井口健二のOn the Production
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2010年11月28日(日) 180°South、シモン・ボッカネグラ、ジャンデック、バーレスク、アンチクライスト、エリックを探して、Pure+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『180°SOUTH』“180°South”
アウトドア用品の2大ブランドとも言われるpatagoniaとTHE
NORTH FACE。それらの創始者であるイヴォン・シュイナード
とダグ・トンプキンスが、その生涯を通して自然と関わる姿
を描いたドキュメンタリー。
1968年、個人で開発製造した登山具などのアウトドア用品の
販売が軌道に乗り始めていたイヴォンは、永年の友人だった
ダグにチリの南部・パタゴニアの高峰コルコバド山を目指す
旅を提案される。
そこで2人は中古のバンにサーフボードや登山用具、そして
旅を記録する16mmカメラを積み込み、パン・アメリカン・ハ
イウェイを南に向かって出発。その結果としてコルコバド山
の登頂を果たすが、その旅は2人のその後の人生を大きく変
えることになる。
それから40数年を経て、1人のアメリカ人青年が彼らの記録
映画に遭遇する。そして彼は2人の旅を追体験しようとし、
1人で南米パタゴニアを目指し進み始める。本作ではそんな
青年ジェフ・ジョンソンの旅が記録される。
作品はドキュメンタリーということになっているが、監督と
してサーフィンのドキュメンタリーで有名なクリス・マロイ
の名前が置かれており、もちろん個々の映像はドキュメンタ
リーなのだろうが、作品の全体はかなり周到に準備された作
品のように思える。
しかし仮にそういう作品であったとしても、この映画に描か
れた内容が真実であることは間違いないのだし、特にイヴォ
ンとダグがその後に行ってきたことの偉大さは変わることの
ないものだ。
それにしても、映画に描かれた南米の南端にまで自然破壊の
波が押し寄せている現実は衝撃的だし、それを必死に守って
いる人々の姿には頭が下がるものだ。しかもそれをほとんど
個人の力で成し遂げているという事実にも驚かされた。
個人によるナショナル・トラストでは、2007年6月紹介した
『ミス・ポター』にも描かれたビアトリス・ポターのような
先人もいるが、本作ではアメリカ人が他国でそれを行ってい
るという点にも興味を引かれた。もっともその自然を破壊し
ているのもアメリカの流れを汲む企業のように思えたが。
映画は、旅の途中でジェフが訪れることになるイースター島
などのヴァラエティに富んだ出来事が彩りを添えるが、その
全体が一つの方向を向いているのは、やはり巧みに描かれて
いると言えるところだろう。
なお本作の主人公のジェフ・ジョンソンは、元々サーファー
でフォトグラファー、ライターでもあるそうだが、情報によ
ると、最近“Alien Vengeance II: Rogue Element”という
SF映画に俳優としても出演しているようだ。


『シモン・ボッカネグラ』“Simon Boccanegra”
ソニー本社の主導で、HD撮影した舞台などのディジタル上
映を行うLiveSpire。その一角となる昨年11月紹介『チェネ
レントラ』『白鳥の湖』など海外のオペラやバレエが中心の
World Classics@CINEMAについて、2011年度のラインナップ
の紹介と標記作品の試写が行われた。
まずそのラインナップでは、2011年は2009年以降に上演され
た8作品(内2作品は2011年上演予定を含む)と1990年7月
7日にローマ・カラカラ浴場で行われた「3大テノール共演
コンサート」の模様がSDからHDにアップコンバートされ
て上映されるとのことだ。
その他のラインナップとしては、ミラノ座の『カルメン』と
標記の作品、バーデンバーデン祝祭劇場の『ばらの騎士』、
グラインドボーン音楽祭の『ドン・ジョヴァンニ』。また、
ロイヤル・バレエの『ロミオとジュリエット』、ボリショイ
・バレエの『白鳥の湖』、パリ・オペラ座バレエの『コッペ
リア』などとなっている。
なお説明によると、近年は世界中のオペラ座やバレエ団での
HD撮影・上映への関心が高まっており、今後はますます増
えるだろうとのこと。また一部では3Dによる撮影と上映も
検討されているとのことだった。
従って今後も期待のLiveSpireということで、以下には試写
の行われた作品を紹介する。
上映されたのは、昨年紹介した『チェネレントラ』と同じく
ジョゼッペ・ヴェルディ作曲によるオペラで、物語は14世紀
半ばのイタリアの湊町ジェノヴァを背景に、平民から選挙で
総督になった男を巡って展開される。
その時代のジェノヴァは貴族と平民の対立が深刻化し、事態
の打開のため平民の男を新総督とすることになる。そして海
賊との戦いで成果を挙げ、平民からの支持の高いシモン・ボ
ッカネグラに出馬が要請される。
そのシモンは、貴族の娘マリーアを愛し子供も誕生していた
が、貴族の父親からの許可を得られず苦悩していた。そこで
元来は政治には関心のないシモンだったが、総督になれば理
解もして貰えるかと考え出馬を決意する。ところが…
選挙の日、シモンの和解の申し出に貴族の父親は誕生した孫
娘を要求する。しかしその孫娘は預けられていた家から姿を
消しており、そのことを聞いた貴族の父親も姿を消してしま
う。しかもその貴族の館には、病死したマリーアの遺体だけ
が残されていた。
それから25年の歳月が流れ、総督としての権勢を揮うシモン
は、再び激しくなってきた貴族と平民との対立に頭を痛めて
いた。一方、とある伯爵家に美しい令嬢が暮らしていたが、
令嬢には他人には明かせぬ秘密があった。その秘密がいろい
ろな波紋を呼んで行く。

なお作品は、昨年4月29日の上演を収録したもので、三大テ
ノールの中で唯一現役を続けているプラシド・ドミンゴが、
2月の東京公演中に倒れ、ガン手術を受けた後の復帰公演と
なったものだそうだ。
その他の配役などは手元に資料がなくて判らないが、本作で
はバリトンで歌うドミンゴの歌声も素晴らしい作品になって
いる。

『ジャンデック〜謎のミュージシャンの正体を追う〜』
                 “Jandek on Corwood”
1978年にthe Unitsのアーチスト名でデビューアルバムを発
表後、1981年以降はJandekの名前で、今年発表された3作品
(内1作は2枚組)を含め、63作ものアルバムを発表してい
るアメリカのミュージシャンを追ったドキュメンタリー。
その音楽ジャンルは、ブルース若しくはフォークとされてい
るようだが、映画のサントラにも使用されているJandekの音
楽は、僕ら素人が聞くと何処が良いのかさっぱり判らないも
の。でも、何となく独特の雰囲気を持っているようには聞こ
えた。
しかし映画に収録されているインタヴューの発言者たちは、
一様に礼賛の弁を述べているもので、聞き込めばそんな感想
も生じてくるアーティストのようだ。そして本作では、そん
なJandekの音楽に魅せられた人々の、何というか想いの丈が
綴られている感じだ。
ただし彼らの発言も多少奥歯にものが挟まっている感じで、
それはJandekの歌にちょっと病的な雰囲気もあるからのよう
だ。そんな訳で、彼の為人などがいろいろ想像されて行くの
だが、彼自身はほとんど人前に出ることがなく、その正体は
謎のまま。
という謎のミュージシャンを追ったドキュメンタリーだが、
取材は敢えて本人を追求することもなく、評論家へのインタ
ヴューなど周辺を埋めて行くだけ。それでもそこにJandekの
歌声が重なると、それで良いかなあと思えてくる辺りが本作
の面白さかも知れない。
しかも、当初は人との付き合いが出来ないのではと想像され
たJandekの音楽が徐々に変化して、途中からは女性ヴォーカ
ルが加わったり、ドラムスが参加したりしてくる。それでま
すます謎の度合いが高まるのだが…
という謎のミュージシャンJandekについての2003年までの状
況が綴られた作品になっている。ただしこの時までは本当に
謎だったらしいのだが、実はこの記事を書くに当ってウェブ
で検索をしたら、このドキュメンタリーが発表された翌年か
らLive活動を始めている。
実際Jandekのレコードのみを販売するCorwood Industriesの
ディスコグラフィによると、2005年には2004年にグラスゴウ
のフェスに参加したときの模様がDVDと共に発売されてお
り、その後も年に1、2回の出演を果たしているようだ。
つまりここでJandekには何か心境の変化があったようなのだ
が、それがこのドキュメンタリーの結果なのか、それともこ
の作品自体が見事なプロモーションだったのか?それらも全
て謎のものだ。

なお本作も、前回紹介したTOKYO MXテレビで放送中の「未公
開映画を観るTV」からのもので、その中から9本が東京は
12月25日から順次劇場公開される内の1本となっている。
因にもう1本、『ビーイング・ボーン』という作品の試写も
あったが、スケジュールの都合で観られないことになった。
ここに書かないからと言って、その作品を気に入らなかった
ものではないのでご了承ください。

『バーレスク』“Burlesque”
すでに10月末に45分のフッテージで紹介している作品の全編
が上映された。それで、映画初主演の歌姫クリスティーナ・
アギレラの圧倒的な歌唱については、すでに前回も確認済み
だったが、今回はそこに至る事情やその他の物語の全貌が明
らかになったものだ。
その物語は、普通に言えばシンデレラストーリーだが、いろ
いろ現代的な要素も踏まえられており、特に解決策は、以前
だったら全く考えも及ばないというか、有り得なかったであ
ろう展開。でもこれが現代では通用するというのも面白い捻
りだった。
また、映画はほとんど全編が歌によって綴られており、その
構成は見事なもの。特に巻頭でアギレラ扮する主人公のアリ
が故郷を旅立つまでの様子は、映画の導入としても完璧と言
って良いくらいのものになっている。
さらに途中には台詞のみのシーンもあるのだが、その間にも
音楽は流れていなくても常に音楽を聴いているようなリズム
感があり、その感覚が途切れない。今までミュージカル映画
も数多く観てきたが、その中でもここまでの感覚は少なかっ
たように感じた。

脚本と監督は、俳優として1985年の『グーニーズ』や1988年
の『告発の行方』などにも出ていたというスティーヴン・ア
ンティン。その後に製作や脚本に転じて、本格的な映画の監
督は初とのことだが、以前にライヴショウの脚本を手掛けた
という経験も踏まえて見事な作品を作り上げている。因に製
作準備には数年が費やされているそうだ。
なお使用されている楽曲には、クリスティーナ・アギレラが
新たに書き下ろした作品なども含まれているが、マドンナな
ど既存の曲も多数使用されており、それが物語の展開にも巧
みに利用されている。
また前回紹介した以外の出演者では、主人公に関わるジャッ
ク役にTVで『The OC』などに出演のカム・ジガンデー。彼
は同じくソニー配給のSF作品『パンドラム』にも出演して
いたが、この作品は何故か試写が行われなかったので紹介で
きなかったものだ。
この他に最近のソニー作品では、ロベルト・ロドリゲス監督
の『マチェーテ』の試写も観られなかったが、この2作とも
SF/ファンタシー映画ファンには気になる作品。どちらも
劇場で観て、紹介できなかったことを悔しく思ったものだ。

『アンチクライスト』“Antichrist”
2003年12月紹介『ドッグヴィル』、2006年1月紹介『マンダ
レイ』などのラース・フォン=トリアー監督による2009年の
最新作。同年のカンヌ国際映画祭に出品されて主演のシャル
ロット・ゲンズブールが最優秀女優賞を獲得している。
題名からは宗教的なものを想像せざるを得ないが、恐らくキ
リスト教により詳しければ、より奥のものが観えてくる作品
なのだろう。しかしそれほど詳しくない僕でも、中で暗喩さ
れた事象はいくつも感じられたものだ。
例えば章立てされた映画の第4章のタイトル「3人の乞食」
には「東方の三博士」が思い浮かんだが、ウェブで検索した
ら大正〜昭和初期の宗教画家河野通勢の作品に同名のものが
あり、その通りの解釈だったようだ。
従って、この他に描かれる石臼などにも何か意味があるのか
も知れないが、そこまでは僕の理解は及ばなかった。でもま
あそんなことも考えながら観ていると、上映時間はあっとい
う間に過ぎてしまう作品だった。
実際1時間44分の上映時間は上記の2作品に比べるとかなり
短いものだが…。
物語は、幼い我が子を自らの快楽中に事故で失った夫婦を主
人公としたもので、悲嘆にくれて立ち直れなくなった妻と、
その精神の回復を試みるセラピストの夫との凄絶なドラマが
展開される。
そこに描かれるのは、極限に挑むかのような性描写であった
り、また監督自身が日本映画の『リング』にインスパイアさ
れたと語るホラー的な描写であったり…。実はここ数年は欝
病であったという監督が一気にその内面を曝け出しているよ
うな作品でもあった。

