井口健二のOn the Production
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2011年05月29日(日) 乱反射/スノーフレーク、ロシアン・ルーレット、ハンナ、M・ソー、メタルヘッド、鯨とり、ハングオーバー!!、青空どろぼう+Oz,The Great

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『乱反射』
『スノーフレーク』
今年1月紹介『ランウェイ☆ビート』に出演していた桐谷美
玲の主演で製作された作品が2本立てで公開されることにな
り、その試写も2本立てで行われた。
その1本目は、高校3年生で角川短歌賞を受賞した歌人・小
島なおが17歳から20歳までの3年間に詠んだ短歌を集めた歌
集を基に、まだ本当の恋を知らない少女の1歩ずつ前へ進ん
で行く姿が描かれる。
高校生の主人公は歌人である母親の指導で短歌の道を歩んで
いたが、それは学友には秘密だった。そんな彼女には運動選
手のボーイフレンドもいて楽しい学園生活だったのだが、彼
女の秘密が彼に知られてしまう。
一方、母親からは短歌の創作にある課題が彼女に与えられて
いたが…

共演は、2010年2月紹介『RAILWAYS』などの三浦貴大と高島
礼子、それに2009年2月紹介『非女子図鑑』などの月船さら
ら。また原作からの脚色というか映画化の脚本は、2010年版
『時をかける少女』の菅野友恵が担当している。
そしてもう1本は、『成風堂書店事件メモ』シリーズなどの
大崎梢原作からの映画化で、10年前に一家心中で亡くなった
とされる幼馴染みの謎を追う青春ミステリー。これが単純な
謎解きものかと思っていたら、思いの外ちゃんと推理ドラマ
になっていた。
主人公は短大2年生の女性。卒業後は東京に出て働くことが
決まっている彼女には、一つ心残りがあった。それは10年前
に港に転落した乗用車に乗っていたはずの幼馴染みの少年の
こと。その事件は一家心中とされたが、少年の遺体だけが発
見されなかったのだ。
しかしその思いもそろそろ忘れなくては、と考え始めた彼女
だったが…

共演は、昨年公開『君に届け』などに出演の青山ハル、今年
公開『GANTZ』などの白石隼也、それに2010年版『時をかけ
る少女』などの石丸幹二。脚色は、元劇団「東京乾電池」に
所属していた矢新図が担当した。
なお、両作の監督は2010年版『時をかける少女』などの谷口
正晃。まず主演女優を可愛く撮れば良いような作品ではある
が、脚本もしっかりしているし演出も手堅くまとめられてい
た。ただまあちょっと引っ掛かるところはあるがそれは書か
ないことにしよう。
上映時間は2本を合わせると2時間半近いものだが、主演女
優のファンには存分に堪能できそうだ。

『ロシアン・ルーレット』“13”
生活に困窮した男が填った陥穽を描いたサスペンス映画。
主人公は病弱な父親を抱える電気工事士。その父親の入院費
が嵩み、ついには父親が長期ローンの末に手に入れた自宅を
手放さなければならなくなる。そんなある日、彼は仕事先で
緊張した面持ちで大金が手に入ると話すその家の主人を目撃
する。
ところがその主人は緊張のあまりか発作を起こしてしまい、
その混乱の中で主人公は主人が見ていた書類を手に入れる。
そしてその指示に従った主人公は、自らの生命を賭けたロシ
アン・ルーレット場へと足を踏み入れてしまう。
映画でロシアン・ルーレットというと、どうしても1978年の
『ディア・ハンター』が頭に浮かぶ。陥落寸前のベトナム・
サイゴンの暑苦しい雰囲気の中で行われるその作品に比べる
と、本作は登場人物の絶叫の割にはクールで、焦燥感も薄く
はなる。
しかしそれは時代のせいで仕方ない面もあるし、ベトナム戦
争を背景にしか描けなかった当時に比べると、本作では参加
者の背景も様々でそれなりのキャラクターの作り方などには
変化もあって楽しめた。

主演は、昨年10月24日付の「東京国際映画祭コンペティショ
ン部門」で紹介した『ブライン・ロック』などのサム・ライ
リー。他に、ジェイスン・ステイサム、ミッキー・ローク、
ラース・フォン・トリアー監督の新作“Melanchlia”に出演
のアレクサンダー・スカースガード。
さらに、2003年12月紹介『ドッグヴィル』などのベン・ギャ
ザラ、2010年12月紹介『ランナウェイズ』などのマイクル・
シャノン、2007年11月紹介『ベオウルフ』などのレイ・ウイ
ンストン、2010年4月紹介『ボーダー』などの50セントら、
多彩な顔触れが出演している。
脚本と監督はゲーラ・バブルアニ。因に本作は、2006年サン
ダンス映画祭の審査員賞など各地で受賞した“13 Tzameti”
という作品を、自らの手でリメイクした作品のようだ。また
リメイクに当っては、1992年『エイリアン3』など手掛けた
コンセプトアーティストのグレッグ・プルスが脚本に加わっ
ている。

『ハンナ』“Hanna”
2007年12月紹介『つぐない』のジョー・ライト監督が、同作
品でオスカー助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ロ
ーナンを主演に迎えて、特別な運命を背負った少女を描いた
作品。
北欧の雪深い森の中で少女が弓矢で鹿を狙っている。やがて
放たれた矢は鹿に命中、矢の刺さった鹿は雪原まで逃げて倒
れる。その鹿に近寄った少女は、「心臓を外しちゃった」と
呟きながらピストルを構え鹿を射殺する。
さらに鹿を森の中の小屋まで運んだ少女は手際よく解体を始
め、そこに帰ってきた父親らしき男から誉められるが、すぐ
さま格闘術や語学の訓練が開始される。それは正にスパイが
受ける特殊訓練そのものだった。
そんな中で少女は、「準備は出来た」と告げ、男は「出て行
くならマリッサ・ヴィーグラーに殺されるか、お前が彼女を
殺すかだ」と少女に忠告する。しかし少女の意志は変らず、
2人はベルリンの「グリムの家」での再会を約束して小屋を
後にする。
そして物語は、少女の後を追って世界各地を巡る壮大なスケ
ールに展開されて行く。
いやあ『つぐない』の文学少女が、今回はこんなことをする
のだ…と、かなり驚かせてくれる作品。それは映画だから、
特殊効果を使えば何でも出来てしまうものではあるけれど、
それにしてもこの180度の方向転換は驚きのものだ。
しかも劇中にはかなりのアクションもあるから、それなりの
訓練を受ける必要はあっただろうし、そこまでしてこの役に
挑戦した心境も聞いてみたいものだ。それにしても最近の女
優はこんなこともやらせ貰えるのだから、それはそれで素晴
らしいことなのだろう。

共演は、2009年9月紹介『きみがぼくを見つけた日』などの
エリック・バナ、同3月紹介『路上のソリスト』などのトム
・ホランダー、2010年1月紹介『17歳の肖像』などのオリヴ
ィア・ウィリアムズ、同10月紹介『キック★アス』などのジ
ェイスン・フレミング、そして敵役をケイト・ブランシェッ
トが演じている。
なお、劇中に登場する「グリムの家」は、1969年から2002年
まで開園していたSpreeparkという遊園地で撮影されたもの
で、荒涼とした雰囲気が見事だった。その他にも主人公が訪
れる場所の背景はどれも素晴らしく、それらを見るだけでも
堪能できる作品だ。
またセット撮影は、4月紹介『アンノウン』でも話題にした
バベルスバーグスタジオで行われており、エンドクレジット
にロゴマークが登場していた。さらに、音楽をケミカルブラ
ザースが担当しているのも聞き物になっている。

『マイティー・ソー』“Thor”
『アイアンマン』を初めとするマーヴェル・スタジオの製作
によるヒーロー・コミックス映画化の最新作。本作から3D
になった。
主人公のソーは,神々の国アスガルドに住む北欧神話の主神
オーディンの息子。しかし少し「おれ様」な性格で、弟や仲
間のウォリアーズ・スリー、女戦士シフらと共に勝手気儘な
生活を送っていた。
そんなある日、ソーたちは次元を繋ぐ「ビフレストの橋」を
渡って敵対する巨人の国ヨトゥンヘイムを襲う。しかしその
行為は父オーディンの怒りに触れ、オーディンはソーの武器
ムジョルニアを取り上げた上、地球に追放してしまう。
斯くして「ビフレストの橋」から地球に落とされたソーは、
地球でウァームホールを研究する女性物理学者ジェーン・フ
ォスターと出会い、徐々に「おれ様」な性格も直って行くの
だが…、そこに巨人国の軍勢が襲い掛かってくる。

出演は、ソー役に2009年『スター・トレック』でカーク船長
の父親を演じたクリス・ヘムスワース、オーディンにアンソ
ニー・ホプキンス、そしてジェーンにはナタリー・ポートマ
ンが扮している。
他にロンドン出身の舞台俳優で数多くの新人賞などを受賞し
ているというトム・ヒデルストン、2002年10月紹介『ショウ
・タイム』などのレネ・ルッソ、スウェーデン出身で2009年
『天使と悪魔』などに出演のステラン・スカルスガルド。
さらに、2007年アカデミー賞外国語映画部門にノミネートさ
れた『モンゴル』に主演の日本人俳優浅野忠信。因に浅野の
役柄は彼のキャリアからすると役不足だが、ハリウッド進出
の第一歩としては順当だろう。
監督はケネス・ブラナー。シェークスピアも得意なイギリス
演劇界の重鎮と、マーヴェルヒーローの組み合わせは奇異に
も感じるが、物語の根底にあるのは北欧神話だから、それは
絶妙な取り合わせだ。
CGIで描かれた神々の国と、ニューメキシコで撮影された
実写の地球の風景、その対比も鮮やかだし、後半は西部劇を
思わせる対決シーンもVFXを併用して見事に映像化されて
いた。

なお、マーヴェル作品の常としてエンディングロールの後に
一齣あるので、最後まで席は立たないように。

『メタルヘッド』“Hesher”
前回紹介の『水曜日のエミリア』に続いてナタリー・ポート
マン製作総指揮・出演による作品で、ハリウッドが今最も注
目していると言われる映像作家スペンサー・サッサーによる
脚本・監督の長編第1作。
物語の始まりは、レッカー車で運ばれる片側が大きくひしゃ
げた赤い乗用車を自転車で懸命に追い掛けている少年。そし
てその車を引き取った業者に必死に交渉するが、車を取り戻
すことは出来ない。
その帰り道、少年は住宅団地の建設現場で窓に石を投げ、中
にいた長髪の男に取り押さえられる。しかしそこは何とか脱
出した少年だったが、その長髪の男は執拗に少年を追い、遂
には少年が暮らす祖母の家に入り込んでくる。
その家には、祖母と少年と少年の父親が暮らしていたが、父
親はふ抜けたようになっており、祖母もそんな息子を見離し
かけていた。そんな家に入り込んだ長髪の男は、大音量でヘ
ヴィメタを演奏し、テレビのチャンネルも勝手にいじり始め
るが…
実は、一家の母親が2カ月前に交通事故で亡くなり、以来、
一家の生活は今のような状況になってしまっていた。そんな
家に入り込んだ男はどんな作用を一家に及ぼすのか。さらに
少年が憧れる女性も絡んで物語は進んで行く。

