井口健二のOn the Production
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2012年11月25日(日) ファイヤー・ウィズ…、ヒンデンブルグ、テッド、SUSHI GIRL、VANISHING POINT、さまよう獣、ディラン・ドック、ナンバーテン・ブルース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『ファイヤー・ウィズ・ファイヤー/炎の誓い』
                  “Fire with Fire”
アメリカでの証人保護プログラムをテーマにしたアクション
・サスペンス作品。
主人公は、若い頃に両親を亡くし、何より仲間との絆を大切
にする消防士。そんな彼の立ち寄ったコンビニが襲われ、黒
人の店主とその息子が目の前で惨殺される。そしてその場を
辛くも脱出した主人公は犯行の目撃者となる。
しかしその犯人は胸に鉤十字の刺青を施した狂信者。首実検
にも平然と現れた犯人は、マジックミラー越しの主人公に向
かって「俺を刑務所に入れても手下がお前の仲間を皆殺しに
する」とうそぶく。
こうして証人保護プログラムの対象となった主人公は、全て
の個人情報を抹消し、遠く離れた街で暮らすことになる。と
ころが裁判の日が近付くにつれて、彼の周囲に不穏な動きが
起こり始める。
日本のように、隠れて暮らす女性の住所を警察がストーカー
に教えるなどというのは論外だが、政府が行う証人保護プロ
グラムであってもその情報が漏れてしまう可能性はあるのだ
ろう。ましてや相手は組織的な狂信者の集団。
そんな究極の悪の組織に向かって、主人公は単身で戦いを挑
まなければならなくなる。
映画では最初に壮絶な火事場のシーンが登場し、クライマッ
クスも同様だろうなと思っていると、その通りになる。それ
にしてもアナログの特撮では鬼門だった水と火災が、CGI
では見事なこと。そんなことにも注目できる作品だ。

主演は、2010年12月紹介『かぞくはじめました』“Life as
We Know It”(この作品は試写は行われたが日本未公開のよ
うだ)などのジョッシュ・デュアメル。
共演はブルース・ウィリス、ロザリオ・ドースン、ヴィンセ
ント・ドノフリオ。他に、今年4月紹介『フェイシズ』に出
ていたジュリアン・マクマホン、本作の製作も務めるカーテ
ィス“50セント”ジャクスンらが脇を固めている。
監督は、2003年『デッドコースター』でMTVアワードのベ
スト・アクションシーンに選ばれたこともあるスタントマン
のデヴィッド・バレット。多数のTVシリーズの演出はある
が、映画はデビュー作のようだ。

『ヒンデンブルグ・第三帝国の陰謀』“Hindenburg”
1975年のロバート・ワイズ監督作品でも知られる、1937年に
アメリカ・ニュージャージー州で起きたドイツの巨大飛行船
爆発事件を描いた作品。
元はテレビドラマだそうで、その放送時間は3時間の作品の
ようだ。今回の日本公開は、そこから1時間50分に再編集さ
れたもので行われる。
その物語は、ドイツ国内でのグライダーの飛行実験から始ま
る。そこで知り合った「ヒンデンブルク」の設計技師と富豪
の令嬢は、互いに惹かれるものは感じるが、令嬢には許嫁が
いた。
そしてアメリカ領事館のパーティで再会した2人だったが、
そこに令嬢の父親の急病が伝えられ、令嬢とその母親は急遽
「ヒンデンブルク」で帰国することになる。しかしその飛行
船に爆弾が仕掛けられたとの情報が技師にもたらされる。
そこで飛行船に潜入した技師は、爆弾の発見と、令嬢の身の
安全確保のために奔走することになるが…。
飛行船爆発の原因については、陰謀説や自然現象など諸説あ
るが、本作はそれらを巧みに組み合わせて、それなりに納得
できる話に仕上げられている。ただ陰謀の理由付けなどは、
もう少し詳しくして欲しかった感じはした。
本来なら当時の国際情勢やナチスドイツの状況などいろいろ
あるはずだが、その辺はオリジナルではちゃんとしているの
かな。
とは言え、本作の見所は何を置いても飛行船の爆発シーン。
ワイズ版がニュース映像を取り入れてドキュメンタリー的に
仕上げたのに対して、本作ではCGIを駆使してこれは見事
な映像を作り上げている。
しかもその映像が、ニュース映像を克明に再現している点で
は感動すら覚えるものになっていた。正に完璧な再現映像と
呼べるものだ。

出演は、ドイツ国内のテレビなどで活躍するマクシミリアン
・ジモニシェックと、カナダ出身で2007年4月紹介『寂しい
時は抱きしめて』などのローレン・リー・スミス。前作で注
目した女優に再び会うことができる。
他に、2007年4月紹介『そして、デブノーの森へ』などのグ
レタ・スカッキ、今年8月紹介『ボーン・レガシー』にも出
演の往年のテレビスター、ステイシー・キーチらが脇を固め
ている。
監督はドイツ出身のフィリップ・カーデルバッハ。飛行船は
ツェッペリン博物館の保管されていた設計図に基づいて忠実
に再現されており、その内部の豪華さなどには目を見張る。
その再現の克明さには、ドイツ版『タイタニック』という感
じもする作品だ。

『テッド』“Ted”
企画制作のテレビ番組「ファミリー・ガイ」がエミー賞を受
賞したクリエーターで、来年のアカデミー賞授賞式の司会に
起用が決まっているセス・マクファーレンの監督・脚本・原
案・製作・声優によるR15+のVFXコメディ作品。
物語の始まりは1985年。近所に遊び友達のいない8歳の少年
がクリスマスプレゼントで大きなテディベアを貰う。そのヌ
イグルミは胸を押すとI love youと喋ってくれた。しかしそ
れだけでは満足できない少年は星に願いを掛ける。
そしてその翌朝、ヌイグルミのテッドは少年に話し掛け、自
由に動ける姿を見せる。こうして主人公の友達になったヌイ
グルミは、一躍テレビのトーク番組にも招かれるセレブにな
るのだったが…。
それから27年、少年は35歳になって恋人もできるが、彼の傍
にはいつもテッドの姿があった。しかもこのヌイグルミは、
大麻は吸うは、女を家に連れ込むはの一端の不良中年。その
存在が疎ましい主人公の恋人は…

出演は、2008年11月紹介『アンダーカヴァー』などのマーク
・ウォールバーグ、2011年1月紹介『ブラック・スワン』な
どのミラ・クニス、そしてテッドの声をマクファーレン。他
に、今年5月紹介『ビッグ・ボーイズ』などのジョエル・マ
クヘイル、4月紹介『ラム・ダイアリー』などのジョヴァン
ニ・リビシらが脇を固めている。
R15+の理由は大麻吸引シーンなどで、さほど卑猥なシーン
がある訳ではないが、全篇はブラックジョークと映画テレビ
などカルチャーに関るジョークも満載で、その辺は知れば知
るほど面白くなると言える作品だ。
特にSF映画ファンには思いも掛けない作品やその関係者が
登場して、これは驚くこと必至の作品。いやあその馬鹿馬鹿
しさにも感動という作品だった。
ポスターなどのヴィジュアルは目の潤んだテッドの顔になる
と思うが、そこからの落差も強烈な作品。その点では眉を顰
める人も出るかもしれないが、15歳以上の大人なら笑えるこ
とは間違いなしの作品だ。


『SUSHI GIRL』“Sushi Girl”
『スター・ウォーズ』再開のニュースが流れる中で公開され
る、ルーク・スカイウォーカーことマーク・ハミルが出演す
る作品。
物語の始りは、寿司パーティの準備を始める板前の姿から。
それに刑務所からの男の出所シーンが続き、男は仲間が開く
パーティに招かれる。そして会食が始まるのだが、パーティ
の目的は出所祝いだけではなかった。
実は、そこに集まった男たちは宝石強盗団。男はその最後の
山で逮捕されたが仲間のことは喋らなかったものだ。ところ
が現場には奪った宝石が残されておらず、その行方は未だ不
明のまま。
そこでパーティの席では、宝石を隠したと思われる男から、
その在処を聞き出そうとするのだが。その手段は徐々にエス
カレートし、ついには拷問になってしまう。そしてその様子
をSUSHI GIRLはじっと聴き続けていた。
2008年12月に紹介したブリタニー・マーフィ主演『ラーメン
ガール』なんて作品もあるから、これは同様の少女が寿司修
行をする話かと思いきや…。ハミルの役柄も含めて何と言う
か、これは飛んでもない作品だった。

ハミル以外の出演は、2011年9月紹介『ファイナル・デッド
ブリッジ』などのトニー・トッド、1984年『ネバーエンディ
ング・ストーリー』のアトレイユ役で人気のあったノア・ハ
サウェイ、2001年『ドニー・ダーコ』などのジェイムズ・デ
ュヴォール。
他に、2008年4月紹介『シューテム・アップ』などのアンデ
ィ・マッケンジー、2010年4月紹介『アリス・イン・ワンダ
ーランド』に出演のコートニー・パーム。さらにマイクル・
ビーン、千葉真一、2010年『マチューテ』などのダニー・ト
レホらが脇を固めている。
脚本と監督は、ジョージ・A・ロメロ監督主催の短編ゾンビ
映画コンテストで、応募3000本の中から優秀作に選ばれたと
いうカーン・サクストン。他にも短編映画の受賞歴を重ねる
俊英の長編デビュー作のようだ。

