| 2013年02月28日(木) |
サバイビング・P、カレ・ブラン、探偵ヨンゴン、ノー・ワン・リヴズ、ジャーニー、タイガー、アニメミライ2013、オズはじまりの戦い |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『サバイビング・プログレス』“Surviving Progress” いま世界が直面している問題を読み解くドキュメンタリー。 本作は、1997年に“A Scientific Romance”というウェルズ の「タイム・マシン」を前提にした小説も発表しているイギ リス生まれカナダ在住の作家ロナルド・ライトが、2004年に 発表し、邦訳も出ているノンフィクション「暴走する文明」 を基にしているとのことで、作品にはライト本人も登場して 持論を述べている。 その趣旨としては、人類は5万年前から生物学的には進化し ておらず、その5万年前のままの人類が21世紀の地球を支配 していることへの危惧が語られているようだ。そこで本作で は、アマゾンの乱開発など人類が世界中で繰り広げている悪 行が紹介される。それはもうアマゾンの惨状などは目を覆い たくなる程のもので、訴えてくるものも大きい。 さらに作品では、人類の消費傾向に言及し、インドや中国の 国民がアメリカと同じ生活水準を求めたら地球は5個分あっ ても資源が足りないという現実が紹介される。そこで人類の 進むべき道として、スティーヴン・ホーキンス博士の「人類 は宇宙に進出すべきだ」とか、ジョージ・ルーカスの「人類 の遺伝子を組み替える」などの意見が述べられる。 ただしこのホーキング博士やルーカスの意見は、本作の制作 者たちは極論と見倣しているようで、本作の結論としては、 遺伝子学者デヴィッド・スズキが述べる「従来型の経済学は 脳梗塞状態」という意見や、霊長類学者ジェーン・グッドー ルの「地球上で最も知的な人類が、なぜ唯一の故郷を破壊す るのか」といった意見が提示される。 本作で紹介されているもののほとんどは、それなりに興味を 持っている人には既知のものが大半だと思われるが、それら を総合的に提示していることでは、そのようなことを知らな いでいる人たちにもアピール出来ると思える作品だ。ただそ れらが86分の上映時間の中に羅列的に提示されると、なかな か明確なものが見えてこない。 とは言え観ている内に、経済優先の世界の体制が地球破壊の 元凶であることは今まで以上に切実に感じられたもので、こ れはTPPには反対した方が良いのではないかとも思えてき た。そんな不況だ不況だと言いながら、海外旅行や携帯電話 に大金を注ぎ込ませている連中に、しっかりと見てもらいた い作品だった。
『カレ・ブラン』“Carré blanc” 試写状に「『THX1138』『時計じかけのオレンジ』の遺伝子 を受け継いだ近未来・暗黒譚。」と書かれた作品。 僕が観に行ったのは試写会の2回目だったが、試写の前に宣 伝の担当者と話していて「前回は観た人のほとんどが出てく る時にどんよりとした表情だった」と聞かされ、一体それは 何なのかと思ってしまった。それで僕が観たときは普段SF 映画を見慣れている顔ぶれと一緒だったのだが、僕自身も含 めて皆そんなにどんよりすることはなかった。 登場する近未来は、街路に人の姿もまばらな、恐らく人口は 減少傾向にあると思われる世界。そこでは何をやっているの か良く解らない企業らしきものが存在していて、主人公はそ こで部署の責任者の立場にいるようだ。そこには厳しい競争 原理もあるようで、部下たちには目標の達成が求められ、失 敗した時には厳しい制裁が待っている。 そんな未来の街には暴力が蔓延っているが、その被害者の死 体はただ黒い袋に詰められて運び去られるだけ。しかもその 黒い袋の行き着く先は…。さらに街には常に放送が流されて おり、そこでは子供の誕生が大々的に取り上げられる。その 一方で子供を隠して育てることには制裁が加えられることも 繰り返しアナウンスされている。 そんな典型的なデストピアの社会が、個々にはいろいろなエ ピソードもあるが、全体的には淡々と描かれている。ただし 暴力表現はそれなりに激しくて、それが1回目の観客をどん よりさせる原因だったかとも思えるが、引用された『時計じ かけのオレンジ』を初めて観た時の衝撃に比べると、多少の エスカレートはあっても衝撃は薄らぐものだ。 ただし、『時計じかけのオレンジ』が社会や体制に対する批 判と取れたのに対して、本作の批判の矛先は個人に向けられ ているようで、そこには『時計じかけのオレンジ』の映画化 が公開された1971年当時と現代との、人間関係の変化などが 反映されている感じもした。その点では暗澹とした気分にも なったものだ。 出演は、2007年3月紹介『ストーン・カウンシル』に出てい たというサミ・ブアジラと、2009年10月17日付「東京国際映 画祭」で紹介の『エイト・タイムズ・アップ』(公開題名: 七転び八起き)で映画祭の最優秀女優賞を受賞したジュリー ・ガイエ。 脚本と監督はCM出身で本作が長編デビューとなるジャン= バティスト・レオネッティ。因に監督は、本作を「SF映画 ではなく、ラヴ・ストーリー」と称しているようだ。
『探偵ヨンゴン/義手の銃を持つ男』“영건 인더 타임” 2011年10月紹介『エイリアン・ビキニの侵略』オ・ヨンドゥ 監督の新作。前作は多分にアマチュアの感覚だったが、本作 ではそれなりに商業映画の雰囲気になっている。それに監督 はかなりのSFファンのようだ。 物語の始まりは博物館の館内。そこで1人の考古学者が暴漢 に襲われる。そして物語の舞台はとある街中の探偵事務所に 移動。その事務所の看板には「どんな些細な仕事も最善を尽 くします」とあるが、仕事は少なく探偵は借金で首が回らな いようだ。 そんな探偵事務所にフードで顔を隠した女性が現れる。その 女性は「ある男を殺して欲しい」と依頼するが、もちろん殺 人などは受けられるはずがない。しかし断られて出て行く姿 に何かを感じた探偵はその後を追いかけるが、その目の前で 女性は拉致され、しかもその死まで目撃してしまう。 そんな罪悪感から探偵は女性が依頼した案件の裏を探り始め るのだが、調査によって辿りついた博物館で探偵は、死んだ はずの女性本人に出会ってしまう。その裏には考古学者が発 見したあるものが介在しているというのだが…。そこには、 それを狙う悪の組織も暗躍していた。 テーマ的には、2012年10月紹介『LOOPER』に通ずるところが あって、それがちょっと似たような展開になるところも面白 いものだ。もちろん製作時期などから考えてアイデアは全く 別個に生まれたものであることは明らかだが…。ハリウッド 映画より本作の方が正統派なのも気に入った。 因に製作者の欄に林海象監督の名前があるが、これはオ監督 が2011年の「ゆうばり」で来日した際に、林監督から「探偵 映画なら資金を出す」と言われたとのこと。そのため本作の 探偵が着るジャケットの胸には「5」と書かれており、彼は 2005年9月紹介『探偵事務所5』の一員なのだそうだ。 出演は、監督のデビュー作からの3作と他に2012年8月紹介 『高地戦』にも出ていたというホン・ヨングンと、3月紹介 『ミッドナイトFM』に出ていたというチェ・ソンヒョン。 他に監督の前作に出ていたハ・ウンジョン、ペ・ヨングンら が脇を固めている。 韓国映画で探偵ものは珍しいのだそうで、そのせいか出だし が多少もたもたしている感じがした。まあその感じは後半は 解消されるが、ただ題名にもなっている義手の話が作品の中 でほとんど語られず、その機能もあまり有効には使われてい なかった。その辺で続編もあると思えたものだ。
『ノー・ワン・リヴズ』“No One Lives” 2002年3月紹介『Versus』や、2003年11月5日付「東京国際 映画祭」で紹介『スカイハイ劇場版』などの北村龍平監督に よるハリウッド進出第2弾。 プロローグは、森の中を逃げる若い女性の姿。彼女は誘拐拉 致の被害者のようだ。続いて物語は凶悪な窃盗集団の犯行を 描き、その1人が酒場で目を付けたカップルに襲い掛かる。 しかしそれが飛んでもない結果を生むことになる。 と書くと大体話は読めてしまいそうだが、映画はその予想を 上回る強烈さで進行する。何しろ男が滅法強い。それは本来 は犯罪者である人物だが、その男が凶悪な強盗団に向かって 容赦なしの鉄槌を加えて行く。 ここで相手も凶悪な犯罪集団だから、殺されたって自業自得 ということで、観客は男の犯行を良心の呵責なく楽しめると いう寸法の作品だ。しかもその犯行はあまり残酷でもないか ら、ある種痛快にも観ていられる。 出演は、2012年9月紹介『推理作家ポー最後の5日間』など のルーク・エヴァンスと、8月紹介『ヴァンパイア』などの アデレイド・クレメンス。 他に、TVの『スター・トレック:エンタープライズ』など のデレク・マジャル、2011年6月紹介『スーパー8』に出て いたというボウ・ナップ、2009年『トランスフォーマー/リ ベンジ』などのアメリカ・オリーヴァらが脇を固めている。 なお本作は、昨年12月紹介『サイレント・ハウス』、1月紹 介『ダーク・タイド』などと共に、「渋谷ミッドナイト・マ ッドネス」の1本として公開されるもので、その中ではもう 1本『エリア52』“Crawlspace”という作品も試写が行わ れた。 この作品は、突然危機状態が報告されたオーストラリア駐留 の米軍基地を舞台に、そこに突入した特殊部隊が思わぬ敵に 遭遇するというもの。その敵は邦題にも暗示されているもの だが、映画はちょっと捻りが効かされていた。 出演は、TV『CSI:マイアミ』などのアンバー・クレイ トンと、昨年5月紹介『アイアン・スカイ』に出ていたとい うペータ・サージェント。 因にこの作品の原案・脚本・製作・監督・プロダクションデ ザインを手掛けたジャスティン・ディックスは、『スター・ ウォーズ/エピソード1』から、昨年5月紹介『ラブド・ワ ンズ』まで関わったという人で、監督は本作がデビュー作。
『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』 “Don't Stop Believin': Everyman's Journey” 1973年に活動を開始したアメリカのロックバンドが、新たな ヴォーカルを迎え入れるまでを描いたドキュメンタリー。 バンドには、元はスティーヴ・ペリーというカリスマと言わ れたヴォーカリストがいて、絶大な人気を誇っていた。しか し1998年にペリーが脱退。以後は2人のヴォーカルを迎える がいずれも短期で脱退してバンドは停滞していた。 そしてバンドは1年間の活動停止を宣言。新たなヴォーカリ スト探しが行われる。そこでは世界中にごまんとあるジャー ニーのトリビュートバンドの検索に始まり、徐々に範囲を広 げながら探索が続けられる。 そして、インターネットのYoutubeに映像がアップされてい た1人のヴォーカリストが発見される。彼の名前はアーネル ・ピネダ。何と彼はフィリピン・マニラに住むスラム街出身 のアジア人だった。 前回紹介の『シュガーマン』も奇跡のような歌手の姿が描か れていたが、本作のピネダも負けず劣らずだろう。もっとも Youtubeというとジャスティン・ビーバーもいるから、最早 奇跡とも呼べないのかな。 とは言うものの、長い歴史を持つアメリカの人気ロックバン ドにアジア人が参加するのだから、その緊張感などは尋常で はないはずで、映画はその辺も丁寧に伝えてくれている。た だし本人はずっと試用期間と思っていたようだが。 それでも南米のチリで始まったコンサートは熱狂的に迎えら れ、全米を回ってついにハリウッドボウルへと辿り着く。そ こはファンも評論家も最も厳しい評価を下す場所なのだそう だ。そこに待っていたのは… これもまた感動的な展開へと映画は進んで行く。それは外部 から見れば当然のことのようにも見えるが、実際にそれを受 け入れるバンドのメムバーや、さらに彼らを取り囲むファン の存在など、まさに奇跡とも言えるものだ。 なお映画のエンディングロールで、出演者の欄にFeaturing として、先にニール・ショーン、ジョナサン・ケイン、ロス ・ヴァロリー、ディーン・カストロノヴォのメムバー4人が 1枚で出る。 そして字幕を変えて、Introducingとしてアーネル・ピネダ の名前が登場する。そんな小細工も嬉しく感じられる作品だ った。