出演は、少年役に2008年2月紹介『告発のとき』などのデヴ
ィン・ブロシュー、父親役に2005年4月紹介『サハラ』など
のレイン・ウィルスン、長髪の男役に2010年7月紹介『イン
セプション』などのジョセフ・ゴードン=レヴィット。
さらに少年の憧れの女性役をナタリー・ポートマン、そして
祖母役を、1976年『キャリー』などのパイパー・ローリーが
演じている。
かなり荒っぽい部分もある話だし、アメリカでは昨年のサン
ダンス映画祭で絶賛されながら公開は今年まで持ち越されて
いる。そんな微妙なところもある作品だが、これもポートマ
ンの勢いで一気に行けるかな。

なお挿入楽曲には人気ヘヴィメタ・バンドの「メタリカ」が
5曲を提供するなど、こちらも注目されそうだ。因に撮影は
REDカメラで行われていたようだ。

『鯨とり−ナドヤカンダ−』“고래사냥”
前回紹介した『風吹く良き日』と同様、アン・ソンギ主演に
よる1980年代の韓国映画ニューウェーブの1本。なお本作は
1984年に日本公開されているが、今回はニュープリントで再
公開される。
題名は、「夢をつかむ」といった意味の韓国の隠語だそうだ
が、偶然知り合った風俗の女性に心を通わせた大学生が、彼
女を故郷に帰そうと追手のやくざなどとも対決しながら旅を
続けて行くロードムーヴィ。
主人公はちびで眼鏡でひ弱な大学生。彼は結婚するまでは童
貞を守ると誓っていたが、ある日のこと警察ざたに巻き込ま
れ、そこで窮地を救ってくれた物乞いの男の手引きで風俗街
に足を踏み入れてしまう。
そして、店で暴力を振るわれていた失語症の女性に童貞を捧
げてしまった主人公は、彼女を連れて女性の故郷の島を目指
すことにするのだが…。そこに物乞いの男も同行し、さらに
やくざの追手も現れる。
それにしても雪の降り積もる真冬の韓国での逃亡劇、しかも
着の身着の儘の無一文なのだから、これはかなりの偶然にも
助けられる。しかし、物乞いの男や失語症の女性の機転や行
動があって、それらは物語としては納得できるものになって
いた。

出演は、大学生役に、後にソウルオリンピックやワールドカ
ップ開会式などの音楽監督も務めるミュージシャンのキム・
スチョル。ちょっと日本の「ジ・アルフィー」坂崎幸之助に
似た容貌で、それだけでも納得してしまえるが、映画出演は
本作だけだそうだ。
また失語症の女性役には2003年『スキャンダル』などのイ・
ミスク、そして物乞いの男役にアン・ソンギ。他にやくざ役
で映画出演100本以上というベテラン俳優のイ・テグン。
なお、以前の日本公開では別の副題が付いていたが、今回か
ら映画の主題歌に合わせたものにしたそうだ。その主題歌は
キム・スチョルが歌っているものと思われるが、昔のフォー
ク・ロックを思わせる曲想で懐かしさも感じられた。
『風吹く良き日』の時は若者の行動などにちょっと違和感が
あったが、本作は物語としてはありそうで納得できた。しか
もロードムーヴィということでは珍しい事物などもそれなり
に了解できるし、違和感は生じなかったものだ。


『ハングオーバー!!史上最悪の二日酔い、国境を越える』
               “The Hangover Part II”
昨年4月紹介『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の
二日酔い』の続編。
前作でどたばたを繰り広げたステュ、フィル、アランの3人
組の内、今回はステュが結婚することになるが、何とお相手
はタイの富豪の令嬢で、結婚式は花嫁の母国で行われること
になる。そこでフィルと前作の花婿ダグが招待される。
ところが、ダグのたっての願いで前回の問題児アランも同行
することになり、さらに16歳でアメリカの医科大に留学中の
花嫁の弟も加わって、異国での独身パーティが始まるが…。
ビール1本しか飲まなかったはずの一行が目覚めると。
展開は前作と同じ、はっきり言って下ネタや、かなり暴力的
なドタバタギャグが展開される。しかも今回の舞台はタイ、
その異国文化も満載でマーケットやら寺院やら、それに風俗
街も背景に飛んでもない事態が進行する。

出演は前作と同じで、エド・ヘルムズ、ブラッドリー・クー
パー、ザック・ガリフィアナキスとジャスティン・バーサ。
さらに前作から、ケン・チョンとスペシャルゲストも再登場
する。
そして本作の新たな共演者は、2004年『サイドウェイ』や、
2008年4月紹介『シューテム・アップ』などのポール・ジア
マッティ、ベテランが怪演を観せてくれる。他に、今年4月
紹介『エンジェル・ウォーズ』などのジェイミー・チャン。
また劇中で名演技見せる猿は、1997年『ジャングル・ジョー
ジ』や、2006年、09年『ナイトミュージアム』シリーズにも
出演のベテランだそうだ。
脚本と監督は、前作と昨年11月紹介『デュー・デート』のト
ッド・フィリップス。前作ではR指定コメディ映画の史上最
高興行収入記録を樹立した監督が、今回もそれを上回る猥雑
で下品な大人のコメディを作り上げている。
物語的には前作の経験が活かされていたりするシーンはある
が、基本的な部分は本作だけでも多分理解できるかな。前作
も観ている僕には適切な判断は出来ないが。

『青空どろぼう』
先に『平成ジレンマ』という作品が公開された東海テレビ製
作によるドキュメンタリー。
戸塚ヨットスクールを扱った去年の作品は、試写は観たがサ
イトにはアップしなかった。
それは結局、僕が戸塚という人物を好きでないということに
もなるが、いくら刑期を終えたとは言え、昔のままの持論を
述べ立てる前科者の姿を無批判に映している制作者の態度も
不愉快だった。
それは確かに自分の意見ばかりを述べ立てる昨今のドキュメ
ンタリーにも問題はあるが、制作者の意図が全く判らないと
いうか、もしかすると被写体の意見に賛同している? と感
じられるのも、僕には容認できなかったものだ。
その東海テレビ製作によるドキュメンタリーである本作は、
四日市市の石油コンビナート公害を記録し続け、1996年の田
尻賞を受賞した「四日市市公害を記録する会」の澤井余志郎
氏の姿を追っている。
それは人物の姿を追うということでは前作と同じであるが、
本作ではさらに現状の公害問題がどうなっているかという点
が独自の調査で紹介されており、その点では前作とは異なる
アプローチになっている。
そこでは特に澤井氏が追い切れなかった海洋汚染の問題や、
1987年に廃止された「公害健康被害補償法」による新規公害
病患者認定の問題などにも言及し、その問題に関する現四日
市市長へのインタヴューなども行われている。
つまりの作品では、澤井氏の姿を追うことを突破口として、
公害問題の現状にも迫っているもので、この制作態度は納得
できるものになっていた。
それにしても、1987年のまだ毎年新規患者が発生している時
点で認定制度を打ち切り、以後は新規の患者は発生していな
いと言い切る行政の態度にも恐ろしいものを感じるが、それ
以降には当然のごとく公害の垂れ流しを再開した企業にも驚
かされた。
もちろんその公害の垂れ流しは法律違反ではあるが、住民の
懐柔などで裁判所が認めた立ち入り調査権も拒否するなど、
この手の企業の横暴は目に余るものがあった。
因に作品の中では明確にされないが、問題企業は昭和四日市
石油、三菱油化、三菱モンサント化成、三菱化成工業、中部
電力、石原産業の6社だそうだ。

        *         *
 製作ニュースは一つだけ。
 2010年6月27日付で紹介したディズニーが進める『オズの
魔法使い』の前日譚“Oz, The Great and Powerful”につい
て、その時も報告したサム・ライミ監督の下、今年7月の撮
影開始が発表された。
 ただし、主演はロバート・ダウニーJr.ではなく、今年の
アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたジェームズ・フ
ランコ。ライミ監督とは『スパイダーマン』でも組んだ俳優
が蛇油のセールスマンという役柄に挑むようだ。
 一方、ミュージカルでも有名な良き魔女グリンダには、今
年1月紹介『ブルー・バレンタイン』などのミシェル・ウィ
リアムスが扮し、レイチェル・ワイズ、ミラ・クニスが扮す
る悪の姉妹と戦うことになっている。
 ディズニーでは10億ドル興行を達成した『アリス・イン・
ワンダーランド』に続く作品として、2013年3月8日の全米
公開日を予定しているようだ。



2011年05月22日(日) 犬飼さんちの犬、風吹く良き日、おじいさんと草原の小学校、赤い靴、グッド・ハーブ、ハウスメイド、沈黙の宿命、水曜日のエミリア

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『犬飼さんちの犬』
2008年『ネコナデ』、2009年5月紹介『幼獣マメシバ』、昨
年2月紹介『ねこタクシー』に続く「おっさん」とペットの
関係を描いたシリーズの最新作。
シリーズの最初は2005年11月紹介『イヌゴエ』だそうだが、
それはちょっと毛色が違っていたから、実質的に年1本のシ
リーズと言えそうだ。で、2008年の作品は試写は観たのだが
僕の好みに合わなかったもの。しかしその後はそれなりの作
品になっている感じだ。
その今回の主人公は、単身赴任で離島のスーパーマーケット
に勤務している犬飼保・48歳。名前とは裏腹に犬が嫌いで、
その嫌いようは、犬の鳴き声には多少遠くても警戒するし、
小犬のそばにも寄れないほどだった。
そんな主人公の勤務する島には特別な草があり、その草から
作った「島石鹸」は全国の店舗で売られる人気商品になって
いる。ところが品薄となり、その製造も任されていた創業者
の息子の店長が草を水増、結果、粗悪品が発生して本社に苦
情が殺到し始める。
一方、家族想いの主人公は、毎日の食事もネット中継で顔を
合わせるようにするなど家族奉仕にも努めていたが、石鹸の
苦情処理のため店長と共に本社に呼び出された主人公が久し
ぶりに帰宅すると、そこには1頭の犬が家族と共に暮らして
いた。
しかも、父親のいない間に家族の生活状況はいろいろに変化
して、塾や習い事で家人は留守がち、いきおい犬の世話は主
人公に任せられることになってしまうのだが…