『VANISHING POINT』
2000年に解散したブランキー・ジェット・シティという日本
のロックバンドのファイナルツアーを記録したドキュメンタ
リー作品。
僕は音楽も詳しくはないので、博多出身というこのバンドの
名前も知らなかった。資料を見るとテレビの「イカ天」から
出てきたとのことで、その番組は観ていた時期もあったが、
途中で観るのをやめてしまっており、このバンドはそれ以降
の出場なのかな。
いずれにしても、そのバンドの13年前の解散ツアーの模様が
描かれているものだ。それはすでに解散が発表されているの
だから、メムバーの間には意見の相違などもある訳で、その
中で共同作業を続けて行くというのがどういうことか、作品
はそんなことも含めた彼らの葛藤も映し出していた。
因に監督は、当初はファイナルコンサートのDVDを作成す
るために参加したようだが、以前からバンドとの付き合いが
あった監督は彼らの最後を見届けたいという思いで、それ以
前のツアーから記録を始めることにする。それは1台のヴィ
デオカメラを自ら担いで撮影しているものだ。
それでファイナルコンサートのDVDは当時発売されたよう
だが、撮影されたドキュメントはそのまま陽の目を見ること
はなかった。その理由は明らかではないが、その映像が13年
も経って公開される。なおバンドは今でも根強い人気がある
ようで、これはそのファンには最高のプレゼントだ。
特に日を追って変化して行く楽屋の雰囲気などは、成程こう
いうものなのかと、第三者が見ても興味の湧くものだし、こ
れはファンにはいろいろな意味で堪らない映像と言えるもの
かもしれない。そんな彼らの葛藤が見事に映し出されている
作品でもある。
それにしても、ここで映し出される楽屋やライヴの映像のク
リアさには驚かされた。これは途中のハイライトが映り込む
シーンで音声にノイズが入ることから、もしかすると家庭用
のヴィデオカメラで撮影されているかもしてないが、それが
HDの画面に見事にアップコンヴァージョンされている。
それに対してファイナルコンサートのシーンは、ここはプロ
機材で撮影されているはずだが、その画質がかなり劣ってい
るのは気になった。もしかするとここはDVDしか残ってい
なかったのかな。それならヴィデオとDVDの実力の差も見
えているのかもしれない。
とは言え、そこまでのドキュメンタリーの部分はかなり面白
く、部外者にも興味深いものになっていた。ただ監督の思い
入れたっぷりの字幕は、部外者としてはいささか気分を削が
れたもので、出来ることなら字幕抜きのヴァージョンでも観
たくなったものだ。


『さまよう獣』
2010年に製作費110万円で完成した『ふゆの獣』という作品
が第11回東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞している
内田伸輝監督による初の商業作品。
物語は、田舎道を走る乗合バスの車中から始まる。その車中
で持参の握り飯を食べる老婆の耳に、後部座席の女性から腹
の鳴る音が聞こえてくる。そこで老婆は、その田舎道には不
似合いな服装の女性に握り飯を差し出すが…
やがて田園の停留所に止まったバスから降りる老婆のあとを
追って女性もバスを降りる。そしてそのまま老婆の家までつ
いて行った女性は、何となくその家に住むことになる。その
家には毎晩1人の若者が訪ねてきて夕食を共にしていた。
さらにその家の周囲には、トマトのハウス栽培をしている若
者や酪農家の若者もいて、彼らは興味津々で女性を迎える。
しかし女性は頑なに自分のことは話そうとしない。しかも彼
女は若者ごとに接する態度も変えているようだ。
そんな女性の抱える秘密がやがて明かされ、それはある出来
事に繋がって行く。

出演は、2009年2月紹介『非女子図鑑』の1本に主演してい
る山崎真実、2011年7月紹介『一命』に出ていた波岡一喜、
2005年7月紹介『空中庭園』などの渋川清彦、それに舞台俳
優で本格的な映画出演は初めてという山岸門人。
さらに1929年生まれで2011年12月紹介『アフロ田中』などに
出ている森康子。他に田中要次、津田寛治らが脇を固めてい
る。
結末というか終盤の展開がかなり強烈なもので、それには少
し唖然とした。でも例えばお伽話で、王子様とお姫様はめで
たしめでたしでも、城の外では実はこんなことも起きている
のではないか。そんなことをふと考えてこの展開も納得して
しまった。
お話の全体には寓意みたいなものもあって、監督自身がプレ
ス資料に寄せたステートメントにもそんな思いが込められて
いる感じもした。そんな現代のメルヘンのような物語が展開
される。


『ディラン・ドック』“Dylan Dog: Dead of Night”
2006年7月紹介『スーパーマン・リターンズ』で鋼鉄の男を
演じたブランドン・ラウスと、同作でジミー・オルセン役の
サム・ハンティントンが再びコンビを組んだイタリア製ホラ
コメ・コミックスの映画化。
物語の舞台はニューオーリンズ。その郊外の邸宅のキッチン
に天井から血が滴り落ちてくる。そこで食事の準備中だった
女性が慌てて階段を駆け登ると、そこには彼女の父親の惨殺
死体が転がっていた。そして彼女は、得体の知れない巨大な
獣に襲われるが…
そんな事件は恐らく警察の手に余るもので、案の定、警察の
捜査はなかなか進まない。そして葬儀の場で神父から1枚の
名刺を渡された彼女は、その住所に住む私立探偵の許を訪ね
る。その探偵は、最初はその手の仕事は辞めたと取り合わな
いが、話が進む内に探偵の気持ちが動き始める。
原作はロンドンが舞台のようだが、古今東西のモンスターが
隠れ住む世界を背景に、人間とモンスターの間を取り持って
事件を解決する唯一無二の探偵の活躍が、1986年の第1巻か
らすでに280巻以上も描かれているそうだ。
そんな人気コミックスの映画化というものだが、原作がどう
なっているのか判らないが、映画では主人公の設定が今一つ
はっきりしない。それは主人公が人間かどうかに始まって、
いろいろな点で曖昧にされ、これは映画としていかがなもの
かという感じになった。
でもまあ、最近の観客はそのようなことはあまり気にしない
ようなので、それはそれで構わないというものなのだろう。
それに対して助手の方の設定は明確で、それによる笑いなど
は、納得できるように作られていたものだ。

共演は、9月紹介『ELEVATOR』にも出ていた2008年8月紹介
『センター・オブ・ジ・アース』などのアニタ・ブリエム。
他に2003年7月紹介『閉ざされた森』に出演のデイ・ディグ
ス、スピルバーグからフォン・トリアまで多彩な監督と仕事
をしているスウェーデン出身のピーター・ストーメアらが脇
を固めている。
脚本と監督は、2007年に“Teenage Mutant Ninja Turtles”
のrebootを大成功させたケヴィン・モンロー。因に監督の次
回作は、ジョージ・ルーカス製作によるミュージカル・アニ
メーションだそうだ。

『ナンバーテン・ブルース‐さらばサイゴン‐』
1974年12月から75年4月までのベトナム戦争最末期に、南ベ
トナム(当時)で戦火のなか全編ロケを敢行。75年7月に完
成はされたものの、その後は一度の公開も行われることなく
幻の作品と言われていたアクション映画。
そのフィルムは長らく行方不明だったが、今年5月に所在が
判明し、現在は公開に向けての準備が進められている。その
作品を特別上映会で鑑賞させてもらった。
舞台は、1975年2月のサイゴン。主人公はその街に駐在する
日本人商社マン。戦争のことは知っているがまだサイゴンの
街中は平穏そのものだ。それより街にはアメリカ軍の落とす
金が目当てのいろいろな輩が巣くっている。主人公もそんな
1人と言える。
そんな主人公の住居に、以前に会社をクビにした現地人の男
が侵入し、主人公は揉み合いの中でその男を殺してしまう。
ここで警察に届けても長く咎められるだけだと判断した主人
公は、その遺体を隠すことにするのだが、そこに男の許嫁と
称する女性が現れる。
しかもその女性は地元の顔役に通じて主人公を追い詰める。
そこで主人公は会社の隠し金を引き出し、現地の恋人と、付
いてきた日系人2世の男と共に、香港行の密航船が出発する
北端の町フエを目指して逃避行を開始するが…。

出演は川津祐介、当時の南ベトナムのNo.1女優で歌手のファ
ン・タイ・タン・ラン。他に磯村健治、ドァン・チャウ・マ
オ。さらに『帰ってきたウルトラマン』のスーツアクターと
しても知られる殺陣師のきくち英一らが脇を固めている。
脚本と監督は、本作の翌年に『犬神家の一族』の脚本を手掛
ける長田紀生。なおスタッフには、本作の後に『南極物語』
『敦煌』を担当する撮影の椎塚章や、助監督として『雨あが
る』の小泉堯史監督の名前も入っていた。
物語は、よくある外地の日本人を描いた作品の一篇と言える
かもしれない。しかし本作は、1975年春の南ベトナムでロケ
ーションされているものであり、その市井の様子が正に実写
で撮されていることが重要と言えるものだ。
そこには、例えばパレスチナの作品で見られるような、戦争
の影に怯えながらも活況な現地の生活ぶりが描かれており、
それは通常の戦争映画で描かれるものとは全く異なるもの。
しかもそれが、本作では実写で撮影されているのだ。
その他にも本作には、戦闘で破壊された寺院の当時の姿(現
在は世界遺産に登録)や、南ベトナムの自然の風景など、貴
重な映像も数多く収められている。しかもこういう撮影状況
でありながら、内容がしっかりエンターテインメントである
ことも注目したい作品だ。

なお上映後に行われた監督との懇談で聞いた話では、女優の
タン・ランについて現ベトナム政府に問い合わせると、戦後
もベトナムに残ったが、何回か脱出を試みた後に死亡したと
いう回答だったとのこと。
ところが実際の彼女はアメリカへの脱出に成功して、現在は
在米ベトナム人社会のカリスマ的存在なのだそうだ。その彼
女も完成した映画は観ておらず、公式上映が行われる際には
来日も要請するとのこと。そこではスタッフ・キャストとの
再会を果たす計画もあり、ここにもドラマが生まれそうだ。