共演は『スパイダーマン』などのウィレム・デフォー。事実
上の2人劇とも言える構成の作品の中で、鬼気迫るようなゲ
ンズブールの演技を全て受け止めるデフォーの演技にも感心
した。
なおフォン=トリアー監督の次回作としては、キルスティン
・ダンスト、ゲンズブールらが共演の“Melancholia”とい
う作品がすでにポストプロダクション中となっているが、こ
の作品は、ウェブの2009年10月11日付で紹介したようにデザ
スター映画とのことだ。

『エリックを探して』“Looking for Eric”
この作品は、2009年10月20日付の「東京国際映画祭」の中で
1度紹介済なので、今回はその再録と新たな情報の追加をす
るものとしたい。まずは再録から。
2005年4月に『やさしくキスをして』などを紹介しているイ
ギリスのケン・ローチ監督による最新作。
プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド(マンU)
でキングと呼ばれたサッカー選手エリック・カントナが自ら
出演している作品で、カントナは本作の製作総指揮も務めて
いたようだ。
主人公はサッカーフリークの郵便配達夫。離婚や交通事故な
どが重なって仕事にも覇気がなくなっている。しかも入院中
に彼の自宅には、前妻の連れ子たちが有象無象の仲間を引き
入れていて、何やら怪しい雰囲気にもなっている。
そんな中で、彼の仲間たちが素人セラピーを実行し、そこで
自分のカリスマがエリック・カントナであることに気づいた
主人公の前に、何とカントナ本人が現れる。そしてそのアド
ヴァイスで徐々に人生を変え始めるが…
ウッディ・アレン監督『ボギー!俺も男だ』のケン・ローチ
版とでも言えるのかな。『やさしく…』でもサッカーファン
だということは明確に判っていた監督だが、今回は選手本人
の出演も得て、華麗なゴールシーンの記録映像もふんだんに
取り込んだ作品になっている。
とは言えローチ監督作品らしく、深刻なイギリス社会の状況
は、本作でも如実に描かれているものだ。

元々サッカーチームのサポーターでもある自分としては、華
麗なカントナのプレーに酔い痴れることの出来る作品でもあ
るし、カントナが折々に放つ含蓄のある言葉には、一々頷い
てしまう作品でもあった。
でもまあ、それがサッカーが文化として根付いていない日本
では中々理解されないところもあるのだが、そこにはサッカ
ーファンでなくても理解できる夫婦や家族の問題もしっかり
と描かれているから、そういう面からでもアピールして欲し
い作品だ。
そしてカントナの華麗なプレーの連続に、映画の観客がサッ
カーも観たくなってくれると嬉しいものだが。
以上がちょっと修正した以前の紹介文だが、今回新たに判っ
た情報によると、作品は元々カントナとフランスのプロデュ
ーサーが企画したもので、その映画化にはイギリスが舞台の
方が良かろうと駄目もとでローチ監督にオファーしたのだそ
うだ。
ところがこのときのローチ監督はお気に入りのチームが低迷
中で、やれるかどうか判らないという返事。しかしその後に
ローチ監督の協力者のポール・ラヴァティの描いた脚本が素
晴らしく、一気に映画化が成ったとのこと。本当にサッカー
好きが集まって完成した作品のようだ。

『Pure』
2007年12月『そして春風にささやいて』、2009年2月『虹色
の硝子』と紹介しているごとうしのぶ原作「タクミくんシリ
ーズ」の映画化第4作。第3作は試写状が来なかったが、今
回は観せて貰えたものだ。
映画はいつものように静岡県は伊豆高原の辺りにあるらしい
全寮制の男子高校を舞台に、その寮で暮らす男子たちのボー
イズラヴの顛末を描く。ただし、今回の主人公は「タクミく
ん」ではなくて、学園の生徒会長・三州と彼に憧れる後輩・
真行寺の物語だ。
その一方でシリーズの中心であるタクミとギイ、また泉と道
男など3組の男子同士のカップルの恋物語が描かれ、さらに
そこには卒業した先輩の存在なども絡まって、嫉妬や謙遜な
どのストーリーが展開して行く。

出演は第2作から連続の浜尾京介、渡辺大輔、全作に出演の
滝口幸広、また第3作に登場の三州役・馬場良馬。それに加
えて、真行寺役には映画初出演の内藤大希、同じく映画初出
演の広瀬友祐。以上は全員ミュージカル「テニスの王子様」
出身者となっているものだ。
他にD−BOYSの三津谷亮、浜尾の事務所後輩という小林
豊らが共演。因に主演陣の中で渡辺は、その前に『ウルトラ
マンメビウス』にも隊員役でレギュラー出演していた。
監督は第2作からの横井健司、脚本は全作通して担当の金杉
弘子。
第1作の時は、「タクミくん」の新入学ということで、ギイ
の出会いなどいろいろドラマが存在していた。そして第2作
でも多少は仕掛けがあって、それなりにドラマティックでは
あったものだ。
それがまあ本作では正にBLに特化されてしまっている感じ
で、僕のような人間にはますます遠い世界の物語になってし
まった。でも試写室にもかなりの若い女性が来ていたし、恒
例の有料試写はまた盛況になるのだろう。
それにシリーズ第3作では発売されたDVDがデイリーラン
キングの1位にもなっているそうで、その第3作は観ていな
いから何とも言えないが、その流れを継いでいるのなら本作
も需要はしっかりあるというもの。シリーズは今後も続きそ
うだ。
        *         *
 最後に製作ニュースは一言だけ。
 2004年12月15日付の第77回などで報告した“The Man from
U.N.C.L.E.”の映画化について、ワーナーで進められている
この計画に、『オーシャンズ11』などのスティーヴン・ソダ
ーバーグ監督が興味を示しているとの情報が伝わってきた。
しかもナポレオン・ソロ役にはジョージ・クルーニーという
ことで、これは実現したら面白くなりそうだ。
 それでもし実現するとしたらイリヤ・クリアキン役は…?
まさかブラッド・ピットなのかな。まだ実現するかどうかも
あやふやだが、今後も注意して情報を追い掛けて行きたいと
思うところだ。
 なお本作のオリジナルはMGMだが、その権利はワーナー
所有のターナー・カタログに入っていたもので、本作のリメ
イク権も現在は同社が所有しているものだ。



2010年11月21日(日) デュー・デート、Gソシアリスム、デッド・クリフ、名前のない少年…、ヒアアフター、完全なる報復、ジーザスC、ビン・ラディンを探せ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
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『デュー・デート』“Due Date”
今年4月紹介『ハングオーバー!』のトッド・フィリップス
監督と、主演トリオの1人を演じていたザック・ガリフィア
ナキスが、『アイアンマン』などのロバート・ダウニーJr.
を相手役に迎えて描いたドタバタコメディ。
物語の発端はアトランタの飛行場。妻の初めての出産日が近
付き、出張先のアトランタから自宅のあるLA行きの飛行機
に乗ろうとした主人公に災厄が降りかかる。入り口で手荷物
を取り違えた男が原因でキャビン内のトラブルとなり、2人
とも飛行機を降ろされたのだ。
しかも、主人公のIDカードやクレジットカードの入った財
布を乗せたまま飛行機は離陸。こうなると全てがID優先の
アメリカではレンタカーも借りられず全くのお手上げ。とこ
ろがそこにトラブル相手の男性がレンタカーに乗って現れ、
LAまでの同行を提案する。
こうして2度と顔も見たくなかった男と3日間は掛かるLA
までの道中が始まるが…。その男は俳優志望でハリウッドに
行く途中とのこと、しかし緑内障の治療と称して大麻は吸う
は、犬は飼っているはで、道中はどんどんあらぬ方向に進ん
でしまう。
果たして主人公は妻の出産に間に合うことができるのか…
最近は飛行機にも乗っていないので、日本の飛行場のセキュ
リティがどうなっているか判らないが、アメリカなら恐らく
こんなだろうという発端のトラブルから始まって、他のアメ
リカ特有のシチュエーションも判りやすく、日本人にも存分
に笑える作品だった。
それはある意味アメリカの病巣とも言える部分で、『ハング
オーバー!』もそうだったがこの手のアメリカ自虐コメディ
は、脳天気ではないが日本人にも理解できるものだ。そんな
アメリカを馬鹿にしながら笑える作品になっている。

出演は、上記2人の他に、2008年5月紹介『近距離恋愛』な
どのミシェル・モナハン、今年2月紹介『ローラー・ガール
ズ・ダイアリー』などのジュリエット・ルイス、さらにオス
カー俳優のジェイミー・フォックスらが脇を固めている。
脚本は、テレビのアニメシリーズなどを数多く手掛けている
アラン・R・コーエンとアラン・フリードランド。それに、
『近距離恋愛』のアダム・スレイキエルと監督が担当。
お馬鹿なお笑いの中に、人間味のあるほろりとさせる部分が
バランス良く配置されているのも上手く感じられる脚本で、
それも日本人に受けそうなところだ。アメリカンコメディは
日本ではなかなか難しいが、この作品なら躊躇なくお勧めで
きる。

『ゴダール・ソシアリスム』“Film socialisme”
フランス・ヌーヴェル・ヴァーグの旗手とされて今年12月に
80歳を迎えるジャン・リュック・ゴダール監督による5年ぶ
りの新作。
ゴダールの作品は、元々が僕のような凡人にはなかなか理解
し辛いところがあるもので、本作もその類の作品だ。
本作の物語は3部構成とされているが、その最初と最後は地
中海のクルーズ船を舞台にしたもの。そこではスペイン内戦
中の1936年頃に、当時のコミンテルンに託すためバルセロナ
からモスクワへ輸送中に行方不明になったという大量の金貨
の謎が追求される。
そしてその間には、フランスの片田舎を舞台にした全く別の
物語が挿入されるものだが、ここでは地方選挙に子供が立候
補したことによる混乱が描かれている。それはマスコミが取
材に来たりの騒ぎになって行くが…。
ゴダールは最初は“Socialisme”という題名で本作の製作を
始めたが、途中でコミュニスムでもキャピタリスムでもよく
なったとして原題を変えたそうだ。ただし本国では2つ単語
の間にゴダールを指すJLGを入れることが多いそうで、邦題
もそれに倣っているものだ。
それにしても、真ん中の物語はそれなりに政治的な意味も感
じられるが、両側の作品は何なのかな。金貨紛失の経緯から
言うとコミュニスム批判のようにも取れるが、そんな解釈を
してしまってもいいものだろうか。
いずれにしても僕には物語が良く把握できなかったし、全体
としてそれがソシアリスムとどういう関係があるのかも判ら
なかった。ただ映画では、画面オフから多数の音声が重ねら
れていて、その台詞の内容が重要だったのかも知れないが、
それらの全部は追い切れなかった。

なお本作は、今年5月のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門
に招待上映されて、これがゴダール監督の最後の作品になる
かも知れないとも言われたそうだが、その後のインタヴュー
では“Adieu au langage”(言葉よ、さようなら)という作
品を自ら計画中とのことだ。
また、本作は東京地区では12月18日から日比谷のシャンテ・
シネにてロードショウ公開されるが、それに先立つ11月27日
から12月17日まで、同館では「ゴダール映画祭」と称して、
1959年『勝手にしやがれ』、1965年『気違いピエロ』を含む
長編8本と短編2本のゴダール作品が連続上映される。

『デッド・クリフ』“Vertige”
フランス・ゴーモン社の製作によるクロアチアの山岳地帯を
舞台にしたサスペンス作品。休暇を利用してトレッキングに
やってきた5人の男女が、立入禁止の警告を無視して断崖を
登り始めたことから恐怖に巻き込まれて行く。
基本的に、グループの中に同行カップルの女性の元カレがい
るなど見え見えの設定が満載の作品で、観始めはそのいい加
減さにかなりげんなりしていた。しかし、フランスアルプス
やピレネーで撮影されたという山岳地帯の風景の美しさがそ
んな気持ちを洗い流してくれた。
しかもその美しい風景の中で繰り広げられるアクションを、
ほとんどVFX無しの出演者本人による実写で描いて行くか
ら、そのサスペンスもかなりのもの。フリークライミングや
ロープ1本の宙吊りなど、出演者の頑張りも相当なものだ。
さらに映画の中に登場する渓谷に架かるかなり長大な吊橋を
落下させるシーンなどには、こんなことを映画の撮影のため
だけに準備してやったのかな。そうでなければできるはずも
ないが…という気分にもさせられた。
ただまあその実写に比べると、人間が関わるサスペンスの方
はちょっと手緩い感じで、特に物語の設定の通りだとあの武
器の数々はどこで手に入れたのかとか、最初に主人公たちが
乗ってきた車は誰が取りに行くのかなど、気になる点も多い
作品だった。

