井口健二のOn the Production
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2009年05月31日(日) ターミネーター4、コネクテッド、地下鉄のザジ、ウィッチマウンテン+製作ニュース他

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ターミネーター4』“Terminator Salvation”
1984年にジェームズ・キャメロンの監督によって始められた
シリーズが、『チャーリーズ・エンジェル』などのMcG監督
の手で新たな展開の許、再開された。
新たな展開と言っても、物語は以前のシリーズでは未来から
の戦士たちによって語られてきた「審判の日」が発動された
その後の世界を描いているもので、ファンにとっては「いよ
いよ来たか」という感じもするものだ。
その「審判の日」の発動は前作『T3』でも描かれたものだ
が、実は昨年10月と11月に紹介したテレビシリーズ版では、
その発動は阻止されたことになっている。
しかし今回の脚本は、『T3』も手掛けたジョン・ブランカ
トー&マイクル・フェリスが担当したもので、その舞台は、
2004年の「審判の日」の発動から14年後の2018年となってい
るものだ。
ただし、映画の中ではテレビシリーズにも配慮したのかその
発動の日は21世紀初頭とぼやかされていたようだ。そして、
遂に始まった人類とマシーンズ(スカイネット)との絶望的
な戦いが描かれて行く。
その再開第1作は、シリーズ主人公のジョン・コナーと、以
前の第1作で未来から送り込まれたカイル・リースとの出会
いまでを描くもので、ここではまだコナーは人類のリーダー
ではないし、カイルも10代の若者という時の物語だ。
このコナーを、バットマン=ブルース・ウエインでもあるク
リスチャン・ベイルが演じ、コミックスヒーローと同様に、
自分が真の英雄であるかどうかにも迷っている人間味のある
ヒーロー像を描いている。
一方、カイル役には、新版『スター・トレック』ではチェコ
フ役を演じるアントン・イェルチンが扮して、こちらはまと
もに英語の喋れる正に10代の若者を演じていた。因にイェル
チン本人は1989年ロシア生まれのようだ。
この他、キャメロンの推薦で配役されたというサム・ワーシ
ントン、『ストリート・ファイター/ザ・レジェンド・オブ
・チュン・リー』にも出ていたムーン・ブラッドグッド、僕
が観た中では初めてまともな女性を演じているブライス・ダ
ラス・ハワード。
さらに、いつもの怪演を見せるヘレナ・ボナム・カーター、
オスカーに4回ノミネートのジェーン・アレキサンダー、い
つもの頑固ぶりのマイクル・アイアンサイドなどが脇を固め
ている。
また監督の関係なのか、コモンとジェイダグレイス・ベリー
という2人のミュージシャンが出演しているが、特に日本人
の血を引き現在9歳で作詞も手掛けるというベリーは、この
先のキーにもなりそうな役柄だ。
で、今回は内容に関してはあまり触れなかったが、正直に言
って本作の物語にはシリーズの根幹であったタイムパラドッ
クスもほとんど出てこないし、SF的にはそれほど深いもの
ではない。
しかしそれを補って余りあるのが監督独特のアクションで、
陸から空からほとんど隙間無しのアクションの連続は、それ
だけでお腹一杯と言いたくなるようなもの。それを楽しめれ
ばそれで良いとも言える作品だ。
シリーズはこの先カイルを過去に送り出すまでを描くのか。
また人類の未来に勝利はあるのか。そこにタイムパラドック
スはどう影響するのか。物語はまだまだ続きそうだ。

『コネクテッド』“保持通話”
2004年にラリー・コーエン原案、デヴィッド・R・エリス監
督で映画化されたサスペンス・アクション映画“Cellular”
(セルラー)を、香港を舞台にリメイクした作品。
過去に香港映画界では数多くのハリウッド模倣作品を作って
きたが、本作は史上初めて正式にリメイク権をハリウッドと
契約して製作されたとのことだ。その動きは、ハリウッドで
も受け入れられるようになった香港映画界の自信の現れとも
取られているようだ。
オリジナルの『セルラー』については、2005年1月に作品を
紹介しているが、サスペンスからユーモアまでが1時間35分
の上映時間の中に見事にバランスされた作品だった。その作
品がリメイクでは上映時間が1時間50分になっている。
その長くなった15分には、主人公の家族関係などが描かれた
りもしているが、主にはアクションが強化されている。オリ
ジナルのアクションはそれほど大掛かりなものではなかった
が、リメイクではカーチェイスから銃撃戦、さらに格闘まで
かなりの物量で描かれた。
ただまあ、多少やり過ぎの感じは否めないところで、それを
単純に面白いと思えるかどうかは、観客の心境にも拠りそう
だ。僕自身はオリジナルへの思い入れもあるから、どちらか
と言うと退いてしまった部分もあるが、そんなことを気にし
なければ、その物量を楽しめば良い作品だろう。
出演は、『エレクション』などのルイス・クー、テレビドラ
マ『流星花園』のバービー・スー、『エグザイル/絆』のニ
ック・チョン。そして誘拐犯を、『王妃の紋章』などの若手
俳優リウ・イエが演じている。
監督は、ジャッキー・チェンの製作の許『ジェネックス・コ
ップ』シリーズなどを手掛けてきたベニー・チャン。元々が
アクション得意の監督だが、今回はその持てる力を最大限に
投入したものだ。
携帯電話の充電器を手に入れるエピソードなど、ストーリー
展開はほぼオリジナルの通りだが、それがとにかく拡大され
ている。そこにはハリウッド映画よりタブーが少ない感じの
部分もあって、今後も続くかも知れない香港版リメイク映画
の方向性も示しているようだ。
なお最近の情報では、最初はイギリス映画で、その後にハリ
ウッドでリメイクされた“The Italian Job”(ミニミニ大
作戦)を、インドの映画会社が契約してリメイクする計画も
進んでいるようで、その辺の動きにも注目したいところだ。

『地下鉄のザジ』“Zazie dans le métro”
1957年の『死刑台のエレベーター』で鮮烈な監督デビューを
飾ったルイ・マルが、1960年に第3作として発表した作品。
その作品が、ディジタルリマスターによる完全修復版で帰っ
てきた。
フランスの人気作家レーモン・クノーのベストセラーから、
監督と、監督の第4作『私生活』にも協力するジャン=ポー
ル・ラブノーが共同で脚色。原作は口語表現を駆使した実験
的な作品で映画化不可能とも言われていたようだが、それを
見事にスラップスティックな映画に仕上げている。
物語は、母親と共にパリにやってきた少女ザジが、母親が愛
人との蓬瀬を過ごす間を、叔父の家に預けられる。そのザジ
はパリで地下鉄に乗るのが楽しみだったが、その日のパリの
メトロはストライキ決行中。やむなく街に出たザジに、いろ
いろな冒険が待ち構えている…というもの。
出演は、ザジ役に事実上この1作だけを残したカトリーヌ・
ドモンジョ。叔父の役には、1989年『ニュー・シネマ・パラ
ダイス』で国際的に評価されるフィリップ・ノワレが扮して
彼の出世作となっている。
他に、1963年『地下室のメロディー』などのカルラ・マルリ
エ(デビュー作)、1983年『ギャルソン!』などのユベール
・デシャンらが共演。
僕にとっては学生時代にテレビで観て以来の再見となった。
当時はヌーヴェルヴァーグの先駆けとも言われた作品で、そ
れなりに小難しくも評価されていたと思うが、見直しての感
想は普通に楽しい作品だった。
巻頭パリに向かう列車の運転席からの映像に始まって、当時
のパリを彷徨うザジの姿が観光映画のように描かれて行く。
そしてその間には、移動しているのに同じ建物が繰り返し現
れる映像や、ザワークラウトの皿を投げ合うなどのスラップ
スティックな仕掛けもいろいろ用意されている。
ロリータ趣味らしき男性が登場したり、叔父さんがゲイで女
装の踊り子であったり、はたまた緊急事態であるはずなのに
話し込んでしまう男性たちなど、昔観たときは理解できなか
った部分も、今観るとそれはそれとして理解できてしまう。
自分も大人になったのだなと思えたところだ。

