井口健二のOn the Production
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2011年02月27日(日) 軽蔑、サンクタム、塔の上のラプンツェル・3D、Lily+バンコク遠征記(後編)

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『軽蔑』
1992年に亡くなった芥川賞作家中上健次が残した最後の長編
とも言われる作品の映画化。
東京の新宿歌舞伎町でポールダンサーしていた女性と、その
歌舞伎町でヤクザのパシリの様なその日暮らしの生活をして
いた男性。そんな2人は以前から面識はあったが、男が女の
踊る店を襲撃した中で、咄嗟に男は女の手を引いて高飛びを
提案する。
そして2人がやってきたのは男の故郷の田舎町。そこで男に
は資産家の父親がいて、男は女を嫁にすると両親に宣言する
が、両親は女の出自が気に入らないようだ。それでも父親は
2人のためにマンションの1室を用立ててくれる。
こうして2人の暮しが始まり、男は叔父の店の手伝いなどで
地道に働き始めたりもするが、資産家の息子である男には周
囲の人々の関心も高く、昔の女や蔓んでいた仲間たちも現れ
始める。そんな中で男と父親との間で決定的な事件が起き、
女は男を残したまま都会へ帰って行くが…
何度も書いていると思うが、僕はチンピラものは物語として
好きではない。それは特に馬鹿が馬鹿を重ねて行く展開が気
に入らないのだが。本作の場合は、主人公たちは馬鹿ではあ
ってもそれなりに筋の通った行動で、その点では認めざるを
得ない作品だった。
それは互いを好きになってしまった男と女の止むに止まれぬ
行動であり、それがどんな結末を迎えようとも、それを受け
止めざるを得ない…。そんなぎりぎりの感覚が見事に描かれ
た作品のようにも感じられた。

主演は、昨年7月紹介『おにいちゃんのハナビ』や12月紹介
『まほろ駅前・多田便利軒』にも出演していた高良健吾と、
2002年『リターナー』や『…多田便利軒』にも出ていた鈴木
杏。特に鈴木は子役の頃から見てきたが、見事に女優として
開花してきた感じだ。
他に緑魔子、大森南朋、小林薫らが共演。さらに忍成修吾、
村上淳、根岸季衣、田口トモロヲらが脇を固めている。
監督は、2003年11月9日付「東京国際映画祭」の中で『ヴァ
イブレータ』を紹介している廣木隆一。2003年の作品でも寺
島しのぶから見事な演技を引き出していたが、今回は鈴木を
見事に開花させた。
脚本は、昨年3月紹介『パーマネント野バラ』や2009年7月
紹介『サマー・ウォーズ』などの奥寺佐渡子。こちらも女性
の心理を描くことには長けている感じの脚本家だ。
ただし、ポールダンスは元々女優さんには無理な注文のもの
で、それなりにアップの多用などで誤魔化してはいるが、こ
れは多少厳しい感じがした。両手のグリップを固定するなど
裏技を使っても良かった感じもしたが、それも危険だったの
かな…難しいものだ。


『サンクタム』“Sanctum”
ジェームズ・キャメロン製作総指揮の許、新水路の発見を賭
けてケイヴ・ダイヴィングに挑む冒険家の姿を3Dカメラで
追った作品。
舞台はパプア・ニューギニアの密林の中にぽっかりと開いた
陥没孔。そしてその底から広がる鍾乳洞。その大半は地下水
の中に水没し、そこをケイヴ・ダイヴィングで探索し、海に
抜ける水路を発見するのが冒険家たちのテーマだった。
しかし探索開始からすでに1カ月以上が過ぎ、スポンサーの
声も厳しくなり始めた頃に、そのスポンサーが恋人の登山家
を現地に連れて来るところから物語は始まる。そしてその現
場にはサイクロンも接近していた。
という展開ではほとんど先は読めてしまうようなお話だが、
取り敢えずはパプア・ニューギニアの密林や鍾乳洞の内部の
景観などが3Dカメラに納められていて、それは一見の価値
を生じさせている。
とは言うものの物語は支離滅裂で、リーダーである父親の指
示を無視して予備タンクを用意しない息子や、サイクロンの
接近を知りながら避難をしない冒険家の横暴さみたいなもの
から始まって、兎に角、登場人物が馬鹿のし放題。
隘路で無理に引っ張ってエアパイプを切断してしまうダイヴ
ァーや、ダイヴィングをするのにウェットスーツの着用を拒
否する登山家など、およそ現実では有り得ないシーンが連続
するのには、さすがに呆れ果ててしまった。
でまあこんな話がよく映画化されたと思ったが、そこでふと
これは『SAW』などと同じソリッド・シチュエーション・
スリラーなのだと気が付いた。恐らく製作者たちにはアドヴ
ェンチャーを撮るつもりはなく、ただサスペンスを描くこと
だけが目的なのだ。
そう割り切って観れば、冒険家に有るまじき行為も、観客の
苛々感を増加させる効果はあるし、全てはシチュエーション
の完成のために仕方ないとも思えてくるところだ。それに洞
窟内の閉塞感は、閉所恐怖症の人には耐え切れないのではな
いかと思われるほどリアルなものだった。
いずれにしてもこの作品は、3Dカメラに納められたパプア
・ニューギニアの密林や鍾乳洞の内部の景観などを楽しめば
良いものであって、物語自体はあまり深く考えない方が良さ
そうだ。
でもこの風景は、出来たらドキュメンタリーでも観せて貰い
たい感じもしたものだ。


『塔の上のラプンツェル・3D』“Tangled”
先月にも一度紹介した作品だが今回は3Dでの試写が行われ
たので、改めて少しだけ書き足しておく。
まず3Dの効果に関しては、予想通りというか、予想に違わ
ぬ見事な出来映えで、特に主人公の暮らす塔の景観などは見
事だった。それに何と言っても空を飛ぶランターンのファン
タスティックな美しさ、これは何度でも観たくなるほどのも
のだ。
それと3D上映は基本吹き替え版となるようだが、懸念した
中川翔子の声優は違和感もなく気になるところもなかった。
それに小此木真理が担当した歌との繋がりもスムースで、そ
れも心配したようなものではなかった。
それに剣幸が担当した魔女の声も、こちらは歌も含めて堂々
としたもので、特に日本語の駄じゃれを含んだ歌詞も丁寧に
歌いこなされているのは感心した。まあディズニーの吹き替
えはいつもながら見事なものというところだ。
マンディ・モーアやドナ・マーフィの声が聞けないのは残念
ではあるが、字幕なしの自然な3D映像を楽しみたいならそ
れは我慢しなければいけないところだろう。それにいろいろ
なヴァージョンを観るため何度か映画館に通う価値はありそ
うな作品だ。

『Lily』“Lily”
アメリカで映画を学び脚本家として実績を挙げつつある中島
央監督が、アメリカを舞台にアメリカ人キャストを使って英
語の台詞により完成させた長編デビュー作。
主人公は5年前に華々しくデビューしたものの、その後はス
ランプに陥って第2作が書けなくなった脚本家。しかし彼に
はそんな境遇でも支えてくれる女性がいて、そのある意味安
定した生活が彼の創作意欲を削いでいるようにも見える。
そして彼の脚本を映画会社に売り込むエージェントからは最
後通牒を突き付けられ、切羽詰った主人公は彼女との仲を精
算することも考え始めるが…。そんな主人公の生活と彼が書
き進める脚本の世界とが交錯し始める。
スランプに陥った脚本家の姿というと、2008年5月に紹介し
たフェデリコ・フェリーニ監督による1963年の名作『8½』
や、2003年5月紹介『アダプテーション』など数々の作品が
あるが、本作はその中でも最も私的な感じでその苦悩が描か
れている。
それは僕のような物書きの端くれにも容易に理解できるもの
であり、その意味では世の中全ての物書きの端くれに共感を
呼ぶ作品だろう。でもまあそれがどれほどの観客層なのかは
判らないが…。
しかし、監督本人も多分ごく私的な思いで作り上げた作品で
あろうし、それはそれで良いのではないかなとも思える作品
だ。
因に作品は、2007年に発表された同名の短編から発展された
ものとのことだが、2009年に撮影された後、編集に1年近く
が費やされたとのこと。物語の主人公と同様に監督にも苦悩
があったようだ。

出演は、いずれも映画ではほぼ新人のジョッシュ・ロング、
レベッカ・ジェンセン、ルアナ・パラーモ、それにオリジナ
ルの短編版にも出演していたキャリー・ラトルッジ。他に、
作家でもあるジョン・ボーレンがエージェント役で物語を締
めている。
なお、監督の中島は、現在は“Arcade Decade”と題された
SFラヴ・ストーリーを、日米合作で2012年の公開を目指し
て準備中とのことで、その作品も期待して待ちたいものだ。
        *         *
 以下には前回に続いてバンコク遠征記の後編を書きます。

