しかも心臓には鼓動が止まるとワシントン
に向けたミサイルが発射される仕掛けが施されていた。
このためマチェーテはそのボスを生きたままアメリカに連れ
て行かねばならなくなる。ところが2人には組織からの懸賞
金が掛けられ、賞金稼ぎやヒットマン、さらには金に目の眩
んだ地元住民までもが牙を向いてくる。その下を突き進むマ
チェーテはついにボスを操る黒幕に辿り着くが…。
という展開の中で、前作同様あり得ない不死身ぶりを発揮す
るマチェーテの大活躍が描かれる。しかも予告編に描かれた
次回作への繋ぎもしっかりと描かれていて、本作の制作協力
の中には、2015年に民間企業では初の有人宇宙飛行を目指す
SpaceX社の名称も登場していた。

共演は、ジェシカ・アルバ、ミシェル・ロドリゲスが前作に
引き続いて登場の他、『スパイ・キッズ』のアレクサ・ヴェ
ガ、アントニオ・バンデラスが出演。
さらに2007年12月紹介『アメリカン・ギャングスター』など
のキューバ・グッディングJr.、2012年4月紹介『ラム・ダ
イアリー』などのアンバー・ハード、2011年4月紹介『エン
ジェル・ウォーズ』などのヴァネッサ・ハジェンズ。
またメル・ギブスン、本名のカルロス・エステベスで出演の
チャーリー・シーン、映画初出演のレディ・ガガらが脇を固
めている。
公開は3月1日から、新宿バルト9他での全国ロードショウ
となる。



2014年01月18日(土) 第200回(Golden Globe Awards, VES Awards, Oscar)