自分が犬の飼い主であると、犬嫌いの人の気持ちなどはなか
なか判り難いが、犬と散歩に行った公園で集まっている犬の
方に行けない人の姿のなどを見ると、飼い主としてそういう
人にも配慮すべきだと自戒することもある。
このシリーズの特徴は、そんな他人への気配りのようにも感
じる。実際に本作の中でも、ペットのしつけや横暴な飼い主
など、綺麗事だけでない面も描かれているし、何より作品の
コンセプトは、ペットに演技させないことと可愛く撮らない
ことだそうだ。
出演は、主人公に小日向文世。他に2008年3月紹介『パーク
・アンド・ラブホテル』などのちはる、昨年5月紹介『君が
踊る、夏』に出演の木南晴夏。さらに池田鉄洋、徳永えり、
でんでん、佐藤二朗、清水章吾らが脇を固めている。
そしてペットとして登場する犬種はサモエド。日本では飼育
例が少ないとのことだが、映画では、仔犬2匹、成犬2匹、
それにプロローグで登場する赤ん坊の5頭で演じられている
そうだ。
脚本はシリーズ全作の原案と製作も手掛ける永森裕二。監督
は『マメシバ』以降のシリーズを支える亀井亨。なお脚本家
は、『ねこタクシー』を書き上げたときに「もう書くものは
ない」と思ったそうだが…、シリーズは今後も続けて欲しい
ものだ。

『風吹く良き日』“바람 불어 좋은 날”
韓国の国民的俳優とも呼ばれる2008年3月紹介『光州5・1
8』などのアン・ソンギ主演による1980年代韓国映画ニュー
ウェーブの嚆矢なったと言われる作品。
本国では、2007年10月紹介『ユゴ』にも描かれた1979年10月
に起きた大統領暗殺事件の翌年に公開された作品だが、監督
のイ・ジャンホはその大統領の政権時代に起きた風紀取締り
事件に連座して監督業を禁じられ、本作がその復帰第1作で
もあったそうだ。
という相当に政治色もありそうな作品だが、内容的には、正
にその1980年の時代背景で、高度成長期の歪みから生じたや
るせない若者たちの群像が描かれる。そこには地方から首都
ソウルに出てきたものの、就ける仕事は半端なものばかり、
その一方で金に踊っている男女もいて、その社会の歪みが容
赦なく若者たちにのしかかる。
高度成長の歪みというのは、多分今の日本も同じようなもの
だと思われるが、今の日本の若者たちに、この映画の主人公
たちのような悲壮感がないのは何故なのだろう。それは目先
のファッションや演出されたブームを、さも若者文化のよう
に見せ掛けて本来の若者の活力を消耗させている日本社会の
あり方のせいなのかも知れない。
しかし、僕自身がこの作品を観ている間は、描かれる青春群
像に違和感を感じていたのだから、それは僕自身も同類と言
われて仕方がない。だからこの映画を観終えて、もう一度昔
の自分に戻りたいとも思ったものだ。
でも観ている間は違和感が拭えなかったことは事実で、その
感覚がやはりこの作品は歴史的価値で観るべきものなのかと
感じてしまう。ただその後の韓流ブームの前にこのような作
品の時代があったことは、知っておくべきものなのだろう。
特にアン・ソンギのその後の活躍を知る人には、彼の若き日
の姿が観られることでも貴重な作品と言えるものだ。

共演は、監督の実弟のイ・ヨンホ、本作で新人賞なども受賞
したキム・ソンチャン。さらに現在もテレビドラマで活躍し
ているユ・ジイン、2005年2月紹介『オオカミの誘惑』など
のキム・ボヨンらが脇を固めている。
兵役など日本とは異なる部分もあるが、全体的には今の日本
の若者にも通じるところの多い作品。しかし日本の若者に共
通した問題意識を持って貰えるか、共感して貰えるかが重要
な作品と言えそうだ。

『おじいさんと草原の小学校』“The First Grader”
ギネスで史上最高齢の小学生と認定されているケニア人男性
の姿を描いた作品。
2003年、ケニア政府は小学校教育の完全無料化を宣言し、国
民全てに教育の機会が与えられると発表した。ただしここで
の「国民全て」とは政治家の使う言葉の綾。しかしその言葉
を真に受けた1人の老人が小学校で勉強をしたいと訪れる。
その老人は、元はケニヤ独立の戦士だったが、戦いに明け暮
れた日々の中で教育を受ける機会を失い、読み書きも全く出
来なかった。そんな老人の希望は、政府から届いた1通の手
紙を自分で読みたいということだった。
しかし、生徒200人に机は50台というくらいに生徒が溢れる
小学校側も、そう簡単に老人を受け入れる訳には行かない。
そのため大人は対象外だと拒み続ける学校に対して、老人は
毎日校門の前に立ち続けた。
そんな日が何日も続き、遂にその熱意に折れた学校側は老人
の入学を認めるのだが、それは周囲にいろいろな波紋を広げ
て行くことになる…。という老人が学校に通い始めるまでの
顛末とその後の出来事、さらに老人が辿ってきた苦難の生涯
などが描かれて行く。
ケニアも多部族からなる国家で、政府は「国民は全てケニア
人」として平等を宣言しているが、独立闘争で宗主国側に付
いた部族や反旗を翻した部族などが共存する政府はなかなか
確執も多いようだ。
そのような恐らくは今も抱えているのであろうケニアの国内
事情や、独立時のイギリスとの関係などが、旧宗主国であっ
たイギリス人のスタッフによって描かれている。それはかな
り勇気の要ることのようにも思えるが、それに果敢に挑んだ
作品でもある。

監督は、2008年6月紹介『ブーリン家の姉妹』のジャスティ
ン・チャドウィック。前作で長編デビューを飾ったばかりの
監督の第2作だが、撮影環境の整った南アフリカではなくケ
ニア現地での撮影に拘わるなど、なかなか骨のある監督のよ
うだ。
脚本は、2006年2月紹介の『ナルニア国物語・第1章』や、
2008年8月紹介『最後の初恋』などのアン・ピーコック。そ
の他の作品ではジョン・ブアマン監督で南アフリカを舞台に
した作品があるなど、アフリカの事情もよく判った脚本家の
ようだ。
主演は、ケニアのテレビ番組で長年人気キャスターを務め、
1984年の『シーナ』にも出演していたというオリヴァ・リト
ンド。他に、2006年7月紹介『パイレーツ・オブ・カリビア
ン/デッマンズ・チェスト』などのナオミ・ハリス、2005年
11月紹介『ホテル・ルワンダ』などのトニー・ギゴロギらが
共演している。

『赤い靴』“The Red Shoes”
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話をモティーフに
してバレエ界の内側を描いた1948年の名作がディジタル・リ
マスターにより復活。一昨年のカンヌ映画祭で話題を呼んだ
作品が日本でも公開されることになった。
登場するのは国際的に活動するバレエ団。多少ワンマンな団
長に率いられたそのバレエ団は果敢に新作に挑み高い評価を
得ていた。そして今回も新作『火の心』が大成功を納める。
しかし次の公演でのプリマドンナの引退も発表される。
一方、団長はその公演に絡んで2人の新人と契約していた。
1人は『火の心』の音楽は自分の作品の盗作と主張する作曲
家と、もう1人は成功を祝うパーティを開催した社交界の令
嬢でもあるダンサー。その2人の才能は、厳しい団長も認め
るものだったのだ。
そして団長は、作曲家に童話『赤い靴』を基にしたバレエの
作曲を指示し、令嬢をそのプリマドンナに抜擢する。その物
語は、舞踏会に憧れる少女が魔法の赤い靴を履き踊りは上達
するが、やがて靴に支配され踊りを止められなくなる…とい
うものだった。
映画は、そのバレエ化された『赤い靴』の舞台シーンを中心
に置いて、童話の物語を巧みに反映したストーリーが展開さ
れて行く。それはバレエに魅せられてしまった人々が織りな
す哀しみに満ちた物語だ。
作品はずっと以前に観た記憶はあったが、子供ではなかなか
理解し難い物語だったかも知れない。でも今観ると典型的な
メロドラマといった感じのストーリー展開で、それ自体は今
となっては特別とも言えないものだ。
しかし間に挿入されるバレエシーンでは大胆に合成が行われ
るなど、その映像表現には注目すべき点のある作品だった。
まあその合成も今の水準ではないが、この時代にこのような
表現を試みたこと自体が評価されるべきもの。正に歴史的な
作品と言える。

監督は、1946年『天国への階段』でも知られるマイイクル・
パウエルとエメリック・プレスバーガー。因にパウエルは後
に『血を吸うカメラ』(1960年)と言った作品も監督し、プ
レスバーガーは1964年映画化された『日曜日には鼠を殺せ』
の原作者としても知られる。
ただし本作で注目すべきは撮影監督のジャック・カーディフ
と美術監督を務めた画家のハイン・ヘックロス。『天国への
階段』の撮影も担当し、後には1973年『悪魔の植物人間』と
いった作品の監督も手掛けるカーディフが、ヘックロスのス
ケッチを基に数々の映像表現を生み出しているものだ。

『グッド・ハーブ』“Las buenas hierbas”
アルツハイマー型認知症を題材にしたメキシコの女性監督に
よる作品。
主人公はシングルマザーの女性。彼女の母親はアステカ時代
の薬草を研究している民族植物学者だったが、ある日のこと
訪ねてきた娘に家の鍵が無くなったと訴え、窓から変な男が
覗いていたとも言い出す。
しかし鍵はすぐに見つかり、母親の発言も勘違いと思われた
が、自らの症状を疑問に感じた母親は医師の診断を受け、認
知症と診断されてしまう。そして母親は「誰かの世話になる
のは嫌だと」と娘に宣言するのだが…
映画には、アステカの薬草を記録した1552年に編纂されたと
いう古書の写本が登場し、さらにその薬草を描いた挿絵がア
ニメーションになるなど素敵なシーンも挿入されている。そ
んな細やかな演出も施されている作品だ。