2012年11月18日(日) ダイアナ・ヴリーランド、故郷よ、マーサあるいは…、タリウム少女の…、ももいろそらを、砂漠でサーモン…、しあわせカモン、立川談志

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』
“Diana Vreeland: The Eye Has to Travel”
20世紀後半のファッション界をリードし続けたと言われる、
元ヴォーグ誌編集長ダイアナ・ヴリーランドの生涯を描いた
ドキュメンタリー。
1989年に他界した本人が生前受けたインタヴューを基に、孫
の嫁でありポロ・ラルフ・ローレンなどのPRディレクター
としても知られるリサ・インモルディーノ・ヴリーランドが
初監督で纏めた作品。
僕は、ファッションのことは全く明るくないので、本作につ
いても取り敢えず観るだけというつもりで試写会に行った。
ところが本作には、同時代の多岐に亙る映像などが豊富で、
20世紀のカルチャーを綴った作品として思いの外に楽しめる
ものだった。
そのダイアナは1903年のフランス・パリ生まれ。幼い頃から
ベル・エポックに浸って育った少女は、やがて一家と共にア
メリカに引越、さらに結婚してロンドンに移住。その頃から
ファッション界にも登場し、1936年ハーパース/バザー誌を
皮切りにファッション雑誌の編集に携わることになる。
しかも1963年ヴォーグ誌の編集長に就任してからは、経費に
糸目を付けない大胆な紙面づくりで、従来のファッション雑
誌の概念を打ち破り、カルチャーをも牽引する活躍を繰り広
げて行く。それはモデルとしてシェールを起用したり、ミッ
ク・ジャガーを最初に取り上げたのも彼女だったそうだ。
そして後年には、NYメトロポリタン美術館の顧問としても
多大な足跡を残すことになる。
そんな彼女の活躍ぶりが、インタヴューに答える彼女自身の
姿と関係者へのインタヴュー。さらに家族の写真や当時の記
録映像などと共に綴られて行く。その中には、彼女にモデル
として起用されたアンジェリカ・ヒューストンや、彼女のア
シスタントを勤めていたアリ・マグローなども登場する。
また、彼女をモデルにしたと言われる映画『パリの恋人』と
『ポリー・マグー お前は誰だ』のクリップや、さらにビー
トルズ主演の“A Hard Day's Night”や映画『祇園囃子』の
映像なども挿入されていた。
その他にも、思いも掛けない映像や人物が登場し、特に映画
ファンには納得して楽しめる映像作品というところだ。そし
てその中に彼女の偉大さも充分に描かれていた。

映画ファンなら観ておいて損はない作品と言えそうだ。

『故郷よ』“La terre outragée”
1986年4月26日、ソビエト連邦ウクライナのチェルノブイリ
で発生した原子力発電所事故を題材にしたドラマ作品。
物語は、その事故の当日と10年後の現地の様子を描き、事故
が人々に残した多大な傷跡を描いて行く。
その日、チェルノブイリの町では1組の結婚式が行われてい
た。その披露宴で「百万本のバラ」を熱唱する花嫁。しかし
その会場に「山火事」が発生したとの緊急報が入り、花婿は
花嫁の懇願も虚しく会場を後にする。そしてその花婿は戻ら
なかった。
一方、原子力発電所の技師だったアレクセイは報道に隠され
た意味を知って愕然とする。そして放射能検知器で周囲の異
常を確認する彼だったが、出来ることは傘を買って周囲の人
に配るだけだった。ただ妻と幼い息子だけには、チェルノブ
イリを脱出させることに成功するが。
それから10年後、花嫁はガイドとなって現地に留まり、外国
の調査団などを連れて立入禁止区域の中を案内していた。そ
こには危険を承知で留まっている住人が居たり、他国からの
難民が不法に暮らしていたりもする。
またアレクセイの妻と息子は、ようやく許された現地の訪問
に訪れる。そこには事故の日に植えたリンゴの木も立派に育
っていた。そして事故の当日に災害を最小限に食い止めよう
と活動し殉職した人々の碑を詣でる2人だったが…。
物語には幻想的な要素もあって、それが鋭く観客の心に突き
刺さる。特に結末では原子力災害のもたらす悲劇の大きさが
見事に表されていたと言える作品だ。

出演は、2006年12月紹介『パリ、ジュテーム』などのオルガ
・キュリレンコ。ウクライナ出身の女優は、美し過ぎるとし
て難色を示す監督を説得してこの役を獲得したのだそうだ。
他に、2007年『カティンの森』などのアンジェイ・ヒラらが
脇を固めている。脚本と監督はハミル・ボガニム。本作はイ
スラエル・ハイファ生まれのドキュメンタリー作家による初
の長編劇映画になっている。
チェルノブイリ関連の作品は、昨年8月に『チェルノブイリ
・ハート』と9月に『カリーナの林檎』を紹介しているが、
その長期に亙る災害の様子には、自らの未来を見るような感
じで暗澹たる気持ちになる。
これは決して他山の石とは言え
ない作品だ。

『マーサ、あるいはマーシー・メイ』
“Martha Marcy May Marlene”
前回紹介『レッド・ライト』のエリザベス・オルセン主演で
窮地を逃れようとする若い女性を描いたドラマ作品。
主人公の名前はマーサ。物語は彼女が農場を抜け出し電話を
架けるところから始まる。その彼女がいた農場はあるカルト
集団の住処で、彼女はそこから逃れようとしていたのだ。そ
んな彼女の姿と、カルト集団での生活の様子が描かれる。
それは、最初は孤独だった彼女を温かく迎え入れてくれるも
のだったが、徐々にその危険な本性が表されてくる。そんな
本性に彼女はギリギリで気付くのだが、そこにはすでにマイ
ンドコントロールされた彼女もいた。それらの葛藤が描かれ
て行く。

共演は、2011年8月紹介『ウィンターズ・ボーン』でオスカ
ーノミネートを果たしたジョン・ホークス、2009年3月紹介
『ザ・スピリット』などのサラ・ポールスン、2008年2月紹
介『ジェイン・オースティンの読書会』などのヒュー・ダン
シー、また2008年9月紹介『ファニー・ゲームU.S.A.』
などのブラディ・コーベットらが脇を固めている。
脚本と監督は、2005年のFilmmaker誌で「今後のインディペ
ンデント映画を牽引する25人」に選ばれたというショーン・
ダーキン。彼は2003年に仲間と共に会社を設立し、短編映画
や仲間の作品の製作でも数多くの受賞に輝いている。本作は
そんなダーキンの長編監督第1作となる。
因にダーキンは、本作の前にマーサがカルト集団に連れ込ま
れるまでを描いた短編を400ドルで制作し、その作品がカン
ヌ映画祭の監督週間でグランプリを獲得。同時にマーケット
に出品した本作の脚本が高評価となり、製作に漕ぎ着けたと
のことだ。
カルト集団を描いた作品としては、2011年7月紹介『ドライ
ブ・アングリー』や2007年6月紹介『ウィッカーマン』など
が思い浮かぶが、集団からの離脱を描いた作品では、2003年
5月に紹介した『ホーリー・スモーク』が印象に残る。
ただ2007年作も本作も、離脱に伴う危険などを充分には描き
切れていないようにも感じられ、これはやはり本作の続編を
制作して、その辺も克明に描いて欲しいと思うものだ。


『GFP BUNNY−タリウム少女のプログラム−』
(公開題名:タリウム少女の毒殺日記)
今年の東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で上映さ
れ、同部門の作品賞を受賞した作品。映画祭の作品は本来は
別掲で紹介するものだが、本作は来春一般公開も決定してお
り、外国特派員教会でのQ&A付き特別上映で再度鑑賞をし
たので、改めて紹介する。
物語は2005年に実際に起きた事件をモティーフにしたもの。
ただしそれをそのまま映画化するのではなく、事件を起こし
た少女を2011年に再配置し、そこにさらに現代科学の最前線
の情報も紹介しながら事件を再構成した、言わばメタフィク
ションという感じの作品に仕上げられている。
その事件は、16歳の少女が実の母親にタリウムを飲ませ毒殺
を図ったというもの。しかしその少女は元から科学に強い関
心を持っていたとされ、そのような興味の観点から現代科学
の情報も紹介されて行くものだ。
そこで紹介される現代科学の最前線では、広島大学・住田正
幸教授による「透明ガエル」や、東京女子医科大学・八代嘉
美特任講師による「iPS細胞」の話などがあり、さらに日本
ラエリアンムーブメント・伊藤通朗代表による宗教論なども
紹介されている。
因にQ&Aでの監督の発言によると、住田氏はウェブで画像
を見て直接出演交渉した。SF作家クラブ会員でもある八代
氏は著作を見たことと、友人の友人であった。そして伊藤氏
は以前から興味があって集会などにも参加しており、本作は
3人にも見せたが、伊藤氏は絶賛してくれたとのことだ。
その一方で美容整形の映像なども挿入され、これらのドキュ
メンタリーの部分は物語にいろいろ関りを持つように描かれ
ているものだ。

ドラマ部分の出演は、主役にグラビアアイドルの倉持由香、
母親役には2010年8月紹介『名前のない女たち』などの渡辺
真起子。他に古舘寛治、身体改造アーティストのTakahashi
らが脇を固めている。
監督は、1999年『新しい神様』という長編ドキュメンタリー
作品で、山形国際ドキュメンタリー映画祭・国際批評家連盟
賞特別賞を受賞している土屋豊。
フィクションの作品は初めてのようだが、実はもっと製作費
の高い作品の立ち上げに失敗し、自らを見つめ直して製作費
300万円で本作を制作。現状は赤字で一般公開に向けての宣
伝費などをカンパで集めている状況とのことだ。
作品の見た目はかなり物議を醸しそうなものだが、観終えれ
ば、それなりに作者の言いたいところは判ってくるし、それ
は特に問題になるようなものではない。ただそこに辿り着く
までに多少観客にも覚悟がいるかもしれないという作品だ。


