井口健二のOn the Production
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2013年01月30日(水) 汚れなき祈り、アンナ・カレーニナ、体温、愛アムール、暗闇から手をのばせ、カルテット!、ジャンゴ繋がれざる者、魔女と呼ばれた少女

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『汚れなき祈り』“Dupa dealuri”
2007年12月紹介『4ヶ月、3週と2日』のクリスティアン・
ムンジウ監督が、2005年6月にルーマニアの片田舎で起きた
事件を再現した作品。
物語は、列車の駅に友を迎えに来た修道女の姿から始まる。
彼女が出迎えたのはドイツに行っていた幼馴染の女性。2人
は共に孤児院で育ち、1人は地元の修道院に入信し、1人は
ドイツに職を求めたようだ。しかしドイツに行った女性は夢
やぶれたということなのだろう。そして2人は、小さな町の
郊外の丘に建つ修道院へとやって来る。
その修道院は1人の司祭によって運営されていたが、彼は教
会に属する司祭に与えられる俸給も返上するほどのストイッ
クな人物だった。そして教会には奇跡を起こす宗教画がある
というが、その佇まいも簡素で、そんな中で修道女たちは、
司祭が命じるままの質素な生活を続けていた。
そんな中に新たにやってきた女性は、なかなかな環境に馴染
むことができず、幼馴染の修道女に一緒にドイツに行こうと
訴えるのだが…。司祭は行っても良いと言うものの、それは
修行を無駄にすることだと諭され、修道女も教えの道を捨て
ることができない。
そしてドイツから帰ってきた女性に謎の発作が起き始める。
その発作は現代医学によっても原因が判らず、やがて司祭た
ちには発作を鎮めるために悪魔祓いの儀式を行うしか術がな
くなってくる。
背景の宗教は正教会ということだが、ローマ・カソリックと
はかなり違って、伝統的な儀式などの伝統に重きを置く宗派
のようだ。その実態は僕にはよく判らないが、見た感じはか
なりのカルトのようにも見えてしまう。もちろん歴史は違う
が、宗教というのは大体そんなものだ。
因に、実際の事件はトランシルヴァニアで起きたようだが、
映画ではブカレスト近郊の村に設定され、マニア的な期待に
はあまり明確なものは感じられなかった。でもまあこれは現
実に起きた事件である訳だし、そんな宗派が21世紀の今日に
なっても生き残っているということだ。

出演は、ともに本作で映画デビューのコスミナ・ストラタン
とクリスティナ・フルトゥル。因にストラタンはTVレポー
ターも務めるジャーナリスト。フルトゥルはナショナルシア
ターに所属する舞台女優だそうだ。
なお本作と同じ題材では先に舞台劇も発表されているようだ
が、本作の脚本はBBC所属のジャーナリストだったタティ
アナ・ニクレスク・ブランの調査に基づき、ムンジウ監督と
ブランが新たに書き下ろしたものだ。

『アンナ・カレーニナ』“Anna Karenina”
『戦争と平和』と並ぶ、レフ・トルストイ原作ロシア文学の
映画化。
舞台は1870年代のロシア。サンクトペテルブルグで政府高官
の貞淑な妻だったアンナは、兄夫婦の諍いを仲裁するために
モスクワへやって来る。しかしその旅の途中で出会った若き
貴族の将校ヴロンスキーが、彼女の運命を変えてしまう。
物語の始まりでは、アンナが遭遇する鉄道事故の様子も描か
れ、彼女の悲劇的な終末が暗示される。その一方で対称的な
運命を歩むキティとリョーヴィンの姿もきっちりと描かれて
いる作品だ。
同じ原作からは無声映画時代から数多くの映画化があるよう
だが、僕が憶えているのは1967年のモスフィルム版だ。その
前に『戦争と平和』の映画化も成功させているソ連の映画ス
タジオが、初の70mmで制作したのがその作品だった。
しかしまだ10代後半だった僕にとって、このタチアナ・サモ
イロア主演の作品は、正直に言って大スペクタクルの『戦争
と平和』ほどには感銘を受けなかったし、まあそんなものか
なあという程度の印象だった記憶しかない。

そんな物語が、今回はキーラ・ナイトレイ主演、2007年12月
紹介『つぐない』や2011年5月紹介『ハンナ』のジョー・ラ
イト監督でリメイクされた。共演はジュード・ロウ、アーロ
ン・テイラー=ジョンスン、それにエミリー・ワトスンら。
また脚本を、1998年『恋に落ちたシェイクスピア』や1985年
『未来世紀ブラジル』などのトム・ストッパードが担当して
いるのも注目だった。
それで本作は、そのストッパードの脚本が素晴らしいと言え
るのかもしれない見事な作劇になっていた。そこではまず物
語が舞台面という設定でスタートし、そこから野外や壮大な
セットに展開されたり、また劇場の客席がスケートリンクに
なってしまったりする。
それはトリッキーではあるが、その場面転換が巧みに物語を
集約し、本作では2時間10分の上映時間の中にトルストイが
描いた物語の全てが印象深く織り込まれていた。これは上記
のモスフィルム版が2時間45分を掛けても僕にはキティらの
物語の印象が残っていなかったのと対称的なものだ。

なお本作は米アカデミー賞で、撮影、衣装デザイン、作曲、
美術の4部門で候補になっているが、脚色賞のノミネートは
逃したようだ。

『体温』
2011年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に出品
されて高い評価を受け、その後にテキサス・ファンタスティ
ック映画祭やUCLAの映画祭にも正式招待されたという作
品。
本作は、別に嫌いな作品という訳ではないが、上記のように
既に評価もされており、僕が紹介するまでもないと考えてい
た。しかし多少事情が変わったので改めて紹介しておくこと
にする。ただ本作に関しては、鑑賞時に疑問に感じる部分も
あったので、ここではその辺を中心に書くことにしたい。
プレス資料の中では「アンチ『空気人形』」などという文言
も見られて、対抗意識も持って作られた作品なのかもしれな
い。しかし基本的にファンタシーの王道の一つとも言える人
形に魂が宿る設定の2009年6月紹介の作品に対して、本作で
は人形は別段魂を持つようには描かれていない。
むしろ、その人形の持ち主である主人公の精神の方を主題に
描かれている作品と言えるだろう。そして物語では、最初は
女優の演じている人形が、ある状況で本当に人形になってし
まう辺りで、その心情の変化などが象徴的に描かれていると
言えるものだ。
しかしそうであったとして、さらにその状況が逆転した時点
で、人形の姿が再び女優の演技に戻らなかったことが僕には
疑問に感じられた。
つまりこの主人公の心が、生身の人間に巡りあったことで人
形から完全に離れ、再び戻らなかったのだとしたら、これは
それまで人形を愛し続けてきた主人公にしてはあまりに薄情
に感じられたものだ。
もちろん本作では、演出の関係で映画の後半の人形を女優に
演じさせるのが難しい状況はあるのだが、それは撮影の工夫
次第でどうにか出来たのではないか。しかしその工夫をあえ
てしない。このドライさが、現代の若者というようにも感じ
られ、多少暗澹とした気持ちにもなったものだ。

出演は、2012年1月紹介『マイウェイ』などに出演の石崎チ
ャベ太郎とAV女優の桜木凛。脚本と監督は、2010年「ゆう
ばり国際ファンタスティック映画祭」でも『終わらない青』
という作品が高評価だったという緒方貴臣。
プレス資料に掲載の「監督のコメント」によると、人間に対
する幻滅から、人形に擬似的な恋愛感情を継続させる若者を
描きたかったそうだが、それなら余計に最後の人形は女優に
演じさせて欲しかったものだ。


『愛、アムール』“Amour”
ミヒャエル・ハネケ監督が、2010年9月紹介『白いリボン』
に続いて、カンヌ国際映画祭で2作品連続のパルムドールに
輝いた作品。
登場するのは年老いた夫妻。妻は元ピアニストで現役は退い
ているが、教え子らからの信頼は厚いようだ。そんな夫妻は
パリの風格あるアパルトマンに2人で暮らしていた。
ところがある日の食事中、突然妻が硬直し何の反応も示さな
くなる。その状態は、程なくして何事もなかったかのように
元に戻るのだが、妻はその間の記憶を失っていた。
こうして病院で検査を受けた妻は、日常の生活に問題はなく
退院したものの、徐々に痴呆が進んでいることは明らかだっ
た。しかも二度と入院はしたくないという妻に、夫は自宅で
の介護を決意するが…

出演は、1927年生まれの85歳、本作で史上最高齢のオスカー
主演女優賞候補になっている1959年『二十四時間の情事』、
2010年4月紹介『華麗なるアリバイ』などのエマニュエル・
リヴァと、1930年生まれの81歳、1966年『男と女』や1969年
『Z』(カンヌ国際映画祭で主演男優賞受賞)などのジャン
=ルイ・トランティニャン。
他に、2002年9月紹介『8人の女たち』や、2006年6月紹介
『ママン』などのイザベル・ユペール、2012年ヴィクトワー
ル賞でクラシック音楽部門の年間最優秀ソリスト賞を受賞の
ピアニストで、本作にはオーディションに参加して選ばれた
というアレクサンドル・タローらが脇を固めている。
オリジナルは1997年に発表されて、2008年9月にハリウッド
リメイクを紹介した『ファニー・ゲーム』などでも知られる
ハネケ監督は、一般的に人間嫌いではないかと言われている
そうだ。リメイク作品や前作『白いリボン』ので彼が描いた
登場人物は確かにそんな印象を持つ。
しかし本作の老夫婦には、そんな単純な論評では割り切れな
い人間性も感じられる。ただし周囲の人間には、多少厳しい
表現もあって、やはり基本は人間嫌いなのかなとも思わせる
部分もあった。監督はこれがリアルな現実で、それを描いて
いるだけと主張しているようだが。
僕自身、両親が老老介護だった時期を観ていた頃もあって、
本作にはいささか身につまされる部分も多い作品だった。そ
れは将来の自分自身でもある訳で、そんな覚悟を促されてい
るような作品でもあった。


『暗闇から手をのばせ』
元は雑誌編集者で、その後に漫画原作コンテストで大賞を受
賞、漫画原作者や吉本のコント作家なども経て現在はNHK
エンタープライズに所属してテレビドキュメンタリーを制作
しているという戸田幸宏監督の第1回作品。
因に本作は、NHKのドキュメンタリー用に取材したが内容
を拒否されたため、フィクション化して自己資金による自主
映画として制作したものだそうだ。
描かれているのは、身障者専門のデリヘル嬢。作品の中でも
人口に対する障害者の割合などが示され、その人たちが家の
中で性処理もできないまま暮らしている現状が語られる。そ
して組織を運営している人物は元は福祉関係とされており、
この辺は取材で出てきた話なのかもしれない。そんな男の許
で働く新人デリヘル嬢を中心に物語は展開される。
そこには進行性の筋ジストロフィーで余命幾ばくもなく、自
分の身体は自分のものだと主張して全身にタトゥーを入れて
いる若者や、事故で身体の自由を失って厭世的になっている
少年、さらには先天性多発性関節拘縮症の男性など、様々な
客が現れる。その一方では、身障者を騙る招かれざる客も登
場する。

出演は、2010年7月紹介『TENBATSU』などに出演のグラビア
アイドルの小泉麻耶。他に津田寛治、森山晶之、モロ師岡、
それにお笑い芸人のホーキング青山らが脇を固めている。
に作品の一部は青山の著作も参考にしているようだ。
テーマはかなり過激だし、まあNHKでは拒否されても仕方
ないかなあという感じだ。しかし描かれている内容は真実と
思えるものだし、この現実は間違いなくあるのだろう。そん
な自分たちが目を逸らし勝ちな真実の姿を、この作品はある
意味小気味良く描いている。
それは敢えて興味本位と取られることも覚悟の上で、恐らく
今まで目を逸らしていたであろう人たちに対して、その現実
を真っ向から伝えようとしているものだ。
ただしそれは諸刃の剣でもあって、肝心の人たちが観ない可
能性はある。でもそんなことも含めてこれはこれで現実なの
だし、そんなことでも良いのではないか…。そんな風にも思
わせてくれる見事な作品でもあった。
逆に興味本位ででも観てくれれば、それでも本作の目的は果
たせたのではないかな、そんな風にも感じられた。


『カルテット!人生のオペラハウス』“Quartet”
2度のオスカー主演賞に輝くダスティン・ホフマンが、公式
には初の映画監督に挑戦した作品。
舞台は、イギリスにある音楽家専門の老人ホーム「ビーチャ
ム・ハウス」。そこは資産家が残した邸宅を利用して設立さ
れたものだが、運営費は残さなかったらしく、毎年開かれる
コンサートの収益が頼みの綱だ。そして今年はヴェルディ生
誕200周年を記念したコンサートを開く計画だった。
ところが予定された往年のスターソリストが出演を辞退し、
チケットの販売が激減する事態に陥る。それでも練習だけは
怠らない面々だったが。そんな時、施設の車が新入居者の出
迎えに行くことが判明、それは大スターが入居することの前
触れだった。
こうして新たな大スターを迎えて、施設の存続を賭けたコン
サートへの準備が始まるが…。そこには様々な人生の経緯が
隠されていた。果たしてコンサートは無事開幕されるのか?

