| 2012年10月28日(日) |
第25回東京国際映画祭+臨時ニュース |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は、10月20日から28日まで行われていた第25回東京※ ※国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。なお、※ ※紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は最少※ ※限に留めているつもりですが、多少は書いている場合も※ ※ありますので、読まれる方はご注意下さい。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 《コンペティション部門》 『テセウスの船』“Ship of Theseus” 題名はギリシャ神話に登場する船に由来し、部品を全て交換 した船が元の船と同じと言えるのかというパラドックスのこ と。そして映画では臓器移植を巡る3つの話が描かれる。そ の1話目は映像も美しく素晴らしかったが、2話目は皮肉が 強くて食傷気味、3話目はテーマも離れて、映画の全体では 結局何が言いたいのか判らなくなった。1、2話目は良いの でこれに沿った3話目を作るか、3話目の主張をしたいのな ら、これだけで独立した作品にすべきたっだと思う。
『風水』“万箭穿心” 夫の働きで大きなアパートに引っ越してきた夫婦。しかしそ の引越から波風が立ち始め、2人の心は離れて行く。それは 引越した先の風水の影響とも言われるが…。ドラマとしては 面白かった。風水を信じることへのアンチテーゼとも取れる が、そこへの持って行き方が巧みで嫌味も少ない。女性の強 さも見事に描かれていて、それは男性の僕が見ていても敬服 する感じだった。それに対する男性は…、これも現代を描い ている作品だろう。
『アクセッション−増殖−』“Accession” 南アフリカの貧民街を舞台に、自らの罹病を疑った若者が、 風説を信じてある恐ろしい行動に出る。若者の無知が引き起 こす愚かな出来事。コンペ作品では時折極めて不快な作品に 出会すが、今年はこの作品がそれに当る。言論の自由は守ら れるべきものだが、「世の中には言っていいことと、言って も仕方がないことがある」とは僕の先輩の言葉で、本作の内 容もわざわざ言う必要もないし、それが観客に何かをもたら すものでもない。ただ不快なだけだった。
『シージャック』“Kapringen” 貨物船がインド洋で海賊に襲われる。その本社との身代金交 渉の顛末を描いた作品。背景には日本の津波の話などもあっ て、それなりの興味は惹かれたが、話の全体がダラダラとし てドラマに新鮮味もない。特に食料が足りなくなる不安は、 最初に問題として語られるが、それ以後の解決策が魚釣りだ けではおかしいだろう。金の引渡し方法も最初の話と違って いた。主人公がコックというのには『沈黙の戦艦』を思い出 したが、そういう話でもなかった。
『黒い四角』“�郢由僉� 日本人監督が中国で撮影した作品。売れない画家の前に黒く 四角い物体が出現し、やがて画家は謎の男と巡り会う。物体 はモノリスを想起させるが、男の存在には『地球に落ちて来 た男』が思い出された。そうなるとその男の出自が気になる ところだが、それがこの話では…。しかもその話と全体の物 語との関連も意味不明。それはただの思いつきだけで描くよ うな話ではない。因に今回の審査員の1人は、ニコラス・ロ ーグ監督の息子だそうだ。
『未熟な犯罪者』“범죄소년” 主人公は16歳の少年。すでに保護観察中で、音声認識による 居場所の確認が義務付けられているようだ。そんな少年が集 団窃盗に関わり、今回は少年院送りとなる。そこで少年は、 死んだものと思っていた母親の生存を教えられるが…。未熟 な母親と未熟な少年、そんな2人が再会して新たな生活が始 まる。この作品もドラマが巧みで、今の日本でもありそうな 物語が展開されて行く。さすが実力のある韓国映画という感 じがした。
『もうひとりの息子』“Le fils de l'Autre” パレスチナ問題が背景の物語。同じ日に生まれたイスラエル 軍人の息子とパレスチナ人の息子が、病院で取り違えられて いた。しかもその事実が軍人の息子の兵役検査で発覚する。 物語はフィクションだろうが、このシチュエーションには感 心した。さらにそこからの展開も巧みで、パレスチナ問題や ユダヤ教の話などが、部外者の我々にも解り易く描かれて行 く。特に軍人の息子の宗教問題や、パレスチナ人の息子の行 動には、思わず納得したりニヤリともさせられた。またパレ スチナ人の兄の存在には緊張もするし、その兄や軍人である 父親の心理も巧みに描かれていた。対する2人の母親の存在 も見事に描かれていた。パレスチナ問題を描いた作品では、 昨年の『ガザを飛ぶブタ』に続いて秀作に出会えた。
『ニーナ』“Nina” バカンス中の都会に残ったヒロインをめぐる物語。主人公は 声楽の指導などを行っているが、東洋に関して特別な思いが あるらしく毛筆の習字を習ったりもしている。その主人公の 思いや、バカンスの人影も少ないローマの風景が、一部は幻 想的な雰囲気も漂わせて描かれる。とは言うものの、この作 品も言葉足らずな感じで、観ていてその制作意図が充分に把 握できなかった。最後に登場する巨大な折り紙などには、そ れなりのインパクトはあったが。
『ティモール島アタンブア39℃』“Atambua 39⁰Celsius” 2002年にインドネシアの支配を逃れ独立した東ティモール。 その際に住民投票によってインドネシア側に残った町を出て 東ティモールに移った父子と、町に残った母子を巡る物語。 国境の線引きにより分断された家族の話は、韓国だとその状 況も判り易いが、東ティモールの情勢というのが正確には判 らない。現実はパスポートさえあれば自由に往来できるよう だが、父親は頑なに妻のいるインドネシア側に行こうとしな い。その意味が理解できなかった。
『ハンナ・アーレント(原題)』“Hannah Arendt” 1961年にイスラエルで行われたアイヒマン裁判を雑誌の依頼 で取材し、アイヒマンに罪はないとの記事を寄稿して物議を 醸したユダヤ人女性作家の姿を描いた作品。哲学者でもあっ た女流作家は、「命令に従っただけ」というアイヒマンの言 葉に真実を見出し、その哲学的意味を語って行く。映画では かなり高尚な哲学論議が展開され、それは意味深い作品にな っている。しかし限られた上映時間でそれは言い尽くされた ものではなく、限界も感じられた。
『イエロー』“Yellow” ニューヨークに暮らす女性の現実と幻想を描いた作品。それ らが精神科医との対話から、ミュージカル、レヴュー、アニ メーションとの合成に至るまで、様々なヴィジュアルに彩ら れて豪華絢爛に描かれる。監督は『きみに読む物語』などの ニック・カサヴェテス。すでに実績のある監督が、かなり実 験的な手法で挑んだ作品で、多分今だからこそできるという 気持ちだったのだろう。元々結論の出る物語ではないが、何 か中途半端な感じも否めなかった。
『フラッシュバックメモリーズ 3D』 ディジュリドゥという管楽器の演奏者で、2009年の交通事故 により記憶障害に陥っている男性の姿を追ったドキュメンタ リー。そのライヴシーンを3Dで撮影した映像の背景に、過 去の演奏シーンの映像やスナップ写真などが合成され、3D ヴィジュアル的には面白い。ただ、監督は記者会見で3Dの 意義なども話していたようだが、映画で引用される日記によ ると監督との打ち合わせは2011年12月、ライブシーンの3D 撮影は2011年10月となっており、矛盾が感じられた。
『天と地の間のどこか』“Araf” 時折吹雪にもなる寒々とした工場地帯とその街道沿いに建つ カフェを背景に、男女の交流が描かれる。女性は青年の思い に気づいているが、何故か行きずりの男に惹かれてしまう。 そして思いの遂げられない青年は事件を起こし、女性の運命 も翻弄される。やるせない物語は古典的でもあり、また現代 にも通じるものになっている。ただ寒々とした背景が、最近 の映画では見慣れたものにもなっており、その点では多少の 物足りなさも感じられてしまった。
『NO』“NO” 1988年、ピノチェトによるチリの軍事独裁政権を国民投票に より打倒した宣伝マンの姿を描いた作品。国民投票は国連の 主導で行われたが、反対派が過半数の国民は投票の公正性を 信じられず、75%が棄権を表明している。そんな状況下で見 事に国民の意識を高揚させ、政権打倒に導く宣伝戦略が展開 される。作品には当時の映像も駆使され、その映像の中に主 人公たちの姿が描かれる。なお、当時の映像の中にクリスト ファー・リーヴの姿が見られるのも貴重だった。