脚本と監督のマリア・ノバロは1951年生まれ、1989年に発表
した第1作がニューヨーク批評家協会賞を受賞、その後も多
数を受賞するが、2000年以降は後進の育成に務めていた。本
作はそんな女性監督が10年ぶりに手掛けた作品となる。
出演は、娘役に本来は舞台女優で本作の演技により主演女優
賞を受賞しているウルスラ・プルネダ、母親役には1984年製
作のメキシコ映画『フリーダ・カーロ』に主演のオフェリア
・メディーナ。
他に、1991年のキューバ映画『愛しのトム・ミックス』など
に出演のアナ・オフェリア・ムルギア。また、映画に登場す
る呪術師マリア・サビーナの映像は別のドキュメンタリーか
ら取られた実物だそうだ。
自分の母親が認知症で苦しんでいたころを考えると、本作の
母親のように、本人が自覚したときが一番辛かったように思
う。会話は普通でも時折「思い出せないんだよ」と訴えてく
る。それを聞いているときが切なく辛かったものだ。
本作でも一瞬前のことが思い出せずに苦しむシーンがあった
が、そんな切なさが見事に描かれている作品だ。


『ハウスメイド』“하녀”
韓国映画史上で最高の傑作と言われる1960年キム・ギヨン監
督による『下女』を、2007年10月紹介『ユゴ|大統領有故』
などのイム・サンス監督がリメイクした作品。
主人公は、上流階級の邸宅で働き始めたメイド。その邸宅に
は長く勤める先輩のメイドもいて、その先輩の厳格な指導の
下、主人公は双子を妊娠中の妻と6歳になる一人娘の世話を
中心に仕事をすることになる。
そして生来が子供好きの主人公は一人娘とはすぐに仲良しに
なり、その様子を観て最初は横柄だった妻も彼女を信頼する
ようになって行く。それは理想的な職場のように思えた。
そんなある日、一家の供で別荘に出かけた主人公の部屋に、
深夜一家の主人が忍び込んでくる。それは以前から主人の視
線を感じていた主人公には意外なことではなく、彼女は主人
の身体を受け入れてしまう。
そしてその後は何ともなかったように日々が過ぎて行くが、
やがて先輩のメイドが本人より先に主人公の身体の変化に気
づく。さらに巧みな会話でその相手が一家の主人と確信した
先輩メイドは…
1960年のオリジナルは観る機会を得ていないが、物語はこの
ような環境でなら起こるかも知れないと思える、ある意味で
自然な展開と言えるもの。その中から見事に人間の本性が炙
り出されてくる。
それは、娘を除く大人の登場人物全員が悪人となる作品では
あるが、その一方でその行為は観客にも納得できる。その描
き方の巧みさが傑作と評価される所以なのだろう。
しかも本作の雰囲気は、僕のような人間にとっては正しくホ
ラー映画を感じさせるものになっており、この雰囲気がオリ
ジナルと同じかどうかは判らないが、これは僕には堪らない
作品だった。

主演は、今年2月紹介『素晴らしい一日』などのチョン・ド
ヨン。他に、2004年10月紹介『オーバー・ザ・レインボー』
などのイ・ジョンジェ、人気新人女優のソウ、キム・ギヨン
監督の1971年作『火女』に主演したユン・ジョヨンらが脇を
固めている。

『沈黙の宿命』“True Justice: Deadly Crossing”
スティーヴン・セガール主演の『沈黙』シリーズの最新作。
と言っても1992年『沈黙の戦艦』に始まるこの‘シリーズ’
は、1995年『暴走特急』だけが同じ主人公による正式な続編
で、それ以外は日本だけのプロモーション用に仕立てられた
ものだ。
しかし本作は、カナダで今年1月放送されたテレビシリーズ
の1篇で、本作の劇場公開に続けてDVDリリースされる本
作を含めた6作は正しく『沈黙』シリーズとなっている。
物語は、シアトル警察に創設された特別捜査隊(SIU)の
活躍を描くもので、セガールが演じるのはそのチームのリー
ダー。精鋭たちが集まるそのチームは潜入捜査やおとり捜査
を駆使して危険な犯罪組織の壊滅に邁進している。
そして本作に描かれるのは、郊外のスーパーマーケットで起
きた殺人事件が発端。そこは戦時中に日本人の強制収容所で
あったキャンプ・ハーモニー地区に程近く、主人公のルーツ
にもつながる場所だった。
そんな歴史も絡めた地区でさらに捜査を進めた主人公は、や
がて事件の背後に潜む犯罪組織に肉迫して行くが…
セガールのアクションは合気道が基本だが、警官に扮した本
作では銃撃戦などもふんだんに登場する。しかもそこから合
気道へと繋がるが、それもあまり無理で無く繋げられていた
ように思えた。
ただし本作では、テレビ画面を意識したのかアクションシー
ンでもアップが多用されており、そのため技の連携が見え難
いのは多少残念に感じられたところだ。でもまあ、最近のセ
ガールのアクションは大体こんなものだから、そのファンに
は充分なところだろう。

共演は、アレックス・マラリJr.、J・アンソニー・ペナ、
ウィリアム・スチュアート。さらにミーガン・オリー、ウォ
ーレン・クリスティ、2007年12月紹介『ジェシー・ジェーム
ズの暗殺』に出ていたというサラ・リンド。
監督は2010年『沈黙の鉄拳』などのキオニ・ワックスマン、
脚本はセガールと2007年『沈黙の奪還』などのジョー・ハル
ピン、製作は『沈黙の鉄拳』などのデボラ・カブラー、さら
に製作総指揮にはセガールと共に2010年2月紹介『ハート・
ロッカー』などを手掛けたニコラス・シャルティエが参加し
ている。
因に本作は、テレビ放送では第1回と第2回を飾る2話連続
のもので、お話は繋がったものになっている。またデータベ
ースによると、第3回と第4回も“Street Wars”と題され
た2話連続の作品だが、その劇場公開はされないようだ。
さらに今回のDVDリリースは6枚12回分とされているもの
だが、データベースによると本シリーズは第1シーズン13回
とその後に1回分が追加されて全14回分あるようだ。

『水曜日のエミリア』
        “Love and Other Impossible Pursuits”
今年のアカデミー賞主演女優賞を受賞したナタリー・ポート
マンの製作総指揮・主演による2009年の作品。
主人公のエミリアは水曜日に義理の息子を学校に迎えに行く
のが決まり。そこで周囲から略奪婚と囁かれても気にしない
彼女だったが、割り切っているように見える息子の悪気はな
いのかも知れない発言は一々気になるものだった。
そんな彼女は、勤務先の法律事務所で先輩の弁護士が好きに
なり、一人息子が産まれた後は妻との仲が疎遠になっていた
弁護士もそれを受け入れた。やがて彼女は妊娠、妻の座を勝
ち得たのだが、産まれた赤ん坊は最早この世にいない。
そして家の中には、使われなかったベビーベッドなどの育児
用品が処分できないまま残され、息子はそれらをeBayで売ろ
うと発言していたのだが…。さらに前妻との教育方針での対
立も彼女を悩ませていた。
こんな状況の中でも幸せを願う主人公を描く作品は、物語の
始まりから見事に高い緊張感で演出され、その緊張が最後ま
で途切れない。それは人生の中でも経験する緊張感をリアル
に描き尽くしたものだ。

共演は、2008年6月紹介『P.S.アイラブユー』などのリサ
・クロドー、1996年に松田聖子が主演した『サロゲート・マ
ザー』に出演のスコット・コーエン、それに2007年12月紹介
『アイ・アム・レジェンド』に出ていたというチャーリー・
ターハン。
作品は、『スパイダーマン2』の脚本でも知られる作家マイ
クル・シェイボンの夫人で、元は官選弁護人だったというア
イアレット・ウォルドマンの原作に基づくもの。その原作か
ら2000年『偶然の恋人』などのドン・ルースが脚色・監督し
た。因に原作者は映画化について、「私の望んでいたすべて
が形になっていた」と絶賛しているそうだ。
インディペンデント色の濃い作品だし、このままでは日本公
開は難しかったかも知れないが、ポートマンの受賞のお陰で
可能になったというところかな。今後もこのような作品が何
本かありそうだ。



2011年05月15日(日) 日輪の遺産、酔拳、チョン・ウチ、ヤバい経済学、エッセンシャル・キリング、デンデラ、POTC生命の泉+Terminator

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『日輪の遺産』
2006年8月紹介『地下鉄(メトロ)に乗って』などの浅田次郎
の原作から、2006年9月紹介『出口のない海』や2007年4月
紹介『夕凪の町 桜の国』などを手掛けた佐々部清が監督し
た第2次大戦末期における軍部の謎に挑んだ作品。
プロローグは2011年3月、卒業式を迎えたその女学校の正門
横には、終戦直前に勤労奉仕先で殉死した生徒と先生の追悼
碑が建てられている。その碑に参ってから式場に向かう老夫
妻。その式の最中、夫は「真柴さんから命令を解除された」
と言い残し亡くなる。
そして1945年8月10日、近衛師団参謀室では連合軍から突き
つけられたポツダム宣言に対する論議が繰り返されていた。
その中で少し距離を置く真柴少佐の許に、「余人に知られず
陸軍省大臣室へ出頭せよ」との電話が架かる。
その大臣室にはもう1人、大蔵省から東部軍経理部に出向中
の小泉中尉がおり、2人に極秘の任務が与えられる。それは
敗戦を覚悟した軍上層部からの、山下将軍がフィリピンより
持ち帰った財宝を、戦後復興の資金として秘匿せよというも
のだった。
こうして任務に従事した2人の下には、実戦の経験も豊富な
望月曹長が配属され、さらに勤労奉仕で動員された20人の幼
気な少女たちと引率の先生と共に、「決號榴弾」と記された
木箱を地下壕に運び込むその任務は遂行されて行くが…
当時の額で900億、現在なら200兆円とも言われる山下財宝。
その行方は、戦後何度も大型詐欺の手口の一つとして話題に
なったものだが、その筋書きの一つが軍部によって秘匿され
たという内容で、この物語もそれに基づいている。
ただし、さすが浅田次郎の筆になると、その秘話は見事に感
動的な物語へ昇華していた。しかもそれが反戦の色も濃く、
その一方で軍人の英雄的な行動も描く。確かに愚かな部分も
ありはするが、それらが人間の行動として巧みに描かれてい
た。

出演は、3人の軍人役で界雅人、福士誠治、中村獅童。生徒
の級長役に森迫永衣、先生役にユウスケ・サンタマリア。他
に八千草薫、麻生久美子、塩谷瞬、北見敏之、八名信夫。さ
らにミッキー・カーチス、柴俊夫、麿赤兒らが脇を固めてい
る。
またダグラス・マッカーサー役は、2006年2月紹介『ニュー
・ワールド』などに出演のハリウッド俳優ジョン・サヴェー
ジが演じていた。
なお原作者によると、本作と『地下鉄…』は双子の兄弟のよ
うな作品なのだそうで、原作にはそれを繋ぐシーンもあるそ
うだが、映画化ではカットされていたようだ。
ただ、物語として主人公たちの行動は理解できるが、それ以
外の部分で秘密が保てたかどうか、その点では多少甘いよう
にも感じられた。でももし本当にあったら、今の時代にこそ
必要な資金のようにも思えるものだが…