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 今回も賞レースの話題で、まずは12日に発表されたゴール
デングローブ賞では『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・
キュアロンが監督賞を受賞。他の受賞は逃したが、この種の
作品での監督賞は特筆できるものだ。
 また、長編アニメーションは『アナと雪の女王』が受賞。
ちょうど作品を鑑賞したところだが、正に大本命という感じ
になってきた。
 その他の前回注目した中では、テレビシリーズ部門の『ハ
ウス・オブ・カード』でロビン・ライト、またミニシリーズ
部門の『トップ・オブ・ザ・レイク』でエリザベス・モスが
それぞれ主演女優賞を受賞した。特にモスの受賞は、作品も
気に入っていたので嬉しく感じられた。
        *         *
 続いては1月12日に発表されたVES賞のノミネーション
を見てみよう。なおこの賞にはテレビ作品やコマーシャル、
ゲームなどの部門もあるが、例年通り映画部門のみを紹介し
ておく。
 VFX主導映画のVFX賞候補は、
『ゼロ・グラビティ』(10月13日紹介)
『アイアンマン3』(2013年4月日本公開)
『パシフィック・リム』(7月10日紹介)
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』
                   (6月30日紹介)
『ホビット・竜に奪われた王国』(12月22日紹介)
 長編映画における助演VFX賞候補は、
『ラッシュ/プライドと友情』(1月12日紹介)
『華麗なるギャツビー』(5月20日紹介)
『ローン・レンジャー』(7月20日紹介)
“The Secret Life of Walter Mitty”
“The Wolf of Wall Street”(2014年1月日本公開)
『ホワイトハウス・ダウン』(7月30日紹介)
 長編アニメーション映画のVFX賞候補は、
『くもりときどきミートボール2』(12月8日紹介)
『怪盗グルーのミニオン危機一発』(2013年9月日本公開)
『アナと雪の女王』(明日紹介)
『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013年7月日本公開)
“The Croods”
 実写映画におけるアニメーションキャラクター賞候補は、
『ゼロ・グラビティ』−Ryan
『オズ はじまりの戦い』(2月28日紹介)−China Girl
『パシフィック・リム』−Kaiju:Leatherback
『ホビット・竜に奪われた王国』−Smaug
 長編アニメーション映画におけるアニメーションキャラク
ター賞候補は、
“Epic”−Bomba
“Epic”−Mary Katherine
『アナと雪の女王』−Bringing the Snow Queen to Life
“The Croods”−Eep
 実写映画における創造背景賞候補は、
『エリジウム』(8月20日紹介)−Torus
『ゼロ・グラビティ』−Interior
『ゼロ・グラビティ』−Exterior
『アイアンマン3』−Shipyard
『パシフィック・リム』−Virtual Hong Kong
 長編アニメーション映画における創造背景賞候補は、
“Epic”−Pod Patch
『アナと雪の女王』−Elsa's Ice Palace
『モンスターズ・ユニバーシティ』−Campus
“The Croods”−The Maze
 実写映画における仮想撮影賞候補は、
『ゼロ・グラビティ』
『アイアンマン3』
『マン・オブ・スティール』(7月10日紹介)
『パシフィック・リム』
『ホビット・竜に奪われた王国』
 実写映画における模型賞候補は、
『ゼロ・グラビティ』−ISS Exterior
『パシフィック・リム』
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』
『ローン・レンジャー』−Colby Locomotive
 実写映画における特殊効果賞候補は、
『ゼロ・グラビティ』−Parachute and ISS Destruction
『マン・オブ・スティール』
『パシフィック・リム』−Fluid Simulation & Destruction
『ホビット・竜に奪われた王国』
 長編アニメーション映画における特殊効果賞候補は、
『くもりときどきミートボール2』
“Epic”−Boggan Crowds
『アナと雪の女王』−Elsa's Blizzard
“The Croods”
 実写映画における合成賞候補は、
『エリジウム』
『ゼロ・グラビティ』
『アイアンマン3』−Barrel of Monkeys
『アイアンマン3』−House Attack
『ホビット・竜に奪われた王国』
 映画部門の各賞の候補は以上の通り。
 因に作品別の候補の数は、実写では『ゼロ・グラビティ』
が7部門8候補、『パシフィック・リム』が6部門6候補、
『ホビット』が5部門5候補、『アイアンマン3』が4部門
5候補、『スター・トレック』『ローン・レンジャー』『エ
リジウム』『マン・オブ・スティール』が2部門2候補、他
は1候補ずつ。
 アニメーションでは、『アナと雪の女王』“The Croods”
“Epic”が4部門4候補、『くもりときどきミートボール』
『モンスターズ・ユニバーシティ』が2部門2候補、『怪盗
グルーのミニオン危機一発』が1候補となっている。
 また今回は、『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュ
アロン監督に特別賞のVisionary Awardが贈られることも発
表されている。この賞はVFXの発展に寄与した映画監督に
贈られるもので、過去にはクリストファー・ノーランとアン
・リーが受賞しているとのことだ。
 この特別賞も受賞した『ゼロ・グラビティ』が各部門賞で
も大本命であることは間違いなさそうだが、対抗の『パシフ
ィック・リム』がどこまで伸ばせるか。それにしても『ホビ
ット・竜に奪われた王国』がノミネート段階で意外と伸びな
かったのは、さすがに5本目ともなると既視感が強くなって
いるのかな。年末公開の最終作での巻き返しに期待したいも
のだ。
 アニメーションは『アナと雪の女王』が本命であることは
変わりないと思うが、他の作品をあまり観ていないので、こ
ちらは多くは語らないことにしよう。
 VES賞の受賞式は2月12日に予定されている。
        *         *
 続いては1月16日に発表された米アカデミー賞の候補作。
こちらは気になる部門と作品を紹介しよう。
 まずは今回も5作品となったVFX部門。その候補作には
『ゼロ・グラビティ』
『ホビット・竜に奪われた王国』
『アイアンマン3』
『ローン・レンジャー』
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』
が選ばれた。上記のVES賞とでは『パシフィック・リム』
→『ローン・レンジャー』の交代だが、その『ローン・レン
ジャー』も助演賞の候補だから順当なところだろう。いずれ
にしても本命の『ゼロ・グラビティ』は動きそうにない。
 今回は9作品が選ばれた作品賞は、
『それでも夜は明ける』
『アメリカン・ハッスル』
『キャプテン・フィリップス』
『ダラス・バイヤーズクラブ』
『ゼロ・グラビティ』
“Her”
『ネブラスカ』
『あなたを抱きしめる日まで』
“The Wolf of Wall Street”
 実は『ゼロ・グラビティ』以外の作品も原題で示した2作
を除き試写を観せて貰ったものだが、時間が無く紹介を割愛
してしまった。
 その中で特に気になっているのは、『ダラス・バイヤーズ
クラブ』。エイズを扱ったこの作品は主演賞、助演賞の候補
にもなっている男優2人の演技も素晴らしいが、実は映画の
中で主人公が日本を訪れるシーンがあって、そこで渋谷駅頭
に立った主人公の背景に映る書店の看板が赤い。
 この看板は現在は白くなっているものだが、主人公が訪日
したとされる1990年代はこうだったもの。多分これは日本で
のロケの代わりに当時の写真を参考にしたCGIを使った怪
我の功名なのだろうが、長く渋谷で遊んでいた者としては、
そんなことも嬉しくなる作品だった。
 5作品が選ばれた長編アニメーション作品賞は、
“The Croods”
『怪盗グルーのミニオン危機一発』
『アーネストとセレスティーヌ』(2012年6月10日付「フラ
ンス映画祭」で紹介)
『アナと雪の女王』
『風立ちぬ』
 こちらはゴールデングローヴ賞の3候補にフランス作品と
日本作品が加わったが、本命に変わりはなさそうだ。
 その他はSF/ファンタシー系の作品中心に見て行くと、
『ゼロ・グラビティ』は作品、監督(アルフォンソ・キュア
ロン)、主演女優(サンドラ・ブロック)、撮影、編集、作
曲、プロダクションデザイン、音響、音響編集、視覚効果の
10部門で候補になり、これは『アメリカン・ハッスル』と並
び今回の最多となっている。
 また、アメリカのデータベースでSci-Fiに分類されている
スパイク・ジョーンズ脚本監督の“Her”が、作品、脚本、
作曲、歌曲、プロダクションデザインの5部門。
 さらに『ホビット・竜に奪われた王国』は特殊効果の他に
音響、音響編集。『ローン・レンジャー』が特殊効果の他に
メイクアップ/ヘアスタイリングの候補になっている。
 なおこの他の部門では、短編アニメーションで5作の候補
の中に『アナと雪の女王』に併映の『ミッキーのミニー救出
大作戦』と、2013年4月紹介『SHORT PEACE』の中の一篇で
森田修平監督による『九十九』が選ばれており、結果が楽し
みなところだ。
 また長編ドキュメンタリーでは、5作の候補の中に日本で
も公開、もしくは公開予定の『バックコーラスの歌姫たち』
『キューティ&ボクサー』と、『アクト・オブ・キリング』
の3作品が含まれている。
 これらの作品も紹介を割愛したものだが、『キューティ』
はニューヨークに暮らす日本人芸術家の話。『バックコーラ
ス』は特に最後に登場する女性が日系の人で、こちらも結果
に関心を寄せるところだ。
 米アカデミー賞の受賞式は3月2日に予定されている。