出演は、昨年10月紹介『マリーゴールド・ホテルで会いまし
ょう』などのマギー・スミス、2008年1月紹介『ライラの冒
険・黄金の羅針盤』などのトム・コートネイ、2003年11月紹
介『ラストサムライ』などのビリー・コナリー、昨年12月紹
介『アルバート氏の人生』などのポーリーン・コリンズ。以
上は全員が大英帝国勲章の叙勲者だ。
他に、マイクル・ガンボン、シェリダン・スミス、コメディ
俳優のアンドリュー・サックスらが脇を固めている。
さらにホームの入居者として、ギネス・ジョーンズ、ナウラ
・ウィリス、ジョン・ローンズリーらのオペラ歌手。世界最
高齢トランペッターと言われるロニー・ヒューズ。また訪問
者役でラッパーのジュイマン・ハンターらが出演して、見事
な演奏や歌唱を披露している。
ホフマンはブロードウェイの舞台演出などは手掛けており、
1978年には自らの主演作でもクレジットなしで監督したこと
があるようだが、本作が公式には映画初監督作品。因に本作
では、脚本に惚れ込んで自らが憧れるイギリスを舞台にした
物語に挑戦したようだ。
それにしても、一緒に紹介した『愛、アモール』とは見事に
対をなした感じの作品で、方やリアルに描ききったシビアな
老後に対して、こちらは夢のような老後。もちろん現実には
厳しい部分もあるけれど、こんな夢も見たい気分にさせてく
れる作品だった。


『ジャンゴ繋がれざる者』“Django Unchained”
現代アクション映画の旗手とも言えるクエンティン・タラン
ティーノ監督が初めて西部劇に挑んだ作品。
物語の始まりは、鎖に繋がれて荒野を進んでゆく黒人奴隷の
行列。そこに歯科医と称する男が現れ、奴隷商人に金をちら
つかせながら欲しい奴隷がいると告げる。そして何やら話し
かけながら品定めをした男は、1人の黒人を選び出す。
その男は賞金稼ぎで、黒人が以前に暮らしていた農場の牧童
たちを探しているという。そこで賞金の掛けられた男たちの
顔を知る黒人が必要だったのだ。こうして賞金稼ぎと行動す
ることになった黒人青年には、別のある目的があった。
奴隷制度が生き残るアメリカ南部を舞台に、自由人となった
黒人青年が立ち向う、差別と暴力に歪んだ白人社会の実態が
暴かれて行く。
内容的にはかなり社会派的なドラマが展開されるが、それが
タランティーノ特有のアクションで彩られる。それはサム・
ペキンパーとも違うし、またコーエン兄弟とも違うものだ。
しかしどこか懐かしさも感じられる。そんな西部劇が描かれ
ていた。

出演は、ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、
レオナルド・ディカプリオ、2004年4月紹介『白いカラス』
などのケリー・ワシントン、そしてサミュエル・L・ジャク
スン。
他に、ドン・ジョンスン、フランコ・ネロ、ラス・タムブリ
ン、ブルース・ダーン、マイクル・ボーエン、ロバート・キ
ャラダイン。さらにはスタントウーマンのゾイー・ベル、メ
イクアップアーチストのトム・サヴィーニらの名前も出演者
欄に登場し、錚々たる顔触れがタランティーノの新たな門出
に結集したようだ。
タランティーノは脚本も執筆して、それは米アカデミー賞の
候補にもなっているものだが、その展開は開幕の黒人奴隷の
行列に始まって、どこをとっても過去に観たようなシーンの
連続。
それは本人的にはオマージュののつもりだろうし、観客とし
ても微笑ましく思うようなものだが、折角のタランティーノ
ならもう1歩踏み込んでも欲しかった感じもしてしまうとこ
ろだった。
その辺にはこちらの期待過多なのかもしれないが、ちょっと
物足りなくも感じてしまったところだ。でもまあ、これが彼
にとっては西部劇は第1作なのだし、これから作られる作品
には大いに期待したいものだ。


『魔女と呼ばれた少女』“Rebelle”
カナダのフランス語圏ケベック州の製作で、今年の米アカデ
ミー賞外国語映画部門で候補になっている作品。
映画の舞台は、アフリカ中央部のコンゴ民主共和国。2003年
の合意による暫定政権の成立以後も、内戦状態が続いている
とされるこの国で、軍事勢力に翻弄されながらも生き抜いて
行く1人の少女の姿が描かれる。
その少女は、12歳の時に暮らしていた村が反政府軍の侵攻を
受け、拉致された少女は反政府軍の兵士として徴用される。
しかし幻覚作用のある樹液を飲むことで亡霊が見え、亡霊の
導きで勝利を招くようになる。
このためボスからも「魔女」と崇められるようになるが、亡
霊のお告げで死を予知した少女は、彼女に想いを寄せる少年
と2人で逃亡する。そして少年のプロポーズに対しては、父
親に教えられた「白いニワトリ」を要求するが…
亡霊の登場などには、かなりファンタスティックなイメージ
も描かれてはいるが、全体としては生と死が隣り合わせのア
フリカの大地に生きる少女の厳しい現実が描き尽くされてい
る作品だ。
その現実は、不況で将来に希望が見えないと言いながらも、
安寧な日本の少年少女たちには想像もつかないものだろう。
しかしこれが世界の現実であり、多くの子供たちがそんな環
境の中で生きていることは知っておいて欲しいものだ。

出演は、本作でベルリン国際映画祭の主演女優賞「銀熊賞」
を獲得したラシェル・ムワンザを始め、彼女と共にバンクー
バー批評家協会賞で助演男優賞を受賞したセルジュ・カニン
ダら、現地のオーディションで選ばれたコンゴの人々。
その脇を、アラン・バスティアン、ラルフ・プロスペール、
ミジンガ・グウィンザという3人のカナダ人の俳優たちが固
めている。脚本と監督は、ベトナム人を父親に持つキム・グ
エン。因に本作は監督4作目の作品だそうだ。
撮影は、2011年6月にオール現地ロケで行われ、まだ内戦状
態が続く現地では、武装した市民軍に守られての撮影だった
そうだ。また途中に登場するアルビノの村は、実はアンゴラ
で撮影されたものだそうだが、その現実もかなり厳しいもの
のようだ。
映画の内容では、2011年8月紹介『ゴモラ』に重なるところ
もあり、僕個人の感想としてはもう少しファンタシーに寄っ
てくれても良かったかなとも思ったが、現実を真っ向から捉
えるということではこの方が良いのだろうし、この現実をで
きるだけ多くの人に知ってもらいたいものだ。



2013年01月20日(日) 恋する輪廻、逃走車、天使の分け前、ひかりのおと、ダーク・タイド、ブラインドマン+DVDマガジン記者会見、ナンバーテンブルース追記

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
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『恋する輪廻』“ओम शांति ओम”
昨年3月にも『ロボット』を紹介したインド特有のミュージ
カル作品。
物語は、ボンベイの映画産業(ボリウッド)を舞台にした2
部構成もの。
その前半の時代は1970年代。1人の駆け出しの俳優が憧れの
大女優の目に留まろうと必死になり、ある活躍から女優と話
をできるようになる。ところがある夕暮れ、女優の後を付け
た彼はとんでもない事件に巻き込まれてしまう。
それから30年、ボリウッドは新たな青春スターの誕生に沸い
ていた。ところがある日、彼は不思議な体験から自分が非業
の死を遂げた脇役俳優の生まれ変わりであることに気づく。
それは30年前に中止された映画の製作に絡んでいた。
そこで彼は、中止後に行方不明となった大女優の謎を解くた
め、その作品のリメイクを開始するのだが…。そんな30年の
時代を隔てた因縁の物語が、華やかな歌と踊りに彩られて展
開されて行く。
インド製のミュージカル映画では、1998年に『ムトゥ 踊る
マハラジャ』が日本公開されて話題になったことがあるが、
その後は徐々に下火になっていた感じだ。大体1本の上映時
間が3時間近いと、興行も難しかったと考えられる。
そんな中で昨年の『ロボット』は、『ムトゥ』と同じ主演者
によるものだったが、試写の行われたのが短縮版だったのに
加えて、SFとミュージカルの融合は、正直に言って難しさ
を感じさせたものだ。
それに対して本作では、まず物語の主題が恋愛ものであり、
そこにファンタスティックな味付けがされると、歌と踊りが
登場してもほとんど違和感はなかった。さらに本作は映画製
作のバックステージでもあるから、歌と踊りはあって当然と
いう感じにもなっていた。
そんな訳で映画は気持ちよく楽しませてもらえたし、さらに
ファンタスティックな展開には嬉しくもさせて貰えた。まあ
この因縁話は目新しいものではないが、こんな風に華やかに
描かれると、それなりに面白く観られたものだ。

出演は、「キング・オブ・ボリウッド」とも称される人気ス
ターのシャー・ルク・カーンと、本作が出演2作目のディー
・ピカー・パードゥコーン。因に本作は2007年の作品だが、
男優は1965年生まれ、女優は1986年生まれだそうだ。

監督は、舞踊監督として80本以上の作品歴があるという女流
のファラー・カーン。監督は2作目だが彼女の業績を慕って
映画の途中には数多くのゲスト出演者がいるようだ。また、
エンディングには彼女自身も含む映画のスタッフも画面に登
場している。
インド製のミュージカル作品では、一昨年の東京国際映画祭
で『ボリウッド〜究極のラブストーリー』という、その歴史
を綴ったドキュメンタリーが上映されたが、特有のスタイル
の中にも常に進化は指向されているようで、今後もその歴史
は続いて行きそうだ。

『逃走車』“Vehicle 19”
『ワイルド・スピード』シリーズのポール・ウォーカーが、
主演と製作も兼ねるカーアクション作品。
物語の舞台は南アフリカ共和国のヨハネスブルグ。世界で最
も危険な都市とも言われるこの街で、1人の男の命を張った
逃走劇が開幕する。
主人公は、ヨハネスブルグの空港に着いたばかりの男。何か
事情があるらしく、携帯電話で妻に連絡を取りながら空港で
レンタカーを借りて妻の許に向かおうとする。しかし指定さ
れたナンバー19の車両の車種は彼の依頼と違うようだ。それ
でも妻の許に急ぎたい男は、そのまま車を出発させるが…
実はその車にはある秘密が隠されており、それは男を瞬く間
に危険な事態へと引き込んで行く。そして自らの危機を脱す
るため男は車を駆って行くことになるが、その先には思いも
よらぬ陰謀が隠されていた。