『旅行2日目』
 試合当日の2月13日は明け方から雨が降り始め、実はこの
日の午前中に観光でもという目論見は足元を掬われた。そこ
でホテルで朝食を取った後はしばらく様子を観ていたが10時
過ぎごろに雨も止んだので出掛けることにした。
 そこでまずホテルのフロントで、バンコク市内を走る高架
鉄道スカイトレインの最寄り駅を確認しそこに向かった。こ
のスカイトレインはバンコク市内に2路線あって、中心街の
サイアム駅で相互に乗り換えが出来るが、僕が向かったサパ
ン・タクシン駅からは試合の行われるナショナル・スタジア
ム駅までが1本で、終点まで乗れば到着できるものになって
いた。
 ところがこの駅に向かう途中でちょっとしたトラブルに遭
遇。実は駅までは徒歩で10数分の道程があったのだが、その
途中の交差点で信号待ちをしていたら突然何やら声を掛けら
れた。そこで咄嗟に‘I can't understand’と応えてしまっ
たのだが、するとそこにいた白人ぽい男性が、今度は極めて
流暢な日本語で「どちらに行くのですか」と話し始めた。
 ここで、こいつは客引きと気が付いたが、話し始めてしま
うと相手はしつこい。それで困っていたところに、偶然その
交差点で椅子に座っていた老人が男を一喝してくれて、男は
引き下がったが、判らない声を掛けられても迂闊に応えては
いけない場所だったようだ。因に近くには日本人女性の観光
客もいたが、そちらには目もくれなかったようで、どうやら
男性専門の客引きだったらしい。午前中だというのに…
 その後は道沿いに出ている屋台店を眺めたりしながら駅に
到着。ナショナル・スタジアム駅までの運賃は30バーツだっ
たが、試合の前後に観光することなども考えて、120バーツ
のOneday Passを購入。スカイトレインに乗り込んだ。
 因にこのサパン・タクシン駅は、開設当初は終着駅だった
そうで、現在は反対方向にも複線で延伸されているが、駅構
内だけは単線のまま。従って同じホームに両方向の列車がや
ってくるが、高架線は見晴らしが良いので方向を間違える可
能性は少なそうだ。ただし乗車の位置が方向によって微妙に
異なっていて、それはちょっと慌てることになった。でもま
あ大したトラブルではなかったが。
 車窓の風景は見晴らしも良く、途中でルンピニー公園など
も広がっていたが、冷房の効いた車内から観ていると如何に
も暑そうでここはパス。最初は中心街のサイアム駅で下車し
て、IMaxも併設されているシネコンの上映作品をチェックし
たり、旧正月の飾り付けなどを鑑賞。その後にナショナル・
スタジアム駅まで行って、準備の様子などを下見した。
 因にシネコンは、1館は前々回紹介『ザ・ライト』と前回
紹介『抱きたいカンケイ』を上映中、もう1館では1月30日
紹介『ブルー・バレンタイン』、それに“BIUTIFUL”“The
Fighter”のアカデミー賞関連3作品が上映されていた。
 これらの中では“BIUTIFUL”にちょっと心を引かれたが、
スペイン語の台詞にタイ語の字幕ではどうにも理解できそう
になく断念。一方、街中には歴史大作らしい“Eagle”とい
う作品のポスターが随所に出ていて気になったが、こちらは
近日上映作品とのことで、これは残念だった。
 さらに向かったナショナル・スタジアム駅の近くでは、実
は事前に入手したバンコク市街の地図の中で気になっていた
「ジム・トムプスンの家」を訪ねた。このジム・トムプスン
という名前は、前回紹介した映画『キラー・インサイド・ミ
ー』の原作者と同じもの。それでひょっとしたら作家の所縁
の場所かと考えたのだが、行ってみるとそこはシルク・キン
グとも呼ばれた資産家の自宅跡で、タイの文化財の保護にも
尽力したという人の記念館のようなものだった。
 従って作家とは無関係だったのだが、ここでふと、以前に
親しかった翻訳家の黒丸尚が生前トムプスン原作の『グリフ
ターズ』の翻訳をしていたころに、「バンコクに家があると
聞いたが、違う人だった」というようなことを話していたの
を思い出した。でもそれは、直前に映画を観なければ作家の
ことは思いつかなかったし、その家を訪問しなければ黒丸の
言葉も思い出さなかったはず。そんなことで何となく不思議
な巡り合わせを感じてしまったものだ。
 そこからはすぐ裏の運河沿いを歩き、スカイトレインの別
の駅からサイアム駅に戻った。そしてキャラクターが合掌で
迎えてくれるマクドナルドで軽い昼食。メニューは日本でも
お馴染みのポークバーガーをコーク、ポテトのセットで頼ん
だが、これがSAMURAI PORK BURGERと名付けられていて、何
故侍なのか…。しかし味は日本と変わりなかったようだ。
 その後は再度ナショナル・スタジアム駅に向かい、事前に
チームに申し込んでおいたチケットを受け取り、ド派手な選
手バスを出迎えたりしてメインスタンドで試合を応援した。
 ここでは、会場で知り合ったタイには何度も来ているとい
うジャーナリストの人と一緒に行動したが、試合前のセレモ
ニーなどでもタイ語以外のアナウンスメントは一切なしで、
突然国歌が流れたときには、その人のアドヴァイスで応援団
を静粛させるなど、いろいろ活動させて貰えた。
 因にスタジアムはペットボトルの持ち込みが禁止で、腕に
再入場のスタンプを押して貰って外に出て買った飲料は、コ
ップかポリ袋での持ち込み。その際には事前の忠告に従って
氷は入れないでおいて貰ったが、それでも良く冷えた水の温
度は結構保っていたようだ。
 試合は、リーグ戦の開幕を1週間後に控えたタイのチーム
と、まだ3週間以上ある日本のチームとでは仕上がりの状態
が全く異なり、しかも相手チームには外国籍の選手が5人ま
で認められていて、能力の高い選手が半数近くいるとゲーム
運びも難しかったようだ。その上、その外国籍の選手が、フ
リーキックの際にキッカーの目前1mぐらいに立ちはだかっ
ても、主審が排除しないというローカルルールで、これでは
勝負にもならない感じだった。それで試合は2−1で負けた
が、そんな中でもルーキー選手が1得点を挙げてくれたのは
収穫だったと言える。
 さらに試合後は、会場で知り合ったジャーナリストの人に
誘われて日本料理の居酒屋に行き、タイのビールと日本のス
ーパーなどで売られている大元の焼鳥や、その他の軽めのつ
まみを飲食したが、以前に海外の日本料理屋で飛んでもない
「和食」を食べてきた経験からすると、至極真面な料理だっ
たものだ。そんな訳で夜も少し遅くなってからホテルに戻っ
たが、ここでまたちょっとスリルを味合わされた。
 というのは、駅からホテルまでは上記のように10数分の道
程なのだが、夜も9時を過ぎると屋台街はまだ賑わっている
が、商店街はシャッターが閉まって昼間とは雰囲気が全く違
う。それにホテルの前が一方通行で、そこに向かって曲がれ
ばいいと思っていたのが車通りが減り、さらに道路標識も読
めないと一通かどうかも判らなくなる。これが誤算だった。
 それでも最初は暖かい夜道を気楽に歩いていたら、突然背
後から唸り声が聞こえてきた。それで振り返ると、シェパー
ド風の犬が後に10匹ほどを従え牙を剥いて構えている。実は
タイは狂犬病の汚染地区でこれも事前に注意を受けていた。
でもさすがに市街地の犬は涎を垂らしている風でもなく、病
気の恐れは少なそうだったが、それでも噛まれれば痛いし、
怪我をすれば帰国も面倒になる。
 それで慌てて前を見ると、そちらにも1匹。見事に挟み撃
ちにされたが、そこは車の来ない広い車道を横切ったら、さ
すがにそこまでは追ってこなかった。その後は街中に点々と
開いている飲食店の客などにホテル名を言って道を教えても
らいホテルに戻ったが、都合ホテルの建つ街区を1周余分に
回ってしまったようだ。
 往きには変な男に絡まれたりもあって、それで多少混乱し
てしまったところもあったが、道順と特に曲り角はしっかり
覚えておくことを肝に銘じたものだ。

『旅行3日目』
 この日は帰国するだけなので、朝7時30分のピックアップ
に合わせて6時のモーニングコールを頼み、朝食とチェック
アウトも済ませて送迎の車に乗って空港に向かった。その途
中ではMISUSHITADENKIと書かれた大きな看板を観たような気
がしたが、見間違いだったのかな。
 そして空港では、ガイドの指示に従って航空機会社のカウ
ンターに行き、バンコク−タイペイ、タイペイ−成田の搭乗
券を受け取って出国管理。これらは多少の待ち時間はあった
が問題なく通過した。ここで旅行土産をまだ買っていなかっ
たが、免税品店では酒も煙草も香水も興味はないので、取り
敢えず象の形のチョコレートとお香のセットを購入。他に、
日本で集め始めた根付けを探したら、何とハロー・キティの
タイ版を見付けたが、趣味に合わなかったので購入はしなか
った。
 そこでこのまま搭乗口のゲートに向かったが、ここでは指
定されたG1の隣にG1aというゲートもあって多少混乱し
たものだ。そして機内では、昼食と映画を楽しんだが、上映
されたのは“Morning Glory”。つまりタイペイ行きの上り
線はすべて同じ映画だったらしいのだが、しかもタイペイま
ではほとんど機内に日本語はないのに映画だけは英語と日本
語版。結局この作品とは4度目のつきあいとなったが、あま
り気にならず楽しめたのは、この作品にそれなりの魅力があ
るということのようだ。
 その後のタイペイ−成田間は、偏西風に乗って飛行時間も
2時間15分とのことで映画はなし、機内食の夕食を楽しみ、
申告品なしの税関書類などを書いて着陸を待った。
 しかしこの後でちょっとトラブル。被っていた帽子を無く
してしまった。これは成田に向けての降下が始まったところ
でしっかりと被り直し、その後は荷物を取って入国管理に向
かっただけなのだが、入国管理で帽子を取らなくては、と思
ったところで紛失に気が付いた。でもそこからは捜しに戻る
こともできず、諦めるしかなかった。
 そして税関では、最初にバンコクには何回目ですか?と訊
かれ、初めてですと答えたが、ここで初めてなのに2泊3日
ですかと突っ込まれた。これには正直にサッカーの応援だと
答えたが、チームがベルマーレというと「ベルマーレ平塚で
すか」と言われたものだ。そこですかさず「今は湘南ベルマ
ーレです」と言ったが、後でこれは引っ掛けだったのではな
いかと思い至った。
 確かに初めての土地に2泊3日はおかしいし、そこでチー
ム名を正確に答えられなかったら、さらに疑われても仕方が
ない。そんなことも考えながら帰宅の途に着いた。他に同じ
引っ掛けが出来そうなのは「ヴェルディ川崎」ぐらいしか思
い付かないが、サポーターは覚悟していた方が良さそうだ。
 後は積雪の都内を、最寄り駅まで娘に迎えに来てもらって
帰宅。あっという間のバンコク旅行を無事に締め括ったもの
だ。来年は何処のチームが招待されるかは判らないが、何時
かまた次はちゃんと観光の時間も取って訪れたいと思える町
だった。



