井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2012年12月30日(日) ムーンライズK、ダイナソーP、世界にひとつの…、マキシマムB、ジョニー・トー、シャドー・ダンサー、ゴースト・フライト、ザ・マスター

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ムーンライズ・キングダム』“Moonrise Kingdom”
2005年4月紹介『ライフ・アクアティック』などのウェス・
アンダースン監督による最新作。2012年カンヌ国際映画祭の
オープニングに選ばれ、世界的にも大ヒットを記録している
そうだ。
物語の舞台は1965年、アメリカ東部のニューイングランド沖
に浮かぶ全長26kmの小島ニューペンザンス。その島で厳格な
父親の許に暮らす12歳の少女と、規律に厳しい隊長に率いら
れたボーイスカウト隊員の同い年の少年が、教会で行われた
観劇会で出会い、1年間の文通の末に、互いの境遇を悲しん
で駆け落ちを決行する。
そしてまず少年の脱走が発覚し、隊長や島で唯一の警官らが
捜索を繰り広げる一方で、少女の家出も判明する。しかし経
緯から最初はいがみ合う大人たちを尻目に、ボーイスカウト
の隊員たちは推理を巡らし、遂に2人を発見するが…。その
時、島には未曾有のハリケーンが接近していた。さらに里親
に見放された少年に少年院送りの危機も迫る。
2005年の紹介は、正直話が良くは判っていなかったものだ。
その後に監督は、世界的なヒット作やアニメーションの話題
作も発表しているが、それらの試写は観せて貰えなかった。
そんな訳で今回の試写は多少構えながらの鑑賞だったが、本
作に関しては内容も理解しやすく、お話も心地よく観ること
ができた。
それはまあ、主人公が子供のせいもあるのかもしれないが、
無邪気さに溢れたアンダースン監督の作風が、本作の内容に
ぴったりだったとは言えそうだ。特に子供たちの働きに大の
大人が振り回される…。そんなシーンが小気味よく、それに
合った全体の雰囲気も素敵な作品だった。それに昔はこんな
子供の映画が沢山あったことも思い出した。

出演は、共に本作が映画初出演のカーラ・ヘイワードとジャ
レッド・ギルマン。その脇を、ブルース・ウィリス、エドワ
ード・ノートン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマ
ンド、ティルダ・ウィンストン、ボブ・バラバン、ジェイス
ン・シュワルツマンらが固めている。
脚本はアンダースン監督と、『ライフ・アクアティック』に
も参加のローマン・コッポラが共同で執筆。まあ寓話と言え
る作品だが、1960年代の風景と共にどこか懐かしく、心地よ
いお話が展開されていた。

『ダイナソー・プロジェクト』“The Dinosaur Project”
2007年にNHKが放送した“Prehistoric Park”などのシド
・ベネット監督が描いた恐竜アドヴェンチャー。
1999年にBBCが制作した“Walking with Dinosaurs”など
のお陰で、テレビ用に恐竜を描くCGI技術ではイギリスの
スタッフは一頭地を抜くと言われているのだそうで、本作は
その財産を映画に活かそうと企画された作品のようだ。
とは言うものの、元々がお子様向けの感覚なのかな? 出来
上がった作品は何ともツッコミどころが満載のものになって
しまった。
物語の始まりは、アフリカの川を流れてくるナップザックの
映像。それは川の上流で目撃された謎の生物を発見する目的
で、イギリスのテレビ局が「Dinosaur Project」と命名して
送り出した探検隊のもののようだった。
そしてそのザックの中からは、映像の記録されたハードディ
スクやヴィデオテープなどが見つかり、その検証が行われる
ことになる。そこには驚異的な映像が収められていた。
と言うことで、物語はfound-footageと称されるスタイルで
展開されるのだが。ここで探検隊の名称の「Project」が、
実は“The Blair Witch Project”に由来していると気付か
されるものだ。
ただまあそのお話が、探検隊長の息子が勝手にヘリコプター
に乗っていたり、右腕だった隊員が突然功名心にとりつかれ
て殺人鬼になったりと、まずは恐竜に関係ないものばかり、
これでは本当に何が言いたいのか判らなくなってしまう。
しかもこの種の作品では、最終的に素材の回収が問題になる
が、ウェブカメラの映像は無線でハードディスクにリンクさ
れていたとしても、カメラマンのヴィデオテープはどうして
回収されたのかなど、詰めの甘い部分も多く見られた。
こんな風にツッコミどころは満載の作品だが、水中を泳ぐプ
レシオザウルスの姿や、登場人物と絡む小型恐竜の様子など
は、流石に一頭地を抜くと称されるCGIや合成も巧みで、
それは見ものになっている。それで良いのだろう。

出演は今年11月紹介『レッド・ライト』に出ていたピーター
・ブルーク、9月紹介『アルゴ』に出ていたリチャード・デ
ィラン、そして本作で長編映画デビューのマット・ケーン。
他に、2009年にアパルトヘイトを扱った“Endgame”に出演
のスティーヴ・ジェンキンス、昨年11月紹介『マシンガン・
プリーチャー』に出演のアベナ・アイヴォー、それに英国の
テレビ俳優ナターシャ・ローリングらが脇を固めている。

『世界にひとつのプレイブック』
“Silver Linings Playbook”
2010年4月紹介『ハングオーバー』などのブラッドリー・ク
ーパーと、2011年8月紹介『ウィンターズ・ボーン』や今年
7月紹介『ハンガーゲーム』で大ヒットを記録したジェニフ
ァー・ローレンスの共演によるヒューマンコメディ。
主人公は、妻の不倫現場に遭遇し、その相手を打ちのめして
しまった元教師。その傷害罪は精神病院に入院することで解
消されるが、退院しても接近禁止命令の出ている元妻の姿を
追い求め、精神的には不安定なままだ。しかも彼は、自分が
健康になれば妻は戻ってくると信じ鍛錬を続けている。
そんな主人公が友人の伝で知り合った女性もまた、夫を亡く
し精神の破綻を経験していた。そして彼女は性的欲求が過剰
となり、紹介された主人公に猛烈なアタックをかけ始める。
クーパーの主演でこの展開だと、飛んでもない話が始まりそ
うだが、映画は各賞の候補にも挙がる名品だ。
物語が精神病院で始まり、その後にも主人公の奇矯な行動が
続いて行く。その辺では正直には多少引いてしまうシーンも
なくは無かった。しかし、そんなどん底から立ち直って行く
主人公の姿がどこか愛おしく、応援したくなるようにも描か
れていた。

共演は、ロバート・デ・ニーロ、昨年11月紹介『アニマル・
キングダム』などのジャッキー・ウィーヴァー、『ラッシュ
アワー』シリーズなどのクリス・タッカー。
脚本と監督は、2005年5月紹介『ハッカビーズ』や2010年の
オスカー受賞作『ザ・ファイター』などのデヴィッド・O・
ラッセル。監督は、共にオスカー受賞監督のシドニー・ポラ
ック、アンソニー・ミンゲラから本作の原作を紹介され、以
来5年をかけて実現に漕ぎ着けている。
精神病が国民病のようでもあるアメリカ、近年の日本もそれ
に近い状況であるとも思えるが、そんな中で何時自分自身が
同じ状況に陥るかもしれない。そんな身近さも感じられる作
品。因にクーパーは名門アクターズ・ステューディオの出身
なのだそうで、名門仕込みの演技も魅せる作品だ。
それに出演作が連続するローレンスも、本作もまたキャラク
ターの異常さと女性の魅力を存分に見せつける名演技で、特
にデ・ニーロとの対決シーンは、内容の痛快さもあって見事
だった。


『マキシマム・ブロウ』“The Package”
2006年3月紹介『ロンゲスト・ヤード』が映画俳優デビュー
だった元プロレスラーのスティーヴ・オースティンと、今年
9月紹介『ユニバーサル・ソルジャー殺戮の黙示録』に出演
のドルフ・ラングレンが共演するアクション作品。
オースティンが演じるのは、闇金融の取り立て屋で生計を立
てているしがない男。その仕事には嫌気が差しているが、家
族のためには続けなければならない。そんな男にボスから新
たな仕事が命じられる。
それは小さな包みを、ラングレン扮するジャーマンと呼ばれ
る男に届けるだけのもの。しかしそれには大金が掛かってい
るらしい。そして仲間と一緒に運び屋を始めた途端、2人は
強力な敵に遭遇する。
一方、届け先のジャーマンも襲撃を受けており、そこには闇
の組織の主導権争いがあるようだ。そして主人公は、何とか
その包みをジャーマンに届けるべく、強力な敵に立ち向かっ
て行くことになるが…

共演は、2010年『沈黙の復讐』や、同年11月紹介『イップ・
マン/葉問』にも出演のダーレン・シャラヴィ、2011年4月
紹介『エンジェル・ウォーズ』に出演のほか数多くの作品で
女優のスタントダブルを務めるモニカ・グランダートン。
監督は、空手の黒帯を所有し、6月紹介『アメイジング・ス
パイダーマン』などのスタントマンを務めるジェシー・V・
ジョンスン(スタントマンの時はJ・Eと名乗るようだ)。
脚本は、今年ラングレンが主演した“One in the Chamber”
という作品にも参加のデレク・コルスタッド。
お話としては、包みの中身は大体そんなところこかなあ…と
思っていたが、それを届けるまでに主人公を待つ敵が、元特
殊部隊の兵士だったり、いろいろアメリカの現状を反映して
いるようで、アメリカ社会も大変なことになってきたなあ…
という感じだった。
それは兎も角、アクションのオースティンはまだまだ現役だ
が、『ユニソル』ではかなりやばそうな感じだったラングレ
ンが、本作ではしっかりアクションを演じているのは嬉しく
なった。ヴァン・ダムそうだったが、ヨレヨレも演技だった
のかな。

なお本作は、3月末に閉館する東京銀座のアクション映画専
門館シネパトス最後の上映作品の一本として、2月5日から
公開される。

『映画監督ジョニー・トー/香港ノワールに生きて』
“Johnnie Got His Gun!”
今年12月紹介『奪命金』などの香港映画監督ジョニー・トー
の映画制作現場をフランス人のイブ・モンマユー監督が撮影
したドキュメンタリー作品。
画面には、2003年の『PTU』から2011年『奪命金』までの
トー作品が登場し、各作品に出演したサイモン・ヤムやリッ
チー・レン、アンソニー・ウォン、レオン・カーフェイ、ル
イス・クーといった俳優たちが、撮影の舞台裏やセットの様
子などを紹介している。
その一方で、インタヴューを受けるトー監督の姿も随所に挿
入され、表舞台に出たがらない監督自身の映像はかなり貴重
なもののようだ。尤もその姿を撮るためにフランス人の監督
は8年を費やしているのだから、これは彼の粘りを最大限に
評価するべき作品だろう。
そしてそのインタヴューでは、トー監督自身が脚本から湧い
たイメージにぴったりのロケ地が見つかれば、撮影は半ば済
んだも同然と語っているように、その背景へのこだわりが紹
介される。また俳優たちからは、トー映画に何度も登場する
エレベーターの意外な所在や、飛んでもない場所に作られた
ホテルのセットなどが紹介される。
さらにトー監督のインタヴューでは、監督が好んで取り上げ
る香港の裏社会の状況や、俳優と香港警察との意外な繋がり
なども紹介される。特に1997年の香港返還以後の状況の変化
への言及では、映画だけではない香港の現状に対する監督の
思いなども感じられる。
また映画に対する発言では、子供の頃に観た映画の思い出か
らハリウッド映画に対する思いなども語られるが、その中で
1990年以降のアメリカ映画に対する発言は、その頃に始まっ
た中華圏監督のアメリカ進出に対し、香港での映画制作を守
り続けるトー監督の決意も汲み取れそうだ。

作品の中では、過去に観た名シーンの舞台裏が見られるのも
面白いし、観ていない作品でもそのバックステージの雰囲気
は興味深いものだ。また、監督や撮影監督が中国語でインタ
ヴューに答えるのに対して、俳優の多くが英語でいろいろな
説明を行っているのも興味深かった。
それにしても、フランスの作品なのに英語で付けられたこの
原題は、言うまでもなく赤狩りで追放されたハリウッド・テ
ンの1人ドルトン・トランボが、1971年に自らの原作小説を
映画化した『ジョニーは戦場へ行った』に由来するもの。そ
の意図はちょっと気になったところだ。