2014年01月12日(日) エヴァの告白、ラッシュ/プライドと友情、偉大なるしゅららぼん、デリーに行こう!、BUDDHA2

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『エヴァの告白』“The Immigrant”
2008年11月紹介『アンダーカヴァー』などのジェームズ・グ
レイ監督が、2007年7月紹介『エディット・ピアフ 愛の讃
歌』でオスカー受賞のマリオン・コティヤールを主演に迎え
たヒューマンドラマ。
ニューヨーク湾で自由の女神の立つリバティ島の隣に浮かぶ
エリス島。そこにはかつてアメリカ合衆国の移民局があり、
新世界での生活に夢を抱く千数百万人と言われる各国からの
移民たちの入国審査が行われた。
その中の1人=主人公のエヴァは1921年1月、ソ連との戦争
に揺れるポーランドを離れ、妹と共にアメリカに暮らす叔母
の許に向かっていた。ところが妹は病気で入国を止められ、
彼女自身も船内での出来事から入国を拒否されてしまう。
こうして強制送還を待つ身となった彼女に救いの手が差し伸
べられる。それは警備の係官に顔の利く怪しげな男の手引き
で、彼の目に留ったエヴァはエリス島を出て、ロアイースト
のアパートに連れ込まれる。
その男は入国を拒否される独身女性に目を付け、彼女たちを
連れ出して各国の美女を集めたと称するショウを興行。また
彼女たちを娼婦として働かせ金を稼いでいた。そんな中に放
り込まれたエヴァだったが…
そこには男と関りのあるらしいマジシャンも絡んで、波乱に
満ちた新世界での暮らしが始まる。そして様々な事件により
警察の追っ手も迫ってくるが、彼女はエリス島に収容された
妹から遠く離れることはできなかった。