『メイジーの知ったこと』“What Maisie Knew” ミュージシャンの母親と実業家の父親の間に挟まれた少女の 物語。両親は喧嘩が絶えず遂に離婚となってしまうが、母親 はツアーで忙しく、父親も海外出張が続く。そこに実は父親 の愛人だった元のナニーと母親の新しい恋人が登場して…。 如何にもアメリカにありそうだが、他所から見ると常識外れ な家庭が描かれる。それをまた上手く纏めるのがハリウッド 映画という感じの作品だ。出演者にも錚錚たる顔ぶれが揃っ ていた。 * * という以上15本のコンペティション作品だが、今年も僕は 事前試写の案内を貰えず、鑑賞は会期中となった。しかも、 今年は3D作品などの関係もあって、いわゆるマスコミ向け の専用上映だけでは全作を鑑賞することが困難となった。し かし一応は映画祭の顔であるコンペ作品だけは何とかしよう と思い、かなりの無理をして制覇したものだ。 ただ、今年は紹介文にもある通りかなり不快な作品もあっ て最初はメゲかけたりもしたが、何とか最後まで頑張れたも のだ。なお紹介文は鑑賞順に掲載している。 それで映画祭の受賞は、 東京 サクラ グランプリ 『もうひとりの息子』 審査員特別賞 『未熟な犯罪者』 監督賞 ロレーヌ・レヴィ『もうひとりの息子』 女優賞 ネスリハン・アタギュル『天と地の間のどこか』 男優賞 ソ・ヨンジュ『未熟な犯罪者』 芸術貢献賞 『テセウスの船』 観客賞 『フラッシュバックメモリーズ 3D』 となったが、今年は概ね納得という感じの選出だった。 特にグランプリと監督賞の受賞は全く文句がない。ただ、 観客賞は如何にも俗受けを狙ったという感じの作品で、それ が観客賞というのも納得できる結果だった。 なお、コンペ以外の13作品については後日改めて紹介する 予定です。 * * その前に今回は臨時ニュースをひとつ。 俄には信じられない情報で、“Star Wars: Episode VII” の2015年公開と、それに続く2作品の制作が発表された。 これは10月30日付でディズニー本社が発表したもので、同 社が40億5000万ドルを投じてジョージ・ルーカスが個人所有 するルーカスフィルムの買収に合意したもの。それに伴い同 社は『スター・ウォーズ』『インディ・ジョーンズ』などの シリーズの全権利を獲得し、その権利に基づいて上記の公開 ・制作を公式に発表したものだ。 元々『スター・ウォーズ』の全貌に関しては、3部作×3 で全9部作になるという情報が何度も紹介されていたものだ が、1999年の『ファントム・メナス』公開の折にルーカスは 「そのような計画はない」と断言してしまっていた。これに 対して僕らは大きな失望感を味わったものだ。しかし今回の 発表で、その経緯がどうであれ、ついに長年の夢が叶うこと になりそうだ。 なお詳細については未発表なので、これからも情報に目を 光らせていくことにしたい。 (この項は10月31日に更新しました)
| 2012年10月21日(日) |
もうひとりのシェイクスピア、マリーゴールド・ホテル、009、フリーランサー、みせものやさん、阿賀に生きる、96時間リベンジ、PA4 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『もうひとりのシェイクスピア』“Anonymous” 2009年11月紹介『2012』などのローランド・エメリッヒ監督 が、イギリスの文豪シェークスピアの謎に挑んだ歴史作品。 時は16世紀。エリザベス一世統治下のロンドンでは、演劇が 新たな時代を開こうとしていた。しかし政治風刺なども盛り 込まれた演劇には、眉を顰めるものもいた。その筆頭は時の 宰相セシル卿とその息子のロバート。 そんな芝居をオックスフォード伯エドワードは友人に誘われ 観に来ていた。ところがそこに兵士が乱入し、芝居は中止、 作者や役者、観客までもが取り押さえられてしまう。しかし その様子に演劇の持つ力を知ったエドワードは… 元々エドワードには、幼い頃から劇作の才能があり、それは まだ若き日のエリザベスの前でも演じられていたもの。そし てエドワードは、劇作家のジョンソンを釈放して屋敷に呼び 出し、手渡す戯曲を匿名で公演するように依頼する。 その表紙には「ヘンリー5世」と記されていた。 シェークスピア=オックスフォード伯説というのは元々ある もののようだが、本作ではそこからさらに壮大な歴史の秘密 が展開される。それは正に歴史のファンタシーと呼んでも良 いくらいのもので、成程これならエメリッヒがやってもいい だろうと思えたものだ。 因にエメリッヒは、10年以上も前からこの物語の映画化を希 望していたのだそうで、特撮大作の名手ともされる監督が、 正しく満を持して制作に踏み切ったと言える作品だ。 そしてその脚本は、テレビ『バンド・オブ・ブラザース』な どのジョン・オーロフが担当(彼も同様の企画を長年温めて いたのだそうだ)。エメリッヒと共に見事に歴史の謎を描き 切っている。 出演は、『アメイジング・スパイダーマン』などのリス・エ ヴァンス。またヴァネッサ・レッドグレイヴと実の娘のジョ エリー・リチャードスンが2つの世代のエリザベスを演じる のも話題になりそうだ。 そしてこの作品では、VFXを駆使して再現された16世紀の ロンドンの景観も堪能できる。それは街並みからテムズ川を 行き交う船舶まで多岐に渡るもので、これにはジェームズ・ キャメロンが『タイタニック』で言われた、「タイムマシン で撮ってきたようだ」という言葉も思い出した。 VFXは、エメリッヒ監督の2004年『デイ・アフター・トゥ モロー』や、2009年『2012』も手掛けたマーク・ワガートが 担当している。
『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』 “The Best Exotic Marigold Hotel” 2005年『プライドと偏見』の脚本を手掛けたことでも知られ る人気作家デボラ・モガーの小説“These Foolish Things” を、2006年“Imagine Me & You”という作品で脚本・監督を 手掛けたオル・パーカーの脚本、2005年11月紹介『プルーフ ・オブ・マイ・ライフ』などのジョン・マッデン監督で映画 化した作品。 全体としてはアンサンブル劇のような構成になっているが、 その主人公の1人イヴリンは40年連れ添った夫を亡くしたば かり。しかしその間ただ従ってきただけの彼女に残されたの は多額の負債だけだった。そのため住まいも失ったイヴリン は新たな旅を開始する。 その他、最高裁判事を辞職した男性や、公務員を定年退職し た夫と文句ばかり言っているその妻。さらに人種偏見を持っ ているが、長年の仕事で痛めた腰の手術を安価に受けるため にその国を訪れる女性など、総計7人のいずれも人生の終盤 を迎える男女が旅の同行者だ。 そして男女がやって来たのはインドのジャイプール。そこに は介護設備の整ったリゾートホテルがあるはずだったが…。 あったのはまだ改装中の古びたホテル。そこはインド人の若 者が父親から引き継いだもので、そこで彼は父が夢見たホテ ルを実現しようとしていたのだ。だがその経営は資金難で、 新たな出資者も見つからず、正に風前の灯だった。 物語は予想通り、母国では夢もなく老いを迎えるだけだった 男女が、自らは資質と思わなかった経験を活かして、新たな 国で新たな人生を開幕させる…というもの。それはまあかな り夢物語ではあるけれど、そんなお話が活気溢れるインドの 風景の中で、嫌味なく語られているものだ。 出演は、デームの称号を持つジュディ・ディンチとマギー・ スミス。さらにビル・ナイ、トム・ウィルキンスン、2003年 11月5日付「東京国際映画祭」で紹介『カレンダー・ガール ズ』などのペネロープ・ウィルトンとセリア・イムリー。そ して舞台俳優のロナルド・ピックアップ。 また『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテルがホテル の若き経営者役で出演している。