『酔拳』“蘇乞兒”
ジャッキー・チェンが主演した1978年『ドランクモンキー/
酔拳』でも知られる中国・清朝末期の広東省に実在した武術
家の生涯を、1978年作の監督で『マトリックス』などの武術
指導でも知られるユエン・ウーピン監督が描いた作品。
時代は1861年、清朝に仕える蘇燦は敵に捕われた親王の救出
で武勲を立て、知事職に推挙される。しかし武道に精進した
い蘇はその栄誉を共に育った義兄の袁烈に譲り、自らは実父
の道場に戻って武道の鍛練に励んでいた。
ところが袁は、実は蘇の父親が倒した武術家の息子であり、
やがて袁は自らの実父も染まった五毒邪拳という邪悪な拳法
を習得して養父に襲いかかる。そして養父を倒した後は蘇燦
にも拳を向け、蘇を激流にたたき落とす。
その蘇は、後を追って激流に身を投じた妻によって一命を取
り留め、山に住む女医の力で袁から受けた毒素も取り除かれ
る。しかし、袁に破れたことが痛手となった蘇は、妻が造る
酒に酔い痴れ、人格も変貌して行った。
そんなある日、蘇は山中で仙人と武神に出会い、彼らと共に
再び武術の道を進み始めたと妻に話す。ところが蘇の言葉を
信じられない妻は、単身、袁に拉致された息子の救出に向か
ってしまう。そしてその後を追った蘇は…
原題は「物乞いの蘇」という意味で、蘇燦に付けられた別名
とされる。そして映画では、前半で蘇が酔拳を会得するまで
が描かれ、後半では「物乞いの蘇」としての活躍を描く2部
構成の作品になっている。
さらにその前半は、VFXも多用された正に伝説という感じ
のファンタスティックな作品に仕上げられており、後半では
ある程度リアルな格闘技としての酔拳が披露される。しかも
それが、10分と間隔を置かないアクションの連続で描かれて
いるものだ。
物語は2部構成である分、多少連続性に欠ける感じもしてし
まうが、VFXあり、CGIあり、ワイアーありのアクショ
ンシーンは、それぞれ存分に楽しめる。ただまあ、ジャッキ
ー作品のような身体を張った感じが薄れるのは致し方ないと
ころもあるが。

出演は、2003年5月紹介『ブルー・エンカウンター』に出演
していたチウ・マンチェク、昨年6月紹介『北京の自転車』
などのジョウ・シュン、昨年11月紹介『MAD探偵』などの
アンディ・オン。
さらに、ミシェル・ヨー、ジェイ・チョウ、デイヴィッド・
キャラダインら国際的に活躍する俳優が顔を揃えているのは
ウーピン監督のお陰と言えそうだ。因に、2009年バンコクで
客死したキャラダインは、本作が遺作の1本となっている。
なお本作の香港での公開の際は、蘇と武神の戦いのシーンが
3Dになっていたそうだが、僕の観た試写は2Dで上映され
ていた。日本公開がどうなるのか不明だが、できたら3D版
も観てみたいものだ。

『チョン・ウチ〜時空道士』“田禹治/전우치”
500年前の朝鮮時代に実在したとされる道士チョン・ウチ。
韓国の古典英雄小説にも描かれるその道士を現代に甦らせ、
妖怪との壮絶な闘いを描いたアクション作品。
物語の発端は500年前。天の牢獄に妖怪を封じようとした仙
人たちの策略が手違いで失敗し、妖怪が地上に放たれる。そ
こでその責任を取るべく地上に降り立った3人の仙人は、地
上の道士ファダムの手を借りて妖怪の捕獲に奔走する。
一方、高名な道士チョングァンの不肖の弟子チョン・ウチが
妖怪の力を封じる神秘の笛を手に入れる。ところがその笛の
力はファダムが人間でないことを明らかにし、ファダムは笛
を手に入れようとチョングァンを殺害、その罪をチョン・ウ
チに被せる。
このためチョン・ウチは仙人たちによって掛け軸に封じられ
ることになるが、その瞬間、彼は笛の一部をファダムから奪
い返し、そのまま掛け軸の中に封じられてしまう。そしてそ
の封印は500年間は解かれないものだった。
時代は変って500年後の現代、不老不死の3人の仙人は姿を
変えて今も地上に暮らしていたが、その彼らの前に再び妖怪
が姿を現わす。そこで3人の仙人はチョン・ウチの封印を解
き、妖怪退治を手伝わせようとするのだが…
元々性格が無邪気なチョン・ウチは現代に来ても羽を伸ばす
ばかり、さらに500年前に巡り会った女にそっくりな女性を
見つけて言い寄り始め、そこにファダムも甦ってくる。

主演は、昨年8月紹介『義兄弟』などのカン・ドンウォン。
甘いマスクで日本でも人気の韓流スターが、本作ではコミカ
ルな演技から壮絶なアクションまで、その魅力を存分に発揮
しているものだ。
共演は、2005年9月紹介『ビッグ・スウィンドル』などのキ
ム・ユンソク、2008年8月紹介『ハピネス』などのイム・ス
ジョン、それに昨年10月紹介『黒く濁る村』などのユ・ヘジ
ン。監督は『ビッグ・スウィンドル』のチェ・ドンフンが手
掛けている。
物語は、500年前と現代の2部構成のものだが、その両方を
略等分に描いており、お陰で上映時間も2時間16分の長尺。
ただ、そこまで描く必要があったかというと…。ここは、も
う少しどちらかに集中した方が良かったかな。そんな感じも
する作品だった。

でもアクションは見事で、それは観ていて飽きさせないもの
になっていた。

『ヤバい経済学』“Freakonmics”
シカゴ大学の経済学部の教授スティーヴン・D・レヴィット
と、ジャーナリストのスティーヴン・J・ダブナーが2005年
に発表したノンフィクション本に基づき、昨年11月に紹介し
た『ビン・ラディンを探せ』のモーガン・スパーロックや、
同『ジーザス・キャンプ』のハイディ・ユーディング&レイ
チェル・グレイディらが映像化した作品。
原作本は見ていないが、世間で定説とされるいろいろな事象
を統計などを使って検証しているもののようだ。ただしそれ
をincentive(誘因)という経済用語で括っているのが学者
らしいところのようで、本作でもその誘因を探すことが中心
に描かれている。
そして本作では、命名がその子供の将来に影響するか(スパ
ーロック監督)、日本の大相撲の八百長問題(2006年『エン
ロン』などのアレックス・ギブニー監督)、1990年代以降の
アメリカの犯罪発生率減少(ユージーン・ジャレキ監督)、
懸賞金で高校生の学力は上がるか?(ユーディングら監督)
などが検証される。
この他に、レヴィットとダブナーの掛け合いのようなインタ
ヴューといろいろな小ネタが、本作の製作総指揮者でもある
セス・ゴードンの監督で挿入されている。
ただまあ、全体が93分の作品で、その中でこれだけのテーマ
を扱っているのだからそれぞれはかなり駆け足というか、そ
れほど深く追求されているものではなく、大体は原作本をそ
のまま映像化しているだけのもののようだ。
という中で、大相撲の八百長問題が比較的チャンとしたドキ
ュメンタリーになっているのは面白いところで、これが今春
の事件発覚の前に映像化されていた点は認められるべき作品
だろう。
といってもこれも、週刊ポストの記事を書いたジャーナリス
トらへのインタヴューや、それぞれのアーカイブ映像が中心
だから、さほどドキュメンタリーとして優れている訳ではな
いが、事前に勝率からそれを予言している辺りは面白いと言
えば面白かった。
それにこの映像などは、少なくとも今春の事件発覚以降に日
本のマスコミがもっと取り上げているべきものだが、そんな
ものは観た記憶が無いのも、本作のいう誘因の一つかとも思
えるところだ。
ただし本作によると、アメリカの報道でも米軍の行為は「厳
しい取り調べ」で、同じことを中国軍がやると「拷問」にな
るそうだから、所詮マスコミというのはそんなものなのだろ
う。次には是非とも、福島原発と計画停電の問題を検証して
もらいたいものだ。


『エッセンシャル・キリング』“Essential Killing”
昨年の東京国際映画祭で上映された作品で、その時にも鑑賞
しているが、一般公開が決まり改めて試写が行われた。
アフガニスタンの荒涼とした砂漠の上空をヘリコプターが飛
行中、その眼下でアメリカ人に対する襲撃事件が発生。襲っ
たアラブ人と見られる男は、ヘリコプターや地上軍の追跡に
よって拘束される。
拘束された男は厳しい拷問を受け、やがて目隠しのまま別の
場所に移送。ところがその移送中に起きた偶然の事故で男は
逃亡に成功してしまう。しかし彼が置かれたのは雪深い森の
中。故郷の砂漠とは全く違う環境の中で壮絶なサヴァイヴァ
ル劇が始まる。
上映時間は83分の作品だが、その間の男は全くの無言。周囲
では英語やアラビア語やポーランド語なども聞こえるが、男
には初め聴覚が一時的に失われているなどの設定もあって、
一切の台詞が排されている。
先に書いたように本作は映画祭でも観ているが、何本も纏め
て観る映画祭ではそれぞれの作品の印象は薄れがちだ。その
中で本作はサヴァイヴァルの壮絶さは記憶されたが、展開が
偶然に拠り過ぎているなど物語の印象が薄い感じがした。
しかし今回、作品を見直していて物語としてもなかなか巧み
に感じられたものだ。もちろんそれは偶然が支配している面
は強いが、民俗や宗教などが巧みにあしらわれることで、崇
高な男の生き様のような観え方もしてきた。

脚本と監督は、2009年7月紹介『アンナと過ごした4日間』
などのポーランドの名匠イエジー・スコリモフスキ。前作も
会話の少ない作品だったが、本作ではさらにそれが究極に至
っている感じのものだ。
主演はヴィンセント・ギャロ。アメリカの俳優だが両親はシ
チリア移民とのことで、風貌なども本作にはピッタリの感じ
だ。共演は2007年11月紹介『潜水服は蝶の夢を見る』などの
エマニュエル・セニエ。
なお、映画に登場しているCIAの対テロ収容施設は、ヨー
ロッパに実在するとされるが公式には一切認知されていない
もの。またポーランド政府は、CIA機の発着も一切感知し
ていないとするが、欧州議会では周知の事実だそうだ。