『ももいろそらを』
昨年の東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で上映さ
れ、同部門の作品賞を受賞した作品。以前にも短く紹介して
いるが、本作は来年1月の一般公開が決定し、試写が行われ
てプレス資料も配布されたので改めて紹介する。
映画は、最初に2035年というタイトルが出て、女性のナレー
ションで開幕する。そして主人公は、世間をちょっと斜に見
ている感じの高校1年生の女子。彼女の日課は、新聞の紙面
を記事ごとに採点して、その日の世間を評価することだ。
そんな主人公がある日街で財布を拾う。その財布には大金が
入っていて、一緒にあった学生証から持ち主の住所は判明す
るが、その表札を見て彼女は以前に読んだある記事を思い出
す。その財布は天下り役人の息子の持ち物だったのだ。
そこでモヤモヤを感じた彼女は、街で出会った町工場の経営
者に金の一部を渡してしまったりもするのだが、結局その残
金を返しに行ったとき、息子はある提案を彼女にしてくる。
それは入院している彼の友人のために、明るいニュースだけ
の新聞を作ってくれというものだった。
こうして彼女は、遊び仲間の女子や財布の持ち主の彼も巻き
込んで新聞作りを開始するが…

出演は、いずれも映画は初出演の池田愛、小篠恵奈、藤原令
子。ただし池田と藤原にはテレビドラマの経験が有り、また
小篠は本作の後に今年7月紹介『ふがいない僕は空を見た』
に出演している。他に資生堂などのモデルの高山翼、落語家
の桃月庵白酒らが脇を固めている。
脚本と監督と撮影は、テレビ東京で「ASAYAN」などを手掛け
てきた小林啓一。初監督作にして受賞を果たした本作では、
サンダンス映画祭、ロッテルダム映画祭などにも招待された
ようだ。
なお本作は全編がモノクロで描かれているが、最後のシーン
をパートカラーにすべきかどうか記者会見で質問が出た。そ
の点について監督は、敢えてオマージュとすることを避けた
という回答で、それは納得したものだ。
また僕は若い出演者にシナリオに違和感はなかったか訊いて
みたが、一部には違和感があったそうで、その回答は脚本家
でもある監督を慌てさせていた。「でも役作りで克服した」
とのことで、それも納得した。
因に監督は、女子高生の台詞や描写で事前のリサーチなどは
せず、自分の思い込みだけで脚本を執筆したとのことだ。


『砂漠でサーモン・フィッシング』
“Salmon Fishing in the Yemen”
イギリスで40万部のベストセラーを記録、世界23カ国に翻訳
されたという小説の映画化。
アラビア半島イエメンの大富豪が、自国の川で鮭を釣りたい
と言い出す。もちろんその費用はどれだけ掛かっても構わな
い。しかし依頼を受けた水産学者は、そんなことは生物学上
で不可能と決め付ける。
ところが中東関係を少しでも改善しようとを狙うイギリス政
府は、これをチャンスとばかりに計画の推進を決める。そこ
で無理難題を克服できるかと考え始めた学者は、夢のような
手立てを提案して行くが…

出演は『スター・ウォーズ』シリーズなどのユアン・マクレ
ガー、2010年2月紹介『ウルフマン』などのエミリー・ブラ
ント、2011年9月紹介『サラの鍵』などのクリスティン・ス
コット・トーマス。
さらに2005年12月紹介『シリアナ』に出演のアマール・ワケ
ド、2007年8月紹介『ヴィーナス』に出演のトム・マイスン
らが脇を固めている。
原作は、元水産関係の会社の経営者というポール・トーディ
の第1作。物語は自身の中東や水産学者との体験から紡ぎ出
したもので、その作品は、メモやメール、手紙などで構成さ
れ、映像化はかなり困難と言われていた。
しかしその原作から、2009年1月紹介『スラムドッグ$ミリ
オネア』などのサイモン・ビューフォイが見事に脚色。そし
てその脚本を、「長い映画人生の中で最高の脚本だ」と絶賛
した2002年2月紹介『シッピング・ニュース』などのラッセ
・ハルストレイム監督が映像化したものだ。
物語は、実話に基づくなどといったものではないが、それな
りに現実に即している。しかしそれは科学者の夢とも言える
もので、その点ではファンタスティックな要素もある作品。
それに後半にはVFXを使ったかなりのスペクタクルも用意
されている。

そんな訳で本作は、ファンタスティックな作品が好みの映画
ファンにも楽しんで貰えると思うものだ。そこにコメディや
ロマンス、かなり強烈な政治風刺までもが巧みに織り込まれ
て、正しく大人の楽しめる作品になっている。

『しあわせカモン』
2009年に製作され、地元の岩手県で14000人動員を記録した
ものの、諸般の事情で全国公開の途が閉ざされていた作品。
その作品が、昨年広島県で開催された第1回「お蔵出し映画
祭」に出品されてグランプリを獲得。今年開催の第2回で凱
旋上映が行われ、来年1月の全国公開が決定した。
物語は、岩手県で活動するミュージシャン松本哲也の実話に
基づく。彼の母親は、ふと知り合ったヤクザと結婚して彼を
身籠るが、その後は薬物依存症となり入退院を繰り返す。そ
れでも息子を深く愛し続けることだけは変わらなかった。
その息子は児童養護施設に預けられ、そこでギターを学んで
ミュージシャンを志す。だがその道も平坦なものではない。
そして彼も施設への出入りを繰り返す。しかしそんな彼を母
親の愛情が支え続け、遂にデビューの切符を手にするが…

出演は、2010年10月紹介『ゴースト』などの鈴木砂羽、今年
公開『宇宙刑事ギャバン THE MOVIE』に主演した石垣佑磨。
他に大和田伸也、今井雅之、沢田亜矢子、三浦誠己、大石吾
朗、風祭ゆきらが脇を固めている。
脚本と監督は、テレビドラマの演出部などで数多くの作品を
手掛けている中村大哉の映画デビュー作。音楽は松本哲也が
担当し、主題歌の「ゆきやなぎ」では2003年から離れていた
メジャーフィールドに再デビューすることになっている。
鈴木砂羽は、前半の可愛らしさから後半のボロボロになって
行くまでを実に熱演している。石垣佑磨も、元々音楽の素養
もあるらしく、それらのシーンも巧みに演じているものだ。
しかし観終って何かに引っ掛ってしまった。
それは事前の情報をほとんど入れずに観ていた僕には、例え
ば後半のミュージシャンへの変身が唐突にも感じられたもの
だ。ただしそれは、事前の情報がしっかりあれば良かったの
だろうし、多分観客は承知で観に来る作品だろう。
しかしもう少し考えていて、物語の前半に登場し主人公に絵
を託す少女の存在が蔑ろにされていることに気が付いた。こ
の少女の絵は最後まで登場するものだし、それならそれなり
の話もあっていいのではないかとも感じたものだ。
もちろん本作は実話に基づくものだから、その点は仕方ない
面はあるが、あくまでも映画として仕上げるのなら、その辺
まで気を使って欲しかった感じも持った。どう纏めたら良い
かと言われても、俄かにアイデアは浮かばないが。


『映画・立川談志』
昨年11月他界した落語家立川談志の高座2席と、彼独自の落
語論、さらに生前家族が撮影した映像などを編集した作品。
高座は丸々2席入っているからドキュメンタリーとは言えな
いが、それに先立つインタヴューなどでは、師匠の人となり
なども紹介され、人間ドキュメンタリーとしてもそれなりの
作品になっている。
その師匠が展開する落語論は、今更ながら真剣に落語と対し
ていたことがよく理解でき、ある意味志半ばで逝ってしまわ
れたことが残念にも思えるものになっている。特にその中で
紹介される「黄金餅」の抜粋は、本当ならその前の下りから
聞きたくなるものだが、紹介される部分には正に人間の業が
演じられているものだ。
そして落語チャンチャカチャンを含む「やかん」の高座が紹
介され、さらに家族旅行の風景などが挿入されて、お目当て
の「芝浜」の高座となる。
「芝浜」は、中学生くらいから落語が好きだった僕自身は、
何人かの高座を聞いた記憶がある。それはオーソドックスな
人情噺で、何時もフムフムと聞いていたものだ。しかし生前
の談志師匠の高座は聞いた記憶がなく、今回はそれが最大の
楽しみだった。
そのお話は、落語では著名なものだし、知りたければ本作を
観てもらえば良いが。特に談志版では後半の妻が告白を始め
てからの下りが素晴らしく、聞きながら涙を抑えられなかっ
た。僕自身この話でこんなに泣いた記憶はないから、これは
もしかすると談志師匠の演じ方によるものかもしれない。そ
んなことも考えながら聴き惚れてしまった。

師匠は映画好きだったようで、生前には試写会場で何度か遭
遇したこともある。その中では、作品が何だったかは忘れた
が京橋の試写室で、ほぼ中央に座っていた師匠が映画の途中
で突然立ち上がって出て行ってしまったことがあった。
その際に外からは「詰まんねえんだもん」というような声が
聞こえてきたが、実際に映画は、僕も許されるなら出て行き
たいと思うような作品だったと記憶している。それでも僕は
我慢して最後まで観ている訳だが…
スクリーンの師匠の姿を観ながら、ふとそんなことも思い出
していた。
        *         *
 11月11日のサッカーJ2リーグの最終節で、僕の応援する
湘南ベルマーレがJ1リーグに昇格しました。今年はホーム
&アウェイ42試合の全てを観戦し、自分でも思い出深いシー
ズンでしたが、さらにこのような結果が待っているとは嬉し
い限りでした。
 今年は幸い映画のスケジュールと被ることが少なく、目標
を達成できましたが、来季も許される限り映画とサッカー観
戦を続ける所存ですので、何卒よろしくお願いいたします。