『009 RE:CYBORG』 1964年に雑誌連載が開始され、アニメーション作品でも人気 を博した「サイボーグ009」を、フルCGIによる3Dで 映像化した作品。なお原作は、1998年の作者石ノ森章太郎の 死去によって未完に終っているが、本作は作者の残した構想 に基づく完結編として描かれている。 物語の舞台は2013年。六本木ヒルズのマンションに暮らす高 校生の島村ジョーは、世界各国で頻発する高層ビル爆破テロ 事件の報道に「先を越された」と呟く。そして手製の爆弾を 抱えてタワービルに向かったジョーは、セキュリティも掻い 潜って展望台に赴くが… そのビルに向かって米軍機からミサイルが発射され、その混 乱の中でジョーは自分の出自を思い出す。かくしてギルモア 博士の研究所に参集した00ナンバーのサイボーグたちは、 「彼の声」と呼ばれる新たな敵と戦うことになる。それは人 類の未来に関わる戦いだった。 本作の物語では、9・11の事件以降、サイボーグたちは任を 解かれ、各自の祖国に帰って一般生活に戻っていたようだ。 しかし島村ジョーだけは記憶を消され、さらに3年ごとに記 憶をリセットされて高校生活を繰り返していた。そんなジョ ーの記憶が戻ることから物語は始まる。 そして物語は、アメリカ国防総省やイスタンブールのギルモ ア研究所、ドバイの高層ビル街などに広がり、さらに海底か ら成層圏の亜宇宙空間まで、正に全地球規模での戦いが描か れて行くものだ。 脚本と監督は、2009年『東のエデン』などの神山健治。先の 作品は第1部だけしか試写が観られず、そのため当ページで は紹介できなかった。しかし第1部の印象は、かなり壮大な 物語だったと記憶している。 そんな監督が脚本から手掛けた本作は、テーマの壮大さなど は申し分がなく、そのため多少重くなる部分はあるが、バト ルシーンのスピード感あふれる演出などは、正しく劇場で堪 能したくなる映像で描かれていた。 そして本作では、フルCGIだがセルルックの3Dアニメー ションという、ちょっと変わった挑戦も行われており、セル アニメーションの3D化は『ライオンキング』でも完璧では なかったが、今回は成功と言えるものになっていた。 日本のアニメファンは、基本的にセルアニメファンと言える ので、これは今後に期待が持てそうだ。その他にも、ジョー と002、003との関係や、006こと張々湖のその後な ど、昔のファンが楽しめる仕掛けも施されている。 ところで本作の公開に当っては、全国の人気ラーメン店9店 舗が9人のサイボーグをイメージした商品を開発するという コラボ企画も行われ、10月17日から各店で提供が行われてい る。 僕は、その発表記者会見で光麺提供の006張々湖をイメー ジしたつけ麺を試食させてもらったが、トッピングの肉や野 菜のバランスも良く美味だった。 この商品は、宅麺.comという通販サイトで、「中華大餐館・ 張々湖」の商品として販売されるとのこと。その他の店舗の 情報も同サイトで紹介されているので、興味があったらご覧 ください。
『フリーランサーNY捜査線』“Freelancers” ラッパーの50¢ことカーティス・ジャクスン主演、ロバー ト・デ・ニーロ、フォレスト・ウィティカー共演によるNY PDの警察官を描いた作品。 映画のプロローグは、幼い黒人の子供が車の中から暴行を受 ける人の姿を目撃しているシーン。その後には3人の若者が 逮捕され、裁判で有罪になるシーンが続く。ところが彼らは 検察官の温情で警察学校に入学が認められ、やがて卒業して NYPDの警官となる。 そして警察バッジをもらった主人公らが、下町の分署に配属 され、歓迎パーティが開かれているところから物語は開幕す る。そのパーティ会場には今は亡き主人公の父親の相棒だっ たという刑事も来ており、テーブルに呼ばれた主人公は、父 親も加わっていたという組織に勧誘される。 その組織とは、刑事を頂点とする悪のピラミッドで、彼らは 押収された金や麻薬をくすねて多大な資金を作り、その影響 力は市長にも及ぶという。そして主人公の父親はかつてその 組織の中心だったというのだ。こうして悪の道に踏み込んだ 主人公は、徐々に父親の死の真相に近づいて行くが… 共演は、2008年8月紹介『かけひきは、恋のはじまり』など のマルコム・グッドウィン、2010年8月紹介『食べて、祈っ て、恋をして』などのライアン・オナン。他に、キューバ出 身モデルのアナベル・アコスタ、2010年12月紹介『トロン: レガシー』などのボー・ガレットらが脇を固めている。 監督はジェシー・テレロ。ニューヨーク生れだが両親はドミ ニカ出身で、ヒップホップ系のヴィデオアーチストとして、 50¢のヴィデオクリップなども手掛けているようだ。そし て本作の製作も務めるジャクスンとは、すでに2010年にも長 編作品を発表している。 NYPDに巣食う悪の組織というのは、今までに何度も映画 で観てきたように思うが、本作でもその組織を巡る人間ドラ マが巧みに描かれる。それにしても、これだけ執拗に描かれ るというのは、やはりそれだけの実態があるということなの かな。だとすればかなり恐ろしい話だ。 という作品だが、映画はジャクスン、デ・ニーロ、ウィティ カーのまさに演技合戦という感じで、特にデ・ニーロの悪徳 刑事ぶりは、それこそ極め付きという感じのものになってい る。それを楽しむ作品だ。
『ニッポンの、みせものやさん』 神社の祭礼や縁日などに出店する見世物小屋を、新人監督の 奥谷洋一郎が追ったドキュメンタリー。。 日本の見世物小屋の歴史は室町時代に始まると言われている が、江戸後期には全国に300軒近くもあった小屋は、1950年 代には48軒、80年代には7件と減少し、90年代には4軒、そ して2000年以降は、本作に登場する大寅興行社という1社の みが興行を続けているそうだ。 本作の監督は2000年頃に、新宿花園神社で小屋掛けしていた 大寅興行社と出会い、交流を深め以来10年を費やして本作を 完成させている。 そのナレーションの口調からは、監督にそれ以前の見世物小 屋の体験はないようだが、そんな新鮮な目が見世物小屋の現 状をつぶさに記録しているものだ。 その中では、座長の女性が華やかだった昔話を語ったり、ま た以前は覇権を競ったが、現在は廃業した一座の座長(こち らも女性)が、小屋の入口で行っていた独特の口上を演じて 見せるシーンなども登場する。 そして現在の大寅興行社が行っている見世物の一部も撮影さ れており、その中にはかなりグロテスクなものや迫力のもの もあって、昔ながらの演目が連綿と行われている様子も紹介 されている。それは古臭くもあるが、それがまた良さでもあ りそうだ。 先日テレビで、江戸時代の見世物小屋の話をやっていて、そ こでは「おおいたち」というのが、大きな板に血が付いてい るだけという、駄洒落のような演目も紹介されていたが、僕 自身の体験でも、昔地元の七夕祭りに来ていた見世物小屋に は、結構その類のものがあったものだ。 中で印象に残っているのは、アルビノの男性が西洋人と称し て手品をし、その手品の種を売るというものだったが、片言 を話す割には顔立ちがしっかり日本人なのに笑った。しかし その手の出し物は1975年以降取り締まりが厳しくなったそう で、そんな規制も衰退の原因だったのかもしれない。 本作の中でも一瞬、白い人という言葉が聞こえたような気が したが、映像には出てこなかったようだ。その一方で、本作 では北海道だけで興行しているというオートバイの曲乗りな ども登場し、これは最近アメリカ映画でも描かれていたが、 その迫力はなかなかのものだった。 その他、見世物小屋とお化け屋敷、射的、ダーツなどとの関 係も、いろいろ興味深いものがあり、さらに登場する小屋の 模型には感心させられもする作品だった。廃れゆく文化かも しれないが、それなら一層いま記録を残しておくべきもの。 監督にはさらに継続を期待したいものだ。
『阿賀に生きる』 イタイイタイ病の呼称でも知られる水俣病。その新潟県阿賀 野川で発生した公害問題と、その川の流域で暮らす人々の姿 を追った1992年公開のドキュメンタリー。その作品が、20年 ぶりに16mmニュープリントで再公開されることになった。 撮られているのは20数年前の日本の姿。そこでは川沿いの谷 に張り付くように耕作された田んぼや、川で特殊な漁法で鮭 を捕る人たち。そしてその人たちに川船を建造する船大工の 姿などが描かれている。 もちろんその中には水俣病の裁判の話なども登場はするが、 それは決して声高なものではなく、作品は主に当時の人々の 生活ぶりを追っているものだ。 そこには、公開当時にどこまで意図されていたのかは判らな いが、現代に観ているとそのほとんどが既に失われたかもし れない日本の原風景であり、たった20年の間にそれらが失わ れてしまった、逆に言えば20年前にはまだこれらが残ってい たことに感動を覚える作品だった。 実は、自分の父親の生家が滋賀県琵琶湖畔の船大工の家で、 父の兄がその仕事を継いでいたものだが、子供の頃の夏休み に里帰りをすると、湖畔の作業場に作りかけの船があったり したの記憶している。 その父の生家で作っていたのは用水路を移動する田舟で、船 の構造なども大川を行く川船とは多少違うが、子供の頃には 判らなかったその建造方法が、本作を観ていて多少理解でき たのも嬉しかった。 しかしその技術も失われて行くものなのだろうし、作品の中 では後継者も登場するが、その人も高齢で20年も経つと、本 当に失われてしまっているのかもしれない。そんなことも考 えてしまう作品だった。 監督は、2007年に他界した佐藤真。実は一緒に紹介した『ニ ッポンの、みせものやさん』の奥谷監督は生前の佐藤監督に 師事していたそうで、確かに作風に似たところもあるが、そ んな2作品を続けて見られたのも奇遇だった。 なお試写会では当時の撮影監督が挨拶に立ったが、本作では 画質の良いことにも驚嘆した。最近は大手の作品でもニュー プリント版は何作品か観ているが、その中でも出色の美しい 映像だった。 これはフォルムの原版の保存がしっかりとされていることの 証明でもあるが、そんなところにもこの作品に寄せる関係者 の思いが感じられたものだ。