『デンデラ』
2001年のメフィスト賞受賞作家で、2007年の三島由紀夫賞を
史上最年少で受賞したという佐藤友哉が、2009年に発表した
小説の映画化。
各地に残る姥捨て伝説を基に、山に捨てられた老婆たちのそ
の後を描いた物語。
主人公のカユは71歳になった日に雪深い山の祠の前に置き去
りにされる。そして極楽浄土に行けると目を瞑るが、ふと気
が付くとカユは小屋の中で藁に包まれていた。
そこは山の祠のさらに奥の村人も足を踏み入れない土地で、
そこに今年で100歳になるメイが、山に捨てられてから30年
掛けて作り上げてきた老婆だけの社会が成り立っていた。そ
れは貧しくも平等な社会。そんな老婆たちの社会にカユも迎
えられたのだ。
そのメイは30年前に山に捨てられた恨みを忘れず、いつの日
か村に復讐することを願っていた。そこにやってきたカユは
丁度50人目の参加者となり、メイは村への復讐に必要な人数
は揃ったと考え作戦を練り始める。そこには復讐に反対する
グループも存在したが。
姥捨てが実際に行われていたという歴史的な記録は残されて
いないそうだが、老人の持つ知恵を大事にしようという教え
がこのような伝説の根底にはあるようだ。本作の老婆たちが
雪山で生き延びているのもそんな知恵のお陰ということなの
だろう。そしてそこから新たな物語が紡ぎ出されて行く。

出演は、浅丘ルリ子、草笛光子、倍賞美津子、山本陽子、山
口果林、白川和子、山口美也子、角替和枝、田根楽子、赤座
美代子。何とも錚々たる女優陣という感じだが、この女優た
ちがボロを身に纏い、顔は老人の特殊メイクで大熱演を繰り
広げている。
脚本と監督は、映画監督今村昌平の長男で2006年『暗いとこ
ろで待ち合わせ』などの天願大介。『暗いところで…』も乙
一原作のファンタスティックな部分のある作品だったが、本
作もある種のユートピア物のようなファンタシーの香りがす
る物語だ。
しかしその物語を天願監督は、山形県庄内映画村に降り積も
る現実の雪と女優陣のリアルな演技で、かなり骨太な作品に
仕上げている。これが1980年生まれの原作者に対する1959年
生まれの監督からの回答なのかもしれない。これは見事な映
画化と言えるものだ。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』
   “Pirates of the Caribbearn: On Stranger Tides”
ディズニーランドの人気アトラクションから誕生した2003年
〜2007年公開シリーズの第4弾。といっても前の3作は3部
作として完結しており、本作からはジャック・スパロー船長
の新たな冒険が始まるものだ。
物語の発端はスペイン。永遠の命をもたらすとされる“生命
の泉”を探す途上で命を落とした探検家ポンセ・デ・レオン
の残した200年前の航海日誌が発見され、スペイン国王はそ
の伝説の泉を探すべく海軍の派遣を命じる。
一方、イギリスのロンドンでは、スパローの名で裁判に掛け
られ、絞首刑を言い渡されそうになっていた昔の仲間ギブス
を、スパローが策略によって裁判所から救出する。が、詰め
が甘く今度はスパロー本人が国王ジョージ2世の前に引き出
されてしまう。
しかもそこにいたのはスパローの宿敵バルボッサ。今やバル
ボッサは国王に忠誠を誓った公賊となっており、国王はスペ
インに先んじて“生命の泉”を発見することを命じていた。
そしてかつてその場所に行ったことがあるというスパローに
協力が強制される。
しかしそこも辛くも脱出したスパローは、自分の名前が騙ら
れているらしいロンドンの海賊の溜まり場「船長の娘」に赴
き、そこでかつての恋人アンジェリカと巡り会うが、彼女は
妖術使う海賊黒ひげと共に“生命の泉”を探す航海の準備を
進めていた。
斯くして“生命の泉”を巡るスペイン軍、バルボッサ、黒ひ
げ三つ巴の闘いが始まり、スパローは否応なくそれに巻き込
まれることになる。

出演は、スパロー船長役のジョニー・デップ、バルボッサ役
のジョフリー・ラッシュ、それにギブス役のケヴィン・マク
ナリーが前シリーズから引き続き登場し、前作に登場したも
う1人も再度出演している。
これに対する新たな登場人物では、アンジェリカ役にペネロ
ペ・クルス、また黒ひげ役には2008年9月紹介『デス・レー
ス』にも出演のゴールデン・グローブ賞受賞俳優イアン・マ
クシェーンが扮している。
さらに前シリーズで人気を得たオーリー、キーラの若いカッ
プルに代っては、フランスの新星アストリッド・ベルジェ=
フリスペとイギリス出身のサム・フランクリンが抜擢されて
おり、彼らに続けるか…というところだ。
脚本は前シリーズに引き続いてテッド・エリオット、テリー
・ロッシオのコンビが担当。ただし今回は、事前の情報でテ
ィム・パワーズの原作小説からキャラクターを入れ替えたも
のとされていたが、クレジットではsuggestionという表記に
なっていたようだ。
監督は、オスカー作品賞受賞作『シカゴ』などを手掛けたロ
ブ・マーシャル。前作までのゴア・ヴァビンスキーに代って
の登板だが、作品の眼目ともいえる剣戟などのアクションが
ちょっと弱いのは残念かな。もう少しその辺にアイデアが欲
しかった感じはした。

なお、作品は前シリーズと同様にエンドロールの後にもう一
齣あるので席は立たないように。それからロンドンのシーン
の中にジュディ・ディンチが出演していたようで、これも次
回への伏線なのかな。
        *         *
 最後に製作ニュースは一つだけ。
 今年1月紹介『トゥルー・グリット』の製作総指揮を勤め
たミーガン・エリスンが率いるアンナプルナという製作会社
から、“Terminator”の続編2本の映画化権を契約したこと
が報告された。
 この権利については昨年2月28日付でパシフィカーという
会社が獲得したことを報告したが、今回の契約はその会社と
結ばれたもの。そしてこの契約にはタレントエージェンシー
のCAAが関っていて、そのCAAではすでにアーノルド・
シュワルツェネッガーとの主演契約も結んでおり、さらに監
督には、2009年7月紹介『ワイルド・スピードMAX』など
のジャスティン・リンの起用も決まっているとのことだ。
 ただしお話がどうなるかは全く公表されていないもので、
果たして2009年5月紹介『ターミネーター4』との関係がど
うなるか、続報が気になるところだ。



2011年05月08日(日) サンザシの樹の下で、いのちの子ども

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『サンザシの樹の下で』“山楂樹之戀”
2003年5月紹介『HERO』や、2008年2月紹介『王妃の紋
章』などのチャン・イーモウ監督による最新作。『王妃…』
の紹介文では、2000年『初恋のきた道』には戻れないか…な
どと書いたが、本作はしっかりそこに戻ってきてくれたよう
な作品だ。
その本作は、中国系アメリカ人作家エイミーによる中国内で
300万部を売り上げたとされるベストセラー小説の映画化。
文化大革命時代を背景にした実話に基づくという若い男女の
恋愛が描かれる。
主人公は町の高校から再教育のための農業実習で農村にやっ
て来た女子高生。その村には抗日の象徴とされるサンザシの
樹があり、日本軍によって銃殺された人々の血が染み込んだ
とされる土地から生えたその樹は、季節には本来の白ではな
く赤い花を咲かせるのだという。
そんな村で村長の家に身を寄せた主人公は、同じ家に出入り
し家族と共に食事をする近くの川原で地質調査をしているエ
リート青年と言葉を交わすようになる。そして2人の感情は
徐々に高まって行く。
ところが主人公の家は、両親共に教育者のようだが、時代の
中で反革命分子として迫害を受けており、母親は貧しい生活
の中で娘が教員になることを望んで、そのためには正式採用
になるまで一切の問題になる行動を禁じていた。それには恋
愛も含まれていた。
しかし教員への仮採用が決まってもさらに正式採用まで数々
の苦難に晒される主人公に、青年は手を貸さざるを得ない。
そんな2人の姿はやがて母親も認めるようになって行くのだ
が…

主演は、本作のために2500人以上のオーディションの中から
選ばれたという1992年生まれのチョウ・ドンユイ。それに中
国出身だがカナダ在住、1988年生まれのショーン・ドウ。因
にドウはイーモウ監督の次回作にも出演しているようだ。
他に、1993年『ジョイ・ラック・クラブ』に出演のシー・メ
イチュアン、2007年8月紹介『呉清源』に出演のリー・シュ
エチェン、先月紹介『ビューティフル』に出演のチェン・ツ
ァイシェンらが脇を固めている。
イーモウ監督自身が下放政策によって農民や工員として生活
した経験があるとのことで、本作にはそんな思いも込められ
ているのかもしれない。しかし作品は純粋な恋愛映画として
描かれており、それは世界中の誰しもが共感できる物語とな
っている。
『初恋のきた道』ではチャン・ツィイーを見出したイーモウ
監督の新ヒロイン、ドンユイにも注目が集まる作品だ。

『いのちの子ども』“Precious Life/חיים יקרים”
パレスチナのガザ地区で20年以上に亙りイスラエルの商業テ
レビ局チャンネル10のレポーターとして活動するシュロミー
・エルダールの取材(監督・撮影・ナレーション)による幼
い命を巡るドキュメンタリー。
イスラエルが設置した検問所によってほぼ封鎖状態に置かれ
ているガザ地区は、毎日のように行われるイスラエル軍によ
る砲撃の下で日々の日常が送られている。そんなガザ地区を
取材するエルダールにある日、医療センターの医師から取材
の依頼が届く。
テル・アビブに所在するその医療センターは、パレスチナ人
の医療も引き受け、特にガザ地区で重篤とされた患者が検問
所を越えて収容される場所。そしてエルダールが出会ったの
は、先天性の免疫不全症に苦しむ幼児を抱えた母親だった。
その治療には脊髄移植が提案されているが、その費用を支払
う術が両親にはない。そこでエルダールは自ら担当する番組
で両親の窮状を訴え、その費用の調達に成功するのだが…そ
こには民族間に横たわる数々の問題や確執が渦巻いていた。
作品は幼い命を救うために奔走する人々の姿を描き、そこに
は篤志や偶然?やいろいろな出来事が描かれている。その一
方で、作品はパレスチナ問題の歴史的な深さや現状の問題を
炙り出す。
例えば幼児の母親は、医師とは英語で会話するほどの教養の
持ち主のようだが、彼女が時折々に見せるパレスチナ人とし
ての考え方やイスラムの教えは、ある意味震撼とさせるもの
があったりもする。
折しも試写から帰宅したらアメリカ軍によるビン・ラーディ
ン殺害のニュースが流れていたが、問題はそれだけで済むも
のではない。それでもそれらを乗り越えて行こうとする人々
の姿が、微かな希望としてこの作品には描かれていた。
なお映画に登場する産科医は、2009年のノーベル平和賞候補
にも挙がったことのある人物だそうだ。