出演は、2005年の主演作でセザール賞若手俳優賞にノミネー
トされたというファニー・ヴァレット、2007年の同賞にノミ
ネートされたジュリアン・リベロー、演技の傍ら脚本も執筆
するというラファエル・レントレット。
さらに2009年6月紹介『96時間』や、今年4月紹介『アデ
ル』に出演していたというニコラス・ジロー、それに本作が
デビュー作のモード・ワイラー。その中でリベローだけが撮
影前に登山歴10年だったそうだ。
脚本は、2009年3月に「フランス映画祭」の関連で紹介した
『ミュータント』のルイ=ポール・ドゥサンジェと、映画製
作スタッフのジョアンヌ・バーナード。監督は、フランスの
テレビ局で人形劇による風刺番組などを手掛けて本作が長編
デビュー作のアベル・フェリー。
この監督が登山の愛好家だそうで、映画は脚本がその琴線に
触れて作られたもののようだ。

『名前のない少年、脚のない少女』
         “Os Famosos e os Duendes da Morte”
昨年のロカルノ国際映画祭コンペティション部門に出品と、
今年のベルリン国際映画祭でも公式上映されたブラジルの新
星エズミール・フィーリョ監督による作品。
ブラジル南部のドイツ移民が多く住む町を舞台に、閉塞した
状況の中でインターネットだけが生き甲斐の少年と、恋人と
共に死のうとしたが死に切れず1人町に戻ってきた青年。そ
してインターネット上にだけ生き続けているその恋人の奇妙
な三角関係が描かれる。
主人公となる少年はMr.Tambourine Manのハンドルネームで
インターネット上に詩を発表している。そんな少年はボブ・
ディランに憧れ、いつか町を出て行きたいと思っているが、
母親と2人暮らしの生活などは閉塞感で一杯だ。
その少年はある日、インターネット上ではJingle Jangleと
名告る少女の画像を見付け、彼女のことを思いながら「名前
のない少年、脚のない少女」の詩を創作する。そして少年は
深夜の町で親友と煙草を吹かし酒を飲むが、閉塞感に変ると
ころはない。
やがて学友の一家の母親が自殺。少年はさらに行き場のなさ
を募らせて行く。そんな中で少年はジュリアンという1人の
青年と出会う。彼こそはJingle Jangleの恋人で、彼女と共
に自殺しようとしたが死に切れず、1人で町に戻ってきたの
だった。

物語は、このジュリアン役で出演もしているイズマエル・カ
ネッペレの原作小説に基づくもので、南部のドイツ移民の子
である原作者が自らの心情を描いたもののようだ。そしてそ
の原作に共感した都会生まれの監督が、自ら南部の町に2カ
月間暮らしながら、原作者と共に作り上げたシナリオに基づ
いて映画化が行われている。
また出演者には現地の人たちが登場しているが、その選考は
インターネット上のフォトログなどを通じて行われ、400人
以上との面接の上で10人が選ばれ、さらに演技のレッスンな
どをして撮影に臨んだそうだ。
こうして主演者のエンリケ・ラレーらが選ばれているものだ
が、特にJingle Jangle役のトゥアネ・エジェルスは、実際
に彼女自身が撮影した画像などをインターネットにアップし
ており、映画にもその画像が使用されているそうだ。
本来自殺行為が出てくる作品は好みではないが、本作の場合
は主のテーマではないし、どちらかと言うと批判的に扱われ
ているから容認する。その自殺などに揺れる若者の心情が、
正にリリカルに表現された作品だった。
なお原題は、英語訳では‘The Famous Ones and the Dwarfs
of the Death’となるようだ。

『ヒアアフター』“Hereafter”
2006年11月紹介『硫黄島からの手紙』以来のコラボレーショ
ンとなるスティーヴン・スピルバーグ製作、クリント・イー
ストウッド監督によるヒューマンドラマ。死後の世界を垣間
見てしまった人々の苦悩と希望が描かれる。
主人公の1人はフランス人の女性ジャーナリスト。出演する
テレビ番組のディレクターと共にバリ島に来ていた彼女を津
波が襲う。そして九死に一生を得た彼女は、その仮死状態の
間に不思議な世界を目撃する。
もう1人の主人公はアメリカ人の男性。幼い頃に熱病で生死
の境を彷徨った彼には、人の死後の世界を観る能力が備わっ
ていた。そして以前はその能力を使って死者の話を聞くこと
も行っていたが、それは彼自身の精神に大きな負担を強いて
いた。
そしてもう1人はロンドンに住む幼い少年。双子の兄と共に
麻薬中毒の母親を気遣いながら成長してきた彼を大きな悲劇
が襲う。このような3人巡って、人の死後の世界に関わる物
語が展開されて行く。
死後の世界というのは、ちょうどリメイク版の『ゴースト』
も上映中だが、人間にとっては謎であり、恐怖であり、また
ロマンであるのかも知れない。従ってその様子を描いた作品
も枚挙のいとまもないが、いずれもそれは希望であるように
も思える。
そんな死後の世界を本作は、人への思い残した者たちのいる
ところであり、多少は現世にも影響を与えることのできる、
『ゴースト』の世界観に近いものに描いているようだ。これ
が恐らくはアメリカ人の一般的な考え方なのだろう。

出演は、2006年4月紹介『ロシアン・ドールズ』などのセシ
ル・ド・フランス、2009年12月紹介『インビクタス』に続け
てのイーストウッド作品になったマット・デイモン。他に、
ブライス・ダラス・ハワード、マルト・ケラーらが共演して
いる。
脚本は、2009年1月紹介『フロスト×ニクソン』などのピー
ター・モーガン。
映画は巻頭にCGIによる津波のシーンがあり、それは予告
編でも観られるようにかなりの迫力だが、映画の全体はその
ような派手なものではなく、もっと地道なヒューマンドラマ
を描いている。その辺がちょっとそぐわないような感じもす
る作品になっていた。
他にも爆破テロ事件のシーンなども登場するが、僕にはこの
テーマならもっと静かな雰囲気で描いても良かったようにも
感じられたものだ。でもまあ最近のハリウッド映画はこれが
期待されてしまうのだろうが。


『完全なる報復』“Law Abiding Citizen”
最愛の家族を犯罪被害で失った主人公が、その犯罪者を許し
た司法組織そのものに挑んで行く姿を描いた人間ドラマ。
主人公は妻と娘と3人暮らしの平凡な家庭を持っていた。そ
の生活を突然の悲劇が襲う。家に侵入してきた2人組の暴漢
が主人公に重傷を負わせ、その目の前て妻と娘を殺害したの
だ。それをなす術もなく観ていた主人公。
やがて2人の犯人は逮捕される。ところが彼らの取り調べが
始まったとき、事態は思いも拠らないことになって行く。主
犯格だった男が検察との司法取り引きに応じ、もう1人を死
刑にする証言を行う代りに、自身は軽微な罪で許されてしま
ったのだ。
そこにはもちろん主人公の目撃証言もあったのだが、心神耗
弱状態だった主人公の証言は証拠として採用されなかった。
そのため2人とも無罪になってしまうことを恐れた担当検事
が、死刑を免れなかったはずの主犯の男との取り引きをした
結果だった。
そして10年が何事もなく過ぎ、上級審でも刑の確定した男の
死刑が執行されようとしたとき、主人公による報復のドラマ
が開幕する。それは刑を免れた犯罪者だけでなく、司法組織
そのものへ向けての周到に練られた報復劇だった。
正直に言ってかなり荒唐無稽な物語だ。でもヒーローコミッ
クスの映画化ではこの程度のことは当然許している訳だし、
それを生身の人間がやったからといって悪いはずがない。そ
んな微妙なバランスが見事に機能した作品と言えそうだ。た
だし映画の中では、主人公がこれを実行できる理由付けはち
ゃんと説明されていた。
それと映画の中では、「殺された奥さんと娘がどう思うか考
えろ」と諭す検事に対して、「死んだ者は何も考えない」と
言い放つ主人公の言葉が、この映画全体の方向を示している
ように思えた。見事な報復劇の描かれた作品だ。

出演は、報復に燃える主人公に『300』などのジェラルド
・バトラーと、担当検事役はオスカー俳優のジェイミー・フ
ォックス。他に、『アイアンマン』などのレスリー・ビブ、
『コラテラル』などのブルース・マッギル、『新スター・ト
レック』シリーズなどのコルム・ミーニィ、そして2008年の
『ダウト』でオスカー候補になったヴィオラ・デイヴィス。
脚本は、今年7月紹介『ソルト』などのカート・ウィマー、
監督は、2003年6月紹介『ミニミニ大作戦』などのF・ゲイ
リー・グレイ。トリッキーなアクション映画が得意の2人の
顔合せで、正しくトリッキーな作品が誕生した。

『ジーザス・キャンプ』“Jesus Camp”
キリスト教原理主義とも呼ばれているアメリカにおけるキリ
スト教会福音派の活動を批判的な立場で紹介したドキュメン
タリー。
宗教で原理と言うと、ちょっと前なら統一原理何てのも思い
浮かぶが、最近ではやはりイスラム原理主義だろう。それに
対抗している訳でもないのだろうが、アメリカで最近台頭し
ているのが、福音派と呼ばれる人々の戦闘的とも言える活動
のようだ。
福音派と言うと、進化論論争などで以前から耳にはしていた
が、最近では中絶禁止運動から一部には中東戦争支援まで、
特にジョージ・W・ブッシュ政権を支持する政治的な活動で
も注目を集めたようだ。本作はそのブッシュ政権中の2006年
に製作されている。
作品では、主にその福音派に属するフィッシャー女史という
人が幼年向けに実施しているサマーキャンプの様子などが紹
介されるが、迷彩服で顔にカモフラージュ用メイクをした子
供たちが模擬戦争を行うパフォーマンスに始まり、扇情的な
活動が描かれる。
それはもちろん批判的な立場で取材されているから、その描
き方には毒があるが、作品では巻頭から福音派に批判的な立
場を明らかにしているから、その辺は妙な誤魔化しなどもな
くストレートで理解しやすいものだ。
しかもその取材を意図を了解させた上でかなり内部まで行っ
ているのは、ある意味見事とも言える作品になっている。
それにしても、基本的に「宗教は嫌い」な立場から観ている
と、盲目的な信者を育てようとするこの人たちの考え方には
恐ろしさを感じざるを得ない訳で、ここに登場する子供たち
が10年、20年先にどうなっているかには、暗澹とした気持ち
にもなる。
でもまあ、よほどの純粋培養をしなければ、子供の挫折なん
てすぐ来てしまうもので、その時にこの大人たちがどこまで
彼ら支援できるのか、単に脱落者として切り捨てるのか、そ
の辺がこれから注目して行くべきところだろう。
因に作品中では、最後に彼らの政治力が発揮されて福音派の
最高裁判事が誕生しているが、その結果、子供たちまで動員
してホワイトハウスに訴えた中絶禁止が実現したのか否か、
その辺がどうなったのかは気になったところだ。


『ビン・ラディンを探せ!』
      “Where in the World Is Osama Bin Laden?”
2004年“Super Size Me”で話題を振りまいたドキュメンタ
リスト=モーガン・スパーロックが、9/11同時多発テロを
引き起こしたテロリストの権化とも言えるオサマ・ビン・ラ
ディンの消息を求めて中東諸国を直撃取材した作品。
製作の切っ掛けは妻の妊娠。産まれてくる子供が安全な世界
で育つことを願った監督は、世界を危険に陥れているとされ
る人物=オサマ・ビン・ラディンを求めて、妻の出産予定日
までの限定で中東へ取材の旅に乗り出す。
その取材国は、エジプト、モロッコ、ヨルダンからパキスタ
ン、サウジアラビア、アフガニスタン、さらにイスラエル、
パレスチナまで及んでいる。また取材先も、一般市民からビ
ン・ラディンその他のテロリストの親戚など、かなり克明な
ものだ。
そしてその取材は、最初はビン・ラディンを探すという単純
なものから、徐々に中東におけるアメリカの立場というよう
なものに変化して行き、アメリカが中東で行っている政策へ
の批判ではないまでも、かなり反省の色も見える作品になっ
ている。
特にそれは、中東の一般市民や学生にアメリカに付いてのイ
メージを聞くシーンや、その一方でイスラエルでの取材の様
子などでは、アメリカが行っていることへの疑問のようなも
のも丁寧に描かれているものだ。
それは日本人の我々が見ていると、何をいまさらという感じ
のする部分もない訳ではないが、スパーロックのような人物
がようやくそれに気付いて描いてくれたということにもなる
もので、これがアメリカで公開されることが重要なのだとも
感じられた。
それにしても作品の中では、アラブ人はアメリカに批判的で
はあってもスパーロック本人には友好的であるのに対して、
ユダヤ人がことさらのようにスパーロックに反論し、果ては
暴力まで振るってくるという描き方は衝撃的だった。

なお最後に紹介した2作は、TOKYO MXテレビで放送中の「未
公開映画を観るTV」で紹介されたもので、その中から9本
が東京は12月25日から順次劇場公開される内の2本となって
いる。