『96時間リベンジ』“Taken 2” 2009年6月紹介『96時間』の続編。製作・脚本リュック・ ベッソン、脚本ロバート・マーク・ケイメン、主演リーアム ・ニースン、そして共演のマギー・グレイス、フェムケ・ヤ ンセンも全員揃っている。 ただし監督には、前作のピエール・モレルに代って今年6月 紹介『コロンビアーナ』などのオリヴィエ・メガトンが起用 された。 前作の時は、何しろ強い父親が向かうところ敵なしでバッタ バッタと相手をなぎ倒し、愛娘を誘拐した集団を全滅させて しまったもの。しかしその因果は本作に及び、前作で息子を 殺された父親が復讐を誓うことになる。従って題名のリベン ジとは、主人公ではなく犯人側が行うものだ。 こうして復讐心に燃える父親と前作犯人集団の親類たちが、 主人公の一家に襲いかかる訳だが、盗人猛々しいというか、 まあ元々が犯罪民族という感じなのだろうけど、ヨーロッパ のそんな風俗も描かれている感じの作品だ。 とは言えそれは、復讐が復讐を呼ぶ現代社会も反映している という見方もできるが、結局は主人公(自ら正義と称してい る)の側が勝ち残ってしまうのだから、その横暴さは主人公 が所属している国を巧みに表しているとも言えそうだ。 それにしても、前作のフェムケ・ヤンセンは、プレス資料を 見るまで思い出せない程度の役柄だったが、本作では見事に 準主役で、ヤンセンほどの女優を前作に起用していたのは、 最初からこの続編は考えられていたのかとも思えるほどだ。 また前作では、主人公の所属する組織やその技術などが巧み に配されていたが、本作ではもっとベーシックな聴覚や記憶 力などが威力を発揮する。その辺の変化の付け方も巧みに感 じられた。 共演は、ラデ・シェルベッシア。2008年10月紹介『アイズ』 などにも出演のクロアチア出身のベテランが登場している。 また再演のグレイスは、先月紹介『ロックアウト』と比べて 見るのも面白い感じだ。 主な舞台はイスタンブールで、その迷路のような街並みは撮 影のための封鎖もままならず、一部はゲリラ撮影も敢行され ているそうだ。そんなリアルな風景や、全体に漂うエキゾチ ックな雰囲気も存分に楽しめる作品になっている。 それに第3作も、やはり作られそうな展開だ。
『パラノーマル・アクティビティ4』 “Paranormal Activity 4” 2009年12月にシリーズ第1作と、2010年11月には日本版リメ イクの『第2章−TOKYO NIGHT−』を紹介しているPOVホ ラーの本国のシリーズでは第4作となる作品。 実はシリーズの第2作と第3作も試写は観ているが、サイト での紹介はしなかった。それは特に第2作では、新たに加え られた設定が煩わしかったりしたのだが、本作はその第2作 からストーリーが展開される。因に第3作は前日譚だった。 そしてその第4作は、予想以上の作品になっていた。 元々本作はホームヴィデオの映像という設定で、その始まり は日常の風景。そして超常現象が起こり始め、各所に監視カ メラを設置することになるが、実はこの間の流れが前作まで はかなり煩わしかった。 ところが本作では、その映像機器がスマートフォンやPCの 映像チャットに付随する録画機能となって、まあその設置の お手軽なこと。この部分に停滞がないことで、その後の一気 の展開が極めて滑らかになり、観ていても軽快な作品となっ ていた。 この辺は、ここ数年の状況の変化を敏感に捉えたものだが、 この現実感が見事にシリーズを復活させたとも言えそうだ。 さらに本作では、ヴィデオゲームの機能なども巧みな映像と して生かされていた。そして物語では、第2作で残された謎 が新たな展開を迎えることになる。 と言っても、本作はお話よりこれらの機器を通じて描かれる 超現象が見所な訳で、その点では充分に満足できる。しかも ショックシーンは前作以上に鮮烈で、久しぶりに背中がゾク ゾクする感覚を味わえた。 監督は前作に引き続いてのヘンリー・ジュースト&アリエル ・シュルマン。脚本にはシリーズ第1作の監督で全作の製作 も務めるオーレン・ペリに、ドラマ『プリズン・ブレイク』 などを手掛けるザック・エストリンが参加。この働きが効い たようだ。(本項は10月25日に更新)
| 2012年10月14日(日) |
裏切りの戦場、北のカナリア、合衆国最後の日、僕の中のオトコの娘、カリフォルニア・ドールズ、拝啓愛してます、LOOPER、ゲットバック |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『裏切りの戦場・葬られた誓い』“L'ordre et la morale” 日本では「天国にいちばん近い島」として知られる南太平洋 の観光地ニューカレドニア。その現在もフランス植民地の諸 島で1988年に起きた実際の事件を描いた作品。 その事件を、2001年『アメリ』などの俳優で、2004年1月紹 介『ゴシカ』などの監督も務めたフランス人マチュー・カソ ヴィッツが、自らの製作、脚本、監督、編集、主演で映画化 した。 物語は、フランス国家憲兵隊で指揮官を務める大尉が突然の 出動命令を受けるところから始まる。その派遣先はニューカ レドニアのウヴェア島。そこで独立過激派が憲兵隊宿舎を襲 い、4人を殺害、30人の人質を取ったというのだ。 この事件解決のため部下50人と共に現地に向かった大尉だっ たが、現地にはすでに陸軍の将軍が精鋭300人を引き連れて 到着しており、彼らは強行突入による人質解放を主張してい た。 そんな中で独立過激派との対話による解決を目指す憲兵隊の 大尉だったが…。時は1988年4月、大統領選を目前にして、 左派ミッテランと右派シラク首相の両陣営は、共に事件を早 急に解決する必要があった。 脚本は派遣された大尉の手記に基づくもので、それまでの救 出作戦をすべて対話により解決してきた交渉のベテランが、 唯一失敗したとする事件の顛末が描かれる。因に大尉はこの 翌年に憲兵隊の職を辞しているものだ。 共演は、物語の舞台にもなるニューカレドニア・リフー島の 出身で、出演前はフランスで法律を学んでいたという映画初 出演のイアベ・ラパカ。 他に、今年6月10日付「フランス映画祭」で紹介『ミステリ ーズ・オブ・リスボン』(公開名:ミステリーズ/運命のリ スボン)に出演のマリク・ジディ、2010年3月紹介『冷たい 雨に撃て、約束の銃弾を』などのシルヴィー・テスチューら が脇を固めている。 権力欲に取り憑かれた政治家が自らの保身のために、現地の 状況を無視して命令を下し、事件を最悪の事態に引きずり込 む。それは日本の政界を見てもよくある話だが、そこに軍隊 が絡むと、事態はあっという間に悲劇を生み出す。そんな政 治家の愚かさと軍隊の暴虐さが鮮明に描かれた作品だ。 因にカソヴィッツは、現地ニューカレドニアなどでの調査取 材を重ね。現在のフランスでも独立過激派による一方的な犯 罪とされている事件に光を当て、その真実を世に問う目的で 作品を作り上げたようだ。