『シャドー・ダンサー』“Shadow Dancer”
元イギリステレビ局のアイルランド駐在員だった作家トム・
ブラッドリーの原作小説(邦訳題名:哀しみの密告者)を、
2009年4月紹介『マン・オン・ワイヤー』でオスカー受賞の
ジェームズ・マーシュ監督が、原作者の脚本に基づき映画化
した人間ドラマ。
1960年代から激化したアイルランド共和軍(IRA)と英国
機密諜報部(MI5)との戦いを背景に、家族のために敵の
スパイとならざるを得なかったIRA女性兵士の物語。
1970年代、暴力テロ事件の相次ぐ北アイルランド・ベルファ
ストで暮らしていた少女は、父親に頼まれたお使いを弟に任
せる。ところがその弟が銃撃戦に巻き込まれて死亡。その責
を自らに課した少女は1990年代、IRAの戦士となって爆弾
テロに従事していた。
そんな女性が何故MI5のスパイとなったのか、そしてその
行動にIRA上層部の疑いが持たれた時、彼女には「シャド
ー・ダンサー」というコード名の別のスパイの存在が明らか
にされる。しかも彼女はそのシャドー・ダンサーを守るため
の囮であったことも…。
非情なスパイ活動の現実と、彼女自身の家族への思いが極限
の状況の中で描かれる。なお原作者は、報道だけでは伝えき
れないアイルランドの現実を語るために、処女作となる本作
の執筆を決意したものだそうだ。

出演は、2010年10月24日付「東京国際映画祭」で紹介したコ
ンペ作品『ブライトン・ロック』などのアンドレア・ライズ
ブローと、2005年7月紹介『シン・シティ』などのクライヴ
・オーウェン。他に、テレビ『X−ファイル』などのジリア
ン・アンダースン、アイルランドのテレビ女優ブリッド・ブ
レナンらが脇を固めている。
2012年6月27日、エリザベス2世英国女王がアイルランドを
再訪し、IRAの拠点だったベルファストで元司令官のマー
ティン・マクギネス副首相と握手。歴史的な和解が行われた
イギリス−アイルランド紛争だが、その歴史の陰でいくつも
の映画史に残るドラマが生み出された。
しかしその戦いを女性の目で描いた作品は初めてとも言われ
ているようだ。そんな本作の中で描かれるIRA兵士の葬儀
のシーンなどは、当時のテレビニュースなどでも見た記憶の
あるシーンがそのまま再現されており、当時見ていたシーン
の裏で起きていた現実が繰り広げられている作品だった。


『ゴースト・フライト407便』“407 เที่ยวบินผ”
2012年3月に公開され、10月31日現在でタイ国内でのホラー
映画興行歴代第1位を記録しているという作品。
飛行中の航空機内という全く逃げ場のない状況を背景に、そ
の機内が多数のゴーストに襲われるという恐怖映画。因に本
作はタイ映画初の3D作品にもなっているが、今回の試写は
2Dでの上映だった。
舞台は、タイの首都バンコクからリゾート地のプーケットに
向かう航空機の機内。その航空機のファーストクラスには、
イギリス留学より地元の飛行学校への入学を希望する少女と
その両親や、地元青年と若い香港女性。空の旅に慣れていな
い老婆や僧侶などいろいろな乗客が座っている。
一方、その乗客たちをもてなすキャビンアテンダントにも、
以前の搭乗で幻覚に襲われ、長期休暇を余儀なくされた女性
や、ゲイの男性など多様な乗員が乗り組んでいる。さらに貨
物室には、誤って乗り込んだまま飛行機が発進してしまった
整備士が閉じ込められていた。
ところが機が高度3万フィートに達した時、突然乗客の1人
が息が詰まると立ち上がり、首を360度回して倒れるという
異常事態が発生。それが引き金のように怪異現象が起き始め
る。そこには身体がぼろぼろなった幽霊などが現れ、やがて
それは乗客同士の殺戮へと発展し…。
オリジナルは3Dとのことで、画面にはかなりそれを意識し
たような演出も見られた感じだ。ただしそれがどれだけ効果
があったかは、残念ながら2Dでの鑑賞なので判断はできな
い。ただまあハリウッド映画ではないので、それなりに過激
なものにはなっていそうだ。
因に映像はかなりスプラッターにもなっており、それも3D
という感じの作品だ。

出演は、1986年に映画デビューして、当時は歌手デビューも
果たすなどアイドル的人気があったというマーシャ・ワタナ
パーニット。その後、1991年から16年間女優を休業し、先ご
ろ復帰したとのことで、本作ではそのアテンダント姿でも話
題になったそうだ。
他にはモデル出身のピーター・ナイト、ベテランのパラメー
ト・ノーイアム、トランスジェンダー歌手のベル・ナンティ
ターなど、多彩なキャストが組まれている。
監督は、本作の前には黒魔術を扱ったシリーズ作品を7人組
監督ユニットで制作して話題になったというイサラー・ナー
ディー。脚本もそのユニットの1人のコンギアット・コムシ
リが担当した。

『ザ・マスター』“The Master”
2008年3月紹介『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール
・トーマス・アンダースン監督が、1950年代のアメリカを背
景に描いた作品。
物語の開幕は、太平洋戦争末期の南の島。水兵のフレディは
日本の敗戦でアメリカ本土に帰還するが、復員軍人病院での
ロールシャッハテストにも異常な反応で、平時の環境にはな
かなか順応できないようだ。そして戦時中に自前で開発した
強烈なカクテルに酔いしれる日々が続いていた。
それでも地元のデパートの写真室でカメラマンの仕事を得る
が、暗室には酒を常備し、ついには客に暴力をふるって仕事
を首になってしまう。そんなフレディは酔いどれながらの放
浪を続け、とある港で婚礼パーティの準備をしていた船に潜
り込む。
そして船員に発見され、主催者のドッドの前に引き出される
が、ドッドはフレディを咎めるどころか歓迎し、フレディも
その意外な展開にドッドを信じることになる。そして下船し
た後も2人は常に行動を共にし、ある時はドッドを批判する
人物に報復を加えるようにもなって行くが…
そのドッドが率いているのは、「ザ・コーズ」と名告る謎の
団体だった。
脚本も執筆した監督自身が、「ザ・コーズ」の「サイエント
ロジー」との類似性を否定していないようで、ドッドの言動
などにも、そこから参考にした部分もあるようだ。ただし、
物語は宗教に関するものではなく、第2次世界大戦後という
環境の許での2人の男の生き様が描かれている。

出演は、ホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・
ホフマン、エイミー・アダムス。他にローラ・ダーン、元子
役のアンピル・チルダース、今年4月紹介『バトルシップ』
などのジェシー・プレモス。監督の前作にも出演のケヴィン
・J・オコナーらが脇を固めている。
「サイエントロジー」に関しては、元々がSF作家だったL
・ロン・ハバードが創始したもので、SFファンには馴染み
深いが、本作の中でもほぼカルトという感じの扱いで、まあ
そんなものだ。

なお、本作の撮影に当ってはPanavision 65 HRカメラが使用
されたのだそうで、アメリカでは一部の劇場で70mm公開も行
われとの報道もある。ただし試写で観るとサイズはヴィスタ
で、アメリカのデータベースでもアスペクト比は1.85:1と記
載されていた。日本もそれに倣うことになるのだろう。



2012年12月23日(日) ベラミ、さよならドビュッシー、サイレント・ハウス、カルメン故郷に帰る、アルバート氏の人生、君と歩く世界、チチを撮りに、PARKER

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ベラミ愛を弄ぶ男』“Bel Ami”
『トワイライト』サーガのロバート・パティンスンが主演す
るギ・ド・モーパッサン原作の映画化。
原作は1885年の発表で、物語の舞台は1890年のパリ。書かれ
た時は近未来小説だったのかな? 退廃的なブルジョワジー
が支配する社交界を1人の男が生き抜いて行く。
主人公は、フランスによるアルジェリア派兵からの帰還兵だ
ったが、今は鉄道会社で安月給の身。夜のカフェに出向いて
もビール1杯を飲むのがやっとだ。そんな彼の周囲では男女
が狂乱を繰り広げていた。
そんなカフェで彼は戦友を見つけ、羽振りの良さそうな戦友
は、彼に金を与えて夜会に招く。その夜会で淑女たちに紹介
された主人公は、人生の転換点を見つけることになる。その
淑女たちの手引きで新たな道に乗り出した主人公は…。
古典文学の映画化なので、もっとシンプルな遍歴ものかと思
いきや、フランスのモロッコ派兵やマスコミによる政変の誘
導など、政治的な陰謀も絡んで、現代にも通じるところの多
い作品だった。
モーパッサンの作品は、中学で「首飾り」が教科書に載って
いたのを記憶している程度だが、検索したら同じ1885年発表
の作品だった。本作も同様のパリの社交界が背景だったもの
で、そんな記憶にも繋がる作品だ。

共演は、ユマ・サーマン、クリスティン・スコット=トーマ
ス、クリスティーナ・リッチ。いずれもジャンル映画にも登
場する現代映画のミューズたちが主人公を取り巻き、妖艶な
魅力を振りまいている。
他に、2003年11月5日付「東京国際映画祭」で紹介した『カ
レンダー・ガールズ』などのフィリップ・グレニスター、今
年7月紹介『声をかくす人』などのコルム・ミーニー、今年
キーラ・ナイトレイ主演で映画化された“Anna Karenina”
に出演の新星ホリデイ・グレンジャーらが脇を固めている。
監督は、1989年にロイヤル・ナショナル・シアターの共同監
督に就任し、これまでに3度のローレンス・オリヴィエ賞に
輝くデクラン・ドネランと、彼の長年のパートナーのニック
・オーメロッド。本作は彼らの映画進出第1作となる。

『さよならドビュッシー』
2009年の「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した中山
七里原作の映画化。
物語の主な舞台は資産家の邸宅。その邸宅で主人公の遥は、
幼くして両親を亡くした従姉妹のルシアと共に双子のように
育てられてきた。
そんな遥とルシアは同じ音楽学校でピアノを学んでいたが、
ルシアは亡き両親の業績を継ぐことを決心していた。そんな
ルシアに対していつかプロの演奏家になって、コンサートで
あなたのためにピアノを弾くと約束する遥だったが…。
その2人を悲劇が襲う。2人が離れの祖父の部屋を訪ねてい
た時に起きた火災で祖父とルシアは焼死、遥も全身に火傷を
負ったのだ。そして手にも障害を負った遥はピアノを弾くの
もままならなくなるが、遥にはルシアとの約束があった。
こうしてピアノを弾くためのリハビリが必要になった遥の前
に、司法試験にトップで合格しながらも、ピアノ講師の道を
選んだ岬洋介が現れる。その岬は独自のリハビリプログラム
を開始するが…。やがて遥が事件に巻き込まれる。
原作は「このミス」受賞ということだが、映画の展開は順当
なもので、謎解きも目新しくはない。というか、ミステリー
映画のファンならすぐに気が付いてしまうものだ。そこで僕
はクライマックスをどう盛り上げるかに注目した。
そのクライマックスは、正に映画的で見事な仕上がり。その
少し前からの演出も強力で、そこからエンディングに雪崩込
んで行く展開は、映画として目を見張るものになっている。
これは小説を超えて映画になっているものだ。

脚本と監督は俳優でもある利重剛。監督としては2002年以来
10年ぶりの作品のようだ。なお共同脚本として、テレビ『新
参者』などを手掛け、ミュージシャンでもある牧野圭祐が参
加している。
主演は、今年5月紹介『スープ〜生まれ変わりの物語〜』や
9月紹介『BUNGO』の一篇にも主演している橋本愛。
そして岬役には、テレビ『のだめカンタービレ』の玉木宏や
2006年12月紹介『神童』で松山ケンイチの演奏の吹き替えを
担当した清塚信也。本格的な演技はデビュー作のはずだが、
なかなかの演技力で良い雰囲気を出していた。
他にミッキー・カーチス、吉沢悠、柳憂怜、熊谷真実、相築
あきこ、戸田恵子、三ツ矢雄二らが脇を固めている。
クライマックスを含めてピアノ演奏が数多く聞ける作品で、
そこでは清塚の演奏も披露される。その中で僕にはリハビリ
曲として登場する「熊蜂の飛行」の、途中から打楽器の入る
アレンジが感動的で気に入った。