2011年02月20日(日) ビー・デビル、魔法少女を忘れない、抱きたいカンケイ、生き残るための3つの取引+バンコク遠征記(前編)

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
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『ビー・デビル』“김복남 살인사건의 전말”
2008年3月紹介『ブレス』などのキム・ギドク監督の許で、
長年に亙り助監督を務めていたというチャン・チョルス監督
のデビュー作。
ソウル市内に住む独身女性のヘウォンは、目前で起きている
犯罪にも目を瞑ってしまうようなごく一般的な市民だった。
そんな彼女が、自分が目を瞑ったことへの罪悪感や勤務先で
のストレスなどからトラブルを起こし、上司に休暇を強制さ
れてしまう。
そして彼女が訪れたのは、人口9人の絶海の孤島。そこは彼
女が幼い頃の一時期を過ごした場所で、その岩場に渡し船が
着いたときには、その島で結婚して1人娘もいる幼馴染みの
ボンナムが昔通りの笑顔で迎えてくれた。
しかしそのボンナムの笑顔の裏には、彼女が耐え続けてきた
辛い暮しの陰が漂っていた。島の老人たちが押し付ける労役
の数々や夫の暴力、それに夫の弟による陵辱。それらはある
種の島の因習とも呼べるものだった。
そんな島をヘウォンは訪れた。そしてボンナムとの友情は彼
女に一時の安らぎを与えてくれたのだが…。その島でも都会
での生活態度を貫こうとした彼女の行動が、やがて惨劇の切
っ掛けを生むことになる。

このヘウォンを昨年10月紹介『ハーモニー』にも出ていたチ
・ソンウォンが演じ、ボンナム役には2008年『チェイサー』
などのソ・ヨンヒが扮している。因にソは、自身の母親が同
様の境遇で育ち、その思いを込めて演じているとか。他には
16年ぶりの女優復帰などという人もいて、なかなかの配役の
ようだ。
脚本は、昨年8月紹介『義兄弟』にも名を連ねていたという
チェ・クァンヨン。本作の脚本は2008年シナリオマーケット
に応募されてグランプリを獲得したもので、チェの出世作と
も言えるものだ。
ただし、物語の中ではヘウォンの出自がちょっと曖昧にされ
ている感じで、彼女が何故その島にいたのか、そして何故彼
女だけ島を出て行けたのかなどが多少気になった。もちろん
それは本作の物語に直接には関係ない話だが、そこに何かが
隠されているような感じもつきまとった。

本作は、韓国映画特有のヴァイオレンス描写も激しい作品だ
が、本当の悪とは一体何なのか、観客にはそんなことも突き
付けてくる作品だった。

『魔法少女を忘れない』
集英社文庫所載・しなな泰之原作小説からの映画化。
母子家庭の男子高校生の主人公の家に、出張帰りの母親が突
然1人の少女を連れてくる。その少女は「元魔法少女」と呼
ばれており、魔法の使えなくなった彼女の境遇に同情した母
親がしばらく引き取ることにしたのだという。
そして彼女が「元魔法少女」だということは、他人には秘密
というのだが…彼女の秘密はそれだけではなかった。「元魔
法少女」の存在は、やがてその周囲の人たちの記憶からも消
えてしまう運命だったのだ。
そんな「元魔法少女」のことを、主人公は最初は血の繋がら
ない兄として守り抜くと決心していたが…

主演は、D−BOYSメムバーで2009年『ハイキック・ガー
ル!』に出演、本作が初主演の高橋龍輝。「元魔法少女」役
は俳優国弘富之の次女で2010年『少女戦士伝シオン』などの
谷内里早。
さらに2009年『侍戦隊シンケンジャー』の森田涼花、2008年
『炎神戦隊ゴーオンジャー』の碓井将大らが共演。その他、
2008年5月紹介『次郎長三国志』に出演の前田亜季、1972年
『人造人間キカイダー』の伴大介らが脇を固めている。
原作がどのような形式で描かれているのか、また上記の「元
魔法少女」の設定が一般的なものかどうかも知らないが、映
画では記憶から消えてしまうという設定が最初は隠されてい
て、途中でそれを知った主人公たちが記憶を留める努力をす
る展開になっている。
従って、主人公たちが知らない設定を観客が知っている必要
はないのだが、本作の場合、その設定が明らかにされない曖
昧さが物語全体に不自然さを蔓延させ、その他にも不自然な
設定が、特に映画の前半では観ていて居心地の悪さを感じて
しまった。
物語の全体は、言ってしまえばアルツハイマーの逆ヴァージ
ョンであって、それ自体は面白い着想だと思えるが、それを
わざわざ隠す必要があったか否か。本作では観客には最初か
ら提示してしまった方がすっきりと話を展開できたのではな
いかとも思えた。
それはその設定が明らかにされた後の主人公たちの頑張る姿
や、その後の結末の付け方などにそれなりの良さを感じたも
ので、もっとその辺にしっかり時間を掛けて描いて欲しかっ
た感じもしたものだ。その点が物足りなくも感じられた。


『抱きたいカンケイ』“No Strings Attached”
1984年『ゴーストバスターズ』などのアイヴァン・ライトマ
ン監督による最新作。最近では息子のジェイスンが監督した
『マイレージ、マイライフ』など製作者としても忙しいライ
トマンが、2006年『Gガール』以来の監督に復帰した。
主人公は、幼い頃から恋愛恐怖症の女医と、別れた元カノが
あろうことか自分のバツ2の父親と結婚することになって、
こちらも恋愛不審に陥ったテレビ局のAD。元々は知り合い
同士の2人が再会し、感情抜きの純粋なセックスフレンドに
なることを決めるが…
今年1月紹介『婚前特急』の主人公も、ある種こんな感覚な
のかな。複数の男を渡り歩く日本映画よりは、1対1の本作
の方が多少は現実的なような感じはするが、でもこんな関係
が普通に成立する世の中になってしまったということなのだ
ろう。
でもまあそれが上手く行かなくなってしまうのも現実的な訳
で、その辺こそが現代の男女関係を見事に描き出した作品と
いうことなのかもしれない。そして本作では、コメディの要
素も加味しながらリアルな物語が描かれている。

脚本は、オフ・ブロードウェイ劇の脚本を手掛けたこともあ
るというエリザベス・メリーウェザー。因に本作の脚本は、
評価は高いが製作されない人気脚本を紹介する「ブラックリ
スト」のベスト10に入っていたそうだ。
主人公の女医役はナタリー・ポートマン。先月紹介した『ブ
ラック・スワン』とは正反対の役柄という感じだが、ポート
マンは本作では製作総指揮も務めており、精神的にも相当に
追い詰められたはずの前作からは思い切り開放された感じか
も知れない。
相手役は、2010年1月紹介『バレンタインデー』などのアシ
ュトン・カッチャー。番組製作会社なども経営する彼には、
テレビ局のADという役柄はかなり填り役のようにも感じら
れた。
他には、2010年10月紹介『ソウ・ザ・ファイナル』などに出
演のケイリー・エルウィズ、1988年『ワンダとダイヤと優し
い奴ら』でオスカー受賞のケヴィン・クラインらが脇を固め
ている。
なおライトマン監督の次回作には、2012年12月の全米公開予
定で“Ghostbusters III”の撮影準備が進んでいるようだ。

『生き残るための3つの取引』“부당거래”
2006年8月紹介『ユア・マイ・サンシャイン』などのファン
・ジョンミン主演、2005年8月紹介『ARAHAN』のリュ・スン
ワン監督、リュ・スンボム共演で、韓国警察及び検察の裏側
を描いた作品。
叩き上げの刑事と検察庁幹部を義父に持つエリート検事。事
件を通じて情報の遣り取りをする以外には接点のなかったは
ずの2人の人生が交錯し、韓国警察と検察の内部を揺るがす
事件に発展して行く。
そこには世間が注目する連続女児殺人事件を巡る「真」犯人
のでっち上げや、不動産取引を巡っての検事の後ろ楯になっ
ている不動産業界の大御所と、刑事が関係する新興の建設業
者との確執など、様々な要素が絡み合って行く。
そして検事は刑事による犯人でっち上げの疑いを深め、刑事
は検事と大御所との癒着の証拠を掴んで行くが…
この刑事と検事はどちらも悪人であることは確かだろう。し
かし刑事には警察の威信を守るためにせざるを得なかった事
情があるし、一方の検事のしていることは汚職ではあっても
それほどの実害が生じているものには見えない。
そんな2人のある意味での必要悪とも思える行為が、ちょっ
としたの歯車の狂いから取り返しのつかない事態へと発展し
て行く。それは哀しい人間の性なのかもしれないし、誰でも
がその立場に立ったら落ちてしまう罠なのかも知れない。
そして物語の中では、今一歩のところで最悪の事態は食い止
められたかも知れない状況が描かれ、その哀しさも観客の胸
に突き刺さる作品になっている。