『北のカナリアたち』 2010年に公開された『告白』の原作者・湊かなえが2010年に 発表した短編集『往復書簡』に所載の「二十年後の宿題」を 原作とする作品。 物語は、図書館で働く初老の女性の姿から始まる。定年退職 の日を迎えた彼女は「のんびり過ごしたい」と言って職場を 離れるが、独り住まいの彼女の住居に刑事が訪ねてくる。そ れは彼女の元教え子が、殺人を犯したという捜査だった。 ここで物語は20年前に遡る。北海道礼文島の分教場に女の先 生が赴任する。そこには6人の小学生がいて、先生の指導で コーラスに目覚めた生徒たちは、札幌の大会に出ることを夢 見る。しかしある出来事がその夢を打ち砕てしまう。 そして島を追われるように出て行った先生と、残された生徒 たち。心を通わせなくなった彼らは、重い闇を背負ったまま 20年を過ごしてきた。そんな生徒と先生が再び過去と向き合 わなくてはならなくなる。 果して20年前の出来事の真相とは、そして殺人容疑者となっ た生徒の行方は? 心の闇が徐々に紐解かれて行く。それは 子供の頃には判らなかった心の襞だった。 出演は、先生役に吉永小百合。そして20年後の生徒たちを、 森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮��あおい、小池栄子、松 田龍平が演じている。共演は、柴田恭兵、仲村トオル、里見 浩太朗。他に石橋蓮司、菅田俊、藤谷文子、塩見三省らが脇 を固める。 『告白』の映画版を見たときにも「物語を作りすぎだなあ」 と感じたが、本作も同じようなもの。しかしそんな作りすぎ のドラマもたまには良いものだ。 それに本作では、子供たちのコーラスが巧みに織り込まれ、 それが抜群の効果を上げていた。コーラスによって心が引き 裂かれ、またそれによって心が再び一つに纏まる。そんな姿 も見事に描かれていたものだ。 脚本は、2005年『北の零年』などの那須真知子、監督は昨年 6月紹介『大鹿村騒動記』などの阪本順治、撮影は大ベテラ ンの木村大作が担当。撮影は今年1月と7月に行われ、厳冬 の礼文島の厳しい風景と、夏の礼文島、利尻島の美しい自然 が見事にカメラに収められている。
『合衆国最後の日』“Twilight's Last Gleaming” 1965年『飛べ!フェニックス』や1974年『ロンゲスト・ヤー ド』など、男性映画の名匠として知られたロバート・アルド リッチ監督が、1977年に発表したアメリカの危機を描いた作 品。 なお本作は、同年日本公開されているが、その際は125分の ヨーロッパヴァージョンが上映されたもので、今回はオリジ ナル146分のヴァージョンでの再公開となる。また今回は、 製作時の合作の相手国であったドイツ(当時は西ドイツ)で ディジタルリストアされた映像で上映される。 物語は1981年11月のある日、刑務所を脱獄した男たちがソ連 を攻撃するための大陸間弾道弾の発射基地に向かう軍用車両 を強奪。そのまま基地入口に着いた男たちは、セキュリティ の弱点を突いて基地の占拠に成功する。 さらにミサイル発射の鍵も手に入れた彼らは、ホットライン でホワイトハウスを呼び出す。そして彼らのリーダーがアメ リカ大統領に突きつけた要求は…。ヴェトナム戦争に隠され た巨大な陰謀が暴露される。 オリジナルは公開当時に見たはずだが、正直に言って僕は、 その時には何の話かよく判っていなかったのだと思う。それ は、当時はまだ政府という存在を信じていた面もあるし、こ んな隠し事があるなんて思いもよらず、この物語をただの与 太話と考えてしまったのかもしれない。 しかし現状を見ると、どこの国でも政府の嘘など日常茶飯事 だし、このような事が現実に起きている可能性は大いにあり 得るもの。そんな政府のあり方に大きな警鐘を鳴らした予言 的とも言える作品だ。そしてそれがアルドリッチ監督の原題 に込めた真の意味とも言えそうな作品だ。 当時より、現代にこそ意味のある作品のようにも思える。 出演は、バート・ランカスター、チャールズ・ダーニング、 リチャード・ウィドマーク、ポール・ウインフィールド、バ ート・ヤング、ウィリアム・スミス、リチャード・ジャッケ ル、ジェラルド・S・オラフリン。 物語は、1990年『ダイ・ハード2』の原作者でもあるウォル ター・ウェイジャーの原作から、ロナルド・M・コーエン、 エドワード・ヒューブッシュが脚色。音楽をジェリー・ゴー ルドスミスが担当している。 なお、映画の中では陰謀の首謀者は前の大統領とされている ものだが、大統領執務室にはロッキングチェアがあったよう だ。
『僕の中のオトコの娘』 21世紀特有の文化?を描いた青春映画。 物語のテーマは女装。従来のオカマとは違う21世紀特有の現 象と言われる嗜好を巡って、落ちこぼれで引き篭りのニート だった若者が、新たな自分の生きる道を模索して行く。 主人公は、母親を亡くして、姉と父親と共に郊外の住宅地に 暮らす若者。大卒で一度は就職したものの会社に馴染めず、 退職して2階の自室に引き篭りになっている。 そんな若者が、ふと姉の衣類を手にしたことから、ある心の 動きを感じてしまう。そしてウェブでその類のサイトを訪れ た若者は女装者と知り合いになり、その誘いで女装バーにも 出入りするようになる。 その様子に、最初は引き篭りを脱したと喜ぶ家族だったが、 やがて事実が露見し、しかも周囲の住民にもそれを知る者が 現れて… 物語はかなりキワモノめくが、作品は結構まともに作られて いて、意外と嫌味のない青春ドラマとして纏まりも良く完成 されていた。特に女装が露見してからの展開が、かなり優し い眼差しになっているのも、観ていて気の休まるものだ。 脚本と監督は、2010年『失恋殺人』、2011年『CRAZY-ISM ク レイジズム』が連続してモントリオール世界映画祭のFocus on World Cinema部門に招待されている窪田将治。本作も同 部門に招待されたようだ。 主演は、2010年4月紹介『BECK』などの川野直輝。共演に、 同年8月紹介『桜田門外ノ変』などの中村ゆり、同8月紹介 『アワ・ブリーフ・エタニティ』などの草野康太、同7月紹 介『愛の言霊』などの河合龍之介。他に内田朝陽、山田キヌ ヲ、柳憂怜、木下ほうか、ベンガルらが脇を固めている。 それにもう1人、エンドクレジットを見ていたら去年の湘南 ベルマーレでクイーンをしていた土方くるみの名前を発見。 元々女優さんということは知っていたが、窪田監督の前作に も出ていたようで、活躍しているようだ。 実は前もって判っていたら鑑賞中も気にしたのだが、事後で はどの役かも確認できない。多分主人公のお姉さんが働いて いた喫茶店の同僚ウェイトレスだったと思われるが。 テレビでも女装者を見ない日はないような感じもするところ だが、これが21世紀特有の現象かと言われると多少考えてし まう。でもこれが文化として定着しつつあることは確かなの だろう。 そんな状況をうまく捉えた作品だし、何よりそこに嫌味がな く、優しく描かれているところは納得した作品だ。
『カリフォルニア・ドールズ』“...All the Marbles” 『合衆国最後の日』と共に11月3日から再公開されるロバー ト・アルドリッチ監督による1981年の作品。1983年に他界し た監督の遺作となった作品だ。 登場するのは、女子プロレスでタッグを組む2人の美女と、 そのマネージャー。マネージャーが運転するポンコツ車で地 方を巡業しているが、ある日、全米チャンピオンチームとの エキジビションマッチで、事前の打ち合わせに拘らず本気を 出した2人は、勝負に勝ってしまう。 そこで手応えを掴んだ2人は次々に難敵を倒し、遂にはレノ のMGMグランドホテルで開催される賞金1万ドルを賭けた 全米チャンピオンシップに挑戦することになるが…。それは 因縁の相手との再戦だった。そして3人は、その試合で一世 一代の勝負に出る。 『合衆国…』の時はアルドリッチ監督を男性映画の名匠と書 いたが、本作では女性を主人公にして見事なエンターテイン メントを描いている。しかも女子プロレスという格闘技とも お色気ともつかない舞台の中で、女性映画では描きにくいア クションも見事に決めているものだ。 大体、プロレスなんて物は元々が見世物興行な訳だが、その アクション・パフォーマンスを映画のプロがちゃんと演出し ているのだから、これは面白さも抜群の作品になっている。 特に主人公たちが決める大技の数々は、それを見るだけでも 堪能できるものになっていた。 そして何より、映画の全体がアメリカンドリームなのも素晴 らしい作品だった。 出演は、マネージャー役にピーター・フォーク。そして女子 レスラー役には、ヴィッキ・フレデリックとローレン・ラン ドン。出演当時無名の新人だった2人は、本作の後もほとん ど出演作がなく、まさに本作だけの素晴らしい演技を見せて くれているものだ。 他にバート・ヤング、レニー・モンタナ、ジョン・ハンコッ クらが脇を固めている。また、映画の最初の方で2人が戦う 相手としてミミ萩原とジャンボ堀が、ゲイシャ・タッグとい う役名で出演していた。 なお原題は、全てのビー玉を取るということで、勝負を決す るという意味だが、映画の中で実況アナが叫ぶこの台詞が、 字幕では「雌雄を決する」となっていた。でも女子の試合で 「雌雄」はどっちなのかな。 それと勝負のつけ方が字幕では5カウントとなっていたが、 実際は3カウントで、その辺も気になったところだ。 それにしても主人公たちのド派手なパフォーマンスは、映画 の観客にも直にアリーナの興奮が伝わってくる感じで、これ は見事な作品だった。