原作には続編もあるようだが、それも楽しみたいものだ。

『サイレント・ハウス』“Silent House”
今年11月紹介『レッド・ライト』と『マーサ、あるいはマー
シー・メイ』に続けて出演のエリザベス・オルセンが主演す
るサスペンス作品。
物語は、湖畔の邸宅に父娘がやって来るところから始まる。
その邸宅は廃屋というほどではないが、鼠が配線を齧ったと
かで屋内は手持ちのライトで照らすしかない。そして親子は
その邸宅の売却準備にやって来たようだ。
そこに父親の弟も現れ、地下の様子なども見るが、やがて弟
は立ち去り、親子は一夜をその邸宅で明かすための準備を始
める。ところがそこに階上から何者かのいる気配が伝わって
くる。さらに謎めいたポラロイド写真が散蒔かれる。
オリジナルはウルグアイで製作された作品で、本作はそのハ
リウッドリメイク。南米産のホラーサスペンスも何本か観て
いるが、特にスペイン語圏では需要があるのかな。ただし本
国のスペインで作られている作品ほどには、特に地域性が感
じられるものではない。もちろん本作はリメイクだが…。

共演は、2007年4月紹介『ゾディアック』に出演のアダム・
トレーズと、2009年11月紹介『ジュリー&ジュリア』に出演
のエリック・シェーファー・スティーヴンス。他に、ジュリ
ア・テイラー・ロスとヘイリー・マーフィという2人の若手
女優が出演している。
監督は、2003年の『オープン・ウォーター』が話題を呼んだ
クリス・ケンティスとローラ・ラウのコンビが担当。2人は
製作と脚本、撮影、編集も兼ねているようだ。ただし撮影監
督には、2009年4月紹介『マン・オン・ワイヤー』などを手
掛けたイゴール・マルティノヴィッチが参加している。
撮影はワンテイク風に作られているが、同様のオリジナルも
撮影には4日間かけられているそうで、本作ではさらに明確
に編集点は判る。制作者もそれは意図していないのだろう。
その点は2008年12月紹介『PVC−1[余命85分]』など
と異なるものだ。
しかし本作でも、主人公の動きなどはかなりの長回しで、し
かも照明は手持ちのライトだけという状況。これには長回し
だけでないヴィデオカメラの特性も活かされている。因に、
撮影はCanon EOS 5D Mark IIで行われており、これは2010年
製作のオリジナル“La casa muda”と同じのようだ。

なお本作は、2013年3月2日から東京渋谷のヒューマントラ
ストシネマにて開催される「渋谷ミッドナイト・マッドネス
2013」の1本として上映されるもので、作品は全部で6本、
残りも順次紹介する予定だ。

『カルメン故郷に帰る』
1951年製作、木下恵介監督による日本初の総天然色映画が、
木下監督生誕100周年を期してディジタルリマスターされ、
Blu-ray及びDVDで発売される作品を特別上映会で観させ
て貰った。
物語は、浅間山を臨む信州の山村に、東京に出て行った娘が
帰ってくるというもの。その娘は東京で芸術家をして成功を
収めているというのだが…。
その実はストリッパー。当時はストリップを芸術と呼ぶ風潮
もあったから、ちょっと頭の弱い彼女はそんな風潮にも乗せ
られているのだろう。従って彼女に悪気はない。
しかし素朴な村の人たちにとってこれは大問題。最初は芸術
と聞かされて帰郷を応援していた小学校の校長も、その実態
を知って戸惑うことになる。そんなすったもんだが、信州の
大自然を背景に描かれる。
まあお話は他愛ないが、当時の世相や素朴な人々の心情など
も巧みに捉えられていて、さすが木下恵介作品という感じの
ものだ。そこには今は失われつつある良き時代の姿も、数多
く描かれている。
また映画の最初を最後には、1962年に全線廃線となった草軽
電鉄に主人公らが乗っているシーンが登場し、35mmカラーで
撮影された動態の姿は、鉄道マニアにはかなり貴重なものに
もなっている。

出演は、高峰秀子、小林トシ子、井川邦子、佐野周二、佐田
啓二、笠智衆。脚本も木下恵介が執筆し、音楽には黛敏郎と
木下忠司。また助監督には小林正樹、松山善三らの名前が並
んでいた。
作品は、かなり以前にテレビ放映で観ているが、ディジタル
上映とはいえスクリーンで観るのはまた格別のものだ。その
映像は鮮明で、色彩も極めて鮮やかだった。また音声も一部
を除いてノイズも少なくクリアに聞くことができた。
古き良き時代の作品だが、ノスタルジーだけではない、今の
時代にも通じるものも感じられる作品だ。

なお上映会では、特典映像となる『我が師に捧ぐ』と題され
たドキュメンタリーも上映された。
この作品は今回のリマスター版に向けた新予告編を制作する
本木克英監督が、師匠である木下監督の姿を追ったもので、
中では監督の実弟である作曲家の木下忠司氏に、『カルメン
…』に2人の音楽家が参加した経緯を聞いているなど、貴重
な証言も含まれていた。

『アルバート氏の人生』“Albert Nobbs”
2011年11月30日付「東京国際映画祭」で紹介の『アルバート
・ノッブス』が標記の邦題で一般公開されることになり、改
めてマスコミ試写を鑑賞した。
物語の舞台は、19世紀のアイルランド・ダブリン。その街の
ホテルに務めるアルバートは目当ての客も多く訪れる人気者
だったが、そのアルバートには人に言えない秘密があった。
それはその実体が女性であったということ。その時代に幼く
して親を失った女性が1人で生きて行くためには、「男性」
になるしか途はなかったのだ。
そんなアルバートに危機が訪れる。ホテルの改修に来たハン
サムなペンキ職人が、女主人の命令でアルバートの部屋に泊
まることになったのだ。しかし自らの実体が主人に知れると
首になると危惧したアルバートは、寝床にも気を使って潜り
込むのだが…。その行動がアルバートの人生に大きな転機を
もたらすことになる。
その一方でアルバートは、将来の夢のために自室の床下に小
金を貯め込んでいた。そしてその金額は夢の実現にあと一歩
と近づいていたが、そこにもある転機が訪れてしまう。

出演は、本作で第24回東京国際映画祭の最優秀女優賞を獲得
したグレン・クローズ。本作では脚本と製作も兼ねている。
他に、今年9月紹介『ウーマン・イン・ブラック亡霊の館』
などのジャネット・マクティア、2010年3月紹介『アリス・
イン・ワンダーランド』などのミア・ワシコウスカ。さらに
2010年10月紹介『キック★アス』のアーロン・ジョンスン、
『ハリー・ポッター』シリーズのマッド・アイ・ムーディ=
ブレンダン・グリースンらが脇を固めている。
監督は、2008年12月紹介『パッセンジャーズ』などのロドリ
ゴ・ガルシア。脚本にはクローズの他に、1991年のクローズ
主演作『ミーティング・ヴィーナス』などのガブルエラ・プ
レコップと、アイルランド出身のブッカー賞受賞作家ジョン
・バンヴィルも参加している。
なお本作は昨年の米アカデミー賞で主演女優賞と助演女優賞
の候補(他にメイクアップ賞も)になったが、いずれも受賞
は逸している。また、東京国際映画祭ではクローズが最優秀
女優賞を獲得しているが、僕は今回見直した上でもマクティ
アの演技の方が素晴らしいと思ったものだ。


『君と歩く世界』“De rouille et d'os”
2007年7月紹介『エディット・ピアフ 愛の讃歌』で米アカ
デミー賞主演女優賞に輝いたマリオン・コティアールの主演
による人間ドラマ。
1人目の主人公は幼い息子を連れて放浪する男性。金もなく
他人の食べ残しを漁ったり、カッパライをするなどして何と
か姉の家に辿り着いた男は、屈強な身体とムエタイの心得を
活かして闇の格闘技場で体を張ることになる。
もう1人の主人公は、同じ町のマリンランドでシャチの調教
師だった女性。しかし予期せぬ事故で彼女は両足の膝から下
を失ってしまう。そんな失意から立ち直れない女性がふとし
たことで先の男性との付き合いを始めるが…
いやあ、何とも作り物めいたお話だが、元々の原作は同じ作
家による2篇の短編小説だったそうで、その両足を失った調
教師の話とアンダーグラウンドの格闘家の話を映画用に纏め
たのだそうだ。
従って2人の恋愛関係などは原作にはないもの(原作の調教
師は男性だそうだ)だが、その辺を結構巧みに作っているの
が本作の面白いところだ。しかもその2つの原作のお話を、
映画では両方とも取り入れているのだから…。まあ普通なら
絶対に有り得ない大変な展開となっている。それもまた面白
いと言える作品だった。
それに事故後の調教師の両足が、これは見事なVFXで消去
されており、さらに義足になってからの姿も、それは見事な
CGIで表現されていた。両足のない人物というと、1994年
『フォレスト・ガンプ』のヴェトナム帰還兵の姿が当時は驚
きだったが、今や普通に出来てしまうようだ。

共演は、2009年10月紹介『ロフト.』に出演のマティアス・
スーナーツ。本作ではヴァリャドリッド国際映画祭の最優秀
男優賞を受賞したそうだ。他に、2010年11月紹介『ヒアアフ
ター』などのセリーヌ・サレット、今年6月10日付「フラン
ス映画祭2012」で紹介した『スリープレス・ナイト』などの
ジャン=ミシェル・コレイアらが脇を固めている。
脚本と監督は、2005年7月紹介『真夜中のピアニスト』など
のジャック・オディアール。また脚本には、2009年にオディ
アール監督がカンヌ映画祭の審査員特別グランプリを受賞し
た『預言者』にも参加のトーマス・ビデガンが名を連ねて、
見事な脚色を仕上げている。
因に、原作者のクレイグ・デイヴィッドスンはカナダ出身。
原作は2005年の発表だが、処女作は“The Preserve”という
ホラー小説だったそうだ。

『チチを撮りに』
今年7月に紹介した『DON'T STOP』と同じくSKIPシティ国際
Dシネマ映画祭にエントリーされ、その支援の許で一般公開
されるSKIPシティDシネマプロジェクトの第3弾。
前の紹介作品はドキュメンタリーだったが、今回はドラマ。
母親と2人娘の母子家庭に、14年前に家出した父親が病床で
余命もわずかになったとの報らせが届き、母親の指示で娘た
ちが見舞いに向かうことになるが…
物語は、その報せの届く少し前から始まって、娘2人の紹介
などが実に手際よく描かれる。そして母親から事情が告げら
れ、愛人を作って家を出た元夫に会いたくない母親は、娘た
ちに病床の父の顔を撮ってくるようカメラを託す。
こうして娘たちの旅が始まるが、不在に慣れた2人には父親
の影は希薄のようだ。それでも父親を覚えている姉と覚えて
いない妹との会話からは、それまでの母子が辿ってきた生活
が描かれ、さらに様々なドラマが展開されて行く。
上映時間は1時間14分で、小品と呼ぶべき作品だが、描かれ
ている内容は意外と奥深くて、登場人物たちの性格付けなど
も行き届き、なかなかの秀作に仕上がっていた。実際に次の
試写に向かう途中の会話でも高評価の声が多かった。
それに巧みに張り巡らされた伏線も、思わず笑みが浮かんだ
り、納得できたりしたものだ。

出演は、姉役を2007年4月紹介『天然コケッコー』などの柳
英里紗と、妹役には2008年7月紹介『ブタがいた教室』に出
ていた松原菜野花、そして母親役を今年11月紹介『タリウム
少女のプログラム』などの渡辺真起子が演じている。
他に、昨年3月紹介『それでも花は咲いていく』などの滝藤
賢一、2007年1月紹介『バベル』に出演の二階堂智、2010年
8月紹介『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』に出ていた
子役の小林海人らが脇を固めている。
脚本と監督は、2008年文化庁若手映画作家育成プロジェクト
に選出された中野量太。本作は、短編作品ではすでに数多く
の賞を受賞している新鋭監督の劇場デビュー作となる。
なお本作は、今年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で、日本
人監督では2004年の映画祭発足以来の初となる長編部門国際
コンペティション監督賞と、今後の可能性を期待させる国内
作品に贈られるSKIPシティアワードをダブル受賞し、今回の
SKIPシティDシネマプロジェクトに選出された。