共演は、『アンダーカヴァー』にも出演し監督とは4作目に
なるホアキン・フェニックス。前作紹介の頃は俳優業の引退
を宣言していたものだが、2012年12月紹介『ザ・マスター』
で復帰、本作が復帰第2作となるようだ。
それに、2010年11月紹介『ザ・タウン』などのジェレミー・
レナー。なおフェニックスは過去3度のオスカー候補者で、
レナーは2度の候補者。受賞者のコティヤールと共に、正に
揃い踏みという感じの作品になっている。
脚本も手掛けた監督は、祖父母がヨーロッパからの移民とい
うことで、本作にはそんな監督の思いも込められているよう
だ。そして監督は、コティヤールとの出会いからこの作品を
出発させている。
従って本作の脚本の主人公は女優への当て書きで、それはも
うコティヤールにぴったりの役柄になっている。因にポーラ
ンド語の台詞は映画のために学んだものだが、女優は設定に
合わせて敢えてドイツ語訛りで喋っているそうだ。
ということで薄幸の女性の姿を描いた作品だが、実は男性の
立場で見ていると、特にフェニックスの演じた役柄の切なさ
が心にしみる。元々コティヤールのファンである自分の目か
らは、それを強く感じる作品でもあった。

公開は2月14日から、東京はTOHOシネマズシャンテ、新宿武
蔵野館他でロードショウされる。

『ラッシュ/プライドと友情』“Rush”
1976年のF1レースでチャンピオンを争ったニキ・ラウダと
ジェームス・ハントの姿を、2002年3月紹介『ビューティフ
ル・マインド』でオスカー受賞のロン・ハワード監督が映画
化した作品。
プロローグは、1976年のニュルブルクリンク=ドイツGP。
レース直前に2人の男が目を交わす。ラウダとハント、彼ら
の戦いは遡ること6年前のF3時代に始まっていた。すでに
人気レーサーだったハントに新人のラウダが挑み、互いの車
体をぶつけ合う激しいレースを展開していたのだ。
そして舞台はF1へ。ラウダは親譲りの巧みな交渉術とプロ
を凌ぐメカニックの知識を武器に、財政難に陥っていたF1
チームに加入。直ちに車体の改良に着手してチーム内での存
在感を高めて行く。一方、ハントも陽気な性格を武器に元々
のスポンサーと共にF1に参入する。
そして1975年にラウダは初のチャンピオンを獲得し、この年
4位だったハントと因縁の戦いが再現される。
映画が描くのはその翌年の物語。ラウダは快調に勝利を重ね
2年連続のチャンピオンも確実と思われていた。その中で開
催された第11戦ドイツGPはレース前に豪雨に見舞われる。
だがレーサー会議で中止を求めるラウダにハントが反論し、
強行されたレースは悲惨な事故を招いてしまう。
映画は事故で生死の境を彷徨うラウダと、その間にポイント
を重ねてチャンピオンに迫るハント。そしてラウダの奇跡の
復活。そのライヴァルであるが故に、互いを高め合った2人
の男の姿を描いて行く。