『タイガー・伝説のスパイ』“एक था टाइगर” 「ボリウッド4」と題されて連続公開されるインド最新映画 の第1弾。2012年のインド映画でNo.1ヒットを記録し、歴代 でも2位に輝いているという作品。 物語の背景は印パ戦争。1999年ムシャラフ前パキスタン大統 領の就任によって表向きは協調路線が取られるようになった 印パ関係だが、インドの情報分析局RAWと、パキスタン軍 情報機関ISIの間では水面下の激しい戦いが続いていた。 そんな中で主人公はタイガーのニックネームを持つRAWの 伝説的諜報員。今回もイラクに単身赴き、ISIに寝返った 諜報員を鮮やかな手口で始末したタイガーには、休む暇もな く次の任務が与えられる。 ところがその任務はアイルランドにいる大学教授の身辺調査 という地味なもの。実はインド出身のその教授にはミサイル 技術の流出の疑惑が持たれていたのだ。そこでタイガーは、 ジャーナリストに成り済まし教授に近付こうとする。 ところが人付き合いの悪い教授はなかなかタイガーの話に乗 ってこない。その勝手の違いに戸惑ったタイガーは、まずは 教授の住まいに出入りする若いインド系の女性に接近して、 教授との仲介を頼む作戦に出るが… と、ここまでですでにイラク、アイルランドなどの国名が出 ているが、この後の展開でもトルコ、キューバとまさに世界 を股にかけたタイガーの活躍が描かれて行く。しかもそれは 印パ関係も微妙に絡んだものになる。 主演は、1999年の秀作『ミモラ心のままに』などのサマール ・カーンと、カーンとは一時浮名を流したこともあるという カトリーナ・カイフ。インド本国では2人の共演ということ でも話題になったそうだ。 脚本と監督は、ドキュメンタリーの出身でこれまでの作品は 社会派ドラマが中心だったというカビール・カーン。本作は 監督が今までと違う娯楽大作に挑戦したもので、その結果は No.1ヒットに繋がったものだ。 007のようなド派手なアクションというものではないが、 格闘技のシーンなどはそれなりに撮られていたし、インド映 画特有の歌と踊りも特には違和感を感じなかった。その辺の バランスも巧みということだったのだろう。
『アニメミライ2013』 文化庁が日本の若手アニメーターを育成する目的で、2010年 に開始した国策事業によって4本のアニメーション作品が制 作され、3月2日から一般公開される。その完成披露試写会 が行われた。 作品は、事前審査に各アニメーション制作会社から応募され た企画の中から4作品が選定され、そこに国家予算が投入さ れて制作されたというもの。そこには様々な条件も付けられ ているが、試写会での挨拶などを聞くとアニメーターの育成 には効果があるようだ。 しかしその技術的な部分に関しては僕は評価できないので、 以下は各作品の紹介をさせてもらう。 『龍-RYO-』 2009年10月紹介『アフロサムライ』などのゴンゾの制作で、 幕末期の蝦夷を舞台にした作品。歴史ものなので事実関係は いろいろあるが、物語では剣戟アクションなどが描かれてい た。しかし僕には、それ以上のことはよく判らなかった。 『アルヴ・レズル』 有限会社ZEXCSの制作で、電脳リンクが完成された未来世界 を舞台にした作品。しかしリンクの不具合で大勢の意識が失 われる事態が生じる。そしてそこから復帰した人格は…。電 脳ものとしては練りもあって面白かったが、作品はシリーズ の開幕編という感じもした。 『リトルウィッチアカデミア』 2011年に設立された株式会社トリガーによる初のオリジナル 作品。幼い頃に見た魔女に憧れて名門魔法学校に入学した少 女の話。しかし憧れた魔女は異端者だった…? この作品も シリーズの開幕編かな。上記の作品よりさらにその感が強い 作品だった。 『デス・ビリヤード』 2009年7月紹介『サマー・ウォーズ』などのマッドハウスの 制作で、謎めいたプールバーに迷い込んだ男と老人が、運命 を賭けたビリヤードを戦う。これは本作だけで独立している 作品。いろいろなビリヤードのテクニックを含むいろいろな アイデアも楽しめた。 4作品のお話はそれぞれ捻りもあって面白かったが、特に実 験的な手法が駆使されているという訳ではなく、これが日本 のアニメ文化という感じの作品だった。でもまあ目的がクリ エーターの育成ではなく、アニメーターの育成なのだからこ れはこれで良いのだろう。 挨拶の中で、制作を終えたアニメーターが成長していたとい う発言があって、自分の好きなJリーグで言うと、年代別の 代表に選出されたという感じなのかな。そこでの経験などが 活かされて、日本のアニメ界全体が成長して行くということ で納得した。 来年もできたら観たいものだ。
『オズ はじまりの戦い』“OZ The Great and Powerful” アカデミー賞受賞の主題歌「虹の彼方に」でも有名な1939年 の名作『オズの魔法使』(映画の邦題は送り仮名がないそう だ)の前日譚。その映画化をディズニーと、2002年5月紹介 『スパイダーマン』などのサム・ライミ監督が実現した。 物語は、カンザス州の巡業サーカス団にいた奇術師の男が、 ふとしたことでオズの国に到着。そこで伝説のオズの魔法使 いと間違われた男は、魔女たちの争いに巻き込まれるが…と いもの。実はこのお話は、ライマン・フランク・ボームが著 したオリジナルのシリーズ14冊の中にはないものだ。 しかし今回の物語は、シリーズのあちこちに語られるオズの 魔法使いのエピソードから構築されており、その全てのお話 は原作のオズ・シリーズに融合するものになっている。その 展開は見事だった。因に映画の原作表記は、1939年版と同じ “The Wonderful Wizard of Oz”だったようだ。 原案と脚本は、2000年ジェット・リーが主演した『ロミオ・ マスト・ダイ』の原作者ミッチェル・カップナーと、2011年 8月紹介『ラビット・ホール』でトニー賞とピュリツァー賞 を受賞した劇作家のデヴィッド・リンゼイ=アベアー。脚本 はボームの原作を周到に研究した成果と言える。 出演は、ライミ版『スパイダーマン』でハリー・オズボーン 役のジェームズ・フランコ、昨年11月紹介『テッド』などの ミラ・クニス、昨年8月紹介『ボーン・レガシー』などのレ イチェル・ワイズ、昨年1月紹介『マリリン・7日間の恋』 などのミシェル・ウィリアムス。 映画の始まりがモノクロ・スタンダード(ただし3D)の画 面なのは、1939年版へのオマージュとすぐに判るが、その前 のタイトルの出し方は何となく無声映画を思い出させる。そ の辺は1910年にボーム自身が映画化した作品への思いも伺わ せた。本作はそれほどの歴史に支えられた作品だ。 しかし日本では、原作の知名度も1939年の映画以外は高いと 思えないし、劇団四季『ウィキッド』は評価されているよう だが、その評価が本作に繋げられるかどうか。映画は全世界 一斉公開で宣伝の時間が短いのが多少気掛かりだ。
| 2013年02月20日(水) |
コズモポリス、野蛮なやつら、ふたたびの加奈子、コドモ警察、食卓の肖像、フリア/よみがえり少女、孤独な天使たち、シュガーマン |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『コズモポリス』“Cosmopolis” 翻訳もされているアメリカの作家ドン・デリーロの原作を、 カナダ出身のデイヴィッド・クローネンバーグ監督が映画化 した作品。ノーベル文学賞候補には毎年のように挙げられて いるという原作者だが、発表された原作が映画化されるのは 今回が初めてのようだ。 物語の主な舞台は、大型の乗用車(リムジン)の中。その車 内にはインターネットからトイレまで、生活に必要な全てが 揃っており、主人公はその車内で金融に関わる日々の業務も 行っている。そんな主人公は相場を先読みする天分を持ち、 彼はそれで巨万の富を得ていた。 ところがある日、主人公は人民元の相場が読めないことに気 付き、自分が現実を知らないことに気付かされる。そして彼 はリムジンを街の反対側にある理髪店に向かわせるのだが、 その日の街には大統領の訪問が予定され、道筋は交通規制と デモ隊でごった返していた。 という状況の中で、主人公の疎外感や絶望感が描かれ、破滅 に向かって行く姿が描かれる。 主演は『トワイライト・サーガ』などのロバート・パティン スン、共演はジュリエット・ビノシェ、マチュー・アルマリ ック、サマンサ・モートン、ポール・ジアマッティ。 さらに、昨年9月紹介『ドリームハウス』に出演のサラ・ガ ドン、2011年10月紹介『リアル・スティール』などのケヴィ ン・デュランド、そして2010年7月紹介『魔法使いの弟子』 などのジェイ・バルチェルらが脇を固めている。 台詞には、人民元に始まって前立腺非対称など通常使用され ない言葉が飛び交うが、物語自体はクローネンバーグにして は明確で、主人公の心情なども理解し易かった。因に脚色も クローネンバーグが手掛けているが、物語も、台詞もほとん どが原作の通りなのだそうだ。 一方、車中がオフィスというのは昨年5月紹介『リンカーン 弁護士』にも出てきた設定だが、本作のそれはさらに機能化 されたもので、この辺は原作者を含むアメリカ人の憧れなの かな。 ただその反映でもある理髪店の椅子が、台詞ではcar chair と言っていたのに、字幕は「車椅子」。これでは身障者用の wheelchairと誤解されそうで、せめて「クルマ椅子」くらい にしておいて欲しかったところだ。
『野蛮なやつら/SAVAGES』“Savages” 2007年11月紹介『ボビーZ』の原作者ドン・ウィンズロウが 2010年に発表した小説を、2009年4月紹介『ブッシュ』など オリヴァ・ストーンの脚本(原作者及び製作総指揮のシェー ン・サレルノとの共同)と監督で映画化した作品。 原作は、スティーヴン・キングが「セミオート版『明日に向 って撃て!』」と絶賛したものだそうで、アウトローの2人 の男性と、彼らに等しく愛される1人の女性を巡って、刹那 的な彼らの青春が描かれる。 その物語の中でアウトローの2人が行うのは「世界一の大麻 の栽培」。幼馴染だった2人は、一方は植物学者に、他方は 傭兵にと生き方を違えたが、その傭兵が戦地アフガニスタン から持ち帰った大麻の種を植物学者が栽培し、最高級の大麻 を作り出したのだ。 その大麻は1500万人の顧客を持つビッグビジネスとなり、彼 らを大富豪にする。そしてその収益で植物学者はアフリカや アジアに慈善団体を設立。一方の傭兵は今だに戦地を渡り歩 いていた。そんな2人がいつも帰り着くのは、本作の語り部 でもある女性の許だ。 しかしそんな彼らに暗雲が接近する。彼らのビジネスにメキ シコの麻薬組織が提携を迫ってきたのだ。そこには殺し屋の 影もちらつく。そこで身の危険を感じた彼らは、ビジネスを 捨てて国外逃亡企てるのだが、非情な組織はそれも許しては くれなかった。 出演は、1月紹介『アンナ・カレーニナ』にも出ていたアー ロン・テイラー=ジョンスンと、昨年4月紹介『バトルシッ プ』などのテイラー・キッチュ、そして2011年7月紹介『グ リーン・ランタン』などのブレイク・ライブリー。 さらにベニチオ・デル・トロ、サルマ・ハエック、ジョン・ トラヴォルタ、エミール・ハーシュらが脇を固めている。 上映時間は2時間9分の作品だが、終始緊張感の連続でそれ は映画の醍醐味を味あわせてくれる。しかもインターネット なども駆使した展開もスマートで、正にエンターテインメン トという感じがした。 南カリフォルニアからメキシコまでの砂漠やリゾート海岸な ど景色もふんだんに登場し、その明るい雰囲気の中で凶悪な 犯罪や醜悪な人間模様が描かれる。しかしその中にちょっと 救いが描かれているのも、魅力的な作品だった。
『桜、ふたたびの加奈子』 2時間ドラマなどに多く作品を提供しているミステリー作家 の新津きよみが、2000年にハルキ・ホラー文庫から発表した 原作を、2010年『飯と乙女』でモスクワ国際映画祭・最優秀 アジア映画賞を受賞した栗村実監督が映画化した作品。 小学校の入学式の日にふとしたことで我が子を失ってしまっ た女性が、その死を直視できずに我が子の影を追い求め、知 り合った女性が生んだ子供を我が子の生まれ変わりと信じ込 んでしまう姿を描いて行く。 それは夫にも理解されず、周囲の人々の理解も得られないの だが、彼女は少しずつその証拠を見出して行く。果たしてそ の赤ん坊は本当に我が子の生まれ変わりなのか。そしてその 確証を得るため、彼女はある行動に出るが…。 これに私生児を生んだ女子高校生の話や、その生徒を見守る 教師の話などが絡んで、生まれ変わりを信じる女性の数奇な 物語が展開されて行く。 出演は広末涼子、稲垣吾郎。この2人が子供を失った夫婦を 演じ、さらに2009年2月紹介『GOEMON』などの福田麻由子、 ジャニーズJr.の高田翔、吉岡麻由子、江波杏子らが脇を固 めている。 実は試写の前に少し内容を知ってしまって、見るからにお涙 頂戴になりそうな設定には、個人的に多少観るのをためらう 気持ちも生じる作品だった。しかし観終わっての感想で言う と、あまりベタベタと感傷的に描くことはせず、むしろファ ンタシーとして的確に捉えられた作品と言えそうだ。 それは最近の日本の小説にありがちな、多少あざといくらい にテーマを積み重ねて、これでもかという感じで観客に迫っ てくる物語ではある。しかしそれを映像化に当っては脚本も 手掛けた監督が巧みにいなして、見事に落ち着きを持った作 品に仕上げていた。その感性は評価したい。 また、いつ何が起きるのだという緊張感を孕んだ前半の描き 方や桜の花びらを使ったシーンの巧さ、さらに水面に浮かぶ 落ち葉などで時間経過を描く演出も、定番の手法とは言いな がらも最近の日本映画ではなかなか味わえない映画らしさを 感じさせた。 因に栗村監督は、日本の大学を出た後に渡米し、ハリウッド にあるカレッジの映画学科を修了したそうで、そんな感覚が 本作にも反映されているのかもしれない。また俯瞰シーンの 撮影には、ハリウッドからそのためのスタッフを呼んだりし ているそうだ。