2012年11月11日(日) ユダ、みなさん…、明日の空の…、レッド・ライト、ナイトピープル、ハンガリアン・ラプソディ、塀の中のJC、二つの祖国で+Star Wars

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ユダ』
東京新宿の歌舞伎町で、1夜に1000万円を売り上げたという
カリスマキャバクラ嬢の立花胡桃が2009年に発表した自伝的
小説の映画化。
画面には題名の後、同じ大きさの文字でTHREE YEARS AGOと
表示され、物語がたった3年間の出来事であることが明示さ
れる。それだけで歌舞伎町のトップにのし上がったという女
性の物語。
水商売のサクセスストーリーは、正直眉唾なものが多いし、
本作だってあえて小説とされているのだから、これはフィク
ションなのだろう。そんなある意味キャバクラ嬢の夢が語ら
れている作品だ。
その物語は、埼玉県の高校生が付き合っていた同級生に裏切
られ、しかもその時彼女は妊娠していて、中絶の手術費を稼
ぐために大宮で水商売に就くことになる。そしてその費用は
簡単に稼ぎ出される。
原作者は1981年生まれというから現在31歳、その彼女が18歳
として13年前。まだバブルも多少は残っていた頃なのかな。
今ではこんなに上手く行くとも思えないが、そんな観る者に
とってもある種の夢物語が語られて行くものだ。
それは今の時代には空虚でもあり、今更という感じもしてし
まうが、それが現代人の夢でもある。そんな歪んだ意味での
現代を反映している作品と言えるのかもしれない。まあ一部
にはこんな世界も残っているのかもしれないが。

出演は、今年9月紹介『BUNGO』の中の一遍「乳房」に主演
の水崎綾女。他にEXILEの青柳翔、2009年4月紹介『美代子
阿佐ヶ谷気分』などの水橋研二、北村龍平監督の2008年作品
“Midnight Meat Train”などに出演のNorA。
さらに2008年『最後の早慶戦』などの田島優成、2010年8月
紹介『ふたたび』などの鈴木亮平、同年11月紹介『パラノー
マル・アクティビティ第2章−TOKYO NIGHT−』などの青山
倫子、それに板尾創路らが脇を固めている。
脚本と監督は、2007年『クローズ ZERO』などの助監督を務
め本作で長編監督デビューとなる大富いずみ。また本作はプ
ロデューサーやキャスティングディレクターも女性で、正し
く女性中心に作られた女性のための作品のようだ。

『みなさん、さようなら』
2007年の第19回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞者で
もある久保寺健彦が、同年の第1回パピルス新人賞を受賞し
た小説の映画化。
郊外団地に暮らす主人公が、1981年の小学校の卒業を機に団
地の外に一歩も出ないことを決め、中学校にも行かず、団地
内の洋菓子店に勤めて過ごした約10年間の歳月を描く。そこ
には昭和30年代には時代の花形だった団地生活が、時代の流
れの中で変化して行く様子も描かれる。

出演は、今年7月紹介『東野圭吾ドラマシリーズ“笑”』の
第1笑「モテモテ・スープ」などの濱田岳。他に波瑠、倉科
カナ、永山絢斗。さらにベンガル、田中圭、大塚寧々らが脇
を固めている。
脚本と監督は今年2月紹介『ポテチ』でも濱田と組んでいる
中村義洋。前作は上映時間が68分と短い作品だったが、本作
では2時間を掛けてじっくりと描かれている。
団地の外には一歩も出ないという設定には、世代宇宙船のよ
うなイメージも湧いて、ファンタスティックなムードも感じ
られる。その辺には監督も気を使ってくれているのかなあ、
という感じもする作品だった。
その一方で、時代の中で変化して行く団地の姿は、これは確
かに現実を反映したものではあるが、そこにも何かファンタ
シーの気配も感じられた。これは僕の思い込みかもしれない
が、中村監督には前作でもそんな感じを抱いたものだ。
しかしこの物語が地球上である限りは、ファンタシーはどこ
かで終止符を打たなければならないもので、そこには厳しい
現実が待ち構える。それは観客にも厳しいものになってしま
う恐れがあるのだが…。
この作品の結末には、世代宇宙船が目的の星に到着したよう
な、そんな清々しさも描かれていた。本作は、ファンタシー
でも、ましてやSFでもないけれど、何処かにセンス・オブ
・ワンダーの感じられる。そんな作品だった。
原作者はファンタジー大賞の受賞者だし、監督も2010年6月
紹介『ちょんまげぷりん』のような作品のある人だから、こ
の感じは強ち間違いではないかもしれない。
監督には次回作
も期待したいものだ。

『明日の空の向こうに』“Jutro bedzie lepiej”
昨年2月紹介『木漏れ日の家で』のドロタ・ケンジェジャフ
スカ監督による最新作。
時代は現代。主人公は、ポーランドと国境で接するロシアの
町に暮らす兄弟ともう1人の計3人の浮浪児たち。
その1人がポーランド側へ国境を越えるルートを手に入れ、
3人はそこに向かう旅を開始する。しかし幼い弟はよく事情
が判らないのか、何かと足手纏いだ。それでも3人は何とか
旅を続けて行くが…。
映画には携帯電話も登場して、明らかに現代を背景にしたも
のだが、映し出されるのは冷戦時代を思わせるような風景と
物語。監督はポーランドの人だが、これが近くで見ているロ
シアの現状ということなのだろうか。
そんなちょっとクラシカルとも言える雰囲気の中で、挫折も
あるけど屈託のない子供たちの、それでも何処か未来に希望
を抱かせるような。そんな物語が展開されて行く。

出演は、入念なオーディションの末に選ばれたという10歳と
6歳のエウゲヌイ&オレグ・ルィバという実の兄弟と、11歳
のアフメド・サウダロフ。いずれも演技に関しては素人との
ことだ。
そんな子供たちから女性監督が見事な演技を引き出している
ものだが。特にオレグの自然な笑顔は、僕らの世代の映画フ
ァンには1952年『禁じられた遊び』のポーレットことブリジ
ット・フォッセーの姿を思い出させ、名画を感じさせた。
その他、ロシア、ポーランド国境地帯の見た目は寂しいけど
豊かな自然や、そこに残された途中で廃線になっている鉄道
などの歴史的な遺物が、素晴らしいカメラワークで子供たち
と共に映し出されている作品でもある。
なお映画の中には、「亡命」という一言を言えば事態が進む
のに、子供たちがそれをなかなか言わないもどかしいシーン
があるのだが、日本では元々子供だけの亡命が認められてい
ないはず。それが不法滞在者も増やしているものだ。
しかし世界にはこのような境遇の子供たちも多数存在してい
るもの。このシーンにはポーランド政府の冷たさ以上に日本
政府の冷たさも考えさせられてしまう作品だった。それ以上
に子供の愛らしさも一杯に描かれた作品だが。

世界にはまだまだ僕らの知らないことがある。そんなことも
感じさせる作品だった。

『レッド・ライト』“Red Lights”
自ら特別な能力を持つと称して様々なテクニックで大衆を欺
き、それにより富を得ているインチキ超能力者。そんな「超
能力者」に気鋭の物理学者が挑むサスペンス作品。
主人公は大学で物理学を教える女性教授。その一方で彼女は
ポルターガイスト現象などの超常現象を科学者の見地で解明
し、そのインチキな姿を暴き続けていた。
そんな彼女の前に、30年前に対決し彼女自身が弱みを掴まれ
て敗退せざるを得なかった伝説の超能力者の復活が知らされ
る。それは彼女が途中で調査を打ち切らざるを得なくなる、
そんな苦い経験を持つ相手だった。
そして、彼女の地元のコンサートホールで開かれるショウを
前にテレビ討論に招かれた彼女は、「超能力者」の関係者に
よって心理の隙を突かれ、番組はショウの宣伝でしかないも
のになってしまう。
そして彼女は、博士号も持つ助手に対して、その超能力者と
の関りを頑なに禁じるのだが…。そんな彼女の姿に歯がゆさ
を感じる助手と好奇心旺盛な女子学生は、同じ大学の超能力
研究室で行われた実験のレポートを検証して行く。
そして彼らが見出した真実とは。

出演は、ロバート・デ・ニーロ、シガーニー・ウィーヴァー
の両名優に加えて、2005年『バットマン・ビギンズ』以来の
クリストファー・ノーラン監督とのコラボが多いキリアン・
マーフィ。
他に、日本は来春公開『マーサ、あるいはマーシー・メイ』
でタイトルロールを演じているエリザベス・オルセン、『ハ
リー・ポッター』シリーズのドビーの声優で知られるトビー
・ジョーンズらが脇を固めている。
脚本・監督・製作・編集はスペイン出身のロドリゴ・コルテ
ス。2010年9月紹介『リミット』で絶賛された俊英が、オス
カー俳優を迎えて作り上げた作品だ。
映画の中では様々なインチキ超能力の仕掛けが暴露され、そ
の多くは僕には既知のものだったが、そんなことで騙される
人々への警鐘にもなっている。
現実に日本でも神を自称する宗教家もいるようで、世紀末は
過ぎたのに今だに怪しげな風潮が高まるこの時代に、この作
品はうってつけと言えるものなのだろう。


『ナイトピープル』
直木賞受賞作家・逢坂剛の短編小説「都会の野獣」を映画化
した作品。
プロローグはとある豪邸での強盗事件。事件の被害届の額は
数100万円だが、犯人は床下に隠されたジュラルミンケース
を奪っていた。
そして数年後、主人公が営むちょっとクラシカルなバーに、
1人の女性が職を求めてやってくる。その女性は水商売は未
経験と語るが、その真面目な勤務態度などに主人公は惹かれ
るものを感じて行く。
ところがそこに刑事を名告る男が現れ、男は彼女が強盗犯で
あり、主犯の男を殺して2億円の金を隠していると告げる。
さらに主人公には、金の在り処を聞き出して山分けしようと
持ち掛ける。
こうして男と女の虚々実々の物語が始まるが…