2010年11月14日(日) 世界のどこにでもある場所、君を想って海をゆく、MAD探偵、食客2、ギャングスタ、戦火の中へ、HPと死の秘宝、ジャライノール

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『世界のどこにでもある、場所』            
日本では数少ない映画監督と呼べる人の1人、大森一樹監督
による精神病の患者を描いた人間ドラマ。
物語の導入は、証券詐欺事件の首謀者にされてしまった投資
アナリストの男。警察や暴力団からも追われるようになった
その男は、最後の金で乗ってきたタクシーを降りて山路を歩
き出す。ところがそこに暴漢が現れ男は昏倒させられる。
そして目を覚ました彼の前に現れたのは、ちょっと調子の外
れた演奏をしながら行進するマーチングバンドと象と話をし
ている男、それに新聞記者と女性歌手。さらにテロリスト退
治に情熱を燃やす自衛官に高校教師、そして医師。
そんなちょっと怪しげだが親しみも感じられる連中が、その
日は貸し切りにされた遊園地と動物園を闊歩していた。果た
して彼らのしていることは? そしてそこには、不審者捜査
の警察官や遺産相続の弁護士などもやってきて…
大森監督は、フィリップ・ド・ブロカ監督の1966年作品『ま
ぼろしの市街戦』からインスパイアされてこの物語を作った
のだそうで、ある種の日常と非日常が綯い交ぜにされて物語
が展開されて行く。
ただし1966年の作品には反戦という大きなテーマがあったの
に対して、本作ではそれが医療と司法の関りなどちょっと特
殊なテーマを除いてはあまり明確ではなく、監督の意図が計
り切れないものになっていた。
その一方で、精神病患者をテーマにした作品は、2007年8月
紹介『クワイエットルームにようこそ』や先月紹介『酔いが
さめたらうちに帰ろう』など何作か観て来た中で、特に医師
免許を持っている大森監督らしさのようなものもあまり感じ
られなかった。
ただまあ本作は、当初は宝塚ファミリーパークの閉園に合せ
て10年前に企画されたものだったそうで、その条件ではあま
り過激なものは作れなかったのかも知れない。そんな中で日
常と非日常という不思議な雰囲気は出されていたようだ。

出演は、三宅裕司主宰の劇団スーパー・エキセントリック・
シアターのユニットで、そこに水野久美、佐原健二の両ベテ
ランが客演している。

『君を想って海をゆく』“WELCOME”
海峡の対岸に暮らす恋人を想い、海峡を泳いで渡ろうと試み
る若者の物語。
SF/ファンタシーなど自分のテリトリーの作品では仕方が
ないが、それ以外の作品は、出来るだけ事前に情報を入れな
いようにして作品を鑑賞することにしている。従って本作で
も「ロマンティックな題名だなあ」という程度の認識で試写
会に向かった。
物語の舞台は、英仏海峡に臨むフランスの町カレー。東京上
野の国立西洋美術館に設置されているオーギュスト・ロダン
の名作「カレーの市民」でも有名なこの港町で、現在もなお
続いている、フランス国家の恥とも言える状況が描かれる。
物語の主人公は、イラク北部からヨーロッパ大陸を4カ月掛
けて徒歩で横断してきたクルド人の若者。彼が想うのは、家
族と共に難民認定されてロンドンに移住した恋人のこと。そ
してカレーの海岸まで辿り着いた彼の前には、幅32kmの英仏
海峡が横たわっていた。
不法入国者の彼がその海峡を渡る方法は限られる。1番目は
仲介人に500ユーロ払ってトラックの荷台に潜む方法。しか
し若者はあるトラウマからそれを実行することができない。
2番目は160ユーロで列車に潜む方法だが、成功した奴はい
ないという。
そんな彼が立つカレーの海岸からは、イギリス・ドーバーの
白い崖が遠望される。それを見た彼は、町のプールで無けな
しの金をコーチに払いクロールの練習を開始する。その想い
はやがてコーチにも伝わって行くが…
カレーの海岸には、最盛期1000人を超える難民がイギリスを
目指し屯していたそうだ。その数はフランス警察の厳重な取
り締まりによって減少したが、その取り締まりの厳しさは、
難民に携帯の充電を許しただけで逮捕された市民もいたとい
うほどのもの。
そのような非人道的な取り締まりには欧州評議会からも厳重
抗議が行われたとされるが、それでもその取り締まりは継続
されているとのことだ。本作は、監督がそんな状況に憂慮し
て描いた作品のようだ。
いやはや、ロマンティックな題名からは全く想像も出来ない
厳しい内容の話で、観終ってこれほど衝撃を受けるとは思っ
てもみなかった。

脚本と監督は、1993年『パリ空港の人々』などのフィリップ
・リオレ。出演は、本作でセザール賞新人賞にもノミネート
されたフィラ・エヴェルディと、コーチ役には2009年12月紹
介『すべて彼女のために』などのヴァンサン・ランドンが扮
している。
なおフランスでの公開の後、政府からは本作に対して不快感
が表明され、監督からそれに対して公開質問状を出すという
事態にもなったそうだ。それほど正確に状況が描かれている
ということなのかもしれない。

『MAD探偵〜7人の容疑者』“神探”
一昨年の東京国際映画祭で上映された作品が来春日本公開さ
れることになった。一昨年の映画祭に関しては個人的な事情
もあって、全体的な報告できなかったが、実は本作に関して
紹介文の執筆が行き詰まったことも一因にはあったものだ。
そこで今回はじっくり見直すことにしたのだが、やはり映画
の後半で物語のテーマが違うものになっているように感じら
れ、その点に関して監督の意図が理解できなかった。
物語の中心にいるのは、天才的なプロファイリングを繰り広
げていた香港西九龍警察署の刑事。しかし、天才と何とかは
紙一重の彼には奇っ矯な行動が目立ち始め、ついにはその行
動から退職を余儀なくされる。
一方、窃盗犯を追っていた2人の刑事の1人が行方不明にな
り、やがてその刑事が所持していたはずの拳銃が重大犯罪に
使用される。しかしその事件の捜査は行き詰まり、以前西九
龍署で問題刑事の下に2日間だけいた若い刑事が彼に援助を
求めてくる。
こうして現場に赴いた問題刑事は、窃盗犯を追っていたもう
1人の刑事の内に7人の人格が存在していると言い出し、彼
らが犯行を扇動しているとして、その刑事の尾行を始めるの
だが…。問題刑事には他にもいろいろ謎の行動があった。
画面では、この7人の人格が人物を取り巻くように存在して
いる状況が描かれ、他にも人格の入れ替わりなどが映像で表
現されている。しかしこの人格が一体何なのか、一部にはそ
れが霊魂のように見えるところも話を混乱させるものだ。
ただまあここまでのお話は、いろいろ想像力も膨らますこと
ができてそれなりに面白い。ところが映画の後半は、これが
全く別のアクション映画のようになってしまって、上記の物
語の結論が出されてもいない。
ただしこのアクションもそれなりにトリッキーで、それはそ
れで面白いのだが…。映画の前半で出されたテーマがここで
はほとんど消えてしまう。その辺で監督たちが本当は何を言
いたかったのか、理解ができなくなってしまうのだ。

監督は、今年3月紹介『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』な
どのジョニー・トーと、同作の脚本も務めた右腕とも言える
ワイ・カーファイが共同で担当している。
また脚本はカーファイと、彼らとは2004年9月紹介『ターン
レフト・ターンライト』でも組んでいるアウ・キンイーが担
当。因に本作は、キンイーが1998年のコンテストに応募した
作品だそうだ。
物語の全体は正にミステリアスで、その雰囲気を楽しめれば
良いというところかも知れない、それに映像表現などは見事
なものだったのだが…。僕にはもう少し物語を明確にして欲
しかったという感じが残ったものだ。

『食客2』“식객2”
大人気の漫画シリーズを原作にして2007年の映画化やTVシ
リーズも大評判になったというヒット作の第2弾。ただし映
画化の前作も手掛けたプロデューサーが今回仕掛けるのは、
映画オリジナルのストーリーだそうで、俳優陣も総入れ替え
でこの第2弾に挑んでいる。
元々が韓国家庭料理をテーマにして人気を得たというシリー
ズが本作でテーマとするのはキムチ。韓国中でその味わいは
千差万別、正にお袋の味とも言われる食材を真正面に据えて
物語が展開される。
物語の中心となるのは、幼い頃から姉弟のように育ってきた
男女。ところがある日、女性は料理店を切り盛りする実母の
口煩い教えを嫌って家を飛び出し、以来10数年、海外でNo.1
と尊敬される韓国料理人となって帰国してくる。
一方、幼くして母親と離別し料理店に引き取られた男性は、
食材にも精通し料理も一流の料理人に育っていた。しかし彼
が育った料理店は、女性店主が病気がちで休業中。しかもそ
の店は再開発地区の中にあって地上げの攻勢を受けていた。
そんな彼らの前に提示されたのは、政府主催の料理人対決。
「キムチ大会」と名付けられたその3番勝負を、2人は料理
店の存続を賭けて戦うことになる。そして2人の料理人は、
それぞれの母親への想いをその料理に表現して行く。
テーマがキムチということで、僕らにも親しみのある韓国食
材ということになるが、やはりその知識は韓国の人ほどには
ない訳で、そんな目で見てこの映画には、その歴史から様々
な調理法にまで、キムチのいろいろな側面が描かれている感
じがした。
もちろんその理解のレヴェルは韓国の人には遠く及ばないの
だろうが、それはそれで面白く観られた作品だった。それに
本作では、物語の発端が日本という辺りにもそれなりの共感
が湧いたものだ。

出演は、韓国コメディドラマの女王ともいわれるキム・ジョ
ウンと、昨年8月に紹介したポン・ジュノ監督作品『母なる
証明』で、韓国2大映画賞とされる大鐘賞と青龍賞の助演男
優賞をW受賞したチン・グ。主演の2人は3カ月間調理の特
訓を受けて役に挑んでいるそうだ。
脚本と監督は、コロムビア大学の芸術科大学院を出たという
ペク・ドンフン。すでに短編映画での評価も高いという俊英
が初の長編映画に挑戦したものだが、ちょっと臭いコメディ
リリーフも含めてどちらもそつなく纏めている感じがした。

『ギャングスタ』
2009年5月紹介『僕とママの黄色い自転車』や8月紹介『引
き出しの中のラブレター』の原作、そして7月紹介の『虫皇
帝』では監督業にも乗り出している作家・新堂冬樹の原作に
よる映画化作品。
原作者には白冬樹と黒冬樹の2面性があるのだそうで、上記
の5月、8月の作品は共に白冬樹の原作と言える。それに対
して黒冬樹と言われる主に闇金融の世界を描いた作品は、オ
リジナルヴィデオ製作されており今まで観る機会はなかった
ものだ。
それでまあ今回はヤンキーものということで、黒冬樹の片鱗
が観られるかなと思ったのだが、作品はどちらかというと青
春ものの雰囲気が強く、これは黒冬樹というより白に近いか
もしれないものに感じられた。
物語の舞台は、偏差値20以下の落ちこぼれ工業高校。そして
主人公は、その学校で「ギャングスタ」と呼ばれるヤンキー
トップの座を目指すと豪語して入学してきた川谷銀二。しか
しそこには四天王と呼ばれる4人の強者がいて…
ということで、単純に喧嘩上等の暴力映画が展開されるかと
思いきや、映画は多少の捻りもあって、何と言うか主人公銀
二の成長ドラマのようなものにもなっていた。しかもそこに
友情なんて言葉が出てくるから…もちろん映画はB級の作品
なのですが。

出演は、銀二役にテレビ「クイズ!ヘキサゴン�供廚覆匹砲�
登場している崎本大海。他に久保田悠来、また「テニスの王
子様」出身の佐々木喜英、滝口幸広など、若手のイケメン俳
優たちが勢揃いしている。
監督は、2009年2月紹介『非女子図鑑』で片桐はいり主演の
「男の証明」という作品を演出していた川野浩司。この監督
は昨年公開の『書の道』という作品などで若手俳優の演出に
定評があるそうで、本作もそういう作品のようだ。脚本は、
同じく『書の道』で組んだ鎌田幸成が担当している。
なお本作の見所ともされるタイマンのシーンは、かなり戯画
化された演出がある一方で、そこそこしっかりと形を見せる
出演者もいたりして、それなりに見応えはあった。それに主
人公たちが基本素手で戦っているのも気持ちが良かったもの
だ。