『ウィッチマウンテン−地図から消された山−』
              “Race to Witch Mountain”
『スター・ウォーズ』以前の1975年に、ジョン・ハフ監督で
映画化された『星の国から来た仲間』を、ドウェイン“ザ・
ロック”ジョンスン、『テラビシアにかける橋』のアナソフ
ィア・ロブ、『スパイ・キッズ』のカーラ・グギーノの共演
でリメイクした作品。
元々はジュヴナイルSF作家アレクザンダー・ケイ原作の映
画化で、地球に取り残された異星人の兄妹が故郷の星に帰ろ
うとする物語。しかし今回のリメイクではそんな子供たちの
出自などはすっ飛ばして、いきなりカーアクションの展開と
なっている。
それで原題も上記のようになっているものだが、まあそれは
それで展開も早いし、そこにVFXによるアクションやいろ
いろな超能力の描写などが彩りを添え、とやかく言うより、
とにかく楽しめる映画になっているものだ。
とは言うもの、ジュヴナイルSFの味わいはしっかりと残さ
れていて、彼らにとっては異星である地球での異星人兄妹の
逃避行と、それに巻き込まれた地球人の波乱万丈の冒険物語
が展開されて行く。
それは政府機関を始めとする強大な勢力を相手にしての正に
胸のすくようなアクション満載の物語。それにしても、こん
な楽しいものに子供の頃に出会えたら、その子はきっと良い
SFファンになってくれるだろうと思える作品だ。
ただし本作は、宣伝ではSFではなくミステリーとして売ら
れるのだという。その宣伝のやり方などには最早文句を付け
る気持ちもないが、実際、日本におけるSFという言葉の信
頼度の低下ぶりには激しいものがあるのは確かだ。
大体が日本でSFと称しているものは、怪獣との闘いか巨大
ロボットによるドンパチ映画ばかりだから、これではオタク
は生み出せてもファンが育つような環境ではない。
これではSFという単語に大人が眉を顰ても仕方がないもの
で、1970年代、80年代に作られた日本のSF文化は、正に雲
散霧消してしまったようだ。と言ってもそれを作ったのも壊
したのもSF人だから何とも言えないところだが…
なお映画には、オリジナルで異星人の兄妹を演じたアイク・
アイゼンマンとキム・リチャーズも儲け役で登場するなど、
オリジナルのファンにも気を使ったリメイクになっていたよ
うだ。
        *         *
 後は製作ニュースを3本ほど紹介しよう。
 まずは続報で、2006年8月15日付第117回で紹介したチェ
ヴィ・チェイス主演の“Fletch”シリーズの続編が再始動し
たようだ。
 元々はグレゴリー・マクドナルド原作によるエドガー賞受
賞作の映画化だが、当初はバート・レイノルズやミック・ジ
ャガーらも映画化を希望したものの原作者が拒絶し、その後
にチェイスの主演による映画化が許諾され、1985年に第1作
と89年にその続編も製作されたというもの。因に、原作者の
マクドナルドは昨年9月に亡くなったが、それまでに発表さ
れたシリーズは、1974年の第1作“Fetch”から、1994年の
“Fletch Reflected”まで全11作で形成されている。
 そして今回シリーズ再開の映画化が計画されているのは、
マクドナルドが1985年に発表した“Fletch Won”という作品
で、実はこの原作は発表順では8作目だが第1作の前日譚と
して、事件記者フレッチの最初の手柄を描いたものとなって
いる。ところが今回の計画では、チェイスが再び事件記者に
扮するとされているもので、若き日の主人公を演じるのには
多少無理があると考えられてもいたものだが…
 今回の発表によると、フレッチは現役を引退して甥にその
バトンを渡していたが、新たな事件の発生にその腰を上げ、
事件を担当している甥にいろいろなアドヴァイスを与えなが
ら事件を解決して行くという展開になっているようだ。これ
なら甥が演じる新米記者の部分との分担で、現在のチェイス
の容姿でも問題なく主演ができそうだ。
 という計画だが、実際には数年前からチェイス自身が繰り
返しアドバルーンを揚げているもので、具体的な部分はまだ
グレイゾーンのようだ。しかし、今回は物語の展開について
も新たなものが提示されるなど少しずつの前進はしている感
じになっている。脚本はハリー・スタインという脚本家によ
るものがすでに完成されており、後は監督と共演者という段
取りになる。
 さらにその共演者には、ジョン・キューザックの名前も挙
がっているようだが、実はチェイスは、現在カナダで“Hot
Tub Time Machine”というキューザック共演のSFコメディ
の撮影が進行中とのことで、上手くすればその後、そのまま
2人で…という可能性はあるのかも知れないものだ。
 なおマクドナルドは、1997年にジョニー・デップの初監督
・主演で映画化された『ブレイブ』(The Brave)の原作者
としても知られている。
        *         *
 お次は、これはシリーズ再開なのかテレビからの映画化と
なるのかという感じだが、1992年に映画版が製作された後に
テレビシリーズとして人気を博した吸血鬼作品“Buffy the
Vampire Slayer”を再び映画で製作する計画が発表された。
 元々の映画版は、ジョス・ウェドンの脚本、フラン・ルー
ベル・クズイの監督で映画化されたものだが、この作品には
主演のクリスティ・スワンスンに加えて、ドナルド・サザー
ランド、ルトガー・ハウワー、ヒラリー・スワンク、デイヴ
ィッド・アークェットなど錚々たる共演者が集まっていた。
しかし映画自体の評価は余り高くならず、当初は考えられて
いたシリーズ化も実現しなかったようだ。
 ところがその作品が、1997年にサラ・ミッシェル・ゲラー
の主演でテレビシリーズ化されるや一躍人気を得ることにな
り、日本でも放送されたこのシリーズは、その後7シーズン
に渡って続くことになる。しかしその人気シリーズも2003年
に終了、またその頃には1999年にスタートした“Angel”と
いう傍系シリーズも並行して製作されていたが、こちらも翌
年に終了となってしまった。
 というオリジナルのシリーズだが、今回その映画化を計画
しているのは、『呪怨』のアメリカ版なども手掛けるヴァー
ティゴ・エンターテインメント。同社では、元々の映画版と
テレビシリーズも通じて多数の監督を勤め、シリーズの映画
化権を保有するクズイと組んでの計画を進めているもので、
昨年来の『トワイライト』のヒットなどを受けて、シリーズ
の再開には今が最高のチャンスと考えているようだ。
 しかしこの発表で、オリジナルのクリエーターのウェドン
の名前が出てこないのが気になるところ。というのも、実は
ウェドンとクズイはテレビシリーズの終了を巡って訴訟沙汰
になるなどの問題を起こしていたようで、今回の映画化には
ウェドンの協力は得られないようなのだ。このため、ウェド
ンが製作に関ったオリジナルの映画版とテレビシリーズに登
場するキャラクターは一切使用できないとのことで、今回の
映画製作にはかなりの足枷が生じることになりそうだ。
 一方、ウェドンはシリーズの終了後もダーク・ホースコミ
ックスでコミックス版を手掛けるなどシリーズの創作を続け
ており、その創作意欲は衰えていない。それならこの機会に
再び手を組んでもらいたいような気もするところだが、人間
関係というのはなかなか簡単には修復できないようだ。
 ヴァーティゴとしては当然シリーズ化を目指した映画化を
計画しているもので、そのための核となるコンセプトを求め
て脚本家とのミーティングも行われているようだが、制約の
多い状況ではなかなかそれも簡単ではないようだ。それも踏
まえてウェドンの再出馬を願うには、正に絶好のチャンスと
も言えそうだが…
 なおデータベースの記載によると、新作映画の公開予定は
2012年となっているようだ。
        *         *
 もう1本はグラフィックノヴェルの映画化で、ワーナーか
ら“Hench”という作品の計画が発表されている。
 原作は、『バットマン』のテレビシリーズなども手掛ける
アダム・ビーチェンの執筆によるもので、物語は怪我で引退
を余儀なくされたアメフトの選手が、生活のために著名な悪
人の子分になるというもの。かなり捻った設定のお話だが、
普通では余り描かれないスーパーヒーローに対決する悪人た
ちの世界が見られることになりそうだ。
 製作は、ワーナーでは『アイ・アム・レジェンド』などを
手掛けてきたニール・モリッツ。また主演には『トロピック
・サンダー』などのダニー・マクブライドが決まっていて、
マクブライドは製作と脚本も担当することになっている。
 因にマクブライドは、上記の作品からも明かなようにコメ
ディアンで、今後の作品ではウィル・フェレル主演の“Land
of the Lost”なども控えている。また、ナタリー・ポート
マンとジェームズ・フランコが共演する“Your Highness”
でも共演と脚本も手掛けており、その評価は高いようだ。
 今回はそのコメディ作家がグラフィックノヴェルの世界に
挑むもので、ワーナーでは大作路線の製作者モリッツと大型
のコメディ作品に仕上げてくれたら期待が増すところだ。
        *         *
 最後に本を1冊紹介しておこう。
『ぼくと1ルピーの神様』“Q and A”
今年のアカデミー賞で作品賞など8部門を受賞した『スラム
ドッグ$ミリオネア』の原作本。
このサイトは本来映画の紹介の目的で開いているものだが、
この本に関しては映画会社の関係で送られてきたのと、映画
との関連にも興味深いものがあるので紹介する事にした。映
画を観た後で読むと、それぞれに全く違った良さが感じられ
るものだ。
この本を読んでいてまず驚くのは、原作本と映画との物語の
展開がかなり違っていることだろう。実際、映画に出て来る
エピソードの多くは原作には書かれていないものだ。もちろ
ん、主人公が高額の賞金の掛ったクイズで優勝しそうになっ
たために警察に逮捕され、拷問を受けるという展開は同じだ
し、そのクイズの答えをなぜ知っていたかという点が物語の
骨子になることに関しても同じなのだが、そこに描かれる答
えに繋がるエピソードが全く異なっている。
その問題の答えは、映画では西欧人にも解り易いような西欧
文化に関るものがほとんどだったが、原作のそれは、もっと
インドの現代史に関るものが中心になっていた。そこにはイ
ンド=パキスタン戦争など、正にインド人にとっての苦闘の
歴史が物語られているのだ。
もちろん映画の物語も素晴らしいものだったが、映画にはい
ろいろな作劇上のトリックもあって、現実には辻褄の合わな
い部分も散見されたものだ。それに対してこの原作本では、
もっとストレートに物語が作られていて、それは他民族であ
る僕らには分り難い部分もあるが、より深くインドの現状が
描かれているものでもあった。
外国映画、特にアジアやアフリカの映画を観ていると、もっ
とその国を知らなければいけないと思うことがままあるが、
この本もそれと同じような気持ちにさせられた。
この本は映画化作品とは全く違う。だからこそ映画を観た人
にも読んでもらいたいものだ。



2009年05月24日(日) 縞模様のパジャマの少年、幸せのセラピー、エル・カンタンテ、愛と青春の宝塚、セブンデイズ、アイカムウィズザレイン+製作ニュース他

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『縞模様のパジャマの少年』
          “The Boy in the Striped Pyjamas”
この作品は、何の予備知識も持たずにまっさらな状態で観て
もらいたい。残念ながら僕は立場上それは出来なかったが、
でもできる限り余計な情報は持たないようにして試写会に赴
いた。そして映画の1シーン、1シーンを心に染みるような
感じで観ることが出来た。
従って、出来れば以下の文章は読まずに映画を観てもらいた
いものだ。
時代は第2次世界大戦の最中。舞台はドイツ。主人公は8歳
の少年。そして主人公の父は軍の将校。戦争中であっても元
気な子供たちは、両手を広げて戦闘機の真似をしながら街を
走り回り、何の屈託もなく暮らしていた。
そんな主人公の父親に地方への赴任命令が下る。それは都会
を遠く離れたある場所での所長という役職だった。やがて引
っ越しをした一家には大きな屋敷が用意され、そこにはメイ
ドや下男もいて何不自由ない暮らしがスタートする。
しかしその場所は、まだ子供の主人公には友達もいないつま
らない場所だった。ところがある日のこと、冒険を求めて親
には禁じられた林の向こうに行ってみた少年は、鉄条網に囲
まれた場所に住む1人の少年と巡り会う。そして彼との友情
を結ぶ主人公だったが…
これだけで題名の意味しているところは判ると思うが、映画
はナチスによるユダヤ人強制収容所について描いたものだ。
しかもその物語をドイツ人の側から描いている。そして主人
公は、まだ遊びたい盛りの、世間の情勢も全く判っていない
少年の物語だ。
さらに判っていないのは少年だけではない。人形遊びに夢中
だった少女から、あっと言う間にナチスのプロパガンダに染
まって行く12歳の姉や、夫が収容所の所長であることは知り
ながらも、そこで実際に起きていることに気付かない母親な
ど…

原作は、アイルランドの作家ジョン・ボインが2006年に発表
したもので、すでに日本を含めて各国語に翻訳され、各地で
ベストセラーを記録しているそうだ。その作品から、『ブラ
ス!』『リトル・ヴォイス』『シーズンチケット』などのマ
ーク・ハーマンが脚色・監督・製作総指揮で映画化した。
主演は、1997年生まれだがすでにテレビなどで活躍している
エイサ・バターフィールド。青い目が印象的な彼は、2005年
に公開されたエマ・トムプスン主演“Nunny McPhee”の続編
への出演も発表されている。
共演は、1998年生まれで本作でデビューを飾るジャック・ス
キャンロン。主人公の父親役に『ハリー・ポッター』でルー
ピン先生役を演じるデイヴィッド・シューリス。母親役には
『ディパーテッド』『こわれゆく世界の中で』などのヴェラ
・ファーミガが扮している。
ホロコーストの問題には日本人はよその国のことと考える人
が多いかとも思うが、日本がその同盟国であったことは忘れ
てはいけないことだし、日本軍が中国人に対しそれに近いこ
とをやったことも間違いないことだ。
そんな歴史上の悲劇について加害者の側から見ることを、こ
の作品は可能にしてくれる。一部の人間の扇動によって事が
動かされて行く、それを見て見ぬ振りをする人々。それはホ
ロコーストの問題だけではない。