『拝啓、愛してます』“그대를 사랑합니다” 韓国で2007年にベストセラーになったコミックスの映画化。 その後の演劇化も成功を収め、2011年に公開された本作では 160万人の観客動員を記録したそうだ。 主人公は、早朝の牛乳配達をしている老人男性。金はあるら しいが引退して暇つぶしのようにやっているようだ。そんな 男性が坂道でリヤカーに積んだ古紙を運ぶ老女と遭遇する。 そしてその老女が気になった男性は徐々に彼女に接近し、や がて彼女の境遇を知ることになるが… この2人に、老女が出入りする仕切り場に隣接する駐車場の 管理人とその痴呆症の老妻や、さらに男性の孫娘など周囲の 人々が絡んで、見事なヒューマンドラマが展開される。 戦争で父親がいなかったから苗字だけで名前が無いなど、日 本とはちょっと異なる風俗も登場するが、映画の全体は正に ヒューマンなタッチで、この物語なら万国に通用すると思わ れるものだ。でも韓国特有の文化が、さらに物語を深めてい るのかもしれない。 そんな、僕らにとっては異国の雰囲気もしっかりと描かれて いる作品だった。 出演は、2008年2月紹介『恋の罠』などのイ・スンジュン、 2006年『王の男』などのユン・ソジョン、2005年『麻婆島』 などのキム・スミ、そして2004年1月紹介『殺人の追憶』な どのソン・ジェホ。中では1951年生まれのキム・スミが一番 若いというベテランたちの共演だ。 他に、2009年11月紹介『霜花店』などのソン・ジヒョ、『恋 の罠』などのオ・ダルスらが脇を固めている。 監督は『麻婆島』などのチュ・チャンミン。この2005年の作 品も高齢者問題を扱っていたようで、その問題意識の中から 生まれた作品のようだ。 また原作者のカン・プルは、2002年からウェブでコミックス を連載している先駆者の1人で、すでにいくつか作品の映画 化もあるようだが、プレス資料によると、本作では初めて原 作者自身が「恥ずかしくない作品」と語っているようだ。 老いらくの恋というと、日本では何となく後ろめたいニュア ンスがあるが、本作ではそのような事も超越したドラマが描 かれており、それを大ベテランの俳優たちが見事に表現して いる作品だ。
『LOOPER』“Looper” 2010年5月に紹介した『ブレイキング・バッド』でもいくつ かのエピソードを手掛けているライアン・ジョンスン脚本・ 監督による時間テーマのSFアクション作品。 物語の舞台は2044年。実は2072年にタイムマシンが開発され るが、政府によってその使用は禁じられた。ところが犯罪組 織がそれを悪用し、彼らは邪魔者を過去に送り込み、そこで 始末させるという手口を実行している。 ここで映画の中に詳しい説明はなかったように思うが、どう もこのタイムマシンでは行けるのが30年の過去限定らしく、 結局それは歴史改変などはできないが、証拠を残さず邪魔者 を消す手段としては有効だったようだ。 そのため1人の男が未来からやってきて武器を配り、決った 日時に決った場所に現れる被害者を殺す手筈を整えている。 その報酬は被害者が背負ってくる銀の延べ棒で、その価値は そこそこのようだ。 しかし失敗すれば、それは殺す側の落ち度として請け負った 者自身が抹殺される危険も伴っていた。そんな中で主人公た ちは連絡が来ると各自の決められた場所に出向き、そこで現 れたヤツを殺し続けていた。 それはそこに現れたのが30年後の自分自身であっても、請負 人はそいつを殺害する。そしてその報酬はその時だけ金の延 べ棒となり、以後の30年の余生を勝手気ままな放蕩に明け暮 れる。それが今までのやり方だった。 主人公自身の未来が現れるまでは…。 親殺しのパラドックスは、SFの永遠のテーマの一つだが、 本作のは未来の自分殺し、ここにはパラドックスは生じない が、人間ドラマは生み出されることになる。そんなところが 目新しい作品となっていた。 そしてそこには、2044年以降の未来都市の風景なども描かれ て、その辺はSFファンにも興味を惹かれる作品と言えそう だ。ただまあ、結末が如何にも一般受け狙いという感じで、 SFファンとしてはここでもう一捻り欲しかったかな。 その一方で、人間ドラマはそれなりに面白いものになってい て、主人公の未来が過去を変えようとする理由付けなども、 良い感じだった。その手口が『ターミネーター』を彷彿とさ せるのは、監督のそれなりのオマージュなのだろう。 出演は、2010年7月紹介『インセプション』などのジョセフ ・ゴードン=レヴィット(彼は製作も兼ねている)とブルー ス・ウィリス。それに今年4月紹介『ザ・マペッツ』などの エミリー・ブラント、2010年10月紹介『ウッドストックがや ってくる!』などのポール・ダノらが脇を固めている。
『ゲットバック』“Stolen” 先月紹介『エクスペンダブルズ2』のサイモン・ウェスト監 督が、1997年『コン・エアー』以来となるニコラス・ケイジ と組んだ作品。本作の公開キャンペーンの中では、ケイジの “The Expendables 3”への出演も発表されたものだ。 主人公は鮮やかな手口の強盗。この日もFIBが監視する中 を、見事に1000万ドルの札束の盗み出しに成功する。ところ がある手違いから主人公だけ現場に取り残され、ついに彼は 逮捕となる。 それから8年、盗まれた現金が発見できず微罪だけの刑期を 終えた主人公は、FBI捜査官の執拗な監視の目の中を娑婆 に戻ってくる。しかし訪ねた愛娘からは冷たくあしらわれ、 失意の中を昔の仲間の女性を訪ねる。 ところがそこに架かってきた電話は、昔の仲間だった粗暴な 男が娘を拉致し、12時間以内に1000万ドルの分け前を渡さな ければ、娘を殺すというものだった。 しかしその金は証拠隠滅のため焼却したもの。そこでFBI にも助けを求めるが、彼らも金の行方を疑っており、主人公 は警察にも追われながらの誘拐犯探しと、身代金とも言える 金の調達をしなければならなくなる。 共演は、2009年8月紹介『あなたは私の婿になる』などのマ リン・アッカーマン、今年5月紹介『リンカーン弁護士』な どのジョッシュ・ルーカス、4月紹介『タイタンの逆襲』な どのダニー・ヒューストン、それに2011年10月30日付「東京 国際映画祭」で紹介『デタッチメント』に出ていたサミ・ゲ イル。 映画の中で主人公が繰り出す手口の一つに思わずニヤリとし てしまった。それは斬新といえば斬新な手口だが、実は僕ら の年代だと「スパイ大作戦」のエピソードの一つとして印象 に残っているもので、それが再現されていることにも嬉しく なった。 しかも、放送のエピソードでは考えなかった防犯装置が今回 はあって警察側もそれで動くのだが、主人公はそれも凌駕し て犯行を成功させる。この辺の展開には、制作者たちも判っ ているなという感じがしたものだ。 脚本は、以前は雑誌編集者で今年8月紹介『デンジャラス・ ラン』で脚本家デビューを果たしたデヴィッド・グッゲンハ イム。製作総指揮は、『エクスペンダブルズ』シリーズも手 掛けるアヴィ・ラーナーと、『チャーリーズ・エンジェル』 などの監督のマックGが担当している。
| 2012年10月07日(日) |
シルク・ドゥ・ソレイユ、ボディ・ハント、カミハテ、宇宙人王さんとの遭遇、駆ける少年、ミロクローゼ、横道世之介、ダーケストアワー |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語』 “Cirque du Soleil: Worlds Away” 現在世界中に展開されている現代サーカスのシルク・ドゥ・ ソレイユ。そのパフォーマンスをフュージョン3Dカメラで 撮影し、さらにそれらを綴る物語を加えて構成した作品。 物語の中心は、荒野を彷徨って見世物小屋の立ち並ぶ一角に 辿りついた若い女性。その一角を歩く内に1枚のチラシを受 け取った彼女は、一番奥にあるサーカステントに誘われる。 そこで彼女はチラシに載ったブランコ乗りを見初めるが…。 そこから彼女は目眩く世界へと引きずり込まれる。 こうして世界中で演じられる様々なシルクのパフォーマンス が登場し、その中で、ブランコ乗りの男を追い求める女性の 冒険が展開される。 登場するのは、ラスヴェガスMGMグランドなど世界有数の 会場で公演されるシルクのパフォーマンス。それらが物語に 巧みに織り込まれて、冒険とパフォーマンスが同時に楽しめ る仕組みになっているものだ。 その物語の脚本と監督は、2001年11月紹介『シュレック』な どのアンドリュー・アダムスン。2006年2月紹介『ナルニア 国物語第1章』も手掛けた監督が、パフォーマンスのファン タシーワールドを巧みに綴っている。 それにしても、空中ブランコだってただ前後に揺れているだ けではない。大掛かりな仕掛けや様々な器具・道具が併用さ れて、正しく新時代のサーカスが展開される。しかもそこに は水や炎など独自のテーマがあるようで、それらのテーマが 物語にも巧みに取り込まれているものだ。 特にその中でも水を扱ったパフォーマンスは、シンクロナイ ズドスイミングをの進化形とも見えるが、本作の製作総指揮 を務めるジェームズ・キャメロンが、次作の“Avatar 2”で は惑星の海洋世界を描くという情報を考え合わせると、また 別の興味も生じてくるものだ。 出演者の中で、女性役を演じるエリカ・リンツと、ブランコ 乗り役のイゴール・ザリポフは共に本作以外の映画のデータ がなく、元々のシルクのパフォーマーかもしれない。 他には、昨年1月紹介『ヨギ&ブーブー/わんぱく大作戦』 に出ていたマット・ジランダース、“Power Rangers”シリ ーズでレギュラーの声優を務めるダラス・バーネットらが登 場している。 なお本作は、今年10月20日から28日まで六本木で開催される 第25回東京国際映画祭においてオープニングを飾るものだ。