『戦火の中へ』“포화 속으로”
1950年8月11日、ソウル陥落など韓国側の劣勢が続く朝鮮戦
争の中、最後の防衛線と言われた洛東江の浦項で起きた北朝
鮮遊撃部隊対71人の韓国学徒義勇兵による戦闘の実話に基づ
く戦争ドラマ。
史実によると、この闘いでは71人中47人の学徒が戦死したと
のことで、全滅ではなかったようだが、その中で戦死した中
学3年生の学徒兵が母親に宛てた手紙をテーマの一部として
物語は進められる。
当時、韓国の学生に兵役の義務はなかったが、その多くは義
勇兵として戦場に赴き、非武装で弾薬運びなど後方支援の任
に当っていた。そんな彼らの多くは自らが慕う将校と共に行
動し、浦項の学生たちもそのような経緯でその地に来ていた
ものだった。
その浦項は洛東江防衛線の要衝の一つで、当初は数100人の
正規軍が守っていたが、先に渡河橋梁の爆破などが成功し、
正規軍はさらに激戦の続く戦場へ移動。その際に将校は学生
たちを浦項に残しその防衛を任せた。その場所への北朝鮮軍
の直接攻撃はないと信じて。
ところがそこに徒歩で川を渡った北朝鮮軍の遊撃部隊が現れ
る。それは戦闘から開放されて浮かれ気分だった学生たちを
震撼とさせるが、さらにその時、彼らに支給されていたのは
各自にM1小銃1丁と250発の実弾だけだった。
こうして圧倒的な兵力を持つ北朝鮮軍と対峙した学徒兵たち
の絶望的な闘いが始まるが、ここで彼らは11時間半にわたっ
て4回の北朝鮮軍の攻撃を食い止め、それによる北朝鮮軍の
侵攻の遅れが、最終的に韓国軍の反撃の足掛かりになったと
されているそうだ。
戦場での手紙というと2006年11月紹介『硫黄島からの手紙』
が思い浮かぶところだが、言うなれば最後の砦を守ることを
任された兵士たちの物語。ただし硫黄島の日本軍は最精鋭だ
ったのに対して、韓国ではそれが学徒兵だった。
しかし、日本軍は防ぎ切れずに敗戦への道を進むことになっ
たが、韓国では彼らが北朝鮮軍の進撃を遅らせたことが、後
の韓国軍の反撃に繋がったとも言われている。その辺は歴史
の皮肉としか言いようのないものだ。

出演は、2001年の『火山高』などのクォン・サンウ、テレビ
ドラマ『IRIS』などのチェ・スンヒョン、同じくテレビラマ
『宮女』などのパク・ジニ。他にも『IRIS』に出演のチャ・
スンウォン、ミム・スンウらが脇を固めている。
監督は、2005年7月紹介『私の頭の中の消しゴム』や2010年
公開の日韓合作映画『サヨナライツカ』などのイ・ジェハン
が担当。
浦項という地名は、サッカーKリーグの浦項スティーラーズ
ぐらいでしか知らなかったが、映画のエンディングには当時
の生還者のインタヴューなども挿入されており、歴史の重み
を感じさせる作品になっていた。

『ハリー・ポッターと死の秘宝 Part 1』
    “Harry Potter and the Deathly Hallows Part 1”
2001年にスタートした映画化シリーズが遂に最終話を迎える
ことになり、2部作で公開される内のPart 1の完成披露試写
が行われた。
Part 1の上映時間は2時間26分、恐らくは同等の上映時間と
考えられるPart 2と併せて、約5時間で物語の全てが終るこ
とになる訳だ。
物語については、原作の読者の方も多いだろうから詳しく書
いても仕方がないが、ハリーにとっては両親の仇でもある最
凶の魔法使いヴォルデモート卿との闘いがこれで決着するこ
とになる。
そこに向かうハリー、ハーマイオニー、ロンの3人組に課せ
られるのは、ヴォルデモート卿の命を守る7つの分霊箱の破
壊と、新たに提示される死の秘宝の謎の解明。
しかし、今までハリーたちを導いてきたホグワーツ魔法学校
の先生方や不死鳥の騎士団のメムバーのほとんどはすでに亡
く、3人は全て自らの力だけでその謎を解いて行かなければ
ならなくなる。そこには最大の試練が待ち構えていた。

全長5時間と予想される上映時間についてはいろいろ意見は
あるだろうが、Part 1を観た限りにおいては、ようやくこれ
で原作の読者も満足できる映画化になったと言えそうだ。
実際、第1作、第2作は別として、第3作以降は原作がどん
どん長くなって行くのに対して映画の上映時間はほとんど変
らず、その分の物語の欠落が多くなっていた。その点に付い
て本作Part 1は、観た限りの欠落も少なく満足できる映画化
になったと言えそうだ。
出演者はシリーズ全体を通してのメムバーがほぼ全員顔を揃
えて再登場し、監督は前々作『不死鳥の騎士団』から登板の
デイヴィッド・イェーツ、脚本はその『不死鳥の騎士団』を
除く6作手掛けたスティーヴ・クローブス。
つまり前作『謎のプリンス』から始まっている結末に向けた
流れが、キャストもスタッフも万全の体制で結実することに
なりそうだ。
なお本作の3D上映は、10月17日付で既報の通り、見合わさ
れることになった。

『ジャライノール』“扎賚諾爾”
題名は、中国最北部・内モンゴル自治区満州里にある中国で
5番目に大きい淡水湖ダライ湖(ダライノール)に由来する
地名。そこにはロシア帝国時代の1901年に敷設された東清鉄
道があり、その蒸気機関車の燃料供給用にジャライノール炭
坑は拓かれた。
以来100年を超える歴史を経て、最盛期は構内掘り16カ所、
露天掘り3カ所の採炭場を有する内モンゴルでもトップクラ
スの炭坑となったが、石炭需要の低下と市場経済の導入で経
営が悪化、現在は採炭そのものも見直しが進んでいる。
そのジャライノール炭坑で、採掘された石炭を搬出するのは
何両もの蒸気機関車。多数の蒸気機関車が現役で働いている
姿を観られるこの炭坑は、世界中のSLファンから「最後の
聖地」とも呼ばれる場所になっているそうだ。
しかしその聖地も、コスト面などからトラックやディーゼル
機関車への移行が進められ、今年中にも蒸気機関車の姿は観
られなくなるとも言われている。
そんなジャナイノールが舞台の作品で、物語の主人公は蒸気
機関車の運転で30年を勤め上げた老機関士とその車両に同乗
する若い警手。2人は歳は離れても仕事が終っても一緒に行
動するほどの仲だったが、その老機関士が退職して娘の許に
戻ることを決意する。
そしてその退職の日、老機関士の見送りに来た若い警手は、
そのまま機関士の後を追って離れようとしない。一方、機関
士も警手に帰れと説得はするのだが…蒸気機関車そのものが
終焉の時を迎える中で哀惜を込めた物語が展開される。

脚本と監督はチャオ・イエ。2007年の長編デビュー作『馬烏
甲』が中国国内で受賞している新進監督の第2作で、本作で
は2008年釜山国際映画祭で批評家連盟賞を受賞している。因
に監督の第3作は日本で撮影されているそうだ。
それにしても巨大な窪地のような露天掘りの斜面を走る蒸気
機関車と、その背景にも何両もの白煙を上げる蒸気機関車の
観える風景は、それだけでもSLファンなら涙が出てくるく
らいのものだろう。そんなシーンが何カットも登場する。
なお本作はHDで撮影されているが、画質や色補正の乱れな
ど技術的に気になるところが何点かあった。しかししっとり
した物語と、それに何より蒸気機関車の勇壮な姿が魅力的な
作品だった。



2010年11月07日(日) ソウル・キッチン、PA第2章、ザ・タウン、ベストセラー、イップ・マン、モンガに散る、ワラライフ、死なない子供+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ソウル・キッチン』“Soul Kitchen”
2009年ヴェネチア映画祭で審査員特別賞を受賞した作品。
ハンブルグの港湾倉庫を改造した大衆食堂を舞台に、世間の
波風に振り回される人々の姿を暖かい眼差しで描く。
主人公は、手作りで改造した大衆食堂のオーナー兼シェフ。
ただし出しているのは冷凍のフィッシュフライやフライドポ
テトなどの安直なものばかりで、客も惰性で来ているような
連中ばかりだった。従って経営も思わしくなく、税金も滞納
中。
そんな主人公には長年付き合って来た恋人がいたが、彼女に
上海へ長期赴任する仕事が舞い込む。そして彼にも一緒に来
てくれるよう頼むのだが…。彼は大事な店を放っていくこと
はできず、2人の話し合いは平行線のままだった。
そんな時、主人公の兄が刑務所から仮出所で店を訪れ、仮出
所を継続させるための雇用証明を出してくれという。でも本
気で働く気持ちはないようだ。一方、町で出会った昔の同級
生が、不動産業で何やら怪しい仕事をしているらしい。
さらに主人公は、恋人の家族との会食の席で本格的な料理の
味を憶え、それを作ったシェフに店を任せたいと考えるのだ
が、そのシェフは客を客とも思わない気難しい男で…。そん
な連中が入り混じって、大衆食堂を巡るドタバタの人間ドラ
マが展開する。
物語自体はありそうなエピソードの連続だが、その人間味が
魅力かな。でも日本だと松竹新喜劇辺りにでもありそうなお
話で…。それがまあそんなところで評価されたのなら、それ
も面白いと言えそうだ。

脚本と監督は、2004年の『愛より強く』でベルリン映画祭金
熊賞を受賞、2008年9月紹介『そして、私たちは愛に帰る』
で2007年カンヌ映画祭脚本賞を受賞、そして本作でヴェネチ
アと、36歳にして世界3大映画祭の全てを制したファティ・
アキン。
主演は、監督とは子供の頃からの遊び仲間で本作の共同脚本
も担当しているアダム・ボウスドウコス。彼は実際に10年前
からハンブルグで、監督も常連というギリシャ料理店を経営
しており、この作品は彼自身を描いた作品でもあるようだ。
共演は『ラン・ローラ・ラン』などのモーリッツ・ブライプ
トロイと、『愛より強く』のビロル・ユーネル。また2人の
ヒロイン役には、共に本作がほぼ映画初出演のアンア・ベデ
ルケとフェリーネ・ロッガンが起用されている。
他に、1974年にアンディ・ウォホールの製作で話題になった
ドラキュラ映画『処女の生き血』に主演のウド・キアーが、
キーになる役柄で出演していた。

『パラノーマル・アクティビティ第2章−TOKYO NIGHT−』
2009年12月紹介のアメリカ映画『パラノーマル・アクティビ
ティ』から発想されて日本を舞台に作られた作品。
旅行先のアメリカで交通事故に遭い両足骨折の負傷をした女
性が帰国、弟と2人暮らしの自宅で療養を始める。ところが
それと同時に彼女の周囲で異常な現象が起こりだす。そこで
弟が姉の部屋にヴィデオカメラを仕掛けてみると…
オリジナルは元々異常現象の渦中にあった女性の周囲を探る
という設定だったが、本作では姉の過去にはそのような現象
は起きておらず、姉の帰国後に現象が起こり始めるという展
開で、まあそれだけ誰にでも起こり得るというか、そんな作
品になっている。
ただまあこの手の超常現象ものでは、物語の展開には何の制
約もなく何でもありにできるから、そこでどれだけの恐怖感
を観客に与えられるかが勝負の作品とも言える。
その点で言うとオリジナルの作品は、単純なショックシーン
だけでなく、何気ない描写がそのシチュエーションではじわ
じわと背筋が寒くなるような、一種独特の恐怖シーンが演出
されており、それはその手の現象を良く研究した成果とも言
えそうなものだった。
それに対して本作では、その演出自体はオリジナルをよく踏
襲していたもので、それによる恐怖感などは巧みに再現され
ていた。しかし日本版独自の新規な恐怖感のようなものはあ
まり感じることができなくて、良くできたリメイクという感
じになったものだ。
でもまあ本作の価値は、それで充分と言えば充分なものでは
あるが。

出演は、今年4月紹介『BECK』や9月紹介『大奥』などに出
演の中村蒼と、2006年のテレビラマ『逃亡者 おりん』に主
演の青山倫子。オリジナルとは違って、それなりに知られた
俳優を起用しているのも本作の狙いのようだ。
監督は、2007年7月紹介『阿波DANCE』や2005年のテレビラ
マ『富豪刑事』などの長江俊和。因に監督はテレビと映画で
『放送禁止』というフェイクドキュメンタリーのシリーズも
手掛けており、この作品には打って付けだったようだ。
なお、物語の中ではオリジナルとの繋がりにも言及されてお
り、その点で『第2章』という題名は正しいようだ。ただし
アメリカでは“Paranormal Activity 2”という別の作品も
作られていて、それとの繋がりがどうなっているかも気にな
るところだ。