『コドモ警察』 TBS系列の深夜ドラマ枠で2012年4月−6月に放送された パロディ刑事ドラマの映画版。 横浜を舞台に、世界征服を目論む犯罪組織を追う神奈川県警 大黒警察署特殊捜査課の刑事たちの活躍を描く。と言っても この刑事たちは、犯罪組織の罠に嵌って吸わされた特殊ガス により子供の姿とさせられており、その子供の姿と大人の刑 事としての活動とのギャップがパロディと描かれている。 そして今回の事件は、犯罪組織「レッドヴィーナス」を名告 る凶悪事件が相次ぐ一方で、その事件の有様が組織の犯行に そぐわないと判断した特殊捜査課と本庁との確執。さらに来 日した某国大統領の警護を巡る対立などが描かれ、組織を追 い詰めて行く刑事たちの活躍が描かれる。 とは言うものの、主役を演じるのは元々が子役たちだから、 派手なアクションなどができる訳もなく、お話も甘いところ だらけという作品だ。それにパロディの部分も設定を活かし 切っているとは言い難く、脚本をちゃんと練ればもっと良い 作品が生まれるのではないかという気持ちも生じる。 しかし本作に期待されるのは、そのような高いレヴェルでは なく、恐らくは健気な子役たちに感じる癒しであり、絶対に 殺伐としたものにはならないであろうという安心感だと考え られる。従って本作は、テレビ版を完璧に踏襲しなくてはな らない宿命を持つものなのだ。 その点において本作は、充分にその目的を果たしているし、 それはテレビの視聴者を映画館に呼び寄せる目的には応えて いるものと言える。まあそれ以上でもそれ以下でもない作品 ではあるが…。 出演は、鈴木福、勝地涼、本田望結、鏑木海智、青木勁都、 秋元黎、相澤侑我、竜跳がシリーズと変わらず特殊捜査課の メムバーとして登場。またマリウス葉、吉瀬美智子が本庁の 刑事らを演じている。 さらに映画版のゲストとして北乃きい、宍戸開、小野寺昭、 山本裕典、指原莉乃、佐藤二朗、ムロツヨシ、柳原可奈子ら が出演。脚本と監督は、シリーズも手掛けている2009年8月 紹介『大洗にも星はふるなり』などの福田雄一が担当した。 鈴木福のデカ長役は『太陽にほえろ!』の石原裕次郎を髣髴 とさせるし、本田望結の女刑事役もニヤリとさせられるほど 巧みに演じられている。それに対する大人の俳優たちの演技 が、却って子供っぽく見えるのも面白いところだ。
『食卓の肖像』 1968年に起きた「カネミ油症事件」。その事件の現在に至る 経緯を追ったドキュメンタリー。 1968年というと僕は技術系の大学を目指して受験勉強をして いた頃で、こういう事件には関心はあったはずだ。それで実 際に事件のことは憶えてもいるのだが、その後の経緯につい てはとんと記憶がなかった。それは勿論、カネミ油と聞いて 油症事件を思い出す程度の記憶はあったが。 それが今回このドキュメンタリーを観させて貰って、その後 の経緯が何故ここまで関心を呼ばなかったのか、その背景に も疑問を感じざるを得ない状況を知ることになった。 映画の冒頭には当時の新聞の切り抜きが提示され、事件後の 保健所の統計で被害者の数が14000人を超えていたことが明 らかにされる。ところが現在、事件の被害者と認定されてい る患者の人数は2000人足らずだという。その理由は一体何な のか? しかも、油症の原因がPCBとダイオキシンの複合であり、 当時すでにダイオキシンの危険性やその影響が判明していた にも拘らず、その後の患者認定がなされないばかりでなく、 認定患者の子供が明らかにその影響による障害を持っていて も、その被害者認定は行われていないようだ。 その理由は一体何なのか? 作品は、そんな油症被害者の姿を、2000年から10年に亙って 追いかけたもので、作品の中では敢えて企業責任の追求など はせずに、現在の油症被害者の置かれている状況や、そこに 至った経緯などが描かれている。そして現在もその後遺症に 苦しめられている実態が報告される。 監督は、早稲田大学シネマ研究会の出身で、企業のPR映画 の製作などに携わっていたという金子サトシ。 金子は2000年に油症被害者の現状を知り、現在はカネミ油症 被害者支援センター運営委員を務めながら本作を自主制作。 その作品が2011年キネマ旬報ベストテン文化映画の第10位に 選出され、今回の一般公開に漕ぎ着けている。 因に本作は、2010年8月に東京で最初の上映が行われたが、 2012年8月になって国会では「カネミ油症患者に関する施策 の総合的推進に関する法律」が可決、成立されており、本作 が世に問うた事に対しては反響があったようだ。 しかし事件はそれで決着するものではなく、真に被害者の救 済が実行されたのかなど、今後にも問題は山積のはず。そこ は是非とも本作の続編で報告をしてもらいたいものだ。
『フリア/よみがえり少女』“Dictado” 昨年3月紹介[●REC]シリーズや2008年9月紹介『永遠 のこどもたち』など、常に鮮烈な衝撃を提供してくれるスパ ニッシュ・ホラーの最新作。 主人公は、妻と共に小学校に勤務する男性教師。しかし夫婦 はなかなか子供に恵まれず、今回も一時休職していた妻は現 場復帰の日を迎える。そんな2人が出勤した学校の入口で、 主人公は1人の中年男性に呼び止められる。 その男性は主人公が幼い頃に兄弟のように育った友人で、男 性は彼に7歳の娘に会ってくれと懇願する。しかし主人公に は特別な思いがあるらしく、その願いは拒絶されてしまう。 そして帰宅した男性は… その男性のニュースを見た主人公は妻と共に男性の家に向か い、そこで1人の少女と出会う。そして愛くるしい少女の姿 に魅了された妻は、身寄りのない少女を引き取ることを主人 公に求めるが、それが主人公を恐怖に陥れて行く。 原題は「綴り方」の意味で、少女が何気なく歌う「綴り方の 歌」が、主人公が幼い頃に犯した重大な罪に対する決定的な 事実を伝えて行くことになる。その事実がフラッシュバック によって徐々に明らかにされて行く。 スパニッシュ・ホラーの中には、1977年『ザ・チャイルド』 に始まる無垢な子供をテーマとする伝統的な流れがあるのだ そうで、本作でも少女が行う何気ない仕草などが、主人公に 恐怖を与える展開が描かれている。 それが邦題にもなっている「よみがえり」現象を暗示して行 くものだが、本作においてはそれが超常的なものか否か、そ の辺を微妙に描いているのも巧みなところで、敢えてスパニ ッシュ・ホラーに一石を投じる作品とも言えそうだ。 出演は、2008年7月紹介『ボーダータウン・報道されない殺 人者』に出ていたというファン・ディエゴ・ボトと、2012年 2月紹介『私が、生きる肌』に出ていたというバルバラ・レ ニー。そして少女役を本作で大抜擢されたマヒカ・ペレスが 演じている。 物語は、2011年に“Eva”というSF映画の脚本も手掛けて いる劇作家セルジ・ベルベルの原案に基づくもので、本作は その原案から、2011年1月紹介『悲しみのミルク』にベルリ ン金熊賞をもたらした製作者のアントニオ・チャベリアスが 脚色、監督した。 上記の『桜、ふたたびの加奈子』に続けて「よみがえり」と いうか、「生まれ変わり」がテーマの作品で、似たテーマが 続くのも不思議な感じがするものだ。
『孤独な天使たち』“Io e te” 1987年『ラストエンペラー』で米アカデミー賞の監督賞を含 む10部門を独占したイタリアの名匠ベルナルド・ベルトルッ チ監督が、2003年『ドリーマーズ』の後に病魔に蝕まれ一時 は引退も考えたという状況から復帰した10年ぶりの作品。 主人公は15歳の少年。内向的で友達もいない少年には、学校 行事のスキー旅行が重荷になっている。しかし両親には期待 され、参加を表明した時には大喜びされてしまうのだが、彼 には密かに巡らした別の計画があった。 それは彼の住むアパルトマンの地下室で、普段は人の出入り の全くない物置部屋に食料などを持込み、旅行期間の1週間 をそこに隠れ住むというもの。そして旅行費用に貰った金で 準備を整え、首尾よく隠れることに成功するのだが… ネット三昧などで気楽に過ごし始めた物置部屋に闖入者が現 れる。それは父親が前妻との間に授かった義姉で、主人公の 母親との折り合いが悪く家出した女性。しかも彼女は麻薬に 犯され、それを抜くための禁断症状の最中だった。 こうして時々架かってくる母親の電話には巧みに応対して、 のんびり過ごすはずだった1週間は、突然の修羅場と化して 行くことに…。そんな社会の入口で逡巡する若者が第1歩を 踏み出す成長の姿が描かれる。 オスカー受賞作や1972年『ラストタンゴ・イン・パリ』など で知られるベルトルッチ監督には、2003年作や1996年『魅せ られて』のような若者を主人公にした系譜もあり、本作はそ の系譜に載るもののようだ。 それにしても1941年生まれの監督が、実に瑞々しい作品を生 み出したものだが、しかもその中にはインターネットや携帯 電話なども駆使されており、若者にも取り付きやすい作品に 仕上げられているのはさすがという感じだった。 出演は、映画初出演のヤコポ・オルモ・アンティノーリと、 写真家としても認められているというテア・ファルコ。共に オーディションで見出された2人が、見事に監督の期待に応 えている。 なおベルトルッチ作品では、1968年発表で日本では劇場未公 開のままソフト化もされていなかった『分身』“Partner.” の公開も行われる。この作品はドストエフスキーの原作を映 画化したものだが、制作当時のヌーヴェルヴァーグの影響を 色濃く受けており、面白いものだった。 この他にも、1962年発表『殺し』“La commare secca”と、 1964年発表『革命前夜』“Prima della rivoluzione”の、 ディジタルリマスター版による再上映も行われるようだ。
『シュガーマン 奇跡に愛された男』 “Searching for Sugar Man” サンダンス映画祭で観客賞と審査員特別賞をW受賞し、モス クワ国際映画祭では最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞、 24日に発表される米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー部 門の候補にも挙げられている作品。 1970年代に2枚のアルバムだけを残し、忽然と姿を消した幻 のシンガー=ロドリゲスを追った音楽ドキュメンタリー。 ロドリゲスはデトロイトの川沿いのバーで歌っているところ を音楽プロデューサーに見出され、レコード会社と契約して 2枚のアルバムを発表する。しかしそのアルバムはアメリカ 国内では全く売れず、レコード会社からも契約を解除されて しまう。 こうしてロドリゲスの姿はアメリカの音楽シーンから消えて しまうのだが、彼の歌声は地球の裏側の南アフリカで流れ続 けていた。その経緯は定かではないが、南アでは3社のレコ ード会社からアルバムが発売され、その総数は100万枚に達 していたとも言われている。 そんなロドリゲスだが、南アで発売されたレコードには写真 が1枚あるだけで経歴などの紹介はなく、南アのリスナーに とってその歌手は謎の人物であった。そしてその歌手には、 ヒット曲が出ずにライヴも上手く行かず、その舞台上でピス トル自殺したという都市伝説まで生まれてしまう。 しかし1990年代、1人のジャーナリストがロドリゲスの跡を 追い始める。それはまず印税の行方から調べるが、金の流れ はあっという間に不明になってしまう。それでも軍隊時代に ロドリゲスの代表曲に由来するあだ名を持った愛好家の男性 が、ある歌詞の中からヒントを見つけ出す。 こうして彼らは1歩1歩、ロドリゲスに近づいて行ったが… その結末はまさに感動のシーンを生みだすことになる。 映画の題名にもなっている「シュガーマン」は麻薬売人を示 す淫語で、そこから判るようにロドリゲスの歌詞には反体制 的な表現が多い。それは映画の中でも「ボブ・ディランがソ フトに聞こえる」とも表現される程だ。そんな歌は1970年代 のアメリカではもはや時代遅れだったかもしれない。 しかし反アパルトヘイトの運動が高まる南アは、まさにその 歌詞が歌い継がれる状況だったのだろう。僕自身、70年代は 昨日まで反戦歌を歌っていたフォークシンガーたちが、あっ という間に歌謡曲歌手に変身する姿を見てきた者としては、 ここに描かれる物語には感動以上のものを感じてしまった。
| 2013年02月16日(土) |