『幸せのセラピー』“Meet Bill”
『ダークナイト』に出演のアーロン・エッカート、『シン・
シティ』のジェシカ・アルバ、『スパイダーマン』のエリザ
ベス・バンクス共演による男の自立(?)コメディ。
主人公のビルは、銀行頭取の娘と結婚して重役の座を与えら
れた男。銀行の屋上にある大きなビルボードには、義父と義
弟と一緒に彼の顔写真が掲げられているが、彼自身にとって
その座は居心地の良いものではない。
実際、大事な顧客の応対には義弟がしゃしゃり出てくるし、
与えられた役職だって、実は娘婿のために無理矢理作られた
ようなもので実際の権限なんて殆ど無い。しかも、妻の不倫
の証拠を掴んでも頭取の娘は全く動じず、逆切れされてしま
う始末。
そんな彼は、密かに自立を目指してドーナッツのフランチャ
イズチェーンの出店審査に応募していたが…
ところが、町の名士でもある義父の提案で地元の高校が始め
たメンター制度に1人の学生が応募、しかも彼を指導者に指
名してきた。そしてちょっとおませなその学生が彼の行動に
いろいろとちょっかいを出し始める。
この主人公に本作の撮影のために体重を10kg増量したという
エッカートが扮し、その妻をバンクス。また、学生の仲介で
彼と関わりを持つ若い女性をアルバが演じている。他に『ナ
ンバー23』のローガン・ラーマン、『ダイ・ハード4.0』
のティモシー・オリファント、『D-WARS』のホームズ・オズ
ボーンらが共演。
逆玉の輿の主人公に何の不満があるのかというお話ではある
が、つまり男というのはそんなものなのだろう。しかも焦れ
ば焦るほど事はうまく進まなくなってしまう。そんな主人公
をエッカートがちょっと切なくも演じている。
実は本作は、アメリカでは2007年の公開作品で、従って製作
の時期は『ダークナイト』と前後していたと思われるが、何
となくハーヴェイ・デントの境遇がオーヴァラップするとこ
ろもあって、そういう興味で見るのも面白かった。
なお原題は、アメリカ公開では“Bill”だけだったようだが
その後に改題されており、今回の上映フィルムでは上記のも
のになっていた。

『エル・カンタンテ』“El cantante”
1960年代後半から始まった音楽シーンのサルサ・ムーヴメン
トの中で、その立て役者の1人となったプエルトリコ出身の
歌手エクトル・ラボーの生涯を描いた作品。
その作品を、ニューヨーク・ブロンクスの生まれだがプエル
トリカンの血を引くとされる女優で歌手のジェニファー・ロ
ペスが、夫で現代のサルサ界の立て役者とも言えるマーク・
アンソニーと共に、自ら設立した製作会社ニューヨリカンの
第1作として製作した。
エクトルはプエルトリコで歌手の道を歩み始めたが、ショウ
ビズ界での成功を夢見、育ての親の反対も押し切ってニュー
ヨークへとやってくる。そしてラティーノ地区のナイトクラ
ブでステージに立ち、レコード会社の目にも留まってスター
街道を歩き始める。
やがて次々に大ヒットを飛ばし、スターダムに伸し上がって
行くエクトルだったが、その私生活は麻薬や女性にまみれ、
出演を約束したステージも遅刻するなど乱れたものになって
行く。それでもレコード歌手としては成功を続けるエクトル
だったが…
そんな男の人生を、彼の妻であり1人息子も授かった女性の
回想で綴って行く。それは彼女にとっても悔恨に充ちたもの
となっている。
とまあ、お話は一昔前の芸能界を描いているという点では、
「ありそうな話かなあ」と思わせるものだ。それを本作では
アンソニーの見事な歌唱によるエクトルのヒット曲の数々と
共に再現して行く。
ただし、僕自身はエクトルの本物がどんなだったかは全く知
らないのだが、その分、余計なことは気にせずにアンソニー
の歌を楽しむことができた。しかもそれがテンポの良いラテ
ン系の音楽だから、これは存分に楽しめた。
監督は、2003年10月に同じくプエルトリコ出身の芸術家を描
いた『ピニェロ』という作品を紹介しているレオン・イチャ
ソ。本作でも、よく似た生涯を辿る歌手の人生を巧みに描い
ている。
なお、主人公の名前は字幕でもエクトルとなっているが綴り
はHector。これをスペイン語でHを消して発音しているもの
だが、映画の中ではニューヨーク生まれとされる妻だけがH
を残して発音しているのも面白かった。

『愛と青春の宝塚』
昭和14年、戦時色が次第に強くなって行く時代背景の中で、
宝塚の舞台に立つ乙女たちの苦難と彼女達を取り巻く人々の
姿を描いた作品。
2002年の正月にスペシャルドラマとしてテレビ放送された物
語が、2008年12月に新宿コマ劇場のファイナル公演として舞
台ミュージカル化され、宝塚歌劇団の卒業生たちの共演によ
り上演された。本作はその舞台面をHDTVで撮影した作品
となっている。
いろいろな事情を背負いながら宝塚音楽院の門をくぐった女
性たちが、やがて舞台に立ちスターへの道を歩んで行く。し
かし戦況は厳しさを増し、ついには宝塚大劇場の閉鎖。そし
て彼女たちは、満州など最前線への慰問に駆り出されて行く
が…
物語の中心となるのは、音楽院に同期で入った3人と、当時
の雪組で男役トップの座に君臨する嶺野白雪。その同期生の
1人は、最初は宝塚に対し憎しみを露にしている。一方、自
信に満ち溢れたトップの嶺野は後輩団員の人望も厚く組を率
いている。
そんな女性たちが、密かに思いを寄せる男性への恋心や戦時
の絶望的な環境の中で成長して行く姿が描かれる。そしてそ
こには劇団の脚本家や宝塚に理解を示す海軍の将校、また、
宝塚在住でオサムという名の漫画家志望の少年も登場する。
ところで本作では、巻頭に宝塚歌劇のフィナーレシーンの再
現が登場するが、そこでの大階段の段数の少なさに愕然。僕
は宝塚の舞台は子供の頃に1度観ているだけだが、上述のテ
レビ放送に出てきた大階段の印象は全く違うものだった。
しかし本作にはコマ劇場の最終公演という側面も持たされて
いるのだから、これは仕方がない面でもある。後は割り切っ
て観るしかないとはこの時に気付かされた。その意味ではこ
の構成は、作品の性質を判りやすくするものだったのかも知
れない。
そんな作品だが、戦時中の軍隊以外の生活を描いているとい
う点では日本映画では珍しい作品とも思えた。日本の戦争映
画では、どっちが負けたか判らないような軍隊生活を描いた
作品が多いが、本作では戦時下の人々の苦難や絶望が丁寧に
描かれている。
その意味では、反戦映画としても優れているようにも感じら
れた。そして、そんな状況の中でも生き抜いて行こうとする
人々の強さが描かれていた。
因に本公演はwキャストで行われたもので、僕が観たのは、
その内で湖月わたる、貴城けい主演による版だったが、一般
公開では紫吹淳、彩輝なお主演による版と2作品が上映され
ることになっている。
さらに本作では大鳥れい、映美くららが共演。その他に本間
憲一、石井一孝、佐藤アツヒロらが脇を固めている。
なおHDTVで舞台面を撮影した作品では、松竹系で歌舞伎
の公演がすでに定期的に上映されているが、関西テレビでは
以前から宝塚大劇場の舞台面のHDTV撮影も実施してきた
はず。今後はそれらの作品の劇場上映も期待したいものだ。

『セブンデイズ』“세븐 데이즈”
愛娘を誘拐され、不利な裁判での逆転無罪勝ち取りを強要さ
れた女性敏腕弁護士の行動を描くサスペンス作品。
主人公は無罪獲得率99%を誇る敏腕弁護士。その依頼人は殺
人犯からヤクザまでいろいろだが、常に見事な弁論で検察に
付け入る隙を与えない。しかし、シングルマザーでもある彼
女は、その活躍と引き換えに愛娘と過ごす時間もままならな
い生活だった。
そんな彼女の娘が誘拐される。さらに誘拐犯には警察の動き
も見透かされ、犯人の指示通りに警察を捲いた彼女は、孤立
無援で事に対処しなければならなくなる。そして誘拐犯から
の真の要求は…
1週間後に二審の公判を控える婦女暴行殺人死体遺棄事件。
その現場には前科者でもある被告人の指紋や足跡が多数残さ
れ、被告人の犯行は疑いようが無かった。しかし誘拐犯の要
求は、その被告の無罪放免させること。
そんな状況下で、主人公はたった1人で事件に立ち向かうこ
とになる。もちろんそこには協力者の存在もない訳ではない
が、彼女の真の目的を知る者はいない。そして捜査が進むに
連れて事件は思わぬ方向に展開して行く。

映画は最初から緊張感に溢れる描き方で、その緊張感が2時
間5分の上映時間の最後まで途切れることがない。そしてそ
の緊張感に観客も巻き込まれて、観客はあっという間に観終
えてしまった感じになるだろう。
その演出の緻密さは見事なもので、これを撮れる監督の手腕
には敬意を表したいくらいの作品だ。正直、観る方も相当に
疲れる作品だが、その疲労感も堪らない感じのもの。正に映
画を観たという感じがしてくる。
監督は2006年7月に『鬘』という作品を紹介しているウォン
・シニョン。前作のときにはちょっと批判的に書いたが、今
回は物語も含めて見事に完成されていた。
主演は、1999年のヒット作『シュリ』や2002年6月に紹介し
た『燃ゆる月』などのキム・ユンジン。最近ではアメリカの
テレビシリーズ『LOST』でも人気の韓国人女優が、その
合間に帰国して撮った作品とのことだ。
他に、2005年『南極日誌』などのパク・ヒスン、2005年『マ
ラソン』のキム・ミンスク、2006年『王の男』のチャン・ハ
ンソン、2月に紹介した日本映画『今度の日曜日に』に出演
のヤン・ジヌらが脇を固めている。
なお映画の中で、登場人物の1人がマザーグースに言及する
シーンがあって、それが気になった。これは単に引用しただ
けのものかも知れないが、何か特別な意味が持たされている
ような感じもして引っ掛かっている。真相は調べ切れなかっ
たが。

『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』
               “Je vien avec la pluie”
アメリカのジョッシュ・ハートネット、日本の木村拓哉、韓
国のイ・ビョンホン共演によるちょっと不思議な雰囲気の漂
うドラマ作品。
主人公はハートネット扮する元刑事の私立探偵。その探偵が
行方不明になった1人の若者の捜索を依頼される。その若者
はフィリピンで孤児の収容施設を運営していたが、ある日、
ゲリラに拉致されて行方不明になったという。
一方、香港ではイ扮するヤクザのボスが権勢を振るっていた
が、彼の子分の1人が現金とボスの女を連れて逃亡する事態
が発生する。そして、香港に現れた探偵の前で2つの事件が
交錯し始める。
と書いていると、何だか香港が舞台の暗黒街もののような感
じがしてくるが、物語はこの後、実は探偵には犯罪者の心理
に同化してその行動を先読みする能力があり、一方、行方不
明の若者は各地で奇跡を起こし始め…という展開になる。
しかも物語には、ポスターなどにも示されるように、十字架
が重大な意味を持ってくるような作品なのだ。もしかすると
題名にも特別な意味があるのかも知れない。
僕自身は宗教には何の思い入れもないし、この作品を観終え
ても、だからという特別な感想を持つものでもないが、これ
が宗教を信じている人にはどのように映るものか、ちょっと
気になるところだ。
その一方で映画には、かなりグロテスクなオブジェが登場し
たり、いろいろ凝ったところもあって、無宗教の自分にもそ
れなりに楽しめた。だからと言って宗教的な意味までは理解
できるものではないが、上っ面を撫でただけでも気の済むよ
うな作品でもある。