『ザ・タウン』“The Town”
今年の東京国際映画祭でクロージングを飾った作品。
アメリカ・マサチューセッツ州の州都ボストン。その北東部
に位置するチャールズタウンは、アイルランド系の住民が多
く住む地区であると同時に、全米一多くの銀行強盗と現金輸
送車の襲撃事件が起きる場所とも言われているそうだ。
そんなチャールズタウンの一角にある銀行が朝の始業時間の
直前に襲われる。それは鮮やかな手口で、行員に負傷者も出
ないはずだったが、ちょっとした手違いから血気に逸った犯
人の1人が副支店長を殴打、一味は女性支店長を拉致して逃
亡することになる。
しかし警察の追跡も蒔き、女性支店長も無事開放して犯行は
成功裏に終結するのだが、その支店長から奪った運転免許証
に書かれていた彼女の住所は、犯人たちの住むチャールズタ
ウンの中のものだった。
その状況に一味の1人が支店長に近づき、彼女の思惑などを
探ろうとするのだが、それが思い掛けない結果を招くことに
なる。そして事件の捜査に動き出したFBIの捜査官も町に
現れて、事態は緊迫の度を高めて行くが…

脚本・監督・主演はベン・アフレック。1997年『グッド・ウ
ィル・ハンティング』でマット・デイモンと共にオスカー脚
本賞に輝いたアフレックは、2007年“Gone Baby Gone”で監
督デビューしているが、その第2作で正に大向うを唸らせる
作品を作り上げた。
なお脚本は、チャック・ホーガンの原作による“Prince of
Thieves”から、アフレックと、同じく俳優出身のピーター
・クレイグ、“Gone Baby Gone”にも協力したアーロン・ス
トッカードが共同で仕上げている。
共演は、2007年3月紹介『プレステージ』や、2009年3月紹
介『それでも恋するバルセロナ』などのレベッカ・ホール。
今年2月紹介『ハート・ロッカー』でオスカー候補になった
ジェレミー・レンナー。
他に、2000年の『スペース・カウボーイ』がデビュー作とい
うジョン・ハム。2005年9月紹介『旅するジーンズと16歳の
夏』などのブレイク・ライブリーらが脇を固めている。
先月紹介した『ソーシャル・ネットワーク』が東京国際映画
祭のオープニング、本作はクロージングを飾った作品で、こ
の2作が揃って来年のオスカー候補になったら、それは素晴
らしいことだ。

『ベストセラー』“베스트셀러”
今年8月に行われた第14回富川(プチョン)国際ファンタス
ティック映画祭で「アジア映画賞」を受賞した韓国製ホラー
映画。
女性のベストセラー作家が盗作問題を起こす。それから2年
後、再起を賭けた新作執筆のため、作家はとある村に建つ古
い洋館に籠もって仕事を始めるのだが、そこで同行している
幼女の様子がおかしくなる。そしてその幼女が「お姉ちゃん
から聞いた」として語り始めた事件は…
過去に起きた事件の被害者の霊が作家に取り憑いてその事件
を語らせるという展開は先にもあると思うが、それを盗作問
題に絡ませるという辺りが新規かな。さらに他にもいろいろ
と仕掛けがあってそれなりに楽しめた。
ただし、後半に登場するアクションはちょっとくどい感じが
して、犯人たちとのごちゃごちゃした遣り取りは、先が読め
てしまった辺りでもう少し端折っても良いかなとも思えた。
でもまあ2重3重の仕掛けは楽しめたが。
それと、被害者なら知っているはずの出来事に隠されている
部分があるのはちょっとアンフェアかな…。特に真犯人の部
分は先が読めてしまうから見過ごされ易いが、被害者がそれ
を伝えなかった理由付けがあっても良いと感じた。

主演は、2009年『TUNAMI』などのオム・ジョンファ。
本作では7kg減量して傷心の作家役に挑んでいるそうだ。他
に、今年7月紹介『シークレット』などに出演のリュ・スン
リョン、昨年5月紹介『セブンデイズ』などのチェ・ムソン
らが脇を固めている。
脚本・監督は、助監督出身で本作が長編デビュー作というイ
・ジョンホ。すでに短編映画で映画祭受賞歴などもあるよう
だが、助監督としても数多くの作品に関っているようで、本
作でも落ち着いた演出ぶりを見せている。
なお本作に関しては、香港映画『インファナル・アフェア』
をリメイクして2007年アカデミー賞で作品賞を含む4部門を
受賞した『ディパーテッド』などを仕掛けた在米の韓国人プ
ロデューサー=ロイ・リーによるハリウッドリメイクの計画
が進行しているそうだ。
映画に登場する村には、10月紹介『黒く濁る村』のような雰
囲気もあって、それは日本も含めた極東アジアに特有のもの
のようにも感じるところだが、それがハリウッドリメイクで
どのように描かれるかも興味の湧くところだ。

『イップ・マン/葉問』“葉問2”
故ブルース・リーが唯一正式に教え受けた師匠とされるカン
フー達人の生涯を、香港映画界におけるリーの正統な後継者
とも言われる『セブンソード』などのドニー・イェンの主演
で描いた作品。
中華人民共和国が建国された1949年、中国武術・詠春拳の達
人イップは中国広東省佛山から家族を連れて香港に移住して
くる。そしてそこでの貧しい暮らしの中、イップは武館を開
くのだが…、万事に控え目の彼の許にはなかなか弟子になる
者は現れない。
しかし1人の若者が無謀にもイップに挑戦し、その闘いで彼
の人柄に触れた若者の仲間達が徐々に集まり始める。ところ
がその動きは香港武術界の目にも留まることになる。そのた
めイップは香港武術界を仕切る洪拳の師匠ホンとの熾烈な戦
い余儀なくされる。
一方、その時代の香港には支配者として君臨しようと意図す
るイギリス人たちの悪徳の陰謀が渦巻いていた。そしてその
手先となって香港武術界を支配しようとする連中も存在して
いた。そんな中でイップは清く正しい武術の伝承をしようと
するが…

イェン以外の出演者では、ホン師匠役に扮するサモ・ハン・
キンポー。ブルース・リーと共演もしている大ベテランが、
本作ではアクション監督も兼ねて登場している。特にイップ
とホンの闘いを描いたアクションシーンは、いろいろトリッ
キーで面白かった。
また、香港映画界の若手のホープと言われる2007年3月紹介
『女帝/エンペラー』などに出演のホァン・シャオミンが、
イップの1番弟子の役で出演している。
なお、本作は今年の東京国際映画祭でも上映されていたが、
実は本作の前に2008年製作の『イップ・マン/序章』という
作品があって、その作品は映画祭では上映されたが、諸般の
事情で一般公開は待機中となっている。
その事情については本作巻頭でも多少理解できるものだが、
まあいろいろ微妙ではありそうだ。ただし、本作の日本での
観客動員が5000人を超えたら『序章』の日本公開も可能にな
るとのことで、これは是非とも本作のヒットを祈願したいと
思うものだ。因に本作の香港での興行成績は、本年度香港映
画の第1位を記録しているそうだ。

『モンガに散る』“艋舺”
今年の東京国際映画祭「アジアの風」部門・台湾映画特集で
オープニングを飾った作品。
1986年、台北の中心街モンガ。その場所は商業の中心地でも
ありながら、その裏側では極道の組織が縄張り争いと抗争を
繰り広げる闇社会が権力を振るっていた。そんな中で主人公
は友情と義兄弟の契りを信じて仲間と共に生きてきたが。
モンガは日本統治時代以降は「萬華」と表記されているよう
だが、元々は本作原題の漢字が当てられ、それは台湾先住民
族の言葉で「小舟」と言う意味を表わしているのだそうだ。
そんな小舟に乗ってしまった男たちの姿が描かれる。
主人公は幼い頃からの苛められっ子だったが、転校した高校
での偶然の出来事からモンガの一親分の息子と知り合い、そ
の仲間となることで苛められっ子から脱出する。そしてその
仲間たちとは義兄弟に契りを結ぶのだが。
やがてモンガの闇社会にも属するようになった主人公は、外
部からモンガ狙う組織やその手先になっている連中との抗争
にも巻き込まれて行くことになる。そしてその先にあるもの
は…。友情とは、義兄弟の契りとは、男たちの生き様が問わ
れて行く。
基本的に極道を扱った作品は、日本映画でもアメリカ映画で
も好みではないが、この作品の場合は特に極道を賛美してい
るものでもないし、むしろその非情さのようなものが描かれ
ているから、まあ何とか理解は可能な作品だった。
それにまあ、この手の映画には有り勝ちなアクションシーン
での荒唐無稽さなどもなく、特に抗争シーンのリアルさには
それなりに納得のできる作品だったと言えそうだ。因にアク
ションシーンの撮影には韓国から専門のアクション監督が招
かれたそうだ。

脚本と監督は、2008年8月紹介『ビバ!監督人生!!』のニウ
・チェンザー。本作が第2作となるが、元々2004年頃から俳
優のジェイ・チョウと共に構想していた作品とのことで、当
時は実現できなかった監督には念願の作品だったようだ。
出演は、イーサン・ルアン、マーク・チャオ、リディアン・
ヴォーン、クー・ジャーヤンらの若手に加えて、2009年9月
紹介『海角七号』で台湾のアカデミー賞金馬奨の最優秀助演
賞を受賞したマー・ルーロンらが脇を固めている。
また製作を、『海角七号』も手掛けた元人気女優のリー・リ
エが担当しており、本作ではモンガでの現地撮影を実現する
際の台北市長や萬華区長らとの交渉に、元人気女優の底力を
発揮したそうだ。

『ワラライフ!!』
題名は、英語のWhat a Wonderful Life !!だそうで、そんな
言葉をふと口にしたくなるような、人生のちょっとした幸せ
を描いた作品。2009年2月に『ニセ札』という作品を紹介し
た俳優・構成作家の木村祐一による監督第2作。
物語の中心はお笑いコンビ「しずる」の村上純が扮する修一
と、香椎由宇が扮するまりの若いカップル。2人は一緒に暮
らす準備のための部屋捜しをしているが、なかなか意見が纏
まらない。
そんな2人の行動に併せて、修一の子供時代からの家族や学
校、友人たちとのいろいろなエピソードが綴られて行く。そ
れは正にエピソード集というかスケッチ集だが、それが後半
では多少大きなエピソードもあるといった具合の構成だ。
脚本は木村と、前作にも参加した脚本家・監督の井土紀州。
1963年生まれの木村と68年生まれの井土では、エピソードは
木村の体験が中心のようだが、修一とまりのカップルが現代
とすると、ちょっと時代がちぐはぐな感じの部分はあった。
でもまあどこかにはありそうな、そんな世間の片隅の出来事
が綴られたもので、それは世代年代を超えて理解されるもの
なのかも知れない。最近のノスタルジーブームの一翼にはな
るのかな。

主演の村上純、香椎由宇の他には、今年3月に紹介の『さん
かく』に主演していた田畑智子と高岡蒼甫、また主人公の両
親を鈴木杏樹と吉川晃司が演じている。他にYOU、板尾創
路、大谷直子、田中要次らが脇を固めている。
主人公の父親の職業が靴職人というのは関西だとちょっと微
妙かな。特に物語上で意味がある訳でもないし、それを脚本
家が敢えて選んでいることが気になった。でも今はもうそん
なことを気にする人もいないのかな。
それから、プレス資料の題名に添えられた英文のスペルの一
部が、oかaかちょっと分かり難いのも気になった。筆記体の
oは普通上で刎ねると思うがここでは下で刎ねており、一見a
にも見えてしまったものだ。


『死なない子供・荒川修作』
岐阜県大垣市にある奇妙なテーマパーク「養老天命反転地」
の作者としても知られる芸術家・荒川修作氏の本人と、彼が
東京の三鷹に建築した「天命反転住宅」について描かれたド
キュメンタリー。
映画は、講演会と思われる場所での荒川氏の発言と、住宅を
訪れた宇宙物理学者・佐治晴夫氏の発言を中心に、住宅の住
人たちや見学者へのインタヴューなどで構成され、さらに住
宅の住人でもある山岡信貴監督自身の考えが俳優・浅野忠信
のナレーションで挿入されている。
その中での荒川氏の発言は、かなり攻撃的で既知の科学体系
への挑戦のようにも聞こえるが、発言自体はさほど目新しい
ものでもなく、特にSFファンであるならば、この程度のこ
とは了解した上でないとSFも理解できないだろうと考える
程度のものだ。
ただし映画の中でも住人の1人が言っているように、荒川氏
の発言自体はかなり言葉足らずで解り難いことも事実で、そ
こに本作では、住宅に対する佐治氏の解説を入れることで解
り易くしているものだ。
とは言うものの、ここでの佐治氏の解説や監督の考えなどが
正しいかどうかは、荒川氏自身の確認が必要なものだが、今
年5月に死去した荒川氏は本作の完成を観ていないのだそう
で、その辺がこの作品の弱点にもなっている。実際にはこれ
らの発言に対する荒川氏の反論が欲しかったところだ。
しかしまあ、本来芸術は感じるものであって語るものではな
いから、その点で本作は感じればいいのであって、そこにと
やかく言葉を付ける必要もないものだろう。その点で言うと
荒川氏は、何かを語り過ぎているような感じも受けた。
「芸術は爆発だ」と言うのは芸術家・岡本太郎氏の有名な言
葉だが、あれも芸術=創造は爆発=破壊と同じだと説いたも
ので、本作の中で何度も出てくる対立して見える2つの事象
を同一視するという考えに共通する。荒川氏の論点も結局そ
こに行き着くものだ。
なお映画の中では、「養老天命反転地」と「天命反転住宅」
についてもかなり丁寧に紹介されているので、それを観るだ
けでも楽しめる作品だ。
        *         *
 今回は映画紹介が多かったので製作ニュースは一言だけ。
 今年5月9日付でも紹介した“Dark Shadows”の撮影が来
春開始されることになり、主演はジョニー・デップ、監督は
ティム・バートンで行われることが正式に発表された。なお
本作でデップは、グラハム・キングらと共にプロデューサー
も務めることになっている。