共演は、2010年10月紹介『黒く濁る村』などのユ・ヘジン、
2005年『クライング・フィスト涙拳』などのチョン・ジン、
2009年1月紹介『映画は映画だ』などのチョン・マシク、そ
して2010年6月紹介『仁寺洞スキャンダル』などのマ・ドン
ソク。
リュ・スンワン監督は、今まではアクションが得意と見られ
ていたようだが、本作ではかなりの心理描写を描き切ってい
る。その成果は、韓国の映画監督が相互に選ぶディレクター
ズ・カット・アワードを受賞し、今年のベルリン国際映画祭
パノラマ部門にも正式出品されたそうだ。
        *         *
 今回は、2月13日を挟んで2泊3日のバンコク旅行をして
きましたので、その報告させてもらいます。

『旅行の準備』
 旅行の目的は、その日にバンコクの国立競技場で行われた
サッカー「トヨタプレミアカップ2010」に出場する湘南ベル
マーレの応援。この試合はタイで行われている天皇杯のよう
なカップ戦の優勝チームとJリーグチームが戦うという企画
のもので、その第1回大会にベルマーレが招待されたのだ。
 ところがこの発表の出たのが1月7日。その時から応援に
行くかどうか迷ったが、期間は日本の連休に重なっており、
ツアー料金なども高めが予想された。それに僕自身が約30年
間海外旅行をしておらず、以前に取り敢えずの準備で作った
パスポートも期限切れの有り様だった。
 それでも町中で格安航空券の案内などを貰うとバンコク行
きの内容なども検討したが、どれも申し込みに期限があった
り、条件の煩いものが多くなかなか決めかねていた。しかし
試写会場に向かう途中で本籍地の区役所の近くを通り掛かっ
た日に、何となく戸籍抄本の発行を受け、その日の午後の試
写の後でパスポートの申請に向かっていた。
 その申請に必要なものは、東京では国立市民以外は戸籍抄
本または謄本と写真だけで、その写真は申請所の入口にあっ
た写真店でモノクロ写真を撮影した。そして写真の出来上が
りを待っているとクレジットカードの申し込みキャンペーン
に参加してくれと声を掛けられた。そのカードは以前に使っ
ていたが、勤めを辞めたときに退会したもの。そのことは話
したが、何でもいいから申し込みをしたら初年度会費は無料
で現金1700円くれるというのでつきあった。
 実は、そのとき撮影したモノクロの写真代は1500円で戸籍
抄本の発行手数料が450円、そこに1700円キャッシュバック
されると差し引き-250円。つまり、パスポートの申請をして
も受け取らなければ手数料は不要なので、この時点で250円
の支出だけでチャンスを留保できることになったものだ。
 ということで、取り敢えず準備は進めたものの、まだ行く
かどうかは決めかねていたのだが…。旅行の後押しになった
のは、2月5日に行われたチームのイヴェントに参加したと
きのこと。そのイヴェントに参加したサポーターの人たちが
誰もタイに行かないという事実に直面し、そこで急遽バンコ
ク行きを決意したのだった。
 そんな訳で、実質的には試合日の1週間前から旅行の算段
を始めたものだが、最初に訪れた町中の格安旅行専門の旅行
会社では「すでにその期間は満席で今さら無理」という回答
だった。ところがインターネットというのは大したもので、
火曜日の夜には手頃なツアーが見つかり、その日はすでに営
業時間外だったので、とりあえずメールで可能性を問い合わ
せて反応を待つことにした。
 すると水曜日の朝に、返信メールで「可能」との回答が届
き、営業開始の10時を待って電話を掛けた。そして電話での
応対の末に2泊3日のツアーをアレンジして貰い、その日の
午後1時までに旅行代金を振り込めば契約成立となったもの
だ。そして午前中に16,000円を納入してパスポートの発給を
受け、ATMから旅行代金の送金を済ませた。
 ただしこの時点では、成田発タイペイ経由バンコク行きの
往復航空券は押さえられたが、まだホテルの手配はされてい
ないとのこと、しかしその日の夕方までにはマノーラという
ホテルを押さえたとの連絡も貰えた。つまり旅行のアレンジ
は水曜日1日ですべて完了して貰えたということだ。
 しかもこの旅行費用は、往復航空券と2泊のホテル代には
朝食が含まれ、さらに飛行場からホテルまでの送迎付きで、
総額44,840円(ただし僕の場合は1人部屋使用なので8000円
余分に掛かったが、それでも52,840円)という格安のもの。
もちろんこれには各空港の利用料なども含んでいたものだ。
 因にこの旅行は「旅工房」という旅行会社にアレンジして
貰ったが、以前に問い合わせた某大手の格安旅行会社などと
違って旅行費用に「弊社手数料」などというものがなく、実
にリーズナブルにアレンジをして貰えた。アジア方面専門の
旅行会社のようだが、今後も何かあったらまた利用したいと
思ったものだ。
 と、ここまでは順調に来たが、ここで1つ目のトラブルが
発生した。
 実は今回の旅行ではその間の保険を旅行会社にアレンジし
て貰う時間がなく、旅行会社からはネット上で契約できる保
険を勧められていた。そこで木曜日の午前中に某保険会社の
サイトにアクセスし、クレジットカード払いで契約を済ませ
たのだが、その日の夕方になってそのクレジットカードに旅
行保険が付帯していることに気が付いたのだ。
 ここで保険に2つ入ったことの出費は問題なかったが、保
険会社との契約で別の保険に入っていることの告知義務に違
反している恐れがあった。これは最悪の場合、義務違反を盾
に保険料の支払いが拒否される恐れもある。そこでサイトに
掲載されていた案内の窓口に電話を掛けたのだが…。これが
全く要領を得ないものだった。
 つまりこの時点で保険会社の営業時間は過ぎており、24時
間対応の窓口では翌営業日まで担当者がいないという。しか
し今回は連休が入って次の営業日は月曜日、つまり旅行前に
は対応が出来ないというのだ。そこで止むなく旅行当日の成
田空港の窓口で再度問い合わせることにしたのだが、そこで
も担当者が不在で、結局2つの保険に入っていても問題ない
という回答が得られたのは、飛行機に搭乗した後だった。
 結論として今回の僕のケースでは、2つの保険に入ってい
ることは問題ないらしいのだが、これが全てに適用されるか
否かは不明。それにこれがイレギュラーなケースとは言え、
今回の対応の悪さには実際のトラブル時の対応にも不安を感
じたもので、少なくとも以後の旅行ではこの保険会社は利用
しないことに決めた。いずれにしてもクレジットカードに付
帯の保険だけでも、かなりの保障は得られるようだ。

『旅行1日目』
 ということで、旅行初日の2月12日は、成田を9時40分の
出発便(=7時40分集合)ということもあり、さらに上記の
事情もあるので自宅を始発電車で出発した。そして大門で乗
り換えてそこからは特急券不要のアクセス特急で一路成田。
これで自宅からは2時間弱で空港第2ビル駅に到着した。
 その空港では、まず指定の団体窓口で航空券の控えを受け
取り、航空機会社のカウンターで成田−タイペイ、タイペイ
−バンコクの2枚の搭乗券に引き換え、出国管理などを経て
搭乗口に向かった。実はこの間にも何度も保険会社に電話を
掛けていたが、なかなか回答が得られなかったものだ。
 そして飛行機に搭乗。乗ったのは多分ボーイング747と
思うが、30年前の記憶と変わらない機内の様子には、何か懐
かしさと安心感も込み上げてきた。
 その機内では朝食とキャビンごとのスクリーンで新作映画
のサーヴィスがあったが、上映されたのは、昨年12月5日付
で紹介した『恋とニュースのつくり方』。実はこの作品は、
必要があってもう1回試写を観ていたのだが、何と3度目を
観ることになってしまった。でもまあ今回は日本語吹き替え
だったし、元々嫌いな作品ではないので楽しめたものだ。
 さらにタイペイでは、ターミナルビルを替えての乗り継ぎ
だったが、ターミナルビルを繋ぐシャトルの乗車も楽しめた
し、待機時間も短くて快適に乗り継げた。ただしタイペイの
気温が予想外に低く、空港内では自宅から成田まで着用した
ダウンの上着が役に立つほどだった。時間的には正午過ぎの
時間帯だったが、この寒さは異常気象なのだろうか。
 その後のタイペイ−バンコク間は少し小振りの飛行機だっ
たが、最新鋭機らしく何とエコノミー席にも座席ごとにモニ
ターがあり、映画は10本以上から選べるようになっていた。
しかしタイペイを過ぎると機内の日本語は全くなくなり、映
画も吹き替えはもちろん字幕も全くなし。そこで判り易いア
クションものということで“Unstoppable”を選択したが、
何故か英語の他にイタリア語の吹き替えはあったようだ。そ
れに漢語の字幕は付いていた。
 そんな映画を観ながら機内食の昼食を食べ、タイへの入国
書類を書いたころには、バンコク空港が近づいていた。因に
飛行時間はそれぞれ4時間弱で、国内移動では夜行バスで九
州に行くより短いものだ。エコノミーの座席はバスの座席と
もあまり変わらないし、とりあえずそんな気分でバンコクに
到着することが出来た。
 空港では、今回の旅行は応援用のユニホームにタオルマフ
ラー、それに下着などを持参しただけでスーツケースもない
身軽さだったので、さっさと入国審査と税関を抜け、とりあ
えず両替所で1万円だけ現地通貨に交換して現地案内人の許
へ、そこでしばし他の乗客を待って混載の車でバンコク市内
へと向かった。
 そのバンコクは夕刻過ぎのころで、日本で聞いていたほど
には暑くもなく、日本から着て行った長袖でも問題なかった
ほどのもの。移動の車内はクーラーも利いていたし、まずは
問題なくホテルに到着することが出来た。
 ただし今回の旅行は、約30年ぶりということもあってか、
知らず知らずの内に緊張はしていたようで、ホテルの部屋に
入ったときには疲労も頂点で外出する気分にもなれず、結局
この日の夕食はホテルのダイニングで済ますことにしてしま
った。そこではトム・ヤム・クンを含むタイ料理のコンボを
頼んだが、それも全部は食べ切れない有り様。以前の海外旅
行ではそんな記憶はなかったが、久しぶりの旅行というのは
いろいろな意味で緊張してしまうもののようだ。