脚本監督は、ヴェトナム生まれだがフランスで教育を受けた
というトラン・アン・ユン。デビュー作の『青いパパイヤの
香り』から映画祭常連監督による4作目で、監督は次回作に
は村上春樹原作の『ノルウェイの森』を撮る予定だそうだ。
なお木村とイは、日本映画の『HERO』に続いての共演。
その木村は2004年『2046』に続く海外進出だが、消化不
良気味だった前作に比べて今回は、監督にいろいろアイデア
を出すなど、かなり積極的に映画づくりに関ったようだ。
特定の部分は抜きにして観ても、『2046』よりは解り易
い作品に思えた。
        *         *
 製作ニュースを1本。
 昨年10月1日付第168回などで紹介したマーヴェルコミッ
クス原作“Thor”の映画化に関して、主人公のThor役にオー
ストラリア人俳優のクリス・ヘムスワースと最終交渉に入っ
ていることが発表された。
 ヘムスワースは、今週日本でも公開される新版『スター・
トレック』にカークの父親役で出演している俳優だが、本作
のアメリカ配給もパラマウントであることから、そんな流れ
もあっての起用となったようだ。物語は、北欧神オーディン
によって地上に派遣された主人公が、医学生として人間につ
いて学びながら、一旦ことが起きるとヒーローThorとなって
活躍するもの。そしてその宿敵Loki役には、イギリスのテレ
ビ俳優トム・ヒデルストンの出演も発表されている。
 脚本は、『アイ・アム・レジェンド』などのマーク・プロ
トセヴィッチ。それにテレビの『ターミネーター:サラ・コ
ナー』を手掛けたアシュレー・ミラーとザック・ステンツが
参加しているようだ。監督は、以前にも紹介したようにイギ
リス演劇界に重鎮ケネス・ブラナーが担当。撮影は今秋開始
してアメリカ公開は2011年5月20日となるものだ。
 また主人公のThorは、マーヴェルのヒーローチーム“The
Avengers”の一員でもあり、ヘムスワースの出演交渉には、
2012年に公開が計画されているその映画化の分も含まれてい
るようだ。
        *         *
 ところで、ヘムスワースが出演している新版『スター・ト
レック』だが、僕のサイトではマスコミ試写で観た作品のみ
を紹介する建て前なので、同作品の紹介はしないでいた。し
かしこの作品に関しては一般試写を観ることが出来たのと、
周囲で気になる発言も耳にしたので、一応自分なりの感想を
書いておく事にする。
 その感想の一点目は、思いのほか良くやっていると感じた
ものだ。実際この作品の製作情報では、2007年8月15日付の
第141回でも書いたように、チェコフの登場などにいろいろ
と問題があったものだが、映画ではその点を見事にクリアし
ている。
 それはまあ、見事というよりはかなり荒っぽいやり方では
あるが、SFファンなら思わずニヤリとするところだろう。
そしてその解決法が今後のこの作品のシリーズ化にも展望を
開いているものだ。実際、この解決法にニヤリとできるのが
SFファンの冥利というものだ。ただ、そういうことにとや
かく言いたがる連中が多いのも、日本の映画ファンの狭量な
ところでもある訳で、実は昔からのファンと称しながら、そ
のようなことを言っているのを耳にしたので、敢えてここに
書くことにしたものだ。
 その他、スペースアカデミーの外観などの背景やチャペル
看護婦などの登場人物。さらに物語の展開などでも実に細か
く気を使って作られている。それは『スター・トレック』を
知っていれば知っているほど楽しめるものだ。
 そして極め付きは、最後に流れるテーマ音楽と、「宇宙。
それは…」のナレーション。これを聞いて感動しないトレッ
キーはいないだろう。惜しむらくはその声がレナード・ニモ
イだったことで、これはやはりウィリアム・シャトナーで聞
きたかった。日本語版はぜひとも矢島正明でやってもらいた
いものだ。

 この新版は間違いなくトレッキーのために作られている。
ぜひとも続編を期待したい作品だ。



2009年05月17日(日) フィースト3、ココ・シャネル、呪怨、ARTISANAL LIFE、未来の食卓、バッド・バイオロジー、ラスト・ブラッド(追記)+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『フィースト3−最終決戦−』
            “Feast III: The Happy Finish”
4月19日付でパート2を紹介したシリーズのパート3。現状
ではこれで最後のようだ。
実際にはパート2と同時に製作されて上映時間も97分と80分
だから、超大作なら纏めて一気の公開もありかなというくら
いのものだが、内容的にはかなり展開も変えて、それなりに
別作品の感じには成っている。
そのパート3のお話は、兎に角何でもありの展開で、変な救
世主が次々登場したり(どんな連中かは観てのお楽しみ)、
意味不明の地下道が登場したり、大体がB級どころか、C、
D級と言った感じの支離滅裂なものとなる。
もちろんそれが狙いの作品だし、その点では考えて作られて
いるものだが、お話を紹介しようとすると最早それ自体が拒
否されているような展開で、正に「いやはや」と言う以外の
言葉が見つからない。
それにしても、ギャグの一部には苦笑と言うか咄嗟には笑え
ない部分もあって、この辺はある種の映画表現の限界への挑
戦という感じもする。パート1の受賞のときには「過去の作
品を徹底的に研究した」という発言があったが、それに近い
ものなのだろう。
とは言え、補聴器のギャグなどは実際に体験者でないと、そ
ういう事態の発生状況も分からないものだが、これを一般的
な映画のギャグとしてしまう辺りもかなりの挑戦といった感
じのものだ。もっとも自分の体験では本人が一番気付かずに
いて、それが笑えたものだが…

脚本は前2作と同じくパトリック・メルトンとマーカス・ダ
ンスタン。監督も同じく俳優の息子のジョン・ギャラガー。
出演者もほぼ同じだが、本作にはさらに、XMA(Extreme
Martial Arts)の新人クレイグ・ヘニンセンが登場して得意
の技を見せてくれる。
ホラーと言うより、スプラッターも通り越して、グロテスク
な描写のオンパレードと言う感じだが、それでもエログロに
落としていない(バストの露出などはあるが)ところが作者
たちの見識と言った感じで、その辺は判って作っているのだ
ろう。
もちろん、血みどろの映画だから、その手の作品に馴れてい
る人にしか勧められないが、後半にはそこまでやるかの展開
もあるし、エンディングには皮肉たっぷりのテーマソングも
登場するし、好き者にはそれなりに楽しめる作品だった。

『ココ・シャネル』“Coco Chanel”
シャーリー・マクレーンの主演で、アメリカでは昨年9月に
テレビで放映されたフランスのファッションデザイナー=コ
コ・シャネルの伝記映画。
1921年に香水「シャネルNo.5」を発表し、1920年、30年代の
ファッション界で一時代を築いたシャネルが、戦時中の疎開
を経て1954年にパリで活動を再開する前後の様子を描きなが
ら、一介のお針子からファッションデザイナーとして成功す
るまでの青春時代を描く。
孤児院の出身で家柄も学問もなく、それでも天賦のデザイン
の才能で女性たちを魅了したガブリエル“ココ”シャネル。
そんなファッション界の巨匠の若い日々では、恋に破れ、ま
た悲劇に見舞われながらも成長して行く姿が描かれる。
シャネラーなんていう言葉は既に死語かも知れないが、少し
前までのシャネルは日本女性の最大の憧れだったようだ。そ
んなシャネルの真実の姿が描かれる。
と言っても、本作は元々がテレビ映画だからそれほど深く掘
り下げているものではない。それでも、マクレーンの演じる
シャネルは、マルカム・マクダウェルが演じるパトロンを手
玉に取るなど溌溂として、それを観ているだけでも元気が湧
いてくる。そんな感じで気楽に楽しめる作品だ。
なお若き日の姿は、スロヴァキア出身のバルボラ・ボブロー
ヴァという女優が演じているが、こちらも良い感じだった。
脚本は、ルキノ・ヴィスコンティの協力者だったエンリコ・
メディオーリ。監督は、2003年4月に紹介した『EXエック
ス』などのクリスチャン・ディゲイ。なお監督はカナダ出身
で、基本テレビの人のようだ。
ただ、フランス人を描いた伝記映画で、舞台もフランスの物
語なのに、台詞がほとんど英語というのは気になるもので、
これもテレビ映画でしかもマクレーンの主演では仕方ない面
もあるが、出来たらフランス語の吹き替え版が観たくなった
ところだ。
なお、ココ・シャネルの伝記映画では、フランスでオドレイ
・トトゥ主演による“Coco avant Chanel”という作品も作
られており、こちらはワーナーが製作に参加して、アメリカ
での配給はソニーが担当したようだ。どちらの会社でもいい
から日本公開して欲しい。


『呪怨・白い老女/黒い少女』
清水崇監督原作による恐怖シリーズの新作2本が同時公開さ
れる。今年は1999年に第1作がヴィデオ発売されてから10周
年とのことで、公開には「呪いつづけて、10周年」というキ
ャッチコピーが付けられている。
オリジナルというか前作2003年版の映画作品はテレビでしか
観ていないが、それでもその恐怖体験は見事なものだったと
記憶している。特にその余りの理不尽さは、基本的に怨念は
その加害者のみに向けられると思っていた者にはショックだ
ったものだ。
本作はその続編となるものだが、前作までの男の子の霊に代
って今回は、それぞれが「白い老女」と「黒い少女」の霊と
なっており、多少の目先は変えられている。ただし、舞台は
同じ家であるようだ。
そして、それぞれその家に関わった人間たちが、呪怨(「つ
よい恨みを抱いて死んだモノの呪い。それは、死んだモノが
生前に接していた場所に蓄積され、『業』となる。その呪い
に触れたモノは命を失い、新たな呪いが生まれる」と定義さ
れている)によって狂い、新たな呪いを生み出して行く。
ドラマの構成は、全体的にはそれぞれの霊が呪いを持つに至
る物語を成すものだが、それぞれ主人公も異なるエピソード
がオムニバス的に集合されたもので、そのエピソードごとに
恐怖シーンが設けられている。
この構成はオリジナルから同じものだが、これがこのシリー
ズの特徴にもなっている。そしてそれが恐怖のつるべ打ちの
ような効果を生み出していくものだ。この展開が当時は新鮮
だった。
出演は、「白い老女」が南明奈と鈴木裕樹、「黒い少女」が
加護亜依と瀬戸康史。ただし構成は上記のようにエピソード
の積み上げだから、その他にも、宮川一朗太、勝村政信らい
ろいろな人物が登場している。
なお、同時期に任天堂wiiのゲームも出るようで、会場では
そのデモも行われていたが、リモコンを懐中電灯に見立てて
屋内を探索するゲームはかなり恐そうだった。