『PARKER/パーカー』“Parker”
1990年の『グリフターズ/詐欺師たち』で米アカデミー賞脚
色賞の候補になったこともあるミステリー作家ドナルド・E
・ウェストレイクが、リチャード・スターク名義で発表した
「悪党パーカー」シリーズからの映画化。
なお、1962年にスタートした原作シリーズからは、第1作の
“The Hunter”に基づく1967年『殺しの分け前/ポイント・
ブランク』など複数の映画化があるが、本作は1997年に再開
された新シリーズの中で2000年に発表された“Flashfire”
に基づくものだ。
物語の始まりは、オハイオ・ステートフェア。大金の集まる
会場を4人組の男と襲ったパーカーは、手際良く150万ドル
の札束を奪い、逃走車を乗り換えて追っ手を撒くことにも成
功する。
ところがその逃走の車中で、4人組はさらなる大金の掛かる
次の仕事の話を切り出し、今回の金はその準備に当てると言
い出す。そしてその話に乗らないパーカーは車から突き落と
され、さらに止めの銃弾を打ち込まれてしまう。
しかし悪運強く生き残ったパーカーは、収容された病院を抜
け出し、恋人の許で体力の回復を図りつつ報復の計画を練り
始める。そして4人組の次なる計画がパームビーチと目星を
つけたパーカーは資産家を装って現地に赴き、不動産営業の
女性を使ってそのアジトを探り出す。
こうしてそのアジトと計画を見破ったパーカーは報復の計画
を進めるが、その4人組の1人には危険な後ろ盾のついてい
ることが判明してくる。しかし報復を諦めないパーカーは…

出演は、パーカー役にジェイスン・ステイサムが扮する他、
ジェニファー・ロペス、ニック・ノルティ。さらに今年7月
紹介『WIN WIN』などのボビー・カナヴェイル、映画「ファ
ンタスティック・フォー」シリーズでザ・シング役を演じる
マイクル・チクリスらが脇を固めている。
監督は、2000年『プルーフ・オブ・ライフ』などのテイラー
・ハックフォード。脚本は、昨年1月紹介『ブラック・スワ
ン』を手掛けたジョン・マクラフリンが担当している。
小説は非情な主人公のハードボイルドだと思うが、映画化は
ステイサムが主演のアクション作品。その辺が原作の読者に
どう受け取られるかは気になるところだが。おそらく現状で
はアクションスターのNo.1とも言えるステイサムのファンに
は、充分に満足してもらえる作品に仕上げられている。

この作品も、シリーズ化を期待したいものだ。



2012年12月16日(日) サイド・バイ・S、ひまわりと子犬の…、悪人に平穏なし、次郎は鮨の…、さなぎ、エンド・オブ・ザ・W、ジャッジ・D、いのちがいちばん…

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『サイド・バイ・サイド』“Side by Side”
俳優キアヌ・リーヴスの企画製作で、ディジタル化の進む映
画界の現状とその問題点などを探ったドキュメンタリー。
作品では最初に映画の簡単な歴史が紹介され、次いで1969年
ベル研究所でのCCDの開発から、1984年ルーカスフィルム
でのエディットドロイド開発。さらに1995年デンマークのラ
ース・フォン・トリアーが興した映画運動「ドグマ95」に
おけるヴィデオ撮影への挑戦などが前史として描かれる。
そして2000年、全編にディジタル補正の施された『オー・ブ
ラザー!』の製作と、HDヴィデオで撮影した『SWクロー
ンの攻撃』の公開、さらにディジタル・カメラで撮影された
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のパルムドール受賞が同時
に起き、ディジタル化の波は一気に押し寄せることになる。
ただまあ、僕自身の個人的には、以前の職場の関係でソニー
のHDカメラの開発などは比較的近い位置で見ていたし、こ
の辺の経緯は目新しいものではなかった。しかしそれがフォ
ン・トリアーやジョージ・ルーカスらの口から直接聞けるの
は、正に実感として伝わるものだ。
そしてここからは、マーティン・スコセッシ、ジェームズ・
キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、デヴィッド・リン
チ、スティーヴン・ソダーバーグ、ラナ&アンディ・ウォッ
シャウスキー、ダニー・ボイル、ロバート・ロドリゲス、リ
チャード・リンクレイター、レナ・ダナムらがディジタルの
効用を語る一方で、クリストファー・ノーラン、バリー・レ
ヴィンスンらのフィルム派の意見も紹介される。
さらに撮影監督や編集、技術スタッフ、機材メーカーまで、
ディジタルを取り囲む実に多方面の人々に取材が行われてい
る。それは特に著名監督にはその姿が観られるだけでも楽し
いものだし、その話している内容も実に平易で解り易く描か
れているものだ。
ただ例えばディジタル補正(DI=Digital Intermediate)
に関しては、カラーリングについては多く語られているが、
僕自身が以前にイマジカで観せて貰った補正は、もっと多様
なものだったし、さらにCGIについてももっと突っ込んで
貰いたかった。
それにフィルムとディジタルの違いについては、一言フィル
ムの粒子性という言葉で片付けられているが、実際には量子
化エラーの問題など、ディジタルの問題点にももっと詳しい
解説が欲しかった。

とは言え本作は、フィルムとディジタルの現状を解り易く説
明していることでは有用な作品で、映画ファンには是非とも
観ておいて欲しい作品だ。

『ひまわりと子犬の7日間』
宮崎県を舞台に、保健所に収容された保護犬の実情と、譲渡
推進協働事業の実現を描いた実話に基く作品。
主人公は、保健所の動物保護管理所に勤務する男性。5年前
に妻を交通事故で亡くし、母親との同居で小学生の娘と息子
を育てている。そしてその子供たちには、保護された犬の引
き取り手を捜す手伝いをして貰っているが、自らの仕事の実
態は話すことができなかった。
そんなある日、野犬が畑を荒らしているとの通報で主人公は
先輩及び後輩の同僚2人と共にその保護に向かうのだが…。
そこにいたのは幼い3匹の子犬を持つ母犬。その母犬には、
優しい飼い主の許を離され、人間の都合で野犬にさせられた
過去があった。
こうして保護された野犬には、7日間の収容期間の内に譲渡
先が見つからないと処分という決まりがあった。しかし主人
公が特別に20日間に伸ばした収容期間の終りに近づいても、
人間不信に陥った母犬は従順さを見せなかった。そして長女
は、父親のしている仕事の真相を知ることになる。
結末は…まあかなり甘いものだが、一応は実話に基いている
もののようだ。ただその中にかなり厳しい現実も明確に示さ
れていて、それは観ているものにも突き付けられる。その現
実は、子犬の映像の可愛らしさだけに惹かれて観に行った観
客には、かなりショックになるものかもしれない。
そんな現実もしっかり伝える作品になっていた。

出演は、堺雅人、中谷美紀、でんでん、お笑いコンビ「オー
ドリー」の若林正恭、吉行和子。他に夏八木勲、草村礼子、
左時枝、檀れい、子役の近藤里沙、藤本哉汰、そして小林稔
侍らが脇を固めている。
脚本と監督は、山田洋次監督1993年『学校』に参加以降、山
田組の助監督を務め、脚本も手掛けて2006年9月紹介『武士
の一分』などで日本アカデミー賞脚本賞も受賞している平松
恵美子。監督はデビュー作のようだ。なお脚本は、2007年に
「奇跡の母子犬」という動画を配信して話題になった宮崎県
の動物保護活動家・山下由美の原作に基いている。
もちろん本作でも救われるのはひまわりの母子犬だけで、そ
の生き長らえる20日の間にも次々に処分は行われている訳だ
が、プレス資料によると、平成21年度と22年度の統計で犬の
収容数に対する返還・譲渡率は少し伸びているそうで、本作
に登場する人たちの活動は少しずつ報われているようだ。


『悪人に平穏なし』“No habrá paz para los malvados”
2012年のゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞)で作品、監督、
主演男優など主要6部門の受賞に輝いた現代スペインが舞台
のフィルム・ノアール作品。
主人公は荒んだ雰囲気の男性。その男性は深夜のマドリード
を彷徨した末にとある閉店後のバーに入り込む。そして警官
バッジを振りかざして酒を要求した挙句に、ふとしたことか
ら発砲し、店主と従業員を射殺してしまう。
ところが証拠隠滅のため、防犯カメラの映像をチェックした
男性は彼の犯行に目撃者のいたことを知る。そしてその目撃
者の跡を追い始めた男性は、その陰に潜む巨大な陰謀を追う
ことになってしまうが…。
一方、警察は周囲の映像から犯人がその男性であることを疑
い始めていた。

脚本と監督は、1999年ロマン・ポランスキー監督、ジョニー
・デップ主演で映画化された『ナインスゲート』の脚本にも
起用されたエンリケ・ウルピス。また本作で主演賞を受賞し
たホセ・コロナドは、1987年から多くの映画に出演するベテ
ラン脇役のようだ。
本作の物語は、2004年にマドリードで発生し、191人の死者
を出した同時多発テロ事件からインスパイアされたものとの
こと。ただし監督の言によると、その事件の真相は未だ当局
からは明らかにしていないのだそうで、本作はそんな事件の
謎も追求する作品になっているようだ。
それで映画を観ていると、主人公の男性の立場が今一つ明確
でない感じで、偶然に事件に遭遇するというのは何とも釈然
としない。むしろ確信的に事件に入り込んでいっているよう
にも見えるが、その辺は脚本も執筆した監督自身がぼやかし
ているようにも取れる。それも微妙な作品だ。
とは言え、深夜のマドリードの風景からクライマックスの壮
絶な銃撃戦とその結末。さらに最後に映される映像が示す真
の意味など、その描くものの深さは尋常ではない作品のよう
にも感じられる。これはスペインの観客が観たら僕ら以上に
いろいろなことを考えてしまう作品なのだろう。
少なくともテロ事件は起きたのだから。


『次郎は鮨の夢を見る』“Jiro Dreams of Sushi”
ミシュランガイド東京にて6年連続三つ星を獲得し、87歳で
現役、「世界最高齢の三ツ星シェフ」としてギネスにも登録
されている東京数寄屋橋の鮨店「すきやばし次郎」の店主・
小野二郎の姿を追ったドキュメンタリー。
店主は1925年の静岡県生まれ、7歳の時に地元の料理店で奉
公を始め、その後に東京に出て26歳で鮨職人となり、40歳で
独立して「すきやばし次郎」を開店。江戸前鮨の伝統に新風
を吹き込んだ独創性で、1994年にはヘラルド・トリビューン
誌で世界のレストラン第6位に選出され、2005年に厚労省の
「現代の名工」として表彰。2007年ミシュランガイド東京で
三つ星を獲得、以来6年間その地位を保っている。
本作はその店主の姿を、1983年ニューヨーク生まれ、南カリ
フォルニア大学映画製作課程卒業で、2008年8月紹介『ブラ
インドネス』の制作過程を追ったテレビドキュメンタリーが
高評価を得たというデヴィッド・ゲルプが、長編デビュー作
として捉えている。
その作品では、料理評論家・山本益博の解説インタヴューを
交えて江戸前鮨を築地での仕入れから仕込みの様子など食客
に提供するまでの過程を追うと共に、その完成された鮨の美
しさなども堪能させてくれる。さらにミュシュランガイドに
選出された際の受賞式の様子なども紹介されている。
その一方で、父親の跡を継ぐ2人の息子の姿も紹介し、数寄
屋橋で2代目店主となる長男と、六本木に独立して店を構え
る次男の微妙な立場なども描かれる。因にゲルプ監督は父親
がメトロポリタン・オペラの総帥であるピーター・ゲルプ、
兄も映画監督とのことで、作品にはそんな監督自身の思いも
反映されているようだ。
なお試写会では、言わずもがなのところが多いとか、肝心な
ところが説明されていないなどと注文をつけている評論家ら
しき人物がいたが、料理の専門家でない僕等には実に解りや
すく、カタログ的に登場する鮨の姿などにも美しさを感じら
れたものだ。
もちろん藁で焼いてたたきを造るシーンなどは解説があって
もいいかとも思うが、鮨を全く知らない人たちに観せるには
これで充分だし、かえってウザい解説など不要な、正に鮨の
美しさが堪能できる作品だった。