 ということで今回はバンコク到着まで、続きと試合観戦の
感想などはまた次回に書かせてもらうことにします。



2011年02月13日(日) ザ・ライト、キラー・インサイド・ミー、ミスター・ノーバディ、素晴らしい一日、ミス・ギャングスター、高校デビュー+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ザ・ライト[エクソシストの真実]』“The Rite”
キリスト教の総本山ヴァチカンに実在するというエクソシス
ト養成講座に参加した神学生の実話に基づく作品。
主人公は、葬儀社を営む父の許で育ってきた若者。幼い頃か
ら父を手伝い技術も身に付けた主人公だったが、父の跡を継
いで葬儀社を営むことには躊躇いがあった。そこで主人公は
神学校に進み、そこでの学業も済ませて卒業の日も間近にな
る。
ところが彼には、卒業後の進路である司祭になる気持ちはな
かった。それは進学が故郷を出るため口実であり、彼自身は
自分に信仰心がないと思っていたからだ。そんな彼に指導教
官だった神父がヴァチカンのエクソシスト講座を受けること
を勧める。
こうしてローマにやってきた主人公だったが、講座に出席し
ても懐疑的な彼の言動は他の生徒に混乱を与えるばかり。そ
してそんな彼に対して教官の神父は、ルーカス神父の許を訪
ねることを命じる。
その神父は正統ではない儀式を行うことから異端のエクソシ
ストとも呼ばれていた。しかしそのルーカス神父の許に来て
も、行われる儀式や訪れる人々の現す症状に疑問を抱き続け
る主人公だったが…。

主人公の神学生役には舞台出身のコリン・オドノヒューが扮
し、その主人公にエクソシストの真実を見せる神父役をアン
ソニー・ホプキンスが演じている。
他に彼らを取材するジャーナリスト役で、2002年11月4日付
東京国際映画祭(後)で紹介『シティ・オブ・ゴッド』や、
2007年12月紹介『アイ・アム・レジェンド』などに出演のブ
ラジル人女優アリーシー・ブラガ。
また『ハリー・ポッター』シリーズのドビーの声優でも知ら
れるトビー・ジョーンズ、同シリーズの最終章に登場すると
いうキアラン・ハインズ、さらにルトガー・ハウアーらが脇
を固めている。
ヴァチカン大学での講義も受けたマット・パグリオの原作に
基づく脚本は、『ナルニア国物語/第3章』の脚本も執筆し
たマイクル・ペトローニが執筆。この脚本からスウェーデン
出身で、2003年のアカデミー賞外国語映画部門にノミネート
された“Ondskan”(英題名:Evil)などのミカエル・ハフ
ストロームが監督した。
正直に言ってキリスト教の話だから僕らにはなかなかピンと
来ないが、1973年の大ヒット映画でも有名な悪魔払いの実話
が観られるものだ。なお近年その悪魔払いの需要が急増し、
アメリカにも4人の公式エクソシストがいると映画の最後に
記載されていた。

『キラー・インサイド・ミー』“The Killer Inside Me”
1973年に映画化された『ゲッタウェイ』や、1991年『グリフ
ターズ』などの原作者ジム・トムプスンが1952年に発表した
犯罪小説の映画化。
スタンリー・クーブリック監督が1956年『現金に体を張れ』
や1957年『突撃』の脚本で協力を求めたノアール作家の原作
に、2004年5月紹介『CODE46』などのマイクル・ウィ
ンターボトム監督が挑戦した。
1950年代の西テキサスの田舎町での出来事。石油の採掘で振
興するその町で、1人の娼婦が仕事を始める。しかし住民が
それを訴え、保安官補の主人公が実態を調べに行くが、客と
思って準備を始めた女は、保安官と聞いて態度を豹変、彼に
平手を張る。
ところが、その衝撃は彼の身体の奥に秘められた感情を再現
し、彼は女に襲い掛かって女もそれを受け止めてしまう。こ
うして2人の関係は始まったが、その女の許には彼の幼馴染
みで町の権力者である建設業者の息子も出入りしていた。
一方、息子の行状に手を焼いた権力者は女との関係を切らせ
ることを主人公に依頼。さらに主人公の耳には、兄と慕った
男性の事故死がその権力者の謀略だったとの情報が入ってく
る。そこで主人公は女と共に復讐の策略を巡らすが…
殺人が殺人を呼ぶ連鎖反応。それは普通の犯罪ドラマのよう
にも観えるが、本作に描かれた犯罪の連鎖はそんなに簡単に
片づけられるものではなさそうだ。身体の中に潜む暴力的な
殺人鬼の願望。それが見事に映像化されている。
なお原作ではもっと克明に犯罪者の心理などが説明されてい
るようだが、それは1952年発表の作品でのこと。今の時代に
はこの映像だけで充分に観客にもその心理は理解されるだろ
う。監督はその辺も巧みに作品を描いているものだ。
そしてその底流に流れるのは、主人公たちの異状だが真実の
愛の姿。それが見事に一点に集約されて描かれていた。

主演は、2007年12月紹介『ジェシー・ジェームズの暗殺』で
オスカー助演賞候補になったケイシー・アフレック。その相
手役に、ジェシカ・アルバ、ケイト・ハドスン。さらにサイ
モン・ベイカー、ビル・プルマン、ネッド・ビーティ、イラ
イアス・コティーズらが脇を固めている。
余りに哀しいが、最後に少しだけほっとするところもある、
そんな感じの作品だ。


『ミスター・ノーバディ』“Mr.Nobody”
1991年のデビュー作『トト・ザ・ヒーロー』がカンヌ国際映
画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞、1996年の第2
作『八日目』では同映画祭で主演男優2人にダブル受賞をも
たらしたベルギー出身のジャコ・ヴァン・ドルマル監督によ
る13年ぶりの第3作。
その新作には製作費50億円が投じられ、しかもその物語は、
発端を2092年におく完全なSFドラマだった。
科学の進歩で人は死ぬことがなくなった約80年後の世界。そ
んな世界の中で主人公は、科学の恩恵が間に合わず、118歳
で最後の死者となる運命になった老人。その死は世界中の注
目を浴び、病室の窓の外には取材カメラが飛び交っていた。
ところが老人は、自らは34歳だと主張し、そこから後の記憶
はないと言い張っている。そして潜入してきた記者のインタ
ヴューや医師の治療のための催眠術などで徐々に主人公の過
去が明らかにされて行くが…
それは3人の女性との関係がパラレルワールドで展開される
摩訶不思議な物語だった。そんな中で主人公は、女性たちの
愛に苦しみ、悲惨な生活や裕福な生活、またその一方で、冷
凍睡眠による火星への旅に飛び立ったりもする。
映画の中には「バタフライ・エフェクト」という言葉が何回
か出てきて、それは本来の意味でも使われているが、僕らに
は2005年3月紹介の同名のSF映画を思い出すところだ。そ
う正にこの作品はその再話のような作品にもなっている。
過去の選択が生み出す結果。それが本作では3人の女性の誰
を選んだかによって様々に変化して行く。裕福だが愛のない
家庭。貧しく苦しいが愛情の尽きない家庭。そして毅然とし
て貫き通す愛。主人公はそんな愛の世界を渡り歩く。

主演は2007年9月紹介『チャプター27』などのジャレッド
・レト。共演は2008年3月紹介『アウェイ・フロム・ハー』
では監督としても評価されたサラ・ポーリー、さらにダイア
ン・クルガーと、2005年7月紹介『真夜中のピアニスト』な
どのリン・ダン・ファン。
他にリス・エヴァンスらが脇を固めている。
僕にはSF的な興味も大きかったが、そこに展開される愛の
物語は誰にでも起こりそうな身近なもので、正にSFの設定
で成立する素晴らしい人間のドラマが描かれていた。それに
火星へ飛ぶ宇宙船の内部や火星上陸の様子などは、ちょっと
驚くくらいに見事に作られていた。


『素晴らしい一日』“멋진 하루”
2007年12月に紹介した『アドリブ・ナイト』の平安寿子原作
と、イ・ユンギ監督が再び組んだ作品。前回紹介の時にもす
でに題名の挙がっていた作品が2008年に製作され、ようやく
日本でも公開されることになった。
物語の始まりは競馬場。1人の女がそこで仲間と蔓んでいた
男に1年前に貸した金を返せと詰め寄る。それに対して男は
時間をくれと懇願するが、女は執拗で結局男は金を工面しな
ければならなくなる。
そして女の車に同乗した男はとある会社の女社長を訪ね、難
なく女社長から相当額の金をせしめ女に手渡す。その後も男
は女の車で町中を走り回り、次々に金を造り出して行く。そ
の様子に最初は唖然としていた女だったが…
男のしていることはどう見ても怪しい。しかし女も1年前に
はそんな男を信じて大金を貸したはずなのだ。そして男は、
女には口から先の出任せにしか聞こえない、スペインでマッ
コリの店を開くという夢を語り出す。