第187回(Star Wars,Gallowwalkers,Vampire Academy,Ghost Graduation,Insidious Chapter 2,Shrinking Man,VES winner) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※ ※僕が気になった映画の情報を掲載しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 今回もこの話題から。2015年スタートの新“Star Wars” 3部作に関して、また少し動きがあった。 新3部作の内、少くとも嚆矢となる“Star Wars: Episode �察匹隆篤弔�『スター・トレック』も手掛けるJ.J.エイブラ ムスに決まったことは、前回第186回で報告したが、今回は 脚本家について具体的な報道が行われた。 この脚本家については、1月1日付第184回で昨年11月に 『トイ・ストーリー3』などのマイクル・アーントの起用が 発表されたことを報告したが、同時にローレンス・カスダン とサイモン・キンバーグの契約も報告していた。 この契約に関しては、さらに“Episode �次匹竜嗚椶縫�ス ダン、“Episode �宗匹竜嗚椶縫�ンバーグとの情報も流れ、 新3部作は一気に撮影して3年連続で公開されるのではない か…との観測も登場したものだ。 これらの噂について今回は、ディズニー社CEOのボブ・ アイガーがテレビ局CNBCのインタヴューに公式に答えた もので、そこでは新3部作の公開のスケジュールなども明ら かにされている。 その回答によると、まず新3部作の公開は以前の3部作と 同様に6年掛けて行われるとのこと。つまり“Episode �察� の2015年公開に続いては、“Episode �次匹慮�開が2018年、 “Episode �宗匹慮�開は2021年になるということだ。 それなら、なぜカスダンとキンバーグのベテラン2人が契 約されたのかというと、実はこの契約は3部作の本体のため ではなく、3部作と並行して製作される独立作品の製作に関 わるものだとのこと。そのどちらもがジョージ・ルーカスの 原案に基づくとのことだ。 このような“Star Wars”に関連した独立作品では、過去 にも1984年に“The Ewok Adventure”(邦題:イウォーク・ アドベンチャー)と、1985年には“Ewoks: The Battle for Endor”(エンドア 魔空の妖精)という作品が、アメリカ国 内はTVムーヴィとして公開され、その他の国では劇場公開 がされている。 また映画以外の出版では、正に星の数ほどの小説やコミッ クスが発表されているものだ。そこで今回は“Star Wars” ワールドを構築する独立作品が映画で、しかも2本も並行し て製作されるという発表がされたことになる。 その具体的な物語などは、新3部作を含めて全く公表され ていないが、噂ではカスダンが担当するのは若き日のハン・ ソロの物語で、キンバーグはボバ・フェットを主人公にした 作品を執筆するのではないかとのこと。 因に、ハン・ソロに関しては“Episode �検匹謀仂譴垢覦� 前の行動は明らかでないので、恐らくはチューバッカとの出 会いや、ミレニアムファルコンを手に入れるまでの経緯が描 かれることになりそうだ。 一方、ボバ・フェットに関しては先に誕生の経緯や父親の 経歴などは紹介されているものだが、ボバ・フェット本人に 関しては謎も多く、それらに関わる冒険が描かれることにな ると噂されているようだ。 いずれにしても新3部作の最初の作品は、2015年初夏の公 開が決まっており、脚本と監督が確定して、そろそろ主要な 配役の発表や、撮影開始のニュースが待ち遠しいところだ。 * * ここからはいろいろな情報を紹介しよう。 まずはベルリンで開催されていたヨーロピアン・フィルム ・マーケットにおいて、2005年2月紹介『ブレイド3』など のウィズリー・スナイプス主演による“Gallowwalkers”と いうSF作品がバイヤー向けに上映された。 この作品は、2005年に“Cold and Dark”というホラー作 品を発表しているアンドリュー・ゴスの脚本・監督によるも ので、内容は、神との契約を破った尼僧の子として誕生し、 その呪いを背負ったガンマンの主人公が、自らの銃で殺した ギャングたちのゾンビに復讐される…というのも。この内容 でSFと銘打たれている。 なお脚本は、監督の前作の脚本にも参加しているジョアン ナ・リーとの共同となっているが、この脚本家は昨年8月に “Romeo Spikes”というファンタシー作品で小説家デビュー も果たしているようだ。因にこの小説は、悪の権化との対決 を描いたかなり壮大なスケールのものだそうだ そして今回上映された作品だが、実はこの作品は、2010年 にスナイプスが所得税の虚偽申告の罪で禁固3年の判決を受 け、ペンシルヴェニア州の連邦刑務所に収監される直前まで 撮影されていたもので、その影響もあってのお倉入りが余儀 なくされていたようだ。 しかしそのスナイプスも、今年7月19日には出所が予定さ れており、今回の作品がその前祝いになるか…というところ なのかな? * * お次は、昨年12月紹介『ジャッジ・ドレッド』などを手掛 ける制作会社IMグローバルと、2011年10月紹介『リアル・ス ティール』などのリライアンス・エンターテインメントが、 リシェル・ミード原作のファンタシー・シリーズ“Vampire Academy”の映画化権を獲得。その第1巻“Blood Sisters” の映画化を開始すると発表した。 物語は、モンタナ州の森に建つSt. Vladimir's Academyと いう学校を舞台に、‘dhampir’と呼ばれるヴァンパイアと 人間のハーフの17歳の女性を主人公にしたもので、人類との 平和的共存を考える指導者と、人類を食料と考える不死者の 吸血鬼との戦いが全6巻に亙って描かれているとのことだ。 まあ概要を読むと、『ハリー・ポッター』と『トワイライ ト・サーガ』を併せたような感じだが、シリーズ全巻の合計 ではすでに世界35カ国で800万部が販売されたとのこと。ま た後半の4巻はいずれもNYタイムズのベストセラーリスト にも掲載されたそうだ。 という作品の1作目の映画化だが、監督にはすでに2008年 『スパイダーウィックの謎』などのマーク・ウォータースが 発表されており、脚本も監督の兄で1992年のティム・バート ン監督の『バットマン・リターンズ』などを手掛けたダニエ ル・ウォータースが報告されている。 さらに出演者には、2月14日全米公開された“Beautiful Creatures”に出演のゾーイ・ドゥイッチ、オーストラリア 出身のルーシー・フライ、またロシア出身のダニラ・コズロ フスキーという国際色豊かな顔ぶれが発表されており、これ は原作の通りのようだ。 ただし、現在映画化の計画は“Untitled Vampire Academy Project”という仮題で進められており、これには映画化が 原作と同じ6部作ではない可能性も考えられる。しかしいず れにしても第1作は2014年の公開予定で進められており、果 して『ハリ・ポタ』『トワイライト』を超える大ヒットにな るか、完成が待たれるところだ。 * * 昨年5月紹介『MIB3』などのウィル・スミスが、盟友 の製作者ジョン・ラシターらと共に運営するプロダクション Overbrookから、昨年2月にスペインで公開されたコメディ ・ファンタシー“Promoción fantasma”(英語題名:Ghost Graduation)のハリウッドリメイクを手掛けることが発表さ れた。 オリジナルの内容は、報道によると『ゴースト』と『シッ クス・センス』と、ジョン・ヒューズ監督の1985年作品『ブ レックファスト・クラブ』を併せたようなお話で、数年前の 火災で死亡した生徒たちのグループに、卒業式を迎えさせよ うと見守る特別な能力を持った教師の物語…とのこと。 オリジナルを発表したハヴィエル・ルイス・カルデラ監督 は、1976年バルセロナ生まれで、彼の作品では2009年に幽霊 屋敷とレスリー・ニールセンも登場する“Spanish Movie” というパロディ映画もあるようだ。 そして今回のリメイクでは、脚本にイギリスで3シーズン 目を迎えている青春ドラマ“The Inbetweeners”をクリエー トしたイアイン・モリスを招請したことも発表されている。 因にこの青春ドラマでは、2011年に映画版が製作されてイギ リス国内で8800万ドルの興行収入を挙げ、モリスは現在準備 中のアメリカ版の監督にも予定されているそうだ。 という状況だが、“Ghost Graduation”のリメイクに関し ては脚本家が決まった以外のスタッフ・キャストは未定。た だしモリスに関しては、本作の監督も手掛ける可能性はあり そうだ。一方、スミスが主演するか否かも未定とされている が、相手が高校生ということでは、久しぶりに息子のジェイ デン・スミスとの共演も期待されそうだ。 * * 2011年6月に紹介したジェームズ・ワン監督、リー・ワネ ル脚本の『ソウ』コンビによる『インシディアス』から、そ の続編“Insidious Chapter 2”の製作が開始され、前作と 同じパトリック・ウィルスン、ローズ・バーン、タイ・シン プキンスの共演が報告された。 前作の物語は、郊外の一軒家に引っ越した夫婦と子供3人 の一家を悪霊が襲い、原因不明の昏睡状態に陥った長男を救 出するため、一家の父親が霊能者の力を借りて異世界に侵入 するというもの。その事件は一応解決したかに見えたが、実 はエンディングタイトルの後に少し予告がされていた。 その予告の部分が今回は新たな展開になると思われるが、 前作は『ソウ』とは異なるかなりオーソドックスなホラーと して描かれていたもので、今回もその流れを維持した作品を 期待したいものだ。 なお撮影はすでにスタートしており、全米公開は今年8月 30日の予定。また日本の配給権はソニー・ピクチャーズが契 約しているようだ。 * * 2011年10月紹介『リアル・スティール』の原作者としても 知られるアメリカのSF作家リチャード・マシスンが、自ら が1956年に発表した原作に基づき、1957年にユニヴァーサル で映画化された“The Incredible Shrinking Man”(縮みゆ く人間)のリメイクを計画している。 オリジナルの物語は、核実験と殺虫剤の影響で1日ごとに 身長の縮むようになった主人公が、最初は好奇の目にさらさ れ、やがては家族にも見捨てられて行く中で、相対的に巨大 化するクモなどと戦いながら、それでも人間としての尊厳を 失わずに生きて行く…というもの。 そしてその映画化はマシスン自身が脚本を手掛け、1954年 『大アマゾンの半魚人』などのジャック・アーノルドが監督 したもので、名作として名高い作品になっている。さらに同 じ原作からは、1981年にリリー・トムリンの主演でコメディ タッチのリメイク“The Incredible Shrinking Woman”も行 われた。 という原作の再度のリメイクということになるものだが、 実は計画自体は数年前に立ち上げられ、1957年作を製作した ユニヴァーサルではエディ・マーフィを主演にした検討が進 められていたこともある。しかしその結論は見送りとなって しまっていた。 そのリメイクの権利を今回はMGMが獲得したもので、同 社ではマシスンと、息子のリチャード・マシスンJr.が共同 で執筆した脚本に基づく映画化を進めるとしている。因に、 新たに執筆された脚本では、オリジナルの設定の許で最新の ナノテクノロジーなども踏まえて、現代を舞台にした冒険が 描かれているとのことだ。 なおMGMでの映画化には、マシスンJr.が製作者として も名を連ねており、原作者の思いが存分に込められた作品が 実現しそうだ。 * * 最後は、2月7日に発表された第11回VES賞の結果を報 告しておこう。 VFX主導映画のVFX賞の受賞は、 『ライフ・オブ・パイ』(12月9日紹介) 長編映画における助演VFX賞の受賞は、 “The Impossible” 長編アニメーション映画のVFX賞の受賞は、 『メリダとおそろしの森』(6月24日紹介) 実写映画のアニメーションキャラクター賞の受賞は、 『ライフ・オブ・パイ』Richard Parker 長編アニメーション映画のアニメーションキャラクター賞 の受賞は、 『メリダとおそろしの森』Merida 実写映画の創造背景賞の受賞は、 『アベンジャーズ』(6月3日紹介)Midtown Manhattan 長編アニメーション映画の創造背景賞の受賞は、 『メリダとおそろしの森』The Forest 実写映画の仮想撮影賞の受賞は、 『ホビット・思いがけない冒険』(12月9日紹介)の全体 実写映画の模型賞の受賞は、 『アベンジャーズ』Helicarrier 長編アニメーション映画の特殊効果賞の受賞は、 『メリダとおそろしの森』の全体 実写映画の特殊効果賞の受賞は、 『ライフ・オブ・パイ』Storm of God 実写映画の合成賞の受賞は、 『ライフ・オブ・パイ』Storm of God ということで、実写映画の受賞は『ライフ・オブ・パイ』 がリードしているが、この結果が24日に発表される米アカデ ミー賞にどのように反映されるか、その結果は3月1日の回 に紹介する予定だ。
| 2013年02月10日(日) |
ハーブ&D、ハッシュパピー、ある浜辺の詩人、シュガー・ラッシュ、L.A.ギャングS、裸足のフラメンコ、パラノーマン、ラストスタンド |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ハーブ&ドロシーふたりからの贈りもの』 “Herb & Dorothy 50X50” 2008年に製作され、日本では2010年に公開されたドキュメン タリー『ハーブ&ドロシー』の続編。 と言っても僕は前作は観ていないのだが、内容は全く新たな 展開を描いており、僕自身は鑑賞に支障は感じなかった。 因に前作では、元郵便局員と元図書館司書というハーブとド ロシーの夫妻が、慎ましい生活を送りながら40年の歳月をか けて集めた4000点もの現代アートの貴重なコレクションを、 国立美術館に寄贈するまでを描いていたようだ。 ところがそのコレクションは、あまりの膨大な点数のために 国立美術館でも所蔵に苦慮することになる。そこで今度は、 そのコレクションを50点ずつ50州の美術館に分けて行くこと にするのだが…。本作ではその顛末が描かれる。 老夫妻の内でも妻のドロシーはネットや電子メールも使いこ なす。そんなドロシーの夢は全てのコレクションをネット上 に一堂に会させること。しかし寄贈された美術館側の対応は まちまちで、さらに閉館の決まる美術館も出てくる。 その一方で、展示に工夫を施す美術館やガイドを充実させる 美術館。しかし作品が現代美術である故に、鑑賞する側にも 戸惑いが見られたり、またアーチストによっては展示方法に 疑問を呈する者も現れる。 そんな美術に対する様々な状況が見事に集約して描かれる。 それは2人のコレクションに特有のものではないが、2人の ことは先の作品で描かれているのだし、本作はそこを1歩進 めて、現代芸術の現状の描かれた作品とも言えそうだ。 監督は、大学卒業後の1987年に渡米し、ニューヨーク在住で NHK総支局勤務などを経て独立。初監督作品として発表し た前作で、アメリカのドキュメンタリーでは異例とも言える 17週間のロングランを達成した佐々木芽生。 老夫妻の日常なども丁寧に追う一方で、アーチストや美術館 関係者などへのインタヴューもしっかりと行っており、何よ り前作の後もフォロー取材を行い続けていたことが、本作を 生み出している。 しかも監督本人が夫妻の行動に共感し、愛情を持って描いて いることが、本作の素敵な感動を生み出している要因とも言 える作品だ。それにいろいろな現代美術が鑑賞できるのも素 晴らしい作品だった。