こういう人々の真剣な姿を観ると、軽薄なヴァラエティ番組
で世界中の戦場を飛び回っていると自称する戦場カメラマン
とかいう連中には、単にお前が戦争が好きなだけでしょうと
言いたくなる。そんな気分にもさせられる作品だった。
        *         *
 今回はGWの連休中なので紹介は2本のみです。それで、
製作ニュースを纏めて…、と思ったのですが、前回報告した
入院の影響でデータの収集が滞っており、また情報はいくつ
かあるのですが目新しいのものもあまりないので、今回は割
愛します。
 次回までには体制を立て直しますので、またよろしくお願
いいたします。



2011年05月01日(日) あなたの初恋…、パーフェクト・ホスト、モールス、アントニオ・ダス・モルテス、黒い神と白い悪魔、テンペスト、人生ここにあり+闘病記

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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 前回は突然休載して申し訳ありませんでした。実はその間
に腎臓結石で緊急入院していたもので、休載の告知もその時
には出来なかったものです。今回はその報告も後でさせて貰
いますが、まずは映画紹介。

『あなたの初恋探します』“김종욱 찾기”
2006年に初演された韓国オリジナルミュージカルを原作に、
その原作舞台を手掛けた演出家チャン・ユジョンが自ら映画
化に挑戦した作品。ただし映画化はミュージカルではなく、
ストレートのドラマになっている。
主人公はミュージカルの舞台監督を務めている33歳の女性。
以前はアイドル歌手だったようだが今は裏方として頑張って
おり、その頑張り振りは先輩のミュージカルスターからも信
頼されている。
そんな彼女の私生活は、妹と軍人の父親の父子家庭で、妹は
婚活の真っ最中だが彼女自身は父親の勧める好条件の見合い
にも中々納得しない。その理由は、若い頃に旅したインドで
巡り会った男性との初恋にあるというのだが…
もう1人の主人公は31歳の男性。勤めていた旅行会社を馘に
なるが、一念発起、以前からのインターネット検索の趣味を
活かして「初恋探し会社」を起業してみる。そしてその会社
の依頼者第1号として、主人公の父親が娘を連れて現れる。
こうして初恋探しが始まる。
映画化をミュージカルでなくした分、主人公をミュージカル
の舞台監督にして、その舞台面のミュージカルシーンがしっ
かりと作られている。それはバックステージも含めてそれな
りのものにもなっていた。
ただ、オリジナル知らずに映画だけを観ていると、主人公の
活躍の部分と初恋探しが何となくしっくり融合していない感
じで、特に舞台の休演日に地方に探しに行くエピソードなど
は、そこまでする理由が納得できなかった。
そんな訳で中々映画に入り込めなかったのだが、これは以前
にも書いたと思うが僕は元々バックステージものが好きなの
で、その部分は展開も含めて気に入ったものだ。正直には初
恋探しの話は止めて、こちらに集中して欲しかった感じまで
した。本末転倒になるが。

主演は、2006年8月紹介『サッド・ムービー』などのイム・
スジョンと、2007年1月紹介の日本映画『龍が如く』に出演
の後、ドラマ『コーヒープリンス1号店』でブレイクしたコ
ン・ユ。
他に、今年2月紹介『生き残るための3つの取り引き』に出
演のチョン・ホジン、ドラマ『冬のソナタ』などのリュ・ス
ンス、2005年2月紹介『オオカミの誘惑』でヒロインを演じ
ていたイ・チョンア、それに舞台女優のチョン・スギョンら
が脇を固めている。

『パーフェクト・ホスト/悪夢の晩餐会』
                 “The Perfect Host”
『ソウ』シリーズの生みの親とも言える製作者ステイシー・
テストロの製作によるちょっと変った犯罪映画。
男が脚を引き摺りながら街を逃げている。そして自転車や車
を乗り継ぎ追手を捲くことには成功するが、脚の傷を治療す
る必要も生じる。そこで郵便受から抜いたハガキを使ってそ
の家の主人を騙し、家に迎え入れて貰うのだが…その主人は
どこか変だった。
その主人は、友人を招いての晩餐会と称して準備を進め、男
にもワインを振舞う。その間には男が犯した犯罪の全貌も明
らかになり、男が本性を露にして1対1の対決もあったりも
するが、徐々に主人のペースに巻き込まれて行く。そして…
猟奇犯罪ものと言ってしまえばそれでも良いが、元々凶悪な
犯罪者の男がサディストらしい主人にいたぶられ続ける。そ
れは勧善懲悪でもあるから、観客としては比較的安心して観
ていられる展開の作品でもある。ただし映像はかなりえげつ
ないが。

出演は、男の役にテレビ『24』にセミレギュラーで出演し
ているクレイン・クロフォードと、主人役には多数のエミー
賞やトニー賞主演男優賞も受賞しているデヴィッド・ハイド
・ピアース。他にナサニエル・パーカー、ミーガン・ペリー
らが脇を固めている。
脚本と監督は、本作のオリジナルでもある2001年の短編作品
“The Host”でシアトル国際映画祭やオーストラリア映画協
会賞などでも受賞しているニック・トムニー。オーストラリ
ア出身とのことで、『ソウ』のリー・ワネルらとも共通点が
多そうだ。
ただし映画としては、元々男が何故その家に向かったのかと
いう点が不明確だし、主人のやっていることにも意味不明の
部分が多い。それは映像的には面白いし、それだけで楽めば
良いということにもなるが、物語に矛盾があるとそれも問題
だ。
結末はそれとして理解してもよいが、それにしても、何故男
が主人の家を選んだかという点が偶然というだけでは、その
後の展開との繋がりが弱すぎる。正に都合主義という感じで
は困ったものだ。
やはり、主人の過去とかその辺の設定をもう少しちゃんと明
示すべきという感じがした。『ソウ』のときはそんなことを
感じさせない映像のインパクトがあったが、本作はそこまで
ではないし、いっそ映画の後半は無い方がすっきりしたとも
思えたものだ。


『モールス』“Let Me In/Låt den rätte komma in”
日本では昨年に公開されたスウェーデン映画『ぼくのエリ:
200歳の少女』をハリウッドでリメイクした作品。そのリメ
イクは昨年10月紹介『キック★アス』のクロエ・グレース・
モレッツの主演で、2008年『クローバーフィールド』のマッ
ト・リーヴスが監督した。
オリジナルは試写では観せて貰えなかったが、昨年の秋に一
般上映で鑑賞した。その作品は、昨今の派手なハリウッド製
のヴァンパイアものとは違う静かさで、しかもヴァンパイア
の本来の姿をしっかりと捉えている作品だったという印象が
ある。

その作品のリメイクの情報は、2008年5月15日付でも紹介し
ていたものだが、特にこのような作品をハリウッドでリメイ
クすることには、一抹の危惧も感じていた。
しかし本作のリメイクでは、イギリスのホラー映画の老舗ハ
マーの名を引き継いだ会社が権利を獲得し、その点では信用
できるかなとも思えたが、続いてリーヴス監督の起用ではま
た危惧がぶり返してもいたものだ。
という作品だが、僕はリーヴス監督には謝らなくてはいけな
いようだ。そのくらいにこのリメイクではオリジナルへの敬
意を最大限に発揮して、見事にオリジナルの味わいを残した
ままの作品に仕上げてくれていた。なお監督は脚本も自分で
手掛けている。
物語は、学校では苛められっ子の12歳の少年の住むアパート
の隣室に同い年くらいの少女が父親らしい男と引っ越してく
るところから始まる。しかしその部屋は窓も塞がれ、少女が
外出する姿も観られない。しかも壁隣の少年の部屋には時々
怒鳴る声も聞こえてきた。
そして夜間の雪の降り積もる中庭にいた少年は、雪の中を裸
足で出てきた少女に声を掛ける。それは隣部屋に住む少女だ
ったが、少女の態度にはどこかよそよそしさがあった。それ
でも気になった少年は少女に話し掛け続けるが…。やがて惨
劇が始まる。

共演は、2009年『ザ・ロード』のコディ・スミット=マクフ
ィー、2009年1月紹介『バーン・アフター・リーディング』
などのリチャード・ジェンキンス、今年2月紹介『キラー・
インサイド・ミー』などのイライアス・コティーズ。
実は、物語自体はオリジナルのほとんど同じで、そこに多少
のハリウッド的なVFXが入っている程度。まず上映時間も
116分とほぼ同じだし、全く台詞を英語にして俳優を替えた
だけではないかと思わせるくらいのものだ。
正直には、監督がここまで自分を殺してリメイクした心情を
聞いてみたくなるくらいだったが、それほどこのオリジナル
を大事にしたかったのだろうし、その気持ちが本当に嬉しく
なってしまうような作品だった。

オリジナルを見逃した人もこの作品を観れば大丈夫と言える
作品だ。

『アントニオ・ダス・モルテス』
   “O Dragão da Maldade contra o Santo Guerreiro”
『黒い神と白い悪魔』“Deus e o Diabo na Terra do Sol”
前回紹介した『狂乱の大地』に続くグラウベル・ローシャ監
督による作品で、共に希代の殺し屋アントニオが登場する2
作品。
1969年発表の『アントニオ…』はこの年のカンヌ国際映画祭
で監督賞を受賞、また1964年発表の『黒い神…』は1966年サ
ンフランシスコ映画祭大賞を受賞して、シネマ・ノーヴォの
名を世界に知らしめた。
因にこの2作品は、以前に日本で公開されているものだが自
分では鑑賞した記憶がなく、また『黒い神…』については、
今回は完全版上映とされているものだ。
その『黒い神…』は、ブラジル北部の荒野で暮らす牛飼いが
主人公。小作人だった彼は、ふとした弾みで領主を殺してし
まい妻と共に逃亡を余儀なくされる。そして聖地の存在を予
言する黒人神父の率いる教団に身を寄せる。
ところがその教団は徐々に勢力を増し、やがて政府軍とも闘
いを繰り広げるようになって行く。そんな教団に手を焼いた
地主やその地主と結託する教会は、盗賊団ガンガセイロの殺
し屋アントニオ・ダス・モルテスを雇い、教団の討伐に向か
わせるが…
この殺し屋による襲撃シーンはかなり唖然とさせられるもの
だったが、白茶けた荒野の風景がモノクロの画面によくマッ
チして、『戦艦ポチョムキン』のオデッサ階段シーンを思い
出させるような映像が造り出されていた。
これに対して5年後に製作された『アントニオ…』は殺し屋
を主人公にしたカラー作品。この作品では若い聖女を中心と
した教団が描かれる。そしてそこに集まる若者たちの狂乱に
憂慮した町の警察署長がアントニオを呼び寄せるが…