出演は北村一輝、佐藤江梨子、杉本哲太。他に、2006年12月
紹介『蒼き狼/地果て海尽きるまで』などの若村麻由美、昨
年6月紹介『AVN』などの三元雅芸らが脇を固めている。
監督は、2008年3月紹介『休暇』などの門井肇。監督の作品
は2006年12月紹介『棚の隅』から順番に見ているが、本作は
前の2作よりはもう少し娯楽性もあるもので、監督の持つ大
きな可能性も感じさせてくれた。
脚本は、2010年5月紹介『結び目』などの港岳彦。因に脚本
は原作より登場人物を増やし、さらにどんでん返しを足して
いるのだそうで、僕は原作を読んでいないので正確なところ
は判らないが、かなり大胆な脚色のようだ。
そしてその脚本では、題名をシカゴ出身の作家バリー・ギフ
ォードの作品名に由来させるなど、ハードボイルド・ミステ
リーへの様々なオマージュが織り込まれているそうだ。
一方、監督は生前の内藤陳氏と会い、作品への出演を依頼し
ていたのだそうで、そのため本作の冒頭に登場する暴力団の
組織名には「陳(のぶる)会」という名称が付けられている
とのこと。
さらに映画に登場する市街地の銃撃戦は山梨県の某市商店街
で行われているが、実はその場所は実際の暴力団抗争の中心
地とのこと。そのため警察の重点監視も続いている場所で、
そんなリアルな緊迫感も取り込まれた作品になっている。


『クイーン ハンガリアン・ラプソディ』
           “Varázslat - Queen Budapesten”
1986年にヨーロッパで100万人を動員したクィーンの“Magic
Tour”。その中で行われたブダペスト・ネップスタジアムで
のコンサートの模様を撮影した90分の映像と、そのツアーに
向かうメムバーの姿を捉えた25分のドキュメンタリーが併せ
て公開される。
ライヴコンサートの映像は、昨年7月紹介した『A3D』な
ど、特に近年はHDヴィデオによってコンサートの模様を多
角的に捉えた作品も公開されている。しかし本作はHDのな
かった時代の作品。
それが本作では、作品の中でも「東欧は経費が安かった」と
紹介されるが、17台ものフィルムカメラによって記録されて
いる。そしてそのフィルム映像がディジタル・リマスターに
よって劇場の大画面に再現される作品だ。
そのコンサートの模様は、実はロックにはあまり詳しくない
僕としては、前半はただ聞いているだけでしかなかったが、
後半のRadio Ga GaからWe Are the Championに至る、僕でも
耳にしたことのある楽曲では感動を覚えた。
特に最後のWe Are the Championをブダペストの観客たちが
拳を振り上げて大合唱するシーンには、ベルリンの壁崩壊の
3年前の、当時の彼らの心情を考えると、正しく彼らの魂の
叫びが聞こえてくるようにも感じられるものだ。
そしてそれらの楽曲は、5.1chサラウンドにremixされ、これ
も劇場でしか味わえない迫力のサウンドとなっている。その
中ではフレディ・マーキュリーが弾くピアノ演奏などもクリ
アなサウンドで収録されている。
さらに作品の上映には、25分のドキュメンタリーが併映され
るが、そこでは1986年の映画『ハイランダー・悪魔の戦士』
にクィーンが関った経緯なども紹介される。
その中ではラッセル・マルケイ監督へのインタヴューも紹介
され、また個々の楽曲に寄せたメムバーの思いなども詳しく
語られて、映画ファンにも貴重なドキュメンタリーになって
いた。

日本公開は11月24日から、この日は奇しくも1991年に他界し
たフレディ・マーキュリーの命日に当たるそうで、フレディ
の最後のツアーともなったコンサートの映像は、ファンには
最高の贈り物と言えそうだ。

『塀の中のジュリアス・シーザー』“Cesare deve morire”
2001年の映画『復活』でモスクワ国際映画祭グランプリを受
賞したイタリアのパオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟
による最新作。
舞台はローマ郊外にある刑務所。演じられるのはシェイクス
ピアの「ジュリアス・シーザー」。そして演じるのは、その
刑務所に収監されている囚人たち。物語は、その刑務所で実
際に行われている演劇実習プログラムに基づくもので、その
刑務所では毎年その練習の成果としての公演が一般公開され
ているとのことだ。
タヴィアーニ兄弟は、友人からこの演劇のことを教えられ、
訪問してその姿に感動した兄弟は直ちに映画化を考えたとい
う。しかしそれはドキュメンタリーではなく、あくまでドラ
マとして演じられるもの。ただし出演者には、演劇実習と同
じく囚人たちを起用するという計画だ。そしてその演目とし
て「ジュリアス・シーザー」が選ばれた。
それはシェイクスピアの描いた友情と裏切り、殺人と苦悩、
権威と真実などのテーマが受刑者自身に重ね合わされるので
はないかという目論見にもよっている。こうして映画の通り
のオーディション(これは実際のものと同じだそうだ)が刑
務所内で行われ、選ばれた出演者たちによる虚実を取り混ぜ
たドラマが展開されて行く。

出演者は、キャシアス役が終身刑、シーザー役は刑期17年、
ルシアス役も終身刑、アントニー役は刑期26年の囚人たち。
またブルータス役は、昨年8月紹介『ゴモラ』に出演のサル
ヴァトーレ・ストリアーノが演じているが、彼は元刑期14年
の囚人で演技実習によって演劇に目覚め、恩赦による出所後
に俳優になったのだそうだ。
他に舞台監督役は、実際に演技実習の教官を務める舞台俳優
のファビオ・カヴァッリが演じている。
それにしても大胆な内容の作品だが、映画は全編が実際の刑
務所の中で撮影されており、その特異な構造などが巧みに物
語に取り入れられている。それがある種ファンタスティック
にも見えるところが、この作品の上手いところでもありそう
だ。そして結末の辛辣さも見事だった。
なお映画は、当然イタリア語で演じられており、ローマ史劇
が現地の言葉で演じられているものだ。このためシーザーは
チェーザレ、ブルータスはブルートなどになっているが…。
これが字幕では全て英語表記に統一されているのは、ちょっ
と残念な感じもした。それにイタリア各地の方言も字幕には
反映されておらず。それも残念な気分だった。


『二つの祖国で/日系陸軍情報部』
              “MIS Human Secret Weapon”
2010年『422日系部隊‐アメリカ史上最強の陸軍』などの
すずきじゅんいち監督による日系史3部作の最終章。
監督は、2008年『東洋宮武が覗いた世界』で第2次大戦中の
日系人強制収容所の問題を描き。2010年の作品では特にヨー
ロッパ戦線で活躍した日系人部隊を取り上げた。そして本作
では、太平洋戦線で日本軍の通信傍受などの諜報活動に従事
したMIS(Military Intelligence Service)について描
く。
彼らは422部隊と同じく、アメリカ合衆国に忠誠を誓った
日系の人たち。その中でも特に帰米と呼ばれるアメリカ生ま
れでありながら、日本の親戚などに預けられて日本で教育を
受けた人たちがこの業務に従事した。
そして彼らは、通信の傍受の他にも、太平洋戦線で撤退した
日本軍の残した文書の解読や、捕虜の尋問などで日本軍の実
情を探り、また沖縄では洞窟などに隠れた民衆への投降の呼
びかけなども行っている。
さらには、戦後駐留した米軍の中で日本復興の足掛かりを築
いたのも彼らの業績ではないかと語られているものだ。その
中には単独で昭和天皇に面会した人物も、映画の中のインタ
ヴューに登場する。
そこには、422部隊があくまでもアメリカ人として勇猛果
敢に戦った以上に、日本で教育を受け知り合いもいる人たち
の葛藤が描かれている。それは正に兄弟が銃口を向け合うこ
とでもあったのだ。
それにしても、日本兵が「生きて虜囚の辱めを受けない」と
して捕虜になった時の対応の仕方が教えられておらず、尋問
ではちょっと優しくすれば、直ぐに懐柔に応じてしまったと
いう話や、兵士の日記が貴重な資料になったという話。
さらには日本国内で出版された本に、全陸軍の将校の名前や
所属が掲載されていたという話などには、全く日本軍という
のは何をやっていたのかという感じもして、ある意味観てい
て恥ずかしくもなってくる作品だった。
まあそんな稚拙な軍隊だった日本軍の実態が垣間見られるの
も、何かと右傾掛かっている今の日本には薬になりそうな作
品でもあった。反戦論者の僕としても興味深い作品で、中で
は感動もさせられる作品だった。

        *         *
 続報で“Star Wars: Episode VII”の脚本家に、2010年の
『トイ・ストーリー3』を手掛けたマイクル・アーントの起
用が発表された。これはディズニーとルーカスフィルムが公
式に認めたものだ。
 因に、『トイ・ストーリー』シリーズはジョン・ラセター
が作り上げた世界観によるものだが、『3』はその世界観を
見事に踏襲し、より大きな世界観に発展させたもので、その
手腕は高く評価されている。
 今回の“Episode VII”も同様に、ジョージ・ルーカスが
作り上げた世界観を発展させるもので、その手腕に期待が寄
せられるものだ。なお物語は、少なくとも3作分をルーカス
が執筆したとのこと。
 また監督には、マシュー・ヴォーンなどいろいろ名前が挙
がっているようだが、まだ確定の報道はないようだ。