『ハッシュパピー』“Beasts of the Southern Wild” 今年の米アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚 色賞の主要4部門で候補に挙げられている作品。 ハッシュパピーという名の主人公は、工場街の見える陸地の そばにあるバスタブ島と呼ばれるコミュニティで父親と共に 暮らしていた。しかしいつも飲んだくれてばかりの父親と一 緒では、彼女の境遇は孤児も同然だ。 それでも彼女は、「宇宙の全ては調和している」という考え の許、多くの動物や仲間と共に、この世間からは切り離され たコミュニティで勝手気ままに暮らしていた。その一方でバ スタブ島に危機が迫っていることも教えられてはいた。 そんなある日、バスタブ島を大嵐が襲いコミュニティは水浸 しになる。その水の引かない原因が工場街を守る堤防にある と考えた父親たちはある作戦を決行する。しかしバスタブ島 は元通りにはならなかった。 この他に、ハッシュパピーが母親を探しに行く冒険や、政府 がバスタブ島に強制退去命令を下したり、また温暖化によっ て太古の恐怖の巨獣オーロックスが甦る出来事などが続き、 ハッシュパピーにはある決断が迫られる。 バスタブ島は架空のものだが、物語の背景には南ルイジアナ で地盤沈下の続いている地域の状況やその文化などが反映さ れているようだ。ただし僕には、3・11以降の被災地域から 退去を命じられている人々の姿が重なった。 主演は、2003年8月28日生まれのクヮヴェンジャネ・ウォレ ス。撮影時6歳の米アカデミー賞史上最年少の主演女優賞候 補は、史上最高齢候補の『愛、アムール』エマニュエル・リ ヴァらと受賞を争っている。 共演は、ユタ映画批評家協会賞助演男優賞などをすでに受賞 しているドゥワイト・ヘンリー。本業はベーカリー&デリの オーナーだそうで、この他の出演者も、映画初出演または過 去の出演歴は短編映画という人がほとんどのようだ。 共同脚本と監督は、ニューヨーク出身でクリエーター集団の 設立に参加し、短編映画の受賞歴もあるベン・ザイトリン。 本作は長編デビュー作で、シアトル映画祭監督賞の受賞やオ スカー監督賞にもノミネートされた。 また共同脚本には、南部の文化を反映させた戯曲を発表して いるルーシー・アリバーが協力し、物語はアリバーの原作に 基づくとされている。
『ある浜辺の詩人』“Io sono Li” 小さなヴェニスとも呼ばれるイタリアの漁師町キオッジャを 舞台にした異文化が行き交う物語。 主人公は、語呂合わせが得意なことから仲間に詩人とあだ名 される老漁師のべーピ。彼は遠い昔に旧ユーゴスラビアから やってきた移住者だが、家族は既に彼の許を離れ、彼自身は ラグーナ(潟)の中に建てられた漁師小屋で1人暮らしだ。 そんな彼が毎日通う町の酒場にシュン・リーという中国人女 性が働いていた。彼女も故郷に家族を残しており、彼女の夢 は幼い息子を呼び寄せること。そんな彼女はまた中国の詩人 屈原を敬愛し、その祭りを欠かさなかった。 そんな家族を思い詩を想う2人の心が徐々に接近して行く。 しかしそんな2人を周囲の目は快くは見ていなかった。リー は不法就労ではないようだが、搾取されていることは明らか で、そんな彼女の仕事にも疑いが持たれる。 一方、彼女の家族の命運を握る雇い主にも彼女の行動は問題 視され、息子の呼び寄せの条件をちらつかせて彼女の行動を 規制する。こうして2人の運命が決められていってしまうの だったが…。 出演は、旧ユーゴスラビア・クロアチアの出身で1994年『ビ フォア・ザ・レイン』の演技でヴェネチア国際映画祭最優秀 男優賞に輝くラデ・シェルベッシアと、2009年1月紹介『四 川のうた』などのチャオ・タオ。 他に、脚本家・監督としても著名なイタリアのマルコ・パオ リーニ、2010年1月紹介『NINE』にも出ていたロベルト ・シトラン、2011年5月紹介『人生、ここにあり!』などの ジュゼッペ・バッティストンらが脇を固めている。 脚本と監督は、移民問題を扱ったドキュメンタリーで数多く の受賞を果たし、本作が劇映画デビューとなるアンドレア・ セグレ。自身の永遠のテーマとも言える題材を巧みに生かし て見事な詩情に溢れた作品を生み出している。 キオッジャの街の描写では、ヴェニスと同様に満潮で水浸し になっているシーンなども登場するが、その水面に、屈原の 彷徨う魂を偲んで浮かべるという赤い蓮の花を形どった燈明 の美しさも、見事に作品に彩りを与えていた。
『シュガー・ラッシュ』“Wreck-It Ralph” ディズニー・アニメーション製作によるゲームの世界が舞台 の3D作品。 物語の背景にあるのはとあるゲームセンター。そこには幾台 ものアーケードゲーム機が並べられているが、実はそれらの ゲームの世界は繋がっており、各ゲームの住人たちには交流 の場も設けられている。 その中で、主人公のラルフの役目はFix It Felix Jr.という ゲームの悪役キャラ。そのゲームはラルフがアパートの建物 を壊し、フェリックスがそれを修理するというもの。そして そのゲームは30年もの長きに亙って愛されてきた。 ところがその30周年の誕生の日。アパートの住人のキャラク ターたちが集まって開いたパーティの中にラルフは呼ばれな かった。それでも乱入したラルフに対して住人たちは、勝者 のメダルを持ってくれば入れてやると言って追い返す。 そこでラルフは、別のゲームに潜入して首尾よくメダルを手 に入れるのだが…。そのせいでゲームのバグが他のゲームに 伝染。しかもそのバグは、時間が経つと爆発的に増殖して手 がつけられなくなってしまうものだった。 その結果はゲームセンター全体の壊滅の恐れもある。果して ラルフをその危機を防ぐことができるのか。そしてラルフの 悪役としての立場は…。さらにその陰には、伝説の悪役の存 在も隠されていた。 主に登場するゲームは、Felixの他にHero's Dutyと、Sugar Rushという架空のものだが、その他にもストリート・ファイ ターやパックマン、ポングなども登場し、特に日本製の著名 なゲームが物語に彩りを添えている。 その一方では、物語の背景がゲームセンターということもか らも判るように、2010年12月紹介『トロン:レガシー』や、 そのオリジナルの1982年『トロン』へのオマージュと思われ るシーンもあり、ファンには嬉しくなる作品だ。 原案と監督は、ラルフ・バクシ監督の許で『マイティ・マウ ス』などを担当し、後には『ザ・シンプソンズ』なども手掛 けてきたリッチ・モーア。経歴のせいか従来のディズニー・ アニメーションとはちょっと違う過激さも感じられた。 なお上映には、『紙ヒコーキ』“Paperman”という短編アニ メーションが併映される。この作品はモノクロで描かれてい るものだが、その内容には1956年のロベール・ラモリス監督 『赤い風船』が思い出される素敵な作品だった。
『L.A.ギャングストーリー』“Gangster Squad” アメリカ西海岸ロサンゼルスを舞台に、ギャング団と警察の 壮絶な戦いを描いた作品。 物語の舞台は1949年のロサンゼルス。当時その町はブルック リン生まれのギャングのボス=ミッキー・コーエンによって 牛耳られていた。その手口は売春に麻薬、そして賭博。特に 賭博はシカゴ以西の賭博場から非合法な利益を上げ、その富 は街の政治家や警察までも支配していた。 そんなロス市警の中では、本部長のパーカーもコーエンを公 に捜査することはできない。しかし彼は一つの秘策を練って いた。それは極秘に結成された部隊で直接ギャング団の根幹 を殲滅するというもの。そのため警察内で異端視されていた メムバーが集められる。 その中心はジョン・オマラ巡査部長。彼を中心に昔気質のガ ンスリンガーや盗聴のスペシャリスト。さらにはナイフの名 人やギャング団に内通する巡査までもが抜擢され、極秘の任 務が開始される。それは麻薬取引の車を強奪したり、賭博場 を強盗さながらに襲ったり… この働きに、最初はギャング団側も抗争相手が仕掛けてきた ものと疑っていた。その間にオマラのチームの捜査の網は、 着実にコーエン本人へと迫って行く。しかしついにその手口 がコーエンに露見してしまう時が来る。それはメムバーの家 族にも危機が及ぶ恐れがあった。 ミッキー・コーエンは、1997年の映画『L.A.コンフィデンシ ャル』にも登場する実在のギャング。その牙城はロス警察な どの執拗な捜査によって壊滅したとされている。しかしその 陰にロス警察・特殊部隊の活躍があったという話は史実とし ては残されていない。 それにしてもこの特殊部隊の行動は、正に『必殺仕事人』で あって、法律すれすれというよりは明らかに違法行為。その 活躍は映画的には痛快で面白いが、警察が公に認める訳には いかないものだったようだ。 出演は、昨年5月紹介『MIB3』などのジョッシュ・ブロ ーリン、同2月紹介『スーパー・チューズデー〜正義を売っ た日〜』などのライアン・ゴズリング、同2月紹介『きっと ここが帰る場所』などのショーン・ペン、それに同1月紹介 『ヘルプ・心がつなぐストーリー』などのエマ・ストーン。 他に、ニック・ノルティ、ジョヴァンニ・リビシ、マイクル ・ペーニャ、ロバート・パトリックらが脇を固めている。 監督は、2010年5月紹介『ゾンビランド』や2011年11月紹介 『ピザボーイ』などのルーベン・フライシャー。脚本は、ロ ス市警で殺人課刑事とギャング担当捜査官として10年間勤務 した後に作家に転身したというウィル・ビール。 映画の中盤に「クロード・レインズ」という台詞が有り、そ こでの字幕は「透明人間」。これは1933年の映画の主演者が レインズだったことによるものだが、こんなところにアメリ カ映画の奥深さを感じてしまった。
『裸足のフラメンコ』 1936年福島県の生まれ、20代で単身スペイン・マドリッドに 渡り、フラメンコはスペイン人が踊るものという伝統や民族 の壁を感じながらもその葛藤の中で独自の表現を生み出し、 1975年に文化庁芸術最優秀賞、1980年には文化庁芸術祭大賞 に輝いた舞踏家の長嶺ヤス子を描いたドキュメンタリー。 2011年4月、東日本大震災の影響による節電で薄暗い病院に 長嶺はいた。それは直腸癌の手術のための入院であったが、 長嶺自身は、「術後は完治してまた踊れる」との医者の言葉 を聞いて「もう治ったような気分なの」と平然とした顔をし ている。それから1ヶ月後、長嶺は踊っていた。 こんな正にあっけらかんとした長嶺の姿や生活ぶりが、85分 の映像の中に収められている。そこではもちろんフラメンコ を踊る姿が圧巻だが、その一方で毎年個展を開いている絵画 の制作や、現在は猪苗代に家を借りて続けている犬猫の保護 活動などが描かれる。 フラメンコは、30数年前にマドリッドで生で見たことがある が、その情熱的な舞踏は正に圧巻と呼べるものだった。その フラメンコを踊る長嶺ヤス子の姿は映像を通じてしか見たこ とはないが、その姿も圧巻と呼べるものだったと記憶してい る。 従って本作にも、そんな長嶺が見られるものと思って試写を 観に行ったのだが、描かれているのは予想外の姿だった。そ の中では、東京の家屋に犬猫を溢れさせ近隣から文句が出て 引っ越したという話などは知っていたが、そこに描かれる動 物愛護に寄せる思いは想像以上のものだったと言える。 その一方で「娘道成寺」や「鷺娘」を踊る姿は、過去に日本 舞踊で見たことのある自分としては、あえてそれを長嶺が踊 る意味が見いだせなかったが、毎年私費を投じてスペインか ら舞踏家を招いて行うリサイタルの様子は、フラメンコに捧 げられた長嶺の人生を見せ付けられる感じがした。 企画・製作・監督は、昨年2月紹介『季節、めぐり それぞ れの居場所』などの大宮浩一。前作は日本における介護の現 状を描いたものだったが、本作における長嶺が動物に向ける 思いにもそれに通じるところが感じられ、監督が長嶺に寄せ る共感も理解できる作品だった。 映画の中には、ちょっと物議を醸しそうな長嶺の発言もある が、それも正論であって、僕には理解できるものだった。