出演は、ラウダ役に2009年『イングロリアル・バスターズ』
や2012年7月紹介『コッホ先生と僕らの革命』などのダニエ
ル・ブリュール、ハント役には2013年12月紹介『マイティ・
ソー/ダーク・ワールド』のソー役クリス・へムスワース。
他に、2010年12月紹介『トロン:レガシー』などのオリヴィ
ア・ワイルド、2008年7月紹介『コッポラの胡蝶の夢』など
のアレクサンドラ・マリア・ララ。
さらに2013年7月紹介『ワールド・ウォーZ』に出演のピエ
ルフランチェスコ・ファヴィーノ、2012年2月紹介『裏切り
のサーカス』に出演のクリスチャン・マッケイらが脇を固め
ている。脚本は2010年11月紹介『ヒアアフター』などのピー
ター・モーガン。
ロン・ハワードは1976年『バニッシング IN TURBO』が監督
デビュー作だが、それ以前の俳優時代には1973年『アメリカ
ン・グラフィティ』に主演するなど自動車が描かれる作品に
関係が深い。本作は、そんなハワードの面目躍如という感じ
もする作品だ。

公開は2月7日から、全国ロードショウとなる。

『偉大なるしゅららぼん』
2009年2月紹介『鴨川ホルモー』などの万城目学原作・奇想
小説の映画化。
本作の物語の舞台は滋賀県の琵琶湖。その湖畔の町=石走に
建つ城は江戸時代から現存し、日本で唯一の城に住む一族=
日出家が暮らしていた。そして一族は代々琵琶湖から授かる
特別な力を継承し、その力で町を実効支配もしていた。
主人公は、その日出一族の傍系の息子。しかし彼にも力は備
わり、彼は5歳、10歳の儀式を経て、15歳になったその日か
ら城に招かれ、力を高めるため修行を開始することになる。
その城には同い年の当主の息子やその姉も暮らしていた。
こうして主人公は当主の息子と共に高校にも通うことになる
が、その出で立ちは真っ赤な学生服。同級生からも浮きまく
りの2人はかなり尋常でない学園生活を始めることになる。
そこには日出家のライヴァル=棗家の息子もいて…
まあよくあるファンタシー掛かった学園物という感じの開幕
だが、それがやがて飛んでもない大騒動へと繋がって行く。

主演は、2012年7月紹介『ひみつのアッコちゃん』などの岡
田将生と2013年5月紹介『はじまりのみち』などの濱田岳。
共演は、2013年9月紹介『ルームメイト』などの深田恭子、
2013年12月紹介『僕は友達が少ない』などの渡辺大、2009年
3月紹介『THE CODE/暗号』などの貫地谷しほり。
さらに佐野史郎、村上弘明、笹野高史、田口浩正、小柳友、
津川雅彦、2011年2月紹介『高校デビュー』などの大野いと
らが脇を固めている。
企画・製作は2008年8月紹介『ハンサム★スーツ』や『高校
デビュー』などの山田雅子。スタッフでは、2012年7月紹介
『東野圭吾ドラマシリーズ“笑”』の中の第1笑「モテモテ
・スープ」を手掛けたCM監督出身の水落豊と脚本家ふじき
みつ彦が共に長編映画デビューを飾った作品のようだ。
実は、自分の両親の出身地が滋賀県琵琶湖東岸で映画の舞台
には多少土地勘もある。そんな目で観ているとかなり親近感
も湧いてきて、楽しめる作品だった。城からの琵琶湖の景観
や竹生島なども良い感じで撮られていたものだ。
ただ映画の全体を通して観た時に、演出が平板な感じなのが
気になった。特にクライマックスでのVFXシーンにはもう
少しメリハリが欲しい感じかな。何となく脚本をきっちりと
撮ってはいるが、全体にリズムがない感じなのだ。
それと物語では、鍵となる人物のお話がちゃんと終っていな
い感じなのも気になった。これは最近の小説によくある傾向
で、多分この原作もそうなのだろうが、作家は自分の創造物
にもう少し愛情を持ってもらいたいと思う。
歴史的な背景などは理解しているが、それに繋がる本作との
関係をもう少し描き込んで、この人物のお話をちゃんと終ら
せて欲しかったものだ。