共演は、ニューヨーク生れだが南アフリカで育ち、イギリス
のテレビ“Wild at Heart”にレギュラー出演したこともあ
るという女優・歌手のナイマ・マクリーン。この他の脇役も
南アフリカの俳優たちが固めているようだ。
脚本と監督は、コマーシャル出身で本作が長編監督2作目と
いうムクンダ・マイクル・デュウィル。因に本作の脚本は、
2010年度の未製作の映画脚本コンテスト(ブラックリスト)
において、エージェントたちの投票による第1位を獲得した
作品だそうだ。
また本作では、全編を車載カメラで撮影するというコンセプ
トが採られ、しかもカメラはアナモフィックレンズを装着し
たフィルムカメラ。その撮影条件はかなり厳しいが、それを
こちらもコマーシャル出身のマイルス・グドールが見事に実
現している。
という作品ではあるが、僕の個人的な希望としてはもう少し
背景をはっきりさせて欲しかったかな。特に発端の車両がす
り替えられた経緯は、単なる偶然というのはちょっといただ
けない。
特に主人公に特別な事情があるという設定では、その経緯が
罠の可能性もあるし…。その辺が曖昧にされていると何とも
観ていて落ち着かなかった。まあ最近の観客はそんなことな
ど頭が働かないのかもしれないし、日本映画の大半はそんな
ものだが。

なおブラックリストに関しては、2月1日の製作ニュースで
少し紹介する予定だ。

『天使の分け前』“The Angels' Share”
昨年2月紹介『ルート・アイリッシュ』などのケン・ローチ
監督がスコッチ・ウィスキーを題材にして、現在のイギリス
を寓意的に描いた作品。
舞台は、スコットランドのかつての工業都市グラスゴー。そ
の街で暮らす若者ロビーは、暴力があふれる環境の中で荒ん
だ生活を送っている。そんな彼は少年刑務所を10ヶ月前に出
所し、愛する恋人と生まれてくる子供のために暮らしを立て
直したいが、周囲の環境はそれを許そうとしない。
そして売られた喧嘩で相手を傷つけたロビーは、簡易裁判で
300時間の労働奉仕を命じられる。こうして同様の連中と共
に指導官の許で作業に着くが、ロビーの真面目な態度を認め
た指導官は彼らを蒸留所の見学に連れ出す。そこでウィスキ
ーの奥深さに目覚めたロビーにはある展望が開けるが…。
とここまではかなりシリアスな社会派ドラマが展開するが、
ここからが奇想天外というか、ケン・ローチ監督らしい見事
な人生逆転のドラマとなる。それは必ずしも良い子ばかりで
はない主人公たちが繰り広げる大作戦といった感じのもの。
これには多少後ろめたくても喝采を上げてしまった。
題名は、長年寝かした樽の中で、蒸発などによって少しずつ
減って行くウィスキーの減分のこと。その「天使の分け前」
が主人公たちの幸運の糧となる。

出演は、本作の舞台グラスゴーで脚本家ポール・ラヴァティ
がリサーチ中に見出したというポール・ブラニガン。本作で
はスコットランドの映画賞で主演男優賞も受賞している。他
に2010年11月紹介『エリックを探して』などのジョン・ヘン
ショー。2002年11月紹介『Sweet Sixteen』に出演のガリー
・メイトランドとウィリアム・ルアン。
さらにオーディションで選ばれたジャスミン・リギンズ。グ
ラスゴー出身のシヴォーン・ライリー。昨年8月紹介『ウー
マン・イン・ブラック亡霊の館』などのロジャー・アラム。
それにスコッチウィスキーの世界的権威とされるチャーリー
・マクリーンらが脇を固めている。
スコットランドには40年近く前にネス湖を見に行ったことが
ある。その際グラスゴーは夜行列車で深夜の通過だったが、
早朝に見たエジンバラ城やハイランドの風景は今も変わって
いなかったようだ。ついでに言えば、その時の記念に買った
マグカップに書かれた‘Trew or False?’の謎が、本作では
真実と確認することができた。


『ひかりのおと』
一昨年の東京国際映画祭「日本映画ある視点」で上映され、
その後は撮影地の岡山県各所で巡回上映されていた作品が、
今度は全国公開されるということで試写が行われた。
作品は「地産地『生』」映画と自称されているもので、岡山
県の山深い土地に住む酪農家の周囲を取り巻く出来事が描か
れる。
主人公は、一度は東京に出たものの故郷に舞い戻った青年。
彼には恋人がいるが、その女性は未亡人でさらにその子供は
亡き夫の「家」の唯一の跡取り。従ってその恋人が彼の許に
来るためには子供を置いてこなければならない。そんな状況
の中で、現在の日本農業の置かれた状況が語られる。
それはまあ判らないではない話なのだけれど、一方で日本の
農業(酪農)の困難さを言いながら、他方で跡取りと言われ
ても、第三者の観客としてはそれを真剣に悩むところには行
かない。もちろんそれは農家にとっては重要な話なのだろう
が…。
しかもその人間関係が判り難くて、実は映画の最初にテロッ
プが1枚出るのだが、それと本作の物語との繋がりも映画の
終盤になってようやく得心したもので、それまでは映画の中
で何が起きているのかもさっぱり判らなかった。この辺は最
近の日本映画によくある傾向ではあるが。
で、得心したらもう映画は終わっていた訳で、これで感動で
きるのは相当に頭の良い人たちなのだろう。確かに映画のエ
ンディングは感動的な映像で締め括られるが、これで済むな
ら、それまでの主人公の悩みは何だったのか、という感じに
もなってしまう。
そこに希望はあるが、それは本作に描かれた物語の未来とは
別のもののような感じもする。結局本作の場合は、大上段に
振りかぶった日本農業の未来の問題と、物語としての男女関
係の話とがうまく折り合わさっていないもので、その辺では
中途半端にも感じられた。

脚本と監督は、実際に現地で農業を営んでいるという山崎樹
一郎。プロデューサーは2008年12月紹介『へばの』も手掛け
た桑原広考。プロデューサーの前作もそうだが、日本各地に
隠された問題を今後も映画化してくれることを期待したい。
出演は、監督の前作にも出演の藤久善友。他に森衣里、真砂
豪。撮影地の岡山県や関西で活動する人たちを中心に起用さ
れているようだ。

『ダーク・タイド』“Dark Tide”
2003年3月紹介『ブルークラッシュ』などのジョン・ストッ
クウェル監督による海洋が舞台のアドヴェンチャー最新作。
因に1986年『トップガン』の出演者でもあるストックウェル
には海洋もの以外の監督作もあるが、自らサーファーという
監督は海洋ものの評価が高いようだ。
舞台は、南アフリカ共和国ケープタウン沖の海洋。アシカの
繁殖地であるそこは、同時にアシカを餌とするサメの有数の
生息地でもあった。そんな海では観光客相手にサメを間近に
見せるツアーも盛んに行われていた。
その中で海洋生物学者のケイトは、シャークダイヴ中に同僚
のダイヴァーをサメに殺され、以来シャークダイヴの仕事か
らは遠のいていた。しかし銀行から借りていた資金の返済の
期限が迫り、ボートを差し押さえられる事態になる。
そんな折、事故以来疎遠になっていた夫のジェフが高額な報
酬の得られる仕事を持ちかけてくる。それはスリルを求める
金持ちの男性が、通常使用されるケージを出て、サメと一緒
に泳ぎたいというものだった。
そしてケイトは、自ら失った自信を取り戻す目的も込めて、
夫と客を乗せたボートでシャークダイヴのツアーを開始する
が…。そこには最凶の恐怖が待ち構えていた。

出演は、昨年12月紹介『クラウド・アトラス』にも出演のハ
リー・ベリー。2003年8月紹介『S.W.A.T.』などのオリヴィ
エ・マルティネス。2009年8月紹介『パイレーツ・ロック』
などのラルフ・ブラウン。
他に、1989年『白く渇いた季節』に出演のThoko Ntshinga、
2008年2月紹介『マンデラの名もなき看守』に出演のSizwe
MsutuとMark Elderkin、新人のルーク・タイラーら、南アフ
リカ共和国の俳優たちが脇を固めている。
ベリーはシュノーケルだけのダイヴィングでホホジロザメと
一緒に泳ぐシーンもあり、それは見事な映像になっている。
実際にサメは特別な状況にない限り人間を襲うことは少ない
のだそうで、そんなサメの魅力にも溢れた作品だ。

それにしても今回は、先に紹介した『逃走車』も南アフリカ
共和国が舞台だし、昨年12月紹介『ジャッジ・ドレッド』も
撮影は同国で行われていた。元々がイギリス連邦の構成国で
英語が公用語の一つでもあるこの国は、ハリウッド映画の新
たな製作拠点の一つにもなりそうな勢いだ。

『ブラインドマン その調律は暗殺の調べ』“À l'aveugle”
『トランスポーター』や『96時間』などハリウッド的アク
ション映画は発表しているリュック・ベッソン主宰ヨーロッ
パ・コープが、フランス映画伝統のフィルムノアールに挑戦
した作品。
主人公は妻を事故で失った刑事。以来捜査に没頭する日々だ
が、人生で何かを見失っている感が否めない。そんな彼の前
にパリの高級マンションの一室で若い女性がバラバラ死体で
発見された事件が回ってくる。そこには侵入された形跡もな
く、目撃者もいなかった。
この事件に警察は被害者の元恋人を洗い始めるが、主人公は
数日前に被害者宅のピアノを調律した盲目の調律師に疑いの
目を向ける。そして第2の事件が起きる。それは富豪が爆殺
されたもので、2つの事件は手口も異なり、繋がりも見付か
らなかったが…
単独でも捜査を続ける主人公は、やがて調律師の経歴がすり
替えられていた事実に辿り着く。しかしその頃から主人公の
捜査に圧力が掛かり始める。それは主人公に、自分もある種
の盲目であったことを気付かせる。

出演は、2005年12月紹介『美しき運命の傷痕』などのジャッ
ク・ガンプランと、2011年1月紹介『神々と男たち』などの
ランベール・ウィルスン。他に、2011年3月紹介『黄色い星
の子供たち』に出演のラファエル・アゴゲらが脇を固めてい
る。
監督は、2008年10月紹介『アイズ』でハリウッドにも進出し
ているザヴィエ・パリュ。脚本はベッソンと、2009年にヴィ
ン・ディーゼル、ミシェル・ヨー、ランベール・ウィルスン
らが出演した『バビロンA.D.』のエリック・ベナール。
ベッソンは以前の作品と同様に、製作と原案、共同脚本を手
掛けているが、フィルムノアールの割には背景などにも巨大
な陰謀が暴かれて行く作品だ。それにアクションも多少派手
な感じで、その辺が今回ベッソン的ノアールと称される部分
にもなっている。
まあそれは良し悪しだし、それはこの作品として楽しめるも
のにはなっている。文句を付けたい人はいろいろいるとは思
うが。ただ、背景を大きくしてしまった分、この結末だけで
いいの?という感じもして、その辺が多少気にはなった。映
画としてはこれでいいのだろうけど。