『パラノーマン』“ParaNorman” 2010年1月紹介『コララインとボタンの魔女』のスタッフが 再び挑んだ3D人形アニメーション。 物語の舞台は、300年前に魔女狩りの現場となったと言われ る郊外の町ブライス・ホロー。 しかしその記憶は薄れ、今では魔女を売り物にしているくら いのものだ。そんな町に住む少年ノーマンには、実は死者の 霊を見る能力が備わっていたが、それは周囲の人を不気味が らせ、ノーマンを変人扱いさせるだけだった。 ところがその能力には、実はノーマンの一家に代々伝わるあ る使命が伴っていた。ただしそれは一家の特定の人物にだけ 伝わるもの。しかも先代の大叔父が、ノーマンにその使命を 充分に伝えないまま死んでしまう。 このためノーマンは、毎年能力を受け継いだ者が行ってきた 魔女の呪いを鎮める儀式に失敗し、ついに300年ぶりに呪い が復活してしまう。果たしてノーマンは魔女の呪いを鎮め、 町に平穏を取り戻すことができるのか…。 元々魔女狩りには、現代の苛めに通じるところもある訳で、 そんな魔女の実態とノーマンの境遇が重ね合わされ、単なる 伝説物語だけではない現代社会が直面している問題が描かれ る。しかもその問題提起はかなり明確なものだ。 なお映画の製作は、作成されたキャラクターの人形をCGI に取り込み、バーチャル環境の中でアニメーターが動きを付 けたり、表情を変えるという手法で行われ、正しく21世紀の 人形アニメーションという感じの作品になっている。 脚本は、『コラライン…』や2005年9月紹介『コープスブラ イド』の絵コンテを手掛けたクリス・バトラー。監督はバト ラーと、2006年10月紹介『マウス・タウン/ロディとリタの 大冒険』のサム・フェルが担当した。 なおオリジナルの声優では、2011年5月紹介『モールス』な どのコディ・スミット=マクフィー、2011年6月紹介『アイ ・アム・ナンバー4』に出ていたというタッカー・アルブリ ッチ。 さらに、2011年4月紹介『スコット・ピルグリムvs.邪悪な 元カレ軍団』などのアナ・ケンドリック、同2月紹介『キラ ー・インサイド・ミー』などのケイシー・アフレック、昨年 9月紹介『人生の特等席』などのジョン・グッドマンらが声 を提供している。
『ラストスタンド』“The Last Stand” 2011年1月3日に7年間の任期を終えてカリフォルニア州知 事を退任したアーノルド・シュワルツェネッガーが、2003年 7月紹介『ターミネーター3』以来となる映画主演に復帰し た作品。 そのシュワルツェネッガーが演じるのは、メキシコ国境に近 いアリゾナ州の小さな町ソマートン・ジャンクションを守る 保安官。しかし彼は、実は元ロス警察で麻薬捜査官を務めた 敏腕刑事だった。そんな彼がある切っ掛けから国境の田舎町 の保安官に転身していたのだ。 そしてある週末、町は地元高校のアメフットチームの遠征に 市長以下の大半の住民が同行し、閑散としていた。そこに凶 悪犯逃亡の1報が飛び込んでくる。しかもその逃亡犯は麻薬 組織の大立者。とは言え国境の渓谷が行き止まりとなるその 町のメインストリートは逃走経路とは思えなかったが… いくつかの出来事が元麻薬捜査官の勘を呼び起こす。しかし 向かってくるのは時速400kmの高速車シボレーコルベットZR1 を駆る逃亡犯だけではなかった。その逃走経路を強引に切り 開く麻薬組織挙げての軍団も迫っていたのだ。それを迎え撃 つのは、保安官と少数の副保安官だけ。 それでも保安官には、麻薬組織を迎え撃たねばならない宿命 が負わされていた。 共演は、2012年2月紹介『センター・オブ・ジ・アース2/ 神秘の島』のルイス・ガスマン、2011年5月紹介『マイティ ー・ソー』のジェイミー・アレクサンダー、2007年4月紹介 『ブラッド』のザック・ギルフォード、2004年8月紹介『ビ ハインド・ザ・サン』のロドリゴ・サントス、2011年2月紹 介『ジャッカス3D』のジョニー・ノックスウェル。 他にフォレスト・ウィティカー、エドゥアルド・ノリエガ、 ピーター・ストーメア、ハリー・ディーン・スタントンらが 脇を固めている。 脚本には、新人アンドリュー・ウノアーのオリジナル脚本を 基に、2004年『デイ・アフター・トゥモロー』などを手掛け たジェリー・マクマノフのリライトによるものが使用され、 監督は、韓国出身で2003年『箪笥』などのキム・ジフンが担 当した。 シュワルツェネッガーの演技にはクリント・イーストウッド を意識していることがありありと感じられ、特にダイナーの カウンターでのシーンなどは微笑ましくもなった。イースト ウッドもまだまだ頑張っているが、シュワルツェネッガーも その後を追い続けるのだろう。
| 2013年02月05日(火) |
アンタッチャブルズ、キング・オブ・M、ヒステリア、ロイヤル・アフェア、旅立ちの島唄、セデック・バレ、ヒッチコック、恋する歯車 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『アンタッチャブルズ』“De l'autre côté du périph” 一昨年の東京国際映画祭のグランプリ作品『最強のふたり』 (2011年10月30日付で紹介)に出演し、最優秀男優賞も獲得 したオマール・シー主演による刑事コメディ。 物語の主な舞台はパリ郊外のボビニー地区。集合住宅が立ち 並び荒廃した雰囲気の漂うこの地区は、昼間から若者たちが 街角に屯する犯罪の温床でもあった。事件はそんな地区にあ る闇賭博場の近くで発生した。 それはフランス経済に影響力を持つ大企業の社長夫人が、賭 博場近くのゴミ捨て場で遺体で発見されたというもの。そし てその捜査はパリ警察のフランソワ刑事の担当になるが、彼 は捜査よりゴマすりが信条のぐうたら刑事だった。 一方、その事件には地元ボビニー警察のウスマヌ刑事も関心 を寄せており、向上心あふれるウスマヌはパリ警察に食い込 むチャンスとばかり共同捜査を申し出る。そしてその具申は 地元との友好を図りたい上層部の理解を得てしまう。 こうして、都会派のぐうたら刑事と下層階級出身の熱血刑事 という凸凹コンビが誕生することになるが…。事件には予想 外の裏事情が潜んでいた。果たして2人はその真相を暴くこ とができるのか? いわゆるバディものということでは、ハリウッド映画でもこ の手の作品は数多くあるが、本作はフランス映画。そこには フィルムノアールの味わいもあって、なかなかの作品に仕上 がっていた。 しかも映画の中には、70台の車両と80人のスタントマンが投 入されたカーチェイスも登場し、そのシーンではリアルさを 出すためにオマール自身がハンドルを握ったとのことで、正 しくハリウッド顔負けのシーンとなっている。 共演は、2000年『クリムゾン・リバー』に出演のローラン・ ラフィット。他に、2011年1月紹介『神々と男たち』などの サブリナ・ウアザニ、2010年2月紹介『オーケストラ!』な どのリオネル・アベランスキらが脇を固めている。 脚本と監督は、本作が長編2作目のデヴィッド・シャロン。 また、撮影を2011年7月紹介『この愛のために撃て』などの アラン・デュブランティエが担当、音楽は昨年2月紹介『ア ーティスト』のルドヴィック・ブールスが手掛けている。
『キング・オブ・マンハッタン』“Arbitrage” 経済問題を背景に、ある事件に巻き込まれた男の姿を描き、 主演のリチャード・ギアにゴールデン・グローブ賞候補をも たらした作品。 主人公は一代で財を成した投資アナリスト。しかし目論んだ 投資に失敗し巨額の負債が伸し掛かる。そこで彼は成功して いる自らの会社を売却し、それで負債を解消することを考え る。そのためには、売却が契約されるまで帳簿上で負債を隠 し通す必要があった。 ところがそんな折、彼の運転する車が事故を起こし、同乗し ていた車の持ち主の女性が死亡してしまう。それは明らかな 事故であり、彼自身の罪も軽いはずだったが…。彼には一瞬 の時間も無駄にする余裕がなかった。そこで彼は恩義のある 若者を呼び出し、その場を逃れてしまう。 映画の前半では、ギアの演じる主人公が仕事に対してかなり 強引な部分もあって、多少感情移入のし辛い感じもした。し かし物語が進むに連れて主人公の立場が明らかになってくる と、悪いことと判っていながらそうせざるを得ない葛藤のよ うなものも描かれ、主人公が理解できるようになる。 その語り口は巧みで、経済問題などよく判らない僕のような 者にも主人公の立場が理解できるように描かれていた。それ は金持ちって大変だなあ…とも思わせてくれたものだ。 共演は、2005年2月紹介『シャル・ウィ・ダンス?』でも夫 婦役で共演していたスーザン・サランドン、2008年9月紹介 『ファニー・ゲームU.S.A.』などのティム・ロス。 さらに2011年1月紹介『ゲンスブールと女たち』でブリジッ ト・バルドーに扮していたレティシア・カスタ、1982年生ま れで第2のジョディ・フォスターと称されるブリット・マー リング、2012年に第2次大戦中の黒人飛行兵の活躍を描いた 話題作“Red Tails”に出演のネイト・パーカーらが脇を固 めている。 脚本と監督は、ドキュメンタリーの出身で本作が長編映画デ ビュー作のニコラス・ジャレッキー。因にドキュメンタリー では、2005年に映画監督ジェームズ・トバックらを被写体に した“The Outsider”という作品で高評価を受けている。 映画の後半には警察の過剰捜査の様子なども描かれ、それが 主人公に感情移入をもたらす要素にもなっている。その辺の 構成も巧みな作品と言えそうだ。
『ヒステリア』“Hysteria” 以前は女性特有の病気とされ、一部は外科手術の対象にされ たとも言われるヒステリーを巡る実話に基づく作品。 時代は1800年代、英国ヴィクトリア王朝の最盛期。未だに古 い因習が蔓延るロンドンでは、革新的な病原菌論を唱える若 き医師モーティマーは職場を転々とせざるを得なかった。そ んなモーティマーが雇われたのは、女性治療では市中一と言 われるダリンブルの治療院。 そこには�,垢阿傍磴�、��異常性欲、�I坿蕎鼻↓た看枉匹� いった女性特有の病ヒステリーに罹った女性たちが列をなし ていた。そしてそこで行われていたのはある特別な治療法。 その治療院に助手として雇われたモーティマーは、さらに多 くの患者を集めるようになるが…。 熱心に治療を行ったモーティマーを腱鞘炎の痛みが襲う。そ のため治療が不首尾になった彼は再び失職。その失意の中で 友人の発明家の許を訪れたモーティマーは、友人が発明した 電動器具の動きからあることを思いつく。その一方で革新的 な1人の女性がヒステリーを巡る裁判にかけられ… 出演は、昨年11月紹介『マーサ、あるいはマーシー・メイ』 などのヒュー・ダンシー、2008年8月紹介『かけひきは、恋 のはじまり』などのジョナサン・プライス、2008年7月紹介 『ダークナイト』などのマギー・ギレンホール。 また、2月1日付第186回“The Amazing Spider-Man 2”の 記事でも紹介した2011年5月紹介『テンペスト』のフェリシ ティ・ジョーンズ、2003年5月紹介『Bモンキー』などのル パート・エヴェレット、今年1月紹介『カルテット!』など のシェリダン・スミスらが脇を固めている。 監督は、オスカー受賞撮影監督ハスケル・ウェクスラーの姪 というターニャ・ウェクスラー。監督は本作が3作目。脚本 は、2004年『ポーラー・エクスプレス』の脚本に関ったとい うジョナー・リサ・ダイヤーと、兄で製作者のスティーヴン ・ダイヤーが担当した。 エンディングクレジットの横には、本作に登場する電動器具 のその後の歴史を語るコレクションも紹介されていて、その 中の1品は日本製だったようだ。それはプレス資料に掲載の 写真からはカットされていたが、何となく子供時代に見た記 憶もあったものだ。 そんなことも思い出させてくれる作品だった。
『ロイヤル・アフェア/愛と欲望の王宮』 “En kongelig affære” 18世紀後半のデンマーク王朝を襲った歴史的事件の顛末を描 き、今年の米アカデミー賞外国語映画部門で、5候補の内の 1本に選ばれている作品。 物語の始まりは1766年。英国王太子の娘カロリーネは故郷を 離れ、デンマーク王クリスチャン7世の許に嫁いでくる。し かし精神不安定な国王は、最初の晩餐会の席でカロリーネを 侮辱するなど、カロリーネの期待は裏切られてしまう。 それでも王子を誕生させたカロリーネだったが、唯一の友で あった女官を追放されるなど、王宮での孤独を深めて行く。 さらに国王はそんな王妃を残し、視察と称する長期の外遊に 出発してしまう。 ところがその旅先で、さらに精神の不安定が高じた国王は、 ドイツの新進の医師の治療を受けることになり、医師は国王 との信頼を築いて行く。しかしその医師は、匿名で啓蒙思想 の本も執筆する野心家だった。 こうしてデンマーク王朝に入り込んだ医師は、徐々に国体を 変えて行く策謀を巡らすが…。同時に彼は、孤独を託つ王妃 カロリーネにも近づいて行き、それは大きな落とし穴となっ てしまう。 時代は絶対王朝時代の末期。各国の民衆の意識も高まる中、 デンマークでは当時最も急進的とされる改革が進められた。 しかしその改革は復古派の反撃に遭いあえなく挫折。だが、 そこにはしっかりとした種も蒔かれていた。 そんな出来事が王妃の赤裸々な回想によって綴られて行く。 出演は2006年11月紹介『007/カジノ・ロワイヤル』など のマッツ・ミケルセン、先月紹介『アンナ・カレーニナ』に も出演のアリシア・ヴィカンダー、本作でベルリン国際映画 祭主演男優賞(銀熊賞)受賞のミケル・フォルスガード。 脚本と監督は、2009年10月紹介『ミレニアム/ドラゴン・タ トゥーの女』(スウェーデン版)の脚本を手掛けたニコライ ・アーセル。なお脚本は、『ミレニアム』でもコンビのラス マス・ヘイスターバングと共に執筆している。 因に本作は、デンマークの作家Bodil Steensen-Lethによる “Prinsesse af blodet”という小説の映画化とされている ものだが、内容的には別の作品による部分が多いそうだ。