公開は3月8日から、全国一斉ロードショウとなる。

『デリーに行こう!』“चलो दिल्ली”
2010年11月紹介のハリウッドコメディ『デュー・デート』を
インドを舞台に翻案したボリウッドコメディ。
オリジナルは、妻の出産予定日を控えて出張先から自宅に戻
る夫が、陸路のアメリカ横断で悪戦苦闘する姿を描いたもの
だったが、本作の主人公は辣腕の女性社長。彼女がアメリカ
出張を控えてムンバイから首都デリーを目指す。
しかもその陸路はアメリカ横断とは比較にならないワイルド
な風景に満ち溢れており、その中ではインド社会の現実も描
かれる。これは確かに翻案ではあるけれど、かなり独自性の
強い作品だ。
とは言え、飛行機で乗り合わせたトラブルメーカーの男と、
止むにやまれぬインド縦断の旅というコンセプトは同じで、
その中で徐々に主人公の気持ちが変化し、豊かになって行く
というテーマも同じものになっている。
そして旅の結末は、これはもう信じられないものが用意され
ていて、そこに至る伏線も含めてこれには正しく脱帽という
感じだった。正直に言って、この展開の物語でこのような結
末が用意されているとは思いもよらなかったものだ。

主演は、2000年のミス・ワールドで2013年3月紹介『闇の帝
王DON・ベルリン強奪作戦』にも出演、本作では製作も兼ね
るラーラ・ダッタ。共演はニューヨーク州立大学で演技を学
んだというヴィナイ・パタック。
監督はパタックが2008年に主演製作した作品を手掛けたシャ
シャーント・シャー。実はパタックが監督と再び組んで企画
したものの実現に至らず、ダッタに出演を打診したら脚本を
気に入った女優が自ら製作も買って出たとのことだ。
そして映画の製作は、ダッタが彼女の夫で1997年全仏オープ
ン混合ダブルスで日本の平木理化と共に優勝した元プロテニ
ス選手のマヘシュ・プパシと設立した会社(ビッグ・ダディ
・プロダクション)で行われている。
題名の「デリーに行こう(Challo Dilli)」は、歴史的には
インド独立運動のスローガンの一つなのだそうだ。映画はそ
のような歴史を背景にしたものではないが、インド人にはそ
れなりの感慨を持って受け取られたのかもしれない。
でも日本人にはそんなことは関係なく、インドの様々な風物
の登場する旅情気分のロードムーヴィとして気軽に楽しめる
作品になっている。そんな気分を、インド人でありながら社
会の部外者の主人公が一緒に味あわせてくれる作品だ。
なお、映画の前半の空港シーンでパタックが買う芸能誌の表
紙になっているのは、今年最初に紹介した『エージェント・
ヴィノッド最強のスパイ』の主演の2人。インドでは同じ配
給会社の作品で、その情報を知っているとニヤリとできた。

公開は2月15日から、東京はオーディトリウム渋谷にてロー
ドショウされる。

『BUDDHA2 手塚治虫のブッダ−終わりなき旅−』
2011年5月に公開された『手塚治虫のブッダ−赤い砂漠よ!
美しく−』の続編。
実は前作も試写は観ていたが、このホームページにはアップ
しなかった。その時の記録を読み返してみると、主には物語
がブッダ本人の話でないことが気に入らなかったものだ。そ
れに一部声優の棒読みの台詞に苛々させられたとあった。
という作品の続編だが、まずプロローグでブッダの誕生から
本作に至るまでの概略が語られる。しかしそこに前作で物語
の中心だったチャプラらの話はなく、本来が3部作の企画に
しては第1作と第2作の関係が希薄に感じられた。
そして本編だが、物語は前作よりはブッダ本人に集約して語
られるもので、主には苦行を続ける姿とその中で悟りを開く
までが描かれる。さらにそこに未来予知者の少年の話や侵略
国コーサラの王子の話などが絡んでくる。
また、ブッダが幼い頃に出会ったタッタや女盗賊ミゲーラも
登場し、これらは前作からの繋がりとなるものだ。ところが
ここで前作との関係性が希薄なために、本来あるべき感動が
あまり感じられないのは残念に思えたところだ。
とは言え物語は、コーサラの侵略が迫る中でブッダが悟った
仏教の真髄が語られて行く。その点の物語の骨子は現代社会
の情勢にも通じるもので、手塚治虫が本来語りたかったこと
は描かれていると言えるものになっていた。