『ISAMU KATAYAMA-ARTISANAL LIFE』
皮ジャンデザイナー片山勇の仕事ぶりと生活を追ったドキュ
メンタリー。
一応ドキュメンタリーとしたが、監督・構成の牧野耕一はス
カパラなどのミュージシャン系の作品が多いようで、本作も
そんな感覚で作られているようだ。従って、何かを主張する
目的で製作されているものではなく、映像感覚と音楽が溢れ
た作品になっている。
しかも、被写体と友人でもある監督は撮影しながらやたらを
話をしてしまうし、本来冷静さを求められるドキュメンタリ
ーとは違っているもののようにも感じられる。
そんな訳でいろいろ気になりながら観てしまった作品だが、
エンディングクレジットを観ていたら製作総指揮が片山勇と
なっていた。つまりこの作品は片山本人のPR、若しくはプ
ロモーション目的の作品のようだ。
それならこの作り方も理解するし、多少あざとい感じはする
がそれはそれとして評価すべき作品だろう。特にヴィジュア
ル面には若者受けの要素は多分にあるし、さらに音楽では、
スカパラなどに加え、GLAYがエンディング主題歌を提供する
などこれでサントラ版を出せたら大したものだ。
ただしこの作品で何かを理解できたかと言うと、あまりその
ようなものではない。片山が仕事を始めた切っ掛けなどは紹
介されるが、それは作品の中でも格好良過ぎると言われるよ
うなもので、そこから何かを得られるものではない。
もちろん片山の仕事への拘わりのようなものは存分に描かれ
ているが、作品のタイトルにartisan=職人と掲げているな
ら、この程度の拘わりは当然のことのようにも思えるし、そ
れが今の若者に欠けているというのは今更の主張だろう。
それに登場人物の紹介字幕がすべてローマ字なのは、海外へ
のプロモーション目的もあってのことかも知れないが、その
色が緑というのは目には優しいが読み取るには苦労の要るも
のだ。まあ読ませるつもりもないのかも知れないが。
さらに本作にはミラノでのファッションショーのシーンなど
も出てくるが、それも状況がはっきりと説明されないので、
それが成功したのかどうかも判らないし、ハリウッドのバイ
ヤーとの取り引きも何がどうなっているのか…

ただまあ、そんなこんながごった交ぜで、この作品から何か
を考えたりするようなものではないが、取り敢えず片山勇を
プロモーションするということではそれなりに目的は達して
いるのかな。少なくとも試写会に集まった長髪の連中には受
けていたようだ。

『未来の食卓』“Nos enfants nous accuseront”
南フランスの村を舞台に、学校や老人向けに行っている村営
給食センターの食材を全てオーガニック(自然食)にすると
いう試みを取材しながら、現状の全世界が直面している食の
危険を訴えた作品。
映画の巻頭で国際会議の模様が紹介され、そこでは「人類史
上初めて、子供の寿命が親のそれを下回る」という報告が発
表されている。その理由は癌の発病による死亡が増えている
ためで、その原因として食物に含まれる有害物質が指摘され
る。
そんな事実を踏まえて、食品をオーガニックにするという試
みが紹介されるものだ。そしてそのオーガニック食材に関し
て、自然農法を実施することの問題点や行政の農業施策、既
存の農業従事者との対立なども描かれる。
効率重視の農薬漬け農業の問題は、すでに除草剤の遺伝子に
もたらす影響など各所で指摘されているところだが、本作で
はさらに広範な農薬の危険性が訴えられている。そこには硫
酸銅なども挙げられていた。
ただ、わざとここに挙げた硫酸銅などは、確かに毒物ではあ
るが元々自然界に存在していたものだし、これを画面の賑わ
せのつもりか、特に危険が指摘される他の人造化学物質など
と同列に掲げている辺りで、この作品の描き方が気になり始
めた。
しかも作品の中では、危険性の具体的な証拠を求められたと
きに、「そんなことは科学雑誌を読めば判る」と言い返され
てしまうなど、いささか感情的な描き方をされているのも作
品の信頼性を損ってしまうものだ。
実際、この種のドキュメンタリーでは主張が如何に正しくて
も、製作者の感情が露骨すぎて観ていて退いてしまうことが
よくある。この作品ではその他にも、農薬散布の様子を殊更
大音量の音響で強調したり、過剰な演出が逆効果に思える部
分も散見された。
中でも、子供たちに危険を訴える歌をコーラスさせるシーン
では、その主張が正しいことであっても、政治的なプロパガ
ンダに子供を引き込む姿の典型のような感じもして、背筋が
寒くなる部分もあった。
もちろん農薬に頼る農法の問題は声を大にして訴えなければ
ならない問題ではあろうが、この作品のように感情的に描か
れては、僕のようにひねくれた根性で観るものには揚げ足を
取られるのが落ちのようにも思えた。
食と農の問題を訴える点では、4月に紹介した『キング・コ
ーン』の方が巧みに作られている感じがしたものだ。

とは言え、食と農の問題は真剣に考えなければいけないこと
はよく理解できたし、作品に登場する村長の主張などには耳
を傾けるべきものも沢山あった。その緊迫感には、多少の恫
喝も許されるのかも知れないとも思えた作品だ。
監督は、フランスのケーブルテレビ局カナル+などの演出家
で、1990年代からドキュメンタリー作品を発表しているジャ
ン=ポール・ジョー。監督自身が癌を経験してこの作品を製
作したのだそうだ。

『バッド・バイオロジー/狂った性器ども』
                    “Bad Biology”
1982年製作のホラー作品“Basket Case”などで知られるフ
ランク・ヘネンロッター監督による新作。なおフィルモグラ
フィーによると、映画作品では1992年の“Basket Case 3”
以来、16年ぶりの発表だそうだ。
7つのクリトリスを持つ女性と、ステロイドの注入などで自
分のペニスを巨大化させた挙げ句にそこに自意識が芽生えて
いるらしい男性。そんな2人が、互いに究極の相手を見つけ
るまでの行状が描かれる。
まあ、上記の説明から明らかなように、ある意味究極のエロ
グロナンセンスの世界が展開される作品だ。それを笑って観
ていられるかどうかは観客の勝手だし、それなりに笑って観
られる人にはそこそこの満足が得られる作品と言えそうだ。
ただ、作品としてはかなり軽いし、これがカルト的な人気を
集めた監督の作品かと思うと、多少物足りないところがある
のは否めない。1950年生まれの監督が年を取ったとは思いた
くないが、どこかで妥協した感じもあるのだろうか。
正直に言ってテーマが充分に消化されていない感じもして、
特に結末は予想通りのものでしかなかった。上映時間が85分
というのは“Basket Case”の91分とさほど違いはないのだ
が、この6分で描かれるものが案外大きいものなのだろう。
脚本家には、監督の他に本作の製作も担当しているラッパー
のR.A.ソーンバーンの名前が挙げられており、製作者がそ
れなりの権限は持っていたようだ。なおソーンバーンのフィ
ルモグラフィーでは、2001年ヴェネチア映画祭で上映された
ブラッド・レンフロ主演作“Bully”に楽曲を提供している
とあった。
出演は、歌手、舞台女優でモデルでもあるチャーリー・ダニ
エルスンと、本業はミュージシャンというアンソニー・スニ
ード。共に映画は初出演となっているが、それぞれ頑張って
演技していた。
なお映画の中には、写真家という設定のヒロインが撮ったと
されるスチル写真が何点か登場するが、その写真がいろいろ
細工の施されたもので、ちょっと『リング』を思わせるよう
な部分もあって面白かった。巻頭のクレジットには、Victim
Photoとして写真の制作者も出ていたようだが、そうとは知
らずにその名前を見逃したのが残念だ。

『ラスト・ブラッド』(追記)
この作品については4月5日付でも掲載しているが、実はあ
る点が気になって2度目の試写を観に行った。それは映画巻
頭のアクションシーンで、背景となる1970年代の営団地下鉄
丸の内線が見事に赤く塗られた車両で登場してくるのだ。
このシーンは、最初観たときは良くできたCGIかとも考え
たのだが、何か気になった。そこで見直してみると、エンド
クレジットにアルゼンチンで撮影されたシーンがあると表示
され、その後に協力としてブエノスアイレス地下鉄の名前が
挙がっていた。
そこで思い出したのは、以前に新聞記事で読んだ東京を引退
した地下鉄の車両が南米に渡って第2の人生を送っていると
の情報。なるほどこれがその車両だったのだと思い至った次
第だ。これはCGIなどではない正真正銘の実写なのだ。
映画では、塗装も塗り直されたのか見事に美しい赤い車両が
疾走していて、これには本当に嬉しくなってしまった。そん
な訳でこの映画は、東京の地下鉄マニアにも必見の作品かも
しれないと思い、追記することにした。
        *         *
 今回の製作ニュースは2つ。
 まずは、2003年2月2日付で紹介した映画の製作が中止に
なるまでの顛末を描いたドキュメンタリー『ロスト・イン・
ラ・マンチャ』で、その元となったテリー・ギリアム監督の
“The Man Who Killed Don Quixote”の製作が再開される可
能性が出てきた。
 オリジナルの製作は2000年9月に6カ月の準備期間を経て
開始されたものだが、その僅か6日後にロケ地近くの川の増
水でセットが流失したり、ドン・キホーテを演じていたフラ
ンス人俳優のジャン・ロシュホールが以前から患っていた背
中の痛みが悪化するなどのアクシデントに見舞われて中断。
結局、保険会社との話し合いで製作中止が決定された。
 その後は、キホーテ役にクリストファー・リーが立候補す
るなど、直ちに再開の気運もあったのだが、映画化の権利=
ギリアムが執筆した脚本を一時は保険会社側が管理するなど
の障害が立ちはだかり、簡単には再開できなかった。
 その再開に、2006年4月14日付で紹介したギリアム監督作
品『ローズ・イン・タイドランド』などを手掛けたイギリス
の製作者ジェレミー・トーマスが乗り出したもので、すでに
映画化権の買い戻しにも成功しているとのことだ。そして、
ギリアムと共にオリジナルを手掛けたトニー・グリゾーニが
脚本を改訂する作業にも取り掛かっていると伝えられた。
 なおこの件に付いてギリアムは、「僕は、自分がアイデア
に固執するタイプではないと思っていたが、このアイデアは
自分で映画を作るまで僕を放してくれそうになかった。現在
はこれを完成させることに全力を注いでいる」と語っている
ようだ。
 またギリアムは、現代から17世紀に飛ばされて従者のサン
チョ・パンサにされてしまう配役に、オリジナルにも出演し
ていたジョニー・デップとの話し合いを行っていることも認
めているが、現在最も忙しい俳優の1人とも言われるデップ
のスケジュールを調整するのも大変なことになりそうだ。
 因にデップは、5月22日にカンヌ映画祭で行われるギリア
ム監督の新作“The Imaginarium of Doctor Parnassus”の
ワールドプレミアに、共演のコリン・ファレル、ジュード・
ロウらと共に出席する予定なので、その席で正式の回答が出
されるかも知れない。
 キホーテ役には、一時はギリアムとは『モンティ・パイソ
ン』時代からの盟友マイクル・ペイリンの名前も挙がってい
たが現在は未定。しかし撮影は、ギリアムの意向では来春に
は開始したいとのことだ。
        *         *
 もう1本は、『ターミネーター』の公開が迫っている製作
会社ハルシオンの計画で、2007年10月15日付第145回でも報
告したようにフィリップ・K・ディックの権利を獲得した同
社が、その権利に基づく最初の作品として“Flow My Tears,
the Policeman Said”(邦訳題:流れよ我が涙、と警官は言
った)を映画化すると発表した。
 この原作は、1974年に発表されて翌年のローカス賞やジョ
ン・W・キャンベル記念賞などを受賞した作品だが、1968年
に発表された『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』と並
んでディックの絶頂期の作品と言われているようだ。内容は
2度目の内戦によって警察国家となったアンチユートピアの
アメリカを背景にしたもので、その世界での有名人から突然
無名の人間にされてしまった男の行動が描かれる。
 スタッフ・キャストや製作時期は未定だが、『ターミネー
ター』の次の作品ということにはなりそうだ。