2012年11月04日(日) 東ベルリンから来た女、髑髏城の七人、ブラッド・ウェポン、R2B、スカイフォール、フランケンウィ二ー、青木ケ原+Star Wars/Oscar anim

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『東ベルリンから来た女』“Barbara”
1989年のベルリンの壁崩壊以前のドイツ民主共和国(東ドイ
ツ)を背景にした人間ドラマ。
物語の舞台はバルト海を臨む田舎町の総合病院。主人公は、
東ベルリンの大病院に勤務していたが、西側への移住を申請
したために地方に左遷されてきた女医。そんな彼女には秘密
警察の監視が続いている。
こうして同僚にも心を開かず勤務に就いた女医の許に、矯正
収容施設を逃亡し重態で発見された少女が搬送されてくる。
その少女はダニに咬まれて髄膜炎の恐れがあり、女医たちは
血清を手造りしてそれに対処することになるが…。その一方
で女医は、密かに西側への密航の準備も進めていた。
東西冷戦時代の東ドイツの実態は、今まで映画にもあまり描
かれていなかったような気がする。それはもちろん東側で作
られた作品はあったのだろうが、それが実態を表していたと
は到底思えないものだ。
そして壁崩壊から23年、ようやくその時代を省みる作品が制
作されるようになった。そこには秘密警察や強制収容施設な
ど、その存在は知られていても実態が明らかでなかったもの
や、そんな中でも必死に生きていた人々の姿。それらが外連
もなく描かれた作品。
そしてそこには、愛によって事態に立ち向かう勇気を与えら
れる人間のドラマが描かれていた。

監督は、本作でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞
したクリスティアン・ペッツォルト。2007年の作品でベルリ
ン国際映画祭5部門を受賞した1960年生まれの俊英が、西側
への脱出の過去を持つ女優の言葉に触発されて作り上げた作
品とのことだ。
主演は、ペッツォルト監督の2007年作品でベルリン国際映画
祭銀熊賞(女優賞)を受賞した2011年11月紹介『ブラディ・
パーティ』などのニーナ・ホス。また2010年9月紹介『白い
リボン』のライナー・ボックらが脇を固めている。
秘密警察の描き方などにはステレオタイプな感じもしたが、
いやはやこれが実態だったということなのか。壁の崩壊から
23年、ようやくそれらの実態が僕らの目にも明らかにされる
ときが来たようだ。


『髑髏城の七人』
2011年4月紹介『薔薇とサムライ』に続く、劇団☆新感線の
舞台を撮影した作品。1997年に初演された同劇団の代表作と
も言われる作品の2011年8月公演の舞台が、ゲキ×シネとし
て公開される。
時は戦国時代。織田信長亡き後の天下統一を目指す豊臣秀吉
は、最後の関東攻めを計画していた。しかしそこに秀吉の計
画を阻止せんとする集団が現れる。その名は関東髑髏党。党
首・天魔王の許に結集した軍団は手段を選ばず、その勢力を
拡大していた。
一方、関東一の色里と言われる「無界の里」では極楽太夫が
権勢を誇っていたが、そこはまた「救いの里」とも呼ばれ、
髑髏党の暴虐を逃れた人々も身を寄せていた。そしてそこに
は、ある因縁に手繰り寄せられた2人の侍や、髑髏党に追わ
れる少女の姿もあった。
こうして「無界の里」に集まった七人の男女が、己が未来を
自らの手で掴み取るため、関東髑髏党の拠点・髑髏城に立ち
向かう。しかしそこには数々の魔の手が潜んでいた。

出演は小栗旬、森山未來、早乙女太一、小池栄子、勝地涼、
仲里依紗。他に、高田聖子、粟根まこと、河野まさと、千葉
哲也らが脇を固めている。演出は、劇団☆新感線主宰のいの
うえひでのり、脚本は中島かずきによる作品だ。
元々1997年初演の作品は、2004年に『アカドクロ』『アオド
クロ』としても上演され、その舞台はゲキ×シネの第1弾、
第2弾として2004年、2005年に公開されている。そのオリジ
ナル舞台が2011年に再演され、その舞台が今回はゲキ×シネ
の第10弾として公開されるものだ。
それにしても、立ち回りなどの激しさは今回も変わらずで、
その剣戟を早乙女らは比較的軽やかに演じて見せるが、さす
がに小栗は息も多少上がっている感じかな。しかもそれがス
クリーンに大写しにされる。これは舞台では見られない迫力
にもなっている。
また小池、仲の女優たちも、普段の映画で見るのとは違った
演技で、特に小池が啖呵を切るシーンは、舞台独特のメイク
アップと共にかなりの迫力で演じられていた。それもスクリ
ーンに大写しで楽しめるものだ。
秀吉の関東攻めは、8月に紹介した映画『のぼうの城』でも
描かれたが、本作もまた面白い物語になっていた。


『ブラッド・ウェポン』“逆戰”
2011年10月紹介『密告・者』などのダンテ・ラム監督が、同
作に主演のニコラス・ツェーと、2011年1月紹介『グリーン
・ホーネット』でハリウッド進出を果たした台湾スターのジ
ェイ・チョウを迎えたアクション・スペクタクル。
1980年に根絶が宣言された天然痘ウィルスを巡って、その変
異型新種を用いる国際テロ組織と、その犯罪を阻止する国際
警察との攻防を描いた作品。しかもテロ組織には、幼い頃に
離散した警察一家の兄が加わっていた。
映画は開幕から、ヨルダンを舞台にした変異型新種の生みの
親の科学者の身柄を奪い合う攻防戦が繰り広げられ、そこか
らウィルスをさらに進化させるための科学者の奪い合いや、
ウィルスを使ったテロ事件など様々な要素が描かれる。
細菌兵器を描く作品は、最近ちょっと見掛けなくなっていた
感じだったが、久しぶりに大型の作品が登場した。しかもア
クションも満載で、特にクライマックスでは、正しく目を見
張る見事なシーンも展開される作品だ。

共演は、2010年9月紹介『ラスト・ソルジャー』に出演のリ
ン・ポン、2011年9月紹介『新少林寺』などのバイ・ビン。
他に、2011年5月紹介『酔拳』などのアンディ・オン、『密
告・者』のリウ・カイチーらが脇を固めている。
製作費には香港映画史上空前の2億香港ドルが費やされたと
いう作品で、プロローグの中東での攻防戦や、途中に挿入さ
れるカーチェイスでも次々に車両が破壊される。さらに海上
シーンや見事なクライマックスシーンなど、兎にも角にもア
クションがてんこ盛りの作品だ。
ただここまで描きかれると、途中の人間ドラマも不要じゃな
いかとも思えてくる作品で、折角のツェーとチョウの共演が
多少勿体無くも感じられてしまった。もちろん贅沢な話では
あるのだが。
それにしても、クライマックスのアクションはCGIなども
多用されていると思うが、実写との連携も見事で、極めて巧
みに作られていた。これは香港映画の実力を教えられる作品
にもなっている。

公開は12月22日から、上映時間2時間3分は、正月映画にも
似合う堂々とした作品だ。

『リターン・トゥ・ベース』“알투비:리턴투베이스”
北朝鮮と対峙する韓国空軍を舞台にしたスカイ・アクション
作品。
主人公は、空軍特殊飛行チーム「ブラック・イーグルス」に
史上最年少で選抜されたという天才パイロット。しかしその
思い上がりで晴れの舞台の航空ショーを台なしにし、戦闘航
空隊に左遷されてしまう。そこは国家の空を最前線で守る実
戦部隊だった。
しかしそんな中でも実力を誇示してチームに復帰したい主人
公だったが、その前に「トップ・ガン」と呼ばれる先輩が立
ちはだかる。そして飛行対決で初めての敗北を喫した主人公
は、各部隊の精鋭が集まる射撃大会での優勝を目指し、女性
のエース整備士を自機の整備に指名するが…
帰順と見せかけて侵入した北朝鮮機とのソウル上空での空中
戦や、北朝鮮に不時着した戦闘機パイロットの救出作戦。そ
してその背後で進む北朝鮮のクーデターなど、南北全面戦争
の危機も孕んだ状況が、主人公らの敢行する7分間の作戦に
集約されて行く。

出演は、歌手RAINでも知られる2010年2月紹介『ニンジャ・
アサシン』などのチョン・ジフ。他に、2010年10月紹介『黒
く濁る村』などのユ・ジュンサン、今年2月紹介『青い塩』
などのシン・セギョンらが脇を固めている。
なお戦闘機の飛行シーンの撮影には、『ダークナイト』『イ
ンセプション』なども手掛けたハリウッドのエリアル撮影ス
タッフが参加し、登場するF-15K、TA-50などの飛行シーンが
1週間にわたって撮影されたそうだ。
とは言え、ソウル上空でのドッグファイトなど撮れるはずは
ないが…。ここでも背景の高層ビルなどは実際のその位置に
ヘリコプターを飛ばして撮影された映像が基本になっている
そうで、そのリアルさはかなりのものになっている。
因に、一緒に紹介した『ブラッド・ウェポン』にもよく似た
シーンが登場しているが、どちらもかなりの出来栄え。香港
と韓国の両作を比較して観るのも一興という感じだった。
それにしても、北朝鮮軍の動きなどはかなり微妙な感じもす
るが、韓国の国民は常にこういう状況の中に暮らしていると
いうことなのだろうか。そんな日本とは違う感覚も突き付け
られる感じの作品だった。