        *         *
 今回は休日があったり、風邪で試写を逃したりしてページ
が余ったので、最後に少し記者会見の模様などを紹介させて
もらう。
 まずは1月8日に創刊された「山田洋次DVDマガジン」
の記者会見が行われた。なおこの会見では、創刊号の『幸福
の黄色いハンカチ』のDVDが配布されたが、映画の紹介は
2010年2月に行っているのでここでは割愛する。
 その会見には、山田監督と作品で日本アカデミー賞助演賞
を受賞した武田鉄矢が出席したが、その中で武田の「この作
品は、役者としての自分のスタートの白線だったが、今では
ゴールの白線でもある。常にこの作品を思い出して自分の進
む道を考えている」という発言はうまいと思った。
 また武田は、「各シーンごとに監督に言われた言葉を思い
出す」のだそうで、例示されたその言葉はかなり含蓄やユー
モアもあり、出来たらその言葉をオーディオコメンタリーで
収録して欲しかったとも思ったところだ。
 その一方で山田監督からは最後に、「世の中がきな臭くな
っているが、映画ではもっと人間を大事にした作品を作って
行きたい」との発言があり、政治的な面はあまり感じさせな
い監督が、さすがに今の政治情勢には危惧を抱いているよう
で、政治不安の時代なのだと改めて感じさせられた。
 なお「山田洋次DVDマガジン」は隔週火曜日(第2巻は
1月22日)の発刊で全25巻。1巻に2作収録のものも含め、
1963年『下町の太陽』や1964年『馬鹿が戦車でやって来る』
など全26作が収録されることになっている。
 また各DVDには監督インタヴューなどの特典映像も収録
されるようだ。
        *         *
 もう1本、昨年11月に紹介した『ナンバーテン・ブルース
‐さらばサイゴン‐』を再び観る機会が有り、監督のお話も
再度伺えたので、そこで聞いた情報などを紹介しておく。
 この作品の一般公開は未だに目処が立っていないようで、
さらに前回紹介の時には期待されていたゆうばり国際ファン
タスティック映画祭での上映も難しくなっているようだ。し
かしそれに替って1月23日から2月3日まで開催されるロッ
テルダム国際映画祭での上映が決定している。
 これは2003年に亡くなった深作欣二監督の作品が同映画祭
で上映された際に、その作品の脚本を書いたのが本作の長田
紀生監督だったという伝にもよるもの。そんな上映の輪も少
しずつ広がっているようだ。
 映画の内容に関しては前回も紹介しているが、今回の上映
では作品に出演しているきくち英一氏も来場して、上映後の
歓談では思い出話を聞くことができた。
 その話によると「映画後半に出てくるの銃撃戦では、最初
に実弾を壁に打ち込んでみたが良い効果が出ずに、結局パウ
ダーを仕込んだ弾着を使った」とのこと。でもこのシーンが
撮影されたフエの建造物は、1993年世界遺産にも登録された
場所のはずで、何とも凄い撮影が行われていたものだ。
 また前回にも紹介した女優タン・ランの消息に関しては、
サイゴン陥落後に何度かボートピープルとして脱出を試みた
がその度失敗して連れ戻され、最後は人気女優として政府の
プロパガンダ映画に出演させられ、その作品を持ってアメリ
カにプロモーションで訪れた際に政治亡命をしたとのこと。
これもドラマになりそうな話だった。
 なお作品に関しては、僕自身も自分の出来る範囲で各方面
に鑑賞を働きかけており、1月21日に行われる映画ペンクラ
ブ例会での上映にも協力させてもらった。今後も一般公開に
向けて微力ながら協力させてもらうつもりだ。
 以上、近況報告も兼ねて書かせてもらった。



2013年01月16日(水) 第185回(VES/Oscar-nominee,GGwinner,POTC5,Jurassic Park 4,Transformers 4,Sin City,Police State,Godzilla)

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、前回も予告した米アカデミー賞とVES賞の候補
から報告しよう。
 まずは、アメリカVFX協会が表彰する第11回VES賞の
各部門の候補作。なおこの賞には、テレビやコマーシャル、
ゲームなどの部門もあるが、例年通り映画部門のみを紹介し
ておく。
 VFX主導映画のVFX賞候補は、
『ホビット・思いがけない冒険』(12月9日紹介)
『プロメテウス』(7月8日紹介)
『ライフ・オブ・パイ』(12月9日紹介)
『アベンジャーズ』(6月3日紹介)
『バトルシップ』(4月8日紹介)
 長編映画における助演VFX賞候補は、
『君と歩く世界』(12月23日紹介)
“The Impossible”
『アルゴ』(9月9日紹介)
“Flight”
『ゼロ・ダーク・サーティ』(1月10日紹介)
 長編アニメーション映画のVFX賞候補は、
『メリダとおそろしの森』(6月24日紹介)
『パラノーマン』(紹介予定)
“Rise of the Guardians”
『シュガー・ラッシュ』(紹介予定)
『モンスター・ホテル』(9月23日紹介)
 実写映画におけるアニメーションキャラクター賞候補は、
『ホビット』Goblin King
『ホビット』Gollum
『アベンジャーズ』The Hulk
『ライフ・オブ・パイ』Richard Parker
 長編アニメーション映画におけるアニメーションキャラク
ター賞候補は、
『メリダとおそろしの森』Argument
『モンスター・ホテル』Dracula
『シュガー・ラッシュ』Vanellope
“The Pirates! In An Adventure WIth Scientists”
−−Band of Misfits
 実写映画における創造背景賞候補は、
『ホビット』Goblin Caverns
『プロメテウス』LV-233
『アベンジャーズ』Midtown Manhattan
『ライフ・オブ・パイ』Open Ocean
 長編アニメーション映画における創造背景賞候補は、
『メリダとおそろしの森』The Forest
『パラノーマン』Graveyard
『パラノーマン』Main Street
“Rise of the Guardians”The North Pole
 実写映画における仮想撮影賞候補は、
『ホビット』の全体
『アベンジャーズ』Downtown Manhattan
『トータル・リコール』(8月5日紹介)Hover Car Chase
『アメイジング・スパイダーマン』(6月17日紹介)の全体
 実写映画における模型賞候補は、
『アベンジャーズ』Helicarrier
“The Impossible”Orchid Hotel
『MIB3』(5月13日紹介)
−−Cape Canaveral/ Apollo Launch
『ダークナイト ライジング』(7月22日紹介)
−−Airplane Heist
 長編アニメーション映画における特殊効果賞候補は、
『メリダとおそろしの森』の全体
『パラノーマン』Practical Volumetrics
『パラノーマン』Angry Aggie Ink-Blot Electricity
“Rise of the Guardians”Last Stand
 実写映画における特殊効果賞候補は、
『ホビット』の全体
『ライフ・オブ・パイ』Storm of God
『バトルシップ』の全体
『ライフ・オブ・パイ』Ocean
 実写映画における合成賞候補は、
『ホビット』の全体
『ライフ・オブ・パイ』Storm of God
『アベンジャーズ』Hulk Punch
『プロメテウス』Engineers & the Orrery
 映画部門の各賞の候補は以上の通り。
 因に作品別の候補の数は、実写では『ホビット』が6部門
7候補、『アベンジャーズ』が6部門6候補、『ライフ・オ
ブ・パイ』が5部門6候補、『プロメテウス』が3部門3候
補、『バトルシップ』と一般映画の“The Impossible”が2
候補ずつで、他は1候補ずつ。アニメーションでは、『パラ
ノーマン』が3部門5候補、『メリダとおそろしの森』が4
部門4候補、“Rise of the Guardians”が3候補、『モン
スター・ホテル』『シュガー・ラッシュ』が2候補ずつで、
“The Pirates!”が1候補となっている。
 受賞式は2月5日の予定だ。
        *         *
 続いては1月10日に発表された米アカデミー賞の候補作。
こちらは気になる部門と作品を紹介しよう。
 まずは今回は5作品となったVFX部門。その候補作には
『ホビット・思いがけない冒険』(12月9日紹介)
『ライフ・オブ・パイ』(12月9日紹介)
『アベンジャーズ』(6月3日紹介)
『プロメテウス』(7月8日紹介)
『スノーホワイト』(6月3日紹介)
が選ばれた。上記のVES賞とでは『バトルシップ』→『ス
ノーホワイト』の交代だが、その辺が専門家と俳優なども含
めた一般映画人との違いなのだろう。
 10作品が選ばれた作品賞は、
『愛、アモール』(紹介予定)
『アルゴ』(9月9日紹介)
『ジャンゴ繋がれざる者』(紹介予定)
『レ・ミゼラブル』(12月9日紹介)
『ライフ・オブ・パイ』
“Lincoln”
『ゼロ・ダーク・サーティ』(2013年1月10日紹介)
“Beasts Of The Southern Wild”
『世界にひとつのプレイブック』(12月30日紹介)
 こちらは1月1日紹介のゴールデングローブ賞のドラマ+
コメディ/ミュージカル部門の10本と比べると、『マリーゴ
ールド・ホテルで会いましょう』『ムーンライズ・キングダ
ム』『砂漠でサーモン・フィッシング』→『愛、アモール』
『ジャンゴ』“Beasts Of The Southern Wild”となるが、
この辺は特にコメディが弱いとされるアカデミー賞の特徴も
ありそうだ。
 5作品が選ばれた長編アニメーション作品賞は、
『メリダとおそろしの森』(6月24日紹介)
『フランケンウィ二ー』(11月4日紹介)
『パラノーマン』(紹介予定)
“The Pirates! In An Adventure WIth Scientists”
『シュガー・ラッシュ』(紹介予定)
 この部門では、GG賞から『モンスター・ホテル』“Rise
of the Guardians”→“The Pirates!”『フランケンウィ二
ー』。VE賞からは消えた2本は同じで→“The Pirates!”
『パラノーマン』となっている。この辺は3者3様という感
じだが、3者が共に選んだ『メリダ』と『シュガー』が強い
のかもしれない。
 その他は作品別に見て行くと、『ライフ・オブ・パイ』は
作品、監督、脚色、撮影、編集、作曲、歌曲、プロダクショ
ンデザイン、音響編集、音響、VFXの11候補。これは今回
最多のスティーヴン・スピルバーグ監督“Lincoln”の12候
補に次ぐ候補数になっている。
 続いて『レ・ミゼラブル』は作品、主演男優、助演女優、
衣裳、メイクアップ&ヘアスタイリング、歌曲、プロダクシ
ョンデザイン、音響の8候補。『世界にひとつのプレイブッ
ク』も作品、監督、主演男優、助演男優、主演女優、助演女
優、脚色、編集の8候補。
 因に、『世界にひとつの…』が1作で作品、監督から主助
演男女優までの主要6部門全ての候補になったのは、1981年
『レッズ』以来32年ぶりの快挙だそうだ。
 さらに『アルゴ』は作品、助演男優、脚色、編集、作曲、
音響編集、音響の7候補。『ゼロ・ダーク・サーティ』は作
品、主演女優、脚本、編集、音響編集の5候補。『ジャンゴ
繋がれざる者』も作品、助演男優、脚本、撮影、音響編集の
5候補となっている。
 また『007スカイフォール』(11月4日紹介)は撮影、
作曲、歌曲、音響編集、音響の5候補。『アンナ・カレーニ
ナ』(紹介予定)が撮影、衣裳、作曲、プロダクションデザ
インの4候補。『ザ・マスター』(12月30日紹介)は主演男
優、助演男優、助演女優の3候補。
 そして『ホビット・思いがけない冒険』(12月9日紹介)
がメイクアップ&ヘアスタイリング、プロダクションデザイ
ン、VFXの3候補。さらに『スノーホワイト』は衣裳賞と
併せて2候補だが、衣裳賞には『白雪姫と鏡の女王』(6月
17日紹介)も候補になっており、この対決は興味深い。
 さらに『ムーンライズ・キングダム』(12月30日紹介)が
脚本。『ヒッチコック』(紹介予定)がメイクアップ&ヘア
スタイリング、『テッド』(11月25日紹介)が歌曲の候補に
なっている。なお『アベンジャーズ』と『プロメテウス』は
VFXのみだ。
 また、10月28日付「東京国際映画祭」コンペティションで
紹介の『NO』と、紹介予定の『魔女と呼ばれた少女』『ロ
イヤル・アフェア』が外国語映画、さらに紹介予定の『シュ
ガーマン』が長編ドキュメンタリーの候補になっている。
 授賞式は2月24日の予定だ。
        *         *
 次は結果で、前回紹介ゴールデングローブ賞の受賞者が、
以下のように発表された。
ドラマ作品賞『アルゴ』
ドラマ主演女優賞:ジェシカ・チャスティン(ゼロ)
ドラマの主演男優賞:ダニエル・デイ=ルイス(LINCOLN)
コメ/ミュ作品賞『レ・ミゼラブル』
コメ/ミュ主演女優賞:ジェニファー・ローレンス(世界)
コメ/ミュ主演男優賞:ヒュー・ジャックマン(レ・ミゼ)
長編アニメーション賞『メリダとおそろしの森』
外国語映画賞『愛、アモール』(紹介予定)
助演女優賞:アン・ハサウェイ(レ・ミゼ)
助演男優賞:クリストフ・ヴァルツ(ジャンゴ)
監督賞:ベン・アフレック(アルゴ)
脚本賞:クエンティン・タランティーノ(ジャンゴ)
 これらの結果が、VES賞、アカデミー賞にどのように影
響するか? 特にコメディは弱いとされるオスカーだが、ド
ラマ主演女優賞の『ゼロ・ダーク・サーティ』とコメディで
主演女優賞の『世界にひとつのプレイブック』との評価も気
になるところだ。
        *         *
 ここからは製作ニュースで、まずは待望“Pirates of the
Caribbean 5”の脚本に、2011年12月紹介『ペントハウス』
などのジェフ・ネイザンスンの起用が発表されている。
 因に『POTC』シリーズ前4作の興行収入は、全世界で
36億ドルに達しているのだそうで、さらに前作2011年5月紹
介『生命の泉』は単独でも10億ドルを稼ぎ出し、今一番待望
されているシリーズの1本と言えるものだ。
 そして本シリーズに関しては、交代不可能なジャック・ス
パロー船長役のジョニー・デップ自身が、「長く続くのは良
いことだ」との発言を繰り返しており、次作への出演も確定
済み。製作者ジェリー・ブラッカイマーの許での製作が決定
しているものだ。
 ただし、新作の内容等は全く未発表で、ジョフリー・ラッ
シュやキーラ・ナイトレイらの過去の出演者の登場も不明。
さらにデップは、前回紹介した“Alice in Wonderland”へ
の出演も取りざたされていて、本作の製作開始までには多少
時間が掛かりそうだ。
 なおネイザンスンは、2003年2月紹介『キャッチ・ミー・
イフ・ユー・キャン』で最も知られており、現在はドリーム
ワークス製作の“The 39 Clues”というアドヴェンチャー作
品を執筆中とのことだ。
        *         *
 第5作の次は第4作の話題で、2011年7月31日付でも紹介
した“Jurassic Park 4”について、この作品の全米公開を
2014年6月13日とするとユニヴァーサルが発表している。
 この計画に関しては、以前にはComic-Conに初参加したス
ティーヴン・スピルバーグがその構想を述べたことを報告し
たものだが、その後の情報では、脚本に2011年『猿の惑星:
創世記』のリック・ジャフェとアマンダ・シルヴァが決った
との報道もされていた。
 その計画がいよいよ実現することになったものだが、実は
スピルバーグには先に計画していた“Robopocalypse”とい
う作品が延期になったとの情報もあり、2001年の第3作では
ジョー・ジョンストンに譲った監督の椅子に再び座る可能性
もあるようだ。因にスピルバーグが製作総指揮で関わること
は発表されている。
 さらにユニヴァーサルからは、今年4月に第1作を3D変
換して全米公開する予定も発表されており、恐竜ブームを再
燃させる目論見は着実に進められているようだ。
        *         *
 次も第4作の話題で、すでにマーク・ウォルバーグの出演
が発表されている“Transformers 4”の相手役に、ジャック
・レイナーという子役の配役が発表された。
 この作品ではマイクル・ベイ監督が4度目のメガホンを取
ることも発表されているが、そのベイ監督がこのアイルラン
ド出身の少年の起用を自身のブログに発表したとのことだ。
因にこの少年は、母国で“What Richard Did”という作品に
出演して注目を浴びたようだが、すでにドリームワークス製
作の“The Delivery Man”に出演してヴィンス・ヴォーンの
相手役も務めている。
 一方、本作の脚本は2011年7月紹介『トランスフォーマー
/ダークサイド・ムーン』も手掛けたアーレン・クルガーが
続けて担当しているが、物語の背景は前作の4年後としてい
るものの、以前のキャラクターとの繋がりはなく、リブート
ではないが新たな物語の展開となるようだ。
 全米公開は、2014年7月27日に予定されている。
        *         *
 もう1本は、2005年7月紹介の前作以来、常にその動向が
注目されていたロベルト・ロドリゲス、フランク・ミラー共
同監督による『シン・シティ』の第2作が、今年10月4日の
全米公開を目指して製作が急ピッチになってきた。
 この新作は“Sin City: A Dame to Kill For”と題されて
いるもので、ミラーが過去に発表した2つの物語に新たな物
語が付け加えられるとのことだ。そしてそのストーリーは、
前作でクライヴ・オーウェンが演じた私立探偵ドワイトの若
き日を描くもので、その配役に昨年5月紹介『MIB3』で
トミー・リー・ジョーンズの若き日を演じたジョッシュ・ブ
ローリンの出演が発表された。
 さらにジョセフ・ゴードン=レヴェットと、テレビ“Law
& Order”などのクリストファー・メロニーが出演。また前
作に出演のミッキー・ルーニー、ジェシカ・アルバ、ロザリ
オ・ドースンらの再出演もあるそうだ。
 なお撮影はすでにテキサス州オースティンのロドリゲスの
スタジオで開始されているが、撮影は前作同様、全編が合成
用のスクリーンの前で行われており、また本作では3Dでの
上映も予定されている。因にロドリゲスは、2003年9月紹介
『スパイキッズ3−D:ゲームオーバー』などで3D映画に
挑戦しており、その経験も踏まえた作品が期待できそうだ。
        *         *
 お次は新規の話題で、1982年の『ブレード・ランナー』や
1984年『デューン/砂の惑星』などで鮮烈な印象を残した女
優ショーン・ヤングが、SF映画の新作に出演している。
 題名は“Police State”で、お話はアメリカ全土で展開さ
れる爆弾テロを背景としたものということだが、一応紹介の
記事ではsci-fi thrillerとされていた。これだけの情報で
は一体どんな作品か全く見当もつかないが、共演にはテレビ
“Smash”に出演のニール・ブレッドソー、“Gossip Girl”
に出演のアリス・キャラハンといった顔ぶれが並んでいるよ
うだ。脚本と監督は、2007年“Serial”という作品で映画祭
の審査員賞などを受賞しているケヴィン・アルフエ。
 なお製作はヴァルドーという会社だが、この会社では最近
アルカナというコミックスの出版社と組んで“Head Smash”
というSFグラフィックノヴェルの映画化も進めているよう
だ。これは新たなジャンル映画プロダクションの誕生になる
のかな。
 そしてこれらの作品が、来年の「渋谷ミッドナイト・マッ
ドネス」や「未体験ゾーンの映画たち」のような企画を賑わ
すことになるのだろうか。期待して待ちたいものだ。
        *         *
 最後はちょっとバタバタしているニュースで、ワーナーが
2014年5月16日の全米公開を目指して、3月からの撮影を予
定している“Godzilla”の脚本に、ここへ来てフランク・ダ
ラボンの参加が発表された。
 しかも製作会社のレジェンダリーからは、ワーナーに本拠
を置くダン・リン、ロイ・リーの2人のプロデューサーの解
任が発表され、当面の製作はプロデューサー不在で行われる
ことになるようだ。因に、レジェンダリーは2010年3月に本
作の計画をワーナーに持ち込んだが、プロデューサーの2人
はその時から製作に参加しており、言わば本作の製作では生
え抜きだった。
 なお監督は、2011年7月17日付で報告したように同年6月
紹介『モンスターズ』のギャレス・エドワーズが契約してお
り、さらに出演者には、今夏公開の“Man of Steel”でスー
パーマンを演じるヘンリー・カヴィエルや『モンスターズ』
のスコット・マクナリー、2011年7月紹介『ラスト・エクソ
シズム』に出演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズらが発
表されている。
 また非公式だが、レジェンダリーの製作でワーナーが配給
するギレルモ・デル・トロ監督の新作SF“Pacific Rim”
を担当したメアリー・ペアレントがプロデューサーの後任を
務めるとの情報もあり、これで今後の製作が順調に進むこと
を祈りたいものだ。ただしペアレントはパラマウントに本拠
を置くプロデューサーだそうだ。
 それにしても本作の脚本では、デイヴィッド・キャラハン
の第1稿にデイヴィッド・S・ゴイヤーが手を加えるなど、
決定稿がなかなか完成せず、さらに撮影2ヶ月前になっての
ダラボンの参加ということでは、以前のプロデューサーの信
用もかなり失墜したのかもしれない。
 とは言え、2010年1月紹介『シャーロック・ホームズ』の
シリーズなども手掛けてきたダン・リンには、ワーナーの信
頼はかなりあるようで、新作の“Gangster Squad”が公開さ
れた先週末には、新たに2年間の製作者としての契約延長も
発表されている。
 このためダン・リン製作では、今後も“The Lego Movie”
や“It”“Spyhunter”“Deathnote”などが進められるよう
だ。