主演は、2008年4月紹介『シークレット・サンシャイン』で
カンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞したチョン・ドヨンと、
昨年6月紹介『パラレルライフ』などのハ・ジョウン。他に
2008年8月紹介『6年目も恋愛中』のキム・ヘオン、『アド
リブ・ナイト』にも出演のキム・ジュンギ、キム・ンミンら
が脇を固めている。
男は生来の詐欺師なのかな、でも相手が困るほどの金は引き
出していないようだし、取り立てに来た女だって、それほど
その金が必要なようにも見えない。多分、女の取り立ては自
分のプライドのためなのだろう。従って詐欺罪も成立しない
かも知れない。
いつも夢見がちで大言壮語を繰り返している。でも何処か憎
めなくて、「この男となら夢を共有してもいいかな、仮にそ
れが失敗に終っても」みたいなことを、相手に感じさせてし
まうのだろう。
作品の宣伝には、「リアル・ファンタジー」と書かれている
が、ある意味矛盾するそんな言葉も許してしまえるような作
品だった。


『ミス・ギャングスター』“육혈포강도단”
『素晴らしい一日』にも出演のキム・ヘオン、昨年10月紹介
『ハーモニー』などのナ・ムニ、2006年9月紹介『家門の危
機』などのキム・スミという韓国映画界における3大お母さ
ん女優が共演するアクション作品。
3人は独居だったり、母子家庭だったり、息子一家との同居
だったりと境遇は様々だが、それでも何とか頑張っている。
そして3人協力のある方法で金をこつこつと貯め、3人一緒
に豪華なハワイ旅行を楽しみたいと計画していた。
しかしようやく資金が貯まり、旅行会社にも申し込みを済ま
せて、後は銀行からその費用の振込をするだけという時、訪
れた銀行が強盗に襲われ、カウンターに置いた金を奪われて
しまう。しかも振込手続きは未了で銀行側は保障できないと
いう。
この状況に警察は犯人を捕まえるから待てと言うが、3人に
はその時間が待てなかった。そこである方法で犯人の居そう
な場所を突き止めた3人は、自分たちだけが知る手掛かりで
犯人を見つけるが…
結局金を取り戻せなった3人は、自分たちも同じ方法で銀行
から金を奪い返そうと考え、その準備を開始、ついに実行に
移す。
元々はドイツ映画のオリジナルがあるようだが、その原作か
ら国情などを合わせ、特に行き場のない老人という現実的な
社会問題を背景にしてドラマが作られている。それに加えて
オートバイのアクションなども満載の作品だ。

共演はイム・チャンジョン。俳優で歌手こなすというマルチ
タレントが計画に巻き込まれる犯人役を好演している。脚本
と監督はカン・ヒョジン。2001年に大ヒットした『花嫁はギ
ャングスター』の脚本も手掛けたという新鋭監督の長編映画
第2作とのことだ。
因に本作は、韓国では昨年公開されて『アリス・イン・ワン
ダーランド』『シャッター・アイランド』『グリーン・ゾー
ン』『タイタンの戦い』などを押さえ大ヒット記録したそう
だ。
痛快と言い切るには多少重いところもあるが、テーマの持つ
社会性などが本国では評価されたのかも知れない。その辺の
バランスも良く作られた作品だ。


『高校デビュー』
別冊「マーガレット」連載、河原和音原作の少女コミックス
からの映画化。
中学時代をソフトボールのエースピッチャーとして一筋に過
ごしてきた少女が、高校入学を機に恋愛をしたいと思い込む
が、服装なども何処かセンスのずれる彼女に声を掛けてくれ
る男子は皆無だった。
そこで彼女は、偶然知り合ったモテ男の男子に、彼には恋愛
感情を抱かないことを条件として、モテ女になるためのコー
チを依頼することに。これにモテ男の妹や仲間の男子などが
加わって、彼女の恋愛指南が始まるが…

主演は、昨年5月紹介『君が踊る夏』などの溝端淳平と本作
が映画デビューの大野いと。
共演は、2009年『仮面ライダーW』の菅田将暉、2008年『炎
神戦隊ゴーオンジャー』の逢沢りな、2009年ミスター慶應グ
ランプリの古川雄輝、AKB48の宮澤佐江。他に、塚地武
雅、温水洋一らが登場する。
監督は2008年8月紹介『ハンサム★スーツ』の英勉、脚本は
2009年8月紹介『大洗にも星はふるなり』では監督も務めた
福田雄一。どちらも日本映画のコメディでは及第点を付けた
2人が初顔合せしている。
案内状に舞台挨拶付きと記載された試写を観に行ったが、一
般観客も招待された会場は、溝端、菅田、宮澤らのファンで
ぎっしり、挨拶中は彼らの一挙手一投足ごとに大歓声という
感じだった。
そんな中では、舞台挨拶もデビューという大野の初々しさが
一際目立ったが、それが本編の中では見事な弾け振りに唖然
呆然。この落差は『グリーン・デスティニー』の舞台挨拶で
観たチャン・ツィイー以来かと思わせるものがあった。
それが女優の特性かとも思えるが、そんな大野を和ませよう
とする溝端らの気遣いや、何より会場を埋めた女性ファンた
ちの暖かさにも心地よさを感じさせてくれた完成披露試写会
だった。

なお、本作の4月1日の公開に先立つ3月4日からは、同じ
スタッフ・キャストによる「デビュー直前集中講座」と称す
るスピンオフドラマも、携帯向けのLISMOチャンネルで配信
されるようだ。
        *         *
 今回は少しスペースがあるので、製作ニュースも少し詳細
に。まずは、2012年12月公開が予定されている“Superman”
の製作が公式に発表された。
 この計画に関しては、2010年10月17日付で監督にザック・
スナイダーの起用が決ったことを報告したが、今回はさらに
来年クリスマスの公開が確定したことと、主人公にイギリス
人俳優ヘンリー・ケイヴィルの配役が発表された。因にこの
俳優は、Showtimeで放送された“The Tudors”というシリー
ズではヘンリー8世の異母兄弟役として注目されている他、
今年11月11日に全米公開されるターセム・シン監督の3Dギ
リシャ神話アクション“Immortals”にはトップネームで出
演している。なおこの作品には、ジョン・ハートやミッキー
・ロークも共演しているようだ。
 そしてさらに、本作で女性の主人公の登場が発表され、そ
の配役に、昨年パラマウントから公開の“She's Out of My
League”で注目されたアリス・イヴ、『ナショナル・トレジ
ャー』シリーズなどのダイアン・クルガー、2009年11月紹介
『サロゲート』などのロザムンド・パイクらの候補者が報告
されている。ただしこの役柄はロイス・レーンではないとの
ことだ。
 この中から誰の起用が発表されるかも興味津々だが、デイ
ヴィッド・ゴイヤーの脚本の許、クリストファー・ノーラン
が製作を務めるこの作品で、一体どのような新展開が生まれ
るのか、その点が一番興味を引くところだ。撮影は今年夏に
開始の予定とされている。
        *         *
 お次は、昨年11月7日付でも報告したジョニー・デップ製
作・主演、ティム・バートン監督による“Dark Shadows”に
関して、2006年11月紹介『カジノ・ロワイヤル』でボンドの
相手役を務めたエヴァ・グリーンの出演が交渉されているよ
うだ。
 この作品には先にジャッキー・アール・ヘイリーと新人の
ベラ・ハートコートの出演も発表されているが、今回グリー
ンが交渉されている役柄は女性の主役とのことで、デップ扮
するバーナバス・コリンズにも匹敵する役柄のようだ。因に
ハートコートに関しては、コリンズの恋人でウェイトレスの
ヴィクトリアとの紹介もされている。
 なお脚本は、昨年3月7日付で報告したティム・バートン
製作“Abraham Lincoln: Vampire Hunter”の原作者セス・
グラハム=スミスが執筆したもので、こちらも一体のような
作品になるのか全く不明だが、製作会社のワーナーの発表で
は撮影は数ヶ月以内に開始されるとのことだ。ただし公開の
期日などはまだ未定となっている。
        *         *
 何となくリメイクっぽい話題が多いが、次の2つは本格的
なリメイクで、まずは昨年5月30日付で監督の離脱を報告し
た“Fantastic Voyage”のリメイクに、2006年、09年の『ナ
イト・ミュージアム』シリーズを手掛けたショウン・レヴィ
監督の起用が発表された。
 因にシリーズ2作を大ヒットさせたレヴィ監督の起用は、
僕らの目には異論のないところだが、実はの2作はヒットは
したものの評論家筋の評価はあまり芳しくないとのことで、
製作会社のフォックスにはその辺がネックになっていたよう
だ。従って今回の起用はレヴィ監督にとっても正念場になり
そうで、3Dへの初挑戦も含めて頑張ってもらいたいのだ。
 なおレヴィ監督には、その前に昨年5月16日付で報告した
“Real Steel”という未来ロボット物の作品が撮影完了、編
集段階に入っており、まずはその成果から観たいものだ。
        *         *
 もう一本リメイクは、こちらは昨年5月30日付で報告した
“Logan's Run”について、主演に前々回紹介『ブルー・バ
レンタイン』のライアン・ゴズリングの起用が発表された。
 ただし以前の報告ではカール・ラインシュという監督名が
挙がっていたが、これは決定ではなかったようで、現状では
主演が決って監督がいないという状況になっているようだ。
しかし、実は製作者のジョール・シルヴァとアキヴァ・ゴー
ルズマンが共に親交の在るニコラス・ウィンディング・レフ
ンという監督が、撮影完了したばかりの“Drive”という作
品でゴズリングと組んだばかりで、これはそのままの監督・
主演で実現するのでは、という観測も出されている。
 なお脚本は、2003年6月16日紹介『28日後...』などのア
レックス・ガーランドの物が継続されているようだ。
        *         *
 最後に1月30日付で報告したピーター・ジャクスン監督の
入院・手術に関連して“The Hobbit”の撮影が3月21日に開
始されることが報告された。
 因に当初の計画では、撮影は2月中に開始されるとなって
いたものだが、今回の報告によると日付は、俳優のスケジュ
ールなどによって決ったとのこと。監督の入院のせいとはさ
れていなかった。でもまあいずれにしても現時点での1カ月
程度の遅れは製作中に充分吸収できそうだ。
 そして、この発表と共にジャクスン監督からは、「多少の
遅れは在ったが準備は再び順調に進んでおり、今我々は非常
に興奮している」との発表が添えられていた。
 公開は、2012年12月と13年12月に、2作連続でワーナーを
通じて行われる。