物語は互いには独立しており、出演者も殺し屋役のマウリシ
オ・ド・ヴァッレ以外は異なるものだ。ただ、僕は試写の行
われた上記の順番で観たが、物語の内容的にはやはり発表順
に観た方が良いようには感じられた。
作品ではいずれも宗教と為政者の関係が描かれており、それ
はいろいろな意味で現代にも通じる物語とも言え、それはそ
れで面白い。でもまあ、作品の価値としては、やはり映画史
的な部分の方が高いかな。そんな感じの作品だ。


『テンぺスト』“The Tempest”
日本では「あらし」の題名でも知られるシェークスピアによ
る単独では最後と言われる戯曲を、1997年の初演以来、世界
中で今も上演が続いているミュージカル「ライオンキング」
や、2003年6月紹介『フリーダ』などのジュリー・テイモア
監督が映画化した作品。
シェークスピアの原作は、SF映画ファンにとっては1956年
『禁断の惑星』の基になった作品としても知られており、そ
のため僕も原作のストーリーは読んでいたが、演劇として観
るのは初めてだった。
その映画化は、物語としては原作の通りだが、魔法使いがプ
ロスペラという名前の女性に変えられていたり、ハワイ島で
撮影された野外風景や魔法や妖精のシーンにはVFXも多用
されるなど、テイモア監督らしい外連に満ちた作品になって
いた。
因に物語は、ナポリ王とミラノ大公の乗船が嵐で難破し、一
行は絶海の孤島に漂着する。そこには弟にその座を追われた
かつてのミラノ大公が、島で生まれた娘と共に魔法を研究し
ながら暮らしていた。
そしてナポリ王に同行していた王子が王たちとは離れて島に
辿り着き、そこで王子は魔法使いの娘と出会うが…

主人公の魔法使い役には、2010年12月紹介『RED』などの
ヘレン・ミレンが扮する。デイムの称号も持つイギリス出身
のオスカー女優が、本来は男性であるシェークスピアの主人
公を実に楽しげに大芝居で演じているものだ。
共演は、2008年11月紹介『寝取られ男のラブ♂バカンス』の
ラッセル・ブランド、2010年初演されたテイモア監督のステ
ージ・ミュージカル“Spider-Man: Turn Off the Dark”で
ピーター・パーカーを演じているリーヴ・カーニー。
また、2003年5月紹介『アダプテーション』でオスカー受賞
のクリス・クーパー、2010年11月紹介『バーレスク』にも出
ていたアラン・カミング、2007年1月紹介『ブラッド・ダイ
ヤモンド』などのジャイモン・フンスー。
さらに2010年7月紹介『魔法使いの弟子』などのアルフレッ
ド・モリナ、イギリスのTVシリーズ“Dr.Who”に出演のフ
ェリシティ・ジョーンズ、2007年1月紹介『パフューム』に
主演していたベン・ウィンショーら、実に豪華な顔ぶれが脇
を固めている。
なおテイモア監督は、1999年『タイタス』でもシェークスピ
アに挑戦しているが、本作の『テンぺスト』は1986年に舞台
で初めてシェークスピアを演出した作品とのこと。本作の巻
頭のシーンはその舞台での演出を再現しているそうだ。

『人生、ここにあり!』“Si può fare”
1998年12月を以て精神病院を全て廃絶したというイタリアで
の実話に基づく物語。
1978年に制定された精神病院廃絶法によって精神病院が閉鎖
された1983年ごろのイタリア・ミラノでのお話。労働組合員
だった主人公は、組合内で革新的な意見を言い続けたために
煙たがられ、「共同組合180」という組織に移動を命じら
れる。
そこには、病院が閉鎖されても戻る場所のない元患者たちが
集められ、施しのような作業を無気力に続けている場所だっ
た。しかしそんな施しの作業も真面にはできない元患者たち
だったが、そんな中で主人公は患者たちが時折発揮する才能
に気がつく。
そこで元患者たちに、施しではない、正当な賃金の貰える事
業を起すことを提案、組合の理念にしたがった会議によって
その事業を模索し始める。ところが精神病院は廃絶されても
元患者の言動は奇抜で、意見はあらぬ方向に進みそうになる
が…
こうして始まった事業は、最初こそ元患者ということで敬遠
されるが、やがて元患者たちの芸術的なセンスなどによって
評判を呼び、正当な賃金も得て軌道に乗り始める。しかし社
会的な復帰を遂げ始めた元患者たちには別の問題も生じてい
た。

殆どの精神病が精神病医によって捏造された架空の病という
話は、以前にもここで書いたと思うが、イタリアでは正にそ
の理論によって精神病が法律によって否定された。しかし法
律で否定しただけでは駄目で、そこにはこんな映画のような
実話が必要だったのだろう。
そんな心暖まる実話の映画化が、元患者役を演じる俳優には
数ヶ月の精神保険施設での研修を課したという見事な役作り
で描かれている。
主演は、1997年『ニルヴァーナ』などに出演のコメディアン
のクラウディオ・ビジオ。その恋人役に2007年5月紹介『イ
タリア的、恋愛マニュアル』に出演のアニータ・カプリオー
リ。他に、医師役で1998年『星降る夜のリストランテ』など
のジョルジョ・コランジューリ、2000年『ベニスに恋して』
などのジュゼッペ・バッティストンが脇を固めている。
脚本と監督は、本作が長編3作目となるジュリア・マンフレ
ドニア。因に、監督の前作は1993年のアメリカ映画『恋はデ
ジャ・ブ』のリメイクだそうで、そういうセンスもある監督
のようだ。
また映画の中では、1985年公開『バック・トゥ・ザ・フュー
チャー』を観に行くシーンが意味を持って使われていた。
        *         *
 ということで今回は、読んでくださる方の参考にもなるか
と思い、腎臓結石の闘病記を少し書かせて貰います。
 実は昨年の秋ごろから背中に違和感があり、それは痛いと
いうより筋肉が凝っている感じだった。そこで近所の接骨院
でマッサージなども受け、その時々は解消していたのだが、
またすぐぶり返すといった状態が続いていた。
 ところが4月20日の早朝、余震の揺れで目を覚ました僕は
背中の痛みが尋常でないことに気付いた。それでも最初は湿
布薬などで我慢しようとしたのだが、痛みが徐々に激しくな
り、遂にこのままではいけないような気がして家内に救急車
の手配を頼んだものだ。
 そこからはとにかく痛みをこらえるのが精一杯という感じ
で、しかも「イタイ」と声に出すと気が紛れる感じもして、
「イタイ、イタイ」の連発。これにはかなり家内にも迷惑を
掛けたようだ。しかも到着した救急車は、一目で腎臓結石と
判断してくれたものの、泌尿器科の夜勤のいる病院が見つか
らずしばらく停車。その時間も、実際は長くはなかったのだ
ろうが、とにかく痛みは我慢の限界に近かった。
 その痛みというのは、切り傷や刺し傷の痛みのように鋭い
ものではなく、我慢しようと思えば我慢できる感じもするの
だが、とにかくこのままではいけないという感じがあって、
それを訴える意味でも「イタイ、イタイ」を連発していたよ
うな気もする。
 そして少し離れた大学病院に泌尿器科の夜勤医がいること
が判りそこへ搬送。直ちに超音波で結石を確認して痛み止め
の座薬と鎮痛薬の点滴をして貰ったが、極限に達していた痛
みはもう何がなんだか判らない状態だった。
 それでも徐々に痛みは退いて、明け方には歩いて帰れるほ
ど。その際、医師からは泌尿器科の外来を受けることを勧め
られたが、自宅近くの総合病院の名前を告げると、そこなら
振動波破砕装置があるからそれも良いと言って貰えた。
 そこでその日の午前中に総合病院を受診、CTスキャンと
X線で結石の位置を確認して、28日に破砕装置による処置を
する予約もして貰えたのだが…。その翌21日早朝に痛みがぶ
り返し、電話で連絡した後タクシーで救急入り口から緊急入
院となってしまったものだ。
 ここで直ちに破砕装置の登場かと思ったのだが、痛みのあ
る間はその処置は出来ないようで…、さらにその週末は学会
があるとかで、取り敢えず入院して大量の水分の注入を受け
ながら様子を観ることになった。
 そんなことで、ほぼ1日一回起きる痛みの発作を座薬で押
さえながら、点滴で1日2000mlの輸液を入れ、さらに口から
も毎日1000ml以上を摂取して週末を過ごし、ようやく迎えた
月曜日に再びCTスキャンしてみると、すでに結石は膀胱に
落下して破砕装置の出番はなくなってしまった。
 実は、すでにその処置を受けた同室の患者さんから情報を
聞いたり、密かに装置を波動砲と呼んで多少期待もしていた
のだが、肝心の結石が落ちてしまったのでは仕方がない。と
言うことでさらに2日間の発作と水分の摂取をしたところで
結石の排出が確認された。
 この時も、すでにその日の午後には内視鏡による処置の予
定が組まれて、実際に手術室の看護師から説明を受けたり、
腕に抗生剤の点滴用の針をまさに刺す寸前に、医師から手術
中止の連絡が届いたものだが、その後に話を聞いた主治医か
らは、「大抵このタイミングで出るんだよね」とのことで、
何とか手術は免れたものだ。
 ということでほぼ1週間の闘病となったが、背中の痛みを
感じ始めた半年前にはまさかこんなことになっていようとは
思ってもいなかったもので、たかが背中の痛みと軽視しない
ことを身に染みて感じたものだ。
 中にはもっと厳しい病気が潜んでいる場合もあるようで、
背中の痛み努々軽視することのないように、ここで忠告させ
ていただく次第だ。
 なお、入院期間中には複数の試写があったが、そのほとん
どは後日に観ることができる予定のものだ。ただし、前々回
『卵』の紹介で予告した『ミルク』だけは唯一観ることが出
来なくなってしまった。このような事情なのでお許し願いた
い。


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井口健二