脚本は前作と同じ吉田玲子、監督は、前作の森下孝三(聖闘
士星矢)に代って『プリキュア』シリーズなどの小村敏明。
音楽は前作と同じく大島ミチルと藤原道山(尺八演奏)が担
当している。
声優は、ブッダ(シッダールタ)の吉岡秀隆、スッドーナ王
の観世清和、ミゲーラの水樹奈々がそれぞれ前作に引き続き
担当。また、ナレーションも吉永小百合が前作に引き続いて
担当している。
ただし吉永は、前作ではチャプラの母という設定だったが、
本作ではシッダールタの母マーヤー天の設定になっている。

さらに本作では、原作の愛読者という松山ケンイチを始め、
真木よう子、田口浩正、大和田伸也、お笑いコンビ笑い飯の
哲夫。他は、沢木みゆき、藤原啓治、大友龍三郎、島本須美
らの声優陣が脇を固めている。
実は、自分の娘と息子を近くの寺の幼稚園に通わせたので、
学芸会でブッダの話は何度も観ている。その中では息子は年
長の時にシッダールタを演じたし、娘は苦行を続けるブッダ
にミルクを与えるスジャータを演じたものだ。
そんな記憶を思い起こしながら観ていたが、そんな自分にも
今回の作品は違和感が少なかった。もちろんそこには手塚個
人の史観も反映されるが、その点でも本作は期待に応えてい
ると言えそうだ。

公開は2月8日から、全国ロードショウとなる。



2014年01月05日(日) 第199回(Ten Films Shortlisted for Visual Effects Oscar, Golden Globe Awards)+エージェント・ヴィノッド最強のスパイ

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 明けましておめでとうございます。
 と言っても、日曜日ごとに更新の最初が5日では多少間が
抜けた感じですが、今年はカレンダーの関係でまだ試写会も
スタートしていないので、記事は製作ニュースから始めるこ
とにします。
 その製作ニュースも去年の正月には、今年から再開します
とか大きく言ってしまったのですが、それも試写に追い捲く
られて日々のチェックも出来ない状態でした。そうなると更
新する頃にはネタも古くなって、だんだん更新する意義も感
じられなくなり、中断してしまいました。
 その状況は今年も変わりそうもないので、何を言うのも覚
束無いのですが、取り敢えず賞シーズンの話題だけ紹介する
ことにします。
        *         *
 まずは米アカデミー賞で、VFX部門の第1次候補が発表
されている。
 その1次候補は10作品で、
『エリジウム』(8月20日紹介)
『ゼロ・グラビティ』(10月13日紹介)
『ホビット・竜に奪われた王国』(12月22日紹介)
“Iron Man 3”
『ローン・レンジャー』(7月20日紹介)
『オブリビオン』(4月30日及び5月10日紹介)
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』
                   (6月30日紹介)
『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(12月15日紹介)
『パシフィック・リム』(7月10日紹介)
『ワールド・ウォーZ』(7月10日紹介)
なお、原題表記は試写を観られず紹介しなかったものだ。
 最終候補は今年も5本になるようで、この10本からだと、
『ゼロ・グラビティ』と『ホビット・竜に奪われた王国』は
ほぼ決まりと思うが、残りの3席はいろいろ思惑が絡みそう
だ。それが『エリジウム』『オブリビオン』『パシフィック
・リム』なら順当と思えるが。
        *         *
 お次はゴールデン・グローブ賞で、こちらは気になる作品
別に紹介する。
 まずは『ゼロ・グラビティ』がドラマ部門の作品賞、主演
女優賞と監督賞、作曲賞の候補に挙げられた。この内、主演
女優賞のサンドラ・ブロックは、先日行われた来日記者会見
でオスカーの可能性を聞かれて、「それはないと思うわ」と
答えていたものだが、その前哨戦の候補にはなった。この勢
いでオスカーも楽しみになるところだ。
 一方、長編アニメーション賞候補は“The Croods”『怪盗
グルーのミニオン危機一発』『アナと雪の女王』の3作品。
いずれも昨年11月17日に紹介した米アカデミー賞の長編アニ
メーション部門第1次候補にも入っていた作品で、オスカー
候補ではこれにあと2本足されることになるのかな。
 この他の候補では12月8日紹介『ハンガーゲーム2』から
‘Atlas’という主題歌が歌曲賞部門に挙げられている。
 さらにテレビシリーズでは、8月20日紹介『ハウス・オブ
・カード野望の階段』が、作品賞、主演女優賞(ロビン・ラ
イト)、主演男優賞(ケヴィン・スペイシー)と助演男優賞
の候補にも挙がっている。
 またミニシリーズ部門では、12月15日紹介『トップ・オブ
・ザ・レイク』が作品賞、主演女優賞(エリザベス・モス)
の候補に挙がっている。
 その他に“American Horror Story: Coven”という作品が
ミニシリーズ部門で、作品賞と主演女優賞(ジェシカ・ラン
グ)の候補とされている。ラングは3年連続の候補(一昨年
には受賞)となっているもので、試写を観せて貰えない会社
の作品だが、かなり気になるところだ。
        *         *
 なお、ゴールデン・グローブ賞の授賞式は1月12日で、米
アカデミー賞候補の発表は1月16日、さらに例年紹介してい
るVES賞の候補は1月13日に発表される。