2009年05月10日(日) 天使と悪魔、九月に降る風、MW、ダニエル/悪魔の赤ちゃん、刺青/背負う女/匂ひ月のごとく

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『天使と悪魔』“Angels & Demons”
2006年に公開されて世界的な大ヒットを記録したミステリー
作品『ダ・ヴィンチ・コード』=ロバート・ラングドン教授
シリーズの第2弾。なお、元々のダン・ブラウンの原作では
本作の方が前に発表されたものだが、映画化は後になってい
る。
その物語は、スイスの研究所で作られた反物質が強奪され、
ヴァチカンに脅迫状が届くのが発端。それは特殊な書体で記
されたもので、その謎解きのためにラングドンがヴァチカン
に呼ばれる。さらにその席にはスイスの研究所の女性科学者
も到着している。
一方、ヴァチカンでは前教皇が急死したことによる後任選出
のためのコンクラーベが準備されているが、脅迫犯によって
その有力候補4人が誘拐され、1時間ごとの公開処刑が通告
される。そして5時間後には反物質容器の電池が切れて、反
物質が容器内を落下するというのだ。
その5時間の刻限の中、脅迫状に記された書体を用いる秘密
結社イルミナティの存在を追ってラングドンの謎解きが開始
される。そこには400年前にヴァチカンが行った暗い過去の
歴史が関わっていた。
ヴァチカンは1992年にガリレオ裁判の誤りを謝罪したが、神
に挑戦する科学者と神を崇めるヴァチカンとの対立は常に存
在しているものだ。そしてついに、科学者たちによる秘密結
社がヴァチカンに向かって牙を剥く…そんな図式で物語は描
かれて行く。
その図式の中にラングドンは完全に中立の立場で登場するも
のだが、常に沈着冷静な主人公の姿はドラマ的にはちょっと
違和感のあるところかも知れない。しかし、主人公が前作の
跡を引き摺っている感じは、前作からの観客にはそれで充分
な人格描写にはなっているものだ。
それに今回は、謎解きも前作ほどは複雑ではないし、その分
アクションをたっぷり見せてくれる。さらには謎解きのため
ローマ市内各所を巡る観光映画的な部分もあって、どちらか
というと気楽に楽しめる作品というところだ。
その市内撮影のシーンは、試写当日に行われた記者会見によ
ると「違法行為はしていないが、無許可で撮影されたもの」
だそうだが、中には特別許可で撮影された歴史遺跡でのシー
ンもあり、ローマ市の協力は万全だったようだ。
そしてそれらのゲリラ的に撮影された背景に対して、無声映
画時代の手法から最新のCGIまでを駆使した映像化が行わ
れているとのこと。そこには期待した以上のシーンもあって
なかなか見事なものだった。
なお、心配された反物質の描写は、目視出来るほどの量とい
うのは確かにやりすぎだが、磁力で浮かせているという雰囲
気や、その危うさのようなものはそれなりに伝わってくる感
じだった。もちろん現実にはこうは行かないと思うが、映画
的にはこれでOKだろう。
それに反物質の製造までの描写には、昨年見学した高エネル
ギー研究所の施設を思い出させてくれる部分もあって、僕に
は納得ができた。
出演は、前作に引き続き主演のトム・ハンクス。それにユア
ン・マクレガー、さらに昨年2月に紹介した『バンテージ・
ポイント』などのイスラエル人女優アイェレット・ゾラーが
共演している。監督は前作と同じくロン・ハワード。
なお記者会見では、先に公表された第3作に関する質問も出
たが、製作者のブライアン・グレーザーがハンクスに、「君
は出てくれるかい」と訊くと、ハンスクは「このまま東京で
4日間話し合いをさせてくれるなら」との回答で、実現は間
違いなさそうだ。

『九月に降る風』“九降風”
昨年の東京国際映画祭では、『九月の風』の題名で「アジア
の風部門」に上映された台湾作品が日本でも一般公開される
ことになり、改めて試写が行われた。
物語の背景は1996年9月、台湾プロ野球界が八百長騒動に揺
れていた頃のこと。映画に登場するのは新学期を迎えたばか
りの高校生たち。彼らは1年生から3年生まで学年を跨いだ
グループだったが、何かと問題を起こしては教官室に呼び出
されていた。
そんな悪餓鬼グループの日常が、他の生徒たちや社会との交
流、そして台湾プロ野球界の動きも絡めて描かれて行く。そ
れは、野球の応援に興じたり、深夜の屋内プールに忍び込ん
で騒いだりといった他愛のないものだが、徐々にいろいろな
出来事が生じて行く。
物語の全体の流れは、ジョージ・ルーカス監督の『アメリカ
ン・グラフィティ』を髣髴とさせる。そこにはリーダーとな
る奴や道化や、学業ではちょっと優秀な奴もいて、悪ふざけ
や男女の関係や、そこから始まる深刻な事態などが描かれて
行く。
実は、僕は映画祭の時にも1度本作を観ているのだが、その
時の印象はあまり芳しくなかった。その理由は明確には思い
出せないが、多分登場する高校生たちの行動に違和感があっ
たのだろう。しかし今回見直していて、何となくそれは了解
することが出来てきた。
結局、彼らの行動の多くは多分自分でもその場にいたら同じ
間違いをしてしまうようなものであり、その結果には大きな
悔恨と後ろめたさが残るだろう。だが人間はそれを乗り越え
て生きて行かなければならない。そんな人間の生きて行く姿
が、高校生という青春の一時期を中心に描かれる。
脚本と監督は、助監督出身で本作が長編デビュー作のトム・
リン(林書字)。因に監督は、正に本作で描かれた時期に、
映画の舞台とされている地方の高校生だったとのことで、作
品は監督自身の物語でもあるようだ。
なお映画には、八百長事件で球界を逐われたプロ野球選手・
廖敏雄が実名で登場。また、主人公たちの会話の中には飯島
愛という名前も出てきた。いろいろな意味での一つの時代が
描かれた作品とも言えそうだ。

『MW』
漫画家、故手塚治虫の生誕80周年を記念して製作された実写
映画。原作は、手塚作品の中では問題作とされているものだ
そうで、映画の宣伝コピーには「手塚治虫最大のタブー」と
いうような言葉も見られる。
物語は16年前のとある事件から始まる。それは孤島の住民の
殆どが虐殺されたというものだったが、何故か事件は闇に葬
られる。
それから16年後、東南アジアのタイで日本企業の現地駐在員
の娘が誘拐される事件が発生する。その誘拐事件を追うのは
タイ警察への協力のため警視庁から派遣された刑事。刑事は
直感的に犯人を発見し、カーチェスなどの末に追い詰めて行
くが…
この事件は単なる営利誘拐事件として処理され、警察の発表
に基づく事件の報道もそれに終始する。ところが1人の女性
記者がそこに疑問を抱く。そして彼女の調査は、事件を16年
前に島民が全員離島したとされる孤島の問題へと結びつけて
行く。
一方、誘拐事件の首謀者は玉木宏扮するエリートビジネスマ
ンだったが、彼が事件を引き起こすのには、16年前の事件に
起因する理由があった。だが、彼の目前には国家権力という
分厚い壁が立ちはだかっていた。
この他、犯人に振り回される教会の牧師や、次期首相候補の
与党政治家とその秘書など、いろいろな立場の人間たちの物
語が事件を巡って交錯し、ドラマを作り上げて行く。
国家による犯罪。それは民衆の声を圧殺する一方で、それに
よって甘い汁を吸う者も生み出す。そんな矛盾に犯罪行為を
以て挑んで行く主人公。その止むに止まれぬ心情は現代人の
多くに理解されるものだろう。
しかし、主人公が行うのはあくまでも犯罪行為。それを容認
するかのようにも見えるこの物語には映画の製作者も相当に
苦慮したようだ。それは実際に映画の最後に掲示される1枚
のテロップにも現れている。
必殺シリーズやそれに類する作品では見られないこのテロッ
プが、この作品の重大さを物語っているようでもある。そし
てそれは、それほどにこの映画の製作者たちが真剣であった
ということの証でもあるのだろう。
玉木以外の出演者は、山田孝之、石田ゆり子、石橋凌。他に
山田裕典、山下リオ、鶴見辰吾、風間トオル、品川徹らが登
場する。監督は、テレビ『女王の教室』などの岩本仁志が担
当した。

『ダニエル/悪魔の赤ちゃん』“It's Alive”
1974年に公開されてラリー・コーエン監督の名を一躍高めた
ホラー作品のリメイク。因にコーエン監督は、その後に同作
の続編2本でも脚本と監督を手掛けているが、今回は脚本の
みの参加で、監督には1999年『13F』を手掛けたジョセフ
・ラスナックが起用されている。
母親の胎内で異常なスピードで成長した赤ん坊。その赤ん坊
の誕生の時、病院では血生臭い事件が起きていた。しかし麻
酔の施された母親にはその記憶がなかった。そして生まれた
赤ん坊は天使のように美しく、両親はその魅力に取り憑かれ
たようになって行く。
ところがその赤ん坊の周囲では異常な事件が起こり続ける。
そして警察から派遣された心理学者によって、母親は徐々に
真実を思い出し始めるが…
1974年のオリジナルでは、リック・べーカーによって製作操
演された異形の赤ん坊は、正に大暴れするクリーチャーだっ
た。それに対して今回のリメイクでは、赤ん坊は天使のよう
に美しいと表現されている。しかもその姿はスクリーンには
殆ど現れない。
赤ん坊が殺戮を繰り返す本作のジャンル分けはホラーとして
当然のものではあるが、本作の物語の中心は恐怖を引き起こ
す赤ん坊の行動よりも、その赤ん坊を守ろうとする両親の姿
だ。特に真実に気付きながらもそれに見て見ぬ振りをする母
親の哀感などが描かれる。
その描写は、実はオリジナルでも両親の微妙な心情などは描
かれていたものだが、さらに本作ではそこに主眼を置くこと
で、従来のいわゆるクリーチャー物とは一線を画した作品に
なっている。

このような新作の意図は、当然脚本に参加したコーエン監督
の狙いでもあるのだろうが、敢えて続編とせずにリメイクと
したことで、新たに物語の仕切り直しをすることにも成功し
ている。それもコーエン監督の狙いだったのかな。
出演は、2007年にクエンティン・タランティーノが製作した
ホラー作品『ホステル2』などに出演のビジュー・フィリッ
プスと、イギリスのテレビで活躍しているジェームス・マー
レイ。他に2005年『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』
などのラファエル・コールマンが共演している。