『さなぎ』
2008年発表の『空とコムローイ〜タイ、コンティップ村の子
どもたち』という作品で、京都国際子ども映画祭長編部門の
グランプリを獲得している三浦淳子監督が、小学1年生の時
から不登校になっている少女の姿を、14年間に亙って追った
ドキュメンタリー。
作品の始まりで少女はすでに小学3年生になっていて、それ
までにあったのであろう様々な出来事は、登場する母親らの
発言のみとなっている。その辺が本当はよりドラマティック
であったかもしれないが、本作ではあえてそれは追わずに、
そこからの少女の立ち直りに重点が置かれている。
因に不登校の理由はいじめとかによるものではなく、原因は
不明。ただ素人目に見て、この少女は精神年齢が高かったの
だろうとは思う。それが多分周囲の子供たちと合わなくて、
頭痛などの症状を生み出していったのではないのかな。画面
を見ていてふとそんな感じがした。
しかし作品ではそのような原因の追求などもせず。少女の成
長の中で徐々に彼女自身が変って行く様子が撮されている。
それは試写会の後で行われたQ&Aの中で、監督は「遊んで
いるのを写しただけ」と答えていたが、それが見事にその成
長も捉えているものだ。
そしてその成長を促した学校や、家族・両親らの努力を巧み
に捉えた作品にもなっている。ただし、その部分の描き方も
間接的で、もっと具体的にその方策なども示して欲しかった
感じもするが、本作はそのような教育論が目的の作品ではな
い。
そんなまあちょっと回りくどい感じの作品ではあるが、現在
全国に12万人の小中学生が不登校になっているという現実を
考えると、この作品に描かれた様々なヒントが、きっとその
家族や先生方の役に立つと思われる作品。特に全国の先生方
には観て貰いたいものだ。
そしてそれは、原因追求などをセンセーショナルに描くより
も、正しく描かれた作品になっていると思えるし、それが何
よりの本作の価値であるとも感じられた。
なお作品は、少女が大学生になっている現在まで取材されて
おり、最後には少女自身の言葉で過去が振り返られている。
そこでもあえて細かいことは追求されないが、その全てが現
在の子供たちの置かれた状況を描いている作品のようにも思
われた。


『エンド・オブ・ザ・ワールド』
“Seeking a Friend for the End of the World”
2008年7月紹介『ゲット・スマート』などのスティーヴ・カ
レルと、2010年12月紹介『わたしを離さないで』などのキー
ラ・ナイトレイの共演で、世界の終わりを迎えた人々の姿を
描いた作品。
映画の最初で、小惑星の破壊に向ったスペースシャトルが爆
発したとの報道が伝えられる。つまりこれは、1998年の『ア
ルマゲドン』でブルース・ウィリスらの作戦が失敗に終った
世界の物語。人類はただ最後の日を迎えるだけとなり、街で
は略奪や暴動が続き、少し理性のある人々も最後のパーティ
で酒やドラッグに溺れている。
そんな中で主人公は、突然最愛だと思っていた妻に去られ、
乱痴気騒ぎの続く世間から取り残された存在となる。ところ
がそんな主人公の前に、イギリスからやってきて帰国できる
最後の飛行機に乗り遅れてしまった若い女性が現れる。その
女性は最後に聞きたいというヴィニール盤のレコードを抱え
て途方に暮れていた。
そこで主人公は意を決して女性にある提案をし、2人で目的
地に向う旅を開始することになるが…。2人の前に最後の時
を迎えた人々の様々な姿が繰り広げられて行く。
終末世界の描き方は、まあ予想通りというか、あまり目新し
い感じのものではないが、主役の2人を演じるカレルとナイ
トレイの雰囲気が素晴らしくて、もしこういう事態に陥って
最後の時を迎えるなら、こんなであって欲しいと想いたくな
るものになっていた。

脚本と監督は、2010年2月紹介『ローラーガールズ・ダイア
リー』に楽曲を提供したこともあるというローリーン・スカ
ファリア。脚本が映画化されるのは2作目ということで、本
作は監督デビュー作品でもある。
共演は、今年7月紹介『WIN WIN』などのメラニー・リンス
キー、2010年5月紹介『エルム街の悪夢』などのコニー・ブ
リットン、2009年“Jennifer's Body”などのアダム・ブリ
ットン。そしてマーティン・シーン、カレル夫人のナンシー
・カレルらが脇を固めている。
それにしても今年は、昨年12月紹介『メランコリア』に始ま
って、9月紹介『4:44地球最期の日』など、地球最後の
日を扱った作品が相次いだが、マヤ暦の終る2012年というこ
とで、映画界にはそんなムードも高まっていたのかな?
なお、9月紹介の作品と本作とには共通する展開もいくつか
見られるが、比較してみるとその微妙な違いも面白く感じら
れるものだ。


『ジャッジ・ドレッド』“Dredd”
1995年にシルヴェスター・スタローンの主演で映画化された
ブリティッシュ・コミックスのreboot映画化。
95年の作品は、実は予備知識なしに観ていてスタローンの役
柄が善人なのか悪人なのかもわからず、多少混乱してストー
リーが理解しきれなかった印象がある。まあそれで一般的な
評価も芳しくなく、シリーズ化も叶わなかったものだ。
そんな作品のrebootだが、今回は予備知識もあったしストー
リー展開も明確で、なるほど新時代のコミックス・ヒーロー
という感じの作品に仕上げられていた。なお原作は1977年に
イギリスでスタートし、後にDCコミックスにも登場したも
のだそうだ。
その物語は、核戦争後のアメリカ東部海岸の一帯に立ち並ぶ
高層ビル群メガシティ・ワンが舞台。凶悪犯罪の多発で逮捕
・裁判などの手続きが間に合わなくなった社会は、警察と裁
判所を融合させた組織を作り、そこに所属するジャッジと呼
ばれるエリートたちに捜査から逮捕、判決、刑の執行までを
可能とさせた。
そんな中で主人公のジャッジ・ドレッドは、正義の許に妥協
を許さず、刑の執行も躊躇しない不屈の司法官だった。そし
て物語は、その日も犯罪者に正義の鉄槌を下したドレッドが
裁判所に呼び出されるところから始まる。
そこにいたのは、ちょっとひ弱な感じの女性司法官。実は体
力テストなども不合格な彼女だったが、彼女にはある超能力
が備わっていた。そしてドレッドに最終テストが依頼され、
彼はその日の任務に彼女を同行させることになる。
ところがその任務は、75000人の住民の暮らす200階建ての超
高層アパートの捜索。しかもそのビルはママと呼ばれるボス
によって完全に支配されていた。そんな中でママの右腕の男
を逮捕したドレッドらは男を連行しようするが、突然ビルの
出入り口が閉鎖され、閉じ込められた2人は大半の住民を敵
として血路を開かなければならなくなる。

出演は、95年作と同様に顔はほとんど見えない主人公を、昨
年7月紹介『プリースト』などのカール・アーバン。共演は
今年10月紹介『ダーケストアワー・消滅』などのオリヴィア
・サールビー。そして2008年10月紹介『サラ・コナー/クロ
ニクルズ』などのレナ・ヘディらが脇を固めている。
脚本は2003年6月紹介『28日後...』などのアレックス・ガ
ーランド、監督は2008年2月紹介『バンテージ・ポイント』
などのピート・トラヴィスが担当した。
お話は、今年8月紹介『ザ・レイド』も似た感じだったが、
圧倒的な敵と戦うシチュエーションは正しく同様のものだ。
そして敵側の状況にも似通ったところがあって、その辺はま
あ仕方ないかなあというところ。ただし本作ではさらにそれ
を上回るVFXなどの仕掛けも満載で、その点では楽しめる
作品になっている。


『いのちがいちばん輝く日』
副題に「あるホスピス病棟の40日」と付けられた終末医療の
現場を写したドキュメンタリー作品。
今年は僕自身の周囲にも多少いろいろなことがあって、個人
的には観るのが少し辛い作品ではあった。しかし人間の死と
いうのは避けられないものではあるし、全ての人間がいつか
この状況に至ることを考えると、自分自身や周囲の者のため
にも、このような事を見据えて準備しておくことも大事だと
思える作品だった。
作品が撮影されたのは、滋賀県近江八幡市でメンソレータム
の近江兄弟社が運営するヴォーリズ記念病院。1918年に結核
診療所として開設され、2000年に現体制となった総合病院の
一角に、2006年終末医療を行う「希望館」が開設された。作
品は、その「希望館」に2011年12月から40日間カメラを持ち
込んで制作されている。
ただし本作の制作には病院側や入院患者の理解はもちろん、
撮影スタッフたちにも相当の知識や体験が要求され、そのた
め本作の撮影に当っては撮影スタッフから2名がケア記録係
という資格でグループケアに参加するなどの処置が採られて
いるそうだ。
さらに撮影開始の2週間前からホスピス病棟に出入りし、そ
こでは職員と同じ名札をつけて、朝礼や午後は看護スタッフ
のミーティングへの参加。さらに診療への立会いなどの業務
をこなし、こうした準備を経ての撮影となっている。
そしてその中で、12月半ばには撮影の趣旨に賛同して協力を
了解してくれた患者一家が現れ、その一家を軸に作品は構築
されている。それにしてもこの患者は、終末医療を受けてい
る状況でも、新生児の孫に会うための東京旅行を敢行し、ま
さに劇的な姿を見せてくれるものだ。
その他にも終末医療を受けることで、限定的ではあるにせよ
回復を見せる患者など、希望を失わないことが如何に人間の
状態を変化させるものか、そんな奇跡的な映像にも溢れた作
品になっている。

監督は、以前には教育映画やテレビ番組、企業のPR映像な
どを制作していた溝渕雅幸。本作が劇場用作品の第1作で、
次回作では小児ホスピスや、在宅ホスピスなどの現状を描き
たいそうだ。



2012年12月09日(日) 奪命金、ホビット、王になった男、キャビン、ブレイキング・ドーン、クラウド・アトラス、レ・ミゼラブル、ライフ・オブ・パイ

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『奪命金』“奪命金”
2010年3月紹介『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』などのジ
ョニー・トー脚本・監督による2011年作品。本作は、香港電
影金像奨で助演男優賞と助演女優賞、台湾金馬奨では作品賞
と主演男優賞、オリジナル脚本賞に輝いている。
登場するのは香港警察の警部補と、銀行の金融商品営業担当
者の女性、それに好漢で人望も厚いヤクザの兄貴分。そんな
3人が、ギリシャの債務危機に始まるヨーロッパ金融市場の
混乱の中、それぞれ金にまつわる騒ぎに巻き込まれる。
宣伝コピーには金融サスペンスとあるが、金融市場のカラク
リみたいなものではなくて、もっと気楽に楽しめる分かり易
いサスペンス作品になっている。
ただまあ映画の中では殺人なども起きるし、かなり暴力的な
シーンもあって、その辺は香港ノワール的な味わいもたっぷ
りの作品。それでも主人公たちにはそれなりの幸運がもたら
されるという、香港映画らしい作品になっている。

出演は、2010年11月紹介『MAD探偵〜7人の容疑者』など
のラウ・チンワン、今年3月紹介『女ドラゴンと怒りの未亡
人軍団』などのリッチー・レン、それに2003年『ジェイ・チ
ョウを探して』などのデニス・ホー。
他に、昨年4月紹介『ドリームホーム』などのロー・ホイパ
ン、2002年12月紹介『カルマ』などのソー・ハンシェン、香
港TVの人気アイドルで本格的な映画出演は初となるミョー
リー・ウーらが脇を固めている。
金融絡みの香港作品では、以前にもそのカラクリを利用した
詐欺事件を描いたアクション映画があったが、実はその映画
ではカラクリが明確には把握できなくて、物語の全容が掴め
ず弱ったものだ。
それに対して本作で描かれるヨーロッパ金融市場の混乱など
は現実に起きた出来事ではあるし、それに便乗した金融の動
きなどはそれなりに理解もできた。と言ってもホイパンの絡
むエピソードは今一つ解っていないのだが…。
しかし本作では、そのカラクリは別として人間ドラマが巧み
に描かれており、それは純粋に楽しめる作品となっている。