『007スカイフォール』“Skyfall”
シリーズ誕生50周年記念作品で、10月25日にはロンドンでの
ロイアルプレミアも行われたシリーズ第23作。
ダニエル・クレイグの主演では3作目となるが、前2作の物
語が連続ものであったのに対して本作では区切りをつけて、
新たな007のシリーズの開幕にもなっている。因に本作の
ストーリーを手掛けたジョン・ローガンには、第24、25作の
契約も行われたようだ。
その物語は、イスタンブールでの007の活動から始まる。
それはカーチェイスや疾走する列車上での戦いへと続く。そ
して本来ならここで007ロゴになるのだが…。次のシーン
ではロンドンのMI6本部が襲撃され、007の直接の上司
であるMは辛くもその難を逃れることになる。
その襲撃には、007がイスタンブールで奪還に失敗した機
密情報が関っていた。そして007が任務に復帰するが…。
一方でイギリス国内には、現代社会に秘密諜報機関は不要だ
とする論議が巻き起こる。そんな逆風の中、007は自らの
過去にも対峙する任務を遂行することになる。
クレイグの主演は3作目だが、映画にはそれ以前のシリーズ
にも関る様々な要素が登場し、長年のファンを楽しませてく
れる。しかし物語自体は、全く新しく開幕するもので、その
点は新たな観客にも心配なく楽しんでもらえる作品だ。
とは言え、ジェームズ・ボンドのテーマと共に登場するある
物や、そこでのボンドの行動には思わずニヤリとしてしまう
シーンも満載だった。

共演は、2008年『ノーカントリー』でオスカー助演賞受賞の
ハビエル・バルデム、2011年5月紹介『おじいさんと草原の
小学校』などのナオミ・ハリス、2011年12月紹介『英雄の証
明』で監督デビューも果たしたレイフ・ファインズ、2007年
1月紹介『パフューム』などのベン・ウィンショー、そして
アルバート・フィニー。またジュディ・デンチも登場する。
監督は、1999年『アメリカン・ビューティ』でオスカー監督
賞に輝いたサム・メンデス。本シリーズをオスカー監督が担
当するのは初めてのことだが、イギリス出身の監督は元から
シリーズの大ファンだったそうだ。そして人間ドラマも巧み
な監督は、2時間23分の大作を息もつかせぬ演出で完璧に仕
上げている。
映画には懐かしいキャラクターも再登場し、本格的な007
の再始動となるようだ。


『フランケンウィ二ー』“Frankenweenie”
ティム・バートン監督が1984年の修行時代に発表した30分の
実写短編作品を、ストップモーションアニメーションで長編
再映画化した作品。
ヴィクターは、町外れの丘に風車の回る郊外の町ニュー・オ
ランダに暮らす10歳の小学生。科学と映画が好きで、愛犬ス
パーキーを主人公にした怪獣映画は、両親も喝采する見事な
出来栄えだ。しかし、その愛犬以外には友達もあまりいない
孤独な性格がちょっと心配だ。
そんなある日、父の勧めで野球に参加したヴィクターは強豪
投手からホームランを打つ。ところがその打球を追って道に
飛び出したスパーキーが…。その衝撃から立ち直れないヴィ
クターは科学の授業をヒントにある嵐の夜、禁断の実験を試
みる。その実験は見事な成果をもたらすが。
物語は、かなり完璧に「フランケンシュタイン」をトレース
したもので、その物語が少年を主人公に巧みに語られる。た
だしモンスターは犬だが、その無邪気さが原作のモンスター
の無垢な心とも呼応して、原作の素晴らしさが見事に再現さ
れてもいるものだ。
また、そこにはバートン監督の自伝的な要素も含まれている
とのことで、内向的な少年の夢物語が、素晴らしい愛情に彩
られて見事に描かれている。さらにそこには、バートン監督
が観続けてきたいろいろな映画へのオマージュも一杯に込め
られていたようだ。

原案と製作もバートン監督が務めるが、脚本には今年5月紹
介『ダーク・シャドウ』などバートン監督と長年の盟友で、
2000年『チャーリーズ・エンジェル』なども手掛けたジョン
・オーガストが起用されている。でも基本はバートン監督の
思いが描かれているものだろう。
なお、日本公開では吹替版も上映されるが、オリジナル版の
声優は共に子役で、2007年12月紹介『アイ・アム・レジェン
ド』などのチャーリー・ターハンと、2008年7月紹介『ハン
コック』などのアッティカス・シェイファー。
他に、バートン監督とは1990年『シザーハンズ』以来となる
ウィノナ・ライダー、1994年の『エド・ウッド』でオスカー
受賞のマーティン・ランドー、1993年『ナイトメア・ビフォ
ア・クリスマス』などのキャサリン・オハラ、1996年『マー
ズ・アタック』などのマーティン・ショート。
またクリストファー・リーが、主人公が観ている映画に登場
していた。

『青木ケ原』
石原慎太郎企画・原作による富士山麓の青木ケ原樹海を舞台
にした作品。
主人公は、山麓でペンションを営む男性。元は刑事で現在は
町議も務めている身だが、毎年樹海で行われる遺体の一斉搜
索には必ず参加しているようだ。そして今回は、その前日に
行きつけのバーで知り合った男も同行していた。
そして始まった一斉捜索では次々に遺体が発見され、そんな
中でふと脇道に逸れた男の跡を追った主人公は、岩陰に倒れ
たその男の遺体を発見する。それは死んでから何年か経って
いるものだった。
こうして幽霊にまでなって自分の死に場所を知らせた男に、
多少の違和感は持ちながらも供養した思う主人公だったが、
その後も男の幽霊は度々彼の前に現れ続ける。その姿に何か
あると感じた主人公は調査を始めるが…。

出演は、勝野洋、前田亜季、矢柴俊博。他に、ガレッジセー
ル・ゴリ、二木てるみ、左とん平、津川雅彦らが脇を固めて
いる。脚本・監督は、石原とは1997年の『秘祭』、2007年の
『俺は、君のためにこそ死ににゆく』でも組んでいる新城卓
が担当。
東京都民として石原都知事の行政にはいささか辟易している
ところもあるし、2007年の作品は最初から観る気も起こらな
かったものだが、本作は先の第25回東京国際映画祭の特別招
待作品で、幽霊話という情報もあって観ようと思った。
その内容は題名から類推されるように、僕の嫌いなテーマで
はあったが、作品はそれを巧みにサスペンスに昇華させ、さ
らに男女の純愛にすり替えて行く辺りは、さすがと言えるも
のになっていた。
ただまあ、テーマが多少綺麗事のように描かれているのは、
「現代に問い掛ける」とする制作意図とどうなの? という
疑問も感じたが、そのテーマが前面には押し出されていなか
ったし、この程度は仕方ないものかもしれない。
一方、演技者では勝野の捜査ぶりには、昔の姿も彷彿とさせ
て、ニヤリとしてしまうところ。またゴリが途中で行う縦笛
の演奏には、思わず聞き惚れてしまった。指運びもしっかり
として吹き替えには見えなかったが、これは意外な才能か。
樹海や風穴の風景もそれなりに描かれていたし、作品の全体
は満足できるものだった。

        *         *
 ニュースは、前回の続報というか、もう少し詳しい情報を
報告しよう。
 まず“Star Wars: Episode VII”の製作に関しては、ルー
カスフィルムの共同経営者で、ルーカスの長年の盟友である
キャスリーン・ケネディが製作総指揮を担当し、ルーカスは
クリエイティヴコンサルタントとして参加となっている。
 因にケネディは、『E.T.』以降のスピルバーグ作品や、
その流れで『インディ・ジョーンズ』なども製作しており、
ルーカスフィルムの王道の作品にはうってつけの人物と言え
る。なおケネディは同時にルーカスフィルムの単独の経営者
にも就任するようだ。
 そしてディズニーの発表後に流れた情報では、ルーカスが
8月にマーク・ハミル、キャリー・フィッシャーと会食して
いたとのことで、その会食では最初にルーカスから自身の引
退の話と、「シスの復讐」→「新たなる希望」の間を繋ぐ実
写版TVシリーズの構想が話されたあとで、突然「Episode
VII、VIII、IXを作る」と切り出されたのだそうだ。
 その瞬間ハミルは、「何てこと言うの」と口走ったそうだ
が、ルーカスは「誰よりも先に2人に知っておいて欲しかっ
た。でも公表されるまでは内緒だよ」と釘も刺されたとのこ
と。またルーカスはすでに脚本家との話し合いが行われたこ
とと、ルーカス自身は監督はしないとも語ったそうだ。
 一方、ケネディからは、すでに脚本家と監督は契約段階に
入っていることや、物語は出来上がっているとの発言も出さ
れているようだ。その脚本家と監督が誰なのかは不明だが、
2015年の公開ということは、VFXなどに当てる時間も考え
ると、来年早々にも撮影開始となるはずで、その前のキャス
ティングには当然脚本が準備されていなければならない。
 物語は出来ているにしても、そこからの脚本や、セット、
衣装のデザインなど、ここからの時間との競争は厳しいもの
になりそうだ。
        *         *
 もう1つニュースは、来年2月のアカデミー賞に向けて、
長編アニメーション部門の予備登録が発表された。これは今
後の候補作選出に向けた最初のリストになるものだが、今回
の登録本数は21本、この結果最終候補は最大5本が選ばれる
ことになった。
 その登録作品は、英語題名のアルファベット順に、
“Adventures in Zambezia”
『メリダと恐ろしの森』
“Delhi Safari”
『ロラックスおじさんの秘密の種』
『フランケンウィ二ー』
『コクリコ坂から』
“Hey Krishna”
『モンスター・ホテル』
『アイス・エイジ4 パイレーツ大冒険』
『ある嘘つきの物語』(東京国際映画祭上映)
『マダガスカル3』
『神秘の法』
“The Painting”
“ParaNorman”
“The Pirates! Band of Misfits”
“The Rabbi's Cat”
“Rise of the Guardians”
“Secret of the Wings”
“Walter & Tandoori's Christmas”
“Wreck-It Ralph”
“Zarafa”
となっており、中にはこれから公開の作品もあるようだが、
とりあえずこの中からオスカー受賞が決定する。


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井口健二