2013年01月10日(木) ガレキとラジオ、ボクたちの…、ゼロ・ダーク・サーティ、グレイヴE2/モスキートM、アウトロー、幕末奇譚、わすれないふくしま、約束

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ガレキとラジオ』
東日本大震災関連のドキュメンタリー。あれだけの災害だと
実にいろいろなことが起きているもので、本作では震災後に
宮城県南三陸町で送信されたFM局の奮闘が描かれる。
放送開始は2011年5月17日。スタジオは南三陸町の避難所と
なっていた体育館の片隅。その放送局「FMみなさん」は、
元サラリーマンや元トラック運転手など、放送など未経験の
9人の男女によって運営が開始された。
このラジオ局は、基本的には町民に防災や避難情報などを届
けるための南三陸町の行政による事業のようだが、支給され
る給与は微々たるもの。しかしそれから10ヶ月、町民に笑顔
を取り戻そうと9人は奮闘した。
それはもちろん素人のやっていることだから、放送事故はあ
るし、取材に行っても反省はしきりだ。そんな中でも徐々に
手応えを掴んでい行く彼らは、町の財政の関係で放送の終了
が決まってからも最後のイヴェントに奔走する。
何故その放送に参加したかという問いに対する彼らの答えは
「他にすることがなかった」みたいな、通り一遍のものが多
かったようだが、実際にその通りだったのかもしれない。だ
がそんな彼らが使命感に目覚めて行く。
この作品は、そんな人間が今なすべきこと、何かを始めるこ
とで何かが変わって行く…そんなメッセージが伝わってくる
作品だった。それは被災地だけではない、日本の全国民に向
けたメッセージのようにも感じられる作品だ。

監督は、CMクリエーターの梅村太郎と、テレビ構成作家の
塚原一成。学生時代からの友人同士だった2人が震災の直後
に「兎に角、自分に出来ることをしよう」と思い立ち、本業
の傍ら1年を掛けて完成させた作品となっている。
なお、ナレーターを作品の趣旨に賛同した役所広司が務め、
主題歌は仙台に拠点を置くロックバンドのMONKEY MAJIKが担
当している。
作品の後半では、外にいる人間には判らない現実の厳しさみ
たいなものも描かれるし、イヴェントに参加するため訪れた
タレントが号泣する姿には、今更ながらと思いながらも改め
てその爪痕の大きさを突きつけられる感じもした。

東日本大震災関連のドキュメンタリーは、すでに何本紹介し
たかも勘定できない状況だが、その中でもまだまだいろんな
ことが起きているのだと感じさせる作品だった。

『ボクたちの交換日記』
2005年11月に『ピーナッツ』という作品を紹介しているお笑
いコンビ「ウッチャンナンチャン」の内村光良の脚本・監督
による第2回作品。2008年8月紹介『ハンサム★スーツ』な
どの鈴木おさむの原作「芸人交換日記〜イエローハーツの物
語〜」からの映画化。
主人公は、芸歴は結成12年だが売れているというには程遠い
お笑いコンビ「房総スイマーズ」。年齢も30歳目前となって
おり、10年以上もコンビをやっていると普段の会話もまばら
になっている。
そんな2人が現状打破のために交換日記を開始する。それは
最初はコンビの片割れから一方的に提案されたもので、もう
1人は当初は反発もするが、それが腹蔵のない意見の交換と
なり、2人は徐々にやる気を取り戻してゆく。
そんな折に2人は、彼らを駆け出し時代から知るテレビプロ
デューサーに、新たなお笑いコンテスト番組への参加を提案
される。それは起死回生のチャンスになるはずだったが…。
それが2人に決定的な転機をもたらしてしまう。