『刺青/背負う女』
『刺青/匂ひ月のごとく』
谷崎潤一郎原作の映画化では、2006年1月と11月にそれぞれ
1本ずつを紹介しているが、今回はさらに2本の新作が公開
されることになった。
原作とは言っても、映画化はいずれも物語を現代化したもの
で、女性が刺青を入れることによってその性格や人生を変え
て行くというコンセプトだけを残して、そこにいたる展開な
どは自由に発想されている。むしろインスパイアと言った方
が良いような作品群だ。
そこで今回の作品では、まず「背負う女」は、CMモデル出
身の井上美琴が扮する女性雑誌記者が主人公。その女性は、
妻子ある男性との不倫や両親の離婚・再婚などで落ち着かな
い生活を送っていた。
そんな主人公が、ふとしたことからやくざの男とつきあうよ
うになる。その男の背中には見事な刺青があり、一方、取材
で日本画の美術展を訪れた主人公は、そこに現れた女性刺青
師にも興味を抱く。
そんなことで生活にもちょっと張りの出てきた主人公だった
が…やがて起こる1つの悲劇が、彼女を刺青の世界へと導い
て行く。

このやくざの男を、2004年『パッチギ!』などの波岡一喜が
演じ、女性刺青師には2007年『バブルへGO!!』などの伊藤裕
子が扮している。監督は、2006年『ベロニカは死ぬことにし
た』などの堀江慶。
そしてもう1本の「匂ひ月のごとく」は、ホリプロ所属の井
村空美が主人公。さとう珠緒扮する姉と共に両親の遺したダ
ンススタジオを経営しているが、ダンスのチャンピオンを目
指し何事にも華やかな姉の陰に隠れた存在だ。
しかし主人公は徐々に才能を発揮し始め、それを疎ましく思
い始めた姉はある策略を思いつく。それは、最高の肌に墨を
入れることを夢見る刺青師との出会いから始まる。

この刺青師をモデル出身で映像作家でもある鈴木一真が演じ
ている。監督は、NHK「ソリトン」などを手掛けた三島有
紀子の映画デビュー作。
内容的な部分では、「背負う女」にはちょっと昭和の日本映
画の雰囲気もあり、それはそれで心地よく観られたものだ。
しかし「匂ひ月のごとく」の方は、ちょっと刺青師の出現が
唐突な感じで、ここにはもう少し捻りが欲しかった感じはし
た。
とは言えどちらの作品も、主演女優は共に大胆に肌を露出さ
せているし、その点では問題のない作品と言えるだろう。共
演者もそれぞれしっかりしているし、今後もシリーズとして
定着すれば面白くなりそうだ。
それから2006年11月の第2作紹介の時にも書いたことだが、
同年1月に紹介した第1作の脚本をもう少し練り直して、女
優も選んだ上でリメイクをして貰いたい。谷崎原作のコンセ
プトからは少しずれてしまうかも知れないが、第1作の背景
に進んでいた猟奇事件は面白く展開しそうで、ちゃんと完結
した物語として観てみたいものだ。
        *         *
 今回の製作ニュースは、新しい情報に目ぼしいものがない
ので割愛します。



2009年05月03日(日) 幼獣マメシバ、僕とママの黄色い自転車、モーニング・ライト+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『幼獣マメシバ』
2007年4月に『テレビばかり見てると馬鹿になる』という作
品を紹介している亀井亨監督の新作。
監督は昨年『ネコナデ』という作品を撮っていて、その作品
はサイトでは紹介しなかったが、「猫の次は犬かよ」という
気持ちで試写を観に行った。
監督の作品はそれ以前にも何本か観ているが、その都度載せ
たり載せなかったりで、なかなか相性が合わない監督の1人
と言える。そこで今回は以前に自分で書いた紹介文を読み返
して、監督が主人公を突き放し過ぎている感じに違和感があ
ることに気付いた。
しかも、前作では中間管理職のサラリーマン、今回は引き籠
もりのオタクと、比較的自分が理解し易いキャラクターであ
ることが、監督の突き放し振りに一層の不信感を抱いてしま
うところでもあるようだ。
ということでちょっとネガティヴな書き出しだが、実は本作
でも最初はなかなか乗れない感じだった。特に前半は、佐藤
二朗が演じる主人公のキャラクター自体にも違和感が強くて
乗れなかったものだ。
ところが、ある時点から物語が填り始めた。それは極めて強
引な筋立てであり、常識では考えられない展開なのだが、そ
の非常識さが物語全体で一定の調和を得ている感じにもなっ
てきた。
その物語の発端は、父親が死んで四十九日の法要の日、母親
はそれ以前に家出をしていてその法要にも現れない。そして
息子は、部屋に引き籠もったまま。しかし母親からは定期的
に「もういいよ!」という言葉と意味不明のイラストの付い
た葉書が届いていた。
つまり家出した母親は、引き籠もりの息子に家を出て自分を
捜して貰いたいようなのだ。ところが息子は父親の法要にも
部屋から出てこない有り様。そんな息子が、1匹の柴犬の幼
犬に出会ったことから物語が動き始める。
それはやがて犬を通じて知りあった女性の手引きで、彼を富
士山麓へと誘って行く。映画の後半では、その雄大な富士の
姿に魅了される部分もあるが、取り敢えずは柴の幼犬の愛く
るしさが物語を強引に引っ張ってしまう仕組みのものだ。
まあ、小動物を使うことはずるいと言ったらそれまでの作品
でもあるが、そんな小動物と主人公が着かず離れずの関係も
なかなか巧みに描かれていたし、展開の強引さを差し引いて
も主人公の心情のようなものには共感も得られた。
それに結局、描かれる主人公の行動に嫌味なところがなかっ
たのも、今回は納得できたように思えた。
共演は、安達祐実、渡辺哲、高橋洋、お笑いコンビ笑い飯の
西田幸治、笹野高史、藤田弓子。他に佐藤仁美、菅田俊、石
野真子らも出演している。また『ネコナデ』に引き続きペッ
トショップ店員を演じる高橋直純が主題歌も担当している。
なお監督の以前の作品では画質の悪さを指摘したこともある
が、本作では細かな画質設定がいろいろ凝って為されている
ようで、それはそれなりに効果を上げていた。

『僕とママの黄色い自転車』
新堂冬樹原作「僕の行く道」を、昨年『子ぎつねヘレン』を
大ヒットさせた河野圭太監督が映画化した感動作品。
主人公は小学生の少年。父親と2人暮らしだが、母親はパリ
にデザインの勉強に行っていると聞かされている。そして母
親からは定期的に手紙が届き、主人公のいろいろな問いかけ
にも母親は手紙で答えてくれる。
ところが、ある日届いた手紙が彼に微かな疑問を抱かせてし
まう。その疑問は徐々に大きくなり、ついに彼は母親がパリ
ではなく日本国内にいるという証拠を掴む。そしてその証拠
を頼りに、彼は母親の許へと向かうのだが…
母親は何故、我が子に嘘を吐いてまで身を隠さなければなら
なかったのか、その謎が徐々に解き明かされて行く。
その謎の理由は、観客には早目に明らかにされてしまうが、
物語としてはその謎を解いて行く過程での少年の成長が丁寧
に描かれる。それは他人への愛と、他人の吐いた嘘への許し
の物語だ。そしてそこには少年の愛犬の存在も上手く活かさ
れていた。
さらに、少年が行く道に沿って登場するいろいろな人物が彼
の旅をサポートし、また少年からいろいろなものを受け取っ
て行く。それらは、時にユーモラスに、時にシリアスに描か
れて観客に感動を与えて行く。
主演は、2004年『いま、会いにゆきます』などの名子役・武
井証。母親役を鈴木杏香、父親役を阿倍サダヲ。他に西田尚
美、甲本雅裕、柄本明、鈴木砂羽、市毛良枝らが共演してい
る。特に父親役の阿倍は、普段とはかなり違う役柄だ。
少年が黄色い自転車に乗って遠くの母を訪ねて行くという事
前に紹介されたストーリーを読んだときには、かなり無茶な
展開だなとも思ったものだが、物語はちゃんと辻褄が合うよ
うに作られている。脚本は、2002年『パコダテ人』などの今
井雅子。
なお、原作での旅の同行者は猫だそうだが、映画化ではジャ
ックラッセルテリアが表情豊かに演じている。その体重は猫
よりかなり重いと思うが、主演の武井が自転車の載せ降ろし
でしっかり抱いている姿が印象的だった。