『ボディ・ハント』“House at the End of the Street” 昨年8月紹介『ウィンターズ・ボーン』でオスカーにノミネ ートされ、今年7月紹介『ハンガー・ゲーム』でも素晴らし いパフォーマンスを見せているジェニファー・ローレンス主 演によるスリラー作品。 主人公は、郊外の住宅地に母親と2人で引っ越してきたばか りの17歳の少女。父親はミュージシャンで、彼女にもその才 能は引き継がれているが、父と母とは別居中だ。そして彼女 が引っ越してきた家の隣には、ある忌まわしい事件の起きた 邸宅が建っていた。 それでも彼女自身は屈託なく町の学校に通い始める。ところ が母親はその隣家に明かりが灯っているのを発見。その隣家 には、事件当時は幼く、事件を生き延びた若者が1人で暮ら していた。そしてある夜、その若者は深夜に徒歩で帰宅しよ うとしていた主人公に声を掛ける。 こうして隣家の若者と親しくなった主人公は、母親には内緒 で隣家に立ち入るようになる。しかしその家にはある秘密が 隠されていた。 共演は、昨年7月紹介『ピラニア3D』などのエリザベス・ シュー、昨年4月紹介『クロエ』などのマックス・シエリオ ット、2004年8月紹介『ブラインド・ホライズン』などのギ ル・ベローズ。 映画のストーリーは、2009年11月紹介『サロゲート』などの 監督ジョナサン・モストウの原案に基づくものだそうで、そ の原案から先月紹介『ドリームハウス』などのデヴィッド・ ルーカが脚本を手掛けている。 そしてその脚本から、2008年にモストウ監督の『ブレーキ・ ダウン』に影響を受けた『監獄ハイウェイ』という作品で、 イギリスで高い評価を得たマーク・トンデライが監督。本作 は監督のハリウッドデビューとなるものだ。 因に本作は、アメリカでも『ハンガー・ゲーム』の後に公開 されたが、エンディングロールのコピーライトには、2011年 と記載されていた。つまり映画は先に完成されていたが、大 作の評判を狙って公開時期が調整されたもので、アメリカで のヒットはその作戦が功を奏したようだ。 それにしても、ローレンスが演じる少女の芯の強さは素晴ら しいもので、これなら『ハンガー・ゲーム』も立派に勝ち抜 くだろうと思わせる。公開が順通りならそういう感想も書き たくなる作品だった。
『カミハテ商店』 2011年8月に『MADE IN JAPAN−こらッ!−』と2009年9月 には『黄金花』を紹介している京都造形芸術大学映画学科を 母体とする「北白川派」による製作作品の第3弾。因に本作 のクレジットでは「株式会社北白川派」となっており、会社 組織になったようだ。 「上終」と書いて「かみはて」と読ませる。そこは島根県の 離島の寂れた漁村。水揚げの時は多少の人も集まるが、普段 は人影もない。そんな村に向かう路線バスの終点の停留所の 近くに1軒の雑貨屋がある。 その店を守る初老の女性は幼くして父親を亡くし、今は母親 も他界したが、母親から伝わるコッペパンを10個焼いて、毎 朝届く2本の牛乳と共に店に並べる。しかし彼女には、もう 1つ母親から引き継いだ大切な仕事があった。 そんな女性の姿が、牛乳配達や町の職員、旅人らとの交流の 中で描かれる。 出演は、映画の主演は23年ぶりという高橋惠子。共演者には 寺島進、あがた森魚、水上竜士、松尾貴史。他は深谷健人、 平岡美保ら造形芸術大学の学生が脇を固めている。 脚本と監督は、2006年のドキュメンタリー映画『ツヒノスミ カ』でスペインの映画祭にてジャン・ヴィゴ賞を受賞してい る山本起也。なお本作も、チェコのカルロヴィ・ヴァリ映画 祭でコンペティション部門に招待されたそうだ。 製作は高橋伴明、林海象。撮影は小川真司など、スタッフに は造形芸術大学の教授たちが揃っている。 実は映画の背景には、本来は僕が好みとしないテーマがある のだが、それは別として本作には、どこか不思議なムードが 漂い、それが寂れた漁村の風景とマッチして、全体にはかな りシュールな雰囲気を醸し出していた。 それに映画の重要なシーンになる「カミハテ断崖」は、隠岐 島の知夫村にある「赤壁」という場所で撮影されているが、 血糊のように赤い断崖は、もっと他の映画でも見たくなるよ うな迫力だった。 なお北白川派では、すでに林海象監督による『弥勒』が永瀬 正敏、井浦新の出演で製作中(来年公開予定)の他、第5弾 には福岡芳穂監督が企画進行中とのことで、今後も1年1作 程度のペースで映画製作が予定されているようだ。
『宇宙人王さんとの遭遇』“L'arrivo di Wang” 2011年、第68回ヴェネツィア国際映画祭でセンセーションを 巻き起こしたというイタリア製SF映画。この映画を巡って は、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルと、北京 の夕刊紙「法制晩報」が論評でやりあったとのことだ。 物語は、北京語通訳のイタリア人女性が緊急の仕事で呼び出 されるところから始まる。彼女を迎えに来たのはダークスー ツ姿の男。男は機密と称して現地到着まで目隠しを要求し、 女性は何処とも知れぬ施設に連れ込まれる。 そして暗室の中で男が行う尋問の通訳が始まるが…。その尋 問はとてつもなく厳しいものだった。そして彼女の要求で灯 りが点けられた時、彼女の前に座っていたのは、地上で迷子 になったET?だった。 そのETは、ローマのサンピエトロ寺院の近くのアパートに 現れ、そこで何かをしているところを住人が発見。その場は 逃亡したが、2週間後に再びアパートに現れたところを住人 に取り押さえられた。 しかもその時ETは何かを探していた様子で、回収されたそ の品物の用途と、行方不明だった2週間の行動が尋問の対象 となっているようだ。ところがその尋問はあまりに過酷で、 ついに女性は隙を見てETの救出を試みる。 製作と脚本と監督はアントニオ&マルコのマネッティ兄弟。 すでに2007年の埼玉SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の長編コ ンペティション部門に出品された作品や、それ以前にも参加 したオムニバス映画でファンタ系映画祭の観客賞なども受賞 しているようだ。 主演は、2009年10月17日付の「東京国際映画祭」で紹介した 『テン・ウィンターズ』に出演していたというフランチェス カ・クティカ。本作が初主演のようだ。 他に、2011年『あしたのパスタはアルデンテ』でイタリア・ ドナッテロ賞受賞のエンニオ・ファンタスティキーニ、兄弟 監督の作品には3本目という常連のジュリエット・エセイ・ ジョセフらが脇を固めている。 なお本作に関して、ウォール・ストリート・ジャーナルは、 「中国の経済力と影響力が、西側に困惑と誤解をもたらして いることの現れ」と論評し、これに対し「法制晩報」には、 「秘密警察はこの宇宙人(中国)を元々理解したくなかった のだ」との反論とも取れる主張が載ったそうだ。 映画の結末は、SF映画ファンには今更と思えるものだが、 世界に論争の種を供給することにはなったようだ。