『旅立ちの島唄〜十五の春〜』 沖縄本島から東に350kmの太平洋上に浮かぶ南大東島を舞台 にした少女たちの旅立ちの物語。 サトウキビの栽培を主産業とする南大東島には、約1400人の 島民が暮らしている。しかし島には高等学校がなく、中学を 卒業する子供たちが進学するためには15歳の春に島を出なく てはならない。そのため島の少女民謡グループ・ボロジノ娘 は毎年そのメムバーが入れ替っていた。 そして物語は、そのボロジノ娘のリーダー役が主人公に引き 継がれるところから始まり、そこから1年後の主人公の旅立 ちまでが語られて行く。しかも主人公の母親は、姉の進学時 に島を離れたまま戻ろうとせず、彼女の家は父親との2人暮 らしだった。 もちろんその旅立ちは、新たな夢や希望へ門出でもあるのだ が、様々な理由で島を出られない者との確執や切ない恋心な ども描かれる。また映画では、20km離れた北大東島との親善 競技大会の様子や、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP) に揺れる島の経済の実情なども語られる。 さらにクレーンに吊られケージで乗り降りする定期船の様子 や、小型船をそのまま吊り上げて上陸する様子など、話には 聞いていても目の当たりにすることは滅多にない離島の風景 なども描かれていた。 出演は、2009年7月紹介『女の子ものがたり』などの三吉彩 花。本作では三線の演奏や島唄にも挑戦している。また、小 林薫と大竹しのぶが主人公の両親を演じ、さらに昨年11月紹 介『青木ケ原』などの早織、舞台女優の立石凉子らが脇を固 めている。 脚本と監督は、2007年1月紹介『キトキト!』(大竹しのぶ が母親役を演じていた)などの吉田康弘。監督は昨年9月紹 介『黄金を抱いて翔べ』(監督・井筒和幸)の脚本家でもあ るが、自身の監督では地方の文化に根ざした作品が得意のよ うだ。 映画に登場する南大東島は、気候も温暖そうで住みやすそう な感じだが、屋根の平たい家屋には台風の通り道であること も理解されるし、何より15歳で島を出なくてはならない現実 というのも重く感じられるところだ。 上映後に宣伝の人に聞いたら、高等学校の無い離島は全国で 200ヶ所もあるのだそうで、そんな現実の厳しさも教えられ る作品だった。
『セデック・バレ太陽旗』“賽��克·巴萊・太陽旗” 『セデック・バレ虹の橋』“賽��克·巴萊・彩虹橋” 1930年、日本統治下の台湾中部で発生した台湾原住民による 最大規模の抗日暴動事件「霧社事件」の全貌を、2009年9月 紹介『海角七号』のウェイ・ダーション監督が描いた前後編 4時間36分作品。 台湾中部の山岳地帯では古来より虹を信仰する狩猟民族セデ ック族が暮らしていた。彼らは複数の部族に分かれて狩猟場 を争いながらも、自然に調和した暮らしを続けていた。とこ ろが1895年の日清戦争で清が敗北したにより、台湾は日本の 領土となる。 その後は鉱物資源が豊かとされる山岳地帯に日本軍の進駐が 始まり、さらに年月が過ぎると、部族の若者の中にも日本の 教育を受けて警官になるものも現れる。しかし「蕃人」と呼 ばれる彼らへの差別は一向に消えなかった。そして彼らの間 に不満が高まり始める。 主人公は、セデック族の中でマヘボ社と呼ばれる部族を率い るモーナ・ルダオ。彼は初めての首狩りで瞬く間に2つの首 を挙げ、一気に英雄となっていたが、同時にトンバラ社のタ イモ・ワリスとの間には遺恨を残していた。そんな部族間の 問題も孕みながら歴史が動いて行く。 物語は、抗日の英雄の姿を描いた2部作ということで、ある 種『チェ!』の2部作に通じるイメージも感じていた。だと すると前編は勝ち戦、後編は負け戦となる訳で、それは多少 辛くも感じられるものだ。しかし本作では、確かに負けては いるが、精神的には勝ち戦のような高揚感も感じられた。 一方、日本軍の横暴さが国辱的に描かれている危惧もあった が、その辺も巧みな表現で一方的ないやらしさは感じられな かった。それは監督の前作にも通じる感じで、日本人にも問 題なく観られる作品になっている。ただ、後半の幻想シーン には多少戸惑ったが。 主演は、台湾南部に住むタイヤル族の出身で現地教会の牧師 を勤めながら民話や民族精神の伝承活動もしているというリ ン・チンタイ。映画は初出演だそうだが、圧倒的な存在感で 作品を牽引している。 共演は父親がセデック族出身というマー・ジーシアン。他に タイヤル族のビビアン・スー、ルオ・メイリン、ダーチン。 さらに日本から安藤政信、河原さぶ、木村祐一、春田純一、 田中千絵らが脇を固めている。 因に監督は、1997年に事件を描いたチウ・ルオロンの漫画を 読んで映画化を思いつき、ルオロンが製作したドキュメンタ リーにボランティアとして参加。これを踏まえて書き上げた 脚本は1999年に新聞局の優良映画脚本にも選出された。 そして2003年には私費で5分間のトレーラーを製作。さらに 本編の製作に向けた準備を進めるも資金難で計画は頓挫。し かし2008年に公開した『海角七号』が台湾で大成功を収め、 満を持しての本作の製作となったとのことだ。
『ヒッチコック』“Hitchcock” 生涯で5度のアカデミー賞・監督賞の候補になりながらも、 ただ1度の受賞も叶わなかった映画監督アルフレッド・ヒッ チコックと、その妻アルマ・レヴィルの姿を、共にオスカー 受賞者のアンソニー・ホプキンス、ヘレン・ミレンの初共演 で描いた作品。 子供の頃には、ちょっと不思議な感じのテーマ音楽で始まる TV番組が好きだった。 この映画にはそのテーマ音楽が聞こえ、さらにそのタイトル バックにもなっていたシルエットも登場して、そのTV番組 が放送されていた当時の1960年に製作されたヒッチコック監 督最大のヒット作『サイコ』の顛末が描かれる。 それはTV番組も放送されて人気は高まったものの、もはや 監督としてのピークは過ぎたと言われ始めていた頃のお話。 映画会社からオファーされる企画には興味が湧かず。自ら企 画を探していたヒッチコックは、ロバート・ブロック原作の 小説『サイコ』に目を留める。 しかし実在の連続殺人鬼を描いたその作品は、ハリウッドが エンターテインメントとして公開するにはおぞまし過ぎる内 容だった。だが、何より観客にショックを与えることを好む 監督には、正にうってつけの作品。とは言え常に適切な意見 を述べる妻のアルマも、今回ばかりは懐疑的だった。 ところが「ヒロインが映画の中盤で殺される」とアイデアを 語った監督に対してアルマの答えは、「いえ、最初の30分で 殺すのよ」。こうして企画を進め始めた夫妻だったが、それ は思わぬ障害にぶつかり続けて行く。それでも自宅の大邸宅 を抵当に入れてまでの、自費での製作が開始される。 これに主演女優のジャネット・リーやヴェラ・マイルズ。主 演男優のアンソニー・パーキンス。さらには敏腕エージェン トのルー・ワッサーマンまで絡んで、すったもんだの舞台裏 が描かれる。 共演は、リー役にスカーレット・ヨハンソン、マイルズ役に ジェシカ・ビール、パーキンス役にジェームズ・ダーシー。 さらにダニー・ヒューストン、トニ・コレット、マイクル・ スタールバーグらが脇を固めている。 監督は、2009年9月紹介『アンヴィル!』などのサーシャ・ カヴァシ。また、ヒッチコックに対する最後のインタヴュア ーと言われるスティーヴン・レベロの原作に基づく脚本は、 2011年1月紹介『ブラック・スワン』などのジョン・J・マ クロクリンが担当した。
『恋する歯車』 TOEI HIRO NEXTと題された作品。実は2月9日に公開される 作品の試写が2月4日にようやく行われた。この作品を紹介 するためもあって、今回は臨時にページを更新したものだ。 主人公は両親を突然の事故で亡くし、自暴自棄になっている 法学部に通う大学生。そんな彼が酔っ払っての帰宅途中、彼 は目前で車道に飛び出した女性を咄嗟に助ける。ところがそ の女性は、リサと名告るがそれ以上の行動の理由などは話そ うとしない。 そんな彼女の姿に自らの境遇を重ね合わせた主人公は急速に リサに惹かれて行くが…。やがて両親の事故の状況に疑問が 生じ始め、主人公にも危機が迫る。そしてその裏には、国家 体制を揺るがす重大な事件が隠されていた。 主演は、「海賊戦隊ゴーカイジャー」でレッドを演じた小澤 亮太。共演は昨年4月紹介『道−白磁の人−』に出演の黒川 智花。他にゴーカイシルバーの池田純矢、ゴーカイグリーン の清水一希。さらに本田博太郎、勝野洋、光石研らが脇を固 めている。 監督は、2008年10月紹介『青い鳥』などの中西健二、脚本は 2012年『任侠ヘルパー』などの池上純哉が担当した。 本作の製作のコンセプトは、「若手俳優の登竜門と言われる 『仮面ライダー』『戦隊シリーズ』を卒業した彼らを新たな ステージに導く」というもので、昔で言えばプログラムピク チャーと呼ばれていた作品の感じだが、本作に関しては想い の外に脚本も練られていて予想以上に楽しめた。 なおTOEI HIRO NEXTは本作が3作目。第1弾は昨年9月1日 公開の『PIECE 〜記憶の欠片〜』で、主演は『仮面ライダー オーズ/OOO』の渡部秀と三浦涼介。監督は、2009年4月紹介 『Blood』などの下山天、脚本は2009年『仮面ライダー W』などの三条陸が担当している。内容は、人間が石化する という異常な事件を追う事件記者の話だったようだ。 また第2弾は11月23日公開の『僕が処刑される未来』。主演 は『仮面ライダーフォーゼ』の福士蒼汰と吉沢亮で、監督は 小中和哉、脚本は昨年3月紹介『ウルトラマンサーガ』など の長谷川圭一が担当。内容は、未来の犯罪を防止するために 過去の人間を処刑するというデストピアもののようだ。 今回の第3弾はサスペンスミステリー(ただし最後の事件の 発生日は今年の11月11日の設定になっている)だが、以前の 2作は共にSFだったようで、本作と同じ水準なら、それは 試写を観て紹介もしたかったものだ。
| 2013年02月01日(金) |
第186回(Star Wars,Odyssey,ブラックリスト,バヨナ監督,Terminator,The Amazing Spider-Man 2,The Muppets... Again!,Tomorrowland) |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※ ※僕が気になった映画の情報を掲載しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ まずはこのニュースから。 すでに報告されている2015年にディズニーが公開する新作 “Star Wars: Episode VII”について、その監督として今夏 公開される『スター・トレック イントゥ・ダークネス』を 手掛けたJ.J.エイブラムスの起用が正式に発表された。 この監督の人選に関しては、昨年の計画発表以降、自薦他 薦による様々な名前が挙げられていたが、中では昨年9月紹 介『アルゴ』のベン・アフレックの名前もかなり取りざたさ れていたようだ。確かにその時点では、1970年代のSF映画 ブームを背景にした現実のアドヴェンチャーを見事に描いた アフレックの手腕は魅力的に感じられたものだ。 しかしジョージ・ルーカスとディズニーは、さらにSF映 画の王道を行く現在進行中の『スター・トレック』シリーズ の監督に、『スター・ウォーズ』の新たな希望を委ねること にしたようだ。 J.J.エイブラムスは1966年のニューヨーク生まれ。しかし TVプロデューサーだった両親と共に幼い頃にロサンゼルス に移住し、主な教育は西海岸で受けている。そして16歳の時 に映画音楽の作曲で業界と関わりを持ち、大学生の頃には友 人と共に映画の企画書などを書き始め、その中には1992年に メル・ギブスンが主演したSF作品『フォーエヴァー・ヤン グ』も含まれている。 そして1998年にジェリー・ブラッカイマー、マイクル・ベ イの許で『アルマゲドン』の製作に参加。同時期に初のTV 作品“Felicity”を手掛けて高評価を受け、2001年には制作 会社Bad Robotを設立し、“Alias”“Lost”などを制作して 行く。因にこの3つのTVシリーズでは、エピソードの監督 の他に、テーマ音楽の作曲も手掛けているそうだ。 その後は、2006年に『ミッション:インポッシブル3』で 映画監督デビュー。さらに2009年の『スター・トレック』、 2011年6月紹介『スーパー8』を監督して今夏の『スター・ トレック イントゥ・ダークネス』に至っている。またその 傍らでは、2008年の『クローバーフィールド』の製作なども 手掛けてマニアファンを喜ばせてくれた。 そんな正しくSF映画の王道監督の起用が発表されたもの だが、エイブラムス自身は、昨年秋頃のインタヴューでは、 「勿論やりたいが、それより金を払って観に行くことが楽し みだ」と語っていたそうで、そんな根っからのファンが、新 シリーズの監督に就任したようだ。 