さすがジョニー・トーの作品という感じだし、オリジナル脚
本賞も伊達ではないという感じだった。

『ホビット・思いがけない冒険』
“The Hobbit: An Unexpected Journey”
ピーター・ジャクスン監督による『LOTR』の前日譚『ホ
ビット』三部作の第1弾。これから2年半に亙って公開され
るシリーズがついに開幕した。
元の『LOTR』は原作から三部作だったが、『ホビット』
の原作は1冊だけ。しかし今回の映画化に当っては、原作者
JRR・トーキンが『LOTR』の巻末の残した設定に基づ
き、それを設計図としてトーキン自身が『ホビットの冒険』
の裏に思い描いていた世界が構築される。そしてそれは『指
輪物語』の世界に繋がって行くものだ。
その映画の始まりは…。いやあ、映画は最初から仕掛けが満
載で、これはもう観て楽しんでいただく他はない。それに物
語の多くは、原作の『ホビットの冒険』には描かれていない
から、原作を読んでいても「ええ、そんな話があったの?」
と驚くことしきりの作品だった。
もちろん、ビルボとゴラムの件など原作の通りのシーンが中
心に描かれているが、そこに次々に知らない話も登場する。
一方、原作にもあるオークの襲撃の件は、後の『LOTR』
にも繋がって行くもの。そんな多方面に繋がる物語が巧みに
構築されている。

出演は、イアン・マッケラン、今年5月紹介『SHERLOCK』で
ワトスンを演じていたマーティン・フリーマン。他に、昨年
8月紹介『キャプテン・アメリカ』などのリチャード・アー
ミティッジ、12月紹介『英雄の証明』などのジェイムズ・ネ
スビット。
さらにケイト・ブランシェット、イアン・ホルム、クリスト
ファー・リー、ヒューゴ・ウィーヴィング、イライジャ・ウ
ッド、アンディ・サーキスらが『LOTR』と同じ役柄で登
場する。なおサーキスは第2班監督も務めていたようだ。
ジャクスンは監督と脚本・製作も担当しているが、脚本には
『LOTR』のフラン・ウォルシュとフィリッパ・ボウエン
の他、一時は監督も予定されていたギレルモ・デル・トロの
名前も加えられていた。デル・トロにはプロダクション・コ
ンサルタントという肩書きも付けられていた。
なお撮影は、商業映画では初となる毎秒48フレームで行われ
ており、3D上映の一部ではハイフレームレート(HFR)
3D方式も採用される。因に完成披露試写はこの方式で行わ
れたが、確かに映像は緻密だったようだ。

『王になった男』“광해, 왕이 된 남자”
李氏朝鮮王朝の第15代国王であり、暴君として廃位されたと
いう光海君を、2004年10月紹介『誰にでも秘密がある』など
のイ・ビョンホンの主演で描いた作品。なお本作は、イ初の
王朝時代劇ということでも話題のようだ。
時代は17世紀。海を越えて来襲した豊臣軍との戦いで武勲を
上げた光海君は、前王の庶子であり次男という身分であった
が王位に着く。しかし嫡流を重んじる朝廷内では大北派と西
人派が対立し、大北派を支持する光海君は西人派を粛清して
王位を磐石なものとする。
だがその行為は、彼を暴君と言わしめることになる。そして
それでも西人派の報復を恐れる光海君は、ある手段を講じて
その攻撃をかわそうとするのだが…。
その一方で光海君は、江戸幕府との和議を結んだり、大同法
を導入するなどの改革を行い、戦乱で疲弊した国内の建て直
しを図る。また明と後金の双方との外交関係を維持する中立
外交政策を採るなど、国内の安定化を推進。このため現代で
は再評価も行われているようだ。
しかしその暴君と、民政・外交への貢献の二面性がなぜ生じ
たのか、光海君の日記に残された「隠すべきことは、残すべ
からず」の一文を基に、その「隠すべきこと」を巡って大胆
な仮説が構築される。

共演は、今年8月紹介『高地戦』などのリュ・スンリョン、
1月紹介『マイウェイ』などのキム・イングォン、7月紹介
『トガニ』などのチャン・グァン、5月紹介『サニー』など
のシム・ウンギョン。さらに2007年12月紹介『アドリブナイ
ト』などのハン・ヒョンジュが王妃役を演じる。
監督は今年10月紹介『拝啓、愛してます』などのチュ・チャ
ンミンが担当し、脚本は、2006年4月紹介『春の日のクマは
好きですか?』などのファン・ジョユンが手掛けている。
多分、物語は史実ではないのだろうけど、二面性を持った王
の謎を解くにはうまい手立てだったと言えるものだ。そして
その二面性をイが巧みに演じている。特に本来の姿に戻る一
瞬の演技はなるほどと思わせる。
虚実を巧みに織り合わせた作品。ただし史実に整合させるた
めに描かれる部分は、仕方がないとは言えかなり辛いものに
もなっていた。


『キャビン』“The Cabin in the Woods”
今年6月紹介『アベンジャーズ』を監督したジョス・ウェド
ンと、2008年『クローバーフィールド』の脚本を手掛けたド
リュー・ゴダードが手を組み、共同の脚本でゴダードの監督
デビュー作として完成されたホラー風味のSF作品。因にこ
の2人は、テレビの『バフィー〜恋する十字架〜』を通じて
繋がりがあるようだ。
舞台は森の奥に立つ一軒家。そこに男女5人の若者グループ
が休暇でやってくる。そして彼らに惨劇が襲い掛かる…とい
う、実によくあるホラーパターンで物語は開幕する。しかし
彼らの車がトンネルを抜けた時にチラリと何かが見えたりし
て、物語の背景が尋常でないことは明示されている。
宣伝コピーには「予想は裏切られる」というような言葉があ
ったが、伏線というかヒントはやたらとバラ撒かれていて、
この手のジャンル映画好きにはある種の期待通りの作品。そ
の点での期待は裏切られないし、むしろそれをやり切ってい
ることに満足感すら覚える作品だった。
それにしても、この展開にはニヤリとするものばかりだし、
特に後半のハジケ振りは、好き者には夢の実現と言って良い
くらいのものだ。ただ、結末はこれとは逆もありかなとも思
えたが、それでは一般受けが厳しくなってしまうかな。多分
その辺も検討されてのこの結末なのだろう。
実際に観るまではここまでやっているとは思っていなかった
し、内容的におちゃらけたところもないので、これは大いに
満足できた。同種の日本映画と比べた時に、彼我の差も感じ
させる作品と言える。

出演は、2009年3月紹介『お買いもの中毒な私!』などのク
リスティン・コノリー、昨年5月紹介『マイティー・ソー』
などのクリス・へムスワース。他にニュージーランド出身の
アンナ・ハッチスン、2004年8月紹介『ヴィレッジ』などの
フラン・クランツ、テレビの『グレイズ・アナトミー』にレ
ギュラー出演中のジェシー・ウィリアムズ。
さらに昨年5月紹介『モールス』などのリチャード・ジェン
キンス、テレビ『ザ・ホワイトハウス』などのブラッドリー
・ウィットフォードらが脇を固めている。そしてもう1人、
流石にこれは僕も予想できなかった意外な俳優も出演してい
る。これは「あんたも好きねえ」という感じだった。

宣伝はスプラッターホラーめかして、実際にそのようなシー
ンもある作品だが、内容的にはSF映画ファンも満足できる
作品だ。

『トワイライトサーガ/ブレイキング・ドーン Part 2』
“The Twilight Saga: Breaking Dawn - Part 2”
2009年1月に第1作を紹介したシリーズがついに完結編を迎
えた。
賛否両論のある作品だし、僕自身も諸手を挙げて賛成という
ものではないが、アメリカでは記録的なヒットになっている
ようで、ファンというのは本当にありがたいものだ。
それはさて置き本作は、原作では4部作だったものが、映画
は5作目。原作の第4話が映画では前後編に分けられたもの
だ。その前編は昨年12月に紹介したが、正直に言ってファン
でない自分にはちょっときつい感じもした。しかし後編は、
流石にシリーズの完結編という感じに仕上げられている。
これはこの2作を1本とした場合には、トーンの違いが全体
のバランスを崩す恐れもあったし、これを2部作としたのに
は、それなりに意味もあったとも言える感じがした。
そのお話は、前編で誕生した子供を巡っての展開。その存在
がヴァンパイア全体の危機を招くと判断する一派と、主人公
たちとの戦いが描かれる。そして主人公たちは、その存在が
危機に繋がらない証拠を見出さなければならなくなる。
ただその証拠を見つけ出す件が、これは原作も同じかもしれ
ないが、僕にはちょっと安易に感じられ、この辺をもう少し
描き込んで欲しかった感じもした。それと肝心のクライマッ
クスが、結局これも少しどうかなあという展開で、その点で
も多少物足りなかった。
とは言えこれらはいずれも原作の通りなのだろうし、それは
原作のファンが観る以上は、変えることは許されないもので
あったとは思えるところだ。

出演は、クリステン・スチュワート、ロバート・パティンス
ン、テイラー・ロートナー。他には『96時間』のマギー・
グレイスから、今年日本公開された『キリング・ショット』
などのニッキー・リード、それにダコタ・ファニングまで若
手が勢揃いの感じだ。
さらに2009年1月紹介『フロスト×ニクソン』などのマイク
ル・シーン、昨年4月紹介『赤ずきん』などのビリー・バー
クらが脇を固めている。
監督は、『Part 1』に引き続いて2003年2月紹介『シカゴ』
などのビル・コンドン。脚本は、シリーズ全作を通してメリ
ッサ・ローゼンバーグが担当した。

『クラウド・アトラス』“Cloud Atlas”
『マトリックス』のラナ&アンディ・ウォッシャウスキー姉
弟と、2007年1月紹介『パフューム』のトム・ティクヴァの
共同監督による1849年から2144年、さらにその先の未来まで
も描いた上映時間2時間52分の超大作。
イングランド出身で、日本の広島で8年間英語講師をしてい
たこともあるというイギリス人作家デイヴィッド・ミッチェ
ルが2004年に発表し、ブッカー賞の最終候補にも残った原作
小説の映画化。
物語は、1849年の南太平洋を舞台にした航海記と、1936年の
スコットランドが舞台の若き音楽家の物語。さらに1973年の
アメリカを背景にした原子力発電所の陰謀の話と、2012年の
イギリスが舞台の出版エージェントの物語。
そして2144年のネオソウルを舞台にしたクローンの物語と、
さらに遠未来が背景の文明崩壊後の地球の物語。これら6つ
の物語が並行して語られ、人が生きて行くことの意味が探ら
れて行く。
因に演出は、ウォッシャウスキー姉弟が1849年と、2144年、
遠未来、ティクヴァが1936年と、1973年、2012年を担当し、
それらが『パフューム』などのアレクサンダー・バーナーに
よって編集されている。

出演は、トム・ハンクス、ハリー・ベリー、ジム・ブロード
ベント、ヒューゴ・ウィービング、ジム・スタージェス、ペ
・ドゥナ、ベン・ウィンショー、ジェイムズ・ダーシー。
さらにジョウ・シュン、キース・デイヴィッド、デイヴィッ
ド・ギヤスィ、スーザン・サランドン、ヒュー・グラント。
彼らが6つの物語の中にそれぞれ別の役柄で登場する。
中でもハンクスは全ての物語に比較的重要な役柄で登場し、
全体的な物語の語り部という感じのようだが、その性格など
が一貫されているものではなく、その辺をとやかく言うよう
な作品ではなさそうだ。
一方、本作でハリウッドデビューとなるペ・ドゥナは、特に
未来のパートではかなり物語の核心に近い役柄で、上手くす
るとオスカーノミネートもありそうな感じだ。なお日本暮ら
しの長い作者の作品には日本人の登場人物が多いそうだが、
本作は原作も韓国人だったのかな。原作の翻訳は来年1月に
出るようなので、確認してみたい。