『駆ける少年』“...دونده” 2011年11月『カット』を紹介したイランのアミール・ナデリ 監督による1986年ナント三大陸映画祭グランプリを受賞した 作品。世界にイラン映画の実力を知らしめたと言われる作品 がようやく一般公開される。 主人公は、外国の船が多数往来する港の近くで浜に打ち上げ られた廃船に1人で暮らす少年。ゴミ捨て場で廃品を拾った り、嵐の後は数多く流れ着くという浜辺の空き瓶を集めたり して現金を稼いでいるが、それらの仕事にはそれぞれルール があって、なかなか仲間には入れない。 それでも少年は徐々に身入りの良い仕事を見付るなど、少し ずつお金を貯めて行く。その間には小さな飛行場にセスナ機 を見に行ったり、仲間とサッカーをしたり、特に少年は走る のが好きで、貨物列車との競争には情熱を燃やしていた。そ して少年には、何よりの向上心があった。 ナデリ監督自身が幼い頃に両親を亡くし、教育も満足に受け ていないなど、この主人公と似通った境遇だったようだが、 その中でも失わなかった向上心が今の地位をもたらしている ようだ。そんな監督自身の思いと、イランという国家に対す る思いが交錯する作品になっている。 本作のタイトルを見たときには、2002年3月紹介『少年と砂 漠のカフェ』を思い出した。アボルファズル・ジャリリ監督 によるその作品も、2001年ナント三大陸映画祭グランプリを 受賞しているが、ジャリリ監督はナデリ監督の最大の信奉者 の1人だそうだ。 沖合を行き交う外国船の風景や大空に舞うセスナ機、それら が少年の希望を描いていることも確かだが、それと同時に少 年の走る姿が彼の心情を見事に描き出す。そんな想いがスタ ンダードの画面にシンプルに表現されている作品だった。 そして少年の走る姿は、『少年と砂漠のカフェ』の時にも書 いたが、少年の健気さを見事に表現して、観客の心に深く残 るものだ。 なお、本作は東京ではオーディトリアム渋谷で12月下旬より 上映されるものだが、ナデリ監督は『カット』でもそうだっ たが、会期中は毎日その会場に通うことが決まりのようで、 会場では気軽にサインや握手にも応じてくれるそうだ。 実は今回の試写会場にも訪れていて、僕は次の予定が詰まっ ていたのでそのまま出てしまったが、鑑賞客との談笑にも花 が咲いていたようだった。
『ミロクローゼ』 マネキンを使ったテレビシリーズ『オー!マイキー』で知ら れる石橋義正監督が、今年6月紹介『闇金ウシジマくん』な どの山田孝之を主演に迎えて制作した長編劇場映画。 長編とは言っても、それぞれは恋愛に関する3つの物語が奇 妙に交錯する構成の作品で、各話の主人公を山田が演じる。 ただしそれらはパラレルワールドとも取れる感覚で作られて おり、主人公は全体で1つの人格を表しているそうだ。 その最初は幼い姿の主人公の物語(このパートの一部は子役 が演じている)。彼は何の変化もない日々を送っていたが、 ふと立ち寄った公園で美しい女性に出会ってしまう。そして その女性に恋をした主人公は… 2つ目は若者に恋愛指南をする評論家の話。毒舌で辛辣な放 言を繰り返す男だが、彼の言うことにはそれなりの理論も備 わっている。そして彼は日夜若者のために相談を受け続けて いるのだ。その解決策などが描かれる。 3つ目は花屋の娘に恋をした片目の素浪人の話。彼は恋敵を 倒し彼女と旅に出るが、強盗団に彼女を拉致されてしまう。 しかし彼女の姿を追い求める主人公は、幾つもの修羅場をく ぐり抜け、遂に彼女の行方の手掛かりを得る。 という3つの物語が、最初はメルヘン、2つ目はミュージカ ル、3つ目はアクション映画のスタイルで、CGIやVFX も満載に描かれて行く。それはかなり強烈だが、全体は嫌味 のない感じに仕上げられている作品だ。 共演は、2009年6月紹介『山形スクリーム』などのマイコ、 昨年1月紹介『婚前特急』などの石橋杏奈、2010年7月紹介 『神様ヘルプ!』などの佐藤めぐみ。 他に、原田美枝子、奥田瑛二、映画監督の鈴木清順、2008年 12月紹介『クジラ極道の食卓』などの岩佐真悠子、元プロレ スラーの武藤敬司らが脇を固めている。また、石橋監督は、 他に脚本、美術、編集、音楽も担当している。 『オー!マイキー』に関しては、僕はたまたま何本か観てい る程度だが、作品の表現方法が斬新だとは思わないものの、 物語はそれなりに面白いところを突いているという印象だっ た。ただし表現自体にはかなりどぎつい感じもあった。 本作もそんなノリという感じの作品で、これを受け入れられ るかどうかは、観る側の感性にも拠ってしまいそうだ。でも まあ最近の日本映画はこのような作品が多いもので、そんな 中でこの作品は、僕には許容範囲だったと言える。 なお本作は、昨年のニューヨークアジア映画祭のオープニン グ作品に選ばれ、山田は日本俳優初のライジングスター賞を 受賞したそうだ。
『横道世之介』 吉田修一著、2010年本屋大賞第3位、柴田錬三郎賞受賞の原 作を、2011年12月紹介『きつつきと雨』の沖田修一脚本・監 督で映画化した作品。 青春映画だという以外、ほとんど予備知識なしに試写を観に 行ったが、巻頭のシーンで度肝を抜かれた。それは新宿東口 の俯瞰風景から始まるが、右にMyCity、正面にさくらやのあ る景色の中を上京したばかり主人公が歩いて来るのだ。しか もそこに走ってくる中央線は全体がオレンジ色。 物語はかなり後半まで時代が特定されないが、そこには正に 僕が生きていた時代の風景が見事に再現されていた。そんな 見事な映像の中で、それは少し不器用かもしれないけれど、 真面目に生きて周囲に暖かさを振り撒き続ける、ちょっと切 ない主人公の姿が描かれる。 その主人公は長崎から上京して法政大学に入学したが、入学 式で隣りに座った男子や、教室で隣り合った女子ともすぐに 仲良くなる。それは彼の性格にも拠るのだろうが、さらに彼 はセレブ女性と知り合ったり、またお金持ちのお嬢様に慕わ れるようにもなって行く。 そんな主人公の学生生活が描かれて行くが、それは正にその 時代の青春ドラマであって、現代とは違った素敵なノスタル ジーに満ちたものだった。そしてそこには現代から見た思い 出話も挿入される。それらが誰からも愛された主人公を浮き 彫りにして行く。 主演は高良健吾、吉高由里子。共演は池松壮亮、伊藤歩、綾 野剛。さらに朝倉あき、黒川芽以、柄本佑、佐津川愛美らの 若手と、井浦新、國村隼、堀内敬子、きたろう、余貴美子ら のベテランが脇を固めている。 中で吉高、池松らは2つの時代のキャラクターを演じるが、 特に吉高の演じ分けは見事だった。それにその間を違和感な く繋いでみせた脚本、演出も素晴らしいものだった。 でも何と言っても物凄いのは時代考証の完璧さ、それはプル トップの缶飲料からブラウン管のテレビ、ウォークマンまで 様々に及ぶが、正しく監督たちのこだわりとも言いたくなる もので、特に終盤の年代が特定されてからのフィルムのパッ ケージには仰け反ってしまった。 そしてそんな完璧な背景の中で、僕自身もそうだったかもし れない青春のページが描かれて行く。それは今では取り戻す ことのできない、素晴らしい世界が思い出深く描かれている ものだ。出来ることならこんな過去に戻りたくなった。
『ダーケストアワー・消滅』“The Darkest Hour” 今年8月紹介『リンカーン/秘密の書』などのティムール・ ベクマンベトフ監督が製作を担当し、7月紹介『プロメテウ ス』を手掛けたジョン・スペイツの原案・脚本から、2005年 2月紹介『ブレイド3』などの美術担当クリス・ゴラックが 監督したモスクワが舞台のSF作品。 物語の中心は、自ら開発したコンピュータソフトの売り込み にアメリカからやって来た2人の青年。ところが先回りした スウェーデン人の男にしてやられ、2人は失意の酒を酌み交 わすことになる。 それでも居合わせた2人のアメリカ人女性旅行者とも親しく なり、機嫌も治りかけたところで事件が勃発する。突然明か りが消え、街路に出た彼らの目前に異様な無数の光が着陸。 その光は人間を粉砕し始めたのだ。 その場は辛くも逃げ出し、地下室に立てこもった彼らだった が、数日を経て食料も尽き、外に出なくてはならなくなる。 そこで彼らが見たのは、人気のないモスクワの街だった。し かし生き延びた人間は他にもいると確信する彼らは… 最近この手の宇宙からの侵略ものはよく見掛けるが、今回は 侵略者の設定などにも工夫があり、またマッドサイエンティ ストなども巧みに配置されて、王道のSF作品という感じに 仕上げられている。 出演は、2008年5月紹介『イントゥ・ザ・ワイルド』などの エミール・ハーシュ、名匠アンソニー・ミンゲラ監督の息子 で2010年10月紹介『ソーシャル・ネットワーク』などのマッ クス・ミンゲラ。 他に、2011年2月紹介『抱きたいカンケイ』などのオリヴィ ア・サールビー、2007年『トランスフォーマー』などのレイ チェル・テイラー、そして来年公開“RoboCop”のリブート で主人公を演じるジョエル・キナマンらが脇を固めている。 ロシア出身のベクマンベトフ監督には、母国への凱旋となる 作品だが、それでモスクワの街に破壊の限りを尽くすのだか ら、それもニヤリとするところだ。なお撮影は、モスクワと ベルリンで行われている。 そしてそのスタッフの中に、数多くのロシア名があるのは、 正に錦を飾っているという感じだ。こんな風に母国の仲間に 恩恵をもたらすことができるのも、嬉しいことだと感じさせ る。ただ、背景のCGIなどに多少画質のバラツキがあるの は…、これはご愛嬌ということにしておきたい。
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