2011年02月06日(日) メアリー&マックス、ツーリスト、愛しきソナ、木漏れ日の家で、キッズ・オールライト、ジャッカス3D、ナナとカオル+ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『メアリー&マックス』“Mary and Max”
2009年のベルリン国際映画祭ジェネレーション部門最優秀長
編映画賞を受賞し、一昨年の東京国際映画祭WORLD CINEMA部
門で上映された作品が一般公開されることになり、改めて試
写が行われた。
内容紹介は、まず東京国際映画祭の時のものを再録する。
実話に基づく物語とされるオーストラリア製の人形アニメー
ション。
1976年という時代背景で、それぞれが心に病を抱えるオース
トラリア・メルボルン在住の8歳(3カ月と9日)の少女と、
アメリカ・ニューヨーク在住の44歳の男性とがペンパルとな
り、その後20年に及んだ文通による交流が描かれる。
少女は両親からアクシデントで生まれた子供と言われ、それ
が心の傷となったまま孤独に生きている。一方の男性は、ア
スペルガー症候群で他人とのコミュニケーションが苦手。そ
んな2人が手紙や贈り物の遣り取りで交流を深めて行く。
そしてそれぞれは、少女から大人の女性へ、また壮年期から
老人へと人生の変化を遂げて行く。そこには意見の相違など
いろいろな紆余曲折があり、長い時間の流れが互いの手紙の
朗読とそれに関る事象の映像で描かれる。

その主人公の声を、少女役は『シックス・センス』でオスカ
ー候補になったオーストラリア人女優のトニ・コレット、男
性役は『カポーティ』で受賞のフィリップ・セーモア・ホフ
マンが演じており、さらにエリック・バナらが声の共演をし
ている。
映像はかなりデフォルメされた人形によるコマ撮りアニメー
ションだが、そこそこの社会性と、ユーモアにも満ちたキュ
ートな物語が展開されて行く。また、愛情に恵まれなかった
2人の、それでも愛を求める切ない物語が描かれたものだ。
なお、男性の書棚にASIMOVと書かれた本があったり、彼自身
がニューヨーク・SFファンクラブの会員であるなどといっ
た説明もあり、その辺は実話ということなのかな。また物語
の中ではルイス・キャロルに模したカバン語を連発するシー
ンも描かれていた。

物語の結末も見事で、心に染みる作品になっていた。
以上が以前の紹介文だが、今回配布されたプレス資料による
と、少女の子供時代の声は、コレットではなくベサニー・ウ
ィットモアという1999年生まれのオーストラリアの人気子役
が演じていたようだ。
ただ、今回見直していて字幕の翻訳がかなり疑問に感じられ
た。それは例えばPneumoniaを単純に「肺炎」と表記してい
て、それを少女が「アンモニア」と誤解していることに何ら
の説明もない。これは映画祭では「仕方ないなあ」で済ませ
るが、一般公開ではもう少し気を使って貰いたいところだ。
その他にも同様の部分があったように感じた。

このように物語は子供向けではないが、大人の観客には正に
珠玉と言える作品だ。

『ツーリスト』“The Tourist”
アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップ。当代切って
の人気スターの2人が初共演した作品。2005年にソフィー・
マルソーと『ミュンヘン』などのイヴァン・アタルの共演で
映画化されたフランス映画“Anthony Zimmer”からのハリウ
ッド版リメイク。
パリ警察の監視下に置かれている女性。それはスコットラン
ド・ヤード金融犯罪課の指示に従ったもので、その映像は逐
一ロンドンでもモニターされている。その女性には、多額の
マフィア資金を洗浄して行方を眩ました男性容疑者との接触
が期待されていた。
その女性が動き始める。それは手紙による指示に従っている
ようだが、その手紙は焼却されてしまう。それでも何とか彼
女の行き先を突き止めたロンドン警視庁の捜査官は、直ちに
イタリア・ヴェニス警察に指示を出す。
一方、ヴェニス行きの国際特急に乗り込んだ女性は、手紙の
指示に従って車内で男を物色し、1人の男に声を掛ける。そ
して食事を共にする2人だったが…。警察が追う男は精巧な
整形手術を施したとされており、その男の顔も声も全く不明
だった。
果して彼女が接触した男はその容疑者なのか…? 一方、容
疑者の男は、彼が資金を持ち逃げしたロシアマフィアのボス
からも追われていた。こうして、水の都ヴェニスを舞台に旅
行者と警察とマフィア、三つ巴の闘争が始まる。

1999年の『17歳のカルテ』でオスカー助演賞に輝き、2008年
12月紹介『チェンジリング』で主演賞ノミネートなどシリア
スな演技でも評価されるジョリーだが、その一方で2001年の
『トゥーム・レイダー』や2008年の『ウォンテッド』などの
アクションも見逃せない。
そんなジョリーが今回選んだのは、ちょうどその中間という
感じかな。複雑だが判り易い物語に風光明媚な観光地、そし
て優雅な衣裳などが程よくミックスされた作品だ。
因に映画の製作は、最初ジョリーにオファーがあり、ヨーロ
ッパが舞台の作品なら現地人の監督をということで、彼女が
2007年『善き人のためのソナタ』でオスカー外国語映画賞受
賞のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督を
指名。
さらにプロデューサーにグレアム・キングを引き入れて、彼
の盟友のジョニー・デップを共演に招いたという経緯のよう
だ。他にも、ポール・ベタニー、ティモシー・ダルトン、ス
ティーヴン・バーコフ、ルーカス・シーウェルという顔触れ
が脇を固めている。
なお脚色には、監督の他に1995年『ユージュアル・サスペク
ツ』のクリストファー・マッカリーと2002年『ゴスフォード
・パーク』のジュリアン・フェロウズが参加。
さらに、撮影は1996年『イングリッシュ・ペイシェント』の
ジョン・シール、衣裳は2002年『シカゴ』のコリーン・アト
ウッド…と、2006年『ディパーテッド』のキングを含めオス
カー受賞者のスタッフが揃えられている。
なおエンディングのクレジットで、監督や主演俳優らにそれ
ぞれBoat Driverが付けられていたのには、さすがヴェニス
ロケと感心した。

『愛しきソナ』“굿바이 평양”
2006年7月に『ディア・ピョンヤン』という作品を紹介して
いる在日コリア人の女性監督ヤン・ヨンヒによるドキュメン
タリー作品。
両親は韓国済州島の出身だが、第2次大戦前の大阪に渡って
成功を納め、特に父親は戦後の朝鮮半島の南北分裂では北を
支持して朝鮮総聯の幹部となった人物。そんな父親は3人の
息子を1970年代に北朝鮮に送り出していた。
しかし当時幼かった監督は両親と共に日本に残り、東京の朝
鮮大学校を卒業。その後は教師、劇団女優などを経てNHK
などで放送されたドキュメンタリーの制作を開始。さらに、
1997年に渡米して約6年間の滞在後、日本に帰国して2005年
に前作を発表した。
その前作では、父親の立場を配慮しているためか、かなり微
妙な表現になっている部分が在り、その点については監督自
身にも不満が在りそうだということを前作の紹介のときにも
書いていた。その不満が、ある意味解消されているとも言え
そうな作品だ。
因に、韓国サイトにると前作の英語題名は“Dear Pyongyang
2006”、本作は“Goodbye,Pyongyang 2006”とされており、
2作が表裏の関係に在ることを明示しているようだ。そして
本作では、監督の姪に当たるソナという幼い女子を中心に作
品が構成される。
その幼子が、1995年から2005年まで約10年間の取材期間の中
で、最初は全く屈託ないが、最後は金日成を称える詩を暗唱
するまでになって行く。そこには20年間全く変わらないとい
う海外使節団を迎える子供たちの演劇が重ね合わされる。
さらに本作では、ソナを囲む家族の姿も紹介されるが、その
生活ぶりは大阪に住む母親からの仕送りによってかなり裕福
な感じもする。しかし電気・ガス・水道は時間制源での供給
と紹介され、その時間の中での遣り繰りが主婦の役目とも紹
介されていた。
また、叔母である監督が来訪したときのみ訪れることの出来
る外貨ショップでは、ソフトクリームに大喜びする一方で、
それでも高価な小池屋のポテトチップスなどは最初から眺め
るだけという子供たちの様子なども紹介される。
そして繰り返し挿入されるのが、大競技場を使ったマスゲー
ムなどの大規模な国家行事の映像。前作の時には、北で撮影
された映像は全て北朝鮮政府の検閲を受けたと紹介されてい
たが、このアンバランスな映像に検閲官は疑問を感じなかっ
たようだ。
なお作品では、最近届いたソナからの手紙や、前作でピアニ
ストを目指していた甥の最近の姿なども紹介されていたが、
その甥の父親である監督の兄と監督の父親は、その後は再び
会うこともなく他界したそうだ。