2010年11月02日(火) 第23回東京国際映画祭<コンペティション以外>

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※今回は、第23回東京国際映画祭で上映されたコンペティ※
※ション部門以外の作品について紹介します。なお紹介文※
※は短文にし、物語に関しては極力触れないようにしまし※
※たが、読まれる方はご注意ください。        ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
《アジアの風》
『4枚目の似顔絵』“第四張畫”(台湾映画)
今年は映画祭の企画として台湾映画特集が組まれ、いろいろ
問題も生じたようだが、本作はその内の1本。少年の描く似
顔絵を通して、少年の成長とその周囲の状況が描かれる。な
お、周囲の状況にはいろいろ面白い事象も紹介されていて、
なかなか楽しめる作品だった。

『妖術』“요술”(韓国映画)
題名に引かれて上映には知った顔も集まった作品だったが、
内容は全くその気のない作品で、上映後は皆でポカンとして
しまった。お話は音楽学校を舞台にした青春もの、題名はそ
の中で作曲される曲の題名でもある。因に画面には漢字の題
名も出たものだが、韓国ではニュアンスが違うようだ。

『ズーム・ハンティング』“獵豔”(台湾映画)
推理小説作家の姉を持つ女性写真家が、ふと撮影した写真に
は向かいのマンションの一室で繰り広げられる男女の情事が
写っていた。その写真を観た姉は、作品の題材に取り入れた
いと妹に監視を指示するが…。入り組んだ構成のミステリー
だが、物語の展開には多少疑問を感じた。

『赤とんぼ』“Red Doragonflies”(シンガポール映画)
昔、同級生の少年2人と共に廃線を辿る冒険に出た少女が、
大人になってその思い出を辿り直す。監督には実際に廃線を
辿る冒険の思い出があるらしく後半にはその記録映像も挿入
されていた。でも全体に何が言いたいのか良く判らない作品
で、観終って混乱だけが残った感じだ。

『風に吹かれて−キャメラマン李屏賓の肖像』
             “乘著光影旅行”(台湾映画)
台湾監督の名作や、海外の作品でも活躍する撮影監督の姿を
追ったドキュメンタリー。挿入される作品には観ているもの
も多かったし、驚異的な画面がどのように撮影されたかを知
ることができたのも嬉しい作品だった。また李の人柄の良さ
や、最後の家族を思うエピソードには感動した。

『ギャランツ〜シニアドラゴン竜虎激闘』“打擂台”
                     (香港映画)
ブルース・リーの生誕70周年記念で上映された作品。ブルー
ス・リャンら往年のカンフースターがシニアドラゴン役を演
じて、かなりの激闘を演じるのはさすがという作品になって
いる。ただし何処にリーとの関りがあるのかは良く判らない
作品で、物語は普通にカンフー達人の話だった。

『タイガー・ファクトリー』“虎厰”
             (マレーシア・日本合作映画)
早稲田大学安藤絋平研究室とマレーシアのプロデューサーの
共同製作による作品。マレーシアから日本に密航を企てる少
女の顛末が描かれる。ただ登場人物の問題意識の無さが気に
なった作品で、こんな映画を作って良いのかとさえ思った。
アジアの風部門スペシャルメンションに選ばれている。

『愛に関するすべてのこと』“得�累嵌咫鼻聞畊善撚茵�
同性愛、異性愛、それに両性愛が入り混じるラヴコメディ。
2人は昔付き合っていた同性の恋人同士。しかし別れて12年
後、再会したのは妊婦向けのカウンセリングコース。2人は
想定外の妊娠をし、出産か中絶か迷っていたが…。何ともは
やの内容だが、映画は面白い作品に仕上がっていた。

『コスモス』“Kosmos”(トルコ映画)
今回の上映作品では数少ないSFジャンルに分類されていた
作品。荒野を超えてその男はやってくる。その男には奇跡を
起こす力があって、溺れた少年が助かったり、老人の長年の
持病が直ったりするが…。正直に言って本作がSFかどうか
は悩む作品だが、エンディングはSFになっていた。

『ラーヴァン』“Raavan”(インド映画)
「ラーマーヤナ」のエピソードを下敷きに描かれたアクショ
ン作品。その町を支配しているのはビーラーと名告る男。そ
こには警察の入り込む余地はなかったが、1人の警視がそれ
に挑み、その妻がビーラーに誘拐される。歌に踊りにのイン
ド映画だが、結末にはちょっと驚かされた。

『ドッグ・スウェット』“Aragh sagee”(イラン映画)
法律が女性の歌手を禁じている中でレコーディングを続ける
女性ポップシンガー。秘密の酒盛りを続ける若者たちと密造
酒業者。イスラム原理主義国家イランの首都テヘランに生き
る若者たちの実態が、密かに撮影されたドキュメンタリー・
タッチの映像で再現される。

『ハイソ』“Hi-So”(タイ映画)
アメリカ帰りで映画に主演していた主人公の許をアメリカ時
代の恋人が訪ねてくる。しかし彼女は現場に馴染めず帰国。
そして映画が完成した頃、彼は製作会社の女性スタッフと付
き合っていた。彼の家は裕福だったが、その住居は津波の被
害を受けている。何が言いたいのか判らない作品の1本。

『燃え上がる木の記憶』“Kumbukumbu za mti uunguao”
   (タンザニア・オランダ・シンガポール・マレーシア
                      合作映画)
戦火の傷跡も残る町を舞台に、母親の墓を探す男と死者と会
話できると自称する少女、自分で家を建てて食堂の女性に結
婚を申し込んでいる男などの物語が展開される。この作品も
実は意味が良く判らなかった。ただ、背景の風景などにはい
ろいろ気になるところも多かったのだが…

『海の道』“Halaw”(フィリピン映画)
フィリピンの南部からボルネオ島のサバ州(マレーシア)に
密航を企てる人々を描いた作品。上記の“虎廠”と同じく密
航を描いた作品だが、どちらにも罪悪感とか問題意識が皆無
なのが気になった。それにこの作品では、途中で意味もない
強姦のエピソードが登場して、正直僕は耐えられなかった。

『ホット・サマー・デイズ』“全城熱戀熱辣辣”
           (アメリカ・香港・中国合作映画)
地球温暖化が進んで、世界各地で40度を超える猛暑が到来す
るようになった時代を背景にした作品。そんな背景の中で、
ジャッキー・チュン、ニコラス・ツェー、ビビアン・スーら
中国語圏の人気スターが届かない思いの恋愛劇を展開する。
中にはちょっとした仕掛けもあって面白い作品だった。

『カメリア』“카멜리아”(韓国映画)
韓国の釜山国際映画祭が製作するオムニバス映画で、例年各
国の監督が参加するが、今年はタイのウィシット・サーサナ
ティアンと日本の行定勲、それに韓国のチャン・ジュヌァン
監督によってそれぞれ釜山の過去・現在・未来を舞台にした
作品が作られた。各国映画を反映した作品は面白かったが、
それぞれ45分は多少長いかな、という感じもした。

《日本映画・ある視点》
『歓待』
日本映画・ある視点部門で作品賞を受賞した作品。下町の印
刷工場を舞台に、突然現れた男がいろいろ家族の秘密を暴き
出して混乱を生じさせて行く。受賞した作品だが、物語自体
がまだ良く整理されていない感じで、前半の緊張感は良かっ
たが、後半の混乱ぶりが僕には納得できなかった。

《WRLD CINEMA》
『エッセンシャル・キリング』“Essential Killimg”
  (ポーランド・ノルウェー・アイルランド・ハンガリー
                      合作映画)
中東の砂漠でのテロ活動で逮捕された男が、ヨーロッパの秘
密基地に送られる。そして偶然の事故で脱走に成功するが、
そこは故郷とは異なる雪に覆われた世界だった。そんな異環
境の中で男は生き延びるため最大の努力を繰り広げる。ヴィ
ンセント・ギャロ主演による究極のサヴァイヴァル劇。

『ゴースト・ライター』“The Ghost”
        (フランス・ドイツ・イギリス合作映画)
ロマン・ポランスキー監督が今年のベルリン映画祭で監督賞
を受賞した作品。ロバート・ハリスの原作から、前首相の自
伝のゴーストライターになった男が巻き込まれる世界的陰謀
が描かれる。主演はユアン・マクレガーで、これは文句なし
のサスペンスドラマが展開されていた。

『ハンズ・アップ』“Les mains en l'air”(フランス映画)
舞台は2009年のパリ。チェチェン紛争を逃れて不法入国した
一家の少女と、彼女の国外退去を阻止するため立ち上がった
級友たちの活躍を描く。ただし物語は、少女と級友の少年が
老後になった後の思い出話になっており、その背景は2067年
という設定。それがちょっと不思議な感じもした作品だ。

『ジャック、舟に乗る』“Jack Gose Boating”
                   (アメリカ映画)
オスカー受賞俳優のフィリップ・セイモア・ホフマンが初監
督・主演した作品で、中年を過ぎた男性が女性の恋心を捕ら
えようとして必死に頑張る姿が描かれる。演技も完璧だし、
演出も問題ない、でも日本公開はなかなか難しいようで、こ
ういう作品が観られるのも映画祭の魅力だ。

『神々と男たち』“Des hommes et des dieux”
                   (フランス映画)
1996年に起きた実際の事件に基づく作品。舞台はアルジェリ
アの山岳地帯に設けられたキリスト教の修道院。そこは医師
もいて近隣の村人たちの拠所だった。しかしそこにイスラム
教徒のゲリラが現れる。修道僧たちは教会を捨て帰国するべ
きなのか、彼らの信仰が試される。重厚で敬虔な作品。

『素数たちの孤独』“La solitudine dei numeri primi”
                   (イタリア映画)
ちょっと異常な双子の妹を持つ少年と、両親と共にスキー場
で滑走を楽しむ少女。そんな2人がそれぞれにトラウマを持
ちながら成長する。そして少年は優秀な研究者となり、少女
は写真家となって行くが…。時間を超えた濃密な物語が展開
して行く作品だった。

『聖トニの誘惑』“Püha Tõnu kiusamine”
  (エストニア・フィンランド・スウェーデン合作映画)
父親の葬儀に参列したビジネスマンの男が、帰路で犬を轢い
てしまったことから不条理な世界に放り込まれる。物語は、
初めに海に飛び込む乗用車の映像で始まり、全体的にそのよ
うなエピソードが連続する。それが何かの意味を持つのか判
断はできないが、不思議な感覚の作品だった。

『心の棘』“L'épine dans le coeur”(フランス映画)
2001年11月4日付紹介の『ヒューマンネイチュア』で同年の
東京国際映画祭コンペティションに参加したミシェル・ゴン
ドリー監督が、教師を引退した82歳の叔母の人生を検証した
ドキュメンタリー。最初は叔母と教え子の姿を追っていたカ
メラは、やがて家族の問題へとその視線を移して行く。

『ウィンターズ・ボーン』“Winter's Bone”
                   (アメリカ映画)
保釈中の父親が姿を晦ませ、保釈金代行業者から担保の家の
立ち退きが迫られる。しかし主人公の少女には幼い弟妹と体
の弱い母親がいて要求には応じられない。そこで少女は父親
の行方を追い始めるが、そこには闇の組織が立ちはだかって
いた。サンダンス映画祭のグランプリ受賞作で、今年の映画
祭では一番の見応えのある作品の1本だった。

《natural TIFF》
『ヴィック・ムニーズ/ごみアートの奇跡』“Waste Land”
            (ブラジル・イギリス合作映画)
題名からは廃棄物から芸術を生み出す変態芸術家の話かと思
っていたら、全く違う感動的な作品だった。リオ郊外の世界
最大とも言われるゴミ集積場を舞台にしたドキュメンタリー
だが、そこでは見事な人間ドラマが展開されていた。