出演は、2010年3月紹介『矢島美容室−THE MOVIE−』など
の伊藤淳史と、2008年3月紹介『僕の彼女はサイボーグ』な
どの小出恵介。他に、2009年3月紹介『群青』などの長澤ま
さみ、昨年2月紹介『ポテチ』などの木村文乃、『桜蘭高校
ホスト部』などの川口春奈。
さらにムロツヨシ、大倉孝二、佐藤二朗、佐々木蔵之助らが
脇を固めている。また、監督の関係なのかベッキーとカンニ
ング竹山が友情出演している。
作品では、伊藤と小出がお笑いコンビ役に挑戦しているが、
俳優にお笑いコンビをやらせる映画は先にもあった。ただし
以前の作品が何か違う方向性だったのに対し、本作では最後
までお笑いの本質に迫ろうとしている感じが好感だった。
それは挫折と成功、涙と笑いに彩られたもので、それはまあ
感動というには安っぽいものかもしれないが、人がその人生
を賭けるというテーマ性ではうまいところを突いて描いてい
る作品に思えた。
もちろん本作は鈴木の原作に基づくもので、それがどのよう
に描かれているのかは原作本を見ていないので判らないが、
映画の中には内村の演出による2人の漫才シーンもしっかり
と収められていて、それを観るのも面白かった。


『ゼロ・ダーク・サーティ』“Zero Dark Thirty”
2001年の「9・11」から10年後、2011年5月1日に敢行され
た首謀者ウサーマ・ビン・ラーディンの捕縛作戦。その実行
までの出来事を描いたアカデミー賞受賞監督キャスリン・ビ
グローによる作品。
2010年2月紹介『ハート・ロッカー』で共にアカデミー賞を
受賞したビグロー監督と脚本を執筆したマーク・ポールは、
実はそれ以前に、2001年12月にアフガニスタン東部の町トラ
ボラで失敗に終わったビン・ラーディン捕縛作戦の映画化を
計画していたのだそうだ。
しかしその計画は頓挫したものの、替って進めた『ハート・
ロッカー』が高評価の上に大ヒットを記録し、2011年2人は
改めてトラボラ作戦の映画化を目指すことになる。ところが
その直後の5月1日に現実の捕縛作戦が実行され、2人は一
から計画を立て直さなくてはならなくなった。
ここから脚本家のポールはワシントンに飛び、数多くの関係
者にインタヴューをして脚本を作り上げて行くことになる。
その機関の中には協力的な部署もあったが、基本的には調査
を重ねることによって生み出された作品であり、映画に登場
するほとんどシーンは、実際に作戦に参加した人たちの証言
に基づいているとのことだ。
それは、例えば物議を醸した「拷問」のシーンにしても、ビ
グロー監督は「人間として目をつぶりたくなるような光景で
はあったが、映画監督としては出来事を有りりのままに伝え
る義務がある」として描いているとのことだ。
とは言え本作は事実に基づくフィクションと明記されている
ものであって、そのドラマティックなフィクションが2時間
38分の上映時間を全く飽きさせることなく、観客をグイグイ
と引き込んで行く作品だ。

出演は、昨年2月紹介『テイク・シェルター』などのジェシ
カ・チャスティン、2009年9月紹介『パブリック・エネミー
ズ』などのジェイスン・クラーク、2011年11月紹介『アニマ
ル・キングダム』などのジョエル・エガートン、2011年10月
紹介『コンテイジョン』などのジェニファー・イーリー。
さらに、2010年10月紹介『キック★アス』などのマーク・ス
トロング、昨年9月紹介『アルゴ』などのカイル・チャンド
ラー、2008年2月紹介『バンテージ・ポイント』などのエド
ガー・ラミレスらが脇を固めている。
また、暗視シーンを多用した撮影は2011年5月紹介『モール
ス』などを手掛けたグリーグ・フレイザーが担当し、緊張感
あふれる編集には2010年11月紹介『ザ・タウン』などのディ
ラン・ティチェナーと、『アルゴ』などのウィリアム・ゴー
ルデンバーグが共同で当っている。

『グレイヴ・エンカウンターズ2』
“Grave Encounters 2”
『モスキートマン』“Sucker”
1月12日から3月22日まで東京渋谷のヒューマントラストシ
ネマにて開催される「未体験ゾーンの映画たち2013」で上映
される21作品の内から2作品をサンプルDVDで鑑賞した。
1本目は、昨年4月に紹介した作品の続編。前作をネットで
観た映画研究会の若者にヴィデオレターが届き、それを切っ
掛けに前作のが製作状況を調べ始めるが、前作の出演者は全
員が行方不明。さらに追求する内に不可思議な状況に突き当
たる。そして偽名だった精神病院の所在が判明し、状況を調
べるため仲間と現地に向かうが…という展開だ。

出演は、2011年にホラーアンソロジー・シリーズ中の演技で
ヤングアクター賞を受賞しているリチャード・ハーロンと、
2009年に“Zombie Punch”という作品歴のあるリーニー・ラ
ップ。他は、いずれも映画は初出演のディラン・プレイフェ
ア、ステファニー・ベネット、ホーウィー・ライ。また、ベ
ン・ウィルキンスン、ショーン・ロジャースンらが前作から
引き続き出演している。

監督は、以前には2006年9月紹介『スネーク・フライト』な
どの製作に関っていたというが、本作で長編監督デビューの
ジョン・ポリクィン。また脚本は、前作を手掛けたザ・ヴィ
シアス・ブラザースが執筆。本作には出演もしていた。
2本目は、邦題は『スパイダーマン』のパクリっぽいが、原
題はそうではなく、どちらかというと1986年『ザ・フライ』
の方に近い。とは言っても発端などには『スパイダーマン』
の影響は強いが…メイクなどは『ザ・フライ』風というとこ
ろだ。

脚本、監督、主演は1994年にスタートしたSFTVシリーズ
“Weird Science”に主演していたマイクル・マナセリ。ヒ
ロイン役には、次に紹介『アウトロー』にも出ているジョー
ダン・トロヴィリオン。
また、1989年『ビルとテッドの大冒険』への出演や本作では
製作も務めるキンバリー・ケイツ。さらに1984年の『悪魔の
毒々モンスター』などのロイド・カウフマン監督らが脇を固
めている。
なお、今回の特集上映では昨年12月に紹介した『エンド・オ
ブ・ザ・ワールド』も上映されることになっていて、作品の
ジャンルなどはかなり超越したもののようだ。ただし紹介し
た3作は、いずれもそこそこのレヴェルには達している感じ
のもので、作品的には楽しめるものだった。

『アウトロー』“Jack Reacher”
トム・クルーズが『M:i』のイーサン・ハントとは別の主人
公に挑戦する新シリーズの開幕編。
物語の始まりは、河畔に建つピッツバーグ・パイレーツの本
拠地PNCパークを背景に置く川岸の遊歩道。平和な風景に
突然6発の銃声が鳴り響き、5人の男女が殺害される。それ
は川を挟んだ駐車場からの狙撃弾によるものだった。
そして直ちに射撃現場に駆けつけた警察は、コインメータに
投入された指紋付きの硬貨と、溝に残された薬莢から元米軍
スナイパーの男を特定。その男には、過去にイラクで民間人
3人を射殺した前歴もあった。
ところが逮捕された男は尋問には黙秘を続け、最後に「ジャ
ック・リーチャーを呼べ」と書き残す。それはイラクで彼の
犯罪を摘発した憲兵の名前だった。しかしなぜ男は自らの罪
を暴いた男に救援を求めたのか。
やがて現れたリーチャーは、最初は男の犯罪を当然と受け止
めていたが…

共演は、2009年11月紹介『サロゲート』などのロザムンド・
パイク、昨年4月紹介『ラム・ダイアリー』などのリチャー
ド・ジェンキンス、昨年1月紹介『ヘルプ・心がつなぐスト
ーリー』などのデヴィッド・オイェロヴォ。
他には、ドイツ出身映画監督のヴェルナー・ヘルツォーク、
オーストラリア出身でハリウッド映画デビュー作のジェイ・
コートニー、2008年11月紹介『アンダーカヴァー』などのロ
バート・デュヴォールらが脇を固めている。
また、主人公の危機を救う役のカメオ出演者がいたが、ノン
クレジットだったようだ。
脚本と監督は、1995年の『ユージアル・サスペクツ』で米ア
カデミー賞脚本賞を受賞したクリストファー・マッカリー。
因に作品は、元テレビクリエーターのイギリス人作家リー・
チャイルドが1997年に発表を開始したシリーズ「ジャック・
リーチャー」の第9巻に基づくもの。シリーズは既に17冊が
発表されて全世界の95ヶ国で出版され、総計6000万部以上が
発行されているそうだ。

『幕末奇譚SHINSEN5〜剣豪降臨〜』
2011年8月紹介『VAMPIRE STORIES』の馬場徹、2010年2月
紹介『月と嘘と殺人』の八神蓮らが新撰組に扮する少し捻り
の加えられた幕末時代劇。
物語は、新撰組八番隊組長・藤堂平助が、幕府目付け役・辻
村の警護中を襲われるところから始まる。しかも襲ってきた
のは柳生十兵衛。江戸初期の剣豪がなぜ幕末の世に現れたの
か。そこには新撰組が結成された真の使命があった。
お話としてはかなり荒唐無稽というか、とんでもないものだ
が、まあこの内容なら歴史的な背景を知らなくても判り易い
だろうし、基本的に馬場、八神のファンが対象の作品なら充
分というところだろう。
とは言うものの、2007年12月紹介『トリコン』や2008年2月
紹介『カフェ代官山』から付き合ってきた者としては、時代
劇というのには多少戸惑いは感じてしまったところで、それ
は何か余分な手間暇を掛け過ぎのようにも思えた。
でもまあ、イヴェント試写会に集まっていた女性のファンた
ちは満足していたようだから、それはそれで良いのだろう。
それにしても1日3回の上映には、全て参加している観客も
多かったようだし、上映前には「次は名古屋」なんて声も聞
こえてきたから、2008年8月紹介『キズモモ。』の時の勢い
は衰えていないようだ。

共演は、2010年ジュノンボーイでファイナリストの神永佳祐
(映画初出演)、2011年6月紹介『あの、晴れた青空』など
の馬場良馬、同月紹介『行け!男子高校演劇部』などの広瀬
佳祐。さらに昨年2月紹介『寒冷前線コンダクター』などの
高崎翔太、2010年11月紹介『ギャングスタ』などの佐々木喜
英らが脇を固めている。
監督は、2007年ぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞
などを受賞している中島良。脚本は、2004年12月紹介『隣人
13号』などの俳優で現在は舞台の演出や脚本を手掛けてい
るまつだ壱岱。脚本家は初の映画脚本だそうだ。
展開としては、同じ剣豪が繰り返し出てきたりして、その辺
が多少安っぽさを感じさせる。それは実際に制作費との関係
もあるかもしれないが、本作の流れではそれはしない方が良
かったと思える。
そんなことは気にしない観客が相手の作品かもしれないが、
製作会社には大きなテレビ局の名前も入っていることだし、
その辺はきっちりとして欲しいところだ。


『わすれない ふくしま』
またまた東日本大震災関連のドキュメンタリー。ただし本作
は題名からも判るように、福島原発による被害を主題とした
ものだ。
映画では最初に大津波の様子が紹介され、そこには今までに
見たことのない惨状が撮されていて、その衝撃は大きいもの
だった。そしてそのショックも消えない内に、福島原発の爆
発の映像が続き、そこからその放射能汚染による被害が描か
れて行く。
それは放射能汚染の中で、牛乳を出荷できないにも拘らず見
捨てることができずに牛の飼育を続けている酪農家の姿や、
牛舎の中で繋がれたまま餓死した牛の遺体など、以前の作品
で紹介されたものもあったが、その中で1人の酪農家の自殺
の報道から新たな側面が浮き彫りにされる。
そこでは、経営規模を拡大した直後の被災で借金が返せなく
なったことが主な原因とされるが、その一方でフィリピン人
の妻が急遽帰国していた事実も紹介される。さらに被災直後
に数多くのフィリピン人妻や中国人妻が帰国して、一時的に
家族が成立しなくなった状況も語られる。
もちろんそれが自殺の原因とはされていないが、ある種のパ
ニック状態の中で助け合うこともできずに逝ってしまった人
の悲しみや、残された者の無念なども描かれているように感
じられた。それは電力会社がお為ごかしのように配っている
保証金の対象にはならない人たちの現実だ。
外国人の帰国問題に関しては、我が家の息子の勤務先でも、
現場の労働者がいなくなって弱ったと話していたが、それが
家族の問題にまで影響していたことは考えてもいなかった。
外国人妻の存在は農業従事者の間では多い話だとは知ってい
たのだが…。
さらにその子供たちは、将来に障害が発生することや、自分
の子供に影響が出ることなどの不安を語っていたが、その不
安が現実となっているチェルノブイリは国家事業。今次々に
原発再稼働を進める為政者にその意識はあるのか、最後は私
企業の問題として責任を転嫁するのか?
福島原発による被害を主題としたドキュメンタリーでは、昨
年8月に『フタバから遠く離れて』を紹介したが、その作品
の中で原発の推進から反対に転身した双葉町町長は、あっと
いう間に町議会で不信任案を可決されたようで、それを可決
した議員の姿勢も問われるところだ。
年明け早々には放射能汚染土壌の処理をめぐる不正行為など
も次々に明らかにされ、その背後に潜むものの恐ろしさも感
じられる作品だった。