『モーニング・ライト』“Morning Light”
ロサンゼルスからハワイ・ダイアモンドヘッドまでの太平洋
を舞台に、総距離4120kmに及ぶ外洋ヨットレース=トランス
パシフィック(トランスパック)に挑んだ若者たちの姿を追
ったディズニー製作のドキュメンタリー作品。
ディズニーのドキュメンタリーというと、1950年代にアニメ
ーションの参考用に撮影されたとも言われる動物の生態など
を写した『自然の冒険』シリーズが有名だが、本作はそんな
ディズニーが初めて人間を被写体に選んだということでも話
題になっていたようだ。
その内容は上記の通りヨットレースに絡むものだが、実はそ
れまでに外洋経験はほとんどない若者たちが応募によって選
ばれ、初挑戦するというもので、その訓練の模様から実際の
レースの顛末までが描かれている。
因に題名は、ウォルト・ディズニーの兄で会社の経営面を担
当していたロイ・ディズニーが所有する艇の名前で、ロイは
トランスパックには16回出場、その内2回でスピード記録を
打ち立てる程のヨットマンとのことだ。
そんなロイが、若者たちに夢を与えようと企画したヨットマ
ンへの挑戦を記録した作品でもある。そこには大学生を中心
に最初は30人が集まり、そこから15人が選ばれて半年間に及
ぶハワイでの訓練が開始される。しかし実際にレースに参加
できるのは11人だけだ。
しかもその11人を選ぶのも、その前にスキッパーと呼ばれる
艇長を決めるのも、すべて訓練生たちが自主的に行うという
建て前で、そこでの人間模様も作品の彩りとなっている。そ
れらがコーチたちへのインタヴューと若者たちのモノローグ
によって綴られて行く。
そしてレースでは、艇のサイズ別のクラス優勝が最大の目標
とされるが、同じクラスにはクルー全員がプロというライヴ
ァル艇が参加。技術や天候の変化を先読みする能力、そして
判断、決断などのいろいろな状況が描かれる。
ヨットを描いた作品では、3月に日本映画の『ジャイブ』を
紹介したばかりだが、本作ではもっと現実的なヨットの全体
像が見られる作品にもなっている。なお「ジャイブ」という
言葉の意味も本作では解説されていた。
お金持ちの道楽という感じもするヨットレースだが、本作の
エピローグで紹介される訓練生たちの進路を見ると、この企
画が彼らに夢と希望を与えたことは確かなようだ。
        *         *
 以下は製作ニュースだが、今回は映画紹介が少なかったの
で、たっぷりと報告しよう。
 まずは続報というか、そろそろ本気のところが聞きたいと
思っていた“The Hobbit”の映画化に関して、ファンタシー
系の映画雑誌Empireが、監督ギレルモ・デル=トロと製作者
ピーター・ジャクスンに対しインタヴューを行ったようだ。
その抜粋がネットで紹介されていた。
 それによると、まず1本目は物語的にはJRR・トーキン
の原作の通りのものとされるが、その雰囲気は原作の童話よ
りは少し映画版『LOTR』に似せたものになるとのこと。
それはまあ映画化の3部作のファンを取り込む訳だから当然
のことだろう。そして第2作では、『ホビットの冒険』から
『旅の仲間』までの間の60年間を新規に描くとされているも
のだが、ここでは、主にガンダルフ及び白の会議によるドル
・グルドゥアを巡るモルドールとの戦いを描くとの発言が、
監督と脚本も務めるデル=トロからなされているようだ。
 ところがこの構想では、再登場が期待されているエルフや
人間たちの多くが描かれないことになってしまうもので、す
でに参加を表明している多くの俳優たちの出番が無くなって
しまうことが、Empire誌の情報でも問題にされていた。つま
りこの構想では、ガンダルフとエルロンドは登場できるが、
その他のキャラクターの出番はなさそうなのだ。
 ということで、俳優たちとの約束は反故にされてしまうの
か…となる訳だが、そこで1つ考えたのは、確か当初ジャク
スンがこの構想を生み出したときには、2006年12月1日付の
第124回でも触れたように、繋ぎの60年間を2部作とする計
画もあったということ。従って、今回のインタヴューの発言
でその辺の計画が再燃しているのだとすればそれも面白くな
るところだ。
 元々“The Hobbit”を2部作で映画化するという計画は、
MGMが参加を表明した際に同社の側から出されたもので、
ジャクスンの意向は不明だった部分もあり、今回の発言から
はいろいろ期待してしまうところがありそうだ。
        *         *
 次も続報で、昨年11月15日付の第171回で紹介したアイザ
ック・アジモフ原作“End of Eternity”(邦題:永遠の終
わり)の映画化に関し、その監督として、日本では5月22日
に公開されるポリティカルフィクション“State of Play”
(消されたヘッドライン)などのケヴィン・マクドナルドと
の契約が報告された。
 原作はアジモフ作品には珍しいタイム・トラヴェルをテー
マにしたもので、時間旅行が実用化された世界を背景に歴史
改変を修正する政府機関の係官を主人公としたもの。ところ
がその主人公が修正すべき時間軸だけに存在する女性に恋を
して…というお話だ。
 そしてこの計画は、当初はトム・クルーズとパラマウント
が権利を持っていたものだがキャンセルされ、現在はフォッ
クス傘下のニュー・リジェンシーで準備が進められていた。
その計画に、マクドナルド監督の起用が発表されたものだ。
なお脚本は、以前の報告でも監督の意向に従うとされていた
もので、これからマクドナルドが決めることになるようだ。
因に、『消されたヘッドライン』の脚本は『アルマゲドン』
などのトニー・ギルロイと、“Lions for Lambs”などのマ
シュー・マイクル・カーナハンが担当していた。
 その他のマクドナルド監督の作品で、“The Last King of
Scotland”の脚本は、『フロスト×ニクソン』のピーター・
モーガンと、『シャーロット・グレイ』のジェレミー・ブロ
ックが担当していたもので、この顔ぶれなら誰が起用される
ことになっても面白くなりそうだ。
 製作時期は未定だが、準備中の計画としてはすでにデータ
ベースなどにも登録されているようだ。
        *         *
 5月15日に世界一斉公開される“Angels & Demons”(天
使と悪魔)の作品紹介は次週には何とか出来そうだが、それ
に関連してダン・ブラウン原作によるロバート・ラングドン
教授シリーズの第3作が今年9月15日に刊行されることにな
り、その映画化権をコロムビアが獲得したと発表された。
 その題名は“The Last Symbol”ということまでは発表さ
れているが、内容に関しては一切秘密。ただし本作の当初の
題名は“The Solomon Key”とされていたのだそうで、物語
のヒントは何となくありそうだ。また出版される題名では、
教授の本業である‘Symbol’に‘The Last’が冠されている
訳だが、これでシリーズ完結編というものではないようだ。
 そして、ブラウンによる原作の執筆はすでに完了されてい
るとのことで、アメリカカナダの発行元となるダブルデイ社
では初版500万部を準備してベストセラーにする対策を整え
ているそうだ。映画のヒットは保証付きのものだし、映画が
ヒットすれば第3作のベストセラーは間違いないだろう。
 それで映画化は、2006年、2009年と来たから、次は2012年
の辺りになるのかな。
        *         *
 お次はちょっと意外な展開で、2006年の6月と11月に前後
編が連続公開されて話題を呼んだ日本映画『デスノート』の
原作漫画が、アメリカでも映画化されることになった。
 原作漫画は2003年12月から06年6月まで週刊少年ジャンプ
に連載されたもので、日本での映画化はその連載の終了前に
開始された。従って前編の映画化は原作の結末が不明のまま
行われたもの。さらに後編は原作の完結後とされてはいるも
のの、今回のアメリカでの報道によると、日本版の映画化は
原作の全編に対するものではないと判断されているようだ。
 そこで今回のアメリカ版の製作は、日本版の再映画化では
なく新たな映画化と規定されているもので、原作漫画の全編
を映画化することになるようだ。そしてその脚本家として、
昨年11月15日付第171回で紹介したターセム・シン監督“War
of the Gods”なども手掛けているギリシャ人のチャーリー
&ヴラス・パーラパニデス兄弟の起用が発表されている。
 なお、日本版の映画化では結末の弱さが指摘できるところ
だが、それでも前後編合せて80億円の興行収入を上げるヒッ
トを記録したとされており、2008年2月にはスピンオフ作品
の『L change the World』も製作されたものだ。その原作が
アメリカでどのように解釈され、新たな映画として製作され
るのか、期待して待ちたい。
        *         *
 リメイクの話題で、1983年にカナダのデイヴィッド・クロ
ーネンバーグ監督が発表したSFスリラー“Videodrome”を
再映画化する計画がユニヴァーサルから発表された。
 オリジナルの物語は、ケーブル向けにポルノ番組の放送を
行っているテレビ会社の社長が衛星放送から盗聴したと称す
る過激なヴィデオテープを入手し視聴するが、その後に一緒
に見ていた恋人が行方不明になる。そしてその行方を追う主
人公の許に1本のヴィデオテープが届けられる。それは彼を
恐怖の世界へと引き摺り込んで行く…というもの。主演は、
2002年『ジョンQ』などのジェームズ・ウッズが務めたもの
で、1981年の“Scanners”に続いてクローネンバーグ監督の
ブレイクの切っ掛けとなった作品だ。
 そのオリジナルから今回は、ドリームワークス製作の新作
“Tranceformers: Revenge of the Fallen”なども手掛けた
アーレン・クルガーが脚色を進めているもので、物語は現代
化してナノテクノロジーの要素も取り入れた大型のSFアク
ションになるとしている。ただオリジナルは、1982年の『ポ
ルターガイスト』と並んでブラウン管TVならではの恐さが
あったもので、リメイクでは現代化は避けられないが、液晶
モニターの時代にどのような恐怖が生み出されるかも興味が
湧くところだ。
 一方、このリメイク計画では監督が発表されていないが、
オリジナル版のクローネンバーグ監督は、現在は2月15日付
第177回で紹介したトム・クルーズ、デンゼル・ワシントン
の共演による“The Matarese Circle”を準備中となってい
る。ところが、実はクルーズとワシントンは共に次回作の計
画が発表されて、現状では“Matarese”の撮影は今年の年末
か2010年まで出来ないとのこと、それなら…という期待もあ
るようで、その辺も楽しみに次の報告を待ちたいものだ。
 なおクローネンバーグの作品では、上記の“Scanners”も
デイヴィッド・ゴイヤー脚本、『ソウ3』のダレン・リン・
ボウスマン監督でリメイクが進められており、1980年代の恐
怖が相次いで甦るかもしれないようだ。
        *         *
 続編の情報で、2005年にエマ・トムプスンの脚本主演で映
画化された“Nanny McPhee”(邦題:ナニー・マクフィーと
魔法のステッキ)の続編が計画され、再度のトムプスンの脚
本主演と共に、マギー・ギレンホール、リス・エヴァンス、
マギー・スミスらの共演が発表されている。
 オリジナルは、17人の子守を次々に辞めさせた悪ガキ7人
のいる男寡婦の家庭に現れた主人公が、不思議な力を使って
子供たちを躾、その家族も幸せにして行くというお話。主演
したトムプスンのヘヴィなメイクアップも話題になった作品
のようだ。そしてその続編は、“Nanny McPhee and the Big
Bang”と題されているものだが、トムプスン以外の出演者は
総入れ替えとなっており、新たな家庭での別の物語が展開さ
れることになりそうだ。
 因にオリジナルは、ミステリー作家としても知られるクリ
スティアナ・ブランドの原作“Nurse Matilda”に基づくも
ので、この原作には2作の続編もあるが、それらは同じ家庭
を舞台にしているので、今回の映画の続編との関係は薄そう
だ。そして映画の続編では、戦時に都市から疎開した子供た
ちが中心に描かれるとされている。戦時の疎開というと『ナ
ルニア国物語』も思い浮かぶところだが、イギリス人、特に
ロンドン市民にとっては忘れられないものなのだろう。
 監督は、本作が長編デビューとなるスザンナ・ホワイト。
イギリスでの公開は2010年3月26日と発表されている。
        *         *
 2006年9月に作品紹介した『スネーク・フライト』のデイ
ヴィッド・R・エリス監督が、“Humpy Dumpty”と題された
作品を計画している。
 この題名からは一見して『鏡の国のアリス』にも登場する
マザー・グースの怪人を思い出すところだが、実は‘t’が
1つ足りないようだ。そして映画は、最南部の街で人間にレ
イプされた異星人の母親から誕生した人間と異星人のハーフ
のキャラクターが、殺人事件を引き起こすという展開となる
ものだそうで、一応ジャンルはホラーSFとされている。
 何とも殺伐としたお話になりそうだが、撮影は3Dで行わ
れるもので、監督には上記の作品のような鋭い切れ味を期待
したい。因に監督は、2007年12月1日付第148回で紹介した
ように“Final Destination”シリーズの第2作と第4作も
担当しており、第4作では3Dの撮影も経験済みのようだ。
        *         *
 最後は製作ニュースではないが、世界流行の兆しも見える
豚インフルエンザの人感染に絡んで、映画興行にも影響が出
始めている。
 それはまず、5月8日に北アメリカ地区で封切予定だった
“Star Trek”の新作に関して、メキシコ国内での公開延期
が発表されている。また5月15日に世界一斉公開の“Angels
& Demons”に関してもメキシコでの公開をどうするか検討
が始められているようだ。
 一方、先週末に北アメリカ地区の公開が始まった“X-Men
Origins: Wolverine”については、メキシコでの劇場公開の
キャンセルが相次いでいるそうで、今後の感染の拡がり具合
では他の国にも波及は避けられないようだ。日本では今のと
ころ侵入は認められていないが、気になるところだ。


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井口健二