なお脚本はすでに、2006年11月9日付「東京国際映画祭」 で紹介した『リトル・ミス・サンシャイン』や、2010年5月 紹介『トイ・ストーリー3』などのマイクル・アーントが書 き上げているはずだが、エイブラムスは過去の監督作品では いずれも自らの脚本か、TVシリーズで気心の知れた脚本家 の脚本を用いており、その点がちょっと気にはなるところで はある。 海外の映画データベースでは、すでにマーク・ハミル、ハ リスン・フォード、キャリー・フィッシャー、アンソニー・ ダニエルスらの出演も噂として掲載されているが、実際の主 人公たちはその後の世代の物語となるはずで、そろそろ発表 されるそのメムバーも気になるところだ。 * * 続いてはワーナーから、古代ギリシャの詩人ホメーロスの 作とされる長編叙事詩「オデュッセイア」にSF的な捻りを 加えて映画化する計画が進められ、その脚本家として昨年末 に発表の2012年版ブラックリストでベスト10に選出された、 1937年のソビエト連邦が舞台の脚本“Devils At Play”の執 筆者ジェイムズ・ディラポーの起用が発表されている。 オリジナルの物語は、英雄オデュッセウスがトロイア戦争 の勝利の後に凱旋する途中に起きた10年間にもおよぶ漂泊の 旅が語られ、さらにオデュッセウスの息子テーレマコスが父 を探す探索の旅や、不在中に妻ペネロペに求婚した男たちに 対する報復なども語られる、というもの。そして今回の計画 では、その物語の舞台を大宇宙に設定して、壮大な冒険物語 を描こうというものだ。 因に、オリジナルはワーナーが先に映画化した2004年5月 紹介『トロイ』の基となった叙事詩「イリアス」の続編とも されており、舞台設定は変わるがその物語の完結編が描かれ ることにもなる。一方、ワーナーでは1960年代以前にMGM が製作した映画作品の権利も所有しているもので、その中に は1968年公開の『2001年宇宙の旅』も含まれていて、マニア にはその点もちょっと気になる計画になりそうだ。 そんな計画にソビエトの裏側を描いた脚本家が起用される ものだが、ブラックリスト選出作の詳細が判らないので単純 な評価はできないものの、かなり骨太な作品が期待出来そう な感じはしてくるところだ。 製作時期は未定だが、ワーナーではシリーズ化も期待して いるという情報もあるようだ。 * * ということで、お次は上の記事の登場し、1月20日付でも 予告したブラックリストについて紹介しておこう。 今回の2012年版ブラックリストは昨年12月16日に発表され たものだが、その具体的な選考は、各エージェントから応募 された72作の脚本に対して、290人を超える映画製作会社の トップたちがそれぞれが気に入った10作ずつを選択し、その 選択された票数によって順位が選ばれている。 そこでトップ10に選ばれたのは、 “Draft Day”(65票)NFLのドラフト会議の一日を描い た実話に基づく作品。 “A Country of Strangers”(43票)1966年にオーストラリ アの海岸から消えた3人の子供の行方を追う実話に基づく作 品。 “Seuss”(43票)昨年8月紹介『ロラックスおじさんの秘 密の種』などの映画化作品で知られる絵本作家のドクター・ スースが、第1作を発表する切っ掛けになった女性との出会 いを描いた作品。 “Rodham”(39票)ウォーターゲート事件に関わった若き弁 護士を描いた作品。 “Story of Your Life”(35票)日本では2003年に翻訳され ているテッド・チャン原作の映画化。世界中に異星人の宇宙 船が着陸した後の地球人の姿が描かれる。 “Wunderkind”(33票)モサドの工作員の父親とCIAエー ジェントの息子が、逃亡したナチの残党を追う物語。 “Extremely Wicked, Shockingly Evil, and Vile”(31票) 将来の約束された法学部の学生が、歪んだ社会の中で徐々に 危険に曝されて行く姿を描いた作品。 “Glimmer”(29票)呪われた森で行方不明になった3人と、 残された2人の姿を追う、ゴミ箱で発見されたヴィデオテー プに基づく作品。 “Me & Earl & the Dying Girl”(29票)白血病で死を迎え る友の姿を映画に残そうとする高校生たちを描いたジェシー ・アンドリュースの小説を、著者自らが脚色した作品。 以上の9作に、上記の“Devils At Play”(28票)を加え た脚本がベスト10に選ばれている。この中では当然“Story of Your Life”が気になるが、“Glimmer”も今更のPOV で高評価を受けているのが気になるところだ なおこの他の作品では、少し下位だが2005年5月の第87回 (前)などで紹介の“The Equalizer”も今回のリストに入っ ていた。この1980年代テレビシリーズの映画版に関しては、 2006年6月の第112回でも、ワインスタイン Co.(TWC) による権利獲得を報告したが、結局その計画は頓挫していた ようだ。 しかし、実はこのリスト発表直前の12月6日にこの脚本を ソニーが契約したことが報告され、監督にはデンマーク出身 のニコラス・ワインディング・レフン、主演はデンゼル・ワ シントンで映画化が進められるとのことだ。監督には先に、 ワーナーで“Logan’s Run”のリメイクの計画も進んでいる ようだが、今回は順調に進むことを祈りたい。 * * ここからはまた製作ニュースで、2008年9月紹介『永遠の こどもたち』などのスペインの新鋭ファン・アントニオ・バ ヨナ監督に、ワーナーで進められている題名未定のSF作品 への起用が発表されている。 作品は、2008年12月紹介『ベンジャミン・バトン−数奇な 人生−』などのエリック・ロスの脚本に基づくもので、具体 的な内容は不明だが、SF作品と紹介されていたものだ。 因にバヨナ監督は、前回紹介したVES賞の候補の中で、 一般映画なのに作品賞の他に模型賞の候補にも挙げられてい た“The Impossible”も手掛けており、実はこの作品は昨年 の東京国際映画祭「ワールドシネマ」で上映されたが、僕は 見逃していた。内容は、2004年のクリスマスに東南アジアを 襲った大津波に翻弄される家族の姿を描いたもので、主演の ナオミ・ワッツは米アカデミー賞の主演女優賞候補にもなっ ている。 そして今回の計画は、その監督の第3作となるものだが、 見事なダーク・ファンタシーの後にデザスター作品を手掛け た監督にSFというのは気になるところだ。ただしロスの脚 本には、1994年のオスカー受賞作『フォレスト・ガンプ』な どあるものの、2006年1月紹介『ミュンヘン』など僕には何 か引っ掛かるところも多く、今回の計画もその点では不安も ある。そんなことも気にしながら注目して行きたい。 なお製作は、ワーナに本拠を置き、紹介予定のコミックス の映画化『L.A.ギャングストーリー』などを手掛けるケヴィ ン・マコーミックが担当している。 * * お次は、2011年1月3日に7年間の任期を終えてカリフォ ルニア州知事を退任したアーノルド・シュワルツェネッガー の主演復帰作『ラストスタンド』は後日紹介する予定だが、 そのシュワルツェネッガーの出世作“The Terminator ”に 続編の計画が報道されている。 シリーズは、2009年5月紹介の『ターミネーター4』で、 新たな展開による再開が期待されたが、McG監督による作品 は残念ながら期待通りのものにはならず、続編の権利は数年 前に前作を製作したハルシオンから売却されていた。 その権利を買い取ったのが、今年の米アカデミー賞を賑わ す『ゼロ・ダーク・サーティ』『ザ・マスター』を手掛ける アンナプルナ・ピクチャーズのミーガン・エリクスン。その エリクスンの許で新たな計画が始動したものだ。 その計画でまず発表されたのは、脚本家として契約された 2011年7月紹介『ドライブ・アングリー3D』などのパトリ ック・ルシエと、製作者でもあるレータ・カログリディス。 因にカログリディスは、2009年『アバター』の製作総指揮も 務めており、シリーズ創始者のジェームズ・キャメロンの正 に直系の人物が参加することになっている。 なおカログリディスは、脚本家としては2004年の『アレキ サンダー』や2010年の『シャッター・アイランド』なども手 掛けており、申し分のない経歴を有している。一方のルシエ も“My Bloody Valentine”のリメイクなど、ジャンル作品 では確固とした実績を有しており、この2人の組み合わせが どのような相互作用を生み出すかも楽しみだ。 さらにアンナプルナは、今年1月紹介『アウトロー』や、 『スター・トレック イントゥ・ダークネス』などの話題作 も手掛けており、その勢いをかってのシリーズ再開には大い に期待が持てるものだ。 * * 2014年5月2日全米公開を目指して撮影が開始されている “The Amazing Spider-Man 2”に、昨年7月紹介『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』などのポール・ジアマッテ ィと、2011年5月紹介『テンぺスト』などのフェリシティ・ ジョーンズの出演が発表されている。 この作品は、前作の脚本を手掛けたジェームズ・ヴァンダ ービルトの原案に基づき、『スター・トレック イントゥ・ ダークネス』などを手掛けたアレックス・カーツマン、ロベ ルト・オーチらの脚本によって進められているもので、監督 には前作のマーク・ウェッブが再登板しているものだ。 そして出演者では、前作に引き続いてのアンドリュー・ガ ーフィールド、エマ・ストーン、サリー・フィールド、マー ティン・シーンに加えて、敵役のElectro/マックス・ディ ロンに1月紹介『ジャンゴ繋がれざる者』のジェイミー・フ ォックス、またジアマッティは、同じく敵役のThe Rhino/ アレクセイ・シチェヴィッチを演じることになっている。た だしジョーンズの役柄は不明。 さらに本作では、以前の3部作でキルスティン・ダンスト が演じたメアリー・ジェーン・ワトスン役にTVシリーズの “The Secret Life of the American Teenager”に主演した シェイリーン・ウッドリー、ジェームズ・フランコが演じた ハリー・オズボーン役には2012年“Chronicle”というSF 作品に主演しているデイン・デハーンの登場も報告されてお り、ピーター・パーカーの周囲は忙しくなりうそうだ。 なお公開は3Dで行われることになっている。 * * 続いても続編の話題で、ディズニーから2014年3月21日に 全米公開予定の“The Muppets... Again!”に、第185回で紹 介“Sin City: A Dame to Kill For”にも出ているレイ・リ オッタの出演が発表された。因にリオッタは、1999年公開の “Muppets from Space”(邦題:ゴンゾ宇宙に帰る)にも出 演しており、マペッツとは再共演になる。 そして新作は、昨年4月紹介『ザ・マペッツ』を手掛けた ジェームズ・ボビンが再び監督を務めるもので、TVシリー ズ“Da Ali G Show”の脚本家でもあるボビンは、今回の脚 本も前作のニコラス・ストーラーと共に執筆している。なお 前作の脚本は、主演のジェイスン・シーゲルとストーラーが 手掛けていた。 そのお話は、ヨーロッパを舞台にした犯罪物で、リオッタ の他には、“Saturday Night Live”の作家で出演者のティ ナ・フェイがロシアの監獄看守役。またBBCのTVシリー ズ“The Office”クリエーターのリッキー・ジャーヴェイス がインターポールの捜査官役で出演するとのこと。ただし、 リオッタの役柄は不明のようだ。 一方、出演者欄には前作に出演したシーゲルやエイミー・ アダムス、クリス・クーパーらの名前はなく、物語的に繋が りがあるのかは不明。また1999年の作品との繋がりも書かれ てはいなかった。 まあマペッツの面々は前作と同様に出演するのと、確か前 作ではミス・ピギーはパリのファッション業界にいたはずだ から、その辺で何か繋がりがあるのかもしれないというとこ ろだ。 前作は米アカデミー賞の歌曲賞を受賞しており、今回もそ れに続くことも期待したい。 * * もう一つディズニーの話題で、“1952”という仮題で紹介 されていた2011年12月紹介『ミッション・インポッシブル/ ゴースト・プロトコル』などのブラッド・バード監督の新作 に“Tomorrowland”という正式題名が発表された。 この作品は、1994年『スピード』などのスタントマンのジ ェフ・ジェンセンと、『スター・トレック イントゥ・ダー クネス』も手掛けたダモン・リンドロフの脚本を映画化する ものだが、内容は全く不明。大体“1952”というのは年号を 表していると思うが、それが“Tomorrowland”というのも不 思議なところだ。そしてこの作品の出演者欄にはジョージ・ クルーニーの名前があることも判明した。 という謎の作品だが、“1952”という年号には1955年に開 園したアナハイムのディズニーランドとの関連も考えられ、 さらに正式題名にもその関連は考えられるところ。しかし脚 本を手掛けたのはスタントマンとSF映画の脚本家というこ とで、これは一体どのような作品が生まれるのか、興味津々 という感じのものだ。 なお本作の全米公開は、2014年12月19日の予定になってい る。
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