『約束』
2012年5月紹介『死刑弁護人』に続く東海テレビ制作による
名古屋高等裁判所をめぐる司法の闇を描いた作品。前作は純
粋なドキュメンタリーだったが、本作では死刑囚自身を描く
ために一部にドキュメンタリー映像も含む再現ドラマ作品と
なっている。
その死刑囚の犯罪とされるのは、1961年に起きた「名張毒ぶ
どう酒事件」。三重県名張市の山間の集落で集会所に集まっ
ていた住民の内、女性だけに配られたぶどう酒に農薬が混入
され、5人が毒殺されたというものだ。
そして逮捕されたのは当日ぶどう酒を自治会長宅から会場ま
で運んだ人物。彼には死亡した妻ともう1人の女性との間で
三角関係があり、それを一挙に解消するため2人とも毒殺し
たとされる。しかも逮捕から数日後には、記者会見で自らを
犯人と認める発言をしてしまう。
こうして裁判が始まるが、物的証拠は犯人が毒物を入れるた
めに歯でこじ開けたとするビンの王冠だけで、他は自供のみ
による立件だった。そして裁判で被告人は一貫して無実を訴
え、自供は強制されたものであるとの主張を繰り返す。
その結果は、一審の津地方裁判所では無罪となったものの、
検察が控訴した名古屋高等裁判所で、1969年逆転の有罪死刑
判決が下される。以来43年、逮捕からは51年、死刑囚奥西勝
は、名古屋拘置所の独房の中で無実を訴え続けている。因に
日本の裁判で無罪から一転死刑判決となったのは、本件が戦
後初めてのことだったそうだ。
また、その後の7次に及ぶ再審請求はことごとく棄却されて
いるが、その中では名古屋高等裁判所で一旦は請求が認めら
れたものの、検察の異議により別の裁判官が棄却。さらには
最高裁で証拠を再調査するようにとの理由付けで差し戻され
たが、名古屋高等裁判所では証拠調べはせずに棄却など…。
この作品を観る限りでは、名古屋高等裁判所では到底真っ当
とは言えない事態が続けられている。しかも先に再審を認め
た裁判官はその後に辞職し、検察の異議を受けて請求を棄却
した裁判官はその後に昇進したそうだ。
死刑囚の再審問題では、2010年3月に高橋伴明脚本、監督に
よる『BOX 袴田事件 命とは』を紹介しているが、死刑囚
の再審が認められ無罪となったのは、免田、財田川、島田、
松山のたった4件。その道が険しいのは判るが、それにして
も名古屋高等裁判所の不可解さは際立つ作品だった。

なお再現ドラマには、仲代達矢、樹木希林、山本太郎らが出
演し、ナレーションは寺島しのぶが務めている。脚本と監督
は『死刑弁護人』など東海テレビの「司法」シリーズを手掛
けるディレクターの齊藤潤一が担当した。



2013年01月01日(火) 第184回 (Star Wars, Golden Globe Awards, Riddick, Jupiter Ascending, Alice in Wonderland sq., Best10)