近くて遠い国・北朝鮮。本作はその実態を垣間見せるだけだ
が、それでも充分に衝撃的な作品になっている。

『木漏れ日の家で』“Pora umierać”
2008年のサンフランシスコ国際映画祭など各地の映画祭で、
作品賞や主演女優賞、観客賞などを受賞しているポーランド
映画。
主人公は、ワルシャワ郊外の古びた一軒家にフィラデルフィ
アという名の犬と暮す高齢の女性。彼女の住む家はその住人
と同様かなり老朽化しており、その家には以前は国の命令で
ロシア人を住まわせたこともあったが、今の1人暮らしには
ちょっと大きいようだ。
そんな家の片側の隣には毎週末になると壮年の男性が訪ねて
くる愛人宅らしい家があり、反対側の隣の家では若いカップ
ルが子供たちを集めて音楽教室を開いている。その2軒の家
を双眼鏡で覗くのが主人公の日々の楽しみでもあった。
その主人公にはその家で育てた1人息子がいて、現在は町中
に家庭を持つ息子は時折孫娘を連れて会いに来てくれてはい
たが、その孫娘は祖母の家が好きではないようだ。さらに息
子の嫁は一緒に訪れることもなかった。
そんなある日、1人の不審な男が家に入ってくる。その男は
犬の働きで退却するが、去り際に隣の愛人を持つ男が主人公
の家を欲しがっていると告げる。それは彼女が愛着を持つそ
の家を取り壊すことを意味していた。
一方、反対側の家からはドストエフスキーというニックネー
ムを持つ少年が侵入してきたりもする。彼は庭のブランコに
乗りたがっていた。そして主人公は、最近物忘れがひどくな
るなど、日々の生活に支障が出ていることを自覚し始めてい
た。

主人公の老女を演じるのは、1915年2月20日生まれ、現在も
現役舞台女優というダヌタ・シャフラルスカ。
2007年9月紹介『僕がいない場所』などの監督ドロタ・ケン
ジェジャフスカが、1991年の長編デビュー作『ディアブリィ
・悪魔』に出演していた女優に主演をオファーし、以来20年
掛かって実現した作品だそうだ。
その20年間は女優に合った物語を探すのに苦労していたが、
その中で見い出した共産時代の実話に基づく脚本は、2週間
で完成されたとのこと。主人公のモノローグと犬への語り掛
けによって綴られる作品は、美しいモノクロームの画面の中
で静かに進んで行く。
また、カンヌ国際映画祭に出品されていたらパルムドッグ賞
の受賞間違いなしと思えるフィラデルフィアの演技も素晴ら
しかった。

『キッズ・オールライト』“The Kids Are All Right”
今年のゴールデン・グローブ賞でコメディ/ミュージカル部
門の作品賞と主演女優賞に輝いた作品。
仲良く暮してきた腹違いの姉と弟。その姉が大学進学で生家
を出ることになり、2人はその前に自分たちの父親がどんな
人物か知ろうとする。そして父親の現住所を調べ出した2人
は、父親の許を訪ねるが…
このシチュエーションを聞いたときに最初に頭に浮かんだの
は、幼い子供を抱えた父親が再婚して次の子が出来たが、そ
の子供も小さい頃に父親は出奔してしまった…というような
ものだった。
ところが映画が描いていたのは、レズビアンのカップルが子
供が欲しくなり、同じ精子ドナーの精子で人工授精し子供を
産んでいたというもの。こんなシチュエーションが特別な感
じではなく描かれていたことに多少は戸惑ったが、これが現
代のようだ。
そこでその子供たちが父親捜しをするのだが、これがまた精
子バンクに電話を架けると、ドナー側の意向を聞いただけで
教えてくれてしまう。そんな簡単な手続きで父親が判ってし
まうというシステムにも驚いた。
大体が、母親の手元には父親が書いたレポートも保管されて
いるというのだから、こんなシステムがアメリカでは普通に
存在しているということか。これを観ていると、少し前に代
理母問題で馬鹿騒ぎを繰り広げた日本の体制の古臭さがいま
さらながら思い出された。
というシチュエーションだが、映画はさらにその先の状況を
描いており、こうして発見された父親が、レズビアンの夫婦
の家庭に入り込んできたことから騒動が始まる…ジャンルで
言えばファミリーコメディといった感じのものだ。
でもこれが、本当にアメリカの最先端の家庭事情なのかな。
取り敢えずゴールデングローブの受賞は、その辺が外国人記
者団に認められてのこととは思われるが…。とまあそんな展
開の作品だが、内容的には良質のコメディになっていた。

出演は、2人の母親役に主演賞受賞のアネット・ベニングと
昨年7月紹介『シングルマン』などのジュリアン・モーア。
その子供たちに、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア
・ヴァシュイコヴスカと、『センター・オブ・ジ・アース』
などのジョッシュ・ハッチャースン。そして彼らの生物学上
の父親役に、本作でオスカー助演賞にノミネートのマーク・
ラファロ。因に、モーアとラファロは2008年8月紹介『ブラ
インドネス』でも共演している。
脚本と監督は、2002年『しあわせの法則』などのリサ・チョ
ロデンコが手掛けた。

『ジャッカス3D』“Jackass 3D”
題名は「お馬鹿」という意味になるアメリカCSで放送され
ている人気番組の劇場版第3弾。僕自身は、番組内容などを
噂では聞いていたが実際には観たことはなく、今回が初体験
だった…が、その強烈さにはかなり驚かされた。
この手の番組では日本の地上波でも時々特番などで放送され
ているものもあるが、確かにその馬鹿さ加減に笑えるものも
ある一方で、特に一般人をターゲットにした度の過ぎた悪戯
には嫌悪感を催すこともある。
元々この種の番組は、1948年に番組制作者アレン・ファント
が始めた“Candid Camera”を基にすると考えられるが、そ
の制作姿勢はファント自身が、「視聴者に嫌悪感を与えない
こと」と言っていた記憶がある。
ところが最近の特番で放送されるものの多くは単に悪ふざけ
で、特に一般人を対象にした苛めとしか取れない映像には、
苛めが社会問題化しているご時世にそれを助長していること
にも気付かない制作者の姿勢も問いたくなるものだ。
その点で言うと本作は、映画の巻頭で宣言されているように
特に過激な悪戯のターゲットは番組の関係者に限定されてお
り、それは過激なスタントのショウとして鑑賞できる作品に
なっている。
しかも身体を張ったとしか言いようのない過激な挑戦の数々
は、その苦痛なども相当であるはずのもので、全ては視聴者
を喜ばせるためと称して、敢えてそれをする勇気にも感心し
てしまった。
とは言うものの、内容の一部は汚物(具体的な名称は伏せま
す)が噴き出したり、飛び散ったりの悪趣味さで、実際僕が
観た試写会が何回目か知らないが、すでに途中退席した人も
いたとのことだった。
その点では「(日本の)視聴者に嫌悪感を与え」たことには
なる。しかも本作では、それが3Dで上映されるのだから…
いやはや何とも言えないものになっていた。でもまあこの辺
は、アメリカとの文化の違いでもありそうだ。
その一方で本作の中には、一般人をターゲットにして、その
社会心理学的な事象を見事に描写したものもあり、それらの
映像には見終って考えさせられるものもあった。その点に関
しては面白くも観ることが出来たものだ。

『ナナとカオル』
白泉社の雑誌「ヤングアニマル」に連載の甘詰留太原作によ
る同名コミックスの映画化。
アパートの隣り同士に住む、優等生で生徒会副会長も務める
ナナと、同じ高校に進学はしたが落ちこぼれのカオル。共に
母子家庭で育った幼馴染みだが、最近は学園生活の居場所も
違う2人が密かな楽しみを共有し始める。
その発端は、どちらも母親が家を空けたある夜のこと。カオ
ルの家のチャイムがなりドアを開けると、そこにはボンデー
ジを身に纏ったナナがうずくまっていた。そしてカオルの部
屋に入った2人は…
元々Sの知識を持っていたカオルは徐々にナナを調教して行
き、ナナも自らのM気質に気付き始める。こうして息抜きの
方法を見つけたナナは学業の成績が向上し、一方のカオルも
ナナのためにSの知識を積み重ねて行く。

出演は、カオル役に2005年『仮面ライダー響』や昨年の大河
ドラマ『竜馬伝』で沖田総司役などの栩原楽人、ナナ役には
「ヤングサンデー」のグラビアなどで注目される永瀬麻帆。
脚本と監督は、1997年『ねらわれた学園』などの清水厚が担
当した。
SMのシーンなどはボンデージを含めそれなりに実演しなけ
ればならない訳で、その点では女優も頑張っているし、また
一部のシーンには専門家の指導も入っているようだ。それは
以前に何本か紹介しているその種の映画に比べると幼いし、
ソフトなものではあるが、それなりに好きな人には喜ばれそ
うだ。
ただしお話は、実に主人公の都合通りに進んで行くもので、
そこには何の障害も発生しないから、ドラマとしてはこれで
良いのか疑問も感じてしまうところだ。でもまあこの作品を
観ようとする観客にはそんなことはどうでも良いことかもし
れない。

それに本作では、コメディとしての演出が結構丁寧に行われ
ており、マスコミ試写会でもかなり笑い声が上がっていた。
その点では評価もしておきたい作品だ。
なお本作は、映像コンテンツ製作会社Vapによる「東京思春
期」と称するシリーズの第3弾になっているようだ。
        *         *
 最後にニュースは、先日発表されたVES賞の結果のみ、
作品別に報告しておきます。
 受賞は、実写部門では『インセプション』がVFX主導映
画のVFX賞、背景賞、モデル/ミニチュア賞、合成賞。
 アニメーション部門では『ヒックとドラゴン』が長編アニ
メーション賞、アニメーションキャラクター賞、エフェクト
アニメーション賞と、それぞれ事実上の各賞を独占。
 その他は、VFX主導でない映画のVFX賞を『ヒアアフ
ター』、短編アニメーション賞を“Day & Night”、実写映
画におけるアニメーションキャラクター賞を『ハリー・ポッ
ター』のドビーが受賞した。
 なお今回は、クリストファー・ノーランがヴィジョナリー
賞と、レイ・ハリーハウゼンが生涯賞という特別賞の受賞も
していたようだ。


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井口健二