『四つのいのち』“Le quattro volte”
         (イタリア・ドイツ・スイス合作映画)
南イタリアの山羊飼いの老人を始め4つの命の物語が展開さ
れる。昨年上映された『ボーダー』と同様に劇中の台詞はほ
とんどなく、静けさの中でドラマが進行して行く。それなり
の面白さはあるドラマだが…本作は日本公開されるので、そ
の折また紹介したい。

『ハッピー・ポエット』“The Happy Poet”(アメリカ映画)
大学で文学を専攻の男が公園でベジタリアンの屋台を開業。
見た目は不味そうなそのサンドウィッチは最初こそ敬遠され
たが、徐々に常連客も付いてくる。しかしいろいろな問題も
発生して…登場するタマゴ抜きタマゴサンドは食べてみたく
なった。

『闇と光の門』“Two Gates of Sleep”(アメリカ映画)
文明から隔絶した山奥に住む兄弟が、死去した母親の遺体を
山に葬ろうと棺を引いて進み始める。なぜそうするのかの説
明も明確でなく、よく意味の判らない作品だったが、大自然
の風景は見事に美しく、それが堪能できる作品ではあった。

《特別上映》
『BUNRAKU』“Bunraku”(アメリカ映画)
GACKTとジョッシュ・ハートネットの共演によるアメコミ風
アクション映画。人類が絶滅の危機を経て銃器を廃止した後
の世界を背景にした物語で、アクションは主に刀剣によって
行われる。2005年『シン・シティ』ほどアートではないが、
その分ギミックにも溢れた作品になっていた。
        *         *
 作品の紹介は以上にして、以下にはその講評を書かせても
らう。
 今年の映画祭では、1週間前の事前試写から会期中まで、
映画祭関連の作品は実数で45本観ることができた。まあ1日
5本観る日が何日か続くと、何を観たかも判らなくなるとこ
ろもあるが、上記の紹介は出来るだけその日の内にメモは残
すようにして纏めたものだ。
 それで45本観ての全体の印象は、何というか今年は監督の
思い入れが強く感じられる作品が多くて、それはまあ選ぶ人
の好みでもあったのだろうが、その辺はちょっと僕の感覚に
合わない作品が多かったようにも感じた。
 それは作品の多くがHDなどのヴィデオ撮影によるもので
あったことにも繋がると思うが、撮影が手軽になった分、プ
ロデューサーや出資者といった第三者の目を介さない作品が
増えている感じで、それが監督の独り善がりのような作品を
増加させることにも繋がっていると思われる。
 ただし、そのような作品が海外の映画祭などで受賞してい
ることも事実で、それが今の映画の趨勢と言う感じでもあり
そうだ。そんなことが判るのも、映画祭の存在理由ではある
のだろう。しかし、監督の思い入れだけでそれを観客が共有
できない作品に、映画興行としての価値があるのかどうか。
僕自身は悩むところでもあった。
 そんな中で、今回紹介した作品では、『ジャック、舟に乗
る』や『ハンズ・アップ』、『神々と男たち』、『ゴースト
・ライター』、『ウインターズ・ボーン』などの欧米の作品
はさすがに映画の存在価値を示してくれるものだったし、そ
の言いたいことも観客として共有できる作品になっていた。
これらの中には日本公開されるものもあると思うが、それは
観て損のない作品だし、公開されない作品には映画祭で観ら
れたことの価値を見出したいところだ。
 その他、『ヴィック・ムニーズ』と『風に吹かれて』には
今回最高の感動を得させてもらえたし、日本での公開がどう
なるか判らない『BUNRAKU』を観る機会があったのも映画祭
の価値として認めたいところだ。
 鑑賞した作品の中には、途中で耐えられなくなった作品も
あるが、映画祭でしか観られないであろう秀作もあったし、
来年もこのような作品に出会えることを期待したいものだ。
 なお、コンペティション以外の受賞作には、
natural TIFF部門からは、
TOYOTA Earth Grand Prix『水の惑星』
  同 審査員特別賞『断崖のふたり』
アジアの風部門からは、
最優秀アジア映画賞『虹』
が選ばれ、他は上記した作品が選ばれたが、スケジュールの
関係でこれらの作品を見逃したのは悔やまれたところだ。



2010年11月01日(月) 第23回東京国際映画祭<コンペティション部門>

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※今回は、第23回東京国際映画祭のコンペティション部門※
※に出品された残り4本の作品と、その結果について紹介※
※します。なお文中物語に関る部分は伏せ字にしておきま※
※すので、読まれる方は左クリックドラッグで反転してく※
※ださい。                     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ビューティフル・ボーイ』“Beautiful Boy”(アメリカ
映画)
息子の通っている大学で乱射事件が発生。その犯人は…我が
子だった。そんな子供を育てた親なら、一度は考える究極の
状況に陥った夫婦の物語。
その夫婦はすでに結婚生活に行き詰まり感じていた。母親で
もある妻は、大学の寮に入っている息子の携帯に何度も電話
しているが、いつも留守電のままだった。しかしその留守電
に夏休みの家族旅行の相談を入れた日、突然息子から電話が
掛かってくる。
そこにはちょうど父親である夫もいて、3人の弾まない会話
の末に旅行の計画は妻に任されるが、その会話自体にはさほ
ど不審な点はなさそうだった。ところがその翌日、大学で乱
射事件が発生。被害者の氏名もなかなか発表されず、不安の
募る中に警官がやってくる。
僕も2人の子供が大学の近くに間借りして家にいなかった頃
には、その方面で事故や事件の情報があると不安が募ったも
のだ。そんな時に願うのは、もちろん事件に巻き込まれてい
ないことだが、さらにその加害者には絶対にならないで欲し
いと考えることもあった。
そんな親にとってこの作品は、正に究極の事態が描かれてい
る。そこにはもちろん本作の舞台であるアメリカと日本の違
いもあるかも知れないが、事件とは別のところに描かれてい
る人間の行動には共通する部分も多いものだ。

出演は、2008年2月に紹介した『ジェーン・オースティンの
読書会』などのマリア・ベロと、昨年1月紹介『フロスト×
ニクソン』などのマイクル・シーン。それに2002年12月紹介
『ケミカル51』などのミート・ローフがちょっと儲け役で出
ていた。
監督のショーン・ウーは、学生時代に撮った短編が2004年の
サンダンス映画祭で喝采を浴びたとのことで、本作はその長
編第1作。2007年にヴァージニア工科大学で起きた事件に想
を得た作品とのことだ。

『フラミンゴNo.13』“فلامینگو شماره 13”(イラン映画)
イランの山岳地にある流刑の村を舞台に、そこでの流刑人た
ちの生活が描かれる。
物語は、刑務官の男が流刑人のチェックのため村を訪れると
ころから始まる。そして1人1人呼び出して名簿に拇印を捺
させることで、一通りの人物紹介がされる。
その物語の中心になるのは、未亡人の女性と、違法にフラミ
ンゴを撃ったことで流刑に処された狩人の男。それに未亡人
に一方的に恋心を募らせている粗野な男。他には、村長や語
り部でもある詩人や、ちょっと頭の弱いらしい若者などが登
場する。
そして、粗野な男のしつこさに手を焼いた未亡人が、狩人を
新たな配偶者に決めたことから物語は動き始める。それでも
諦めない粗野な男と、フラミンゴにとり憑かれている狩人の
男。やがて男たちの行動が新たな展開を生む。
そんな物語が、四季を通じたイラン山岳地帯の風景と共に綴
られて行く。そこには、民俗楽器で歌う流しの歌手や、詩人
が詩作を朗読する形式のナレーション、さらにはちょっとフ
ァンタスティックなシーンなども挿入されている。
ただあまりにも淡々とした物語の展開は、1日に4本も5本
も観ている映画祭の会場では多少体力的に厳しい面もあった
ようで、実は、映画の後半にはタイトル通り脚に13の刻印の
リングを付けたフラミンゴも登場していたが、見逃した人も
多かったようだ。

監督のハミド・レザ・アリリアンは長編作品は初めてのよう
だが、1980年生まれで、大学で映画製作コースに学び、すで
に短編や3Dアニメーションの実績もあるとのこと、本作も
落ち着いた演出ぶりに感じた。
なお脚本は、主人公の狩人を演じたラスール・ユーナンが書
いたもので、演出も二人三脚だった可能性はありそうだ。

『ブッダ・マウンテン』“觀音山”(中国映画)
成都の大地震を背景にした2009年が舞台の作品。
成都で奔放な暮らしをしている男2人女1人の若者たちのグ
ループと、元は京劇のスターだったらしい年上の女性の4人
を中心に今の中国の状況が描かれる。
女性はすでに舞台は引退しているが、リハーサルに立ち寄っ
てはいろいろ注文をつけて若い俳優からは煙たがられている
ようだ。そんな女性がアパートの部屋の一部を貸間にし、そ
こに男女3人が引っ越してくるが、口煩さは変わらない。
その3人組は、奔放ではあってもそれなりに真面目な暮らし
振りをしていたのだが、女が引き起こしたあるトラブルから
大金が必要になる。一方、彼らに部屋を貸した女性にも何か
特別な事情がありそうだった。
そんな4人が徐々に心を通わせて行き、やがて一つのことに
協力するようにまでなるのだが…。そんな若者たちの成長し
て行く姿が、未だに復旧の手が届き切っていない成都と、そ
の周辺の山々の大自然の風景などと共に描かれる。

出演は、若手人気スターのチェン・ボーリン、ファン・ビン
ビンと、2007年8月紹介『呉清源』や1998年『レッド・ヴァ
イオリン』などのベテラン女優シルヴィア・チャン。特に、
女優2人の華やかさが魅力的だった。
監督のリー・ユーは1974年生まれ、大学卒業後に中国中央電
視台に入社、制作したドキュメンタリーでは国内外で多数受
賞しているとのことだ。また、長編劇映画の監督もすでに4
本目だそうで、本作も多少青臭いところはあるが、全体は落
ち着いていた感じだ。
なお上映後に行われたQ&Aの情報によると、結末について
シナリオではもっと明確だったがチャンの反対で修正された
とのこと。ただ監督も譲らず、現行の曖昧な表現になってい
るのだそうだ。

『鋼のピアノ』“钢的琴”(中国映画)
妻には金持ちの男の許に逃げられた男性が、ピアノの好きな
娘を自分の許に置きたいという一念から、廃業した製鋼所の
元従業員らの協力を得て、ゼロからピアノ製作に取り組んで
行く姿を描く。
主人公は元国有工場の職工だったらしいが、工場は閉鎖され
彼自身は葬列などで演奏する楽団のアコーデオン弾きで暮ら
している。しかし生活は厳しく、ピアノの好きな娘に楽器を
買ってやることなど夢のまた夢だ。
そんな時、別の男の許に走った妻が突然現れ、離婚と娘の養
育権を要求する。そして娘は、ピアノが弾けるならどちらに
行ってもいいようだ。これに対して主人公は学校からピアノ
を盗み出そうとしたり、必死の金策を試みるがいずれも失敗
してしまう。
さらに考えあぐねた主人公は、図書館で見つけたロシア語の
ピアノ製作の教本を基にゼロから楽器を作ろうと思い付き、
ピアノを盗もうとしたときの仲間などに声を掛ける。やがて
集まった中間たちは、それぞれの特技を活かしてピアノ製作
を始めるのだが…
元々の中国語でピアノは鋼琴、さらにそれを鋼で作るという
のは、多少駄じゃれもあるのかな。ただし、鋼というと日本
語では焼き入れされた鋼鉄の意味だが、中国では鉄製品の全
般を指すそうで、その辺のニュアンスがちょっと違ったよう
だ。

なお、上映後に行われたQ&Aの情報によると、ピアノ製作
は映画の進行の通り実際に行われたとのこと。その製作には
専門家の指導も受けたが、残念ながら完成品の音色はあまり
良くなかったそうで、演奏シーンの音色には細工がされてい
るとのことだった。

 以上でコンペティション部門に出品された全15作品の紹介
を終了。その結果は、
東京サクラグランプリ『僕の心の中の文法』
審査員特別賞『一枚のハガキ』
最優秀監督賞ジル・パケ=ブレネール(サラの鍵)
最優秀女優賞ファン・ビンビン(ブッダ・マウンテン)
最優秀男優賞ワン・チエンユエン(鋼のピアノ)
最優秀芸術貢献賞『ブッダ・マウンテン』
観客賞『サラの鍵』
などとなった。
 グランプリの作品に関しては、僕自身の中ではいろいろ考
えるところがあって、これが一番と思える作品ではなかった
が、同じニル・ベグルマン監督が前作でグランプリを取った
時も同様の感想だったから、それは仕方がないのかも知れな
い。僕の考える映画とはちょっとずれるが、これも映画だと
いうことだ。
 その他は、大体順当という感じの受賞結果だった。


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井口健二