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 明けましておめでとうございます。
 突然ですが、映画紹介以外の情報のページを新年から再開
することにします。その前に少し昨年の状況を報告します。
 昨年は試写等で映画を観た作品数が528本に達しました。
 これには東京国際映画祭での28本とサンプルDVDによる
31本を含み、一部は劇場公開していない作品もありますが、
昨年度に日本国内で一般公開された作品は1000本弱と言われ
ており、前後年への繰越はありますが、その内の約半数を観
ている勘定になると思われます。
 しかし、一昨年が374本だったことに比較すると、一気に
1.5倍近い増加はかなりの負担となったもので、それまで鑑
賞した全ての作品の記録コメントを書いていた作業を、昨年
は遂に諦めざるをえませんでした。これは、送付された試写
状は可能な限り鑑賞するという目標を優先させたもので、そ
のためコメントを書く時間が取れなくなりました。
 そこで昨年は、1回に掲載できる毎週8本の記録コメント
のみを執筆することとし、この時点で掲載作品の取捨選択を
行いました。そのため昨年は64作品を割愛しました。
 その一方で自分の中で新しい情報を紹介できないことへの
フラストレーションも高まり、それなら作品紹介をさらに割
愛しても良いのではないかと考え、作品紹介の本数をさらに
減らして、情報ページを再開することにしたものです。
 なお紹介作品の選択は、自分が気に入った作品であること
に変わりはありませんが、さらに自分が紹介するまでもない
著名な作品や自分のテリトリーでない作品から割愛すること
にします。そしてその更新日を10日、20日、30日(若しくは
月末)付とし、それに加えて1日と16日に情報ページの更新
をする予定です。 
        *         *
 その初めは、今回再開に思い至った切っ掛けの作品から。
 “Star Wars: Episode VII”の製作の情報はすでに何度か
紹介したが、改めてその流れを総括することから情報を再開
する。
 この情報が最初に流れたのは、10月30日付のディズニー本
社からの発表で、同社が40億5000万ドルを投じてジョージ・
ルーカスが個人所有していたルーカスフィルムの買収に合意
し、それに伴い同社は『スター・ウォーズ』『インディ・ジ
ョーンズ』などのシリーズの全権利を獲得。その権利に基づ
いて上記の公開・制作を公式に発表したものだ。
 この時僕が感じたのは、これで故リー・ブラケットの夢が
叶うということだった。元々『スター・ウォーズ』の全貌に
関しては、3部作×3で全9部作になるという情報が何度も
紹介されていた。これは“Star Wars: Episode IV”の製作
前にルーカスとブラケットが話し合って作り上げたシリーズ
全体の構想に基づくものとされていた。
 ところが1999年の“Star Wars: Episode I”の公開の折に
ルーカスは、「そのような計画は最初から無い」と断言して
しまった。これに対して僕らは大きな失望感を味わったもの
だ。この時、なぜルーカスがそのような発言を行ったのか?
これについては後で考察したい。兎も角今回の発表で、その
経緯がどうであれ、ついに長年の夢が叶うことになった。
 その後の情報では、すでにお伝えしているものもあるが、
まずは11月5日のCollider誌が、監督として2010年10月紹介
『キック★アス』などのマシュー・ヴォーンの名前を報道。
しかしこの情報は確認されず、その後はスティーヴン・スピ
ルバーグ、デイヴィッド・フィンチャーからクエンティン・
タランティーノまで、あらゆる名前がサイトを賑わすことに
なる。因に、監督名の正式発表はまだ無いものだ。
 その一方で11月10日には、脚本家に2010年6月紹介『トイ
・ストーリー3』などのマイクル・アーントの起用が発表さ
れた。こちらはルーカスフィルムとディズニーの両社が公式
に認めたものだ。
 ところがその直後の11月21日には、“Episode VIII”の脚
本に“Star Wars: Episode V,VI”を手掛けたローレンス・
カスダンと、“Episode IX”の脚本には、2011年マシュー・
ヴォーンが監督を務めた『X-MEN: ファースト・ジェネレー
ション』などの脚本家サイモン・キンバーグが起用されると
の情報が流れた。つまり“Star Wars”の新3部作は、1作
ごとに脚本家が変わるということだ。
 しかしこの新3部作が以前と同じ3年1作のペースで製作
されるのなら、脚本家を3人も用意する必要があるのか?
しかも名前の挙がっている3人は、アーントも含めて全員が
シリーズ物には慣れている脚本家たちだ。
 このことから2015年にスタートする新3部作は、ピーター
・ジャクスン監督の『LOTR』“The Hobbit”と同じく、
一気に撮影して3年連続で公開されるのではないか…という
観測も登場した。さらには実際はアーントが全作の脚本を書
くが、それが間に合わない時のバックアップ用に2人が契約
されているという説まで出ている。
 一方、出演者に関しては、最初の3部作の出演者だったマ
ーク・ハミルとキャリー・フィッシャーが8月にルーカスと
会食し、その席でルーカスの口から新3部作の計画が話され
ていたことが、ディズニーによる買収発表の後で明らかにさ
れた。
 その情報によると、会食では最初にルーカス自身の引退の
話と、以前の2つの3部作の間を繋ぐ実写版TVシリーズの
構想が話された後で、突然「Episode VII-IXを作る」と切り
出されたのだそうだ。その瞬間ハミルは「何てこと言うの」
と口走ったそうだが、ルーカスは「誰よりも先に2人に知っ
ておいて欲しかった。でも公表されるまでは内緒だよ」と釘
も刺されたとのことだ。
 またルーカスは、すでに脚本家との話し合いが行われてい
ることと、ルーカス自身は監督はしないとも語ったそうだ。
そしてこの報道の後では、ハミルとフィッシャーが新3部作
に出演するという噂も登場していた。
 一方、最初の3部作の主役トリオの中のもう1人ハリスン
・フォードは、“Episode VII”の製作が発表された後で新
3部作に出演する意思があることを表明。その中でフォード
は、実は“Episode VI”の当初のシナリオではハン・ソロは
死ぬことになっていたと発言。撮影の開始後にルーカスが気
を変えてハン・ソロを生き延びさせたとの裏話を公開した。
 つまりこの証言は、その時点ではルーカスに続編の構想が
あったことの傍証にもなる訳で、それが何故「そのような計
画は最初から無い」という発言になったのか、一層の疑問が
湧いてきたものだ。
 そこで以下は僕の勝手な想像だが、ルーカスの頭の中には
ずっと全9部作の構想はあったものと考える。しかしそれを
公にできない理由があった。そこには以前のシリーズの配給
会社との間で確執があったのではないかといことだ。実際に
ルーカスと配給会社との間では、“Episode IV”の公開に際
して揉め事があったとも伝えられているし、それが尾を引い
て“Episode I”の製作が遅れたという説もあるようだ。
 そこで全9部作の構想が最初からあったとされると、今回
の“Episode VII-IX”に関してもその配給権が存在し、ルー
カスは元の配給会社以外ではその作品を公開できないことに
なる。これはハリウッドにおける「口約束」の原則として、
書面による契約がなくても守られることが裁判所の判例とし
て存在するものだ。
 しかしそれが嫌なルーカスは、「そのような計画は最初か
ら無い」との主張を繰り返し、それが既定の事実となった後
に、新たな構想として“Episode VII-IX”を作らなければな
らなかった。今回の新3部作の制作発表までの経緯は、こん
な風ではなかったかと想像するものだ。まあこの経緯はルー
カスの口からは絶対に明かされることはないと思うが。
 ということで、計画発表から2ヶ月経った12月21日には、
ディズニーから22億819万9950ドルの現金と3707万6679株の
株券(当日の株価は50ドル)による40億6000万ドルの支払い
が完了したことが報告され、晴れてディズニー傘下に収まっ
たルーカスフィルムには“Episode VII-IX”制作の障害は全
くなくなったものだ。
 なおこの買収完了の報告に伴って、「ディズニーでは新3
部作を2015年から2、3年置きに公開する計画」との報道も
あったが、その真偽はまだ明確ではない。
 一方、アメリカでの買収計画の発表とほぼ同時に、ディズ
ニーの日本支社からマスコミ宛に今後の公開予定が届けられ
たが、そこにはまだ新3部作の題名はなく、2015年には5月
に“The Avengers”の続編が予定されているだけとなってい
た。“Star Wars: Episode VII”も2015年に公開されるなら
その年の5月が決まりのものだし、同じくディズニー傘下の
マーヴェル社との間で今後の調整も大変になりそうだ。
 以上、再開の初回は“Episode VII-IX”の情報の特集から
始めさせてもらった。
        *         *
 続いては年末年始は賞レースのシーズン。今年のVES賞
候補の発表は1月7日、オスカー候補作の発表は1月10日な
のでこれらは次回報告できるとして、今回は既に候補が発表
されているゴールデングローブ賞を見て行こう。
 今年第70回を迎えるGG賞は、南カリフォルニアに在住す
る外国人ジャーナリストが選出するもので、そのメムバーは
約90人、内4名は日本人のようだ。その部門は映画とテレビ
にも跨るが、さらにドラマとコメディ/ミュージカルが分け
られるなど、オスカーとは異なる体裁になっている。そして
それぞれの部門で5作または5人が候補となるものだ。
 そこでまずドラマの作品賞部門は、
『アルゴ』(9月9日紹介)
“DJANGO UNCHAINED”
『ライフ・オブ・パイ』(12月9日紹介)
“LINCOLN”
『ゼロ・ダーク・サーティ』(次回紹介予定)
 ドラマの主演女優賞部門は、
ジェシカ・チャスティン(ゼロ・ダーク・サーティ)
マリオン・コティアール(君と歩く世界:12月23日紹介)
ヘレン・ミレン(HITCHCOCK)
ナオミ・ワッツ(THE IMPOSSIBLE)
レイチェル・ワイズ(THE DEEP BLUE SEA)
 ドラマの主演男優賞部門は、
ダニエル・デイ=ルイス(LINCOLN)
リチャード・ギア(キング・オブ・マンハッタン:紹介予定)
ジョン・ホーキンス(THE SESSIONS)
ホアキン・フェニックス(ザ・マスター:12月30日紹介)
デンゼル・ワシントン(FLIGHT)
 コメディ/ミュージカルの作品賞部門は、
『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(10月21日紹介)
『レ・ミゼラブル』(12月9日紹介)
『ムーンライズ・キングダム』(12月30日紹介)
『砂漠でサーモン・フィッシング』(11月18日紹介)
『世界にひとつのプレイブック』(12月30日紹介)
 コメディ/ミュージカルの主演女優賞部門は、
エミリー・ブラント(砂漠でサーモン・フィッシング)
ジュディ・ディンチ(マリーゴールド・ホテル)
ジェニファー・ローレンス(世界にひとつの…)
マギー・スミス(QUARTET)
メリル・ストリープ(HOPE SPRINGS)
 コメディ/ミュージカルの主演男優賞部門は、
ジャック・ブラック(BERNIE)
ブラッドリー・クーパー(世界にひとつの…)
ヒュー・ジャックマン(レ・ミゼラブル)
ユアン・マクレガー(砂漠でサーモン・フィッシング)
ビル・マーレイ(HYDE PARK ON HUDSON)
 長編アニメーション賞部門は、
『メリダとおそろしの森』(6月24日紹介)
『フランケンウィ二ー』(11月4日紹介)
『モンスター・ホテル』(9月23日紹介)
“RISE OF THE GUARDIANS”
“WRECK-IT RALPH”
 外国語映画賞部門は、
“AMOUR”(AUSTRIA)
『ロイヤル・アフェア/愛と欲望の王宮』(紹介予定)
『最強のふたり』(2011年10月30日紹介)
“KON-TIKI”(NORWAY/UK/DENMARK)
『君と歩く世界』
 助演女優賞部門は、
エイミー・アダムス(ザ・マスター)
サリー・フィールド(LINCOLN)
アン・ハサウェイ(レ・ミゼラブル)
ヘレン・ハント(THE SESSIONS)
ニコール・キッドマン(THE PAPERBOY)
 助演男優賞は、
アラン・アーキン(アルゴ)
レオナルド・ディカプリオ(DJANGO UNCHAINED)
フィリップ・シーモア・ホフマン(ザ・マスター)
トミー・リー・ジョーンズ(LINCOLN)
クリストフ・ヴァルツ(DJANGO UNCHAINED)
 監督賞部門は、
ベン・アフレック(アルゴ)
キャサリン・ビグロー(ゼロ・ダーク・サーティ)
アン・リー(ライフ・オブ・パイ)
スティーヴン・スピルバーグ(LINCOLN)
クエンティン・タランティーノ(DJANGO UNCHAINED)
 脚本賞部門は、
マーク・ボール(ゼロ・ダーク・サーティ)
トニー・カシュナー(LINCOLN)
デイヴィッド・O・ラッセル(世界にひとつの…)
クエンティン・タランティーノ(DJANGO UNCHAINED)
クリス・テリオ(アルゴ)
 以上が映画部門の候補作(テレビ及び音楽関係は割愛)だ
が、今回は意外とコメディ/ミュージカルの作品賞部門の全
作品を既に紹介していたもので、いずれも気に入っている作
品でもあるので、1月13日の授賞式が楽しみだ。
        *         *
 ここからは製作ニュースで、2000年公開の『ピッチ・ブラ
ック』、2004年7月紹介『リディック』に続くヴィン・ディ
ーゼル主演シリーズの第3作“Riddick”が製作され、その
全米公開日が2013年9月6日と発表された。
 なおこの新作は既に撮影が完了しているもののようだが、
前2作に続いてデイヴィッド・トウィーが脚本、監督を担当
した作品の物語は、太陽に焼かれた過酷な惑星に置き去りに
されたリディックが、その星でもエイリアンの捕食獣による
生存競争に巻き込まれるというもの。しかもそこには主人公
の過去を知る存在も登場するということだ。
 共演は、前作にも登場したカール・アーバン。アーバンは
昨年12月紹介『ジャッジ・ドレッド』の主演に続いて、今年
5月17日に全米公開(日本は9月)されるシリーズ最新作の
“Star Trek Into Darkness”にも、前作に引き続きマッコ
イ役で出演しており、立て続けてのSF映画登場となる。
 他には、2004−09年のテレビ“Battlestar Galactica”に
レギュラー出演していたケイティー・サコホフ、元プロレス
ラーでアメリカでは昨年ヴィデオ公開された“The Scorpion
King 3: Battle for Redemption”などにも出演のデイヴ・
バウティスタらが共演しているようだ。
 前作に続いて舞台は明るい世界のようで、第1作『ピッチ
・ブラック』の漆黒の世界に魅了された者としてはちょっと
残念な感じもあるが、またまた怪しげな世界でのリディック
の活躍は楽しめそうだ。
 因にヴィン・ディーゼルは、この他に5度目の出演作とな
る“The Fast and the Furious 6”が既に撮影を完了してお
り、また近未来ロボット物の“The Machine”と、人気キャ
ラクターに再挑戦する“xXx: The Return of Xander Cage”
が準備中。さらに昨年11月紹介『007スカイフォール』の
脚本家チームが手掛ける往年のテレビシリーズからの映画化
“Kojak”にも出演が予定されているようだ。
        *         *
 昨年12月紹介『クラウド・アトラス』ではかなり度肝を抜
かれたアンディ&ララ・ウォシャウスキー姉弟の次回作とし
て“Jupiter Ascending”という計画が発表され、その出演
者として同日に紹介した『レ・ミゼラブル』などのエディ・
レッドメインとの交渉が報告されている。
 物語は、時代は不明だが人類が進化の底辺と見倣されてい
る世界を舞台にしたもので、その世界を支配する宇宙の女王
によって暗殺のターゲットにされた女性をめぐるお話とのこ
とだ。多分これはその女性が人類の進化の鍵を握っていると
いうことなのだろう。
 この作品でレッドメインがどのような役柄を交渉されてい
るかは不明だが、共演者には既に2011年1月紹介『ブラック
・スワン』などのミラ・クニスと、昨年4月紹介『君への誓
い』などのチャニング・テイタムの出演が発表されており、
若手中心だがかなり芸達者の顔ぶれが集まりそうだ。
 物語からは、ウォシャウスキー姉弟が脚本と製作を担当し
た2006年2月紹介『Vフォー・ヴェンデッタ』のような雰囲
気が感じられるが、同作の主演が『ブラック・スワン』のナ
タリー・ポートマンだったことを考えると、クニスの主演も
頷けそうだ。
 撮影は2013年の第1四半期に開始され、作品はワーナーの
配給で公開される。
        *         *
 製作ニュースの最後は少し旧聞になってしまったが、最初
の話題にも登場したディズニーから、2010年3月紹介『アリ
ス・イン・ワンダーランド』の続編の計画が報告された。
 2010年の作品は全世界で10億ドル以上の興行収入を上げた
もので、この大ヒットに続編の計画はハリウッドでは当然の
話と言える。しかもルイス・キャロルの原作には、キャロル
自身が続編の“Through the Looking-Glass”も執筆してお
り、普通ならそれを映画化すればよい話だ。
 ところが本作の場合は、2010年の作品の中には“Through
the Looking-Glass”の要素も含まれてしまっていて、その
映画化という訳にはいかないのだ。
 そこでディズニーは、2010年作の脚本を手掛けたリンダ・
ウルヴァートンに新たなオリジナルのストーリーからの執筆
を依頼。今までに描かれたことのないアリスの冒険物語が作
られることになった。
 キャスティングやティム・バートンが監督を受けるかなど
不明な点も多い計画だが、ディズニーでは大型製作費の大作
ファンタシーとして映画化を進める計画のようだ。
        *         * 
 最後に吉例、僕の個人的なベスト10を発表します。対象は
2012年度に日本国内で一般公開された作品で、今年は独自性
の出ない外国映画は割愛し、SF/ファンタシー映画のみに
ついて選出しました。
1 ヒューゴの不思議な発明(2011年12月紹介)
2 ミッドナイト・イン・パリ(2012年3月紹介)
3 アイアン・スカイ(2012年5月紹介)
4 ハンガーゲーム(2012年7月紹介)
5 プロメテウス(2012年7月紹介)
6 ホビット・思いがけない冒険(2012年12月紹介)
7 バトルシップ(2012年4月紹介)
8 白雪姫と鏡の女王(2012年6月紹介)
9 放課後ミッドナイターズ(2012年7月紹介)
10 009 RE:CYBORG(2012年10月紹介)
番外1 アルゴ(2012年9月紹介)
番外2 LONE CHALLENGER/岸部町奇談(2012年5月紹介)
番外3 ピープルvs.ジョージ・ルーカス(2011年12月紹介)
番外4 フランケンウィ二ー(2012年11月紹介)
第1位はファンタシーであるだけでなく、SF映画史として
も重要な作品で、生涯のベスト10にも入る。第2位もパリが
舞台の心に残る作品。
第3位はSF映画ファンが唸る作品。第4位はベストセラー
の映画化ということで危惧はあったが、思いの外に良く出来
ていた。
第5位もSF映画ファンには喝采できる作品。第6位はまだ
第1章なのでここに留めるが、この後の展開を大いに期待さ
せた。
第7位は実はいろいろ深い作品で楽しめた。第8位は同テー
マの別の作品が先に公開されたが、作品の出来としてはヒロ
インの配役も含めてこちらが上と思う。
第9位、第10位は共に日本のアニメーションだが、それぞれ
新しい試みがあって、大ヒットしたらしい定番の作品よりも
価値があると考えた。
番外1は実話の映画化だが、SF/ファンタシー映画ファン
にはニヤリのプレゼントだ。番外2は作品としては未完成だ
が将来に期待を持ちたい。番外3もこのタイミングでの公開
はファンにはありがたかった。
番外4は第9、第10位と迷って成り行きでこうしたが、この
作品もホラー映画へのオマージュが素晴らしかった。監督の
記者会見でその点の質問をできなかったことが悔やまれる。


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井口健二