今年もこんな調子でグダグダやって行くつもりなので、よろ
しくお願いいたします。
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※試写会はまだだが、試写が予定されていない作品のサン※
※プルDVDを1枚鑑賞したので、その紹介。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『エージェント・ヴィノッド最強のスパイ』“एजंट विनोद”
2012年ボリウッド製作のスパイ映画。
主人公はインドの秘密諜報機関RAWのスパイ。彼は9つの
名前を使って世界を股に活動している。そんな主人公は相棒
の協力もあってパキスタンの秘密諜報機関ISIを出し抜き
数々の勲功を挙げていたが、その相棒がロシアでの潜入捜査
中に‘242’という謎の言葉を残して殺害されてしまう。
その相棒の死と残した言葉の謎を追って、主人公はモロッコ
の富豪の邸宅を訪れるが…。そこには医師を名告る謎の美女
など、様々な連中が集まっていた。そして捜査を続ける主人
公の前に、旧ソ連が開発したスーツケース大の核爆弾の存在
が浮かび上がる。
果たして事件の真相は、そして核爆弾の行方は? そこには
意外な黒幕の存在があった。
そして映画では、ロシア、モロッコから、ラトヴィア、南ア
フリカ、スイスなど、正しく世界を駆け巡っての撮影が行わ
れているようで、それぞれ特徴のある風物が次々に画面に登
場するものだ。

出演は、ボリウッド最強のアクションスターと呼ばれるサイ
フ・アリ・カーン、2013年3月紹介『きっと、うまくいく』
などのカリーナ・カプール。因に2人は実生活でも恋人同士
で、本作の撮影後に結婚したそうだ。
さらに2012年12月紹介『ライフ・オブ・パイ』に出ていたと
いうアディル・フセイン、2010年の東京国際映画祭で上映さ
れた『ラーヴァン』などに出演のラヴィ・キシャンらが脇を
固めている。
監督はシュリラーム・ラガヴァン、脚本はラガヴァンとアリ
ジット・ビシュワースという2人が担当している。また撮影
は『きっと、うまくいく』のC・K・ムラリーダラン、音楽
をカプール主演の2007年“Jab We Met”なども手掛けるプリ
ータムが担当している。
RAW、ISIという名称は昨年2月紹介『タイガー・伝説
のスパイ』にも登場したが、韓国映画における北朝鮮ともま
た違う感じで、なかなか微妙な印パ両国間の状況が垣間見え
るような物語が展開されていた。
その両者は、国家間は敵対しているものの紛争抑止のために
連携も図るという展開で、お互いの国民感情もそんなものか
なあという感じだし、さらにそこに陰謀を巡らす連中が存在
するというのも、それなりのお話という感じだった。
ただまあ、最近の欧米のスパイ映画は、VFXも多用した大
掛かりな作品が多いのに対して、本作ではVFXもあるが、
基本は生身のアクションと銃撃戦。さらにそのアクションも
香港映画のような派手さは期待できず、その辺で多少の物足
りなさが否めない感じはした。

公開は2月8日から、東京はシネマート六本木にて期間限定
(2週間予定)ロードショウとなる。


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井口健二