『レ・ミゼラブル』“Les Misérables”
ヴィクトル・ユーゴー作「噫無情」ではなくて、アラン・ブ
ーブリル脚本、クロード=ミッシェル・シェーンベルク脚本
・作曲によるミュージカル作品の映画化。
物語の開幕は、ナポレオン1世没落直後の1815年。19年間の
服役から仮釈放されたジャン・バルジャンは冷たい世間を彷
徨う内、司祭館で銀食器を盗んでしまう。しかし逮捕された
彼に対して司祭は銀食器は与えたものと主張し、釈放された
バルジャンは今までの行いを悔いることになる。
そして8年後、マドレーヌと名を変えたバルジャンは事業に
成功し、市長の地位まで手にしていた。ところがそこに仮釈
放の義務を怠って逃亡したバルジャンを追う刑事ジャベール
が現れる。そのジャベールは、マドレーヌをバルジャンと疑
うが、証拠は得られない。
そんな中で娼婦ファンテーヌの窮地を救ったバルジャンは、
自分が彼女の窮状を招いたことを知り、彼女の娘コゼットを
保護すると約束して娼婦の最後を看取る。しかし彼の背後に
はジャベールの影が迫っていた。そしてバルジャンは自らの
過去を隠したままコゼットを連れて逃亡の旅を続ける。
さらに物語は1832年のパリへと繋がり、1930年の七月革命の
後に立憲君主制に移行したものの、労働階級や学生に不満が
募る中でのバルジャンとジャベールとの対決や、コゼットの
恋、そして学生たちの蜂起や、もう1人の少女エポニーヌの
悲恋などが描かれて行く。

出演はヒュー・ジャックマンとラッセル・クロウ。共にオー
ストラリアからアメリカに進出した俳優だが、本格的な共演
は初めてになりそうだ。他に『ダークナイト・ライジング』
のアン・ハサウェイ、『マンマ・ミーア!』のアマンダ・セ
イフライド。さらに『スウィニー・トッド』のサッシャ・バ
ロン・コーエンとヘレナ・ボナム・カーター。
また今年1月紹介『マリリン・7日間の恋』などのエディ・
レッドメイン、BBCのスカウト番組で発見され、ロンドン
の舞台でも同じ役を演じたサマンサ・パークス、ブロードウ
ェイで『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のミュージ
カル版に主演しているアーロン・ドヴェイトらが脇を固めて
いる。
なお作品は、普通の台詞が全くないオペラスタイルの構成だ
が、撮影では全出演者の歌唱の音声も同時録音されており、
正に実演の迫力で演じられている。因にジャックマンは本来
がトニー賞受賞のミュージカル俳優だし、クロウも以前には
CDを出したこともあるミュージシャンだ。
その他、見事に再現された19世紀のパリの景観なども楽しめ
る作品になっていた。

『ライフ・オブ・パイ』“Life of Pi”
2005年『ブローバック・マウンテン』でオスカー監督賞に輝
いたアン・リー監督が、少年とベンガルトラによる227日間
の漂流記を描いた3D作品。
少年の名前はパイ。物語はその名前の由来から始まる。その
少年は、動物園を経営する父親と家族と共にインドで暮らし
ていたが、園の経営に行き詰まった父親は動物をアメリカの
動物園に売却することにし、その金でカナダへ移住する一家
は、動物たちと共に日本船籍の貨物船に乗船する。
ところがその船が太平洋上で嵐の遭遇して沈没。少年は家族
を失って唯1人救命ボートに残されるが、そこには脚を骨折
したシマウマとオレンジという名のオランウータン、それに
リチャード・パーカーと名付けられたベンガルトラも同乗し
ていた。
1日5キロの肉を必要とするベンガルトラと少年との究極の
サヴァイヴァル。小さなボートでの住み分けや食料の入手。
それはやがて彼らを幻想的な冒険にも誘って行く。果たして
それは真実の物語なのだろうか。そんな物語が取材に訪れた
作家の前で語られる。
お話はもちろんフィクションだが、そこには地球上の生物と
の共生など、様々なテーマが語られているようだ。そしてそ
んな物語が、素晴らしい3Dの映像の中で描かれている。

出演は、本作でアン・リー監督に見出されたスラージ・シャ
ルマ。デリー郊外で両親と共に暮らす当時17歳の少年は、そ
れまでに演技経験はなかったそうだ。
他に2007年10月紹介『その名にちなんで』などのイルファン
・カーンとタブー。さらに今年10月紹介『もうひとりのシェ
イクスピア』などのレイフ・スポールらが脇を固めている。
またフランスの名優ジェラール・ドパルデューも登場する。
2003年7月紹介『ハルク』は、僕には2008年版より好ましい
作品だ。その時のプロモーションで来日したアン・リー監督
が「モーション・キャプチャー用のスーツを自分で着て超人
ハルクの演技をした」と嬉しそうに語る姿は印象的で、その
監督が3Dに挑戦するというのは、当然にも思えた。
その作品は、まず最初の動物園のシーンから3Dが楽しくて
仕方がないというような映像で、その後の様々なシーンでも
正しく3Dが堪能できる映像が満載のものになっている。そ
れは『アバター』ほど大げさではないけれど、いま地球上に
現実にありそうな風景が3Dで描かれている。
しかもそれが実に幻想的で、心が癒されるような映像になっ
ている。ベンガルトラとのサヴァイヴァルはリアルで、甘い
ものではないが、そこにもファンタシーが巧みに織り込まれ
る。そのバランスも素晴らしい作品だった。

なお本作は、前回紹介したアカデミー賞VFX部門の予備候
補の10本にも選ばれているものだ。



2012年12月02日(日) GHOST RIDER 2、人生ブラボー!、ハードウェア・ウォーズ、名無しの十字架、ひまわり、牙狼2、アルマジロ、よりよき人生+Oscar/VFX

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『GHOST RIDER 2』“Ghost Rider: Spirit of Vengeance”
2007年2月紹介『ゴーストライダー』の続編。ただし、監督
曰く「前作から踏襲したのは、ニコラス・ケイジの主演だけ
だ」という作品だ。
物語の始まりは、山間の寺院。そこに1人の少年が匿われて
いる。その少年は悪魔の血を引くと言われ、地上では能力の
発揮に制限のある悪魔がその少年に宿ると、その悪魔は全て
の能力を地上で発揮できるようになるというもの。そして今
や成長したその少年を、悪魔が狙い始めていた。
そこでその少年を守るために、地上で悪魔に対抗できる唯一
の男に援助が求められるのだが、その男ジョニー・ブレイズ
は、悪魔の化身ゴーストライダーをようやく封じ込められそ
うになったところだった。
しかし訪ねてきた僧侶に、少年を守り切れば、悪魔から究極
的に解放される術を教えると言われたブレイズは、やむ無く
ゴーストライダーを復活させるが…。産みの母親と共に逃亡
を続ける少年には新たな危機が訪れていた。

共演は、今年7月紹介『プロメテウス』などのイドリス・エ
ルバ、1986年『ハイランダー/悪魔の戦士』などのクリスト
ファー・ランバート、昨年4月紹介『ラスト・ターゲット』
などのヴィオランテ・プラシド。
さらに今年9月紹介『ウーマン・イン・ブラック亡霊の館』
などのキアラン・ハインズ、昨年8月紹介『リミットレス』
に出ていたジョニー・ホイットワース。そして少年役を、事
前にヨーロッパ中で行われたスクリーンテストで選ばれた、
スペイン出身のファーガス・リオーダンが演じている。
監督は2009年7月紹介『アドレナリン/ハイ・ボルテージ』
などのマーク・ネヴェルダインとブライアン・テイラーのコ
ンビ。脚本はデイヴィッド・S・ゴイヤーの原案から、昨年
12月紹介『ウォーキング・デッド』のスコット・M・ギンプ
ルと、同じくテレビシリーズ『プリズン・ブレイク』を手掛
けるセス・ホフマンが担当している。
撮影はルーマニアとトルコで行われ、アクションシーンはほ
とんどが実写で撮影されているようだ。そのライダー・アク
ションには、主人公の乗るヤマハVMAXの他、ロシア製バイク
のウラルSOLO750、さらに全長220m、全高96m、総重量12340t
で、世界最大の陸上走行車とされるBagger 288なども登場し
て華を添えている。
物語的には、前作のように事前に主人公の紹介があったり、
複数の敵と戦うのよりは単純明快になっており、その分の話
にコクはないが、炎を駆使したアクションは映像的にも見事
に仕上げられていた。


『人生、ブラボー!』“Starbuck”
若い頃にアルバイト気分で不妊治療用の精子提供者になって
いた男が、突然533人の子供の誕生を知り、さらに142人から
身元開示を求められるという、カナダ・ケベック州で製作さ
れた作品。
主人公は、父親が経営する食肉会社で2人の兄と共に働いて
いる42歳の独身男。親族会社ということもあるのだろうが、
仕事振りはいい加減で、父親も少し持て余し気味のようだ。
そんな男がある日、142人の「子供」に身元開示の訴えを起
こされたことを知る。
その事態を幼馴染の新米弁護士に相談した主人公は、まずは
精神障害の線で訴えを退けようとするが。ふと原告の1人の
名前を見た主人公は、彼が前途有望なサッカー選手であるこ
とを知る。こうして何人かの許を匿名で訪ねた主人公は、彼
らの様々な人生を知ることになり…

出演は、2007年に自らの監督作品でカナダ・ジニー賞の作品
賞を受賞したというコメディアンのパトリック・ユアール。
他に、2006年11月05日付「東京国際映画祭」で紹介した『ロ
ケット』などのジュエリー・ル・ブルトン、さらに舞台俳優
のアントワーヌ・ベルトランらが脇を固めている。
脚本と監督は『ロケット』も手掛けているケン・スコット。
本作はケベック州の公用語であるフランス語で製作された作
品で、スピルバーグ率いるドリームワークスが権利を獲得し
て英語によるリメイクも進められているものだが、原作に感
動したスピルバーグは、スコット監督にリメイクへの続投を
依頼しているそうだ。
子沢山の父親の話というのは、日本でも高視聴率のテレビ番
組もあるようだが、この人数は正に桁違い。実に上手いとこ
ろに目を付けたものだと感心した。しかも基本はコメディだ
が、それをドタバタにせずに丹念に人生模様を描いて行く。
しかも社会風俗も巧みに織り込む辺りは見事としか言いよう
のない作品だった。

こういう作品に出会えてありがとうと言いたくなる作品だ。
それにしても、すでにハリウッドリメイクが進められている
作品だが、そのリメイクでもサッカー選手で行けるのかな。
サッカーファンとしては、その辺もちょっと気になるところ
だ。


『ハードウェア・ウォーズ』“Hardware Wars”
1977年、本家『スター・ウォーズ』が公開された翌年に発表
され、ジョージ・ルーカス本人がインタヴュー番組の中で、
「お気に入りのパロディ作品」と名指しした名作が、日本で
来年1月にDVDリリースされることになり、サンプル盤を
鑑賞した。
本作の映像は何度か観たことがあるが、全編を通して観るの
は初めてかもしれない。内容は予告編の体裁をとっており、
『スター・ウォーズ』の人物紹介や名場面がパロディになっ
ているものだ。しかも、登場する宇宙船などが題名の通りの
ハードウェア(家電製品)になっている。

製作・脚本・監督は、1970年代に『セサミストリート』のア
ニメーターとして業界入りしたというアーニー・フォセリア
ス。彼はこの後、1983年『ジェダイの復讐』では声優を務め
たり、挿入曲のアレンジを担当したりもしているようだ。
他にも1985年にティム・バートンが監督した『ピーウィーの
大冒険』の監督を最初に依頼されたが断ったとか、『エド・
ウッド』の音響効果や『マーズ・アタック!』の声優なども
担当したという情報がプレス資料に紹介されていた。
つまり、ティム・バートンとの関係も深い才人の作品という
ことだ。
なお今回観せてもらったサンプル版は13分の本編と日本版の
予告編だけだったが、1月30日にリリースされる商品には、
インタヴュー番組をパロディにした映像や海外での予告編な
ど41分が特典映像として添付されるようだ。

『名無しの十字架』
実は12月1日に公開が始まっている作品だが、公開ギリギリ
に試写が行われて、しかもちょっと気になる作品だったので
紹介しておく。
キックボクシングが主題の作品で、基本的に格闘技にはあま
り興味がないので、さほど期待するでもなく観に行ったもの
だが、物語は意外な展開で期待以上の作品になっていた。
主人公は横浜でプロレスショップを営む男性。その男性は裏
でちょっと危ないヴィデオの取引も手掛けていたが、それも
彼自身の一線は守っていたようだ。しかし借金で首が回らな
くなり、3000万円で買い手のいる、ある幻のヴィデオの追跡
に乗り出すことになる。
その幻のヴィデオとは「虎対人間」の死闘を撮影したという
もの。情報では闘った人間は死亡したと言われ、彼の一線は
そのようなSnuff作品は扱わないとしていたものだ。しかし
背に腹は代えられない主人公はそのヴィデオを探し始める。
そしてそれは彼を闇の世界に引きずり込むことになる。
と言っても別段超常的なお話が始まる訳ではないが、その状
況が意外とシュールで、なかなか面白い作品だと感じられた
ものだ。

出演は、北区つかこうへい劇団出身で今年2月紹介『僕等が
いた』などに出ている神尾佑、2006年9月紹介『アジアンタ
ムブルー』などの松尾れい子、元ムエタイ世界ライト級王者
の小林聡。
他に今年8月紹介『のぼうの城』などの和田聰宏、今年2月
にAKB48を脱退した米沢瑠美。米沢は本作で映画女優として
再デビューだそうだ。さらに前田健、みのすけらが脇を固め
ている。
監督は、2001年『けものがれ、俺らの猿と』などの脚本を手
掛け、2004年『あゝ!一軒家プロレス』という作品を発表し
ている久保直樹。前作の題名からは格闘技ファンの監督と思
われるが、本作はそこから一歩踏み出したと言えそうだ。
なお作品は郷一郎の原作に基づくもので、本作の出演者でも
ある小林が原作に惚れ込んで映画化を企画。ただし原作では
キックボクサーが主人公だったが、原作者の好きにして良い
との言葉を受けて大幅に改作したようだ。

その脚本は、今年1月公開『犬の首輪とコロッケと』などの
稲本達郎と、2009年テレビドラマ『メイド刑事』などの松田
知子が担当している。

『ひまわり〜沖縄は忘れないあの日の空を〜』
1959年6月30日に沖縄の石川市(現うるま市)で起きた米軍
ジェット機墜落事件と、2004年8月13日の沖縄国際大学での
米軍ヘリコプター墜落事件。その2つの米軍の軍事行動に関
る事件を描いたドラマ作品。
物語は、その2つの事件に遭遇した1人の男性と、その孫を
中心に展開される。その男性は石川市宮森小学校に墜落した
ジェット機で友を失い、沖縄国際大学へのヘリコプター墜落
の目撃者となる。
また孫は、祖父と共にヘリコプター墜落の目撃者となるが、
その記憶は薄れて現在は同大学の生徒となっている。そして
その大学のゼミで2つの事件のレポートを纏める形で事件が
検証されて行くものだ。

出演は、長塚京三と『ALWAYS三丁目の夕日』シリーズなどの
須賀健太。他に2013年前期のNHK朝のテレビ小説に主演が
決まっている能年玲奈、2009年8月紹介『ヤッターマン』な
どの福田沙紀らが脇を固めている。
監督は、にっかつ撮影所演出部の出身で、1990年『夏のペー
ジ』などの及川善弘。なお脚本は、石川・宮森630編「石川
・宮森ジェット機墜落事件証言集」に基づいている。
沖縄国際大学の米軍ヘリ墜落事件は記憶に新しい。それに対
して米軍ジェット機墜落事件というと、僕は1977年の横浜で
の事件は記憶していたが、1959年となるとこれは全く記憶に
ないものだった。
実は、1961年にも地元近くの大磯沖にジェット機が墜落した
ことがあって、このときは事故機のパイロットがギリギリま
で操縦桿を握って陸地を離れてから脱出したということで、
それは美談として伝えられていた。しかし本作の事件のこと
を知ると、その美談にも眉に唾を付けたくなるものだ。
それにしてもこの大磯の事件は覚えていて沖縄の事件を記憶
していないとは…。それは確かに当時は沖縄返還前で、報道
自体もままならなかったのかもしれないが、なにか釈然とし
ないものを感じるし、それが多分沖縄の悲劇なのだろうとい
う感じもしてくる。
ただこのように強いメッセージを持った作品だが、その描き
方が宮森事件の映像をモノクロにしてみたり、時間軸を妙に
動かしたり、作為に満ちているのはいかがなものか。それで
観客に混乱を与えるより、もっとストレートに描いた方が、
最後の歌も際立たせたのではないかとも感じられた。

それはともかく、本作が日本人の全員がしっかりと考えるべ
き問題の描かれた作品であることは確かだ。

『牙狼<GARO>〜蒼哭ノ魔竜〜』
2010年7月と昨年9月にも紹介している『牙狼』シリーズの
最新作。ただし昨年紹介の作品はテレビ用なので、劇場版と
しては第2作となるものだ。なお本作は今年の東京国際映画
祭の特別招待作品としても上映された。
物語は過去の紹介作品と同様、魔戒騎士の冴島鋼牙を主人公
としたもの。しかし今までの作品が現世を舞台としていたの
に対して、本作は摩訶不思議な別世界を背景としている。こ
れはもしかするとテレビシリーズの流れを汲んでいるのかも
しれないが、そんなことはお構いなく、取り敢えずそういう
世界が舞台だとして納得して観ることはできるものだ。
そしてその世界で鋼牙は、「大いなる力」アジャリの命を受
けて「嘆きの牙」というアイテムを探すことになるのだが。
そこはヒトによって作り出され、そして忘れられたモノが暮
らす世界。しかもその世界に辿り着いたとき鋼牙は、己が武
器である牙狼剣、魔法衣、魔導輪を失っていた。
しかし鋼牙は、森で助けたモノと自称する少女メルや、鋼牙
がカカシと名付けた男。さらに弓の名手キリヤらと共に探索
を続けて行く。その一方でその世界を支配する女王ジュダム
は、自らがコレクションする美しいモノの一つに鋼牙を加え
ようとしていた。
さらにその世界には、近々魔竜が降臨するとされ、ジュダム
はその魔竜と一体となって人間界に進出することを企んでい
た。

出演は、小西遼生、影山ヒロノブ(声の出演)のレギュラー
に加えて、松坂慶子、今年5月紹介『スープ』に出ていた蒼
あんな、2010年11月紹介『ギャングスタ』に出ていた久保田
悠来。
他に過去のシリーズに登場の藤田玲、山本匠馬、中村織央。
さらにお笑い芸人で声優の柳原哲也、前作にも出演の螢雪次
朗、渡辺裕之らが登場する。
原作・脚本・監督は雨宮慶太。異世界の映像はかなり幻想的
だし、その中で繰り広げられるアクションも、これはまさに
雨宮節という感じの作品だ。
お話的には近年よくあるクエストものだが、その中で語られ
るヒトとモノとの関係などには、ちょっと面白い思想も感じ
られた。ただ個人的には、今までの現世を背景にした作品を
もっと観てみたい感じもするが、本作もそんな現世の問題を
ある意味反映している作品であることは確かだろう。

また次回作も期待したい監督だ。

『アルマジロ』“Armadillo”
アフガニスタン戦争に国際平和活動(PSO)の名目で派遣さ
れているデンマーク軍。その最前線アルマジロ基地の兵士を
追ったドキュメンタリー。映像の一部は兵士自身にカメラを
持たせて撮影したという作品。
アルマジロ基地にはNATOによる国際治安支援部隊の一つとし
てイギリス軍とデンマーク軍が駐留している。その基地の主
な任務はタリバンを敵とする偵察活動。しかし都会から最前
線基地に派遣された若い兵士たちは徐々に戦争中毒に陥って
行く。
そして突然タリバンからの発砲が起き、反撃した兵士たちは
それを撃退するが、それは彼らを極度の興奮状態に陥れる。
その戦果を興奮して語り合う兵士たち。しかしそこには落と
し穴も待ち構えていた。それは正に2010年2月紹介『ハート
・ロッカー』の冒頭で述べられたような中毒状態だ。

監督は、1974年デンマーク生まれのヤヌス・メッツ。2008年
デンマークで暮らすタイ人女性とデンマーク人男性の国際結
婚を描いた作品でコペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画
祭の最優秀短編賞を受賞し、本作でカンヌ国際映画祭批評家
週間グランプリに輝いた。
デンマークでは18歳から32歳までの男子に徴兵制が敷かれ、
その兵役期間は4ヶ月。しかし4ヶ月経過後に希望者は期間
の延長が可能だそうだ。だたし良心的兵役拒否も認められて
おり、代替役務が制度化されている。
そして兵員数は2万5000人、予備役1万2000人、郷土防衛軍
5万1000人の計8万8000人が総兵力とされている。その中か
らコソボに380人、アフガンに700人などが派遣され、兵員数
は少ないものの、その兵士の質の高さなどで国際社会からは
高く評価されているとのことだ。
デンマーク軍のアフガン派遣に関しては2007年9月紹介スサ
ンネ・ビア監督の『ある愛の風景』でも描かれていた。それ
は母国で待つ家族を襲う悲劇を描いていたが、本作は戦場が
舞台のもの。そして本作もまた声高に反戦を訴えるものでは
ないが、その恐ろしさは際立たせて描かれているものだ。
リアルな戦闘の迫力が見事に描かれた作品であると同時に、
そこに忍び寄る狂気も見事に描かれた作品。結末のテロップ
がその狂気の奥深さも見事に描いていた。それにしても、こ
れがドキュメンタリーとは…。あまりにドラマティックな展
開も驚かされるものだ。


『よりよき人生』“Une vie meilleure”
昨年の東京国際映画祭・コンペティション部門で上映された
作品。昨年10月31日付でも紹介しているが、本作は来年2月
の一般公開が決定し、試写が行われてプレス資料も配布され
たので改めて紹介する。因に映画祭の時の題名は『より良き
人生』だったが、一般公開は平仮名になっている。
内容については繰り返しになるが、より良き人生を目指して
奮闘し、運命に翻弄されるカップルの姿を描いたフランス映
画。
主人公は35歳のコック、彼は職を求めて訪れたレストランで
28歳子持ちのウェイトレスと出会い、夢を語り合った2人は
一緒に暮らすようになる。そして郊外に素敵な建物を見つけ
た2人は銀行ローンを借りて改築に乗り出すのだが…。
完成したレストランは法律的な問題で営業許可を得られず、
さらに銀行ローンも手続き上の問題で条件を厳しくされてし
まう。この状況に切羽詰った女性は、手続きのためフランス
に残らざる得ない主人公の許に子供を残し、賃金の良いカナ
ダに出稼ぎに行くが、やがて音信が途絶えてしまう。
理想のレストランを目指して頑張る2人が法律や規則などの
様々な壁に阻まれる。日本でもありそうなお話だが、そんな
物語がフランスとカナダの大西洋を跨いで展開される。こう
なるとちょっと日本とは条件が違ってくるが、それでも描か
れる内容は夢と理想を求めて奮闘するカップルの姿であり、
そこには誰もが応援したくなるような素敵な物語が描かれて
いた。

監督は、2007年2月紹介『チャーリーとパパの飛行機』など
を手掛けたセドリック・カーン監督。脚本はカーンと、今年
6月10日付「フランス映画祭2012」で紹介『愛について、あ
る土曜日の面会室』の脚本と台詞を担当したカトリーヌ・パ
イエが共同で執筆している。
出演は、本作でローマ国際映画祭最優秀男優賞を受賞してい
るギョーム・カネ。今年9月紹介『虚空の鎮魂歌』などのレ
イラ・ベクティ、「フランス映画祭2012」で紹介『私たちの
宣戦布告』に出ていたブリジット・シィ。そして息子役を本
作がデビュー作のスリマン・ケタビが演じている。
以前に紹介した監督の作品も、厳しさの中に暖かい人間味が
描かれていたが、本作でもそんな厳しくて暖かい物語が描か
れていた。僕は、東京国際映画祭の時に、この映画で奮闘す
る主人公に男優賞を贈りたいと思ったものだが、その思いは
ローマで叶ったようだ。

        *         *
 アカデミー賞VFX部門の予備候補が発表されたので紹介
しておく。
 今年は10本選ばれた予備候補作は以下の通り。
“The Amazing Spider-Man”
“The Avengers”
“Cloud Atlas”
“The Dark Knight Rises”
“The Hobbit: An Unexpected Journey”
“John Carter”
“Life of Pi”
“Prometheus”
“Skyfall”
“Snow White and the Huntsman”
 映画会社別ではワーナーが3本、ディズニーとフォックス
とソニーが各2本で、ユニヴァーサルが1本、パラマウント
は0本ということになる。前回は1月4日発表の10本に絞ら
れた段階で4本を占めていたパラマウントだが、マーヴェル
とドリームワークスの離脱が大きく響いているようだ。
 この中から5本の最終候補が選ばれる。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二